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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125004
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】油井用金属管
(51)【国際特許分類】
   F16L 15/04 20060101AFI20240906BHJP
   C25D 7/04 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
F16L15/04 A
C25D7/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033047
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】595099867
【氏名又は名称】バローレック・オイル・アンド・ガス・フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】大島 真宏
(72)【発明者】
【氏名】木本 雅也
【テーマコード(参考)】
3H013
4K024
【Fターム(参考)】
3H013JA04
4K024AA19
4K024AB01
4K024BA02
4K024BA04
4K024BB28
4K024BC05
4K024CA01
4K024CA02
4K024CA03
4K024CA04
4K024CA06
4K024DA03
4K024DA04
4K024DA05
4K024DA09
4K024DB04
4K024DB10
4K024GA03
4K024GA04
4K024GA16
(57)【要約】
【課題】高い硬さを有するZn-Ni合金めっき層を備えた油井用金属管を提供する。
【解決手段】本開示の油井用金属管は、ピンとボックスとを含む管本体を備え、さらに、ピン接触表面又はボックス接触表面上に形成されているZn-Ni合金めっき層を備える。Zn-Ni合金めっき層中のNi含有量は質量%で14.8~25.0%であり、Zn-Ni合金めっき層のかさ密度は7.00g/cm以上である。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油井用金属管であって、
第1端部と第2端部とを含む管本体を備え、
前記管本体は、
前記第1端部に形成されているピンと、
前記第2端部に形成されているボックスとを含み、
前記ピンは、
雄ねじ部を含むピン接触表面を含み、
前記ボックスは、
雌ねじ部を含むボックス接触表面を含み、
前記油井用金属管はさらに、
前記ピン接触表面上又は前記ボックス接触表面上に形成されており、Zn-Ni合金からなるZn-Ni合金めっき層を備え、
前記Zn-Ni合金めっき層中のNi含有量は質量%で14.8~25.0%であり、
前記Zn-Ni合金めっき層のかさ密度は7.00g/cm以上である、
油井用金属管。
【請求項2】
請求項1に記載の油井用金属管であって、
前記Zn-Ni合金めっき層において、
前記Ni含有量は質量%で17.0%以上である、
油井用金属管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金属管に関し、さらに詳しくは、油井用金属管に関する。
【背景技術】
【0002】
油井やガス井(以下、油井田及びガス井を総称して「油井」という)の採掘のために、油井用金属管が使用される。油井用金属管は、ねじ継手を有する。具体的には、油井採掘地において、油井の深さに応じて、複数の油井用金属管を連結して、ケーシングやチュービングに代表される油井管連結体を形成する。油井管連結体は、油井用金属管同士をねじ締めすることによって形成される。また、油井管連結体に対して検査を実施する場合がある。検査を実施する場合、油井管連結体は、引き上げられ、ねじ戻しされる。そして、ねじ戻しにより油井管連結体から油井用金属管が取り外され、検査される。検査後、油井用金属管同士が再びねじ締めされ、油井用金属管は油井管連結体の一部として再度利用される。
【0003】
油井用金属管は、ピン及びボックスを備える。ピンは、油井用金属管の端部の外周面に、雄ねじ部を含むピン接触表面を有する。ボックスは、ピンと反対側の油井用金属管の端部の内周面に、雌ねじ部を含むボックス接触表面を有する。油井用金属管同士がねじ締めされるとき、ピン接触表面はボックス接触表面と接触する。
【0004】
ピン接触表面及びボックス接触表面は、油井用金属管のねじ締め及びねじ戻し時に強い摩擦を繰り返し受ける。そのため、ピン接触表面及びボックス接触表面は、ねじ締め及びねじ戻しを繰り返した時に、ゴーリング(修復不可能な焼付き)が発生しやすい。したがって、油井用金属管には、摩擦に対する十分な耐久性、すなわち、優れた耐焼付き性が要求される。
【0005】
従来、油井用金属管の耐焼付き性を向上するために、ドープと呼ばれる重金属粉入りのコンパウンドグリスが使用されてきた。ピン接触表面及び/又はボックス接触表面にコンパウンドグリスを塗布することで、油井用金属管の耐焼付き性を改善できる。しかしながら、コンパウンドグリスに含まれるPb、Zn及びCu等の重金属粉は、環境に影響を与える可能性がある。このため、コンパウンドグリスを使用しなくても、耐焼付き性に優れる油井用金属管の開発が望まれている。
【0006】
特許文献1(国際公開第2016/170031号)に開示された油井用金属管では、コンパウンドグリスに代えて、Zn-Ni合金めっき層をピン接触表面又はボックス接触表面に形成している。油井用金属管の接触表面に形成されたZn-Ni合金めっき層中のZnは、犠牲防食により、油井管の母材の耐食性を高める。さらに、Zn-Ni合金は、耐摩耗特性にも優れる、と特許文献1には記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2016/170031号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のとおり、Zn-Ni合金めっき層は、Znにより油井用金属管の耐食性を高める。さらに、Zn-Ni合金めっき層自体の硬さが高いため、良好な耐焼付き性が得られる。通常、めっき層の硬さが高いほど、耐摩耗特性が高まり、耐焼付き性が高まる。そこで、耐食性に優れたZn-Ni合金めっき層において、油井用金属管のねじ締め及びねじ戻し時の耐焼付き性をさらに高めるためには、硬さをさらに高めることが望まれる。特に、大型の油井用金属管や、高合金からなる油井用金属管では、焼付き感受性が高い。そのため、これらの油井用金属管において、耐食性を得つつ、優れた耐焼付き性を得るためには、Zn-Ni合金めっき層の硬さをさらに高めることが望まれる。
【0009】
本開示の目的は、高い硬さを有するZn-Ni合金めっき層を備えた油井用金属管を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の油井用金属管は、
第1端部と第2端部とを含む管本体を備え、
前記管本体は、
前記第1端部に形成されているピンと、
前記第2端部に形成されているボックスとを含み、
前記ピンは、
雄ねじ部を含むピン接触表面を含み、
前記ボックスは、
雌ねじ部を含むボックス接触表面を含み、
前記油井用金属管はさらに、
前記ピン接触表面上又は前記ボックス接触表面上に形成されており、Zn-Ni合金からなるZn-Ni合金めっき層を備え、
