(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125095
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】冷却装置
(51)【国際特許分類】
F28D 15/02 20060101AFI20240906BHJP
H01M 10/613 20140101ALI20240906BHJP
H01M 10/625 20140101ALI20240906BHJP
H01M 10/6552 20140101ALI20240906BHJP
H01M 10/633 20140101ALI20240906BHJP
B60K 11/02 20060101ALI20240906BHJP
B60K 1/04 20190101ALI20240906BHJP
【FI】
F28D15/02 101L
F28D15/02 L
H01M10/613
H01M10/625
H01M10/6552
H01M10/633
B60K11/02
B60K1/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033201
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100182718
【弁理士】
【氏名又は名称】木崎 誠司
(72)【発明者】
【氏名】若杉 知寿
【テーマコード(参考)】
3D038
3D235
5H031
【Fターム(参考)】
3D038AA10
3D038AB01
3D038AC22
3D235AA01
3D235BB36
3D235BB45
3D235CC14
5H031HH06
5H031KK01
(57)【要約】
【課題】鉛直方向に十分な高さを確保できない状態でも、蒸気熱輸送方法の熱輸送速度を向上させる。
【解決手段】冷却装置は、一部が冷却対象に接触する蒸発部であって、冷却対象に接触している部分とは異なる位置で露出した面である蒸発面を有する蒸発部と、水平方向に沿って蒸発部に隣接して配置される熱交換部であって、外部との熱交換により冷却される熱交換部と、多孔質材料により形成された凝縮体であって、熱交換部のうちの鉛直方向上方側に位置する部分に接触した状態で配置されると共に水平方向において蒸発部に向かって延びる凝縮体と、蒸発面で蒸発し、凝縮体により凝縮される熱媒体と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却装置であって、
一部が冷却対象に接触する蒸発部であって、前記冷却対象に接触している部分とは異なる位置で露出した面である蒸発面を有する蒸発部と、
水平方向に沿って前記蒸発部に隣接して配置される熱交換部であって、外部との熱交換により冷却される熱交換部と、
多孔質材料により形成された凝縮体であって、前記熱交換部のうちの鉛直方向上方側に位置する部分に接触した状態で配置されると共に水平方向において前記蒸発部に向かって延びる凝縮体と、
前記蒸発面で蒸発し、前記凝縮体により凝縮される熱媒体と、
を備える、冷却装置。
【請求項2】
請求項1に記載の冷却装置であって、
前記凝縮体は、水平方向に沿って前記熱交換部よりも前記蒸発部側にはみ出して、前記蒸発面の一部と対向する延伸部を有する、冷却装置。
【請求項3】
請求項2に記載の冷却装置であって、さらに、
前記延伸部と前記蒸発面とを鉛直方向に延びて接続する接続部を備える、冷却装置。
【請求項4】
請求項3に記載の冷却装置であって、
前記蒸発面には、前記熱交換部から前記蒸発部へと向かう接続方向に沿って延びる複数の溝が形成されている、冷却装置。
【請求項5】
請求項4に記載の冷却装置であって、
前記複数の溝は、
前記熱交換部に近い側に形成された複数の第1の溝と、
前記第1の溝よりも前記熱交換部から遠い側に形成された複数の第2の溝であって、前記第1の溝の本数よりも多く、かつ、前記第1の溝の幅よりも小さい複数の第2の溝と、
を有する、冷却装置。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の冷却装置であって、さらに、
前記熱交換部を冷却するために外部から供給される冷媒の流量および温度を制御する制御部と、
前記冷却対象の温度を取得する第1温度取得部と、
前記熱交換部に供給される前記冷媒の温度を取得する第2温度取得部と、
前記熱交換部に供給される前記冷媒の流量を取得する流量取得部と、
を備え、
前記制御部は、
前記蒸発面の温度と、前記熱交換部に供給される前記冷媒の温度および流量とを用いて、前記凝縮体内に保有された前記熱媒体の液膜厚みを算出し、
算出された前記熱媒体の液膜厚みを、前記複数の溝におけるドライアウトの発生を抑制するために最小液膜厚み以上、かつ、前記蒸発面から前記熱媒体のオーバーフローの発生を抑制するための最大液膜厚み以下となるように、前記熱交換部に供給される前記冷媒の流量を制御する、冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車などのバッテリを冷却する冷却装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載された冷却装置では、複数のバッテリモジュールのそれぞれがヒートパイプを介してヒートシンクに接続されている。ヒートシンク内には、ラジエータにより冷却される冷却水が流れる冷却水通路が形成されている。これにより、冷却水を介してヒートシンクが冷却され、ヒートパイプを介して各バッテリモジュールが冷却される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された冷却装置では、ヒートシンクに接続されるヒートパイプがラジエータに近い上流側に位置するほど、当該ヒートパイプに接続されているバッテリモジュールがより冷却される。一方で、ヒートシンクの下流側に位置するヒートパイプに接続するバッテリモジュールは、上流側ほど冷却されない。すなわち、特許文献1に記載された冷却装置では、バッテリモジュール間で温度差が発生してしまう。
【0005】
液体や蒸気の熱媒体の顕熱を利用した冷却方法とは別の冷却方法として、熱媒体の液体と蒸気との相変化により熱を輸送する蒸気熱輸送式が知られている。蒸気熱輸送式では、蒸発と凝縮との相変化現象を利用するため熱輸送能力が高い。蒸気熱輸送方式では、沸点温度で熱媒体の温度が制御されるため、冷却対象の温度分布の発生を抑制するメリットがある。そのため、冷却方法として蒸気熱輸送式を採用することにより、特許文献1のようなバッテリモジュール間で発生する温度差を抑制できる。
【0006】
蒸気輸送方式には、垂直式と水平式がある。垂直式では、鉛直上方において放熱側として熱媒体が凝縮し、鉛直下方において冷却対象を冷却して熱媒体が蒸発する。鉛直上方で凝縮した液体の熱媒体は、重力により冷却対象が配置された延長下方へと輸送される。垂直式では、熱媒体の移動に重力を利用しているため、鉛直上方の凝縮面から鉛直下方の蒸発面への熱媒体の輸送速度が比較的速く、熱輸送速度が高い。一方、水平式では、凝縮面上で凝縮された液体の熱媒体を蒸発面へと輸送する力が弱く、熱輸送速度が低いおそれがある。しかしながら、冷却対象の搭載位置やスペースによっては、垂直式の蒸気熱輸送式を実現できずに、水平式の蒸気熱輸送方式で冷却対象を冷却したい場合がある。
【0007】
