(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125056
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】蓄熱体及び蓄熱体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 5/10 20060101AFI20240906BHJP
F28D 20/00 20060101ALI20240906BHJP
F27D 17/00 20060101ALI20240906BHJP
C04B 41/87 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
C09K5/10 E ZAB
F28D20/00 A
F27D17/00 101A
C04B41/87 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033129
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000220767
【氏名又は名称】東京窯業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140671
【弁理士】
【氏名又は名称】大矢 正代
(72)【発明者】
【氏名】常吉 孝治
(72)【発明者】
【氏名】高木 修
【テーマコード(参考)】
4K056
【Fターム(参考)】
4K056AA05
4K056AA08
4K056AA09
4K056AA12
4K056BB01
4K056DA02
4K056DA27
4K056DA29
4K056DA32
(57)【要約】
【課題】珪酸系ガラスの酸化防止層を備えていると共に、蓄熱体同士の付着、または蓄熱体とケーシングとの付着が抑制されている蓄熱体を提供する。
【解決手段】蓄熱体の構成を、炭化珪素質セラミックス焼結体である球状の基体10、及び、セラミックス焼結体であり基体10の表面から突出している複数の突起片20を備える突起片付き基体と、突起片付き基体の表面を被覆している珪酸系ガラスの酸化防止層31と、を具備し、複数の突起片20それぞれの形状が、その突起片20の重心と基体10の中心とを結んだ仮想直線に直交する任意の平面で切断した複数の端面の外形が、それぞれ相似形ではない略多角形となる不定形状である構成とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素質セラミックス焼結体である球状の基体、及び、セラミックス焼結体であり該基体の表面から突出している複数の突起片、を備える突起片付き基体と、
該突起片付き基体の表面を被覆している珪酸系ガラスの酸化防止層と、を具備し、
複数の前記突起片それぞれの形状は、その突起片の重心と前記基体の中心とを結んだ仮想直線に直交する任意の平面で切断した複数の端面の外形が、それぞれ相似形ではない略多角形となる不定形状である
ことを特徴とする蓄熱体。
【請求項2】
前記突起片は炭化珪素質セラミックス焼結体であり、
複数の前記突起片それぞれの外形における最大長さの前記基体の直径に対する割合は、5%~18%であり、
複数の前記突起片の質量の総計の前記基体の質量に対する割合は、5%~40%である
ことを特徴とする請求項1に記載の蓄熱体。
【請求項3】
複数の前記突起片の質量の総計の前記基体の質量に対する割合は、37%~40%である
ことを特徴とする請求項2に記載の蓄熱体。
【請求項4】
セラミックス焼結体を粉砕することにより角部を有する粉砕片とし、
炭化珪素質セラミックス原料で球状に成形された成形体の表面に、複数の前記粉砕片を、それぞれの一部が埋設された状態で付着させ、
複数の前記粉砕片が表面に付着した前記成形体を焼成することにより、前記成形体を炭化珪素質セラミックス焼結体の基体とすると共に、前記粉砕片を前記基体と一体化された突起片とし、
