(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125117
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】電解メッキ装置及び電解メッキ方法
(51)【国際特許分類】
C25D 21/12 20060101AFI20240906BHJP
C25D 17/08 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
C25D21/12 K
C25D17/08 G
C25D17/08 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033242
(22)【出願日】2023-03-03
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り https://confit.atlas.jp/guide/event/ecsj2022s/participant_login?eventCode=ecsj2022s、令和4年3月4日 公益社団法人電気化学会 電気化学会第89回大会〔WEB開催〕 オンライン会場:Zoom meeting(https://confit.atlas.jp/guide/event/ecsj2022s/participant_login?eventCode=ecsj2022s)、令和4年3月15日(開催期間:令和4年3月15日~令和4年3月17日)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2018年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「水素利用等先導研究開発事業/水電解水素製造技術高度化のための基盤技術研究開発/アルカリ性アニオン交換膜を用いた低コスト高性能水電解装置の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】國本 雅宏
(72)【発明者】
【氏名】藤村 樹
(72)【発明者】
【氏名】福中 康博
(72)【発明者】
【氏名】本間 敬之
(57)【要約】
【課題】三次元網目状構造の導電性基板の孔を埋めずに三次元網目状構造を維持しながら、導電性基板の厚み方向に均一に触媒層を形成することができる、電解メッキ装置及び電解メッキ方法を提供する。
【解決手段】電解メッキ装置10は、電解メッキ用の電解液12を収容する容器11と、電解メッキ対象の三次元網目状構造を有する導電性基板15を導電性基板15の一方の面と他方の面とが電解液12に接触するように把持する基板ホルダ14と、導電性基板15に電解メッキ膜が形成されるように電解液12に電流を流すための一対の電極(作用極13及び対極16)と、一対の電極の間に、1周期のオン電流の印加時間とオフ電流の印加時間との和に対するオン電流の印加時間の比が0.2~0.5であるパルス電流を流す電源部20とを備える構成とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解メッキ用の電解液を収容する容器と、
電解メッキ対象の三次元網目状構造を有する導電性基板を前記導電性基板の一方の面と他方の面とが前記電解液に接触するように把持する基板ホルダと、
前記導電性基板に電解メッキ膜が形成されるように前記電解液に電流を流すための一対の電極と、
前記一対の電極の間に、1周期のオン電流の印加時間とオフ電流の印加時間との和に対する前記オン電流の印加時間の比が0.2~0.5であるパルス電流を流す電源部と
を備える、電解メッキ装置。
【請求項2】
前記オン電流の印加時間とオフ電流の印加時間との和に対する前記オン電流の印加時間の比が0.2である
請求項1に記載の電解メッキ装置。
【請求項3】
前記電源部が、前記オン電流の印加時間の総和が720秒以上となるように前記パルス電流を流す
請求項1に記載の電解メッキ装置。
【請求項4】
容器に電解メッキ用の電解液を収容し、
電解メッキ対象の三次元網目状構造を有する導電性基板を、前記導電性基板の一方の面と他方の面とが前記電解液に接触するように基板ホルダに把持して前記電解液に浸し、
