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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125129
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】歯科切削加工用ミルブランク
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/887 20200101AFI20240906BHJP
   A61K 6/836 20200101ALI20240906BHJP
   A61K 6/831 20200101ALI20240906BHJP
【FI】
A61K6/887
A61K6/836
A61K6/831
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033258
(22)【出願日】2023-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】390011143
【氏名又は名称】株式会社松風
(74)【代理人】
【識別番号】100173657
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬沼 宗一郎
(72)【発明者】
【氏名】深見 高広
(72)【発明者】
【氏名】河田 圭太
【テーマコード(参考)】
4C089
【Fターム(参考)】
4C089AA06
4C089BA12
4C089BA13
4C089BC06
4C089BC07
4C089BD02
4C089CA03
4C089CA08
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ひずみの存在、及びクラックや欠け等がなく、高い機械的物性を有する歯科切削加工用ミルブランクを得るための硬化性組成物及び硬化性組成物を成型硬化させた歯科切削加工用ミルブランクを提供する。
【解決手段】14~36質量%の下記式で表される二官能性ウレタンメタアクリレートモノマー(A)、2~12質量%のウレタン基を含まない二官能性メタアクリレートモノマー(B)、60~80質量%の無機充填剤(C)、0.1~0.5質量%の加熱重合開始剤(D)、及び、0.1~0.5質量%の連鎖移動剤(E)を含むことを特徴とする歯科切削加工用ミルブランクに用いるための硬化性組成物を用いることで課題を解決できる。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
14~36質量%の下記式1で表される二官能性ウレタンメタアクリレートモノマー(A)、
2~12質量%のウレタン基を含まない二官能性メタアクリレートモノマー(B)、
60~80質量%の無機充填剤(C)、
0.1~0.5質量%の加熱重合開始剤(D)、及び、
0.1~0.5質量%の連鎖移動剤(E)を含むことを特徴とする歯科切削加工用ミルブランクに用いるための硬化性組成物。
[式1]
【化1】
【請求項2】
前記二官能性ウレタンメタアクリレートモノマー(A)と前記ウレタン基を含まない二官能性メタアクリレートモノマー(B)の質量比が90:10~70:30である、請求項1に記載の歯科切削加工用ミルブランクに用いるための硬化性組成物。
【請求項3】
前記連鎖移動剤(E)がテルペノイド系化合物である、請求項1に記載の歯科切削加工用ミルブランクに用いるための硬化性組成物。
【請求項4】
式1で表される二官能性ウレタンメタアクリレートモノマー(A)及びウレタン基を含まない二官能性メタアクリレートモノマー(B)以外のモノマー成分を含まない、請求項1に記載の歯科切削加工用ミルブランクに用いるための硬化性組成物。
【請求項5】
前記連鎖移動剤(E)がテルペノイド系化合物である、請求項2に記載の歯科切削加工用ミルブランクに用いるための硬化性組成物。
【請求項6】
式1で表される二官能性ウレタンメタアクリレートモノマー(A)及びウレタン基を含まない二官能性メタアクリレートモノマー(B)以外のモノマー成分を含まない、請求項2に記載の歯科切削加工用ミルブランクに用いるための硬化性組成物。
【請求項7】
式1で表される二官能性ウレタンメタアクリレートモノマー(A)及びウレタン基を含まない二官能性メタアクリレートモノマー(B)以外のモノマー成分を含まない、請求項3に記載の歯科切削加工用ミルブランクに用いるための硬化性組成物。
【請求項8】
