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特開2024-125025貼合方法、貼合物の製造方法および電解質膜処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125025
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】貼合方法、貼合物の製造方法および電解質膜処理装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 65/54 20060101AFI20240906BHJP
【FI】
B29C65/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033082
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】森川 聡一郎
(72)【発明者】
【氏名】谷岡 千丈
(72)【発明者】
【氏名】高木 善則
【テーマコード(参考)】
4F211
【Fターム(参考)】
4F211AA11
4F211AA15
4F211AA16
4F211AA24
4F211AA26
4F211AA29
4F211AC03
4F211AD16
4F211AE03
4F211AG01
4F211AG03
4F211AH33
4F211AR06
4F211TA03
4F211TC01
4F211TD11
4F211TH11
4F211TN43
4F211TN46
4F211TN50
4F211TQ03
(57)【要約】
【課題】電解質膜と支持体との貼合物の、加熱による変形を低減することができる技術を提供する。
【解決手段】
貼合方法は、a)電解質膜20の含水率を下げる工程と、b)工程a)によって含水率が低下された電解質膜20に支持フィルム30を貼合させる工程と、を含む。工程a)は、電解質膜20を加熱する工程を含む。電解質膜20を加熱する工程は、電解質膜20に熱風を当てる工程、または、電解質膜20を加熱された貼合ローラ551Aに接触させる工程を含む。
【選択図】図5

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜に支持体を貼合する貼合方法であって、
a) 電解質膜の含水率を下げる工程と、
b) 前記工程a)によって含水率が低下された前記電解質膜に支持体を貼合させる工程と、
を含む、貼合方法。
【請求項2】
請求項1に記載の貼合方法であって、
前記工程a)は、前記電解質膜を加熱する工程
を含む、貼合方法。
【請求項3】
請求項2に記載の貼合方法であって、
前記工程a)は、前記電解質膜に熱風を当てる工程を含む、貼合方法。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の貼合方法であって、
前記工程a)は、前記電解質膜を加熱されたローラに接触させる工程を含む、貼合方法。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の貼合方法であって、
前記工程b)において、前記電解質膜は、湿度65%以下の室内に配される、貼合方法。
【請求項6】
電解質膜の表面に支持体が貼合された貼合物の製造方法であって、
a) 前記電解質膜の含水率を下げる工程と、
b) 前記工程a)によって含水率が低下された前記電解質膜に支持体を貼合させる工程と、
を備える、貼合物の製造方法。
【請求項7】
電解質膜を処理する電解質膜処理装置であって、
前記電解質膜の含水率を低下させる含水率低下部と、
前記含水率低下部によって含水率が低下された前記電解質膜に、支持体を貼合する貼合部と、
を備える、電解質膜処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で開示される主題は、貼合方法、貼合物の製造方法および電解質膜処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池又は水素製造用の膜・触媒層接合体(CCM:Catalyst-Coated Membrane)の製造においては、水およびアルコールを溶媒とした触媒インクが電解質膜に塗布される場合がある。このとき、電解質膜はインクの溶媒を吸収して膨潤変形する。例えば、70μmを超える厚みを持つ電解質膜は特に変形力が強く、変形によるシワ等の発生を抑えつつ塗工や乾燥を行うのが困難である。電解質膜の変形を回避するため、粘着層付きのフィルムなどの支持体が貼合された電解質膜に、触媒インクの塗工が行われている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-001123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、触媒インクを乾燥させるために、電解質膜と支持体の貼合物を加熱すると、電解質膜が即座に収縮変形を起こすことによって、貼合物が変形してしまうおそれがあった。
