(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125068
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】炭化珪素半導体装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 29/78 20060101AFI20240906BHJP
H01L 29/06 20060101ALI20240906BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20240906BHJP
H01L 29/12 20060101ALI20240906BHJP
H01L 29/739 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
H01L29/78 652N
H01L29/78 652P
H01L29/78 653A
H01L29/78 652J
H01L29/78 658A
H01L29/78 652T
H01L29/78 655F
H01L29/78 655A
H01L29/06 301V
H01L29/06 301G
H01L29/06 301D
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033152
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(72)【発明者】
【氏名】木下 明将
(57)【要約】
【課題】耐圧構造部の信頼性が損なわれるのを抑制できるSiC半導体装置を提供する。
【解決手段】活性部及び耐圧構造部に亘ってドリフト層が設けられ、活性部は、ドリフト層の上面側に設けられたp型のベース領域と、ベース領域の上面側に設けられたn型の主領域6aと、ドリフト層の上面側にベース領域に接して設けられたp型の埋込領域81aと、埋込領域の上面側に主領域に接して設けられたp型のベースコンタクト領域82aと、主領域及びベース領域を貫通するトレンチ内に設けられたゲート電極と、主領域及びベースコンタクト領域に接して設けられた主電極とを有し、耐圧構造部はドリフト層の上面側に設けられたp型の電界緩和領域9aと電界緩和領域の上面に設けられた絶縁膜とを有し、主領域及びベースコンタクト領域のそれぞれは少なくとも主電極に接した部分が3C構造を含み、電界緩和領域は上部が3C構造を含み下部が4H構造からなる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面視で、活性部と、前記活性部の周囲を囲むように設けられた耐圧構造部とを備え、
前記活性部及び前記耐圧構造部に亘って炭化珪素からなる第1導電型のドリフト層が設けられ、
前記活性部は、
前記ドリフト層の上面側に設けられた炭化珪素からなる第2導電型のベース領域と、
前記ベース領域の上面側に設けられた炭化珪素からなる第1導電型の主領域と、
前記ドリフト層の上面側に、前記ベース領域に接して設けられた炭化珪素からなる第2導電型の埋込領域と、
前記埋込領域の上面側に、前記主領域に接して設けられた炭化珪素からなる第2導電型のベースコンタクト領域と、
前記主領域及び前記ベース領域を貫通するトレンチの内側に、ゲート絶縁膜を介して設けられたゲート電極と、
前記主領域及び前記ベースコンタクト領域に接して設けられた主電極と、
を有し、
前記耐圧構造部は、
前記ドリフト層の上面側に設けられた炭化珪素からなる第2導電型の電界緩和領域と、
前記電界緩和領域の上面に設けられた絶縁膜と、
を有し、
前記主領域及び前記ベースコンタクト領域のそれぞれは、少なくとも前記主電極に接した部分が3C構造を含み、
前記電界緩和領域は、上部が3C構造を含み、下部が4H構造からなる、
炭化珪素半導体装置。
【請求項2】
前記電界緩和領域の前記上部及び前記ベースコンタクト領域のそれぞれの深さ方向の寸法は、0.3μm以下である、請求項1に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項3】
前記電界緩和領域の前記上部及び前記ベースコンタクト領域のそれぞれは、3C構造と4H構造とを含む、請求項1又は2に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項4】
前記電界緩和領域の前記上部及び前記ベースコンタクト領域のそれぞれは、上面から深さ0.1μmまでの部分に含まれる3C構造の割合が50%以上95%以下である、請求項3に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項5】
前記埋込領域は4H構造からなる、請求項1又は2に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項6】
前記電界緩和領域の前記上部は、側面が第2導電型の4H構造からなる部分に接している、請求項1又は2に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項7】
前記電界緩和領域は、前記耐圧構造部に複数設けられたガードリングである、請求項1又は2に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項8】
前記電界緩和領域の前記上部の不純物濃度は1×1019cm-3以上、3×1020cm-3以下である、請求項1又は2に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項9】
前記ベースコンタクト領域の不純物濃度は1×1019cm-3以上、3×1020cm-3以下である、請求項8に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項10】
前記主領域の不純物濃度は1×1020cm-3以上、3×1021cm-3以下である、請求項1又は2に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項11】
前記トレンチの底部に接する位置に設けられた炭化珪素からなる第2導電型のゲート底部保護領域を有し、
前記電界緩和領域は、前記ゲート底部保護領域と同じ深さ位置にあり且つ炭化珪素からなる第2導電型の領域を含む、
請求項1又は2に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項12】
活性部と平面視で前記活性部の周囲を囲んでいる耐圧構造部とに亘って、炭化珪素からなる第1導電型のドリフト層を形成する工程と、
前記活性部における前記ドリフト層の上面側に、炭化珪素からなる第2導電型のベース領域を形成する工程と、
前記ベース領域の上面側に、炭化珪素からなり且つ少なくとも上面側の部分が3C構造を含む第1導電型の主領域を形成する工程と、
前記ドリフト層の上面側に、前記ベース領域に接するように、炭化珪素からなる第2導電型の埋込領域を形成する工程と、
前記埋込領域の上面側に、前記主領域に接するように、炭化珪素からなり且つ少なくとも上面側の部分が3C構造を含む第2導電型のベースコンタクト領域を形成する工程と、
