(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125032
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】合成皮革
(51)【国際特許分類】
D06N 3/00 20060101AFI20240906BHJP
【FI】
D06N3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033094
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000000077
【氏名又は名称】アキレス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】沖野 真也
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正樹
【テーマコード(参考)】
4F055
【Fターム(参考)】
4F055AA01
4F055AA21
4F055BA12
4F055CA12
4F055EA04
4F055EA23
4F055EA30
4F055EA31
4F055FA20
4F055GA02
4F055GA11
4F055GA32
4F055HA10
(57)【要約】
【課題】
車輌の座席シート、ソファーや椅子の座面など人体と摩擦が発生する用途で人体の帯電を抑制し、静電気の異常放電による不快感を軽減することができる合成皮革を提供すること。
【解決手段】
表面側から、合成樹脂層と繊維布帛基材とからなる合成皮革であって、複数の開口部を有するものであり、合成皮革の表面側の表面抵抗値が1.0×10
10以上であり、かつ裏面側の表面抵抗値が1.0×10
6以下であり、開口部の端面において繊維布帛基材が露出および/または開口部の底面において繊維布帛基材が露出してなるよう合成皮革を構成する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面側から、合成樹脂層、繊維布帛基材の順で設けられてなり、複数の開口部を有する合成皮革であって、
合成皮革の表面側の表面抵抗値が1.0×1010Ω以上であり、かつ繊維布帛基材の表面抵抗値が1.0×106Ω以下であり、
開口部の端面において繊維布帛基材が露出および/または開口部の底面において繊維布帛基材が露出してなることを特徴とする合成皮革。
【請求項2】
合成皮革における開口部の占める割合が2~20%であることを特徴とする請求項1に記載の合成皮革。
【請求項3】
開口部は、合成皮革の表裏を貫通する貫通孔であることを特徴とする請求項1または2に記載の合成皮革。
【請求項4】
合成皮革における合成樹脂層の厚みが、150μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の合成皮革。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成皮革に関するものであり、特に除電性能を有する合成皮革に関するものである。
【0002】
天然皮革は古くより日常生活に密着するものとして利用されており、皮革生地の有する性状により吸湿、耐熱、耐寒特性と共に強靭な材料として様々な用途で利用されてきた。しかしながら、天然皮革は、供給に限界があり、膨潤に伴う脆弱化や変色等の問題を有するため、これに代わるものとして、合成皮革や人工皮革が用いられている。
合成皮革や人工皮革は天然皮革に似せたものであるが、天然皮革と比べて軽量で取り扱いやすいため、座席シート等の車輌用内装材、ソファーや椅子の座面などの家具用途、或いはジャケット、コートなどの衣料用途等、多岐にわたって使用されている。
【0003】
合成皮革や人工皮革は、座席シートやソファーなど人体と摩擦が発生する用途においては、人体の帯電を抑制するため除電性能を有することが求められている。
【0004】
合成皮革や人工皮革に除電性能を付与する方法として、合成皮革や人工皮革を構成する樹脂層中に導電剤を添加する方法が知られている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6-192969号公報