【0005】
例えば、特許文献1のように、ロールtoロールで電解質膜を搬送しながら触媒インクを塗布する場合、電解質膜と支持体の貼合物はインク塗工後に乾燥炉の中を通る。このとき、貼合物が反ってしまい、乾燥炉に配置された部材(例えば、熱風を吹き付けるノズルなど)に貼合物が衝突するおそれがあった。
【0006】
また、吸着ステージに貼合物を吸着させて触媒インクを塗布する場合、触媒インクを乾燥させるために、予め加熱された吸着ステージ貼合物を置くと、吸着ステージの熱によって貼合物が変形し、貼合物を吸着ステージに吸着することが困難となるおそれがあった。
【0007】
本発明の目的は、電解質膜と支持体との貼合物の、加熱による変形を低減することができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、第1態様は、電解質膜に支持体を貼合する貼合方法であって、a)電解質膜の含水率を下げる工程と、b)前記工程a)によって含水率が低下された前記電解質膜に支持体を貼合させる工程とを含む。
【0009】
第2態様は、第1態様の貼合方法であって、前記工程a)は、前記電解質膜を加熱する工程を含む。
【0010】
第3態様は、第2態様の貼合方法であって、前記工程a)は、前記電解質膜に熱風を当てる工程を含む。
【0011】
第4態様は、第2態様または第3態様の貼合方法であって、前記工程a)は、前記電解質膜を加熱されたローラに接触させる工程を含む。
【0012】
第5態様は、第1態様または第2態様の貼合方法であって、前記工程b)において、前記電解質膜は、湿度65%以下の室内に配される。
【0013】
第6態様は、電解質膜の表面に支持体が貼合された貼合物の製造方法であって、a)前記電解質膜の含水率を下げる工程と、b)前記工程a)によって含水率が低下された前記電解質膜に支持体を貼合させる工程とを備える。
【0014】
第7態様は、電解質膜を処理する電解質膜処理装置であって、前記電解質膜の含水率を低下させる含水率低下部と、前記含水率低下部によって含水率が低下された前記電解質膜に、支持体を貼合する貼合部とを備える。
【発明の効果】
【0015】
第1態様から第5態様の貼合方法によれば、電解質膜の含水率を低下させずに支持体に貼合させた場合と比べて、加熱による貼合物の変形を低減できる。
【0016】
第2態様から第5態様の貼合方法によれば、電解質膜の含水率を有効に低下させることができる。
【0017】
第6態様の貼合物の製造方法によれば、電解質膜の含水率を低下させずに支持体に貼合させた場合と比べて、支持体に貼合された電解質膜の変形を低減できる。
【0018】
第7態様の電解質膜処理装置によれば、電解質膜の含水率を低下させずに支持体に貼合させた場合と比べて、支持体に貼合された電解質膜の変形を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施形態に係る貼合物を示す側面図である。
図2】塗工装置を示す図である。
図3】吸着ステージに載置された貼合物が縮む様子を示す模式図である。
図4】貼合時における湿度をコントロールして貼合物を製造した場合の実験例を示す図である。
図5】実施形態に係る電解質膜処理装置の構成を示す図である。
図6図5に示される装置を用いて貼合物を製造した場合の実験結果を示す図である。
図7】実施形態に係る他の電解質膜処理装置の構成を示す図である。
図8図7に示される装置を用いて貼合物を製造した場合の実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。なお、この実施形態に記載されている構成要素はあくまでも例示であり、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。図面においては、理解容易のため、必要に応じて各部の寸法や数が誇張又は簡略化して図示されている場合がある。
【0021】
<貼合物>
図1は、実施形態に係る貼合物10を示す側面図である。貼合物10は、電解質膜20と、支持フィルム30とを有する。支持フィルム30は、「支持体」の一例である。
【0022】
電解質膜20は、イオン伝導性を有するイオン交換膜(プロトン交換膜)である。電解質膜20の材料には、フッ素系または炭化水素系の高分子電解質樹脂であって、具体的には、パーフルオロカーボンスルホン酸を含む高分子電解質樹脂が用いられる。電解質膜20は、第1面201と、第1面201とは反対側(裏側)の第2面202とを有する。
【0023】