前記導電性基板に電解メッキ膜が形成されるように前記電解液に電流を流すための一対の電極を設け、
前記一対の電極の間に、1周期のオン電流の印加時間とオフ電流の印加時間との和に対する前記オン電流の印加時間の比が0.2~0.5であるパルス電流を流し、
前記導電性基板に前記電解メッキ膜を形成する
電解メッキ方法。
【請求項5】
前記パルス電流を流すときに、前記オン電流の印加時間とオフ電流の印加時間との和に対する前記オン電流の印加時間の比が0.2である前記パルス電流を流す
請求項4に記載の電解メッキ方法。
【請求項6】
前記パルス電流を流すときに、前記オン電流の印加時間の総和が720秒以上となるように前記パルス電流を流す
請求項4に記載の電解メッキ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解メッキ装置及び電解メッキ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素製造用アルカリ水電解装置において、電気分解時に酸素が発生するアノードとしては、例えば導電性基板に触媒層が形成された構成の電極が用いられる。導電性基板としては、電気分解時に発生する酸素を装置の外部に効率よく排出可能とする、三次元網目状構造を有する多孔性物質移動層(PTL:porous transport layer)が用いられ、例えばNiからなるPTLが用いられる。触媒層としては、例えばNiFe合金層が用いられる。
【0003】
導電性基板への触媒層の形成には塗布の手法が用いられていた。しかし、導電性基板に対する触媒層の密着性が早期に低下してしまい耐久性が低く、また、バインダーによって導電性が低下するという問題や触媒層の均一性が低いという問題があった。
【0004】
触媒層の密着性や導電性については、触媒層を電解メッキにより形成し、PTLと触媒層との界面に金属結合が導入されるようにすることで改善することが可能である。
【0005】
特許文献1には、三次元網目状構造の骨格を有する金属多孔体であって、金属多孔体は、その外観がシート状であり、骨格は、少なくともニッケルとクロムとを含む合金で、かつ、鉄が固溶しており、骨格の表面に付着した酸化アルミニウム粉末の付着数は、金属多孔体のみかけの面積1cm2当たり10個以下である、金属多孔体が開示されている。
【0006】
特許文献2には、多孔質体にその母材と異なる第2成分を電気メッキし、多孔質体細孔の表面に第2成分を付着させ、この電気メッキはメッキ液に超音波振動を与えながら行い、2回以上のパルスをかけ、1回目が複数の100分の1ミリ秒から100ミリ秒のパルスで、このパルスを1秒以上の周期で通電し、この後、熱拡散処理して第2成分を母材内部に拡散させる、燃料電池の電極製造法が開示されている。
【0007】
特許文献3には、3次元網目状構造を有する金属多孔体であって、3次元網目状構造を形成する骨格の少なくとも表層に、骨格によって形成されている孔よりも径の小さな微小孔が形成されている金属多孔体が開示され、当該金属多孔体の製造方法として、樹脂製3次元網目状構造体に導電化処理を施す工程と、金属メッキを施す第1のメッキ工程と、金属とともに微小球体を付着させる第2のメッキ工程と、微小球体を除去する工程と、樹脂製3次元網目状構造体を除去する工程とを有する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2020/049815号
【特許文献2】特開平05-013087号公報
【特許文献3】特開2012-041608号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】K. Nagasawa, T. Ishida, H. Kashiwagi, Y. Sano, S. Mitsushima, “Design and characterization of compact proton exchange membrane water electrolyzer for component evaluation test”, Int. J. Hydrogen Energy, 46, 36619-36628 (2021).