(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024124993
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】亜鉛回収方法および亜鉛回収装置
(51)【国際特許分類】
C25C 1/16 20060101AFI20240906BHJP
C22B 19/30 20060101ALI20240906BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
C25C1/16 A
C22B19/30
C22B7/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033031
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】593074444
【氏名又は名称】株式会社鈴木商会
(71)【出願人】
【識別番号】523079624
【氏名又は名称】左右田 賢三
(74)【代理人】
【識別番号】100122242
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 多香子
(72)【発明者】
【氏名】左右田 賢三
【テーマコード(参考)】
4K001
4K058
【Fターム(参考)】
4K001AA10
4K001AA30
4K001BA22
4K001DB15
4K001DB21
4K058AA11
4K058AA23
4K058BA25
4K058BB03
4K058CA07
4K058CA17
4K058CA22
4K058EB07
4K058EB13
4K058EC07
4K058FC04
4K058FC27
(57)【要約】
【課題】本願発明は、亜鉛めっき鋼材や溶融亜鉛めっき鋼材の廃棄物から効率よく、省エネルギーで亜鉛を回収することができ、輸送コストも削減でき、温室効果ガス削減にも資する亜鉛回収方法および亜鉛回収装置を提供することを目的とする。
【解決手段】亜鉛回収方法は、電解液としてアルカリ溶液を用い、電解精製により、陽極4を構成する表面に亜鉛が施された金属部材の亜鉛を溶解させ、アルカリ溶液に対し不溶性の陰極5に高純度亜鉛を析出させて回収する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解液としてアルカリ溶液を用い、電解精製により、陽極を構成する表面に亜鉛が施された金属部材の前記亜鉛を溶解させ、前記アルカリ溶液に対し不溶性の陰極に高純度亜鉛を析出させて回収することを特徴とする亜鉛回収方法。
【請求項2】
前記陽極は、前記表面に亜鉛が施された金属部材であり、前記表面に亜鉛が施された金属部材は、溶融亜鉛めっき鋼材、電気亜鉛めっき鋼材、または亜鉛溶射が施された鋼材であることを特徴とする請求項1に記載の亜鉛回収方法。
【請求項3】
前記陽極は、前記アルカリ溶液に対し不溶性のバスケットと前記バスケットの中に収容された前記表面に亜鉛が施された金属部材とにより構成され、前記表面に亜鉛が施された金属部材は、溶融亜鉛めっき鋼材、電気亜鉛めっき鋼材、または亜鉛溶射が施された鋼材であることを特徴とする請求項1に記載の亜鉛回収方法。
【請求項4】
前記アルカリ溶液は、水酸化ナトリウムの含有量が10重量%~50重量%の水酸化ナトリウム水溶液であり、前記アルカリ溶液の温度は、10℃~125℃であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の亜鉛回収方法。
【請求項5】
前記陰極は、メッシュ形状を有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の亜鉛回収方法。
【請求項6】
電解後の浴槽内の固形分含有液を排出し、処理して得られた再生アルカリ溶液を、前記浴槽内に戻し入れることにより生じる攪拌流によって、前記陰極に析出した前記高純度亜鉛を前記陰極から剥離することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の亜鉛回収方法。
【請求項7】
電解液が貯留される浴槽と、
前記電解液に浸漬可能に支持される陽極および陰極とを備え、
前記陽極は、表面に亜鉛が施された金属部材を有し、
前記陰極は、アルカリ溶液に対し不溶性の材質からなり、
前記電解液としてアルカリ溶液を用い、電解精製により前記亜鉛を溶解させ、前記陰極に高純度亜鉛を析出させて、前記高純度亜鉛を回収することを特徴とする亜鉛回収装置。
【請求項8】
前記陽極は、前記表面に亜鉛が施された金属部材であり、前記表面に亜鉛が施された金属部材は、溶融亜鉛めっき鋼材、電気亜鉛めっき鋼材、または亜鉛溶射が施された鋼材であることを特徴とする請求項7に記載の亜鉛回収装置。
【請求項9】
前記陽極は、前記アルカリ溶液に対し不溶性のバスケットと前記バスケットの中に収容された前記表面に亜鉛が施された金属部材とにより構成され、前記表面に亜鉛が施された金属部材は、溶融亜鉛めっき鋼材、電気亜鉛めっき鋼材、または亜鉛溶射が施された鋼材であることを特徴とする請求項7に記載の亜鉛回収装置。
【請求項10】
前記陰極は、メッシュ形状を有することを特徴とする請求項7から請求項9のいずれか一項に記載の亜鉛回収装置。
【請求項11】
電解後の浴槽内の固形分含有液を移送する固形分含有液移送装置と、
前記固形分含有液移送装置により移送された前記固形分含有液を固相と液相とに分離する分離装置と、
前記分離装置により分離された前記液相に不純物として含まれる金属イオンと水酸化物イオンとを反応させて金属水酸化物を得、前記液相から前記金属水酸化物を沈殿除去することにより再生アルカリ溶液を得る不純物処理装置と、
