(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125084
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】熱交換器及び熱交換器の製造方法
(51)【国際特許分類】
F28F 3/04 20060101AFI20240906BHJP
B21J 5/02 20060101ALI20240906BHJP
B21D 53/04 20060101ALI20240906BHJP
H01L 23/473 20060101ALI20240906BHJP
F28F 3/00 20060101ALI20240906BHJP
F28F 13/08 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
F28F3/04 A
B21J5/02 B
B21D53/04 Z
H01L23/46 Z
F28F3/00 301Z
F28F13/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033178
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000004765
【氏名又は名称】マレリ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 充
(72)【発明者】
【氏名】松平 範光
(72)【発明者】
【氏名】林 栄樹
(72)【発明者】
【氏名】狐塚 裕美
【テーマコード(参考)】
4E087
5F136
【Fターム(参考)】
4E087CA17
4E087CB03
4E087DB04
4E087HA00
4E087HA91
4E087HB00
5F136BA06
5F136BA14
5F136CB07
5F136CB08
5F136DA41
5F136EA12
5F136FA01
5F136GA17
(57)【要約】
【課題】熱交換器を大型化せずに熱交換性能を向上させる。
【解決手段】熱交換器1の本体部10は、第1部材11及び第2部材12の少なくとも一方に形成されて第1部材11と第2部材12とが対向する方向に突出し、冷却水が流通する流通方向に並べて設けられる複数のピン30を有し、ピン30は、流通方向に沿って直線状に設けられる第1平壁部31aと、第1平壁部31aよりも冷却水との接触面積が大きい第1長壁部31bと、を有する第1突起部31と、第1平壁部31aとの間に冷却水が流通するスリット33を形成するように対向し、流通方向に沿って直線状に設けられる第2平壁部32aと、第2平壁部32aよりも冷却水との接触面積が大きい第2長壁部32bと、を有する第2突起部32と、を有し、複数のピン30のスリット33は、流通方向に沿って直線状に並ぶように設けられる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱体を有する被冷却デバイスとの間で流体を介して熱交換を行う熱交換器であって、
流体が流通する流路の第1壁面を有する第1部材と、前記第1壁面と対向して設けられて前記流路を形成する第2壁面を有する第2部材と、を有し、前記被冷却デバイスに連結される本体部を備え、
前記本体部は、前記第1部材及び前記第2部材の少なくとも一方に形成されて前記第1部材と前記第2部材とが対向する対向方向に突出し、流体が流通する流通方向に並べて設けられる複数の突起部を有し、
前記複数の突起部は、
前記流通方向に沿って直線状に設けられる第1平壁部と、前記第1平壁部よりも流体との接触面積が大きい第1長壁部と、を有する第1突起部と、
前記第1平壁部との間に流体が流通するスリットを形成するように対向して前記流通方向に沿って直線状に設けられる第2平壁部と、前記第2平壁部よりも流体との接触面積が大きい第2長壁部と、を有する第2突起部と、
を各々有し、
前記複数の突起部の前記スリットは、前記流通方向に沿って直線状に並ぶように設けられる、
熱交換器。
【請求項2】
請求項1に記載の熱交換器であって、
前記複数の突起部は、前記流通方向及び前記流路の幅方向に各々並べて設けられ、
前記複数の突起部のうち、一つの前記突起部の前記第1長壁部と隣接する他の前記突起部の前記第2長壁部との間の距離は、前記スリットにおける前記第1平壁部と前記第2平壁部との間の距離よりも大きい、
熱交換器。
【請求項3】