本発明は、上述した課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、鉛直方向に十分な高さを確保できない状態でも、蒸気熱輸送方法の熱輸送速度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現できる。
【0009】
(1)本発明の一形態によれば、冷却装置が提供される。この冷却装置は、一部が冷却対象に接触する蒸発部であって、前記冷却対象に接触している部分とは異なる位置で露出した面である蒸発面を有する蒸発部と、水平方向に沿って前記蒸発部に隣接して配置される熱交換部であって、外部との熱交換により冷却される熱交換部と、多孔質材料により形成された凝縮体であって、前記熱交換部のうちの鉛直方向上方側に位置する部分に接触した状態で配置されると共に水平方向において前記蒸発部に向かって延びる凝縮体と、前記蒸発面で蒸発し、前記凝縮体により凝縮される熱媒体と、を備える。
【0010】
この構成によれば、熱交換部により冷却された凝縮体は、気体の熱媒体を凝縮させて液体へと変化させる。凝縮体は、多孔質材料に形成されているため、毛管力を有している。液体に変化した熱媒体は、毛管力により凝縮体内における液体量の分布を均一化する。凝縮体内の液体の熱媒体は、凝縮体よりも鉛直下方に位置する蒸発面へと重力および毛管力により輸送される。蒸発面へと輸送された液体の熱媒体は、蒸発部の一部が冷却対象と接触しているため、冷却対象により加熱された高温の蒸発面によって加熱されて気体へと変化する。気体に変化した熱媒体は、再び、凝縮体へと循環して凝縮される。すなわち、本構成によれば、毛管力を有する凝縮体により、間欠的に蒸発面へと液体の熱媒体が供給される。本構成と異なり凝縮体が存在しない場合には、熱交換部の鉛直上方側の面で熱媒体の液滴が粗大化して当該面で留まって、水平方向に沿って隣接する蒸発部の蒸発面まで熱媒体が輸送されにくい。蒸発面まで十分な熱媒体が輸送されないと、蒸発面が乾いて液滴の再付着がしにくくなる。それに対して、本構成では、鉛直方向に十分な高さを有していなくても、凝縮体の毛管力を利用した水平式の蒸気熱輸送方法を用いて、熱輸送速度を向上させて冷却対象を効率的に冷却できる。
【0011】
(2)上記態様の冷却装置において、前記凝縮体は、水平方向に沿って前記熱交換部よりも前記蒸発部側にはみ出して、前記蒸発面の一部と対向する延伸部を有していてもよい。
この構成によれば、凝縮体の延伸部の鉛直下方に熱交換部が存在していないため、毛管力により延伸部内に移動した液体の熱媒体は、重力によって蒸発面へと落下する。その結果、延伸部以外の凝縮体内から毛管力により延伸部内へと液体の熱媒体が更に移動するため、延伸部を介して凝縮体から蒸発面への熱媒体の輸送を促進することができる。
【0012】
(3)上記態様の冷却装置において、さらに、前記延伸部と前記蒸発面とを鉛直方向に延びて接続する接続部を備えていてもよい。
この構成によれば、延伸部内の液体の熱媒体が接続部を介して蒸発面へと輸送されるため、熱媒体の輸送をさらに促進させることができる。
【0013】
(4)上記態様の冷却装置において、前記蒸発面には、前記熱交換部から前記蒸発部へと向かう接続方向に沿って延びる複数の溝が形成されていてもよい。
この構成によれば、蒸発面に流入した液体の熱媒体は、各溝に流入する。各溝の一部では、熱媒体の表面張力により、液膜厚みが極めて薄いマイクロレイヤーと呼ばれる層が形成される。マイクロレイヤーの蒸発熱熱伝達率が高いため、本構成によれば、蒸発面の冷却性能が向上する。また、マイクロレイヤーは、溝内の熱媒体が蒸発して液体積割合が低下しても、熱媒体の全てが蒸発するまで溝内に連続的に形成される。この結果、溝内に均一に分配された熱媒体により、接続方向に沿って均質な冷却能力を確保できる。
【0014】
(5)上記態様の冷却装置において、前記複数の溝は、前記熱交換部に近い側に形成された複数の第1の溝と、前記第1の溝よりも前記熱交換部から遠い側に形成された複数の第2の溝であって、前記第1の溝の本数よりも多く、かつ、前記第1の溝の幅よりも小さい複数の第2の溝と、を有してもよい。
この構成によれば、蒸発面の溝を流れる熱媒体の流速は、上流側と下流側との圧力差と、流路である溝の圧力損失抵抗とのバランスにより決定する。上流側に位置する第1の溝の幅は、下流側に位置する第2の溝の幅よりも大きい。そのため、高い熱輸送条件の上流側では第1の溝内を流れる熱媒体の流速が低下する。一方で、蒸発により熱媒体の液流量が低下する下流側の第2の溝の幅は、第1の溝よりも小さい。そのため、第2の溝における上流側と下流側との圧力差が大きくなり、第2の溝を流れる熱媒体の流速を増加させる。すなわち、本構成によれば、液体積比が高い上流側を流れる熱媒体の流速を低下させて高い熱輸送を実現すると同時に、下流側を流れる熱媒体の流速を増加させてマイクロレイヤーによる蒸発を促進させることができる。
【0015】
(6)上記態様の冷却装置において、さらに、前記熱交換部を冷却するために外部から供給される冷媒の流量および温度を制御する制御部と、前記冷却対象の温度を取得する第1温度取得部と、前記熱交換部に供給される前記冷媒の温度を取得する第2温度取得部と、前記熱交換部に供給される前記冷媒の流量を取得する流量取得部と、を備え、前記制御部は、前記蒸発面の温度と、前記熱交換部に供給される前記冷媒の温度および流量とを用いて、前記凝縮体内に保有された前記熱媒体の液膜厚みを算出し、算出された前記熱媒体の液膜厚みを、前記複数の溝におけるドライアウトの発生を抑制するために最小液膜厚み以上、かつ、前記蒸発面から前記熱媒体のオーバーフローの発生を抑制するための最大液膜厚み以下となるように、前記熱交換部に供給される前記冷媒の流量を制御してもよい。
この構成によれば、熱交換部および凝縮体による気体の熱媒体に対する凝縮能力と、蒸発面における液体の熱媒体に対する蒸発能力とのバランスによって、冷却能力が決定する。本構成では、凝縮体内に保有された熱媒体の液膜厚みを最小液膜厚み以上に制御されることで、蒸発面に供給される熱媒体の流量を保って、溝内の熱媒体のドライアウトの発生が抑制される。さらに、凝縮体内で保有された熱媒体の液膜厚みが最大液膜厚み以下に制御されることで、蒸発面に過剰に熱媒体が供給されてマイクロレイヤーの生成が阻害されることを抑制する。すなわち、バッファーとして機能する凝縮体内の液膜厚みが一定範囲に制御されることにより、冷却能力を向上させることができる。
【0016】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、冷却装置、熱輸送装置、冷却方法、熱輸送方法、およびこれらの装置を備える又は方法を実現するシステム、これら装置または方法を実行するためのコンピュータプログラム、このコンピュータプログラムを配布するためのサーバ装置、コンピュータプログラムを記憶した一時的でない記憶媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態としての冷却装置の概略斜視図である。
【
図3】第1実施形態の冷却装置の効果の説明図である。
【
図4】第1実施形態の冷却装置の効果の説明図である。
【
図7】第2実施形態の冷却部の効果の説明図である。
【
図10】熱媒体の上流側および下流側の流量の説明図である。
【
図11】溝角度に応じて変化する駆動圧力差の説明図である。
【
図12】溝角度に応じて変化する溝の流路断面積の説明図である。
【
図17】第1の溝と第2の溝との効果の説明図である。
【
図18】第5実施形態の冷却装置の一部の概略ブロック図である。
【