前記再生アルカリ溶液を噴射して前記浴槽内に戻し入れる噴射装置とを有することを特徴とする請求項7から請求項9のいずれか一項に記載の亜鉛回収装置。
【請求項12】
前記浴槽内または前記浴槽と前記分離装置との間に、前記アルカリ溶液に溶解し析出して前記固形分含有液に含まれる鉄を磁力により捕集する捕集装置が設けられていることを特徴とする請求項11に記載の亜鉛回収装置。
【請求項13】
前記表面に亜鉛が施された金属部材に塗装された塗料が剥離した塗料片を捕集する捕集バスケットが、前記陽極の下方に設けられていることを特徴とする請求項7から請求項9のいずれか一項に記載の亜鉛回収装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛回収方法および亜鉛回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛は海水などの水溶液に対して鉄よりもイオン化傾向が高く防食効果を有するため、亜鉛めっき鋼材や溶融亜鉛めっき鋼材(JIS G 3302、旧JIS H 8641、JIS G 3302)を用いた亜鉛めっき製品や亜鉛合金(トタン)が、多く利用されている。
【0003】
特に、溶融亜鉛めっき鋼材は、亜鉛めっき皮膜が、鋼を完全に覆って外部の腐食因子(酸素、水分、塩分等)から遮断し、鋼の腐食を防ぐ。また、溶融亜鉛めっきが、大気中の酸素、二酸化炭素、水分等と反応し、表面には腐食生成物(亜鉛酸化物)が形成され、この腐食生成物が、やがて薄く緻密な不働態皮膜となり、亜鉛めっきの減耗を低下させる。また、万一めっき皮膜が局部的に欠損し、鋼が露出しても、周辺の亜鉛が鉄より先に溶けだすことにより鋼は腐食しない。このように、溶融亜鉛めっき鋼材は非常に優れた耐食性を有するため、近年では、洋上風力発電設備の鉄塔などの海洋構造物に利用されている。
【0004】
ところで、亜鉛めっき鋼材や溶融亜鉛めっき鋼材の廃棄物は、多くは鉄スクラップとしてリサイクルされているため、製鉄所の高炉や電炉で処理されて鉄が回収され、亜鉛はダストに濃縮されているのが実情である。電炉ダストは、亜鉛、鉛、鉄等の有用金属を多量に含む一方で、鉛、カドミウム、クロム、塩素、フッ素等の揮発性有害成分も含むため、特別管理廃棄物として扱われる。このため、電炉ダストはそのままでは埋め立てることはできず、適正な処理をした上での埋立てが義務付けられており、処理費用が高騰しているのに加えて、新たな埋立て地の確保が難しく、処分場の容量が逼迫している。電炉ダストから亜鉛を回収する場合も、有償の高度な処理が必要となる。
【0005】
また、低炭素時代の実現に向けて温室効果ガス削減がうたわれている近年において、再生エネルギーの中核となる洋上風力発電施設では溶融亜鉛めっき鋼板が利用されていることから、電炉ダストは、今後ますます増加する。このため、電炉ダストから、枯渇性希少資源である亜鉛分と鉄分とをいかに効率よく回収できるかが重要になる。
【0006】
ここで、電炉ダスト中に含まれる亜鉛の量自体を多くするという観点では、電炉処理を行う際に、特殊なるつぼ形状とした誘導炉に、ガスバブリング、炉内減圧の機能を付加することにより、溶湯からの亜鉛の蒸発量を多くし、高純度の酸化亜鉛系ダストを得る方法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。しかしながら、この方法では、上述の問題を根本的に解決するには至らない。
【0007】
現在、電炉ダスト処理として国内外ともに採用されている主流の方法は、Waelz法である(例えば、特許文献1参照)。Waelz法は、ロータリーキルンを用い、電炉ダストに炭材を加え、重油バーナーで1300℃程度まで加熱して酸化亜鉛を還元し、一旦亜鉛蒸気として揮発させるものである。
【0008】
また、電炉ダストに炭材を添加し水分を加えてペレット化またはブリケット化とし、当該ペレットまたはブリケットを回転炉床炉で加熱還元して、亜鉛を揮発させる回転炉床炉法(RHF法)も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0009】
しかしながら、Waelz法や回転炉床炉法(RHF法)により生成された亜鉛蒸気は、雰囲気中のCO2によって再酸化されるため、亜鉛は最終的には2次ダスト(粗酸化亜鉛)の形で回収され、亜鉛製錬業者に供給されている。
【0010】
このように、Waelz法等は、大量のエネルギーを使用して元々酸化物形態であった亜鉛を還元して一旦金属態にするにもかかわらず、最終的に酸化物形態に戻しており、結果的に、ダスト中の酸化亜鉛を単純に分離濃縮しているだけであり、エネルギーの有効利用という観点では極めて効率が悪いという問題があった。
【0011】
また、Waelz法等では、亜鉛を回収するためには、亜鉛製錬業者により粗酸化亜鉛を製錬する必要がある。したがって、2次ダスト(粗酸化亜鉛)を電炉メーカー等から亜鉛製錬業者に輸送するための輸送コストもかかるという問題があった。
【0012】
そこで、電炉ダストに石灰を添加し加熱することで有害元素を揮発除去し、次に還元剤として働く鉄と共に真空加熱することで、亜鉛は金属亜鉛として、鉄は製鉄原料となるカルシウムフェライトとしてそれぞれ回収する技術が提案されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0013】