前記基体の表面、及び複数の前記突起片の表面を、二酸化珪素を含有する酸化防止剤で被覆した後、加熱によって二酸化珪素を溶融してから冷却することにより前記酸化防止剤を珪酸系ガラスの酸化防止層とする
ことを特徴とする蓄熱体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄熱体、及び、該蓄熱体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガスの流路に配置されてガスと熱交換する蓄熱体の例として、蓄熱式バーナ(リジェネバーナ)の熱交換部に配される蓄熱体を挙げることができる。蓄熱式バーナは、鍛造炉、熱処理炉、溶解炉、焼成炉などの工業炉において使用されているバーナであり、バーナの燃焼により高温となった排ガスと、バーナの燃焼のために新たに供給されるガスとを、交互に熱交換部に流通させるべく、ガスの流通方向が所定時間間隔で切り換えられる。熱交換部には多数の蓄熱体が充填されており、排ガスの熱は蓄熱体によって回収され、回収された熱によって、新たに供給されるガスが予熱される。
【0003】
蓄熱体としては、従前よりアルミナ製の中実ボールが多用されている。一方、アルミナ、コージェライト、ムライト等のセラミックスのハニカム構造体を、蓄熱体として使用する技術も提案されている。
【0004】
また、本出願人は、炭化珪素質セラミックス焼結体を基体とする蓄熱体を提案している(特許文献1参照)。炭化珪素は、セラミックスの中では熱伝導率が高い材料である。具体的には、アルミナ、コージェライト、及び、ムライトの熱伝導率は、それぞれ9~30W/m・K、0.6W/m・K、及び、1.5W/m・Kであるのに対し、炭化珪素の熱伝導率は75~130W/m・Kと高い。そのため、炭化珪素質セラミックス焼結体を基体とする蓄熱体は、熱交換の効率が高い。
【0005】
加えて、炭化珪素の熱膨張率は、4.0~4.5(×10-6K)と小さい。すなわち、炭化珪素は、熱伝導率が高いと共に熱膨張率が小さいため、耐熱衝撃性に優れている。従って、炭化珪素質セラミックス焼結体を基体とする蓄熱体は、蓄熱と放熱との繰り返しに伴う温度変化を受け続ける蓄熱体として適している。
【0006】
ところが、炭化珪素は酸素が存在する雰囲気において高温下で使用されると、酸化してしまうという問題がある。そこで、特許文献1の技術では、炭化珪素質セラミックス焼結体である基体の表面を、珪酸系ガラスの酸化防止層で被覆するという手段を採用した。この珪酸系ガラスの層によって、基体の炭化珪素と酸素との接触が妨げられるため、炭化珪素の酸化が有効に抑制される。
【0007】
加えて、本出願人の検討の結果、珪酸系ガラスの酸化防止層を備えることによって、もともと耐熱衝撃性の高い炭化珪素より更に、耐熱衝撃性が高められることが判明した。これは、珪酸系ガラスが高温下で軟化し塑性変形する性質のために、亀裂の伸展が抑制されると共に、炭化珪素質セラミックス焼結体の脆性的な破壊が抑制されるためと考えられた。
【0008】
しかしながら、珪酸系ガラスが高温下で軟化する性質は、上記のように利点である反面、軟化したガラスによって、蓄熱体同士、あるいは蓄熱体とケーシングとが付着してしまうことがあった。そのような付着が生じると、蓄熱体を交換したり、蓄熱体を蓄熱部から取り出して洗浄したりするメンテナンスが行いにくいという不具合が生じる。また、蓄熱体が中実ボールである場合は、上記の付着によって、ガスを通過させるべき空隙が閉塞してしまい、熱交換率が低下するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、上記の実情に鑑み、珪酸系ガラスの酸化防止層を備えていると共に、蓄熱体同士の付着、または蓄熱体とケーシングとの付着が抑制されている蓄熱体、及び、該蓄熱体の製造方法の提供を、課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、本発明にかかる蓄熱体は、
「炭化珪素質セラミックス焼結体である球状の基体、及び、セラミックス焼結体であり該基体の表面から突出している複数の突起片、を備える突起片付き基体と、