式1で表される二官能性ウレタンメタアクリレートモノマー(A)及びウレタン基を含まない二官能性メタアクリレートモノマー(B)以外のモノマー成分を含まない、請求項5に記載の歯科切削加工用ミルブランクに用いるための硬化性組成物。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の硬化性組成物の成型硬化物である歯科切削加工用ミルブランク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歯科医療の分野において、天然歯における歯冠部分の全部又は一部が欠損した場合において審美的機能的な回復をもたらす歯科用補綴装置(インレー、クラウン、ブリッジ)を作製するための、歯科切削加工用ミルブランクに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、歯科用CAD/CAM技術の発展により、欠損歯牙を再現した石こう模型を光学スキャンし、コンピューター上に欠損歯牙のデジタルデータを作成し、これをもとに補綴装置のデジタルデータを作成し、このデータより材料を切削加工して補綴装置を作製する手法が用いられるようになってきた。このようなCAD/CAM技術による補綴物作製には、材料を予めミルブランク(直方体形状、ディスク形状など)に成形しておく必要がある。そして、この歯科切削加工用ミルブランクは、高い機械的強度、天然歯との色調適合性、天然歯と同等の透明性、更には、過酷な口腔環境下において、機械的強度の経年劣化における耐久性等が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2015/152220号
【0004】
特許文献1には、ウレタン(メタ)アクリレートモノマーを含有する歯科材料用組成物が記載されている。該組成物では、アクリレート基とメタクリレート基の比率をある一定範囲内にコントロールすることにより、さらに機械的強度を向上することなどが述べられている。しかし、この内容では、歯科切削加工用ミルブランクをクラックや割れ等がない状態で製作するのは困難であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来は、歯科用CAD/CAM技術に用いる歯科切削加工用ミルブランクへの応用が可能な硬化性組成物を成型し硬化させることで歯科切削加工用ミルブランクを得ていたが、この歯科切削加工用ミルブランクをクラックや割れ等がない状態で製作するのは困難であった。
【0006】
上記問題点に鑑み、本発明は、ひずみの存在、及びクラックや欠け等がなく、高い機械的物性を有する歯科切削加工用ミルブランクを得るための硬化性組成物及び硬化性組成物を成型硬化させた歯科切削加工用ミルブランクを得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の課題について鋭意検討を行った結果、本発明の硬化性組成物によりクラックや欠け等がない歯科切削加工用ミルブランクが作製できることを見出した。
本発明は14~36質量%の下記式1で表される二官能性ウレタンメタアクリレートモノマー(A)、2~12質量%のウレタン基を含まない二官能性メタアクリレートモノマー (B)、60~80質量%の無機充填剤(C)、0.1~0.5質量%の加熱重合開始剤(D)、及び、0.1~0.5質量%の連鎖移動剤(E)を含むことを特徴とする歯科切削加工用ミルブランクに用いるための硬化性組成物である。
[式1]
【化1】
【0008】
本発明においては、前記二官能性ウレタンメタアクリレートモノマー(A)と前記ウレタン基を含まない二官能性メタアクリレートモノマー(B)の質量比が70:30~90:10であってもよい。
本発明においては、前記連鎖移動剤(E)がテルペノイド系化合物であってもよい。
本発明はまた、本発明の硬化性組成物を成型硬化物である歯科切削加工用ミルブランクを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[式1で表される二官能性ウレタンメタアクリレートモノマー(A)]
本発明における二官能性ウレタンメタアクリレートモノマー(A)は、下記式1で表される。
[式1]
【化2】
【0010】
本発明の構成成分である二官能性ウレタンメタアクリレートモノマー(A)の含有量は、硬化性組成物の全量において、14~36質量%であり、クラックや割れ等がない状態でより機械的強度が高くするために22~30質量%とすることができる。二官能性ウレタンメタアクリレートモノマー(A)の含有量が14質量%未満の場合には、硬化性組成物の操作が困難となる。二官能性ウレタンメタアクリレートモノマー(A)の含有量が36質量%を超える場合には、歯科切削加工用ミルブランクの機械的強度が低くなる。
【0011】
[ウレタン基を含まない二官能性メタアクリレートモノマー(B)]
ウレタン基を含まない二官能性メタアクリレートモノマー(B)としては、例えば、脂肪族系二官能性単量体、芳香族系二官能性単量体などが挙げられる。
【0012】
