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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125061
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】金属材の冷却方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 1/00 20060101AFI20240906BHJP
   C21D 1/56 20060101ALI20240906BHJP
   C21D 9/08 20060101ALI20240906BHJP
   C21D 9/00 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
C21D1/00 121
C21D1/56
C21D9/08 A
C21D9/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033139
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小西 剛嗣
(72)【発明者】
【氏名】富田 和馬
(72)【発明者】
【氏名】藤田 夏生
(72)【発明者】
【氏名】西岡 達矢
【テーマコード(参考)】
4K034
4K042
【Fターム(参考)】
4K034BA02
4K034BA06
4K034CA01
4K034DA05
4K034DA06
4K034DB03
4K034FA05
4K034FA06
4K034FB11
4K034FB15
4K042AA06
4K042AA14
4K042DD03
4K042DE02
(57)【要約】
【課題】冷却速度を向上可能な金属材の冷却方法を提供する。
【解決手段】本実施形態の金属材の冷却方法は、マイクロバブルを含有する冷却液を貯留した浴槽に加熱された金属材を浸漬して、核沸騰領域又は遷移沸騰領域で金属材の冷却を開始する。マイクロバブルを含有する浸漬冷却を、核沸騰領域又は遷移沸騰領域で実施することにより、マイクロバブルを含有しない浸漬冷却と比較して、金属材に対する冷却速度が顕著に高まる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材の冷却方法であって、
マイクロバブルを含有する冷却液を貯留した浴槽に、加熱された前記金属材を浸漬して、核沸騰領域又は遷移沸騰領域で前記金属材の冷却を開始する、
金属材の冷却方法。
【請求項2】
請求項1に記載の金属材の冷却方法であって、
0.10m/秒以上20.00m/秒以下の浸漬速度で前記金属材を前記浴槽に浸漬する、
金属材の冷却方法。
【請求項3】
請求項2に記載の金属材の冷却方法であって、
前記浸漬速度は0.30m/秒以上である、
金属材の冷却方法。
【請求項4】
請求項2に記載の金属材の冷却方法であって、
前記浸漬速度は10.00m/秒以下である、
金属材の冷却方法。
【請求項5】
請求項1に記載の金属材の冷却方法であって、
前記浴槽内の前記冷却液に含有される前記マイクロバブルの平均粒径は5μm以上100μm未満である、
金属材の冷却方法。
【請求項6】
請求項5に記載の金属材の冷却方法であって、
前記マイクロバブルの平均粒径は10μm以上である、
金属材の冷却方法。
【請求項7】
請求項5に記載の金属材の冷却方法であって、
前記マイクロバブルの平均粒径は50μm以下である、
金属材の冷却方法。
【請求項8】
請求項1に記載の金属材の冷却方法であって、
前記浴槽内の前記冷却液に含有される前記マイクロバブルの個数密度は10個/mL以上100000個/mL以下である、
金属材の冷却方法。
【請求項9】
請求項8に記載の金属材の冷却方法であって、
前記マイクロバブルの個数密度は100個/mL以上である、
金属材の冷却方法。
【請求項10】
請求項8に記載の金属材の冷却方法であって、
前記マイクロバブルの個数密度は50000個/mL以下である、
金属材の冷却方法。
【請求項11】
請求項1に記載の金属材の冷却方法であって、
前記金属材は鋼材である、
金属材の冷却方法。
【請求項12】
請求項11に記載の金属材の冷却方法であって、
前記浴槽に浸漬する直前の前記金属材の表面温度は100℃以上1000℃以下である、
金属材の冷却方法。
【請求項13】
請求項1に記載の金属材の冷却方法であってさらに、
前記浴槽内で前記金属材を冷却しているとき、式(1)で定義される、前記浴槽内の前記冷却液のレイノルズ数Reが、10よりも大きく5000000以下である、
金属材の冷却方法。
Re=ρ×U×L/μ (1)
ここで、式(1)中のρは前記冷却液の密度(g/m)であり、μは前記冷却液の粘度(Pa・s)であり、Uは前記浴槽内の前記冷却液の液面での平均流速(m/秒)であり、Lは前記浴槽の液面からの深さ(m)である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材の冷却方法であって、さらに詳しくは、冷却液を貯留する浴槽に金属材を浸漬して浸漬冷却する金属材の冷却方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材の製造工程において、熱間で加工された金属材、又は、熱処理後の金属材を冷却する工程が存在する。冷却工程では、冷却速度の向上が求められる場合がある。そこで、冷却速度を向上可能な金属材の冷却方法が複数提案されている。