【特許文献2】特開2011-231421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、合成皮革の表面側に導電性を付与すると、如何に導電性をコントロールしようとも人体に溜まった静電気が異常放電して不快感が生じてしまう問題がある。
本発明が解決しようとする課題は、除電性能を有する合成皮革において、車輌の座席シート、ソファーや椅子の座面など人体と摩擦が発生する用途で人体の帯電を抑制し、静電気の異常放電による不快感を軽減することができる合成皮革を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討し、異常放電を防止し、かつ十分な除電効果を有する合成皮革を発明した。
【0008】
本発明は以下を要旨とする。
本発明の合成皮革は、表面側から、合成樹脂層、繊維布帛基材の順で設けられてなり、複数の開口部を有する合成皮革であって、合成皮革の表面側の表面抵抗値が1.0×1010Ω以上のであり、かつ繊維布帛基材の表面抵抗値が1.0×106Ω以下であり、開口部の端面において繊維布帛基材が露出および/または開口部の底面において繊維布帛基材が露出してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の合成皮革は、車輌の座席シート、ソファーや椅子の座面など、人体と接して用いられる用途において、人体の帯電を抑制し、静電気の異常放電による不快感を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の合成皮革について、
図1~3を用いて説明する。
図2、3は、いずれも合成皮革の厚み方向に切断した際の断面図を示す。
なお、本発明において、「表面側」は人体と接する側であり、「裏面側」は人体と接しない側のことを指し、合成皮革の合成樹脂層が表面側、繊維布帛基材が裏面側である。また、「開口部の占める割合」とは、「開口部を含む合成皮革の表面積に対する、すべての開口部の面積を総合した面積の割合」のことをいう。
【0012】
本発明の合成皮革は、
図2に示すとおり、表面側から、合成樹脂層と繊維布帛基材とからなる合成皮革であって、複数の開口部を有するものであり、合成皮革の表面側の表面抵抗値が1.0×10
10以上であり、かつ裏面側の表面抵抗値が1.0×10
6以下であり、開口部の端面において繊維布帛基材が露出および/または開口部の底面において繊維布帛基材が露出してなる合成皮革である。
【0013】
一般に、対象物に導電性を付与する場合には、当該対象物の表面側に導電性を付与することが効果的である。しかしながら、合成皮革の表面側に導電性を付与すると、人体に溜まった静電気が異常放電して不快感が生じてしまう。
高い導電性を有する導電体が帯電した人体と接すると、人体から異常放電が発生しやすくなるが、人体と導電体との間に絶縁体を介在させることで異常放電は抑制される。
一方で、人体との間を完全に絶縁状態にすると、人体の帯電を逃すことができない。
この矛盾を解消するために、本発明者らは、表面に開口部を有する合成皮革にあっては、開口部の端面および/または底面において繊維布帛基材を露出させることが可能である点に着目した。
本発明は、表面に開口部を有する合成皮革の構造に着目し、合成皮革の表面側を絶縁性とし、合成皮革の裏面側に設けられる繊維布帛基材に導電性を付与し、かつ合成皮革の開口部の端面において繊維布帛基材が露出および/または開口部の底面において繊維布帛基材を露出させる構成とした。
すなわち、合成皮革の表面側が絶縁性であるため異常放電を抑制し、かつ開口部の端面および/または底面から導電性を有する繊維布帛基材を露出させることによって、人体の帯電を速やかに逃すことができるのである。
【0014】
[合成樹脂層]
合成樹脂層を構成する合成樹脂は、通常、合成皮革に用いられ得る樹脂であればいずれのものでも使用できるが、ポリウレタン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂が好適である。
【0015】
上記ポリウレタン系樹脂としては、具体的には、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、ポリカプロラクトン系ポリウレタン樹脂、ポリエステル/ポリエーテル共重合系ポリウレタン樹脂、ポリアミノ酸/ポリウレタン共重合樹脂、ポリカーボネートジオール成分と無黄変型ジイソシアネート成分及び低分子鎖伸長剤等を反応させて得られる無黄変型ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂などが挙げられる。また、合成皮革としての諸物性を損なわない範囲であれば、上記のポリウレタン樹脂にポリ塩化ビニル樹脂や合成ゴムなどを混合しても差し支えない。