請求項1に記載の熱交換器であって、
前記突起部は、前記流通方向において、上流側の部位における前記流路の幅方向の幅及び下流側の部位における前記幅方向の大きさよりも、前記上流側の部位と前記下流側の部位との間の中間部の前記幅方向における大きさの方が大きい、
熱交換器。
【請求項4】
請求項3に記載の熱交換器であって、
前記突起部は、上流側と下流側とが前記中間部を挟んで対称になるように設けられ、
前記中間部は、前記上流側の部位と前記下流側の部位とを滑らかに連結する曲面状に形成される、
熱交換器。
【請求項5】
請求項1に記載の熱交換器であって、
前記複数の突起部は、前記流通方向及び前記流路の幅方向に各々並べて設けられ、
前記流通方向視で、前記流通方向の下流側に設けられる前記突起部は、前記流通方向の上流側に隣接する一対の前記突起部の間に設けられる、
熱交換器。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一つに記載の熱交換器であって、
前記対向方向視で、前記スリットの面積は、前記突起部の全体の面積に対して20%以上60%以下の大きさである、
熱交換器。
【請求項7】
発熱体を有する被冷却デバイスとの間で流体を介して熱交換を行う熱交換器を製造する熱交換器の製造方法であって、
前記熱交換器は、流体が流通する流路の第1壁面を有する第1部材と、前記第1壁面と対向して設けられて前記流路を形成する第2壁面を有する第2部材と、を有し、前記被冷却デバイスに連結される本体部を備え、
前記第1部材及び前記第2部材の少なくとも一方に前記第1部材と前記第2部材とが対向する対向方向に突出する複数の突起部を、流体が流通する流通方向に並ぶように冷間鍛造によって形成する冷間鍛造工程と、
前記複数の突起部の各々に、前記流通方向に沿って直線状に設けられる第1平壁部と、前記第1平壁部と対向し、前記流通方向に沿って直線状に設けられる第2平壁部と、前記第1平壁部と前記第2平壁部との間に流体が流通するスリットと、を、前記スリットが前記流通方向に並ぶ前記複数の突起部にて直線状に並ぶように切削して形成する切削工程と、
を備える、
熱交換器の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の熱交換器の製造方法であって、
前記突起部は、前記流通方向の上流端部と下流端部との少なくとも一方に前記流路の幅方向に平面状に形成される平面部を有し、
前記切削工程では、前記平面部から切削を開始する、
熱交換器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被冷却デバイスを冷却する熱交換器及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、冷却用の流体の流路に複数の柱状フィンを形成し、被冷却デバイスからの熱を柱状フィンによって流体に伝えるようにした熱交換器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】独国特許出願公開第102011118483号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された熱交換器では、熱交換性能を向上させようとすると、流路抵抗を小さくするために流路高さ及び柱状フィンの高さを大きくする必要がある。そのため、熱交換性能の向上のために、熱交換器が大型化するおそれがある。
【0005】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、熱交換器を大型化せずに熱交換性能を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様によれば、発熱体を有する被冷却デバイスとの間で流体を介して熱交換を行う熱交換器であって、流体が流通する流路の第1壁面を有する第1部材と、前記第1壁面と対向して設けられて前記流路を形成する第2壁面を有する第2部材と、を有し、前記被冷却デバイスに連結される本体部を備え、前記本体部は、前記第1部材及び前記第2部材の少なくとも一方に形成されて前記第1部材と前記第2部材とが対向する対向方向に突出し、流体が流通する流通方向に並べて設けられる複数の突起部を有し、前記複数の突起部は、前記流通方向に沿って直線状に設けられる第1平壁部と、前記第1平壁部よりも流体との接触面積が大きい第1長壁部と、を有する第1突起部と、前記第1平壁部との間に流体が流通するスリットを形成するように対向して前記流通方向に沿って直線状に設けられる第2平壁部と、前記第2平壁部よりも流体との接触面積が大きい第2長壁部と、を有する第2突起部と、を各々有し、前記複数の突起部の前記スリットは、前記流通方向に沿って直線状に並ぶように設けられる、熱交換器が提供される。
