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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125071
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】酸素還元触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/89 20060101AFI20240906BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20240906BHJP
   B01J 23/62 20060101ALN20240906BHJP
   H01M 4/92 20060101ALN20240906BHJP
   H01M 4/96 20060101ALN20240906BHJP
   H01M 4/88 20060101ALN20240906BHJP
【FI】
B01J23/89 M
B01J37/02 101D
B01J23/62 M
H01M4/92
H01M4/96 B
H01M4/88 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033156
(22)【出願日】2023-03-03
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年3月4日に電気化学会第89回大会講演予稿集(ウェブサイト)に掲載 令和4年3月15日に電気化学会第89回大会(オンライン開催)にて発表
(71)【出願人】
【識別番号】513099603
【氏名又は名称】兵庫県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 省吾
(72)【発明者】
【氏名】田鍋 舞斗
【テーマコード(参考)】
4G169
5H018
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA08
4G169BA08A
4G169BA08B
4G169BB05C
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BC22A
4G169BC22B
4G169BC62A
4G169BC62B
4G169BC67A
4G169BC67B
4G169BC75A
4G169BC75B
4G169CC32
4G169DA06
4G169EB18X
4G169FB14
4G169FB15
4G169FB19
4G169FC08
5H018AA01
5H018BB01
5H018BB06
5H018BB12
5H018BB13
5H018EE03
5H018EE08
5H018EE12
5H018HH01
5H018HH05
(57)【要約】
【課題】触媒活性が高い酸素還元触媒を実現できるようにする。
【解決手段】酸素還元触媒は、基材粒子101と、基材粒子101に担持された白金ナノ粒子102とを備えている。基材粒子101は、炭素粒子111と、炭素粒子111に担持された酸化物複合粒子112とを含む。酸化物複合粒子112は、コバルト-マンガン酸化物122と酸化スズナノ粒子121とを含み、白金ナノ粒子102は、クラスターを形成している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材粒子と、
前記基材粒子に担持された白金ナノ粒子とを備え、
前記基材粒子は、炭素粒子と、前記炭素粒子に担持された酸化物複合粒子とを含み、
前記酸化物複合粒子は、コバルト-マンガン酸化物と酸化スズナノ粒子とを含み、
前記白金ナノ粒子は、クラスターを形成している、酸素還元触媒。
【請求項2】
前記クラスターのサイズは、2nm以上、30nm以下である、請求項1に記載の酸素還元触媒。
【請求項3】
前記酸化物複合粒子は、スズ、コバルト、マンガン及び酸素の合計に対するスズの元素比率が3.0at%~8.0at%、コバルトの元素比率が1.0at%~4.0at%、マンガンの元素比率が0.10at%~1.0at%である、請求項1又は2に記載の酸素還元触媒。
【請求項4】
