(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024012505
(43)【公開日】2024-01-30
(54)【発明の名称】ヘリコバクター・スイス感染の診断法
(51)【国際特許分類】
C07K 2/00 20060101AFI20240123BHJP
C07K 16/08 20060101ALI20240123BHJP
C07K 7/00 20060101ALI20240123BHJP
C07K 14/195 20060101ALI20240123BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20240123BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20240123BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20240123BHJP
C12N 15/31 20060101ALI20240123BHJP
C12Q 1/04 20060101ALI20240123BHJP
A61K 39/106 20060101ALI20240123BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240123BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20240123BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240123BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20240123BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240123BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20240123BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20240123BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240123BHJP
A61K 31/7088 20060101ALN20240123BHJP
【FI】
C07K2/00
C07K16/08
C07K7/00
C07K14/195
C12N1/20 A
C12N15/11
C12N15/09 Z
C12N15/31
C12Q1/04
A61K39/106
A61K48/00
A61P31/04
A61P37/04
A61P1/04
A61P35/00
A61P7/00
A61P1/00
A61K39/395 D
A61K39/395 R
A61K31/7088
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023188569
(22)【出願日】2023-11-02
(62)【分割の表示】P 2020521277の分割
【原出願日】2019-05-22
(31)【優先権主張番号】P 2018098504
(32)【優先日】2018-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018099903
(32)【優先日】2018-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(72)【発明者】
【氏名】松井 英則
(72)【発明者】
【氏名】中村 正彦
(72)【発明者】
【氏名】村山 ▲そう▼明
(72)【発明者】
【氏名】高橋 哲史
(72)【発明者】
【氏名】林原 絵美子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 仁人
(72)【発明者】
【氏名】柴山 恵吾
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は,H.スイス特異的な診断方法を提供することを目的とする。別の目的として,本発明は,H.スイスに特異的な診断方法であって,非侵襲的な方法を含む簡便な検査法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明者らは,H.スイス感染者の体内にH.スイスにのみ特異的に存在する外膜タンパク質(HsvA;本発明者が命名)とそれに対する抗体が存在することを新規に発見し,HsvAタンパク質の抗原部位となるアミノ酸配列を利用する診断法を見出した。よって,本発明は,HsvA抗原ペプチドからなるH.スイス特異的抗原及びhsvA遺伝子由来のH.スイス特異的DNAを利用したH.スイスを特異的に検出可能な方法を提供するものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,新規に発見したヘリコバクター・スイスに特異的な外膜タンパク質遺伝子及びその遺伝子産物(タンパク質)並びにそれらに対する抗体を利用した,ヘリコバクター・スイス感染の診断方法及び診断薬に関する。
【背景技術】
【0002】
現在,慢性胃炎,胃潰瘍や十二指腸潰瘍,胃癌,胃Mucosa-Associated Lymphoid Tissue(MALT)リンパ腫,びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫に,ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori,ヒトの胃に寄生する微好気性のグラム陰性螺旋菌, 以下,「H.ピロリ」という)による感染が関与することが知られている。H.ピロリの感染検査方法として,分離培養法や尿素呼気試験,血清や尿中のH.ピロリ抗体価の測定(ELISAとラッテクス凝集法),便中のH.ピロリ抗原測定(イムノクロマト法)が主に採用されている。
【0003】
しかし,近年,H.ピロリの診断や除菌薬の普及に伴い,H.ピロリ以外のヒトに重篤な胃疾患を誘発するヘリコバクターとして,広義のヘリコバクター・ハイルマニイが問題となってきた。広義のヘリコバクター・ハイルマニイ(ヘリコバクター・ハイルマニイ・センス・ラト:Helicobacter heilmannii sensu lato,以下,「H.ハイルマニイ」という)には,狭義のヘリコバクター・ハイルマニイ(ヘリコバクター・ハイルマニイ・センス・ストリクト:H.heilmannii sensu stricto),ヘリコバクター・スイス(H.suis),H.bizzozeronnii,H.felis,及びH.salmonisが含まれ,このうちヒトの胃から見つかる大部分のヘリコバクターは,H.suis(以下,H.スイス)であるが,迅速診断法が確立していない(非特許文献1)。
【0004】
H.ピロリは霊長類にしか感染せず,乳幼児期においてのみ近親者からの感染が想定されるが,H.スイスは年齢に関係なく,豚,猫,医務などの動物から感染する。H.ピロリが全長2.5~5.0μmであるのに対して,H.ハイルマニイは5~10μmである(非特許文献2)。H.ピロリの主要な病原因子であるCagPAI(pathogenicity island)と呼ばれるIV型分泌装置関連タンパク質遺伝子と宿主内に注入され癌を誘発するタンパク質遺伝子を含む遺伝子塊とVacA(Vacuolating cytotoxin A)と呼ばれる胃粘膜にびらんや潰瘍を発症させたり,培養細胞には空砲変性させて死に至らしめたり, アポトーシスを誘発するなど, 広範多岐にわたる作用を示すタンパク質毒素の遺伝子をH.スイスを含むH.ハイルマニイは欠損している(非特許文献3)。
【0005】
また,H.スイス感染により,リンパ球の集積が主体となる胃MALTリンパ腫を高頻度に発症することが報告されている。更に,マウスを用いた感染実験から,H.スイスの感染力はH.ピロリよりはるかに強いことが示されている他(非特許文献4),H.スイスは両端に鞭毛をもち,運動性が高く胃腺腔深部や壁細胞内に侵入し,抗生物質が効きにくいことが報告されている(非特許文献5)。
【0006】
実際に,H.ピロリ陰性であるにもかかわらず胃炎や胃疾患の症状を呈する患者の凡そ60%以上はH.スイス感染陽性であると考えられている(非特許文献6)。また,MALTリンパ腫の25~50%はH.スイス感染によるものと考えられている(非特許文献5)。
【0007】
しかし,H.ピロリがウレアーゼ陽性であるのに対して,ヒトから分離されたH.スイスはウレアーゼ遺伝子を有するにもかかわらずウレアーゼ試験や尿素呼気試験で陰性を示す場合が多い(動物から分離されたH.スイスはウレアーゼ試験や尿素呼気試験に陽性である)。よって,H.スイスは,H.ピロリで用いられているウレアーセ試験や尿素呼気試験により感染を診断することができない。また,豚から分離された株についてin vitro培養に成功した報告(特許文献1)はあるものの,分離寒天培地でのH.スイスのコロニー形成の報告は無く,ヒトから分離された株はin vitroでの培養ができ
ず,ヒト患者の胃バイオプシーに含まれるH.スイスは未だin vitroでの純粋培養ができない(非特許文献7)。このためH.ピロリで用いられている分離培養法による診断も不可能であった。よって,ヒトで見つかるH.スイスは,難培養性の上にウレアーゼ活性が弱いため,通常のピロリの検査法では,検出できなかった。
【0008】
一方で,重症胃炎のネコから単離されたH.heilmannii sensu stricto ASB1株(非特許文献8),ヒト胃粘膜から単離されたH. bizzozeronnii CIII-1株(非特許文献9),ブタの胃粘膜から単離されたH.スイス H1株及びH5株(非特許文献10,H.felis CS1株(非特許文献11),及び鳥肌胃炎の日本人患者から単離されたH.スイスSNTW101株(非特許文献12)の全ゲノムの概要(ドラフトゲノム)が解析され,報告されている。現在は,胃バイオプシーからDNAを調製し,H.ハイルマニイ特異的16S rRNA遺伝子を標的としたPCR法がH.スイス含むH.ハイルマニイ感染の一般的な診断法である。
【0009】
しかし,既存のH.ハイルマニイの診断方法としては組織検査を要し,かつH.スイスと他のH.ハイルマニイを区別して診断することはできなかった(特許文献2)。このように,H.スイス感染のみを診断可能な方法,また非侵襲的な方法は未だに確立されていない(非特許文献13)。そこで,簡便で高感度のH.スイスの検査法の開発が求められていた。
これまでに,本発明者らは,カニクイサルから単離されたH.スイスのゲノム解析情報に基づき,F2R2タンパク質及びその遺伝子配列を標的としたH.スイス感染の診断方法を報告している(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2011-15664号公報
【特許文献2】米国特許公開2006-0078919号公報
【特許文献3】特開2016-10331号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Blaecher Cら,Helicobacter.(2016)22(3):e12369
【非特許文献2】Overby Aら,Digestion.(2016)93(4):260-5
【非特許文献3】Vermoote Mら,Vet Res.(2011)42:51
【非特許文献4】Nakamura Mら,Infect Immun.(2007)75(3):1214-22
【非特許文献5】Overby Aら,Digestion.(2017)95(1):61-6
【非特許文献6】中村正彦ら,検査と技術(2016)44(4):278-84
【非特許文献7】Matsui Hら,Helicobacter.(2014)19(4):260-71
【非特許文献8】Smet Aら,Genome Announcements(2013)1(1):e00033-12
【非特許文献9】Schott Tら,Journal of Bacteriology(2011)193(17):4565-6
【非特許文献10】Vermoote Mら,Veterinary Research(2011)42:51
【非特許文献11】Arnold I Cら,Genom Biol. Evol. (2011)3:302-8
【非特許文献12】Matsui Hら,Genome Announcements(2016)4(5):e00934-16
【非特許文献13】Bento-Miranda Mら,World J Gastroenterol(2014)20(47):17779-87
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は,H.スイス特異的な診断方法を提供することを目的とする。別の目的として,本発明は,H.スイスに特異的な診断方法であって,非侵襲的な方法を含む簡易迅速検査法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
今回,本発明者らは,H.スイス感染者の体内にH.スイスにのみ特異的に存在する外膜タンパク質(HsvA;本発明者が命名)とそれに対する抗体が存在することを新規に発見し,HsvAタンパク質の抗原部位となるアミノ酸配列を利用する診断法を見出した。F2R2タンパク質には,本発明で標的となるHsvAタンパク質に存在する菌体の外膜タンパク質に共通なアミノ末端側のシグナルペプチド領域と,カルボキシ末端側のオートトランスポーター(グラム陰性菌に特有なタンパク質の外膜輸送機構),機能発現に関与するdisorder領域などの構造が存在しない(
図1参照)。従って,H.スイス感染者は,外膜タンパク質と想定されるHsvAタンパク質に対する抗体価方がF2R2タンパク質に対する抗体価より高いと想定できる。
【0014】
本発明者らはH.スイス特異的に検出可能な方法について種々検討を行った結果,H.スイス感染した患者の血液中H.スイス特異的な外膜タンパク質であるHsvAに対する抗体が存在することを発見し,HsvAタンパク質の抗原部位となるアミノ酸配列を利用することで,H.スイス感染をH.ピロリ感染と区別して検出可能であることを明らかとした。
【0015】
hsvA遺伝子は,鳥肌胃炎の患者から分離したH.スイス SNTW101株(Matsui Hら,Genome Announcements(2016)4(5):e00934-16参照)に含まれ,その塩基配列(hsvA遺伝子:配列番号1)は,H.ピロリの空砲化毒素タンパク質VacA(Cover TLら,Nat Rev Microbiol.(2005)3(4):320-32)と分子量が大きく異なり同一性は無いが,H.ピロリの外膜タンパク質の特徴であるアミノ末端側のシグナルペプチド領域と,カルボキシ末端側のオートトランスポーター(グラム陰性菌に特有のタンパク質の外膜輸送機構)βドメインを有している。更に,機能発現に関与するdisorder領域も有している(
図1参照)。また,hsvA遺伝子は,ブタから分離されたH.スイス HS1株及びHS5株のドラフトゲノム中にも含まれているが(Vermoote Mら,Vet Res.(2011)42:51),いずれもH.ピロリのVacAタンパク質と同一性は無く,H.ピロリのVacAの機能を有しないだけでなく,そもそも発現しない遺伝子と考えられていた。しかし,本発明者らは,H.スイス感染者の体内にHsvAタンパク質とそれに対する抗体の存在を新規に発見し,HsvAについて更に検討した結果,HsvAタンパク質は,H.スイスの外膜タンパク質として発現していることを初めて見出した。
【0016】
本発明はかかる知見に基づきなされたものであり,よって,本発明は以下の発明に関する。
(1) HsvA抗原ペプチド又はその免疫学的に同等な変異体。
(2) H.スイス由来である,(1)に記載の抗原ペプチド又はその免疫学的変異体免疫学的に同等な変異体。
(3) HsvA抗原ペプチドが,配列番号2,配列番号28,配列番号30,及び配列番号78~83のいずれか1つに記載のアミノ酸配列に含まれる5~50アミノ酸からなる配列を有する,(1)に記載の抗原ペプチド又はその免疫学的変異体免疫学的に同等な変異体。
(4) HsvA抗原ペプチドが,配列番号78~83のいずれか1つに記載のアミノ酸配列に含まれる,5~50アミノ酸からなる配列を有する,(3)に記載のペプチド又はその免疫学的に同等な変異体。
(5) HsvA抗原ペプチドが,以下の群から選択されるいずれか1つのアミノ酸配列を有するペプチド又はその免疫学的に同等な変異体である,(1)に記載のペプチド又はその免疫学的に同等な変異体:
EKX1AVX2X3X4X5NSNX6X7(ペプチドNo.11:配列番号24),
NQGTLEFLSNDVSX8(ペプチドNo.19:配列番号25),
X9SX10KLQX11X12LKSX13X14X15(ペプチドNo.33:配列番号26),
TNGQEVSASIDYNK(ペプチドNo.16:配列番号12),
AKLSNFASNDALPD(ペプチドNo.23:配列番号13),
PTTSSGASPDSSNP(ペプチドNo.10:配列番号14),
GLGRDLFVHSMGDK(ペプチドNo.21:配列番号15),
QIGKIKLSDVLSAS(ペプチドNo.15:配列番号16),