【0007】
本発明の他の態様によれば、発熱体を有する被冷却デバイスとの間で流体を介して熱交換を行う熱交換器を製造する熱交換器の製造方法であって、前記熱交換器は、流体が流通する流路の第1壁面を有する第1部材と、前記第1壁面と対向して設けられて前記流路を形成する第2壁面を有する第2部材と、を有し、前記被冷却デバイスに連結される本体部を備え、前記第1部材及び前記第2部材の少なくとも一方に前記第1部材と前記第2部材とが対向する対向方向に突出する複数の突起部を、流体が流通する流通方向に並ぶように冷間鍛造によって形成する冷間鍛造工程と、前記複数の突起部の各々に、前記流通方向に沿って直線状に設けられる第1平壁部と、前記第1平壁部と対向し、前記流通方向に沿って直線状に設けられる第2平壁部と、前記第1平壁部と前記第2平壁部との間に流体が流通するスリットと、を、前記スリットが前記流通方向に並ぶ前記複数の突起部にて直線状に並ぶように切削して形成する切削工程と、を備える、熱交換器の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
上記態様では、流体の流路に突出する突起部は、流体が流通する流通方向に沿って直線状に設けられる第1平壁部と、第1平壁部との間に流体が流通するスリットを形成するように対向し、流通方向に沿って直線状に設けられる第2平壁部と、を有し、複数の突起部のスリットは、流通方向に沿って直線状に並ぶように設けられる。そのため、流体がスリット内を流通するので、流路抵抗を低減させることができ、流路の高さを小さくすることができる。また、第1平壁部と第2平壁部においても流体との間で熱交換が行われるので、熱交換性能を向上させることができる。したがって、熱交換器を大型化せずに熱交換性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る熱交換器を斜め上方から見た外観斜視図である。
【
図2】
図2は、熱交換器を下方から見た分解斜視図である。
【
図3】
図3は、流路を形成する第1部材の表面の一部を示す底面図である。
【
図5】
図5は、突起部に対するスリットの面積の割合と発熱体が同じ温度になるように流体を流通させたときの流路抵抗との関係を説明するグラフである。
【
図6】
図6は、第1変形例に係る突起部の底面図である。
【
図7】
図7は、第2変形例に係る突起部の底面図である。
【
図8】
図8は、第3変形例に係る突起部の底面図である。
【
図9】
図9は、第4変形例に係る突起部の冷間鍛造工程について説明する底面図である。
【
図10】
図10は、第4変形例に係る突起部の切削工程について説明する底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る熱交換器1について説明する。
【0011】
まず、
図1から
図3を参照して、熱交換器1の構成について説明する。
図1は、熱交換器1を斜め上方から見た外観斜視図である。
図2は、熱交換器1を下方から見た分解斜視図である。
図3は、流路20を形成する第1部材11の表面の一部を示す底面図である。
【0012】
以下では、入口流路3が接続される開口部12Aから出口流路4が接続される開口部12Bまでの流路20の延びる方向(
図1及び
図2における矢印F)を「流通方向」と称し、流路20の延びる方向と交差し、第1部材11及び第2部材12に平行な方向(
図1及び
図2における矢印W)を「流路幅方向」若しくは単に「幅方向」と称し、第1部材11と第2部材12とが対向する方向(
図1及び
図2における矢印H)を「対向方向」若しくは「流路高さ方向」と称する。
【0013】
図1に示すように、熱交換器1は、発熱体としてのスイッチング素子6を有する被冷却デバイスとしてのインバータモジュール2との間で流体としての冷却水を介して熱交換を行う装置である。具体的には、熱交換器1は、冷却水との熱交換によってインバータモジュール2を冷却する装置である。熱交換器1は、本体部10を備える。
【0014】
