(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125073
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】多層樹脂ファイバーの製造装置及び製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 48/16 20190101AFI20240906BHJP
B29C 48/335 20190101ALI20240906BHJP
B29C 48/49 20190101ALI20240906BHJP
B29C 48/92 20190101ALI20240906BHJP
B29C 48/05 20190101ALI20240906BHJP
B29K 27/12 20060101ALN20240906BHJP
B29L 9/00 20060101ALN20240906BHJP
【FI】
B29C48/16
B29C48/335
B29C48/49
B29C48/92
B29C48/05
B29K27:12
B29L9:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033162
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100143236
【弁理士】
【氏名又は名称】間中 恵子
(72)【発明者】
【氏名】清水 享
(72)【発明者】
【氏名】今村 康晴
(72)【発明者】
【氏名】守屋 亮
【テーマコード(参考)】
4F207
【Fターム(参考)】
4F207AA16
4F207AA17
4F207AG03
4F207AG14
4F207AH77
4F207AJ08
4F207AK01
4F207AR06
4F207KA01
4F207KA17
4F207KB26
4F207KL65
4F207KL88
4F207KM15
(57)【要約】
【課題】コアの偏心量を制御することができる多層樹脂ファイバーの製造装置を提供することを目的とする。
【解決手段】多層樹脂ファイバーの製造装置100は、第1押出装置101aと、第2押出装置101dと、ノズル150と、第2押出装置101aとノズル150との間に設けられた第1合流金型140と、第1合流金型140の周囲に配置された第1加熱部及び第2加熱部と備える。第1押出装置101aは、第1樹脂材料1aを溶融させて押し出し、第2押出装置101dは、第2樹脂材料1dを溶融させて押し出す。第1合流金型140は、第1押出装置101aから押し出された1樹脂材料1aによって形成された第1樹脂層2の外周を、第2押出装置104dから押し出された第2樹脂材料1dが覆うように、第2樹脂材料1dを第1樹脂層2に合流させる。第1加熱部及び第2加熱部は、第1合流金型140の中心軸に対して互いに向かい合う位置に配置され、かつそれぞれ個別に温度を制御することが可能である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアを形成する第1樹脂層と、前記第1樹脂層を同心円状に覆う第2樹脂層とを含む多層樹脂ファイバーの製造装置であって、
前記製造装置は、
第1押出装置と、
第2押出装置と、
ノズルと、
前記第2押出装置と前記ノズルとの間に設けられた第1合流金型と、
前記第1合流金型の周囲の少なくとも一部を覆うように配置された第1加熱部及び第2加熱部と、
を備え、
前記第1押出装置は、前記第1樹脂層を形成するための第1樹脂材料を溶融させて押し出し、
前記第2押出装置は、前記第2樹脂層を形成するための第2樹脂材料を溶融させて押し出し、
前記第1合流金型は、前記第1押出装置から押し出された前記1樹脂材料によって形成された前記第1樹脂層の外周を、前記第2押出装置から押し出された前記第2樹脂材料が覆うように、前記第2樹脂材料を前記第1樹脂層に合流させ、
前記第1加熱部及び前記第2加熱部は、前記第1合流金型の中心軸に対して互いに向かい合う位置に配置され、かつそれぞれ個別に温度を制御することが可能であり、
前記ノズルは、前記第1合流金型によって得られた前記第1樹脂層及び前記第2樹脂層を含む第1積層体を、ファイバー状に吐出する、
多層樹脂ファイバーの製造装置。
【請求項2】
前記製造装置は、前記第1合流金型の前記周囲の少なくとも一部を覆うように配置された第3加熱部及び第4加熱部をさらに備え、
前記第3加熱部及び前記第4加熱部は、前記第1合流金型の中心軸に対して互いに向かい合う位置に配置され、かつそれぞれ個別に温度を制御することが可能である、
請求項1に記載の多層樹脂ファイバーの製造装置。
【請求項3】
前記多層樹脂ファイバーは、前記第1樹脂層を同心円状に覆い、かつ前記第1樹脂層と前記第2樹脂層との間に配置された第3樹脂層をさらに含み、
前記製造装置は、第3押出装置及び第2合流金型をさらに備え、
前記第3押出装置は、前記第3樹脂層を形成するための第3樹脂材料を溶融させて押し出し、
前記第2合流金型は、前記製造装置における前記第1樹脂層の流れを基準として前記第1合流金型よりも上流側の位置に配置されており、かつ前記第1押出装置から押し出された前記1樹脂材料によって形成された前記第1樹脂層の外周を、前記第3押出装置から押し出された前記第3樹脂材料が覆うように、前記第3樹脂材料を前記第1樹脂層に合流させ、
前記第1合流金型は、前記第2合流金型によって得られた前記第1樹脂層及び前記第3樹脂層を含む第2積層体の外周を、前記第2押出装置から押し出された前記第2樹脂材料が覆うように、前記第2樹脂材料を前記第2積層体に合流させる、
請求項1に記載の多層樹脂ファイバーの製造装置。
【請求項4】
前記製造装置は、前記第1合流金型の前記周囲の少なくとも一部を覆うように配置された第3加熱部及び第4加熱部をさらに備え、
前記第3加熱部及び前記第4加熱部は、前記第1合流金型の中心軸に対して互いに向かい合う位置に配置され、かつそれぞれ個別に温度を制御することが可能である、
請求項3に記載の多層樹脂ファイバーの製造装置。
【請求項5】
前記多層樹脂ファイバーは、前記第1樹脂層を同心円状に覆い、かつ前記第3樹脂層と前記第2樹脂層との間に配置された第4樹脂層をさらに含み、
前記製造装置は、第4押出装置及び第3合流金型をさらに備え、
前記第4押出装置は、前記第4樹脂層を形成するための第4樹脂材料を溶融させて押し出し、
前記第3合流金型は、前記製造装置における前記第1樹脂層の流れを基準として前記第2合流金型よりも下流であって、かつ前記第1合流金型よりも上流側の位置に配置されており、かつ前記第2合流金型によって得られた前記第1樹脂層及び前記第3樹脂層を含む前記第2積層体の外周を、前記第4押出装置から押し出された前記第4樹脂材料が覆うように、前記第4樹脂材料を前記第2積層体に合流させ、
前記第1合流金型は、前記第3合流金型によって得られた前記第1樹脂層、前記第3樹脂層、及び前記第4樹脂層を含む第3積層体の外周を、前記第2押出装置から押し出された前記第2樹脂材料が覆うように、前記第2樹脂材料を前記第3積層体に合流させる、
請求項3に記載の多層樹脂ファイバーの製造装置。
【請求項6】
前記製造装置は、前記第1合流金型の前記周囲の少なくとも一部を覆うように配置された第3加熱部及び第4加熱部をさらに備え、
前記第3加熱部及び前記第4加熱部は、前記第1合流金型の中心軸に対して互いに向かい合う位置に配置され、かつそれぞれ個別に温度を制御することが可能である、
請求項5に記載の多層樹脂ファイバーの製造装置。
【請求項7】
前記第1加熱部と、前記第2加熱部とは、前記第1合流金型の周方向に沿って、互いに接触しないように配置されている、
請求項1に記載の多層樹脂ファイバーの製造装置。
【請求項8】
前記製造装置は、制御器をさらに備え、
前記制御器は、前記第1加熱部の設定温度が前記第2加熱部の設定温度と異なるように、前記第1加熱部及び前記第2加熱部を制御する、
請求項1に記載の多層樹脂ファイバーの製造装置。
【請求項9】
前記第1合流金型は、前記第2樹脂材料が前記第1合流金型内で前記第1樹脂層に合流する際に、所定の複数の方向から合流するように構成されており、
前記製造装置は、前記第1加熱部および前記第2加熱部によって前記第1合流金型の温度を周方向に変化させることで、前記第1合流金型内で任意の方向から合流する前記第2樹脂材料の温度を制御可能である、
請求項1に記載の多層樹脂ファイバーの製造装置。
【請求項10】
前記第1加熱部と、前記第2加熱部と、前記第3加熱部と、前記第4加熱部とは、前記第1合流金型の周方向に沿って、隣り合う加熱部同士が互いに接触しないように配置されている、
