(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024012513
(43)【公開日】2024-01-30
(54)【発明の名称】フルオレセイン結合エーテルリン脂質(FL-PLE)で標識された腫瘍に対して最適なT細胞機能を示すフルオレセイン特異的CAR
(51)【国際特許分類】
C07K 19/00 20060101AFI20240123BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20240123BHJP
C07K 14/725 20060101ALI20240123BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20240123BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240123BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20240123BHJP
【FI】
C07K19/00 ZNA
C07K16/28
C07K14/725
C12N15/13
C12N15/12
C12N15/62 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023188894
(22)【出願日】2023-11-02
(62)【分割の表示】P 2020542634の分割
【原出願日】2019-01-17
(31)【優先権主張番号】62/627,147
(32)【優先日】2018-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】515045617
【氏名又は名称】シアトル チルドレンズ ホスピタル (ディービーエイ シアトル チルドレンズ リサーチ インスティテュート)
【住所又は居所原語表記】1900 Ninth Ave. Seattle, WA 98101 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】ジェンセン,マイケル シー.
(72)【発明者】
【氏名】マッセイ,ジェイムズ エフ.
(57)【要約】 (修正有)
【課題】腫瘍細胞の表面上に提示されたフルオレセイン含有リガンドに対して特異性および親和性を有する遺伝子組換えキメラ抗原受容体(CAR)、およびその組成物を提供する。
【解決手段】キメラ抗原受容体(CAR)またはT細胞受容体(TCR)を含む複合体であって、前記CARまたはTCRが、標的部分を含む脂質に結合するように構成されており、前記脂質への前記CARの結合が、前記標的部分との相互作用を介したものであり、前記CARまたはTCRが、特定のアミノ酸長のスペーサードメインを含み、前記CARまたはTCRが、特定の配列と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ/または、前記スペーサードメインが、CH3ドメインに連結されたCH2ドメインに連結されたIgG4ヒンジである、複合体を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キメラ抗原受容体(CAR)またはT細胞受容体(TCR)を含む複合体であって、
前記CARまたはTCRが、標的部分を含む脂質に結合するように構成されており、該脂質への該CARの結合が、該標的部分との相互作用を介したものであり;
前記CARまたはTCRが、1~22アミノ酸長、23~50アミノ酸長、51~100アミノ酸長、100~150アミノ酸長または151~250アミノ酸長のスペーサードメインを含み、
前記CARまたはTCRが、配列番号1~6から選択される配列と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を含み;かつ/または
前記スペーサードメインが、
CH3ドメインに連結されたCH2ドメインに連結されたIgG4ヒンジ(たとえば、配列番号7と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を有するか、もしくは配列番号7のアミノ酸配列を有する長いスペーサー);
CH3ドメインに連結されたIgG4ヒンジ(たとえば、配列番号8と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を有するか、もしくは配列番号8のアミノ酸配列を有する中程度の長さのスペーサー);もしくは
IgG4ヒンジ(たとえば、配列番号9と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を有するか、もしくは配列番号9のアミノ酸配列を有する短いスペーサー)
を含むか、これらのいずれかから実質的になるか、これらのいずれかからなる、複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年2月6日に出願された「FL-PLEで標識された腫瘍に対して最適なT細胞機能を示すフルオレセイン特異的CAR」という名称の米国仮特許出願第62/627,147号の優先権を主張するものであり、この出願は参照によりその全体が本明細書に明示的に援用される。
【0002】
配列表の参照
本願は電子形式の配列表とともに出願されたものである。この配列表は、SCRI163WOSEQLISTのファイル名で2019年1月17日に作成された約42kbのファイルとして提供されたものである。この電子形式の配列表に記載の情報は、参照によりその全体が本明細書に明示的に援用される。
【0003】
本明細書で述べる実施形態は、腫瘍細胞の表面上に提示されたフルオレセイン含有リガンドに対して特異性および親和性を有する遺伝子組換えキメラ抗原受容体(CAR)およびその組成物に関する。したがって、本発明は、このような組成物ならびに該組成物の製造方法および使用方法を提供する。
【背景技術】
【0004】
