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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124986
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】アンテナ装置
(51)【国際特許分類】
   H01Q 19/10 20060101AFI20240906BHJP
   H01Q 19/185 20060101ALI20240906BHJP
   H01Q 21/24 20060101ALI20240906BHJP
   H01Q 1/32 20060101ALN20240906BHJP
   H01Q 1/22 20060101ALN20240906BHJP
【FI】
H01Q19/10
H01Q19/185
H01Q21/24
H01Q1/32 Z
H01Q1/22 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033017
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000006220
【氏名又は名称】ミツミ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原 康之
(72)【発明者】
【氏名】成松 賢司
【テーマコード(参考)】
5J020
5J021
5J046
5J047
【Fターム(参考)】
5J020AA03
5J020BA06
5J020BC09
5J020CA04
5J020DA02
5J020DA03
5J020DA06
5J021AA12
5J021AB03
5J021BA01
5J021JA05
5J021JA07
5J046AA03
5J046AA07
5J046AB01
5J046AB07
5J047AA03
5J047AA07
5J047AB01
5J047AB07
(57)【要約】
【課題】車両ルーフ等の設置面と略平行な低仰角方向における水平偏波の利得を向上できるとともに、小型化及び低背化を図ることができるアンテナ装置を提供する。
【解決手段】アンテナ装置は、金属板に設置されるアンテナ装置であって、金属板に沿う第1方向に振動する第1偏波を送受信可能な第1アンテナ素子と、金属板と平行に配置され第1偏波の直接波を反射可能な反射板と、を備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板に設置されるアンテナ装置であって、
前記金属板に沿う第1方向に振動する第1偏波を送受信可能な第1アンテナ素子と、
前記金属板と平行に配置され前記第1偏波の直接波を反射可能な反射板と、を備える、
アンテナ装置。
【請求項2】
前記反射板は、低仰角方向における前記第1偏波の直接波を反射可能である、
請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記第1アンテナ素子を覆う筐体カバーを備え、
前記筐体カバーの天板は、前記反射板として機能する、
請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記筐体カバーは、樹脂材料で形成されている、
請求項3に記載のアンテナ装置。
【請求項5】
前記第1偏波の波長をλ、前記樹脂材料の屈折率をn、前記反射板における透過角度をφとした場合、前記反射板の厚さtは、下式を元に設定される、
請求項4に記載のアンテナ装置。
【数1】
【請求項6】
前記第1偏波の波長をλ、前記樹脂材料の屈折率をn、前記反射板における透過角度をφ、入射角をθとした場合、前記反射板の厚さtは、下式を元に設定される、
請求項4に記載のアンテナ装置。
【数2】
【請求項7】
前記第1偏波の波長をλ、前記第1アンテナ素子と前記反射板との離間距離をhとした場合、前記反射板の突き出し長Lは、下式を満たす、
請求項1に記載のアンテナ装置。
【数3】
【請求項8】
前記第1偏波の波長をλ、前記第1アンテナ素子の設置面からの高さをH、前記アンテナ素子と前記反射板との離間距離をhとした場合、前記反射板の突き出し長Lは、下式を満たす、
請求項7に記載のアンテナ装置。
【数4】
【請求項9】
前記第1方向に直交する第2方向に振動する第2偏波を送受信可能な第2アンテナ素子を備える、
