(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125088
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】スラブの製造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 11/124 20060101AFI20240906BHJP
B22D 11/22 20060101ALI20240906BHJP
B22D 11/12 20060101ALI20240906BHJP
B22D 1/00 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
B22D11/124 N
B22D11/22 B
B22D11/12 C
B22D11/12 Z
B22D1/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033193
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】岡 佑一
(72)【発明者】
【氏名】柿崎 元樹
【テーマコード(参考)】
4E004
【Fターム(参考)】
4E004KA14
4E004MC02
4E004NA01
4E004NB01
(57)【要約】
【課題】UT欠陥を低減する。
【解決手段】スラブの製造方法は、脱ガス処理により溶鋼中の水素濃度を1.5ppm以下に調整する精錬工程と、垂直曲げ型連続鋳造機または曲げ型連続鋳造機によりスラブを鋳造する鋳造工程において、精錬工程で調整した溶鋼をタンディッシュに供給し、鋳型直下から矯正帯終了位置までにおいて、スラブの幅方向両端部の「IN面比水量/OUT面比水量」≦3.0とし且つスラブの幅方向両端部のIN面比水量を0.60L/kg-steel以下とする鋳造工程と、鋳造工程により鋳造されたスラブを切断し、鋳造後50分以内に、切断されたスラブの上および下に、同じ鋳造機または他の鋳造機で鋳造された鋳造後50分以内のスラブを置き、前記切断されたスラブの上および下に鋳造後50分以内のスラブが置かれた状態を40時間以上維持する冷却工程とを備える。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱ガス処理により溶鋼中の水素濃度を1.5ppm以下に調整する精錬工程と、
垂直曲げ型連続鋳造機または曲げ型連続鋳造機によりスラブを鋳造する鋳造工程において、
前記精錬工程で調整した溶鋼をタンディッシュに供給し、
鋳型直下から矯正帯終了位置までにおいて、スラブの幅方向両端部の「IN面比水量/OUT面比水量」≦3.0とし且つスラブの幅方向両端部のIN面比水量を0.60L/kg-steel以下とする鋳造工程と、
前記鋳造工程により鋳造されたスラブを切断し、鋳造後50分以内に、切断されたスラブの上および下に、同じ鋳造機または他の鋳造機で鋳造された鋳造後50分以内のスラブを置き、前記切断されたスラブの上および下に鋳造後50分以内のスラブが置かれた状態を40時間以上維持する冷却工程と、
を備えていることを特徴とするスラブの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラブの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳造したスラブを圧延して得られた製品には、水素に起因した欠陥(以下、「UT欠陥」と称する)が存在することがある。UT欠陥は、圧延後の冷却時に、鋼中に固溶した水素が偏析等に集積し、温度が低下することで固溶度が下がり、気体となり、その圧力で開孔することにより生じる。
【0003】
UT欠陥を低減する方法として、UT欠陥の起点となる偏析等を低減する方法が知られている(特許文献1参照)。また、鋳造後、圧延前に、鋳片を保温カバーで覆ったり加熱炉内に置いたりすることにより鋳片を高温に保持し、その間に、鋳片中の水素を拡散させ、鋳片から水素を除去する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の偏析等を低減する方法では、UT欠陥を十分に低減できないことがわかった。また、鋳造後、鋳片を保温カバーで覆ったり加熱炉内に置いたりする方法では、保温カバーや加熱炉といった大掛かりな設備や多量の燃料が必要である。
【0006】
本発明は、従来の方法と異なる方法により、UT欠陥を低減できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らの研究から、圧延前の、精錬、鋳造および冷却の一連の工程において、以下の条件でスラブを製造することにより、大掛かりな設備や多量の燃料を使うことなく、UT欠陥を低減できることがわかった。
【0008】
本願明細書に開示されるスラブの製造方法は、脱ガス処理により溶鋼中の水素濃度を1.5ppm以下に調整する精錬工程と、垂直曲げ型連続鋳造機または曲げ型連続鋳造機によりスラブを鋳造する鋳造工程において、前記精錬工程で調整した溶鋼をタンディッシュに供給し、鋳型直下から矯正帯終了位置までにおいて、スラブの幅方向両端部の「IN面比水量/OUT面比水量」≦3.0とし且つスラブの幅方向両端部のIN面比水量を0.60L/kg-steel以下とする鋳造工程と、前記鋳造工程により鋳造されたスラブを切断し、鋳造後50分以内に、切断されたスラブの上および下に、同じ鋳造機または他の鋳造機で鋳造された鋳造後50分以内のスラブを置き、前記切断されたスラブの上および下に鋳造後50分以内のスラブが置かれた状態を40時間以上維持する冷却工程と、を備える。
