(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125038
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】作業機械の溶接構造
(51)【国際特許分類】
E02F 9/08 20060101AFI20240906BHJP
B62D 21/18 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
E02F9/08 Z
B62D21/18 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033102
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000246273
【氏名又は名称】コベルコ建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100140338
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 直樹
(72)【発明者】
【氏名】戸田 久雄
【テーマコード(参考)】
3D203
【Fターム(参考)】
3D203AA27
3D203CA52
3D203CB03
(57)【要約】
【課題】溶接箇所の応力を緩和しつつ、衝撃荷重にも強い構造を提供する。
【解決手段】第1部材に相当する梁材20に第2部材に相当する板材22の縁部が突き合わせ溶接(溶接ビード22d)され、第2部材には縁部の一端を突片状に残すようにして切り欠く凹部Gが形成される構造において、凹部Gに沿って第2部材に取付固定される補強板24を備えることを特徴とする。
【選択図】
図2B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機械の第1部材に第2部材の縁部が突き合わせ溶接され、前記第2部材には前記縁部の一端を突片状に残すようにして切り欠く凹部が形成される構造において、
前記凹部に沿って前記第2部材に取付固定される補強板を備えることを特徴とする、作業機械の溶接構造。
【請求項2】
前記補強板には前記凹部と重なる切り欠き状の第2凹部が形成される、請求項1に記載の作業機械の溶接構造。
【請求項3】
前記突片を前記凹部の一側部として前記第2部材は、前記凹部の他側部と、これら一側部および他側部の間にある凹底部を含み、
前記凹底部は、前記補強板の前記第2凹部よりも後退するよう切り欠いている、請求項2に記載の作業機械の溶接構造。
【請求項4】
前記縁部に沿って延びる溶接ビードの始終端が、前記突片の根元から突出端まで区間の途中に配置される、請求項3に記載の作業機械の溶接構造。
【請求項5】
前記縁部に沿って延びる溶接ビードが、前記突片の一面側で当該突片の突出端に達し、折り返して前記突片の他面側でさらに延びる、請求項3に記載の作業機械の溶接構造。
【請求項6】
前記第1部材は作業機械の旋回体フレームのセンターセクションから幅方向外側へ延びる梁材であり、前記第2部材は前記センターセクションよりも幅方向外側に配置されて前後方向および幅方向に広がる板材である、請求項4に記載の作業機械の溶接構造。
【請求項7】
前記板材に形成される前記凹部を下方から塞ぐように覆う部材をさらに備える、請求項6に記載の作業機械の溶接構造。
【請求項8】
前記第1部材は作業機械の旋回体フレームのセンターセクションに含まれ前後方向および上下方向に広がる縦板であり、前記第2部材は前記センターセクションから幅方向外側へ延びる梁材であり、
前記梁材は、縦壁と横壁とこれら壁同士が結合する稜線とを含み、
前記第2部材の前記凹部は、前記稜線を切り欠くものである、請求項4に記載の作業機械の溶接構造。
【請求項9】
前記第1部材は作業機械の旋回体フレームのセンターセクションに含まれ前後方向および上下方向に広がる縦板であり、前記第2部材は前記センターセクションから幅方向外側へ延びる梁材であり、
前記第2部材の前記凹部は、前記梁材の側縁を切り欠くものである、請求項4に記載の作業機械の溶接構造。
【請求項10】
前記第1部材は、作業機械の旋回体フレームのセンターセクションのうち前後方向および幅方向に広がる板材であり、
前記第2部材は、前記センターセクションから幅方向外側へ延びる梁材のうち上下方向に広がる縦壁である、請求項4に記載の作業機械の溶接構造。
【請求項11】
