(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125078
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】1-アルケニルエーテル化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 41/24 20060101AFI20240906BHJP
C07C 43/162 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
C07C41/24
C07C43/162
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033171
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000004307
【氏名又は名称】日本曹達株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109508
【弁理士】
【氏名又は名称】菊間 忠之
(72)【発明者】
【氏名】池田 祐人
(72)【発明者】
【氏名】明石 真也
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC13
4H006BD70
4H006GP01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】新規な1-アルケニルエーテル化合物の効率的な製造方法を提供する。
【解決手段】式(1)で表される化合物を塩素化剤によって塩素化して塩素化物を得ること、および得られた塩素化物を有機塩基の存在下で脱塩化水素して式(3)で表される化合物を得ることを含む、1-アルケニルエーテル化合物の製造方法。
(式(1)および式(3)中、R
1は、置換若しくは無置換のC1~6アルキル基、置換若しくは無置換のC2~6アルケニル基、置換若しくは無置換のC2~6アルキニル基、置換若しくは無置換のC3~6シクロアルキル基または置換若しくは無置換のフェニル基を示し、R
2はそれぞれ独立にC1~6アルキル基を示す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される化合物
(式(1)中、R
1は、置換若しくは無置換のC1~6アルキル基、置換若しくは無置換のC2~6アルケニル基、置換若しくは無置換のC2~6アルキニル基、置換若しくは無置換のC3~6シクロアルキル基、または置換若しくは無置換のフェニル基を示し、R
2は、それぞれ独立に、C1~6アルキル基を示す。)
を塩素化剤によって塩素化して式(2)で表される化合物
(式(2)中、R
1およびR
2は、式(1)中のそれらと同じものを示す。)
を得ること、および
得られた式(2)で表される化合物を有機塩基の存在下で脱塩化水素して式(3)で表される化合物
(式(3)中、R
1およびR
2は、式(1)中および式(2)中のそれらと同じものを示す。)
を得ること
を含む、
1-アルケニルエーテル化合物の製造方法。
【請求項2】
塩素化剤が、ホスゲン、塩化オキサリル、塩化チオニル、トリホスゲンおよびC1~6アルキルクロロホルマートからなる群から選ばれる少なくともひとつである、請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1-アルケニルエーテル化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1-アルケニルエーテル化合物は、アルデヒド化合物の合成等価体である。1-アルケニルエーテル化合物中のO原子に結合する原子や原子団の置き換えによって、沸点などの物性を変えることができる。1-アルケニルエーテル化合物は、医薬、農薬、ポリマーなどの合成原料として有用である(特許文献1、特許文献2、特許文献3など参照)。
【0003】
アセタール化合物からビニルエーテル化合物などの1-アルケニルエーテル化合物を製造する方法が種々知られている。
例えば、特許文献1は、酸性物質を含む有機溶媒中で、2,2-ジメトキシプロパンなどのアセタール類を断続的または連続的に供給することにより脱アルコール反応を行い、2-メトキシプロペンなどの反応生成物を断続的または連続的に留出させることを特徴とするビニルエーテル類の製造法を開示している。
【0004】
特許文献2は、1,1-ジメトキシ-3-フェニルプロパンなどのアセタール類を、酸化マグネシウムを触媒として気相条件下で、脱アルコール反応させることを特徴とする1-メトキシ-3-フェニルプロペンなどのビニルエーテル類の製造方法を開示している。
【0005】