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら導電性基板としてPTLを用いた場合、触媒層を電解メッキにより形成したとしても、触媒層の均一性の向上は不十分であり、導電性基板の一方の面(第1面)と他方の面(第2面)での触媒層の均一性の向上が困難であった。特に、PTLの孔の内部が埋まるように触媒層が形成されてしまい、発生する酸素の排出に要する三次元網目状構造を維持しながら触媒層を形成することが困難であった。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、三次元網目状構造の導電性基板の孔を埋めずに三次元網目状構造を維持しながら、導電性基板の厚み方向に均一に触媒層を形成することができる、電解メッキ装置及び電解メッキ方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る電解メッキ装置は、電解メッキ用の電解液を収容する容器と、電解メッキ対象の三次元網目状構造を有する導電性基板を前記導電性基板の一方の面と他方の面とが前記電解液に接触するように把持する基板ホルダと、前記導電性基板に電解メッキ膜が形成されるように前記電解液に電流を流すための一対の電極と、前記一対の電極の間に、1周期のオン電流の印加時間とオフ電流の印加時間との和に対する前記オン電流の印加時間の比が0.2~0.5であるパルス電流を流す電源部とを備える。
【0013】
本発明に係る電解メッキ方法は、容器に電解メッキ用の電解液を収容し、電解メッキ対象の三次元網目状構造を有する導電性基板を、前記導電性基板の一方の面と他方の面とが前記電解液に接触するように基板ホルダに把持して前記電解液に浸し、前記導電性基板に電解メッキ膜が形成されるように前記電解液に電流を流すための一対の電極を設け、前記一対の電極の間に、1周期のオン電流の印加時間とオフ電流の印加時間との和に対する前記オン電流の印加時間の比が0.2~0.5であるパルス電流を流し、前記導電性基板に前記電解メッキ膜を形成する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、三次元網目状構造の導電性基板の孔を埋めずに三次元網目状構造を維持しながら、導電性基板の厚み方向に均一に触媒層を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態に係る電解メッキ装置の模式構成図である。
【
図2A】基板ホルダに保持された導電性基板を第1面から見た平面図である。
【
図2B】基板ホルダに保持された導電性基板を第2面から見た平面図である。
【
図3】(A1)実験例1の印加電流のパルス形状、(A2)実験例1の電解メッキ膜の電子顕微鏡写真、(B1)実験例2の印加電流のパルス形状、(B2)実験例2の電解メッキ膜の電子顕微鏡写真、(C1)実験例3の印加電流のパルス形状、及び(C2)実験例3の電解メッキ膜の電子顕微鏡写真である。
【
図4】(A1)実験例4の第1面における電解メッキ膜の電子顕微鏡写真と(A2)拡大図、及び(B1)実験例4の第2面における電解メッキ膜の電子顕微鏡写真と(B2)拡大図である。
【
図5】(A)実験例5の電解メッキ膜の電子顕微鏡写真、(B)実験例6の電解メッキ膜の電子顕微鏡写真、(C)実験例7の電解メッキ膜の電子顕微鏡写真、及び(D)実験例8の電解メッキ膜の電子顕微鏡写真である。
【
図6】実験例9のLSV(リニアスイープボルタンメトリ)図である。
【
図7】実験例10のCP(クロノポテンショメトリ)図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。
【0017】
(電解メッキ装置10)
図1は、実施形態に係る電解メッキ装置10の模式構成図である。電解メッキ装置10は、容器11に電解メッキ用の電解液12が収容され、作用極13が電解液12に浸されるように設けられ、電解液12中で作用極13に固定された基板ホルダ14に作用極13に通電するように導電性基板15が把持されており、対極16及び参照極17が電解液12に浸されるように設けられている。電解液吹き出し部18が電解液12中に必要に応じて設けられ、電解液12の吹き出し流19を導電性基板15に向けて噴き出すように構成されている。電解液12の吹き出しをしない方が好ましい場合には、電解液吹き出し部18は省略される。作用極13、対極16、及び参照極17に電気的に接続して所定の電圧を印加する電源部20が設けられている。