図19】冷却水の流量制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<第1実施形態>
図1は、本発明の一実施形態としての冷却装置100の概略斜視図である。本実施形態の冷却装置100は、冷却対象である加熱体OBを水平式の蒸気熱輸送式により冷却する。冷却装置100では、熱交換部10の鉛直上方に接触した状態で配置された凝縮体30が蒸気から液体に凝縮させた熱媒体40を毛管力によって水平方向に輸送する。これにより、輸送された液体の熱媒体40が、加熱体OBに一部が接触している蒸発部20で蒸発する。加熱体OBは、熱媒体40の蒸発潜熱分だけ冷却される。
【0019】
図1には、冷却装置100の一部が示されている。本実施形態の冷却装置100は、鉛直方向に沿って順番に配置された複数の加熱体OBと同数の冷却部80aと、1つの冷却部80とを備えている。本実施形態の冷却装置100では、各冷却部80aの間と、
図1に示されるように最も鉛直上方に位置する冷却部80aと冷却部80と間とに1つの加熱体OBが挟まれるように配置されている。
【0020】
冷却部80は、
図1に示されるように、水平面に平行な面を有する蒸発部20と、密閉された空間内を循環する熱媒体40と、水平方向に沿って蒸発部20に隣接して配置される熱交換部10と、熱交換部10のうちの鉛直上方側に位置する部分に接触した状態で配置された凝縮体30とを備えている。蒸発部20は、平板状の本体部23と、本体部23のうちの加熱体OBに接触する鉛直下方を向いている下面22と、本体部23のうちの鉛直上方を向いているの上面である蒸発面21とを有している。なお、本実施形態では、鉛直方向に平行なZ軸を有する直交座標系CSが定義されている。直交座標系CSにおけるX軸は、熱交換部10から蒸発部20へと向かう接続方向に平行な方向として定義されている。Y軸は、X軸およびZ軸に直交する軸であり、熱交換部10の奥行方向に平行な軸である。
【0021】
熱交換部10は、蒸発部20のX軸負方向側に隣接する下面部13と、下面部13に対向して鉛直上方に位置する上面部11と、上面部11と下面部13との間に配置される複数のフィンで形成される熱交換本体部12とを備えている。上面部11および下面部13は、水平方向に平行な平板形状を有する。熱交換本体部12を形成するフィンは、YZ平面に平行な平板状の形状を有している。各フィンの間には、
図1に示されるように、Y軸方向に延びる空間が形成される。本実施形態では、矢印DR1に沿って外部から熱交換部10を冷却するための冷媒としての冷却水が供給される。
【0022】
凝縮体30は、熱交換部10の上面部11の鉛直上方側かつ蒸発部20の蒸発面21よりも鉛直上方側に配置されている。凝縮体30は、水平方向に平行な平板形状を有する。凝縮体30は、多孔質材料で形成されているため、毛管力を有している。
図1に示されるように、凝縮体30は、水平方向に沿って熱交換部10よりも蒸発部20側であるX軸正方向側にはみ出して、蒸発面21の一部と対向する延伸部31を有している。
【0023】
熱媒体40は、蒸発部20の蒸発面21と、凝縮体30とを含む密閉された空間内で、液体と気体との相変化を伴って循環する。具体的には、液体の熱媒体40は、加熱体OBにより昇温した蒸発部20の蒸発面21により加熱されて蒸発する。蒸気の熱媒体40は、冷却水により冷却される熱交換部10の上面部11と接触している凝縮体30により冷却されて凝縮する。凝縮体30内の液体の熱媒体40は、多孔質材料により発生する毛管力によって、上面部11よりもX軸正方向側にはみ出している延伸部31を含む水平方向に沿って輸送される。延伸部31へと輸送された液体の熱媒体40は、重力により落下および熱交換本体部12のX軸正方向側の側面を伝って、蒸発部20の蒸発面21に輸送される。
【0024】
図1に示される冷却部80aは、冷却部80の蒸発部20aがさらに台部25を備えている。台部25は、水平方向に平行な面を有する平板部26と、平板部26に鉛直方向上端が接続して鉛直下方およびX軸に沿って延びる足部27,28とを有する。平板部26の鉛直方向上側の面は加熱体OBの鉛直下方側の面に接触している。足部27は、平板部26に対してY軸正方向側に配置されている。足部28は、平板部26に対してY軸負方向側に配置されている。足部27,28の鉛直下方の端部は、蒸発部20aにおける本体部23の鉛直上方側の面に接している。そのため、蒸発部20aの蒸発面21aは、本体部23の鉛直上方側の面の内、足部27と足部28とのそれぞれに接触していない露出した面である。なお、冷却部80の蒸発面21と凝縮体30とを含む密閉空間と、冷却部80aの蒸発面21aと凝縮体30aとを含む密閉空間とは、互いの熱媒体40が行き来できないように分離されている。
【0025】
図2は、比較例の冷却装置100xの概略斜視図である。比較例の冷却装置100xでは、第1実施形態の冷却装置100と比較して、冷却部80x,80axが互いに凝縮体30,30aを備えない点が異なる。比較例では凝縮体30,30aがないため、
図2に示されるように、熱交換部10の上面部11の鉛直上方側の面で冷却されて凝縮した液体の熱媒体40が、蒸発部20,20aが位置するX軸正方向を含む水平方向へと輸送されずに、液溜まりとして留まっている。
【0026】
図3および
図4は、第1実施形態の冷却装置100の効果の説明図である。
図3,4には、
図1に示されるX軸に沿って場所が異なる位置1~6における液体の熱媒体40の液体積割合の時系列変化が示されている。
図3,4の縦軸である液体積割合は、各位置における空間体積に対する液体体積の比(割合)である。なお、
図3と
図4とでは、縦軸のスケールが異なる。
図3には、第1実施形態の冷却装置100の熱媒体40の時系列変化が示され、
図4には、比較例の冷却装置100xの熱媒体40の時系列変化が示されている。
図3の位置1~4における液体の熱媒体40は、凝縮体30内に含まれる熱媒体40の液体積割合を表している。
図4の位置1~4における液体の熱媒体40は、熱交換部10の上面部11の鉛直上方側の面に発生している熱媒体40の液体積割合を表している。
図3,4の位置5,6における液体の熱媒体40は、蒸発面21に存在する熱媒体40の液体積割合を表している。
【0027】
図3に示されるように、第1実施形態の冷却装置100では、位置1~4における凝縮体30内の液体の熱媒体40は、時間が経過するにつれて減少している。位置5,6における蒸発面21上の液体の熱媒体40は、時間が経過するにつれて増加する。特に、位置5よりも凝縮体30から遠い位置6では、熱媒体40の量が位置5よりも時間が経過するほど増えている。すなわち、第1実施形態の冷却装置100では、凝縮体30内から蒸発面21へと液体の熱媒体40の輸送が促進されていることがわかる。
【0028】
一方で、
図4に示されるように、比較例の冷却装置100xでは、位置1~4における凝縮体30内の液体の熱媒体40は、時間が経過しても単調に減少せずに増加と減少とを繰り返している。位置5,6における蒸発面21上の液体の熱媒体40は、時間が経過するにつれて増加するものの、増加量は
図3に示される第1実施形態よりも少ない。すなわち、比較例の冷却装置100xでは、第1実施形態の冷却装置100と比較して、熱交換部10の上面部11から蒸発面21へと液体の熱媒体40の輸送が促進されていないことがわかる。
【0029】