【0009】
なお、従来、UT欠陥を低減できるスラブが製造できたとしても、その後の圧延条件等により、UT欠陥が発生することがあった。例えば、圧延停止時の温度が低い場合や圧延後に加速冷却する場合、鋼中の水素が製品の表面まで拡散せず、UT欠陥が発生することがある。また、製品の厚みが厚い場合、鋼中の水素が製品の表面から充分に拡散せず、UT欠陥が発生することがある。
上述したスラブの製造方法によると、スラブの製造後、UT欠陥が発生しやすい条件でも、UT欠陥を低減できることがわかった。
【発明の効果】
【0010】
上記方法によると、UT欠陥を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2A】矯正帯を通過するスラブの幅方向端部の断面模式図である。
【
図2B】鋳型直下から矯正帯終了位置までOUT面に対してIN面を強冷却したときの矯正帯を通過するスラブの幅方向端部の断面模式図である。
【
図3A】鋳型直下から矯正帯終了位置までIN面を強冷却したときの矯正帯を通過するスラブの幅方向端部の断面模式図である。
【
図3B】矯正帯を通過するスラブの幅方向端部の断面模式図である。
【
図4】スラブの幅方向端部を説明するためのスラブ断面図である。
【
図7】スラブ中の水素濃度とUT不良率の関係を示す図である。
【
図8】段積み後のスラブ温度の経時変化を示す図である。
【
図10】段積み後のスラブ中の水素濃度の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0013】
本願発明者らは、垂直曲げ型連続鋳造機または曲げ型連続鋳造機によりスラブを鋳造した。
【0014】
図1に、垂直曲げ型連続鋳造機1の構成を模式的に示している。垂直曲げ型連続鋳造機1は、タンディッシュ2と、タンディッシュ2の底部に取り付けられた浸漬ノズル3と、浸漬ノズル3の下部が配置された鋳型4と、複数のロール5とを備える。複数のロール5は、鋳造経路Qの両側に、鋳造経路Qに沿って配置されている。鋳造方向に隣り合う2つのロール5とロール5の間に、冷却ノズル6が配置されている。本実施形態では、鋳造経路Qに沿って鋳型4に近い側を上流側と称し、鋳型4から遠い側を下流側と称する。
【0015】
鋳造経路Qには、垂直方向に延在した垂直帯11と、垂直帯11から緩やかに湾曲した曲げ帯12と、曲げ帯12に連接し、曲率半径が一定の円弧帯13と、円弧帯13の下流に設けられ、曲率半径を大きくする矯正帯14と、矯正帯14から水平方向に延在した水平帯15とが設けられている。本実施形態では、矯正帯14の最下流位置を「矯正帯終了位置」と称する。
【0016】
溶鋼をタンディッシュ2に供給する。タンディッシュ2内の溶鋼10は浸漬ノズル3を介して鋳型4内に注入され、凝固殻を形成しつつ下方へ引き抜かれ、内部まで凝固する。これによりスラブが鋳造される。鋳造中、冷却ノズル6からスラブに水が噴霧される。
【0017】
本実施形態では、スラブの下側に対応した側を「OUT側」と称し、鋳片の上側に対応した側を「IN側」と称する。また、OUT側のスラブ表面を「OUT面」と称し、IN側のスラブ表面を「IN面」と称する。なお、「OUT側」および「OUT面」はそれぞれ「基準側」および「基準面」と呼ばれることがある。「IN側」および「IN面」はそれぞれ「反基準側」および「反基準面」と呼ばれることがある。
【0018】
上述した垂直曲げ型連続鋳造機1には垂直帯11が設けられているが、図示しない曲げ型連続鋳造機には、鋳型の下流に垂直方向に延在した垂直帯が設けられていない。曲げ型連続鋳造機の鋳造経路には、鋳型直下から緩やかに湾曲した曲げ帯、円弧帯、矯正帯および水平帯が下流に向かって順に設けられている。
【0019】
従来、偏析などを低減することでUT欠陥を低減する方法が知られている。この方法によると、UT欠陥をある程度低減できるが、スラブ幅方向端部に該当する製品部位にUT欠陥が存在することがあった。本願発明者らは、この原因を研究したところ、以下の知見を得た。
【0020】
スラブが矯正帯14(
図1参照)を通過するとき、スラブは水平になるように矯正される。
図2A、
図2B、
図3Aおよび
図3Bに、矯正帯14を通過するスラブの断面(
図1のII-II線に沿った断面)の一例を示している。
図2A、
図2B、
図3Aおよび
図3Bにはスラブの幅方向端部を示している。スラブの幅方向とは、スラブの鋳造方向(又は長手方向)およびスラブの厚み方向に直交する方向である。
【0021】
スラブが矯正されたとき、
図2Aに示すように、スラブのIN側は幅方向に縮み、OUT側は幅方向に伸びる。これにより、スラブの幅方向端部の凝固殻(狭面側凝固殻)が変形し、IN側の幅方向中央に向かう力(a
1)とOUT側に向かう力(b
1)が生じることで、凝固界面に歪みが生じることで、凝固界面近傍の偏析部に割れ(内部割れ)が生じる。内部割れに水素が集積し、ガス化することで、UT欠陥が発生する。
【0022】
また、鋳造中、冷却ノズル6(