前記Zn-Ni合金めっき層中のNi含有量は質量%で14.8~25.0%であり、
前記Zn-Ni合金めっき層のかさ密度は7.00g/cm以上である。
【発明の効果】
【0011】
本実施形態の油井用金属管は、ねじ締め及びねじ戻しによる焼付きをさらに抑制可能な高い硬さを有するZn-Ni合金めっき層を備える。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、従前のZn-Ni合金めっき層のNi含有量とビッカース硬さとの関係を示すグラフである。
図2図2は、従前のZn-Ni合金めっき層のNi含有量とかさ密度との関係を示すグラフである。
図3図3は、図2のグラフに、本実施形態のZn-Ni合金めっき層のNi含有量とかさ密度との関係を追加したグラフである。
図4図4は、図1のグラフに、本実施形態のZn-Ni合金めっき層のNi含有量とビッカース硬さとの関係を追加したグラフである。
図5図5は、本実施形態の油井用金属管の側面図である。
図6図6は、図5に示す油井用金属管のカップリングの管軸方向に沿った断面(縦断面)を示す一部断面図である。
図7図7は、図5に示す油井用金属管のうちのピン近傍部分の、油井用金属管の管軸方向に平行な断面図である。
図8図8は、図5に示す油井用金属管のうちのボックス近傍部分の、油井用金属管の管軸方向に平行な断面図である。
図9図9は、図6と異なる他の構成の本実施形態の油井用金属管の縦断面を示す一部断面図である。
図10図10は、本実施形態によるインテグラル型の油井用金属管の縦断面を含む一部断面図である。
図11図11は、図7に示すピン接触表面の拡大図である。
図12図12は、図8に示すボックス接触表面の拡大図である。
図13図13は、図11と異なる構成のピン接触表面の拡大図である。
図14図14は、図12と異なる構成のボックス接触表面の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本実施形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0014】
本発明者らは、Zn-Ni合金めっき層中のNi含有量を高めれば、Zn-Ni合金めっき層の硬さがさらに高くなると考えた。そこで、本発明者らは、初めに、従前の方法で油井用金属管の接触表面(ピン接触表面又はボックス接触表面)に形成されたZn-Ni合金めっき層のNi含有量と、Zn-Ni合金めっき層の硬さ(ビッカース硬さ)との関係について調査し、図1を得た。
【0015】
図1を参照して、従前のZn-Ni合金めっき層では、Ni含有量が14.8%となるまでは、Ni含有量の増加とともに、ビッカース硬さが上昇した。しかしながら、Ni含有量が14.8%以上となると、Ni含有量の増加とともに、ビッカース硬さが低下した。
【0016】
そこで、本発明者らは、Ni含有量が14.8%以上となった場合にZn-Ni合金めっき層の硬さが低下する原因を調査した。その結果、次の事項が明らかとなった。Zn-Ni合金めっき層中のNi含有量を高めた場合、Zn-Ni合金めっき層中には多数の空孔が形成していた。そこで、本発明者らは、図1でプロットされたZn-Ni合金めっき層に対して、空孔の割合の指標となる、かさ密度を調査し、図2を得た。
【0017】
図2を参照して、調査の結果、従前のZn-Ni合金めっき層では、Ni含有量が14.8%となるまでは、Ni含有量の増加とともに、かさ密度が増加した。しかしながら、Ni含有量が14.8%以上となった場合、Ni含有量の増加に伴い、かさ密度が急速に低下した。
【0018】
以上の検討結果に基づいて、本発明者らは、Zn-Ni合金めっき層と、Ni含有量と、かさ密度とは、次の関係を有すると考えた。Zn-Ni合金めっき層中のNi含有量を高めることは、Zn-Ni合金めっき層の硬さの向上に寄与する。しかしながら、Ni含有量が高くなれば、かさ密度が急速に低下する。図1及び図2において、Ni含有量が14.8%以上となった場合、Ni含有量の増加に伴う硬さの増加代に対して、かさ密度の低下に伴う硬さの低下代が大きい。そのため、Ni含有量が14.8%以上となった場合、Ni含有量の増加に伴い、Zn-Ni合金めっき層のビッカース硬さが低下する(図1)。
【0019】
以上の知見に基づいて、本発明者らは、Zn-Ni合金めっき層において、Ni含有量を高めつつ、かさ密度の低下を抑制できれば、Ni含有量の増加に伴い、Zn-Ni合金めっき層のビッカース硬さをさらに高めることができると考えた。以上の考えに基づいて、後述の試験を行い、図3及び図4を得た。
【0020】
図3は、図2のグラフに、本実施形態のZn-Ni合金めっき層のNi含有量とかさ密度との関係を追加したグラフである。図4は、図1のグラフに、本実施形態のZn-Ni合金めっき層のNi含有量とビッカース硬さとの関係を追加したグラフである。図3中及び図4中の「○」印が、後述の実施例の本発明例に相当する。図3を参照して、本実施形態のZn-Ni合金めっき層では、Ni含有量を14.8%以上とした場合であっても、かさ密度は7.00g/cm以上である。この場合、図4に示すとおり、Ni含有量が14.8%以上となった場合であっても、Ni含有量の増加に伴い、ビッカース硬さが顕著に増加している。
【0021】
以上のとおり、Zn-Ni合金めっき層において、Ni含有量が14.8%以上であり、さらに、かさ密度が7.00g/cm以上であれば、Zn-Ni合金めっき層の硬さが顕著に高まることを、本発明者らは見出した。
【0022】
以上の知見に基づいて完成した本実施形態の油井用金属管は次の構成を有する。
【0023】
[1]
油井用金属管であって、
第1端部と第2端部とを含む管本体を備え、
前記管本体は、
前記第1端部に形成されているピンと、
前記第2端部に形成されているボックスとを含み、
前記ピンは、
雄ねじ部を含むピン接触表面を含み、
前記ボックスは、
雌ねじ部を含むボックス接触表面を含み、
前記油井用金属管はさらに、
前記ピン接触表面上又は前記ボックス接触表面上に形成されており、Zn-Ni合金からなるZn-Ni合金めっき層を備え、
前記Zn-Ni合金めっき層中のNi含有量は質量%で14.8~25.0%であり、
前記Zn-Ni合金めっき層のかさ密度は7.00g/cm以上である、
油井用金属管。
【0024】
本実施形態の油井用金属管では、Zn-Ni合金めっき層中のNi含有量が質量%で14.8~25.0%であり、さらに、Zn-Ni合金めっき層のかさ密度が7.00g/cm以上である。このような構成を有するZn-Ni合金めっき層の硬さは顕著に高くなる。そのため、ねじ締め及びねじ戻し時における焼付きの発生を抑制できる。さらに、Zn-Ni合金めっき層はZnを含有する。そのため、犠牲防食により、防食性を高めることができる。
【0025】
[2]
[1]に記載の油井用金属管であって、
前記Zn-Ni合金めっき層において、
前記Ni含有量は質量%で17.0%以上である、
油井用金属管。
【0026】
以下、本実施形態の油井用金属管について詳述する。
【0027】
[油井用金属管の構成]
初めに、本実施形態の油井用金属管の構成について説明する。油井用金属管は周知の構成を有する。油井用金属管は、T&C型の油井用金属管と、インテグラル型の油井用金属管とがある。以下、各型の油井用金属管について詳述する。
【0028】
[油井用金属管1がT&C型である場合]