該突起片付き基体の表面を被覆している珪酸系ガラスの酸化防止層と、を具備し、
複数の前記突起片それぞれの形状は、その突起片の重心と前記基体の中心とを結んだ仮想直線に直交する任意の平面で切断した複数の端面の外形が、それぞれ相似形ではない略多角形となる不定形状である」ものである。
【0012】
球体同士の接触は理論的には点接触であるが、突起片がない球状の基体が酸化防止層で被覆されている従来の蓄熱体の場合、高温下で珪酸系ガラスが軟化すると、酸化防止層の変形により面的な接触となりやすい。また、突起片がない球状の基体では、接触点に向かって表面がなだらかに湾曲しているため、軟化した珪酸系ガラスが流動して接触点の近くに集まりやすい。その結果、隣接する蓄熱体の双方において、珪酸系ガラスに接触している面積が増え、珪酸系ガラスが冷却固化した後に、これを介して蓄熱体同士が強固に付着してしまう。蓄熱体とケーシングとの間の付着も同様である。
【0013】
これに対し、本発明の蓄熱体の場合は、基体の表面から突起片が突出しており、突起片の先端が隣接する蓄熱体やケーシングに接触する。突起片は不定形であって角部を有しているため、角部が接触点になりやすい。そのため、珪酸系ガラスが軟化したとしても、面的な接触になり難く、多少は面的な接触となったとしても、その程度は低い。また、突起片は基体の表面から突出しているため、軟化した珪酸系ガラスが流動したとしても、突起片の先端に向かっては流動しにくい。その結果、隣接する蓄熱体の双方において、或いは、隣接している蓄熱体とケーシングの双方において、珪酸系ガラスに接触している面積の増加が抑制されるため、珪酸系ガラスが冷却固化した後に、これを介して蓄熱体同士、或いは、蓄熱体とケーシングが強固に付着することが抑制される。
【0014】
また、蓄熱体が複数の突起片を有していることにより、突起片のない蓄熱体に比べて表面積が大きくなるため、熱交換効率も高められる。
【0015】
本発明にかかる蓄熱体は、上記構成に加え、
「前記突起片は炭化珪素質セラミックス焼結体であり、
複数の前記突起片それぞれの外形における最大長さの前記基体の直径に対する割合は、5%~18%であり、
複数の前記突起片の質量の総計の前記基体の質量に対する割合は、5%~40%である」ものとすることができる。
【0016】
蓄熱体は、熱交換に当たり蓄熱による昇温と放熱による降温とを繰り返す。そのため、突起片と基体とで熱膨張率が大きく異なると、昇温と降温との繰り返しに当たり、熱膨張率の差に起因して突起片が基体から離脱するおそれがある。これに対し、本構成では突起片は炭化珪素質セラミックス焼結体であり、炭化珪素質セラミックス焼結体である基体と熱膨張率が等しいため、突起片が基体から離脱するおそれが有効に抑制されている。
【0017】
また、複数の突起片それぞれの外形における最大長さの基体の直径に対する割合(以下、「基体に対する突起片の大きさ割合」と称することがある)を5%~18%とし、複数の突起片の質量の総計の基体の質量に対する割合(以下、「突起片質量割合」と称することがある)を5%~40%とすることにより、詳細は後述するように、蓄熱体が高温下に置かれたときに、蓄熱体同士あるいは蓄熱体とケーシングとが強固に付着することを、抑制することができる。
【0018】
本発明にかかる蓄熱体は、上記構成に加え、
「複数の前記突起片の質量の総計の前記基体の質量に対する割合は、37%~40%である」ものとすることができる。
【0019】
突起片質量割合を37%~40%とすることにより、詳細は後述するように、蓄熱体同士あるいは蓄熱体とケーシングとが強固に付着することを、より良好に抑制することができる。
【0020】
次に、本発明にかかる蓄熱体の製造方法は、
「セラミックス焼結体を粉砕することにより角部を有する粉砕片とし、
炭化珪素質セラミックス原料で球状に成形された成形体の表面に、複数の前記粉砕片を、それぞれの一部が埋設された状態で付着させ、
