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特開2024-125057マイボーム腺機能不全の治療剤又は予防剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125057
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】マイボーム腺機能不全の治療剤又は予防剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20240906BHJP
   A61K 31/5377 20060101ALI20240906BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20240906BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240906BHJP
   A61P 27/04 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
A61K45/00
A61K31/5377
A61P27/02
A61P29/00
A61P27/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033134
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】513077162
【氏名又は名称】株式会社坪田ラボ
(74)【代理人】
【識別番号】100130845
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 伸一
(72)【発明者】
【氏名】坪田 一男
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 真理
(72)【発明者】
【氏名】小川 葉子
(72)【発明者】
【氏名】清水 映輔
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZA33
4C084ZB11
4C084ZC51
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC73
4C086GA12
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA33
4C086ZB11
4C086ZC51
(57)【要約】
【課題】本発明は、新規なマイボーム腺機能不全の治療剤又は予防剤及び新規な角膜上皮障害の治療剤又は予防剤を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、老化細胞除去剤、Bcl-xL阻害剤、Bcl-2阻害剤又はBcl-w阻害剤を有効成分として含有する、マイボーム腺機能不全の治療剤又は予防剤を提供する。また、本発明は、老化細胞除去剤、Bcl-xL阻害剤、Bcl-2阻害剤又はBcl-w阻害剤を有効成分として含有する、角膜上皮障害の治療剤又は予防剤を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
老化細胞除去剤、Bcl-xL阻害剤、Bcl-2阻害剤又はBcl-w阻害剤を有効成分として含有する、マイボーム腺機能不全の治療剤又は予防剤。
【請求項2】
老化細胞除去剤、Bcl-xL阻害剤、Bcl-2阻害剤又はBcl-w阻害剤が、下記式(I)で表されるABT-263である、請求項1に記載の治療剤又は予防剤。
【化1】
【請求項3】
マイボーム腺機能不全が、眼における移植片宿主病におけるマイボーム腺機能不全である、請求項1又は2に記載の治療剤又は予防剤。
【請求項4】
マイボーム腺機能不全が、炎症又は線維化を伴うものである、請求項1~3のいずれか1項に記載の治療剤又は予防剤。
【請求項5】
マイボーム腺機能不全が、眼疲労、目の疲れ、目のかわき、目のかすみ、目の痛み、目がまぶしい、目が重い、目の不快感、まぶたが熱い灼熱感、眼脂、流涙、ドライアイ、涙液減少型ドライアイ、蒸発亢進型ドライアイ、BUT短縮型ドライアイ、マイボーム腺炎、点状表層角膜炎、及び眼瞼炎からなる群より選ばれる疾患又は症状を伴うものである、請求項1~4のいずれか1項に記載の治療剤又は予防剤。
【請求項6】
老化細胞除去剤、Bcl-xL阻害剤、Bcl-2阻害剤又はBcl-w阻害剤を有効成分として含有する、角膜上皮障害の治療剤又は予防剤。
【請求項7】
老化細胞除去剤、Bcl-xL阻害剤、Bcl-2阻害剤又はBcl-w阻害剤が、下記式(I)で表されるABT-263である、請求項6に記載の治療剤又は予防剤。
【化2】
【請求項8】
角膜上皮障害が、眼における移植片宿主病における角膜上皮障害である、請求項6又は7に記載の治療剤又は予防剤。
【請求項9】
角膜上皮障害が、炎症又は線維化を伴うものである、請求項6~8のいずれか一項に記載の治療剤又は予防剤。
【請求項10】
角膜上皮障害が、眼疲労、目の疲れ、目のかわき、目のかすみ、目の痛み、目がまぶしい、目が重い、目の不快感、眼脂、流涙、角膜潰瘍、角膜上皮剥離、角膜炎、ドライアイ、涙液減少型ドライアイ、蒸発亢進型ドライアイ、BUT短縮型ドライアイ、結膜炎、慢性表層角膜炎、角膜糜爛、薬剤性角膜障害、遷延性角膜障害、点状表層角膜症、角膜上皮欠損、結膜上皮欠損、乾性角結膜炎、上輪部角結膜炎、糸状角結膜炎、感染性角膜炎、非感染性角膜炎、感染性結膜炎、非感染性結膜炎、角結膜障害に伴う角膜瘢痕化又は角膜での瘢痕形成、及び結膜瘢痕化又は結膜での瘢痕形成からなる群より選ばれる疾患又は症状を伴うものである、請求項6~9のいずれか一項に記載の治療剤又は予防剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイボーム腺機能不全の治療剤又は予防剤に関する。また、本発明は、角膜上皮障害の治療剤又は予防剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ドライアイは、様々な要因に基づく涙の量や成分の異常から眼の乾燥感、不快感、視機能の異常を生じ、目の表面の角膜や結膜の傷害を伴って慢性化する疾患又は症状である。人は情報の80%以上を目から得ていると言われており、慢性的な目の症状をもたらすドライアイにより、行動が制限され、意欲の低下にもつながり、QOLの低下をもたらす(非特許文献1)。
【0003】
ドライアイは有病率の高い疾患又は症状である。近年、空調の普及、VDT(visual display terminals)作業者の増加等により、ドライアイの患者数は急増しており、国内で800万人、世界で9000万人以上とされ、医療ニーズが高まっている。加えて日本を含むアジアでの有病率は欧米より高いことが報告されている。
【0004】
さらにドライアイのリスクファクターである加齢、コンタクトレンズ装用、長時間のコンピュータ作業に起因する有訴者数は、将来にわたって増え続けることが予想される。モニター画面を連続的に見る行為により涙が乾きやすくなり、眼精疲労を生じ、夕方老眼と呼ばれる視覚機能低下にもつながるといわれる。他にもドライアイの原因は多岐にわたり、抗がん剤治療の副作用においても生じることが知られる。特に抗がん剤は細胞分裂が活発な角膜細胞に影響を与えると考えられており、ドライアイは多くの分子標的薬で高頻度にみられる副作用として位置づけられている(非特許文献2)。
【0005】
ドライアイでは、涙液層安定性低下をコア・メカニズムの一つとして、慢性化、重症化の過程において角結膜上皮障害が顕著となり、さまざまな自覚症状を生むとされている。ドライアイはその原因から涙液減少型と蒸発亢進型に分類されている。マイボーム腺機能不全(meibomian gland dysfunction: MGD)は蒸発亢進型ドライアイの原因とされており、眼不快感等のドライアイ症状を主訴に眼科を訪れる患者のうちのかなりの割合でMGDがその原因となっている(非特許文献1)。またBUT(Tear film break-up time;涙液層破壊時間)短縮型ドライアイは、BUTが短縮しているが、涙液分泌能は正常であり、眼表面の上皮障害が軽微であるわりには自覚症状が強いという特徴がある。
【0006】
マイボーム腺は瞼板内にあり上下の眼瞼縁に開口部を持つ脂腺である。マイボーム腺から分泌される脂質(meibum)は、眼瞼縁や涙液最表層に分布して、涙液蒸発の抑制、涙液安定性の促進、涙液の眼表面への伸展の促進、眼瞼縁における涙液の皮膚への流出の抑制、等の働きをしている(非特許文献3)。
【0007】
マイボーム腺機能不全(meibomian gland dysfunction:MGD)は、マイボーム腺機能に異常をきたした状態を呼称する際に臨床で使用されている(非特許文献4)が、(1)炎症や常在細菌の関与を伴う場合と伴わない場合があり臨床像が多様である、(2)軽症例から重症例まで重症度が広範囲にわたる、(3)これまでに確立された定義や診断基準がなかった、(4)効果的な治療が少ない、等の理由で、眼科一般臨床においてあまり注目されていなかった。しかしながら、実際に眼不快感等の症状を主訴に眼科を訪れる患者のうちのかなりの割合でMGDがその原因となっており、多くの患者でQOLの低下を引き起こしていると考えられる。MGDは臨床的に重要な疾患であるにもかかわらず、上記の理由からあまり研究が進められておらず、活性型ビタミンD3又はその誘導体を有効成分とするマイボーム腺機能不全の処置剤(特許文献1)のほかは、有効な治療剤が未だ見つかっていないのが現状であり、MGDの治療は、マイボーム腺の閉塞を改善するために、温熱療法や物理的な力を加えることによる圧出が行われている。また、近年、涙液油層を干渉像で評価し、眼瞼を内側から温熱とマッサージ効果で治療する方法なども開発されている。ただし、これらの方法は全て医療機関内での処置となるため、簡便な治療法が待ち望まれている。
【0008】
以上のように、ドライアイは、涙液層の不安定化をコア・メカニズムの一つとして、角膜上皮障害、マイボーム腺機能不全が互いに波及し助長する悪循環を形成する慢性眼疾患である。眼表面の不足成分を補うことで、涙液層の安定性を高めてドライアイを治療しようとする眼表面の層別治療が提唱されているものの、一部の層に有効な剤のみでは不十分であり、ドライアイのコア・メカニズムに対して多面的に有効な治療剤が望まれており、アポシニンを含有する治療剤が知られている(特許文献2)が、新たな治療剤が求められる。
【0009】
老化細胞除去剤の一つである、ABT-263は、アポトーシスBcl-2ファミリーを標的とする薬剤であり、マウス体内で老化した造血幹細胞を除去することにより、老化した造血幹細胞を正常化し、活性化することが報告されており(非特許文献5)、移植片対宿主病の治療剤又は予防剤の有効成分となりうることが知られており(特許文献3)、ABT-263の処理により涙腺における改善があることが知られているが(非特許文献6)、ABT-263とマイボーム腺機能不全や角膜上皮障害との関係については知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2014/208709号
【特許文献2】国際公開第2022/065436号
【特許文献3】特開2020-111548号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Kojima et al. Progress in Retinal and Eye Research, p. 100842, 2020 Borkar et al. Support Care Cancer 21:1167-1174(2013)
【非特許文献2】Yang et al. Int J Mol Med 41:1427-1436 (2018) Lin et al. Mol Vis 17:257-264(2011)
【非特許文献3】Foulks GN, Bron AJ: Ocul Surf 1: 107-126, 2003.