図5は、本実施形態の油井用金属管1の側面図である。図5は、いわゆるT&C型(Threaded and Coupled)の油井用金属管1の側面図である。図5を参照して、油井用金属管1は、管本体10を備える。
【0029】
管本体10は、管軸方向に延びている。管本体10の管軸方向に垂直な断面は円形状である。管本体10は、第1端部10Aと、第2端部10Bとを含む。第1端部10Aは、第2端部10Bの反対側の端部である。図5に示すT&C型の油井用金属管1では、管本体10は、ピン管体11と、カップリング12とを備える。カップリング12は、ピン管体11の一端に取り付けられている。より具体的には、カップリング12は、ピン管体11の一端にねじにより締結されている。
【0030】
図6は、図5に示す油井用金属管1のカップリング12の管軸方向に平行な断面(縦断面)を示す一部断面図である。図5及び図6を参照して、管本体10は、ピン40と、ボックス50とを含む。ピン40は、管本体10の第1端部10Aに形成されている。ピン40は、締結時において、他の油井用金属管1(図示せず)のボックス50に挿入されて、他の油井用金属管1のボックス50とねじにより締結される。
【0031】
ボックス50は、管本体10の第2端部10Bに形成されている。締結時において、ボックス50には、他の油井用金属管1のピン40が挿入されて、他の油井用金属管1のピン40とねじにより締結される。
【0032】
[ピン40の構成について]
図7は、図5に示す油井用金属管1のうちのピン40近傍部分の、油井用金属管1の管軸方向に平行な断面図である。図7中の破線部分は、他の油井用金属管1と締結する場合の、他の油井用金属管1のボックス50の構成を示す。図7を参照して、ピン40は、管本体10の第1端部10Aの外周面に、ピン接触表面400を備える。ピン接触表面400は、他の油井用金属管1との締結時において、他の油井用金属管1のボックス50にねじ込まれ、ボックス50のボックス接触表面500(後述)と接触する。
【0033】
ピン接触表面400は、第1端部10Aの外周面に形成された雄ねじ部41を少なくとも含む。ピン接触表面400はさらに、ピンシール面42と、ピンショルダ面43とを含んでもよい。図7では、ピンショルダ面43は第1端部10Aの先端面に配置され、ピンシール面42は、第1端部10Aの外周面のうち、雄ねじ部41よりも第1端部10Aの先端側に配置されている。つまり、ピンシール面42は、雄ねじ部41とピンショルダ面43との間に配置されている。ピンシール面42はテーパ状に設けられている。具体的には、ピンシール面42では、第1端部10Aの長手方向(管軸方向)において、雄ねじ部41からピンショルダ面43に向かうにしたがって、ピン40の外径が徐々に小さくなっている。
【0034】
他の油井用金属管1との締結時において、ピンシール面42は、他の油井用金属管1のボックス50のボックスシール面52(後述)と接触する。より具体的には、締結時において、ピン40が他の油井用金属管1のボックス50に挿入されることにより、ピンシール面42がボックスシール面52と接触する。そして、ピン40が他の油井用金属管1のボックス50にさらにねじ込まれることにより、ピンシール面42は、ボックスシール面52と密着する。これにより、締結時において、ピンシール面42は、ボックスシール面52と密着してメタル-メタル接触に基づくシールを形成する。そのため、互いに締結された油井用金属管1において、気密性を高めることができる。
【0035】
図7では、ピンショルダ面43は、第1端部10Aの先端面に配置されている。つまり、図7に示すピン40では、管本体10の中央から第1端部10Aに向かって順に、雄ねじ部41、ピンシール面42、ピンショルダ面43の順に配置されている。他の油井用金属管1との締結時において、ピンショルダ面43は、他の油井用金属管1のボックス50のボックスショルダ面53(後述)と対向し、接触する。より具体的には、締結時において、ピン40が他の油井用金属管1のボックス50に挿入されることにより、ピンショルダ面43がボックスショルダ面53と接触する。これにより、締結時において、高いトルクを得ることができる。また、ピン40とボックス50との締結状態での位置関係を安定させることができる。
【0036】
なお、ピン40のピン接触表面400は、少なくとも雄ねじ部41を含んでいる。つまり、ピン接触表面400は、雄ねじ部41を含み、ピンシール面42及びピンショルダ面43を含んでいなくてもよい。ピン接触表面400は、雄ねじ部41とピンショルダ面43とを含み、ピンシール面42を含んでいなくてもよい。ピン接触表面400は、雄ねじ部41とピンシール面42とを含み、ピンショルダ面43を含んでいなくてもよい。
【0037】
[ボックス50の構成について]
図8は、図5に示す油井用金属管1のうちのボックス50近傍部分の、油井用金属管1の管軸方向に平行な断面図である。図8中の破線部分は、他の油井用金属管1と締結する場合の、他の油井用金属管1のピン40の構成を示す。図8を参照して、ボックス50は、管本体10の第2端部10Bの内周面に、ボックス接触表面500を備える。ボックス接触表面500は、他の油井用金属管1との締結時において、他の油井用金属管1のピン40がねじ込まれ、ピン40のピン接触表面400と接触する。
【0038】
ボックス接触表面500は、第2端部10Bの内周面に形成された雌ねじ部51を少なくとも含む。締結時において、雌ねじ部51は、他の油井用金属管のピン40の雄ねじ部41と噛み合う。
【0039】
ボックス接触表面500はさらに、ボックスシール面52と、ボックスショルダ面53とを含んでもよい。図8では、ボックスシール面52は、第2端部10Bの内周面のうち、雌ねじ部51よりも管本体10側に配置されている。つまり、ボックスシール面52は、雌ねじ部51とボックスショルダ面53との間に配置されている。ボックスシール面52はテーパ状に設けられている。具体的には、ボックスシール面52では、第2端部10Bの長手方向(管軸方向)において、雌ねじ部51からボックスショルダ面53に向かうにしたがって、ボックス50の内径が徐々に小さくなっている。
【0040】
他の油井用金属管1との締結時において、ボックスシール面52は、他の油井用金属管1のピン40のピンシール面42と接触する。より具体的には、締結時において、ボックス50に他の油井用金属管1のピン40がねじ込まれることにより、ボックスシール面52がピンシール面42と接触し、さらにねじ込まれることにより、ボックスシール面52がピンシール面42と密着する。これにより、締結時において、ボックスシール面52は、ピンシール面42と密着してメタル-メタル接触に基づくシールを形成する。そのため、互いに締結された油井用金属管1において、気密性を高めることができる。
【0041】
ボックスショルダ面53は、ボックスシール面52よりも管本体10側に配置されている。つまり、ボックス50では、管本体10の中央から第2端部10Bの先端に向かって順に、ボックスショルダ面53、ボックスシール面52、雌ねじ部51、の順に配置されている。他の油井用金属管1との締結時において、ボックスショルダ面53は、他の油井用金属管1のピン40のピンショルダ面43と対向し、接触する。より具体的には、締結時において、ボックス50に他の油井用金属管1のピン40が挿入されることにより、ボックスショルダ面53がピンショルダ面43と接触する。これにより、締結時において、高いトルクを得ることができる。また、ピン40とボックス50との締結状態での位置関係を安定させることができる。