【0018】
(容器11)
容器11は、例えばガラス製の容器が用いられる。電解メッキ反応に影響を与えないその他の材料からなる容器でもよい。
【0019】
(電解液12)
電解液12は、形成しようとする電解メッキ膜の組成に対応するイオンを含有する電解メッキ用の電解液である。例えば水の電気分解時に酸素が発生するアノードの触媒層として用いられるNiFeを含有する電解メッキ膜を形成する場合には、Niイオン(Ni2+)及びFeイオン(Fe2+)を含有して所定のpHに調整された電解液が用いられる。その他の組成の電解メッキ膜を形成する場合には、当該組成のイオンを含有する電解液が用いられる。例えば、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ag、Cd、Al、Sn、Sb、Pb、Ti、V、Mo、W等の各イオンを少なくとも1種以上含有してpHが調整された電解液を用いることができる。
【0020】
(導電性基板15)
導電性基板15は、電解メッキの対象の基板であり、三次元網目状構造を有する多孔性物質移動層(PTL)である。例えばNiからなる三次元網目状構造を有するPTLを用いることができる。その他、Fe及びCuの少なくとも1種以上を含有し、三次元網目状構造を有するPTLを用いることができる。
【0021】
導電性基板15がPTLである場合、NiFe触媒層が形成された電極は、水の電気分解時に酸素が発生するアノードとして用いられたときに、PTLの孔が設けられていることによって水の電気分解で発生した酸素が触媒層の外部へ容易に放出されることを可能にしている。孔の径は例えば100μm~300μm程度である。
【0022】
(基板ホルダ14)
図2Aは、基板ホルダ14に把持され作用極13に接触した状態における導電性基板15を作用極13の側の一方の面(第1面15A)から見た平面図である。
図2Bは、基板ホルダ14に保持された導電性基板15を基板ホルダ14の側の他方の面(第2面15B)から見た平面図である。
図2A及び
図2Bに示すように、基板ホルダ14は、作用極13の開口部において導電性基板15の一方の面(第1面15A)が露出し、基板ホルダ14の開口部において導電性基板15の他方の面(第2面15B)が露出し、電解液12中で導電性基板15がその第1第2両面で電解液12に接触するように、導電性基板15を把持する。基板ホルダ14は、耐薬品性樹脂等からなる。
【0023】
(作用極13)
作用極13は棒状等の一方向に延びた形状を有しており、一方の端部が電解液12に浸され、他方の端部が電解液12の液面上方に露出するように設けられている。作用極13に基板ホルダ14が固定され、基板ホルダ14の端部近傍に導電性基板15が把持可能となっており、基板ホルダ14に導電性基板15を把持したときに作用極13と導電性基板15とが接触することで、導電性基板15に通電できるように構成されている。作用極13は、例えばステンレス材料(SUS304)等の導電性材料からなるが、電解液に浸る部分はポリエーテルエーテルケトン等の耐薬品性樹脂で被覆されており、通電されないようになっている。
【0024】
(対極16)
対極16は平面状、またはメッシュ状等の面方向に延びた形状を有しており、一方の端部が電解液12に浸され、他方の端部が電解液12の液面上方に露出するように設けられている。対極16は、例えばPt等の導電性材料からなる。
【0025】
上記の作用極13及び対極16とは、導電性基板15に電解メッキ膜が形成されるように電解液に電流を流すための一対の電極を構成する。
【0026】
(参照極17)
参照極17は棒状等の一方向に延びた形状を有しており、一方の端部が電解液12に浸され、他方の端部が電解液12の液面上方に露出するように設けられている。参照極17には、例えばAg/AgCl等を用いることができる。参照極17は、ある別の電極における電位を測定する際の基準値を示す電極であり、これにより電解メッキ中の作用極に印加されている電位を測定することが可能となる。
