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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125060
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】酸化物
(51)【国際特許分類】
   C01G 53/00 20060101AFI20240906BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240906BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240906BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240906BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20240906BHJP
   H01B 1/08 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
C01G53/00 A
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/62 Z
H01B1/06 A
H01B1/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033138
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 貴博
(72)【発明者】
【氏名】藤原 まど
(72)【発明者】
【氏名】八島 勇
【テーマコード(参考)】
4G048
5G301
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AA05
4G048AB01
4G048AC04
4G048AC06
4G048AD04
4G048AD08
4G048AE05
5G301CA02
5G301CA12
5G301CA13
5G301CA16
5G301CA27
5G301CA28
5G301CD01
5H029AJ06
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL01
5H029AL02
5H029AL04
5H029AL06
5H029AL07
5H029AM12
5H029HJ01
5H029HJ05
5H029HJ20
5H050AA12
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB05
5H050CB07
5H050CB08
5H050DA13
5H050EA12
5H050HA01
5H050HA17
(57)【要約】
【課題】リチウムイオン伝導性が高い酸化物を提供する。
【解決手段】ペロブスカイト型結晶構造を有する酸化物である。リチウム元素と、第2族元素と、第10族元素及び第12族元素を除く少なくとも2種類の遷移金属と、第10族元素、第12族元素及び第15族元素から選ばれる少なくとも一種の添加元素とを含み、前記添加元素の含有量が0.020質量%以上0.40質量%以下である。遷移金属が、第4族元素と第5族元素であることが好適である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペロブスカイト型結晶構造を有する酸化物であって、
リチウム(Li)元素と、第2族元素と、第10族元素及び第12族元素を除く少なくとも2種類の遷移金属と、第10族元素、第12族元素及び第15族元素から選ばれる少なくとも一種の添加元素とを含み、
前記添加元素の含有量が0.020質量%以上0.40質量%以下である酸化物。
【請求項2】
Aサイト欠損ペロブスカイト型結晶構造を有する、請求項1に記載の酸化物。
【請求項3】
前記遷移金属が、第4族元素と第5族元素の双方を含む、請求項1又は2に記載の酸化物。
【請求項4】
リチウムイオン伝導率が0.10mS/cm超である請求項1又は2に記載の酸化物。
【請求項5】
結晶子径が100nm以上250nm以下である、請求項1又は2に記載の酸化物。
【請求項6】