電解質膜20の第1面201は、触媒インクが塗工される面である。触媒インクは、例えば、白金(Pt)等の粒子を含む触媒材料を、水およびアルコールなどからなる溶媒中に分散させたスラリー(電極ペースト)である。電解質膜20の第1面201に塗工された触媒インクが加熱等によって乾燥されることにより、第1面201に固形状の触媒層が形成される。
【0024】
電解質膜20は、補強繊維を有していてもよい。補強繊維は、電解質膜20を構成する電解質樹脂よりも機械的強度が高い繊維であって、網目状または多孔質状の繊維である。補強繊維には、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が用いられる。繊維樹脂を含む電解質膜20は、繊維樹脂に電解質樹脂を含浸させることにより形成される。このため、電解質膜20の表面は、補強繊維の形状に沿った微細な凹凸を有する場合がある。電解質膜20の表面粗さを示す最大高さ(ISO 25178により規定される最大高さSz)は、例えば、10μm以上100μm以下である。
【0025】
支持フィルム30は、電解質膜20の第2面202に貼合されている。支持フィルム30は、ベースフィルム31と、粘着層32とを有する。ベースフィルム31は、電解質膜20よりも機械的強度が高く、形状保持機能に優れた樹脂製のフィルムである。ベースフィルム31の材料には、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、延伸ナイロン、延伸硬質ポリ塩化ビニル、または、OPP(オリエンテッドポリプロピレン)が用いられる。ベースフィルム31の厚みは、例えば、50μm~300μmである。
【0026】
粘着層32は、ベースフィルム31の一方の表面を覆う粘着剤の層である。電解質膜20の第2面202は、支持フィルム30の粘着層32に貼り付けられている。粘着層32の粘着剤は、例えば、熱可塑性であって、具体的には、エポキシ系、アクリル系、シリコーンゴム系の無機溶剤系粘着剤が用いられる。
【0027】
<塗工装置>
図2は、塗工装置4を示す図である。塗工装置4は、固体高分子形燃料電池用または固体高分子形水電解用のCCMの製造工程において、貼合物10の電解質膜20に、電極となる触媒インクを塗工する装置である。図2に示されるように、塗工装置4は、吸着ステージ41と、吸引機構43と、ノズル45と、インク供給部47と、ノズル移動機構49とを備える。
【0028】
吸着ステージ41は、貼合物10を保持する台である。吸着ステージ41の上面41Sは、貼合物10を吸着保持する吸着面である。吸着ステージ41の上面41Sには、複数の吸着孔411が形成されている。吸引機構43は、吸引管431と、吸引ポンプ433とを有する。吸引管431の一端は、吸着ステージ41内に形成された流路を介して、複数の吸着孔411に接続されている。吸引管431の他端は、吸引ポンプ433に接続されている。
【0029】
吸引機構43を動作させると、吸着ステージ41内に形成された流路および吸引管431から、空気が排出される。これにより、複数の吸着孔411の圧力が、大気圧よりも低い負圧となる。吸着ステージ41の上面41Sに貼合物10が載置されている状態で、吸引機構43を動作させると、複数の吸着孔411の負圧の作用により貼合物10が吸着ステージ41に吸着される。
【0030】
ノズル45は、吸着ステージ41の上方に配置されている。ノズル45は、触媒インクを吐出する吐出口451を有する。ノズル45は、例えばスプレーノズルである。ノズル45は、吐出口451から、液滴化された触媒インクを吐出することが可能である。
【0031】
インク供給部47は、ノズル45に触媒インクを供給する装置である。インク供給部47は、インクタンク471と、供給管472と、供給ポンプ473とを有する。インクタンク471は、未使用の触媒インクを貯留する容器である。供給管472の一端は、インクタンク471に接続されている。供給管472の他端は、ノズル45に接続されている。供給ポンプ473は、供給管472の経路上に設けられている。供給ポンプ473は、インクタンク471に貯留されたインクをノズル45へ送る。供給ポンプ473を動作させると、触媒インクが、インクタンク471から、供給管472を通過して、ノズル45へ供給される。そして、ノズル45の吐出口451から触媒インクが吐出される。
【0032】
ノズル移動機構49は、第1移動機構491と第2移動機構492とを有する。第1移動機構491は、吸着ステージ41上に保持された貼合物10に対して、ノズル45を、上面41Sと平行な第1方向に移動させる。第2移動機構492は、吸着ステージ41に対して、ノズル45および第1移動機構491を、上面41Sと平行な第2方向に移動させる。第2方向は、第1方向と交差する方向であって、好ましくは第1方向と直交する方向である。
【0033】