特許文献3は、[2-(1-(2-シクロヘキシルエトキシ)エトキシ)エチル]シクロヘキサンなどのアセタール化合物をカルボン酸塩化物によって塩素化して[2-(1-クロロエトキシ)エチル]シクロヘキサンなどのα-クロロエーテル化合物を得、得られたα-クロロエーテル化合物をトリエチルアミンなどの第三級アミン化合物によって脱塩化水素して[2-(エテニルオキシ)エチル]シクロヘキサンなどのビニルエーテル化合物を製造する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8-277237号公報
【特許文献2】特開平8-268945号公報
【特許文献3】特開2012-20954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、1-アルケニルエーテル化合物の効率的な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために検討を重ねた結果、以下の態様を包含する本発明を完成するに至った。
【0009】
〔1〕 式(1)で表される化合物(以下、化合物(1)と称することがある。)を塩素化剤によって塩素化して式(2)で表される化合物(以下、化合物(2)と称することがある。)を得ること、および得られた化合物(2)を有機塩基の存在下で脱塩化水素して式(3)で表される化合物(以下、化合物(3)と称することがある。)を得ることを含む、1-アルケニルエーテル化合物の製造方法。
【0010】
(式(1)中、R
1は、置換若しくは無置換のC1~6アルキル基、置換若しくは無置換のC2~6アルケニル基、置換若しくは無置換のC2~6アルキニル基、置換若しくは無置換のC3~6シクロアルキル基、または置換若しくは無置換のフェニル基を示し、R
2は、それぞれ独立に、C1~6アルキル基を示す。)
【0011】
(式(2)中、R
1およびR
2は、式(1)中のそれらと同じものを示す。)
【0012】
(式(3)中、R
1およびR
2は、式(1)中および式(2)中のそれらと同じものを示す。)
【0013】
〔2〕塩素化剤が、ホスゲン、塩化オキサリル、塩化チオニル、トリホスゲンおよびC1~6アルキルクロロホルマートからなる群から選ばれる少なくともひとつである、〔1〕に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の1-アルケニルエーテル化合物の製造方法によれば、医薬、農薬、ポリマーなどの原料として有用な1-アルケニルエーテル化合物を、効率的に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の1-アルケニルエーテル化合物の製造方法は、 塩素化反応: 化合物(1)を塩素化剤によって塩素化して化合物(2)を得ること、および 脱塩化水素反応: 塩素化反応で得られた化合物(2)を有機塩基の存在下で脱塩化水素して化合物(3)を得ることを含む。
【0016】
本発明において、「無置換(unsubstituted)」の用語は、母核となる基のみであることを意味する。「置換」との記載がなく母核となる基の名称のみで記載しているときは、別段の断りがない限り「無置換」の意味である。
一方、「置換(substituted)」の用語は、母核となる基のいずれかの水素原子が、母核と同一または異なる構造の基(置換基)で置換されていることを意味する。従って、「置換基」は、母核となる基に結合した他の基である。置換基は1つであってもよいし、2つ以上であってもよい。2つ以上の置換基は同一であってもよいし、異なるものであってもよい。
「C1~6」などの用語は、母核となる基の炭素原子数が1~6個などであることを表している。この炭素原子数には、置換基の中に在る炭素原子の数を含まない。例えば、置換基としてエトキシ基を有するブチル基は、C2アルコキシC4アルキル基に分類する。
「置換基」は化学的に許容され、本発明の効果を有する限りにおいて特に制限されない。
【0017】
以下に「置換基」となり得る基を例示する。
メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基などのC1~6アルキル基;
ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基(アリル基)、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、1-メチル-2-プロペニル基、2-メチル-2-プロペニル基などのC2~6アルケニル基;
エチニル基、1-プロピニル基、2-プロピニル基、1-ブチニル基、2-ブチニル基、3-ブチニル基、1-メチル-2-プロピニル基などのC2~6アルキニル基;
【0018】
シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのC3~6シクロアルキル基;
フェニル基、トリル基、キシリル基、トリメチルフェニル基、ナフチル基などのアリール基;
ベンジル基、フェネチル基などのフェニルC1~6アルキル基;
3~6員ヘテロシクリル基;
3~6員へテロシクリルC1~6アルキル基;
【0019】
水酸基;
メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、s-ブトキシ基、i-ブトキシ基、t-ブトキシ基などのC1~6アルコキシ基;
ビニルオキシ基、アリルオキシ基、プロペニルオキシ基、ブテニルオキシ基などのC2~6アルケニルオキシ基;
エチニルオキシ基、プロパルギルオキシ基などのC2~6アルキニルオキシ基;
フェノキシ基、ナフトキシ基;
ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基などのフェニルC1~6アルコキシ基;
チアゾリルオキシ基、ピリジルオキシ基などの5~6員ヘテロアリールオキシ基;
チアゾリルメチルオキシ基、ピリジルメチルオキシ基などの5~6員ヘテロアリールC1~6アルキルオキシ基;
【0020】
ホルミル基;
アセチル基、プロピオニル基などのC1~6アルキルカルボニル基;
ホルミルオキシ基;
アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基などのC1~6アルキルカルボニルオキシ基;
ベンゾイル基;
メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n-プロポキシカルボニル基、i-プロポキシカルボニル基、n-ブトキシカルボニル基、t-ブトキシカルボニル基などのC1~6アルコキシカルボニル基;
メトキシカルボニルオキシ基、エトキシカルボニルオキシ基、n-プロポキシカルボニルオキシ基、i-プロポキシカルボニルオキシ基、n-ブトキシカルボニルオキシ基、t-ブトキシカルボニルオキシ基などのC1~6アルコキシカルボニルオキシ基;
カルボキシル基;
【0021】
フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、イオド基などのハロゲノ基;
クロロメチル基、クロロエチル基、トリフルオロメチル基、1,2-ジクロロ-n-プロピル基、1-フルオロ-n-ブチル基、パーフルオロ-n-ペンチル基などのC1~6ハロアルキル基;
2-クロロ-1-プロペニル基、2-フルオロ-1-ブテニル基などのC2~6ハロアルケニル基;
4,4-ジクロロ-1-ブチニル基、4-フルオロ-1-ペンチニル基、5-ブロモ-2-ペンチニル基などのC2~6ハロアルキニル基;
トリフルオロメトキシ基、2-クロロ-n-プロポキシ基、2,3-ジクロロブトキシ基などのC1~6ハロアルコキシ基;
2-クロロプロペニルオキシ基、3-ブロモブテニルオキシ基などのC2~6ハロアルケニルオキシ基;
クロロアセチル基、トリフルオロアセチル基、トリクロロアセチル基などのC1~6ハロアルキルカルボニル基;
【0022】
アミノ基;
メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基などのC1~6アルキル置換アミノ基;
アニリノ基、ナフチルアミノ基;
ベンジルアミノ基、フェネチルアミノ基などのフェニルC1~6アルキルアミノ基;
ホルミルアミノ基;
アセチルアミノ基、プロパノイルアミノ基、ブチリルアミノ基、i-プロピルカルボニルアミノ基などのC1~6アルキルカルボニルアミノ基;
メトキシカルボニルアミノ基、エトキシカルボニルアミノ基、n-プロポキシカルボニルアミノ基、i-プロポキシカルボニルアミノ基などのC1~6アルコキシカルボニルアミノ基;
アミノカルボニル基、ジメチルアミノカルボニル基、フェニルアミノカルボニル基、N-フェニル-N-メチルアミノカルボニル基などの無置換若しくは置換基を有するアミノカルボニル基;
イミノメチル基、(1-イミノ)エチル基、(1-イミノ)-n-プロピル基などのイミノC1~6アルキル基;
N-ヒドロキシ-イミノメチル基、(1-(N-ヒドロキシ)-イミノ)エチル基、(1-(N-ヒドロキシ)-イミノ)プロピル基、N-メトキシ-イミノメチル基、(1-(N-メトキシ)-イミノ)エチル基などの置換若しくは無置換のN-ヒドロキシイミノC1~6アルキル基;
アミノカルボニルオキシ基;
エチルアミノカルボニルオキシ基、ジメチルアミノカルボニルオキシ基などのC1~6アルキル置換アミノカルボニルオキシ基;
【0023】
メルカプト基;
メチルチオ基、エチルチオ基、n-プロピルチオ基、i-プロピルチオ基、n-ブチルチオ基、i-ブチルチオ基、s-ブチルチオ基、t-ブチルチオ基などのC1~6アルキルチオ基;