請求項2に記載の多層樹脂ファイバーの製造装置。
【請求項11】
前記製造装置は、制御器をさらに備え、
前記制御器は、前記第1加熱部、前記第2加熱部、前記第3加熱部、及び前記第4加熱部からなる群より選択される少なくとも一つの加熱部の設定温度が他の加熱部の設定温度と異なるように、前記第1加熱部、前記第2加熱部、前記第3加熱部、及び前記第4加熱部を制御する、
請求項2に記載の多層樹脂ファイバーの製造装置。
【請求項12】
前記第1合流金型は、前記第2樹脂材料が前記第1合流金型内で前記第1樹脂層に合流する際に、所定の複数の方向から合流するように構成されており、
前記製造装置は、前記第1加熱部、前記第2加熱部、前記第3加熱部、及び前記第4加熱部によって前記第1合流金型の温度を周方向に変化させることで、前記第1合流金型内で任意の方向から合流する前記第2樹脂材料の温度を制御可能である、
請求項2に記載の多層樹脂ファイバーの製造装置。
【請求項13】
前記第2合流金型及び前記第3合流金型からなる群より選択される少なくとも1つの合流金型の周囲の少なくとも一部を覆うように配置された、複数の加熱部をさらに備える、
請求項5に記載の多層樹脂ファイバーの製造装置。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか1項に記載の多層樹脂ファイバーの製造装置を用いて、多層樹脂ファイバーを製造する製造方法であって、
前記製造方法は、
(a)前記第1合流金型の周方向の温調を不均一に設定すること、
を含む、多層樹脂ファイバーの製造方法。
【請求項15】
前記(a)において、前記第1合流金型の周方向の温調を不均一に設定することによって、前記第1樹脂層の中心と前記第2樹脂層の中心との間の距離を調整する、
請求項14に記載の多層樹脂ファイバーの製造方法。
【請求項16】
前記製造装置は、請求項3に記載の多層樹脂ファイバーの製造装置であり、
前記(a)において、前記第1合流金型の周方向の温調を不均一に設定することによって、前記第3樹脂層の中心と前記第2樹脂層の中心との間の距離を調整する、
請求項14に記載の多層樹脂ファイバーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、多層樹脂ファイバーの製造装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多層樹脂ファイバーの一例として、プラスチック光ファイバー(以下、「POF」と記載する。)が挙げられる。POFは、例えば、光を伝送する部分としての中心部のコアと、当該コアの外周を覆うクラッドとを備えている。コアは、高屈折率を有する樹脂材料によって形成されている。クラッドは、光をコア内に留めるために、コアの樹脂材料よりも低い屈折率を有する樹脂材料によって形成されている。さらに、POFには、補強のために、クラッドの外周に被覆層がさらに設けられた構成を有するものもある。
【0003】
POFのような多層樹脂ファイバーは、溶融紡糸法により製造できる。溶融紡糸法では、原料の樹脂を溶融押出成形することによって、多層樹脂ファイバーを構成する各層を形成する。特許文献1には、樹脂を加熱溶融し、溶融した樹脂をファイバー状に押出し成形してPOFを製造する方法が開示されている。
【特許文献1】特開2000-356716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
溶融紡糸法によって製造された多層樹脂ファイバーには、コアの中心の位置が多層樹脂ファイバーの中心の位置からずれるという問題、すなわちコアの偏心が生じやすいという問題がある。なお、多層樹脂ファイバーの中心とは、多層樹脂ファイバーの外径の中心である。また、コアの偏心量とは、多層樹脂ファイバーの外径の中心とコア径の中心との距離である。
【0005】
多層樹脂ファイバーにおけるコアの偏心は、多層樹脂ファイバーの特性に影響を及ぼす。例えば、多層樹脂ファイバーがPOFである場合、コアの偏心量がPOFの特性に大きな影響を及ぼすことが知られている。したがって、多層樹脂ファイバーを溶融紡糸法によって製造する場合に、コアの偏心量を制御できる技術が求められている。
【0006】
上記のようなコアの偏心が生じる原因の1つとして、コアに対して外層の樹脂を合流させるために用いられる合流金型のずれ(すなわち、設備の公差)が考えられる。また、合流金型は、溶融紡糸装置を使用する際にその都度組み立てる場合もある。したがって、このような合流金型に起因するコアの偏心は、合流金型ごと、そしてその合流金型の組立ごとに異なる。したがって、コアの偏心量を制御することは容易ではない。
【0007】
本開示は、コアの偏心量を制御することができる多層樹脂ファイバーの製造装置及び製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の第1態様は、コアを形成する第1樹脂層と、前記第1樹脂層を同心円状に覆う第2樹脂層とを含む多層樹脂ファイバーの製造装置であって、
前記製造装置は、
第1押出装置と、
第2押出装置と、
ノズルと、
前記第2押出装置と前記ノズルとの間に設けられた第1合流金型と、
前記第1合流金型の周囲の少なくとも一部を覆うように配置された第1加熱部及び第2加熱部と、
を備え、
前記第1押出装置は、前記第1樹脂層を形成するための第1樹脂材料を溶融させて押し出し、
前記第2押出装置は、前記第2樹脂層を形成するための第2樹脂材料を溶融させて押し出し、
前記第1合流金型は、前記第1押出装置から押し出された前記1樹脂材料によって形成された前記第1樹脂層の外周を、前記第2押出装置から押し出された前記第2樹脂材料が覆うように、前記第2樹脂材料を前記第1樹脂層に合流させ、
前記第1加熱部及び前記第2加熱部は、前記第1合流金型の中心軸に対して互いに向かい合う位置に配置され、かつそれぞれ個別に温度を制御することが可能であり、
前記ノズルは、前記第1合流金型によって得られた前記第1樹脂層及び前記第2樹脂層を含む第1積層体を、ファイバー状に吐出する。
【0009】
本開示の第2態様に係る多層樹脂ファイバーの製造方法は、上記第1態様に係る多層樹脂ファイバーの製造装置を用いて、多層樹脂ファイバーを製造する製造方法であって、
前記製造方法は、
(a)前記第1合流金型の周方向の温調を不均一に設定すること、
を含む。
【発明の効果】
【0010】
本開示の多層樹脂ファイバーの製造装置及び製造方法によれば、コアの偏心量を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本開示の実施形態による多層樹脂ファイバーの製造装置の一例を示す概略断面図である。
【
図3】
図3は、
図1に示された、周囲に加熱部が設けられた第1合流金型を、第1樹脂層の流入口側から見た様子を模式的に示す平面図である。
【
図4】
図4は、第1合流金型を構成する上金型を、第1樹脂層及び当該第1樹脂層の周囲に合流させた第2樹脂材料の流出口側から見た様子を模式的に示す平面図である。
【
図5】
図5は、コア、クラッド、及び被覆層を備えたPOFを示す断面図である。
【
図6】
図6は、実施例においてコアの偏心量の評価に使用した計測システムを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(用語の定義)
本明細書において、樹脂材料とは、所定の形状(すなわち、目的とする樹脂製品の形状)に成形される前のものを意味する。固体状の樹脂材料は、例えば、樹脂製品の製造のために所定の形状に成形される前の樹脂ロッドである。
【0013】
(本開示の実施形態)
本開示の多層樹脂ファイバーの製造装置及び製造方法について説明する。
【0014】
本実施形態の製造装置は、コアを形成する第1樹脂層と、第1樹脂層を同心円状に覆う第2樹脂層とを含む多層樹脂ファイバーを製造する装置である。
【0015】
本実施形態の製造装置は、第1押出装置と、第2押出装置と、ノズルと、第2押出装置とノズルとの間に設けられた第1合流金型と、第1合流金型の周囲の少なくとも一部を覆うように配置された第1加熱部及び第2加熱部と、を備える。第1押出装置は、第1樹脂層を形成するための第1樹脂材料を溶融させて押し出す。第2押出装置は、第2樹脂層を形成するための第2樹脂材料を溶融させて押し出す。第1合流金型は、第1押出装置から押し出された1樹脂材料によって形成された第1樹脂層の外周を、第2押出装置から押し出された第2樹脂材料が覆うように、第2樹脂材料を第1樹脂層に合流させる。第1加熱部及び2加熱部は、第1合流金型の中心軸に対して互いに向かい合う位置に配置され、かつそれぞれ個別に温度を制御することが可能である。ノズルは、第1合流金型によって得られた第1樹脂層及び第2樹脂層を含む第1積層体を、ファイバー状に吐出する。