【0042】
ボックス接触表面500は、少なくとも雌ねじ部51を含む。締結時において、ボックス50のボックス接触表面500の雌ねじ部51は、ピン40のピン接触表面400の雄ねじ部41に対応し、雄ねじ部41と接触する。ボックスシール面52は、ピンシール面42と対応し、ピンシール面42と接触する。ボックスショルダ面53は、ピンショルダ面43と対応し、ピンショルダ面43と接触する。
【0043】
ピン接触表面400が雄ねじ部41を含み、ピンシール面42及びピンショルダ面43を含まない場合、ボックス接触表面500は雌ねじ部51を含み、ボックスシール面52及びボックスショルダ面53を含まない。ピン接触表面400が雄ねじ部41とピンショルダ面43とを含み、ピンシール面42を含まない場合、ボックス接触表面500は、雌ねじ部51とボックスショルダ面53とを含み、ボックスシール面52を含まない。ピン接触表面400が雄ねじ部41とピンシール面42とを含み、ピンショルダ面43を含まない場合、ボックス接触表面500は、雌ねじ部51とボックスシール面52とを含み、ボックスショルダ面53を含まない。
【0044】
ピン接触表面400は、複数の雄ねじ部41を含んでもよいし、複数のピンシール面42を含んでもよいし、複数のピンショルダ面43を含んでもよい。例えば、ピン40のピン接触表面400において、第1端部10Aの先端から管本体10の中央に向かって、ピンショルダ面43、ピンシール面42、雄ねじ部41、ピンシール面42、ピンショルダ面43、ピンシール面42、雄ねじ部41の順で配置されてもよい。この場合、ボックス50のボックス接触表面500において、第2端部10Bの先端から管本体10の中央に向かって、雌ねじ部51、ボックスシール面52、ボックスショルダ面53、ボックスシール面52、雌ねじ部51、ボックスシール面52、ボックスショルダ面53の順に配置される。
【0045】
図7及び図8では、ピン40が、雄ねじ部41、ピンシール面42、及び、ピンショルダ面43を含み、ボックス50が、雌ねじ部51、ボックスシール面52、及び、ボックスショルダ面53を含む、いわゆる、プレミアムジョイントを図示している。しかしながら、上述のとおり、ピン40は、雄ねじ部41を含み、ピンシール面42及びピンショルダ面43を含んでいなくてもよい。この場合、ボックス50は、雌ねじ部51を含み、ボックスシール面52及びボックスショルダ面53を含んでいない。図9は、図6と異なる他の構成の本実施形態の油井用金属管の縦断面を示す一部断面図である。図9の油井用金属管1では、ピン40が雄ねじ部41を含み、ピンシール面42及びピンショルダ面43を含んでいない。さらに、ボックス50が雌ねじ部51を含み、ボックスシール面52及びボックスショルダ面53を含んでいない。本実施形態の油井用金属管1は、図9に示す構成を有していてもよい。
【0046】
[油井用金属管1がインテグラル型である場合]
図5図6及び図9に示す油井用金属管1は、管本体10が、ピン管体11とカップリング12とを含む、いわゆる、T&C型の油井用金属管1である。しかしながら、本実施形態の油井用金属管1は、T&C型ではなく、インテグラル型であってもよい。
【0047】
図10は、本実施形態によるインテグラル型の油井用金属管1の縦断面を含む一部断面図である。図10を参照して、インテグラル型の油井用金属管1は、管本体10を備える。管本体10は、第1端部10Aと、第2端部10Bとを含む。第1端部10Aは、第2端部10Bと反対側に配置されている。上述のとおり、T&C型の油井用金属管1では、管本体10は、ピン管体11と、カップリング12とを備える。つまり、T&C型の油井用金属管1では、管本体10は、2つの別個の部材(ピン管体11及びカップリング12)を締結して構成されている。これに対して、インテグラル型の油井用金属管1では、管本体10は一体的に形成されている。
【0048】
ピン40は、管本体10の第1端部10Aに形成されている。締結時において、ピン40は、他のインテグラル型の油井用金属管1のボックス50に挿入されてねじ込まれ、他のインテグラル型の油井用金属管1のボックス50と締結される。ボックス50は、管本体10の第2端部10Bに形成されている。締結時において、ボックス50には、他のインテグラル型の油井用金属管1のピン40が挿入されてねじ込まれ、他のインテグラル型の油井用金属管1のピン40と締結される。
【0049】
インテグラル型の油井用金属管1のピン40の構成は、図7に示すT&C型の油井用金属管1のピン40の構成と同じである。同様に、インテグラル型の油井用金属管1のボックス50の構成は、図8に示すT&C型の油井用金属管1のボックス50の構成と同じである。なお、図7及び図8では、ピン40において、第1端部10Aの先端から管本体10の中央に向かって、ピンショルダ面43、ピンシール面42、雄ねじ部41の順で配置されている。そのため、ボックス50において、第2端部10Bの先端から管本体10の中央に向かって、雌ねじ部51、ボックスシール面52、ボックスショルダ面53の順に配置されている。しかしながら、T&C型の油井用金属管1のピン40のピン接触表面400と同様に、インテグラル型の油井用金属管1のピン40のピン接触表面400は、少なくとも雄ねじ部41を含んでいればよい。また、T&C型の油井用金属管1のボックス50のボックス接触表面500と同様に、インテグラル型の油井用金属管1のボックス50のボックス接触表面500は、少なくとも雌ねじ部51を含んでいればよい。
【0050】
要するに、本実施形態の油井用金属管1は、T&C型であってもよいし、インテグラル型であってもよい。
【0051】
[Zn-Ni合金めっき層について]
本実施形態の油井用金属管1では、ピン接触表面400及びボックス接触表面500の少なくとも一方の接触表面上に、Zn-Ni合金めっき層が形成されている。つまり、Zn-Ni合金めっき層は、ピン接触表面400上に形成されており、ボックス接触表面500上に形成されていなくてもよい。また、Zn-Ni合金めっき層は、ボックス接触表面500上に形成されており、ピン接触表面400上に形成されていなくてもよい。また、Zn-Ni合金めっき層は、ピン接触表面400上及びボックス接触表面500上に形成されていてもよい。
【0052】
以降の説明では、Zn-Ni合金めっき層がピン接触表面400上に形成されている場合のピン接触表面400上の構成、及び、Zn-Ni合金めっき層がボックス接触表面500上に形成されている場合のボックス接触表面500上の構成について説明する。
【0053】
[Zn-Ni合金めっき層100がピン接触表面400上に形成されている場合のピン接触表面400上の構成]
図11は、Zn-Ni合金めっき層100がピン接触表面400上に形成されている場合のピン接触表面400近傍の断面図である。図11を参照して、油井用金属管1はさらに、ピン40のピン接触表面400上に形成されているZn-Ni合金めっき層100を備える。
【0054】
Zn-Ni合金めっき層100は、ピン接触表面400の一部に形成されていてもよいし、ピン接触表面400全体に形成されていてもよい。ピンシール面は、ねじ締め最終段階で特に面圧が高くなる。したがって、Zn-Ni合金めっき層100がピン接触表面400上に部分的に形成されている場合、Zn-Ni合金めっき層100は、少なくともピンシール面に形成されていることが好ましい。Zn-Ni合金めっき層100は、上述のとおり、ピン接触表面400全体に形成されてもよい。