腫瘍細胞上に発現された表面分子に特異的なキメラ抗原受容体(CAR)を発現するように、遺伝子移入により遺伝子組換えされたヒトTリンパ球の養子移入は、効果的にがんを治療できる可能性がある。キメラ受容体は、細胞外リガンド結合ドメインを含む合成受容体である。この細胞外リガンド結合ドメインは、最も一般的には、モノクローナル抗体の一本鎖可変領域断片(scFv)が細胞内シグナル伝達領域に連結されたものである。細胞内シグナル伝達領域は、最も一般的にはCD3ζ単独であるか、あるいは1種以上の共刺激ドメインと組み合わせたCD3ζである。キメラ抗原受容体の設計に関する研究の多くでは、生体に重要な正常組織に対して重大な毒性を引き起こすことなく、悪性細胞を標的とするscFvおよびその他のリガンド結合因子を見出すこと、およびT細胞のエフェクター機能を活性化することが可能な、細胞内シグナル伝達モジュールの最適な構成を決定することに焦点が当てられている。したがって、特定の標的に対して選択的であり、有害な副作用を最小限に抑えることが可能な、CAR T細胞を使用した治療法が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の態様において、キメラ抗原受容体(CAR)またはT細胞受容体(TCR)を含む複合体であって、
前記CARまたはTCRが、標的部分を含む脂質に結合するように構成されており、該脂質への該CARの結合が、該標的部分との相互作用を介したものであり;
前記CARまたはTCRが、1~22アミノ酸長、23~50アミノ酸長、51~100アミノ酸長、100~150アミノ酸長、もしくは151~250アミノ酸長のスペーサードメイン、またはこれらの長さのいずれか2つによって定義される範囲内の長さのスペーサードメインを含む、
複合体を提供する。
いくつかの実施形態において、前記CARまたはTCRは、配列番号1~6のいずれかで示される配列を含む。いくつかの実施形態において、前記スペーサードメインは、CH3ドメインに連結されたCH2ドメインに連結されたIgG4ヒンジである。このような実施形態のいくつかにおいて、前記スペーサードメインは、配列番号7で示されるアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、前記スペーサードメインは、CH3ドメインに連結されたIgG4ヒンジである。このような実施形態のいくつかにおいて、前記スペーサードメインは、配列番号8で示されるアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、前記スペーサードメインは、IgG4ヒンジのみからなる。このような実施形態のいくつかにおいて、前記スペーサードメインは、配列番号9で示されるアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態は、配列番号1~9のいずれかをコードする核酸を含み、この核酸は、ベクターに組み込まれてもよく、かつ/または細胞(たとえばT細胞)に導入されてもよい。いくつかの実施形態において、前記スペーサーは、229アミノ酸長である。いくつかの実施形態において、前記脂質は、極性頭部基および疎水基を含む。いくつかの実施形態において、前記極性頭部基は、コリン、ホスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、ホスホエタノールアミン基、オリゴ糖残基、糖残基、ホスファチジルセリンまたはホスファチジルイノシトールを含む。いくつかの実施形態において、前記極性頭部基は、ホスホコリン、ピペリジン部分またはトリメチルアルセノ-エチル-ホスファート部分を含む。いくつかの実施形態において、前記疎水基は、脂肪鎖などの脂肪酸である。いくつかの実施形態において、前記脂肪酸は、飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸である。いくつかの実施形態において、前記疎水基は、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を含む。いくつかの実施形態において、前記疎水基は、ステロイドまたはコレステロールなどのテルペノイド脂質を含む。いくつかの実施形態において、前記疎水基は、前記極性頭部基と前記脂肪鎖の間にエーテル結合を含む。いくつかの実施形態において、前記糖残基はグリセロールである。いくつかの実施形態において、前記疎水基は、アルキル炭素鎖を含み、該アルキル炭素鎖は、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個もしくは20個の炭素原子、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の数の炭素原子を含む。いくつかの実施形態において、前記アルキル炭素鎖は18個の炭素原子を含む。いくつかの実施形態において、前記脂質はエーテルリン脂質である。いくつかの実施形態において、前記標的部分は、ビオチン、ジゴキシゲニン、ジニトロフェノールまたはフルオレセインである。いくつかの実施形態において、前記スペーサーは、ポリエチレングリコール(PEG)スペーサー、(2個の)ハプテンからなるスペーサー、またはアルカン鎖を含む。いくつかの実施形態において、前記PEGスペーサーは、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個もしくは16個のPEG分子、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の数のPEG分子を含む。いくつかの実施形態において、前記CARまたはTCRは、細胞またはT細胞で発現される。いくつかの実施形態において、前記CARまたはTCRは、細胞またはT細胞の表面上に発現される。いくつかの実施形態において、前記細胞は前駆T細胞である。いくつかの実施形態において、前記前駆T細胞は造血幹細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞は、ナイーブCD8+T細胞、セントラルメモリーCD8+T細胞、エフェクターメモリーCD8+T細胞およびバルクCD8+T細胞からなる群から選択されるCD8+細胞傷害性Tリンパ球である。いくつかの実施形態において、前記細胞は、ナイーブCD4+T細胞、セントラルメモリーCD4+T細胞、エフェクターメモリーCD4+T細胞およびバルクCD4+T細胞からなる群から選択されるCD4+ヘルパーTリンパ球である。いくつかの実施形態において、前記脂質は、標的細胞の脂質二重層に挿入される。いくつかの実施形態において、前記標的細胞は腫瘍細胞である。いくつかの実施形態において、前記標的細胞は免疫細胞である。いくつかの実施形態において、前記免疫細胞はT細胞またはB細胞である。いくつかの実施形態において、前記標的細胞は、腫瘍微小環境に存在する。