図1参照)からスラブに冷却水が噴霧される。これによりスラブが冷却され、スラブのIN側とOUT側がそれぞれ収縮する。IN面比水量とOUT面比水量は異なることがある。IN面比水量とOUT面比水量が異なる場合、IN側収縮量とOUT側収縮量の差が生じる。例えば、IN側を強冷却するため、IN面比水量をOUT面比水量に対し多くした場合、
図2Aに示す変形が助長され、
図2Aに示すIN側の幅方向中央に向かう力(a
1)とOUT側に向かう力(b
1)がより大きくなって、
図2Bに示すようになり、これらは内部割れを助長すると考えられる。
【0023】
また、IN面比水量をOUT面比水量に対し多くした場合だけでなく、単にIN面比水量が多くなりすぎた場合も、内部割れを助長させる。
例えば、鋳型直下から矯正帯終了位置までのIN面比水量が多くなりすぎた場合、スラブIN側コーナー部近傍が固くなり、
図2Aおよび
図2Bに示すような変形が発生したとき、
図3Aに示すように、IN側コーナー部近傍で、局部的に、大きな歪みが生じる。これが内部割れを助長する。
【0024】
内部割れが助長されることで、UT欠陥が発生しやすくなる。これらが原因で、従来の偏析などを低減することでUT欠陥を低減する方法では、スラブ幅方向端部に該当する製品部位にUT欠陥が存在したと考えられる。
【0025】
一方、上記を改善した場合、例えば、鋳型直下から矯正帯終了位置までにおいて、IN面比水量が多くなりすぎないように、IN面比水量を少なくした場合、コーナー部が柔らかくなるため、
図2Aおよび
図2Bに示す変形が発生しても、
図3Bに示すように、歪が発生する部位が分散するため、それぞれの位置での歪は小さくなると考えられる。そのため内部割れが生じにくいと考えられる。
【0026】
上記現象は、垂直曲げ型連続鋳造機と曲げ型連続鋳造機のいずれの矯正帯でも起こると考えられる。
【0027】
上記知見を基に、内部割れを助長させる、OUT面比水量に対するIN面比水量の「IN面比水量/OUT面比水量」と「IN面比水量」に着目した。
なお、UT欠陥の原因となる偏析や内部割れは矯正時の変形およびそれまでの冷却方法によって決まる歪で発生するため、水平帯15での冷却は偏析や内部割れに殆ど影響しない。そこで、鋳型直下から矯正帯終了位置までの「IN面比水量/OUT面比水量」と「IN面比水量」に着目した。
また、従来の方法でUT欠陥を低減できない原因は、スラブの幅方向端部で内部割れが助長しやすいことと考えられるから、スラブ幅方向両端部の「IN面比水量/OUT面比水量」と「IN面比水量」に着目した。
上記より、鋳型直下から矯正帯終了位置までにおける、スラブ幅方向両端部の「IN面比水量/OUT面比水量」およびスラブ幅方向両端部の「IN面比水量」に着目することとした。
【0028】
ここで、スラブの幅方向両端部とは、
図4に示すように、スラブの幅方向について、スラブ幅方向一端からスラブ厚み(D)の1/2(D/2)の領域(X
1)と、スラブ幅方向他端からスラブ厚み(D)の1/2(D/2)の領域(X
2)である。これらの領域は、
図2A、
図2Bおよび
図3Aで説明した歪が加わる部位のため内部割れが発生しやすい。
【0029】
また、「IN面比水量」とは、冷却ノズル6(
図1参照)からスラブのIN面に噴霧される比水量である。「OUT面比水量」とは、冷却ノズル6(
図1参照)からスラブのOUT面に噴霧される比水量である。
比水量とは、1kgのスラブに噴霧される水の量(単位:L/kg-steel)である。
また、『鋳型直下から矯正帯終了位置までにおける、スラブ幅方向両端部の「IN面比水量」』とは、鋳型直下から矯正帯終了位置までにおいて、スラブ幅方向両端部のスラブ1kgあたりに、冷却ノズル6からスラブ幅方向両端部のIN面に噴霧される水量である。『鋳型直下から矯正帯終了位置までにおける、スラブ幅方向両端部の「OUT面比水量」』とは、鋳型直下から矯正帯終了位置までにおいて、スラブ幅方向両端部のスラブ1kgあたりに、冷却ノズル6からスラブ幅方向両端部のOUT面に噴霧される水量である。
【0030】
鋳型直下から矯正帯終了位置までにおける、スラブ幅方向両端部の「IN面比水量/OUT面比水量」とスラブ幅方向両端部の「IN面比水量」による内部割れの影響を調べるため、以下の実験(実験1)を行った。
【0031】
(実験1)
以下の方法によりスラブを製造した。
【0032】
転炉で吹錬を行った後、溶鋼を250tonの取鍋に出鋼し、RH真空脱ガスを用いて脱ガス処理および成分調整を行うことにより、溶鋼の成分を下記へ調整した。
<鋼の成分>
C:0.03~0.20mass%
Mn:0.4~1.7mass%、
Si:0.03~0.49mass%
Nb:0.00~0.05mass%
Ti:0.000~0.029mass%
N:60ppm以下
P:0.015mass%以下
S:0.005mass%以下
H:1.5ppm以下
【0033】
上記成分に調整された溶鋼をタンディッシュに供給し、以下の条件で垂直曲げ型連続鋳造機によりスラブ(幅:2100mm、厚み:280mm)を鋳造した。
・垂直曲げ型連続鋳造機:機長 40.4m
・鋳造速度:1.0~1.2m/分
・比水量:トータル比水量(鋳型直下から水平帯終了位置までの比水量)0.1~1.5L/kg-steel
【0034】
鋳型直下から矯正帯終了位置までにおいて、スラブ幅方向両端部の「IN面比水量/OUT面比水量」およびスラブ幅方向両端部の「IN面比水量」を変えて複数のスラブを鋳造し、各スラブの内部割れ長さを以下の方法により測定した。