前記主領域及び前記ベース領域を貫通するトレンチを形成する工程と、
前記トレンチの内側にゲート絶縁膜を介してゲート電極を形成する工程と、
前記主領域及び前記ベースコンタクト領域の上面に接するように主電極を形成する工程と、
前記耐圧構造部における前記ドリフト層の上面側に、炭化珪素からなり、且つ上部が3Cを含み下部が4Hからなる電界緩和領域を形成する工程と、
前記電界緩和領域の上面に絶縁膜を形成する工程と、
を含む、
炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項13】
前記電界緩和領域を形成する工程は、第2導電型の不純物をドーズ量1×1015cm-2以上、2×1015cm-2未満でイオン注入することを含む、請求項12に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項14】
前記ベースコンタクト領域を形成する工程及び前記電界緩和領域を形成する工程は、第2導電型の不純物をドーズ量1×1015cm-2以上、2×1015cm-2未満で同時にイオン注入することを含む、請求項12に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項15】
前記主領域を形成する工程は、第1導電型の不純物をドーズ量2×1015cm-2以上でイオン注入することを含む、請求項12に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項16】
前記第1導電型の不純物は、燐又は窒素である、請求項15に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項17】
前記第2導電型の不純物は、アルミニウムである、請求項13又は14に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、炭化珪素(SiC)を用いたSiC半導体装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、六方晶単結晶の炭化珪素基板にリンをイオン注入することでアモルファス層を形成し、熱処理することでアモルファス層を立方晶単結晶のn型炭化珪素に再結晶化させ、n型炭化珪素の上面にニッケルを蒸着することで電極を形成する半導体装置が開示されている。
【0003】
特許文献2には、4H-SiCからなるn+型SiCの第1主面上に形成させたn-型エピタキシャル成長層内において、n+型ソース領域と、n+型ソース領域内に形成されたn+型3C-SiC領域及びp+型電位固定領域とを有し、n+型3C-SiC領域及びp+型電位固定領域と接してバリアメタル膜が形成され、バリアメタル膜上にソース配線用電極が形成される半導体装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-49198号公報
【特許文献2】国際公開第2017/042963号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
耐圧構造部にアバランシェが生じると、電流が流れる経路によっては、耐圧構造部を覆う絶縁膜に負荷がかかる可能性がある。
【0006】
本開示は、上記課題を鑑み、耐圧構造部の信頼性が損なわれるのを抑制できるSiC半導体装置及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本開示の一態様は、平面視で、活性部と、活性部の周囲を囲むように設けられた耐圧構造部とを備え、活性部及び耐圧構造部に亘って炭化珪素からなる第1導電型のドリフト層が設けられ、活性部は、ドリフト層の上面側に設けられた炭化珪素からなる第2導電型のベース領域と、ベース領域の上面側に設けられた炭化珪素からなる第1導電型の主領域と、ドリフト層の上面側に、ベース領域に接して設けられた炭化珪素からなる第2導電型の埋込領域と、埋込領域の上面側に、主領域に接して設けられた炭化珪素からなる第2導電型のベースコンタクト領域と、主領域及びベース領域を貫通するトレンチの内側に、ゲート絶縁膜を介して設けられたゲート電極と、主領域及びベースコンタクト領域に接して設けられた主電極と、を有し、耐圧構造部は、ドリフト層の上面側に設けられた炭化珪素からなる第2導電型の電界緩和領域と、電界緩和領域の上面に設けられた絶縁膜と、を有し、主領域及びベースコンタクト領域のそれぞれは、少なくとも主電極に接した部分が3C構造を含み、電界緩和領域は、上部が3C構造を含み、下部が4H構造からなる、SiC半導体装置であることを要旨とする。
【0008】
上記目的を達成するために、本開示の他の態様は、活性部と平面視で活性部の周囲を囲んでいる耐圧構造部とに亘って、炭化珪素からなる第1導電型のドリフト層を形成する工程と、活性部におけるドリフト層の上面側に、炭化珪素からなる第2導電型のベース領域を形成する工程と、ベース領域の上面側に、炭化珪素からなり且つ少なくとも上面側の部分が3C構造を含む第1導電型の主領域を形成する工程と、ドリフト層の上面側に、ベース領域に接するように、炭化珪素からなる第2導電型の埋込領域を形成する工程と、埋込領域の上面側に、主領域に接するように、炭化珪素からなり且つ少なくとも上面側の部分が3C構造を含む第2導電型のベースコンタクト領域を形成する工程と、主領域及びベース領域を貫通するトレンチを形成する工程と、トレンチの内側にゲート絶縁膜を介してゲート電極を形成する工程と、主領域及びベースコンタクト領域の上面に接するように主電極を形成する工程と、耐圧構造部におけるドリフト層の上面側に、炭化珪素からなり、且つ上部が3Cを含み下部が4Hからなる電界緩和領域を形成する工程と、電界緩和領域の上面に絶縁膜を形成する工程と、を含む、SiC半導体装置の製造方法であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、耐圧構造部の信頼性が損なわれるのを抑制できるSiC半導体装置及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態に係るSiC半導体装置の一例を示す平面概略図である。
【
図2】
図1のA-A切断線に沿って断面視した時の断面構成を示す縦断面図である。
【
図3】比較例に係るSiC半導体装置の耐圧構造部の断面構成を示す縦断面図である。
【
図4】第1実施形態に係るSiC半導体装置の耐圧構造部の断面構成を示す縦断面図である。
【
図5】第1実施形態に係るSiC半導体装置の製造方法の一例を説明するための断面概略図である。
【
図6】第1実施形態に係るSiC半導体装置の製造方法の一例を説明するための
図5に引き続く断面概略図である。
【
図7】第1実施形態に係るSiC半導体装置の製造方法の一例を説明するための
図6に引き続く断面概略図である。
【
図8】第1実施形態に係るSiC半導体装置の製造方法の一例を説明するための
図7に引き続く断面概略図である。
【
図9】第1実施形態に係るSiC半導体装置の製造方法の一例を説明するための
図8に引き続く断面概略図である。
【