断面組織における結晶粒径が7μm以上である、請求項1又は2に記載の酸化物。
【請求項7】
相対密度が96%以上である、請求項1又は2に記載の酸化物。
【請求項8】
前記第10族元素がニッケル(Ni)元素であり、前記第12族元素が亜鉛(Zn)元素であり、前記第15族元素がビスマス(Bi)元素である、請求項1に記載の酸化物。
【請求項9】
前記第4族元素がジルコニウム(Zr)元素であり、第5族元素がタンタル(Ta)元素である、請求項3に記載の酸化物。
【請求項10】
第13族元素を更に含む、請求項1又は2に記載の酸化物。
【請求項11】
前記第13族元素がアルミニウム(Al)元素である、請求項9に記載の酸化物。
【請求項12】
正極層と、負極層と、両層間に位置する固体電解質層とを備えた固体電池であって、
前記正極層、前記負極層又は前記固体電解質が、請求項1又は2に記載の酸化物を含む、固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウムイオン伝導性を有する酸化物に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン伝導性を有する固体電解質としては、例えば酸化物系固体電解質や硫化物系固体電解質が知られている。これらの固体電解質のうち、硫化物系固体電解質は、室温におけるリチウムイオン伝導性は高いものの、水分との接触によって硫化水素の発生の懸念がある。一方、酸化物系固体電解質にはそのような懸念はないものの、リチウムイオン伝導性は現在のところ硫化物系固体電解質には及ばない。したがって、酸化物系固体電解質のリチウムイオン伝導性の向上を目的とした技術が種々検討されている。
【0003】
例えば特許文献1には、LiBO3+α{Aは、H、Na、K、Rb、Ca、Y等;BはMg、Al、Si、P、Fe、Cu、Ti、Hf、W等;xはB元素に対するLiの組成比、yはB元素に対するA元素の組成比で、0<x<1、0≦y<1、且つ0<(x+y)≦1}で表される酸化物からなるリチウムイオン伝導体が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-213178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年の地球規模での気候変動問題への対策の一つとして、化石燃料を用いた内燃機関を備えた自動車から、電池により駆動する自動車への転換が急ピッチで進んでいる。車載用の電池には安全性や高エネルギー密度が要求されることから、固体電解質を用いた固体電池からなるリチウムイオン電池が注目されている。固体電池に用いられる固体電解質は、そのリチウムイオン伝導性が高ければ高いほど望ましい。そこで、特許文献1に記載のリチウムイオン伝導体よりも更にリチウムイオン伝導性が高い酸化物が期待されている。
したがって本発明の課題は、リチウムイオン伝導性が高い酸化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決すべく本発明者が鋭意検討したところ、酸化物リチウムイオン伝導体中に複数の遷移元素を含有させ、当該遷移元素の内の少なくとも一つを酸化物として含有させることにより、該酸化物リチウムイオン伝導体のリチウムイオン伝導性を向上させることができることを知見した。
【0007】
本発明は前記の知見に基づきなされたものであり、ペロブスカイト型結晶構造を有する酸化物であって、
リチウム(Li)元素と、第2族元素と、第10族元素及び第12族元素を除く少なくとも2種類の遷移金属と、第10族元素、第12族元素及び第15族元素から選ばれる少なくとも一種の添加元素とを含み、
前記添加元素の含有量が0.020質量%以上0.40質量%以下である酸化物を提供するものである。
【0008】
また、本発明は、正極層と、負極層と、両層間に位置する固体電解質層とを備えた固体電池であって、
