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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125102
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】捕集部材及び捕集装置
(51)【国際特許分類】
   A61L 9/16 20060101AFI20240906BHJP
   A61L 9/014 20060101ALI20240906BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20240906BHJP
   B03C 3/155 20060101ALI20240906BHJP
   B03C 3/14 20060101ALI20240906BHJP
   B03C 3/40 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
A61L9/16 Z
A61L9/16 F
A61L9/014
A61L9/01 E
B03C3/155 A
B03C3/14
B03C3/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033215
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小寺 雄太
(72)【発明者】
【氏名】光永 新太郎
【テーマコード(参考)】
4C180
4D054
【Fターム(参考)】
4C180AA02
4C180AA07
4C180AA16
4C180BB06
4C180CC01
4C180CC04
4C180CC11
4C180EA02X
4C180EA03X
4C180EA04X
4C180EA05X
4C180EA06X
4C180EA07X
4C180EA08X
4C180HH05
4D054AA11
4D054EA11
4D054EA22
4D054EA27
4D054EA30
(57)【要約】
【課題】空気中の物質を捕集する性能に優れる捕集部材、及びこの捕集部材を備える捕集装置を提供することを課題とする。
【解決手段】クリプトン吸着法により測定される真表面積(m)を幾何学的表面積(m)で除して得られる粗さ指数が4.0以上である表面を有する、捕集部材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリプトン吸着法により測定される真表面積(m)を幾何学的表面積(m)で除して得られる粗さ指数が4.0以上である表面を有する、捕集部材。
【請求項2】
空気中に存在する物質を捕集するための、請求項1に記載の捕集部材。
【請求項3】
金属を含む、請求項1に記載の捕集部材。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の捕集部材を含む、捕集装置。
【請求項5】
空気を装置内に吸い込む機構と装置内の空気を吐き出す機構とを備える、請求項4に記載の捕集装置。
【請求項6】
空気中に存在する物質を帯電させる機構を備える、請求項4に記載の捕集装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、捕集部材及び捕集装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空気清浄機のような空気中に浮遊する粉塵を捕集する装置としては、不織布フィルター方式の装置と電気集塵方式の装置とが主に知られている。不織布フィルター方式の装置では不織布フィルターを構成する繊維が粉塵を捕集する。これに対し、電気集塵方式の装置では空気中の粉塵を帯電させ、帯電した粉塵を電極板に吸着させて捕集する。たとえば、特許文献1には吸気口から吸い込んだ空気中の粉塵を帯電させて電極板の表面に吸着させ、粉塵が除去された空気を排気口から吐き出す電気集塵ユニットが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-285560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
捕集装置の小型化、高性能化等の観点から、既存の捕集装置に対して捕集性能のさらなる改善が求められている。さらには臭気物質のような粉塵以外の物質に対する捕集性能の改善が求められている。
【0005】
上記事情に鑑み、本開示の一形態は、空気中の物質を捕集する性能に優れる捕集部材、及びこの捕集部材を備える捕集装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1>クリプトン吸着法により測定される真表面積(m)を幾何学的表面積(m)で除して得られる粗さ指数が4.0以上である表面を有する、捕集部材。
