(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125059
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】液滴吐出ヘッド
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20240906BHJP
【FI】
B41J2/14 607
B41J2/14 301
B41J2/14 613
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033136
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】吉野 隆晃
(72)【発明者】
【氏名】垣内 徹
(72)【発明者】
【氏名】水野 泰介
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AF01
2C057AG02
2C057AG09
2C057AG15
2C057AG29
2C057AG44
2C057AN05
2C057BA04
2C057BA14
(57)【要約】
【課題】高い駆動周波数で、記録に十分な量の液滴を吐出させる。
【解決手段】プリンタは、ノズルとノズルに連通する圧力室とを含む個別流路を有する流路部材と、圧力室内のインクに圧力を付与してノズルからインク滴を吐出させる圧電素子とを備えている。個別流路の固有周波数Frは250kHz以上である。さらに、ノズルの直径D[μm]が固有周波数Fr[kHz]と下記式(1)の関係を有する。直線L1は、「D=0.0446×Fr+7.5」を示す。直線L1’は、「D=0.0446×Fr+13.5」を示す。
0.0446×Fr+7.5≦D≦0.0446×Fr+13.5 ・・・式(1)
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルと前記ノズルに連通する圧力室とを含む流路を有する流路部材と、
前記流路部材に固定され、前記圧力室内の液体に圧力を付与して前記ノズルから液滴を吐出させる圧電素子と、を備え、
前記流路の固有周波数Frが250kHz以上であり、
前記ノズルの直径D[μm]が前記固有周波数Fr[kHz]と下記式(1)の関係を有することを特徴とする、液滴吐出ヘッド。
0.0446×Fr+7.5≦D≦0.0446×Fr+13.5 ・・・式(1)
【請求項2】
前記ノズルのテーパー角度θ[°]が前記ノズルの直径D[μm]と下記式(2)の関係を有することを特徴とする、請求項1に記載の液滴吐出ヘッド。
θ≧-2.2×D+87.2 ・・・式(2)
【請求項3】
前記固有周波数Frが300kHz以下であることを特徴とする、請求項1に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項4】
前記ノズルのテーパー角度θ[°]が前記ノズルの直径D[μm]と下記式(3)の関係を有することを特徴とする、請求項3に記載の液滴吐出ヘッド。
θ≦-2.2×D+116.6 ・・・式(3)
【請求項5】
前記ノズルのテーパー角度θ[°]が前記ノズルの直径D[μm]と下記式(4)の関係を有することを特徴とする、請求項1に記載の液滴吐出ヘッド。
θ≧2.1×D-12.8 ・・・式(4)
【請求項6】
前記圧電素子は薄膜圧電素子であることを特徴とする、請求項1に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項7】
前記薄膜圧電素子の厚みが5μm以下であることを特徴とする、請求項6に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項8】
前記ノズルは、シリコン部材で画定され、矩形状の開口を有することを特徴とする、請求項1に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項9】
前記圧力室の幅は300μm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項10】
前記圧力室の長さは350μm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項11】
前記ノズルのテーパー角度θが45°未満であることを特徴とする、請求項1に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項12】
前記ノズルのテーパー角度θが35°を超えることを特徴とする、請求項1に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項13】