第1移動機構491および第2移動機構492には、例えば、ボールネジ式またはリニアモータ式の駆動部が用いられる。塗工装置4は、ノズル移動機構49によりノズル45を第1方向または第2方向に移動させつつ、ノズル45から吸着ステージ41上の貼合物10へ向けて、触媒インクをスプレー状に吐出する。これにより、貼合物10における電解質膜20の第1面201に、触媒インクが塗工される。
【0034】
図2に示されるように、吸着ステージ41には、ヒータ413が内蔵されている。ヒータ413には、例えば、ハロゲンヒータまたはセラミックヒータが用いられる。ヒータ413は、上面41Sを加熱することにより、上面41Sに載置された貼合物10を加熱する。貼合物10を加熱することによって、触媒インクの乾燥が促進される。
【0035】
図3は、吸着ステージ41に載置された貼合物10が縮む様子を示す模式図である。予め加熱された吸着ステージ41に貼合物10を載せた場合、図3に示されるように、電解質膜20が加熱されることにより、電解質膜20から水分が放出される。すると、電解質膜20には、矢印で示されるように、内側に収縮する力が作用する。一方、支持フィルム30は、ほとんど変化しないため、収縮力が抑えられる。そうすると、吸着ステージ41に設置してから数分経過すると、図3に示されるように、貼合物10がバイメタルのように反ることになる。
【0036】
図3に示される貼合物10の変形メカニズムに基づき、支持フィルム30に電解質膜20を貼合する前に、電解質膜20の含水率を低下させる。電解質膜20の含水率を低下させる方法としては、(1)貼合時における湿度のコントロールと、(2)貼合前における電解質膜20の加熱とが挙げられる。以下、各方法について説明する。
【0037】
<貼合時における湿度のコントロール>
図4は、貼合時における湿度をコントロールして貼合物10を製造した場合の実験例を示す図である。この実験例では、貼合を行う室内の湿度を変えて、電解質膜20を支持フィルム30に貼合した。そして、得られた貼合物10を吸着ステージ41に載せて加熱し、一定時間経過後(1分)の貼合物10の反りの度合いを「◎」「○」「△」「×」の4段階で評価した。また、反りの度合いの評価の後、貼合物10を吸着ステージ41に吸着させることが可能か否かを評価した。貼合時における室内の気温は25℃とした。
【0038】
図4に示されるように、比較例1~3では、貼合時の湿度(相対湿度)を、それぞれ90%、80%、および70%とした。また、実施例1~7では、貼合時の湿度を、それぞれ65%、60%、50%、40%、30%、20%、および10%とした。実施例で8は、貼合時の湿度を70%とした。ただし、実施例8では、電解質膜20を、支持フィルム30に貼合されるまで、除湿剤(例えば、シリカゲル)とともに袋内で保管した。
【0039】
比較例1~3の実験結果が示すように、湿度が70%以上の場合、吸着ステージ41上での貼合物10の反りが大きくなり、貼合物10を吸着ステージ41に吸着させることができなかった。これに対して、実施例1,2の実験結果が示すように、湿度が65%以下の場合、吸着ステージ41上での貼合物10の反りが軽減され、貼合物10を吸着ステージ41に吸着させることができた。また、実施例3,4の実験結果が示すように、湿度が50%以下の場合、貼合物10の反りがさらに軽減され、吸着ステージ41へ貼合物10を吸着させることが容易であった。また、実施例5~7の実験結果が示すように、湿度が30%以下の場合、貼合物10の反りがほぼなくなり、吸着ステージ41へ貼合物10を吸着させることが非常に容易であった。また、実施例8の実験結果が示すように、電解質膜20を貼合直前まで除湿剤によって予め除湿しておいた場合、貼合時の湿度が70%であっても、吸着ステージ41上で貼合物10の反りを軽減できた。また、吸着ステージ41へ貼合物10を吸着させることができた。
【0040】
以上の実験結果から明らかなように、湿度が65%以下の空間に電解質膜20を置くことで、電解質膜20の含水率を低下させることができる。そして、含水率が低下した電解質膜20を支持フィルム30に貼合することによって、貼合物10における電解質膜20の変形を低減できる。また、湿度が65%より高い空間で貼合する場合あっても、予め電解質膜20を予め低湿度の環境下で保管しておくことで、貼合物10における電解質膜20の変形を低減できる。
【0041】
<貼合前における電解質膜20の加熱>
次に、貼合前における電解質膜20の加熱により、電解質膜20の含水率を下げる方法について説明する。図5は、実施形態に係る電解質膜処理装置5の構成を示す図である。電解質膜処理装置5は、電解質膜20および支持フィルム30をロールtoロールで搬送しつつ、支持フィルム30の粘着層32に電解質膜20を貼合する装置である。図5に示されるように、電解質膜処理装置5は、電解質膜供給ローラ51と、支持フィルム供給ローラ53と、貼合部55と、貼合物回収ローラ57と、熱風供給部59とを備える。
【0042】