<2>空気中に存在する物質を捕集するための、<1>に記載の捕集部材。
<3>金属を含む、<1>又は<2>に記載の捕集部材。
<4><1>~<3>のいずれか1項に記載の捕集部材を含む、捕集装置。
<5>空気を装置内に吸い込む機構と装置内の空気を吐き出す機構とを備える、<4>に記載の捕集装置。
<6>空気中に存在する物質を帯電させる機構を備える、<4>に記載の捕集装置。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一形態によれば、空気中の物質を捕集する性能に優れる捕集部材、及びこの捕集部材を備える捕集装置が提供される。
【0008】
本開示において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を示す。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値または下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値または下限値に置き換えてもよく、また、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、材料中の各成分の量は、材料中の各成分に該当する物質が複数存在する場合は、特に断らない限り、材料中に存在する複数の物質の合計量を意味する。
【0009】
<捕集部材>
本開示の一形態は、クリプトン吸着法により測定される真表面積(m)を幾何学的表面積(m)で除して得られる粗さ指数が4.0以上である表面を有する、捕集部材である。
【0010】
後述する実施例の結果に示されるように、本実施形態の捕集部材は、表面の粗さ指数が上記条件を満たさない捕集部材に比べ、空気中の物質に対して優れた捕集性能を示す。
この理由としては、例えば、捕集部材の表面の粗さ指数が4.0以上であることで微視的な表面積が大きく、限られた面積に大量の物質を付着させることができることが考えられる。
【0011】
本開示において、捕集部材の粗さ指数が4.0以上である表面を「粗化面」ともいう。
捕集部材の捕集性能を高める観点からは、粗化面の粗さ指数は10.0以上であることが好ましく、25.0以上であることがより好ましく、50.0以上であることが更に好ましく、70.0以上であることが特に好ましい。
粗化面の粗さ指数の上限値は特に制限されないが、捕集性能の持続性の観点からは、150.0以下であってもよく、125.0以下であってもよく、110.0以下であってもよい。
【0012】
表面粗さの算出に用いる真表面積は、クリプトン吸着法により得られた試料(すなわち、捕集部材)の比表面積(m/g)に、試料の質量を乗じて算出される値である。
比表面積は、試料を真空加熱脱気(100℃)した後、液体窒素温度下(77K)におけるクリプトン吸着法にて吸着等温線を測定し、BET法によって求められる。吸着等温線は、ガス吸着量測定装置を用いて測定することができる。ガス吸着量測定装置としては、例えば、BELSORP-max(マイクロトラック・ベル株式会社製)を使用してよい。
試料の質量としては、粗化処理を施した後の試料の質量を用いてもよい。粗化処理の前後における試料の質量の変化が無視できるほど小さい場合は、粗化処理を施す前の質量を試料の質量として用いてもよい。
【0013】
表面粗さの算出に用いる幾何学的表面積は、測定対象の寸法から求められる値である。例えば、測定対象が長さX、幅Y、高さZの直方体である場合の幾何学的表面積Sは、S=2XY+2YZ+2ZXとして求められる。
幾何学的表面積の測定対象は、捕集部材の一部又は全体の表面である。
幾何学的表面積の測定対象は、粗化処理を施した後の捕集部材であっても粗化処理を施す前の捕集部材であってもよい。
【0014】
捕集部材の材質は、特に制限されない。粗化処理のしやすさ及び耐久性の観点からは、捕集部材は金属を含むことが好ましい。
捕集部材に含まれる金属の種類は特に限定されず、アルミニウム、鉄、銅、ニッケル、金、銀、プラチナ、コバルト、亜鉛、鉛、スズ、ジルコニウム、チタン、ニオブ、クロム、アルミニウム、マグネシウム、マンガン、上記金属を含む合金等が挙げられる。捕集部材は、上述した金属からなる層(例えば、メッキ層)を表面に有していてもよい。
【0015】
捕集部材は、アルミニウム、マグネシウム、銀、銅、鉄、チタン、合金、及びメッキ材からなる群から選択される少なくとも1つを含んでよく、アルミニウム、マグネシウム、銀、銅、鉄、チタン、合金、及びメッキ材からなる群から選択される少なくとも1つを主成分(すなわち、金属全体の50質量%以上を占める成分)として含んでもよい。