請求項1に記載のアンテナ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両ルーフ等の大型の金属面に設置されるアンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両ルーフ等の大型の金属面に設置されるアンテナ装置が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。車両間通信(V2V:Vehicle-to-Vehicle)や路車間通信(V2I:Vehicle-to-roadside-Infrastructure)に代表されるV2X通信に対応するために、アンテナ装置には、車両ルーフに沿った方向についても電波の送受信を適切に行うことが求められる。
【0003】
特許文献1には、車両ルーフからの干渉を受けづらい垂直偏波アンテナを採用することで、車両ルーフと平行な方向における利得を確保することが開示されている。また、特許文献2には、車両設置面と水平偏波アンテナとを一定距離離間させることで、金属部材による影響を軽減し、水平偏波アンテナに対する利得改善を行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-34657号公報
【特許文献2】特開2009-76962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されているような垂直偏波及び水平偏波を送受信可能なMIMO(Multi Input Multi Output)型の偏波共用アンテナ装置の構成を考慮する場合、垂直偏波アンテナによる利得改善だけでは不十分であり、水平偏波に対する利得の改善が必要となる。また、特許文献2に開示のアンテナ装置においては、車両設置面とアンテナとの距離を離間させるほど、アンテナ装置のサイズが大きくなるという問題がある。一般的に、車両ルーフに設置されるアンテナ装置は、デザインの観点からも、できるだけ小型かつ低背で目立たないことが望ましい。
【0006】
本発明の目的は、車両ルーフ等の設置面と略平行な低仰角方向における水平偏波の利得を向上できるとともに、小型化及び低背化を図ることができるアンテナ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るアンテナ装置は、
金属板に設置されるアンテナ装置であって、
前記金属板に沿う第1方向に振動する第1偏波を送受信可能な第1アンテナ素子と、
前記金属板と平行に配置され前記第1偏波の直接波を反射可能な反射板と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るアンテナ装置によれば、車両ルーフ等の設置面と略平行な低仰角方向における水平偏波の利得を向上できるとともに、小型化及び低背化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施の形態に係るアンテナ装置の分解斜視図である。
図2図2は、アンテナ装置の内部構造を模式的に示す縦断面図である。
図3図3A図3Bは、車両ルーフ等の大型の金属板からなる設置面上にアンテナ素子を配置したときの放射モデルの一例を示す図である。
図4図4は、天板における電波の反射を示す図である。
図5図5は、天板における電波の透過を示す図である。
図6図6は、本実施の形態のアンテナ装置の垂直面(XZ面)における放射パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
図1は、実施の形態に係るアンテナ装置1の分解斜視図である。図2は、アンテナ装置1の内部構造を模式的に示す縦断面図(Y軸方向に直交する断面図)である。
【0012】
本開示では、第1偏波の振動方向である第1方向を「水平方向」、第2偏波の振動方向である第2方向を「垂直方向」として説明する。また、アンテナ装置1の設置面に垂直な方向をZ軸の正方向、第1偏波及び第2偏波の放射方向をX軸の正方向とする右手直交座標系を使用して説明する。以下において、「X軸方向」、「Y軸方向」及び「Z軸方向」とは、X軸、Y軸及びZ軸に沿う方向である。
【0013】
アンテナ装置1は、例えば、車両ルーフに設置される車載用アンテナ装置である。アンテナ装置1は、互いに直交する第1偏波(水平偏波)及び第2偏波(垂直偏波)を放射可能な偏波共用アンテナであり、例えば、5Gミリ波帯(28GHz)の水平偏波及び垂直偏波の送受信を行う。
【0014】
図1図2に示すように、アンテナ装置1は、アンテナ本体11、筐体カバー12及びアンテナベース13等を備える。