電解質膜供給ローラ51は、ロール状に巻かれた電解質膜20を保持しており、電解質膜20を貼合部55に繰り出す。支持フィルム供給ローラ53は、ロール状に巻かれた支持フィルム30を保持しており、支持フィルム30を貼合部55に繰り出す。
【0043】
貼合部55は、電解質膜供給ローラ51から繰り出された電解質膜20に、支持フィルム供給ローラ53から繰り出された支持フィルム30を貼合する。貼合部55は、一対の貼合ローラ551,552を有する。貼合ローラ551の外周面は、貼合ローラ552の外周面と対向している。貼合ローラ551,552は、図示しない加圧機構によって、互いに接近する方向へ加圧される。
【0044】
電解質膜供給ローラ51から繰り出された電解質膜20は、貼合ローラ551に接触した後、貼合ローラ551,552の間に導入される。支持フィルム供給ローラ53から繰り出された支持フィルム30は、貼合ローラ552に接触した後、貼合ローラ551,552の間に導入される。貼合ローラ551は好ましくはゴム製であり、貼合ローラ552は好ましくは金属製である。
【0045】
電解質膜20および支持フィルム30が貼合ローラ551,552の間を通過する過程において、電解質膜20の第2面202は、支持フィルム30の粘着層32と密着する(貼合工程)。これにより、支持フィルム30の粘着層32に、電解質膜20が貼合された貼合物10が形成される。貼合部55によって形成された貼合物10は、貼合物回収ローラ57に巻き取られる。
【0046】
熱風供給部59は、電解質膜供給ローラ51と貼合部55の貼合ローラ551との間に掛け渡されている電解質膜20の部分に熱風を吹き付ける。熱風供給部59が吹き付ける熱風の温度(以下、「熱風温度」と称する。)は、調整することが可能とされている。熱風による電解質膜20の加熱により、電解質膜20に含まれる水分が蒸発するため、電解質膜20の含水率が低下される(含水率低下工程)。含水率が低下された電解質膜20の部分は、貼合部55に搬送されて、支持フィルム30の粘着層32に貼合される。熱風供給部59は、「含水率低下部」の一例である。
【0047】
図6は、図5に示される装置を用いて貼合物10を製造した場合の実験結果を示す図である。この実験例では、熱風供給部59が供給する熱風温度を変えて、貼合物10の製造を行った。そして、貼合できたか否かを「◎」「○」「△」「×」の4段階で評価した。また、貼合できた場合、得られた貼合物10を吸着ステージ41に載せて加熱し、一定時間経過後(1分)の貼合物10の反りの度合いを「◎」「○」「△」「×」の4段階で評価した評価した。また、反りの度合いの評価の後、貼合物10を吸着ステージ41に吸着させることが可能か否かを評価した。貼合時における室内の気温は25℃、室内の湿度は70%とした。
【0048】
図6に示されるように、比較例4では、熱風温度を30℃とした。また、実施例8~12では、熱風温度を、それぞれ40℃、50℃、60℃、80℃、および100℃とした。さらに、比較例5~8では、熱風温度を、それぞれ120℃、140℃、160℃、および180℃とした。
【0049】
比較例4の実験結果が示すように、熱風温度が30℃以下の場合、吸着ステージ41上での貼合物10の反りを抑えることができず、また、貼合物10を吸着ステージ41に吸着することができなかった。これは、熱風温度が低いため、電解質膜20からの水分除去が充分に行われなかったためであると考えられる。また、比較例5~8の実験結果が示すように、熱風温度が120℃以上の場合、貼合前に電解質膜20に皺が発生し、支持フィルム30との貼合が不可能であった。このため、反りの度合いおよび吸着可否について、評価できなかった。一方、実施例8~12の実験結果が示すように、熱風温度が40℃以上且つ100℃以下の場合、貼合物10の反りが軽減され、吸着ステージ41へ貼合物10を吸着させることができた。特に、熱風温度が50℃以上、より好ましくは60℃以上の場合、貼合物10の反りが良好に軽減され、吸着ステージ41へ貼合物10を容易に吸着させることができた。
【0050】
以上の実験結果から明らかなように、貼合前の電解質膜20に対して、所定温度の熱風を当てて、電解質膜20を所定温度以上に加熱することによって、貼合物10における電解質膜20の変形を低減できる。
【0051】
図7は、実施形態に係る他の電解質膜処理装置5Aの構成を示す図である。電解質膜処理装置5Aは、熱風供給部59を備えていない点で、電解質膜処理装置5と相違する。また、電解質膜処理装置5Aは、貼合ローラ551の代わりに、貼合ローラ551Aを備える点で、電解質膜処理装置5と相違する。
【0052】
貼合ローラ551Aは、ハロゲンヒータまたはセラミックヒータなどの熱源を内部に備えている。貼合ローラ551Aの外周面の温度(表面温度)は、熱源によって予め設定された温度に加熱される。貼合ローラ551Aは、外周面に巻き付けられた電解質膜20を加熱する。
【0053】