【0016】
上記塩化ビニル系樹脂としては、具体的には、ポリ塩化ビニル、塩化ビニルモノマーと共重合可能な他のモノマーとの共重合体、またはこれら樹脂のブレンド等が使用できる。
上記塩化ビニルモノマーと共重合可能な他のモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、塩化ビニリデン、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、マレイン酸、フマル酸アクリロニトリル等が挙げられる。
【0017】
合成樹脂層をポリ塩化ビニル系樹脂で構成する場合、天然皮革に似た柔軟性をより効果的に発揮させるために、ポリ塩化ビニル系樹脂と併せて可塑剤が配合される。可塑剤としては、フタル酸ジオクチルエステル(DOP)、フタル酸ジイソノニルエステル(DINP)、フタル酸ブチルベンジルエステル(BBP)、フタル酸ジイソデシルエステル(DIDP)、フタル酸ジウンデシルエステル(DUP)などに代表される一般のフタル酸エステル系可塑剤、アジピン酸ジオクチル(DOA)、セバシン酸ジオクチルエステル(DOS)、アゼライン酸ジオクチルエステル(DOZ)に代表される一般の脂肪酸エステル系可塑剤、トリメリット酸トリオクチルエステル系可塑剤、ポリプロピレンアジペート等に代表されるアジピン酸ポリエステル系可塑剤などの高分子系可塑剤、セバシン酸系可塑剤、トリクレジルホスフェート(TCP)、トリキシレニルホスフェート(TXP)、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリブチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリエチルフェニルホスフェート等のリン酸エステル系可塑剤等が挙げられる。
【0018】
合成樹脂層の厚みは特に限定されないが、10μm以上150μm以下の厚みに形成することが好ましく、10μm以上100μm以下の厚みに形成することがより好ましい。合成樹脂層の厚みが10μm未満であると、合成皮革として求められる風合いや触感が得られにくい。一方で、合成樹脂層の厚みが150μmを超えると、人体が接する合成皮革の表面と後述の繊維布帛基材との距離が大きくなるため、除電性能が十分に発揮されない可能性がある。
【0019】
なお、合成樹脂層は単層構造であっても、二層以上の多層構造からなるものであってもよい。二層以上の多層構造とする場合、合成皮革の表面側以外の層は発泡させた層(発泡層)であってもよい。発泡させる手段としては、機械攪拌による物理的発泡、発泡剤の添加による化学的発泡、中空微粒子の添加による擬似発泡などが挙げられる。
【0020】
合成樹脂層には、合成皮革の表面側の表面抵抗値が1.0×1010を超えない範囲において、顔料、フィラー、分散剤、消泡剤、艶消し剤、滑剤などの各種添加剤を含有してもよい。
【0021】
[繊維布帛基材]
繊維布帛基材を構成する布帛は特に限定されず、編布、織布、不織布など、繊維を利用した布帛であればいずれのものであってもよい。繊維布帛基材を形成する繊維は、特に限定されず、合成繊維、天然繊維などをあげることができる。合成繊維の材質としては、ポリエステル、ポリアミド、アクリル、ナイロンなどを例示することができるがこれに限定されない。天然繊維の材質としては、綿、麻、レーヨンなどを例示することができるがこれに限定されない。
繊維布帛基材の厚みは特に限定されないが、合成皮革の機械的強度や風合い等を考慮すれば、当該厚みは、100μm以上2000μm以下であることが好ましく、500μm以上1200μm以下であることがより好ましい。繊維布帛基材の目付けについても特に限定されないが、上記厚みと同様に、合成皮革の機械的強度や風合い等を考慮すれば、10g/m2以上500g/m2以下であることが好ましく、100g/m2以上400g/m2以下であることがより好ましい。
【0022】
本発明の繊維布帛基材の、表面抵抗値は1.0×106Ω以下である。繊維布帛基材の表面抵抗値を1.0×106Ω以下とすることで、人体の帯電を効率的に逃すことが可能となる、