【0003】
例えば、国際公開第2018/037916号公報(特許文献1)では、340~550℃程度の鋼板の表面に、マイクロバブルを含有する冷却液をミストとして噴霧する。このようなミスト冷却の場合、340~550℃の温度域での冷却は、膜沸騰領域での冷却に相当する。膜沸騰領域において、マイクロバブルを含有するミスト冷却を実施すれば、マイクロバブルの圧壊現象により、鋼板の表面に形成されている蒸気膜が破壊される。そのため、冷却速度が向上する、と特許文献1には記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2018/037916号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】白岩ら、「沸騰冷却における熱流束」、鉄と鋼、日本鉄鋼協会、第57号、1971年、第3号、第485~497頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、ミスト冷却を前提とした冷却方法を提案する。しかしながら、他の方法を採用することにより、金属材の冷却速度を高めてもよい。
【0007】
本発明の目的は、冷却速度を向上可能な金属材の冷却方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本実施形態の金属材の冷却方法は、マイクロバブルを含有する冷却液を貯留した浴槽に、加熱された金属材を浸漬して、核沸騰領域又は遷移沸騰領域で金属材の冷却を開始する。
【発明の効果】
【0009】
本実施形態の金属材の冷却方法では、マイクロバブルを含有する浸漬冷却を、核沸騰領域又は遷移沸騰領域で開始する。そのため、マイクロバブルを含有しない浸漬冷却と比較して、金属材に対する冷却速度が顕著に高まる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、冷却液を用いて金属材を冷却する場合の沸騰曲線の一例を示すグラフである。
図2図2は、冷却液として20℃の冷却水を用いて、鋼材を浸漬冷却して得られた沸騰曲線である。
図3図3は、冷却液として90℃の冷却水を用いて、鋼材を浸漬冷却して得られた沸騰曲線である。
図4図4は、浸漬冷却装置の平面図である。
図5図5は、図4中のV-V線分での断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、金属材の冷却速度を高める冷却方法について、検討を行った。検討に際して、本発明者はまず、マイクロバブルを含有するミスト冷却及びスプレー冷却でのマイクロバブルの冷却速度への影響を検討した。
【0012】
図1は、冷却液を用いて金属材を冷却する場合の沸騰曲線の一例を示すグラフである。加熱された金属材を、冷却液を用いて冷却する場合、一般的に、熱流束は図1に示すような沸騰曲線の挙動を示すことが知られている。図1の横軸は過熱度ΔT(=T-Tsat)を示す。Tは金属材の伝熱面(表面)の温度(℃)を意味する。Tsatは冷却液の飽和温度(℃)を意味する。図1の縦軸は熱流束(W/m)を示す。なお、図1の横軸は対数軸である。
【0013】
図1に示すとおり、沸騰曲線は一般的に、過熱度ΔTが大きくなるに従い、自然対流領域A1、核沸騰領域A2、遷移沸騰領域A3、膜沸騰領域A4に区分される。核沸騰領域A2は沸騰開始点P1と最大流速点P2との間の領域である。遷移沸騰領域A3は、最大流速点P2と最小流速点P3との間の領域である。膜沸騰領域A4は、最小流速点P3以上の過熱度ΔTの領域である。
【0014】
自然対流領域A1では、冷却液に沸騰は発生せず、自然対流による熱伝導が行われる。核沸騰領域A2では、発泡点を核として蒸気泡が発生する。膜沸騰領域A4では、沸騰した蒸気が蒸気膜として金属材の全面を覆う。遷移沸騰領域A3は、発泡点を核とした蒸気泡が発生しつつ、部分的に蒸気膜が形成される。
【0015】
ミスト冷却及びスプレー冷却では、冷却液が液滴として、冷却対象である金属材の伝熱面(表面)に接触する。液滴は表面積が小さいため、金属材の表面に接触すると蒸発しやすい。したがって、ミスト冷却及びスプレー冷却の場合、金属材の表面が300℃程度以上であれば膜沸騰領域となりやすい。上述のとおり、膜沸騰領域では、金属材の表面に蒸気膜が形成される。液滴中のマイクロバブルの直径は100μm未満であり、膜沸騰領域で金属材の伝熱面に形成される蒸気膜の膜厚よりもはるかに小さい。そのため、蒸気膜をマイクロバブルが破壊することによる冷却速度の向上代は極めて小さいと本発明者らは考えた。
【0016】
さらに、ミスト冷却及びスプレー冷却では、マイクロバブルを含有する冷却液をスプレーノズルで液滴化する。この液滴化のときに、冷却液中のマイクロバブルが破壊されてしまう。したがって、ミスト冷却及びスプレー冷却の場合、そもそも、液滴中にマイクロバブルを含有させることが困難である。
【0017】