本体部10は、第1部材11と、第2部材12と、を有する。本体部10内には、冷却水が流通する流路20(
図2参照)が形成される。
【0015】
図2に示すように、第1部材11は、側壁11Sに囲まれた矩形状の平面部分11Pを有するトレイ形状に形成されている。第2部材12は、側壁12Sに囲まれた矩形状の平面部分12Pを有するトレイ形状に形成されている。平面部分12Pは、平面部分11Pと略同寸法である。平面部分11Pと平面部分12Pとは、流路高さ分の距離をあけて対向して設けられる。
【0016】
流路20は、第1部材11の側壁11Sの縁と第2部材12の側壁12Sの縁とを合わせたときに、第1部材11と第2部材12との間に流路高さ分の空間が確保されることで、扁平状に形成される。このとき、第1部材11の平面部分11Pが、流路20の第1壁面を構成し、第2部材12の平面部分12Pが、流路20の第2壁面を構成する。
【0017】
本体部10は、複数の突起部としてのピン30を有する。ピン30については、
図4をあわせて参照しながら、後で詳細に説明する。
【0018】
図3に示すように、流路20に沿って設けられ流通方向に延びる側壁11Sは、複数の凹部21を有する。凹部21には、流路幅方向両端に設けられるピン30の一部が入り込む。凹部21は、ピン30との間に、冷却水が流通する流路20の一部を形成する。
【0019】
図2に示すように、第2部材12の各々の端部側の所定位置には、開口部12A及び開口部12Bが形成されている。開口部12Aには、冷却水が流通する流路20に冷却水を取り込む入口流路3(
図1参照)が取り付けられている。また、開口部12Bには、流路20から冷却水が排出される出口流路4(
図1参照)が取り付けられている。
【0020】
本体部10は、インバータモジュール2に連結されている。本実施形態においては、第1部材11がインバータモジュール2と一体的に形成されている。即ち、第1部材11がインバータモジュール2の底面を構成する。
【0021】
インバータモジュール2は、例えば、車両の駆動用モータ(図示省略)を制御するものである。
図1に示すように、本実施形態においては、インバータモジュール2は、本体部10の長手方向に沿って、3つのスイッチング回路5を有する。スイッチング回路5の各々は、熱伝導部材、はんだ、或いはその他の材料により、インバータモジュール2と一体的に形成された第1部材11に接続又は固定されている。
【0022】
スイッチング回路5は、交流電流と直流電流とを相互に変換する回路である。3つのスイッチング回路5は、インバータモジュール2のU相,V相,及びW相の各々に対応している。
【0023】
スイッチング回路5には、複数のスイッチング素子6が備えられている。本実施形態においては、一つのスイッチング回路5に、4つのスイッチング素子6a,6b,6c,6dが実装されている。スイッチング素子6への電流の入力のON/OFFが高速で切り換えられることにより、交流電流と直流電流とを相互に変換することができる。
【0024】
スイッチング素子6は、交直流変換によって発熱する。スイッチング素子6は、発熱により高温になると、変換効率が低下するため、冷却を要する。本実施形態においては、インバータモジュール2が、冷却水の流路20を有する本体部10に連結されている。このため、本体部10に形成された流路20を流れる冷却水によって、スイッチング素子6から発生した熱が本体部10に形成された流路20を流れる冷却水と熱交換することで、スイッチング素子6を冷却することができる。
【0025】
インバータモジュール2において、スイッチング回路5が配置される面には、スイッチング回路5を熱交換器1側に押圧する押さえ部材(図示省略)が設けられている。これにより、インバータモジュール2に配置されたスイッチング回路5から第1部材11への熱伝導性を高めることができる。
【0026】
続いて、
図4をあわせて参照して、ピン30の具体的な構成について説明する。
図4は、
図3の一部を拡大して示す底面図である。
【0027】
図3に示すように、ピン30は、第1部材11の平面部分11Pに形成される。ピン30は、平面部分11Pから流路高さ方向に突出する。
【0028】
ピン30は、第1部材11及び第2部材12に連結される。ピン30は、平面部分12Pが冷却水から伝達された熱を平面部分11Pに伝達する。また、ピン30自体も、冷却水との間で熱交換を行う。即ち、ピン30は、冷却水の流れに適度な抵抗を付与すると共に、冷却水との熱交換面積を増加させるものである。