前記凹部は、前記縁部に沿って延びる溶接ビードの一方の始終端および他方の始終端にそれぞれ対応して設けられ、
一方の前記凹部に設けられる補強板および他方の前記凹部に設けられる補強板は、共通な1枚板である、請求項4に記載の作業機械の溶接構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械や農業機械や荷役機械等の作業機械に関し、特に溶接箇所を補強する構造に関する。
【背景技術】
【0002】
作業機械、例えば油圧ショベル、の上部旋回体において、フレーム同士の溶接箇所で発生する応力を低減する構造として従来、例えば実開平5-044374号公報(特許文献1)に記載のものが知られている。かかる特許文献に記載の溶接構造物は、平板状の第1部材に、異なる2面を有する屈曲したL字部材を接触させて溶接した構造物であり、L字部材の角(屈曲部分)に切り欠きを設けて、L字部材の接触部を突片に形成するとともに、溶接ビードの始終端の位置を、突片の長さ(切り欠きの深さ)内とする。かかる構成により、従来高応力部となるL字部材の角(屈曲部分)は第1部材に溶接されていないから、溶接箇所で応力集中は起こらず、溶接箇所全体として応力を低減することができるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来の溶接構造物にあっては、応力逃しの切り欠き部を設けることにより疲労寿命は長くなるものの、さらに改善すべき点があることを本発明者は見いだした。つまり切り欠き部の応力は高いため、例えば誤操作によって上部旋回体を岩盤に衝突させる等の衝撃荷重により、切り欠き部の応力が材料の降伏点を越えてしまう懸念がある。切り欠き部の応力を降伏点以下に設定しようとすれば、材料の板厚を大きくしたり、高張力鋼を使用したりすることが考えられるが、今度は製造原価が高くなってしまう。また切り欠き縁の曲率を小さくする、切り欠き縁を緩やかな曲線にする等も考えられるが、溶接ビードの始終端で通常作業時の荷重や衝撃荷重を受けることになってしまい、当初の目的である切り欠き部で応力を逃すことができなくなってしまう。
【0005】
本発明は、上述の実情に鑑み、疲労寿命を長くしつつ、衝撃荷重にも強い溶接構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的のため本発明による作業機械の溶接構造は、作業機械の第1部材に第2部材の縁部が突き合わせ溶接され、第2部材には縁部の一端を突片状に残すようにして切り欠く凹部が形成される構造において、かかる凹部に沿って第2部材に取付固定される補強板を備えることを特徴とする。
【0007】
かかる本発明によれば、凹部によって溶接箇所の応力を低減しつつ、補強板によって衝撃荷重に対する強度を高めることができる。補強板は第2部材よりも小さいので、第2部材の板厚寸法を大きくしたり、高張力鋼の第2部材を使用したりするよりも、コスト上有利である。さらに補強板の縦横寸法および板厚寸法を調整したり、補強板の材質を変更したりすることにより、溶接箇所の強度を調整可能であり、想定される衝撃荷重に対応可能である。なお溶接箇所は、溶接で接着される箇所であり、第1部材と、第2部材と、溶接痕で構成される。溶接痕として例えば溶接ビードが挙げられる。第1部材および第2部材は、共に構造材であってもよく、あるいはいずれか一方が非構造材であってもよい。構造材とは例えば作業機械のフレームの梁材や縦材や柱材や床板材等、強度の構造計算で考慮される部材をいう。非構造材とは例えば作業機械のフレーム以外の付属品等、強度の構造計算で考慮されない部材をいう。
【0008】
本発明の一局面として補強板には、第2部材の凹部と重なる切り欠き状の第2凹部が形成される。かかる局面によれば、第2部材の凹部が溶接箇所、特に溶接箇所の始終端、に作用する応力を緩和するに際し、補強板は応力緩和を阻害しない。
【0009】
本発明の好ましい局面として第2部材の突片を凹部の一側部として、第2部材は、凹部の他側部と、これら一側部および他側部の間にある凹底部を含み、かかる凹底部は、補強板の第2凹部よりも後退するよう切り欠いている。かかる局面によれば、溶接箇所に荷重が入力されると、第2部材の凹部が変形するより先に補強板の第2凹部が先に変形する。したがって第2部材よりも補強板で荷重を受けることができる。
【0010】