以上の検討のとおり、冷却開始時が膜沸騰領域であり、かつ、ミスト冷却やスプレー冷却といった液滴化した冷却液による冷却を実施する場合、冷却液にマイクロバブルを含有しても、冷却速度の向上代は小さい。
【0018】
一方、本発明者らの検討の結果、マイクロバブルを含有する冷却液を用いて、加熱した金属材を浸漬冷却した場合、マイクロバブルを含有しない冷却液を用いた浸漬冷却と比較して、冷却速度が顕著に向上することが判明した。ここで、浸漬冷却とは、冷却液を貯留している浴槽に金属材を浸漬させて冷却する方法である。
【0019】
図2は冷却液として20℃の冷却水を用いて、鋼材を浸漬冷却して得られた沸騰曲線である。図2を参照して、実線C1は、マイクロバブルを含有した冷却液を用いた浸漬冷却で得られた沸騰曲線である。破線C2は、マイクロバブルを含有しない冷却液を用いた浸漬冷却で得られた沸騰曲線である。図2の横軸は鋼材の表面温度(℃)であり、縦軸は熱流束(W/m)である。図2は次の試験を実施して作成した。水槽に冷却液(冷却水)を貯留し、水槽中の冷却液を20℃に保持した。20℃に保持した冷却液中に1000℃に加熱した直径50mmの鋼球である試験片を浸漬した。試験片の表面から当該表面の法線方向にx座標をとり、表面からの距離x1=2mm深さ位置及びx2=4mm深さ位置に熱電対を配置し、浸漬した鋼球の温度変化を測定した。以降の説明では、x1位置の温度をθ1とし、x2位置の温度をθ2とする。各深さ位置での温度変化に基づいて、試験片の表面上の各温度での熱流束を求めた。求めた熱流束を用いて、図2を作成した。
【0020】
(熱流束の算定方法)
試験片の表面の熱流束は、非特許文献1に記載された熱流束の算定方法に基づいて、試験片内部の温度を用いて求めた。具体的には、試験片内の熱流束が一次元であるとすれば、温度分布θ(x,t)は次式(A)で示される。
【0021】
【数1】
ここで、tは時間(hr)、xは表面からの深さ位置(m)、Cは試験片の比熱(J/(g・℃)、ρは試験片の比重量、λは試験片の熱伝導度(kcal/mhr℃)である。
【0022】
熱常数であるλ、Cρが温度及び位置によらず一定と仮定すれば、式(A)は式(B)に変形できる。
【0023】
【数2】
ここで、aは熱拡散率であり、式(C)で示される。
【0024】
【数3】
式(B)の右辺を差分方程式で近似すると、式(B)は式(D)で示すことができる。
【0025】
【数4】
【0026】
ここで、試験片の表面から法線方向をx座標とした場合、θ(nΔx,t)をθn(t)と示すこととすれば、式(D)でx=Δxとすることで、式(D)は式(E)となる。
【0027】
【数5】
ここで、θ0(t)は試験片の表面での温度である。
式(E)から式(F)が求められる。
【0028】
【数6】
なお、式(F)の第3項のdθ1(t)/dtを差分で近似すると、式(G)となる。
【0029】
【数7】
【0030】
式(G)は試験片内部の温度θ1(t)、θ2(t)に基づいて、試験片の表面温度θ0(t)を求めることができることを示している。そこで、上述の実験では、式(G)を用いて表面温度θ0(t)を求めた。
さらに、試験片の表面の熱流束qは、式(H)で示される。
【0031】
【数8】
本実験では、式(H)を近似した式(I)により、表面温度θ0とx1位置での温度θ1とを用いて、熱流束qを求めた。
【0032】
【数9】
なお、本実験では、Δx=2mm、Δt=0.05秒であり、a、C、ρ、λは試験片(鋼材)の固有値であった。
【0033】
図2を参照して、20℃の冷却液を用いて浸漬冷却を実施した場合、マイクロバブルを含有した冷却液を用いた浸漬冷却で得られた沸騰曲線C1及びマイクロバブルを含有しない冷却液を用いた浸漬冷却で得られた沸騰曲線C2共に、650℃近傍に最大流速点が確認された。そのため、表面温度が100~900℃程度までの範囲は核沸騰領域A2又は遷移沸騰領域A3であり、膜沸騰領域は確認されなかった。冷却液(冷却水)の飽和温度は100℃であることを考慮すれば、浸漬冷却の場合、金属材の伝熱面が100~1000℃程度であれば、膜沸騰領域での冷却ではなく、核沸騰領域A2又は遷移沸騰領域A3での冷却となる。つまり、1000℃以下の金属材を浸漬冷却により冷却する場合、ミスト冷却やスプレー冷却とは異なり、核沸騰領域A2又は遷移沸騰領域A3での冷却となる。
【0034】
さらに、図2を参照して、核沸騰領域A2及び遷移沸騰領域A3において、マイクロバブルを含有する浸漬冷却で得られた沸騰曲線C1は、マイクロバブルを含有しない浸漬冷却で得られた沸騰曲線C2と比較して、表面温度のどの範囲においても、熱流束が顕著に増大している。つまり、核沸騰領域A2及び遷移沸騰領域A3において、マイクロバブルを含有する浸漬冷却は、マイクロバブルを含有しない浸漬冷却よりも冷却速度が顕著に高くなる。
【0035】
本発明者らはさらに、浸漬冷却における膜沸騰領域でのマイクロバブルの冷却速度への影響についても調査を行った。
【0036】
図3は冷却液として90℃の冷却水を用いて、鋼材を浸漬冷却して得られた沸騰曲線である。図3を参照して、実線C3は、マイクロバブルを含有した冷却液を用いた浸漬冷却で得られた沸騰曲線である。破線C4は、マイクロバブルを含有しない冷却液を用いた浸漬冷却で得られた沸騰曲線である。図3図2と同様の試験を実施して作成した。