YGAIDKELHFSGGK(ペプチドNo.34:配列番号17),
NVDNILNMPSTTSG(ペプチドNo.20:配列番号18),
GNLKGVYYPKSSTT(ペプチドNo.22:配列番号19),
ITEKIQSGKLTITI(ペプチドNo.14:配列番号20),
FHDFLVSLKGKKFA(ペプチドNo.26:配列番号21),
TTGGEVRLFRSFYV(ペプチドNo.31:配列番号22),及び
及びIGARFGLDYQDINI(ペプチドNo.35:配列番号23)
ここで,X1はK又はDであり,X2はQ,E又はTであり,X3はQ又はSであり,X4はM又はLであり,X5はE又はKであり,X6はP又はSであり,X7はD又はGであり,X8はN又はTであり,X9はL又はFであり,X10はN又はDであり,X11はG,D又はNであり,X12はQ又はMであり,X13はM又はLであり,X14はG又はNであり,かつX15はL又はMである。
(6) HsvA抗原ペプチドが,以下の群から選択されるいずれか1つのアミノ酸配列を有するペプチド又はその免疫学的に同等な変異体である,(5)に記載のペプチド又はその免疫学的に同等な変異体:
EKKAVQQMENSNPD(ペプチドNo.11:配列番号3),
EKKAVEQMENSNPD(ペプチドNo.11(TKY):配列番号4),
EKDAVTSLKNSNSG(ペプチドNo.11(SH8):配列番号5),
EKDAVTSLENSNSG(ペプチドNo.11(SH10):配列番号6),
NQGTLEFLSNDVSN(ペプチドNo.19:配列番号7),
NQGTLEFLSNDVST(ペプチドNo.19(TKY):配列番号8),
LSNKLQGQLKSMGL(ペプチドNo.33:配列番号9),
LSNKLQDQLKSMGL(ペプチドNo.33(TKY):配列番号10),
FSDKLQNMLKSLNM(ペプチドNo.33(SH10):配列番号11),
TNGQEVSASIDYNK(ペプチドNo.16:配列番号12),
AKLSNFASNDALPD(ペプチドNo.23:配列番号13),
PTTSSGASPDSSNP(ペプチドNo.10:配列番号14),
GLGRDLFVHSMGDK(ペプチドNo.21:配列番号15),
QIGKIKLSDVLSAS(ペプチドNo.15:配列番号16),
YGAIDKELHFSGGK(ペプチドNo.34:配列番号17),
NVDNILNMPSTTSG(ペプチドNo.20:配列番号18),
GNLKGVYYPKSSTT(ペプチドNo.22:配列番号19),
ITEKIQSGKLTITI(ペプチドNo.14:配列番号20),
FHDFLVSLKGKKFA(ペプチドNo.26:配列番号21),
TTGGEVRLFRSFYV(ペプチドNo.31:配列番号22),
IGARFGLDYQDINI(ペプチドNo.35:配列番号23)、
KQLPQPKRSELKPK(ペプチドNo.8:配列番号86)、
TNIKQYMQNNHRSQ(ペプチドNo.31N:配列番号87)、
TLTLEGTETFAQNS(ペプチドNo.81:配列番号88)、
EAYAKNQGDIWSTI(ペプチドNo.63:配列番号89)、
VIGSKSSITLNSAN(ペプチドNo.73:配列番号90)、及び
ADIQSSQTTFANSV(ペプチドNo.61:配列番号91)。
(7) (1)~(6)のいずれか1項のペプチド又はその免疫学的に同等な変異体に特異的に結合する抗体又はその免疫反応性断片。
(8) hsvA遺伝子とストリンジェントな条件下で結合可能である,5~40ヌクレオチドからなる核酸分子。
(9) hsvA遺伝子が,配列番号1,配列番号27又は配列番号29に記載の塩基配列を有する,(8)に記載の核酸分子。
(10) 以下の群から選択されるいずれか1つの塩基配列を有する,(9)に記載の核酸分子:
CTTTTAGCGTGGTATCCTTC(配列番号31),TTACAAAGACCACCAACGGA(配列番号32),TACCATAGAAAGCGGAAAC(配列番号33),AGCTATAGCTTTGCACCTGA(配列番号34),ACTAACAGCATAGAAGTTGGGGA(配列番号35),AACAACATTACAGGCATGAG(配列番号36),CAAATAGTAACAGGACAATT(配列番号37),CAGGATTTAAGAGGCACTTA(配列番号38),TCTTAACCAATCTGAGCAA(配列番号39),GTCAAACACGTTATTGATGGCTT(配列番号40),GGGGTTTAATAGCATAGGG(配列番号41),TAGAGCTCTACACCAGTCTT(配列番号42),ATAAAGCCCATGAATTCTTAGGCATGCGTGCTCTG(配列番号43),TGCTATTGATAAAGAGTTACATTTCTCAGG(配列番号44),ATTTCTCAGGGGGAAAGTC(配列番号45),GGCTAATAATTTAACCACAATAAGCGCCTTTAA(配列番号46),GATGGGCGCTTCTGGTTTA(配列番号47),ATGAATTCTTAGGCATGCGTGCTCT(配列番号48),TTTTGGAGGTGTAGGAGTAGAT(配列番号49),AGCGCGCATTTAAAACAGGT(配列番号50),AGAAACGAGATTACAGGAAG(配列番号51),AGGAGCAAGTTTTGTAGCAG(配列番号52),AAAATGCGACTGATTGGATG(配列番号53),TTGAAATTTGGCCACGCT(配列番号54),TCACCCATAGAATGGACGAA(配列番号55),CTAGCGCATTAACCACAGACTG(配列番号56),TAGAAGTTGTAGACACGGT(配列番号57),GTGATATTGCCTTTCTGAAC(配列番号58),GCAAGTTTTGTGCGGATT(配列番号59),ATGTGATACACATCTGACC(配列番号60),AGTGCCGTTACCATCGTGAA(配列番号61),TATTCAAGGAAAGTCCCTGGAGAAACTCCAGAGAC(配列番号62),TTAAAGGCGCTTATTGTGGTTAAATTATTAGCC(配列番号63),ATTAGCCTTAAGGGTGCTATC(配列番号64),CTGGTAATGCATCATTAGAAGCAAA(配列番号65),TACGCGCAAAATAGGTTCTT(配列番号66),TGGAGAAACTCCAGAGACTA(配列番号67),TTGTTCGCTGTAGTGCCGTGG(配列番号68),GAAGGATACCACGCTAAAAG(配列番号69),AAGCTAGAGTTTTGGTTGAG(配列番号70),TTG
CTCAGATTGGTTAAGA(配列番号71),ATCGAAATAAGCGAACCTCA(配列番号72),TTGAAAGCTTAGCTAAACGG(配列番号73),TGGTATTGCTGGTTAAGAGG(配列番号74),CAAACAGATGAGCCGT(配列番号75),ATGAAAAAGTTTAGTTCTCTCACATTGAAATTTGGCCACGCTC(配列番号76),及びCTAAAAAGCATAGCGCATCCCGACATTGCCTGTAATATTAATATC(配列番号77)。
(11) hsvA遺伝子の全部又は一部を増幅可能なプライマーである,(8)~(10のいずれか1項に記載の核酸分子。
(12) hsvA遺伝子を検出するためのプローブである,(8)~(10)のいずれか1項に記載の核酸分子。
(13) サンプル中のhsvA遺伝子の全部又は一部を検出することを含む,H.スイスの存在を判定する方法,ここで,hsvA遺伝子の全部又は一部が検出されたサンプルをH.スイスが存在すると判定される。
(14) (13)に記載のH.スイスの存在を判定する方法であって,
サンプル中のDNAを鋳型として用いて,(11)に記載のプライマーを用いてhsvA遺伝子の全部又は一部を増幅させること,
増幅されたDNAを検出すること,及び
DNAの増幅が検出されたサンプルをH.スイスが存在すると判定すること,を含む方法。
(15) (13)に記載のH.スイスの存在を判定する方法であって,
サンプル中のDNAと(12)に記載のプローブとを接触させること,
(12)に記載のプローブと結合したDNAを検出すること,及び
(11)に記載のプローブと結合したDNAが検出されたサンプルをH.スイスが存在すると判定すること,を含む方法。
(16) サンプル中のHsvAタンパク質又はその断片を検出すること,前記HsvAタンパク質又はその断片が検出されたサンプルをH.スイスが存在すると判定することを含む,H.スイスの存在の判定方法。
(17) (16)に記載のH.スイスの存在の判定方法であって:
サンプルと(7)に記載の抗体又はその免疫反応性断片とを接触させること,
前記抗体又はその免疫反応性断片と結合した,前記サンプル中のHsvAタンパク質又はその断片を検出すること,及び
前記抗体又はその免疫反応性断片と結合したHsvAタンパク質又はその断片が検出されたサンプルをH.スイスが存在するサンプルと判定すること,を含む方法。
(18) 被験者のH.スイスへの感染を判定する方法であって,
被験者由来のサンプルをサンプルとして用いて(12)~(17)のいずれか1項に記載の方法を行うこと,及び,
当該方法においてH.スイスが存在すると判定されたサンプルが由来する被験者をH.スイスに感染していると判定することを含む方法。
(19) 被験者のH.スイスへの感染を判定する方法であって,
被験者由来の血液サンプル中のHsvA抗原ペプチドと結合する抗体を検出すること,及び
前記ペプチドと結合する抗体が検出された被験者をH.スイスに感染していると判定することを含む方法。
(20) 以下の工程を含む,(19)に記載のH.スイスへの感染を判定する方法:
被験者由来のサンプルと(1)~(6)のいずれか1項に記載のペプチドとを接触させること,
前記ペプチドと結合した,前記血液サンプル中の抗体を検出すること,及び
前記ペプチドと結合した抗体が検出された被験者をH.スイスに感染していると判定すること。
(21) (1)~(6)のいずれか1項に記載のペプチド,(8)~(10)のいずれか1項に記載の核酸分子,及び(7)に記載の抗体又はその免疫反応性断片から選択されるいずれか一つを含有するH.スイス感染判定用組成物。
(22) (1)~(6)のいずれか1項に記載のペプチド,(8)~(10)のいずれか1項に記載の核酸分子,及び(7)に記載の抗体又はその免疫反応性断片から選択されるいずれか一つを含有する医薬組成物。
(23) H.スイス除菌療法用である,(22)に記載の医薬組成物。
(24) 胃炎,胃潰瘍や十二指腸潰瘍,胃癌,慢性胃炎,胃MALTリンパ腫,鳥肌胃炎,特発性血小板減少紫斑病,機能性ディスペプシア,又はびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫の治療用又は予防用である,(22)に記載の医薬組成物。
【0017】
(H.スイス)
本明細書において,「H.スイス」とは,H.ハイルマニイ(広義)に含まれる,H.ハイルマニータイプ1に属する菌株を意味する。H.スイスは,ヒト以外にイヌ,ネコ,ブタ,サルなどの胃に感染することが知られている。本明細書におけるH.スイスが単離された感染哺乳動物は特に限定されるものではなく,例えば,ヒト,サル,又はブタであってよい。好ましくは,H.スイスはヒトから単離されたH.スイス(例えば,SNTW101株)である。
【0018】
(hsvA遺伝子及びHsvAタンパク質)
本明細書において,「hsvA遺伝子」及び「HsvAタンパク質」とは,H.スイスに由来する,ヘリコバクター属細菌の外膜タンパク質のアミノ末端側のシグナルペプチド領域と,カルボキシ末端側のオートトランスポーター(タンパク質の外膜輸送機構)βドメイン及び,機能発現に関与するdisorder領域を有する遺伝子及びアミノ酸を意味する。限定されない例の一つとして,hsvA遺伝子及びHsvAタンパク質は,それぞれH.スイス SNTW101株に由来する,配列番号1に記載の塩基配列(又は,
図2に記載の塩基配列,本明細書において同様)を有する遺伝子,及び配列番号2に記載のアミノ酸配列(又は,
図2に記載のアミノ酸配列,本明細書において同様)を有するタンパク質を挙げることができる。配列番号2に記載のアミノ酸配列において,1番目~27番目のアミノ酸はシグナル配列をコードし,2273~2475番目のアミノ酸はdisorder領域をコードし,2686~2992番目のアミノ酸は,オートトランスポーターβ領域をコードする。よって,本明細書においてHsvAタンパク質とは,配列番号2に記載のアミノ酸配列のうちシグナル配列を除く28番目から2992番目のアミノ酸からなるタンパク質を含む。H.スイスの他の株に由来する他のhsvA遺伝子及びHsvAタンパク質も本明細書のhsvA遺伝子及びHsvAタンパク質に含まれる。一例として,HsvAタンパク質は,H.スイスに由来するタンパク質であって,配列番号2に記載のアミノ酸配列(又は,配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち28番目から2992番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列)と80%,85%,90%,95%,98%,又は99%の同一性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質を含む。同様に,hsvA遺伝子は,H.スイスに由来する遺伝子であって,配列番号2に記載のアミノ酸配列(又は,配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち28番目から2992番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列)と80%,85%,90%,95%,98%,又は99%の同一性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する遺伝子を含む。ここで,アミノ酸配列の同一性は,例えば,BLAST,FASTA等の公知のプログラムを用いて当業者が通常用いる方法により決定することができる。あるいは,hsvA遺伝子は,H.スイスに由来する遺伝子であって,配列番号1に記載の塩基配列と相補的な塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAを含む遺伝子を含む。また,HsvAタンパク質は当該遺伝子でコードされたタンパク質を含む。さらに,HsvAタンパク質は,H.スイスに由来するタンパク質であって,配列番号2に記載のアミノ酸配列(又は,配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち28番目から2992番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列)において,1~50個(例えば,1~40個,1~30個,1~25個,1~20個,1~15個,1~10個,1~8個,1~6個,1~5個,1~4個,1~3個,又は1~2個であってもよい。本明細書において,以下同じ)のアミノ酸が他のアミノ酸と置換され,欠失し,付加され,又は挿入されたアミノ酸配列を有するタンパク質を含む。同様に,hsvA遺伝子は,H.スイスに由来する遺伝子であって,配列番号2に記載のアミノ酸配列(又は,配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち28番目から2992番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列)において,1~50個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換され,欠失し,付加され,又は挿入されたたアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する遺伝子を含む。
【0019】
例えば,hsvA遺伝子及びHsvAタンパク質は,それぞれH.スイス HS1株又はHS5に由来する,配列番号27又は29に記載の塩基配列を有する遺伝子,及び配列番号28又は30に記載のアミノ酸配列を含む。
【0020】
好ましくは,HsvAタンパク質は,配列番号78~83のいずれか1つの配列に記載のアミノ酸配列;配列番号78~83のいずれか1つの配列に記載のアミノ酸配列と80%,85%,90%,95%,98%,又は99%の同一性を有するアミノ酸配列;又は,配列番号78~83のいずれか1つの配列に記載のアミノ酸配列のうち1~50個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換され,欠失し,付加され,又は挿入されたたアミノ酸配列を有する。
【0021】
(HsvA抗原ペプチド)