【0035】
<内部割れ長さ>
鋳造後、スラブを所定の長さに切断し、スラブ幅方向および厚み方向に沿った切断面を研磨した後、過硫酸アンモニウムを塗布し、腐食した部分の長さを測定した。腐食した部分が1箇所である場合、その部分の長さを「内部割れ総長さ」とした。腐食した部分が複数存在するとき、腐食した部分の全ての長さを測定し、これらの合計を「内部割れ総長さ」とした。
図5に、内部割れが発生したスラブの切断面を模式的に示している。
【0036】
図6に、「IN面比水量/OUT面比水量」と「IN面比水量」と「内部割れ総長さ」の結果を示している。
図6に示す「IN面比水量/OUT面比水量」および「IN面比水量」は、それぞれ、鋳型直下から矯正帯終了位置までにおける、スラブ幅方向両端部の「IN面比水量/OUT面比水量」およびスラブ幅方向両端部の「IN面比水量」である。
【0037】
これまでの経験から、内部割れ総長さが150mm以下である場合、UT欠陥が有る製品が得られることがあるが、製品に存在するUT欠陥が少ない。内部割れ総長さが70mm以下である場合、UT欠陥がより少ない。一方、内部割れ総長さが150mmを超える場合、UT欠陥が有る製品が得られることが多い上に、UT欠陥の数が多い。
図6では、内部割れ総長さが70mm以下である場合を「○」とし、内部割れ総長さが70mmを超え、150mm以下である場合を「△」とし、内部割れ総長さが150mmを超える場合を「×」とした。内部割れは、
図5に示すように、スラブの幅方向両端部に存在した。
【0038】
図6から、「IN面比水量/OUT面比水量」が3.0を超え、且つ、「IN面比水量」が0.6L/kg-steelを超える場合、スラブ幅方向両端部に内部割れが多く、スラブ幅方向両端部に該当する部位にUT欠陥が有る製品が得られると考えられる。一方、「IN面比水量/OUT面比水量」を3.0以下とし、且つ、「IN面比水量」が0.6L/kg-steel以下とした場合、スラブ幅方向両端部に内割れが少なく、スラブ幅方向両端部に該当する部位にUT欠陥があるとしてもUT欠陥が少ない製品が得られると考えられる。このことから、内部割れ総長さが150mm以下となる冷却方法で冷却することにより、つまり、鋳型直下から矯正帯終了位置までにおける、スラブ幅方向両端部の「IN面比水量/OUT面比水量」を3.0以下とし、且つ、スラブ幅方向両端部の「IN面比水量」を0.6L/kg-steel以下とすることにより、スラブ幅方向両端部の内割れを少なくした上で、さらに鋳造後の冷却でUT欠陥の原因となる水素を除去することにより、従来の方法では解決できなかったスラブ幅方向両端部に該当する製品部位のUT欠陥を低減できると考えた。
【0039】
上記知見を基に、鋳造後の冷却方法について検討した。
【0040】
鋳造後、スラブを切断し、圧延前の加熱のためスラブを加熱炉へ入れた後、圧延され製品となるが、上記加熱炉へ入るまでの間にスラブは大気中で放置されることにより冷却され、温度が下がる。スラブを放置した場合、スラブが急冷し、スラブ温度が下がり、スラブ中の水素の拡散速度が小さくなるため、スラブ中から水素を十分に除去できない。そのため、スラブを徐冷し、徐冷している間にスラブ中の水素を除去する。徐冷を実施した場合、スラブ温度が高温に維持されるため、水素の拡散速度が大きくなり、スラブ中からの水素の除去が促進される。既存の徐冷方法は、スラブを保温カバーで覆ったり加熱炉内に置いたりするため、保温カバーや加熱炉といった大掛かりな設備や多量の燃料が必要となる。大掛かりな設備や多量の燃料を使うことなく、スラブ中の水素を十分に除去可能な徐冷方法について検討した。
【0041】
先ず、冷却後の「スラブ中の水素濃度」と製品の「UT不良率」の関係を調べた。
「スラブ中の水素濃度」は、精錬工程で脱ガス処理した後の溶鋼中の水素濃度と、鋳造後、スラブを空冷した場合の条件から、シミュレーションにより求めた。製品の「UT不良率」は、以下の方法により求めた。
超音波探傷検査により製品の複数箇所でUT欠陥の有無を調べた。超音波探傷検査は、JIS Z 2344に規定される方法で行った。超音波探傷検査には、垂直探触子を使用し、探傷感度をJIS STB N1=100%またはそれ以上の感度とした。UT欠陥有りと判断されたものの比率(UT欠陥有りの数/調査数)を製品のUT不良率とした。
【0042】
図7に、スラブ中の水素濃度とUT不良率の関係を◇で示している。また、
図7にスラブ中の水素濃度とUT不良率の相関線を示している。
図7に示す相関線から、UT不良率がゼロとなるのは、スラブ中の水素濃度が0.8ppm以下のときと考えられる。
このことから、UT欠陥の無い製品を製造するためには、スラブ中の水素濃度を0.8ppm以下にする必要があり、スラブを徐冷している間にスラブ中の水素濃度が0.8ppm以下になるように水素を除去する必要がある。
【0043】
大掛かりな設備や多量の燃料を使うことなく、スラブを徐冷する方法として、鋳造後の高温のスラブを利用することが考えられる。例えば、UT欠陥を低減したい対象スラブの上および下に鋳造後の高温スラブを置くことにより、対象スラブを徐冷できると考えられる。本願発明者らは、鋳造後の高温スラブを積み重ね、対象スラブの上および下に高温スラブを置くことで対象スラブを徐冷し、対象スラブを徐冷している間に、対象スラブ中の水素濃度を0.8ppm以下に下げる方法を検討した。