【0006】
第2の態様において、本発明の実施形態のいずれか1つに記載の複合体を含む細胞であって、
キメラ抗原受容体(CAR)またはT細胞受容体(TCR)を含み、
前記CARまたはTCRが、標的部分を含む脂質に結合するか、または結合するように構成されており、該CARを含む細胞が、該脂質の該標的部分に結合し、前記CARまたはTCRが、スペーサードメインを含む、
細胞を提供する。
いくつかの実施形態において、前記複合体は、キメラ抗原受容体(CAR)またはT細胞受容体(TCR)を含み、
前記CARまたはTCRは、標的部分を含む脂質に結合するか、または結合するように構成されており、該脂質への該CARの結合は、該標的部分との相互作用を介したものであるか、該CARが、該標的部分との相互作用を介して該脂質に結合するように構成されており、
前記CARまたはTCRは、1~22アミノ酸長、23~50アミノ酸長、51~100アミノ酸長、100~150アミノ酸長、もしくは151~250アミノ酸長のスペーサードメイン、またはこれらの長さのいずれか2つによって定義される範囲内の長さのスペーサードメインを含む。
いくつかの実施形態において、前記CARまたはTCRは、配列番号1~6のいずれかで示される配列を含む。いくつかの実施形態において、前記スペーサードメインは、CH3ドメインに連結されたCH2ドメインに連結されたIgG4ヒンジである。このような実施形態のいくつかにおいて、前記スペーサードメインは、配列番号7で示されるアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、前記スペーサードメインは、CH3ドメインに連結されたIgG4ヒンジである。このような実施形態のいくつかにおいて、前記スペーサードメインは、配列番号8で示されるアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、前記スペーサードメインは、IgG4ヒンジのみからなる。このような実施形態のいくつかにおいて、前記スペーサードメインは、配列番号9で示されるアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、前記細胞は、配列番号1~9のいずれかをコードする核酸を含む。いくつかの実施形態において、前記スペーサーは、229アミノ酸長である。いくつかの実施形態において、前記脂質は、極性頭部基および疎水基を含む。いくつかの実施形態において、前記極性頭部基は、コリン、ホスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、ホスホエタノールアミン基、オリゴ糖残基、糖残基、ホスファチジルセリンまたはホスファチジルイノシトールを含む。いくつかの実施形態において、前記極性頭部基は、ホスホコリン、ピペリジン部分またはトリメチルアルセノ-エチル-ホスファート部分を含む。いくつかの実施形態において、前記疎水基は、脂肪鎖などの脂肪酸である。いくつかの実施形態において、前記脂肪酸は、飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸である。いくつかの実施形態において、前記疎水基は、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を含む。いくつかの実施形態において、前記疎水基は、ステロイドまたはコレステロールなどのテルペノイド脂質を含む。いくつかの実施形態において、前記疎水基は、前記極性頭部基と前記脂肪鎖の間にエーテル結合を含む。いくつかの実施形態において、前記糖残基は、グリセロールまたは糖アルコールである。いくつかの実施形態において、前記疎水基は、アルキル炭素鎖を含み、該アルキル炭素鎖は、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個もしくは20個の炭素原子、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の数の炭素原子を含む。いくつかの実施形態において、前記アルキル炭素鎖は18個の炭素原子を含む。いくつかの実施形態において、前記脂質はエーテルリン脂質である。いくつかの実施形態において、前記標的部分は、ビオチン、ジゴキシゲニン、ジニトロフェノールまたはフルオレセインである。いくつかの実施形態において、前記スペーサーは、ポリエチレングリコール(PEG)スペーサー、(2個の)ハプテンからなるスペーサー、またはアルカン鎖を含む。いくつかの実施形態において、前記PEGスペーサーは、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個もしくは16個のPEG分子、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の数のPEG分子を含む。いくつかの実施形態において、前記CARまたはTCRは、細胞またはT細胞で発現される。いくつかの実施形態において、前記CARまたはTCRは、細胞またはT細胞の表面上に発現される。いくつかの実施形態において、前記細胞は前駆T細胞である。いくつかの実施形態において、前記前駆T細胞は造血幹細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞は、ナイーブCD8+T細胞、セントラルメモリーCD8+T細胞、エフェクターメモリーCD8+T細胞およびバルクCD8+T細胞からなる群から選択されるCD8+細胞傷害性Tリンパ球である。いくつかの実施形態において、前記細胞は、ナイーブCD4+T細胞、セントラルメモリーCD4+T細胞、エフェクターメモリーCD4+T細胞およびバルクCD4+T細胞からなる群から選択されるCD4+ヘルパーTリンパ球である。