【0027】
(電解液吹き出し部18)
電解液吹き出し部18は、外部のモータ18a等に接続されており、モータ18a等の作用により電解液12の吹き出し流19を導電性基板15に向けて噴き出し、また、容器11内で電解液12を循環させるように構成されている。
【0028】
(電源部20)
電源部20は、作用極13、対極16、及び参照極17に電気的に接続されており、各電極に所定の電圧を印加しており、電解メッキを行うときには、一対の電極(作用極13及び対極16)の間にパルス電流を流す。
【0029】
電解メッキを行うときには、一対の電極(作用極13及び対極16)の間に流されるパルス電流の、1周期のオン電流の印加時間とオフ電流の印加時間との和に対するオン電流の印加時間の比は0.2~0.5であり、好ましくは0.2である。
【0030】
オン電流印加時間とオフ電流印加時間の和(パルス電流の1周期)が長い場合、1周期のオン電流の印加時間とオフ電流の印加時間との和に対するオン電流の印加時間の比が上記の範囲でも、得られる電解メッキ膜はパルス電流ではない電解メッキにより得られる膜と同等となるので、オン電流印加時間とオフ電流印加時間の和(パルス電流の1周期)は数100ms程度が好ましい。
【0031】
電源部20は、例えば、オン電流の印加時間の総和が720秒以上となるように、パルス電流を流す。特に、オン電流の印加時間の総和が18000秒以上であると、形成される電解メッキ膜の特性が安定的になり好ましい。
【0032】
(電解メッキ装置10の作用・効果)
作用極13、対極16、及び参照極17に所定の電圧を印加して作用極13及び対極16の間に所定の電流を発生させると、電解液中の前駆体である反応種が反応して、作用極13に接続された導電性基板15に電解メッキ膜が形成される。
【0033】
PTLに電解メッキ膜を形成する場合、PTL表面付近の反応種が不足すると、PTLの孔が埋められるようにして成膜されるようになる。PTLの導電性基板15の一方の面のみが露出して電解液12に接触する構成で、且つパルス形状ではない電圧を印加する電解メッキ装置を用いたとき、作用極13に接続されたPTLの表面、PTLの内部、そしてPTLの裏面では反応種が不足し、そしてその順にその不足の度合いは著しくなっていく。
【0034】
本実施形態の電解メッキ装置10によれば、導電性基板15の両面において電解メッキができるように導電性基板15を把持した状態で、一対の電極(作用極13及び対極16)に印加するパルス形状を最適化して電解メッキを行うことにより、三次元網目状構造の導電性基板15の孔を埋めずに三次元網目状構造を維持しながら導電性基板15の厚み方向に均一に触媒層を形成することができる。
【0035】
本実施形態の電解メッキ装置を用いて形成された電解メッキ膜は、PTLと電解メッキ層との間に金属結合が導入されており、剥離などが見られない安定な密着性を示す。本実施形態の電解メッキ装置によりNiFe層からなる触媒層を形成した場合、その触媒性能は、塗布法を利用して形成された従来電極と比較して1.1倍の触媒性能を有する触媒層を実現できる。
【0036】
(電解メッキ方法)
容器11に電解メッキ用の電解液12を収容し、電解メッキ対象の三次元網目状構造を有する導電性基板15を、導電性基板15の一方の面(第1面15A)と他方の面(第2面15B)が電解液12に接触するように基板ホルダ14に把持し作用極13と接触させた形で電解液12に浸し、導電性基板15に電解メッキ膜が形成されるように作用極13、及び電解液12に電流を流すための対極16を設ける。
【0037】
ここで、一対の電極(作用極13及び対極16)の間に、1周期のオン電流の印加時間とオフ電流の印加時間との和に対するオン電流の印加時間の比が0.2~0.5であるパルス電流を流す。このようにして、導電性基板15に電解メッキ膜を形成する。
【0038】
(電解メッキ方法の作用)
【0039】