本明細書において,「HsvA抗原ペプチド」とは,上述のHsvAタンパク質に含まれるアミノ酸配列を有するペプチドであって、生体内において抗原として機能し得るペプチドを意味し,好ましくは,複数のH.スイス株間で保存されているアミノ酸配列を有するペプチドである。また,HsvA抗原ペプチドは,好ましくは,H.スイスに特異的で,H.ピロリ又は他のH.ハイルマニイには存在しないアミノ酸配列からなる。HsvAは膜タンパク質であることから,好ましくは,HsvA抗原ペプチドはHsvAタンパク質の細胞外ドメインを構成するアミノ酸配列を含む。例えば,HsvA抗原ペプチドは,配列番号2に記載のH.スイス SNTW101株由来HsvAタンパク質のアミノ酸配列のうち,1467~2992番目,1467~2685番目,1535~2135番目,又は2008~2135番目に含まれるアミノ酸配列からなる。本発明者らは,HsvAに特異的でかつこのような条件を満たすアミノ酸配列について解析を行った結果,配列番号78~83に示す部分アミノ酸配列を見出すことに成功した。配列番号78~83に記載されたアミノ酸配列は異なる種に感染した異なる株のH.スイスに由来するHsvAタンパク質が有するものであるが,そのアミノ酸配列は比較的保存されており,76.7%の同一性を有する。よって,本発明のHsvAタンパク質抗原ペプチドは,配列番号78~83のいずれか1つの配列に記載のアミノ酸配列と70%,75%,80%,85%,90%,95%,98%,又は99%の同一性を有するアミノ酸配列;又は,配列番号78~83のいずれか1つの配列に記載のアミノ酸配列のうち1~50個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換され,欠失し,付加され,又は挿入されたたアミノ酸配列を有するか,当該アミノ酸配列に含まれるアミノ酸配列を有することができる。本明細書全体にわたって,「(特定の)アミノ酸配列を有する」との表現は,当該アミノ酸配列からなる場合を含むと解されることを意図している。
【0022】
HsvA抗原ペプチドを構成するアミノ酸数は,目的に応じて適宜選択することができるが,例えば,5~50アミノ酸,5~45アミノ酸,5~40アミノ酸,5~35アミノ酸,5~30アミノ酸,5~25アミノ酸,5~20アミノ酸,5~15アミノ酸,10~50アミノ酸,10~45アミノ酸,10~40アミノ酸,10~35アミノ酸,10~30アミノ酸,10~25アミノ酸,又は10~20アミノ酸であってもよい。HsvA抗原ペプチドの一例として,EKX1AVX2X3X4X5NSNX6X7(ペプチドNo.11(mix):配列番号24)(ここで,X1はK又はDであり,X2はQ,E又はTであり,X3はQ又はSであり,X4はM又はLであり,X5はE又はKであり,X6はP又はSであり,かつX7はD又はGである),EKKAVQQMENSNPD(ペプチドNo.11(SNTW101;HS1;HS5):配列番号3),EKKAVEQMENSNPD(ペプチドNo.11(TKY):配列番号4),EKDAVTSLKNSNSG(ペプチドNo.11(SH8):配列番号5),EKDAVTSLENSNSG(ペプチドNo.11(SH10):配列番号6),NQGTLEFLSNDVSX8(ペプチドNo.19:配列番号25)(ここで,X8はN又はTである),NQGTLEFLSNDVSN(ペプチドNo.19:配列番号7),NQGTLEFLSNDVST(ペプチドNo.19(TKY):配列番号8),X9SX10KLQX11X12LKSX13X14X15(ペプチドNo.33:配列番号26)(ここで,X9はL又はFであり,X10はN又はDであり,X11はG,D又はNであり,X12はQ又はMであり,X13はM又はLであり,X14はG又はNであり,かつX15はL又はMである),LSNKLQGQLKSMGL(ペプチドNo.33:配列番号9),LSNKLQDQLKSMGL(ペプチドNo.33(TKY):配列番号10),FSDKLQNMLKSLNM(ペプチドNo.33(SH10):配列番号11),TNGQEVSASIDYNK(ペプチドNo.16:配列番号12),AKLSNFASNDALPD(ペプチドNo.23:配列番号13),PTTSSGASPDSSNP(ペプチドNo.10:配列番号14),GLGRDLFVHSMGDK(ペプチドNo.21:配列番号15),QIGKIKLSDVLSAS(ペプチドNo.15:配列番号16),YGAIDKELHFSGGK(ペプチドNo.34:配列番号17),NVDNILNMPSTTSG(ペプチドNo.20:配列番号18),GNLKGVYYPKSSTT(ペプチドNo.22:配列番号19),ITEKIQSGKLTITI(ペプチドNo.14:配列番号20),FHDFLVSLKGKKFA(ペプチドNo.26:配列番号21),TTGGEVRLFRSFYV(ペプチドNo.31:配列番号22),IGARFGLDYQDINI(ペプチドNo.35:配列番号23)、KQLPQPKRSELKPK(ペプチドNo.8:配列番号86)、TNIKQYMQNNHRSQ(ペプチドNo.31N:配列番号87)、TLTLEGTETFAQNS(ペプチドNo.81:配列番号88)、EAYAKNQGDIWSTI(ペプチドNo.63:配列番号89)、VIGSKSSITLNSAN(ペプチドNo.73:配列番号90)、及びADIQSSQTTFANSV(ペプチドNo.61:配列番号91)に含まれるアミノ酸配列の全て又は一部を有するペプチドを挙げることができる。前記HsvA抗原ペプチドは,目的のHsvA抗原としての機能を果たす限り,前記ペプチド配列中に1~数個のアミノ酸が置換され,欠失し,付加され又は挿入されていてもよい。アミノ酸が置換される場合,好ましくは,類似するアミノ酸残基に保存的に置換され,例えば,GとP,GとA又はV,LとI,EとQ,DとN,CとT,TとS又はA,KとR等のアミノ酸の間での置換を挙げることができる。
【0023】
本明細書において,アミノ酸は一文字表記にて記載される。すなわち,Cはシステイン,Aはアラニン,Yはチロシン,Hはヒスチジン,Rはアルギニン,Gはグリシン,Eはグルタミン酸,Lはロイシン,Vはバリン,Wはトリプトファン,Tはスレオニン,Yはチロシン,Iはイソロイシン,Fはフェニルアラニン,Dはアスパラギン酸,Nはアスパラギン,Qはグルタミン,Mはメチオニン,Kはリジン,及びPはプロリンを表す。また,本明細書においてXn(nは自然数)は,各々定義された複数のアミノ酸からなる群から選択される1種類のアミノ酸を表す。例えば,EKX1AVX2X3X4X5NSNX6X7(配列番号24)において「X1」がK又はDであるとは,X1で表されるアミノ酸がリジン又はアスパラギン酸のいずれかであることを意味する。
【0024】
一態様において,本発明はHsvA抗原ペプチドの免疫学的に同等な変異体に関する。
本明細書において,「ペプチドの免疫学的に同等な変異体」とは,天然のHsvAタンパク質由来の配列を有するペプチドと結合する抗体と結合可能なペプチドであって,天然のHsvAタンパク質由来の配列を有するペプチドとは異なるアミノ酸配列を有するペプチドを意味する。例えば,該変異体は,ペプチド配列中の1~数個のアミノ酸が,天然又は人工のアミノ酸と置換され,欠失し,付加され,又は挿入されたペプチドであってもよい。あるいは,該変異体は,天然のHsvAタンパク質由来の配列を有するペプチドを構成するアミノ酸の一部が修飾されたペプチドであってもよい。あるいは,アミノ酸変異と修飾の両方の変異が導入されていてもよい。天然のHsvAタンパク質由来の配列を有するペプチドと結合する抗体と結合するとは,言い換えれば,抗HsvA抗体と結合することを意味する。例えば,H.スイスに感染した患者の血中に存在する抗HsvA抗体と結合可能なペプチドは,本発明のペプチドの免疫学的に同等な変異体に含まれる。天然のHsvAタンパク質由来の配列を有するペプチドと結合する抗体,又は,H.スイスに感染した患者の血中に存在する抗HsvA抗体と,被検ペプチド変異体が結合可能であるか否かは,当該ペプチド変異体を結合させた固相に当該抗体を反応させ,洗浄後に更に標識化抗IgG抗体と反応させることにより判定することができる。標識化IgGを洗浄後に固相に結合した標識化IgGが検出された場合,当該ペプチドは,本発明のペプチドの免疫学的に同等な変異体であると判定される。なお、本願明細書全体にわたって、特にそのように解することが不整合である場合を除き、「HsvA抗原ペプチド」の語はHsvA抗原ペプチドの免疫学的に同等な変異体を含む。
【0025】
(抗HsvA抗体又はその免疫反応性断片)
他の態様において,本発明は,HsvAタンパク質を特異的に認識する抗体(本明細書において「抗HsvA抗体」という)若しくはその免疫反応性断片に関する。本発明の抗HsvA抗体は好ましくは,上述において定義されたHsvAタンパク質抗原ペプチドのいずれかと結合する。例えば,抗HsvA抗体は,配列番号78~83のいずれか1つの配列に記載のアミノ酸配列;配列番号78~83のいずれか1つの配列に記載のアミノ酸配列と80%,85%,90%,95%,98%,又は99%の同一性を有するアミノ酸配列;又は,配列番号78~83のいずれか1つの配列に記載のアミノ酸配列のうち1~50個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換され,欠失し,付加され,又は挿入されたたアミノ酸配列を有するペプチドと結合する。「抗体の免疫反応性断片」とは,抗体の一部分(部分断片)または抗体の一部分を含むペプチドであって,抗体の抗原への結合作用を保持するものを意味する。このような抗体の断片としては,例えば,F(ab’)2,Fab’,Fab,一本鎖Fv(以下,「scFv」という),ジスルフィド結合Fv(以下,「dsFv」という)若しくはこれらの重合体,二量体化V領域(以下,「Diabody」という),またはCDRを含むペプチドを挙げることができる。好ましくは,本発明の抗体若しくはその免疫反応性断片は,HsvA抗原ペプチドを特異的に認識する。本明細書において,抗体又はその免疫反応性断片が「特異的に」認識する(結合する)とは,その抗体又はその免疫反応性断片が他のアミノ酸配列や立体構造に対する親和性よりも,HsvA抗原ペプチドに対して実質的に高い親和性で結合することを意味する。本発明の抗体とHsvA抗原との結合における結合定数(Ka)としては,例えば,少なくとも107M-1,少なくとも108M-1,少なくとも109M-1,少なくとも1010M-1,少なくとも1011M-1,少なくとも1012M-1,少なくとも1013M-1を挙げることができる。
【0026】
本発明の抗体は,HsvA抗原ペプチドを特異的に認識することができる限り,ポリクローナルであってもモノクローナルであってもよいが,好ましくはモノクローナル抗体である。ここで,「モノクローナル抗体」は,単一クローンに由来する抗体であることを意味する。本発明の抗体は,完全抗体の他,抗原との結合活性を保持する限り,バイスペシフィック抗体,及び一本鎖抗体を含む。完全抗体は,非ヒト動物の抗体,非ヒト動物の抗体のアミノ酸配列とヒト由来の抗体のアミノ酸配列を有する抗体,及び,ヒト抗体を包含する。非ヒト動物の抗体としては,例えば,マウス,ラット,ハムスター,ラビットなどの抗体を挙げることができ,好ましくは,ハイブリドーマを作製することができる動物の抗体であり,より好ましくはマウスの抗体である。非ヒト動物の抗体のアミノ酸配列とヒト由来の抗体のアミノ酸配列を有する抗体としては,ヒト抗体に動物由来のモノクローナル抗体の抗原結合ドメインFvを入れ替えたヒト型キメラ抗体,動物由来抗体モノクローナル抗体の抗原結合に直接関わるFvドメイン上の配列であるCDRをヒト抗体のフレームに組み込んだヒト化抗体を挙げることができる。また,ヒト抗体とは,完全にヒト由来の抗体遺伝子の発現産物であるヒト抗体のことである。また,本発明の抗体のイムノグロブリンクラスは特に限定されるものではなく,IgG,IgM,IgA,IgE,IgD,IgYのいずれのイムノグロブリンクラスであってもよく,好ましくはIgGである。また,本発明の抗体はいずれのアイソタイプの抗体をも包含するものである。
【0027】
また,HsvA抗原ペプチド,抗HsvA抗体又はその免疫反応性断片は,必要に応じて標識化されていてもよい。当該標識としては,放射能標識,酵素,蛍光標識,生物発光標識,化学発光標識金属等の検出可能な標識を用いることができる。このような標識としては,これに限定されるものではないが例として,35S(イオウ35),32P(リン32),3H(トリチウム),125I(ヨウ素125),131I(ヨウ素131),14C(炭素14)等の放射能標識;βガラクトシダーゼ,ペルオキシダーゼ,アルカリフォスファターゼ,グルコースオキシダーゼ,乳酸オキシダーゼ,アルコールオキシダーゼ,モノアミンオキシダーゼ,ホースラディッシュペルオキシダーゼ等の酵素;FAD,FMN,ATP,ビオチン,ヘム等の補酵素又は補欠分子族;フルオレセイン誘導体(フルオレセインイソチオシアネート(FITC),フルオレセインチオフルバミル等),ローダミン誘導体(テトラメチルローダミン,トリメチルローダミン(RITC),テキサスレッド,ローダミン110等),Cy色素(Cy3,Cy5,Cy5.5,Cy7),Cy-クロム,スペクトラムグリーン,スペクトラムオレンジ,プロピジウムイオダイド,アロフィコシアニン(APC),R-フィコエリスリン(R-PE)、Alexa-Flour(登録商標)488及びAlexa-Flour(登録商標)568等のAlexa-Flour(登録商標)蛍光色素(Molecular Probes, Inc.社、米国)、Alexa-Flour(登録商標)568等の蛍光標識;ルシフェラーゼ等の生物発光標識;あるいは,ルミノール,イソルミノール,N-(4-アミノブチル)-N-エチルイソルミノースエステル等のルミノール誘導体,N-メチルアクリジニウムエステル,N-メチルアクリジニウムアシルスルホンアミドエステル等のアクリジニウム誘導体,ルシゲニン,アダマンチルジオキセタン,インドキシル誘導体,ルテニウム錯体等の化学発光標識;金コロイド等の金属等の検出可能な標識を挙げることができる。
【0028】
(hsvA遺伝子特異的塩基配列を有する核酸分子・プライマー・プローブ)
別の態様において,本発明は,hsvA遺伝子と特異的に結合可能な核酸分子に関する。好ましくは,hsvA遺伝子と特異的に結合可能な核酸分子は,hsvA遺伝子特異的塩基配列若しくは該塩基配列と相補的な配列を有する核酸分子,又は,hsvA遺伝子特異的塩基配列若しくは該塩基配列と相補的な配列とストリンジェントな条件下で結合可能な核酸分子(以下,「hsvA遺伝子特異的塩基配列を有する核酸分子等」という)に関する。前記hsvA特異的核酸分子は,用途に応じてプライマー又はプローブであってもよい。ここで,プライマーはPCR等によりDNAを増幅させる目的で使用される核酸分子である。プライマーは相補的な配列を有するDNAとハイブリダイズして,当該DNAを伸長させることにより,当該DNAを増幅することができる核酸分子であり,増幅されたDNAを検出することにより当該DNAを検出することを可能とする。プローブは,標的DNAと結合することで標的DNAの存在を検出する目的で用いられる核酸分子である。本発明のhsvA遺伝子と結合可能な核酸分子は,hsvA遺伝子が有する塩基配列のうち,H.ピロリ及びH.ハイルマニイ(ただし,H.スイスを除く)が同一又は類似する配列を持たない限り,hsvAに由来しない塩基配列を有していてもよい。選択した塩
基配列がhsvA遺伝子特異的であるか否かは,例えば,当該配列について既に公開されているデータベースを検索して,H.ピロリ及びH.ハイルマニイ(H.スイスを除く)が同一又は類似する配列を持つか否かを調べ,持つ場合には特異的ではなく,持たない場合には特異的であると決定することができる。ここで,「類似しない」とは,同一性が10%以下,20%以下,30%以下,40%以下,又は50%以下であることを意味してもよい。hsvA遺伝子と特異的に結合可能な核酸分子は例えば配列番号1から任意の配列を上記方法に従って選択することができる。また,本発明のhsvA遺伝子と結合可能な核酸分子は,例えば,5~50ヌクレオチド,5~45ヌクレオチド,5~40ヌクレオチド,5~35ヌクレオチド,5~30ヌクレオチド,5~25ヌクレオチド,5~20ヌクレオチド,5~15ヌクレオチド,5~10ヌクレオチド,10~50ヌクレオチド,10~45ヌクレオチド,10~40ヌクレオチド,10~35ヌクレオチド,10~30ヌクレオチド,10~25ヌクレオチド,10~20ヌクレオチド,10~15ヌクレオチド,15~50ヌクレオチド,15~45ヌクレオチド,15~40ヌクレオチド,15~35ヌクレオチド,15~30ヌクレオチド,15~25ヌクレオチド,15~20ヌクレオチド,又は17~25ヌクレオチドとすることができる。好ましくは,hsvA遺伝子特異的塩基配列としては,例えば,CTTTTAGCGTGGTATCCTTC(配列番号31),TTACAAAGACCACCAACGGA(配列番号32),TACCATAGAAAGCGGAAAC(配列番号33),AGCTATAGCTTTGCACCTGA(配列番号34),ACTAACAGCATAGAAGTTGGGGA(配列番号35),AACAACATTACAGGCATGAG(配列番号36),CAAATAGTAACAGGACAATT(配列番号37),CAGGATTTAAGAGGCACTTA(配列番号38),TCTTAACCAATCTGAGCAA(配列番号39),GTCAAACACGTTATTGATGGCTT(配列番号40),GGGGTTTAATAGCATAGGG(配列番号41),TAGAGCTCTACACCAGTCTT(配列番号42),ATAAAGCCCATGAATTCTTAGGCATGCGTGCTCTG(配列番号43),TGCTATTGATAAAGAGTTACATTTCTCAGG(配列番号44),ATTTCTCAGGGGGAAAGTC(配列番号45),GGCTAATAATTTAACCACAATAAGCGCCTTTAA(配列番号46),GATGGGCGCTTCTGGTTTA(配列番号47),ATGAATTCTTAGGCATGCGTGCTCT(配列番号48),TTTTGGAGGTGTAGGAGTAGAT(配列番号49),AGCGCGCATTTAAAACAGGT(配列番号50),AGAAACGAGATTACAGGAAG(配列番号51),AGGAGCAAGTTTTGTAGCAG(配列番号52),AAAATGCGACTGATTGGATG(配列番号53),TTGAAATTTGGCCACGCT(配列番号54),TCACCCATAGAATGGACGAA(配列番号55),CTAGCGCATTAACCACAGACTG(配列番号56),TAGAAGTTGTAGACACGGT(配列番号57),GTGATATTGCCTTTCTGAAC(配列番号58),GCAAGTTTTGTGCGGATT(配列番号59),ATGTGATACACATCTGACC(配列番号60),AGTGCCGTTACCATCGTGAA(配列番号61),TATTCAAGGAAAGTCCCTGGAGAAACTCCAGAGAC(配列番号62),TTAAAGGCGCTTATTGTGGTTAAATTATTAGCC(配列番号63),ATTAGCCTTAAGGGTGCTATC(配列番号64),CTGGTAATGCATCATTAGAAGCAAA(配列番号65),TACGCGCAAAATAGGTTCTT(配列番号66),TGGAGAAACTCCAGAGACTA(配列番号67),TTGTTCGCTGTAGTGCCGTGG(配列番号68),GAAGGATACCACGCTAAAAG(配列番号69),AAGCTAGAGTTTTGGTTGAG(配列番号70),TTGCTCAGATTGGTTAAGA(配列番号71),ATCGAAATAAGCGAACCTCA(配列番号72),TTGAAAGCTTAGCTAAACGG(配列番号73),TGGTATTGCTGGTTAAGAGG(配列番号74),CAAACAGATGAGCCGT(配列番号75),A