図7に示されるように、電解質膜処理装置5Aの場合、貼合部55において、電解質膜20は、支持フィルム30に貼合される直前に、高温(少なくとも室温よりも高い温度)の貼合ローラ551Aと接触することによって、加熱される。そして、電解質膜20は、加熱された状態で、貼合ローラ551A,552の間に導入されることにより、支持フィルム30と貼合される。すなわち、含水率が低下された電解質膜20を支持フィルム30と貼合させることができる。貼合ローラ551Aは、「含水率低下部」の一例である。
【0054】
図8は、図7に示される装置を用いて貼合物10を製造した場合の実験結果を示す図である。この実験例では、貼合ローラ551Aの温度(以下、「ローラ温度」と称する。)を変えて、貼合物10の製造を行った。そして、貼合できたか否かを「◎」「○」「△」「×」の4段階で評価した。また、貼合できた場合、得られた貼合物10を吸着ステージ41に載せて加熱し、一定時間経過後(1分)の貼合物10の反りの度合いを「◎」「○」「△」「×」の4段階で評価した評価した。また、反りの度合いの評価の後、貼合物10を吸着ステージ41に吸着させることが可能か否かを評価した。貼合時における室内の気温は25℃、室内の湿度は70%とした。
【0055】
図8に示されるように、比較例9では、ローラ温度を30℃とした。また、実施例13~18では、ローラ温度を、それぞれ40℃、50℃、60℃、80℃、100℃、および120℃とした。さらに、比較例10~12では、ローラ温度を、それぞれ140℃、160℃、および180℃とした。
【0056】
比較例9の実験結果が示すように、ローラ温度が30℃以下の場合、吸着ステージ41上での貼合物10の反りを抑えることができず、また、貼合物10を吸着ステージ41に吸着することができなかった。これは、ローラ温度が低いため、電解質膜20からの水分除去が充分に行われなかったためであると考えられる。また、比較例10~12の実験結果が示すように、ローラ温度が140℃以上の場合、貼合時に電解質膜20が変形し、支持フィルム30と正常に貼合することができなかった。このため、反りの評価及び吸着可否について、評価できなかった。
【0057】
一方、実施例13~18の実験結果が示すように、ローラ温度が40℃以上且つ120℃以下の場合、貼合物10の反りが軽減され、吸着ステージ41へ貼合物10を吸着させることができた。特に、ローラ温度が50℃以上且つ100℃以下の場合、貼合を良好に行うことができ、さらには反りを有効に低減できた。
【0058】
以上の実験結果から明らかなように、貼合前の電解質膜20を、加熱された貼合ローラ551Aに接触させて、電解質膜20を所定温度以上に加熱することにより、貼合物10における電解質膜20の変形を低減できる。
<変形例>
以上、実施形態について説明してきたが、本発明は上記のようなものに限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【0059】
例えば、図5に示される電解質膜処理装置5において、貼合ローラ551の代わりに貼合ローラ551Aが備えられていてもよい。
【0060】
また、貼合ローラ551Aと同様の加熱ローラが、電解質膜供給ローラ51と貼合ローラ551との間に配置されていてもよい。
【0061】
また、含水率低下部は、熱風供給部59あるいは貼合ローラ551Aに限定されるものではない。例えば、含水率低下部は、遠赤外線または近赤外線を電解質膜20に当てて加熱する赤外線ヒータであってもよい。
【0062】
電解質膜20は、固体高分子形燃料電池用のCCMを製造するためのものであってもよく、あるいは、固体高分子形水電解用のCCMを製造するためのものであってもよい。また、電解質膜20は、例えば、トルエンなどの芳香族化合物を水素化することにより、有機ハイドライド(例えば、トルエン-メチルシクロヘキサン)を製造するLОHC(Liquid Organic Hydrogen Carrier)プロセスに使用されるCCMを製造するためのものであってもよい。
【0063】
この発明は詳細に説明されたが、上記の説明は、すべての局面において、例示であって、この発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。上記各実施形態及び各変形例で説明した各構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わせたり、省略したりすることができる。
【符号の説明】
【0064】
4 塗工装置
5,5A 電解質膜処理装置
10 貼合物
20 電解質膜
30 支持フィルム(支持体)
32 粘着層
55 貼合部
59 熱風供給部(含水率低下部)
201 第1面
202 第2面
551A 貼合ローラ(含水率低下部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8