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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125042
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】セルロース溶解組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08B 16/00 20060101AFI20240906BHJP
   C08J 3/02 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
C08B16/00
C08J3/02 CEP
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033110
(22)【出願日】2023-03-03
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)(出願人による申告)令和4年度、経済産業省、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 「先導研究プログラム/エネルギー・環境新技術先導研究プログラム/植物由来繊維資源循環プロセスの研究開発」委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000004374
【氏名又は名称】日清紡ホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】309013336
【氏名又は名称】日清紡テキスタイル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】増田 現
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 忠利
(72)【発明者】
【氏名】中内 崚河
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 総人
【テーマコード(参考)】
4C090
4F070
【Fターム(参考)】
4C090AA04
4C090BA24
4C090CA06
4C090DA40
4F070AA02
4F070AC40
4F070AC45
4F070AC66
4F070AE28
4F070CA12
4F070CB11
(57)【要約】
【課題】作業が簡便なセルロース溶解組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】セルロースを含む原料、酸及び窒素原子を含む塩基を混合する工程を含むセルロース溶解組成物の製造方法であって、前記酸及び塩基が、これらの中和反応によりイオン液体を生成するものである製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースを含む原料、酸及び窒素原子を含む塩基を混合する工程を含むセルロース溶解組成物の製造方法であって、
前記酸及び塩基が、これらの中和反応によりイオン液体を生成するものである製造方法。
【請求項2】
前記塩基が、窒素原子含有複素環式化合物である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記塩基が、ジアザビシクロウンデセン又はジアザビシクロノネンである請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
前記塩基が、ジアザビシクロウンデセンである請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
前記酸が、カルボン酸、リン酸、アルキルリン酸、亜リン酸又はアルキル亜リン酸である請求項1~4のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項6】
前記酸が、カルボン酸である請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
前記酸が、酢酸である請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
混錬機を用いて混合を行う請求項1~4のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項9】
混合時に加熱を行う請求項1~4のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項10】
混合時に脱気を行う請求項1~4のいずれか1項記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース溶解組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオ燃料として期待されるセルロースは、水や有機溶剤を用いて溶解したり、抽出したりすることは困難であり、また、強酸とともに高温・高圧下で処理する既存の技術は、多大なエネルギーを必要とするという問題がある。
【0003】
そこで、近年、温和な条件下でセルロースを溶解できるイオン液体を用いてセルロースの溶解、単離・精製、分解、修飾反応を行うなどの技術が注目されている(特許文献1)。しかし、セルロースを溶解するイオン液体は広く知られているが、粘度が高いため、取り扱いが困難であるという問題があった。また、イオン液体は高価な物質であるため、セルロースの溶解等に使用した後のイオン液体を回収し、再利用することも重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-109920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、作業が簡便なセルロース溶解組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、セルロースと、中和塩型イオン液体を生成し得る窒素原子を含む塩基及び酸とを混合することで、簡便な作業でセルロース溶解組成物を製造し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、下記セルロース溶解組成物の製造方法を提供する。
1.セルロースを含む原料、酸及び窒素原子を含む塩基を混合する工程を含むセルロース溶解組成物の製造方法であって、
前記酸及び塩基が、これらの中和反応によりイオン液体を生成するものである製造方法。
2.前記塩基が、窒素原子含有複素環式化合物である1の製造方法。
3.前記塩基が、ジアザビシクロウンデセン又はジアザビシクロノネンである2の製造方法。
4.前記塩基が、ジアザビシクロウンデセンである3の製造方法。
5.前記酸が、カルボン酸、リン酸、アルキルリン酸、亜リン酸又はアルキル亜リン酸である1~4のいずれかの製造方法。
6.前記酸が、カルボン酸である5の製造方法。
7.前記酸が、酢酸である6の製造方法。
8.混錬機を用いて混合を行う1~7のいずれかの製造方法。
9・混合時に加熱を行う1~8のいずれかの製造方法。