【0055】
[Zn-Ni合金めっき層100がボックス接触表面500上に形成されている場合のボックス接触表面500上の構成]
図12は、Zn-Ni合金めっき層100がボックス接触表面500上に形成されている場合のボックス接触表面500近傍の断面図である。図12を参照して、ボックス接触表面500上にZn-Ni合金めっき層100が形成されている。Zn-Ni合金めっき層100は、ボックス接触表面500の一部に形成されていてもよいし、ボックス接触表面500全体に形成されていてもよい。ボックスシール面は、ねじ締め最終段階で特に面圧が高くなる。したがって、Zn-Ni合金めっき層100がボックス接触表面500上に部分的に形成されている場合、Zn-Ni合金めっき層100は、少なくともボックスシール面に形成されていることが好ましい。
【0056】
[Zn-Ni合金めっき層100について]
上述のとおり、Zn-Ni合金めっき層100は、ピン接触表面400及びボックス接触表面500の少なくとも一方の接触表面上に形成されている。Zn-Ni合金めっき層100は、接触表面(ピン接触表面400及び/又はボックス接触表面500)と接触して形成されてもよい。つまり、Zn-Ni合金めっき層100は、接触表面(ピン接触表面400及び/又はボックス接触表面500)上に直接形成されていてもよい。また、Zn-Ni合金めっき層100と接触表面(ピン接触表面400及び/又はボックス接触表面500)との間に、他のめっき層が形成されていてもよい。他のめっき層は例えば、Niめっき層である。
【0057】
Zn-Ni合金めっき層100は、Zn-Ni合金からなる。Zn-Ni合金は、亜鉛(Zn)及びニッケル(Ni)を含有する。好ましくは、Zn-Ni合金は、Zn及びNiからなり、残部が不純物である。ここで、Zn-Ni合金の不純物とは、Zn及びNi以外の物質で、油井用金属管の製造中等にZn-Ni合金めっき層100に含有され、本実施形態の効果に影響を与えない範囲の含有量で含まれる物質を意味する。
【0058】
Zn-Ni合金めっき層100はZnを含有する。ZnはFeと比較して卑な金属である。そのため、Zn-Ni合金めっき層100は、鋼材よりも優先的に腐食される(犠牲防食)。これにより、油井用金属管1の防食性が高まる。
【0059】
[Zn-Ni合金めっき層100のNi含有量及びかさ密度について]
本実施形態のZn-Ni合金めっき層100におけるNi含有量は、質量%で14.8~25.0%である。好ましくは、Zn-Ni合金めっき層100の化学組成は、質量%で、14.8~25.0%のNiを含有し、残部がZn及び不純物からなる。さらに、本実施形態のZn-Ni合金めっき層100のかさ密度は7.00g/cm以上である。従前のZn-Ni合金めっき層では、Ni含有量を14.8%以上に高めた場合、図1に示すとおり、硬さが低下していた。しかしながら、本実施形態のZn-Ni合金めっき層100では、Ni含有量が14.8%以上と高くしつつ、かさ密度を7.00g/cm以上とする。その結果、図4に示すとおり、Zn-Ni合金めっき層100の硬さが従前のZn-Ni合金めっき層よりも顕著に高くなる。
【0060】
Zn-Ni合金めっき層100中のNi含有量が低すぎれば、Zn-Ni合金めっき層100の硬さが十分に高くならない。一方、Zn-Ni合金めっき層100中のNi含有量が高すぎれば、Zn-Ni合金めっき層100の形成中に水素ガスが多量に発生する。この場合、形成されたZn-Ni合金めっき層100中に多数の空隙(ポロシティ)が存在してしまい、かさ密度が過度に低下してしまう。その結果、Zn-Ni合金めっき層100の硬さが十分に得られない。したがって、Zn-Ni合金めっき層100中のNi含有量は、14.8~25.0%である。Zn-Ni合金めっき層100中のNi含有量の好ましい下限は15.5%であり、さらに好ましくは16.0%であり、さらに好ましくは16.2%であり、さらに好ましくは16.5%であり、さらに好ましくは17.0%であり、さらに好ましくは17.5%である。Ni含有量の好ましい上限は24.0%であり、さらに好ましくは23.5%である。
【0061】
Zn-Ni合金めっき層100のかさ密度が低すぎれば、Zn-Ni合金めっき層100中に多数の空孔が存在する。この場合、Zn-Ni合金めっき層100の硬さが十分に得られない。Zn-Ni合金めっき層100のかさ密度が7.00g/cm以上であれば、Ni含有量が14.8~25.0%であることを前提として、Zn-Ni合金めっき層100において十分な硬さが得られる。したがって、Zn-Ni合金めっき層100のかさ密度は7.00g/cm以上である。Zn-Ni合金めっき層100中のかさ密度の好ましい下限は7.30g/cmであり、さらに好ましくは7.50g/cmであり、さらに好ましくは7.60g/cmであり、さらに好ましくは7.70g/cmであり、さらに好ましくは7.80%であり、さらに好ましくは7.90g/cmである。かさ密度の上限は特に限定されない。しかしながら、Zn-Ni合金めっき層100のNi含有量が14.8~25.0%である場合、かさ密度の上限は例えば、10.0g/cmである。
【0062】
[Zn-Ni合金めっき層100の化学組成の測定方法]
Zn-Ni合金めっき層100の化学組成は次の方法で測定する。油井用金属管1から、Zn-Ni合金めっき層100を含むサンプル(Zn-Ni合金めっき層100が形成されている接触表面を含む)を採取する。採取されたサンプルのZn-Ni合金めっき層100を、10%濃度の塩酸で溶解して、溶液を得る。溶液に対して、ICP-AES(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectrometry)を実施して、Zn-Ni合金めっき層100の化学組成を得る。以上の方法により、Zn-Ni合金めっき層100中のNi含有量(質量%)、及び、Zn含有量(質量%)を求める。
【0063】
[Zn-Ni合金めっき層100のかさ密度の測定方法]
Zn-Ni合金めっき層100のかさ密度は次の方法で測定する。上述のサンプルのZn-Ni合金めっき層100を、所定の容量の10%濃度の塩酸で溶解して、溶液を得る。溶液に対して、ICP-AESによる化学組成の元素分析を実施して、溶液中のNi及びZnの合計質量(g/L)を求める。溶液中のNi及びZnの合計質量を、サンプルの表面積で除して、Zn-Ni合金めっき層100の単位面積当たりの付着量(g/cm)を求める。
【0064】
さらに、Zn-Ni合金めっき層100の厚さを次の方法で求める。上述のサンプルのZn-Ni合金めっき層100の化学組成を測定する前に、サンプルからZn-Ni合金めっき層100の深さ方向の断面を観察面とした試料を採取する。試料の観察面を、走査型電子顕微鏡を用いて3000倍の反射電子像(BSE)で観察する。走査型電子顕微鏡(SEM)の反射電子像(BSE)での観察において、母材(鋼管)とZn-Ni合金めっき層100とは、コントラストにより容易に区別できる。観察面において、任意の5箇所でZn-Ni合金めっき層100の厚さを測定する。測定された厚さの算術平均値を、Zn-Ni合金の厚さ(μm)と定義する。Zn-Ni合金めっき層100の単位面積当たりの付着量(g/cm)、及び、Zn-Ni合金めっき層100の厚さ(μm)に基づいて、Zn-Ni合金めっき層100のかさ密度(g/cm)を求める。
【0065】
[Zn-Ni合金めっき層100の厚さ]