酸化スズナノ粒子を炭素粒子に担持させる工程と、
酸化スズナノ粒子の表面にコバルト-マンガン水酸化物を堆積する工程と、
コバルト-マンガン水酸化物を酸化してコバルト-マンガン酸化物を形成する工程と、
前記コバルト-マンガン酸化物を堆積した酸化スズナノ粒子を、炭素粒子に担持させた基材粒子に白金ナノ粒子を担持させる工程とを備えている、酸素還元触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は酸素還元触媒及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池をはじめとして、種々の用途において、酸素分子を水分子等に還元する酸素還元触媒が利用されている。燃料電池用の酸素還元触媒として、基材である炭素粒子に白金等の貴金属触媒を担持させた基材担持触媒が一般的に用いられている。
【0003】
しかし、炭素粒子を基材とする基材担持触媒は、劣化しやすいという問題を有している。基材担持触媒が劣化する原因の1つとして、基材である炭素粒子上において担持された金属触媒が、溶解と再析出とを繰り返すことにより、肥大化して有効な触媒面積が低下することが挙げられる。また、基材である炭素粒子が酸化劣化し、貴金属触媒が基材から離脱することも劣化の原因として挙げられる。
【0004】
このため、炭素ではなく、酸化スズ粒子を担持の基材とし、基材の表面を被覆する酸化スズ層又は酸化チタン層に貴金属触媒を担持させることが検討されている(例えば、特許文献1を参照。)。また、酸化スズ粒子を炭素粒子に担持させた酸化スズ修飾炭素粒子を形成し、これに貴金属触媒を担持させた構成とすることも検討されている(例えば、特許文献2を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-183273号公報
【特許文献2】特開2012-525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、酸化スズは、炭素と比べて導電性に劣るため、酸化スズ粒子を基材とする基材担持触媒は、炭素を基材とする場合よりも触媒活性が低下するという問題がある。酸化スズ修飾炭素粒子を用いることにより、導電性が向上するので、触媒活性を向上できると期待される。しかし、本願発明者らが鋭意検討した結果、酸化スズ修飾炭素粒子を用いても、十分な触媒活性の向上を実現できないことが明らかとなった。
【0007】
本開示の課題は、基材担持触媒の触媒活性をさらに向上させることができるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の酸素還元触媒の一態様は、基材粒子と、基材粒子に担持された白金ナノ粒子とを備え、基材粒子は、炭素粒子と、炭素粒子に担持された酸化物複合粒子とを含み、酸化物複合粒子は、コバルト-マンガン酸化物と酸化スズナノ粒子とを含み、白金ナノ粒子は、クラスターを形成している。
【0009】
酸素還元触媒の一態様において、酸化物複合粒子がコバルトマンガン-酸化物(CMO)を含むため、酸化スズよりも導電性を向上できるので、触媒活性が向上する。また、白金ナノ粒子を担持させる際にCMOとの酸化還元反応が生じるので、白金ナノ粒子をクラスターとして担持させることができる。これにより、基材担持触媒の表面における触媒として有効な白金の面積を大きくできるので、触媒活性をさらに向上できる。さらに、白金ナノ粒子を強固に担持できるので、脱離を生じにくくして耐久性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0010】
本開示の酸素還元触媒によれば、基材担持触媒の触媒活性をさらに向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態に係る酸素還元触媒の構成を示す模式図である。
図2】酸素還元触媒を示す透過型電子顕微鏡写真である。
図3】酸化還元触媒1の元素マッピング画像である。
図4】酸化還元触媒1の電子顕微鏡写真である。
図5図4の測定ラインに沿った各元素の測定強度を示すグラフである。
図6】酸化還元触媒1の構成を示す模式図である。
図7】酸化還元触媒2の電子顕微鏡写真である。