また、電炉ダストを原料として、亜鉛含有水溶液を生成し、その中から亜鉛含有化合物を分離し、かかる亜鉛含有化合物中の亜鉛成分を塩化して精製塩化亜鉛を生成し、かかる精製塩化亜鉛を無水化して得られた無水溶融精製塩化亜鉛を電気分解することにより、電解生成物として亜鉛地金を生成する技術が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平9-268332号公報
【特許文献2】特開2009-052141号公報
【特許文献3】特開2019-119895号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】中谷正博,植村浩,「 亜鉛スクラップ鋼板リサイクル用誘導溶解システム」,富士時報,富士電機株式会社,1998年5月,第71巻,第5号,p.274-279
【非特許文献2】「電気炉ダストから亜鉛と鉄を同時に回収する手法を実証~複数の業種を経ていた処理の一元化が可能に~」,[online],令和元年12月26日,科学技術振興機構報第1414号,[令和5年2月2日検索],インターネット <URL:https://www.jst.go.jp/pr/info/info1414/index.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
非特許文献2の方法は、電炉ダストから亜鉛を金属亜鉛として回収できる点ではWaelz法等よりも効率がよい。また、特許文献3の方法は、湿式法での処理であるため、Waelz法等や非特許文献2の方法よりも温室効果ガス削減効果は大きい。
【0017】
しかしながら、非特許文献2および特許文献3のいずれの方法も、電炉ダストから亜鉛を回収する方法であり、亜鉛めっき鋼材や溶融亜鉛めっき鋼材の廃棄物が電炉処理されて、鉄が回収され、亜鉛分が含まれる電炉ダストが排出される過程で、大量のエネルギーが消費され、大量の温室効果ガスを放出するという問題があった。
【0018】
また、輸送コストについても、非特許文献2および特許文献3のいずれの方法も、Waelz法等より削減できるが、亜鉛めっき鋼材や溶融亜鉛めっき鋼材の廃棄物は、鉄スクラップ回収業者から電炉メーカーに輸送される必要があるため、依然として輸送コストがかかるという問題があった。
【0019】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、亜鉛めっき鋼材や溶融亜鉛めっき鋼材の廃棄物から効率よく、省エネルギーで亜鉛を回収することができ、輸送コストも削減でき、温室効果ガス削減にも資する亜鉛回収方法および亜鉛回収装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するために、本願発明者は、廃棄物の溶融亜鉛めっき鋼材等は、亜鉛がアルカリに溶解する一方で、鋼材等はアルカリに不溶性である点に着目し、電解液としてアルカリ溶液を用い、廃棄物の解体鋼材を陽極とし、電解精製により、解体鋼材から亜鉛を溶解させ、陰極に高純度亜鉛を析出させることにより高純度の亜鉛を回収可能であることを見出した。
【0021】
本発明による亜鉛回収方法は、電解液としてアルカリ溶液を用い、電解精製により、陽極を構成する表面に亜鉛が施された金属部材の前記亜鉛を溶解させ、前記アルカリ溶液に対し不溶性の陰極に高純度亜鉛を析出させて回収することを特徴とする。
【0022】
また、上述の亜鉛回収方法は、前記陽極が、前記表面に亜鉛が施された金属部材であり、前記表面に亜鉛が施された金属部材は、溶融亜鉛めっき鋼材、電気亜鉛めっき鋼材、または亜鉛溶射が施された鋼材であることが好ましい。
【0023】
また、上述の亜鉛回収方法は、陽極が、前記アルカリ溶液に対し不溶性のバスケットと前記バスケットの中に収容された前記表面に亜鉛が施された金属部材とにより構成され、前記表面に亜鉛が施された金属部材は、溶融亜鉛めっき鋼材、電気亜鉛めっき鋼材、または亜鉛溶射が施された鋼材であることも好ましい。
【0024】
また、上述の亜鉛回収方法は、前記アルカリ溶液が、水酸化ナトリウムの含有量が10重量%~50重量%の水酸化ナトリウム水溶液であり、前記アルカリ溶液の温度は、10℃~125℃であることが好ましい。
【0025】
上述の亜鉛回収方法は、前記陰極が、メッシュ形状を有することが好ましい。
【0026】
また、上述の亜鉛回収方法は、電解後の浴槽内の固形分含有液を排出し、処理して得られた再生アルカリ溶液を、前記浴槽内に戻し入れることにより生じる攪拌流によって、前記陰極に析出した前記高純度亜鉛を前記陰極から剥離することが好ましい。
【0027】
上述の亜鉛回収方法は、電解後の浴槽内の固形分含有液を排出して、固相と液相とに分離し、前記固相は前記高純度亜鉛として回収し、前記液相に不純物として含まれる金属イオンと水酸化物イオンとを反応させて金属水酸化物を得、前記液相から前記金属水酸化物を沈殿除去することにより再生アルカリ溶液を得ることが好ましい。
【0028】
上記課題を解決するために、本発明による亜鉛回収装置は、電解液が貯留される浴槽と、前記電解液に浸漬可能に支持される陽極および陰極とを備え、 前記陽極は、表面に亜鉛が施された金属部材を有し、前記陰極は、アルカリ溶液に対し不溶性の材質からなり、 前記電解液としてアルカリ溶液を用い、電解精製により前記亜鉛を溶解させ、前記陰極に高純度亜鉛を析出させて、前記高純度亜鉛を回収することを特徴とする。
【0029】
上述の亜鉛回収装置は、前記陽極が、前記表面に亜鉛が施された金属部材であり、前記表面に亜鉛が施された金属部材は、溶融亜鉛めっき鋼材、電気亜鉛めっき鋼材、または亜鉛溶射が施された鋼材であることが好ましい。
【0030】