いくつかの実施形態において、前記脂質は、標的細胞の脂質二重層に挿入される。いくつかの実施形態において、前記標的細胞は腫瘍細胞である。いくつかの実施形態において、前記標的細胞は免疫細胞である。いくつかの実施形態において、前記免疫細胞はT細胞またはB細胞である。いくつかの実施形態において、前記標的細胞は、腫瘍微小環境に存在する。いくつかの実施形態において、前記細胞は前駆T細胞である。いくつかの実施形態において、前記前駆T細胞は造血幹細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞は、ナイーブCD8+T細胞、セントラルメモリーCD8+T細胞、エフェクターメモリーCD8+T細胞およびバルクCD8+T細胞からなる群から選択されるCD8+細胞傷害性Tリンパ球である。いくつかの実施形態において、前記細胞は、ナイーブCD4+T細胞、セントラルメモリーCD4+T細胞、エフェクターメモリーCD4+T細胞およびバルクCD4+T細胞からなる群から選択されるCD4+ヘルパーTリンパ球である。いくつかの実施形態において、前記脂質は、標的細胞の脂質二重層に挿入される。いくつかの実施形態において、前記標的細胞は腫瘍細胞である。いくつかの実施形態において、前記標的細胞は免疫細胞である。いくつかの実施形態において、前記免疫細胞はT細胞またはB細胞である。いくつかの実施形態において、前記標的細胞は、腫瘍微小環境に存在する。
【0007】
第3の態様において、対象において、がんを治療、緩和または抑制する方法であって、
a)マスキング部分に結合された標的部分を含む脂質を含む組成物を対象に導入、提供または投与する工程;
b)前記マスキング部分が除去された前記標的部分に特異的であり、スペーサードメインを含むキメラ抗原受容体(CAR)またはT細胞受容体(TCR)を含む細胞を前記対象に導入、提供または投与する工程;
c)前記標的部分から前記マスキング部分を除去することにより、前記細胞上に存在する前記CARに前記標的部分を結合させる工程;
d)工程a)~c)の後に、任意で、前記CARを含む前記細胞の前記脂質への結合を測定または評価する工程;
e)工程a)~d)の後に、任意で、がんの治療、緩和または抑制を測定または評価する工程;および/または
f)工程a)~c)の前に、任意で、がんの治療が必要な対象を特定する工程
を含む方法を提供する。
いくつかの実施形態において、前記複合体または前記細胞は、前記組成物の投与と同時に前記対象に提供されるか、前記組成物を投与する1時間前、2時間前、3時間前、4時間前、5時間前、6時間前、7時間前、8時間前、9時間前、10時間前、11時間前、12時間前、15時間前、20時間前、24時間前、36時間前もしくは48時間前、もしくは前記組成物の投与より、これらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の時間分早い時点で前記対象に提供されるか、または前記組成物を投与した1時間後、2時間後、3時間後、4時間後、5時間後、6時間後、7時間後、8時間後、9時間後、10時間後、11時間後、12時間後、15時間後、20時間後、24時間後、36時間後もしくは48時間後、もしくは前記組成物の投与から、これらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の時間が経過した後に前記対象に提供される。いくつかの実施形態において、前記細胞は、前記組成物を投与する1時間前、2時間前、3時間前、4時間前、5時間前、6時間前、7時間前、8時間前、9時間前、10時間前、11時間前、12時間前、15時間前、20時間前、24時間前、36時間前もしくは48時間前、または前記組成物の投与より、これらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の時間分早い時点で前記対象に提供される。いくつかの実施形態において、前記組成物を前記対象に提供した後、数秒以内または数分以内、たとえば1時間が経過する前に、前記細胞が該対象に提供される。いくつかの実施形態において、前記細胞および/または前記組成物のブースト投与が前記対象に提供される。いくつかの実施形態において、低分子(たとえば化合物)、抗体療法(たとえば放射性核種、毒素もしくは薬物に結合されたヒト化モノクローナル抗体、またはこれらに結合されていないヒト化モノクローナル抗体)、外科手術、および/または放射線療法などの別のがん療法が提供される。いくつかの実施形態において、前記がんは、大腸がん、乳がん、卵巣がん、肺がん、膵臓がん、前立腺がん、悪性黒色腫、腎臓がん、膵臓がん、神経膠芽腫、神経芽腫、髄芽腫、肉腫、肝臓がんなどの固形腫瘍;または白血病、多発性骨髄腫などの非固形腫瘍である。いくつかの実施形態において、前記スペーサードメインは、CH3ドメインに連結されたCH2ドメインに連結されたIgG4ヒンジである。このような実施形態のいくつかにおいて、前記スペーサードメインは、配列番号7で示されるアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、前記スペーサードメインは、CH3ドメインに連結されたIgG4ヒンジである。このような実施形態のいくつかにおいて、前記スペーサードメインは、配列番号8で示されるアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、前記スペーサードメインは、IgG4ヒンジのみからなる。このような実施形態のいくつかにおいて、前記スペーサードメインは、配列番号9で示されるアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、前記スペーサーは、配列番号7に示される配列を含む。いくつかの実施形態において、前記細胞上に存在するCARに前記標的部分が結合することによって、少なくとも1種のサイトカインの産生が誘導される。いくつかの実施形態において、前記少なくとも1種のサイトカインは、IL-2、TNF-αおよび/またはINF-αを含む。
【0008】