捕集部材は、抗菌性能を示す金属を含んでもよい。抗菌性能を示す金属としては、銀及び銅が挙げられる。
【0016】
捕集部材は1種の材質からなっていても、2種以上の材質の組み合わせからなっていてもよい。例えば、捕集部材は金属からなっていても、金属と金属以外の材質の組み合わせからなっていてもよい。
【0017】
捕集部材の粗化面における三次元構造の状態は、粗化面が粗さ指数の条件を満たすのであれば特に制限されない。例えば、捕集部材の粗化面は後述する多孔質構造又は平均厚みが10nm~5000nmである凹凸構造層を有していてもよい。
【0018】
本開示において「多孔質構造」とは、複数の孔を有する構造を示す。詳しくは、「多孔質構造」とは、捕集部材の粗化面に対して水平に捕集部材を切断して得られる断面を観察したときに、観察領域に孔が存在する構造を示す。
本開示において「孔」とは、開気孔(外気と接続している孔)を意味する。孔の孔径は、孔の入口において測定される値である。
【0019】
捕集部材の粗化面における多孔質構造の存在は、電子顕微鏡又はレーザー顕微鏡を用いて、捕集部材の粗化面及び粗化面に垂直な断面を観察することにより確認することができる。
【0020】
捕集部材の粗化面は、表面が多孔質構造であるめっき層を有していてもよい。
【0021】
捕集部材の多孔質構造に含まれる孔の少なくとも一部は、開口部の径が、孔の内部の最大内径より小さい形状(以下、インクボトル形状ともいう)を有してよい。本開示において、孔の「開口部の径」とは、孔の入り口において測定される値である。
捕集部材の粗化面がインクボトル形状の孔を有していると、粗化面に捕集対象の物質を効果的に付着させることができ、捕集性能が効果的に発現する。
【0022】
捕集部材の粗化面は、以下の(1)~(3)の少なくとも1つを満たしていてもよい。
(1)算術平均粗さ(Ra)の平均値が、0.2μm~20μmである。
(2)十点平均粗さ(Rz)の平均値が、2μm~100μmである。
(3)粗さ曲線要素の平均長さ(RS)の平均値が、10μm~400μmである。
以下、算術平均粗さ(Ra)の平均値、十点平均粗さ(Rz)の平均値及び粗さ曲線要素の平均長さ(RS)の平均値を、まとめて「巨視的な表面性状」と呼ぶことがある。
【0023】
算術平均粗さ(Ra)は、JIS B 0601:2001(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される値である。
算術平均粗さ(Ra)の平均値は、0.2μm~10μm、1μm~7μm又は3μm~6μmであってよい。
【0024】
十点平均粗さ(Rz)は、JIS B 0601:2001(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される値である。
十点平均粗さ(Rz)の平均値は、5μm~100μm、10μm~80μm又は20μm~50μmであってよい。
【0025】
粗さ曲線要素の平均長さ(RS)は、JIS B 0601:2001(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される値である。
粗さ曲線要素の平均長さ(RS)の平均値は、50μm~350μm、100μm~320μm又は150μm~300μmであってよい。
【0026】
捕集性能の観点からは、捕集部材の粗化面は、算術平均粗さ(Ra)の平均値が3μm以上であり、十点平均粗さ(Rz)の平均値が20μm以上であり、粗さ曲線要素の平均長さ(RS)の平均値が100μm以上であることが好ましい。
【0027】
捕集部材の粗化面は、平均厚みが10nm~5000nmである凹凸構造層を有していてもよい。
【0028】
凹凸構造層の平均厚みは、20nm以上4000nm未満であってよく、30nm~2000nmであってよく、50nm~800nmであってよく、100nm~700nmであってよく、150nm~600nmであってよく、200nm超600nm以下であってもよく、350nm~600nmであってもよい。
【0029】
凹凸構造層の平均厚みは、走査型電子顕微鏡(SEM)による断面プロファイルから算出される。具体的には、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、捕集部材の粗化面の無作為に選択した10点について、SEM写真を撮影した後、各写真につき任意の2スポットについて1μm長さにおける平均厚みを計測し、他の9点についても同様な計測を行う。そして、合計20点の測定値の平均値を第2微細構造の平均厚みとする。
【0030】
凹凸構造層の形状としては、樹枝状層、網目状層(「スポンジ状層」とも呼ぶ場合がある)、剣山状層などが挙げられる。
【0031】