TGAAAAAGTTTAGTTCTCTCACATTGAAATTTGGCCACGCTC(配列番号76),CTAAAAAGCATAGCGCATCCCGACATTGCCTGTAATATTAATATC(配列番号77)を挙げることができる。
【0029】
hsvA遺伝子特異的塩基配列を有する核酸分子をプライマーとして使用する場合、フォワードプライマー及びリバースプライマーとしては、以下のプライマーから選択されるプライマーの組み合わせを使用することができる。
(フォワードプライマー)
HSVANOFW-2:AGAAACGAGATTACAGGAAG(配列番号51)
HSVANOFW-3:AGGAGCAAGTTTTGTAGCAG(配列番号52)HSVANOFW-5:AAAATGCGACTGATTGGATG(配列番号53)
(リバースプライマー)
HSVANORV-1:ATCGAAATAAGCGAACCTCA(配列番号72)
HSVANORV-3:TTGAAAGCTTAGCTAAACGG(配列番号73)
HSVANORV-4:TGGTATTGCTGGTTAAGAGG(配列番号74)。
【0030】
hsvA遺伝子特異的塩基配列を有する核酸分子をプライマーとして使用する場合、フォワードプライマー及びリバースプライマーの組み合わせとして、好ましくは、HSVANOFW-2/HSVANORV-4(101bp)、HSVANOFW-3/HSVANORV-4(291bp)、HSVANOFW-5/HSVANORV-4(556bp)、HSVANOFW-2/HSVANORV-1(508bp)、及びHSVANOFW-5/HSVANORV-3(108bp)の組み合わせである(カッコ内は当該プライマーを用いたPCRによる増幅により得られるDNA断片の長さを表す)。
【0031】
本明細書において,「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズ」するとは,当業者に通常用いられるハイブリダイゼーション条件でハイブリダイズすることを意味する。例えば,Molecular Cloning,a Laboratory Mannual,Fourth Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press(2012)又は, Current Protocols in Molecular Biology, Wiley Online Library等に記載の方法によりハイブリダイズするか否かを決定することができる。例えば,ハイブリダイズの条件は,6×SSC(0.9M NaCl,0.09M クエン酸三ナトリウム)又は6×SSPE(3M NaCl,0,2M NaH2PO4,20mM EDTA・2Na,pH7.4)中42℃でハイブリダイズさせ,その後42℃で0.5×SSCで洗浄する条件であってもよい。
【0032】
本明細書全体に亘って,ある配列が「特異的」であるとは,当該タンパク質,ペプチド,又は核酸分子に特徴的であることを意味し,他のタンパク質,ペプチド,又は核酸分子には実質的に存在しないことを意味する。ここで,「実質的に存在しない」とは,完全に一致する配列が存在しない場合の他,区別して検出しようとする他の分子(例えば,H.ピロリ由来成分)において目的の分子(hsvA遺伝子又はHsvAタンパク質)と類似する配列が存在していても,生物学的結合反応において区別可能な程度存在する場合を含む。
【0033】
また,「特異的に認識する」又は,「特異的に結合する」とは,目的の物質と結合するが,他の物質とは実質的に結合しないことを意味する。候補物質が目的の物質と結合するか否か,及び/又は,その他の物質と実質的に結合しないか否かは,候補物質(核酸か抗体かなど)及び目的の物質の種類(核酸かタンパク質かなど)に応じて,サザンハイブリダイゼーション,PCR,ウェスタンブロッティング,及びELISAなど,当業者周知の方法を採用して確認することができる。例えば,タンパク質をウェスタンブロッティン
グにより確認する場合,該タンパク質を2%SDS,10%グリセロール,50mM Tris-HCl(pH6.8),100mMジチオスレイトール溶液中に溶解し,煮沸して抗His抗体及び被検抗体によりウェスタンブロット分析を行うことにより確認することができる。サザンハイブリダイゼーション,PCR,又はELISAにより確認する場合,後述の方法を利用して確認することができる。ここで,「実質的に結合しない」とは,目的の物質への結合との比較において,結合しない(又は認識しない)とされる核酸,タンパク質又はペプチドへの被検物質の結合が十分区別可能な程度低い場合を含む。例えば,目的の物質と比較した,その他の物質との交差反応率が,1%以下,0.5%以下,0.3%以下,0.1%以下,0.05%以下,0.03%以下であってもよい。交差反応性は,{(比較対象となるその他の物質への結合に関する実測値(濃度)/(比較対象となるその他の物質の添加サンプル濃度)×100%}として計算して得ることができる。特に,本明細書において,抗体又はその免疫反応性断片が「特異的に」認識する(結合する)とは,該抗体又はその免疫反応性断片が,他のアミノ酸配列に対する親和性と比較して,実質的に高い親和性で当該抗原と結合すること,あるいは,該抗原が,他の抗体又はその免疫反応性断片に対する親和性と比較して,実質的に高い親和性で当該抗体又はその免疫反応性断片と結合することを意味する。本明細書において,「実質的に高い親和性」とは,所望の測定装置または方法によって,その特定のアミノ酸配列を他のアミノ酸配列から区別して検出することが可能な程度に高い親和性を意味する。例えば,実質的に高い親和性は,ELISA又はEIAにより検出された強度(例えば,蛍光強度)として,3倍以上,4倍以上,5倍以上,6倍以上,7倍以上,8倍以上,9倍以上,10倍以上であってもよい。
【0034】
(キット及び組成物)
別の態様において,本発明は,HsvA抗原ペプチド及びhsvA遺伝子と特異的に結合可能な核酸分子を含有する,H.スイス感染の判定用キット,H.スイスの感染判定用組成物,医薬組成物に関する。本発明のキット及び組成物は,更に,固相,ハプテン,及び不溶性担体からなる群より選択される担体を含んでいてもよい。
【0035】
本発明のキット及び組成物がhsvA遺伝子と特異的に結合可能な核酸分子を含有する場合,核酸を用いた公知の方法に基づくことができる。このような方法としては,例えばハイブリダイゼーションを利用した方法;PCRを利用した方法;並びに,インベーダー(登録商標)法として知られる方法(例えば,Kwiatkowski,R.W.ら,Mol.Diagn.(1999)4:353-364参照)を挙げることができる。
【0036】
例えば,本発明のキット及び組成物は,標識化されたhsvA遺伝子と特異的に結合可能な核酸分子が固定化した固相又はハプテン,及び,任意でハプテンと特異的に結合する物質が固定化した固相を含んでいてもよい。また,本発明のキット及び組成物は,hsvA遺伝子と特異的に結合可能な核酸分子をプライマー(又はプライマーペア),又はプローブとして含んでいてもよい。あるいは,本発明のキット及び組成物は,hsvA遺伝子特異的塩基配列等及び消光プローブの一部と相補的な配列(フラップ)を備えるアレル特異的プローブ,hsvA遺伝子特異的塩基配列等を備えるインベーダープローブ,三重鎖特異的DNA分解酵素,及び,消光プローブを備える蛍光標識ユニバーサルプローブを備えることができる。上記フラップは,各アレル特異的プローブ間で異なっていることが好ましい。上記蛍光標識は,当業者周知のプローブを適宜選択することができ,各蛍光標識ユニバーサルプローブ間で異なっていることが好ましい。例えば,蛍光標識として,FAM及びVICを使用することができる。
【0037】
HsvA抗原ペプチド又は,該ペプチドを認識する抗体若しくはその免疫反応性断片を含有するキット及び組成物は,抗体分子を用いた公知の方法に基づくことができる。このような方法としては,例えば,標識化免疫測定法;イムノブロッティング法;イムノクロ
マト法;クロマトグラフィ法;比濁法(TIA法);比ろう法(NIA法);比色法;ラテックス凝集法(LIA法);粒子計数法(CIA法);化学発光測定法(CLIA法,CLEIA法);沈降反応法;表面プラズモン共鳴法(SPR法);レゾナントミラーディテクター法(RMD法);比較干渉法等を挙げることができる。本発明のキットが,所望の測定を実施することが可能であるか否かは,当該サンプル又は当該濃度のサンプルを用いて,各測定法を当業者周知の方法により実施することにより,検出可能であるか否かを測定することにより確認することができる。
【0038】
例えば,本発明のキット及び組成物は,(i)HsvA抗原ペプチド,あるいは,該ペプチドを認識する抗体若しくはその免疫反応性断片が固定化した固相又はハプテン,及び(ii)標識化された第二抗体を含むことができる。第二抗体は,固定化された物質及び検出対象に応じて,抗IgG抗体(HsvA抗原ペプチドを固定化),又は抗HsvA抗体(抗HsvA抗体若しくはその免疫反応性断片を固定化)とすることができる。また,本発明のキット及び組成物がハプテンを含む場合,ハプテンと特異的に結合する物質が固定化した固相をさらに含んでいてもよい。
【0039】
本発明のキット及び組成物において,固相は免疫化学測定に使用できる固相であれば特に限定されないが,例えば,ニトロセルロース,セファロース,ナイロン,ビニロン,ポリエステル,アクリル,ポリオレフィン,ポリウレタン,レーヨン,ポリノジック,キュプラ,リヨセル,アセテート,ポリビニリデンジフルオリド,シリコンラバー,ラテックス,ポリスチレン,ポリプロピレン,ポリエチレン,ポリ塩化ビニル,ポリ塩化ビニリデン,ポリスチレン,ポリ酢酸ビニル,フッ素加工樹脂,ABS樹脂,AS樹脂,アクリル樹脂,ポリマーアロイ,ガラス繊維,炭素繊維,ガラス,ゼラチン,ポリアミノ酸及び/又は磁気感応性素材等を含有する,プレート,チューブ,チップ(例えば,プロテインチップ,ラボチップ等),ビーズ,膜,吸収体及び/又は粒子等を挙げることができ,好ましくは,プレート及び磁気ビーズである。本明細書において不溶性担体とは,ビーズ等の懸濁可能な不溶性の固相を意味し,例えば,ラテックスビーズや磁気ビーズを挙げることができる。
【0040】
本発明のキット及び組成物は,必要に応じて,発色試薬,反応停止用試薬,標準抗原試薬,サンプル前処理用試薬,ブロッキング試薬等を含んでいてもよい。また,本発明のキット及び組成物が標識化された抗体を含む場合,更に標識と反応する基質を含んでいてもよい。更に,本発明のキットは,添付文書,説明書,及びキットや組成物を格納する容器等を適宜含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0041】
HsvA抗原ペプチド及びhsvA遺伝子と特異的に結合可能な核酸分子は,H.スイス感染診断対象者由来血液中の抗H.スイス抗体の有無又は抗体価を測定するために使用することができる。また,HsvA抗原ペプチドは,H.スイス感染予防又は治療のための,ペプチドワクチンとして利用することが考えられる。更に,HsvA抗原ペプチドは,抗HsvA抗体取得のための抗原として用いることができる。また,抗HsvA抗体又はその免疫反応性断片は,HsvA抗原ペプチドの検出に用いることができる。更に,抗HsvA抗体又はその免疫反応性断片は,H.スイス感染治療のための治療薬として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】hsvA遺伝子特異的核酸分子の概略図である。
【
図2A】H.スイスのSNTW101株由来のhsvA遺伝子及びHsvAタンパク質の配列を示す。
図2A~
図2Nまで連続しており,1つの遺伝子及びタンパク質をコードする配列を示す。
【
図2B】H.スイスのSNTW101株由来のhsvA遺伝子及びHsvAタンパク質の配列を示す。
【
図2C】H.スイスのSNTW101株由来のhsvA遺伝子及びHsvAタンパク質の配列を示す。
【
図2D】H.スイスのSNTW101株由来のhsvA遺伝子及びHsvAタンパク質の配列を示す。
【
図2E】H.スイスのSNTW101株由来のhsvA遺伝子及びHsvAタンパク質の配列を示す。
【
図2F】H.スイスのSNTW101株由来のhsvA遺伝子及びHsvAタンパク質の配列を示す。
【
図2G】H.スイスのSNTW101株由来のhsvA遺伝子及びHsvAタンパク質の配列を示す。
【
図2H】H.スイスのSNTW101株由来のhsvA遺伝子及びHsvAタンパク質の配列を示す。
【
図2I】H.スイスのSNTW101株由来のhsvA遺伝子及びHsvAタンパク質の配列を示す。
【
図2J】H.スイスのSNTW101株由来のhsvA遺伝子及びHsvAタンパク質の配列を示す。
【
図2K】H.スイスのSNTW101株由来のhsvA遺伝子及びHsvAタンパク質の配列を示す。
【
図2L】H.スイスのSNTW101株由来のhsvA遺伝子及びHsvAタンパク質の配列を示す。
【
図2M】H.スイスのSNTW101株由来のhsvA遺伝子及びHsvAタンパク質の配列を示す。
【
図2N】H.スイスのSNTW101株由来のhsvA遺伝子及びHsvAタンパク質の配列を示す。
【
図3】H.スイスのSNTW101株(配列番号78),HS1株(配列番号79),HS5株(配列番号80),TKY株(配列番号81),SH8株(配列番号82)及びSH10株(配列番号83)のペプチドNos.11,33,19が含まれる領域のアミノ酸配列を比較した図である。
【
図4】H.スイスのSNTW101株,HS1株,HS5株,TKY株,SH8株及びSH10株のペプチドNos.11,33,19に該当する領域のアミノ酸配列を比較した図である(配列番号3~11)。
【
図5】PCRよるH.スイスの判定。H.ピロリ(SS1株,TN2GF4株,NCTC11637株,ATCC43579株,及びRC-1株)及びH.スイス(SNTW101株及びTKY株)について,設計したフォワードプライマーFW2,FW3,FW5,又はVAC3624F(上記非特許文献7),及びリバースプライマーRV1,RV3,RV4,又はVAC4041R(上記非特許文献7)を用いてPCRで増幅させ,電気泳動で増幅産物を確認した写真である。各レーンは,1)H.スイス TKY株,2)H.スイス SNTW101株,3)H.ピロリ SS1株,4)H.ピロリTN2GF4株,5)H.ピロリNCTC 11637株,6)H.ピロリATCC43579株,7)H.ピロリRC-1株から調製したDNAを鋳型としたことを示す。各写真の下に用いたプライマーセットを示す。フォワードプライマーFW2,FW3,FW5,及びリバースプライマーRV1,RV3,RV4のプライマーセットは,いずれもH.スイス感染マウスの胃粘膜から調製したDNAにおいてのみ増幅産物が認められた。
【