前記液滴により記録される画像の解像度である記録解像度が1200dpi以上であることを特徴とする、請求項1~12のいずれか1項に記載の液滴吐出ヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルから液滴を吐出させる液滴吐出ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、25~40kHz程度の駆動周波数で記録ヘッド(液滴吐出ヘッド)を駆動する場合の、ノズルの直径の数値が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高速記録を行うため、駆動周波数をより高くすることが考えられる。駆動周波数を高めるための手段の1つは、流路の固有周波数Frを高めることである。
【0005】
しかしながら、固有周波数Frを高めた場合、ノズルの直径によっては、記録に十分な量の液滴を吐出させることができない。
【0006】
本発明の目的は、高い駆動周波数で、記録に十分な量の液滴を吐出させることができる、液滴吐出ヘッドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る液滴吐出ヘッドは、ノズルと前記ノズルに連通する圧力室とを含む流路を有する流路部材と、前記流路部材に固定され、前記圧力室内の液体に圧力を付与して前記ノズルから液滴を吐出させる圧電素子と、を備え、前記流路の固有周波数Frが250kHz以上であり、前記ノズルの直径D[μm]が前記固有周波数Fr[kHz]と下記式(1)の関係を有することを特徴とする。
0.0446×Fr+7.5≦D≦0.0446×Fr+13.5 ・・・式(1)
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るヘッド1を含むプリンタ100の平面図である。
【
図2】プリンタ100の電気的構成を示すブロック図である。
【
図4】
図3のIV-IV線に沿ったヘッド1の断面図である。
【
図5】ノズルの直径D及び個別流路の固有周波数Frと、インク滴の量Vとの関係を示すグラフである。
【
図6】ノズルの直径D及びノズルのテーパー角度θと、個別流路の固有周波数Frとの関係を示すグラフである。
【
図7】本発明の第2実施形態に係るヘッドの個別流路12Bを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<第1実施形態>
本発明の第1実施形態に係るヘッド1は、
図1に示すように、プリンタ100に含まれている。
【0010】
プリンタ100は、筐体100Aと、ヘッドユニット1Xと、プラテン3と、搬送機構4と、制御部5とを備えている。ヘッドユニット1X、プラテン3、搬送機構4及び制御部5は、筐体100A内に配置されている。
【0011】
プリンタ100は、さらに、筐体100Aの外面に配置されたボタンを備えている。
【0012】
ヘッドユニット1Xの紙幅方向の長さは、ヘッドユニット1Xの搬送方向の長さよりも長い。紙幅方向は、用紙9の幅に沿った方向であり、鉛直方向と直交する。ヘッドユニット1Xは、筐体100Aに固定されている。ヘッドユニット1Xの種類は、ライン式である。
【0013】
ヘッドユニット1Xは、4つのヘッド1を含む。4つのヘッド1は、紙幅方向に千鳥状に配置されている。ヘッド1の紙幅方向の長さは、ヘッド1の搬送方向の長さよりも長い。
【0014】
プラテン3は、鉛直方向と直交する平面に沿った板であり、ヘッドユニット1Xの下方に配置されている。プラテン3の上面に用紙9が支持される。
【0015】
搬送機構4は、2つのローラを有するローラ対41と、2つのローラを有するローラ対42と、
図2に示す搬送モータ43とを含む。搬送方向において、ヘッドユニット1X及びプラテン3が、ローラ対41,42の間に配置されている。搬送方向は、鉛直方向及び紙幅方向と直交する。
【0016】
制御部5の制御により搬送モータ43が駆動されると、ローラ対41,42のローラが回転する。ローラ対41,42のローラが回転することによって、ローラ対41,42のローラに挟持された用紙9が搬送方向に搬送される。
【0017】
制御部5は、
図2に示すように、CPU51と、ROM52と、RAM53とを含む。
【0018】
CPU51は、外部装置又は上記ボタンから入力されたデータに基づいて、ROM52やRAM53に記憶されているプログラム及びデータにしたがい、各種制御を実行する。外部装置は、例えばpersonal computer (PC)である。
【0019】
ROM52には、CPU51が各種制御を行うためのプログラム及びデータが格納されている。RAM53は、CPU51がプログラムを実行する際に用いるデータを一時的に記憶する。
【0020】
次いで、ヘッド1の構成について説明する。
【0021】
ヘッド1は、