【0037】
図3を参照して、90℃の冷却水を冷却液として浸漬冷却を実施した場合、過熱度ΔTが10~800℃程度までの範囲において、沸騰曲線には、最大流速点と最小流速点とが確認された。その結果、沸騰曲線には、核沸騰領域A2、遷移沸騰領域A3だけでなく、膜沸騰領域A4も確認された。核沸騰領域A2及び遷移沸騰領域A3では、図2と同様に、マイクロバブルを含有する浸漬冷却で得られた沸騰曲線C3の熱流束が、マイクロバブルを含有しない浸漬冷却で得られた沸騰曲線C4の熱流束よりも顕著に上昇し、冷却速度が顕著に高くなる。一方、膜沸騰領域A4では、マイクロバブルを含有する浸漬冷却で得られた沸騰曲線C3の熱流束が、マイクロバブルを含有しない浸漬冷却で得られた沸騰曲線C4の熱流束と実質的に同じである。つまり、浸漬冷却の場合、膜沸騰領域A4では、マイクロバブルは冷却速度の向上にほとんど寄与しない。
【0038】
以上のとおり、浸漬冷却では、冷却液に含有されたマイクロバブルは、核沸騰領域及び遷移沸騰領域での冷却速度を顕著に高める。この理由として、次の事項が考えられる。核沸騰領域及び遷移沸騰領域では、金属材の伝熱面(表面)の微細なくぼみ等が発泡点となり、発泡点を核として、気泡が発生及び成長し、十分に成長した気泡が金属材の伝熱面から離れて上昇する。気泡の発生及び成長には気化の潜熱を必要とする。そのため、気泡の発生及び成長は、周囲の冷却液の温度及び金属材の伝熱面(表面)の温度を低下させる。以上のメカニズムにより、核沸騰領域又は遷移沸騰領域での冷却が行われる。
【0039】
マイクロバブルを含有する冷却液を用いて核沸騰領域又は遷移沸騰領域で浸漬冷却する場合、冷却液中のマイクロバブルが金属材の伝熱面に付着する。そのため、伝熱面では、発砲点を核とした気泡の発生及び成長が起こるだけでなく、伝熱面に付着したマイクロバブルを核とした気泡の発生及び成長も起こる。つまり、核沸騰領域又は遷移沸騰領域において、マイクロバブルは発砲点として機能する。その結果、マイクロバブルにより気泡の発生及び成長が促進され、冷却速度が向上する。
【0040】
以上の検討結果に基づいて、本発明者らは、マイクロバブルを含有する冷却液を用いた金属材の冷却方法について、次の結論を得た。加熱された金属材に対して、マイクロバブルを含有する冷却液を用いた浸漬冷却を実施する場合、膜沸騰領域での冷却速度はそれほど向上しない。一方、核沸騰領域又は遷移沸騰領域での冷却速度は顕著に向上する。したがって、マイクロバブルを含有する冷却液を用いて金属材に対して浸漬冷却をする場合、核沸騰領域又は遷移沸騰領域で浸漬冷却を開始すれば、冷却速度を顕著に高めることができる。
【0041】
以上の技術思想に基づいて完成した、本実施形態の金属材の冷却方法の要旨は次のとおりである。
【0042】
本実施形態の金属材の冷却方法は、マイクロバブルを含有する冷却液を貯留した浴槽に、加熱された金属材を浸漬して、核沸騰領域又は遷移沸騰領域で金属材の冷却を開始する。
【0043】
本実施形態の金属材の冷却方法では、マイクロバブルを含有する浸漬冷却を、核沸騰領域又は遷移沸騰領域で開始する。そのため、上述のとおり、マイクロバブルを含有しない浸漬冷却と比較して、金属材に対する冷却速度が顕著に高まる。
【0044】
好ましくは、0.10m/秒以上20.00m/秒以下の浸漬速度で金属材を浴槽に浸漬する。浸漬速度のさらに好ましい下限は0.30m/秒である。浸漬速度のさらに好ましい上限は10.00m/秒である。
【0045】
好ましくは、浴槽内の冷却液に含有されるマイクロバブルの平均粒径は5μm以上100μm未満である。マイクロバブルの平均粒径のさらに好ましい下限は10μmである。マイクロバブルの平均粒径のさらに好ましい上限は50μmである。
【0046】
好ましくは、浴槽内の冷却液に含有されるマイクロバブルの個数密度は10個/mL以上100000個/mL以下である。マイクロバブルの個数密度のさらに好ましい下限は100個/mLである。マイクロバブルの個数密度のさらに好ましい上限は50000個/mLである。
【0047】
好ましくは、金属材は鋼材である。
【0048】
好ましくは、浴槽に浸漬する直前の金属材の表面温度は100℃以上1000℃以下である。
【0049】
好ましくは、浴槽内で金属材を冷却しているとき、式(1)で定義される、浴槽内の冷却液のレイノルズ数Reが、10よりも大きく5000000以下である。
Re=ρ×U×L/μ (1)
ここで、式(1)中のρは冷却液の密度(g/m)であり、μは冷却液の粘度(Pa・s)であり、Uは浴槽内の冷却液の液面での平均流速(m/秒)であり、Lは浴槽の深さ(m)である。
【0050】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。各図において同一又は相当の構成については同一符号を付し、同じ説明を繰り返さない。
【0051】
[金属材の冷却方法]
本実施形態の金属材の冷却方法では、金属材を浸漬冷却する。本実施形態の金属材の冷却方法は、マイクロバブルを含有する冷却液を貯留した浴槽に、加熱された金属材を浸漬して、金属材を冷却する。
【0052】