前記正極層、前記負極層又は前記固体電解質が前記酸化物を含む、固体電池を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来知られている酸化物よりもリチウムイオン伝導性が高い酸化物が提供される。この酸化物を固体電解質として用いたリチウムイオン電池はその性能が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の酸化物は、ペロブスカイト型結晶構造を有する酸化物であって、リチウム(Li)元素と、第2族元素と、第10族及び第12族を除く少なくとも2種類の遷移金属と、第10族元素、第12族元素及び第15族元素から選ばれる少なくとも一種の元素とを含む。該酸化物の内、リチウムがAサイトに存在することが好ましく、第10族及び第12族を除く少なくとも2種類の遷移金属と、第10族元素、第12族元素及び第15族元素から選ばれる少なくとも一種の元素がBサイトに存在することが好ましい。
当該酸化物は例えば、
組成式LixAy(M1、M2,M3)zO (1)
で表すことができる。LiはAサイトに位置し、M1、M2,M3はBサイトに位置する。但し、上記組成式は一例であって、当該組成式に限定されるものではない。
本発明の酸化物がペロブスカイト型結晶構造を有していることは、例えばCuKα1線を用いたX線回折(以下「XRD」ともいう。)による測定によって確認できる。
【0011】
式(1)中、Aは、例えば、Be,Mg,Ca,Sr及びBaからなる群より選択される第2族元素である。これらの第2族元素は一種を単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができる。酸化物が第2族元素を含むことでペロブスカイト構造を生成しやすいという利点がある。この利点を一層顕著なものとする観点から、第2族元素としてSrを用いることが特に好ましい。
【0012】
M1及びM2は第10族及び第12族を除く遷移金属元素である。遷移金属元素としては、例えば第3族元素としてSc及びYが挙げられる。第4族元素としてはTi、Zr及びHfが挙げられる。第5族元素としてはV、Nb及びTaが挙げられる。第6族元素としてはCr、Mo及びWが挙げられる。第7族元素としてはMn、Tc及びReが挙げられる。第8族元素としてはFe、Ru及びOsが挙げられる。第9族元素としてはCo、Rh及びIrが挙げられる。第11族元素としてはCu、Ag及びAuが挙げられる。M1は一種又は二種以上であり得る。M2も一種又は二種以上であり得る。
【0013】
本発明の酸化物が前記の遷移金属元素を含むことで、ペロブスカイト構造を生成しやすいという利点がある。この利点を一層顕著なものとする観点から、前記の遷移金属元素のうち、第4族元素及び第5族元素の元素がより好ましく、第4族元素及び第5族元素の元素であって且つ第5周期又は第6周期に属する元素が特に好ましい。特に好ましい遷移金属は、リチウムイオン伝導率が良好な固体電解質が得られやすい観点から、Zr、Hf、Nb及びTaである。
【0014】
M3は、例えば、Ni,Pd,及びPtからなる群より選ばれる第10族元素、Zn,Cd及びHgからなる群より選ばれる第12族元素、並びにN、P、As、Sb及びBiからなる群より選ばれる第15族元素の少なくとも一種である。本発明の酸化物が前記の添加元素を含むことで、焼結助剤としての効果があり、酸化物の結晶性が向上する利点がある。
【0015】
本発明では、酸化物が、好ましくは式(1)で表されるペロブスカイト型結晶構造を有し、且つLi及び第2族元素を含有するとともに、第10族及び第12族を除く遷移金属、更には、第10族元素、第12族元素及び第15族元素の少なくとも一種を含むことにより、リチウムイオン伝導性が向上する。この理由は、ペロブスカイト型結晶構造の酸化物を構成するこれらの元素の内、第10族元素、第12族元素及び第15族元素の少なくとも一種が、該酸化物の製造過程において焼結助剤として機能し、該酸化物の相対密度を向上させることに起因するからであると考えられる。
この観点から、第10族元素としてはNi及びPdが好ましい。第12族元素としてはZn及びCdが好ましい。第15族元素としてはBi及びSbが好ましい。とりわけ、第10族元素としてはNiが好ましい。第12族元素としてはZnが好ましい。第15族元素としてはBiが好ましい。
第10族元素、第12族元素及び第15族元素の含有量は、それらの合計で0.020質量%以上0.40質量%以下であり、0.040質量%以上0.35質量%以下であることが好ましく、0.040質量%以上0.15質量%以下であることが更に好ましい。
【0016】