複数の前記粉砕片が表面に付着した前記成形体を焼成することにより、前記成形体を炭化珪素質セラミックス焼結体の基体とすると共に、前記粉砕片を前記基体と一体化された突起片とし、
前記基体の表面、及び複数の前記突起片の表面を、二酸化珪素を含有する酸化防止剤で被覆した後、加熱によって二酸化珪素を溶融してから冷却することにより前記酸化防止剤を珪酸系ガラスの酸化防止層とする」ものである。
【0021】
これは、上記構成の蓄熱体の製造方法の構成である。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明によれば、珪酸系ガラスの酸化防止層を備えていると共に、蓄熱体同士の付着、または蓄熱体とケーシングとの付着が抑制されている蓄熱体、及び、該蓄熱体の製造方法を、提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施形態である蓄熱体の正面図である。
【
図2】(a)は
図1の蓄熱体の元となる突起片付き基体を、A-A線に相当する線で切断した端面図であり、(b)はA-A線切断部端面図である。
【
図3】(a)~(e)は、突起片が不定形状であることを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の具体的な実施形態である蓄熱体1、及び、その製造方法について説明する。本実施形態の蓄熱体1は、
図1及び
図2に示すように、炭化珪素質セラミックス焼結体である球状の基体10と、セラミックス焼結体であり、基体10の表面から突出している複数の突起片20と、基体10の表面、及び複数の突起片20の表面を被覆している珪酸系ガラスの酸化防止層31と、を具備している。なお、
図2(b)では、酸化防止層31の厚さを誇張して図示している。
【0025】
このような構成の蓄熱体1の製造方法は、粉砕片を製造する粉砕片製造工程と、基体10の元である成形体を製造する成形体製造工程と、成形体と粉砕片とから基体10の表面から突起片20が突出している突起片付き基体30を製造する一体化工程と、突起片付き基体30の表面を珪酸系ガラスの酸化防止層31で被覆する酸化防止層形成工程と、を具備している。
【0026】
粉砕片製造工程は、板状やブロック状のセラミックス焼結体を、粗く粉砕する工程である。セラミックス焼結体を粗く粉砕することにより、尖った角部を有する不定形の粉砕片が多数形成される。それぞれの粉砕片の外表面上に任意の二点を設定し、その二点間の距離をRとしたとき、距離Rの最大値Rmaxをその粉砕片の最大長さとする。粉砕は、多数の粉砕片それぞれの最大長さRmaxが、予め定めた所定範囲におさまるように行う。或いは、粉砕片製造工程が、セラミックス焼結体を粉砕した後に、篩分け等により粉砕片それぞれの最大長さRmaxを所定範囲にそろえる分級工程を、備えるものとすることができる。
【0027】
粉砕片とするセラミックス焼結体は、炭化珪素質セラミックス焼結体、窒化珪素質セラミックス焼結体など、非酸化物セラミックス焼結体とすることも、アルミナ質セラミックス焼結体、ジルコニア質セラミックス焼結体、マグネシア質セラミックス焼結体、ムライト質セラミックス焼結体、コーディエライト質セラミックス焼結体、チタン酸アルミニウム質セラミックス焼結体など、酸化物セラミックス焼結体とすることもできる。粉砕片を炭化珪素質セラミックス焼結体から製造すれば、蓄熱体1において基体10を構成する炭化珪素質セラミックス焼結体の熱膨張率と突起片20の熱膨張率が等しく、蓄熱体1が昇温と降温を繰り返すに当たって突起片20が基体10から離脱しにくいため、望ましい。
【0028】
成形体製造工程では、焼成により炭化珪素質セラミックス焼結体となる原料から、球状(中実)の成形体を製造する。例えば、原料の粉末をバインダ、界面活性剤等の添加剤と共に水等の液媒体と混合して混練物とし、これを球状に成形する。球状に成形する方法としては、例えば、混練物を円形の型から押し出し、押出方向に直交する方向で切断することにより、円形の型の直径に近い高さを有する円柱状の成形体とした後、球形整粒機で整粒させることにより、球体の成形体とする。