脂肪族系二官能性単量体としては、エチレンジオ-ル、プロピレンジオ-ル、プロパンジオール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、エイコサンジオール等のジメタアクリレート;エチレングリコールジメタアクリレート、ジエチレングリコールジメタアクリレート、トリエチレングリコールジメタアクリレート、プロピレングリコールジメタアクリレート、テトラエチレングリコールジメタアクリレート、ポリエチレングリコールジメタアクリレート、1,3-ブチレングリコールジメタアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタアクリレート;2-ヒドロキシエチルメタアクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタアクリレート、2-ヒドロキシ-3-アクリロイルオキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジメタアクリレート、エチレングリコールジメタアクリレート、ジエチレングリコールジメタアクリレート、トリエチレングリコールジメタアクリレート、ブチレングリコールジメタアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタアクリレート、プロピレングリコールジメタアクリレート、ポリエチレングリコールジメタアクリレート、1、3-ブタンジオールジメタアクリレート、1、4-ブタンジオールジメタアクリレート、1、6-ヘキサンジオールジメタアクリレート、グリセロールジメタアクリレート等が挙げられる。
【0013】
芳香族系二官能性単量体としては、2、2-ビス(4-メタアクリロイルオキシフェニル)プロパン、2、2-ビス(4-(3-メタアクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパン、2、2-ビス(4-メタアクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2、2-ビス(4-メタアクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2、2-ビス(4-メタアクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2、2-ビス(4-メタアクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2、2-ビス(4-メタアクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2(4-メタアクリロイルオキシエトキシフェニル)-2(4-メタアクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2(4-メタアクリロイルオキシジエトキシフェニル)-2(4-メタアクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2(4-メタアクリロイルオキシジプロポキシフェニル)-2(4-メタアクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2、2-ビス(4-メタアクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2、2-ビス(4-メタアクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパン等が挙げられる。
【0014】
本発明では、前述したウレタン基を含まない二官能性メタアクリレートモノマー(B)を単独、もしくは2種以上を混合して配合して用いることができる。
【0015】
本発明の構成成分であるウレタン基を含まない二官能性メタアクリレートモノマー(B)の含有量としては、硬化性組成物の全量において、2~12質量%であり、クラックや割れ等がない状態でより機械的強度が高くするために4~9質量%とすることができる。ウレタン基を含まない二官能性メタアクリレートモノマー(B)の含有量が2質量%未満の場合には、硬化性組成物の操作が困難となる。ウレタン基を含まない二官能性メタアクリレートモノマー(B)の含有量が12質量%を超える場合には、歯科切削加工用ミルブランクの機械的強度が低くなる。ウレタン基を含まない二官能性メタアクリレートモノマー(B)の具体例としては、硬化性組成物の操作性の観点から脂肪族系二官能性単量体が好ましい。
【0016】
なお、二官能性ウレタンメタアクリレートモノマー(A)とウレタン基を含まない二官能性メタアクリレートモノマー(B)の質量比としては、90:10~70:30が好ましく、85:15~75:25がより好ましい。二官能性ウレタンメタアクリレートモノマー(A)の質量比が90より多くなるとバインダーレジンの操作が困難となり、均一な状態で歯科切削加工用ミルブランクを成型できない。一方で、二官能性ウレタンメタアクリレートモノマー(A)の質量比が70未満となると、重合体の構造に起因して歯科切削加工用ミルブランクの機械的強度が低くなる。
【0017】
本発明の硬化性組成物は、本発明の効果を阻害しない限度において二官能性アクリレートモノマー以外の重合成分を含んでもよい。
【0018】
本発明の硬化性組成物は、二官能性アクリレートモノマー以外のモノマー成分を含まないものとすることができる。本発明の硬化性組成物は、式1で表される二官能性ウレタンメタアクリレートモノマー(A)及びウレタン基を含まない二官能性メタアクリレートモノマー(B)以外のモノマー成分を含まないものとすることができる。