【0029】
図4に示すように、ピン30は、対向方向視で、略ひし形に形成される。ピン30は、流通方向において、上流側の部位30aにおける流路幅方向の大きさ及び下流側の部位30bにおける流路幅方向の大きさよりも、上流側の部位30aと下流側の部位30bとの間の中間部30cの流路幅方向における大きさの方が大きい。ピン30は、上流側と下流側とが中間部30cを挟んで対称になるように設けられる。
【0030】
なお、ピン30は、第2部材12の平面部分12Pに形成されてもよく、第1部材11の平面部分11Pと第2部材12の平面部分12Pとに共に形成されてもよい。即ち、ピン30は、第1部材11と第2部材12との少なくとも一方に形成されればよい。
【0031】
また、ピン30は、第1部材11の平面部分11Pから突出して、第2部材12の平面部分12Pには当接しなくてもよい。ピン30は、第1部材11と第2部材12とのうち、少なくともインバータモジュール2が設けられる方に当接していればよい。
【0032】
ピン30は、流通方向及び流路幅方向に各々並べて設けられる。具体的には、流通方向視で、流通方向の下流側に設けられるピン30は、流通方向の上流側に隣接する一対のピン30の間に位置するように設けられる。即ち、流通方向の上流側にて流路幅方向に並ぶ複数のピン30に対して、流通方向の下流側に隣接して流路幅方向に並ぶ複数のピン30は、流通方向視で上流側のピン30の間に位置するように配置される。
【0033】
複数のピン30は、第1突起部31と、第2突起部32と、を各々有する。第1突起部31と第2突起部32との間には、スリット33が設けられる。
【0034】
第1突起部31は、略直角三角形状に形成される。第1突起部31は、第1平壁部31aと、第1長壁部31bと、を有する。
【0035】
第1平壁部31aは、流通方向に沿って直線状に設けられる。第1平壁部31aは、略直角三角形状の第1突起部31の斜辺に相当する位置に設けられる。第1平壁部31aは、冷却水との間で熱交換を行う。
【0036】
第1長壁部31bは、第1平壁部31aよりも冷却水との接触面積が大きい。第1長壁部31bは、略直角三角形状の第1突起部31の斜辺を挟む他の2辺に相当する位置に設けられる。即ち、第1長壁部31bは、略中央にて直角に傾斜方向が変わる略L字状に形成される。第1長壁部31bは、冷却水との間で熱交換を行う。
【0037】
第2突起部32は、略三角形状に形成される。第2突起部32は、第1突起部31と流路幅方向に並んで設けられる。第2突起部32は、スリット33を挟んで第1突起部31に対して流路幅方向に線対称になるように設けられる。第2突起部32は、第2平壁部32aと、第2長壁部32bと、を有する。
【0038】
第2平壁部32aは、流通方向に沿って直線状に設けられる。第2平壁部32aは、略直角三角形状の第2突起部32の斜辺に相当する位置に設けられる。第2平壁部32aは、第1平壁部31aとの間に冷却水が流通するスリット33を形成するように対向する。第2平壁部32aは、冷却水との間で熱交換を行う。
【0039】
第2長壁部32bは、第2平壁部32aよりも冷却水との接触面積が大きい。第2長壁部32bは、略直角三角形状の第2突起部32の斜辺を挟む他の2辺に相当する位置に設けられる。即ち、第2長壁部32bは、略中央にて直角に傾斜方向が変わる略L字状に形成される。第2長壁部32bは、冷却水との間で熱交換を行う。
【0040】
スリット33は、流路高さ方向の全体にわたって形成される。スリット33は、第1平壁部31aと第2平壁部32aと平面部分11Pと平面部分11Pとによって囲まれて流路20の一部を構成する。スリット33は、矩形形状の流路断面を有して直線状に形成される。スリット33が設けられることで、第1平壁部31aと第2平壁部32aにおいても冷却水との間で熱交換が行われるので、熱交換性能を向上させることができる。
【0041】
流通方向に並ぶ複数のピン30のスリット33は、流通方向に沿って直線状に並ぶように設けられる。
【0042】
これにより、流通方向の上流側に位置するピン30のスリット33を通過した冷却水は、周囲の冷却水が流通方向に沿って直線状に流れるように冷却水の流れを整える。また、流通方向の上流側に位置するピン30のスリット33を通過した冷却水は、直線的に流れて、下流側に隣接するピン30のスリット33に流入する。これにより、流路20内の冷却水の流れが乱れることを抑制し、流路抵抗を低減させることができる。