以上のように、第1実施形態の冷却装置100は、加熱体OBに一部が接触すると共に蒸発面21を有する蒸発部20と、蒸発部20の蒸発面21で蒸発すると共に凝縮体30により凝縮する熱媒体40と、蒸発部20に隣接して配置される熱交換部10と、熱交換部10の鉛直上方に接触した状態で配置された凝縮体30とを備えている。凝縮体30は、多孔質材料で形成されているため、毛管力を有している。そのため、熱交換部10により冷却された凝縮体30は、気体の熱媒体40を凝縮させて液体へと変化させる。凝縮体30の毛管力により、液体に変化した熱媒体40は、凝縮体30内における保水量分布を均一化する。凝縮体30内の液体の熱媒体40は、凝縮体30よりも下方に位置する蒸発面21へと重力により輸送される。蒸発面21へと輸送された液体の熱媒体40は、蒸発部20の一部が加熱体OBと接触しているため、高温の蒸発面21によって加熱されて気体へと変化し、凝縮体30へと循環する。すなわち、本実施形態では、毛管力を有する凝縮体30により、間欠的に蒸発面21へと液体の熱媒体40が供給される。第1実施形態と異なり、比較例の冷却装置100xように凝縮体30が存在しない場合には、熱交換部10の上面部11の鉛直上方側の面で熱媒体40の液滴が粗大化して留まって、熱媒体40が蒸発面21に輸送されにくい。蒸発面21まで十分な熱媒体40が輸送されないと、蒸発面21が乾いて液滴の再付着がしにくくなる。それに対して、本実施形態では、鉛直方向に十分な高さを有していなくても、凝縮体30の毛管力を利用した水平式の蒸気熱輸送方法を用いて、熱輸送速度を向上させて加熱体OBを効率的に冷却できる。
【0030】
また、第1実施形態の凝縮体30は、水平方向に沿って熱交換部10よりも蒸発部20側であるX軸正方向側にはみ出して、蒸発面21の一部と対向する延伸部31を有している。すなわち、延伸部31の鉛直下方に熱交換部10が存在していないため、延伸部31内に移動した液体の熱媒体40は、重力によって蒸発面21へと落下する。その結果、延伸部31以外の凝縮体30内から毛管力により延伸部31内へと液体の熱媒体が更に移動するため、延伸部31を介して凝縮体30から蒸発面21への熱媒体40の輸送を促進することができる。
【0031】
<第2実施形態>
図5は、第2実施形態の冷却部80bの概略斜視図である。第2実施形態の冷却部80bでは、第1実施形態の冷却装置100が備える冷却部80に対して、接続部50を備える点が異なる。
図5に示されるように、接続部50は、鉛直方向に延びて凝縮体30の延伸部31と、蒸発部20の蒸発面21とを接続している。
【0032】
図6は、接続部50の概略斜視図である。
図6に示されるように、接続部50は、奥行き方向に平行なYZ平面を有する基端部51と、一端が基端部51に接続して接続方向であるX軸正方向側に延びる5つのリブ52とを備えている。基端部51およびリブ52の鉛直方向に沿う長さ(高さ)は、冷却部80bにおいて蒸発面21から上面部11の鉛直上方側の面までの距離と同じである。そのため、基端部51およびリブ52は、凝縮体30の延伸部31の鉛直下方側の面と、蒸発面21とに接触して、凝縮体30および蒸発部20を接続する。
【0033】
5つのリブ52は、同じ形状を有する。リブ52は、基端部51に接続していない他端がX軸正方向に延びるZX平面に平行な面を有している。リブ52がX軸正方向に延びている長さは、冷却部80bに組み立てられた状態で、凝縮体30の延伸部31がX軸正方向の端面と同位置になる長さと同じである。
【0034】
図7は、第2実施形態の冷却部80bの効果の説明図である。
図7には、
図5に示されるX軸に沿って場所が異なる位置1~6における液体の熱媒体40の液体積割合の時系列変化が示されている。なお、
図5における位置1~6は、
図1における位置1~6と同じ位置である。
図7の縦軸の液体積割合は、
図3,4の縦軸と同じ各位置における空間体積に対する液体体積の比(割合)である。
【0035】
図7に示されるように、位置1~6のいずれの位置でも、時間が経過するほど液体の熱媒体40の量が増加する。換言すると、凝縮体30内の熱媒体40は、蒸発面21へと速やかに輸送されている。一方で、接続部50を備えない第1実施形態の冷却部80では、凝縮体30の延伸部31の鉛直下方側の面に、液体の熱媒体40が雫状の液滴となって留まる傾向があった。すなわち、第2実施形態の冷却部80bでは、第1実施形態の冷却部80よりも延伸部31から蒸発面21までの熱媒体の輸送を迅速化できる。
【0036】
以上のように、第2実施形態の接続部50は、鉛直方向に延びて凝縮体30の延伸部31と、蒸発部20の蒸発面21とを接続している。そのため、第2実施形態の冷却部80bでは、延伸部21内の液体の熱媒体40が接続部50を介して蒸発面21へと輸送されるため、熱媒体40の輸送をさらに促進させることができる。
【0037】
<第3実施形態>
図8は、第3実施形態の蒸発部20cの概略斜視図である。第3実施形態の冷却部では、第2実施形態の冷却部80bと比較して、蒸発部20cの形状が異なる。
図8に示されるように、第3実施形態の蒸発部20cの蒸発面21cには、熱交換部10から蒸発部20cへと向かう接続方向と平行なX軸方向に沿って延びる複数の溝24が形成されている。溝24は、本体部23cに対してYZ平面に平行な断面がV字型となるように形成されている。
【0038】
蒸発面21cに溝24内では、表面張力により熱媒体40の気体と液体とが分離された流動状況を得ることができる。溝24内の蒸発メニスカス界面では、固気液3相面が形成され、液体の表面張力によって極めて薄いマイクロレイヤーと呼ばれる蒸発熱伝達率が高い層が得られる。マイクロレイヤーは、蒸発により断面内の液体積割合が低下しても蒸発が完結するまで流れ方向に連続的に形成される。そのため、溝24の幅方向に均一分配された液体の熱媒体40により面内で均質な冷却能力を確保できる。
【0039】
ここで、断面がV字型の溝24の溝角度の最適化について考える。
図9は、第3実施形態の溝24の概略断面図である。
図9には、溝24内に液体の熱媒体40が存在する状態が示されている。
図9に示されるように、溝角度αは、V字の頂点を通る中心軸OL2と溝24の斜面とが成す角度である。中心軸OL2から溝24の幅までの距離をrとすると、溝幅は2rとして表される。このときに、溝24が熱媒体40に接触している面の長さを濡れぶち長さとすると、水力直径deは、下記式(1)のように表される。水力直径deは、後述の式(3)で用いる。
【0040】
【0041】
溝24内の熱媒体40は、熱交換部10に近い上流側から、熱交換部10から離れた下流側に向かうにつれて蒸発するため、下流側を流れる熱媒体40の流量が上流側よりも少なくなる。
図10は、熱媒体40の上流側および下流側の流量の説明図である。
図10に示されるように、上流側の熱媒体40における中心軸OL2uから溝24の端面までの距離をr
max、上流側の熱媒体40における中心軸OL2dから溝24の端面までの距離をr
minと定義する。この場合に、気液界面における力学的バランスがラプラス則に従うとすると、熱媒体40の駆動圧力差ΔP1は、下記式(2)のように表される。なお、式(2)におけるσ
l(N/m)は、液体の熱媒体40の表面張力である。θは、液体の熱媒体40の接触角である。
【0042】
【0043】
一方で、溝24内を流れる熱媒体40には、粘性抵抗損失ΔP2が生じる。駆動圧力差ΔP1が粘性抵抗損失ΔP2よりも大きい場合に、溝24内の熱媒体40は、上流側から下流側へと流れる。ここで、溝24の長さをLと定義し、長さ方向の中央を代表点としてダルシーの圧力損失式を用いると、粘性抵抗損失ΔP2は、式(1)の水力直径deを用いて下記式(3)のように表される。なお、Reは、レイノルズ数である。ρは、熱媒体40の密度である。uは、熱媒体40の流速である。