図6】A,H.スイス感染ヒト,B,H.ピロリ感染ヒト,及びC,非感染ヒトから得た血清中の抗体の各種ペプチドに対する結合価をELISAで測定した結果を表すグラフである。横軸はペプチドの番号を示す。縦軸は450nmにおける吸光度を表す。2回の実験の平均値を示す。合成した15本のHsvA抗原ペプチド(Nos.10(配列番号14),11(配列番号3),14(配列番号20),15(配列番号16),16(配列番号12),19(配列番号7),20(配列番号18),21(配列番号15),22(配列番号19),23(配列番号13),26(配列番号21),31(配列番号22),33(配列番号9),34(配列番号17),及び35(配列番号23))とH.スイス感染者の血清は特異的に反応した。
【
図7】5名の被験者血清中の抗体のNo.11ペプチド(配列番号3),B,No.19ペプチド(配列番号7),及びC,No.33ペプチド(配列番号9)に対する結合価をELISAで測定した結果を表すグラフである。A及びBはそれぞれ異なるH.スイス感染血清のデータを示し,C及びDはそれぞれ異なるH.ピロリ感染血清のデータを示し,Eは非感染血清のデータを示す。横軸は抗原ペプチドの配列番号及び血清の希釈倍率を示し,縦軸は450nmにおける吸光度を表す。3回の実験の平均値と標準偏差を示す。いずれのペプチドにおいても,H.スイス感染血清と強く反応し,H.ピロリ感染及び非感染血清との反応は弱かった。
【
図8】6名の被験者(H.スイス感染2名,H.ピロリ感染3名,非感染1名)血清中の抗体のNo.11ペプチド(配列番号3,4,5,6,24),No.19ペプチド(配列番号7,8,25)及びNo.33ペプチド(配列番号9,10,11,26)に対する結合価をELISAで測定した結果を表すグラフである。A及びBはそれぞれ異なるH.スイス感染血清のデータを示し,C,D及びEはそれぞれ異なるH.ピロリ感染血清のデータを示し,Fは非感染血清のデータを示す。横軸は抗原ペプチドの配列番号及び血清の希釈倍率を示し,縦軸は450nmにおける吸光度を表す。2回の実験の平均値を示す。いずれのペプチドにおいても,H.スイス感染血清と強く反応し,H.ピロリ感染及び非感染血清との反応は弱かった。
【
図9】8名の被験者(H.スイス感染3名,H.ピロリ感染3名, 非感染2名)血清中の抗体のH.ピロリTN2GF4株全菌体に対する結合価をELISAで測定した結果を表すグラフである。A及びBは,それぞれ血清を600倍と1800倍希釈したときの結果を示す。縦軸は450nmにおける吸光度を表す。2回の実験の平均値を示す。H.ピロリ感染血清のみがH.ピロリの菌体と強く反応した。
【
図10】H.スイス TKY株又はH.スイス SNTW101株を感染させたマウス血清のNo.11ペプチド(配列番号3,4,5,6,24),No.19ペプチド(配列番号7,8,25),No.33ペプチド(配列番号9,10,11,26)及びH.ピロリTN2GF4株とSS1株の全菌体に対する結合価をELISAで測定した結果を表すグラフである。横軸はELISAに用いたペプチド又は菌体の種類を示す。A,B及びCはそれぞれ異なるH.スイス TKY株の感染血清のデータを示し,CD,E及びFはそれぞれ異なるH.スイス SNTW101株感染血清のデータを示す。A及びDは20倍希釈,B及びEは100倍希釈,C及びFは400倍希釈の血清を表す。横軸は抗原ペプチドの配列番号及び血清の希釈倍率を表し,縦軸は450nmにおける吸光度を表す。2回の実験の平均値を示す。H.スイス感染マウス血清は,H.ピロリ全菌体と強く反応ししたが,Nos.11,19,及び33のいずれのペプチドに対しても強く反応した。
【
図11】H.スイス TKY株又はH.ピロリ SS1株を感染させたマウスの血清をサンドイッチELISAで測定した結果を示すグラフである。横軸はサンドイッチELISAに用いたペプチド又は菌体の種類を示す。使用したペプチドと菌体は以下のとおりである:配列番号3(ペプチドNo.11(SNTW101;HS1;HS5),配列番号7(ペプチドNo.19(SNTW101;HS1;HS5;SH8),配列番号9(ペプチドNo.33(SNTW101;HS1;HS5),縦軸は450nmにおける吸光度を表す。3回の実験の平均値と標準偏差を示す。H.スイス感染マウス血清においてのみNos.11,19,及び33のいずれのペプチドに対して強く反応した。
【
図12】各種抗原(HsvA由来ペプチド又はH.ピロリ全菌体)への各ウサギ抗体の結合についてのELISAの結果を表すグラフである。横軸は固相化した各種抗原(番号は
図10と同様)を示し,縦軸は450nmにおける吸光度を示す。Aは,実施例2で作製したNo.11ペプチド(配列番号3)に対するウサギ抗体,Bは,実施例2で作製したNo.33ペプチド(配列番号9)に対するウサギ抗体,及び,Cは,実施例2で作製したNo.19ペプチド(配列番号7)に対するウサギ抗体を用いた結果である。3回の実験の平均値と標準偏差を示す。各種ペプチドに対する抗体は,それぞれのペプチドに対して強く反応したが,H.ピロリ全菌体に対する反応は弱かった。
【
図13】No.11ペプチドをウサギに免役して得たポリクローナル抗体を用いた免疫組織化学の写真を表す。H.スイス感染患者の胃組織切片をリン酸緩衝食塩水で2μg/mLに調製したNo.11ペプチドに対するウサギ抗体で反応後,リン酸緩衝食塩水で400倍希釈のAlexa-Flour488抗ウサギIgGと反応させ,Leica社の共焦点レーザー蛍光顕微鏡(TCS-SP5)で撮影した写真である。対比染色にはリン酸緩衝食塩水で400倍希釈のAlexa-Flour568を用いた。Aは200倍,Bは,Aの囲んだ部分を760倍に拡大した写真である。矢印は,H.スイス菌体を示す。
【
図14】H.スイス又はH.ピロリに感染した患者から採取した血清中の抗体の、各ペプチドや菌体に対する結合性をELISAにより測定した結果を表すグラフである。値は平均値(mean)±標準偏差(standard deviation, SD)で示される。(A)H.スイス感染患者から採取した血清(n=4)中の抗体と各ペプチドとの結合を示す。縦軸は450nmにおける吸光度を示し、横軸は固相化に使用したペプチドを配列番号で示す。(B)H.ピロリ感染患者から採取した血清(n=5)中の抗体と各ペプチドとの結合を示す。縦軸は450nmにおける吸光度を示し、横軸は固相化に使用したペプチドを配列番号で示す。(C)非感染患者から得られた血清(n=3)中の抗体と各ペプチドとの結合を示す。縦軸は450nmにおける吸光度を示し、横軸は固相化に使用したペプチドを配列番号で示す。(D)600倍又は1800倍希釈のH.スイス感染患者由来血清、H.ピロリ感染患者由来血清、および非感染患者由来血清のそれぞれに含まれる抗体の、H.ピロリ TN2GF4(黒印)又はSS1(白印)への結合を示す。縦軸は450nmにおける吸光度を示す。横軸は使用した血清の由来する患者の属性を示す(H.suis:H.スイス感染患者、H.pylori:H.ピロリ感染患者、none:非感染患者)。上部に示された1:600は患者血清を600倍希釈してサンプルとして用いたことを、1:1800は患者血清を1800倍希釈してサンプルとして用いたことを示す。600倍と1800倍のそれぞれにおいて、左側の黒印で示される結果はH.ピロリ TN2GF4への結合を、右側の白印で示される結果はH.ピロリ SS1への結合を示す。***P<0.0001(H.スイス感染血清vs.H.ピロリ感染血清or非感染血清)。
【
図15】Nos.61,11,33,19,10,及び16の各ペプチド抗体の対応抗原ペプチドに対する特異性を調べた結果を示すグラフである。各グラフ上部には当該グラフにおいて測定された抗体がどのペプチドを抗原として得られた抗体であるかが記載されている(例えば、「Ab.against SEQ ID NO:91」とは、配列番号91のペプチドを抗原として得られた抗体を意味する)。縦軸は450nmにおける吸光度を示し、横軸は固相化に使用したペプチドを配列番号で示す。値は、平均値(mean)±標準偏差(standard deviation, SD)で示す。
【
図16】実施例2で得られた抗ペプチドウサギポリクローナル抗体の各ヘリコバクター種の菌体に対する結合性をELISAで測定した結果を示すグラフである。各グラフ上部には当該グラフにおいて測定された抗体がどのペプチドを抗原として得られた抗体であるかが記載されている(例えば、「Ab.against SEQ ID NO:91」とは、配列番号91のペプチドを抗原として得られた抗体を意味する)。縦軸は450nmにおける吸光度を示し、横軸は固相化に使用した各ヘリコバクター種の菌株を示す。平均値(mean)±標準偏差(standard deviation, SD)で示す。
【
図17】(A)H.スイス SNTW101感染マウス胃切片、(B)(A)の囲み部分の拡大図、(C)非感染マウスの胃切片について、抗No.16ペプチド(配列番号12)抗体を用いて免疫組織化学染色した結果を示す写真である。矢印は、染色された菌体を示す。
【発明を実施するための形態】
【0043】
一態様において,本発明は,サンプル中のhsvA遺伝子若しくはその一部,HsvAタンパク質若しくはその一部,又は,HsvAタンパク質に対する抗体を検出することを含む,当該サンプル中のH.スイスの存在を判定する方法に関する。特に,本発明は,被験者由来のサンプル中のhsvA遺伝子若しくはその一部,HsvAタンパク質若しくはその一部,又は,HsvAタンパク質に対する抗体を検出することを含む,被験者におけるH.スイスの感染を判定する方法に関する。本方法において,hsvA遺伝子若しくはその一部,HsvAタンパク質若しくはその一部,又は,HsvAタンパク質に対する抗体が検出されたサンプル又は被験者は,それぞれH.スイスが存在する又はH.スイスに感染していると判定される。
【0044】
本発明の方法が,前記サンプル中のポリヌクレオチド,タンパク質又はその一部,抗体又はその一部と,被検試薬との結合を測定することにより行われる場合,判定において「検出された」か否かは,絶対的な検出の有無である必要はなく,他のサンプルとの比較において決定してもよい。すなわち,±の検出結果に基づくものではなく,測定値から検出の有無を決定してもよい。すなわち,本発明の方法において,「検出する」工程は,必要に応じて「測定する」と置き換えることができ,「検出された」か否かは,対象物質の測定値に基づき陰性対象との比較において決定してもよい。例えば,陰性対象,即ち,H.スイスを含まないサンプル又はH.スイスに感染していないことが明らかな被験者由来のサンプル等において目的の物質が検出される場合,検被者の測定値が当該陰性対象の測定値と同等であれば,微量ながら検出されていても,本発明の方法においては「検出されなかった」としてH.スイスが存在しない又はH.スイスに感染していないと判定される。一方で,陰性対象の測定値と比較して,被験者の測定値が高い場合には,「検出された」としてH.スイスが存在する又はH.スイスに感染していると判定される。よって,本発明の方法において,陰性である対象についてわずかな測定値が認められることは,本発明が予め許容する範囲内である。
【0045】
好ましくは,本発明におけるH.スイスの存在を判定する方法又は被験者におけるH.スイスの感染を判定する方法は,被験者由来のサンプルにおける,(i)hsvA遺伝子と特異的に結合可能な核酸分子,(ii)HsvA抗原ペプチド,及び,(iii)抗HsvA抗体又はその免疫反応性断片からなる群から選択される少なくとも一つを用いる。
【0046】
(hsvA遺伝子特異的塩基配列を有する核酸分子を利用した方法)
被験者がH.スイスに感染しているか否かは,被験者のサンプル中に存在するhsvA遺伝子を検出することにより,その感染の有無を決定することができる。hsvA遺伝子と特異的に結合可能な核酸分子を利用した,H.スイスの検出は,ハイブリダイゼーションを利用した方法;PCRを利用した方法;並びに,インベーダー(登録商標)法として知られる方法(例えば,Kwiatkowski,R.W.ら,Mol.Diagn.(1999)4:353-364参照)により行うことができる。
【0047】
ハイブリダイゼーションを利用した方法としては,サザンハイブリダイゼーション,ノーザンハイブリダイゼーション,ドットハイブリダイゼーション,蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH),DNAマイクロアレイ,ASO法等の方法を挙げることができる。例えば,本発明におけるサンプル中のH.スイスの存在を判定する方法は,以下を備えていてもよい:
(a)少なくとも1つのhsvA遺伝子と特異的に結合可能な核酸分子とサンプルを接触させること;
(b)前記hsvA遺伝子と特異的に結合可能な核酸分子への前記サンプル中のポリヌクレオチドの結合を検出すること;及び,
(c)前記結合が検出されたサンプルを,H.スイスが存在するサンプルとして決定し,かつ,前記結合が検出されなかったサンプルを,H.スイスが存在しないサンプルとして決定することにより,H.スイスの存在を判定すること
【0048】
また,例えば,本発明は,被験者のH.スイスへの感染を判定する方法であって,以下を含む方法であってもよい:
(a)少なくとも1つのhsvA遺伝子と特異的に結合可能な核酸分子と被験者由来のサンプルを接触させること;
(b)前記hsvA遺伝子と特異的に結合可能な核酸分子への前記サンプル中のポリヌクレオチドの結合を検出すること;及び,
(c)前記結合が検出されたサンプルの由来する被験者を,H.スイスに感染している判定し,かつ/又は,前記結合が測定又は検出されなかったサンプルを,H.スイスが存在しないサンプルとして判定すること。
【0049】
hsvA遺伝子と特異的に結合可能な核酸分子への前記サンプル中のポリヌクレオチドの結合の検出は,例えば,hsvA遺伝子と特異的に結合可能な核酸分子を予め標識しておき,hsvA遺伝子と特異的に結合可能な核酸分子と被験者由来のサンプルを接触させた後に洗浄し,残ったhsvA遺伝子と特異的に結合可能な核酸分子の標識を検出又は測定することにより行うことができる。この場合,好ましくは,被験者由来のサンプルは固相に固定化されている。
【0050】
また,PCRを利用した方法としては,ARMS(Amplification Refractory Mutation System)法,RT-PCR(Reverse transcription-PCR)法,Nested PCR法等の方法を挙げることができる。例えば,本発明におけるH.スイスの存在を判定する方法は,以下のステップを備えていてもよい:
(a)hsvA遺伝子と特異的に結合可能な核酸分子をプライマーとして用いて,サンプル中のhsvA遺伝子の一部を増幅させること:
(b)増幅された核酸分子を検出すること;並びに,
(c)増幅された核酸分子が検出されたサンプルを,H.スイスが存在するサンプルとして決定し,かつ,増幅された核酸分子が検出されなかったサンプルを,H.スイスが存在しないサンプルとして決定することにより,H.スイスの存在を判定すること。
【0051】
また,本発明は,以下を有するH.スイス感染の判定方法に関する:
(a)hsvA遺伝子と特異的に結合可能な核酸分子をプライマーとして用いて,被験者由来のサンプル中のhsvA遺伝子の一部を増幅させること:
(b)増幅された核酸分子を検出すること;並びに,
(c)増幅された核酸分子が検出されたサンプルが由来する被験者を,H.スイスが感染していると判定し,かつ,増幅された核酸分子が検出されなかったサンプルが由来する被験者を,H.スイスに感染していないと判定すること。
【0052】
また,別の態様において,本発明は,以下を有するH.スイス感染の判定方法に関する:
(a)hsvA遺伝子特異的核酸分子等をプライマーとして用いて,被験者由来のサンプル中のhsvA遺伝子の一部を増幅させること,
(b)増幅された核酸分子のレベルを測定すること;並びに,
(c)測定された核酸分子のレベルが,同様の方法により陰性対照について測定された核酸分子のレベルよりも高い場合,被験者をH.スイスに感染していると判定し,かつ,測定された核酸分子のレベルが,同様の方法により陰性対照について測定された核酸分子のレベルと同等か低い場合,被験者を,H.スイスに感染していないと判定すること。
【0053】
被験者由来のサンプル中のhsvA遺伝子の一部の増幅は,被験者由来のサンプルを鋳型としてPCR反応等を行うことにより実施することができる。
【0054】
増幅された核酸は,ドット・ブロット・ハイブリダイゼーション法,表面プラズモン共鳴法(SPR法),PCR-RFLP法,In situ RT-PCR法,PCR-SSO(sequence specific Oligonucleotide)法,PCR-SSP法,AMPFLP(Amplifiable fragment length polymorphism)法,MVR-PCR法,PCR-SSCP(single strand conformation polymorphism)法により判定することができる。
【0055】
インベーダー(登録商標)法として知られる方法を用いて行う場合,例えば,H.スイスの存在を判定する方法は,以下のステップを備えていてもよい:
(a)以下の(i)及び(ii)に記載の核酸に該試料を接触させて,アレルプローブと相補的なDNAに三重鎖を形成させるステップ:
(i)hsvA遺伝子特異的塩基配列又は該配列と相補的な配列及び消光プローブの一部と相補的な配列(フラップ)を備えるアレル特異的プローブ,及び/又は,hsvA特異的塩基配列または該配列と相補的な配列及び消光プローブの一部と相補的な配列(フラップ)を備えるアレル特異的プローブ,
(ii)hsvA遺伝子特異的塩基配列を備えるインベーダープローブ;