イオン半径等の観点から、Aサイト欠損ペロブスカイト型結晶構造を取りやすくなるとともに、結晶構造を安定化させ、リチウムイオン伝導性を容易に向上できるとの理由で、第10族及び第12族を除く遷移金属は、第4族及び第5族遷移金属であることが好ましく、第4族元素及び第5族元素の双方を含むことが更に好ましい。特に第4族遷移金属がZr及びHfであり、第5族遷移金属がTa及びNbであることが好ましい。とりわけ、第4族遷移金属がZrであり、第5族遷移金属がTaであることが好ましい。
【0017】
式(1)中、x、y及びzは、同式で示される組成が価数バランスを保つように設定される。
詳細には、xは酸化物のリチウムイオン含有量が高くなりリチウムイオン伝導性の向上する観点から、0.01以上0.60以下であることが好ましい。また、調製の容易さの観点からは、0.03以上0.55以下であることがより好ましく、0.03以上0.50以下であることがリチウムイオン拡散係数の向上の観点から更に好ましい。
yは、0.01以上1.00以下であることが更に好ましく、0.02以上0.90以下であることが一層好ましく、0.2以上0.6以下であることが更に一層好ましい。
zは、0.01以上1.20以下であることが好ましく、0.02以上0.11以下であることが更に好ましく、0.8以上1.1以下であることが一層好ましい。
【0018】
本発明の酸化物が、上述した条件を満足することにより、25℃において0.10mS/cm超のリチウムイオン伝導率、好ましくは0.11mS/cm以上、より好ましくは0.13mS/cm以上、特に好ましくは0.85mS/cm以上のリチウムイオン伝導率を示すようになる。
【0019】
本発明の酸化物の結晶子径は100nm以上であることが好ましく、109nm以上であることが更に好ましく、117nm以上であることがより好ましく、200nm以上であることが更に一層好ましい。
また、本発明の酸化物の結晶子径は250nm以下であることが好ましく、230nm以下であることが更に好ましく、220nm以下であることが一層好ましい。
本発明の酸化物の結晶子径がこの範囲にあると、粒成長の作用でリチウムイオン伝導性が一層向上する。
結晶子径は、X線回折測定に基づく、Scherrerの式により算出できる。
Scherrerの式 : D=Kλ/βcosθ
D : 結晶子径
K : Scherrer定数(0.94)
λ : X線の波長
β : 半値幅[rad]
θ : ブラッグ角[rad]
X線源としてCuKα1線を使用して測定範囲2θ=5°~80°で酸化物のX線回折強度を測定する。結晶子径の算出は、リガク社製の分析ソフトウェアPDXL2を用い、WPPF(全パターンフィッティング)で解析を行う。X線回折測定装置としては、例えば、リガク社製のSmartLabを用いることができる。
【0020】
本発明の酸化物は、断面組織における結晶粒径が7μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。上述した第10族元素、第12族元素及び第15族元素の少なくとも一種から選択される前記添加元素は、酸化物の形態で、本発明のペロブスカイト型結晶構造の酸化物のバルク内及び結晶粒界内に存在することが好ましい。そのような存在状態である場合に、本発明の酸化物が上述した範囲の大きな結晶粒径を有すると、前記添加元素の酸化物は、本発明の酸化物のバルク内に固溶して存在する割合が、結晶粒界に存在する割合よりも大きくなる。その結果、本発明の酸化物は、より良好なリチウムイオン伝導性を呈するようになる。すなわち、前記添加元素の酸化物が結晶粒界に存在する割合が減少するので、該添加元素の酸化物がリチウムイオン伝導を妨げる度合いが減少し、本発明の酸化物は良好なリチウムイオン伝導性を呈するようになる。
【0021】
結晶粒径は、以下の方法によって求める。
本発明の酸化物を、ダイヤモンドペーストを使用して鏡面研磨する。次いでサーマルエッチングを大気中で1000℃で行う。鏡面研摩面を走査型電子顕微鏡で撮影した二次電子像に60μmの直線を引く。この線を横切る結晶粒の個数を数える。線の両端の結晶は1/2に数える。線の長さを、それを横切る結晶粒の個数で割ることにより結晶粒径を求めた。この作業を5箇所以上行い、その平均値を算出する。
【0022】