本実施形態の電解メッキ方法によれば、導電性基板15の両面において電解メッキができるように導電性基板15を把持した状態で、一対の電極(作用極13及び対極16)に印加するパルス形状を最適化して電解メッキを行うことにより、三次元網目状構造の導電性基板15の孔を埋めずに三次元網目状構造を維持しながら導電性基板15の厚み方向に均一に触媒層を形成することができる。
【0040】
(実験例1)
上記の実施形態の電解メッキ装置10を用いて、電解メッキ膜を形成した。電解液は、NiCl2・6H2Oを0.15M、FeCl2・4H2Oを0.05M含有する水溶液とし、HClでpHが2.5となるように調整したものを用いた。導電性基板15としてNiからなるPTL(孔の開口径100μm~300μm)を用い、作用極13としてステンレス材料からなる電極を用い、対極16としてPtからなる電極を用い、参照極17としてAg/AgClを用いた。作用極13及び対極16の間に流れる電流として、第1ステップのオン電流を-10mAcm-2とし、第2ステップのオフ電流を0mAcm-2とした。1周期のオン電流の印加時間を100ms、オフ電流の印加時間を1msとした。実験例1の1周期のオン電流の印加時間とオフ電流の印加時間との和に対するオン電流の印加時間の比は0.99である。オン電流の印加時間の総和を1800秒とした。
【0041】
(実験例2)
1周期のオフ電流の印加時間を10msとしたこと以外は、実験例1と同様にして、実験例2の電解メッキ膜を形成した。実験例2の1周期のオン電流の印加時間とオフ電流の印加時間との和に対するオン電流の印加時間の比は0.91である。
【0042】
(実験例3)
1周期のオフ電流の印加時間を100msとしたこと以外は、実験例1と同様にして、実験例3の電解メッキ膜を形成した。実験例3の1周期のオン電流の印加時間とオフ電流の印加時間との和に対するオン電流の印加時間の比は0.5である。
【0043】
図3は、(A1)実験例1の印加電流のパルス形状、(A2)実験例1の電解メッキ膜の電子顕微鏡写真、(B1)実験例2の印加電流のパルス形状、(B2)実験例2の電解メッキ膜の電子顕微鏡写真、(C1)実験例3の印加電流のパルス形状、及び(C2)実験例3の電解メッキ膜の電子顕微鏡写真である。
【0044】
図3(A2)、(B2)、及び(C2)の比較から、実験例1の電解メッキ膜はPTLの孔が埋められるようにして形成されているが、実験例2、さらには実験例3と、1周期のオン電流の印加時間とオフ電流の印加時間との和に対するオン電流の印加時間の比を1から下げるに従って、PTLの孔が埋められずに電解メッキ膜が形成されるようになっており、1周期のオン電流の印加時間とオフ電流の印加時間との和に対するオン電流の印加時間の比は0.5以下が好ましいことが確認された。
【0045】
オン電流を印加して電解メッキ反応が生じると、時間を追うごとに電極表面における前駆体(反応種)の欠乏領域が広がるが、広がった欠乏領域をもとに戻すために、電解メッキに費やした時間と同等の回復時間(オフ電流印加時)が必要になるものと考えられる。また、オン電流印加時間とオフ電流印加時間を同程度とするだけでは、PTLの孔の奥の方での回復が不十分となることがあり、よりオフ電流印加時間を長くした方が好ましい。オフ電流印加時間は、長くしすぎると電解メッキの効率が低くなるため、1周期のオン電流の印加時間とオフ電流の印加時間との和に対するオン電流の印加時間の比は下限がある。電解メッキ膜の形状と電解メッキの時間効率から、1周期のオン電流の印加時間とオフ電流の印加時間との和に対するオン電流の印加時間の比は、0.2~0.5が好ましい。
【0046】
(実験例4)
作用極13及び対極16の間に流れる電流として、第1ステップのオン電流を-8.9mAcm-2とし、第2ステップのオフ電流を0mAcm-2とし、1周期のオン電流の印加時間を100ms、オフ電流の印加時間を400msとし、1周期のオン電流の印加時間とオフ電流の印加時間との和に対するオン電流の印加時間の比を0.2とし、オン電流の印加時間の総和を18000秒としたこと以外は、実験例1と同様にして、実験例4の電解メッキ膜を形成した。
【0047】
図4は、(A1)実験例4の第1面における電解メッキ膜の電子顕微鏡写真と(A2)拡大図、及び(B1)実験例4の第2面における電解メッキ膜の電子顕微鏡写真と(B2)拡大図である。