図8図7の測定ラインに沿った各元素の測定強度を示すグラフである。
図9】酸化還元触媒2の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1に示すように、本実施形態の酸素還元触媒は、基材粒子101と、基材粒子101に担持された白金ナノ粒子102とを有する基材担持触媒である。本実施形態において、基材粒子101は、炭素粒子111と、炭素粒子111に担持された酸化物複合粒子112とを含む複合粒子である。
【0013】
白金ナノ粒子(Ptナノ粒子)102は、複数の粒子が結合したクラスターを形成して、基材粒子101に担持されている。クラスターはコバルト(Co)-マンガン(Mn)酸化物を含む状態で存在するものもある。クラスターのサイズは、下限は好ましくは2nm以上、より好ましくは3nm以上、さらに好ましくは5nm以上、上限は好ましくは30nm以下、より好ましくは20nm以下である。なお、白金に代えて、触媒活性を有する金及びパラジウム等の貴金属を用いることもできる。また、クラスターのサイズは実施例に示すように、透過型電子顕微鏡により測定することができる。
【0014】
酸化物複合粒子112は、コバルト(Co)-マンガン(Mn)酸化物(CMO)122と酸化スズ(SnO2)ナノ粒子121とを含む。CMO122は、酸化スズナノ粒子121の表面に堆積した状態で存在している。CMO122が、酸化スズナノ粒子121の表面を被覆していることが好ましい。また、CMO122は、アモルファス状態とすることができる。酸化スズナノ粒子121は、1つの粒子の粒径が3nm~8nm程度とすることができ、酸化物複合粒子112は、これらの粒子が結合した、粒径が30nm~80nm程度凝集体とすることができる。
【0015】
炭素粒子111は、平均一次粒径が20nm~100nm程度とすることができる。炭素粒子111により、基材粒子101全体としての導電性を向上させることができる。基材粒子101は、炭素粒子111と、酸化物複合粒子112とが複雑に結合した凝集体となっている。
【0016】
CMOにおけるコバルト(Co)とマンガン(Mn)の元素の存在比率は、3:1~10:1が好ましい。酸化物複合粒子112における、Sn、Co、Mn及びOの合計に対するSnの元素比率は、3.0at%~8.0at%、Coの元素比率は1.0at%~4.0at%、Mnの元素比率は、0.10at%~1.0at%、酸素の元素比率は88~95at%が好ましい。基材粒子101における炭素粒子111と酸化物複合粒子112との質量比は、7:1~10:1程度が好ましい。なお、CMOにおける、Co、Mn、及びSnの元素比率はエネルギー分散型X線分析装置(EDX)により測定することができる。
【0017】
本実施形態の酸素還元触媒は以下のようにして調製することができる。まず、酸化スズナノ粒子(SnO2ナノ粒子)と炭素粒子とを分散媒中において混合した後、乾燥して炭素粒子と結合させ、酸化スズナノ粒子/Cナノ粒子(SnO2/C)を調整する。炭素粒子は、導電性を有するカーボンブラックを用いることができ、ガス化法により製造されたもの(例えば、ライオンアクゾ社のケッチェンブラック(KB))やファーネス法により製造された物(例えば、キャボット社のバルカン)等が好ましい。分散媒は、例えば、メタノールと水との混合溶媒とすることができる。SnO2ナノ粒子と炭素粒子との混合には、例えば、超音波ホモジナイザーを用いることができる。
【0018】
次に、調製したSnO2/Cと、過マンガン酸カリウム(KMnO4)と、酢酸コバルト(CH3COO)2Coとを水中で反応させる。SnとMnとCoとの質量比は、3:2:20程度とすることが好ましい。これにより、コバルト-マンガン水酸化物(CMOH)を表面に有するCMOH-SnO2/Cを調製する。
【0019】
次に、得られたCMOH-SnO2/Cを熱処理して、CMOHを酸化し、CMOを表面に有する酸化スズナノ粒子(CMO-SnO2/C)からなる、基材粒子を調製する。熱処理は、200℃程度で2時間程度行うことが好ましい。このような工程とすることにより、炭素表面上の水酸基を取り除くことができるので、炭素に直接担持された白金ナノ粒子を生じにくくできるという利点がある。但し、CMOH-SnO2を形成してから炭素粒子に担持させたり、先にCMOH-SnO2を酸化してCMO-SnO2とした後で炭素粒子に担持させたりすることもできる。