図10】第1実施形態に係るSiC半導体装置の製造方法の一例を説明するための
図9に引き続く断面概略図である。
【
図11】第1実施形態に係るSiC半導体装置の製造方法の一例を説明するための
図10に引き続く断面概略図である。
【
図12】第1実施形態に係るSiC半導体装置の製造方法の一例を説明するための
図11に引き続く断面概略図である。
【
図13】第2実施形態に係るSiC半導体装置の耐圧構造部の断面構成を示す縦断面図である。
【
図14】第3実施形態に係るSiC半導体装置の、
図1のA-A切断線に沿って断面視した時の断面構成を示す縦断面図である。概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本開示の第1~第3実施形態を説明する。図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付し、重複する説明を省略する。但し、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は実際のものとは異なる場合がある。また、図面相互間においても寸法の関係や比率が異なる部分が含まれ得る。また、以下に示す第1~第3実施形態は、本開示の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本開示の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。
【0012】
本明細書において、金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)のソース領域は、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)のエミッタ領域として選択可能な「一方の主領域(第1主領域)」である。また、MOS制御静電誘導サイリスタ(SIサイリスタ)等のサイリスタにおいては、「一方の主領域」はカソード領域として選択可能である。MOSFETのドレイン領域は、IGBTにおいてはコレクタ領域を、サイリスタにおいてはアノード領域として選択可能な半導体装置の「他方の主領域(第2主領域)」である。本明細書において単に「主領域」と言うときは、当業者の技術常識から妥当な第1主領域又は第2主領域のいずれかを意味する。
【0013】
また、以下の説明における上下等の方向の定義は、単に説明の便宜上の定義であって、本開示の技術的思想を限定するものではない。例えば、対象を90°回転して観察すれば上下は左右に変換して読まれ、180°回転して観察すれば上下は反転して読まれることは勿論である。また、「上面」は「おもて面」と読み替えてもよく、「下面」は「裏面」と読み替えてもよい。
【0014】
また、以下の説明では、第1導電型がn型、第2導電型がp型の場合について例示的に説明する。しかし、導電型を逆の関係に選択して、第1導電型をp型、第2導電型をn型としても構わない。またnやpに付す+や-は、+及び-が付記されていない半導体領域に比して、それぞれ相対的に不純物濃度が高い又は低い半導体領域であることを意味する。ただし同じnとnとが付された半導体領域であっても、それぞれの半導体領域の不純物濃度が厳密に同じであることを意味するものではない。
【0015】
また、SiC結晶には結晶多形が存在し、主なものは立方晶の3C、及び六方晶の4H、6Hである。室温における禁制帯幅は3C-SiCでは2.23eV、4H-SiCでは3.26eV、6H-SiCでは3.02eVの値が報告されている。以下の説明では、4H-SiC及び3C-SiCを主に用いる場合を例示する。
【0016】
(第1実施形態)
<SiC半導体装置の構造>
第1実施形態に係るSiC半導体装置(半導体チップ)100は、
図1に示すように、平面視で、例えば矩形状の平面形状を有した活性部101と、活性部101の周囲を囲むように設けられた耐圧構造部102とを備える。また、SiC半導体装置100は、平面視で、活性部101と耐圧構造部102との間には、活性部101を囲むように設けられた領域103を備えている。
【0017】
図2は、
図1のA-A線方向から見た断面図である。なお、
図2においては、活性部101の一部の図示を省略している。
図2に示すように、活性部101には活性素子が含まれ、領域103にはリング領域9bが含まれ、耐圧構造部102には終端構造として後述の電界緩和領域9aが複数含まれる場合を例示している。
【0018】
SiC半導体装置100は、
図2に示すように、活性素子としてトレンチゲート型のMOSFETを含む場合を例示する。なお、
図2では、1つのトレンチ7aに埋め込まれた絶縁ゲート型電極構造(7b,7c)を含む単位セルを例示するが、実際には、この単位セルが周期的に多数配列されている。
【0019】
SiC半導体装置100は、活性部101、耐圧構造部102、及び領域103に亘って設けられた、第1導電型(n-型)のドリフト層2を備える。ドリフト層2は、例えば、4H-SiC等のSiCからなるエピタキシャル成長層で構成されている。ドリフト層2の不純物濃度は、例えば1×1015cm-3以上、5×1016cm-3以下程度である。ドリフト層2の厚さは、例えば1μm以上、100μm以下程度である。ドリフト層2の不純物濃度及び厚さは、耐圧仕様等に応じて適宜調整可能である。
【0020】
活性部101及び領域103に亘って、ドリフト層2の上面側には、ドリフト層2より高不純物濃度の第1導電型(n型)の電流拡散層(CSL)3が選択的に設けられている。電流拡散層3の下面は、ドリフト層2の上面に接している。電流拡散層3は、例えば、Nのイオン注入で形成されている。電流拡散層3の不純物濃度は、例えば5×1016cm-3以上、5×1017cm-3以下程度である。なお、電流拡散層3は必ずしも設ける必要はなく、電流拡散層3を設けない場合にはドリフト層2が電流拡散層3の領域まで設けられていてよい。
【0021】
活性部101において、電流拡散層3の上面側には第2導電型(p型)のベース領域5a,5bが選択的に設けられている。ベース領域5a,5bの下面は、電流拡散層3の上面に接している。なお、電流拡散層3を設けない場合には、ベース領域5a,5bの下面は、ドリフト層2の上面に接している。ベース領域5a,5bは、例えば、電流拡散層3にアルミニウム等のp型不純物をイオン注入したSiCからなる領域である。ベース領域5a,5bは、4H-SiC等のSiCからなるエピタキシャル成長層で構成されていても良い。ベース領域5a,5bの不純物濃度は、例えば1×1016cm-3以上、1×1018cm-3以下程度である。
【0022】
ベース領域5a,5bの上面側には、ドリフト層2より高不純物濃度の第1導電型(n+型)の第1主領域(ソース領域)6a,6bが選択的に設けられている。ソース領域6aの下面はベース領域5aの上面に接し、ソース領域6bの下面はベース領域5bの上面に接する。ソース領域6a,6bは、例えば、電流拡散層3にn型不純物をイオン注入したSiCからなる領域である。ソース領域6a,6bの不純物濃度は、例えば1×1019cm-3以上、3×1021cm-3以下程度である。ソース領域6a,6bは、3C-SiCと4H-SiCとを含んでいる。より具体的には、ソース領域6a,6bは、少なくとも上面側の部分が3C構造を含んでいる。以下、3C-SiCを3C構造と呼び、4H-SiCを4H構造と呼ぶ場合がある。