【0044】
なお、対象スラブの上および下に高温スラブが置かれた状態では対象スラブが徐冷されていると考えられるが、対象スラブの上および/または下に高温スラブが無くなると、対象スラブが急冷される。そのため、対象スラブの上および下に高温スラブが置かれている間、つまりスラブが積み重ねられた状態を維持している間に、対象スラブ中の水素濃度を0.8ppm以下に下げる必要がある。
【0045】
そこで、対象スラブ中の水素濃度を0.8ppm以下に下げるため、スラブを積み重ねた状態をどのぐらい維持する必要があるかを検討した。
【0046】
先ず、以下の方法でスラブを積み重ねたときの対象スラブ温度の経時変化を求めた。
【0047】
対象スラブの上および下に高温スラブを置くため、鋳造後、50分の間に、鋳造されたスラブを3枚以上積み重ね、対象スラブの上および下に高温スラブを置いた状態にすることにした。以下では、対象スラブの上および下に高温スラブを置いた状態にすることを「段積み」(「段積み完了」)と称し、対象となるスラブの上および下に高温スラブを置いた状態を「段積み状態」と称する。
【0048】
2次元の伝熱凝固計算により、下記の条件で、鋳造後、段積みするまでの50分間の対象スラブ温度の経時変化を求めた。伝熱凝固計算には、CASTEM(伝熱凝固プログラム)を用いた。
・スラブサイズ:厚み280mm、幅2100mm
・鋳造速度 :1.2m/分
・垂直曲げ型連続鋳造機:機長 40.3m、ロール本数 136本
・比水量 :0.82L/kg-steel
ここでの比水量は連続鋳造機のトータル比水量である。
【0049】
2次元の伝熱計算により、下記の条件で、段積み後の(鋳造後、50分経過した後の)対象スラブ温度の経時変化(段積み状態のスラブ温度の経時変化)を求めた。ここでは、計算により求めた対象スラブ温度が、予め測定した対象スラブ温度(狭面中央の温度(測定値))にフィッティングするように、対象スラブ温度を求めた(
図8参照)。計算には、CASTEM(伝熱凝固プログラム)を用いた。また、初期温度(段積み完了温度)は、先に求めた「鋳造後、段積みするまでの50分間の対象スラブ温度」の最後の温度(鋳造後、50分後の温度)とした。
・スラブサイズ:厚み280mm、幅2100mm
・対象スラブと接触するスラブの広面中央温度:800℃
【0050】
図8に示す段積み完了後の対象スラブ温度(段積み状態のスラブ温度)と、溶鋼中の水素濃度(精錬工程で脱ガス処理した後の溶鋼中の水素濃度)と、水素拡散係数とを用いて、段積み完了後の「スラブ中の水素濃度」を計算した。溶鋼中の水素濃度(精錬工程で脱ガス処理した後の溶鋼中の水素濃度)は1.5ppmとした。水素拡散係数は、以下の方法により得られた水素拡散係数とした。
【0051】
下記の文献に記載された水素拡散係数(文献値)を用いて徐冷後のスラブ内部の水素濃度を計算し、測定したスラブ内部の水素濃度(測定値)に最も近くなるように補正係数を求めた。文献値に前述の補正係数を乗じたものを、上記「スラブ中の水素濃度」を計算するための水素拡散係数とした。
図9に、スラブ内部の水素濃度(測定値)と、測定値に最もフィッティングした徐冷後のスラブ内部の水素濃度(計算値)を示している。
図9に示す結果は、スラブサイズを厚さ280mm×幅2100mmとし、初期条件として段積み完了時のスラブの水素濃度を溶鋼処理後の水素濃度(1.7ppm)(スラブ内部の水素濃度を測定した対象の溶鋼処理後の水素濃度(測定値))とし、境界条件としてスラブ外部の水素濃度を0ppmと仮定し、スラブの徐冷時間を70時間として得られた結果である。
<文献>
1) W. Eichenauer, H. Kiinzig and A. Pebler: Z.Metalik., 49(1958), p.220.2)T. M. Stross and F. C. Tompkins: J. Chem. Soc.London,(1956), Part 1, p.230.
3)J.Y. Choi: Met. Trans., 1(1970), p.911.
【0052】
図10に、段積み完了後のスラブ中の水素濃度の経時変化(段積み状態のスラブ中の水素濃度の経時変化)を示している。UT欠陥の無い製品を製造するためには、スラブ中の水素濃度を0.8ppm以下にする必要がある(
図7参照)。
図10から、スラブ中の水素濃度が0.80ppm以下になるのは、段積み状態が40時間以上続いたときである。このことから、段積み状態を40時間以上維持することにより、UT欠陥の無い製品を製造できると考えられる。
【0053】
なお、
図10のスラブ中の水素濃度は、溶鋼中の水素濃度(精錬工程でガス処理した後の溶鋼中の水素濃度)を1.5ppmとして計算したものである。溶鋼中の水素濃度が小さいほど、段積み完了後のスラブ中の水素濃度が低いため、溶鋼中の水素濃度が1.5ppmより低い場合、段積み状態を40時間維持したとき、スラブ中の水素濃度は0.80ppmより低いと考えられる。したがって、精錬工程で溶鋼中の水素濃度を1.5ppm以下に調整することで、段積み状態を40時間以上維持したとき、スラブ中の水素濃度を0.80ppm以下にできると考えられる。
【0054】