【0044】
【0045】
上記式(3)における流速uは、蒸発部20cの熱輸送量Qexと、熱媒体40の蒸発潜熱QLとを用いて、下記式(4)のように表される。なお、Nは、蒸発部20cに形成された溝24の本数である。
【0046】
【0047】
上記式(2)で示される駆動圧力差ΔP1が、上記式(3)で表される粘性抵抗損失ΔP2よりも大きくなる範囲で、溝24の溝角度αを設定することにより、蒸発部20cにおける熱媒体40の蒸発を促進させることができる。
【0048】
図11は、溝角度αに応じて変化する駆動圧力差ΔP1の説明図である。
図11には、溝24の溝幅を2mmに固定した状態で、溝角度αが15,30,45,60°の場合の各駆動圧力差ΔP1(kPa)が棒グラフにより示されている。
図11に示されるように、溝角度αが小さいほど、駆動圧力差ΔP1が大きくなる。そのため、溝角度αが大きくなるように溝24が形成されることが好ましい。
【0049】
図12は、溝角度αに応じて変化する溝24の流路断面積の説明図である。
図12には、溝24の溝幅を2mmに固定し、かつ、溝24の長さLを10cmに固定した状態で、角度αが15,30,45,60°の場合の溝24の表面積が流路断面積として棒グラフにより示されている。なお、
図11に示す例では、溝の本数を50本に固定している。
図12に示されるように、溝角度αが小さいほど、溝24の流路断面積は増加する。
【0050】
図13および
図14は、溝24による蒸発促進効果の説明図である。
図13には、第3実施形態の冷却部の接続方向に沿った各位置での熱輸送量が示されている。
図13の横軸は、接続方向に沿う冷却部の長さを正規化した値であり、縦軸は熱輸送量(W)である。
図13には、加熱体OBの熱負荷が20,30,40,50Vの場合に、溝24が形成された第3実施形態の蒸発部20cと、溝が形成されていない第1実施形態の蒸発部20とのそれぞれの熱輸送量が示されている。
【0051】
図13に示されるように、特に加熱体OBの熱負荷が大きい場合(例えば、50V)に、溝24が形成された蒸発部20cの熱輸送量が高くなっている。蒸発部20cでは、溝24により発生する駆動圧力差ΔP1により、より下流側へと液体の熱媒体40が輸送される。そのため、加熱体OBの熱負荷が40V,50Vと高い場合に、蒸発部20cの下流側での熱輸送量が高くなっている。
【0052】
図14には、高温の加熱体OBと、冷却される熱交換部10との温度差に応じて変化する熱輸送量(W)と、単位温度差当たりの熱輸送量を表す熱コンダクタンス(W/K)とが示されている。なお、加熱体OBの温度として、蒸発部20cの蒸発面21cの代表温度を採用し、熱交換部10の温度として凝縮体30(
図1)の代表温度を採用した。
【0053】
図14に示されるように、溝24を有する蒸発部20cの冷却部では、温度差が上昇するほど熱輸送量も増え、温度差に関わらず熱コンダクタンスはほぼ一定である。これは、加熱体OBの熱負荷が上昇しても、温度差に応じた高い熱輸送量を発揮できることを表している。一方で、溝24が形成されていない蒸発部20を有する冷却部80、80bでは、温度差の上昇分に対する熱輸送量の上昇分が少ない。結果として、温度差の上昇に伴って熱コンダクタンスが低下している。
【0054】
以上のように、第3実施形態の蒸発面21cには、熱交換部10から蒸発部20cへと向かう接続方向と平行なX軸方向に沿って延びる複数の溝24が形成されている。そのため、蒸発面21cに流入した液体の熱媒体40は、各溝24に流入する。各溝24の一部では、熱媒体40の表面張力σlにより、マイクロレイヤーが形成される。マイクロレイヤーの蒸発熱熱伝達率が高いため、第3実施形態の蒸発面21cの冷却性能が向上する。また、マイクロレイヤーは、溝24内の熱媒体40が蒸発して液体積割合が低下しても、熱媒体40の全てが蒸発するまで溝24内に連続的に形成される。この結果、溝24内に均一に分配された熱媒体40により、接続方向に沿って均質な冷却能力を確保できる。
【0055】
<第4実施形態>
図15および
図16は、第4実施形態の蒸発部20dの説明図である。
図15には、蒸発部20dの概略斜視図が示されている。
図16には、蒸発部20dの蒸発面21dを熱媒体40が流れる方向における下流側から見た概略側面図が示されている。第4実施形態の蒸発部20dは、第3実施形態の蒸発部20c(
図8)と比較して、溝24dが接続方向であるX軸方向に沿って上流側と下流側とで異なる溝幅の第1の溝24d1と、第2の溝24d2とを備えている。
【0056】
図15,16に示されるように、第4実施形態の複数の溝24dは、熱交換部10に近い上流側に形成された複数の第1の溝24d1と、第1の溝24d1よりも熱交換部10から遠い下流側に形成された複数の第2の溝24d2とを備えている。第4実施形態では、複数の第1の溝24d1のそれぞれは、同じ形状(溝角度α、長さ、溝幅)を有している。第1の溝24d1は、蒸発部20dのX軸負方向側の端面から、蒸発部20dのX軸に沿う長さの半分の位置まで形成されている。
【0057】
複数の第2の溝24d2のそれぞれは、同じ形状(溝角度α、長さ、溝幅)を有している。第4実施形態の第2の溝24d2は、第1の溝24d1のX軸正方向側の端面から、蒸発部20dのX軸正方向側の端面まで形成されている。すなわち、第2の溝24d2は、第1の溝24d1と同じ長さを有している。また、第2の溝24d2の溝幅は、第1の溝24d1の溝幅の半分である。蒸発部20dに形成された第2の溝24d2の溝本数は、第1の溝24d1の2倍である。第2の溝24d2の頂点の溝角度は、第1の溝24d1の頂点の溝角度と同じである。そのため、第2の溝24d2の溝深さは、第1の溝24d1の溝深さの半分である。第4実施形態では、第1の溝24d1のうちの最も深い頂点の高さ(Z軸方向に沿う位置)と、第2の溝24d2のうちの最も深い頂点の高さとが一緒になるように、第1の溝24d1および第2の溝24d2が形成されている。
【0058】
図17は、第1の溝24d1と第2の溝24d2との効果の説明図である。
図17には、接続方向における溝24dの各位置における熱媒体の液圧力の分布が示されている。第1の溝24d1および第2の溝24d2を備える第4実施形態の液圧力が黒塗りの丸で示され、比較として1種類の溝24(
図8)が形成されている第3実施形態の液圧力が白抜きの丸で示されている。
図17に示される例では、第1の溝24d1の溝幅が2mmであり、第1の溝24d1の溝角度α(
図9)が15°である。そのため、第2の溝24d2の溝幅は1mmであり、第2の溝24d2の溝角度αは15°である。なお、第3実施形態の溝24は、全長にわたって第4実施形態の第1の溝24d1と同じ断面形状を有する。
【0059】
図17に示されるように、第3実施形態と第4実施形態とで溝幅が同じ上流側では、各位置における熱媒体40の液圧力の勾配は同じである。しかし、溝幅が異なる下流側では、第4実施形態の方の液圧力の勾配が大きい。その結果、第4実施形態の第2の溝24d2の出入口における駆動圧力差ΔP1は、下流側の第3実施形態の下流側の駆動圧力差よりも大きくなっている。この結果、第4実施形態の溝24dの出入口における駆動圧力差ΔP1は、第3実施形態の駆動圧力差ΔP1よりも40%程大きくなっている。