【非特許文献4】Gutgesell VJ, Stern GA, Hood CI: Am J Ophthalmol 94: 383-387, 1982.
【非特許文献5】Chang J, et al. Nat Med 2016 Jan;22(1):78-83. doi: 10.1038/nm.4010. Epub 2015 Dec 14.
【非特許文献6】FASEB J. 2020 Aug;34(8):10778-10800. doi: 10.1096/fj.201900218R. Epub 2020 Jul 3.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明は、新規なマイボーム腺機能不全の治療剤又は予防剤及び新規な角膜上皮障害の治療剤又は予防剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意検討したところ、下記式(I)で表されるABT-263などの老化細胞除去剤、Bcl-xL阻害剤、Bcl-2阻害剤又はBcl-w阻害剤が、マイボーム腺機能不全の治療剤又は予防剤及び角膜上皮障害の治療剤又は予防剤の有効成分となりうることを見出した。
【0014】
すなわち、本発明は、以下を提供するものである。
[態様1-1] 老化細胞除去剤、Bcl-xL阻害剤、Bcl-2阻害剤又はBcl-w阻害剤を有効成分として含有する、マイボーム腺機能不全の治療剤又は予防剤。
[態様1-2] 老化細胞除去剤、Bcl-xL阻害剤、Bcl-2阻害剤又はBcl-w阻害剤が、下記式(I)で表されるABT-263である、態様1-1に記載の治療剤又は予防剤。
【化1】
[態様1-3] マイボーム腺機能不全が、眼における移植片宿主病におけるマイボーム腺機能不全である、態様1-1又は1-2に記載の治療剤又は予防剤。
[態様1-4] マイボーム腺機能不全が、炎症又は線維化を伴うものである、態様1-1~1-3のいずれか1項に記載の治療剤又は予防剤。
[態様1-5] マイボーム腺機能不全が、眼疲労、目の疲れ、目のかわき、目のかすみ、目の痛み、目がまぶしい、目が重い、目の不快感、まぶたが熱い灼熱感、眼脂、流涙、ドライアイ、涙液減少型ドライアイ、蒸発亢進型ドライアイ、BUT短縮型ドライアイ、マイボーム腺炎、点状表層角膜炎、及び眼瞼炎からなる群より選ばれる疾患又は症状を伴うものである、態様1-1~1-4のいずれか1項に記載の治療剤又は予防剤。
[態様1-6] 老化細胞除去剤、Bcl-xL阻害剤、Bcl-2阻害剤又はBcl-w阻害剤を有効成分として含有する、角膜上皮障害の治療剤又は予防剤。
[態様1-7] 老化細胞除去剤、Bcl-xL阻害剤、Bcl-2阻害剤又はBcl-w阻害剤が、下記式(I)で表されるABT-263である、態様1-6に記載の治療剤又は予防剤。
【化2】
[態様1-8] 角膜上皮障害が、眼における移植片宿主病における角膜上皮障害である、態様1-6又は1-7に記載の治療剤又は予防剤。
[態様1-9] 角膜上皮障害が、炎症又は線維化を伴うものである、態様1-6~1-8のいずれか一項に記載の治療剤又は予防剤。
[態様1-10] 角膜上皮障害が、眼疲労、目の疲れ、目のかわき、目のかすみ、目の痛み、目がまぶしい、目が重い、目の不快感、眼脂、流涙、角膜潰瘍、角膜上皮剥離、角膜炎、ドライアイ、涙液減少型ドライアイ、蒸発亢進型ドライアイ、BUT短縮型ドライアイ、結膜炎、慢性表層角膜炎、角膜糜爛、薬剤性角膜障害、遷延性角膜障害、点状表層角膜症、角膜上皮欠損、結膜上皮欠損、乾性角結膜炎、上輪部角結膜炎、糸状角結膜炎、感染性角膜炎、非感染性角膜炎、感染性結膜炎、非感染性結膜炎、角結膜障害に伴う角膜瘢痕化又は角膜での瘢痕形成、及び結膜瘢痕化又は結膜での瘢痕形成からなる群より選ばれる疾患又は症状を伴うものである、態様1-6~1-9のいずれか一項に記載の治療剤又は予防剤。
[態様2-1] 対象に老化細胞除去剤、Bcl-xL阻害剤、Bcl-2阻害剤又はBcl-w阻害剤を投与することを特徴とする、対象のマイボーム腺機能不全の治療方法又は予防方法。
[態様2-2] 老化細胞除去剤、Bcl-xL阻害剤、Bcl-2阻害剤又はBcl-w阻害剤が、下記式(I)で表されるABT-263である、態様2-1に記載の治療方法又は予防方法。
【化3】
[態様2-3] マイボーム腺機能不全が、眼における移植片宿主病におけるマイボーム腺機能不全である、態様2-1又は2-2に記載の治療方法又は予防方法。
[態様2-4] マイボーム腺機能不全が、炎症又は線維化を伴うものである、態様2-1~2-3のいずれか1項に記載の治療方法又は予防方法。
[態様2-5] マイボーム腺機能不全が、眼疲労、目の疲れ、目のかわき、目のかすみ、目の痛み、目がまぶしい、目が重い、目の不快感、まぶたが熱い灼熱感、眼脂、流涙、ドライアイ、涙液減少型ドライアイ、蒸発亢進型ドライアイ、BUT短縮型ドライアイ、マイボーム腺炎、点状表層角膜炎、及び眼瞼炎からなる群より選ばれる疾患又は症状を伴うものである、態様2-1~2-4のいずれか1項に記載の治療方法又は予防方法。
[態様2-6] 対象に老化細胞除去剤、Bcl-xL阻害剤、Bcl-2阻害剤又はBcl-w阻害剤を投与することを特徴とする、対象の角膜上皮障害の治療方法又は予防方法。
[態様2-7] 老化細胞除去剤、Bcl-xL阻害剤、Bcl-2阻害剤又はBcl-w阻害剤が、下記式(I)で表されるABT-263である、態様2-6に記載の治療方法又は予防方法。
【化4】
[態様2-8] 角膜上皮障害が、眼における移植片宿主病における角膜上皮障害である、態様2-6又は2-7に記載の治療方法又は予防方法。
[態様2-9] 角膜上皮障害が、炎症又は線維化を伴うものである、態様2-6~2-8のいずれか一項に記載の治療方法又は予防方法。
[態様2-10] 角膜上皮障害が、眼疲労、目の疲れ、目のかわき、目のかすみ、目の痛み、目がまぶしい、目が重い、目の不快感、眼脂、流涙、角膜潰瘍、角膜上皮剥離、角膜炎、ドライアイ、涙液減少型ドライアイ、蒸発亢進型ドライアイ、BUT短縮型ドライアイ、結膜炎、慢性表層角膜炎、角膜糜爛、薬剤性角膜障害、遷延性角膜障害、点状表層角膜症、角膜上皮欠損、結膜上皮欠損、乾性角結膜炎、上輪部角結膜炎、糸状角結膜炎、感染性角膜炎、非感染性角膜炎、感染性結膜炎、非感染性結膜炎、角結膜障害に伴う角膜瘢痕化又は角膜での瘢痕形成、及び結膜瘢痕化又は結膜での瘢痕形成からなる群より選ばれる疾患又は症状を伴うものである、態様2-6~2-9のいずれか一項に記載の治療方法又は予防方法。
[態様3-1] 老化細胞除去剤、Bcl-xL阻害剤、Bcl-2阻害剤又はBcl-w阻害剤を有効成分として含有する、マイボーム腺機能不全の治療又は予防に使用するための医薬組成物。
[態様3-2] 老化細胞除去剤、Bcl-xL阻害剤、Bcl-2阻害剤又はBcl-w阻害剤が、下記式(I)で表されるABT-263である、態様3-1に記載の医薬組成物。
【化5】
[態様3-3] マイボーム腺機能不全が、眼における移植片宿主病におけるマイボーム腺機能不全である、態様3-1又は3-2に記載の医薬組成物。
[態様3-4] マイボーム腺機能不全が、炎症又は線維化を伴うものである、態様3-1~3-3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
[態様3-5] マイボーム腺機能不全が、眼疲労、目の疲れ、目のかわき、目のかすみ、目の痛み、目がまぶしい、目が重い、目の不快感、まぶたが熱い灼熱感、眼脂、流涙、ドライアイ、涙液減少型ドライアイ、蒸発亢進型ドライアイ、BUT短縮型ドライアイ、マイボーム腺炎、点状表層角膜炎、及び眼瞼炎からなる群より選ばれる疾患又は症状を伴うものである、態様3-1~3-4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
[態様3-6] 老化細胞除去剤、Bcl-xL阻害剤、Bcl-2阻害剤又はBcl-w阻害剤を有効成分として含有する、角膜上皮障害の治療又は予防に使用するための医薬組成物。