樹枝状層は、粗化処理を施された捕集部材に由来する物質からなる幹が表面に林立した状態の層をいう。幹は、幹から分かれた枝を有してよく、枝は、枝から分かれた側枝を有してよい。
網目状層は、粗化処理を施された捕集部材に由来する物質からなる網目状或いはスポンジ状の形状を有する層をいう。
剣山状層は、粗化処理が施された捕集部材に由来する物質からなる鋭利で不規則な形状の凹凸を有する層をいう。
【0032】
粗化処理が施された捕集部材に由来する物質としては、捕集部材に含まれる元素からなる物質及び捕集部材に含まれる元素を含む化合物が挙げられる。捕集部材に含まれる元素を含む化合物としては、捕集部材に含まれる金属元素を含む酸化物及び水酸化物が挙げられる。
高温高湿の環境での耐久性の観点から、凹凸構造層は、酸化アルミニウムからなる樹枝状層を含むことが好ましい。
【0033】
捕集部材の粗化面における凹凸構造層の存在は、樹枝状層及び網目状層は、電子顕微鏡又はレーザー顕微鏡を用いて、捕集部材の表面及び表面に垂直な断面を観察することにより確認することができる。
【0034】
捕集部材の粗化面に形成される三次元構造は、上述した具体的形態から選択される1種のみでも2種以上の組み合わせであってもよい。
【0035】
捕集部材の粗化面の状態は、抗菌性能を発揮する対象となる細菌又はウイルスの性質、サイズ等に応じて選択してもよい。
【0036】
捕集部材の粗化面は、捕集部材となる基材の表面に粗化処理を施すことにより得られる。粗化処理は、例えば、後述する捕集部材の製造方法に記載した方法により行うことができる。
【0037】
捕集部材の粗化面は、例えば、捕集部材となる基材の表面に対して粗化処理を行うことで形成することができる。
【0038】
基材の表面に対して粗化処理を行う方法は、特に制限されない。
例えば、基材が金属を含む場合は、特許第4020957号に開示されているようなレーザーを用いる方法;NaOH等の無機塩基、又はHCl、HNO等の無機酸の水溶液に金属材料の表面を浸漬する方法;特許第4541153号に開示されているような、陽極酸化により金属材料の表面を処理する方法;国際公開第2015-8847号に開示されているような、酸系エッチング剤(好ましくは、無機酸、第二鉄イオン又は第二銅イオン)および必要に応じてマンガンイオン、塩化アルミニウム六水和物、塩化ナトリウム等を含む酸系エッチング剤水溶液によってエッチングする置換晶析法(以下、「粗化処理法1」と呼ぶことがある);国際公開第2009/31632号に開示されているような、水和ヒドラジン、アンモニア、および水溶性アミン化合物から選ばれる1種以上の水溶液に金属材料の表面を浸漬する方法(以下、「粗化処理法2」と呼ぶ場合がある);国際公開第2020/158820号に開示されているような、所定の金属カチオンを含む酸化性酸性水溶液と接触させて金属材料の表面を化学粗化する方法(以下、「粗化処理法3」と呼ぶ場合がある);特開2008-162115号公報、特開2019-018547号公報等に開示されているような温水処理法;ブラスト処理等の粗化処理が挙げられる。
【0039】
金属を含む基材の表面の粗さ指数を4.0以上にする観点からは、後述する粗化処理法1~粗化処理法3を好適に用いることができる。更に、これらの粗化処理方法の2つ以上を組み合わせた処理(例えば、粗化処理法1と粗化処理法3とを組み合わせた粗化処理方法)も好適に用いることができる。
【0040】
[粗化処理法1]
粗化処理法1として、例えば、下記工程(1)~(4)をこの順に実施する方法が挙げられる。
【0041】
(1)前処理工程
工程(1)では、基材の表面に存在する酸化膜や水酸化物等からなる被膜を除去するための前処理を行う。前処理として、通常、機械研磨や化学研磨処理が行われる。基材の表面に機械油等の著しい汚染がある場合は、水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム水溶液等のアルカリ性水溶液による処理や、脱脂を行ってもよい。
【0042】
(2)亜鉛イオン含有アルカリ水溶液による処理工程
工程(2)では、水酸化アルカリ(MOH又はM(OH))と亜鉛イオン(Zn2+)とを質量比((MOH又はM(OH))/Zn2+)1~100の割合で含む亜鉛イオン含有アルカリ水溶液中に、前処理後の基材を浸漬し、表面に亜鉛含有被膜を形成する。なお、上記MOH及びM(OH)のMはアルカリ金属又はアルカリ土類金属である。
【0043】
(3)酸系エッチング剤による処理工程
工程(3)では、上記工程(2)の実行後に、基材を、第二鉄イオンと第二銅イオンの少なくとも一方と、酸を含む酸系エッチング剤により基材を処理する。工程(3)を実行することで、基材の表面上の亜鉛含有被膜を溶離させると共に、例えば、4μm~6μmのRa、20μm~35μmのRz、及び90μm~120μmのRSの少なくとも1つを有する多孔質構造を形成することができる。