【0043】
以上のように、冷却水の流路20に突出するピン30は、冷却水が流通する流通方向に沿って直線状に設けられる第1平壁部31aと、第1平壁部31aとの間に冷却水が流通するスリット33を形成するように対向し、流通方向に沿って直線状に設けられる第2平壁部32aと、を有し、複数のピン30のスリット33は、流通方向に沿って直線状に並ぶように設けられる。そのため、冷却水がスリット33内を流通するので、流路抵抗を低減させることができ、流路20の高さを小さくすることができる。また、第1平壁部31aと第2平壁部32aにおいても冷却水との間で熱交換が行われるので、熱交換性能を向上させることができる。したがって、熱交換器1を大型化せずに熱交換性能を向上させることができる。
【0044】
また、流路20の高さが低くなり、同等通水抵抗、同等流量時に冷却水の流速が高くなり、第2部材12の平面部分12Pの熱伝達率も向上する。
【0045】
複数のピン30のうち、一つのピン30の第1長壁部31bと隣接する他のピン30の第2長壁部32bとの間の最も近い位置における距離D1[mm]は、スリット33における第1平壁部31aと第2平壁部32aとの間の距離DS[mm]よりも大きい(D1>DS)。即ち、スリット33の開口幅は、一つのピン30と隣接する他のピン30との間の距離よりも小さい。これにより、直線的に設けられて冷却水が流通しやすいスリット33に冷却水が集中して流通することを防止でき、第1平壁部31a,第1長壁部31b,第2平壁部32a,及び第2長壁部32bのすべてにおいて熱交換を行うように冷却水を流通させることができる。
【0046】
続いて、
図5をあわせて参照して、スリット33の大きさについて説明する。
図5は、ピン30に対するスリット33の面積の割合とスイッチング素子6が同じ温度になるように冷却水を流通させたときの流路抵抗との関係を説明するグラフである。
【0047】
図5において、横軸は、ピン30に対するスリット33の面積の割合[%]である。具体的には、横軸は、
図4に示すピン30の対向方向視の全体の面積(第1突起部31の対向方向視の面積S1[mm
2]と第2突起部32の対向方向視の面積S1[mm
2]とスリット33の対向方向視の面積SS[mm
2]との和)に対するスリット33の対向方向視の面積SS[mm
2]の割合(SS/(S1+SS+S2)[%])である。
【0048】
なお、スリット33の面積SS[mm2]は、スリット33が形成される前のピン30の全体の面積に対して、スリット33が形成されたときに減少した面積を示すものである。スリット33の面積SS[mm2]は、ピン30の外形を変更せずに、スリット33の流路幅方向の大きさのみを変更することによって変化する。
【0049】
一方、
図5において、縦軸は、インバータモジュール2が同じ温度になるように冷却水を流通させたときの流路抵抗[%]である。具体的には、縦軸は、ピン30に対するスリット33の面積の割合が0%である場合、即ち、ピン30にスリット33が設けられず、ピン30が略ひし形である場合を100%としたときの流路抵抗の相対的な大きさを示す値である。
【0050】
図5に示すように、スリット33が設けられていない状態から、スリット33の面積SS[mm
2]が徐々に大きくなってゆくと、スリット33を通過する冷却水の流量が徐々に多くなる。そのため、流路抵抗は徐々に小さくなる傾向にある。
【0051】
一方、スリット33の面積SS[mm2]が80%に近付くにつれて、第1突起部31と第2突起部32との面積(S1+S2[mm2])が小さくなるので、インバータモジュール2を冷却するために冷却水の流量を増加させる必要が生じる。そのため、流路抵抗は徐々に大きくなる傾向にある。
【0052】
図5のグラフからは、スリット33の面積SS[mm
2]が、ピン30の全体の面積に対して20%以上60%以下の大きさである場合に、流通抵抗[%]が小さな値をとっていることが分かる。よって、スリット33の面積SS[mm
2]を、ピン30の全体の面積に対して20%以上60%以下の大きさにすることで、インバータモジュール2を同じ温度まで冷却する際の流路抵抗を小さくすることができる。
【0053】
続いて、
図6から