第4の態様において、医薬品グレードのフルオレセイン結合エーテルリン脂質(FL-PLE)を含むキットを提供する。いくつかの実施形態において、医薬品グレードの前記FL-PLEはハプテンを含む。いくつかの実施形態において、医薬品のグレードの前記FL-PLEはフルオレセイン(たとえばFITC)を含む。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A-1B】スペーサーが異なる様々なCAR T細胞を示す概略図である。
図1Aは、(i)第2世代CARの一例を示す。抗原認識部分(図に示した分子の最上部の部分)が、短いスペーサードメインを介して細胞表面から所望の距離に提示されている。このスペーサーは膜貫通ドメインに連結されており、膜貫通ドメインは2つのシグナル伝達ドメインに連結されている。(ii)中程度の長さのスペーサーを有するCARでは、前述の短いスペーサーに別のドメインが付加されている。(iii)長いスペーサーを有するCARでは、前述の中程度の長さのスペーサーにさらに別のドメインが付加されている。
図1Bは、CAR T細胞上に露出した様々なスペーサーの一例を示す。いくつかの実施形態において、長いスペーサーは、配列番号7に示される配列を含んでいてもよく、中程度の長さのスペーサーは、配列番号8に示される配列を含んでいてもよく、短いスペーサーは、配列番号9に示される配列を含んでいてもよい。
【0010】
【
図2】スペーサーの長さおよび腫瘍細胞の表面に対するスペーサーの方向性の一例を示す概略図である。腫瘍指向性CAR T細胞標的化剤(CTCT)で表面が標識された腫瘍細胞を示す。腫瘍の表面には、腫瘍の表面から突出したタンパク質やその他の細胞残屑が存在し、これらは、腫瘍指向性CAR T細胞標的化剤(CTCT)を認識するCTCT特異的CARの能力に影響を及ぼしうる。パネルA~Cは、脂質膜に埋め込まれたPLE-CTCTの実施形態の一例を示し、パネルD~Eは、表面タンパク質に結合した腫瘍指向性CAR T細胞標的化剤(CTCT)の実施形態の一例を示す。パネルAでは、長いスペーサーを有するCARが、PLE-CTCTに到達して、このPLE-CTCTにより活性化されている。パネルBでは、短いスペーサーを有するCARが、腫瘍指向性CAR T細胞標的化剤(CTCT)に到達することができず、活性化されていない。パネルCでは、長いスペーサーを有するCARにおいて、認識ドメインが別の方向に配置されているが、このCAR は、腫瘍指向性CAR T細胞標的化剤(CTCT)を認識できない。パネルDおよびパネルEでは、パネルCに示した長いスペーサーを有するCARおよびパネルBに示した短いスペーサーを有するCARがいずれも、表面タンパク質に結合した腫瘍指向性CAR T細胞標的化剤(CTCT)を認識することができ、このCTCTにより活性化可能であることが示されている。
【0011】
【
図3】CTCT特異的CAR T細胞が、マスキングが除去されたPLE-CTCTのみを認識して活性化されることを示した一例としての概略図である。プロドラッグ形態のPLE-CTCTが腫瘍に組み込まれている。この一例としての実施形態では、プロドラッグは、CTCT特異的CAR T細胞に対して立体障害を起こし、CTCT特異的CAR T細胞によるPro-PLE-CTCTの認識を阻害する。腫瘍微小環境によって、Pro-PLE-CTCTのプロドラッグ化部分が切断されれば、マスキングが除去されたPLE-CTCTをCTCT特異的CARが認識することが可能となり、このPLE-CTCTにより活性化することができる。
【0012】
【
図4】
図4Aは、ハプテンとしてのフルオレセインに結合されたリン脂質(PLE-CTCT)の実施形態の一例を示す。ハプテンとしてのフルオレセインに連結されたエーテルリン脂質(PLE)の構造(FL-PLE)を示す。(i)FL(フルオレセイン):CAR T細胞の標的である。(ii)ポリエチレングリコール(PEG):細胞表面から前記標的を理想的な距離だけ離すためのスペーサーである。(iii)および(iv)PLE:(iii)は、極性頭部基であり、(iv)は、細胞膜に組み込まれるか、細胞膜に繋ぎ止められる疎水性テールである。
図4Bは、FL-PLEのプロドラッグ形態の一例を示す。矢印で示した切断可能な結合を介して、プロドラッグ化部分(pro moiety)がハプテン(フルオレセイン)に結合されている。マスキングされたFL-PLEは、実質的に非蛍光性である。この結合は、腫瘍微小環境などで見られるような活性酸素種(ROS)の存在により切断することができる。マスキングが除去されると、FL-PLEの構造が生じて蛍光シグナルが得られ、抗FL CARに結合可能となる。
【0013】
【
図5】抗FL CARライブラリーを作製するために選択した様々な抗FL scFvの一例を示す(上段)。下段は、長いスペーサー(L)、中程度の長さのスペーサー(M)、または短いスペーサー(S)を有するCARの構造の一例を示す。これらの構造には、リーダー配列、scFv、ヒンジ/スペーサー、CD28tmドメイン、41BBドメイン、CD3ζ、T2A配列、およびEGFTtドメインが含まれている。合計で18種のプラスミドを使用して、様々な抗FL CAR T細胞を作製した。
【0014】
【
図6】抗FL CARを含むCD8+T細胞のFACS分析を示す。パネル(a)は、配列番号5を含む抗FL(FITC-E2)CARを含むT細胞におけるEGFRt選択マーカーの染色[陽性率96%]を示し、パネル(b)は、配列番号2を含む抗FL(4M5.3)CARを含むT細胞におけるEGFRt選択マーカーの染色[陽性率80%]を示す。パネル(c)および(d)は、マウスCD19-FITC抗体とともに各T細胞をインキュベートした後、抗マウスFc-Alexa647抗体で染色することにより、結合したFITC抗体を検出した結果を示す。パネル(c)は、抗FL(FITC-E2)CARを含むT細胞[陽性率97%]を示し、パネル(d)は、抗FL(4M5.3)CARを含むT細胞[陽性率79%]を示す。
【0015】
【
図7A】FL-PLEで処理した細胞のFACS分析を示す。
【0016】
【