【0019】
[無機充填剤(C)]
本発明の構成成分の1つである無機充填剤(C)には、歯科用材料に用いられている公知のものが特に制限なく使用できる。材質としては、カオリン、タルク、石英、シリカ、コロイダルシリカ、アルミナ、アルミノシリケート、窒化珪素、硫酸バリウム、リン酸カルシウム、種々のガラス類(フッ素ガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダガラス、バリウムガラス、ストロンチウムやジルコニウムを含むガラス、ガラスセラミックス、フルオロアルミノシリケートガラス、ゾルゲル法による合成ガラスなど)、ジルコニア、ジルコニウムシリケート、ヒドロキシアパタイトなどが挙げられる。無機充填剤の形状、粒度分布及び平均粒子径等に特に制限ない。しかしながら、一般的な無機充填剤を配合した歯科用レジン材料(コンポジットレジンなど)と同様に、材料強度を上げつつ、材料の表面滑沢性を両立させる必要がある。このため、平均粒子径は0.01~50μm、好ましくは0.01~10μm、更に好ましくは0.01~1μmであることが望ましい。本発明における平均粒子径とは、積算値が50%である粒度の直径を意味し、このような平均粒子径は例えばレーザー回折法により測定することができる。
【0020】
また、平均粒子径が0.1μm以下の無機充填剤が配合された硬化性組成物は、好適な態様の一つである。かかる粒子径の小さな無機充填剤の材質としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニアなどが好ましい。このような粒子径の小さい無機充填剤の配合は、歯科切削加工用ミルブランクの表面滑沢性を得る上で有利である。本発明の硬化性組成物は、平均粒子径が0.1μm以下の無機充填剤以外の充填剤を含まないものとすることができる。
【0021】
本発明の構成成分の1つである無機充填剤(C)として、多孔質無機充填材を配合することができる。多孔質無機充填材は、少なくとも1つ以上の細孔を有する無機充填材であることを示す。無機充填材の細孔の有無は、例えばガス吸着法や水銀圧入法により測定することが可能である。より具体的には、ガス吸着法により測定される測定される細孔容積が0.01cc/g以上であるものをいう。
【0022】
本発明に用いる無機充填剤(C)は、表面処理が施されていることが好ましい。表面処理材の例としては、シラン化合物、例えばビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β-メトキシエトキシ)シラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0023】
本発明に用いる無機充填剤(C)には1種単独で又は2種類以上を組み合わせて適宜用いられる。無機充填剤の配合は、歯科切削加工用ミルブランクの前駆体である硬化性組成物の操作性(粘稠度)や歯科切削加工用ミルブランクの機械的物性を考慮して適宜決定すればよい。
【0024】
本発明の構成成分である無機充填剤(C)は、60~80質量%含むことを必須要件としている。本発明による歯科切削加工用ミルブランクから得た補綴装置は、基本的に、口腔内にて長期的(2年以上)に機能することを目的とする。このため、口腔内特有の高温高湿度下での耐久性が要求され、これを達成するために一定量以上の無機充填剤にて強化する必要がある。無機充填剤の配合率が60質量%未満の場合は、材料を長期的に安定して機能させることが難しい。また、無機充填剤の配合率が80質量%を超える場合は、硬化性組成物の操作が困難となる。本発明の硬化性組成物は、無機充填剤(C)が65~70質量%とすることができる。本発明の硬化性組成物は、無機充填剤(C)以外の充填剤を含まないものとすることができる。
【0025】
[加熱重合開始剤(D)]
本発明の構成成分である加熱重合開始剤(D)には、歯科用材料に用いられている公知のものが制限なく使用される。例えば、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシエステル類、ジアルキルパーオキサイド類、パーオキシケタール類、ケトンパーオキサイド類、ハイドロパーオキサイド類などが有効である。具体的には、ジアシルパーオキサイド類としてはベンゾイルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、m-トルオイルパーオキサイド等が挙げられる。
【0026】
上述した加熱重合開始剤(D)の含有量としては、硬化性組成物の全量において、0.1~0.5質量%である。加熱重合開始剤(D)の含有量が少なすぎる場合、重合性単量体の重合が不十分となる。一方、加熱重合開始剤(D)の配合量が多すぎる場合は、重合時の停止反応が促進され結果として歯科切削加工用ミルブランクの機械的強度の低下を招く。
【0027】