冷却の対象となる金属材は、金属からなる部材であれば特に限定されない。金属材は例えば、鋼からなる鋼材、アルミ又はアルミ合金からなるアルミ材、チタン又はチタン合金からなるチタン材である。金属材の形状は特に限定されない。金属材は、金属板であってもよいし、金属管であってもよいし、金属棒材又は金属線材であってもよい。
【0053】
また、浴槽として例えば、図4に示す浸漬冷却装置10を用いる。図4は、浸漬冷却装置の平面図である。図4を参照して、浸漬冷却装置10は、浴槽11と、供給機構12と、排出機構13と、マイクロバブル発生機構14と、を備える。以下、各構成について説明する。
【0054】
(浴槽11)
浴槽11は、冷却液を貯留する。浴槽11は、貯留した冷却液に金属材を浸漬できるように構成されている。浸漬冷却中において、浴槽11には、複数の金属材が浸漬していてもよい。浴槽11は例えば、平面視で矩形状である。浴槽11は例えば、その上面が開口している。浴槽11の材料は、特に限定されるものではない。浴槽11の材料は例えば、ステンレス鋼等の金属材料、繊維強化プラスチック(FRP)及びポリプロピレン(PP)等のプラスチック樹脂、又は、耐酸レンガ等を挙げることができる。
【0055】
冷却液の種類は、特に限定されるものではなく、公知の冷却液から適宜選択して採用することができる。冷却液は例えば、水(水道水、工業用水)、油、クーラント液である。好ましくは、冷却液は水である。
【0056】
(供給機構12)
供給機構12は、浴槽11に冷却液を供給する。供給機構12は、少なくとも1つの供給管121を含む。図4では、供給機構12は、複数の供給管121を含む。冷却液は、各供給管121を介して浴槽11に供給される。供給管121が複数配置される場合、供給管121は間隔を空けて配置される。この場合、冷却液は、浴槽11に対して分散して供給される。
【0057】
図4では、複数の供給管121は、浴槽11の長手方向の一対の側壁のうち、一方の側壁に沿って設けられている。ただし、供給管121の位置及び数は、特に限定されるものではない。浴槽11の長手方向の両側壁に、1つ以上の供給管121が設けられていてもよい。また、浴槽11の長手方向の側壁に加えて又は代えて、浴槽11の短手方向の側壁に、1つ以上の供給管121を設けることもできる。
【0058】
(排出機構13)
排出機構13は、浴槽11内の冷却液の量が所定量を超えたときに、浴槽11から冷却液を排出する。図4では、複数の排出機構13が、間隔を空けて配置されている。このため、冷却液は、浴槽11から分散して排出される。なお、排出機構13は1つでもよい。
【0059】
本実施形態において、複数の排出機構13は、浴槽11の長手方向の一対の側壁のうち、供給管121と反対側の側壁に沿って設けられている。ただし、排出機構13の位置及び数は、特に限定されるものではない。浴槽11の長手方向の一対の側壁のうち、供給管121側の側壁に、排出機構13を設けることもできる。また、浴槽11の長手方向の側壁に加えて又は代えて、浴槽11の短手方向の側壁に、1つ以上の排出機構13を設けてもよい。
【0060】
浸漬冷却装置10では例えば、浴槽11内の冷却液の基準液面が設定される。金属材を浸漬冷却するとき、冷却液は、その液面が基準液面に到達するまで、浴槽11に供給される。冷却液が浴槽11に供給された結果、浴槽11内の冷却液の量が基準液面に相当する液量を超えたとき、排出機構13は、浴槽11から冷却液を排出する。
【0061】
(マイクロバブル発生機構14)
マイクロバブル発生機構14は、浴槽11内の冷却液中の溶存気体を気泡化してマイクロバブルを発生させる。マイクロバブル発生機構14は、浴槽11の外側に配置されている。図4では、複数のマイクロバブル発生機構14が配置されている。ただし、マイクロバブル発生機構14の位置及び数は、特に限定されるものではない。マイクロバブル発生機構は1つであってもよいし、複数であってもよい。
【0062】
各マイクロバブル発生機構14は、配管141、142と、マイクロバブル発生装置143とを含む。配管141、142は、浴槽11とマイクロバブル発生装置143とを接続する。浴槽11からの洗浄液は、配管141を介してマイクロバブル発生装置143に導入される。マイクロバブル発生装置143は、冷却液中の溶存気体を利用してマイクロバブルを発生させる。マイクロバブルは、冷却液とともに、配管142を介して浴槽11に戻される。
【0063】
マイクロバブル発生装置143は、公知のマイクロバブル発生装置から適宜選択することができる。公知のマイクロバブル発生装置として、例えば、気泡のせん断、気泡の微細孔通過、液の減圧(圧力変化)、気体の加圧溶解、超音波、電気分解、又は化学反応等により、マイクロバブルを発生させるものが知られている。マイクロバブル発生装置143として例えば、冷却液の循環路中に冷却液の圧力変化を生じさせることでマイクロバブルを発生させる公知のマイクロバブル発生装置を採用することができる。
【0064】
ここで、マイクロバブルとは、JIS B 8741-1:2019で定義されるとおり、粒径が1μm以上100μm未満の微細気泡を意味する。
【0065】
本実施形態の金属材の冷却方法では、加熱された金属材を浸漬冷却装置10内の浴槽11に浸漬して、金属材を冷却する。このとき、浴槽11内において、核沸騰領域又は遷移沸騰領域で金属材の浸漬冷却を開始する。