繊維布帛基材の表面抵抗値を1.0×106Ω以下にするためには、全体あるいは部分的に導電繊維や導電糸を用いて繊維布帛基材を構成する方法、繊維布帛基材を導電化処理する方法などが挙げられる。なお、繊維布帛基材を導電化処理する方法においては、起毛処理した繊維布帛基材を用いると導電性を付与しやすい。また、起毛処理した繊維布帛基材を用いた合成皮革は、開口部の端面が毛羽立つ傾向にあるため、除電性能が発揮されやすいという効果も奏する。
なお、本発明における表面抵抗値は、IEC規格61340-2-3(2000年)に記載の方法に準拠し、温度23±2℃、湿度60±5%RHの条件下で測定されるものである。
【0023】
上記繊維布帛基材の厚みは、合成皮革の総厚みに対して、60~97%であることが好ましい。厚みが60%未満であると、人体が接する合成皮革の表面と繊維布帛基材の間との距離が大きくなるため、除電性能が十分に発揮されにくくなるおそれがあり、さらに合成皮革としての機械的強度が担保できなくなる可能性がある。一方で、厚みが97%を超えると、開口部のエッジ(角部)近傍に繊維布帛基材が現れるため、異常放電が十分に抑制できなくなるおそれがある。
【0024】
[表面処理層]
本発明の合成皮革は、合成樹脂層上に表面処理層を設けてもよい。
表面処理層は、合成皮革の艶出し/艶消し、耐摩耗性の付与、触感の付与、防汚性の付与等の目的で設けられる。表面処理層は、例えばポリウレタン樹脂を主剤とし、有機溶媒や水に分散させた塗工液を表皮層の表面にコーティングすることにより設けることができる。
【0025】
表面処理層と合成樹脂層との間に、両者の密着性を向上させるためにプライマー層を設けてもよい。
表面処理層およびプライマー層には、合成皮革の表面側の表面抵抗値が1.0×1010を超えない範囲において、顔料、酸化防止剤、紫外線吸収剤、触媒、シリカなどの無機微粒子、有機フィラーなど公知の添加剤を添加してもよい。
【0026】
本発明の合成皮革は複数の開口部を有する。開口部は、ニードルパンチング、放電、レーザー照射など、従来公知の手段により形成することができる。
合成皮革における開口部の占める割合(以下、「開口率」ともいう)は、2~20%であることが好ましい。開口率が2%未満であると、人体の帯電を速やかに逃すことができないおそれがある。一方で、開口率が20%を超えると、異常放電を確実に防止することができなくなる傾向にあり、また、合成皮革としての機械的強度が担保できなくなる可能性がある。
【0027】
開口部の形状は特に限定されず、円形、楕円形、多角形等、任意の形状が選択されるが、耐摩耗性の観点から、角のない円形、楕円形であることが好ましい。また開口部は規則性をもって配置されてもよいし、ランダムに配置されてもよい。
また、開口部一個あたりの大きさは限定されないが、除電性や加工性、耐久性を考慮すると、0.4~7.0mm2であることが好ましい。
【0028】
開口部は、合成皮革1m2あたり2,000~60,000個であることが好ましい。 前記下限を下回ると、人体の帯電を効果的に除電できなくなる傾向にある。また、前記上限を超えると、異常放電を確実に防止することができなくなる傾向にあり、また、合成皮革としての機械的強度を担保できなくなる可能性がある。
【0029】
開口部は、端面および/または底面から繊維布帛基材が露出するものであればよく、
図2に示すような合成皮革の表面側から裏面側まで貫通する貫通孔であっても、
図3に示すような繊維布帛基材が開口部の底面を形成する閉塞孔であってもよい。なお、閉塞孔の場合、開口部の深さは少なくとも開口部の底面に繊維布帛基材が露出することが必要であり、開口部の端面の一部に繊維布帛基材が露出する深さであってもよい。
開口部が貫通孔の場合には、合成皮革を形成後に任意の手段で開口部を形成すればよい。また、開口部が閉塞孔の場合には、合成皮革を形成後に任意の手段で開口部を形成してもよいし、任意の手段で開口部を形成した合成樹脂層と繊維布帛基材とを積層してもよい。
開口部は、加工のしやすさや除電性能を考慮すると、貫通孔であることが好ましい。
【0030】
本発明の合成皮革は、アースを取って、任意の導電体に接続してもよい。また、合成皮革の裏面側に導電性を有するシートやフィルム、発泡体などを積層してもよい。
【0031】