【0020】
得られた基材粒子をエチレングリコール水溶液に分散させ、これに塩化白金酸カリウム(K2[PtCl4])、塩化白金酸ナトリウム(Na2[PtCl4])及び塩化白金酸(H2[PtCl4])等の白金前駆体の水溶液を加える。この後、攪拌及び過熱を行って、基材粒子の表面に白金ナノ粒子を堆積させる。溶液から固体成分を回収して乾燥することにより、酸素還元触媒が得られる。基材粒子と白金とは質量比が8:2程度となるように混合することが好ましい。固体成分の回収は、遠心分離により分離した沈殿物を水洗した後、乾燥をすることが好ましい。
【0021】
本実施形態の酸素還元触媒は、酸化スズナノ粒子とCMOとを含む酸化物複合粒子と炭素粒子とからなる基材粒子を用いている。このため、基材粒子の導電性を高く保つことができるので、触媒活性の低下を抑えることができる。また、酸化物複合粒子は、CMOが酸化スズナノ粒子の表面に堆積しており、酸化スズナノ粒子単独の場合と比べて、大きな凝集体を形成する。このため、白金を効率よく堆積しやすくできる。さらに、CMOを含むことにより、白金ナノ粒子がクラスターを形成して担持される。これは、(K2[PtCl4])等の白金前駆体とCMOを構成するCo及びMnとが反応して、CMOの一部が還元溶解して電子が発生し、白金イオンの還元と凝集が生じるためであると考えられる。白金ナノ粒子がクラスターとしてCMOを含む酸化物複合粒子に担持されることにより、白金と酸化物複合粒子との間の相互作用が強化され、白金の触媒活性を向上できる。
【実施例0022】
実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。以下の実施例は、例示であり本発明を限定することを意図しない。
【0023】
<酸素還元触媒の調製>
0.03gのSnO2ナノ粒子の水分散溶液(SnO2濃度15%)に、2mLのエタノールを加えて十分撹拌した。次に、0.045gのカーボンブラック(ケッチェンブラック(KB))を加え、超音波バスで2時間超音波を与えた。SnO2とKBの質量比は9:1とした。超音波後、真空オーブンにて65℃程度で2時間程度加熱することで、KB表面にSnO2を堆積させ、SnO2/Cを得た。
【0024】
得られた0.05gのSnO2/Cに20mLのエタノールと10mLの蒸留水を加え、超音波ホーンホモジナイザー(UX-050:Mitsui Electric社製)を用いて3分間超音波を照射して分散させ、撹拌を開始した。0.009gの過マンガン酸カリウム(KMnO4)と0.1gの酢酸コバルト((CH3COO)2Co)とを加えた。得られた溶液を室温で20分間撹拌することで、SnO2/Cの表面にコバルト-マンガン水酸化物(CMOH)を堆積させた。その後、CMOH-SnO2/C溶液を、遠心分離を行うことで未反応物質を含む溶液除去してCMOH-SnO2/Cを得た。得られたCMOH-SnO2/Cを電気炉中にて、200℃で2時間加熱することにより、CMOHをコバルトマンガン酸化物(CMO)に変換し、CMO-SnO2/Cからなる基材粒子を得た。
【0025】
21mgの基材粒子を、35mLのエチレングリコール溶液に分散させた。エチレングリコール溶液は、エチレングリコールと蒸留水とを体積比2:1で混合した。分散には、超音波ホーンホモジナイザー(UX-050:Mitsui Electric社製)を用い、超音波の照射時間は、1分30秒とした。次に、塩化白金酸カリウム(K[PtCl])を20mg/mLの濃度になるように水に溶解させた溶液を558μL加えた。白金量は担持体と質量比で20:80となる量とした。室温で一晩撹拌した後、溶液を130℃のホットプレート上で2時間加熱して、基材粒子に白金を堆積させた。溶液を冷却した後、遠心分離を行い溶液と沈殿物とを分離した。沈殿物を蒸留水で3回洗浄した後、60℃の恒温槽で乾燥して、酸素還元触媒1を得た。
【0026】
また、基材粒子をCMOH-SnO2/C、SnO2/C及びC(ケッチェンブラック)に代えた酸素還元触媒2~4を調製した。
【0027】
<CMOの確認>