【0066】
図2に示すとおり、マイクロバブルを含有する冷却液を用いて浸漬冷却を実施した場合、マイクロバブルを含有しない冷却液を用いて浸漬冷却を実施した場合と比較して、核沸騰領域又は遷移沸騰領域での冷却速度が顕著に向上する。一方、図3に示すとおり、浸漬冷却の場合、マイクロバブルは、膜沸騰領域での冷却速度をほとんど向上しない。したがって、本実施形態では、核沸騰領域又は遷移沸騰領域で金属材の浸漬冷却を開始する。上述のとおり、核沸騰領域又は遷移沸騰領域での冷却において、金属材の伝熱面に付着したマイクロバブルが発砲点として作用すると考えられる。そのため、核沸騰領域又は遷移沸騰領域で金属材の浸漬冷却を開始すれば、冷却速度が顕著に速くなる。
【0067】
核沸騰領域又は遷移沸騰領域で金属材の浸漬冷却を開始する方法として、例えば、次の方法を採用できる。冷却対象となる金属材と浴槽11に貯留する冷却液とを用いて、事前の試験により沸騰曲線を求めておく。この沸騰曲線を参照して、核沸騰領域又は遷移沸騰領域で浸漬冷却が開始されるように、浴槽11に浸漬する直前の(つまり、浸漬冷却開始直前の)金属材の表面温度を調整する。浸漬冷却開始直前の金属材の表面温度は、浴槽11付近に配置された測温計により測温される。測温計は例えば、接触式温度計、放射温度計等である。例えば、測温計により、浸漬冷却開始直前の金属材の表面の幅中央位置の温度を測定する。測定された温度を、金属材の表面温度(℃)とする。
【0068】
金属材が鋼材である場合、浸漬冷却開始直前の鋼材の好ましい表面温度は100~1000℃である。この場合、核沸騰領域又は遷移沸騰領域で浸漬冷却が開始される。浸漬冷却開始直前の鋼材の表面温度のさらに好ましい上限は950℃であり、さらに好ましくは900℃である。浸漬冷却開始直前の鋼材の表面温度の好ましい下限は150℃であり、さらに好ましくは200℃であり、さらに好ましくは300℃であり、さらに好ましくは400℃である。
【0069】
金属材がアルミ材である場合、浸漬冷却開始直前のアルミ材の好ましい表面温度は100~500℃である。この場合、核沸騰領域又は遷移沸騰領域で浸漬冷却が開始される。浸漬冷却開始直前のアルミ材の表面温度のさらに好ましい上限は450℃であり、さらに好ましくは400℃である。
【0070】
金属材がチタン材である場合、浸漬冷却開始直前のチタン材の好ましい表面温度は100~1000℃である。この場合、核沸騰領域又は遷移沸騰領域で浸漬冷却が開始される。浸漬冷却開始直前のチタン材の表面温度のさらに好ましい上限は800℃であり、さらに好ましくは400℃である。
【0071】
(冷却液の好ましい温度)
冷却液の温度は、飽和温度未満であれば、浸漬冷却として利用可能である。図2及び図3に示すとおり、冷却液の温度が低いほど、浸漬冷却における核沸騰領域及び遷移沸騰領域の範囲が広がる。そのため、冷却液の温度が低い方が、より広い温度範囲で金属材の冷却速度を速くすることができる。
【0072】
(金属材の浴槽11への好ましい侵入速度)
浸漬冷却時において、金属材の浴槽11に浸漬するときの侵入速度は特に限定されない。好ましくは、金属材の浴槽11への侵入速度を0.10~20.00m/秒とする。侵入速度が0.10m/秒以上であれば、浸漬冷却時において、冷却液中の金属材の伝熱面(表面)に十分な数のマイクロバブルが付着する。そのため、冷却速度をさらに速くすることができる。また、侵入速度が20.00m/秒以下であれば、冷却液中の金属材の伝熱面(表面)にマイクロバブルがより安定して付着する。そのため、冷却速度をさらに速くすることができる。
【0073】
侵入速度の好ましい下限は0.20m/秒であり、さらに好ましくは0.30m/秒であり、さらに好ましくは0.50m/秒であり、さらに好ましくは1.00m/秒である。侵入速度の好ましい上限は15.00m/秒であり、さらに好ましくは10.00m/秒であり、さらに好ましくは8.00m/秒である。
【0074】
(侵入速度の測定方法)
金属材の浴槽11への侵入速度(m/秒)は、次の方法で求めることができる。金属材の一端が浴槽11中の冷却液に浸漬してから、金属材の末端が浴槽11に浸漬するまでの時間を測定する。測定された時間(秒)と、金属材の全長(m)とに基づいて、侵入速度(m/秒)を求める。金属材を搬送ローラー等の搬送路を用いて浴槽11に浸漬する場合、搬送速度(m/秒)を侵入速度(m/秒)とみなしてもよい。
【0075】
(冷却液中のマイクロバブルの好ましい平均粒径)
本実施形態で冷却液に含有するマイクロバブルの粒径は特に限定されない。つまり、上述のJISの規格に基づいて、冷却液に含有される気泡の平均粒径が1μm以上100μm未満であればよい。気泡の粒径が1μm未満又は100μm以上であれば、浸漬冷却において、核沸騰領域又は遷移沸騰領域での冷却速度が十分に向上しない。この理由は定かではないが、気泡が小さすぎたり、大きすぎたりすれば、発泡点として十分に機能しないためと考えられる。
【0076】
マイクロバブルの平均粒径の好ましい上限は60μmであり、さらに好ましくは50μmであり、さらに好ましくは40μmである。マイクロバブルの平均粒径の好ましい下限は5μmであり、さらに好ましくは10μmであり、さらに好ましくは15μmである。マイクロバブルの平均粒径が上述の範囲内であれば、発砲点としてさらに有効に機能する。