次に、本発明の合成皮革の製造方法について、合成樹脂層が二層からなるものを例にとって説明する。二層の合成樹脂層は、表面側から表皮層、接着層と記載する。なお、以下に記載する製造方法は一例であって、以下の製造方法に限定されるものではない。
【0032】
まず離型紙等の離型性担体上に表皮層を構成するための表皮層形成用組成物を塗布し、反応・固化させて表皮層を形成する。表皮層形成用組成物の塗布には、ナイフコーター、コンマドクター、ロールコーター、リバースロールコーター、ロータリースクリーンコーター、グラビアコーター、その他適宜の手段が採用される。離型性担体は、表皮層形成用組成物が塗布される側の表面が平滑なものであっても、絞模様が付されたものであっても良い。絞模様等が付された離型性担体を使用すると、離型性担体の紋模様が合成皮革の表皮層の表面に転写され、絞模様による意匠が現出した合成皮革を得ることができる。
【0033】
次いで、表皮層上に接着層形成用組成物を塗布する。接着層形成用組成の塗布は表皮層形成用組成物と同様の方法を採用することができる。塗布された接着層形成用組成物が半ゲル状になるまで乾燥させた後、繊維布帛基材を積層させる。
しかる後、離型性担体を剥離し、必要に応じて表皮層の表面に表面処理層を設けることにより、合成皮革を得ることができる。表面処理層は、グラビアコーター、リバースロールコーター、スプレーコーター等の方法で形成することができる。
【0034】
そして、ニードルパンチング、放電、レーザー照射など任意の手段で開口加工を施すことにより、開口部を有する合成皮革を得ることができる。
【0035】
以上、本発明の合成皮革について説明した。本発明は合成皮革として種々の用途に用いることができるが、人体と接触して静電気が発生しやすい車輌用シート、ソファーや椅子等の座面として好適に使用される。
【実施例0036】
以下に本発明を実施例に基づいて、詳細に説明する。
実施例1~7、比較例1~3で用いた合成皮革の構成成分については、以下のとおりである。
【0037】
<表皮層用樹脂組成物>
・主剤:ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂溶液(DIC(株)製「クリスボンNY335FT」)
・溶剤1:DMF
・溶剤2:酢酸エチル
【0038】
<接着層用樹脂組成物>
・主剤:ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂溶液(DIC(株)製「クリスボンTA205FT 」)
・架橋剤:イソシアネート系化合物(DIC(株)製「バーノックDN950」)
・溶剤1:DMF
・溶剤2:MEK
・触媒:DIC(株)製「クリスボン アクセルT81-E」
【0039】
<繊維布帛基材>
・基材1:84dtexのポリエステル糸から編み立てたポリエステル製トリコット編地 厚み:800μm、表面抵抗値:8.0E+11Ω
・基材2:π電子共役系高分子モノマーとしてピロール 1wt%(広栄化学製 ピロール)に、酸化重合剤兼ドーパント剤としてパラトルエンスルホン酸第二鉄 10wt% (テイカ製 パラトルエンスルホン酸第二鉄)を加えた水溶液中へ、起毛処理した基材1を浸漬させてピロールモノマーを重合させて、表面にポリピロールを析出させた導電性を有する生地 厚み:800μm(起毛部分除き)、表面抵抗値:1.8E+04Ω
・基材3:π電子共役系高分子モノマーとしてピロール 1wt%(広栄化学製 ピロール)に、酸化重合剤兼ドーパント剤としてパラトルエンスルホン酸第二鉄 10wt% (テイカ製 パラトルエンスルホン酸第二鉄)を加えた水溶液中へ、基材1を浸漬させてピロールモノマーを重合させて、表面にポリピロールを析出させた導電性を有する生地 厚み:800μm、表面抵抗値:5.4E+05Ω
なお、繊維布帛基材1~3の表面抵抗値は、IEC規格61340-2-3(2000年)に記載の方法に準拠し、温度23±2℃、湿度60±5%RHの条件下で測定した値である。
測定装置は、プロスタット株式会社製、商品名「PRS-801」を用い、測定プローブは5ポンド電極(PRS-801-W)を用いて、電極間距離は60mm、印加電圧は100Vとした。
【0040】
(実施例1)
主剤:ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂溶液100質量部(樹脂固形分20質量%)、溶剤1:30質量部、溶剤2:30質量部からなる表皮層用樹脂組成物を、離型紙上にコンマコータにて塗布し、80℃から120℃まで徐々に温度を上げ、120℃到達後、5分間乾燥し、厚さ約30μmの樹脂層における表皮層を得た。