図10を参照して、本実施形態の第1から第4変形例について各々説明する。以下に示す各変形例のように、ピン30の形状については、種々の変更が可能である。
【0054】
図6は、第1変形例に係るピン30の底面図である。第1変形例では、ピン30の中間部30cは、上流側の部位30aと下流側の部位30bとを滑らかに連結する曲面状に形成される。これにより、第1変形例に係るピン30によれば、第1長壁部31b及び第2長壁部32bが滑らかな曲面状に形成されるので、流通抵抗を低減させることができる。
【0055】
図7は、第2変形例に係るピン30の底面図である。第2変形例では、ピン30は、対向方向視で略円形に形成される。また、ピン30は、流通方向に沿って長径が位置する楕円形であってもよい。第2変形例に係るピン30によってもまた、第1長壁部31b及び第2長壁部32bが滑らかな曲面状に形成されるので、流通抵抗を低減させることができる。
【0056】
図8は、第3変形例に係るピン30の底面図である。第3変形例では、ピン30は、流通方向の下流側ほど流路幅方向の大きさが小さくなるような、いわゆる翼形状である。第3変形例に係るピン30によってもまた、第1長壁部31b及び第2長壁部32bが滑らかな曲面状に形成されるので、流通抵抗を低減させることができる。
【0057】
図9は、第4変形例に係るピン30の冷間鍛造工程について説明する底面図である。
図10は、第4変形例に係るピン30の切削工程について説明する底面図である。ここでは、第4変形例に係るピン30の構成とあわせて、熱交換器の製造方法についても説明する。
【0058】
図10に示すように、第4変形例に係るピン30は、第3変形例と同様に翼形状に形成される。よって、第4変形例に係るピン30によってもまた、第1長壁部31b及び第2長壁部32bが滑らかな曲面状に形成されるので、流通抵抗を低減させることができる。
【0059】
熱交換器の製造方法では、まず、
図9に示すように、冷間鍛造工程を実行して、スリット33が形成される前のピン30を形成する。冷間鍛造工程は、金属材料に熱を加えずに、常温のまま金型を押し当てて圧力を加え、金属材料を塑性変形させる工程である。冷間鍛造工程では、第1部材11及び第2部材12の少なくとも一方に第1部材11と第2部材12とが対向する対向方向に突出する複数のピン30を、冷却水が流通する流通方向に並ぶように冷間鍛造によって形成する。
【0060】
熱交換器1では、冷却水の流路20の高さを大きくする必要がないので、ピン30の高さを小さく抑えることができる。そのため、コストの低い冷間鍛造でピン30を形成することが可能になり、コストの高いダイキャスト等の工法でピン30を形成する必要がなくなる。よって、熱交換器1を製造する際のコストを低減させることができる。
【0061】
ピン30は、流路幅方向に平面状に形成される平面部34を有するように形成される。ここでは、平面部34は、ピン30の上流端部に設けられる。また、平面部34は、流路高さ方向に沿って、冷却水の流通方向と垂直に交差するように設けられる。これに代えて、平面部34を流通方向の下流端部に設けてもよく、上流端部と下流端部との両方に設けてもよい。即ち、平面部34は、流通方向の上流端部と下流端部との少なくとも一方に形成される。また、平面部34は、流路高さ方向には沿わずに、流路高さ方向の端面に平面面取りを行うことよって形成される平面であってもよい。
【0062】
次に、
図10に示すように、切削工程を実行して、冷間鍛造工程によって形成されたピン30にスリット33を形成する。切削工程は、回転する円板状の切削刄を押し当てて金属材料を切削する工程である。切削工程では、複数のピン30の各々に、流通方向に沿って直線状に設けられる第1平壁部31aと、第1平壁部31aと対向し、流通方向に沿って直線状に設けられる第2平壁部32aと、第1平壁部31aと第2平壁部32aとの間に冷却水が流通するスリット33と、を、スリット33が流通方向に並ぶ複数のピン30にて直線状に並ぶように切削して形成する。
【0063】
このとき、ピン30には、平面部34が設けられているので、はじめに切削刄を平面部34に接触させて、平面部34から切削を開始することができる。よって、スリット33を形成する際に、切削刄がピン30に当たって逃げることを防止できる。したがって、スリット33を形成しやすくできると共に、スリット33を精度よく形成することができる。
【0064】
なお、この熱交換器の製造方法は、上記実施形態及び変形例のすべての形状のピン30を設けた場合に適用可能である。