図4に示すように、流路部材12と、アクチュエータ部材13とを含む。
【0022】
流路部材12の上面には、
図3に示すように、2つの供給口121及び2つの帰還口122が開口している。2つの供給口121は、流路部材12における紙幅方向の一端に配置されている。2つの帰還口122は、流路部材12における紙幅方向の他端に配置されている。供給口121及び帰還口122は、チューブを介してインクタンクと連通している。
【0023】
流路部材12は、2つの共通流路12Aと、複数の個別流路12Bとを有する。
【0024】
2つの共通流路12Aは、搬送方向に並び、かつ、それぞれ紙幅方向に延びている。共通流路12Aにおける紙幅方向の一端に、供給口121が接続されている。共通流路12Aにおける紙幅方向の他端に、帰還口122が接続されている。共通流路12Aは、供給口121及び帰還口122を介してインクタンクに連通し、かつ、複数の個別流路12Bに連通している。
【0025】
個別流路12Bは、ノズル12Nと、ノズル12Nに連通する圧力室12Pと、ノズル12Nと圧力室12Pとを接続する接続路12Dとを含む。個別流路12Bは、本発明の「流路」に該当する。
【0026】
流路部材12の下面に複数のノズル12Nが開口し、流路部材12の上面に複数の圧力室12Pが開口している。ノズル12Nの開口は円形状であり、圧力室12Pの開口は略矩形状である。
【0027】
本実施形態のノズル12Nは、金属部材で画定され、レーザー加工又はパンチング加工により形成されたものである。例えば、流路部材12は、複数のプレートを含む。複数のプレートのうちノズル12Nを有するプレートは、金属プレートである。
【0028】
圧力室12Pの幅Wは、300μm以下である。圧力室12Pの長さLは、350μm以下である。幅Wは紙幅方向の長さであり、長さLは搬送方向の長さである。例えば、圧力室12Pの幅Wは、225μmである。圧力室12Pの長さLは、330μmである。
【0029】
ノズル12Nは、
図3に示すように、紙幅方向に千鳥状に配置され、4つのノズル列R1~R4を構成している。各ノズル列R1~R4は、紙幅方向に並ぶ複数のノズル12Nで構成されている。
【0030】
各ノズル列R1~R4において、複数のノズル12Nは、紙幅方向に300dpi以上のピッチPで配置されている。本実施形態では、各ノズル列R1~R4における記録解像度が300dpiであり、ピッチPは約84μmである。記録解像度とは、ノズル12Nから吐出されたインク滴により記録される画像の解像度である。
【0031】
搬送方向に互いに隣接する2つのノズル列間では、紙幅方向におけるノズル12Nの位置が、ピッチPの半分ずれている。これにより、各ノズル列R1~R4における記録解像度が300dpiの場合、4つのノズル列R1~R4により1200dpiの記録解像度が実現される。本実施形態のヘッド1は、紙幅方向及び搬送方向において1200dpi×1200dpiの記録解像度を有する。
【0032】
ノズル12Nは、
図4に示すように、下方に向かって先細りの形状を有する。ノズル12Nの下端は、ノズル12Nの開口であり、ノズル12Nの上端よりも小さい直径を有する。本実施形態において、ノズル12Nを画定する側壁は、鉛直方向に対して傾斜している。ノズル12Nのテーパー角度θは、ノズル12Nを画定する側壁の鉛直方向に対する鋭角側の角度である。ノズル12Nのテーパー角度θは、35°を超え、かつ、45°未満である。
【0033】
接続路12Dは、
図4に示すように、圧力室12Pの搬送方向の一端と、ノズル12Nの上端とを接続している。接続路12Dは、円柱状であり、ノズル12Nの上端の直径よりも大きい直径を有する。
【0034】
インクタンク内のインクは、制御部5の制御により
図2に示すポンプ10が駆動されることで、供給口121を介して共通流路12Aに供給され、共通流路12Aから複数の個別流路12Bに分配される。
【0035】
個別流路12B内において、圧力室12P内のインクは、後述する圧電素子13Xの駆動により圧力室12Pの容積が減少し、圧力が付与されることで、接続路12Dを通ってノズル12Nからインク滴として吐出される。
【0036】
供給口121から供給されたインクは、共通流路12A内を紙幅方向の一端から他端に向けて移動し、帰還口122に至る。帰還口122に至ったインクは、チューブを介してインクタンクに戻される。
【0037】
アクチュエータ部材13は、
図4に示すように、流路部材12の上面に固定されている。アクチュエータ部材13は、金属製の振動板13Aと、圧電層13Bと、複数の個別電極13Cとを含む。
【0038】
アクチュエータ部材13において圧力室12Pと鉛直方向に重なる部分が、圧電素子13Xとして機能する。圧電素子13Xは、個別電極13Cに付与される電位に応じて独立して変形可能である。
【0039】