【0077】
(冷却液中のマイクロバブルの好ましい個数密度)
本実施形態で冷却液に含有するマイクロバブルの個数密度は特に限定されない。好ましくは、マイクロバブルの個数密度は10個/mL以上100000個/mL以下である。マイクロバブルの個数密度が10個/mL以上であれば、浸漬冷却時に金属材の伝熱面(表面)に十分な数のマイクロバブルが付着する。そのため、冷却速度をさらに速くすることができる。一方、マイクロバブルの個数密度が100000個/mL以下であれば、浸漬冷却時の金属材の伝熱面(表面)に対する冷却液の濡れ性を十分に確保できる。そのため、冷却速度をさらに速くすることができる。
【0078】
マイクロバブルの個数密度の好ましい下限は50個/mLであり、さらに好ましくは100個/mLであり、さらに好ましくは200個/mLであり、さらに好ましくは500個/mLであり、さらに好ましくは800個/mLである。マイクロバブルの個数密度の好ましい上限は70000個/mLであり、さらに好ましくは50000個/mLであり、さらに好ましくは30000個/mLであり、さらに好ましくは10000個/mLであり、さらに好ましくは5000個/mLであり、さらに好ましくは3000個/mLである。
【0079】
(マイクロバブルの平均粒径及び個数密度の測定方法)
マイクロバブルの平均粒径(μm)及び個数密度(個/mL)は次の方法で測定する。冷却液を10mL採取する。採取した冷却液に対して、粒度分布測定装置を用いた定量レーザー回折・散乱法により、冷却液中のマイクロバブルの粒子径分布を求める。マイクロバブルにレーザーを照射し、散乱光を前方散乱光センサ、側方散乱光センサ、及び、後方散乱光センサで検出し、その光強度分布パターンからマイクロバブルの粒子径分布を求める。得られた粒子径分布のメディアン径を平均粒径(μm)と定義する。さらに、定量レーザー回折・散乱法において、個数密度が既知のポリスチレンラテックス標準粒子を用いてキャリブレーション(校正)を行い、さらに、マイクロバブル(空気)とポリスチレンラテックスの屈折率の差異を、ミー散乱理論を用いて補正することにより、マイクロバブルの個数密度(個/mL)を求める。
【0080】
(浴槽11内の冷却液のレイノルズ数Re)
本実施形態において、浸漬冷却中の浴槽11内の冷却液のレイノルズ数Reは特に限定されない。好ましくは、浸漬冷却中の浴槽11内の冷却液のレイノルズ数Reは10よりも大きく5000000以下である。
【0081】
図5は、図4中のV-V線分での断面図である。図5を参照して、浴槽11の冷却液の液面での平均流速をU(m/秒)と定義する。浴槽11の冷却液の液面から浴槽11の底までの深さをL(m)と定義する。この場合、レイノルズ数Reは次の式(1)で定義される。
Re=ρ×U×L/μ (1)
ここで、ρは冷却液の密度(g/m)であり、μは冷却液の粘度(Pa・s)である。
【0082】
[浴槽11内の冷却液の液面での平均流速Uの測定方法]
浴槽11内の冷却液の液面での平均流速Uは次の方法で測定する。図4に示す浴槽11の長手方向に垂直な方向(つまり、図5に示す断面の幅方向)に数カ所、電磁流速計を配置する。電磁流速計は例えば、株式会社東邦電探製の商品名:CMT-10C型とびうお君である。数カ所に設置された電磁流束計により得られた液面での流速に基づいて、平均流速U(m/秒)を求める。なお、液面の平均流速Uは、浴槽11への冷却液の供給量を調整することで、調整可能である。
【0083】
浴槽11内の冷却液のレイノルズ数Reは、浸漬冷却での冷却液の慣性力と粘勢力との関係を示す指標である。より具体的には、レイノルズ数Reは、浸漬冷却中のマイクロバブルの冷却速度への影響に関する指標である。式(1)で定義されるレイノルズ数Reが10より大きければ、浸漬冷却において、冷却液中のマイクロバブルが金属材の伝熱面(表面)に到着しやすく、十分な数のマイクロバブルが金属材の伝熱面(表面)に付着する。そのため、冷却速度をさらに速くすることができる。一方、レイノルズ数Reが5000000以下であれば、浸漬冷却において、冷却液中のマイクロバブルの挙動が十分に安定し、十分な数のマイクロバブルが金属材の伝熱面(表面)に安定して付着する。そのため、冷却速度をさらに速くすることができる。
【0084】
レイノルズ数Reの好ましい下限は100であり、さらに好ましくは200であり、さらに好ましくは500であり、さらに好ましくは1000であり、さらに好ましくは2000であり、さらに好ましくは3000である。レイノルズ数Reの好ましい上限は1000000であり、さらに好ましくは500000であり、さらに好ましくは300000であり、さらに好ましくは100000であり、さらに好ましくは50000であり、さらに好ましくは30000であり、さらに好ましくは10000であり、さらに好ましくは8000である。
【0085】
以上のとおり、本実施形態の金属材の冷却方法では、マイクロバブルを含有する冷却液を用いた浸漬冷却を、核沸騰領域又は遷移沸騰領域で開始する。この場合、マイクロバブルが発砲点として機能するため、冷却速度を顕著に高める。その結果、マイクロバブルを含有しない浸漬冷却と比較して、金属材の冷却速度が顕著に高まる。