トリフルオロメチルチオ基、2,2,2-トリフルオロエチルチオ基などのC1~6ハロアルキルチオ基;
フェニルチオ基、ナフチルチオ基;
チアゾリルチオ基、ピリジルチオ基などの5~6員ヘテロアリールチオ基;
【0024】
メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基、t-ブチルスルフィニル基などのC1~6アルキルスルフィニル基;
トリフルオロメチルスルフィニル基、2,2,2-トリフルオロエチルスルフィニル基などのC1~6ハロアルキルスルフィニル基;
フェニルスルフィニル基;
チアゾリルスルフィニル基、ピリジルスルフィニル基などの5~6員ヘテロアリールスルフィニル基;
【0025】
メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、t-ブチルスルホニル基などのC1~6アルキルスルホニル基;
トリフルオロメチルスルホニル基、2,2,2-トリフルオロエチルスルホニル基などのC1~6ハロアルキルスルホニル基;
フェニルスルホニル基;
チアゾリルスルホニル基、ピリジルスルホニル基などの5~6員ヘテロアリールスルホニル基;
メチルスルホニルオキシ基、エチルスルホニルオキシ基、t-ブチルスルホニルオキシ基などのC1~6アルキルスルホニルオキシ基;
トリフルオロメチルスルホニルオキシ基、2,2,2-トリフルオロエチルスルホニルオキシ基などのC1~6ハロアルキルスルホニルオキシ基;
【0026】
トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t-ブチルジメチルシリル基などのトリC1~6アルキル置換シリル基;
トリフェニルシリル基;
シアノ基;ニトロ基。
【0027】
また、これらの「置換基」は、当該置換基中のいずれかの水素原子が、異なる構造の基で置換されていてもよい。その場合の「置換基」としては、C1~6アルキル基、C1~6ハロアルキル基、C1~6アルコキシ基、C1~6ハロアルコキシ基、ハロゲノ基、シアノ基、ニトロ基などを挙げることができる。
【0028】
また、上記の「3~6員ヘテロシクリル基」とは、窒素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群から選ばれる1、2、3又は4個のヘテロ原子を環の構成原子として化学的に許容される数で含むものである。ヘテロシクリル基は、単環および多環のいずれであってもよい。多環ヘテロシクリル基は、少なくとも一つの環がヘテロ環であれば、残りの環が飽和脂環、不飽和脂環または芳香環のいずれであってもよい。「3~6員ヘテロシクリル基」としては、3~6員飽和ヘテロシクリル基、5~6員ヘテロアリール基、5~6員部分不飽和ヘテロシクリル基などを挙げることができる。
【0029】
「3~6員飽和ヘテロシクリル基」としては、アジリジニル基、エポキシ基、ピロリジニル基、テトラヒドロフラニル基、チアゾリジニル基、ピペリジル基、ピペラジニル基、モルホリニル基、ジオキソラニル基、ジオキサニル基などを挙げることができる。
【0030】
「5員ヘテロアリール基」としては、ピロリル基、フリル基、チエニル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、トリアゾリル基、オキサジアゾリル基、チアジアゾリル基、テトラゾリル基などを挙げることができる。
「6員ヘテロアリール基」としては、ピリジル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、トリアジニル基などを挙げることができる。
「5~6員部分不飽和へテロシクリル基」としては、ピロリニル基、ジヒドロフラニル基、ジヒドロチオフェニル基、イミダゾリニル基、ピラゾリニル基、オキサゾリニル基、イソオキサゾリニル基、チアゾリニル基、イソチアゾリニル基などの5員部分不飽和ヘテロシクリル基;ジヒドロピラニル基などの6員部分不飽和へテロシクリル基を挙げることができる。
【0031】
〔塩素化反応〕
本発明に用いられる化合物(1)は、式(1)で表される。
【0032】
【0033】
式(1)中、R1は、置換若しくは無置換のC1~6アルキル基、置換若しくは無置換のC2~6アルケニル基、置換若しくは無置換のC2~6アルキニル基、置換若しくは無置換のC3~6シクロアルキル基、または置換若しくは無置換のフェニル基を示す。
R2は、それぞれ独立に、C1~6アルキル基を示す。すなわち、式(1)中のR2は、同一のものであってもよいし、相違するものであってもよい。
【0034】