【0029】
ここで、「焼成により炭化珪素質セラミックス焼結体となる原料」としては、炭化珪素粉末からなる原料を使用することができる。或いは、加熱により炭化珪素を生成する反応焼成原料を使用し、炭化珪素を反応生成させつつ焼結させる(反応焼結)こともできる。
【0030】
反応焼成原料としては、骨材となる炭化珪素粉末と、炭化珪素を生成する珪素源と炭素源と、を混合した混合原料を使用することができる。骨材としての炭化珪素粉末は、混合原料に対して65質量%~95質量%とすることができる。骨材としての炭化珪素粉末の割合が65質量%より少ない場合は、得られる焼結体の強度が低いものとなり易い。一方、95質量%より多い場合は、焼結しにくい成形体となり易い。なお骨材としての炭化珪素粉末の混合原料に対する割合は、75質量%~85質量%であれば、上記の相反する作用の調和が取れるため、より望ましい。
【0031】
炭化珪素を生成する珪素源と炭素源については、珪素と炭素とのモル比(Si/C)が1のときに化学量論的に過不足なく炭化珪素が生成するが、Si/Cを0.5~1.5とすることが望ましい。Si/Cが0.5より小さい場合は、残存する炭素分が多すぎ、粗大気孔の原因となると共に生成した炭化珪素の粒子成長が阻害されるおそれがある。一方、Si/Cが1.5より大きい場合は、生成する炭化珪素の量が少なく、反応焼結が不十分となり易い。なお、Si/Cは、0.8~1.2であれば、珪素及び炭素の過剰分または不足分が少なく、より望ましい。なお、珪素源としては、窒化珪素、珪素(いわゆる金属シリコン)を使用可能であり、炭素源としては、黒鉛、石炭、コークス、木炭などを例示することができる。
【0032】
一体化工程は、球状の成形体の表面に、多数の粉砕片を付着させる付着工程と、粉砕片が付着した成形体を焼成することにより、球状の基体10の表面から突起片20が突出している突起片付き基体30とする焼成固着工程と、を備えている。
【0033】
付着工程では、球状に成形された成形体の表面に、粉砕片の多数を、それぞれの一部が埋設された状態で付着させる。例えば、球状の成形体を転動させている球形整粒機に所定量の粉砕片を導入し、一緒に転動させる。これにより、粉砕片それぞれの一部が球状の成形体の表面に埋設され、粉砕片それぞれの残部が球状の成形体の表面から突出した状態となる。なお、この工程では、球状の成形体に水などの液体の少量を噴霧すると、成形体の表面に粉砕片の一部が食い込みやすくなり、粉砕片を成形体に付着させやすい。
【0034】
焼成固着工程では、粉砕片が付着した状態の成形体を、非酸化性雰囲気で焼成する。この焼成により、球状の成形体は炭化珪素質セラミックス焼結体で構成された基体10となると共に、粉砕片は基体10の表面から突出している状態で基体10に固着された突起片20となり、全体として突起片付き基体30となる。焼成温度は、1800℃~2300℃とすることができる。焼成が反応焼成の場合、焼成温度が1800℃より低い場合は反応焼結が不十分となるおそれがあり、2350℃を超えると炭化珪素が昇華するおそれがある。焼成雰囲気である「非酸化性雰囲気」は、アルゴンやヘリウム等の不活性ガス雰囲気、窒素ガス雰囲気、これらの混合ガス雰囲気、或いは、真空雰囲気とすることができる。
【0035】
なお、一体化工程は、付着工程の後で焼成固着工程の前に行う乾燥工程を備えるものとしてもよい。この乾燥工程では、粉砕片が付着した状態の成形体を乾燥させる。このような乾燥工程は、調温調湿槽内での送風乾燥、外部加熱乾燥、マイクロ波照射による内部加熱乾燥等により行うことができる。また、成形体の原料が加熱により炭化珪素を生成する反応焼成原料である場合は、一体化工程において焼成固着工程の後に、炭化珪素の生成反応に使用されずに残留しているおそれのある炭素源を燃焼除去する目的で、脱炭工程を設けることができる。この脱炭工程は、酸化雰囲気下(空気雰囲気下)で、600℃~1200℃の温度で1時間~15時間保持することにより行うことができる。この程度の加熱温度及び保持時間であれば、脱炭工程では炭化珪素の酸化はほとんど生じない。