また、上述の亜鉛回収装置は、前記陽極は、前記アルカリ溶液に対し不溶性のバスケットと前記バスケットの中に収容された前記表面に亜鉛が施された金属部材とにより構成され、前記表面に亜鉛が施された金属部材は、溶融亜鉛めっき鋼材、電気亜鉛めっき鋼材、または亜鉛溶射が施された鋼材であることも好ましい。
【0031】
また、上述の亜鉛回収装置は、前記陰極が、メッシュ形状を有することが好ましい。
【0032】
また、上述の亜鉛回収装置は、解後の浴槽内の固形分含有液を移送する固形分含有液移送装置と、前記固形分含有液移送装置により移送された前記固形分含有液を固相と液相とに分離する分離装置12と、前記分離装置12により分離された前記液相に不純物として含まれる金属イオンと水酸化物イオンとを反応させて金属水酸化物を得、前記液相から前記金属水酸化物を沈殿除去することにより再生アルカリ溶液を得る不純物処理装置と、前記再生アルカリ溶液を噴射して前記浴槽内に戻し入れる噴射装置とを有することが好ましい。
【0033】
また、上述の亜鉛回収装置は、前記浴槽内または前記浴槽と前記分離装置12との間に、前記アルカリ溶液に溶解し析出した前記固形分含有液に含まれる鉄を磁力により捕集する捕集装置が設けられていることが好ましい。
【0034】
また、上述の亜鉛回収装置は、前記表面に亜鉛が施された金属部材に塗装された塗料が剥離した塗料片を捕集する捕集バスケットが、前記陽極の下方に設けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0035】
本発明に係る亜鉛回収方法および亜鉛回収装置によれば、亜鉛めっき鋼材や溶融亜鉛めっき鋼材の廃棄物から効率よく、省エネルギーで高純度の亜鉛を回収することができ、輸送コストも削減でき、温室効果ガス削減にも資する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る亜鉛回収装置の構造を示す模式図である。
【
図2】本発明の第2実施形態に係る亜鉛回収装置の構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明に係る亜鉛回収方法および亜鉛回収装置の第1実施形態について説明する。
図1は本実施形態に係る亜鉛回収方法を実施するための亜鉛回収装置の一例を示したものである。
【0038】
本実施形態に係る亜鉛回収装置1は、電解液2が貯留される浴槽3と、電解液2に浸漬可能に支持される陽極4および陰極5とを備える。陽極4は、表面に亜鉛が施された金属部材からなり、陰極5は、アルカリ溶液に対し不溶性の材質からなる。亜鉛回収装置1は、電解液2としてアルカリ溶液を用い、電解精製により、陽極4を構成する表面に亜鉛が施された金属部材から亜鉛を溶解させ、陰極5に高純度亜鉛を析出させて回収するものである。なお、本明細書において、「高純度」とは、99.9wt%以上あるいは99.99wt%以上、またはJIS H2107:2015に各種亜鉛地金として規定されている亜鉛含有率をいう。なお、JIS H2107:2015においては、最純亜鉛地金は99.995wt%以上、特種亜鉛地金は99.990wt%以上 、普通亜鉛地金は99.97wt%以上、蒸留亜鉛地金特種は99.7wt%以上、蒸留亜鉛地金1種は98.5wt%以上、蒸留亜鉛地金2種は98.0wt%以上の亜鉛含有率と規定されている。
【0039】
浴槽3は、耐アルカリ性の材質であれば特に限定されることなく、従来の電解分解に用いられる浴槽3を用いることができる。このような浴槽3としては、例えば、コンクリート製の浴槽3に繊維強化プラスチックがライニングされたコンクリート製FRP(Fiber Reinforced Plastics)ライニング槽が挙げられる。
【0040】
浴槽3の形状も特に限定されるものではないが、本実施形態における浴槽3は、底面が中央部に向けて低くなるように傾斜しており、底面中央部には、後述の電解後の浴槽3内にある固形分含有液を浴槽3外に排出する排出管6が連結されている。
【0041】
陽極4は、表面に亜鉛が施された金属部材である。金属部材としては、鋼材、合金鋼、鉄等のアルカリ溶液に対して不溶性のものが挙げられ、その表面に亜鉛を施す方法としては、湿式メッキ、乾式メッキ、溶射等が挙げられる。表面に亜鉛が施された金属部材としては、廃棄物が好適に用いられる。また、表面に亜鉛が施された金属部材としては、溶融亜鉛めっき鋼材、電気亜鉛めっき鋼材、または亜鉛溶射が施された鋼材が好適に用いられ、より好ましくは溶融亜鉛めっき鋼材が用いられる。これら溶融亜鉛めっき鋼材等としては、廃棄物である洋上風力発電施設の鉄塔、電灯や信号機の柱、自動車や電車等の解体鋼材を用いることができ、特に洋上風力発電施設の鉄塔の解体鋼材を好適に用いることができる。陽極4となる廃棄物の解体鋼材は、板状に切断されていることが好ましい。
【0042】
陰極5は、アルカリ溶液に対し不溶性であれば、特に限定されるものではないが、鉄(SS41、FC200、SCPH2)、ニッケル、アロイ20、ハステロイC、ジルコニウム、タンタル、SUS300番系、あるいは、それらに酸化被膜を施した物からなる平板であることが好ましい。陰極5に析出した亜鉛が陰極5に付着せずに剥離しやすくするためには、軟鉄(SS41)、普通鋳鉄(FC200)、高温高圧用鋳鋼(SCPH2)、ニッケル、アロイ20、ハステロイC、ジルコニウム、タンタルを用いることが好ましく、アルカリ溶液の温度が低い条件下(80℃以下)では、SUS300番系の滑らかな平板を用いることが好ましい。
【0043】
また、陰極5とアルカリ溶液との接触面積を大きくし亜鉛の析出量を多くする観点からは、陰極5は、一部または全部がメッシュ状であることも好ましく、10~150メッシュであることが好ましい。
【0044】