【0060】
以上のように、第4実施形態の複数の溝24dは、熱交換部10に近い上流側に形成された複数の第1の溝24d1と、第1の溝24d1よりも熱交換部10から遠い下流側に形成された複数の第2の溝24d2とを備えている。蒸発面21dの溝24dを流れる熱媒体の流速は、上流側と下流側との駆動圧力差ΔP1と、流路である溝24dの粘性抵抗損失ΔP2とのバランスにより決定する。上流側に位置する第1の溝24d1の幅は、下流側に位置する第2の溝24d2の幅よりも大きい。そのため、高い熱輸送条件の上流側では第1の溝24d1内を流れる熱媒体40の流速が低下する。一方で、蒸発により熱媒体40の液流量が低下する下流側の第2の溝24d2の幅は、第1の溝24d1よりも小さい。そのため、第2の溝24d2における上流側と下流側との駆動圧力差ΔP1が大きくなり、第2の溝を流れる熱媒体40の流速を増加させる。すなわち、第4実施形態では、液体積比が高い上流側を流れる熱媒体40の流速を低下させて高い熱輸送を実現すると同時に、下流側を流れる熱媒体40の流速を増加させてマイクロレイヤーによる蒸発を促進させることができる。
【0061】
<第5実施形態>
第5実施形態の冷却装置100eは、第3実施形態のように溝24が形成された蒸発部20cを備える冷却部80eにおいて、熱交換部10を冷却するために供給される冷媒としての冷却水の流量を制御する制御部60を備えている。制御部60は、蒸発部20cにおける溝24のドライアウトの発生と、蒸発部20cから蒸発していない液体の熱媒体40のオーバーフローの発生とを抑制するように、熱交換部10に供給される冷却水の流量を制御する。
【0062】
図18は、第5実施形態の冷却装置100eの一部の概略ブロック図である。
図18に示されるように、冷却部80eは、さらに、加熱体OBの温度Thを検出する第1温度センサ(第1温度取得部)S1と、熱交換部10に供給される冷却水の入口温度Tc,inを検出する第2温度センサ(第2温度取得部)S2と、熱交換部10に供給される冷却水の流量m(kg/s)を取得する流量センサ(流量取得部)Sfとを備えている。なお、
図18では、後述する各部の熱抵抗が示されている(例えば、対流熱伝達抵抗Rfなど)。
【0063】
ここで、冷却部80e内における蒸気の熱媒体40の蒸気圧は、飽和温度Tsと、蒸発部20cおよび凝縮体30の温度差のバランスとによって決定する。具体的には、蒸発部20cの蒸発面21cの発熱量と、凝縮体30を冷却する熱交換部10の壁面の放熱量とが等価の熱流束qex(W/m2)とした場合に、飽和温度Tsを用いて、蒸発面21cの壁面温度Tevaおよび熱交換部10の壁面温度Tconは、下記式(5),(6)のように表される。なお、式(5)におけるαevaは、蒸発面21cの熱伝達率である。式(6)におけるαconは、熱交換部10の壁面の熱伝達率である。
【0064】
【0065】
ここで、熱交換部10の熱伝達率αconが蒸発面21cの熱伝達率αevaよりも高い、すなわち、凝縮能力が蒸発能力よりも高い場合、飽和温度Tsは、熱交換部10の壁面温度Tconに近づいて、冷却部80b内の蒸気圧は低下する。高い凝縮能力により凝縮した熱媒体40は、蒸発面21cの溝24に供給されるものの、低い蒸発能力により完全に気化せずに、凝縮体30内および溝24内に留まる。
【0066】
一方で、蒸発面21cの熱伝達率αevaが熱交換部10の熱伝達率αconよりも高い、すなわち、蒸発能力が凝縮能力よりも高い場合、飽和温度Tsは、蒸発面21cの熱伝達率αevaに近づいて、冷却部80b内の蒸気圧は上昇する。高い蒸発能力により気化した熱媒体40は、凝縮体30に供給されるものの、低い凝縮能力により凝縮されにくく液体の熱媒体40が不足して、蒸発面21cの溝24における液枯れを招くおそれがある。
【0067】
第5実施形態では、制御部60が熱交換部10を冷却する冷却水の流量を制御することにより、熱交換部10の壁面温度Tconに起因する凝縮能力と、蒸発面21cの壁面温度Tevaとのバランスを制御して、凝縮体30内に保有される熱媒体40の量を変化させる。これにより、第5実施形態では、蒸発面21cの溝24内の熱媒体40の流量が制御され、蒸発面21cにおけるドライアウトおよびオーバーフローの発生を抑制する。ドライアウトの発生が抑制されることで、溝24内に高熱伝導率のマイクロレイヤーが形成されないことを防止し、蒸発性能の低下を抑制する。また、オーバーフローの発生が抑制されることで、多すぎる熱媒体40の液量によって溝24内にマイクロレイヤーが形成されないことを防止し、蒸発性能の低下を抑制する。
【0068】
具体的な制御として、制御部60は、取得された冷却水の温度Tc,inおよび流量mと、加熱体OBの温度Thとを用いて、凝縮体30内に保有された熱媒体40の液膜厚みδcalを算出する。液膜厚みδcalが最小液厚みδmin以下だと、蒸発部20cの溝24に十分な熱媒体40が供給されずにドライアウトが発生する。一方、液膜厚みδcalが最大液厚みδmax以上だと、凝縮体30内の熱媒体40がオーバーフローにより蒸発部20cの溝24内に過剰に供給される。そのため、本実施形態の制御部60は、算出した液膜厚みδcalが最小液厚みδmin以上、かつ、最大液厚みδmax以下となるように、熱交換部10に供給される冷却水の流量を制御する。なお、最小液厚みδminおよび最大液厚みδmaxの算出方法については後述する。
【0069】
ここで、加熱体OBの温度Thと、冷却水の入口温度Tc,inと、冷却部80eが輸送する熱輸送量Qex(W)とには、下記式(7)で示される関係が成立する。
【数7】
Rλ,h:加熱体内部熱伝導抵抗
Reva:蒸発熱伝達抵抗
Rcon:凝縮熱伝達抵抗
Rp:浸透液熱抵抗
Rλ,c:熱交換部内部熱伝導抵抗
Rf:対流熱伝達抵抗
Rcp:冷却水温度上昇による抵抗
Ah:蒸発部の伝達面積
Ac:凝縮体の伝熱面積
Af:冷却水流路の伝熱表面積
【0070】
加熱体OBの内部の熱伝導抵抗である加熱体内部熱伝導抵抗Rλ,hは、加熱体OBの熱伝達距離th(m)と、加熱体OBを形成する部材の熱伝導率λM(W/(m・K))とを用いて、下記式(8)のように表される。
【数8】
【0071】
蒸発時の熱媒体40の熱伝達抵抗である蒸発熱伝達抵抗Revaは、蒸発面21cの熱伝達率α
eva(W/(m
2・K))を用いて、下記式(9)のように表される。
【数9】
【0072】
凝縮時の熱媒体40の熱伝達抵抗である凝縮熱伝達抵抗Rconは、凝縮体30に接する熱交換部10における壁面の熱伝達率α
con(W/(m
2・K))を用いて、下記式(10)のように表される。
【数10】
【0073】
凝縮体30内に浸透した熱媒体40による浸透液熱抵抗Rpは、凝縮体30内の液膜厚みδcalと、合成熱伝導率Λcとを用いて、下記式(11)のように表される。
【数11】
【0074】
合成熱伝導率Λcは、凝縮体30を形成する多孔質材料と、多孔質材料の空隙内に存在する液体の熱媒体40とによって決定される熱伝導率である。多孔質材料の熱伝導率をΛm(W/(m・K))とし、液体の熱媒体40の熱伝導率をΛliq(W/(m・K))とすると、合成伝導率Λcは、下記式(12)のように表される。
【0075】
【0076】
多孔質材料の空隙率をεとすると、多孔質材料の熱伝導率Λmは、下記式(13)のように表される。また、凝縮体30内の熱媒体40の熱伝導率Λliqは、下記式(14)のように表される。
【0077】
【0078】