Zn-Ni合金めっき層100の厚さは特に限定されない。Zn-Ni合金めっき層100の厚さは例えば、1~20μmである。Zn-Ni合金めっき層100の厚さが1μm以上であれば、耐焼付き性をさらに高めることができる。Zn-Ni合金めっき層100の厚さが20μmを超えても、上記効果は飽和する。Zn-Ni合金めっき層100の厚さの下限は好ましくは3μmであり、さらに好ましくは5μmである。Zn-Ni合金めっき層100の厚さの上限は好ましくは18μmであり、さらに好ましくは15μmである。
【0066】
上述のとおり、本実施形態の油井用金属管1では、Zn-Ni合金めっき層100中のNi含有量が14.8~25.0%であり、さらに、Zn-Ni合金めっき層100のかさ密度が7.00g/cm以上である。そのため、図4に示すとおり、本実施形態では、Zn-Ni合金めっき層100のビッカース硬さを高めることができる。めっき層の硬さは、ねじ締め及びねじ戻し時の耐焼付き性と正の相関を有する。つまり、めっき層の硬さが高いほど、ねじ締め及びねじ戻し時の耐焼付き性が高まる。したがって、本実施形態の油井用金属管は、優れた耐焼付き性を有する。さらに、Zn-Ni合金めっき層100は、犠牲防食により鋼材の腐食を抑制する。したがって、本実施形態の油井用金属管1は、耐食性にも優れる。
【0067】
[本実施形態の油井用金属管1の他の任意の構成について]
[クロメート皮膜について]
本実施形態の油井用金属管1はさらに、Zn-Ni合金めっき層100上に、クロメート皮膜110を備えてもよい。図13を参照して、Zn-Ni合金めっき層100がピン接触表面400上に形成されている場合において、クロメート皮膜110は、Zn-Ni合金めっき層100上に形成されてもよい。また、図14を参照して、Zn-Ni合金めっき層100がボックス接触表面500上に形成されている場合において、クロメート皮膜110は、Zn-Ni合金めっき層100上に形成されてもよい。
【0068】
油井用金属管1は、石油採掘地で実際に使用するまでの間に、屋外で長期間保管される場合がある。クロメート皮膜110は、油井用金属管1が屋外で長期間大気に曝された場合に、ピン接触表面400の耐食性を高め、ピン接触表面400に錆(白錆)が発生するのを抑制できる。クロメート皮膜110は、3価クロムのクロム酸塩を含む被膜である。好ましくは、クロメート皮膜110は、6価クロムを含有しない。クロメート皮膜110の膜厚は特に限定されない。クロメート皮膜110の膜厚は例えば、10~200nmである。クロメート皮膜110の膜厚の好ましい下限は20nmである。クロメート皮膜90の膜厚の好ましい上限は100nmである。
【0069】
[潤滑被膜]
油井用金属管1ではさらに、Zn-Ni合金めっき層100上、クロメート皮膜110上、又は、Zn-Ni合金めっき層100が形成されていない接触表面上(ピン接触表面400上又はボックス接触表面500上)に、潤滑被膜を備えてもよい。潤滑被膜は、油井用金属管1の潤滑性をさらに高める。
【0070】
潤滑被膜は、固体であってもよいし、半固体状及び液体状であってもよい。潤滑被膜は、市販の潤滑剤を使用できる。潤滑被膜は例えば、潤滑性粒子及び結合剤を含有する。潤滑被膜は、必要に応じて、溶媒及び他の成分を含有してもよい。
【0071】
潤滑性粒子は、潤滑性を有する粒子であれば特に限定されない。潤滑性粒子は例えば、黒鉛、MoS(二硫化モリブデン)、WS(二硫化タングステン)、BN(窒化ホウ素)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、CFx(フッ化黒鉛)及びCaCO(炭酸カルシウム)からなる群から選択される1種又は2種以上である。
【0072】
結合剤は例えば、有機結合剤及び無機結合剤からなる群から選択される1種又は2種である。有機結合剤は例えば、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂からなる群から選択される1種又は2種である。熱硬化性樹脂は例えば、ポリエチレン樹脂、ポリイミド樹脂及びポリアミドイミド樹脂からなる群から選択される1種又は2種以上である。無機結合剤は例えば、アルコキシシラン及びシロキサン結合を含有する化合物からなる群から選択される1種又は2種である。
【0073】
市販の潤滑剤は例えば、JET-LUBE株式会社製、SEAL-GUARD ECF(商品名)である。他の潤滑被膜は例えば、ロジン、金属石鹸、ワックス及び潤滑性粉末を含有する潤滑被膜である。
【0074】
[油井用金属管1の管本体10について]
本実施形態による油井用金属管1の管本体10の化学組成は、特に限定されない。管本体10は、例えば、炭素鋼、ステンレス鋼及び合金等のいずれかによって形成されていてもよい。つまり、油井用金属管1とは、Fe基合金からなる鋼管であってもよく、Ni基合金管に代表される合金管であってもよい。鋼管は例えば、低合金鋼管、マルテンサイト系ステンレス鋼管、二相ステンレス鋼管等である。
【0075】
[油井用金属管1の製造方法]
本実施形態の油井用金属管1の製造方法について、以下に説明する。なお、本実施形態の油井用金属管1は、上記構成を有すれば、製造方法は以下の製造方法に限定されない。ただし、以下に説明する製造方法は、本実施形態の油井用金属管1を製造する好適な一例である。
【0076】
油井用金属管1の製造方法は、ピン40又はボックス50が形成されている素管を準備する準備工程(S1)と、Zn-Ni合金めっき層形成工程(S2)とを備える。本実施形態では、Zn-Ni合金めっき層形成工程(S2)において、ニッケルイオンと、特定の濃度の亜鉛イオンとを含有する塩化物浴をめっき浴として、電気めっきを実施する。これにより、Ni含有量が14.8~25.0%であり、かつ、かさ密度が7.00g/cm以上のZn-Ni合金めっき層100を油井用金属管1のピン接触表面400及び/又はボックス接触表面500上に形成できる。以下、本実施形態の油井用金属管の製造方法の各工程について詳述する。
【0077】
[準備工程(S1)]
初めに、ピン40又はボックス50が形成されている素管を準備する。本明細書において、「ピン又はボックスが形成されている素管」とは、T&C型の油井用金属管1における管本体10、ピン管体11、及び、インテグラル型の油井用金属管1における管本体10のいずれかを意味する。
【0078】
ピン40又はボックス50が形成されている素管は、例えば、次の方法で製造する。溶鋼を用いて素材を製造する。具体的には、溶鋼を用いて連続鋳造法により鋳片(スラブ、ブルーム、又は、ビレット)を製造する。溶鋼を用いて造塊法によりインゴットを製造してもよい。必要に応じて、スラブ、ブルーム又はインゴットを分塊圧延して、鋼片(ビレット)を製造してもよい。以上の工程により素材(スラブ、ブルーム、又は、ビレット)を製造する。準備された素材を熱間加工して素管を製造する。熱間加工方法はマンネスマン法による穿孔圧延でもよいし、熱間押出法でもよい。熱間加工後の素管に対して、周知の焼入れ及び周知の焼戻しを実施して、素管の強度を調整する。以上の工程により、素管を製造する。なお、油井用金属管がT&C型である場合、カップリング12用の素管も準備する。カップリング12用の素管の製造方法は、上述の素管の製造方法と同じである。
【0079】