アルカリ溶液は、アルカリ溶液は水酸化ナトリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等の一般的なアルカリ溶液を用いることができるが、汎用性と亜鉛の溶解性を考慮すると、水酸化ナトリウム水溶液であることが好ましい。
【0045】
亜鉛は、過剰の水酸化ナトリウム水溶液に対しては、次式(1)のように反応して溶け、テトラヒドロキソ亜鉛(II)酸ナトリウムの無色の水溶液になり水素の気体を発生する。
Zn+2NaOH+2H2O→Na2[Zn(OH)4] + H2↑ (1)
【0046】
ただし、少量の水酸化ナトリウム水溶液に対しては、水酸化亜鉛の沈殿が生じる。ここで、Zn2+0.1モルを含む水溶液にOH-0.2モルとなる当量のNaOH を加えると、1L当たりに 0.1モルの Zn(OH) 2 が沈殿する。ここに過剰量のNaOHをさらに加えて沈殿が溶けたとすると、Zn(OH) 2の溶解度積は7×10-18、錯生成定数はlog(β4)=15.5であるから、OH-≒√{0.1/(β×Ksp)}=2.1となる。したがって、NaOHを5562.1+2×0.1=2.3 モルとなるように加えれば、亜鉛はテトラヒドロキソ亜鉛(II)酸ナトリウムの錯体を作って溶ける。以上の観点から、水酸化ナトリウム水溶液の濃度は高い方が好ましく、水酸化ナトリウムの含有量が10重量%~50重量%の水酸化ナトリウム水溶液を用いることが好ましい。
【0047】
また、酸化亜鉛は、過剰の水酸化ナトリウム水溶液に対しては、次式(2)のように反応して溶け、水酸化物亜鉛は、過剰の水酸化ナトリウム水溶液に対しては、次式(3)のように反応し溶ける。
ZnO+2NaOH+H2O→Na2[Zn(OH)4] (2)
Zn(OH)2+2NaOH→Na2[Zn(OH)4] (3)
【0048】
アルカリ溶液の温度は高い方が好ましく、10℃~125℃であることが好ましい。浴槽3内のアルカリ溶液の温度を適温に保つため、亜鉛回収装置1は、後述の不純物処理装置13と噴射装置8との間に、アルカリ溶液を加熱または冷却するための熱交換器(図示しない)を有することが好ましい。また、亜鉛回収装置1は、ジャケット内に温水または冷水を循環させることによりアルカリ溶液の温度を調節可能な温度調整ジャケット(図示しない)を浴槽3の周面に有していてもよい。あるいは、浴槽3の近傍にヒータを有していてもよい。
【0049】
亜鉛回収装置1は、直流電源7を有することが好ましく、直流電源7には、陽極4および陰極5が接続されている。両極間に電圧を印加することにより、陽極4では下記式(4)のように、酸化反応が起こり、陽極4を構成する金属部材の表面に施されている亜鉛がZn2+としてアルカリ溶液に溶解する。
Zn→Zn2++2e- (4)
【0050】
また、陰極5では下記式(5)のように、還元反応が起こり、Zn2+が還元され、単体の Znが析出する。
Zn2++2e+→Zn (5)
【0051】
廃棄物の解体鋼材である溶融亜鉛めっき鋼材等は、鋼材等の部分がアルカリ溶液に対して不溶性であり、また亜鉛や酸化亜鉛が表面に存在するため、電解精製を利用することで容易に、表面の亜鉛分だけを処理することが可能となる。
【0052】
なお、特許第7201196号公報においても、アルカリ水溶液を用いて電気分解を行うことにより、高炉ダスト、電気炉ダスト等の製鋼ダスト、亜鉛めっきが施された鉄スクラップ(廃棄物の解体鋼材である溶融亜鉛めっき鋼材)等から亜鉛を回収する方法が開示されている。しかしながら、特許第7201196号公報では、鉄スクラップ(廃棄物の解体鋼材である溶融亜鉛めっき鋼材)等を温度100℃以上のアルカリ流体で処理して、鉄スクラップ(廃棄物の解体鋼材である溶融亜鉛めっき鋼材)等に含まれる亜鉛を溶解し、電気分解により金属亜鉛を得ていることから、電解採集が利用されている。陽極4としてステンレスを用いることが好ましいとされており、鉄スクラップ(廃棄物の解体鋼材である溶融亜鉛めっき鋼材)等自体を用いることは記載されていないことからも、電解採集が利用されていることは明らかである。
【0053】
これに対して、本願発明は、陽極4として廃棄物の解体鋼材である溶融亜鉛めっき鋼材を用いて、電解精製により亜鉛を回収する方法であり、特許第7201196号公報による亜鉛の回収方法とは全く異なる概念である。
【0054】
電解精製を行う際の電流密度や電圧は、特に規定しないが、亜鉛が陰極5で剥離し易い条件とする。本発明の方法においては、一般的な亜鉛の電解採取法での運転条件である2A/dm2~10A/dm2を適用することができ、電流効率から5~6A/dm2であることが好ましい。
【0055】
亜鉛回収装置1は、後述の再生されたアルカリ溶液を噴射して浴槽3内に戻し入れる噴射装置8を有することが好ましい。再生アルカリ溶液を噴射して浴槽3内に戻し入れることにより生じる攪拌流によって、陰極5に析出した高純度亜鉛が陰極5から剥離される。噴射装置8は、再生アルカリ溶液を高圧で噴射できればよく、例えば再生アルカリ溶液を圧送するための高圧ポンプと、高圧ポンプにより圧送された再生アルカリ溶液をジェット噴射する高圧ジェットノズルとにより構成することができる。
【0056】
亜鉛回収装置1は、電解後の浴槽3内の固形分含有液を移送する固形分含有液移送装置9を有することが好ましい。ここで、固形分含有液は、陰極5に析出し上述の攪拌流により陰極5から剥離された亜鉛、アルカリ溶液中で析出した亜鉛の粒や粉末が含まれたスラリー状の電解後の電解液2である。固形分含有液移送装置9としては、公知のスラリーポンプを用いることができる。固形分含有液移送装置9は、浴槽3の底面中央部に連結された排出管6に接続されており、浴槽3内の固形分含有液を排出し配管10aを介して後述の捕集装置11へ移送するようになっている。