[態様3-7] 老化細胞除去剤、Bcl-xL阻害剤、Bcl-2阻害剤又はBcl-w阻害剤が、下記式(I)で表されるABT-263である、態様3-6に記載の医薬組成物。
【化6】
[態様3-8] 角膜上皮障害が、眼における移植片宿主病における角膜上皮障害である、態様3-6又は3-7に記載の医薬組成物。
[態様3-9] 角膜上皮障害が、炎症又は線維化を伴うものである、態様3-6~3-8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
[態様3-10] 角膜上皮障害が、眼疲労、目の疲れ、目のかわき、目のかすみ、目の痛み、目がまぶしい、目が重い、目の不快感、眼脂、流涙、角膜潰瘍、角膜上皮剥離、角膜炎、ドライアイ、涙液減少型ドライアイ、蒸発亢進型ドライアイ、BUT短縮型ドライアイ、結膜炎、慢性表層角膜炎、角膜糜爛、薬剤性角膜障害、遷延性角膜障害、点状表層角膜症、角膜上皮欠損、結膜上皮欠損、乾性角結膜炎、上輪部角結膜炎、糸状角結膜炎、感染性角膜炎、非感染性角膜炎、感染性結膜炎、非感染性結膜炎、角結膜障害に伴う角膜瘢痕化又は角膜での瘢痕形成、及び結膜瘢痕化又は結膜での瘢痕形成からなる群より選ばれる疾患又は症状を伴うものである、態様3-6~3-9のいずれか一項に記載の医薬組成物。
[態様4-1] マイボーム腺機能不全の治療又は予防に使用するための医薬組成物の製造における老化細胞除去剤、Bcl-xL阻害剤、Bcl-2阻害剤又はBcl-w阻害剤の使用。
[態様4-2] 老化細胞除去剤、Bcl-xL阻害剤、Bcl-2阻害剤又はBcl-w阻害剤が、下記式(I)で表されるABT-263である、態様4-1に記載の使用。
【化7】
[態様4-3] マイボーム腺機能不全が、眼における移植片宿主病におけるマイボーム腺機能不全である、態様4-1又は4-2に記載の使用。
[態様4-4] マイボーム腺機能不全が、炎症又は線維化を伴うものである、態様4-1~4-3のいずれか1項に記載の使用。
[態様4-5] マイボーム腺機能不全が、眼疲労、目の疲れ、目のかわき、目のかすみ、目の痛み、目がまぶしい、目が重い、目の不快感、まぶたが熱い灼熱感、眼脂、流涙、ドライアイ、涙液減少型ドライアイ、蒸発亢進型ドライアイ、BUT短縮型ドライアイ、マイボーム腺炎、点状表層角膜炎、及び眼瞼炎からなる群より選ばれる疾患又は症状を伴うものである、態様4-1~4-4のいずれか1項に記載の使用。
[態様4-6] 角膜上皮障害の治療又は予防に使用するための医薬組成物の製造における老化細胞除去剤、Bcl-xL阻害剤、Bcl-2阻害剤又はBcl-w阻害剤の使用。
[態様4-7] 老化細胞除去剤、Bcl-xL阻害剤、Bcl-2阻害剤又はBcl-w阻害剤が、下記式(I)で表されるABT-263である、態様4-6に記載の使用。
【化8】
[態様4-8] 角膜上皮障害が、眼における移植片宿主病における角膜上皮障害である、態様4-6又は4-7に記載の使用。
[態様4-9] 角膜上皮障害が、炎症又は線維化を伴うものである、態様4-6~4-8のいずれか一項に記載の使用。
[態様4-10] 角膜上皮障害が、眼疲労、目の疲れ、目のかわき、目のかすみ、目の痛み、目がまぶしい、目が重い、目の不快感、眼脂、流涙、角膜潰瘍、角膜上皮剥離、角膜炎、ドライアイ、涙液減少型ドライアイ、蒸発亢進型ドライアイ、BUT短縮型ドライアイ、結膜炎、慢性表層角膜炎、角膜糜爛、薬剤性角膜障害、遷延性角膜障害、点状表層角膜症、角膜上皮欠損、結膜上皮欠損、乾性角結膜炎、上輪部角結膜炎、糸状角結膜炎、感染性角膜炎、非感染性角膜炎、感染性結膜炎、非感染性結膜炎、角結膜障害に伴う角膜瘢痕化又は角膜での瘢痕形成、及び結膜瘢痕化又は結膜での瘢痕形成からなる群より選ばれる疾患又は症状を伴うものである、態様4-6~4-9のいずれか一項に記載の使用。
【発明の効果】
【0015】
本発明の治療剤又は予防剤によれば、マイボーム腺機能不全及び角膜上皮障害の治療又は予防をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】以下、ABT-263を化合物aと言うとして、図1は、放射線照射後28日における対照コントロールマウス群、化合物a溶液投与群、コントロール溶液投与群における瞼板組織に対するマイボーム腺組織占有率の測定結果を示す。
図2図2は、放射線照射後28日における対照コントロールマウス群、化合物a溶液投与群、コントロール溶液投与群における角膜上皮障害スコアの測定結果を示す。
図3図3は、放射線照射後28日における対照コントロールマウス群、化合物a溶液投与群、コントロール溶液投与群におけるマイボーム腺周囲の線維化面積定量結果を示す。
図4図4は、放射線照射後28日における対照コントロールマウス群、化合物a溶液投与群、コントロール溶液投与群における、眼瞼周囲に浸潤する炎症細胞数の解析結果を示す。
図5図5は、放射線照射後28日における対照コントロールマウス群、化合物a溶液投与群、コントロール溶液投与群における、眼瞼周囲に浸潤する筋線維芽細胞マーカーα-smooth muscle actin(α-SMA)の発現解析結果を示す。
図6図6は、放射線照射後28日における対照コントロールマウス群、化合物a溶液投与群、コントロール溶液投与群における、眼瞼周囲に浸潤する老化細胞マーカーp16の発現解析結果を示す。
図7図7は、放射線照射後28日における対照コントロールマウス群、化合物a溶液投与群、コントロール溶液投与群における、眼瞼周囲に浸潤する老化細胞マーカーp21陽性かつ白血球マーカーCD45 陽性の細胞老化した炎症細胞の解析結果を示す。
図8図8は、放射線照射後28日における対照コントロールマウス群、化合物a溶液投与群、コントロール溶液投与群における、眼瞼周囲における主要なSASP因子であるIL-6の発現解析結果を示す。
図9図9は、放射線照射後28日における対照コントロールマウス群、化合物a溶液投与群、コントロール溶液投与群における、眼瞼周囲におけるSASP因子であるIL-1βの発現解析結果を示す。
図10図10は、放射線照射後28日における対照コントロールマウス群、化合物a溶液投与群、コントロール溶液投与群における、眼瞼周囲における主要なSASP因子であるIL-8の発現解析結果を示す。
図11図11は、放射線照射後28日における対照コントロールマウス群、化合物a溶液投与群、コントロール溶液投与群の眼瞼組織におけるDNA障害マーカー、老化細胞マーカー、SASP因子の遺伝子発現解析をqPCR法を用いて行ない、内部コントロール(GAPDH)に対する相対的遺伝子発現量の平均±標準誤差を測定した場合における、コントロール溶液投与群に対する各群の発現量の比を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
有効成分:
本発明のマイボーム腺機能不全又は角膜上皮障害の治療剤又は予防剤が有効成分として含有する老化細胞除去剤は、老化細胞を特異的に除去できる物質であれば特に制限はなく、例えば、老化細胞特異的に細胞死を誘導する物質等が挙げられる。老化細胞除去剤としては、例えば、ABT-263、FOXO4-DRI、Pipelongumine(パイプロングミン)、A1331852、A1155436、Fisetin(フィセチン)、ダサチニブとケルセチンの併用剤等が挙げられるが、これらに限られない。ABT-263は、下記(I)式で表される化合物であり、アポトーシスBcl-2ファミリーを標的とする薬剤である。ABT-263は、Bcl-xL、Bcl-2及びBcl-wの阻害剤である。老化細胞除去剤は、単独で用いても、組み合わせて用いてもよい。
【0018】
【化9】
【0019】
老化細胞除去剤が、老化細胞を除去できることについては、例えば、老化マーカーp16、p53、p21、DNA損傷マーカーBP53、SASP関連分子であるIL-6、CXCL9等のマーカーの発現が減少すること、osteopontin陽性細胞及び前記マーカーとの二重陽性となるCD68陽性老化マクロファージ、老化マーカーCD153陽性T細胞が減少すること等により確認することができる。
【0020】