10.混合時に脱気を行う1~9のいずれかの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、簡便な作業でセルロース溶解組成物を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のセルロース溶解組成物の製造方法は、セルロースを含む原料、酸及び窒素原子を含む塩基を混合する工程を含むものである。
【0010】
前記セルロースを含む原料としては、特に限定されないが、粉状セルロース(アビセル(登録商標)等)、パルプ、原綿、製造工程から排出されるセルロースを含む廃棄物(落綿、裁断くず等)、セルロースを含む衣料、タオル類、ベッドカバー、シーツ及びこれらの廃棄物等を使用することができる。
【0011】
前記酸及び塩基は、これらの中和反応によりイオン液体を生成するものである。以下、このような酸及び塩基の中和反応により得られる塩からなるイオン液体を中和塩型イオン液体ともいう。前記中和塩型イオン液体は、プロトンが付加してなるカチオンを有するものである。また、イオン液体とは、融点が100℃以下の塩のことをいう。
【0012】
前記塩基としては、窒素原子含有複素環式化合物であることが好ましい。このような化合物は、脂肪族複素環式化合物でもよく、芳香族複素環式化合物でもよい。前記脂肪族複素環式化合物としては、ピペリジン、ピロリジン、ピペラジン等の単環式化合物、ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロノネン、キヌクリジン等の多環式化合物が挙げられる。前記芳香族複素環式化合物としては、イミダゾール、1-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、1-エチルイミダゾール、1-ブチルイミダゾール等のイミダゾール類、ピリジン、インドール、イソインドール、キノリン等が挙げられる。これらのうち、前記塩基としてはジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロノネン、キヌクリジン、イミダゾール類等が好ましく、ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロノネンがより好ましく、ジアザビシクロウンデセンが更に好ましい。
【0013】
前記酸としては、カルボン酸、リン酸、アルキルリン酸、フェノール、亜リン酸又はアルキル亜リン酸が好ましい。前記カルボン酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、トリフルオロ酢酸、フマル酸、マレイン酸等の脂肪族カルボン酸、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族カルボン酸が挙げられる。前記アルキルリン酸としては、例えば、(R1O)(R2O)P(=O)OHで表されるものが挙げられる。前記アルキル亜リン酸としては、例えば、(R3O)(H)P(=O)OH又は(R3O)(R4O)POHで表されるものが挙げられる。R1~R4は、それぞれ独立に、炭素数1~8のアルキル基であるが、好ましくは炭素数1~4のアルキル基である。
【0014】
セルロース、酸及び窒素原子を含む塩基は、任意の順で混合すればよく、例えば、セルロースに塩基及び酸を加えて混合する方法や、塩基及び酸を混合して中和塩型イオン液体を生成させた後、セルロースを混合する方法が挙げられる。先に塩基及び酸を混合して中和塩型イオン液体を生成させる場合、中和熱が発生するが、中和熱が発生している間にセルロースを添加することが好ましい。この場合、中和熱によってセルロースの溶解性が向上するため、混合が容易になる。
【0015】
前記酸及び塩基の添加量は、セルロース溶解組成物中のセルロースの濃度が、1~50質量%程度となるように添加することが好ましく、3~25質量%程度となるように添加することがより好ましい。また、前記酸及び塩基は、モル比で、酸:塩基=1.5:1.0~1.0:1.5となるように添加することが好ましく、1.1:1.0~1.0:1.1となるように添加することがより好ましい。
【0016】
混合の方法は、特に限定されないが、混練機を用いて行うことが好ましい。前記混練機としては、二軸又は多軸混練機、通常の撹拌できる反応容器、ボールミル、遊星式ボールミル、反応釜等を使用することができるが、混練の効率や生成したドープの取り出しやすさの観点から、二軸又は多軸混練機が好ましい。
【0017】
混合中に、加熱をすることが好ましい。加熱温度は、イオン液体の融点以上の温度であれば特に限定されないが、20~150℃程度が好ましく、40~120℃程度がより好ましい。加熱は、混合開始時から行ってもよく、混合中に行ってもよい。また、塩基及び酸を先に混合した場合は、中和熱が発生するため、全てを混合してから加熱を行ってもよい。
【0018】
また、混合中に、脱気を行うことが好ましい。脱気は、例えば、真空ポンプ等を用いて105~10-1Pa程度に減圧することで行うことできる。また。脱気は加熱中に行ってもよい。
【0019】
混合時間は、セルロースが溶解する時間であれば特に限定されないが、1~120分間程度が好ましく、10~60分間程度がより好ましい。
【実施例0020】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されない。
【0021】
[実施例1]
二軸混錬機((株)テクノベル製KZW15TW-120MG-NH(-1100)、L/D120、スクリュー径15mm)を105℃まで予め昇温し、スクリュー回転数を100rpmの状態としておき、ジアザビシクロウンデセンを供給速度278g/hで、及び酢酸を供給速度110g/hで同時に供給した。スクリュー回転数を500rpmまで上昇させた後、セルロースを供給速度20.4g/hで供給した。セルロース溶解液が吐出口まで通過した後、水封式真空ポンプ(神港精機(株)製SW-S7型)を用いて1×104Paに減圧して脱気を開始し、滞留時間(混合時間)約19分間の条件で混練を行った。混練中に下記式(1)で表されるイオン液体(DBUH・AcO)が生成し、該イオン液体にセルロースが溶解したセルロース溶解組成物を得た。セルロースは、イオン液体に完全に溶解していた。また、組成物中に気泡は確認されなかった。さらに、作業性も良好であった。
【化1】
【0022】
[比較例1]
二軸混錬機((株)テクノベル製KZW15TW-120MG-NH(-1100)、L/D120、スクリュー径15mm)を105℃まで予め昇温し、スクリュー回転数を100rpmの状態としておき、そこへ、イオン液体であるDBUH・AcOを供給速度200~400g/hで供給した。スクリュー回転数を500rpmまで上昇させた後、セルロースを供給速度20.4g/hで供給した。セルロース溶解液が吐出口まで通過した後、水封式真空ポンプ(神港精機(株)製SW-S7型)を用いて1×104Paに減圧して脱気を開始し、滞留時間(混合時間)約19分間の条件で混練を行い、セルロース溶解組成物を得た。セルロースは、未溶解のものが目視で確認された。また、組成物中に気泡が確認された。さらに、イオン液体を均一な速度で供給することが困難であり、作業性に問題があった。