溶接ビードの始終端は、品質上不安定である。そこで本発明のさらに好ましい局面として、第2部材の縁部に沿って延びる溶接ビードの始終端が、突片の根元から突出端まで区間の途中に配置される。かかる局面によれば、溶接ビードの始終端に作用する応力を軽減することができる。
【0011】
本発明の他の局面として、第2部材の縁部に沿って延びる溶接ビードが、突片の一面側で当該突片の突出端に達し、折り返して突片の他面側でさらに延びる。かかる局面によれば、溶接ビードの始終端を突片から事実上なくすことができ、溶接品質が安定する。また当該突片の形状が安定する。したがって、当該突片は荷重を安定して受けることができる。
【0012】
第1部材および第2部材の形状は特に限定されない。本発明の一局面として、第1部材は作業機械の旋回体フレームのセンターセクションから幅方向外側へ延びる梁材であり、第2部材はセンターセクションよりも幅方向外側に配置されて前後方向および幅方向に広がる板材である。かかる局面によれば構造材の梁材と、当該梁材と並行に設置される非構造材の床板材とを溶接する場合において、溶接箇所の応力を緩和しつつ、衝撃荷重に対する強度を高めることができる。
【0013】
本発明の好ましい局面として、第2部材としての板材に形成される凹部を下方から塞ぐように覆う部材をさらに備える。かかる局面によれば、小石等の異物が凹部を覆う部材で遮断されることから、異物が凹部を通過して第2部材としての板材に達することを防ぐことができる。凹部を覆う板材の形状は、特に限定されないが、例えば板材である。凹部を覆う板材は、構造材であってもよいし、あるいは非構造材であってもよい。
【0014】
本発明の他の局面として、第1部材は作業機械の旋回体フレームのセンターセクションに含まれ前後方向および上下方向に広がる縦板であり、第2部材はセンターセクションから幅方向外側へ延びる梁材であり、かかる梁材は縦壁と横壁とこれら壁同士が結合する稜線とを含み、第2部材の凹部は稜線を切り欠くものである。かかる局面によれば例えばL字状断面のような立壁および横壁を含む梁材に関し、当該梁材の長手方向端と縦板とを溶接する場合において、L字の角の溶接箇所の応力を緩和しつつ、衝撃荷重に対する強度を高めることができる。
【0015】
本発明のさらに他の局面として、第1部材は作業機械の旋回体フレームのセンターセクションに含まれ前後方向および上下方向に広がる縦板であり、第2部材はセンターセクションから幅方向外側へ延びる梁材であり、第2部材の凹部は梁材の側縁を切り欠くものである。かかる局面によれば、梁材の長手方向端と縦板とを溶接する場合において、梁材の側縁を溶接箇所と隣り合う箇所で切り欠くよう凹部を設けることにより、溶接箇所の応力を緩和しつつ、衝撃荷重に対する強度を高めることができる。
【0016】
本発明の一局面として、第1部材は作業機械の旋回体フレームのセンターセクションのうち前後方向および幅方向に広がる板材であり、第2部材はセンターセクションから幅方向外側へ延びる梁材のうち上下方向に広がる縦壁である。かかる局面によれば梁材と、当該梁材と並行に設置される板材とを溶接する場合において、溶接箇所の応力を緩和しつつ、衝撃荷重に対する強度を高めることができる。
【0017】
補強板の形状は特に限定されない。本発明の一局面として第2部材の凹部は、第2部材の縁部に沿って延びる溶接ビードの一方の始終端および他方の始終端にそれぞれ対応して設けられ、一方の凹部に設けられる補強板および他方の凹部に設けられる補強板は、共通な1枚板である。かかる局面によれば、溶接ビードの両方の始終端に作用する応力を緩和しつつ、1枚物の補強板で溶接ビード両端側の衝撃荷重に対する強度を高めることができる。
【発明の効果】
【0018】
このように本発明によれば、単に溶接箇所の応力を低減するだけではなく、衝撃荷重に対する強度を高めることもできる。したがって作業機械の強度および耐久性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】機械のアッパーフレームを示す斜視図である。
【
図2A】本発明の第1実施形態になる溶接構造を示す平面図である。
【
図2B】第1実施形態の溶接ビードを模式的に示す斜視図である。
【
図3A】第1実施形態の変形例を模式的に示す斜視図である。
【
図3B】同変形例の溶接ビードを模式的に示す斜視図である。
【
図3C】同変形例の溶接ビードを模式的に示す斜視図である。
【
図4A】第1実施形態を覆う部材を示す斜視図である。
【
図4B】第1実施形態を覆う部材を示す底面図である。
【
図5】機械のアッパーフレームを示す斜視図である。