老化細胞は、DNA損傷、老化関連マーカーの発現、細胞増殖の不可逆的停止、SASP関連分子の発現の上昇等により特定することができる。DNA損傷は、DNA損傷マーカーγ-H2Ax、53BP1等の発現により確認することができる。老化関連マーカーとしては、p16、p21等が挙げられる。細胞増殖の不可逆的停止は、細胞増殖マーカーKi-67等の発現により確認することができる。SASP関連分子としては、インフラマゾーム因子Caspase-1、SASP誘導上流因子IL-1β、IL-8、SASP主要因子CXCL1、IL-6、CXCL9等が挙げられる。
【0021】
本発明のマイボーム腺機能不全又は角膜上皮障害の治療剤又は予防剤が有効成分として含有するBcl-xL阻害剤としては、例えば、A-1155463、A-1331852、WEHI-539 HCl、Gossypol(ゴシポール)、BH3I-1、DT2216、Berberine chloride(塩化ベルベリン)(NSC 646666)、Flavokawain A(フラボカインA)、Berberine chloride hydrate(ベルベリン塩化物水和物)、Navitoclax(ナビトクラクス)(ABT-263)、ABT-737、Sabutoclax(サブトクラクス)、(R)-(-)-Gossypol acetic acid((R)-(-)-ゴシポール酢酸)、TW-37、Gambogic Acid(ガンボギン酸)などが挙げられるが、これらに限られない。
【0022】
本発明のマイボーム腺機能不全又は角膜上皮障害の治療剤又は予防剤が有効成分として含有するBcl-2阻害剤としては、例えば、ABT-737、Navitoclax(ナビトクラクス)(ABT-263)、TW-37、Venetoclax(ベネトクラクス)(ABT-199)、DT2216、BT2、APG-2575 (lisaftoclax)(リサフトクラクス)、Zeaxanthin(ゼアキサンチン)、(R)-(-)-Gossypol acetic acid((R)-(-)-ゴシポール酢酸)、HA14-1、Mifepristone(ミフェプリストン)(RU486)、Sabutoclax(サブトクラクス)、Unesbulin(ウネスブリン)(PTC596)、Cinobufagin(シノブファギン)、TCPOBOP、AZD5991、A-1210477、S55746、Linderalactone(リンデラルクトン)、Berberine chloride(塩化ベルベリン)(NSC 646666)、Gambogic Acid(ガンボギン酸)、S63845、Berberine chloride hydrate(ベルベリン塩化物水和物)、Flavokawain A(フラボカインA)、BH3I-1、BAI1、Gossypol(ゴシポール)、CCI-007、Motixafortide(モチキサフォルチド)(BL-8040)、VU661013、A-1155463、A-1331852、Chelerythrine(ケレリトリン)、UMI-77、S64315 (MIK665)、BDA-366、Humanin(ヒューマニン)(human)、Obatoclax(オバトクラックス)(GX15-070)、Obatoclax Mesylate(メシル酸オバトクラクス)(GX15-070)、Valepotriate(バレポトリエート)などが挙げられるが、これらに限られない。
【0023】
本発明のマイボーム腺機能不全又は角膜上皮障害の治療剤又は予防剤が有効成分として含有するBcl-w阻害剤としては、例えば、Gambogic Acid(ガンボギン酸)、Navitoclax(ナビトクラクス)(ABT-263)、ABT-737などが挙げられるが、これらに限られない。
【0024】
マイボーム腺機能不全:
眼瞼内に存在するマイボーム腺は、脂質を分泌し、涙液油層の供給源として重要である。この涙液油層は、涙液の表面張力の低下、涙液の蒸発防止等、涙液が膜として安定であるために重要である。マイボーム腺機能不全(MGD)は、さまざまな原因によってマイボーム腺の機能が瀰漫性又は限局性に異常をきたした状態であり、多くの場合、慢性の眼不快感を伴う。MGDは大きく分泌減少型と分泌増加型に分けられ、臨床における頻度は分泌減少型のほうが高い。分泌減少型MGDは閉塞性、萎縮性、先天性等の原発性のものと、アトピー、Stevens-Johnson症候群、移植片対宿主病、トラコーマ等に続発するものがある。分泌減少型のMGDでは原発性のなかの閉塞性のものが最も頻度が高い。原発性のうちの閉塞性では、マイボーム腺導管内に過剰角化物が蓄積し、マイボーム腺脂の分泌が低下し、マイボーム腺の腺房の萎縮が徐々に進行する。原発性のうちの萎縮性は、導管の閉塞から続発するものではなく、腺房が原発性に萎縮するものを指す。続発性ではさまざまな原因によって、マイボーム腺開口部の閉塞が起き、マイボーム腺脂の分泌が減少する。また、コンタクトレンズはマイボーム腺の形態に影響を与え、ドライアイの一因となることが報告されている。
【0025】
分泌減少型のマイボーム腺機能不全の診断基準としては、自覚症状、マイボーム腺開口部周囲の異常所見及びマイボーム腺開口部閉塞所見が陽性であることが挙げられる(天野史郎ら、あたらしい眼科;27(5); 627-631 (2010))。自覚症状としては、眼不快感(ゴロゴロ感、ショボショボ感等)、異物感、圧迫感等が挙げられる。マイボーム腺開放部周囲の異常所見としては、血管拡張、粘膜皮膚移行部の前方又は後方移動、眼瞼縁不整等が挙げられる。マイボーム腺開口部の閉塞所見としては、plugging、putting、ridgeと呼ばれる所見、マイボーム腺からの油脂の圧出低下等が挙げられる。
【0026】
さらに、MGDが炎症性疾患を伴う場合や、導管内脂質過剰蓄積を伴う場合や、マイボーム腺脂分泌減少を伴う場合があり、そのようなMGDも本発明の治療剤又は予防剤の対象となる。炎症性疾患としてはマイボーム腺炎、(点状)表層角膜炎、眼瞼炎等が挙げられる。これ以外の分泌減少型のマイボーム腺機能不全の参考となる検査所見としては、例えば、マイポグラフィーが挙げられる。マイポグラフィーは、翻転した瞼の裏から光を透過させたり、赤外線カメラや赤外線フィルターを用いて眼瞼を観察したりして、マイボーム腺の形態を直接観察する装置である。マイポグラフィーによる観察では、分泌減少型のマイボーム腺機能不全において、マイボーム腺の脱落や萎縮が観察される。またコンフォーカルマイクロスコープによる観察では、分泌減少型のMGDでのマイボーム腺房の密度減少等がみられる(天野史郎ら、あたらしい眼科;27(5); 627-631 (2010))。
【0027】
マイボーム腺の萎縮は、正常な体積に発育した臓器や組織の体積が種々の原因により減少した状態である。マイボーム腺の萎縮は、マイボーム腺の全体又は部分的な萎縮を含み得る。マイボーム腺の萎縮は、分泌腺房、小導管、中央導管、出導管などのマイボーム腺を構成する部分のいずれか、又はそれらの組み合わせの萎縮を含み得る。マイボーム腺の萎縮は、正常なマイボーム腺の体積に対して、約99.99%以下、約99.9%以下、約99%以下、約95%以下、90%以下、80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下又は1%以下の体積へと減少したマイボーム腺を含み得る。マイボーム腺の体積減少を伴うマイボーム腺の萎縮としては、例えば、腺組織の脱落、腺房の欠損、細胞数の減少などによる萎縮などが挙げられる。本発明の具体的な実施形態において、マイボーム腺機能不全は、例えば、マイボーム腺の萎縮を伴う。
【0028】
本発明のマイボーム腺機能不全の治療剤又は予防剤において、マイボーム腺機能不全(MGD)は、さまざまな原因によってマイボーム腺の機能が瀰漫性又は限局性に異常をきたした状態であり、多くの場合、涙液及び眼表面の異常、慢性の眼不快感(ゴロゴロ感、ショボショボ感等)などのドライアイ症状を伴う。MGDとしては、例えば、眼疲労、目の疲れ、目のかわき、目のかすみ、目の痛み、目がまぶしい、目が重い、目の不快感、まぶたが熱い灼熱感、眼脂、流涙、ドライアイ、涙液減少型ドライアイ、蒸発亢進型ドライアイ、BUT短縮型ドライアイ、マイボーム腺炎、点状表層角膜炎、及び眼瞼炎からなる群より選ばれる疾患又は症状を伴うものが挙げられる。また、MGDとしては、眼における移植片宿主病におけるMGDが挙げられる。さらに、MGDは、炎症又は線維化を伴う場合があり、そのようなMGDも本発明の治療剤又は予防剤の対象となる。炎症を伴うMGDとしては、例えば、マイボーム腺炎、点状表層角膜炎、眼瞼炎等が挙げられる。