本発明の酸化物の相対密度は、上述した第10族元素、第12族元素及び第15族元素の少なくとも一種から選択される前記添加元素を含むことによって、好ましくは96%以上となり、更に好ましくは96.6%以上となり、より好ましくは97.0%以上となる。
【0023】
本発明の酸化物の相対密度は以下の方法で測定される。
水中重量法(アルキメデス法)に基づき、酸化物を乾燥器内において110℃で1時間乾燥させ、乾燥重量を測定する。真空デシケータ内で20分間真空引きし、純水を注入して酸化物を飽水させ、1時間放置する。真空デシケータから酸化物を取り出して水中重量を測定する。その後、水中から取り出した際に素早く湿布で酸化物の表面の水分をふき取り、放水重量を測定する。これを5箇所で測定し、算出した見かけ比重(乾燥重量/(乾燥重量-水中重量))とかさ比重(乾燥重量/(放水重量-水中重量))の平均値を酸化物の真密度で除して100倍することで相対密度とする。
【0024】
本発明の酸化物は、更に第13族元素を含むことができる。第13族元素は、ペロブスカイト型結晶構造のBサイトに存在することが好ましい。この場合、組成式は、例えば、組成式LixAyBp(M1、M2,M3)zO (2)
で表すことができる。上記組成式は一例であって、当該組成式に限定されるものではない。
【0025】
式(2)中、Bは、Al,Ga,In及びTlから選ばれる群よりなる第13族元素であることが好ましい。本発明の酸化物は、このような第13族元素を含むことによってもリチウムイオン伝導性が向上する。この理由は、上述したとおり、イオン半径等の観点から、Aサイト欠損ペロブスカイト型結晶構造を取りやすくなるとともに、結晶構造が安定化するという理由によるものである。この観点から、第13族元素の中でもAl及びGaが好ましく、Alが特に好ましい。
【0026】
式(2)中、x、y、z及びpは、同式で示される組成が価数バランスを保つように設定される。リチウムイオン伝導性の観点から、pは、0以上0.02以下であることが好ましく、組成の調整の容易さの観点から0.005以上0.02以下であることが更に好ましい。
式(2)におけるその他の条件については、式(1)で説明した場合と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0027】
本発明の酸化物は以下のようにして製造することができる。
最初に、酸化物を構成する原料を準備する。原料としては、Li、元素A並びに元素M1、M2及びM3、更には元素Bそれぞれの酸化物、水酸化物、塩化物、炭酸塩、酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、アンモニウム塩及びアルコキシド等を用いることができる。
【0028】
元素Aとして、Srを使用すると、イオン半径等の観点から、Aサイト欠損ペロブスカイト型結晶構造を取りやすくなり、リチウムイオン伝導性を容易に向上できるため好ましい。同様に、元素M1及びM2として、Zr及びTaから選択される少なくとも一つの元素を使用すると、イオン半径等の観点から、Aサイト欠損ペロブスカイト型結晶構造を取りやすくなり、リチウムイオン伝導性を容易に向上させ得ることから好ましい。
【0029】
上述した原料を、例えばボールミル又は遊星ボールミルなど等で粉砕混合した後、仮焼する。仮焼は、汎用の電気炉や管状炉を用いることができる。
仮焼を行う際に使用する坩堝は、原料との化学反応を避けるべく、アルミナやジルコニアから構成されていることが好ましい。
仮焼温度は例えば1000℃以上1400℃以下、好ましくは1100℃以上1300℃以下に設定できる。
仮焼温度の保持時間は好ましくは12時間以上24時間以下、更に好ましくは13時間以上20時間以下である。
仮焼雰囲気に特に制限はない。一般には大気などの酸素含有雰囲気を用いることができる。
【0030】
得られた仮焼粉を乾式粉砕し、次いで、第10族元素、第12族元素及び第15族元素から選ばれる少なくとも一種の前記添加元素の酸化物の粉末、例えばNiO粉、ZnO粉及び/又はBi粉等を添加し、前記仮焼粉と乳鉢等で混合する。
得られた混合粉を金型に充填して一軸加圧成形を行い成形体を得る。
得られた成形体に対して、該成形体の密度向上及び密度ムラ抑制のために冷間等方圧成形(CIP)を行う。
【0031】
次いで、前記成形体を本焼成して目的とする酸化物を得る。