【0086】
本実施形態では、浸漬冷却の一例として、図4に示す浸漬冷却装置1を用いて浸漬冷却を実施する。しかしながら、図4に示す浸漬冷却装置10以外の他の装置を用いて、浸漬冷却を実施してもよい。マイクロバブルを含有する冷却液を貯留する浴槽を用いて浸漬冷却を実施すれば、浸漬冷却装置の種類は特に限定されない。
【0087】
本実施形態の金属材の冷却方法は例えば、熱間加工後又は熱処理後の鋼管の浸漬冷却に利用可能である。また、仕上げ圧延後の棒鋼又は線材の浸漬冷却に利用可能である。
【実施例0088】
以下、実施例によって本発明をさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0089】
表1に示す各試験番号の金属材に対して、マイクロバブルを含有した浸漬冷却と、マイクロバブルを含有しない浸漬冷却とを実施し、冷却速度について評価した。具体的には、各試験番号の金属材を準備した。表1中の「金属材」欄の「鋼」は、JIS G 3101:2020に規定されたSS400に相当する化学組成を有する鋼材を準備したことを意味する。「アルミ」は、JIS H 4000:2014に規定のA1070に相当する化学組成を有するアルミ材を準備したことを意味する。「チタン」は、JIS H 4600:2012に規定のチタン2種に相当する化学組成を有するチタン材を準備したことを意味する。金属材はいずれも直径20mm、長さ2000mmの棒材のコイルであった。
【0090】
【表1】
【0091】
図4に示す浸漬冷却装置1を用いて、各試験番号の金属材に対して、マイクロバブルを含有した冷却液を用いた浸漬冷却(バブル有り冷却)と、マイクロバブルを含有しない冷却液を用いた浸漬冷却(バブル無し冷却)とをそれぞれ実施した。
【0092】
具体的には、試験番号1のバブル有り冷却では、表1に示す「冷却開始直前の表面温度(℃)」欄に記載の表面温度で金属材に対して浸漬冷却を開始した。浸漬冷却開始直前の試験片の表面温度は、放射温度計により測定した。
【0093】
浸漬冷却開始時の沸騰曲線上での領域を、表1の「冷却開始時領域」に示す。冷却開始時領域は、後述の方法で求めた沸騰曲線に基づいて特定した。冷却液として、工業用水を利用した。浸漬冷却中の冷却液の温度は、表1中の「冷却液温度(℃)」に示す温度で保持した。
【0094】
浸漬冷却時の金属材の侵入速度(m/秒)は表1に示すとおりであった。冷却液に含有したマイクロバブルの平均粒径(μm)は、表1の「平均粒径(μm)」欄に示すとおりであり、冷却液中のマイクロバブルの個数密度(個/mL)は表1の「個数密度(個/mL)」欄に示すとおりであった。なお、マイクロバブルの平均粒径及び個数密度は、上述の(マイクロバブルの平均粒径及び個数密度の測定方法)に記載の方法で求めた。また、浸漬冷却中のレイノルズ数Reは表1中の「レイノルズ数Re」に示すとおりであった。なお、浴槽11の液面からの深さLは2.0mであった。
【0095】
以上の条件に基づいて、金属材が浸漬冷却開始直前の表面温度から100℃に冷却されるまでの沸騰曲線を求めた。具体的には、金属材の表面から当該表面の法線方向にx座標をとり、表面からの距離x1=2mm深さ位置及びx2=4mm深さ位置に熱電対を配置して、浸漬した金属材のx1位置での温度θ1の変化と、x2位置での温度θ2の変化を測定した。各深さ位置での温度変化に基づいて、上述の(熱流束の算定方法)に基づいて、金属材の表面上の各温度での熱流束を求め、求めた熱流束を用いて沸騰曲線を求めた。得られた沸騰曲線から、最大流速点及び/又は最小流速点を確認し、沸騰曲線での核沸騰領域、遷移沸騰領域、膜沸騰領域を特定した。
【0096】
さらに、マイクロバブルの平均粒径及び個数密度以外の他の条件をバブル有り冷却と同じ条件として、試験番号1のバブル無し冷却を実施した。バブル無し冷却においても、金属材が冷却開始温度から冷却液の温度に冷却されるまでの沸騰曲線をバブル有り冷却と同様の方法で求めた。
【0097】
バブル有り冷却及びバブル無し冷却で得られた沸騰曲線に基づいて、100℃から冷却開始温度まで10℃ピッチの温度Tごとに、熱流束比を次の式に基づいて求めた。
熱流束比=温度Tでのバブル有り冷却の熱流束/温度Tでのバブル無し冷却の熱流束
各温度Tで得られた熱流束比の算術平均値を、試験番号1の冷却速度比と定義した。
【0098】
他の試験番号2~58についても、上記試験番号1での試験方法と同様の方法を実施して、冷却速度比を求めた。
【0099】
[評価結果]
表1を参照して、試験番号1~54では、核沸騰領域又は遷移沸騰領域で浸漬冷却を開始した。そのため、冷却速度比が1.00よりも高く、優れた冷却速度を示した。
【0100】
一方、試験番号55~58では、膜沸騰領域で浸漬冷却を開始した。そのため、冷却速度比が1.00であり、冷却速度が向上しなかった。
【0101】
以上、本開示の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本開示を実施するための例示に過ぎない。したがって、本開示は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0102】
10 浸漬冷却装置
11 浴槽
図1
図2
図3
図4
図5