R1およびR2における「C1~6アルキル基」は、直鎖であってもよいし、分岐鎖であってもよい。R1におけるC1~6アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、i-プロピル基、i-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、i-ペンチル基、ネオペンチル基、2-メチルブチル基、2,2-ジメチルプロピル基、i-ヘキシル基などを挙げることができる。
【0035】
R1における「C2~6アルケニル基」としては、ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、1-メチル-2-プロペニル基、2-メチル-2-プロペニル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、3-ペンテニル基、4-ペンテニル基、1-メチル-2-ブテニル基、2-メチル-2-ブテニル基、1-ヘキセニル基、2-ヘキセニル基、3-ヘキセニル基、4-ヘキセニル基、5-ヘキセニル基などを挙げることができる。
【0036】
R1における「C2~6アルキニル基」としては、エチニル基、1-プロピニル基、2-プロピニル基、1-ブチニル基、2-ブチニル基、3-ブチニル基、1-メチル-2-プロピニル基などを挙げることができる。
【0037】
R1における「C3~6シクロアルキル基」としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などを挙げることができる。
【0038】
R1における「C1~6アルキル基」、「C2~6アルケニル基」および「C1~6アルキニル基」上の置換基としては、好ましくは、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、イオド基などのハロゲノ基; メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、s-ブトキシ基、i-ブトキシ基、t-ブトキシ基などのC1~6アルコキシ基; ジフルオロメトキシ基、トリフルオロメトキシ基、2,2-ジフルオロエチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基などのC1~6ハロアルコキシ基; フェニル基; 4-クロロフェニル基、4-メチルフェニル基、4-トリフルオロメチルフェニル基、4-トリフルオロメトキシフェニル基などの、ハロゲノ基、C1~6アルキル基、C1~6ハロアルキル基、またはC1~6ハロアルコキシ基で置換されたフェニル基; またはシアノ基;を挙げることができる。
【0039】
R1における「C3~6シクロアルキル基」および「フェニル基」上の置換基としては、好ましくは、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、イオド基などのハロゲノ基; メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基などのC1~6アルキル基; ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、1,2,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロピル基、パーフルオロプロピル基、1,2,3,3,3-ペンタフルオロ-2-(トリフルオロメチル)プロピル基などのC1~6ハロアルキル基; メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、s-ブトキシ基、i-ブトキシ基、t-ブトキシ基などのC1~6アルコキシ基; ジフルオロメトキシ基、トリフルオロメトキシ基、2,2-ジフルオロエチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基などのC1~6ハロアルコキシ基; またはシアノ基; を挙げることができる。
【0040】
本発明の製造方法においては、化合物(1)として、R1がシクロプロピル基、R2がいずれもエチル基であるもの((2,2-ジエトキシエチル)シクロプロパン:化合物(1a))を、好ましく用いることができる。
【0041】
【0042】
本発明に用いられる化合物(1)は、公知の方法で自ら合成したものであってもよいし、他の者が何らかの方法で合成し市販しているものであってもよい。
【0043】