続いて、主剤:ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂溶液100質量部、架橋剤:イソシアネート系化合物12質量部、溶剤1:30質量部、溶剤2:30質量部、触媒1質量部とからなる接着層用樹脂組成物を、表皮層の上にコンマコータにて塗布し、120℃で乾燥し、厚さ約50μmの接着層を得た。
続いて、接着層に接着性が発現しているタイミングで、基材2の貼り合わせを行った。
続いて、ロール状に巻き取りを行い、これを50℃、48時間かけて熟成させた後、離型紙を剥離して、表皮層、接着層、繊維布帛基材の順で積層された合成皮革を得た。
得られた合成皮革に対し、パンチング加工機にて、合成皮革の表面側からパンチング加工を施した。開口部は、合成皮革の表面側から裏面側まで貫通する貫通孔であり、孔径は1.6mm、合成皮革の単位面積あたりの開口率が8%となるようにパンチング加工した。
【0041】
(実施例2)
開口率が2%となるようにパンチング加工した以外は、実施例1と同様にして合成皮革を得た。
【0042】
(実施例3)
開口率が20%となるようにパンチング加工した以外は、実施例1と同様にして合成皮革を得た。
【0043】
(実施例4)
開口率が1%となるようにパンチング加工した以外は、実施例1と同様にして合成皮革を得た。
【0044】
(実施例5)
基材2に変えて基材3を用いた以外は、実施例1と同様にして合成皮革を得た。
【0045】
(実施例6)
実施例1と同様にして得られた合成皮革に対し、レーザー加工機にて、表皮層および接着層のみを切削した開口部を形成し、開口部の底面に繊維布帛基材を露出させた。
開口部の孔径は1.6mmで、合成皮革の単位面積あたりの開口率は8%である。
【0046】
(実施例7)
表皮層および接着層の厚みがそれぞれ100μmになるように表皮層用樹脂組成物および接着層用樹脂組成物を塗工した以外は、実施例1と同様にして合成皮革を得た。
【0047】
(比較例1)
表皮層を形成する主剤:ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂溶液100質量部(樹脂固形分20質量%)に対して、導電剤(酸化亜鉛 株式会社アムテック製 パナテトラ)を8質量部添加した以外は実施例1と同様にして合成皮革を得た。
【0048】
(比較例2)
パンチング加工を行わなかった以外は実施例1と同様にして合成皮革を得た。
【0049】
(比較例3)
基材2に変えて、基材1を用いた以外は、実施例1と同様にして合成皮革を得た。
【0050】
<表面抵抗値>
実施例1~7、比較例1~3で得られた合成皮革の表面側の表面抵抗値について、表1に示す。なお、表面抵抗値は以下の方法で測定したものである。
合成皮革の表面側の表面抵抗値をIEC規格61340-2-3(2000年)に記載の方法に準拠し、温度23±2℃、湿度60±5%RHの条件下で測定した。
測定装置は、プロスタット株式会社製、商品名「PRS-801」を用い、測定プローブは5ポンド電極(PRS-801-W)を用いて、電極間距離は60mm、印加電圧は100Vとした。
【0051】
実施例1~7、比較例1~3で得られた合成皮革について、以下の評価を行った。
【0052】
<電荷減衰>
MIL-B-81705に準拠して、(+)5000Vに印加した電圧が(+)50Vに減衰するまでの時間を測定し、以下の基準で評価した。
◎・・・減衰時間が0.05秒以上1秒未満
○・・・減衰時間が1秒以上~10秒未満
×・・・減衰時間が10秒以上、または減衰時間が0.05秒未満(≒異常放電を起こす)
評価結果は表1に示す。
減衰時間が0.05秒未満の場合は静電気の異常放電が疑われるため、「×」と評価した。なお、本実施例においては、比較例1が減衰時間0.05秒以下であり、異常放電を起こす可能性がある。
【0053】
【表1】
表中、合成樹脂層の厚みは、表皮層と接着層の厚みの合計である。
また、表面抵抗値(Ω)の「1.0E+12↑」は、表面抵抗値が1.0E+12を超えることを示すものである。なお、本実施例で用いた測定装置の測定限界は1.0E+12である。
【0054】
実施例1~7で得られた合成皮革は、通気性に優れるとともに機械的強度を担保し、十分な除電効果を有することがわかる。