【0016】
第1樹脂層は、上述のとおり、多層樹脂ファイバーのコアを形成する。また、第2樹脂層は、例えば、多層樹脂ファイバーの最外層を形成する。したがって、その場合、多層樹脂ファイバーの外形及び外径は、第2樹脂層の外形及び外径によってそれぞれ決定される。すなわち、コアの偏心量は、第2樹脂層の外径の中心とコア径の中心との距離となる。
【0017】
本実施形態の製造装置は、第1合流金型の温度を制御するための加熱部として、上記のように構成された少なくとも2つの加熱部(第1加熱部および第2加熱部)を備える。したがって、第1加熱部および第2加熱部の設定温度を個別に制御することにより、第1合流金型を周方向に沿って異なる温度に調整することができる。このように第1合流金型の温度を周方向に沿って変化させることにより、第2樹脂層の外径の中心に対する第1樹脂層の外径(すなわち、コア径)の中心の位置、すなわちコアの偏心量を制御することができる。
【0018】
上記のようにコアの偏心量を制御できるメカニズムは、次のように想定される。第1合流金型の周囲に配置された複数の加熱部のうち、1つの加熱部が他の加熱部よりも低い温度に設定された場合、すなわち第1合流金型の周方向における一部の領域の温度が他の領域の温度よりも低く設定された場合、温度が低い領域で第1樹脂層と合流する第2樹脂材料の粘度は、温度が高い他の領域で第1樹脂層と合流する第2樹脂材料の粘度よりも高くなる。これにより、第2樹脂材料の粘度が高くなった領域では第2樹脂材料の流量が減少するので、第1樹脂層が温度の低い領域側に移動することになる。したがって、第1加熱部および第2加熱部の温度を個別に制御することによって、第1合流金型の周方向の温度を複数の領域に分けて調節することができる。その結果、第1合流金型に流入する第2樹脂材料の流量を第1合流金型の周方向に沿って調節できる。本開示の製造装置によれば、このようなメカニズムにより、コアの偏心量を制御することができると想定される。
【0019】
第1樹脂層は多層樹脂ファイバーのコアを形成し、第2樹脂層は、例えば樹脂ファイバーの最外層を形成する。したがって、第1樹脂層と第2樹脂層との間に、第1樹脂層を同心円状に覆う他の樹脂層がさらに設けられていてもよい。
【0020】
例えば、本実施形態の製造装置によって製造される多層樹脂ファイバーは、第1樹脂層を同心円状に覆い、かつ第1樹脂層と第2樹脂層との間に配置された第3樹脂層をさらに含んでいてもよい。このような構成を有する多層樹脂ファイバーを製造するための製造装置は、第3押出装置及び第2合流金型をさらに備える。第3押出装置は、第3樹脂層を形成するための第3樹脂材料を溶融させて押し出す。第2合流金型は、本実施形態の製造装置における第1樹脂層の流れを基準として第1合流金型よりも上流側の位置に配置されており、かつ第1押出装置から押し出された1樹脂材料によって形成された第1樹脂層の外周を、第3押出装置から押し出された第3樹脂材料が覆うように、第3樹脂材料を第1樹脂層に合流させる。すなわち、第2合流金型は、第1押出装置と第1合流金型との間の位置に配置されている。この場合、第1合流金型は、第2合流金型によって得られた第1樹脂層及び第3樹脂層を含む第2積層体の外周を、第2押出装置から押し出された第2樹脂材料が覆うように、第2樹脂材料を前記第2積層体に合流させる。
【0021】
上記の構成を有する製造装置によれば、少なくとも3層の樹脂層を含む多層樹脂ファイバーについて、コアの偏心量を制御することができる。
【0022】
本実施形態の製造装置によって製造される多層樹脂ファイバーは、第1樹脂層を同心円状に覆い、かつ第3樹脂層と第2樹脂層との間に配置された第4樹脂層をさらに含んでいてもよい。このような構成を有する多層樹脂ファイバーを製造するための製造装置は、第4押出装置及び第3合流金型をさらに備える。第4押出装置は、第4樹脂層を形成するための第4樹脂材料を溶融させて押し出す。第3合流金型は、本実施形態の製造装置における第1樹脂層の流れを基準として第2合流金型よりも下流であって、かつ第1合流金型よりも上流側の位置に配置されている。さらに、第3合流金型は、第2合流金型によって得られた第1樹脂層及び第3樹脂層を含む第2積層体の外周を、第4押出装置から押し出された第4樹脂材料が覆うように、第4樹脂材料を前記第2積層体に合流させる。すなわち、第3合流金型は、第2合流金型と第1合流金型との間の位置に配置されている。この場合、第1合流金型は、第3合流金型によって得られた第1樹脂層、第3樹脂層、及び第4樹脂層を含む第3積層体の外周を、第2押出装置から押し出された第2樹脂材料が覆うように、第2樹脂材料を前記第3積層体に合流させる。
【0023】
上記の構成を有する製造装置によれば、少なくとも4層の樹脂層を含む多層樹脂ファイバーについて、コアの偏心量を制御することができる。
【0024】
本実施形態の製造装置において、第1合流金型の温度制御のために第1合流金型の周囲に配置される加熱部は、上記第1加熱部及び上記第2加熱部のみに限定されない。例えば、本実施形態の製造装置は、第1合流金型の周囲の少なくとも一部を覆うように配置された第3加熱部及び第4加熱部をさらに備えていてもよい。第3加熱部及び第4加熱部は、第1合流金型の中心軸に対して互いに向かい合う位置に配置され、かつそれぞれ個別に温度を制御することが可能である。
【0025】
本実施形態の製造装置が、第1合流金型の周囲に配置された第1加熱部、第2加熱部、第3加熱部、及び第4加熱部を備えることにより、第1合流金型を周方向に沿って少なくとも4つの領域を分けて、それらの領域ごとに所望の温度に制御することができる。すなわち、第1合流金型の周方向に沿った温度調節をより細かい領域に分けて精度良く実施することができる。したがって、コアの偏心量をより精度良く制御することができる。
【0026】
以下、本実施形態の製造装置の一例として、4層の樹脂層を含む多層樹脂ファイバーを製造する製造装置を例に挙げて、本実施形態の製造装置を図面を参照しながら説明する。
【0027】
図1は、本開示の実施形態による多層樹脂ファイバーの製造装置の一例を示す概略断面図である。
図1に示された製造装置1000は、多層樹脂ファイバーとして、屈折率分布(GI)型のPOFを製造する装置である。
【0028】
図1に示された製造装置1000は、第1樹脂材料1aを押出成形するための第1押出装置101a、第3樹脂材料1bを押出成形するための第3押出装置101b、第4樹脂材料1cを押出成形するための第4押出装置101c、及び第2樹脂材料1dを押出成形するための第2押出装置101dを備える。ここで説明される多層樹脂ファイバーの例は、POFである。したがって、以下に説明される第1樹脂材料1aは、例えばPOFのコアを形成する樹脂材料であり、屈折率調整剤を含む。第3樹脂材料1bは、例えばPOFのコアを形成する樹脂材料であり、成形後に第1樹脂材料1a中の屈折率調整剤の一部が拡散されることにより、GI型POFのコアの外周部分を形成する。第4樹脂材料1cは、例えばPOFのクラッドを形成する樹脂材料である。第2樹脂材料1dは、例えばPOFの補強用の被覆層を形成する樹脂材料である。
【0029】
第1押出装置101aは、第1樹脂材料1aを収容する第1収容部102aと、第1収容部102aに収容されている第1樹脂材料1aを第1収容部102aから押し出す第1押出部103aとを有する。第1押出装置101aには、第1収容部102aで第1樹脂材料1aを溶融させることができるように、さらに溶融された第1樹脂材料1aが成形されるまで溶融状態を保つことができるように、加熱部(図示せず)がさらに設けられている。ロッド状の第1樹脂材料(プリフォーム)1aが、第1収容部102aの上方の開口部を通じて第1収容部102a内に挿入されて、第1収容部102a内で加熱されることによって溶融される。
【0030】
第1押出装置101aにおいては、第1樹脂材料1aは、ガス押出によって、第1押出部103aを介して第1収容部102aからコアとしての第1樹脂層2を形成するように外に押し出される。第1押出部103aを介して第1樹脂層2を形成するように押し出された第1樹脂材料1aは、その後鉛直方向下方に移動し、第2合流金型110に供給される。
【0031】