塩素化剤は、本発明の反応条件下において、塩化物イオンもしくは塩素原子を放出する化合物(カルボン酸塩化物(R3COCl)を除く。ただし、R3はアルキル基、アルケニル基、アリール基またはアラルキル基である。)である。本発明に用いられる塩素化剤として、例えば、塩化スルフリル、2,4,6-トリクロロ1,3,5-トリアジン(別名:塩化シアヌル)、メトキシアセチルクロリド、トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム、p-トルエンスルホンジクロラミド、N-クロロサッカリン、ベンジルトリメチルアンモニウムテトラクロロよう素酸塩、1,3-ジクロロ-5,5-ジメチルヒダントイン、トリクロロメタンスルホニルクロリド、メタンスルホニルクロリド、N-クロロスクシンイミド、N-クロロフタルイミド、ジクロロよう素酸ベンジルトリメチルアンモニウム、五塩化りん、三塩化リン、ベンゼンスルホンジクロロアミド、クロロトリメチルシラン、ホスゲン、塩化オキサリル、塩化チオニル、トリホスゲン、C1~6アルキルクロロホルマートなどを挙げることができる。C1~6アルキルクロロホルマートとしては、メチルクロロホルマート、エチルクロロホルマートなどを挙げることができる。これらのうちホスゲン、塩化オキサリル、塩化チオニル、トリホスゲン、およびC1~6アルキルクロロホルマートからなる群から選ばれる少なくともひとつが好ましい。塩素化剤としてトリホスゲンを使用する場合には、トリエチルアミンなどの第三級アミン類を併用することが好ましい。
【0044】
塩素化剤の使用量は、化合物(1)1モルに対して、例えば、好ましくは0.5~5.0モル、より好ましくは0.5~3.0モルである。塩素化剤は、反応熱による急激な温度上昇を抑制するために、反応器に少しずつ供給することが好ましい。反応器内の温度を監視して塩素化剤の供給量を制御してもよい。
【0045】
塩素化反応は、液相において行うことができる。化合物(1)が本発明の反応条件下において液体状態である場合は、溶媒を用いなくてもよい。
塩素化反応は、化合物(1)の性状に関わりなく、溶媒を用いてもよい。塩素化反応に用い得る溶媒は、化合物(1)に対して不活性なものであれば特に限定されない。塩素化反応に用い得る溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル(製品名:ジグライム)、テトラヒドロフラン(略名:THF)などのエーテル類; ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン(略名:DCE)などのハロゲン化炭化水素類; ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素類; トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;などを挙げることができる。これらのうちハロゲン化炭化水素類が好ましい。溶媒の使用量は、特に限定されないが、例えば、化合物(1)1重量部に対して、好ましくは10~500重量部である。
【0046】
塩素化反応において、反応活性化剤を用いてもよい。反応活性化剤としては、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛、酢酸亜鉛などを挙げることができる。反応活性化剤の使用量は、化合物(1)1モルに対して、例えば、好ましくは0.0001~0.01モル、より好ましくは0.0001~0.001モルである。塩素化反応において、メタノール、エタノールなどの低級アルコールを用いてもよい。低級アルコールの使用量は、化合物(1)1モルに対して、例えば、好ましくは0.2~0.001モル、より好ましくは0.1~0.01モルである。反応活性化剤や低級アルコールを用いることによって、エーテル基の開裂を促進できることがある。
【0047】
塩素化反応を行っている間、反応器内の温度は、例えば、好ましくは0℃~50℃に設定することができる。塩素化反応を行っている間、反応器内の圧力は、例えば、好ましくは0.1~1MPa、より好ましくは0.1~0.5MPaに設定することができる。塩素化反応にかける時間は、特に限定されず、例えば、0.5時間~24時間である。塩素化反応は不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0048】
塩素化反応で得られる化合物(2)は、式(2)で表される。
【0049】
【0050】
式(2)中、R1およびR2は、式(1)中のそれらと同じものを示す。化合物(1a)からは塩素化反応によって式(2a)で表される化合物((2-クロロ-2-エトキシエチル)シクロプロパン:化合物(2a))が得られる。
【0051】
【0052】
塩素化反応で得られる化合物(2)を含む液は、そのまま若しくは精製して、脱塩化水素反応に供することができる。精製は、公知の方法によって行うことができる。例えば、抽出、晶析、蒸留、クロマトグラフィーなどによって、またはそれらを適宜選択し組み合わせて、精製することができる。
【0053】