焼成温度は、仮焼温度よりも高いことを条件として、例えば1200℃以上1500℃以下、好ましくは1250℃以上1350℃以下に設定できる。
焼成温度の保持時間は好ましくは12時間以上24時間以下、更に好ましくは13時間以上20時間以下である。
本焼成の雰囲気に特に制限はない。一般には大気などの酸素含有雰囲気を用いることができる。
【0032】
各種原料の混合効率の観点から、各種原料を溶媒に溶解させた後に混合し、混合液を蒸発乾固した後、焼成することもできる。溶媒としては、アルコール等の有機溶媒も使用可能であるが、溶解度の観点から水が好ましい。各種原料を混合した際、反応によって沈殿を生じてもよい。蒸発乾固は、エバポレーターを使用するなどして、減圧下で行ってもよい。
【0033】
また、混合後沈殿のない均一溶液を用いて、噴霧乾燥法によって蒸発乾固させ、得られた蒸発乾固体を焼成して酸化物を製造してもよい。噴霧乾燥法による蒸発乾固温度は、例えば100℃以上300℃以下で行うことが好ましい。噴霧乾燥は、簡易的には、100℃以上300℃以下に加熱した鉄板などのプレート上に、原料調合液を噴霧して行うことができる。
【0034】
本発明の固体電池は、正極層と、負極層と、両層間に位置する固体電解質層とを備えた固体電池であり、正極層、負極層、又は固体電解質が本発明の酸化物を有する。正極層及び/又は負極層が本発明の酸化物を有することによって、正極層及び/又は負極層からのリチウムイオンの放出及び吸蔵を助けることができる。
【0035】
正極層は正極活物質を含み、必要に応じて本発明の酸化物、導電助剤、バインダー等を含有し、本発明の酸化物以外の固体電解質を更に含有してもよい。また、正極層上に本発明の酸化物をコーティングしてもよい。
【0036】
負極層は負極活物質を含み、必要に応じて本発明の酸化物、導電助剤、バインダー等を含有し、本発明の酸化物以外の固体電解質を更に含有してもよい。また、負極層上に本発明の酸化物をコーティングしてもよい。
【0037】
正極層及び負極層における本発明の酸化物の含有量又はコーティング量は、それぞれ独立して、好ましくは10質量%以上90質量%以下、より好ましくは20質量%以上80質量%以下とすることができる。
【0038】
正極活物質としては、リチウムイオンを放電の際に吸蔵し、充電の際に放出することができる任意の物質とすることができる。正極活物質としては、例えばLiNiCoO、LiNi1/3Mn1/3Co1/3、LiNiPO、LiMnPO等が挙げられる。
【0039】
負極活物質としては、リチウムイオンを放電の際に放出し、充電の際に吸蔵することができる任意の物質とすることができる。負極活物質としては、例えばグラファイト等の炭素材料、金属酸化物、金属窒化物、及び金属硫化物等を挙げることができる。
【0040】
固体電解質層は、本発明の酸化物及びバインダー等を含有する。固体電解質層における本発明の酸化物の含有量は、好ましくは50質量%以上100質量%以下、より好ましくは80質量%以上99質量%以下とすることができる。
【0041】
固体電解質層には、本発明の酸化物以外に、リチウムイオン伝導性を有する別の固体電解質が含まれていてもよい。本発明の酸化物以外の固体電解質としては、固体電池の使用温度において固体である任意の物質とすることができる。固体電解質としては、硫化物系固体電解質、酸化物系固体電解質、窒化物系固体電解質及び高分子系固体電解質等が挙げられる。
【0042】
本発明の固体電池、例えば全固体リチウムイオン電池の製造方法としては、特に限定されない。例えば、上記で説明した正極層、固体電解質層、及び負極層をこの順に積層することによって、全固体リチウムイオン電池を製造することができる。
【0043】
上述した実施形態に関し、本発明は更に以下の酸化物及び固体電池を開示する。
〔1〕ペロブスカイト型結晶構造を有する酸化物であって、
リチウム(Li)元素と、第2族元素と、第10族元素及び第12族元素を除く少なくとも2種類の遷移金属と、第10族元素、第12族元素及び第15族元素から選ばれる少なくとも一種の添加元素とを含み、
前記添加元素の含有量が0.020質量%以上0.40質量%以下である酸化物。
〔2〕
Aサイト欠損ペロブスカイト型結晶構造を有する、〔1〕に記載の酸化物。
〔3〕前記遷移金属が、第4族元素と第5族元素の双方を含む、〔1〕又は〔2〕に記載の酸化物。