【
図6】本発明の第2実施形態になる溶接構造を示す斜視図である。
【
図7】本発明の第3実施形態になる溶接構造を示す斜視図である。
【
図8】機械のアッパーフレームを示す斜視図である。
【
図9】本発明の第4実施形態になる溶接構造を示す斜視図である。
【
図10】本発明の第5実施形態になる溶接構造を示す斜視図である。
【
図11】本発明の第6実施形態になる溶接構造を示す斜視図である。
【
図12A】本発明の第6実施形態になる溶接構造を示す斜視図である。
【
図12B】本発明の第6実施形態になる溶接構造を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき詳細に説明する。
図1は、本発明を採用するアッパーフレームの構造を示す全体斜視図である。アッパーフレーム10は、作業機械の上部旋回体のフレームであり、図示しない旋回ベアリングを介して、下部走行体(図略)に搭載される。作業機械は、建設機械や農業機械や荷役機械やその他の作業を行う機械である。本実施形態のアッパーフレーム10は、例えば油圧ショベルに搭載される。
【0021】
略矩形のアッパーフレーム10は、アッパーフレーム幅方向中央部に配置されるセンターセクション11と、アッパーフレーム幅方向左右両側にそれぞれ配置されるサイドデッキ12,32を備える。センターセクション11は、アッパーフレーム前後方向に延びて互いに対向配置される1対の縦板13と、縦板13の下端縁同士を結合する底板15を含む。縦板13は、上下方向にも広がる鋼板である。底板15は幅方向および前後方向に広がる鋼板である。
【0022】
サイドデッキ12は、前後方向に延びる枠材14と、幅方向に延びる梁材16,18,20を含む。梁材16,18,20は、前後方向に間隔を空けて複数本設けられる。また梁材16,18,20は、自身の前後方向位置や、梁材16,18上に載置される機材(図略)に応じて、同一あるいは異なる断面形状が適宜選定される。本実施形態では、アッパーフレーム10の後方領域に配置される梁材20が、幅方向および上下方向に広がる鋼板を含む。梁材20の一端は、センターセクション11の縦板13に溶接される。梁材20の他端は、枠材14に溶接される。枠材14は軽量かつ高剛性のパイプ材、例えば断面D字形状のDチューブである。
【0023】
前方の梁材18と、後方の梁材20と、幅方向内側の縦板13と、幅方向外側の枠材14とで区画される区域には板材22が配置される。これらの5個の部材はいずれも鋼材である。板材22の4本の縁部のうち3本の縁部は、梁材18,20と、枠材14にそれぞれ溶接される。板材22は、アッパーフレーム10上に設けられる機械室の床材を構成する。
【0024】
図2Aは、本発明の第1実施形態になる溶接構造を示す平面図である。
図2Bは、同実施形態の溶接ビードを模式的に示す斜視図であり、アッパーフレームの下方から見上げた状態を表す。つまり
図2Aおよび
図2Bは溶接構造の上面下面をそれぞれ表す。板材22の板材角部22bは凸曲線状あるいは面取り状に切り欠かれており、縦板13および梁材20から離隔する。これらは開口Jを区画する。かかる切り欠きのうち梁材20に近い方の切り欠き縁は、U字のように凹状に後退する凹部Gを形成する。凹部Gは、構造材である梁材20と非構造材である板材22との溶接の始終端に対応して設けられる。
【0025】
図2Aを参照して、板材22の上面に沿って、板材22と梁材20を溶接する溶接ビード22cが断続的(あるいは図示しないが連続的)に延びている。
図2Bを参照して、板材22の下面に沿って、板材22と梁材20を溶接する溶接ビード22dが断続的(あるいは図示しないが連続的)に延びている。また凹部Gは、梁材20に当接する板材22の縁部を突片22gとして残す。本実施形態では、溶接ビード22c,22dが突片22gを回避して設けられる。あるいは変形例として
図2Bに二点鎖線で示すように、溶接ビード22dを延長させ、始終端22eを突片22gに配置してもよい。始終端22eを突片22gの突出端と根元の間の途中区間に配置することにより、施工的に不安定な溶接の始終端22eに応力が集中することを回避できる。そして形状が安定する部材で荷重を受けることができる。
【0026】
第1部材および第2部材になる梁材20と板材22の溶接箇所に対応して、凹部Gと重なるようにして、補強板24が設けられる。つまり補強板24は板材22の上面に接触するように取り付けられる。あるいは図示しない変形例として補強板24は板材22の下面に接触する。また補強板24は、梁材20にも溶接され、あるいは図示しない変形例として梁材20から離隔する。