(b)(a)により得られた核酸試料に,三重鎖特異的DNA分解酵素を接触させて三重鎖を形成した核酸からフラップを遊離させるステップ;
(c)遊離されたフラップを,それぞれ当該フラップと相補的な配列及び消光プローブを備える蛍光標識ユニバーサルプローブと接触させるステップ;
(d)(c)により得られた核酸試料に,三重鎖特異的DNA分解酵素を接触させて蛍光標識を遊離させ,蛍光を発色させるステップ;
(e)発色した蛍光を検出することにより,hsvA遺伝子を検出するステップ;ここで,蛍光発色が検出されたサンプルを,H.スイスが存在するサンプルとして決定し,かつ,蛍光発色が検出されなかったサンプルを,H.スイスが存在しないサンプルとして決定することにより,H.スイスの存在を判定するステップ。
【0056】
(HsvAタンパク質特異的抗体を検出することを利用した方法)
被験者がH.スイスに感染しているか否かは,被験者自身の免疫系が生み出したH.スイス由来タンパク質(特には,HsvAタンパク質)に対する抗体の存在を確認することにより決定することができる。HsvA抗原ペプチド,又は抗HsvA抗体又はその免疫反応性断片を利用したH.スイスの検出は,酵素免疫測定法(EIA法),簡易EIA法,酵素結合イムノソルベントアッセイ法(ELISA法),ラジオイムノアッセイ法(RIA法),蛍光免疫測定法(FIA法)等の標識化免疫測定法;ウェスタンブロッティング法等のイムノブロッティング法;金コロイド凝集法等のイムノクロマト法;イオン交換クロマトグラフィ法,アフィニティクロマトグラフィ法等のクロマトグラフィ法;比濁法(TIA法);比ろう法(NIA法);比色法;ラテックス凝集法(LIA法);粒子計数法(CIA法);化学発光測定法(CLIA法,CLEIA法);沈降反応法;表面プラズモン共鳴法(SPR法);レゾナントミラーディテクター法(RMD法);比較干渉法等により行うことができる。
【0057】
一態様において,本発明は,以下を有するH.スイス感染の判定方法に関する:
(a)被験者由来のサンプルを本発明のHsvA抗原と接触させること,
(b)前記ペプチドと結合した,前記血液サンプル中の抗体を検出すること,及び
(c)前記ペプチドと結合した抗体が検出された被験者をH.スイスに感染していると判
定し,かつ,前記ペプチドと結合した抗体が検出されなかった被験者を,H.スイスに感染していないと判定すること。
すること。
【0058】
他の態様において,本発明は,以下を有するH.スイス感染の判定方法に関する:
(a)被験者由来のサンプルを,本発明のHsvA抗原ペプチドと接触させること,
(b)前記ペプチドと結合した,前記血液サンプル中の抗体のレベルを測定すること,及び
(c)測定された抗体のレベルが,同様の方法により陰性対照について測定された抗体のレベルよりも高い場合,該被験者をH.スイスに感染していると判定し,かつ,測定された抗体のレベルが,同様の方法により陰性対照について測定された抗体のレベルと同等か低い場合,該被験者を,H.スイスに感染していないと判定すること。
【0059】
前記ペプチドと被験者由来のサンプル中の抗体が結合したか否かは,例えば,被験者由来のサンプルを,本発明のHsvA抗原ペプチドと接触させた後に,反応液を洗浄して非結合の抗体を除去し,標識化した抗Ig抗体と接触させて前記HsvA抗原ペプチドと結合した被験者由来の抗体と該抗Ig抗体とを結合させ,反応液を洗浄して非結合の抗体を除去して該抗Ig抗体の標識を検出し,該抗Ig抗体の標識が検出された場合に前記ペプチドと被験者由来のサンプル中の抗体が結合したとして,確認することができる。該抗Ig抗体の標識レベルを測定することで,前記ペプチドと被験者由来のサンプル中の抗体との結合レベルを測定することもできる。結合レベルを利用する場合,予め存在量が判明している標準溶液を用いて標準曲線を作成することにより,測定値から抗体量を計算することができる。あるいは,表面プラズモン共鳴センサーを用いて,前記ペプチドと被験者由来のサンプル中の抗体の結合を検出又は測定することもできる。
【0060】
(HsvA抗原ペプチドの検出を利用したH.スイス感染診断)
被験者がH.スイスに感染しているか否かは,被験者由来のサンプル中のH.スイス由来タンパク質(特には,HsvAタンパク質)の存在を確認することにより決定することができる。HsvAタンパク質を利用したH.スイスの検出は,上述のHsvAタンパク質特異的抗体を検出することを利用した方法と同様な方法により行うことができる。
例えば,本発明のH.スイスの存在の判定方法は,以下を備えていてもよい:
(a)サンプルを,標識化された抗HsvA抗体又はその免疫反応性断片に接触させること;
(b)結合した抗体の標識を検出すること;
(c)該標識が検出されたサンプルを,H.スイスが存在するサンプルとして決定し,かつ,該結合が検出されなかったサンプルを,H.スイスが存在しないサンプルとして決定することにより,H.スイスの存在を判定すること。
【0061】
また,本発明の被験者のH.スイスへの感染の判定方法は,以下を備えていてもよい:
(a)被験者由来のサンプルを,標識化された抗HsvA抗体又はその免疫反応性断片に接触させること;
(b)結合した抗体の標識を検出すること;
(c)該標識が検出されたサンプルが由来する被験者を,H.スイスに感染していると判定し,かつ/又は,該標識が検出されなかったサンプルが由来する被験者を,H.スイスに感染していないと判定すること。
【0062】
あるいは,本発明のH.スイスの存在の判定方法は,以下を備えていてもよい:
(a)サンプルを,抗HsvA抗体又はその免疫反応性断片に接触させること;
(b)(a)より得られたサンプルを,前記抗HsvA抗体又はその免疫反応性断片とは異なる標識化された抗HsvA抗体若しくはその免疫反応性断片と接触させること;
(c)結合した抗体の標識を測定又は検出すること;
(d)該結合が測定又は検出されたサンプルを,H.スイスが存在するサンプルとして決定し,かつ,該結合が測定又は検出されなかったサンプルを,H.スイスが存在しないサンプルとして決定することにより,H.スイスの存在を判定すること。
【0063】
本発明の被験者のH.スイスへの感染の判定方法は,以下を備えていてもよい:
(a)被験者由来のサンプルを,抗HsvA抗体又はその免疫反応性断片に接触させること;
(b)(a)より得られたサンプルを,前記抗HsvA抗体又はその免疫反応性断片とは異なる標識化された抗HsvA抗体若しくはその免疫反応性断片と接触させること;
(c)結合した抗体の標識を測定又は検出すること;
(d)該結合が測定又は検出されたサンプルが由来する被験者を,H.スイスに感染していると判定し,かつ/又は,該結合が測定又は検出されなかったサンプルが由来する被験者を,H.スイスに感染していないと判定すること。
【0064】
抗体又はその断片の標識化は当分野において一般的な方法により行うことができる。例えば,タンパク質又はペプチドを蛍光標識する場合,タンパク質又はペプチドをリン酸緩衝液で洗浄した後,DMSO,緩衝液等で調製した色素を加え,混合した後室温で10分間静置することにより結合させることができる。また,市販の標識キットとして,ビオチン標識キット(Biotin Labeling Kit-NH2,Biotin Labeling Kit-SH:株式会社同仁化学研究所),アルカリフォスファターゼ標識用キット(Alkaline Phosphatase Labeling Kit-NH2,Alkaline Phosphatase Labeling Kit-SH:株式会社同仁化学研究所),ペルオキシダーゼ標識キット(Peroxidase Labering Kit-NH2,Peroxidase Labering Kit-NH2:株式会社同仁化学研究所),フィコビリプロテイン標識キット(Allophycocyanin Labeling Kit-NH2,Allophycocyanin Labeling Kit-SH,B-Phycoerythrin Labeling Kit-NH2,B-Phycoerythrin Labeling Kit-SH,R-Phycoerythrin Labeling Kit-NH2,R-Phycoerythrin Labeling Kit-SH:株式会社同仁化学研究所),蛍光標識キット(Fluorescein Labeling Kit-NH2,HiLyte Fluor(登録商標) 555 Labeling Kit-NH2,HiLyte Fluor(登録商標) 647 Labeling Kit-NH2:株式会社同仁化学研究所),DyLight547,DyLight647(テクノケミカル株式会社),Zenon(登録商標)Alexa Fluor(登録商標)抗体標識キット,Qdot(登録商標)抗体標識キット(インビトロゲン社),EZ-Label Protein Labeling Kit(フナコシ株式会社)等を用いて標識することもできる。また,標識した抗体又はその断片の検出は,適宜標識に適した機器を使用することにより行うことができる。
【0065】
H.スイスは広く哺乳動物に感染することから,本明細書記載のH.スイスの存在を判定する方法及びH.スイスへの感染を判定する方法における被験者は,ヒト,サル,ブタ,ネコ,イヌ,ウサギ,及びヒツジ等の哺乳動物とすることができ,好ましくは,ヒトであり,より好ましくは,ヒトの胃炎,慢性胃炎,鳥肌胃炎,胃MALTリンパ腫,びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫,胃癌,胃・十二指腸潰瘍,特発性血小板減少紫斑病,機能性ディスペプシア患者である。また,本発明の方法は,定性的,定量的または半定量的に行うことができる。
【0066】
本明細書記載のH.スイス存在を判定する方法において用いるサンプルとしては,例えば,生検として被験者から採取した組織試料または被験者から採取した液体を使用することができる。サンプルは,本発明の方法の対象となるものであれば特に限定はなく,例えば,組織,血液,血漿,血清,リンパ液,尿,便,漿液,髄液,関節液,眼房水,涙液,唾液またはそれらの分画物若しくは処理物を挙げることができる。本明細書記載のH.スイス存在を判定する方法において核酸を検出対象とする場合には,サンプルとして好ましくは組織(特には胃組織(胃バイオプシーサンプル))又は便である。本明細書記載のH.スイス存在を判定する方法において抗体を検出対象とする場合には,サンプルとして好ましくは,血液,血漿,血清,リンパ液,及び尿である。
【0067】
本発明のペプチド,核酸分子,及び,抗体若しくはその免疫反応性断片は,本明細書の開示を参照して当業者周知の方法により適宜調製することができる。また,本発明の組成物及びキットは,当該技術分野周知の方法により,適宜製造することができる。
【0068】
更に,本発明の核酸分子,及び,抗体若しくはその免疫反応性断片は,H.スイスと特異的に結合することから,例えば,siRNA,アンチセンスDNA若しくはRNA,中和抗体若しくはその免疫反応性断片,非中和抗体などを選択することにより,H.スイス感染者の体内からH.スイスを除去するための、又はH.スイス感染を防御するための医薬組成物として使用することができる。例えば,本発明の核酸分子,及び,抗体若しくはその免疫反応性断片は,必要により精製した後,常法に従って製剤化することにより,H.スイス感染が発症又は増悪化に寄与する疾患又は障害の治療用又は予防用の医薬組成物として用いることができる。また,本発明は,H.スイス除去剤,又は,H.スイス感染が発症又は増悪化に寄与する疾患又は障害の治療薬又は予防薬を製造するための,本発明の核酸分子,及び,抗体若しくはその免疫反応性断片の使用を含む。あるいは,本発明は,本発明の核酸分子,及び,抗体若しくはその免疫反応性断片の,H.スイスの除去,又は,H.スイス感染が発症又は増悪化に寄与する疾患又は障害の治療若しくは予防のための使用を含む。更に,本発明は,本発明の抗体又はその免疫反応性断片を投与することを含む,H.スイス除去方法,又は,H.スイス感染が発症又は増悪化に寄与する疾患又は障害の治療方法若しくは予防方法に関する。本明細書において,H.スイス感染が発症又は増悪化に寄与する疾患又は障害とは,胃炎,慢性胃炎,鳥肌胃炎,胃MALTリンパ腫,びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫,胃癌,胃・十二指腸潰瘍,特発性血小板減少紫斑病,及び機能性ディスペプシアを含む。以上において、「H.スイスの除去」とは、H.スイスに感染した感染者の体内からH.スイスを除去することを意味する。また、医薬組成物として使用する場合、好ましくは、抗体はヒト化されており、又は完全ヒト抗体である。
【0069】
本発明の医薬組成物は,患者に投与することができる製剤であれば経口又は非経口のいかなる製剤を採用してもよい。非経口投与のための組成物としては,例えば,点眼,注射剤,点鼻剤,坐剤,貼布剤,軟膏等を挙げることができる。好ましくは,注射剤である。本発明の医薬組成物の剤形は,例えば,液剤又は凍結乾燥製剤を挙げることができる。本発明の医薬組成物を注射剤として使用する場合,必要に応じて,プロピレングリコール,エチレンジアミン等の溶解補助剤,リン酸塩等の緩衝材,塩化ナトリウム,グリセリン等の等張化剤,亜硫酸塩等の安定剤,フェノール等の保存剤,リドカイン等の無痛化剤等の添加物(「医薬品添加物事典」薬事日報社,「Handbook of Pharmaceutical Excipients Fifth Edition」APhA Publications社参照)を加えることができる。また,本発明の医薬組成物を注射剤として使用する場合,保存容器としては,アンプル,バイアル,プレフィルドシリンジ,ペン型注射器用カートリッジ,及び,点滴用バッグ等を挙げることができる。
【0070】
例えば,本発明の医薬組成物(治療薬若しくは予防薬)は,注射剤として利用することができ,静脈注射剤,皮下注射剤,皮内注射剤,筋肉注射剤,硝子体内注射剤,点滴注射剤などの剤形を包含する。このような注射剤は,公知の方法に従って,例えば,上記抗体等を通常注射剤に用いられる無菌の水性もしくは油性液に溶解,懸濁または乳化することによって調製することができる。注射用の水性液としては,例えば,生理食塩水,ブドウ糖,ショ糖,マンニトール,その他の補助薬を含む等張液等が用いることができ,適当な溶解補助剤,例えば,アルコール(例,エタノール),ポリアルコール(例,プロピレングリコール,ポリエチレングリコール),非イオン界面活性剤〔例,ポリソルベート80,ポリソルベート20,HCO-50(polyoxyethylene(50mol)adduct of hydrogenated castor oil)〕等と併用することができる。油性液としては,例えば,ゴマ油,大豆油などを用いることができ,溶解補助剤として安息香酸ベンジル,ベンジルアルコール等と併用することができる。調製された注射液は,通常,適当なアンプル,バイアル,シリンジに充填される。また,本発明の抗体又はその免疫反応性断片に適当な賦形剤を添加することにより,凍結乾燥製剤を調製し,用時,注射用水,生理食塩水などで溶解して注射液とすることもできる。なお,一般的に抗体などのタンパク質の経口投与は消化器により分解されるため困難とされるが,抗体断片や修飾した抗体断片と剤形の創意工夫により,経口投与の可能性もある。経口投与の製剤としては,例えば,カプセル剤,錠剤,シロップ剤,顆粒剤等を挙げることができる。
【0071】
本発明の医薬組成物は,活性成分の投与量に適合するような投薬単位の剤形に調製されることが好適である。このような投薬単位の剤形としては,注射剤(アンプル,バイアル,プレフィルドシリンジ)が例示され,投薬単位剤形当たり通常5~500mg,5~100mg,10~250mgの本発明の抗体又はその免疫反応性断片を含有していても良い。
【0072】
本発明の医薬組成物(治療薬若しくは予防薬)の投与は,局所的であってもよく,全身的であってもよい。投与方法には特に制限はなく,上述のとおり非経口的又は経口的に投与される。非経口的投与経路としては,眼内,皮下,腹腔内,血中(静脈内,若しくは動脈内)又は脊髄液への注射又は点滴等が挙げられ,好ましくは血中への投与である。本発明の医薬組成物(治療薬若しくは予防薬)は,一時的に投与してもよいし,持続的又は断続的に投与してもよい。例えば,投与は,1分間~2週間の持続投与することもできる。
【0073】
本発明の医薬組成物の投与量は,所望の治療効果又は予防効果が得られる投与量であれば特に限定は無く,症状,性別,年齢等により適宜決定することができる。本発明の医薬組成物の投与量は,例えば,cAMPが発症又は増悪化に寄与する疾患又は障害の治療効果又は予防効果を指標として決定することができる。例えば,cAMPが発症又は増悪化に寄与する疾患又は障害の患者の予防および/または治療のために使用する場合には,本発明の医薬組成物の有効成分の1回量として,通常0.01~20mg/kg体重程度,好ましくは0.1~10mg/kg体重程度,さらに好ましくは0.1~5mg/kg体重程度を,1月1~10回程度,好ましくは1月1~5回程度,静脈注射により投与するのが好都合である。他の非経口投与および経口投与の場合もこれに準ずる量を投与することができる。症状が特に重い場合には,その症状に応じて増量または投与回数を増加させてもよい。