【0048】
PTLの一方の面(第1面)と、他方の面(第2面)とは、電解メッキ膜が同等に均一に形成されており、水の電気分解のアノードとして用いられる触媒層に適用可能であることが確認された。
【0049】
(実験例5)
オン電流の印加時間の総和を720秒としたこと以外は、実験例4と同様にして、実験例5の電解メッキ膜を形成した。
【0050】
(実験例6)
オン電流の印加時間の総和を3600秒としたこと以外は、実験例4と同様にして、実験例6の電解メッキ膜を形成した。
【0051】
(実験例7)
オン電流の印加時間の総和を9000秒としたこと以外は、実験例4と同様にして、実験例7の電解メッキ膜を形成した。
【0052】
(実験例8)
オン電流の印加時間の総和を36000秒としたこと以外は、実験例4と同様にして、実験例8の電解メッキ膜を形成した。
【0053】
SEM-EDXにより得られた実験例8の電解メッキ膜の組成は、Niが68at%、Feが19at%、Cが6at%、Oが6at%であり、Ni:Fe=78:22であった。また、得られた電解メッキ膜は、PTLの孔の内部まで均一な膜となっていた。
【0054】
図5は、(A)実験例5の電解メッキ膜の電子顕微鏡写真、(B)実験例6の電解メッキ膜の電子顕微鏡写真、(C)実験例7の電解メッキ膜の電子顕微鏡写真、及び(D)実験例8の電解メッキ膜の電子顕微鏡写真である。各電子顕微鏡写真は、左上部に低倍率の写真を示し、左上部以外の部分に高倍率の写真を示す。
【0055】
オン電流の印加時間の総和を720秒以上とすることで、PTLの孔を埋めずに三次元網目状構造を維持しながらPTLの厚み方向に均一に触媒層を形成することができることが確認された。
【0056】
(実験例9)
実験例4と同様にして、実験例9の電解メッキ膜を形成し、得られた電解メッキ膜について、時間に比例して線形に印加電圧を掃引したときに流れる電流を測定し、LSV(リニアスイープボルタンメトリ)図を得た。この際、標準セル(非特許文献1参照)を用いた。オン電流の印加時間の総和を18000秒としたのは、オン電流の印加時間の総和を18000秒より長くしても性能の変化がほとんどなかったためである。同様に、NiFe電解メッキ膜が形成されていないNiのPTLのLSV図、及びCuCoOX膜のLSV図についても得た。
【0057】
図6は、NiFe電解メッキ膜が形成されていないNiのPTLのLSV(グラフa)、実験例9の電解メッキ膜のLSV(グラフb)、CuCoO
X膜のLSV(グラフc)を示す。
図6中、横軸は参照電極(Ag/AgCl電極)に対する電位(mV)であり、縦軸は電流(mA)である。
【0058】
実験例9の電解メッキ膜は、同じ電位を印加した時に概ねCuCoOX膜よりも高電流を得ることができた。
【0059】
(実験例10)
実験例9に記載の電解メッキ膜を使用し、CP(クロノポテンショメトリ)の標準セル(非特許文献1参照)に組み込んで電圧を印加し、所定の電流を流すときの電位を印加時間に対して測定し、実験例10のCP図を得た。同様に、NiFe電解メッキ膜が形成されていないNiのPTLのCP図、及びCuCoOX膜のCP図についても得た。
【0060】
図7は、NiFe電解メッキ膜が形成されていないNiのPTLのCP(グラフa)、実験例10の電解メッキ膜のCP(グラフb)、CuCoO
X膜のCP(グラフc)を示す。
図7中、横軸は電圧印加時間であり、縦軸は参照電極(Ag/AgCl電極)に対する電位(mV)である。
【0061】
CPでは、印加時間を長くしても電位が低電位を保っているほど性能が高いと言え、実験例10では、CuCoOX膜よりも低い電位を得ることができた。
【0062】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能であり、当業者によってなされる他の実施形態、変形例も本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0063】
10 電解メッキ装置
11 容器
12 電解液
13 作用極
14 基板ホルダ
15 導電性基板
16 対極
17 参照極
18 電解液吹き出し部
18a モータ
19 吹き出し流
20 電源部