第3押出装置101bは、第3樹脂材料1bを収容する第3収容部102bと、第3収容部102bに収容されている第3樹脂材料1bを第3収容部102bから押し出す第3押出部103bとを有する。第3押出装置101bは、溶融した第3樹脂材料1bを、第1押出装置101aから押し出された第1樹脂材料1aで形成された第1樹脂層2の外周を被覆するように押し出す。具体的には、第3押出装置101bから押し出された第3樹脂材料は、第2合流金型110に供給される。第2合流金型110内において、第1樹脂材料1aで形成される第1樹脂層2を第3樹脂材料で被覆することによって、第1樹脂層2の外周を覆う第3樹脂層3を形成することができる。第1樹脂層2と、第1樹脂層2の外周を被覆する第3樹脂層3とで形成された第2積層体4は、第2合流金型110から第2合流金型110の鉛直方向下方に配置された拡散管120に移動する。拡散管120には、この第2積層体4を加熱するためのヒーター(図示せず)が配置されている。拡散管120は、拡散管120の内部を通過する第2積層体4の第1樹脂層2に含まれる屈折率調整剤等のドーパントを、第3樹脂層3に向かって拡散させる。すなわち、第1樹脂層2と第3樹脂層3とによって、最終的にPOFのコアが形成される。
【0032】
第4押出装置101cは、第4樹脂材料1cを収容する第4収容部102cと、第4収容部102cに収容されている第4樹脂材料1cを第4収容部102cから押し出す第4押出部103cとを有する。第4押出装置101cは、溶融した第4樹脂材料1cを、拡散管120を通過した第2積層体4の外周を被覆するように押し出す。具体的には、第4押出装置101cから押し出された第4樹脂材料1cは、第3合流金型130に供給される。第3合流金型130内において、第2積層体4の外周を第4樹脂材料1cで被覆することによって、第1樹脂層2、第3樹脂層3、及び第4樹脂層5を含む第3積層体6を形成することができる6は、第3合流金型130から第3合流金型130の鉛直方向下方に配置された第1合流金型140に移動する。
【0033】
第2押出装置101dは、第2樹脂材料1dを収容する第2収容部102d、第2収容部102d内に配置されたスクリュー104、及び、第2収容部102dに接続されたホッパー105を備えている。第2押出装置101dでは、例えばペレット状の第2樹脂材料1dが、ホッパー105を通じて、第2収容部102dに供給される。第2収容部102dに供給された第2樹脂材料1dは、加熱されながらスクリュー104によって混錬されることによって、軟化して流動可能となる。軟化した第2樹脂材料1dは、スクリュー104によって第2収容部102dから押し出される。
【0034】
第2押出装置101dから押し出された第2樹脂材料1dは、第1合流金型140に供給される。第1合流金型140内において、第3積層体6の外周を第2樹脂材料1dで被覆することによって、第3積層体6の外周を覆う第2樹脂層7が形成される。これにより、第1樹脂層2及び第2樹脂層7を含む第1積層体8を形成することができる。第1合流金型140の周囲には、第1加熱部、第2加熱部、第3加熱部、及び第4加熱部を含む加熱部200が設けられている。第1合流金型140及び加熱部200についての詳細は、後述される。
【0035】
第1樹脂層2、第3樹脂層3、第4樹脂層5、及び第2樹脂層7が同心円状に積層された第1積層体8は、第1合流金型140からノズル150の流入口を介してノズル150の内部流路に流入する。第1積層体8は、内部流路を通過して縮径されて(言い換えると、径が徐々に小さくされて)、ノズル150の吐出口からファイバー状に吐出される。
【0036】
ノズル150の吐出口からファイバー状に吐出された第1積層体8は、冷却管160の内部空間161内に流入し、内部空間161内を通過しながら冷却されて、開口部から冷却管160の外へ放出される。冷却管160から放出された第1積層体8は、ニップロール170が有する2つのロール171及び172の間を通過し、さらにガイドロール173~175を経由して、多層樹脂ファイバー10として巻き取りロール176に巻き取られる。巻き取りロール176の近傍、例えばガイドロール175と巻き取りロール176との間、において多層樹脂ファイバー10の外径を測定する変位計180をさらに備えていてもよい。
【0037】
なお、この図において、第1合流金型140、第2合流金型110、及び第3合流金型130の形状並びに大きさは互いに同じように示されているが、形状及び大きさは互いに異なっていてもよい。作製するファイバーの構造により、第1樹脂層2、第3樹脂層3、第4樹脂層5、及び第2樹脂層7を形成する樹脂の使用量の比率が異なるため、その樹脂吐出量にあわせて形状や大きさを変更してもよい
【0038】
図2Aは、第1合流金型140の一例を示す斜視図である。
図2Bは、
図2Aに示されている第1合流金型140のII-II線矢視断面図である。
図2A及び
図2Bに示すように、第1合流金型140は、上金型141と、下金型142とを備える。上金型141は第1樹脂層2(又は第1樹脂層2を含む積層体)の流入口側に設けられている。下金型142は、第1積層体8(すなわち、第1樹脂層2又は第1樹脂層2を含む積層体の外周が第2樹脂材料1dで覆われた積層体)の流出口側に設けられている。上金型141と下金型142とが互いに嵌め合わされて、必要に応じて例えばピンのような固定部材143で互いに固定されることにより、第1合流金型140が形成されている。上金型141と下金型142との間に、第2樹脂材料1dのための流路144が設けられている。上金型141には、第1樹脂層2又は第1樹脂層2を含む積層体(
図1に示された製造装置1000の例では、第3積層体6)を通過させるための上部内部流路141aと、第1樹脂層2又は第1樹脂層2を含む積層体を上部内部流路141aに流入させるための第1流入口141bと、第2樹脂材料1dを第2樹脂材料用の上記流路144に流入させるための第2流入口141cとを有する。下金型142は、上金型141の上部内部流路141aに連続し、かつ第1樹脂層2又は第1樹脂層2を含む積層体の外周が第2樹脂材料1dで覆われた第1積層体8を通過させるための下部内部流路142aと、第1積層体8を第1合流金型140から流出させるための流出口142bとを有する。
【0039】
第2押出装置101dから押し出された第2樹脂材料1dは、第1合流金型140の上金型141の第2流入口141cから第1合流金型140内に供給される。第2流入口141cは第2樹脂材料用の流路144に繋がっており、第2樹脂材料1dは流路144を通って上部内部流路141a及び下部内部流路142aで形成される内部流路内に供給される。第1樹脂層2又は第1樹脂層2を含む積層体(
図1に示された製造装置1000の例では、第3積層体6)は、第1流入口141bから流入し、上部内部流路141aから下部内部流路142aを通過して、流出口142bから流出される。上部内部流路141aから下部内部流路142aへ通過する途中で、第1樹脂層2又は第1樹脂層2を含む積層体の外周に、第2樹脂材料1dが供給される。これにより、第1樹脂層2及び第2樹脂層7を含む第1積層体8が形成されて、流出口142bから第1合流金型140の外部に流出される。
【0040】
図3は、
図1に示された周囲に加熱部200が設けられた第1合流金型140を、第1樹脂層2の流入口141b側から見た様子を模式的に示す平面図である。
図3に示すように、第1加熱部201及び第2加熱部202は、第1合流金型140の中心軸に対して互いに向かい合う位置に配置され、かつ第3加熱部203及び第4加熱部204は、第1合流金型140の中心軸に対して互いに向かい合う位置に配置される。
【0041】
第1加熱部201と、第2加熱部202と、第3加熱部203と、第4加熱部204とは、例えば、第1合流金型140の周方向に沿って、隣り合う加熱部同士が互いに接触しないように配置される。隣り合う加熱部間の距離は、特に限定されないが、例えば、1mm以上50mm以下であることが好ましい。隣り合う加熱部間の距離をこのような範囲内とすることにより、第1合流金型140の周方向に沿った温度調節をより細かい領域に分けて精度良く実施することができる。したがって、コアの偏心量をより精度良く制御することができる。なお、加熱部200が2つの加熱部で構成されている場合、すなわち第1合流金型140の周囲に加熱部として第1加熱部201及び第2加熱部202のみが設けられる場合も、同様に、第1加熱部201と第2加熱部202とは、例えば、第1合流金型140の周方向に沿って、隣り合う加熱部同士が互いに接触しないように配置される。この場合も、隣り合う加熱部間の距離は、特に限定されないが、例えば、1mm以上50mm以下であることが好ましい。