また、前述した加熱重合開始剤(D)に加えて、公知の重合促進剤が制限なく使用することができる。例えば、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、N,N-ジベンジルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジエチル-p-トルイジン、N,N-ジヒドロキシエチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル安息香酸、N,N-ジエチル安息香酸、N,N-ジメチル安息香酸エチル、N,N-ジエチル安息香酸エチル、N,N-ジメチル安息香酸メチル、N,N-ジエチル安息香酸メチル、N,N-ジメチルアミノベンズアルデヒド、N,N-ジヒドロキシエチルアニリン、p-ジメチルアミノフェネチルアルコ-ル、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレ-ト、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレ-ト、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、N-エチルエタノ-ルアミン等が挙げられる。
【0028】
重合促進剤を配合する場合、含有量としては、硬化性組成物の全量において、0.1~0.5質量%である。本発明の硬化性組成物は、加熱重合開始剤(D)に加えて光重合開始剤及び/又は化学重合開始剤を含むことができる。本発明の硬化性組成物は、光重合開始剤及び化学重合開始剤を含まないものとすることができる。本発明の硬化性組成物は、重合促進剤を含まないものとすることができる。
【0029】
[連鎖移動剤(E)]
本発明の構成成分の1つである連載移動剤(E)には、歯科用材料に用いられているテルペノイド系化合物が特に制限なく使用できる。具体的に例示すると、α-テルピネン、β-テルピネン、γ-テルピネンなどが挙げられる。
【0030】
上述した連鎖移動剤(E)の含有量としては、全硬化性組成物の全量において、0.1~0.5質量%である。また、本発明の硬化性組成物において、重合性成分に連鎖移動剤を配合しておくことで均一に重合硬化させることができる。
【0031】
本発明の硬化性組成物において、構成成分である着色材は、歯科用材料に用いられている公知の着色材が制限なく使用される。着色材には、無機化合物系着色材及び有機化合物系着色材のいずれも使用可能である。特に白色着色材は、本発明の各層の透明性を調節するのに有用である。
【0032】
本発明の硬化性組成物には、必要に応じて公知の各種添加剤を配合することができる。かかる添加剤としては重合禁止剤、変色防止剤、蛍光剤、紫外線吸収剤、抗菌剤などが挙げられる。
【実施例0033】
以下、実施例により本発明をより詳細に、且つ具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0034】
(曲げ強度試験)
目的:歯科切削加工用ミルブランクの曲げ強度の評価
方法:試作した歯科切削加工用ミルブランクから(1.2±0.2)×(4.0±0.2)×14mm以上の板を切出し、#2000の耐水研磨紙にて表面を研磨した。これらを密閉できる容器中にて蒸留水にて浸漬して、37℃で7日間保存したものを試験体として使用した。曲げ強度の測定は、インストロン万能試験機(インストロン5567:インストロン社製)を用い、支点間距離12mm、クロスヘッドスピード1mm/minにて行った。評価は、AA:230MPa以上、A:200MPa以上、230MPa未満、B:160MPa以上、200MPa未満、C:160MPa未満で表した。
【0035】
(成型体の割れ、クラック評価)
目的:歯科切削加工用ミルブランクのクラックの評価
方法:10個の成型した歯科切削加工用ミルブランクを目視により確認し、割れ及びクラックの評価を行った。評価は、A:割れ、クラックが無い、B:クラックの発生割合が30%未満、C:クラックの発生割合が30%以上で表した。
【0036】
(稠度(フロー値))
目的:歯科切削加工用ミルブランクの前駆体である硬化性組成物の稠度(フロー値)の評価
方法:混練終了後の硬化性組成物を円柱管(内径7.5mm)に充填した。ガラス板(70×70×1mm)上の中央部に硬化性組成物を静かに押し出し、この上に同型のガラス板を置く。その中心上に荷重(400gf)を静かに加え、この時点から180秒間経過したときの硬化性組成物の寸法を確認する。評価は、A:20~40mm、B:10~20mm未満もしくは40超過~50mm、C:50mm超過もしくは10mm未満で表した。
【0037】
[二官能性ウレタンメタアクリレートモノマー]
式1で表される二官能性ウレタンメタアクリレートモノマー(モノマー(A))
[式1]
【化3】
(A)以外の二官能性ウレタンメタアクリレートモノマー(モノマー(A’))
【化4】
【0038】
[ウレタン基を含まない二官能性メタアクリレートモノマー(B)]
TEGDMA:トリエチレングリコールメタクリレート(新中村化学工業社製)