【0057】
亜鉛回収装置1は、浴槽3内または浴槽3と後述の分離装置12との間に、アルカリ溶液に溶解し析出した固形分含有液に含まれる鉄を磁力により捕集する捕集装置11が設けられていることが好ましく、本実施の形態においては、固形分含有液移送装置9と分離装置12との間に設けられている。陽極4として用いられる廃棄物の解体鋼材の鉄分は、アルカリ溶液に対して不溶性であるが、微量の鉄が溶出して析出する場合がある。析出した鉄は、析出した高純度亜鉛とともに固形分として固形分含有液に含まれるため、固形分含有液を固相と液相とに分離して高純度亜鉛を回収する前に鉄を取り除いておくことが好ましい。捕集装置11としては、公知の磁気分離装置を用いることができる。固形分含有液に含まれる鉄は、捕集装置11により吸着され捕集される。鉄が捕集された後の固形部含有液は、配管10bを介して分離装置12へ移送される。
【0058】
亜鉛回収装置1は、固形分含有液移送装置9により移送された固形分含有液を固相と液相とに分離する分離装置12を有することが好ましい。固相は、陰極5に析出して剥離された亜鉛、アルカリ溶液中で析出した亜鉛の粒や粉末であり、液相は、電解後の電解液2である。分離装置12としては、公知の平幕ろ過装置、加圧ろ過装置等のろ過装置や遠心分離装置、湿式比重選別機等を用いることができる。固形分含有液から陰極5に析出して剥離された亜鉛、アルカリ溶液中で析出した亜鉛の粒や粉末を分離することにより、高純度亜鉛が回収される。高純度亜鉛が分離され回収された後の電解液2は、配管10cを介して後述の不純物処理装置13へ移送される。
【0059】
亜鉛回収装置1は、分離装置12により分離された液相に不純物として含まれる金属イオンと水酸化物イオンとを反応させて金属水酸化物を得、液相から金属水酸化物を沈殿除去することにより再生アルカリ溶液を得る不純物処理装置13を有することが好ましい。電解精製を繰り返すと、浴槽3内の電解液2にCrイオン、Feイオン等の金属イオンが不純物として蓄積される。これらの金属イオンと水酸化物イオンとを反応させるためには、電解後の電解液2にアンモニア水や水酸化ナトリウムなど、水酸化物を含む化合物を加えるとよい。不純物処理装置13は、例えば、電解後の電解液2に水酸化物を含む化合物を加えて金属イオンと水酸化物イオンとを反応させるための不純物処理浴槽と、該反応により沈殿した金属水酸化物を電解液2から分離する不純物分離装置とにより構成することができる。不純物処理浴槽は上述の浴槽3と同様のものを用いることができる。また、不純物分離装置は上述の分離装置12と同様のものを用いることができる。不純物分離装置12により不純物が分離除去され再生された再生アルカリ溶液は配管10dを介して、噴射装置8により浴槽3内へ戻し入れられる。
【0060】
亜鉛回収装置1は、表面に亜鉛が施された金属部材に塗装された塗料が剥離した塗料片を捕集する捕集バスケット14が、陽極4の下方に設けられていることが好ましい。廃棄物の解体鋼材は、表面に塗装が施されていることがある。そのため、廃棄物の解体鋼材をそのまま陽極4として用いた場合、電解精製の過程で塗装が剥離し、剥離した塗装片が電解液2中に落下する。落下した剥離片は陽極4の下方に設けられた捕集バスケット14により捕集される。これにより、塗装片が高純度亜鉛とともに回収されるのを防止することができる。
【0061】
本実施形態による亜鉛回収装置1および亜鉛回収方法によれば、廃棄物の解体鋼材から直接高純度の亜鉛を回収するため、効率よく、省エネルギーで亜鉛を回収することができる。また、電解精製により高純度の亜鉛を回収することから、温室効果ガス削減にも資する。さらに、本実施形態による亜鉛回収装置1および亜鉛回収方法によれば、電解液2としてアルカリ溶液を用い、電解精製により高純度の亜鉛を回収することから、全国各地に多数存在する鉄スクラップ回収業者の工場内や溶融亜鉛めっき鋼板製造工場等で実施することができるため、廃棄物が発生した場所から最寄りのこれらの工場へ廃棄物を輸送すればよく、輸送コストを大幅に削減することができる。
【0062】
次に、第2の本実施形態に係る亜鉛回収装置1について説明する。なお、上述の第1実施形態と同様の構成要素については、同一の符号を付して、その詳細な説明は省略することとする。本実施形態に係る亜鉛回収装置100は、電解液2が貯留される浴槽3と、電解液2に浸漬可能に支持される陽極400および陰極500とを備える。亜鉛回収装置100は、直流電源7を有することが好ましく、直流電源7には、陽極400および陰極500が接続されている。亜鉛回収装置100は、電解液2としてアルカリ溶液を用い、電解精製により、陽極400を構成する表面に亜鉛が施された金属部材から亜鉛を溶解させ、陰極500に高純度亜鉛を析出させて回収するものである。
【0063】
浴槽3の底面中央部には、電解後の浴槽3内にある固形分含有液を浴槽3外に排出する排出管6が連結され、排出管6には固形分含有液移送装置9が接続されていることが好ましい。また、固形分含有液移送装置9の下流側には、捕集装置11、分離装置12、不純物処理装置13、噴射装置8がそれぞれ配管10a,10b,10c,10dを介して接続されている。
【0064】
陽極400は、アルカリ溶液に対し不溶性のバスケット401とバスケット401の中に収容された表面に亜鉛が施された金属部材402とにより構成される。表面に亜鉛が施された金属部材402は、上述の第1実施形態の表面に亜鉛が施された金属部材と同様のものを使用することができる。バスケット401は、アルカリ溶液に対し不溶性であれば特に限定されるものではなく、鋳鉄やSUS300番系等で構成することができ、少なくとも側面に多数の孔を有する。表面に亜鉛が施された金属部材402として使用する廃棄物の解体鋼材は、不定期に様々な形状で生じるため、バスケット401に収容しバスケット401を介して通電すれば、より容易に陽極400として用いることができる。