処理前の酸化スズナノ粒子、CMOH-SnO2及びCMOH-SnO2を300℃で2時間加熱して調製したCMO-SnO2について、エネルギー分散型X線分析装置(EDX、TM3030:HITACHI社製)により酸素(O)、Mn、Co、Snの存在比率を測定した。条件は、1000倍の倍率で3箇所測定し平均を取った。表1に示すように、未処理の酸化スズナノ粒子には認められないMn及びCoの存在が確認され、酸化スズナノ粒子の表面にMn及びCoが堆積していることが確認された。EDXにより得られたCoとMnの元素比率は約3:1であるので、CMOHは、Co9Mn32613に近い組成となり、これからHが脱離してCMOが形成されていると推定された。
【0028】
また、フーリエ変換赤外分光分析装置(FT-IR、ALPHA:Bruker社製)を用いた測定において、CMOH-SnO2に存在している水酸基に由来する複数のピークが、熱処理後には消失し、代わってCo-O結合に由来する650cm-1付近のピークの出現が観測され、CMO-SnO2の生成が確認された。
【0029】
また、X線回折装置(XRD、MiniFlexII:Rigaku社製)を用いた測定において、SnO2に由来するピークは明確に観察されたが、Co及びMnに関するピークは観察されず、CMOH及びCMOはアモルファス状態となっていると推定された。
【0030】
【表1】
【0031】
次に、白金を堆積させた酸素還元触媒1についても、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)により、表1と同一条件で酸素(O)、Mn、Co、Snの存在比率(原子%)を測定した結果、酸素(O):92.3at%、Mn:0.25at%、Co:2.15at%、Sn:5.31at%であった。白金堆積前と比べ、Sn,Co,Mnの元素比率が低下している。これは白金の堆積の際に溶出したものと考えられる。特にMnの低下が大きいのは、MnがPtと入れ替わることで、Ptが堆積していると考えられる。
【0032】
<白金ナノ粒子の担持の確認>
透過型電子顕微鏡(TEM、JEM-2100:JEOL社製)により、酸素還元触媒1及び酸素還元触媒3を観察し、白金ナノ粒子の状態を確認した。図2(a)に示すように、基材粒子がCMO-SnO2/Cである酸素還元触媒1においては、黒く見える白金ナノ粒子のサイズが大きく、クラスターを形成している。一方、図2(b)に示すように、基材粒子がSnO2/Cである酸素還元触媒3においては、細かな白金ナノ粒子が基材粒子に分散している。図2(a)に示す酸素還元触媒1のTEMの画像に写るクラスターのサイズを測定し、20個の平均値を求めたところ、約5nmであった。
【0033】
透過型電子顕微鏡(Talos F200X G2 TEM、Thermo Fisher Scientic社製)により、元素のマッピングを行ったところ、図3に示すように、Ptがクラスターとなって存在していることが示された。また、図4のラインに沿って元素マッピングを行ったところ、図5に示すようにPtは、Sn及びCo,Mnと共に存在していた。このことから、白金ナノ粒子は、カーボンの表面に直接担持されているのではなく、図6に示すようにCMO-SnO2の部分に担持されている。
【0034】
一方、基材がCMOH-SnO2/Cである酸素還元触媒2について、図7に示すラインについて元素マッピングを行ったところ、図8に示すように、Ptの存在位置とSnの存在位置とはずれており、図9に示すようにカーボンの表面に直接担持されている白金ナノ粒子も多数存在していることが示された。
【0035】
<触媒活性の評価>
回転ディスク電極システム(HR-500, HOKUTO DENKO CORPORATION)と電気化学装置(HZ-7000:HOKUTO DENKO社製)とを組み合わせて、サイクリックボルタンメトリー(CV)、リニアスイープボルタンメトリー(LSV)を測定した。
【0036】
作用極に電極表面積が0.196cm2のグラッシーカーボンディスク電極(GCDE、HR2-D1-GC5:HOKUTO DENKO社製)を用い、参照極に可逆水素電極(Reversible Hydrogen Electrode(RHE)、インターケミ社製)を用い、対極に白金線電極(HX-C13A:HOKUTO DENKO社製)を用い、電解液に0.1MHClO4水溶液を用いた。