【0029】
本発明のマイボーム腺機能不全の治療剤又は予防剤において、マイボーム腺機能不全治療又は予防の効果の判定は、例えば、マイボーム腺のシルエット像で行うことができる。
【0030】
角膜上皮障害:
角膜は、眼球前面を覆う直径1cm程度の透明な無血管の組織であり、また、結膜は、角膜縁より後方の眼球表面と眼瞼の裏面を覆っている粘膜であり、これらは視覚において重要な機能を担っており、何らかの障害が起こると視機能へ重篤な影響を及ぼす。ドライアイにより引き起こされる角結膜障害は、外的障害等、何らかの理由により生じた障害の修復が遅延したり、あるいは障害が遷延化したものである。角膜と結膜は連なった組織であるため、これら疾患により互いの上皮の正常な構築に悪影響を及ぼし、更には、角膜実質や内皮の構造や機能まで害することがある。ドライアイでは、涙液層安定性低下をコア・メカニズムの一つとして、慢性化、重症化の過程で角結膜上皮障害が顕著となるため、涙液層安定化とともに、角膜上皮障害の治療が重視されている。薬剤性角膜上皮障害は、ドライアイと類似した点状表層角膜層所見を呈する。原因となる点眼薬としては、角膜知覚を低下させる交感神経遮断薬や非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、点眼薬に含まれる防腐剤、特に塩化ベンザルコニウムなどが挙げられる。また、抗癌剤、アミオダロン、そしてイソトレチノインなどの全身投与薬剤なども、角膜に強い障害を与える。実際にこれらの薬剤をマウスに投与することによって典型的なドライアイ症状を誘発することが報告されている(Borkar et al. Support Care Cancer 21:1167-1174(2013);Yang et al. Int J Mol Med 41:1427-1436 (2018) Lin et al. Mol Vis 17:257-264(2011))。
【0031】
本発明の角膜上皮障害の治療剤又は予防剤において、角膜上皮障害は、例えば、涙液異常、代謝異常、外的障害等といった種々の要因により角膜や結膜が障害を受けた状態にあるものであり、例えば、眼疲労、目の疲れ、目のかわき、目のかすみ、目の痛み、目がまぶしい、目が重い、目の不快感、眼脂、流涙、角膜潰瘍、角膜上皮剥離、角膜炎、ドライアイ、涙液減少型ドライアイ、蒸発亢進型ドライアイ、BUT短縮型ドライアイ、結膜炎、慢性表層角膜炎、角膜糜爛、薬剤性角膜障害、遷延性角膜障害、点状表層角膜症、角膜上皮欠損、結膜上皮欠損、乾性角結膜炎、上輪部角結膜炎、糸状角結膜炎、感染性角膜炎、非感染性角膜炎、感染性結膜炎、非感染性結膜炎、角結膜障害に伴う角膜瘢痕化又は角膜での瘢痕形成、及び結膜瘢痕化又は結膜での瘢痕形成からなる群より選ばれる疾患又は症状を伴うものである。また、角膜上皮障害としては、眼における移植片宿主病における角膜上皮障害が挙げられる。さらに、角膜上皮障害は、炎症又は線維化を伴う場合があり、そのような角膜上皮障害も本発明の治療剤又は予防剤の対象となる。本発明の角膜上皮障害の治療剤又は予防剤は、ドライアイの予防剤又は治療剤として好適に用いることができる。
【0032】
本発明の角膜上皮障害の治療剤又は予防剤において、角膜上皮障害治療効果の測定は、例えば、目表面のフルオレセイン染色像及びフルオレセイン染色スコアで測定することができる。
【0033】
治療剤又は予防剤:
本発明のマイボーム腺機能不全又は角膜上皮障害の治療剤又は予防剤は、老化細胞除去剤からなるものであってもよいし、薬学的に許容される担体と混合した医薬組成物として製剤化したものであってもよい。
【0034】
医薬組成物は、例えば錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤等の経口的に使用される剤型に製剤化されていてもよく、例えば、注射剤、軟膏、貼付剤等の非経口的に使用される剤型に製剤化されていてもよい。
【0035】
薬学的に許容される担体としては、例えば、滅菌水、生理食塩水等の溶媒;ゼラチン、コーンスターチ、トラガントガム、アラビアゴム等の結合剤、結晶性セルロース等の賦形剤;コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸等の膨化剤等が挙げられる。
【0036】
薬学的に許容される担体としては、添加剤が挙げられる。添加剤としては、ステアリン酸マグネシウム等の潤滑剤;ショ糖、乳糖、サッカリン等の甘味剤;ペパーミント、アカモノ油等の香味剤;ベンジルアルコール、フェノールの安定剤;リン酸塩、酢酸ナトリウム等の緩衝剤;安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等の溶解補助剤;酸化防止剤;防腐剤;界面活性剤;乳化剤等が挙げられる。
【0037】
医薬組成物は、上記の担体を適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することができる。
【0038】
医薬組成物が注射剤である場合、注射剤用の溶媒としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム等の補助薬を含む等張液が挙げられる。注射剤用の溶媒は、エタノール等のアルコール;プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等のポリアルコール;ポリソルベート80(商標)、HCO-50等の非イオン性界面活性剤等を含有していてもよい。
【0039】
本発明のマイボーム腺機能不全又は角膜上皮障害の治療剤又は予防剤の対象への投与は、特に限定はされず、目的とする、症状が発現する器官に応じて適宜選択することができるが、例えば、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射等のほか、鼻腔内的、経気管支的、筋内的、経皮的、または経口的に当業者に公知の方法により行いうる。また、目的とする、症状が発現する器官が眼である場合、結膜下注射、点眼により投与してもよい。
【0040】
本発明のマイボーム腺機能不全又は角膜上皮障害の治療剤又は予防剤の投与量は、症状により差異はあるが、経口投与の場合、一般的に成人(体重60kgとして)においては、1日あたり、例えば50~300mg等が挙げられる。
【0041】
非経口的に投与する場合は、その1回の投与量は投与対象、対象臓器、症状、投与方法によっても異なるが、例えば注射剤の形では成人(体重60kgとして)においては、1日あたり、例えば0.01~30mg、例えば0.1~20mg、例えば0.1~10mg程度を静脈注射又は局所注射により投与することが挙げられる。
【0042】
その他:
本発明は、対象に老化細胞除去剤を投与することを特徴とする、対象のマイボーム腺機能不全の治療方法又は予防方法を提供する。また、本発明は、対象に老化細胞除去剤を投与することを特徴とする、対象の角膜上皮障害の治療方法又は予防方法を提供する。対象としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヒト、マウス、ラット、ウシ、ブタ、サル、イヌ、ネコなどの哺乳類動物が挙げられるが、好ましくは、ヒトの患者が挙げられ、特に好ましくは、マイボーム腺機能不全又は角膜上皮障害のヒトの患者が挙げられる。
【0043】
さらに、本発明は、老化細胞除去剤を有効成分として含有する、マイボーム腺機能不全の治療又は予防に使用するための医薬組成物を提供する。また、本発明は、老化細胞除去剤を有効成分として含有する、角膜上皮障害の治療又は予防に使用するための医薬組成物を提供する。