油井用金属管1がT&C型である場合、ピン管体11用の素管の両端部の外面に対してねじ切り加工を実施して、ピン接触表面400を含むピン40を形成する。以上の工程により、油井用金属管1がT&C型である場合の、ピン40が形成された素管(ピン管体11)を準備する。なお、油井用金属管がT&C型である場合、カップリング12も準備しておいてもよい。具体的には、カップリング12用の素管の両端部の内面に対してねじ切り加工を実施して、ボックス接触表面500を含むボックス50を形成する。以上の工程により、カップリング12が製造される。
【0080】
油井用金属管1がインテグラル型である場合、素管の第1端部10Aの外面に対してねじ切り加工を実施して、ピン接触表面400を含むピン40を形成する。さらに、素管の第2端部10Bの内面に対してねじ切りを実施して、ボックス接触表面500を含むボックス50を形成する。以上の工程により、油井用金属管1がインテグラル型である場合の、ピン40及びボックス50が形成された素管(管本体10)を準備する。
【0081】
本実施形態の準備工程(S1)ではさらに、研削加工工程と、Niストライクめっき工程との少なくとも1工程を含んでもよい。
【0082】
研削加工工程を実施する場合、研削加工工程では、サンドブラスト処理、及び、機械研削仕上げを実施する。サンドブラスト処理により、接触表面の表面粗さを大きくできる。サンドブラスト処理は、周知の方法により実施できる。
【0083】
Niストライクめっき工程を実施する場合、Niストライクめっき工程では、素管の表面にNiストライクめっき層を形成する。Niストライクめっき層は、非常に薄い下地めっき層であって、後述するZn-Ni合金めっき層100の密着性を高める。なお、Niストライクめっき工程で用いられるめっき浴は特に限定されず、周知の浴を用いることができる。また、Niストライクめっき層を形成する条件も特に限定されず、適宜調整して実施することができる。
【0084】
なお、Niストライクめっき工程を実施した場合、管本体10とZn-Ni合金めっき層100との間にNiストライクめっき層が形成される。一方、形成されるNiストライクめっき層の厚さは、Zn-Ni合金めっき層100の厚さと比較して、無視できるほど薄い。つまり、本実施形態による油井用金属管1では、Zn-Ni合金めっき層100中に、Niストライクめっき層が含まれていてもよい。
【0085】
[Zn-Ni合金めっき層形成工程(S2)]
Zn-Ni合金めっき層形成工程(S2)では、ピン40が形成されている素管のピン接触表面400上、又は、ボックス50が形成されている素管のボックス接触表面500上に、電気めっきにより、Zn-Ni合金めっき層100を形成する。
【0086】
Zn-Ni合金めっき層形成工程(S2)では、硫酸を含有するめっき浴(以下、硫酸浴という)を用いるよりも、塩化物イオンを含有するめっき浴(以下、塩化物浴という)を用いる方が好ましい。後述の実施例で示すとおり、本実施形態のZn-Ni合金めっき層100は、塩化物浴を用いて、後述の条件を満たす範囲で電気めっきを実施することにより、形成することができる。
【0087】
めっき浴はさらに、Niイオン比率を50~70%の範囲に調整する。ここで、Niイオン比率は次式で定義される。
Niイオン比率=めっき浴中のNi濃度/(めっき浴中のNi濃度+めっき浴中のZn濃度)×100
塩化物イオンを含有し、かつ、Niイオン比率が50~70%の範囲内に調整されためっき浴を用いて、後述の電気めっきの条件の範囲内で調整することにより、Ni含有量が14.8~25.0%であり、かつ、かさ密度が7.00g/cm以上のZn-Ni合金めっき層100を形成することができる。また、支持塩や各種添加剤(光沢剤等)の種類や量も得られるめっきに影響し得るので、適切に選択する。
【0088】
上述のめっき浴中のNiイオン比率は、従前のZn-Ni合金めっき浴よりも低い。例えば、公知のZn-Ni合金めっき浴である大和化成株式会社製の商品名ダイジンアロイN-PLでは、Niイオン比率が75~90%であり、上述のめっき浴のNiイオン比率の方が低い。本実施形態では、上述のとおり低いNiイオン比率を有し、かつ、塩化物浴であるめっき浴を用いることで、上述の構成を有するZn-Ni合金めっき層100を形成する。
【0089】
上述のめっき浴を用いて、Zn-Ni合金めっき層100を電気めっきにより形成する。上述のめっき浴を用いることを前提として、電気めっき条件は、周知の条件で適宜調整できる。電気めっきの条件は例えば、めっき浴pH:4.5超~6.0未満、めっき液温度:10~60℃、電流密度:1~15A/dm、及び、処理時間:0.1~30分である。めっき浴のpHが上記範囲から外れた場合、十分なかさ密度及び十分なNi含有量が得られない。また、電流密度が高すぎれば、Zn-Ni合金めっき層において、十分なかさ密度が得られず、また、十分なNi含有量が得られない。めっき液及び電気めっき条件は、上述の条件を満たす範囲内で、Zn-Ni合金めっき層100の付着量及び組成が適切に得られるようにめっき浴及び電気めっき条件を調整する。Zn-Ni合金めっき層100をピン接触表面400上に形成する場合、上述のめっき浴にピン接触表面400を浸漬して、電気めっきを実施する。一方、Zn-Ni合金めっき層100をボックス接触表面500上に形成する場合、上述のめっき浴にボックス接触表面500を浸漬して、電気めっきを実施する。
【0090】
以上の製造工程により、上述の構成を有する本実施形態の油井用金属管1が製造される。
【0091】
[他の任意の工程]
なお、本実施形態の油井用金属管の製造方法はさらに、次のクロメート処理工程、下地処理工程、及び、成膜工程の少なくとも1工程を実施してもよい。これらの工程は任意の工程である。したがって、これらの工程は実施しなくてもよい。
【0092】
[クロメート処理工程]
クロメート処理工程は必要に応じて実施する。つまり、クロメート処理工程は任意の工程である。Zn-Ni合金めっき層100上にクロメート皮膜110を形成する場合、Zn-Ni合金めっき層形成工程(S2)後のZn-Ni合金めっき層100に対して酸洗を実施した後、周知のクロメート処理工程を実施する。クロメート処理工程では、初めに、クロメート処理液を準備する。クロメート処理液は例えば、3価のクロムイオンを含有する。3価のクロムイオンは例えば、塩化クロム(III)及び硫酸クロム(III)を溶解することによって含有させることができる。好ましくは、クロメート処理液は6価クロムを含まない。クロメート処理液には、市販のクロメート処理液を用いてもよい。市販のクロメート処理液は例えば、大和化成株式会社製ダインクロメートTR-02(商品名)である。Zn-Ni合金めっき層100が形成された接触表面(ピン接触表面400及び/又はボックス接触表面500)をクロメート処理液に浸漬して、クロメート処理を実施し、Zn-Ni合金めっき層100上に、クロメート皮膜110を形成する。
【0093】
[下地処理工程]
本実施形態の製造方法は、必要に応じて、Zn-Ni合金めっき層形成工程(S2)の前に、下地処理工程を備えてもよい。つまり、下地処理工程は任意の工程である。下地処理工程は例えば、酸洗及びアルカリ脱脂である。下地処理工程では、接触表面上に付着した油分等を洗浄する。下地処理工程はさらに、サンドブラスト及び/又は機械研削仕上げ等の研削加工を実施してもよい。これらの下地処理は、1種のみ実施してもよく、複数の下地処理を組み合わせて実施してもよい。
【0094】
[成膜工程]
本実施形態の製造方法は、必要に応じて、成膜工程を実施してもよい。つまり、成膜工程は任意の工程である。成膜工程では、Zn-Ni合金めっき層100上、及び/又は、Zn-Ni合金めっき層100が形成されていない接触表面(ピン接触表面400又はボックス接触表面500)上に、潤滑被膜を形成する。