【0027】
本実施形態の補強板24の一方縁および他方縁は板材22の上面に溶接される。かかる一方縁の溶接箇所の溶接ビード24bは、具体的には突片22gに設けられる。また溶接ビード24bは梁材20とも接続する。ここで附言すると補強板24の一方縁は梁材20に突き合わせ溶接されてもよい。ただし溶接ビード24bは、突片22gの根元部に設けられ、突片22gの突出端から離隔する。溶接ビード24bは、突片22gの中間部に設けられてもよいが、図示しない変形例として突片22gの根元部のみであってもよい。本実施形態では、溶接ビード24bの始終端24dが、裏面に位置する突片22g(
図2B)の突出端に近くかつ根元部から遠くなるよう配置される。
【0028】
補強板24の他方縁は板材22に溶接される。かかる溶接ビード24cは、板材22の上面で突片22gと略平行に延びる。さらに溶接ビード24cは補強板24の外縁に沿って延び、一方縁の溶接ビード24bと連続して一本のビードを構成してもよい。
【0029】
図2Bに示すように本実施形態の補強板24には、凹部Gに対応する切り欠き縁が形成される。これを第2凹部Hという。補強板24の第2凹部Hは、板材22の凹部Gよりも小さく、凹部H全体が凹部Gに含まれるように重なる。
図2Bの斜視図では、第2凹部H越しに梁材20の縦壁がみえている。補強板24の下面は、1対の溶接ビード24f,24hで板材22の凹部Gの切り欠き縁に溶接される。U字状の凹部Gに関し、溶接ビード24fはU字の一側部である突片22gに設けられる。溶接ビード24hは、U字の他側部22iに設けられる。凹部Gの凹底部G1は、U字の底に相当し、補強板24の第2凹部Hの凹底部H1よりも後退する。
【0030】
ところで本実施形態の溶接構造は、第1部材である梁材20に第2部材である板材22の縁部が突き合わせ溶接され、板材22には縁部の一端を突片22g状に残すようにして切り欠く凹部Gが形成される構造において、凹部Gに沿って板材22に取付固定される補強板24を備えることを特徴とする。かかる実施形態によれば、凹部Gによって溶接箇所の応力を低減しつつ、補強板24によって衝撃荷重に対する強度を高めることができる。また補強板24は板材22よりも小さいので、板材22の板厚寸法を大きくしたり、高張力鋼の板材22を使用したりするよりも、コスト上有利である。さらに補強板24の縦横寸法および板厚寸法を調整したり、補強板24の材質を変更したりすることにより、溶接箇所の強度を調整可能であり、想定される衝撃荷重に対応可能である。
【0031】
また本実施形態の溶接構造によれば、補強板24に切り欠き状の第2凹部Hが形成され、第2凹部Hは凹部Gと重なることから、溶接箇所に荷重が入力されると板材22の凹部Gとともに補強板24の第2凹部Hが変形することができる。したがって凹部Gが溶接ビード22dに作用する応力を緩和するに際し、補強板24は応力緩和を阻害しない。
【0032】
また本実施形態の突片22gを凹部Gの一側部として、板材22は、凹部Gの他側部22iと、これら一側部および他側部の間にある凹底部G1を含み、凹底部G1は補強板24の第2凹部H1よりも後退するよう切り欠いている。これにより溶接箇所に荷重が入力されると、板材22の凹部Gが変形するより先に補強板24の第2凹部Hが先に変形する。したがって板材22よりも補強板24で荷重を受けることができる。
【0033】
また本実施形態の変形例として
図2Bに二点鎖線で示すように、板材22の縁部に沿って延びる溶接ビード22dの始終端22eが、突片22gの根元から突出端まで区間の途中に配置されてもよい。これにより溶接ビード22dの始終端22eに作用する応力を軽減することができる。
【0034】
次に本実施形態の変形例につき説明する。
図3Aは変形例の溶接構造を示す斜視図であって、上方から見下ろした状態を表す。
図3Bは変形例の溶接構造を示す斜視図であって、下方から見上げた状態を表す。
図3Cは、
図3Aで表される断面3C-3Cで溶接構造を切断し、断面を矢の方向にみた状態を表す断面図である。この変形例につき、前述した実施形態と共通する構成については同一の符号を付して説明を省略し、異なる構成について以下に説明する。この変形例では
図3Cに示すように、板材22の縁部に沿って延びる溶接ビード22dが突片22gの一面側で突片22gの突出端に達し、折り返して突片22gの他面側でさらに延びて溶接ビード24bに接続する。