〔4〕リチウムイオン伝導率が0.10mS/cm超である〔1〕ないし〔3〕のいずれか一つに記載の酸化物。
〔5〕結晶子径が100nm以上250nm以下である、〔1〕ないし〔4〕のいずれか一つに記載の酸化物。
〔6〕断面組織における結晶粒径が7μm以上である、〔1〕ないし〔5〕のいずれか一つに記載の酸化物。
〔7〕相対密度が95%以上である、〔1〕ないし〔6〕のいずれか一つに記載の酸化物。
〔8〕前記第10族元素がニッケル(Ni)元素であり、前記第12族元素が亜鉛(Zn)元素であり、前記第15族元素がビスマス(Bi)元素である、〔1〕ないし〔7〕のいずれか一つに記載の酸化物。
〔9〕前記第4族元素がジルコニウム(Zr)元素であり、第5族元素がタンタル(Ta)元素である、〔3〕に記載の酸化物。
請求項2に記載の酸化物。
〔10〕第13族元素を更に含む、〔1〕ないし〔9〕のいずれか一つに記載の酸化物。
〔11〕前記第13族元素がアルミニウム(Al)元素である、〔10〕に記載の酸化物。
〔12〕正極層と、負極層と、両層間に位置する固体電解質層とを備えた固体電池であって、
前記正極層、前記負極層又は前記固体電解質が、〔1〕ないし〔11〕のいずれか一つに記載の酸化物を含む、固体電池。
【実施例0044】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り「%」は「質量%」を表す。
【0045】
〔実施例1〕
5.375質量部のLiCO、25.540質量部のSrCO、0.200質量部のAl、44.306質量部のTa、11.497質量部のNb、及び13.082質量部のZrOを用い、これらの原料をエタノールとジルコニアボールとともにボールミルで24時間混合し、エタノールを蒸発させることで原料混合粉を得た。
この原料混合粉をアルミナ坩堝に入れ、大気雰囲気下に1100℃で12時間仮焼した。
得られた仮焼粉を乳鉢で乾式粉砕した後、0.025質量部のNiO粉を混合して混合粉を得た。この混合粉を金型に入れ、9.8kN/m2で一軸プレスして直径13mmの成形体を製造した。この成形体を真空包装して冷間等方圧成形を行った。
得られた成形体を、大気雰囲気下に1300℃で15時間本焼成し、直径11.50mmの酸化物ペレットを得た。
【0046】
〔実施例2〕
NiO粉を0.050質量部とした以外は実施例1と同様にして酸化物ペレットを得た。
【0047】
〔実施例3〕
NiO粉を0.10質量部とした以外は実施例1と同様にして酸化物ペレットを得た。
【0048】
〔実施例4〕
NiO粉を0.10質量部とした。また、追加で乾式破砕を行った。これら以外は実施例1と同様にして酸化物ペレットを得た。追加の乾式破砕には乾式粉砕機ナノメックリアクターを使用した。
【0049】
〔比較例1〕
NiO粉を使用しなかった以外は実施例1と同様にして酸化物ペレットを得た。
【0050】
〔比較例2〕
NiO粉を0.60質量部とした以外は実施例1と同様にして酸化物ペレットを得た。
【0051】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られた酸化物ペレットについて、以下の方法で組成分析及びリチウムイオン伝導率の測定を行った。また、上述の方法で、結晶子径、結晶粒径及び相対密度の測定を行った。それらの結果を以下の表1に示す。
また、得られた実施例及び比較例に係る酸化物ペレットをX線回折法によって解析し、ペロブスカイト構造を有することを確認した。
【0052】
〔組成分析〕
酸化物ペレットを乳鉢で解砕して75μmの篩に通して粉末を得た。この粉末を対象としてICP-OES測定を行った。
【0053】
〔伝導率測定〕
酸化物ペレットの上下面に、スパッタリングによって白金電極を形成した。この白金電極付きペレットについて、インピーダンスアナライザ(Solatron1260)を用いて25℃での交流インピーダンスRを測定した。ペレットの直径Dと厚みtから、伝導率σを、t/(Rπ(D/2))から算出した。
【0054】
【表1】
【0055】
表1から明らかなように、実施例で得られた酸化物は、比較例で得られた酸化物よりもリチウムイオン伝導性に優れることが分かる。
なお、実施例4のリチウムイオン伝導率が他の実施例に比べて高い理由は、追加で行った乾式粉砕により、結晶性が大きく向上したことに起因していると考えられる。