圧電素子13Xは、薄膜圧電素子である。薄膜圧電素子とは、いわゆるmicro electro mechanical systems(MEMS)である。圧電素子13Xは、振動板13Aの上面に圧電層13Bとなる薄膜及び個別電極13Cとなる薄膜が順に成膜されることによって、形成される。薄膜圧電素子の厚みTは、5μm以下である。例えば、厚みTは、3μmである。
【0040】
振動板13Aは、流路部材12の上面に、複数の圧力室12Pを覆うように配置されている。圧電層13Bは、振動板13Aの上面に配置されている。個別電極13Cは、圧電層13Bの上面に、圧力室12Pと鉛直方向に重なるように配置されている。
【0041】
振動板13A及び複数の個別電極13Cは、ドライバIC14と電気的に接続されている。ドライバIC14は、振動板13Aの電位をグランド電位に維持する一方、個別電極13Cの電位を変化させる。振動板13Aは、複数の圧電素子13Xに共通の電極である共通電極として機能する。
【0042】
ドライバIC14は、制御部5からの制御信号に基づいて駆動信号を生成し、当該駆動信号を個別電極13Cに供給する。駆動信号は、個別電極13Cの電位を所定の駆動電位とグランド電位との間で変化させる。
【0043】
次いで、本願発明者等が行った解析について説明する。
【0044】
[第1解析]
本願発明者等は、ノズル12Nの直径D、圧力室12Pの幅W及び圧力室12Pの長さLが互いに異なる複数のヘッド1の第1解析モデルについて、個別流路12Bの固有周波数Frと、インク滴の量Vとを求めた。
図5に解析結果を示す。複数の第1解析モデルにおいて、圧力室12Pの幅W、圧力室12Pの長さL及びノズル12Nの直径D以外の個別流路12Bの構成は互いに同じである。直径Dは、ノズル12Nの開口の直径である。
【0045】
圧力室12Pの幅W、圧力室12Pの長さL及びノズル12Nの直径Dは、固有周波数Frに影響する。したがって、複数の第1解析モデルにおいて、固有周波数Frは様々である。
【0046】
図5は、各第1解析モデルにおいて、圧電素子13Xに対して駆動信号を付与することで吐出されたインク滴の量Vを、グレースケールでプロットしたものである。なお、複数の第1解析モデルにおいて、インク滴の吐出速度が互いに同じになるように、駆動電位を調整した。
【0047】
駆動信号に含まれるパルスの幅は、Acoustic Length(AL)と等しい。ALは、個別流路12Bにおける圧力波の片道伝搬時間である。複数の第1解析モデルは、個別流路12Bの構成が互いに異なるため、ALが互いに異なる。したがって、第1解析モデル毎にパルス幅を異ならせた。
【0048】
図5から、固有周波数Frが高いほど、インク滴の量Vが少ないことが分かる。また、ノズル12Nの径Dが小さいほど、インク滴の量Vが少ないことが分かる。
【0049】
本実施形態において、記録解像度は1200dpi以上である。当該記録解像度において良質な画像を記録するには、ノズル12Nから3.5~4.5plのインク滴を吐出させる必要がある。
【0050】
図5において、「D=0.0446×Fr+7.5」の直線L1よりも上側は、インク滴の量Vが3.5pl以上の範囲である。「D=0.0446×Fr+13.5」の直線L1’よりも下側は、インク滴の量Vが4.5pl以下の範囲である。したがって、ノズル12Nの直径Dが固有周波数Frと下記式(1)の関係を有することで、記録に十分な量のインク滴を吐出させることができる。
0.0446×Fr+7.5≦D≦0.0446×Fr+13.5 ・・・式(1)
【0051】
本実施形態では、駆動周波数を高めるため、固有周波数Frが250kHz以上である。また、圧電素子13Xの剛性が大きいことによる後述の問題を防ぐため、固有周波数Frは300kHz以下であることが好ましい。
【0052】
[第2解析]
本願発明者等は、さらに、ノズル12Nの直径D及びテーパー角度θが互いに異なる複数のヘッド1の第2解析モデルについて、固有周波数Frを求めた。
図6に解析結果を示す。複数の第2解析モデルにおいて、ノズル12Nの直径D及びテーパー角度θ以外の個別流路12Bの構成は互いに同じである。
【0053】
ノズル12Nの直径D及びテーパー角度θは、固有周波数Frに影響する。したがって、複数の第2解析モデルにおいて、固有周波数Frは様々である。
【0054】
図6において、「θ=-2.2×D+87.2」の直線L2よりも上側は、固有周波数Frが250kHz以上の範囲である。したがって、ノズル12Nのテーパー角度θ[°]がノズル12Nの直径D[μm]と下記式(2)の関係を有する場合に、固有周波数Frが250kHz以上となる。
θ≧-2.2×D+87.2 ・・・式(2)
【0055】