〔脱塩化水素反応〕
本発明に用いられる有機塩基としては、例えば、トリエチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、4-メチルモルホリン、1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(略名:DABCO)、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ-5-エン、ピリジン、4-(ジメチルアミノ)ピリジン、2,6-ジメチルピリジンなどを挙げることができる。
【0054】
有機塩基の使用量は、化合物(1)1モルに対して、例えば、好ましくは1.0~10.0モル、より好ましくは1.1~5.0モルである。有機塩基は、反応熱による急激な温度上昇を抑制するために、反応器に少しずつ供給することが好ましい。反応器内の温度を監視して有機塩基の供給量を制御してもよい。
【0055】
脱塩化水素反応は、液相において行うことができる。塩素化反応で使用し得るものとして例示した溶媒を脱塩化水素反応で用いることができる。塩素化反応で得られる化合物(2)を含む液をそのまま用いてもよい。
【0056】
脱塩化水素反応を行っている間、反応器内の温度は、例えば、好ましくは0℃~50℃に設定することができる。脱塩化水素反応を行っている間、反応器内の圧力は、例えば、好ましくは0.1~1MPa、より好ましくは0.1~0.5MPaに設定することができる。脱塩化水素反応にかける時間は、特に限定されず、例えば、1時間~24時間である。脱塩化水素反応は不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0057】
脱塩化水素反応で得られる化合物(3)は、式(3)で表される。化合物(3)は、二重結合に起因するE体とZ体の混合物の状態で得られることがある。
【0058】
【0059】
式(3)中、R1およびR2は、式(1)中および式(2)中のそれらと同じものを示す。化合物(1a)からは塩素化反応および脱塩化水素反応によって式(3a)で表される化合物((2-エトキシエテニル)シクロプロパン:化合物(3a))が得られる。
【0060】
【0061】
脱塩化水素反応で得られる化合物(3)を含む液は、そのまま若しくは精製して、次の工程(例えば、医薬、農薬、ポリマーなどの製造工程)に供することができる。精製は、公知の方法によって行うことができる。例えば、抽出、晶析、蒸留、クロマトグラフィーなどによって、またはそれらを適宜選択し組み合わせて、精製することができる。
【0062】
本発明の製造方法においては、(i)一つの反応器に化合物(1)、塩素化剤、有機塩基、溶媒などの反応用物質を適時に順次供給して塩素化反応および脱塩化水素反応を当該一つの反応器(ワンポット)で続けて行ってもよいし、または(ii)第一反応器に化合物(1)、塩素化剤などの塩素化反応用物質を供給して塩素化反応を第一反応器で行い、第二反応器に有機塩基、第一反応器で得られる生成物などの脱塩化水素反応用物質を供給して脱塩化水素反応を第二反応器で行ってもよい。第一反応器および第二反応器は、槽型反応器であってもよいし、管型反応器であってもよい。第一反応器および第二反応器として槽型反応器を用いる場合は、回分式若しくは連続式で、塩素化反応および脱塩化水素反応を行うことができる。第一反応器および/もしくは第二反応器として管型反応器を用いる場合は、連続式で、塩素化反応および脱塩化水素反応を行うことができる。
【0063】
以下に、実施例を示して、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は、下記の実施例によって限定されるものではない。
【0064】
〔実施例1〕
反応器に、臭化亜鉛0.68mg(3μmol)、(2,2-ジエトキシエチル)シクロプロパン3.16g(20mmol)およびクロロホルム10mlを仕込み、混ぜ合わせて、溶液を得た。反応器を氷水浴で冷却した。その後、前記溶液を撹拌しながら、氷水浴で冷却している状態の反応器に塩化オキサリル944μl(11mmol)を滴下し、滴下終了後30分間撹拌した。その後、反応器を室温に戻して撹拌を続けた。FTIRスペクトル上で(2,2-ジエトキシエチル)シクロプロパンのC-O伸縮に由来するピーク(1057cm-1)の強度の減少がサチュレーションしたときを反応終点とした。反応終点までおよそ3時間を要した。
次に、反応器を氷水浴で冷却した。その後、反応器内の溶液を撹拌しながら、氷水浴で冷却している状態の反応器にトリエチルアミン4.18ml(30mmol)を5分間かけて滴下した。その後、反応器を室温に戻して20時間撹拌を続けた。