【0042】
第1加熱部201、第2加熱部202、第3加熱部203、および第4加熱部204として、例えば、バンドヒーター又はマイクロヒーター等を改良したものが挙げられる。具体的な例として、ヒーター内の発熱線を複数の加熱部となるように分割したヒーターが用いられる。
【0043】
第1合流金型140は、第2樹脂材料1dが第1合流金型140内で第1樹脂層2又は第1樹脂層2を含む積層体に合流する際に、所定の複数の方向から合流するように構成されていてもよい。この場合、製造装置1000は、第1加熱部201、第2加熱部202、第3加熱部203、及び第4加熱部204によって第1合流金型140の温度を周方向に変化させることで、第1合流金型140内で任意の方向から合流する第2樹脂材料1dの温度を制御することが可能である。この構成により、合流する第2樹脂材料1dの温度を、より細かく、かつ精度良く調節できるので、コアの偏心量をより精度良く制御することができる。なお、加熱部200が2つの加熱部で構成されている場合、すなわち第1合流金型140の周囲に加熱部として第1加熱部201及び第2加熱部202のみが設けられる場合も、同様に、製造装置1000は、第1加熱部201および第2加熱部202によって第1合流金型140の温度を周方向に変化させることで、第1合流金型内140で任意の方向から合流する第2樹脂材料1dの温度を制御することが可能である。
【0044】
図4は、第1合流金型140を構成する上金型141の一例を、第1樹脂層2及び当該第1樹脂層2の周囲に合流させた第2樹脂材料1dの流出口141d側から見た様子を模式的に示す平面図である。
図4に示す上金型141の下金型142と接合される面には、流路144を形成するための溝145が設けられている。
図4には、第2樹脂材料1dが4方向(
図4中、矢印で示されている方向)から合流する流路144が形成されるように溝145が設けられた例が示されているが、これに限定されない。第2樹脂材料1dは、例えば2方向から合流してもよいし、4方向よりも多い方向から合流してもよい。
【0045】
上記のような本実施形態の製造装置1000によって製造される多層樹脂ファイバー10の例であるPOF(以下、POF10ということがある)の構成について、簡単に説明する。
図5は、コア、クラッド、及び被覆層を備えたPOFを示す断面図である。
図5に示すように、POF10は、コア11と、コア11の外周に配置されたクラッド12と、クラッド12の外周に配置された被覆層13とを備える。コア径はコア11の外径であり、
図5において「D1」で示されている長さである。本明細書において、コア径D1はコア11の外径であり、IEC60793-1-20及びIEC60793-2-40 subcategory A4h に準拠した手法のうち、波長850nmの光を用いたニアフィールドパターン法(以下、「NFP法」という)によって測定される光強度5%の径である。光強度5%の径とは、光強度のピーク値に対して5%の光強度を有する箇所によって特定される径のことである。また、被覆層13の外径は、
図5において、「D2」で示されている長さである。被覆層13の外径は、後述の実施例で用いられている計測方法によって求めることができる。
【0046】
本実施形態の製造装置100によって製造されるPOF10のコア11は、例えば、40μm以上70μm以下のコア径を有している。また、被覆層13は、例えば、230μm以上490μm以下の外径を有している。
【0047】
本実施形態の製造装置1000は、制御器(図示せず)をさらに備えていてもよい。この制御器は、例えば、第1加熱部201、第2加熱部202、第3加熱部203、及び第4加熱部204からなる群より選択される少なくとも一つの加熱部の設定温度が他の加熱部の設定温度と異なるように、第1加熱部201、第2加熱部202、第3加熱部203、及び第4加熱部204を制御する。この構成により、正確に加熱温度を制御することができる。なお、加熱部200が2つの加熱部で構成されている場合、すなわち第1合流金型140の周囲に加熱部として第1加熱部201及び第2加熱部202のみが設けられる場合も、同様に、制御器は、例えば、第1加熱部201の設定温度が第2加熱部202の設定温度と異なるように、第1加熱部201及び第2加熱部202を制御する。
【0048】
ここで、「少なくとも一つの加熱部の設定温度が他の加熱部の設定温度と異なる」とは、例えば、一つの加熱部が他の三つの加熱部と比べて低い設定温度とすることを意味する。具体的な例として、一つの加熱部の設定温度が他の加熱部の温度に比べて3℃以上30℃以下、異なることなどが挙げられる。例えば、一つの加熱部の設定温度が240℃のとき、他の三つの加熱部の設定温度が243℃以上270℃以下の設定温度である。一つの加熱部の設定温度は、樹脂材料の固有な温度により、適宜調整され得る。
【0049】
なお、他の三つの加熱部それぞれの設定温度ではあるが、一つの加熱部の設定温度と比べて3℃以上30℃以下異なるようであれば、他の三つの加熱部の間において樹脂の溶融温度を考慮して多少の温度差は許容される。例えば、第1の加熱部(ここでは、一つの加熱部に相当する。)の設定温度が250℃のとき、第2加熱部、第3加熱部および第4加熱部(ここでは、3つをまとめて他の三つの加熱部に相当する。)の設定温度は、それぞれ270℃、272℃および273℃のように、他の三つの加熱部同士において、2℃程度の温度差があってもよい。
【0050】
なお、「少なくとも一つの加熱部の設定温度が他の加熱部の設定温度と異なる」とは、全ての加熱部の設定温度が異なることであることも含みうる。
【0051】
また、上記は、4つの加熱部を有する場合の制御の一例ではあるが、2つの加熱部のみの制御であってもよい。つまり、制御器は、例えば、第1加熱部201の設定温度が第2加熱部202の設定温度より異なるように制御してもよい。
【0052】
具体的な例として、第1加熱部の設定温度が第2加熱部の設定温度に比べて3℃以上30℃以下異なることなどがあげられる。例えば、第1加熱部の設定温度が260℃のとき、第2加熱部の設定温度が263℃以上290℃以下である。また、例えば、第1加熱部の設定温度が250℃のとき、第2加熱部の設定温度が220℃以上247℃以下である。
【0053】
なお、設定温度が異なるとは、上記で例示されるように設定温度の低いことであっても、上記に例示されないが設定温度の高いことであってもよい。
【0054】
上記の製造装置1000の例では、第1合流金型140の周囲のみに複数の加熱部を設ける構成を示したが、第2合流金型110及び第3合流金型130からなる群より選択される少なくとも1つの合流金型の周囲の少なくとも一部を覆うように配置された、複数の加熱部をさらに備えていてもよい。言い換えると、複数の加熱部は、第1合流金型140の周囲、第2合流金型110の周囲及び第3合流金型130の周囲の全てに設けられてもよい。この構成により、第3樹脂層3および/又は第4樹脂層5の偏心量も制御することが可能となる。したがって、同心円状に積層された多層樹脂ファイバーの各層の中心位置を所望の位置に制御することが可能となり、多層樹脂ファイバーを任意の構成に制御することができる。
【0055】
なお、第1合流金型140に加え、第2合流金型110の周囲にも複数の加熱部を設けて多層樹脂ファイバーを製造する場合、第1合流金型140のみに複数の加熱部を設けて多層樹脂ファイバーを製造した時と比べて、製造された多層樹脂ファイバーは、ドーパントを含んだ第1樹脂が、コアの中心に位置し、拡散分布がファイバーの中心から放射状に拡散されている。そのため、得られた多層樹脂ファイバーは通光部の中心に拡散分布があるため、中心からの周方向での分布が一様となる。その結果、帯域の改善された多層樹脂ファイバーとなり得る。
【0056】
上記の製造装置1000の例では、同心円状に4層の樹脂層が設けられた多層樹脂ファイバーを製造する装置について説明したが、本開示の製造装置は、同心円状に2層又は3層の樹脂層が積層された多層樹脂ファイバーを製造する装置であってもよい。例えば、同心円状に2層の樹脂層が積層された多層樹脂ファイバーを製造する製造装置の場合、
図1に示された製造装置1000において、第3押出装置101b、第4押出装置101c、第2合流金型110、および第3合流金型130が設けられない装置としてもよい。また、例えば、同心円状に3層の樹脂層が積層された多層樹脂ファイバーを製造する製造装置の場合、