【0036】
一体化工程を経て、炭化珪素質セラミックス焼結体である球状の基体10の表面から、セラミックス焼結体である突起片20の複数が突出しており、基体10と突起片20とが一体化している突起片付き基体30が形成されたら、次に、酸化防止層形成工程を行う。
【0037】
酸化防止層形成工程は、突起片付き基体30の表面、すなわち基体10の表面及び多数の突起片20の表面を、二酸化珪素を含有する酸化防止剤で被覆するコーティング工程と、加熱によって二酸化珪素を溶融してから冷却することにより酸化防止剤を珪酸系ガラスの酸化防止層31とするガラス化工程と、を備えている。
【0038】
コーティング工程は、酸化防止剤を突起片付き基体30の表面に塗布またはスプレーする工程、突起片付き基体30を酸化防止剤に浸漬する工程、或いは、酸化防止剤を突起片付き基体30に含浸させる工程とすることができる。
【0039】
酸化防止剤は、加熱により珪酸系ガラスとなるスラリーであり、二酸化珪素の供給源を、水などの液媒体やバインダと混合したものである。二酸化珪素の供給源としては、シリカ粉末、ガラス粉末(ガラスフリット)、粘土を単独で使用し、或いは、複数を併用することができる。また、酸化防止剤の原料には、上記の成分に加えて、他の成分を含有させることができる。酸化ホウ素(B2O3)の添加により、ガラスの粘性(流動性)や耐久性を調整することができる。アルカリ金属の酸化物(Na2O、K2O、Li2Oなど)は、ガラスの粘性を低下させると共に、ガラス転移点を低下させる。アルカリ土類金属の酸化物(CaO、MgO、BaO、SrOなど)は、ガラスの化学的耐久性を高めると共に、ガラスの非結晶化・結晶化に影響を及ぼす。酸化アルミニウムは、ガラスの化学的耐久性を高める効果がある。
【0040】
ガラス化工程は、二酸化珪素を加熱により溶融させてから、ガラス転移点より低い温度まで冷却することにより、珪酸系ガラスとする工程である。この工程では、酸化防止剤で被覆した突起片付き基体30を、空気雰囲気において90℃~100℃の温度で加熱して酸化防止剤中の液媒体を除去する乾燥処理を行った後、800℃~1200℃まで昇温して所定時間加熱し、その後冷却する。この処理によって、酸化防止剤に含まれる二酸化珪素が溶融して基体10の表面及び突起片20の表面に拡がった後、固化して珪酸系ガラスとなることより、緻密で気密性が高い酸化防止層31が、基体10の表面及び突起片20の表面に密着して形成される。酸化防止層31の厚さは、10μm~300μmとすることができる。
【0041】
以上の工程を経て、上記構成の蓄熱体1を得ることができる。蓄熱体1は、酸素が存在する雰囲気において高温下で使用されても、基体10の表面を気密に被覆している珪酸系ガラスの酸化防止層31によって、炭化珪素質セラミックスである基体10が酸化することが防止される。また、突起片20を構成するセラミックス焼結体が、炭化珪素質セラミックスなど非酸化物セラミックス焼結体である場合も、突起片20の表面を気密に被覆している珪酸系ガラスの酸化防止層31によって、突起片20が酸化することが防止される。
【0042】
また、珪酸系ガラスの酸化防止層31は高温下で軟化するため、蓄熱体の表面が酸化防止層31で被覆されていると、軟化後に固化した珪酸系ガラスを介して隣接する蓄熱体同士が強固に付着してしまうおそれ、或いは、蓄熱体とケーシングとが強固に付着してしまうおそれがあるところ、蓄熱体1では突起片20の存在により、そのような強固な付着が有効に抑制されている。
【0043】
詳細に説明すると、突起片20の元である粉砕片は、セラミックス焼結体を粗く粉砕することにより得られたものであり、尖った角部を有する不定形である。そのため、蓄熱体1において基体10の表面から突出している突起片20も、尖った角部を有する不定形である。酸化防止層31で被覆された後の突起片20では、角部の尖り具合が多少は低減するものの、角部を有する不定形である形状は維持されている。このような「不定形状」を、「突起片20の重心と基体10の中心とを結んだ仮想直線Lに直交する任意の平面Sで切断した複数の端面の外形が、それぞれ相似形ではない多角形となる形状」と定義する。