熱交換部10の内部の熱伝導抵抗である熱交換部内部熱伝導抵抗Rλ,cは、熱交換部10の熱伝達距離tc(m)と、熱交換部10を形成する部材の熱伝導率λn(W/(m・K))とを用いて、下記式(15)のように表される。
【数15】
【0079】
熱交換部10に供給される冷却水と、熱交換部10との対流熱伝達抵抗Rfは、冷却水の熱伝達率α
f(W/(m
2・K))を用いて、下記式(16)のように表される。
【数16】
【0080】
冷却水温度上昇による抵抗Rcpは、熱交換部10に流入する冷却水の入口温度Tc,inと、熱交換部10を通過して流出する冷却水の出口温度Tc,outとの差によって発生する。冷却水の出口温度Tc,outは、冷却した熱交換部10からの熱量により、入口温度Tc,inよりも上昇する。本実施形態では、冷却水の温度を入口温度Tc,inと出口温度Tc,outとの平均値として、下記式(17)に示される熱抵抗Rpを算出した。
【数17】
【0081】
そのため、検出された加熱体OBの温度Thと、冷却水の入口温度Tc,inおよび流量mと、加熱体OBを冷却したい温度である制御目標温度Th,targetとが既知であれば、上記式(7)を用いて凝縮体30内の液膜厚みδcalを算出できる。
【0082】
ここで、蒸発部20cのドライアウトの発生を防止するための最小液厚みδminは、液体の熱媒体40の表面張力σ(N/m)と、粘度η(Pa・s)と、温度T(K)とによって決定される下記式(18)の関数fとして表される。同じように、蒸発部20cのオーバーフローを防止するために許容される最大液厚みδmaxは、表面張力σ(N/m)と、粘度η(Pa・s)と、温度T(K)とによって決定される下記式(19)の関数gとして表される。
【0083】
【0084】
制御部60は、上記式(7)を用いて算出した液膜厚みδcalが最小液厚みδmin以上、かつ、最大液厚みδmax以下になるように、熱交換部10に供給される冷却水の流量mを制御する。
【0085】
図19は、冷却水の流量制御のフローチャートである。
図19の制御フローに示されるように、制御部60は、初めに、初期値としての熱輸送量Qexと、液膜厚みδiniと、制御目標温度Th,targetとを設定する(ステップS1)。制御部60は、これらの初期値として、加熱体OBに応じたユーザからの入力値を用いてもよいし、他の装置から取得してもよい。
【0086】
制御部60は、熱交換部10に対して流量mの冷却水の供給を開始する(ステップS2)。制御部60は、予め設定されている冷却水の入口温度Tc,inと、設定された初期値とを上記式(7)に代入することにより、供給する冷却水の流量mを決定する。制御部60は、決定した流量mの冷却水を、図示されていないバルブなどを制御して熱交換部10へと供給する。なお、冷却水の入口温度Tc,inとして、第2温度センサS2の検出値が用いられてもよい。
【0087】
熱交換部10に冷却水が供給され始めると、加熱体OBが稼働し、加熱体OBの発熱が開始される(ステップS3)。制御部60は、第2温度センサS2および流量センサSfを用いて冷却水の入口温度Tc,inおよび流量mを取得し、第1温度センサS1を用いて加熱体OBの温度Thを取得する(ステップS4)。
【0088】
制御部60は、取得された冷却水の温度Tc,inおよび流量mと、加熱体OBの温度Thとを上記式(7)に代入し、液膜厚みδcalを算出する(ステップS5)。制御部60は、算出された液膜厚みδcalが最小液厚みδmin以上、かつ、最大液厚みδmax以下か否かを判定する(ステップS6)。液膜厚みδcalが最小液厚みδmin以上、かつ、最大液厚みδmax以下と判定された場合には(ステップS6:YES)、制御部60は、後述のステップS8の処理を行う。
【0089】
液膜厚みδcalが最小液厚み未満、または、最大液厚みδmaxよりも大きいと判定された場合には(ステップS6:NO)、制御部60は、現時点で熱交換部10に供給している冷却水の流量mを補正する(ステップS7)。第5実施形態では、最大液厚みδmaxと最小液厚みδminの差の10%を補正量として、現時点の流量mに加算または減算する。算出された液膜厚みδcalが最小液厚みδmin未満の場合には、制御部60は、現時点の流量mに補正量を加算する。一方で、算出された液膜厚みδcalが最大液厚みδmaxよりも大きい場合には、制御部60は、現時点の流量mに補正量を減算する。制御部60は、補正量を加算または減算した新たな流量mの冷却水を熱交換部10へと供給する。
【0090】
制御部60は、所定の操作を受け付けることにより、制御フローを終了するか否かを判定する(ステップS8)。例えば、所定の操作としては、加熱体OBの稼働が終了する操作やユーザからの冷却装置100の停止操作などが挙げられる。制御フローを終了しないと判定された場合には(ステップS8:NO)、制御部60は、ステップS4以降の処理を繰り返す。制御フローを終了すると判定された場合には(ステップS8:YES)、制御フローが終了する。なお、
図19に示される制御フローでは、ステップS7の後に終了判断のステップS8の処理が行われたが、制御フローのいずれでも終了判断の処理が行われてもよい。
【0091】
以上のように、第5実施形態の制御部60は、取得された冷却水の温度Tc,inおよび流量mと、加熱体OBの温度Thとを用いて、凝縮体30内に保有された熱媒体40の液膜厚みδcalを算出する。本実施形態の制御部60は、算出した液膜厚みδcalが蒸発面21cでドライアウトの発生を抑制するための最小液厚みδmin以上となるように、熱交換部10に供給される冷却水の流量を制御する。また、制御部60は、蒸発面21cから熱媒体40のオーバーフローの発生を抑制するための最大液厚みδmax以下となるように、熱交換部10に供給される冷却水の流量を制御する。第5実施形態では、熱交換部10および凝縮体30による気体の熱媒体に対する凝縮能力と、蒸発面21cにおける液体の熱媒体40に対する蒸発能力とのバランスによって、冷却能力が決定する。第5実施形態では、凝縮体30内に保有された熱媒体40の液膜厚みδcalを最小液膜厚みδmin以上に制御されることで、蒸発面21cに供給される熱媒体40の流量を保って、溝24内の熱媒体40のドライアウトの発生が抑制される。さらに、凝縮体30内で保有された熱媒体40の液膜厚みδcalが最大液膜厚みδmax以下に制御されることで、蒸発面21cに過剰に熱媒体40が供給されてマイクロレイヤーの生成が阻害されることを抑制する。すなわち、バッファーとして機能する凝縮体30内の液膜厚みδcalが一定範囲に制御されることにより、冷却能力を向上させることができる。
【0092】
<実施形態の変形例>
本発明は上記実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。また、上記実施形態において、ハードウェアによって実現されるとした構成の一部をソフトウェアに置き換えるようにしてもよく、逆に、ソフトウェアによって実現されるとした構成の一部をハードウェアに置き換えるようにしてもよい。
【0093】
<変形例1>
上記第1実施形態から第5実施形態までの各実施形態の冷却装置100,100eおよび冷却部80,80a,80b、80eは、一例であって、変形可能である。変形例の冷却装置および冷却部は、多孔質材料に形成された凝縮体30,30aが毛管力によって水平方向に液体の熱媒体40を輸送し、熱媒体が蒸発面で蒸発し、熱媒体が凝縮体により凝縮される範囲で変形可能である。
【0094】
他の実施形態では、冷却装置が、