図7B】FL-PLEの存在下または非存在下、および抗FL CARを含むCD8+T細胞の存在下または非存在下における、K562細胞の特異的溶解を示す。
【0017】
【
図7C】FL-PLEの存在下または非存在下、および抗FL CARを含むCD8+T細胞の存在下または非存在下における、K562細胞によるサイトカインの産生を示す。
【0018】
【
図8A】FL-PLEで処理した様々な細胞株のFACS分析を示す。
【0019】
【
図8B】FL-PLEで処理した後、長いスペーサーを含む抗FL(FITC-E2)CARを含むCD8+T細胞と接触させた細胞の特異的溶解を示す。
【0020】
【
図9】様々な抗FL CARを含むCD8+T細胞の表面マーカーEGFRtを染色したFACS分析を示す。
【0021】
【
図10】様々な抗FL CARを含むCD4+T細胞の表面マーカーEGFRtを染色したFACS分析を示す。
【0022】
【
図11】FL-PLEで標識した細胞のFACS分析を示す。
【0023】
【
図12】FL-PLEを加えてインキュベートした後、抗FL CARを含むCD8+T細胞と接触させた標的細胞の特異的溶解を示す。
【0024】
【
図13】FL-PLEを加えてインキュベートした後、CD4+T細胞と接触させた場合のサイトカインの産生を示す。
【0025】
【
図14A】FL-PLEを加えてインキュベートした後、抗FL CARを含むCD8+T細胞と接触させた標的細胞の特異的溶解を示す。
【0026】
【
図14B】FL-PLEを加えてインキュベートした後、CD4+T細胞と接触させた場合のサイトカインの産生を示す。
【0027】
【
図15A】抗FL CARが異なる様々な細胞のFACS分析を示す。
【0028】
【
図15B】FL-PLEで処理した様々な細胞のFACS分析を示す。
【0029】
【
図15C】FL-PLEの存在下または非存在下において、様々な抗FL CARと接触させた様々な腫瘍細胞の特異的溶解を示した一連のグラフを示す。
【0030】
【
図15D】FL-PLEの存在下または非存在下において、様々な腫瘍細胞と接触させた場合の、抗FL CARが様々に異なるT細胞によるサイトカインの産生を示した一連のグラフを示す。
【0031】
【
図15E】FL-PLEの存在下または非存在下において、様々な腫瘍細胞と接触させた場合の、抗FL CARが様々に異なるT細胞によるサイトカインの産生を示した一連のグラフを示す。
【0032】
【
図16】左上パネルは、FL-PLEを静脈内投与し、48時間後に評価した対象における神経膠腫の同所性異種移植片の画像を示す。左下パネルは、同じ対象におけるコントロールとしての対側脳半球の画像である。さらに、同じ対象の神経膠腫の同所性異種移植片と、コントロールである対側性脳半球を、抗フルオレセイン抗体で染色して評価した。神経膠腫の同所性異種移植片とコントロールである対側脳半球において、保持されたFL-PLEの量を経時的に定量した(右パネル)。
【0033】
【
図17】様々なインビボ腫瘍においてFL-PLEが保持されることを示したグラフを示す。
【0034】
【
図18A】FL-PLEまたはProFL-PLEで処理した細胞のFACS分析を示す。
【0035】
【
図18B】FL-PLEまたはProFL-PLEで処理した後、抗FL CARを含むCD8+T細胞と接触させた細胞の特異的溶解を示す。
【0036】
【0037】
【
図18C】マスキングされたProFL-PLE、マスキングが除去されたProFL-PLE、またはFL-PLEの存在下または非存在下、および長いスペーサーを有する抗FL(FITCE2)CARを含むCD4+T細胞の存在下または非存在下における、T細胞からのサイトカインの産生を示した一連のグラフを示す。
【0038】
【
図19A】細胞に結合したFL-PLEまたはProFL-PLEのFACS分析を示す。
【0039】
【
図19B】ProFL-PLEまたはFL-PLEの存在下または非存在下、および長いスペーサーを有する抗FL(FITCE2)CARを含むCD4+T細胞の存在下または非存在下における、T細胞からのサイトカインの産生を示した一連のグラフを示す。
【0040】
【
図19C】FL-PLEまたはProFL-PLEで処理した細胞のFACS分析を示す。
【0041】
【
図20】神経芽腫(Be2)腫瘍を有するマウスを、ProFL-PLE、FL-PLEまたはコントロールで処置し、長いスペーサーを有し、配列番号5を含む抗FL(FITCE2)CARを含むT細胞またはコントロールを投与した場合の相対生存率を示したグラフを示す。
【0042】
【
図21A】ProFL-PLEを腫瘍内注射した後、長いスペーサーを有し、抗FL(FITCE2)CARを含むT細胞を投与したマウスにおける平均腫瘍進行時間のグラフ(上パネル)と生存率のグラフ(下パネル)を示す。
【0043】
【
図21B】ProFL-PLEを静脈内注射した後、長いスペーサーを有し、抗FL(FITCE2)CARを含むT細胞を投与したマウスにおける平均腫瘍進行時間のグラフ(上パネル)と生存率のグラフ(下パネル)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本明細書では、遺伝子組換えキメラ抗原受容体(CAR)について説明し、この遺伝子組換えキメラ抗原受容体(CAR)は、外因性のフルオレセイン結合エーテルリン脂質(FL-PLE)が搭載された腫瘍細胞の表面にフルオレセイン分子が提示された場合に、このフルオレセイン分子に対して特異性および選択または設計された親和性を示し、これにより、標的指向性の抗腫瘍T細胞反応性を発揮する。いくつかの実施形態において、FL-PLEは合成分子構造であり、腫瘍の細胞膜に組み込まれることにより、該FL-PLE分子中のフルオレセインが、細胞外空間において細胞膜の外層に隣接して提示されるように設計されている。いくつかの実施形態において、FL-PLE構造は、治療に重要な特性を備えている。いくつかの実施形態において、FL-PLEのフルオレセイン(FL)部分を標的とするCARを提供し、このCARの製造方法および使用方法も想定される。これらのCARは、構成的に発現させることができ、制御下に配置することもできる。
【0045】