【0044】
さらに、本発明は、マイボーム腺機能不全の治療又は予防に使用するための医薬組成物の製造における老化細胞除去剤の使用を提供する。また、本発明は、角膜上皮障害の治療又は予防に使用するための医薬組成物の製造における老化細胞除去剤の使用を提供する。
【実施例0045】
被験化合物溶液の調製:
ABT-263を、以下、化合物aと言う。所定量の化合物aをpolyethylene glycol 400、Phosal 50 PGと、それぞれ10:30:60の割合で混和し、化合物a溶液を調整した。polyethylene glycol 400、Phosal 50 PGをそれぞれ30:60の割合で混和し、コントロール溶液を調整した。
モデル動物作成:
雌性マウス(BALB/c, 7-9週齢;三共研究所)にMajor Histocompatibility Complex (MHC)適合性、minor histocompatibility antigen (miHA)ミスマッチの雄性マウス(B10.D2, 7-9週齢;三共研究所)の脾臓細胞と骨髄細胞を移植した。コントロールマウスとして、同種同系の脾臓細胞と骨髄細胞の移植を行った雌性マウス(BALB/c)を使用した。移植方法として、レシピエントに7Gyの放射線照射を行ったのちに、1×106の骨髄細胞及び2×106の脾臓細胞を0.1mLのRoswell Park Memorial Institute medium (RPMI培地)に溶解し、合計0.2mLを経尾静脈に投与した。SPF (specific pathogen free)環境下で、滅菌済みの水と餌にて10日間モデルマウスを飼育した後、薬剤の投与を開始した。化合物a溶液を50mg/kg、ゾンデを使用し1日1回、連続7日間経口投与した。比較としてコントロール溶液を用いて、同様に投与した。放射線照射から28日後、角膜フルオレセイン染色で角膜上皮の状態を観察し、マウスを屠殺し組織を採取した。
【0046】
放射線照射後28日における対照コントロールマウス群、化合物a溶液投与群、コントロール溶液投与群における瞼板組織に対するマイボーム腺組織占有率の測定結果を図1に示す。マイボーム腺の形態評価方法として、上眼瞼組織を実体顕微鏡下で透過光源を用いてマイボーム腺シルエットを観察・撮影し、瞼板組織に対するマイボーム腺シルエット像の割合を画像解析ソフトImageJを用いて定量した。その平均±平均誤差をマイボーム腺占有率とし各群を比較した。化合物a投与群では79.3±1.3%、コントロール溶液投与群では66.3±0.32%と有意に化合物a溶液投与群でマイボーム腺占有率が保持されていた (p = 0.0045, n = 5 per group, one-way analysis of variance (ANOVA) with Tukey-Kramer’s post hoc test, *P < 0.05, **P < 0.01, ***P < 0.001)。
【0047】
放射線照射後28日における対照コントロールマウス群、化合物a溶液投与群、コントロール溶液投与群における角膜上皮障害スコアの測定結果を図2に示す。眼表面をフルオレセインを用いて染色し、染色像を3段階にスコア化し角膜の上部、中部、下部の3部位のスコアの合計の平均±標準誤差を角膜上皮障害スコアとした。化合物a溶液投与群では0.13±0.11点、コントロール溶液点眼群では1.25±0.45点で化合物a溶液投与群で角膜上皮障害スコアが良い傾向を認めた(p = 0.14, n = 5 per group, one-way analysis of variance (ANOVA) with Tukey-Kramer’s post hoc test, *P < 0.05, **P < 0.01, ***P < 0.001)。
スコアの基準は以下のとおりである。
0:染色されていない
1:染色は稀
2:染色が中程度
3:染色が重度
【0048】
放射線照射後28日における対照コントロールマウス群、化合物a溶液投与群、コントロール溶液投与群におけるマイボーム腺周囲の線維化面積定量結果を図3に示す。線維化面積の定量は、眼瞼組織の切片をマロリー染色し、濃青に染色される線維化部分を、画像解析ソフトImageJを用いて定量した。それぞれの平均値±標準誤差を定量値とした。化合物a投与群では150±35×103 pixels、コントロール溶液投与群では254±36×103 pixelsと化合物a溶液投与群でマイボーム腺周囲の線維化が有意に抑制されていた(p = 0.027, n = 5 per group, one-way analysis of variance (ANOVA) with Tukey-Kramer’s post hoc test, *P < 0.05, **P < 0.01, ***P < 0.001)。
【0049】
放射線照射後28日における対照コントロールマウス群、化合物a溶液投与群、コントロール溶液投与群における、眼瞼周囲に浸潤する炎症細胞数の解析結果を図4に示す。眼瞼組織を、眼瞼縁、眼瞼皮膚、マイボーム腺の3部分に分け、それぞれの部位に浸潤する白血球マーカーCD45陽性炎症細胞を、免疫組織化学を用いて解析した。化合物a溶液投与群の眼瞼縁では3.5±1.4 個、コントロール溶液投与群では28.5±2.9 個でa溶液投与群において有意にCD45陽性炎症細胞の浸潤が抑制されていた(p = 0.037, n = 5 per group, one-way analysis of variance (ANOVA) with Tukey-Kramer’s post hoc test, *P < 0.05, **P < 0.01, ***P < 0.001)。化合物a溶液投与群の眼瞼皮膚では10.0±1.3個、コントロール溶液投与群では31.9±3.9個で化合物a溶液投与群において有意にCD45陽性炎症細胞の浸潤が抑制されていた(p = 0.037, n = 5 per group, one-way analysis of variance (ANOVA) with Tukey-Kramer’s post hoc test, *P < 0.05, **P < 0.01, ***P < 0.001)。化合物a溶液投与群のマイボーム腺周囲では3.5±1.2個、コントロール溶液投与群では15.5±2.9 個で化合物a溶液投与群において有意にCD45陽性炎症細胞の浸潤が抑制されていた。(p = 0.038, n = 5 per group, one-way analysis of variance (ANOVA) with Tukey-Kramer’s post hoc test, *P < 0.05, **P < 0.01, ***P < 0.001)。
【0050】
放射線照射後28日における対照コントロールマウス群、化合物a溶液投与群、コントロール溶液投与群における、眼瞼周囲に浸潤する筋線維芽細胞マーカーα-smooth muscle actin(α-SMA)の発現解析結果を図5に示す。眼瞼組織を眼瞼縁、眼瞼皮膚、マイボーム腺、の3部分に分け、それぞれの部位におけるα-SMA 陽性面積を、免疫組織化学、画像解析ソフトImageJを用いて解析した。視野中におけるα-SMA 陽性面積の割合±標準誤差を測定結果とした。化合物a溶液投与群の眼瞼縁では0.63±0.11 %、コントロール溶液投与群では1.63±0.25 %で化合物a溶液投与群において有意にα-SMA 陽性面積が抑制されていた (p = 0.038, n = 5 per group, one-way analysis of variance (ANOVA) with Tukey-Kramer’s post hoc test, *P < 0.05, **P < 0.01, ***P < 0.001)。化合物a溶液投与群の眼瞼皮膚では0.50±0.11%、コントロール溶液投与群では1.22±0.21%で化合物a溶液投与群においてα-SMA 陽性面積が抑制されている傾向を認めた。(p = 0.12, n = 5 per group, one-way analysis of variance (ANOVA) with Tukey-Kramer’s post hoc test, *P < 0.05, **P < 0.01, ***P < 0.001)。化合物a溶液投与群のマイボーム腺周囲では0.29±0.078%、コントロール溶液投与群では1.96±0.26 %で化合物a溶液投与群において有意にα-SMA 陽性面積が抑制されていた(p = 0.024, n = 5 per group, one-way analysis of variance (ANOVA) with Tukey-Kramer’s post hoc test, *P < 0.05, **P < 0.01, ***P < 0.001)。