【0065】
陰極500は、第1実施形態の陰極5と同様の材料で構成することができる。また、陰極500の形状は、陽極400を構成するバスケット401より大きなバスケット形状とすることが好ましく、少なくとも側面に多数の孔を有する。表面に亜鉛が施された金属部材402をバスケット401に収容して陽極400とする場合、陰極が平板状であると、個々の表面に亜鉛が施された金属部材402と平板状陰極とが平行に配置されないため、表面に亜鉛が施された金属部材402に生じる酸化反応が不均一となるが、本実施形態の陰極500のようにバスケット形状とすることにより、個々の表面に亜鉛が施された金属部材402と陰極500とが平行になる部分が多くなり、酸化反応が均一に進みやすくなる。なお、陰極500の上縁部は、絶縁板15を介して、浴槽3の上縁部に係止されている。
【0066】
また、陽極400のバスケット401は、絶縁ボックス16を介してワイヤロープ17でクレーン18により吊り下げられており、水平方向および垂直方向における陰極500との距離を調整できるようになっている。これにより電流密度を調整することができ、電解効率を向上させることができる。
【0067】
本願発明による亜鉛回収方法および亜鉛回収装置は、次の態様を含む。
【0068】
[1] 電解液としてアルカリ溶液を用い、電解精製により、陽極を構成する表面に亜鉛が施された金属部材の亜鉛を溶解させ、アルカリ溶液に対し不溶性の陰極に高純度亜鉛を析出させて回収する亜鉛回収方法。
【0069】
[2] 陽極は、表面に亜鉛が施された金属部材であり、表面に亜鉛が施された金属部材は、溶融亜鉛めっき鋼材、電気亜鉛めっき鋼材、または亜鉛溶射が施された鋼材である[1]に記載の亜鉛回収方法。
【0070】
[3] 陽極は、アルカリ溶液に対し不溶性のバスケットとバスケットの中に収容された表面に亜鉛が施された金属部材とにより構成され、表面に亜鉛が施された金属部材は、溶融亜鉛めっき鋼材、電気亜鉛めっき鋼材、または亜鉛溶射が施された鋼材である[1]に記載の亜鉛回収方法。
【0071】
[4] アルカリ溶液は、水酸化ナトリウムの含有量が10重量%~50重量%の水酸化ナトリウム水溶液であり、アルカリ溶液の温度は、10℃~125℃である[1]から請求項[3]のいずれか一項に記載の亜鉛回収方法。
【0072】
[5]陰極は、メッシュ形状を有することを特徴とする[1]から[4]のいずれか一項に記載の亜鉛回収方法。
【0073】
[6]電解後の浴槽内の固形分含有液を排出し、処理して得られた再生アルカリ溶液を、浴槽内に戻し入れることにより生じる攪拌流によって、陰極に析出した高純度亜鉛を陰極から剥離する[1]から[5]のいずれか一項に記載の亜鉛回収方法。
【0074】
[7]電解後の浴槽内の固形分含有液を排出して、固相と液相とに分離し、固相は高純度亜鉛として回収し、液相に不純物として含まれる金属イオンと水酸化物イオンとを反応させて金属水酸化物を得、液相から金属水酸化物を沈殿除去することにより再生アルカリ溶液を得る[1]から[6]のいずれか一項に記載の亜鉛回収方法。
【0075】
[8]電解液が貯留される浴槽と、電解液に浸漬可能に支持される陽極および陰極とを備え、陽極は、表面に亜鉛が施された金属部材を有し、陰極は、アルカリ溶液に対し不溶性の材質からなり、電解液としてアルカリ溶液を用い、電解精製により亜鉛を溶解させ、陰極に高純度亜鉛を析出させて、高純度亜鉛を回収する亜鉛回収装置。
【0076】
[9]陽極は、表面に亜鉛が施された金属部材であり、表面に亜鉛が施された金属部材は、溶融亜鉛めっき鋼材、電気亜鉛めっき鋼材、または亜鉛溶射が施された鋼材である[8]に記載の亜鉛回収装置。
【0077】
[10]陽極は、アルカリ溶液に対し不溶性のバスケットとバスケットの中に収容された表面に亜鉛が施された金属部材とにより構成され、表面に亜鉛が施された金属部材は、溶融亜鉛めっき鋼材、電気亜鉛めっき鋼材、または亜鉛溶射が施された鋼材である[8]に記載の亜鉛回収装置。
【0078】
[11]陰極は、メッシュ形状を有する[8]から[10]のいずれか一項に記載の亜鉛回収装置。
【0079】
[12]電解後の浴槽内の固形分含有液を移送する固形分含有液移送装置と、固形分含有液移送装置により移送された固形分含有液を固相と液相とに分離する分離装置12と、分離装置12により分離された液相に不純物として含まれる金属イオンと水酸化物イオンとを反応させて金属水酸化物を得、液相から金属水酸化物を沈殿除去することにより再生アルカリ溶液を得る不純物処理装置と、再生アルカリ溶液を噴射して浴槽内に戻し入れる噴射装置とを有する[8]から[11]のいずれか一項に記載の亜鉛回収装置。
【0080】
[13]浴槽内または浴槽と分離装置12との間に、アルカリ溶液に溶解し析出して固形分含有液に含まれる鉄を磁力により捕集する捕集装置が設けられている[12]に記載の亜鉛回収装置。
【0081】
[14]表面に亜鉛が施された金属部材に塗装された塗料が剥離した塗料片を捕集する捕集バスケットが、陽極の下方に設けられている[8]から[13]のいずれか一項に記載の亜鉛回収装置。
【0082】
本発明による亜鉛回収方法に関し、次の通り実験を行った。
【0083】
<実験1>