反応器に水20mlを添加して撹拌した。静置によって水層と有機層とに分けた。ガスクロマトグラフィーによる定量分析で、有機層に(2-エトキシエテニル)シクロプロパン(収率85%、E体/Z体=22/78)が得られたことがわかった。
【0065】
〔実施例2〕
反応器に、臭化亜鉛0.59mg(2.6μmol)、(2,2-ジエトキシエチル)シクロプロパン3.16g(20mmol)およびクロロホルム10mlを仕込み、混ぜ合わせて、溶液を得た。反応器を氷水浴で冷却した。その後、前記溶液を撹拌しながら、氷水浴で冷却している状態の反応器に塩化チオニル798μl(11mmol)を滴下し、滴下終了後30分間撹拌した。その後、反応器を室温に戻して撹拌を続けた。反応終点までおよそ2時間を要した。
次に、反応器を氷水浴で冷却した。その後、反応器内の溶液を撹拌しながら、氷水浴で冷却している状態の反応器にトリエチルアミン4.18ml(30mmol)を5分間かけて滴下した。その後、反応器を室温に戻して20時間撹拌を続けた。
反応器に水20mlを添加して撹拌した。静置によって水層と有機層とに分けた。ガスクロマトグラフィーによる定量分析で、有機層に(2-エトキシエテニル)シクロプロパン(収率86%、E体/Z体=22/78)が得られたことがわかった。
【0066】
〔実施例3〕
反応器に、臭化亜鉛0.90mg(4.0μmol)、(2,2-ジエトキシエチル)シクロプロパン3.16g(20mmol)、トリホスゲン5.94g(20mmol)およびクロロホルム10mlを仕込み、混ぜ合わせて、溶液を得た。反応器を氷水浴で冷却した。その後、前記溶液を撹拌しながら、氷水浴で冷却している状態の反応器にトリエチルアミン139μl(1mmol)を滴下し、滴下終了後30分間撹拌した。その後、反応器を室温に戻して撹拌を続けた。反応終点までおよそ5時間を要した。
次に、反応器を氷水浴で冷却した。その後、反応器内の溶液を撹拌しながら、氷水浴で冷却している状態の反応器にトリエチルアミン12.5ml(90mmol)を10分間かけて滴下した。その後、反応器を室温に戻して20時間撹拌を続けた。
反応器に2N NaOH水溶液20mlを添加して撹拌した。静置によって水層と有機層とに分けた。ガスクロマトグラフィーによる定量分析で、有機層に(2-エトキシエテニル)シクロプロパン(収率93%、E体/Z体=25/75)が得られたことがわかった。
【0067】
〔実施例4〕
反応器に、(2,2-ジエトキシエチル)シクロプロパン31.65g(200mmol)およびクロロホルム100mlを仕込み、混ぜ合わせて、溶液を得た。反応器を氷水浴で冷却した。その後、前記溶液を撹拌しながら、氷水浴で冷却している状態の反応器に塩化オキサリル9.44ml(110mmol)を15分間かけて滴下した。その後、反応器を室温に戻して撹拌した。撹拌2時間経過時に塩化オキサリル0.86ml(10mmol)を追加添加し、さらに1時間撹拌した。その後、反応器をセ氏マイナス8度に冷却した。冷却している状態の反応器にトリエチルアミン41.8ml(300mmol)を30分間かけて滴下した。その後、反応器を室温に戻して20時間撹拌を続けた。
反応器に水100mlを添加して撹拌した。静置によって水層と有機層とに分けた。有機層を常圧蒸留してクロロホルムとトリエチルアミンを合計で123.8gを除去した。蒸留残渣を減圧蒸留して、(2-エトキシエテニル)シクロプロパン(19.01g、収率83%、E体/Z体=23/77)を得た。得られた(2-エトキシエテニル)シクロプロパンのガスクロマトグラフィーにおける相対面積比は98.1%であった。
【0068】
得られた(2-エトキシエテニル)シクロプロパンの1HNMRのデータを以下に示す。
1H NMR(400MHz,CDCl3)δ0.22-0.26 (m, 2H for E), 0.27-0.31 (m, 2H for Z), 0.59-0.63 (m, 2H for E), 0.68-0.73 (m, 2H for Z), 1.20-1.30 (m, 3H for Z, 4H for E), 1.75 (m, 1H for Z), 3.68 (q, J = 7.03 Hz, 2H for E), 3.81 (q, J = 7.06 Hz, 2H for Z), 3.86 (dd, J = 9.54, 6.25 Hz, 1H for Z), 4.53 (dd, J = 12.6, 7.6 Hz, 1H for E), 5.97 (dd, J = 6.25, 0.44 Hz, 1H for Z), 6.31 (d, J = 12.6 Hz, 1H for E).
【0069】
上記の実施例が示すとおり、本発明の製造方法によって、高収率で、医薬、農薬、ポリマーなどの原料として有用な1-アルケニルエーテル化合物を、効率的に得ることができる。