図1に示される1つの加熱体OBに下面22が接触している蒸発部20を備える冷却部80のみを備え、冷却部80aを備えていなくてもよい。また、第1実施形態(
図1)のように、蒸発部20が冷却対象である加熱体OBに接触する部分は、冷却部80のように蒸発部20の鉛直下方を向いた下面22であってもよいし、冷却部80aのように台部25における鉛直下方を向いた面であってもよく、その他の部分であってもよい。
【0095】
上記第1実施形態では、蒸発面21が形成された蒸発部20は、熱交換部10の鉛直下方側に位置する下面部13に隣接するように配置されたが、熱交換本体部12または上面部11に隣接するように配置されてもよい。蒸発部20の位置は、蒸発面21が凝縮体30よりも鉛直下方側に位置する範囲で変形できる。また、上記第1実施形態では、蒸発面21は、水平方向に平行な面であったが、水平方向に対して傾斜していてもよく、水平方向に液体の熱媒体40を輸送可能な範囲で変形可能である。
【0096】
第1実施形態の凝縮体30は、水平方向に平行な面を有する平板状の形状を有していたが、水平方向に対して傾斜した平板形状を有していてもよいし、例えば、球形状であってもよい。凝縮体30は、凝縮させた液体の熱媒体40を毛管力により水平方向に輸送可能な範囲で変形可能である。また、凝縮体30は、延伸部31(
図1)を有しておらず、例えば、X軸正方向側の端面が熱交換部10のX軸正方向側の端面まで延びていなくてもよい。上記第1実施形態では、冷却部80内で熱媒体40が循環する空間と、冷却部80a内で熱媒体40が循環する空間とが分離されていたが、同じ空間として形成されていてもよい。第1実施形態のような複数の冷却部80aおよび冷却部80を備える冷却装置100において、熱媒体40が循環する空間が連通していることにより、各冷却部80,80aの冷却対象である複数の加熱体OBの温度のバラツキを抑制できる。
【0097】
<変形例2>
上記第2実施形態の接続部50(
図5,6)の形状については変形可能である。接続部50が備える基端部51および複数のリブ52の形状等については、凝縮体30から蒸発面21への熱媒体40が移動を促進させる形状の範囲で周知の形状を用いることができる。
【0098】
上記第3実施形態および第4実施形態では、蒸発面21c,21d(
図8-9,15-16)に形成される溝24,24dの断面としてV字の例を挙げたが、溝断面形状は、半円であってもよいし、鉛直上方が開口した台形などの矩形形状などであってもよい。溝24,24dは、蒸発面21c、21dにおいて接続方向に沿った全ての位置で形成されていなくてもよく、一部に形成されていてもよい。上記第3実施形態および第4実施形態で挙げた溝幅、溝深さ、および溝角度αは、一例であって変形可能である。溝24,24dは、接続方向に沿って平行に延びるように形成されていたが、接続方向に所定の角度傾いて延びるように形成されていてもよい。
【0099】
上記第5実施形態における最小液膜厚みδminおよび最大液膜厚みδmaxは、上記式(18),(19)のような関数を用いて算出されなくてもよく、例えば、各要素によって決定されるマップから導出されてもよい。同じように、
図19に示される制御フローのステップS7の冷却水流量の補正量は、マップを用いて与えられてもよく、最大液膜厚みδmaxと最小液膜厚みδminとの差の10%でなくてもよい。熱交換部10を冷却する冷媒として冷却水が用いられたが、冷媒は、冷却水以外であってもよく、周知の熱媒体を用いることができる。
【0100】
以上、実施形態、変形例に基づき本態様について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本態様の理解を容易にするためのものであり、本態様を限定するものではない。本態様は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本態様にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【0101】
本発明は、以下の形態としても実現することが可能である。
[適用例1]
冷却装置であって、
一部が冷却対象に接触する蒸発部であって、前記冷却対象に接触している部分とは異なる位置で露出した面である蒸発面を有する蒸発部と、
水平方向に沿って前記蒸発部に隣接して配置される熱交換部であって、外部との熱交換により冷却される熱交換部と、
多孔質材料により形成された凝縮体であって、前記熱交換部のうちの鉛直方向上方側に位置する部分に接触した状態で配置されると共に水平方向において前記蒸発部に向かって延びる凝縮体と、
前記蒸発面で蒸発し、前記凝縮体により凝縮される熱媒体と、
を備える、冷却装置。
[適用例2]
適用例1に記載の冷却装置であって、
前記凝縮体は、水平方向に沿って前記熱交換部よりも前記蒸発部側にはみ出して、前記蒸発面の一部と対向する延伸部を有する、冷却装置。
[適用例3]
適用例1または適用例2に記載の冷却装置であって、さらに、
前記延伸部と前記蒸発面とを鉛直方向に延びて接続する接続部を備える、冷却装置。
[適用例4]
適用例1から適用例3までのいずれか一項に記載の冷却装置であって、
前記蒸発面には、前記熱交換部から前記蒸発部へと向かう接続方向に沿って延びる複数の溝が形成されている、冷却装置。
[適用例5]
適用例1から適用例4までのいずれか一項に記載の冷却装置であって、
前記複数の溝は、
前記熱交換部に近い側に形成された複数の第1の溝と、
前記第1の溝よりも前記熱交換部から遠い側に形成された複数の第2の溝であって、前記第1の溝の本数よりも多く、かつ、前記第1の溝の幅よりも小さい複数の第2の溝と、
を有する、冷却装置。
[適用例6]
適用例1から適用例5までのいずれか一項に記載の冷却装置であって、さらに、
前記熱交換部を冷却するために外部から供給される冷媒の流量および温度を制御する制御部と、
前記冷却対象の温度を取得する第1温度取得部と、
前記熱交換部に供給される前記冷媒の温度を取得する第2温度取得部と、
前記熱交換部に供給される前記冷媒の流量を取得する流量取得部と、
を備え、
前記制御部は、
前記蒸発面の温度と、前記熱交換部に供給される前記冷媒の温度および流量とを用いて、前記凝縮体内に保有された前記熱媒体の液膜厚みを算出し、
算出された前記熱媒体の液膜厚みを、前記複数の溝におけるドライアウトの発生を抑制するために最小液膜厚み以上、かつ、前記蒸発面から前記熱媒体のオーバーフローの発生を抑制するための最大液膜厚み以下となるように、前記熱交換部に供給される前記冷媒の流量を制御する、冷却装置。
【符号の説明】
【0102】
10…熱交換部
11…熱交換部の上面部
12…熱交換本体部
13…熱交換部の下面部
20,20a,20c,20d…蒸発部
21,21a,21c,21d…蒸発面
22…蒸発部の下面
23,23c…蒸発部の本体部
24,24d…溝
24d1…第1の溝
24d2…第2の溝
25…台部
26…平板部
27,28…足部
30,30a…凝縮体
31…延伸部
40…熱媒体
50…接続部
51…基端部
52…リブ
60…制御部
80,80a,80b,80e,80x…冷却部
100,100e,100x…冷却装置
m…冷却水の流量
OB…加熱体(冷却対象)
Qex…熱輸送量
S1…第1温度センサ(第1温度取得部)
S2…第2温度センサ(第2温度取得部)
Sf…流量センサ(流量取得部)
δcal…熱媒体の液膜厚み
δmax…最大液膜厚み
δmin…最小液膜厚み
σl…表面張力