【0023】
ソース領域6a,6bの深さ方向の寸法は、0.5μm以下である。また、ソース領域6a,6bの深さ方向の寸法は、例えば、0.1μm以上であっても良い。ソース領域6a,6bのそれぞれは、上面から深さ0.3μmまでの部分に含まれる3C-SiCの割合が50%以上100%以下である。
【0024】
ソース領域6a,6bの上面からソース領域6a,6bの上面の法線方向(深さ方向)に向かって、ソース領域6a,6b及びベース領域5a,5bを貫通するトレンチ7aが設けられている。トレンチ7aの下面は電流拡散層3に達する。トレンチ7aの幅は例えば1μm以下程度である。トレンチ7aの左側の側面には、ソース領域6a及びベース領域5aが接している。トレンチ7aの右側の側面には、ソース領域6b及びベース領域5bが接している。トレンチ7aは、
図2の紙面の奥行方向及び手前方向にストライプ状に延伸する平面パターンを有していてもよく、ドット状の平面パターンを有していてもよい。
【0025】
トレンチ7aの下面及び両側の側面に沿ってゲート絶縁膜7bが設けられている。トレンチ7aの内側にはゲート絶縁膜7bを介してゲート電極7cが埋め込まれている。ゲート絶縁膜7b及びゲート電極7cによりトレンチゲート型の絶縁ゲート型電極構造(7b,7c)が構成されている。
【0026】
ゲート絶縁膜7bとしては、シリコン酸化膜(SiO2膜)の他、酸窒化珪素(SiON)膜、ストロンチウム酸化物(SrO)膜、窒化珪素(Si3N4)膜、アルミニウム酸化物(Al2O3)膜、マグネシウム酸化物(MgO)膜、イットリウム酸化物(Y2O3)膜、ハフニウム酸化物(HfO2)膜、ジルコニウム酸化物(ZrO2)膜、タンタル酸化物(Ta2O5)膜、ビスマス酸化物(Bi2O3)膜のいずれか1つの単層膜或いはこれらの複数を積層した複合膜等が採用可能である。ゲート電極7cの材料としては、例えばp型不純物又はn型不純物を高不純物濃度に添加したポリシリコン層(ドープドポリシリコン層)や、チタン(Ti)、タングステン(W)又はニッケル(Ni)等の高融点金属が使用可能である。
【0027】
電流拡散層3の内部で、且つトレンチ7aの底部には、第2導電型(p+型)のゲート底部保護領域4が設けられている。ゲート底部保護領域4の上面はトレンチ7aの下面に接している。ゲート底部保護領域4の上面はトレンチ7aの下面に接しなくともよい。ゲート底部保護領域4の不純物濃度は、例えば1×1017cm-3以上、1×1019cm-3以下程度である。ゲート底部保護領域4は、例えば、電流拡散層3にp型不純物をイオン注入したSiCからなる領域である。ゲート底部保護領域4は、図示省略する部分でソース配線電極12に電気的に接続されており、MOSFETのオフ時に空乏化してトレンチ7aの下面にかかる電界を緩和させる機能を有する。
【0028】
電流拡散層3の上面側には、第2導電型(p型)の埋込領域81a,81bが、ベース領域5a,5bに接して選択的に設けられている。埋込領域81a,81bの下面は、電流拡散層3に接している。埋込領域81aの側面は、電流拡散層3及びベース領域5aに接し、埋込領域81bの側面は、電流拡散層3及びベース領域5bに接している。埋込領域81a,81bは、例えば、電流拡散層3にp型不純物をイオン注入したSiCからなる領域である。埋込領域81a,81bの不純物濃度は、例えば5×1017cm-3以上、1×1019cm-3以下程度である。埋込領域81a,81bは、4H-SiCで構成されている。
【0029】
埋込領域81a,81bの上面側には、埋込領域81aより高不純物濃度のp+型のベースコンタクト領域82a,82bが選択的に設けられている。ベースコンタクト領域82aの下面は埋込領域81aの上面に接し、ベースコンタクト領域82aの側面はソース領域6aに接する。ベースコンタクト領域82bの下面は埋込領域81bの上面に接し、ベースコンタクト領域82bの側面はソース領域6bに接する。ベースコンタクト領域82a,82bは、例えば、電流拡散層3にp型不純物をイオン注入したSiCからなる領域である。ベースコンタクト領域82a,82bの不純物濃度は、埋込領域81a,81bの不純物濃度より高く、例えば1×1019cm-3以上、3×1020cm-3以下程度である。ベースコンタクト領域82a,82bの不純物濃度は、トランジスタが動作可能な濃度であれば、ソース領域6a,6bより低くても良い。ベースコンタクト領域82a,82bは、3C-SiCと4H-SiCとを含んでいる。より具体的には、ベースコンタクト領域82a,82bは、少なくとも上面側の部分が3C構造を含んでいる。
【0030】
ベースコンタクト領域82a,82bの深さ方向の寸法は、0.3μm以下である。また、ベースコンタクト領域82a,82bの深さ方向の寸法は、例えば、0.05μm以上であっても良い。ベースコンタクト領域82a,82bのそれぞれは、上面から深さ0.1μmまでの部分に含まれる3C-SiCの割合が50%以上95%以下である。ベースコンタクト領域82a,82bが含む3C-SiCの割合は、ソース領域6a,6bが含む3C-SiCの割合より低くても良い。ベースコンタクト領域82a,82bが3C-SiCを含んでいれば、後述のソース電極(11,12)との接触抵抗を抑制できる。
【0031】
耐圧構造部102において、ドリフト層2の上面側には第2導電型(p型)の電界緩和領域9aが複数選択的に設けられている。
図2に示す例では、ドリフト層2の上面側には電界緩和領域9aが3つ設けられている。電界緩和領域9aは、図示を省略するが、平面視で同心リング状のガードリング(フィールドリミティングリング)である。電界緩和領域9a同士の間は、ドリフト層2により分離されている。電界緩和領域9aの下面は、ドリフト層2の上面に接している。電界緩和領域9aは、例えば、ドリフト層2にアルミニウム等のp型不純物をイオン注入したSiCからなる領域である。
【0032】
電界緩和領域9aは、p型の第1部分91aと、p+型の第2部分92aとを有する。第2部分92aは電界緩和領域9aの上部であり、第1部分91aより深さ方向の浅い位置にある。第1部分91aは電界緩和領域9aの下部であり、その上面は第2部分92aの下面に接している。第2部分92aの不純物濃度は、例えば1×1019cm-3以上、3×1020cm-3以下程度であり、第1部分91aの不純物濃度より高く設けられている。第2部分92aより深い位置にある第1部分91aの不純物濃度を第2部分92aより低く設けることにより、電界緩和領域9aの電界に対する耐圧性能が向上する。
【0033】