【0051】
放射線照射後28日における対照コントロールマウス群、化合物a溶液投与群、コントロール溶液投与群における、眼瞼周囲に浸潤する老化細胞マーカーp16の発現解析結果を図6に示す。眼瞼組織を、眼瞼縁、眼瞼皮膚、マイボーム腺の3部分に分け、それぞれの部位におけるp16陽性細胞数を、免疫組織化学を用いて解析した。視野中におけるp16陽性細胞数の平均±標準誤差を測定結果とした。化合物a溶液投与群の眼瞼縁では1.83±0.49個、コントロール溶液投与群では17.6±2.8個で化合物a溶液投与群において有意にp16陽性細胞数が抑制されていた。(p = 0.0031, n = 5 per group, one-way analysis of variance (ANOVA) with Tukey-Kramer’s post hoc test, *P < 0.05, **P < 0.01, ***P < 0.001)。化合物a溶液投与群の眼瞼皮膚では9.4±3.6個、コントロール溶液投与群では20.8±2.8個で化合物a溶液投与群においてp16陽性細胞数が抑制されている傾向を認めた。(p = 0.063, n = 5 per group, one-way analysis of variance (ANOVA) with Tukey-Kramer’s post hoc test, *P < 0.05, **P < 0.01, ***P < 0.001)。化合物a溶液投与群のマイボーム腺周囲では0.64±0.44個、コントロール溶液投与群では12.0±1.1個で化合物a溶液投与群において有意にp16陽性老化細胞が抑制されていた(p < 0.001, n = 5 per group, one-way analysis of variance (ANOVA) with Tukey-Kramer’s post hoc test, *P < 0.05, **P < 0.01, ***P < 0.001)。
【0052】
放射線照射後28日における対照コントロールマウス群、化合物a溶液投与群、コントロール溶液投与群における、眼瞼周囲に浸潤する老化細胞マーカーp21陽性かつ白血球マーカーCD45 陽性の細胞老化した炎症細胞の解析結果を図7に示す。眼瞼組織を、眼瞼縁、眼瞼皮膚、マイボーム腺の3部分に分け、それぞれの部位におけるp21+CD45+細胞数を免疫組織化学を用いて解析した。視野中におけるp21+CD45+細胞数の平均±標準誤差を測定結果とした。化合物a溶液投与群の眼瞼縁では0.40±0.21個、コントロール溶液投与群では18.6±3.4個で化合物a溶液投与群において有意にp21+CD45+老化炎症細胞の浸潤が抑制されていた(p < 0.001, n = 5 per group, one-way analysis of variance (ANOVA) with Tukey-Kramer’s post hoc test, *P < 0.05, **P < 0.01, ***P < 0.001)。化合物a溶液投与群の眼瞼皮膚では0.88±0.27個、コントロール溶液投与群では12.3±2.1個で化合物a溶液投与群において有意にp21+CD45+老化炎症細胞の浸潤が抑制されていた。(p < 0.001, n = 5 per group, one-way analysis of variance (ANOVA) with Tukey-Kramer’s post hoc test, *P < 0.05, **P < 0.01, ***P < 0.001)。化合物a溶液投与群のマイボーム腺周囲では0.83±0.36個、コントロール溶液投与群では5.95±1.1個で化合物a溶液投与群において有意にp21+CD45+老化炎症細胞の浸潤が抑制されていた。(p < 0.001, n = 5 per group, one-way analysis of variance (ANOVA) with Tukey-Kramer’s post hoc test, *P < 0.05, **P < 0.01, ***P < 0.001)。
【0053】
細胞老化を起こした細胞は様々な炎症性サイトカインやケモカイン、細胞外マトリクス分解酵素等、炎症や発がん促進作用のある種々の分泌蛋白質を発現することが明らかとなっており、これらの分泌蛋白質をまとめて細胞老化関連分泌形質 (senescence-associated secretory phenotype: SASP)と呼ぶ。放射線照射後28日における対照コントロールマウス群、化合物a溶液投与群、コントロール溶液投与群における、眼瞼周囲における主要なSASP因子であるIL-6の発現解析結果を図8に示す。眼瞼組織を、マイボーム腺、眼瞼縁、眼瞼皮膚の3部分に分け、それぞれの部位におけるIL-6陽性面積を免疫組織化学、画像解析ソフトImageJを用いて解析した。視野中におけるIL-6陽性面積の割合±標準誤差を測定結果とした。化合物a溶液投与群の眼瞼縁では0.41±0.14%、コントロール溶液投与群では1.33±0.19%で化合物a溶液投与群において有意にIL-6陽性面積が抑制されていた。(p = 0.0028, n = 5 per group, one-way analysis of variance (ANOVA) with Tukey-Kramer’s post hoc test, *P < 0.05, **P < 0.01, ***P < 0.001)。化合物a溶液投与群の眼瞼皮膚では0.38±0.055%、コントロール溶液投与群では1.05±0.12%で化合物a溶液投与群において有意にIL-6陽性面積が抑制されていた(p = 0.0033, n = 5 per group, one-way analysis of variance (ANOVA) with Tukey-Kramer’s post hoc test, *P < 0.05, **P < 0.01, ***P < 0.001)。化合物a溶液投与群のマイボーム腺周囲では0.38±0.055%、コントロール溶液投与群では1.14±0.16%で化合物a溶液投与群において有意にIL-6陽性面積が抑制されていた(p = 0.0037, n = 5 per group, one-way analysis of variance (ANOVA) with Tukey-Kramer’s post hoc test, *P < 0.05, **P < 0.01, ***P < 0.001)。
【0054】