【0044】
例えば、
図3(a)に示すように、基体10の中心P0とある突起片20の重心P1を結んだ仮想直線L1に直交する平面S11,S12・・・S1nで、その突起片20を切断した複数の端面の外形は、
図3(b)に示すように互いに相似形ではない略多角形状である。
図3では、同様に、基体10の中心P0とある突起片20の重心P2を結んだ仮想直線L2に直交する平面S21,S22・・・S2nでその突起片20を切断した複数の端面の外形を
図3(c)に示し、基体10の中心P0とある突起片20の重心P3を結んだ仮想直線L3に直交する平面S31,S32・・・S3nでその突起片20を切断した複数の端面の外形を
図3(d)に示し、基体の中心P0とある突起片20の重心P4を結んだ仮想直線L4に直交する平面S41,S42・・・S4nでその突起片20を切断した複数の端面の外形を
図3(e)に示している。なお、
図3(b)~図(e)の端面図では、酸化防止層31の図示を省略している。
【0045】
球体同士の接触は理論的には点接触であるが、突起片20がない球状の基体が酸化防止層で被覆されている従来の蓄熱体の場合、高温下で珪酸系ガラスが軟化すると酸化防止層の変形により面的な接触となりやすい。また、突起片20がない球状の基体では、接触点に向かって表面がなだらかに湾曲しているため、軟化した珪酸系ガラスが流動して接触点の近くに集まりやすい。その結果、隣接する蓄熱体の双方において、珪酸系ガラスに接触している面積が増え、珪酸系ガラスが冷却固化した後に、これを介して蓄熱体同士が強固に付着してしまう。蓄熱体とケーシングとの間の付着も同様である。
【0046】
これに対し、蓄熱体1の場合は、基体10の表面から突出している突起片20の先端が隣接する蓄熱体1やケーシングに接触する。突起片20は尖った角部を有しているため、角部が接触点になりやすい。そのため、接触点において珪酸系ガラスが軟化したとしても、面的な接触にはなり難く、多少は面的な接触となったとしても、その程度は低い。また、突起片20は基体10の表面から突出しているため、軟化した珪酸系ガラスが流動したとしても、突起片20の先端に向かっては流動しにくい。その結果、隣接する蓄熱体1の双方において、或いは、隣接している蓄熱体1とケーシングの双方において、珪酸系ガラスに接触している面積の増加が抑制され、珪酸系ガラスが冷却固化した後に、これを介して蓄熱体1同士が強固に付着することが抑制される。
【0047】
加えて、蓄熱体1は、突起片20を備えている分だけ、突起片20のない蓄熱体と比べて(基体が同径の球状である蓄熱体と比べて)、表面積が大きく増加している。そのため、流通するガスとの接触面積が大きく、ガスとの間の熱交換率も増加している。
【実施例0048】
次に、実施例1~5の蓄熱体について、付着防止効果を比較例と対比した結果を示す。実施例1~5の蓄熱体試料には、同一条件で作製した粉砕片、及び基体10を使用した。粉砕片は、炭化珪素質セラミックス焼結体を粗く粉砕し分級することにより、最大長さを1mm~3mmに揃えたものである。また、基体10の元となる成形体は、骨材としての炭化珪素、及び、炭化珪素を反応生成する珪素源と炭素源とを含む原料を、球状に成形した。粉砕片を付着させた成形体を、非酸化性雰囲気で焼成することにより、突起片付き基体30とした。焼成後の基体10の直径は、19mm±2mmとした。粉砕片、基体10ともに、98質量%以上が炭化珪素である。
【0049】
粉砕片は焼結体であるため、焼結固着工程を経て基体10に固着した後の突起片20でもそのサイズは維持されていると考えてよく、最大長さは1mm~3mmである。そのため、直径が19mm±2mmである基体に対する突起片の大きさ割合は5%~18%である。
【0050】