【実施例0074】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが,本発明はこれに限定されるものではない。なお,本願全体を通して引用される全文献は参照によりそのまま本願に組み込まれる。
【0075】
(実施例1)PCRによる検出
(1)DNAの調製
(1)-1.H.ピロリ
H.ピロリとして,11株(SS1,TN2GF4,RC-1,ATCC43579,NCTC11637,TK1029,TK1081,TY1289,TY281)を用いた。ニッスイプレート・ヘリコバクター寒天培地(日水製薬,東京)に-80℃で保存していた菌液を塗布し,微好気条件下(5%O2,10%CO2,85%N2,湿度100%),37℃で3日間培養した。生じたコロニーを滅菌蒸留水に懸濁し,95℃5分間処理後の遠心上清を粗精製染色体DNAとした。粗精製染色体DNAは, 等量のフェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール(25:24:1)で抽出後,エタノール沈殿で精製し,少量の滅菌蒸留水に溶解させた。最終産物のDNA濃度は,260nmの吸光度(Absorbance)(A260)を測定し,以下の式により決定した。
DNA濃度(μg/mL)=A260×50(光路長10mm)
【0076】
(1)-2. H.スイス
H.スイスとして,2株(TKY, SNTW101)を用いた。H.スイスを感染させた雌のC57BL/6マウス(チャールズリバージャパン,横浜)を解剖し,胃の大湾部を切開した。内容物をPBSで洗浄し,スライドガラスを用いて,粘膜をかき取った。粘膜は2枚のスライドガラスのすりガラス部分でこすり合わせて懸濁液を調製した。DNeasy Blood & Tissue kit(Qiagen,Hilden,Germany)を用いて,菌を含むマウス胃粘膜のDNAを調製した。最終産物のDNA濃度は,260nmの吸光度(A260)を測定し,以下の式により決定した。
DNA濃度(μg/mL)=A260×50(光路長10mm)
【0077】
(1)-3.H.フェリス(H.felis),H.ムステーレ(H.mustelae),H.ハイルマニイs.s.(H.heilmannii sensu stricto),H.バクリフォルミス(H.baculiformis),H.ビゼゾロニー(H.bizzozeronii),H.シノガストリクス(H.cynogastricus),H.サルモニス(H.salmonis)
-80℃で保存していた菌液を滅菌蒸留水に懸濁し,95℃5分間処理後の遠心上清を粗精製染色体DNAとした。粗精製染色体DNAは,等量のフェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール(25:24:1)で抽出後,エタノール沈殿で精製し,少量の滅菌蒸留水に溶解させた。
【0078】
(2)PCR
(2)-1.PCR
Dream Taq DNA Polymerase(Thermo Fisher Sci.)を用いて,以下の組成の反応液(合計25μL)についてPCR反応をデュプリケートで行った:10×緩衝液 2.5μL,10mM dNTP mix 0.5μL,フォワード(FW)プライマー(5μM)1μL,リバース(RV)プライマー1μL,鋳型DNA 1μL(H.ピロリ(SS1株,TN2GF4株,RC-1株,ATCC43579株,NCTC11637株,TK1029株,TK1081株,TY1289株,及びTY281株)DNA各々1ng,及び10ng,H.スイス(SNTW101株及びTKY株)感染マウスの胃生検から調製したDNA各々10-3ng,10-2ng,10-1ng,1ng,10ng,及び100ng),DNA polymerase 0.25μL,及び滅菌蒸留水16.75μL。PCRの反応条件は,95℃1分でホールドした後,1サイクル95℃30秒,55℃30秒,及び72℃1分を35サイクル行い,その後72℃で5分維持した。
【0079】
H.スイスのhsvA遺伝子とH.フェリス,H.ビゼゾロニー,H.ピロリに存在するVacA類似のオートトランスポータータンパク質を比較し,H.スイスの菌株間で同一性が高く,他の菌種と同一性のない領域にプライマーを設計した。設計されたプライマーは以下の通りであった。
(フォワードプライマー)
HSVANOFW-2:AGAAACGAGATTACAGGAAG(配列番号51)
HSVANOFW-3:AGGAGCAAGTTTTGTAGCAG(配列番号52)HSVANOFW-5:AAAATGCGACTGATTGGATG(配列番号53)
(リバースプライマー)
HSVANORV-1:ATCGAAATAAGCGAACCTCA(配列番号72)
HSVANORV-3:TTGAAAGCTTAGCTAAACGG(配列番号73)
HSVANORV4:TGGTATTGCTGGTTAAGAGG(配列番号74)
【0080】
また,H.ピロリのvacA遺伝子を増幅するプライマーとして,以下のプライマーを用いた(Matsui Hら,Helicobacter.(2014)19(4):260-71.)。
VAC3624F(フォワード):GAGCGAGCTATGGTTATGAC(配列番号84)
VAC4041R(リバース):CATTCCTAAATTGGAAGCGAA(配列番号85)
【0081】
得られた増副産物の10μLを1.5%アガロースゲル電気泳動に流し,エチジウムブロマイドで染色により増幅したバンドを確認した。
【0082】
(2)-2.リアルタイムPCR
IDT社に委託して,以下の配列を有するダブルクエンチャープローブ(PrimeTime(登録商標)qPCR Probes)を合成した。プライマーは,上述のFW5とRW3がH.スイスの菌株間で同一性が高いことから,同じ領域に新たなプライマーとして設計した。
プローブ:FAM/TGTACACAC/ZEN/CAAACAGATGAGCCGT(配列番号75)/3IABkFQ
フォワード:
GATGGGCGCTTCTGGTTTA(配列番号47)
リバース:
CTGGTAATGCATCATTAGAAGCAAA(配列番号65)
【0083】
PCR反応は,上記プローブ(終濃度0.25μM),上記プライマー(終濃度0.5μM),及びPCR master mix: PrimeTime Gene Expression Master Mix(Integrated DNA Technologies)を用いて,QuantStudio(Applied Biosystems)で,IDT社添付のプロトコルに従い,以下の条件で行った。
95℃ 3分,1サイクル
95℃ 15秒-60℃ 1分,40サイクル
【0084】
(3)結果
事前に対象領域をクローニングしたプラスミドを用いて検量線を作成した。その結果,10
2コピーから10
7コピーの間で良好な増幅効率,定量性を示した(結果非図示)。H.ピロリ及びH.スイス感染マウス胃生検組織DNAを用いたPCRの結果を
図5に示す。設計されたHSVANOFW-2/HSVANORV-4、HSVANOFW-3/HSVANORV-4、HSVANOFW-5/HSVANORV-4のプライマーの組み合わせは,いずれもH.スイス特異的に増幅し,H.ピロリのDNAの増幅は見られなかった。一方で,H.ピロリのvacAに対して設計されたプライマーは,H.ピロリのDNAのみを増幅し,H.スイスのDNAは増幅しなかった。
【0085】
H.スイス感染マウス胃生検組織DNAを用いた定量PCRの結果,DNA量100ngから10-2ngまで,良好な増幅効率を示した(結果非図示)。また,H.スイス SNTW101株は10ngDNAあたり6.9×105コピーであり,H.スイス TKY株は10ngDNAあたり3.7×105コピーであり、H.スイスSH8株は10ngDNAあたり1.5×103コピーであり、H.スイスSH10株は10ngDNAあたり4.2×103コピーであった。一方,H.ピロリ DNA(SS1株,TN2GF4株,RC-1株,ATCC43579株,NCTC11637株,TK1029株,TK1081株,TY1289株,及びTY281株)では増幅は観察されなかった。同様にH.フェリス,H.ムステーレ,H.ハイルマニイs.s.ASB1.4,H.バクリフォルミス,H.ビゼゾロニー,H.シノガストリクス,H.サルモニスの染色体DNAを鋳型とした場合は増殖が認められなかった。H.ピロリ(SS1株,TN2GF4株,NCTC11637株,ATCC43579株,RC-1株,TK1029株, TK1081株,TY1289株,及びTY281株),H.felis(H.フェリス),H. mustelae(H.ムステーレ),H. heilmannii sensu stricto(H.ハイルマニイs.s.ASB1.4),H. baculiformis(H.バクリフォルミス),H. bizzozeronii(H.ビゼゾロニー),H. cynogastricus(H.シノガストリクス),H. salmonis(H.サルモニス)では増幅が認められず,H.スイス感染マウス由来胃粘膜DNAにおいてのみ増幅が認められた。
【0086】
以上より,設計されたプライマーセットはいずれもH.ピロリ,H.フェリス,H.ムステーレ,H.ハイルマニイs.s.ASB1.4,H.バクリフォルミス,H.ビゼゾロニー,H.シノガストリクス,及びH.サルモニスと区別してH.スイス感染の診断ができることが明らかとなった。
【0087】
(実施例2)ペプチド合成および抗体作製
PCRによるH.スイスの特異的検出に成功したことから,HsvAが発現している可能性を考慮し,HsvAを標的としたH.スイス感染の診断が可能であるかに関する検討を行った。
【0088】
(1)ペプチド合成
HsvAがコードしていると想定されるアミノ酸配列(配列番号2;
図2)のうち,菌種の特異性及び株間での保存性から,抗原性が予測されるペプチド配列を以下の通り選択し,合成した。
No.11:EKKAVQQMENSNPD(配列番号3)
No.11(TKY):EKKAVEQMENSNPD(配列番号4)
No.11(SH8):EKDAVTSLKNSNSG(配列番号5)
No.11(SH10):EKDAVTSLENSNSG(配列番号6)
No.19:NQGTLEFLSNDVSN(配列番号7)
No.19(TKY):NQGTLEFLSNDVST(配列番号8)
No.33:LSNKLQGQLKSMGL(配列番号9)
No.33(TKY):LSNKLQDQLKSMGL(配列番号10)
No.33(SH10):FSDKLQNMLKSLNM(配列番号11)
No.16:TNGQEVSASIDYNK(配列番号12)
No.23:AKLSNFASNDALPD(配列番号13)
No.10:PTTSSGASPDSSNP(配列番号14)
No.21:GLGRDLFVHSMGDK(配列番号15)
No.15:QIGKIKLSDVLSAS(配列番号16)
No.34:YGAIDKELHFSGGK(配列番号17)
No.20:NVDNILNMPSTTSG(配列番号18)
No.22:GNLKGVYYPKSSTT(配列番号19)
No.14:ITEKIQSGKLTITI(配列番号20)
No.26:FHDFLVSLKGKKFA(配列番号21)
No.31:TTGGEVRLFRSFYV(配列番号22)
No.35:IGARFGLDYQDINI(配列番号23)
No.8:KQLPQPKRSELKPK(配列番号86)
No.31N:TNIKQYMQNNHRSQ(配列番号87)
No.81:TLTLEGTETFAQNS(配列番号88)
No.63:EAYAKNQGDIWSTI(配列番号89)
No.73:VIGSKSSITLNSAN(配列番号90)
No.61:ADIQSSQTTFANSV(配列番号91)
【0089】
(2)抗体作製
以上の選択された配列のうち,No.10、No.11,No.16、No.19,No.33、及びNo.61それぞれ14-merのペプチドのアミノ末端にシステイン(C)を付加したペプチドを合成した。キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)をキャリアとして,ウサギ(ニュージーランドホワイト)へ免疫し,ELISA力価1:512,000以上を得た。免疫ウサギ血清をProtein Gを結合したアフィニティーカラムにて精製し,回収したIgG分画を抗ペプチドウサギ抗体(ポリクローナル抗体)として以下の実験において用いた。。
【0090】
(4)ELISA用H.ピロリ抗原の調製
H.ピロリは,10%牛胎児血清(FCS)を含むブルセラブロスで温度37℃,湿度100%,微好気条件(5%O2,10%CO2,85%N2)で48時間振とう培養を行った後で,培養液を遠心分離により菌体を集めた。菌体は滅菌した蒸留水で3回洗浄し,リポ多糖成分を除き,少量の菌体は滅菌した蒸留水で懸濁した。
【0091】
(5)タンパク質の定量
96-wellプレートを使用するBio-Radプロテインアッセイキットを用いてタンパク質を定量した。検量線作成には,牛血清アルブミン(BSA)を標準タンパク質として用いた。
【0092】
(実施例3)ELISA(EnzymeLinked ImmunoSorbent Assay; 酵素免疫測定法)用いた感染者(ヒト)の抗H.スイス抗体価の測定
0.2M炭酸-重炭酸緩衝液(pH9.4)に溶解したペプチド又は実施例2(4)で調製したH.ピロリ全菌体(4μg/mL)100μL/wellを96-well NUNC-Immuno Plate #439454へ滴下し,4℃に一夜置いた。翌日,ペプチド溶液を廃棄し,PBS-T(0.05%(V/V)Tween20を含むリン酸緩衝食塩水,pH7.4)200μL/wellで3回洗浄した。滅菌蒸留水で5倍希釈したNacalai Tesque ブロッキング溶液(PBS系pH7.2)を200μL/well滴下し,37℃に1時間置いた。ブロッキング溶液を廃棄し,PBS-T(0.05%(V/V)Tween20を含む燐酸緩衝食塩水,pH7.4)200μL/wellで3回洗浄した。
【0093】
H.ピロリ感染者,及びH.スイス感染者からの血清をそれぞれ採取した。また,対照として,いずれにも感染していない健常人からの血清を採取した(非感染)。滅菌蒸留水で10倍希釈したNacalai Tesqueブロッキング溶液(PBS系pH 7.2)を用いて希釈したヒト血清を100μL/well滴下し,37℃に1時間置いた。血清溶液を廃棄し,PBS-T(0.05%(V/V)Tween 20を含む燐酸緩衝食塩水,pH7.4)200μL/wellで3回洗浄した。滅菌蒸留水で10倍希釈のNacalai Tesqueブロッキング溶液(PBS系pH 7.2)を用いて100,000倍希釈した西洋わさびペルオキシ標識二次抗体(Goat anti-Human IgG,Jackson Immuno Research)を100μL/well滴下し,37℃に1時間置いた。二次抗体溶液を廃棄し,PBS-T(0.05%(V/V)Tween20を含む燐酸緩衝食塩水,pH7.4)200μL/wellで3回洗浄した。SuperBlue TMB Microwell Peroxidase Substrate(1-Component),KPL社を100μL/well滴下し青く発色後に,1N塩酸を100 μL/well滴下し黄色へ変色させた。プレートリーダーを用いて450nmの吸光度を測定した。
【0094】
ヒト血清を用いたELISAの結果を
図6~
図9に示す。H.スイス陽性の対象はHsvA抗原ペプチドに対する抗体価が高く,H.スイスに感染していないH.ピロリ感染者及び非感染者のHsvA抗原ペプチドに対する抗体価は低かった。また,H.ピロリ全菌体に対する抗体価はH.ピロリ感染者において高く,H.スイス感染者及び非感染者では低かった。このことから,H.スイスはヒト体内においてhsvA遺伝子を発現していること,及び,H.スイスに感染したヒト血液中にHsvAタンパク質に対する抗体が産生されていることが初めて示された。これにより,HsvA抗原ペプチドを用いることにより,ヒトにおいてH.ピロリ感染と区別してH.スイス感染の診断ができることが明らかとなった。
【0095】
(実施例4)サンドイッチELISAを用いた感染マウスの抗H.スイス抗体価の測定
0.2M炭酸-重炭酸緩衝液(pH9.4)に溶解したペプチド抗体Nos.11,19,及び33(1μg/mL)100 μL/wellを96-well NUNC-Immuno Plate #439454へ滴下し,4℃に一夜置いた。翌日,抗体溶液を廃棄し,PBS-T(0.05%(V/V)Tween20を含むリン酸緩衝食塩水、pH7.4)200μL/wellで3回洗浄した。滅菌蒸留水で5倍希釈したNacalai Tesqueブロッキング溶液(リン酸緩衝液系pH7.2)を200μL/well滴下し,37℃に1時間置いた。ブロッキング溶液を廃棄し,PBS-T (0.05%(V/V)Tween20を含むリン酸緩衝食塩水、pH7.4)200μL/wellで3回洗浄した。滅菌蒸留水で10倍希釈のNacalai Tesque ブロッキング溶液(リン酸緩衝液系pH7.2)を用いて希釈したペプチドNos.11,19,33(4μg/mL)を100μL/well滴下し,37℃に1時間置いた。ペプチド溶液を廃棄し,PBS-T(0.05%(V/V)Tween20を含むリン酸緩衝食塩水、pH7.4)200μL/wellで3回洗浄した。交換水で10倍希釈のNacalai Tesqueブロッキング溶液(PBS系pH7.2)を用いて希釈したマウス血清を100μL/well滴下し,37℃に1時間置いた。血清溶液を廃棄し,PBS-T(0.05%(V/V)Tween20を含むリン酸緩衝食塩水、pH7.4)200μL/wellで3回洗浄した。滅菌蒸留水で10倍希釈のNacalai Tesqueブロッキング溶液(リン酸緩衝液系pH7.2)を用いて100,000倍希釈した西洋わさびペルオキシダーゼ標識二次抗体(Donkey Anti-Mouse IgG, Jackson Immuno Research)を100 μL/well滴下し,37℃に1時間置いた。二次抗体溶液を廃棄し,PBS-T (0.05%(V/V)Tween20を含むリン酸緩衝食塩水、pH7.4)200μL/wellで3回洗浄した。SuperBlue TMB Microwell Peroxidase Substrate(1-Component),KPL社を100μL/well滴下し青く発色後に,1N塩酸を100 μL/well滴下し黄色へ変色させた。プレートリーダーを用いて450 nmの吸光度を測定した。