また、上記では、鋳造後、50分の間に段積みを完了している。段積み完了までの時間が短いほど、対象スラブ温度も対象スラブの上および下に置くスラブの温度も高いため、段積み状態の対象スラブ温度が高い。対象スラブ温度が高いほど、対象スラブ中の水素が拡散しやすいため、スラブ中の水素が除去されやすい。このことから、鋳造後、50分より短い時間で段積みを完了し、段積み状態を40時間維持したとき、スラブ中の水素濃度は0.80ppmより低くなると考えられる。したがって、鋳造後、50分以内に段積みを完了し、段積み状態を40時間以上維持したとき、対象スラブ中の水素濃度を0.80ppm以下にできると考えられる。
【0055】
なお、対象スラブを徐冷するためには、対象スラブの上または下に、対象スラブに近い温度のスラブまたは対象スラブより高温のスラブを置くことが好ましい。対象スラブは、鋳造後、50分以内に段積みされるので、対象スラブの上または下に、鋳造後50分以内スラブを置けば、対象スラブの上および下に、対象スラブに近い温度のスラブまたは対象スラブより高温のスラブを置くことができると考えられる。したがって、対象スラブの上および下に、鋳造後50分以内のスラブを置く。対象スラブの上および下に置くスラブは、鋳造後50分以内のスラブであればよく、対象スラブと同じ鋳造機で鋳造されたスラブでもよく、対象スラブと異なる鋳造機で鋳造されたスラブでもよい。鋳造機が異なっても、鋳造後50分以内のスラブの温度はそれほど変わらない。また、対象スラブと同じ鋳造機で鋳造されたスラブは、対象スラブと同じ条件(鋳造条件、鋼種、溶鋼中の水素濃度など)で鋳造されたスラブでもよく、異なる条件で鋳造されたスラブでもよい。鋳造完了までの条件が異なっても、鋳造後50分以内のスラブの温度はそれほど変わらない。また、対象スラブと同じ鋳造機で鋳造されたスラブは、対象スラブと同じキャストのスラブでもよく、異なるキャストのスラブでもよい。キャストが異なっても、鋳造後50分以内のスラブであれば、対象スラブの温度に近い。
【0056】
また、鋳造後、スラブが切断されるが、スラブの切断は、鋳造機の最終ロールを通過した直後であることが多い。スラブが鋳造機の最終ロール通過した直後に切断される場合、「鋳造後、50分以内」は「スラブを切断したときから50分以内」でもよい。スラブが鋳造機の最終ロールを通過した直後に切断されない場合、「鋳造後、50分以内」は、「スラブの切断箇所が最終ロールを通過したときから50分以内」である。
【0057】
UT欠陥を低減したい対象スラブは、積み重ねられた複数のスラブに1枚存在してもよく、複数存在してもよい。対象スラブの上および/または下に置かれたスラブが、UT欠陥を低減したい対象スラブであってもよい。例えば、鋳造後、50分以内に、切断された5枚のスラブを5段に積み重ねた場合、最上段および最下段を除く3段のスラブが対象スラブでもよく、最上段および最下段を除く3段のうち1段または2段が対象スラブでもよい。
【0058】
上記より、鋳造後、以下のように冷却する。
鋳造後、50分以内に、UT欠陥を低減したい対象スラブの上および下に、同じ鋳造機または他の鋳造機で鋳造された鋳造後50分以内のスラブを置いた状態(段積み状態)にする。対象スラブの上および下に鋳造後50分以内のスラブを置いた状態(段積み状態)を40時間以上維持することにより、対象スラブを徐冷する。
ここで、対象スラブは、精錬工程で溶鋼中の水素濃度が1.5ppm以下に調整された溶鋼を鋳造して得られたスラブである。
これにより、UT欠陥の原因となる水素を除去する。
【0059】
なお、上記冷却は、実験1からわかったスラブ幅方向両端部に内割れを少なくできる冷却方法、つまり、鋳型直下から矯正帯終了位置までにおいて、スラブの幅方向両端部の「IN面比水量/OUT面比水量」≦3.0とし、且つ、スラブの幅方向両端部のIN面比水量を0.60L/kg-steel以下とする冷却により、スラブの幅方向両端部の内割れを低減した上で行うことによって、従来の方法では解決できないスラブ幅方向両端部に該当する製品部位のUT欠陥を低減できると考えられる。
これを確認するため、以下の実験(実験2)を行った。
【0060】
(実験2)
実験1で鋳造したスラブのうち、内部割れ総長さが150mmを超えたスラブと、内部割れ総長さが150mm以内のスラブのうち「IN面比水量/OUT面比水量」が3.0に近く且つ「IN面比水量」が0.6L/kg-steelに近いスラブ(
図6参照)を対象スラブとした。対象スラブを鋳造後、50分以内に、対象スラブの上および下に、同じ鋳造機または他の鋳造機で鋳造された鋳造後50分以内のスラブを置き(段積み完了)、この状態(段積み状態)を40時間以上維持し、徐冷した。徐冷後、スラブを圧延し、厚み30mmの製品を製造した。超音波探傷検査により製品にUT欠陥が存在するかを調べた。超音波探傷検査は、JIS Z 2344に規定される方法で行った。超音波探傷検査には、垂直探触子を使用し、探傷感度をJIS STB N1=100%またはそれ以上の感度とした。
【0061】
図11に、「IN面比水量/OUT面比水量」と「IN面比水量」と「UT欠陥」の結果を示している。
図11に示す「IN面比水量/OUT面比水量」および「IN面比水量」は、それぞれ、鋳型直下から矯正帯終了位置までにおける、スラブ幅方向両端部の「IN面比水量/OUT面比水量」およびスラブ幅方向両端部の「IN面比水量」である。UT欠陥が有る場合を「×」と示し、UT欠陥が無い場合を「○」と示している。「○」の製品には、製品全体にUT欠陥が無かった。
【0062】