【0044】
(4)後処理工程
工程(4)では、上記工程(3)の実行後に、基材を洗浄する。基材を洗浄する方法は、特に限定されず、通常は、水洗および乾燥操作からなる。基材を洗浄する方法は、スマット除去のために超音波洗浄操作を含んでもよい。
【0045】
[粗化処理法2]
粗化処理法2では、塩酸、水酸化ナトリウム、硝酸等による前処理を行い、水和ヒドラジン等の弱塩基性アミン系水溶液に基材を浸漬し、その後、水洗して、例えば、70℃以下で乾燥する。浸漬温度及び浸漬時間は、所望の粗さ指数、所望の平均孔径等に応じて、適宜調節してよい。
【0046】
上記方法により、例えば、数百nmの多孔質構造と、多孔質構造の上に更に付与された、数十nmの平均厚みの網目状構造とを基材の表面に形成することができる。
【0047】
[粗化処理法3]
粗化処理法3として、例えば、基材を特定の酸化性酸性水溶液と接触させる方法が挙げられる。特定の酸化性酸性水溶液は、25℃における標準電極電位Eが-0.2超え0.8以下、好ましくは0超え0.5以下の金属カチオンを含む。
上記酸化性酸性水溶液は、上記Eが-0.2以下の金属カチオンを含まないことが好ましい。
【0048】
25℃における標準電極電位Eが-0.2超え0.8以下である金属カチオンとしては、Pb2+、Sn2+、Ag、Hg2+、Cu2+等が挙げられる。これらの中では、金属の希少性の視点、対応金属塩の安全性・毒性の視点からは、Cu2+が好ましい。
【0049】
Cu2+を発生させる化合物としては、水酸化銅、酸化第二銅、塩化第二銅、臭化第二銅、硫酸銅、硝酸銅、グルコン酸銅などの無機化合物が挙げられる。
【0050】
酸化性酸性水溶液としては、硝酸、混合酸、過カルボン酸水溶液(例えば、過酢酸、過ギ酸等)を例示することができる。混合酸は、硝酸に対し、塩酸、弗酸、及び硫酸のいずれかを混合して得られる。酸化性酸性水溶液として硝酸を用い、金属カチオン発生化合物として酸化第二銅を用いる場合、水溶液を構成する硝酸濃度は、例えば10質量%~40質量%、好ましくは15質量%~38質量%、より好ましくは20質量%~35質量%である。水溶液を構成する銅イオン濃度は、例えば1質量%~15質量%、好ましくは2質量%~12質量%、より好ましくは2質量%~8質量%である。
【0051】
基材を酸化性酸性水溶液と接触させる際の温度は、特に制限されないが、発熱反応を制御しつつ経済的なスピードで粗化を完結するために、例えば常温~60℃、好ましくは30℃~50℃である。この際の処理時間は、例えば1分~15分、好ましくは2分~10分の範囲にある。
【0052】
上記方法により、例えば、数nm~数百nmの平均厚みの樹枝状層を基材の表面に形成することができる。
【0053】
必要に応じ、捕集部材の粗化面に対して被覆処理を行ってもよい。
捕集部材の粗化面に対して被覆処理を行うことで、例えば、粗化面と外的環境に存在する物質(水分など)との接触が抑制されて、粗化面に形成された微細な三次元構造の持続性が向上する場合がある。
【0054】
粗化面の被覆処理の方法、被覆処理に使用する材料等は特に制限されず、被覆処理の目的に応じて選択できる。
粗化面の三次元構造に与える影響を抑制しながら被覆を形成する観点からは、被覆処理は低分子量の化合物を用いて行うことが好ましい。たとえば、被覆処理に使用する化合物の分子量は1,000以下であることが好ましく、500以下であることが好ましく、300以下であることがより好ましい。
【0055】
捕集部材は、例えば、空気中に存在する物質を捕集するために使用される。
ある実施態様では、空気を装置内に吸い込む機構(以下、吸気機構ともいう)と装置内の空気を吐き出す機構(以下、排気機構ともいう)とを備える捕集装置において、空気中に存在する物質を捕集する部材として本開示の捕集部材を使用できる。
ある実施態様では、空気中に存在する物質を帯電させる機構(以下、帯電機構ともいう)を備える捕集装置において、空気中に存在する物質を捕集する部材として本開示の捕集部材を使用できる。この場合、本開示の捕集部材により捕集される物質は帯電していても、帯電していなくてもよい。
【0056】
捕集部材の形状は、特に制限されない。捕集対象となる物質との接触面積を充分に確保する観点からは、捕集部材は板状であることが好ましい。板状の捕集部材は平坦であっても屈曲していてもよい。板状の捕集部材は、両面に粗化面を有していても、片面に粗化面を有していてもよい。
【0057】
捕集部材の捕集対象となる物質の種類は特に制限されない。例えば、粉塵等の粒子、気体分子、細菌、ウイルス等が挙げられる。
捕集対象となる物質が粒子状である場合、その粒子径は特に制限されない。例えば、10nm~10μmの範囲内であってもよい。