【0035】
変形例によれば、梁材20と板材22の溶接箇所で連続する溶接ビード22d,24bが、突片22gを巻き込むように包囲することから、溶接ビードの始終端を突片22gからなくすことができ、溶接品質が安定する。
【0036】
次に本実施形態を覆う部材について説明する。
図4Aは、上述した
図2A~
図3Cに示す凹部Gを覆う板状の梁部分を示す斜視図であり、下方から斜め上方を見上げている。
図4Bは、凹部Gを覆う板状の梁部分を示す底面図である。梁材20は、上下方向に広がる梁主材20bと、前後方向に広がる板状の梁部分20cを含む。つまり梁材20の断面形状は、梁主材20bを縦壁として、梁部分20cを横壁とする逆T字状断面である。
【0037】
梁部分20cは、底辺20dおよび頂部20fを有する三角形のような形状であり、底辺20dを底板15に突き合わせ溶接され、底辺20dから頂部20fまでを梁主材20bの下縁に突き合わせ溶接される。かかる梁部分20cは、梁材20の端部に設けられて、縦板13と梁主材21の溶接箇所を補剛する。
【0038】
図4Bに示すように梁部分20cは凹部Gと重なる。
図4Aに示すように、本実施形態の梁部分20cは、梁主材20bと縦板13と切り欠かれた板材角部22bとで区画される開口J全体を下方から覆う。本実施形態によれば、下方から飛来する石や砂等の異物が、梁部分20cで遮蔽される。したがって異物が凹部Gを通過して上方の機械室に侵入し難くされる。またアッパーフレーム10上の機械室内の物が開口Jや凹部Gを通過して落下することを防止する。
【0039】
なお図示しない変形例として、凹部を覆う部材である梁部分20cは、梁部分20の一部ではなく、単なる板材であってもよい。符号20cで示される部材は、例えば底板15のみに溶接されて梁主材20bには溶接されない部材であったり、あるいは例えば梁主材20bのみに溶接されて底板15には溶接されない部材であったりする。
【0040】
次に本発明の第2実施形態および第3実施形態になる溶接構造につき説明する。
図5は、これらの溶接構造を具備する作業機械のアッパーフレームを示す斜視図であり、
図1とは180度異なる方向からみた状態を表す。
図6は第2実施形態の溶接構造を拡大して示す斜視図である。
図7は第3実施形態の溶接構造を拡大して示す斜視図である。
【0041】
アッパーフレーム10の幅方向右側のサイドデッキ32は、前述した幅方向左側のサイドデッキ12と同様に、枠材34、梁材36,38,40を具備する。底板15は縦板13の下縁を越えて、サイドデッキ32へ広がる。アッパーフレーム10の前部領域に配置される梁材36は、その端部の下縁を底板15に溶接される。
【0042】
図6を参照して、梁材36は断面T字状であり、上下方向に広がる縦壁を含む。かかる縦壁の下縁は底板15に突き合わされて溶接ビード36bで互いに溶接される。溶接ビード36bの始終端36cに対応して、梁材36の縦壁下縁には、切り欠き状の凹部Gが形成される。また凹部Gと重なる補強板37が、梁材36に設けられる。補強板37には切り欠き状の第2凹部Hが形成される。第2凹部Hは凹部Gと重なって配置される。凹部Gおよび第2凹部Hは、半円形状あるいは逆U字形状であり、第2凹部Hが凹部Gよりも小さい。
【0043】
梁材36の凹部Gの凹底部G1は、補強板37の第2凹部Hの凹底部H1よりも後退する。第2凹部Hを通る仮想線(図略)を軸として補強板37は、略U字形状等の線対称の形状である。補強板37のうち線対称の一側および他側は、梁材36に溶接される。
【0044】
図6に示す実施形態によれば、センターセクション11から幅方向外側へ延びる梁材20と、センターセクション11よりも幅方向外側に配置されて前後方向および幅方向に広がる底板との溶接箇所において、この溶接箇所の始終端36cと隣り合う箇所に凹部Gが設けられることから、この溶接箇所が荷重を受ける際、始終端36cに作用する応力を緩和することができる。また始終端36cに隣り合う箇所に補強板37が設けられることから、当該隣り合う箇所に衝撃荷重が作用しても、衝撃荷重を受け持つことができる。その他の作用については、前述した
図2Aおよび
図2Bの実施形態と同様である。
【0045】