また、第2部分92aは3C-SiCを含み、第1部分91aは4H-SiCからなる。第2部分92aは、3C-SiCと4H-SiCとを含んでいて、より具体的には、少なくとも上面側の部分が3C-SiCを含んでいる。第2部分92aの深さ方向の寸法は、0.3μm以下である。また、第2部分92aの深さ方向の寸法は、例えば、0.05μm以上であっても良い。第2部分92aは、上面から深さ0.1μmまでの部分に含まれる3C-SiCの割合が50%以上95%以下である。このように、第2部分92aは、ソース領域6a,6bと比べて3C-SiCの割合が抑えられている。4H-SiCの特徴としては、3C-SiCより結晶欠陥が少ない点、3C-SiCと比較してバンドギャップが広く電界に対する耐圧性能が高い点等を挙げることができる。また、3C-SiCの特徴は、以下に説明するイオン化エネルギーにある。
【0034】
p型不純物として、例えば、アルミニウム及びボロンが知られている。以下に、それらの不純物が注入されたSiCにおける、不純物のイオン化エネルギーを示す。イオン化エネルギーは、3C-SiCと4H-SiCとのそれぞれについて示す。
不純物元素/3C-SiC/4H-SiC
アルミニウム/250/六方晶系:198、立方晶系:201
ボロン/350/280
これより、同じ不純物元素であっても、3C-SiC内の不純物元素の方が、4H-SiC内の不純物元素よりイオン化エネルギーが高いことが分かる。不純物元素のイオン化エネルギーが高いとSiC内のホールの数が少なくなり、SiCの抵抗値が高くなる。そのため、上記のp型不純物元素を注入した場合、3C-SiCの抵抗値が4H-SiCの抵抗値より高くなる。つまり、3C-SiCを含む第2部分92aの抵抗値が、4H-SiCからなる第1部分91aの抵抗値より、高くなる。
【0035】
耐圧構造部102において、ドリフト層2の上面側最外周には第1導電型(n+型)のチャネルストッパ領域6cが設けられている。チャネルストッパ領域6cの下面は、ドリフト層2の上面に接している。チャネルストッパ領域6cは、例えば、ドリフト層2にn型不純物をイオン注入した3C-SiCからなる領域である。
【0036】
領域103において、ドリフト層2の上面側には第2導電型(p型)のリング領域9bが選択的に設けられている。リング領域9bの下面は、ドリフト層2の上面に接している。リング領域9bは、例えば、ドリフト層2にp型不純物をイオン注入したSiCからなる領域である。リング領域9bは、図示を省略するが、平面視で活性部101の縁部を囲うリング状の部分である。
【0037】
リング領域9bは、第1部分91bと、第2部分92bとを有する。第2部分92bは第1部分91bより深さ方向の浅い位置にあり、第2部分92bの下面は第1部分91bの上面に接している。リング領域9bの不純物濃度は、電界緩和領域9aの不純物濃度と同程度である。第2部分92bの不純物濃度は、例えば1×1019cm-3以上、3×1020cm-3以下程度であり、第1部分91bの不純物濃度より高く設けられている。また、第2部分92bは3C-SiCを含み、第1部分91bは4H-SiCからなる。第2部分92bは、3C-SiCと4H-SiCとを含んでいて、より具体的には、少なくとも上面側の部分が3C-SiCを含んでいる。その他の第2部分92bの構成は、第2部分92aの構成と同じである。
【0038】
ゲート電極7cの上面側、領域103の上面側、及び耐圧構造部102の上面側には、絶縁膜10が選択的に設けられている。耐圧構造部102において、絶縁膜10は電界緩和領域9aの上面に設けられている。より具体的には、絶縁膜10は、電界緩和領域9aの第2部分92aを覆う位置に設けられている。絶縁膜10は、例えば硼素(B)及び燐(P)を添加したシリコン酸化膜(BPSG膜)、燐(P)を添加したシリコン酸化膜(PSG膜)、「NSG」と称される燐(P)や硼素(B)を含まないノンドープのシリコン酸化膜、硼素(B)を添加したシリコン酸化膜(BSG膜)、シリコン窒化膜(Si3N4膜)等の単層膜や、これらの積層膜で構成されている。絶縁膜10には、ソース領域6a,6b及びベースコンタクト領域82a,82bの上面を露出するようにコンタクトホール10a,10bが設けられている。また、絶縁膜10には、リング領域9bの上面、より具体的には第2部分92bの上面を露出するようにコンタクトホール10cが設けられている。
【0039】
絶縁膜10と、コンタクトホール10a,10bから露出したソース領域6a,6b及びベースコンタクト領域82a,82bの上面と、コンタクトホール10cから露出したリング領域9bの上面と、を覆うように第1主電極(ソース電極)(11,12)が設けられている。ソース電極(11,12)は、下層のバリアメタル層11と、上層のソース配線電極12を備える。例えば、バリアメタル層11は、例えば窒化チタン(TiN)、チタン(Ti)、又はTiを下層としたTiN/Tiの積層構造等の金属で構成されている。バリアメタル層11は、ソース領域6a,6b及びベースコンタクト領域82a,82bに直接接し、ソース領域6a,6b及びベースコンタクト領域82a,82bと低抵抗でオーミック接触している。また、バリアメタル層11は、リング領域9bの第2部分92bに直接接し、第2部分92bと低抵抗でオーミック接触している。また、電界緩和領域9aは、第2部分92aの上面が絶縁膜10に覆われているので、バリアメタル層11には接触していない。
【0040】
ソース配線電極12は、バリアメタル層11を介してソース領域6a,6b、ベースコンタクト領域82a,82b、及びリング領域9bに電気的に接続されている。ソース配線電極12は、ゲート電極7cに電気的に接続されるゲート配線電極(図示省略)と分離して設けられている。ソース配線電極12は、例えばアルミニウム(Al)、アルミニウム-シリコン(Al-Si)、アルミニウム-銅(Al-Cu)、銅(Cu)等の金属で構成されている。
【0041】
ドリフト層2の下面側には、ドリフト層2より高不純物濃度の第1導電型(n+型)の第2主領域(ドレイン領域)1が設けられている。ドレイン領域1は、例えば4H-SiCからなる半導体基板(SiC基板)で構成されている。ドレイン領域1の不純物濃度は、例えば1×1018cm-3以上、3×1020cm-3以下程度である。ドレイン領域1の厚さは、例えば30μm以上、500μm以下程度である。なお、ドリフト層2とドレイン領域1との間には、ドリフト層2より高不純物濃度で、且つドレイン領域1より低不純物濃度のn型のバッファ層である、転位変換層や再結合促進層が設けられていてもよい。
【0042】
ドレイン領域1の下面側には、第2主電極(ドレイン電極)13が設けられている。ドレイン電極13としては、例えば金(Au)からなる単層膜や、ドレイン領域1側からチタン(Ti)、ニッケル(Ni)、Auの順で積層された金属膜が使用可能であり、更にその最下層にモリブデン(Mo)、タングステン(W)等の金属膜を積層してもよい。また、ドレイン領域1とドレイン電極13との間にオーミック接触のためのニッケルシリサイド(NiSix)膜等のドレインコンタクト層が設けられてもよい。
【0043】
第1実施形態に係るSiC半導体装置の動作時は、ソース電極(11,12)をアース電位として、ドレイン電極13に正電圧を印加し、ゲート電極7cに閾値以上の正電圧を印加すると、ベース領域5a,5bのトレンチ7aの側面側に反転層(チャネル)が形成されてオン状態となる。オン状態では、ドレイン電極13からドレイン領域1、ドリフト層2、電流拡散層3、ベース領域5a,5bの反転層及びソース領域6a,6bを経由してソース電極(11,12)へ電流が流れる。一方、ゲート電極7cに印加される電圧が閾値未満の場合、ベース領域5a,5bに反転層が形成されないため、オフ状態となり、ドレイン電極13からソース電極(11,12)へ電流が流れない。