【0015】
アンテナ本体11は、例えば、Y軸方向に一列に配置された複数(例えば、8個)のアンテナユニットを有するアレイアンテナである。それぞれのアンテナユニットは、水平偏波用の第1アンテナ素子111及び垂直偏波用の第2アンテナ素子112を有する。第1アンテナ素子111及び第2アンテナ素子112は、基板面(XY面)に平行な方向に電波を放射できることが好ましい。このような指向性を有するアンテナとすることで、基板面を車両ルーフ等の設置面と平行に配置した場合でも、車両ルーフ等の設置面と略平行な方向に指向性を持たせることができる。また、矩形状の基板の外周部に沿ってアンテナを配置することで、例えば、車両ルーフに設置して、周囲360°に対してビームサーチを行いながら通信するユースケースに好適である。
【0016】
第1アンテナ素子111には、例えば多層プリント配線基板の内層または表層のパターンにより形成されたダイポールアンテナを適用することができる。また、第2アンテナ素子112には、例えば、基板集積型導波管(SIW:Substrate Integrated Waveguide)アンテナを適用することができる。上記のダイポールアンテナ及びSIWアンテナを利用した偏波共用アンテナは、プリント配線基板の回路形成技術を利用して製造することができ、アンテナ素子の大きさ、形状及び位置等を容易に制御できるので、素子精度が向上する。また、アンテナ装置1の小型化及び低背化にも適している。また、ダイポールアンテナを基板の端部に形成し、SIWアンテナの開口を基板の側面に形成することで、基板面(XY面)に平行な方向に電波を放射する偏波共用アンテナを構成しやすい。
【0017】
図示を省略するが、アンテナ本体11には、第1アンテナ素子111及び第2アンテナ素子112への給電制御等を行う制御部が実装される。制御部は、例えば、ビームフォーミングICであり、伝送線路ごとの位相及びゲインの調整、並びに伝送信号の増幅等を行う。
【0018】
アンテナ本体11は、筐体カバー12及びアンテナベース13によって囲まれた空間に収容される。アンテナ本体11は、アンテナベース13に立設された金属製の仕切板14の開口(符号略)から第1アンテナ素子111及び第2アンテナ素子112の放射端面113が突出するように固定される。仕切板14は、電波の後方(X軸方向の負側)への放射を抑制する。
【0019】
筐体カバー12は、アンテナベース13に固定され、アンテナ本体11の少なくとも前方(X軸方向の正側)及び上方(Z軸方向の正側)を覆う。特に、筐体カバー12の天板121のうち、仕切板14よりも前方に位置する部分は、第1アンテナ素子111及び第2アンテナ素子112から放射される電波の放射空間の上方を覆う。
【0020】
本実施の形態では、筐体カバー12の天板121は、放射端面113から低仰角方向に放射される電波の直接波を反射可能に設計されている。天板121が反射板として機能することにより、低仰角方向に対する水平偏波の利得が向上し、利得の改善が図られる。低仰角方向とは、車両ルーフ等の設置面と略平行な方向であり、典型的には、垂直方向(Z軸方向)とのなす角θが70°~90°となる放射方向である。
【0021】
なお、筐体カバー12の前面122及び側面123は、水平偏波及び垂直偏波を効率よく透過可能な厚さに設定される。一般的には、前面122及び側面123は、0.05波長程度に薄く設計されるか、又は、筐体カバー12の材質中の波長に対して0.5波長となる厚みに設計される。例えば、筐体カバー12の材質の誘電率が3.2、使用周波数が28GHzである場合、前面122及び側面123の厚さは、約3mmに設定される。
【0022】
アンテナ装置1を車両ルーフ等の大型の金属板上に設置したときの水平偏波の放射特性について、以下に説明する。
【0023】
図3A図3Bは、車両ルーフ等の大型の金属板からなる設置面R1上にアンテナ素子Aを配置したときの放射モデルの一例を示す図である。図3Aは、直接波W0の進行を遮る反射板がない場合の放射モデルであり、図3Bは、本実施の形態のように、直接波W0の進行を遮る反射板がある場合の放射モデルである。アンテナ素子Aは、放射される電波の波源であり、アンテナ装置1における水平偏波用の第1アンテナ素子111の放射端面113に相当する。
【0024】
図3Aに示すように、設置面R1上にアンテナ素子Aを配置した場合、垂直面(XZ面)における放射パターンは、アンテナ素子Aから放射された直接波W0と設置面R1で反射した反射波W1の2波の合成により構成される。