放射線照射後28日における対照コントロールマウス群、化合物a溶液投与群、コントロール溶液投与群における、眼瞼周囲におけるSASP因子であるIL-1βの発現解析結果を図9に示す。眼瞼組織を眼瞼縁、眼瞼皮膚、マイボーム腺の3部分に分け、それぞれの部位におけるIL-1β陽性面積を免疫組織化学、画像解析ソフトImageJを用いて解析した。視野中におけるIL-1β陽性面積の割合±標準誤差を測定結果とした。化合物a溶液投与群の眼瞼縁では0.14±0.034%、コントロール溶液投与群では2.83±0.69%で化合物a溶液投与群において有意にIL-1β陽性面積が抑制されていた。(p = 0.0038, n = 5 per group, one-way analysis of variance (ANOVA) with Tukey-Kramer’s post hoc test, *P < 0.05, **P < 0.01, ***P < 0.001)。化合物a溶液投与群の眼瞼皮膚では0.37±0.019%、コントロール溶液投与群では2.5±0.47%で化合物a溶液投与群において有意にIL-1β陽性面積が抑制されていた。(p < 0.001, n = 5 per group, one-way analysis of variance (ANOVA) with Tukey-Kramer’s post hoc test, *P < 0.05, **P < 0.01, ***P < 0.001)。化合物a溶液投与群のマイボーム腺周囲では0.15±0.044%、コントロール溶液投与群では1.21±0.14%で化合物a溶液投与群において有意にIL-1β陽性面積が抑制されていた。(p < 0.001, n = 5 per group, one-way analysis of variance (ANOVA) with Tukey-Kramer’s post hoc test, *P < 0.05, **P < 0.01, ***P < 0.001)。
【0055】
放射線照射後28日における対照コントロールマウス群、化合物a溶液投与群、コントロール溶液投与群における、眼瞼周囲における主要なSASP因子であるIL-8の発現解析結果を図10に示す。眼瞼組織を眼瞼縁、眼瞼皮膚、マイボーム腺の3部分に分け、それぞれの部位におけるIL-8陽性面積を免疫組織化学、画像解析ソフトImageJを用いて解析した。視野中におけるIL-8陽性面積の割合±標準誤差を測定結果とした。化合物a溶液投与群の眼瞼縁では0.63±0.11%、コントロール溶液投与群では1.58±0.29%で化合物a溶液投与群において有意にIL-8陽性面積が抑制されていた (p = 0.018, n = 5 per group, one-way analysis of variance (ANOVA) with Tukey-Kramer’s post hoc test, *P < 0.05, **P < 0.01, ***P < 0.001)。化合物a溶液投与群の眼瞼皮膚では0.50±0.11%、コントロール溶液投与群では1.22±0.23%で化合物a溶液投与群において有意にIL-8陽性面積が抑制されていた (p = 0.019, n = 5 per group, one-way analysis of variance (ANOVA) with Tukey-Kramer’s post hoc test, *P < 0.05, **P < 0.01, ***P < 0.001)。化合物a溶液投与群のマイボーム腺周囲では0.34±0.031%、コントロール溶液投与群では1.08±0.079%で化合物a溶液投与群において有意にIL-8陽性面積が抑制されていた(p < 0.001, n = 5 per group, one-way analysis of variance (ANOVA) with Tukey-Kramer’s post hoc test, *P < 0.05, **P < 0.01, ***P < 0.001)。
【0056】
放射線照射後28日における対照コントロールマウス群、化合物a溶液投与群、コントロール溶液投与群の眼瞼組織におけるDNA障害マーカー、老化細胞マーカー、SASP因子の遺伝子発現解析をqPCR法を用いて行なった。内部コントロール(GAPDH)に対する相対的遺伝子発現量の平均±標準誤差を測定し、コントロール溶液投与群に対する各群の発現量の比を図11に示す。化合物a投与群ではγ-H2AXの発現がコントロール溶液投与群に対し0.48±0.022倍であり化合物a溶液投与群において有意に発現が抑制されていた(p = 0.0052, n = 4-5 per group, one-way analysis of variance (ANOVA) with Tukey-Kramer’s post hoc test, *P < 0.05, **P < 0.01, ***P < 0.001)。化合物a投与群では老化細胞マーカーp16の発現がコントロール溶液投与群に対し0.58±0.12倍であり化合物a溶液投与群においてp16の発現が抑制傾向を認めた(p = 0.34, n = 4-5 per group, one-way analysis of variance (ANOVA) with Tukey-Kramer’s post hoc test, *P < 0.05, **P < 0.01, ***P < 0.001)。化合物a投与群では老化細胞マーカーp21の発現がコントロール溶液投与群に対し0.48±0.022倍であり発現抑制傾向を認めた(p = 0.35, n = 4-5 per group, one-way analysis of variance (ANOVA) with Tukey-Kramer’s post hoc test, *P < 0.05, **P < 0.01, ***P < 0.001)。化合物a投与群ではSASP因子Caspase1の発現がコントロール溶液投与群に対し0.79±0.093倍であり発現が抑制傾向であった。(p = 0.22, n = 4-5 per group, one-way analysis of variance (ANOVA) with Tukey-Kramer’s post hoc test)。化合物a投与群ではSASP因子IL-1βの発現がコントロール溶液投与群に対し0.47±0.29倍であり有意に発現が抑制されていた。(p = 0.014, n = 4-5 per group, one-way analysis of variance (ANOVA) with Tukey-Kramer’s post hoc test, *P < 0.05, **P < 0.01, ***P < 0.001)。化合物a投与群ではSASP因子IL-6の発現がコントロール溶液投与群に対し0.090±0.025倍であり有意に発現が抑制されていた(p = 0.0068, n = 4-5 per group, one-way analysis of variance (ANOVA) with Tukey-Kramer’s post hoc test, *P < 0.05, **P < 0.01, ***P < 0.001)。化合物a投与群ではSASP因子CXCL1の発現がコントロール溶液投与群に対し0.24±0.044倍であり有意に発現が抑制されていた(p = 0.0019, n = 4-5 per group, one-way analysis of variance (ANOVA) with Tukey-Kramer’s post hoc test, *P < 0.05, **P < 0.01, ***P < 0.001)。化合物a投与群ではSASP因子CXCL9の発現がコントロール溶液投与群に対し0.34±0.043倍であり有意に発現が抑制されていた (p < 0.001, n = 4-5 per group, one-way analysis of variance (ANOVA) with Tukey-Kramer’s post hoc test, *P < 0.05, **P < 0.01, ***P < 0.001, *P < 0.05, **P < 0.01, ***P < 0.001)。
【0057】
まとめると、慢性GVHDモデルマウスに対して化合物a溶液投与群はマイボーム腺の形態保持効果、角膜上皮障害抑制効果、眼瞼における炎症細胞抑制効果、細胞老化抑制効果を認め、眼GVHDにおける眼瞼炎・マイボーム腺機能不全抑制効果を持つことが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の化合物は、眼瞼炎・マイボーム腺機能不全抑制効果、角膜上皮障害の抑制を示し、新たな眼GVHD治療剤として有用であることから、産業上の利用可能性を有している。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11