水酸化ナトリウム水溶液の中に、溶融亜鉛めっき鋼板を浸漬し、溶融亜鉛めっき鋼板から亜鉛を溶解させる実験を行った。実験器具は、浴槽として空重量172.4g、容積200mlのガラス容器、浴槽の温調機としてホットプレートを用いた。まず、浴槽内に、常温の活性炭ろ過処理済みの上水を38.3g、99%純度の工業試薬用水酸化ナトリウム顆粒(東工薬株式会社製)38.4gを投入し、手動で攪拌して、水酸化ナトリウムの含有量が50wt%となるように調整し水酸化ナトリウム水溶液を得た。
【0084】
次に、株式会社スタンダードテストピース社製の溶融亜鉛めっき鋼板材(記号:SGCC、規格:JIS H 8641、板厚:2.0mm)から50mm×50mmの試験片を切り出し、上述の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬した。100Vで50℃に設定されたホットプレート上に浴槽を載置して水酸化ナトリウム水溶液の温度を42~50℃に維持し、定期的に試験片および水酸化ナトリウム水溶液の重量を測定した。その結果を表1に示す。なお、試験片および水酸化ナトリウム水溶液の重量の測定には、株式会社ドリテック社製の料理用計量器(±0.0g秤量)を用い、水酸化ナトリウム水溶液の温度の測定には、株式会社モリトク社製のガラス温度計を用いた。
【0085】
【0086】
試験片を水酸化ナトリウム水溶液に浸漬した直後に3分程、激しい泡の発生がつづき、水酸化ナトリウム水溶液が白濁した。30分以降は、特に試験片からの泡立ちに変化は見られなかった。なお、浸漬開始後3時間までは定期的に試験片を裏返した。また、浸漬開始から1時間、3時間における試験片の重量測定時には、水酸化ナトリウム水溶液を手動で攪拌した。19.5時間浸漬した後に、試験片の表面を観察した結果、亜鉛めっきが剥離し鋼の基板が露出していることが確認できた。また、試験片を取り除いた後に、水酸化ナトリウム水溶液を攪拌して観察したところ、白濁した状況は、試験開始1時間後と殆ど同じであった。このことから、溶融亜鉛めっき鋼板の亜鉛めっきは、水酸化ナトリウム水溶液に溶解することが確認できた。
【0087】
<実験2>
本発明の電解精製を利用した亜鉛回収方法により、溶融亜鉛めっき鋼板の亜鉛を回収する実験を行った。浴槽内に、常温の活性炭ろ過処理済みの上水82.9gと、水酸化ナトリウム顆粒54.0gを投入し、ホットプレートで85℃に加温し、手動で攪拌して、水酸化ナトリウムの含有量が39.4wt%となるように調整し水酸化ナトリウム水溶液を得た。浴槽、ホットプレートおよび水酸化ナトリウムは、上述の実験1と同じものを用いた。また、陰極として、SUS302番のニッケル18%、クロムが8%含まれたオーステナイト系ステンレス鋼の60mm×35mm、2mm厚、31.0gの板を用意し、陽極として、実験1で用いた溶融亜鉛めっき鋼板材と同じロットから50mm×50mm、38.9gの新しい試験片を切り出した。
【0088】
陰極のステンレス鋼板の端部をクリップ付きリード線のクリップで挟持し、陽極の溶融亜鉛めっき鋼板材の端部を別のクリップ付きリード線のクリップで挟持した。その後、陰極のステンレス鋼板および陽極の溶融亜鉛めっき鋼板材を、両極の間隔が10mmとなるように浴槽内の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬させ、陰極側のリード線を9Vの乾電池のマイナス極に、陽極側のリード線をプラス極に接続した。通電開始から陽極と陰極の両方から泡が発生し、銀色と白色の微細な粒が流動しているのが観察された。その後、3分程で泡の発生は止まった。水酸化ナトリウム水溶液は白濁した。
【0089】
通電開始から10分後、陽極側の試験片の表面を観察したところ、水酸化ナトリウム水溶液に浸漬していた部分は、亜鉛めっきが剥離し鋼の基板が露出していることが確認できた。また、陰極のステンレス鋼板の表面を観察したところ、水酸化ナトリウム水溶液に浸漬していた部分は、光沢を有していることが確認できた。このことから、陽極の溶融亜鉛めっき鋼板から亜鉛が水酸化ナトリウム水溶液中に溶解、陰極のステンレス鋼板に亜鉛が析出したと考えられる。
【0090】
また、陰極にSUS420番のクロム13%のマルテンサイト系ステンレス鋼材料を使用して、実験2と同様の実験を行った。陽極側の試験片の表面を観察したところ、水酸化ナトリウム水溶液に浸漬していた部分は、亜鉛めっきが剥離し鋼の基板が露出していることが確認でき、陰極のステンレス鋼板の表面を観察したところ、水酸化ナトリウム水溶液に浸漬していた部分は、光沢を有していることが確認できた。本実験における陰極のステンレス鋼板は、クロムが13%含まれたステンレス鋼であるため、磁性を有し、実験前にはネオジム磁石に吸着していたが、実験後に、水酸化ナトリウム水溶液に浸漬していた部分にネオジム磁石を近づけたところ、磁性が極端に低下していることが確認された。このことから、陽極の溶融亜鉛めっき鋼板から亜鉛が水酸化ナトリウム水溶液中に溶解して陰極に亜鉛が析出するとともに、クロムも析出したことが確認できた。したがって、陰極には、クロムなどが溶解しない軟鉄(SS41)、普通鋳鉄(FC200)、高温高圧用鋳鋼(SCPH2)、ニッケル、アロイ20、ハステロイC、ジルコニウム、タンタルを用いることが好ましいと考えられる。
【符号の説明】
【0091】
1,100:亜鉛回収装置
2:電解液
3:浴槽
4,400:陽極
401:バスケット
402:表面に亜鉛が施された金属部材
5,500:陰極
6:排出管
7:直流電源
8:噴射装置
9:固形分含有液移送装置
10a,10b,10c,10d:配管
11:捕集装置
12:分離装置
13:不純物処理装置
14:捕集バスケット
15:絶縁板
16:絶縁ボックス
17:ワイヤロープ
18:クレーン