【0025】
直接波W0と反射波W1の合成波は、実アンテナ素子A0と、イメージアンテナ素子A1の2つのアンテナ素子のアレーモデルとして表現することができる。実アンテナ素子A0は、実体のアンテナ素子である。イメージアンテナ素子A1は、実アンテナ素子A0が水平偏波アンテナの場合、実アンテナ素子A0に対して設置面R1を基準として対称な位置に配置され、実アンテナ素子A0と同振幅逆位相で励振される仮想的なアンテナ素子である。
【0026】
図3Aのように配置され、同振幅逆位相で励振された2素子アレーのθ方向の電界強度は、具体的には、下式(1)で表される。(1)式より、2素子間の距離Sが0~1.5λ程度の範囲では、Sが大きいほど低仰角方向(θ=70°~90°)における利得は向上することが分かる。図3Aに示す放射モデルでは、アンテナ素子A0、A1間の離間距離S=2Hとなるので、Hが0~0.75λ程度の範囲では、実アンテナ素子A0の設置高さHが高い方が、低仰角方向(θ=70~90°)における利得は高くなる。ただし、アンテナ装置1の小型化及び低背化が損なわれる虞がある。
【0027】
【数1】
【0028】
本実施の形態では、図3Bに示すように、筐体カバー12の天板121が反射板として機能し、直接波W0は天板121の内面R2(以下、「反射面R2」と称する)で反射する。この場合、放射パターンは、設置面R1で反射した1回反射波W1と反射面R2及び設置面R1で反射した2回反射波W2の2波の合成により構成される。
【0029】
1回反射波W1と2回反射波W2の合成波は、イメージアンテナ素子A1、A2の2つのアンテナ素子のアレーモデルとして表現できる。イメージアンテナ素子A2は、実アンテナ素子A0に対して反射面R2を基準として対称な位置に配置されたイメージアンテナ素子A3を、さらに設置面R1を基準として対称な位置に配置した仮想的なアンテナ素子であり、実アンテナ素子A0と同相(イメージアンテナ素子A1と同振幅逆位相)で励振される仮想的なアンテナ素子である。
【0030】
イメージアンテナ素子A1、A2間の離間距離S=2h(実アンテナ素子A0から反射面R2までの距離hの2倍)となる。これより、式(1)で表される1回反射波W1と2回反射波W2の合成波の放射パターンは、アンテナ素子Aの設置高さHに依存せず、アンテナ素子Aから反射面R2までの距離hに依存することになる。したがって、アンテナ素子Aから反射面R2までの距離hを確保できれば、アンテナ素子Aの設置高さHが低くても、所望の放射特性を維持することができる。つまり、アンテナ装置1の小型化及び低背化を図りつつ、低仰角方向に対する利得を向上することができる。
【0031】
ここで、天板121を反射板として機能させる場合、天板121の大きさ、具体的には、放射端面113を基準とするX軸方向の正側への突き出し長Lを、適切に設定する必要がある。
【0032】
具体的には、天板121の突き出し長Lは、低仰角方向の直接波W0のフレネルゾーンFZ0(図3A参照)に天板121が入るように設定される。例えば、θ=90°の直接波W0のフレネルゾーンFZ0に天板121が入る条件の目安は、下式(2)で表される。
【0033】
【数2】
【0034】
また、天板121の突き出し長Lは、低仰角方向の反射波W1のフレネルゾーンFZ1(図3A参照)に天板121が入らないように設定される。例えば、例えば、θ=90°の場合の反射波W1のフレネルゾーンFZ1に天板121が入らない条件の目安は、下式(3)で表される。
【0035】
【数3】
【0036】
また、筐体カバー12の天板121は、例えば、PC/ABS等の樹脂材料で形成される。天板121が金属材料で形成される場合、高仰角方向の電波については、直接波も設置面R1からの反射波もどちらも反射してしまい、高仰角方向に対する利得が低下する虞がある。これに対して、天板121が樹脂材料で形成されている場合、電波の一部は透過するため、高仰角方向に対する利得の低下を抑制することができる。
【0037】
なお、低仰角方向の電波も一部透過することとなり、低仰角方向に対する利得の改善効果が低下する虞があるが、天板121を適切な厚さに設定することで、高仰角方向に対する利得を確保しつつ、低仰角方向に対する利得を改善することができる。
【0038】
図4は、天板121における電波の反射を示す図である。
【0039】