導入遺伝子により修飾したT細胞の養子移入は、選択された条件下(たとえばCD19 B細胞系の悪性腫瘍など)において成功を収めているものの、あらゆる形態のがんに見られるが正常な健常細胞では見られないような単一の標的抗原が存在しないことから、T細胞養子移入療法をその他の種類のがんでも使用できるように一般化することは難しいとされている。ヒトに罹患する各種類のがんの治療を目的としたCAR T細胞療法の開発には、CARの開発が伴い、何千個もの抗原(たとえばCARの標的)を同定し精査するという煩雑な作業を行う必要があることから、CAR T細胞療法の開発が妨げられている。過去の研究では、あらゆる腫瘍に取り込まれ、単一の合成標的分子を提示し、CAR T細胞によって認識されるフルオレセイン結合エーテルリン脂質(FL-PLE)が開発されている。このFL-PLEの開発によって、何千個ものCARを検証する必要性がなくなり、単一のフルオレセイン特異的CARの使用が可能になった。
【0046】
本発明は、フルオレセイン結合エーテルリン脂質(FL-PLE)のフルオレセイン(FL)部分への結合に適したCAR T細胞の同定、作製および組換えを開示する。いくつかの実施形態において、FL部分は、CAR T細胞が投与された場合にのみ該FL部分を活性化できるように、マスキングされていてもよく、このマスキングが除去されてもよい。いくつかの実施形態において、FL特異的CARは、マスキングされたFLではなく、マスキングが除去された腫瘍指向性CAR T細胞標的化剤(CTCT)のみを認識してもよい。
【0047】
本明細書で提供する方法および組成物の実施形態のいくつかは、「PHOSPHOLIPID ETHER (PLE) CAR T CELL TUMOR TARGETING (CTCT) AGENTS」という発明の名称のWO2018/148224に開示された態様を含んでいてもよい(この文献は引用によりその全体が本明細書に明示的に援用される)。
【0048】
用語の定義
以下の説明において、本明細書を参照すれば、各用語は一般的な通常の意味を有する。当業者であれば、本明細書全体を通して使用されている各用語を理解できるであろう。
【0049】
本明細書において「a」または「an」は、1つまたは1つ以上を意味してもよい。
【0050】
本明細書において「約」は、特定の値が、この値を決定するために用いられた方法に本質的に付随する誤差の変動または実験間での変動を含むことを示す。
【0051】
本明細書において「キメラ受容体」は、前記疾患または障害に関連する分子と結合する抗体配列やその他のタンパク質配列のリガンド結合ドメインを含む合成設計された受容体を指し、該リガンド結合ドメインが、スペーサードメインを介して、T細胞受容体またはその他の受容体に由来する1つ以上の細胞内シグナル伝達ドメイン(たとえば共刺激ドメイン)に連結されている。キメラ受容体は、人工T細胞受容体、キメラT細胞受容体、キメラ免疫受容体、およびキメラ抗原受容体(CAR)とも呼ぶことができる。レトロウイルスベクターやレンチウイルスベクターなどのベクターを使用してキメラ受容体のコード配列をT細胞に移入することによって、モノクローナル抗体またはその結合断片の特異性をT細胞に移植することができる。CARは、特定の細胞表面抗原を発現する標的細胞への標的指向性をT細胞に付与するために設計された遺伝子組換えT細胞受容体である。養子細胞移入と呼ばれる方法によって、まず対象からT細胞を得た後、抗原に対して特異性を発揮することができる受容体を発現できるようにT細胞を遺伝子操作する。次いで、このT細胞を患者に再導入する。導入されたT細胞は抗原を認識し標的とすることができる。このようなCARは、免疫受容体を発現する細胞に、選択された特異性を移植することができる遺伝子組換え受容体である。研究者によっては、キメラ抗原受容体(CAR)は、抗体または抗体断片、スペーサー、シグナル伝達ドメインおよび膜貫通領域を含むものであると理解されている。本明細書に記載のCARは、様々な構成要素またはドメイン(たとえばエピトープ結合領域(たとえば抗体断片、scFvまたはそれらの一部)、スペーサー、膜貫通ドメインおよび/またはシグナル伝達ドメインなど)が遺伝子組換えされており、これよって驚くべき効果が得られたことから、各エレメントに注目した場合、本明細書の開示全体においてCARの構成要素をそれぞれ別個のものとして明確に区別できることが多い。
【0052】
「CAR T細胞標的化剤(CTCT)」は、本明細書の記載に照らせば、一般的な通常の意味を有し、たとえば、標的細胞の細胞膜に組み込むことが可能な組成物として説明することができる。本発明の実施形態において、CTCTは脂質を含み、この脂質は、標的部分とマスキング部分を含む。マスキング部分は、たとえば、低pHまたはROS種の存在によって除去されてもよく、腫瘍微小環境内に存在することで除去されてもよい。いくつかの実施形態において、マスキング部分は、標的部分へのCARの特異的結合を抑制する。また、標的部分は、該標的部分に特異的なキメラ抗原受容体によって認識され結合されてもよい。本発明のいくつかの実施形態において、マスキング部分は、pH4、pH5、pH6もしくはpH6.5、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内のpHによって除去される。
【0053】
「T細胞受容体」すなわち「TCR」は、Tリンパ球すなわちT細胞の表面に存在する分子であり、主要組織適合遺伝子複合体分子に結合した抗原断片の認識を担う。
【0054】
本明細書で述べる「標的部分」は、目的とする別の化学物質またはタンパク質の結合標的となる、特定の分子または化学物質上の特定の基または部位を指す。いくつかの実施形態において、キメラ抗原受容体(CAR)またはT細胞受容体(TCR)を含む複合体であって、該CARまたはTCRが、標的部分を含む脂質に結合するように構成されており、該脂質への該CARの結合が、該標的部分との相互作用を介したものである複合体を提供する。いくつかの実施形態において、前記標的部分は、ビオチン、ジゴキシゲニン、ジニトロフェノールまたはフルオレセインである。
【0055】