図6において、「-2.2×D+116.6」の直線L3よりも下側は、固有周波数Frが300kHz以下の範囲である。したがって、ノズル12Nのテーパー角度θ[°]がノズル12Nの直径D[μm]と下記式(3)の関係を有する場合に、固有周波数Frが300kHz以下となる。
θ≦-2.2×D+116.6 ・・・式(3)
【0056】
図6において、「±0V」の破線は、ノズル12Nから所定量のインク滴を吐出させるために圧電素子13Xに付与する駆動電圧が基準電圧(例えば20V)となる、ノズル12Nの直径Dとノズル12Nのテーパー角度θとの関係式である。「-2V」の破線は、ノズル12Nから所定量のインク滴を吐出させるために圧電素子13Xに付与する駆動電圧が基準電圧よりも2V低い(例えば18Vとなる)、ノズル12Nの直径Dとノズル12Nのテーパー角度θとの関係式である。「+2V」の実線は、ノズル12Nから所定量のインク滴を吐出させるために圧電素子13Xに付与する駆動電圧が基準電圧よりも2V高い(例えば22V)となる、ノズル12Nの直径Dとノズル12Nのテーパー角度θとの関係式である。
【0057】
「+2V」の実線は、「θ=2.1×D-12.8」の直線L4と等しい。直線L4よりも上側は、圧電素子13Xに付与する駆動電圧の基準電圧からの増加量が2V以下となる範囲である。したがって、ノズル12Nのテーパー角度θ[°]がノズル12Nの直径D[μm]と下記式(4)の関係を有する場合に、圧電素子13Xに付与する駆動電圧の基準電圧からの増加量を2V以下にすることができる。
θ≧2.1×D-12.8 ・・・式(4)
【0058】
以上に述べたように、本実施形態によれば、固有周波数Frが250kHz以上であるため、駆動周波数を高めることができる。また、ノズル12Nの直径Dが固有周波数Frと下記式(1)の関係を有することで、
図5に示す解析結果のとおり、記録に十分な量のインク滴を吐出させることができる。
0.0446×Fr+7.5≦D≦0.0446×Fr+13.5 ・・・式(1)
【0059】
ノズル12Nのテーパー角度θ[°]がノズル12Nの直径D[μm]と下記式(2)の関係を有する。この場合、
図6に示す解析結果のとおり、固有周波数Frが250kHz以上という要件をより確実に実現できる。
θ≧-2.2×D+87.2 ・・・式(2)
【0060】
固有周波数Frが300kHz以下である。固有周波数Frが300kHzを超えると、圧電素子13Xの剛性が大きいことで、圧電素子13Xを変形させるために圧電素子13Xに付与する駆動電圧を大きくする必要がある。ひいては、圧電素子13Xの発熱量が大きくなり、圧電素子13Xの熱が個別流路12B内のインクに伝わることで、インクの粘度が低くなる。この場合、インクの粘度が所定の粘度よりも低くなることで、ノズル12Nから吐出されるインク滴のサイズが所定のサイズよりも大きくなる。その結果、ノズル12Nから吐出されたインク滴により形成される画像の濃度が、所定の濃度よりも高くなる。この点、本実施形態では、固有周波数Frが300kHz以下であるため、圧電素子13Xに付与する駆動電圧を大きくする必要がなく、上記のような不具合が生じない。
【0061】
ノズル12Nのテーパー角度θ[°]がノズル12Nの直径D[μm]と下記式(3)の関係を有する。この場合、
図6に示す解析結果のとおり、固有周波数Frが300kHz以下という要件をより確実に実現できる。
θ≦-2.2×D+116.6 ・・・式(3)
【0062】
ノズル12Nのテーパー角度θ[°]がノズル12Nの直径D[μm]と下記式(4)の関係を有する。この場合、
図6の解析結果のとおり、圧電素子13Xに付与する駆動電圧が大きくならない。仮に、圧電素子13Xに付与する駆動電圧が大きくなると、圧電素子13Xの発熱量が大きくなり、圧電素子13Xの熱が個別流路12B内のインクに伝わることで、インクの粘度が低くなる。この場合、インクの粘度が所定の粘度よりも低くなることで、ノズル12Nから吐出されるインク滴のサイズが所定のサイズよりも大きくなる。その結果、ノズル12Nから吐出されたインク滴により形成される画像の濃度が、所定の濃度よりも高くなる。この点、本実施形態では、
図6の解析結果のとおり、圧電素子13Xに付与する駆動電圧が大きくならならないため、駆動電圧が大きい場合に生じる上記のような不具合が生じない。
θ≧2.1×D-12.8 ・・・式(4)
【0063】
圧電素子13Xは、薄膜圧電素子である。薄膜圧電素子は、厚みTが小さいため、変形し易く、圧力室12Pが小さくても十分に変形できる。したがって、圧電素子13Xが薄膜圧電素子である場合、圧力室12Pを小さくすることで固有周波数Frを高めて固有周波数Frが250kHz以上という要件を満たすことができる。さらに、小さな駆動電圧で圧電素子13Xを十分に変形させることができる。
【0064】
薄膜圧電素子の厚みTは、5μm以下である。この場合、上記のような薄膜圧電素子による効果をより確実に得ることができる。
【0065】