【0058】
<捕集装置>
本開示の一形態は、上述した捕集部材を含む、捕集装置である。
【0059】
本開示の捕集装置は、吸気機構と排気機構とを備えてもよい。
本開示の捕集装置は、帯電機構を備えてもよい。
【0060】
捕集装置に含まれる捕集部材は、例えば、空気中に存在する物質を捕集する。捕集装置に含まれる捕集部材の数は特に制限されず、1つでも複数であってもよい。
【実施例0061】
以下、実施例を挙げて本開示をより具体的に説明する。但し、本開示は、これらの実施例に限定されない。
【0062】
電気集塵方式の空気清浄機(商品名:AirdogX5s、Silicon Valley Air Expert製)の集塵用電極として使用されるアルミニウム合金板(材質:A6063)に対し、下記の条件で脱脂処理を実施した。
【0063】
・組成:メルテックス(株)製アルミニウムクリーナー「NE-6」5質量%、水95質量%
・温度:60℃
・浸漬時間:5分
【0064】
脱脂処理後のアルミニウム合金板に対し、処理1から処理3を実施する粗化処理を行い、粗化面を有するアルミニウム合金板を得た。具体的には、亜鉛イオン含有アルカリ水溶液を用いる処理1を行ってアルミニウム合金板の表面に亜鉛含有被膜を形成した。次いで、酸系エッチング剤を用いる処理2を行って亜鉛含有被膜を溶離させ、水洗した。次いで、硫酸銅を含む水溶液を用いる処理3を行い、アルミニウム合金板を水洗した。各処理の条件は下記の通りである。
【0065】
(処理1)
・亜鉛イオン含有アルカリ水溶液:水酸化ナトリウム19質量%、酸化亜鉛3.2質量%、水77.8質量%
・温度:30℃
・浸漬時間:2分
【0066】
(処理2)
・酸系エッチング剤:硫酸4.1質量%、塩化第二鉄3.9質量%、塩化第二銅0.2質量%、水91.8質量%
・温度:30℃
・浸漬時間:250秒
【0067】
(処理3)
・硫酸銅を含む水溶液:硝酸30質量%、硫酸銅5.03質量%、水64.97質量%
・温度:40℃
・浸漬時間:5分
【0068】
日立ハイテクノロジーズ社製の走査型電子顕微鏡「Regulus8220」を用いて粗化処理後のフィルターの表面を観察したところ、インクボトル形状の細孔を含む多孔質構造と、樹枝状構造とを含む三次元構造が形成されていた。
【0069】
粗化処理後のフィルターを真空加熱脱気(100℃)した後、BELSORP-max(マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて、液体窒素温度下(77K)におけるクリプトン吸着法にて吸着等温線を測定し、BET法により比表面積を求めた。測定された比表面積とアルミニウム合金板の質量とからアルミニウム合金板の真表面積(m)を算出した。アルミニウム合金板の真表面積(m)をアルミニウム合金板の幾何学的表面積(m)で除することにより、粗化面の粗さ指数を求めたところ、89.0であった。同様にして測定した粗化処理を行う前のアルミニウム合金板の表面の粗さ指数は、1.61であった。
【0070】
アルミニウム合金板の粗化面における算術平均粗さ(Ra)の平均値、十点平均粗さ(Rz)の平均値、及び粗さ曲線要素の平均長さの平均値(RS)を、東京精密社製の表面粗さ測定装置「サーフコム1400D」を使用し、JIS B 0601:2001に準拠して測定した。
アルミニウム合金板の粗化面における算術平均粗さ(Ra)の平均値は4.26μmであり、十点平均粗さ(Rz)の平均値は36.6μmであり、粗さ曲線要素の平均長さの平均値(RS)は256.5μmであった。
【0071】
粗化処理前のアルミニウム合金板と粗化処理後のアルミニウム合金板とを用いて、空気中の物質に対する捕集性能を調べるための試験をJIM1467「家庭用空気清浄機」の付属書Dを参考にして実施した。
具体的には、粗化処理を行ったアルミニウム合金板と粗化処理を行っていないアルミニウム合金板をそれぞれセットした空気清浄機(商品名:Airdog X5s)を25mのチャンバー内(温度:23±2℃、相対湿度:50±10%、換気なし)に配置した。チャンバー内に配置した空気清浄機を最大風量(L4モード)で作動させ、チャンバー内の物質の濃度の経時変化を調べ、相当換気量(CADR)を算出した。
測定対象の物質としては、ナノサイズの粒子として平均粒子径が50nmのNaCl粒子)、サブミクロンサイズの粒子としてディーゼル排気粒子(DEP)、及び気体分子としてアンモニアを使用した。結果を表1に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
表1に示すように、捕集装置の捕集部材が粗化面を有していると空気中の各種物質に対する捕集性能が向上することがわかった。特に、アンモニアに対する捕集性能が顕著に向上することがわかった。