アンテナ装置1から放射される直接波W0は、図3Bに示すように、天板121の反射面R2で反射する。図4に示すように、天板121で反射した反射波W3は、天板121の表面(反射面R2)で反射した表面反射成分W31と、天板121の内部に進入し、天板121の裏面(空気との界面)で反射した後、天板121の表面から出射される裏面反射成分W32とを含む。表面反射成分W31と裏面反射成分W32の反射位相差ΔP1は、下式(4)で表される。
【0040】
【数4】
【0041】
表面反射成分W31と裏面反射成分W32の位相が揃っている場合、すなわち、反射位相差ΔP1が同相(360°)となる場合に、反射波W3の強度が高くなり、低仰角方向に対する利得の改善効果が得られやすい。したがって、天板121の厚さtは、下式(5)を満たすように設定されることが好ましい。なお、厳密には、2つの反射成分W31、W32の反射位相差ΔP1が360°である必要はなく、360°に近い値となるように天板121の厚さtが設定されれば、同等の効果が得られる。つまり、天板121の厚さtは、式(5)で算出される値を基準として設定されればよい。
【0042】
【数5】
【0043】
図5は、天板121における電波の透過を示す図である。
【0044】
アンテナ装置1から放射される直接波W0は、図3Bに示すように、天板121の反射面R2で反射するが、一部は、天板121で反射されずに放射される。図5に示すように、天板121で反射されずに放射される電波W4は、天板121に入射せずに進行する直接成分W41と、天板121の内部を透過して天板121の裏面から出射する透過成分W42とを含む。直接成分W41と透過成分W42の透過位相差ΔP2は、下式(6)で表される。
【0045】
【数6】
【0046】
透過位相差ΔP2が逆相(180°)となる場合、透過成分W42が直接成分W41を打ち消し、直接波W0の影響(干渉)を低減できるため、低仰角部方向に対する利得の改善効果が得られやすい。したがって、天板121の厚さtは、下式(7)を満たすように設定されることが好ましい。なお、厳密には、2つの放射成分W41、W42の透過位相差ΔP2が180°である必要はなく、180°に近い値となるように天板121の厚さtが設定されれば、同等の効果が得られる。つまり、天板121の厚さtは、式(6)で算出される値を基準として設定されればよい。
【0047】
【数7】
【0048】
上式(5)、(6)において、入射角θが低仰角(例えば、θ=80~90°)である場合、透過角φはほぼ同じ値となるので、定数として扱うことができる。例えば、天板121の樹脂材料の誘電率が3である場合、屈折率n=√3=1.73となり、sinφ=sinθ/1.73より、透過角φはおおよそ35°で一定となる。
【0049】
なお、天板121の厚さtは、上式(5)、(7)を同時に満たさなくてもよく、式(5)、(7)から求まる基準値に、できるだけ近づくように設定されればよい。
【0050】
図6は、本実施の形態のアンテナ装置1の垂直面(XZ面)における放射パターンを示す図である。天板121が反射板として機能する場合(図3B参照)の放射パターンを実線G1で示し、天板121がない場合(図3A参照)の放射パターンを破線G2で示している。
【0051】
図6に示すように、天板121を反射板として機能させることで、低仰角方向に対する利得が改善されることがわかる。また、天板121がない場合、直接波W0と反射波W1が完全に打ち消し合う放射角θ(図6における45°付近)では深いリプルが発生するのに対して、天板121を反射板として機能させた場合、リプルが軽減されている。天板121を反射板として機能させる場合であっても、現実的には、低仰角方向から入射する電波の一部は直接波W0として空間に放射されると考えられる。つまり、放射電波は、直接波W0、1回反射波W1及び2回反射波W2の3波の合成となり、打ち消し合いにくくなるため、リプルが軽減されたと考えられる。
【0052】
このように、本発明の一態様に係るアンテナ装置1は、以下の特徴事項を単独で、又は、適宜組み合わせて備えている。
【0053】
すなわち、アンテナ装置1は、車両ルーフ等の金属板に設置されるアンテナ装置であって、金属板に沿う水平方向(第1方向)に振動する水平偏波(第1偏波)を送受信可能な第1アンテナ素子111と、金属板と平行に配置され水平偏波の直接波W0を反射可能な天板121(反射板)と、を備える。具体的には、天板121(反射板)は、低仰角方向における水平偏波(第1偏波)の直接波W0を反射可能である。
【0054】