【0044】
一般的に、電界緩和領域9a及びリング領域9bが4H-SiCからなる場合、耐圧構造部102における電界集中は、
図3に示すように、SiCの上面側、より具体的にはSiCの絶縁膜10との接触面側で生じやすい。そのため、アバランシェが生じた際に流れる電流は、矢印Bで示すように、SiCの上面側で流れ、絶縁膜10に大きな電圧がかかる可能性があった。
【0045】
これに対して、第1実施形態に係るSiC半導体装置によれば、電界緩和領域9aは、第2部分92aが3C-SiCを含み、第1部分91aが4H-SiCからなる。これにより、絶縁膜10に接している第2部分92aの抵抗値が、第2部分92aより深い位置にある第1部分91aの抵抗値より大きくなる。そのため、アバランシェが生じた際に流れる電流は、
図4の矢印Cで示すように、抵抗値が高い3C-SiCの部分を避け、主に3C-SiCよりも深い位置にある4H-SiC内を流れる。これにより、耐圧構造部102の絶縁膜10に大きな電圧がかかるのが抑制され、絶縁膜10の信頼性が低下するのを抑制できる。リング領域9bについても、電界緩和領域9aと同様の構成を有するので、絶縁膜10の信頼性が低下するのを抑制できる。
【0046】
また、ソース領域6a,6bのそれぞれは上面から深さ0.3μmまでの部分に含まれる3C-SiCの割合が50%以上100%以下であるのに対して、第2部分92aは、上面から深さ0.1μmまでの部分に含まれる3C-SiCの割合が50%以上95%以下であり、3C-SiCの割合が抑えられ、且つ3C-SiCの濃度が濃い部分の深さも浅く抑えられている。そのため、ソース領域6a,6bと比べて、第2部分92aは、3C-SiCより結晶欠陥が少ない4H-SiCの割合が増え、第2部分92aの上面の凹凸が大きくなるのが抑制される。そのため、たとえ3C-SiCの方が4H-SiCより結晶欠陥が多くても、3C-SiCが第2部分92aの上面の形状に与える影響を抑制でき、上面と絶縁膜10との界面に生じる欠陥が多くなり過ぎるのを抑制できる。これにより、耐圧構造部102の信頼性が低下するのを抑制できる。さらに、第2部分92aは、3C-SiCの濃度が濃い部分の深さが浅く抑えられているので、3C-SiCと比較してバンドギャップが広い4H-SiCが占める領域が大きく減少するのを抑制できる。リング領域9bについても、電界緩和領域9aと同様の構成を有するので、耐圧構造部102の信頼性が低下するのを抑制できる。
【0047】
また、ソース領域6a,6b及びベースコンタクト領域82a,82bは、少なくともソース電極(11,12)と接する部分が3C-SiCを含む。そのため、ニッケル(Ni)シリサイド等のシリサイド層を形成せずに、ソース領域6a,6b及びベースコンタクト領域82a,82bがソース電極(11,12)と低抵抗でオーミック接触することができる。よって、シリサイド層を形成した場合と比較して、シリサイド層の剥離等の課題を抑制することができる。ソース領域6a,6bは、ベースコンタクト領域82a,82bより浅くてもよい。
【0048】
<SiC半導体装置の製造方法>
次に、第1実施形態に係るSiC半導体装置の製造方法の一例を説明する。なお、以下に述べるSiC半導体装置の製造方法は一例であり、特許請求の範囲に記載した趣旨の範囲であれば、この変形例を含めて、これ以外の種々の製造方法により実現可能であることは勿論である。
【0049】
まず、
図5に示すように、窒素(N)等のn型不純物が添加されたn
+型の4H-SiCからなる半導体基板(SiC基板)1を用意する。SiC基板1の上面は、例えば{0001}面から3度~8度のオフ角を有する。そして、SiC基板1の上面に、N等のn型不純物が添加され、SiC基板1より低不純物濃度のn
-型の4H-SiCからなるドリフト層2をエピタキシャル成長させる。
【0050】
次に、
図6に示すように、フォトリソグラフィ技術を用いてドリフト層2の上面に、フォトレジスト膜からなるマスクパターン20を形成する。そして、マスクパターン20をイオン注入用マスクとして用いて、ドリフト層2の上部に、窒素(N)等のn型不純物のイオン注入することにより4H-SiCからなるn型の電流拡散層3を形成する。その後、マスクパターン20を除去する。なお、マスクパターン20は、例えば酸化膜からなるハードマスクパターンであっても良い。
【0051】
次に、
図7に示すように、ドリフト層2の上面に、フォトレジスト膜からなるマスクパターン21を形成する。そして、マスクパターン21をイオン注入用マスクとして用いて、アルミニウム(Al)等のp型不純物を選択的にイオン注入してゲート底部保護領域4を選択的に形成する。この場合のアルミニウムのイオン注入は、深い領域への注入となる為、例えば、780keV以上960keV以下の高加速エネルギーで行われる。その後、マスクパターン21を除去する。
【0052】
次に、
図8に示すように、ドリフト層2の上面に、フォトレジスト膜からなるマスクパターン22を形成する。そして、マスクパターン22をイオン注入用マスクとして用いて燐(P)や窒素(N)等のn型不純物を選択的にイオン注入する。この結果、ドリフト層2の上面側にn
+型のソース領域6が選択的に形成され、耐圧構造部102におけるドリフト層2の上面側にn
+型のチャネルストッパ領域6cが形成される。ソース領域6及びチャネルストッパ領域6cのイオン注入では、ソース領域6の上面側の4H-SiCの構造を崩してアモルファス構造を形成する。イオン注入時の温度は、4H-SiCの構造を崩すために低く設定する。低い温度で高濃度の不純物のイオン注入を行うことにより、4H-SiCの構造を崩すことができる。イオン注入時の温度は、例えば20℃以上、300℃未満程度に設定する。4H-SiCの構造を崩すことができる温度の境界は300℃付近にあるので、イオン注入時の温度を、例えば、200℃以下にしても良い。そして、イオン注入時のドーズ量は、例えば2×10
15cm
-2以上程度となるように設定する。その後、マスクパターン22を除去する。なお、マスクパターン22は、例えば酸化膜からなるハードマスクパターンであっても良い。
【0053】
次に、
図9に示すように、ドリフト層2の上面に、フォトレジスト膜からなるマスクパターン23を形成する。そして、マスクパターン23をイオン注入用マスクとして用いてアルミニウム(Al)等のp型不純物を選択的にイオン注入する。この結果、電流拡散層3に、
図9に示すように、活性部101における電流拡散層3の上面側でソース領域6の下面側に、ベース領域5が選択的に形成される。このベース領域5が、p型不純物で形成される領域の中で、最も不純物濃度が低い領域となる。その後、マスクパターン23を除去する。なお、マスクパターン23は、例えば酸化膜からなるハードマスクパターンであっても良い。
【0054】
次に、