実施例1~5では、表1に示すように、突起片質量割合を5%~40%の間で異ならせた。なお、突起片質量割合が40%を超えると、付着工程において球状の成形体に粉砕片を付着させにくく、付着工程から焼結固着工程に至る間に、付着された粉砕片が成形体から脱離しやすくなるため、実際的ではなかった。
【0051】
比較のために、実施例1~5に使用した成形体と同一条件で作成した球状の成形体を、粉砕片を付着させることなく非酸化性雰囲気で焼成することにより、比較例の基体10とした。
【0052】
実施例1~5の突起片付き基体30、及び比較例の基体の表面を、同一組成の酸化防止剤で被覆した。酸化防止剤によって表面が被覆された実施例1~5の突起片付き基体30、及び比較例の基体を、約90℃の温度で加熱して乾燥させたのち、900℃の温度で一定時間加熱した後、室温まで冷却することにより、酸化防止剤を珪酸系ガラスの酸化防止層とした。
【0053】
実施例1~5、及び比較例の蓄熱体について、高温下における珪酸系ガラスの軟化に伴う付着性を評価する付着試験を行った。
【0054】
付着試験は、各試料それぞれについて、複数の蓄熱体を互いの表面が当接するように重ね合わせた状態で、所定温度に加熱して24時間保持した後、室温まで降温することにより行った。加熱温度は、1100℃と1200℃の二種類とした。
【0055】
試験後に、蓄熱体同士が付着していない、または多少は付着していたものの容易に分離する場合を、付着が良好に抑制されているとして「◎」で評価し、蓄熱体同士が付着していたものの、手動で外力を加えることにより分離させることができた場合を、付着が抑制されているとして「〇」で評価し、蓄熱体同士が付着しており、その付着が強固で分離が難しかった場合を、付着があるとして「×」で評価した。
【0056】
【0057】
表1に示すように、突起片20がない比較例の蓄熱体は、高温下に置くことにより蓄熱体同士が付着し、その付着は分離できないほど強固であった。これに対し、突起片20を有する実施例1~5では、蓄熱体1同士の付着が抑制されており、付着したとしても容易に、或いは手動で外力を加える程度で、分離させられる程度であった。これは、突起片20を有しているために、蓄熱体1同士の接点が突起片20の角部となることにより、珪酸系ガラスが軟化しても接触面積が小さいことに加え、接触している部分に軟化した珪酸系ガラスが集まりにくいことにより、接触部分における珪酸系ガラスの量を低減できるためと考えられた。
【0058】
特に、突起片質量割合が37%の実施例4と40%の実施例5は、蓄熱体1同士の付着があっても容易に分離する程度であり、蓄熱体1同士の付着が有効に抑制されていた。このことから、突起片質量割合は、大きいほど付着の抑制効果が高いと考えられた。ただし、上述したように、突起片質量割合が40%を超えると、基体10の元となる球状の成形体に粉砕片を付着させにくかったり、付着させた粉砕片が成形体から脱離しやすくなったりするため、この事情を鑑みると、突起片質量割合は37%~40%とすることが望ましい。
【0059】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0060】
例えば、実施例の蓄熱体1では、突起片20(粉砕片)を炭化珪素質セラミックス焼結体で構成させたが、他のセラミックス焼結体で突起片20(粉砕片)を構成してもよい。突起片20が他のセラミックス焼結体であっても、突起片20の存在によって酸化防止層31を有する蓄熱体1同士、或いは、酸化防止層31を有する蓄熱体1とケーシングとの接触部分における珪酸系ガラスの量を低減させるという作用効果を得ることができる。
【0061】
突起片20が酸化物セラミックス焼結体であれば、酸化を防止するための酸化防止層31で突起片20を被覆する必要はないが、基体10の元である成形体と突起片20となる粉砕片とは、焼成により固着させる必要があり、焼成・固着によって一体化された突起片付き基体30に対して酸化防止剤をコーティングすることとなる。そのため、この場合であっても突起片20は酸化防止層31で被覆される。