701:2-ヒドロキシ-1,3-ジメタクリロキシプロパン(新中村化学工業社製)
【0039】
[無機充填剤(C)の原料]
UF1.5:ストロンチウムガラス(平均一次粒子径1.5μm、ショット社製)
UF1.0:ストロンチウムガラス(平均一次粒子径1.0μm、ショット社製)
UF0.4-S:ストロンチウムガラス(平均一次粒子径0.4μm、ショット社製)
UF0.4-B:バリウムガラス(平均一次粒子径0.4μm、ショット社製)
OX-50:微粒子シリカ(平均一次粒子径0.04μm、日本アエロジル社製)
[無機充填剤(C)の表面処理剤]
γ-MPS:γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製)
【0040】
[加熱重合開始剤(D)]
BPO:ベンゾイルパーオキサイド(和光純薬社製)
V-601:ジメチル-2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)(和光純薬社製)
【0041】
[連鎖移動剤(E)]
α-テルピネン:p-メンタ-1,3-ジエン,1-イソプロピル-4-メチル-1,3-シクロヘキサジエン(東京化成工業社製)
β-テルピネン:p-メンタ-1,4-ジエン,1-イソプロピル-4-メチル-1,4-シクロヘキサジエン(東京化成工業社製)
【0042】
[無機充填剤(C)]
上記無機充填剤(C)の原料および表面処理剤を用いて、後述の無機充填剤の製造例1~5より、無機充填剤(C-1)~(C-5)を得た。
[無機充填剤の製造例1]
UF1.5(平均一次粒子径1.5μm、ショット社製)を100質量部に、γ-MPSを3質量部、エタノールを10質量部、蒸留水を2質量部、リン酸を0.1質量部混合した。さらに100℃で3時間乾燥することによって表面処理することで、無機充填剤(C-1)を作製した。
【0043】
[無機充填剤の製造例2]
UF1.0(平均一次粒子径1.0μm、ショット社製)を100質量部に、γ-MPSを4質量部、エタノールを10質量部、蒸留水を2質量部、リン酸を0.1質量部混合した。さらに100℃で3時間乾燥することによって表面処理することで、無機充填剤(C-2)を作製した。
【0044】
[無機充填剤の製造例3]
UF0.4-S(ストロンチウムガラス、平均一次粒子径0.4μm、ショット社製)を100質量部に、γ-MPSを9質量部、エタノールを10質量部、蒸留水を2質量部、リン酸を0.1質量部混合した。さらに100℃で3時間乾燥することによって表面処理することで、無機充填剤(C-3)を作製した。
【0045】
[無機充填剤の製造例4]
UF0.4-B(バリウムガラス、平均一次粒子径0.4μm、ショット社製)を100質量部に、γ-MPSを9質量部、エタノールを10質量部、蒸留水を2質量部、リン酸を0.1質量部混合した。さらに100℃で3時間乾燥することによって表面処理することで、無機充填剤(C-4)を作製した。
【0046】
[無機充填剤の製造例5]
OX-50(平均一次粒子径0.04μm、日本アエロジル社製)を100質量部に、γ-MPS10質量部、エタノールを10質量部、蒸留水を2質量部、リン酸を0.1質量部混合した。さらに100℃で3時間乾燥することによって表面処理することで、無機充填剤(C-5)を作製した。
【0047】
(硬化性組成物の調合)
表1~3のとおりに各成分を混合・減圧脱泡して硬化性組成物を作製した。ここで、各成分については、質量%の記載である。
【0048】
(歯科切削加工用ミルブランク)
14.5mm×14.5mm×18.0mmのブロック体作製用金型に、硬化性組成物を充填した。金型を110℃に加熱し、硬化性組成物を重合硬化させ歯科切削加工用ミルブランクを得た。
【0049】
表1~3に示す硬化性組成物を用いて、歯科切削加工用ミルブランク(実施例1~41および比較例1~7)を作製した。なお表1~3には実施例または比較例ごとに硬化性組成物の各構成成分の質量%、クラックの有無、測定した曲げ強度、フロー値を記載している。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】
【0053】
以上の結果から、本発明の歯科切削加工用ミルブランクに用いる硬化性組成物は、ひずみの存在、及びクラックや欠け等がなく、高い機械的物性を有するものであった。これは、硬化性組成物の各構成成分を適切に規定したことに起因するものと考えられる。よって、本発明の歯科切削加工用ミルブランクに用いる硬化性組成物は、従来のものと比較して製造性及び機械的特性を飛躍的に改善したものである。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、歯科医療の分野において、天然歯における歯冠部分の全部又は一部が欠損した場合において審美的機能的な回復をもたらす歯科用補綴装置(インレー、クラウン、ブリッジ)を作製するための、歯科切削加工用ミルブランクに関するものである。本発明に記載した硬化性組成物により、高い機械的物性を有する歯冠補綴装置の提供が可能となる。