図1に示された製造装置1000において、第4押出装置101cおよび第3合流金型130が設けられない装置としてもよい。一例として、コアとクラッドのみからなるPOFを製造する場合、コアを形成する材料を第1樹脂材料1aとし、クラッドを形成する材料を第2樹脂材料1dとし、かつ製造装置1000において第3押出装置101b、第4押出装置101c、第2合流金型110、および第3合流金型130を設けない製造装置が用いられうる。
【0057】
本実施形態の製造装置を用いた多層樹脂ファイバーの製造方法は、例えば、
(a)第1合流金型の周方向の温調を不均一に設定すること、
を含む。
【0058】
上記(a)において、例えば、第1合流金型の周方向の温調を不均一に設定することによって、第1樹脂層の中心と第2樹脂層の中心との間の距離、すなわちコアの偏心量を調整する。
【0059】
本実施形態の製造方法によれば、多層樹脂ファイバーのコアの偏心量を制御することができる。したがって、本実施形態の製造方法によれば、例えば、偏心量が低減することで優れた特性を有する多層樹脂ファイバーを製造することが可能となる。
【0060】
上記(a)において、第1合流金型の周方向の温調を不均一に設定することによって、第3樹脂層の中心と第2樹脂層の中心との間の距離を調整してもよい。この方法によれば、第2樹脂層に対するコアの偏心だけでなく、第3樹脂層の偏心も制御することが可能となるので、より高度に設計された多層樹脂ファイバーを製造することができる。
【0061】
上記(a)の一例として、以下のような方法が挙げられる。
【0062】
まず、本実施形態の製造装置を用いて、第1合流金型の周方向の温調を不均一に設定することなく、例えば第1合流金型の周囲に配置された複数の加熱部の設定温度を互いに同じにして、多層樹脂ファイバーを製造する。次に、製造された多層樹脂ファイバーについてコアの偏心情報(例えば、コア径の中心位置およびコアの偏心量)を求める。得られた偏心情報に基づいて、第1合流金型の周囲に配置された複数の加熱部の温度を個別に変更する。このとき、上述した第1合流金型の周方向の温度と偏心とのメカニズムを考慮して、加熱部の温度を設定することが望ましい。そして、再び、多層樹脂ファイバーを製造し、得られた多層樹脂ファイバーのコアの偏心情報を取得する。この作業を複数回繰り返すことにより、所望のコアの偏心量と、第1合流金型の周方向の温調との関係を決定する。決定された温調となるように、第1合流金型の周方向の温調を不均一に設定して、多層樹脂ファイバーを製造する。上記(a)は、このような、第1合流金型の周方向の温調を決定するための準備工程を含んでいてもよい。
【0063】
ここで、本実施形態の製造方法において、第1合流金型の周方向の温調を不均一に設定するとは、例えば、第1合流金型の周囲に設けられる複数の加熱部を個別に制御して、意図的に周方向の温調を不均一にすることである。したがって、本実施形態の製造方法には、例えば使用する加熱部の不具合等によって第1合流金型の周方向の温調が不均一になる等、意図せず第1合流金型の周方向の温調が不均一になることは含まれない。
【実施例0064】
(サンプル1から4の多層樹脂ファイバーとしてのPOFの作製)
[含フッ素樹脂の作製]
含フッ素樹脂として、パーフルオロ-4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソラン(PFMMD)の重合体を準備した。パーフルオロ-4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソランは、まず2-カルボメチル-2-トリフルオロメチル-4-メチル-1,3-ジオキソランを合成し、これをフッ素化し、得られたカルボン酸塩を脱炭酸分離することによって合成された。パーフルオロ-4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソランの重合には、重合開始剤として、パーフルオロ過酸化ベンゾイルが用いられた。
【0065】
以下に、2-カルボメチル-2-トリフルオロメチル-4-メチル-1,3-ジオキソランの合成、2-カルボメチル-2-トリフルオロメチル-4-メチル-1,3-ジオキソランのフッ素化、パーフルオロ-4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソランの合成、及びパーフルオロ-4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソランの重合について、詳細を説明する。
【0066】
<2-カルボメチル-2-トリフルオロメチル-4-メチル-1,3-ジオキソランの合成>
水冷冷却器を備えた3L三口フラスコ、温度計、マグネチックスターラー、及び等圧滴下漏斗を準備し、2-クロロ-1-プロパノールと1-クロロ-2-プロパノールとの混合物を139.4g(計1.4モル)をフラスコに投入した。フラスコは0℃に冷やし、その中にトリフルオロピルビン酸メチルをゆっくりと加え、さらに2時間攪拌した。そこに100mLのジメチルスルホキシド(DMSO)と194gの炭酸カリウムとを1時間かけて加えた後、さらに続けて8時間攪拌し、反応混合物を得た。この生成した反応混合物を1Lの水と混合し、その水相をわけ、これを更にジクロロメチレンで抽出後、このジクロロメチレン溶液を有機反応混合物相と混合し、その溶液を硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を除去した後、245.5gの粗製物が得られた。この粗製物を減圧下(12Torr)で分留し、2-カルボメチル-2-トリフルオロメチル-4-メチル-1,3-ジオキソランの精製物を230.9g得た。精製物の沸点は、77~78℃で、収率は77%であった。なお、得られた精製物が2-カルボメチル-2-トリフルオロメチル-4-メチル-1,3-ジオキソランであることは、HNMR及び19FNMRによって確認された。
【0067】
HNMR(ppm):4.2-4.6,3.8-3.6(CHCH2,muliplet,3H),3.85-3.88(COOCH3,multiplet,3H),1.36-1.43(CCH3,multiplet,3H)
19FNMR(ppm):-81.3(CF3,s,3F)
【0068】
<2-カルボメチル-2-トリフルオロメチル-4-メチル-1,3-ジオキソランのフッ素化>
10Lの攪拌反応槽に4Lの1,1,2-トリクロロトリフルオロエタンを注入した。攪拌反応槽で、窒素を1340cc/minの流速で流し、フッ素を580cc/minの流速で流し、窒素/フッ素の雰囲気下とした。5分後、先に準備した2-カルボメチル-2-トリフルオロメチル-4-メチル-1,3-ジオキソランの290gを750mLの1,1,2-トリクロロトリフルオロエタン溶液に溶かし、この溶液を反応槽に0.5ml/分の速度で加えた。反応槽は0℃に冷却した。全てのジオキソランを24時間で加えた後、フッ素ガス流を止めた。窒素ガスをパージした後、水酸化カリウム水溶液を弱アルカリ性になるまで加えた。
【0069】
減圧下で揮発物質を除去した後、反応槽の周囲を冷却し、その後48時間70℃の減圧下で乾燥して、固体の反応生成物を得た。固形の反応生成物は、500mLの水に溶解させ、過剰の塩酸を添加して、有機相と水相とに分離させた。有機相を分離して減圧下で蒸留し、パーフルオロ-2,4-ジメチル-1,3-ジオキソラン-2-カルボン酸を得た。主蒸留物の沸点は103℃-106℃/100mmHgであった。フッ素化の収率は、85%であった。
【0070】
<パーフルオロ-4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソランの合成>
上記蒸留物を水酸化カリウム水溶液で中和し、パーフルオロ-2,4-ジメチル-2-カルボン酸カリウム-1,3-ジオキソランを得た。このカリウム塩を1日間70℃で真空乾燥した。250℃~280℃で、かつ窒素又はアルゴン雰囲気下で、塩を分解した。-78℃に冷やした冷却トラップで凝縮させ、収率82%でパーフルオロ-4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソランを得た。生成物の沸点は45℃/760mmHgであった。19FNMRとGC-MSを用いて生成物を同定した。
【0071】
19FNMR:-84ppm(3F,CF3),-129ppm(2F,=CF2)
GC-MS:m/e244(Molecular ion)225,197,169,150,131,100,75,50.