アンテナ装置1によれば、車両ルーフ等の金属製の設置面R1とアンテナ素子Aとの距離に関わらず、アンテナ素子Aから天板121までの距離hを確保できれば、所望の放射特性を維持することができる。したがって、設置面R1と略平行な低仰角方向における水平偏波の利得を向上できるとともに、小型化及び低背化を図ることができる。
【0055】
また、アンテナ装置1は、第1アンテナ素子111を覆う筐体カバー12を備え、筐体カバー12の天板121は、反射板として機能する。これにより、部品点数を増加することなく低仰角方向における水平偏波の利得を向上できるとともに、筐体カバー12を含むアンテナ構造全体の低背化を図ることができる。
【0056】
また、アンテナ装置1において、筐体カバー12は、樹脂材料で形成されている。これにより、筐体カバー12の内部を透過させて電波を放射できるので、高仰角方向における電波の利得を改善することができる。
【0057】
また、アンテナ装置1において、水平偏波(第1偏波)の波長をλ、天板121の樹脂材料の屈折率をn、天板121(反射板)における透過角度をφとした場合、天板121の厚さtは、上式(5)を元に設定される。これにより、低仰角方向における反射波の表面反射成分W31と裏面反射成分W32とが強め合うこととなり、天板121の反射板としての機能が強化され、高い利得を実現することができる。
【0058】
また、アンテナ装置1において、水平偏波(第1偏波)の波長をλ、天板121の樹脂材料の屈折率をn、天板121(反射板)における透過角度をφ、天板121に対する入射角度をθとした場合、天板121の厚さtは、上式(7)を元に設定される。これにより、低仰角方向に放射される電波の直接波の成分が打ち消されるので、電波間の干渉が低減され、高い利得を実現することができる。
【0059】
また、アンテナ装置1において、水平偏波(第1偏波)の波長をλ、第1アンテナ素子111の設置面からの高さをH、第1アンテナ素子11と天板121(反射板)との離間距離をhとした場合、天板121の突き出し長Lは、上式(2)を満たす。これにより、低仰角方向の水平偏波を、確実に天板121で反射させることができる。
【0060】
また、アンテナ装置1において、水平偏波(第1偏波)の波長をλ、第1アンテナ素子111の設置面からの高さをH、第1アンテナ素子111と天板121(反射板)との離間距離をhとした場合、天板121の突き出し長Lは、上式(3)を満たす。これにより、設置面R1からの1回反射波W1が天板121で反射するのを抑制することができる。
【0061】
また、アンテナ装置1は、水平方向(第1方向)に直交する垂直方向(第2方向)に振動する垂直偏波(第2偏波)を送受信可能な第2アンテナ素子112を備える。これにより、高い放射特性を有するMIMO型の偏波共用アンテナを実現することができる。
【0062】
また、アンテナ装置1において、第1アンテナ素子111及び第2アンテナ素子112は、複数の基板を積層してなる積層基板に作り込まれている。。これにより、第1アンテナ素子111及び第2アンテナ素子112のアンテナパターン及び給電線路を積層基板上に一体で構成できるため、アンテナ本体11を容易に製造することができる。
【0063】
また、アンテナ装置1において、水平偏波(第1偏波)及び垂直偏波(第2偏波)の主放射方向は、基板の主面と平行である。これにより、基板の主面を車両ルーフ等に平行に設置して使用する場合に好適となる。
【0064】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
【0065】
例えば、実施の形態では、筐体カバー12の天板121を反射板として機能させているが、筐体カバー12とは別に、低仰角方向の電波を反射する反射板を設けるようにしてもよい。また、筐体カバー12の天板121において、低仰角方向の電波の反射板として機能する部分を、金属材料で形成してもよい。さらには、天板121に金属シートを貼着して反射板として機能させてもよい。
【0066】
また、実施の形態では、水平偏波及び垂直偏波を放射する送信用アンテナを例に挙げて説明したが、本発明の偏波共用アンテナは、水平偏波及び垂直偏波の送信、受信、又はそれら両方の機能を有するアンテナのいずれにも適用できる。
【0067】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0068】
1 アンテナ装置
11 アンテナ本体
111 第1アンテナ素子
112 第2アンテナ素子
12 筐体カバー
121 天板(反射板)
図1
図2
図3
図4
図5
図6