【0096】
H.スイス TKY株又はH.ピロリ SS1株を感染させたマウスの血清中の抗体のペプチドに対する結合価をEELISAで測定した結果を
図10に,サンドイッチELISAで測定した結果を
図11に示す。いずれの系においても,H.スイス感染マウス血清においてHsvAタンパク質由来ペプチドに対して特異的に高い抗体価が認められた。このことから,H.スイスはマウス体内においてHsvAタンパク質を発現していること,及び,H.スイスに感染したマウス血液中にHsvAタンパク質に対する抗体が産生されていることが初めて示された。これにより,HsvA特異的抗原ペプチドを用いることにより,マウスにおいてもH.ピロリ感染と区別してH.スイス感染の診断ができることが明らかとなった。
【0097】
(実施例5)ELISA(EnzymeLinked ImmunoSorbent Assay; 酵素免疫測定法)用いたペプチド抗体の特異性の測定
0.2M炭酸-重炭酸緩衝液(pH9.4)に溶解したNos.11,19及び33の各種ペプチド(4μg/mL)あるいは,H.ピロリ全菌体100μL/wellを96-well NUNC-Immuno Plate #439454へ滴下し,4℃に一夜置いた。翌日,ペプチド溶液を廃棄し,PBS-T(0.05%(V/V)Tween20を含むリン酸緩衝食塩水、pH7.4)200μL/wellで3回洗浄した。滅菌蒸留水で5倍希釈のNacalai Tesque ブロッキング溶液(リン酸緩衝液系系pH 7.2)を200μL/well滴下し,37℃に1時間置いた。ブロッキング溶液を廃棄し,PBS-T(0.05%(V/V)Tween 20を含む燐酸緩衝食塩水、pH7.4)200μL/wellで3回洗浄した。交換水で10倍希釈のNacalai Tesque ブロッキング溶液(リン酸緩衝液系pH7.2)を用いて希釈した実施例2(2)で得られた各抗ペプチド抗体(1μg/mL)100 μL/well滴下し,37℃に1時間置いた。血清溶液を廃棄し,PBS-T (0.05%(V/V)Tween20を含む燐酸緩衝食塩水、pH7.4)200μL/wellで3回洗浄した。交換水で10倍希釈のNacalai Tesque ブロッキング溶液(PBS系pH7.2)を用いて100,000倍希釈した西洋わさびペルオキシダーゼ標識二次抗体(Goat anti-Rabbit IgG,Jackson Immuno Research)を100μL/well滴下し,37℃に1時間置いた。二次抗体溶液を廃棄し,PBS-T(0.05%(V/V)Tween20を含むリン酸緩衝食塩水、pH7.4)200μL/wellで3回洗浄した。SuperBlue TMB Microwell Peroxidase Substrate(1-Component),KPL社を100μL/well滴下し青く発色後に,1N塩酸を100 μL/well滴下し黄色へ変色させた。プレートリーダーを用いて450nmの吸光度を測定した。
【0098】
各種抗原(H.スイスHsvA抗原ペプチド(Nos.11,19及び33),又はH.ピロリ全菌体(TN2GF4株及びSS1株)を結合したウェル上への実施例2で作製した抗ペプチドウサギ抗体への結合を測定した結果を
図12示す。ペプチドNo.11(配列番号3),ペプチドNo.33(配列番号9),ペプチドNo.19(配列番号7)に対する抗体は,それぞれの抗体の作製において抗原として使用したペプチドに対して特異的に強い結合を示す一方,H.ピロリ全菌体に対しては弱い結合しか示さなかった。特にNo.11ペプチドに対する抗体のH.ピロリ全菌体に対する非特異的結合力の低さが示された。
【0099】
(実施例6)抗No.11 ペプチド抗体を用いた免疫染色
H.スイス感染ヒト胃パラフィン切片を,キシレン3回,無水エタノール1回,90%エタノール1回,80%エタノール1回,純水1回の順に浸し(それぞれ5分間),脱パラフィン処理した。脱パラフィン処理のスライドガラスを1% (W/V)スキムミルクを含むリン酸緩衝食塩水pH7.2を滴下し,室温30分置いてブロッキング処理した。次にスライドガラスをリン酸緩衝食塩水pH7.2で室温5分間,3回洗浄した。抗No. 11ペプチド抗体をリン酸緩衝食塩水pH7.2で2μg/mLに希釈し,スライドガラスへ滴下し室温3時間反応させた。スライドガラスから抗体溶液を除き,リン酸緩衝食塩水pH7.2で室温5分間,3回洗浄した。リン酸緩衝食塩水pH7.2で400倍希釈したAlexa-Fluor 488抗ウサギIgG(Thermo Fisher)(二次抗体)をスライドガラスに滴下し,室温3時間反応させた。スライドガラスから二次抗体溶液を除き,リン酸緩衝食塩水pH7.2で室温5分間,3回洗浄した。リン酸緩衝食塩水pH7.2で400倍希釈したAlexa-Fluor 568ファロイジン(Thermo Fisher)をスライドガラスに滴下し,室温30分反応させて対比染色した(Fアクチンを染色)。スライドガラスから二次抗体溶液を除き,リン酸緩衝食塩水pH7.2で室温5分間,3回洗浄した。スライドガラスをパーマ フロー(Therma Fisher)で封入した。共焦点レーザー蛍光顕微鏡,Leica TCS-SP5にて観察した。写真Aは,200倍,Bは,Aの囲んだ部分を760倍に拡大した写真である。矢印は,H.スイス菌体を示す。
【0100】
結果を
図13に示す。H.スイス感染患者胃組織切片中の菌体が抗No.11ペプチド抗体により染色された。抗No.11ペプチド抗体を用いた免疫組織化学により,H.スイス感染の診断ができることが明らかとなった。
【0101】
(実施例7)
実施例2で作製したペプチドNos.8,31N,81,63,73,61,11+11(TKY),11(SH8),11(SH10),19+19(TKY),33+33(TKY),33(SH10),16,23,10,21,20,22,31,35ペプチドあるいはH.pylori TN2GF4及びSS1全菌体(4μg/mL)を0.1M炭酸-重炭酸緩衝液(pH9.4)に溶解し、100μL/wellを96-wellプレート(NUNC-Immuno plate #439454)へ滴下し、4℃で一晩静置した。翌日、ペプチド溶液を廃棄し、PBS-T(0.05%(V/V)Tween20を含むリン酸緩衝食塩水、pH7.4)200μLで3回洗浄した。ブロッキング溶液(BSA,1%(W/V)リン酸緩衝液系、pH7.4)を200μL/well滴下し、37℃で1時間静置した。ブロッキング溶液を廃棄し、PBS-T 200μLで3回洗浄した。
【0102】
血清サンプルとして、H.スイス感染患者から得られた血清(n=4)、H.ピロリ感染患者から得られた血清(n=5)、及び非感染者から得られた血清(n=3)を用いた。蒸留水で10倍希釈したNacalai Tesqueブロッキング溶液(リン酸緩衝液系pH7.2)を用いて各血清を1,800倍希釈(H.ピロリ検体との反応用のみ、600倍と1800倍希釈)し、50μL/wellで上述の方法で調製したプレートに滴下し、37℃で1時間静置した。血清溶液を廃棄し、PBS-T 200μL/wellで3回洗浄した。蒸留水で10倍希釈のNacalai Tesqueブロッキング溶液(リン酸緩衝液系pH7.2)を用いて100,000倍希釈した西洋わさびペルオキシダーゼ標識二次抗体(Peroxidase-conjugated AffiniPure Goat Anti-Human IgG(H+L),Jackson ImmunoResearch)を50μL滴下し、37℃で1時間静置した。二次抗体溶液を廃棄し、PBS-Tで3回洗浄した。SuperBlue TMB Microwell Perpxidase Substrate(1-Component,KPL)を50μL/well滴下し青く発色後に、1N塩酸を50μL滴下し黄色へ変色させた。プレートリーダーを用いて450nm(リファレンス630nm)の吸光度を測定した。
【0103】
結果を
図14に示す。本ELISA法により、1800倍希釈ヒト血清(H.suis陽性4検体(患者5,6,7,8);H.pylori陽性5検体(患者4,5,6,7,8);非感染3検体(健常人4,5,6)について、吸光度0.5以上を陽性、以下を陰性として区別することができた。ペプチドNos.81,61,20,11+11(TKY),11(SH8),11(SH10),19+19(TKY),10,16,及び23の10本がH.スイス陽性患者血清に高い反応性が認められた(A)。一方H.ピロリ陽性患者血清(B)と非感染血清(C)は全てのペプチドと反応しなかった。また、H.ピロリ全菌体とはH.ピロリ感染血清が強い反応性を示したが、H.スイス感染血清では反応を示さなかった(D)。このことから、これらのペプチドがH.ピロリに対する抗体とは反応せず、H.スイスに対する抗体に極めて特異的であることが示された。よって、血清中の抗体を利用した特異的な感染診断に有用である。
【0104】
(実施例8)Nos.61,11,33,19,10,及び16の各ペプチドに対する抗ペプチド抗体の対応抗原ペプチドに対する特異性
実施例2において作製したNos.8,31N,81,63,73,61,11+11(TKY),11(SH8),11(SH10),19+19(TKY),33+33(TKY),33(SH10),16,23,10,21,20,22,31,35ペプチドを0.1M炭酸-重炭酸緩衝液(pH9.4)に溶解し(4μg/mL )100μL/wellを、96-wellプレート(NUNC-Immuno plate #439454)へ滴下し、4℃で一晩静置した。翌日、ペプチド溶液を廃棄し、PBS-T(0.05%(V/V)Tween20を含むリン酸緩衝食塩水、pH7.4)200μLで3回洗浄した。ブロッキング溶液(BSA,1%(W/V)リン酸緩衝液系、pH7.4)を200μL/wellで滴下し、37℃で1時間静置した。ブロッキング溶液を廃棄し、PBS-T 200μLで3回洗浄した。蒸留水で10倍希釈のNacalai Tesqueブロッキング溶液(リン酸緩衝液系pH7.2)を用いて、実施例2において抗ペプチドウサギポリクローナル抗体(IgG,0.2μg/mL)を50μL/wellで滴下し、37℃で1時間静置した(n=2)。血清溶液を廃棄し、PBS-T 200μL/wellで3回洗浄した。蒸留水で10倍希釈のNacalai Tesqueブロッキング溶液(リン酸緩衝液系(pH7.2)を用いて100,000倍希釈した西洋わさびペルオキシダーゼ標識二次抗体(Peroxidase-conjugated AffiniPure Goat Anti-Rabbit IgG(H+L),Jackson ImmunoResearch)を50μL滴下し、37℃で1時間静置した。二次抗体溶液を廃棄し、PBS-Tで3回洗浄した。SuperBlue TMB Microwell Perpxidase Substrate(1-Component,KPL)を50μL/well滴下し、青く発色後に、1N塩酸を50μL滴下して黄色へと変色させた。プレートリーダーを用いて450nm(リファレンス630nm)の吸光度を測定した。
結果を
図15に示す。各ペプチド抗体は、抗原として用いた対応するペプチドとのみ特異的に反応することが示された。
【0105】
(実施例9)Nos.61,11,33,19,10,及び16の各ペプチドに対する抗ペプチド抗体の菌体に対する特異性
0.1M炭酸/重炭酸緩衝液(pH9.4)に溶解したH.ピロリSS1,H.ピロリTN2GF4,H.ピロリNCTC11637,H.ピロリTY1289,H.ピロリRC-1,H.ピロリTK1029,H.ピロリTY281,H.ピロリATCC43579,H.ピロリTK1081,H.スイスSNTW101(4μg/mL)100μL/wellを96-wellプレート(NUNC-Immuno plate #439454)へ滴下し、4℃で一晩静置した。翌日、ペプチド溶液を廃棄し、PBS-T(0.05%(V/V)Tween20を含むリン酸緩衝食塩水、pH7.4)200μLで3回洗浄した。ブロッキング溶液(BSA,1%(W/V)リン酸緩衝液系、pH7.4)を200μL/well滴下し、37℃で1時間静置した。ブロッキング溶液を廃棄し、PBS-T 200μLで3回洗浄した。蒸留水で10倍希釈のNacalai Tesqueブロッキング溶液(リン酸緩衝液系pH7.2)を用いて、実施例2において調製した抗ペプチドウサギポリクローナル抗体(IgG,0.2μg/mL)又はH.ピロリSS1に対するポリクローナル抗体(ウサギIgG)(非特許文献4に記載)を50μL/well滴下し、37℃で1時間静置した(n=2~4)。血清溶液を廃棄し、PBS-T 200μL/wellで3回洗浄した。蒸留水で10倍希釈のNacalai Tesqueブロッキング溶液(リン酸緩衝液系pH7.2)を用いて100,000倍希釈した西洋わさびペルオキシダーゼ標識二次抗体(Peroxidase-conjugated AffiniPure Goat Anti-Rabbit IgG (H+L),Jackson ImmunoResearch)を50μL滴下し、37℃で1時間静置した。二次抗体溶液を廃棄し、PBS-Tで3回洗浄した。SuperBlue TMB Microwell Perpxidase Substrate(1-Component,KPL)を50μL/well滴下し、青く発色後に、1N塩酸を50μL滴下して黄色へ変色させた。プレートリーダーを用いて450nm(リファレンス630nm)の吸光度を測定した。
【0106】
結果を
図16に示す。抗ペプチド抗体は、H.ピロリ菌体と反応しなかった。一方で、抗H.ピロリポリクローナル抗体は、H.ピロリおよびH.スイス菌体と反応した。
【0107】
(実施例10)H.スイスSNTW101の培養法
(1) 感染マウスの胃粘膜中からのH.suis SNTW101の分離・培養
Smet A., et al., International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology (2012), 62, 299-306の方法を基本に培地を改良して培養を行った。Brecella agar plate(skirrow 2vials/L,vancomycin 10mg/L,trimethoprim 5mg/L,polymyxin B 2500IU/L,vitox 2vials/L,amphotericin B 5mg/L,fetal calf serum 20%(V/V))に塩酸0.05%(V/V)とlinezolid 10mg/Lを加えた。37℃、湿度100%、12%CO2,5%O2,83%N2条件下で2週間振とう培養し、1日おきにBrucella broth(skirrow 2vials/L,vitox 2vials/L,linezolid 5mg/L,fetal calf serum 20%(V/V),pH5)を150μL添加した。培養液の遠心沈殿を3回水洗したものをH.スイスSNTW101菌体とした。蛋白質の定量は、Bio-Radプロテインアッセイキットを用いた。牛血清アルブミン(BSA)を標準蛋白質として、検量線を作成した。
【0108】
(実施例11)抗No.16ペプチド(配列番号12)抗体を用いた免疫組織化学
H.スイスSNTW101感染C57BL/6マウスの胃を大湾に沿って切開した。内容物をPBSで洗浄し後、垂直方向に切除し、10%中性緩衝ホルマリンで固定した。胃組織をパラフィンに包埋し、切片を4μmで作製した。脱パラフィン後に水洗し、クエン酸緩衝液(pH6.0)を用いて95℃で20分間熱処理し、抗原の賦活化を行った。水洗後、0.3%の過酸化水素水と10分間室温で反応させた。PBSで2回洗浄後、anti-No.16ペプチド抗体(2μg/mL PBS)と室温で1時間反応させた。PBSで2回洗浄後に二次抗体としてヒストファインシプルステインマウスMAX-PO(R)(ニチレイ,Code.414341)と30分間室温で反応させた。PBSで2回洗浄後にDAB(3,3’-ジアミノベンジジン四塩酸塩)溶液を用いて5分間室温で発色させた。PBSで2回洗浄後にヘマトキシリンにて後染色を行い、水洗後に脱水、透徹、封入し顕微鏡観察を行った。
【0109】
結果を
図17に示すNo.16ペプチド(配列番号12)抗体によりH.スイス菌体の免疫染色が可能であることが示された。