図10に示すように、埋込領域81a,81b、ベースコンタクト領域82a,82b、電界緩和領域9a、及びリング領域9bを形成する。より具体的には、埋込領域81a,81b及びベースコンタクト領域82a,82bを形成する工程のイオン注入と、電界緩和領域9a及びリング領域9bを形成する工程のイオン注入と、を同時に行う。まず、フォトリソグラフィ技術を用いて、電流拡散層3の上面に、フォトレジスト膜からなるマスクパターン24を形成する。なお、マスクパターン24は、例えば酸化膜からなるハードマスクパターンであっても良い。マスクパターン24は、活性部101においてベースコンタクト領域82a,82bを形成する位置に開口を有し、耐圧構造部102において電界緩和領域9aを形成する位置に開口を有し、領域103においてリング領域9bを形成する位置に開口を有する。
【0055】
そして、マスクパターン24をイオン注入用マスクとして用いて、アルミニウム(Al)等のp型不純物を選択的にイオン注入する。イオン注入を多段で行うことにより、SiCの上面側の不純物濃度をそれより深い位置より高くする。この結果、活性部101における電流拡散層3の上面側に、ベース領域5に接するように埋込領域81a,81bが形成される。そして、埋込領域81a,81bの上面側に、ソース領域6に接するように、ベースコンタクト領域82a,82bが形成される。また、耐圧構造部102における電流拡散層3の上面側に電界緩和領域9aが形成され、領域103における電流拡散層3の上面側にリング領域9bが形成される。
【0056】
上述のイオン注入では、SiCの上面側の一部領域の4H-SiCの構造を崩してアモルファス構造を形成する。より具体的には、ベースコンタクト領域82a,82b及び第2部分92a,92bそれぞれにおいて、少なくともSiCの上面側の一部領域の4H-SiCの構造を崩してアモルファス構造を形成する。イオン注入時の温度は、4H-SiCの構造を崩すために低く、例えば20℃以上、300℃未満程度に設定する。ベースコンタクト領域82a,82b及び第2部分92a,92bに対するイオン注入時のドーズ量は、ソース領域6及びチャネルストッパ領域6cを形成するイオン注入時のドーズ量より低く設定し、例えば1×1015cm-2以上、2×1015cm-2未満程度となるように設定する。なお、多段注入により、埋込領域81a,81b及び第1部分91a,91bに対するイオン注入は、不純物ドーズ量がベースコンタクト領域82a,82b及び第2部分92a,92bに対する不純物ドーズ量より小さく設定されている。これにより、4H-SiCを崩し過ぎないようにしている。その後、マスクパターン24を除去する。なお、マスクパターン24は、例えば酸化膜からなるハードマスクパターンであっても良い。
【0057】
次に、活性化アニール(熱処理)工程を行う。この活性化アニール工程では、例えば1600℃以上、1900℃以下程度で活性化アニールを行うことにより、ゲート底部保護領域4、ベース領域5、ソース領域6、埋込領域81a,81b、及びベースコンタクト領域82a,82b、電界緩和領域9a、リング領域9b等にそれぞれイオン注入されたp型不純物又はn型不純物を一斉に活性化させる。このとき、ソース領域6、ベースコンタクト領域82a,82b、及び第2部分92a,92bそれぞれにおいて、少なくとも一部のアモルファス構造が再結晶化により3C-SiCとなることで、3C-SiCを含むソース領域6、ベースコンタクト領域82a,82b、及び第2部分92a,92bが形成される。第1部分91a,91bは、再結晶化した後も4H-SiCのままである。
【0058】
なお、ここではすべてのイオン注入工程の後に一括して1回の活性化アニールを行う場合を例示するが、各イオン注入工程後に個別に複数回の活性化アニールを行ってもよい。また、
図6~
図10のイオン注入工程は、順を入れ替えてもよい。また、活性化アニールの前に、カーボン(C)からなるキャップ膜を成膜し、キャップ膜で被覆した状態で活性化アニールを行い、活性化アニールの後にキャップ膜を除去してもよい。
【0059】
次に、
図11に示すように、トレンチ形成工程を行う。このトレンチ形成工程では、フォトリソグラフィ技術、ドライエッチング技術、及びCVD技術等を用いて、例えば酸化膜からなるハードマスクパターンをSiCの上面に形成する。ハードマスクパターンは、トレンチを形成する位置に開口を有する。そしてハードマスクパターンをエッチング用マスクとして用いて、反応性イオンエッチング(RIE)等のドライエッチング技術により、ソース領域6の上面から深さ方向にトレンチ7aを選択的に形成する。なお、ハードマスクパターンの代わりに、フォトレジスト膜をエッチング用マスクとして用いてもよい。トレンチ7aは、ソース領域6及びベース領域5を貫通し、更に電流拡散層3の上部を掘り込み、ゲート底部保護領域4に達する。ソース領域6はソース領域6a,6bに分割され、ベース領域5はベース領域5a,5bに分割される。その後、エッチング用マスクを除去する。
【0060】
次に、ゲート絶縁膜/ゲート電極形成工程を行う。このゲート絶縁膜/ゲート電極形成工程では、CVD技術、高温酸化(HTO)法又は熱酸化法等により、トレンチ7aの下面及び側面に、ゲート絶縁膜7bを形成する。次に、CVD技術等により、トレンチ7aの内側を埋め込むように、燐(P)やボロン(B)等の不純物を高濃度で添加したポリシリコン層(ドープドポリシリコン層)を堆積する。その後、フォトリソグラフィ技術及びドライエッチングにより、ポリシリコン層の一部及びゲート絶縁膜7bの一部を選択的に除去する。この結果、
図9に示すように、ゲート絶縁膜7b及びゲート電極7cからなる絶縁ゲート型電極構造(7b,7c)が形成される。
【0061】
次に、
図12に示すように、CVD技術等により、SiCの上面に絶縁膜10を堆積する。そして、フォトリソグラフィ技術及びドライエッチング技術等により、絶縁膜10の一部を選択的に除去し、絶縁膜10にソース領域6a,6b及びベースコンタクト領域82a,82bの上面を露出するコンタクトホール10a,10bを開口する。また、リング領域9bの上面を露出するコンタクトホール10cを開口する。その後、絶縁膜10を平坦化するための熱処理(リフロー)を行ってもよい。
【0062】
次に、スパッタリング技術又は蒸着法等により、絶縁膜10の上面及び側面と、ソース領域6a,6b、ベースコンタクト領域82a,82b、及びリング領域9bの上面を覆うように、バリアメタル層11及びソース配線電極12を順次形成し、
図2に示すソース電極(11,12)を形成する。バリアメタル層11は、ソース領域6a,6b、ベースコンタクト領域82a,82b、及びリング領域9bと接触する。バリアメタル層11は、ソース領域6a,6b、ベースコンタクト領域82a,82b、及びリング領域9bと低抵抗でオーミック接触する。
【0063】
次に、研削又は化学機械研磨(CMP)等により、SiC基板1を下面側から薄化して厚さを調整することにより、ドレイン領域1とする。次に、スパッタリング法又は蒸着法等により、ドレイン領域1の下面の全面に金(Au)等からなるドレイン電極13(
図2参照)を形成する。このようにして、
図2に示したSiC半導体装置が完成する。
【0064】