【0072】
<パーフルオロ-4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソランの重合>
上記方法で得られたパーフルオロ-4-メチル-2-メチレン-1,3-ジオキソラン100gと、パーフルオロ過酸化ベンゾイル1gとをガラスチューブに封入した。このガラスチューブは、凍結脱気法によって系中の酸素が除去された後にアルゴンが再充填されて、50℃で数時間加熱された。内容物は固体となったが、さらに70℃で一晩加熱すると、100gの透明な棒状物が得られた。
【0073】
得られた透明棒状物をFluorinert FC-75(住友スリーエム社製)に溶かし、得られた溶液をガラス板に注ぎ、重合体の薄膜を得た。得られた重合体のガラス転移温度は117℃で、完全な非晶質であった。透明棒状物をヘキサフルオロベンゼンに溶かし、これにクロロホルムを加え沈殿させることで、生成物を精製させた。精製された重合体のガラス転移温度は、約131℃であった。この重合体を、含フッ素樹脂とした。
【0074】
[屈折率調整剤]
屈折率調整剤として、クロロトリフルオロエチレンオリゴマー(分子量585)を用いた。具体的には、ダイキン工業社製「ダイフロイル#10」を蒸留し、分子量585の成分のみを分取した。分取した分子量585の成分を孔径40nmのフィルター「DFA1ANDESW44」(PALL社製)でろ過し、屈折率調整剤を得た。
【0075】
[第1樹脂材料]
上記の方法で作製した含フッ素樹脂を、溶媒であるバートレルXF-UP(三井・ケマーズ フロロプロダクツ社製)に溶解した。溶解液を孔径100nmのフィルター「LPJ-CTA-001-N3」(ロキテクノ社製)で2回ろ過し、そのろ過液を260℃に加熱されたハステロイ製の容器に滴下して溶媒を蒸発させて、乾固させた。乾固させて得られたろ過処理後の含フッ素樹脂と、上記の屈折率調整剤とを、260℃にて溶融混合して樹脂組成物を作製した。得られた樹脂組成物における屈折率調整剤の濃度は、12質量%であった。この樹脂組成物を第1樹脂材料として用いた。
【0076】
[第3樹脂材料]
上記の方法で作製した含フッ素樹脂を、第1樹脂材料の作製における含フッ素樹脂のろ過と同様の方法でろ過し、ろ過処理後の含フッ素樹脂を得た。このろ過処理後の含フッ素樹脂を、第3樹脂材料として用いた。
【0077】
[第4樹脂材料]
フッ素樹脂としての「Teflon AF1600」(三井・ケマーズ フロロプロダクツ社製)と、粘度調整剤としての「Fomblin YR」(Solvay社製)とを、溶媒であるバートレルXF-UP(三井・ケマーズ フロロプロダクツ社製)に溶解した。なお、「Teflon AF1600」と「Fomblin YR」との混合比率は、質量比で、「Teflon AF1600」:「Fomblin YR」=7:3とした。得られた溶解液を孔径300nmのフィルター「LPA-SLF-003-N2」(ロキテクノ社製)でろ過し、そのろ過液を260℃に加熱されたハステロイ製の容器に滴下して溶媒を蒸発させて、乾固させた。乾固させて得られた樹脂組成物を、第4樹脂材料として用いた。
【0078】
[第2樹脂材料]
第2樹脂材料として、Xylex(SABIC社製、ガラス転移温度:113℃)を用いた。
【0079】
[POF]
上記のとおり準備された第1樹脂材料、第2樹脂材料、第3樹脂材料、および第4樹脂材料を用い、かつ
図1に示された製造装置1と同様の装置を用いて、サンプル1から4のPOFを製造した。
【0080】
本実施例において、第1樹脂材料の溶融温度は250℃、第3樹脂材料の溶融温度は255℃、第4樹脂材料の溶融温度は260℃、第2樹脂材料の溶融温度は240℃であった。また、拡散管120の温度は275℃に設定された。第1樹脂材料と第3樹脂材料とによって、POFのコアが形成された。第4樹脂材料によって、POFのクラッドが形成された。第2樹脂材料によって、POFの被覆層が形成された。第1樹脂層、第3樹脂層、第4樹脂層、および第2樹脂層からなる第1積層体8の引き落としの温度は、240℃であった。
【0081】
各材料の吐出の体積割合は、第1樹脂材料1に対して、第3樹脂材料1.5、第4樹脂材料1.5、第2樹脂材料50の比率にて、溶融押出を行った。また、拡散時間、すなわち拡散管120内を積層体が通過する時間を、960secとした。
【0082】
各サンプルにおける第1加熱部、第2加熱部、第3加熱部、および第4加熱部の温度設定は、表1に示すとおりである。なお、市販のバンドヒーターを、ヒーター内の発熱線を4つの加熱部となるように分割することによって改良し、さらにそれぞれの加熱部が温度制御可能なようにして、第1加熱部、第2加熱部、第3加熱部、および第4加熱部を作製した。
【0083】
[コアの偏心量の評価方法]
図6は、実施例においてコアの偏心量の評価に使用した計測システムを示す模式図である。
図6に示すように、本実施例で使用した計測システム100は、計測対象のPOF10の第一の末端10aに光を入射するための第1の光源20と、POF10の第二の末端10bから出射された光を用いて、第二の末端10bの近傍における光強度の面分布を測定するための光計測装置30と、を備えていた。光計測装置30は、対物レンズ31、結像レンズ32、および検出器33を備え、さらに落射光用光学系(すなわち、落射光照射装置)も備えていた。光計測装置30は、落射光用光学系として、同軸落射光用光源としての第2の光源34、同軸照射用レンズ35、及びハーフミラー36を備えていた。なお、
図6に示すように、対物レンズ31から結像レンズ32を経由して、検出器33にかけて記載された矢印は、POF10の第二の末端10bから出射された光の進行を示す。また、
図6に示すように、第2の光源34から同軸照射用レンズ35に記載されている点線は、第2の光源34から出力された光の進行を示す。具体的には、以下の装置を利用して、サンプル1から4のPOFのコア偏心量を計測した。
【0084】
<使用した装置およびPOF>
・第1の光源:澤木工房社製FOLS-01 波長850nm
・第2の光源(落射光源):CCS社製LS-EL001/850
・光計測装置:シナジーオプトシステム社製 M-Scpoe TypeS
・POF:(サンプル1から4の多層樹脂ファイバーとしてのPOFの作製)に記載されているもの、長さ6m
【0085】
具体的な手順は次の通りである。はじめに、第1の光源、POF、光計測装置を接続した。光計測装置には、落射光源である第2の光源を含む落射光用光学系を設けた。このようにして、POFの第二の末端から出射された光に対して、従来のNFP法による測定を実施するための装置に落射光源を併用した光計測装置を用いて計測を行った。その結果、計測されたコアの偏心量は、表1に示すとおりであった。
【0086】
【0087】
表1に示すとおり、第1加熱部、第2加熱部、第3加熱部、および第4加熱部の設定温度を変更することにより、偏心量を変化させることができた。例えば、サンプル1およびサンプル4が示すように、第1加熱部から第4加熱部の間において、設定温度の最大値と最小値との差を20℃とすると、1.5μm以上の偏心量になった。さらに、サンプル2が示すように、第1加熱部から第4加熱部の間において、設定温度の最大値と最小値との差を10℃とすると、1以上1.5μm未満の偏心量であった。さらに、サンプル3が示すように、第1加熱部から第4加熱部の間において、設定温度の最大値と最小値との差を0℃とすると、1未満の偏心量であった。このように、設定温度の最大値と最小値との差を変化させることによって、偏心量を細かく調整できることも確認された。なお、本実施例では、4つの加熱部の温度を互いに同じ温度に設定したサンプル3で偏心量が最も小さくなった。しかし、合流金型にずれ(すなわち、設備の公差)がある場合等、合流金型の周囲の加熱部の設定温度を全て同じにした場合に、装置によっては偏心量が大きくなる場合も考えられる。このような場合、本開示の技術を適用して偏心量を制御することによって、例えば偏心量を小さくすることができる。
【0088】
以上のとおり、本開示の製造装置を用いて、第1合流金型の周囲に配置される複数の加熱部を個別に温度設定することにより、所望のコアの偏心量を有する多層樹脂ファイバーを製造することができる。すなわち、本開示の製造装置および製造方法によれば、コアの偏心量が制御された多層樹脂ファイバーを得ることができる。