UT欠陥が有る製品(「×」)には、スラブ幅方向両端部に該当する製品部位にUT欠陥が存在した。UT欠陥が有る製品(「×」)は、内部割れ総長さが150mmを超えたもので、「IN面比水量/OUT面比水量」が3.0を超え、且つ、「IN面比水量」が0.6L/kg-steelを超える条件で鋳造したものであった。この条件でスラブを鋳造した場合、鋳造後、上述した方法でスラブを徐冷しても、スラブ幅方向両端部に該当する製品部位のUT欠陥を低減できないことがわかった。
UT欠陥が無い製品(「○」)は、内部割れ総長さが150mm以内のもので、「IN面比水量/OUT面比水量」が3.0以下であり、且つ、「IN面比水量」が0.6L/kg-steel以下の条件で鋳造したものであった。
【0063】
上記より、スラブ幅方向両端部に内割れを少なくする冷却方法、つまり、鋳型直下から矯正帯終了位置までにおいて、スラブの幅方向両端部の「IN面比水量/OUT面比水量」を3.0以下とし、且つ、スラブの幅方向両端部の「IN面比水量」を0.6L/kg-steel以下とする冷却により、鋳造時にスラブの幅方向両端部の内部割れを低減した上で、鋳造後、上述した方法でスラブを徐冷することにより、従来の方法では解決できなかったスラブ幅方向両端部に該当する製品部位のUT欠陥を低減でき、ひいては、製品全体のUT欠陥を低減できることがわかった。
【0064】
以上より、以下の方法によりスラブを製造する。
精錬工程において、脱ガス処理により溶鋼中の水素濃度を1.5ppm以下に調整する。
その後の鋳造工程において、調整した溶鋼をタンディッシュに供給し、垂直曲げ型連続鋳造機または曲げ型連続鋳造機によりスラブを鋳造する。このとき、鋳型直下から矯正帯終了位置までにおいて、スラブの幅方向両端部の「IN面比水量/OUT面比水量」≦3.0とし、且つ、スラブの幅方向両端部のIN面比水量を0.60L/kg-steel以下とする。
前記鋳造工程により鋳造された対象スラブ(UT欠陥を低減したい対象スラブ)を切断する。鋳造後50分以内に、対象スラブの上および下に、同じ鋳造機または他の鋳造機で鋳造された鋳造後50分以内のスラブを置き、対象スラブを徐冷する。対象スラブの上および下に鋳造後50分以内のスラブが置かれた状態を40時間以上維持する(冷却工程)。
【0065】
圧延前の精錬、鋳造および冷却の一連の工程において、上記条件でスラブを製造することにより、鋳造時に、スラブ幅方向両端部でUT欠陥の原因となる内部割れを低減した上で、さらに、鋳造後、対象スラブを徐冷し、徐冷中にUT欠陥の原因となるスラブ中の水素を十分に除去する。これにより、従来の方法では十分に低減できなかったスラブ幅方向両端部に該当する製品部位のUT欠陥を低減でき、ひいては製品全体のUT欠陥を低減できる。また、大掛かりな設備や多量の燃料を用いることなく、従来とは異なる方法でUT欠陥を低減できる。
【0066】
なお、精錬工程の脱ガス処理には、例えば、一般的な脱ガス処理装置(RH、DH等)を用いてよい。水素濃度を1.5ppm以下に調整するため、脱ガス処理の時間、真空度等を調整してもよい。精錬工程でUT欠陥の原因となる水素を極端に減らす必要はなく、1.5ppm以下に調整するとよい。水素濃度の下限は特に限定されない。精錬工程で、水素濃度を調整する以外に、脱炭、脱硫、成分調整等を行ってもよい。
【0067】
また、鋳造工程において、鋳型直下から矯正帯終了位置までにおける、スラブの幅方向両端部の「IN面比水量/OUT面比水量」の下限は特に限定されない。「IN面比水量/OUT面比水量」が1.0より小さくても、上記方法によりUT欠陥を低減できる。ブレークアウトを抑制するという点から、「IN面比水量/OUT面比水量」を0より大きくすることが好ましい。例えば、「IN面比水量/OUT面比水量」を0.3以上としてもよい。
【0068】
また、鋳型直下から矯正帯終了位置までにおける、スラブの幅方向両端部の「IN面比水量」の下限は特に限定されない。ブレークアウトを抑制するという点から、例えば、0.05L/kg-steel以上としてもよく、0.1L/kg-steel以上としてもよい。
【0069】
なお、実験2から、スラブの幅方向両端部を除く領域は、鋳造後、上述した方法で徐冷することにより、UT欠陥を低減できることがわかった。そのため、スラブの幅方向両端部を除く領域については、例えば、一般的な冷却条件で冷却してもよい。スラブの幅方向両端部を除く領域を、例えば、トータル比水量0.1~1.5L/kg-steelを満たすように冷却してもよい。また、スラブの幅方向両端部を除く領域を、スラブの幅方向両端部の冷却条件と同じ条件で冷却してもよく、異なる条件で冷却してもよい。
【0070】
また、上述したように、水平帯15での冷却は偏析や内部割れに殆ど影響しないため、水平帯15では、例えば、一般的な冷却条件で冷却してよい。例えば、水平帯の比水量を0~0.5L/kg-steelとしてもよい。また、水平帯の冷却条件は、鋳型直下から矯正帯終了位置までの冷却条件と同じでもよく、異なってもよい。
【0071】
上記方法でスラブを製造した後、スカーフなどの手入れや圧延を行う。スラブ製造後の条件は、通常の条件でもよく、通常と異なる条件でもよい。例えば、圧延停止時の温度を低くしてもよく、圧延後に加速冷却してもよい。また、圧延して得られた製品の厚みは、一般的な厚みでもよく、一般的な厚みより厚くてもよい。本実施形態に係る方法でスラブを製造することにより、スラブ製造後の条件がUT欠陥が発生しやすい条件であっても、後述の実験により、UT欠陥が発生しないことが分かった。