圧力室12Pの幅Wは、300μm以下である。この場合、圧力室12Pのサイズが小さいため、圧力室12Pの剛性が大きくなり、固有周波数Frが高くなる。その結果、固有周波数Frが250kHz以上という要件をより確実に満たすことができる。
【0066】
圧力室12Pの長さLは、350μm以下である。この場合、圧力室12Pのサイズが小さいため、圧力室12Pの剛性が大きくなり、固有周波数Frが高くなる。その結果、固有周波数Frが250kHz以上という要件をより確実に満たすことができる。
【0067】
テーパー角度θは、45°未満である。テーパー角度θが45°以上であると、ノズル12Nを画定する側壁の勾配が大きすぎることで、ノズル12Nの開口にあるメニスカスがノズル12Nの上端に向かって移動し、メニスカスが壊れ易い。この点、本実施形態では、テーパー角度θが45°未満であるため、ノズル12Nの開口にあるメニスカスがノズル12Nの上端に向かって移動し難く、メニスカスが壊れ難い。
【0068】
テーパー角度θは、35°を超える。テーパー角度θが35°以下であると、接続路12Dとノズル12Nとの境界部分において個別流路12Bの断面積が急激に変化する。そのため、接続路12Dからノズル12Nに至る際の圧力損失が大きくなり、ノズル12Nから所定量のインク滴を吐出させるために圧電素子13Xに付与する駆動電圧を大きくする必要がある。この点、本実施形態では、テーパー角度θが35°を超えるため、上記境界部分における断面積の変化量が小さくなり、圧電素子13Xに付与する駆動電圧を小さくできる。
【0069】
記録解像度が1200dpi以上である。この場合、高画質化を実現できる。また、当該記録解像度において、ノズル12Nの直径Dが固有周波数Frと上記式(1)の関係を有することで、記録に十分な量のインク滴を吐出させることができる。
【0070】
<第2実施形態>
第1実施形態では、
図3に示すとおり、ノズル12Nの開口が円形状である。これに対し、第2実施形態では、
図7に示すとおり、ノズル12Nの開口が矩形状である。第2実施形態のようにノズル212Nの開口が矩形状の場合、当該矩形と同じ面積の円の直径をノズルの直径Dとする。
【0071】
第1実施形態のノズル12Nは、金属部材で画定され、レーザー加工又はパンチング加工で形成される。これに対し、第2実施形態のノズル212Nは、シリコン部材で画定され、エッチング加工で形成される。例えば、流路部材12は、複数のプレートを含む。複数のプレートのうちノズル12Nを有するプレートは、シリコンプレートである。
【0072】
レーザー加工又はパンチング加工でノズルが形成される場合、
図3に示すようにノズル12Nの開口が円形状の方が、
図7に示すようにノズル212Nの開口が矩形状のときよりも、加工精度が高い。一方、エッチング加工でノズルが形成される場合、
図7に示すようにノズル212Nの開口が矩形状の方が、
図3に示すようにノズル12Nの開口が円形状のときよりも、加工精度が高い。
【0073】
加工精度が高いことで、ノズル12Nの直径Dを所望の値にすることができる。また、複数のノズル12N間での直径Dのばらつきがなくなる。
【0074】
<変形例>
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限られるものではない。本発明は、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な設計変更が可能なものである。
【0075】
上述の実施形態において、圧電素子を構成する電極は、個別電極及び共通電極を含む2層構成であるが、3層構成であってもよい。例えば、3層構成とは、高電位及び低電位が選択的に付与される駆動電極と、高電位に保持される高電位電極と、低電位に保持される低電位電極とを含む構成である。
【0076】
本発明の液滴吐出ヘッドの種類は、ライン式に限定されず、シリアル式であってもよい。
【0077】
液滴を吐出する対象は、用紙に限定されない。例えば、液滴を吐出する対象は、布、基板又はプラスチックであってもよい。
【0078】
ノズルから吐出される液滴は、インク滴に限定されない。例えば、液滴は、インク中の成分を凝集又は析出させる処理液の液滴であってもよい。
【0079】
本発明は、プリンタに限定されず、ファクシミリ、コピー機及び複合機にも適用可能である。また、本発明は、画像の記録以外の用途で使用される液滴吐出装置にも適用可能である。例えば、本発明は、基板に導電性の液体を吐出して導電パターンを形成する液滴吐出装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0080】
1 ヘッド(液滴吐出ヘッド)
12 流路部材
12B 個別流路(流路)
12N ノズル
12P 圧力室
13X 圧電素子
100 プリンタ