図7を参照して、梁材40は断面逆L字状であり、上下方向に広がる縦壁40bと、前後方向に広がる横壁40cと、縦壁40bおよび横壁40cが結合する稜線40dとを含む。縦板13と梁材の溶接箇所40f,40gも逆L字状配列であり、溶接箇所40f,40gの角部に着目して、縦壁40bおよび横壁40cには、稜線40dを切り欠くように凹部G,Gがそれぞれ形成される。これら凹部G,Gは互いに連続し、縦板13と向き合うC字のような輪郭をなす。換言すると凹部G,Gは、溶接箇所40f,40gの始終端にそれぞれ対応して設けられる。
【0046】
梁材40には、凹部G,Gと重なる補強板41が設けられる。補強板41には切り欠き状の第2凹部H,Hが形成される。第2凹部H,Hも互いに連続し、縦板13と向き合うC字状の輪郭をなす。各凹部Gおよび各第2凹部HはU字状である。各第2凹部Hは各凹部Gよりも小さく、各凹部Gに重なって配置される。大きな半円形状の各凹底部G1は小さな半円形状の各凹底部H1,H1から後退するように配置される。
【0047】
図7に示す実施形態によれば、センターセクション11に含まれ前後方向および上下方向に広がる縦板13と、センターセクション11から幅方向外側へ延びる梁材40との溶接箇所において、梁材40は縦壁40bと横壁40cとこれら壁同士が結合する稜線40dとを含み、この溶接箇所で稜線40dを切り欠く凹部G,Gが設けられることから、溶接箇所40gが荷重を受ける際、凹部Gによって溶接箇所40gの始終端40jに作用する応力を緩和することができる。また凹部Gに補強板42が設けられることから、凹部Gが設けられる箇所に衝撃荷重が作用しても、衝撃荷重を受け持つことができる。溶接箇所40fについても同様である。その他の作用については、前述した
図2Aおよび
図2Bの実施形態と同様である。
【0048】
次に本発明の第4実施形態から第6実施形態になる溶接構造につき説明する。
図8は、これらの溶接構造を具備する作業機械のアッパーフレームを示す斜視図であり、
図1とは180度異なる方向からみた状態を表す。アッパーフレーム10は、第4実施形態に係る補強板42と、第5実施形態に係る補強板43と、第6実施形態に係る補強板45とを具備する。
図9は第4実施形態の溶接構造を拡大して示す斜視図である。
図10は第5実施形態の溶接構造を拡大して示す斜視図である。
図11は第6実施形態の溶接構造を拡大して示す斜視図である。
【0049】
第4実施形態につき説明すると、
図9を参照して、梁材40と縦板13の溶接箇所40gの始終端40hに隣り合う箇所で、横壁40cの側縁には、切り欠き状の凹部Gが形成される。また凹部Gと重なる補強板42が、横壁40cに設けられる。補強板42には切り欠き状の第2凹部Hが形成される。第2凹部Hは凹部Gと重なって配置される。凹部Gおよび第2凹部Hは、半円形状あるいは逆U字形状であり、第2凹部Hが凹部Gよりも小さい。
【0050】
横壁40cの凹部Gの凹底部G1は、補強板42の第2凹部Hの凹底部H1よりも後退する。凹底部H1を補強板42の中央として、補強板42のうち第2凹部Hの一側および他側は、横壁40cに溶接される。
【0051】
図9に示す実施形態によれば、前後方向および上下方向に広がる縦板13と、縦板13から幅方向外側へ延びる梁材40との溶接箇所40gに対応して、凹部Gは梁材40の側縁を切り欠くものである。この溶接箇所40gが荷重を受ける際、凹部Gによって溶接箇所40gの始終端40hに作用する応力を緩和することができる。また凹部Gに補強板42が設けられることから、凹部Gが設けられる箇所に衝撃荷重が作用しても、衝撃荷重を受け持つことができる。その他の作用については、前述した
図2Aおよび
図2Bの実施形態と同様である。
【0052】
第5実施形態につき説明すると、
図10を参照して、梁材38は、上下方向に広がる縦壁38bと前後方向に広がる横壁38cを含む。梁材38の端部で、縦壁38bと横壁38cは縦板13に溶接される。縦壁38bと縦板13の溶接箇所38dの始終端38fに隣り合う箇所で、縦壁38bの側縁には、切り欠き状の凹部Gが形成される。また凹部Gと重なる補強板43が、縦壁38bに設けられる。補強板43には切り欠き状の第2凹部Hが形成される。第2凹部Hは凹部Gと重なって配置される。凹部Gおよび第2凹部Hは、半円形状あるいは逆U字形状であり、第2凹部Hが凹部Gよりも小さい。
【0053】
縦壁38bの凹部Gの凹底部G1は、補強板42の第2凹部Hの凹底部H1よりも後退する。第2凹部Hを通る仮想線(図略)を軸として補強板43は、略U字形状等の線対称の形状である。補強板43のうち線対称の一側および他側は、縦壁38bに溶接される。
【0054】