【0089】
[付記]
以上をまとめると、本開示の発明の一形態は、下記である。
【0090】
(1)
コアを形成する第1樹脂層と、前記第1樹脂層を同心円状に覆う第2樹脂層とを含む多層樹脂ファイバーの製造装置であって、
前記製造装置は、
第1押出装置と、
第2押出装置と、
ノズルと、
前記第2押出装置と前記ノズルとの間に設けられた第1合流金型と、
前記第1合流金型の周囲の少なくとも一部を覆うように配置された第1加熱部及び第2加熱部と、
を備え、
前記第1押出装置は、前記第1樹脂層を形成するための第1樹脂材料を溶融させて押し出し、
前記第2押出装置は、前記第2樹脂層を形成するための第2樹脂材料を溶融させて押し出し、
前記第1合流金型は、前記第1押出装置から押し出された前記1樹脂材料によって形成された前記第1樹脂層の外周を、前記第2押出装置から押し出された前記第2樹脂材料が覆うように、前記第2樹脂材料を前記第1樹脂層に合流させ、
前記第1加熱部及び前記第2加熱部は、前記第1合流金型の中心軸に対して互いに向かい合う位置に配置され、かつそれぞれ個別に温度を制御することが可能であり、
前記ノズルは、前記第1合流金型によって得られた前記第1樹脂層及び前記第2樹脂層を含む第1積層体を、ファイバー状に吐出する、
多層樹脂ファイバーの製造装置。
【0091】
(2)
前記製造装置は、前記第1合流金型の前記周囲の少なくとも一部を覆うように配置された第3加熱部及び第4加熱部をさらに備え、
前記第3加熱部及び前記第4加熱部は、前記第1合流金型の中心軸に対して互いに向かい合う位置に配置され、かつそれぞれ個別に温度を制御することが可能である、
上記(1)に記載の多層樹脂ファイバーの製造装置。
【0092】
(3)
前記多層樹脂ファイバーは、前記第1樹脂層を同心円状に覆い、かつ前記第1樹脂層と前記第2樹脂層との間に配置された第3樹脂層をさらに含み、
前記製造装置は、第3押出装置及び第2合流金型をさらに備え、
前記第3押出装置は、前記第3樹脂層を形成するための第3樹脂材料を溶融させて押し出し、
前記第2合流金型は、前記製造装置における前記第1樹脂層の流れを基準として前記第1合流金型よりも上流側の位置に配置されており、かつ前記第1押出装置から押し出された前記1樹脂材料によって形成された前記第1樹脂層の外周を、前記第3押出装置から押し出された前記第3樹脂材料が覆うように、前記第3樹脂材料を前記第1樹脂層に合流させ、
前記第1合流金型は、前記第2合流金型によって得られた前記第1樹脂層及び前記第3樹脂層を含む第2積層体の外周を、前記第2押出装置から押し出された前記第2樹脂材料が覆うように、前記第2樹脂材料を前記第2積層体に合流させる、
上記(1)又は(2)に記載の多層樹脂ファイバーの製造装置。
【0093】
(4)
前記製造装置は、前記第1合流金型の前記周囲の少なくとも一部を覆うように配置された第3加熱部及び第4加熱部をさらに備え、
前記第3加熱部及び前記第4加熱部は、前記第1合流金型の中心軸に対して互いに向かい合う位置に配置され、かつそれぞれ個別に温度を制御することが可能である、
上記(3)に記載の多層樹脂ファイバーの製造装置。
【0094】
(5)
前記多層樹脂ファイバーは、前記第1樹脂層を同心円状に覆い、かつ前記第3樹脂層と前記第2樹脂層との間に配置された第4樹脂層をさらに含み、
前記製造装置は、第4押出装置及び第3合流金型をさらに備え、
前記第4押出装置は、前記第4樹脂層を形成するための第4樹脂材料を溶融させて押し出し、
前記第3合流金型は、前記製造装置における前記第1樹脂層の流れを基準として前記第2合流金型よりも下流であって、かつ前記第1合流金型よりも上流側の位置に配置されており、かつ前記第2合流金型によって得られた前記第1樹脂層及び前記第3樹脂層を含む前記第2積層体の外周を、前記第4押出装置から押し出された前記第4樹脂材料が覆うように、前記第4樹脂材料を前記第2積層体に合流させ、
前記第1合流金型は、前記第3合流金型によって得られた前記第1樹脂層、前記第3樹脂層、及び前記第4樹脂層を含む第3積層体の外周を、前記第2押出装置から押し出された前記第2樹脂材料が覆うように、前記第2樹脂材料を前記第3積層体に合流させる、
上記(3)に記載の多層樹脂ファイバーの製造装置。
【0095】
(6)
前記製造装置は、前記第1合流金型の前記周囲の少なくとも一部を覆うように配置された第3加熱部及び第4加熱部をさらに備え、
前記第3加熱部及び前記第4加熱部は、前記第1合流金型の中心軸に対して互いに向かい合う位置に配置され、かつそれぞれ個別に温度を制御することが可能である、
上記(5)に記載の多層樹脂ファイバーの製造装置。
【0096】
(7)
前記第1加熱部と、前記第2加熱部とは、前記第1合流金型の周方向に沿って、互いに接触しないように配置されている、
上記(1)から(6)のいずれか1つに記載の多層樹脂ファイバーの製造装置。
【0097】
(8)
前記製造装置は、制御器をさらに備え、
前記制御器は、前記第1加熱部の設定温度が前記第2加熱部の設定温度と異なるように、前記第1加熱部及び前記第2加熱部を制御する、
上記(1)から(7)のいずれか1つに記載の多層樹脂ファイバーの製造装置。
【0098】
(9)
前記第1合流金型は、前記第2樹脂材料が前記第1合流金型内で前記第1樹脂層に合流する際に、所定の複数の方向から合流するように構成されており、
前記製造装置は、前記第1加熱部および前記第2加熱部によって前記第1合流金型の温度を周方向に変化させることで、前記第1合流金型内で任意の方向から合流する前記第2樹脂材料の温度を制御可能である、
上記(1)から(8)のいずれか1つに記載の多層樹脂ファイバーの製造装置。
【0099】
(10)
前記第1加熱部と、前記第2加熱部と、前記第3加熱部と、前記第4加熱部とは、前記第1合流金型の周方向に沿って、隣り合う加熱部同士が互いに接触しないように配置されている、
上記(2)に記載の多層樹脂ファイバーの製造装置。
【0100】
(11)
前記製造装置は、制御器をさらに備え、
前記制御器は、前記第1加熱部、前記第2加熱部、前記第3加熱部、及び前記第4加熱部からなる群より選択される少なくとも一つの加熱部の設定温度が他の加熱部の設定温度と異なるように、前記第1加熱部、前記第2加熱部、前記第3加熱部、及び前記第4加熱部を制御する、
上記(2)又は(10)に記載の多層樹脂ファイバーの製造装置。
【0101】
(12)
前記第1合流金型は、前記第2樹脂材料が前記第1合流金型内で前記第1樹脂層に合流する際に、所定の複数の方向から合流するように構成されており、
前記製造装置は、前記第1加熱部、前記第2加熱部、前記第3加熱部、及び前記第4加熱部によって前記第1合流金型の温度を周方向に変化させることで、前記第1合流金型内で任意の方向から合流する前記第2樹脂材料の温度を制御可能である、
上記(2)、(10)、又は(11)に記載の多層樹脂ファイバーの製造装置。
【0102】
(13)
前記第2合流金型及び前記第3合流金型からなる群より選択される少なくとも1つの合流金型の周囲の少なくとも一部を覆うように配置された、複数の加熱部をさらに備える、
上記(5)に記載の多層樹脂ファイバーの製造装置。
【0103】
(14)
上記(1)から(13)のいずれか1つに記載の多層樹脂ファイバーの製造装置を用いて、多層樹脂ファイバーを製造する製造方法であって、
前記製造方法は、
(a)前記第1合流金型の周方向の温調を不均一に設定すること、
を含む、多層樹脂ファイバーの製造方法。
【0104】
(15)
前記(a)において、前記第1合流金型の周方向の温調を不均一に設定することによって、前記第1樹脂層の中心と前記第2樹脂層の中心との間の距離を調整する、
上記(14)に記載の多層樹脂ファイバーの製造方法。
【0105】
(16)
前記製造装置は、上記(3)に記載の多層樹脂ファイバーの製造装置であり、
前記(a)において、前記第1合流金型の周方向の温調を不均一に設定することによって、前記第3樹脂層の中心と前記第2樹脂層の中心との間の距離を調整する、
上記(14)又は(15)に記載の多層樹脂ファイバーの製造方法。