【0095】
成膜工程では、上述の潤滑被膜の成分を含有する組成物又は潤滑剤を塗布する。これにより、潤滑被膜を形成できる。塗布方法は特に限定されない。塗布方法は例えば、スプレー塗布、刷毛塗り及び浸漬である。スプレー塗布を採用する場合、組成物又は潤滑剤を加熱して、流動性を高めた状態で噴霧してもよい。組成物又は潤滑剤を乾燥して潤滑被膜を形成する。
【実施例0096】
以下、実施例により本実施形態の油井用金属管の効果をさらに具体的に説明する。以下の実施例での条件は、本実施形態の油井用金属管の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例である。したがって、本実施形態の油井用金属管はこの一条件例に限定されない。
【0097】
本実施例においては、油井用金属管を模擬して、市販の冷延鋼板を使用した。冷延鋼板は縦150mm×横100mm(Zn-Ni合金めっき層を形成した領域は縦100mm×横100mm)であった。鋼種は、極低炭素鋼であった。冷延鋼板の化学組成は、C:0.19%、Si:0.25%、Mn:0.8%、P:0.02%、S:0.01%、Cu:0.04%、Ni:0.1%、Cr:13%、Mo:0.04%、残部:Fe及び不純物であった。
【0098】
[Zn-Ni合金めっき層形成工程]
各試験番号の冷延鋼板に、電気めっきにより、Zn-Ni合金めっき層を形成した。各試験番号のZn-Ni合金めっき層の製造条件の詳細は、次のとおりとした。表1中の試験番号1~7では、めっき浴として、硫酸浴を利用した。具体的には、試験番号1~7のめっき浴は、0.5mol/Lの硫酸ナトリウムを含有した。また、めっき浴の支持塩として塩化アンモニウムを使用し、光沢剤やpH緩衝剤(例えばホウ酸)は添加しなかった。さらに、試験番号1~7の各々で、めっき浴中のNiイオン比率を変化させた。
【0099】
【表1】
【0100】
表1中の試験番号8~24では、めっき浴として、塩化物浴を利用した。具体的には、試験番号8~24のめっき浴は、215~230g/Lの塩化物イオン濃度を含有した。試験番号8~24の各々で、めっき浴中のNiイオン比率を変化させた。なお、試験番号18~24では、めっき浴中のNiイオン比率を50~70%の範囲内で変化させた。試験番号8~17では、めっき浴中のNiイオン比率を、試験番号18~24よりも低い範囲(つまり、Niイオン比率を50%未満)で変化させた。
【0101】
なお、硫酸浴のpHを2.0となるように調整し、塩化物浴のpHを5.5となるように調整した。めっき浴以外の電気めっきの条件として、めっき液温度:10~60℃、電流密度:1~15A/dm、及び、処理時間:0.1~30分の範囲内で適宜調整した。
【0102】
以上の製造方法により、油井用金属管を模擬した、Zn-Ni合金めっき層が形成された鋼板を製造した。
【0103】
[評価試験]
[Zn-Ni合金めっき層中のNi含有量の測定試験]
各試験番号のZn-Ni合金めっき層中のNi含有量を、次の方法で測定した。各試験番号の鋼板から、Zn-Ni合金めっき層を含むサンプル(Zn-Ni合金めっき層100が形成されている表面を含む)を採取した。採取されたサンプルのZn-Ni合金めっき層を、10%濃度の塩酸で溶解して、溶液を得た。溶液に対して、ICP-AESを実施して、化学組成の元素分析を実施し、Zn-Ni合金めっき層中のNi含有量(質量%)を求めた。求めたNi含有量を表1の「Ni含有量(質量%)」欄に示す。
【0104】
[Zn-Ni合金めっき層のかさ密度の測定方法]
各試験番号のZn-Ni合金めっき層のかさ密度を次の方法で測定した。上述のサンプルのZn-Ni合金めっき層を所定の容量の10%濃度の塩酸で溶解して、溶液を得た。溶液に対して、ICP-AESを実施して、化学組成の元素分析を実施して、溶液中のNi及びZnの合計質量(g/L)を求めた。溶液中のNi及びZnの合計質量を、サンプルの表面積で除して、Zn-Ni合金めっき層単位面積当たりの付着量(g/cm)を求めた。さらに、Zn-Ni合金めっき層の厚さを次の方法で求めた。上述のサンプルのZn-Ni合金めっき層の化学組成を測定する前に、サンプルからZn-Ni合金めっき層の断面を表面(以下、観察面という)に持つ試料を採取した。試料の観察面を、走査型電子顕微鏡を用いて3000倍の反射電子像(BSE)で観察した。観察面において、任意の5箇所でZn-Ni合金めっき層の厚さを測定した。測定された厚さの算術平均値を、Zn-Ni合金の厚さ(μm)と定義した。Zn-Ni合金めっき層の単位面積当たりの付着量(g/cm)、及び、Zn-Ni合金めっき層の厚さ(μm)に基づいて、Zn-Ni合金めっき層のかさ密度(g/cm)を求めた。求めたかさ密度を表1の「かさ密度(g/cm)」欄に示す。
【0105】
[Zn-Ni合金めっき層のビッカース硬さ試験]
各試験番号のZn-Ni合金めっき層のビッカース硬さ(HV)を、次の方法で求めた。Zn-Ni合金めっき層の厚さ方向の断面を有するサンプルを採取した。Zn-Ni合金めっき層の断面の任意の5点(測定点)を選択した。選択された測定点に対して、JIS Z2244(2009)に準拠して、ビッカース硬さを測定した。測定には、株式会社フィッシャー・インストルメンツ製微小硬度計Fischer scope HM2000を用いた。試験温度は常温(25℃)とし、試験力(F)は0.01Nとした。得られた測定結果5点の内、最大値及び最小値を除いた3点の算術平均値を、Zn-Ni合金めっき層のビッカース硬さ(Hv)と定義した。得られたビッカース硬さを表1の「ビッカース硬さ(Hv)」に示す。
【0106】
[試験結果]
表1を参照して試験番号18~24では、Zn-Ni合金めっき層のNi含有量が14.8%以上であり、さらに、Zn-Ni合金めっき層のかさ密度が7.00g/cm以上であった。そのため、これらの試験番号のZn-Ni合金めっき層のビッカース硬さは435Hvを超え、優れた硬さが得られた。そのため、これらの試験番号では、ねじ締め及びねじ戻し時の耐焼付き性に優れることが予想できた。
【0107】
一方、試験番号1~7では、めっき浴として硫酸浴を用いた。そのため、試験番号1~7のZn-Ni合金めっき層では、Ni含有量が14.8%未満であるか、かさ密度が7.00g/cm未満であった。その結果、これらの試験番号のZn-Ni合金めっき層のビッカース硬さはいずれも、435Hv以下であった。
【0108】
また、試験番号8~17では、めっき浴として塩化物浴を用いたものの、Niイオン比率が50%よりも低かった。そのため、これらの試験番号のZn-Ni合金めっき層のNi含有量はいずれも14.8%未満であり、ビッカース硬さはいずれも、435Hv以下であった。
【0109】
以上、本発明の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。したがって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0110】
1 油井用金属管
10 管本体
10A 第1端部
10B 第2端部
40 ピン
41 雄ねじ部
50 ボックス
51 雌ねじ部
100 Zn-Ni合金めっき層
400 ピン接触表面
500 ボックス接触表面
図1
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