【0065】
以上の実施形態によれば、以下に示す効果を奏する。
【0066】
スイッチング素子6を有するインバータモジュール2との間で冷却水を介して熱交換を行う熱交換器1は、冷却水が流通する流路20の平面部分11Pを有する第1部材11と、平面部分12Pと対向して設けられて流路20を形成する平面部分12Pを有する第2部材12と、を有し、インバータモジュール2に連結される本体部10を備え、本体部10は、第1部材11及び第2部材12の少なくとも一方に形成されて第1部材11と第2部材12とが対向する方向に突出し、冷却水が流通する流通方向に並べて設けられる複数のピン30を有し、ピン30は、流通方向に沿って直線状に設けられる第1平壁部31aと、第1平壁部31aよりも冷却水との接触面積が大きい第1長壁部31bと、を有する第1突起部31と、第1平壁部31aとの間に冷却水が流通するスリット33を形成するように対向し、流通方向に沿って直線状に設けられる第2平壁部32aと、第2平壁部32aよりも冷却水との接触面積が大きい第2長壁部32bと、を有する第2突起部32と、を有し、複数のピン30のスリット33は、流通方向に沿って直線状に並ぶように設けられる。
【0067】
また、スイッチング素子6を有するインバータモジュール2との間で冷却水を介して熱交換を行う熱交換器1を製造する熱交換器の製造方法において、熱交換器1は、冷却水が流通する流路20の平面部分11Pを有する第1部材11と、平面部分11Pと対向して設けられて流路20を形成する平面部分12Pを有する第2部材12と、を有し、インバータモジュール2に連結される本体部10を備え、熱交換器の製造方法は、第1部材11及び第2部材12の少なくとも一方に第1部材11と第2部材12とが対向する対向方向に突出する複数のピン30を、冷却水が流通する流通方向に並ぶように冷間鍛造によって形成する冷間鍛造工程と、複数のピン30の各々に、流通方向に沿って直線状に設けられる第1平壁部31aと、第1平壁部31aと対向し、流通方向に沿って直線状に設けられる第2平壁部32aと、第1平壁部31aと第2平壁部32aとの間に冷却水が流通するスリット33と、を、スリット33が流通方向に並ぶ複数のピン30にて直線状に並ぶように切削して形成する切削工程と、を備える。
【0068】
これらの態様によれば、冷却水の流路20に突出するピン30は、冷却水が流通する流通方向に沿って直線状に設けられる第1平壁部31aと、第1平壁部31aとの間に冷却水が流通するスリット33を形成するように対向し、流通方向に沿って直線状に設けられる第2平壁部32aと、を有し、複数のピン30のスリット33は、流通方向に沿って直線状に並ぶように設けられる。そのため、冷却水がスリット33内を流通するので、流路抵抗を低減させることができ、流路20の高さを小さくすることができる。また、第1平壁部31aと第2平壁部32aにおいても冷却水との間で熱交換が行われるので、熱交換性能を向上させることができる。したがって、熱交換器1を大型化せずに熱交換性能を向上させることができる。
【0069】
また、熱交換器1では、冷却水の流路20の高さを大きくする必要がないので、ピン30の高さを小さく抑えることができる。そのため、ピン30をコストの低い冷間鍛造で形成することが可能になり、コストの高いダイキャスト等の工法で形成する必要がなくなる。よって、熱交換器1を製造する際のコストを低減させることができる。
【0070】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は、本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0071】
例えば、上記実施形態では、熱交換器1は、インバータモジュール2を冷却するものであるが、これらに代えて、他の被冷却デバイスを冷却するものであってもよい。
【符号の説明】
【0072】
1 熱交換器
2 インバータモジュール(被冷却デバイス)
6 スイッチング素子(発熱体)
10 本体部
11 第1部材
11P 平面部分(第1壁面)
12 第2部材
12P 平面部分(第2壁面)
20 流路
30 ピン(突起部)
30a 上流側の部位
30b 下流側の部位
30c 中間部
31 第1突起部
31a 第1平壁部
31b 第1長壁部
32 第2突起部
32a 第2平壁部
32b 第2長壁部
33 スリット