第1実施形態に係るSiC半導体装置の製造方法によれば、電界緩和領域9aを形成する工程は、第2導電型の不純物をドーズ量1×1015cm-2以上、2×1015cm-2未満でイオン注入することを含む。そのため、第2部分92aの少なくとも一部の領域に3C-SiCを形成することができ、第2部分92aの抵抗値を上げることができる。これにより、アバランシェが生じた際に流れる電流は抵抗値が高い3C-SiCの部分を避け、主に3C-SiCよりも深い位置にある4H-SiC内を流れる。これにより、耐圧構造部102の絶縁膜10に大きな電圧がかかるのが抑制され、絶縁膜10の信頼性が低下するのを抑制できる。リング領域9bについても、同様である。
【0065】
また、ベースコンタクト領域82a,82bを形成する工程及び電界緩和領域9aを形成する工程は、第2導電型の不純物をドーズ量1×1015cm-2以上、2×1015cm-2未満で同時にイオン注入することを含む。これらの工程のイオン注入を同時に行うので、工程数を減らすことができる。
【0066】
また、ソース領域6a,6bを形成する工程では第1導電型の不純物をドーズ量2×1015cm-2以上でイオン注入しているのに対し、電界緩和領域9aの第2部分92aを形成する工程では第2導電型の不純物のドーズ量を1×1015cm-2以上、2×1015cm-2未満に減らしている。これにより、第2部分92aに含まれる3C-SiCの割合を、ソース領域6a,6bにまれる3C-SiCの割合より抑えることができ、ソース領域6a,6bと比べて、第2部分92aは、3C-SiCより結晶欠陥が少ない4H-SiCの割合が増え、第2部分92aの上面の凹凸が大きくなるのが抑制される。そのため、たとえ3C-SiCの方が4H-SiCより結晶欠陥が多くても、3C-SiCが第2部分92aの上面の形状に与える影響を抑制でき、上面と絶縁膜10との界面に生じる欠陥が多くなり過ぎるのを抑制できる。これにより、耐圧構造部102の信頼性が低下するのを抑制できる。さらには、電界緩和領域9aの第2部分92aを形成する工程では第2導電型の不純物のドーズ量を1×1015cm-2以上、2×1015cm-2未満に減らしているので、3C-SiCの濃度が濃い部分の深さを浅く抑えることができ、3C-SiCと比較してバンドギャップが広い4H-SiCが占める領域が必要以上に減少するのを抑制できる。なお、リング領域9bについても、同様である。
【0067】
また、上述の製造方法では、n型不純物のイオン注入を行ってからp型不純物のイオン注入を行っていたが、先にp型不純物のイオン注入を行ってから、n型不純物のイオン注入を行っても良い。
【0068】
(第2実施形態)
第2実施形態に係るSiC半導体装置100は、
図2に示した第1実施形態に係るSiC半導体装置100のうち、電界緩和領域9aの第2部分92aの構成が異なる。第2実施形態に係る第2部分92aは、
図13に示すように、側面及び底面がp型の4H-SiCからなる部分に接している。より具体的には、第2部分92aは、絶縁膜10がある上面側まで延在した第1部分91aに接している。つまり、第2部分92aの側面及び底面は第1部分91aにより覆われている。リング領域9bの第2部分92bについても、同様に、絶縁膜10がある上面側まで延在した第1部分91bに接し、その側面及び底面が第1部分91bにより覆われている。
【0069】
このような第2部分92a,92bの形状は、これには限定されないが、例えば、
図10に示すマスクパターン24の開口を、縦断面視で上方に向けて広がった形状にすることで形成することができる。
【0070】
一般的に、n型の4H-SiCとp型の3C-SiCとの境界に電界集中が生じ易い。第2実施形態に係るSiC半導体装置100によれば、第2部分92aと電流拡散層3との間に第1部分91aが介在しているので、p型の3C-SiCを含む第2部分92aが、電流拡散層3を構成するn型の4H-SiCに直接接することが抑制されている。これにより、電界集中を抑制することができ、第2部分92aが3C-SiCを含む場合であっても、電界緩和領域9aの耐圧性能が低化するのを抑制できる。リング領域9bについても、同様である。
【0071】
(第3実施形態)
第3実施形態に係るSiC半導体装置100は、
図2に示した第1実施形態に係るSiC半導体装置100のうち、電界緩和領域9aの構成が異なる。第3実施形態に係る電界緩和領域9aは、
図14に示すように、第1部分91a及び第2部分92aに加えて、ゲート底部保護領域4と同じ深さ位置にあり且つ4H-SiCからなる第2導電型(p+型)の第3部分93aを含んでいる。
【0072】
第3部分93aの上面は、第1部分91aの下面に接している。第3部分93aは、
図7に示すゲート底部保護領域4のイオン注入の際に、同時に形成することができる。そのため、第3部分93aの不純物濃度及び深さ方向に占める位置は、ゲート底部保護領域4の不純物濃度及び深さ方向に占める位置と同じである。
【0073】
電界緩和領域9aが第3部分93aを含むことにより、電界緩和領域9aと活性部101のp型領域との深さ方向の段差が緩和される。これにより、電界緩和領域9aの耐圧性能をより向上させることができる。
【0074】
(その他の実施形態)
上記のように、本開示の第1~第3実施形態を記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面は本開示を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0075】
例えば、第1~第3実施形態に係る半導体装置としてMOSFETを例示したが、n+型のドレイン領域1の代わりにp+型のコレクタ領域を設けた構成の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)にも適用可能である。また、IGBT単体以外にも、逆導通型IGBT(RC-IGBT)や、逆阻止絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(RB-IGBT)にも適用可能である。
【0076】
また、第1~第3実施形態において、電界緩和領域9aがガードリングであるとして説明したが、JTE構造であっても良い。
【0077】
また、第1~第3実施形態が開示する構成を、矛盾の生じない範囲で適宜組み合わせることができる。このように、本開示はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。したがって、本開示の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0078】
1…ドレイン領域(SiC基板)
2…ドリフト層
3…電流拡散層
3a,3b…n型層
4…ゲート底部保護領域
5…ベース領域
6,6a,6b…ソース領域
6c…チャネルストッパ領域
7a…トレンチ
7b…ゲート絶縁膜
7c…ゲート電極
81a,81b…埋込領域
82a,82b…ベースコンタクト領域
9a…電界緩和領域
9b…リング領域
91a,91b…第1部分
92a,92b…第2部分
93a…第3部分
10…絶縁膜
10a,10b,10c…コンタクトホール
11…バリアメタル層
12…ソース配線電極
13…ドレイン電極