図10に示す実施形態によれば、前後方向および上下方向に広がる縦板13と、梁材38のうち上下方向に広がる縦壁38bとの溶接箇所38dに対応して、溶接箇所38dの始終端38fと隣り合う箇所に凹部Gが設けられることから、溶接箇所38dが荷重を受ける際、始終端38fに作用する応力を緩和することができる。また当該凹部Gに補強板43が設けられることから、凹部Gが設けられる箇所に衝撃荷重が作用しても、衝撃荷重を受け持つことができる。その他の作用については、前述した
図2Aおよび
図2Bの実施形態と同様である。
【0055】
第6実施形態につき説明する。説明を
図8に戻すと、梁材36の前方には、幅方向に延びる梁材35および前枠材46が配置される。梁材35と前枠材46の間には前後方向に延びる縦板44が配置される。縦板44は、上下方向に広がる鋼板である。
【0056】
図11を参照して、縦板44の前縁は前枠材46に突き合わされて溶接される。かかる溶接箇所を拡大して
図12Aおよび
図12Bの斜視図に示す。
図12Aはアッパーフレーム11の幅方向外側から内側をみた状態を表し、
図12Bは反対にみた状態を表し、これら図面は縦板44の表面および裏面を表す。縦板44と前枠材46との溶接箇所44bの一方の始終端44cに対応して、縦板44には切り欠き状の凹部Gcが形成される。凹部Gcは、溶接箇所44bに沿って延びる突片44fを残す。始終端44cは突片44fの突出端と根元の途中に配置される。
【0057】
また溶接箇所44bの他方の始終端44dに対応して、縦板44には切り欠き状の凹部Gdがさらに形成される。凹部Gdと凹部Gcは別々であるが相互に隣り合う。凹部Gdは、溶接箇所44bに沿って延びる突片44gを残す。始終端44dは突片44gの突出端と根元の途中に配置される。
【0058】
一方の凹部Gcおよび他方の凹部Gdと重なるよう、縦板44には補強板45が設けられる。1枚の補強板45には、切り欠き状の凹部Gc,Gdに対応して、2個の第2凹部Hc,Hdが形成される。第2凹部Hc,Hdはそれぞれ、縦板44の凹部Gc,Gdよりも小さく、完全に含まれている。このため
図12Bに示す凹部Gc,Gdの各凹底部G1はそれぞれ、第2凹部Hc,Hdの各凹底部H1から後退する。かかる後退方向は、溶接箇所44bのビード延在方向に等しい。つまり縦板44の凹底部G1,G1間は狭く、補強板45の凹底部H1,H1間は広い。凹底部H1を補強板45の中央として、補強板45のうち第2凹部Hc,Hdの一側は、溶接ビード45bで縦板44に溶接される。補強板45のうち第2凹部Hc,Hdの他側は、溶接ビード45cで前枠材46に溶接される。なお溶接ビード45cと溶接箇所44bは、縦板44の一方面と他方面に設けられる。
【0059】
図12Bに示す凹部Gc,Gdは、縦板44の縁部に沿って延びる溶接箇所44b(溶接ビード)の一方の始終端44cおよび他方の始終端44dにそれぞれ対応して設けられる。補強板45は、一方の凹部Gcおよび他方の凹部Gdに共通な1枚板である。かかる実施形態によれば、溶接箇所44dが十分に短い場合に、1枚の補強板45で、両方の始終端44c,44dに作用する応力を緩和することができる。また凹部Gc,Gdに補強板45が設けられることから、凹部Gc,Gdが設けられる箇所に衝撃荷重が作用しても、衝撃荷重を受け持つことができる。その他の作用については、前述した
図2Aおよび
図2Bの実施形態と同様である。
【0060】
以上、図面を参照して本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、図示した実施の形態のものに限定されない。図示した実施の形態に対して、本発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。例えば上述した1の実施形態から一部の構成を抜き出し、上述した他の実施形態から他の一部の構成を抜き出し、これら抜き出された構成を組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、機械において有利に利用される。
【符号の説明】
【0062】
10 アッパーフレーム(旋回体フレーム)、 11 センターセクション、 12 サイドデッキ、 13 縦板、 15 底板、
18,20 梁材、 20b 梁主材、 20c 梁部分(凹部を覆う部材)、
22 板材、 22b 板材角部(切り欠き)、 22g 突片、
24 補強板、 G 凹部、 H 第2凹部。