【0037】
グラッシーカーボン電極上に各酸素還元触媒を含む溶液(触媒インク)を10μL滴下し、60℃の恒温槽で乾燥させることで触媒層を堆積させた。グラッシーカーボン電極に堆積させる触媒量は、グラッシーカーボン電極表面の白金量が17.3μgPt/cm2となる量とした。
【0038】
CVの測定は、回転ディスク電極を静止状態として、窒素飽和下で0.05V~1.2Vの範囲を50mV/sの速度で50サイクル掃引して行った。50サイクル目の0.05V~0.4Vの水素吸着電気量(QH)と白金担持量(LPt)から白金1g当たりの有効表面積(electro chemical surface area:ECSA)を算出した。ECSAが高いほど、電解液に露出して触媒として機能する白金の表面積が大きいことを示す。ECSAは次の式(1)を用いて求めた。
【0039】
【数1】
【0040】
LSVの測定は,酸素飽和下で0.05V~1.2Vの範囲を10mV/sの速度で掃引しながら行った。LSV測定は、作用極を回転させながら行い、作用極の回転速度は100rpm、400rmp、900rpm、1600rpm及び2500rpmとした。
【0041】
作用極の回転速度とLSV測定における0.9Vでの電流値から、Koutecky-Levich式で物質移動の補正を行うことにより、白金1gあたりの電流値である酸素還元反応活性値(MA、Mass activity)を算出した。MAが大きいほど同じ電流値を出すための白金量が少ないことを表す。
【0042】
MAをECSAで割ることにより、白金質量の項を消去した面積比活性(SA、specific activity)を算出した。SAが大きいほど,その表面積当たりの触媒活性値が高い事を示す。
【0043】
基材がCMO-SnO2/Cである酸素還元触媒1のECSAは31.3m2/gであり、MAは119.9A/gであり、SAは383.1μA/m2であった。
【0044】
基材がCMOH-SnO2/Cである酸素還元触媒2のECSAは35.6m2/gであり、MAは68.9A/gであり、SAは193.5μA/m2であった。
【0045】
基材がSnO2/Cである酸素還元触媒3のECSAは78.9m2/gであり、MAは91.6A/gであり、SAは116.1μA/m2であった。
【0046】
基材がC(ケッチェンブラック)である酸素還元触媒4のECSAは69.7m2/gであり、MAは60.8A/gであり、SAは87.2μA/m2であった。
【0047】
基材がCMO-SnO2/Cである酸素還元触媒1においては、他の材料を基材とする酸化還元触媒2~4と比べてMA及びSAが大きく、少ない白金量で大きな電流を取り出すことができ、担持されている白金ナノ粒子の触媒活性が高いことが示されている。
【0048】
<耐久性の評価>
窒素飽和下において、1.0V~1.5Vの電圧範囲で0.5V/sの速度で電圧を掃引させるサイクルを100,000サイクル繰り返した後のECSA及びMAを、試験前の値と比較した。これは、燃料電池実用推進協議会(FCCJ)が燃料電池の起動停止サイクルに対する評価方法として定めた耐久性試験プロトコルに準拠したものである。
【0049】
基材がCMO-SnO2/Cである酸化還元触媒1の場合、ECSAは試験前の43%となり、MAは試験前の48%となった。
【0050】
基材がC(ケッチェンブラック)である酸化還元触媒4の場合、ECSAは試験前の43%となり、MAは試験前の15%となった。
【0051】
触媒活性及び耐久性の評価結果を表2にまとめて示す。CMO-SnO2/Cを基材とすることにより、MAの経時変化を小さくでき、耐久性が向上する。
【0052】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0053】
本開示の酸素還元触媒は、高い触媒活性を示し、燃料電池等の分野を含む種々の分野において有用である。
【符号の説明】
【0054】
101 基材粒子
102 白金ナノ粒子
111 炭素粒子
112 酸化物複合粒子
121 酸化スズナノ粒子
122 コバルト-マンガン酸化物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9