【0072】
上述したスラブの製造方法は、例えば、以下の組成のスラブを製造する場合に利用できる。
C:0.03~0.20mass%
Mn:0.4~1.7%、
Si:0.030~0.49mass%
Nb:0.00~0.05mass%
Ti:0.000~0.029mass%
N:60ppm以下
P:0.015mass%以下
S:0.005mass%以下
H:1.5ppm以下
また、上述したスラブの製造方法は、例えば、厚さ250mm以上300mm以下のスラブを製造するときに利用できる。
【0073】
上記知見を確認するため、以下の実験(実験3)を行った。
【0074】
(実験3)
以下の方法によりスラブを製造した。
【0075】
転炉で吹錬を行った後、溶鋼を250tonの取鍋に出鋼した。その後、RH真空脱ガス装置で溶鋼の成分調整などを行った後、脱ガス処理を行った。表1に溶鋼の成分および脱カス処理後の水素濃度を示している。なお、溶鋼中の水素濃度は、Heraeus社製のHydrisセンサーにより計測した。
【0076】
表1に示す溶鋼をタンディッシュに供給し、垂直曲げ型連続鋳造機(機長:40.4m、鋳型の垂直方向長さ:0.9m)により、表1に示す鋳造条件で、スラブ(幅:2100mm、厚み:280mm)を鋳造した。表1に示す「トータル比水量」は、鋳型直下から水平帯終了位置までの比水量である。
【0077】
鋳造後、スラブ(対象スラブ)を切断し、表1に示す条件で対象スラブを冷却した。No.1では、対象スラブを段積みすることなく、放置した(空冷)。No.2~No.7では、対象スラブを鋳造後、50分以内に、対象スラブの上および下に同じ鋳造機または異なる鋳造機で鋳造された鋳造後50分以内のスラブを置いた(段積み完了)。表1の「鋳造後、段積みまでの時間」とは、対象スラブの鋳造後、対象スラブの上および下に鋳造後50分以内のスラブを置くまで(段積み完了まで)の時間である。表1の「段積み状態の時間」とは、対象スラブの上および下に鋳造後50分以内のスラブが置かれた状態の時間である。
【0078】
表1に示す条件で対象スラブを冷却した後、圧延などを行い、製品を得た。表1に圧延条件などを示している。
【0079】
超音波探傷検査によりNo.1~No.7の製品のUT欠陥の有無を調べた。超音波探傷検査は、JIS Z 2344に規定される方法で行った。超音波探傷検査には、垂直探触子を使用し、探傷感度をJIS STB N1=100%またはそれ以上の感度とした。表1に結果を示している。表1には、UT欠陥が無い場合を合格(「○」)、UT欠陥が有る場合を不合格(「×」)と示している。
【0080】
【0081】
表1から、以下のこと分かった。
鋳造後スラブを空冷したNo.1は、不合格であった。No.1は、圧延停止温度が低く、製品にUT欠陥が発生しやすい条件で圧延している。鋳造後に空冷し、さらに、UT欠陥が発生しやすい条件で圧延した場合、不合格であった。
【0082】
No.2は、鋳造時にIN面を強冷却しており、本実施形態に係る鋳造時の冷却条件を満たさない。鋳造後、本実施形態に係る方法で徐冷したが、不合格であった。また、No.2は、圧延停止温度が低く、製品にUT欠陥が発生しやすい条件で圧延している。鋳造時の冷却条件が本実施形態に係る冷却方法を満たさない場合、鋳造後に徐冷しても、不合格となった。
【0083】
一方、No.3~No.7は、鋳造時に本実施形態に係る条件で冷却し、鋳造後、本実施形態に係る方法で徐冷している。No.3~No.7の製品は合格であった。
特に、No.3では、製品厚みが40mmと厚く、UT欠陥が生じやすい条件であるが、合格であった。
No.4では、圧延停止温度が低く、製品にUT欠陥が発生しやすい条件で圧延しているが、合格であった。
No.5およびNo.6では、圧延後に加速冷却した上に、製品厚みが50mm以上と厚く、UT欠陥が発生しやすい条件が複数あるが、合格であった。
No.7では、製品厚みが55mmと厚く、UT欠陥が生じやすい条件であるが、合格であった。
【0084】
上記より、本実施形態に係る方法により製造したスラブにより、UT欠陥が無い製品が得られることがわかった。なお、上記実験では、本実施形態に係る方法によりスラブを製造後、UT欠陥が生じやすい条件で製品を製造したにもかかわらず、UT欠陥を低減できた。このことから、本実施形態に係る方法でスラブを製造することにより、その後の製造条件などがUT欠陥が生じやすい条件でも、そうでない条件でも、UT欠陥を低減できるといえる。
【0085】
上記実験では、垂直曲げ型連続鋳造機でスラブを鋳造したが、曲げ型連続鋳造機でスラブを鋳造する場合も、本実施形態に係る方法でスラブを製造することにより、UT欠陥を低減できる。また、曲げ型連続鋳造機でスラブを鋳造する場合も、本実施形態に係る方法でスラブを製造することにより、その後の製造条件などがUT欠陥が生じやすい条件でも、UT欠陥を低減できる。
【0086】
以上、本発明の実施形態について実施例に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0087】
1 連続鋳造機
2 タンディッシュ
3 浸漬ノズル
4 鋳型
5 ロール
6 冷却ノズル
10 溶鋼
11 垂直帯
12 曲げ帯
13 円弧帯
14 矯正帯
15 水平帯
X1、X2 スラブの幅方向端部