「一本鎖可変領域断片(scFv)」は、10~25個のアミノ酸からなる短いリンカーペプチドで連結された、免疫グロブリンの重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)を含んでいてもよい融合タンパク質である。短いリンカーペプチドは、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個もしくは25個のアミノ酸、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の個数のアミノ酸を含んでいてもよい。リンカーは、通常、柔軟性を持つようにグリシンに富んでいるとともに、溶解性を持つようにセリンまたはトレオニンに富んでおり、VHのN末端とVLのC末端を連結することができ、あるいは、VHのC末端とVLのN末端を連結することができる。scFvは、定常領域が除去されており、リンカーが導入されているにもかかわらず、元の免疫グロブリンの特異性が保持されている。scFvは抗原に特異的である場合がある。本明細書において「抗原」または「Ag」は、免疫応答を惹起する分子を指す。この免疫応答は、抗体産生もしくは特定の免疫担当細胞の活性化、またはこれらの両方に関与していてもよい。抗原は、組換え技術により作製、合成および製造することができ、あるいは生体試料から得ることもできる。このような生体試料として、組織試料、腫瘍試料、細胞または体液(たとえば血液、血漿または腹水)が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書に記載の実施形態のいくつかにおいて、本明細書に記載の実施形態による方法のいずれかによって作製された細胞を含む組成物を提供する。いくつかの実施形態において、前記細胞は、特定の抗原に特異的なscFvを含むキメラ抗原受容体を含む。
【0056】
本明細書で提供する実施形態のいくつかは、本明細書において抗FL(FITCE2 TyrH133Ala)と呼ぶ(抗FL(FITC-E2 Mut2)または抗FL(Mut2)とも呼ぶ)scFv(配列番号1)に関し、このScFvは、本開示に従ってCARに組み込むことができ、SVLTQPSSVSAAPGQKVTISCSGSTSNIGNNYVSWYQQHPGKAPKLMIYDVSKRPSGVPDRFSGSKSGNSASLDISGLQSEDEADYYCAAWDDSLSEFLFGTGTKLTVLGGGGGSGGGGSGGGGSQVQLVESGGNLVQPGGSLRLSCAASGFTFGSFSMSWVRQAPGGGLEWVAGLSARSSLTHYADSVKGRFTISRDNAKNSVYLQMNSLRVEDTAVYYCARRSYDSSGYWGHFASYMDVWGQGTLVTVSからなるアミノ酸配列を有する。
【0057】
本明細書で提供する実施形態のいくつかは、本明細書において抗FL(4M5.3)と呼ぶscFv(配列番号2)に関し、このScFvは、本開示に従ってCARに組み込むことができ、DVVMTQTPLSLPVSLGDQASISCRSSQSLVHSNGNTYLRWYLQKPGQSPKVLIYKVSNRVSGVPDRFSGSGSGTDFTLKINRVEAEDLGVYFCSQSTHVPWTFGGGTKLEIKSSADDAKKDAAKKDDAKKDDAKKDGGVKLDETGGGLVQPGGAMKLSCVTSGFTFGHYWMNWVRQSPEKGLEWVAQFRNKPYNYETYYSDSVKGRFTISRDDSKSSVYLQMNNLRVEDTGIYYCTGASYGMEYLGQGTSVTVSからなるアミノ酸配列を有する。
【0058】
本明細書で提供する実施形態のいくつかは、本明細書において抗FL(4420)と呼ぶscFv(配列番号3)に関し、このScFvは、本開示に従ってCARに組み込むことができ、DVVMTQTPLSLPVSLGDQASISCRSSQSLVHSQGNTYLRWYLQKPGQSPKVLIYKVSNRFSGVPDRFSGSGSGTDFTLKISRVEAEDLGVYFCSQSTHVPWTFGGGTKLEIGGGGSGGGGSGGGGSEVKLDETGGGLVQPGRPMKLSCVASGFTFSDYWMNWVRQSPEKGLEWVAQIRNKPYNYETYYSDSVKGRFTISRDDSKSSVYLQMNNLRVEDMGIYYCTGSYYGMDYWGQGTSVTVSSからなるアミノ酸配列を有する。
【0059】
本明細書で提供する実施形態のいくつかは、本明細書において抗FL(4D5Flu)と呼ぶscFv(配列番号4)に関し、このScFvは、本開示に従ってCARに組み込むことができ、DYKDIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQSLVHSQGNTYLRWYQQKPGKAPKVLIYKVSNRFSGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQQSTHVPWTFGQGTKVELKRAGGGGSGGGGSGGGGSSGGGSGGGGSGGGGSEVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFSDYWMNWVRQAPGKGLEWVAQIRNKPYNYETYYADSVKGRFTISRDTSKNTVYLQMNSLRAEDTAVYYCTGSYYGMDYWGQGTLVTVSSからなるアミノ酸配列を有する。
【0060】
本明細書で提供する実施形態のいくつかは、本明細書において抗FL(FITCE2)と呼ぶscFv(配列番号5)に関し、このScFvは、本開示に従ってCARに組み込むことができ、SVLTQPSSVSAAPGQKVTISCSGSTSNIGNNYVSWYQQHPGKAPKLMIYDVSKRPSGVPDRFSGSKSGNSASLDISGLQSEDEADYYCAAWDDSLSEFLFGTGTKLTVLGGGGGSGGGGSGGGGSQVQLVESGGNLVQPGGSLRLSCAASGFTFGSFSMSWVRQAPGGGLEWVAGLSARSSLTHYADSVKGRFTISRDNAKNSVYLQMNSLRVEDTAVYYCARRSYDSSGYWGHFYSYMDVWGQGTLVTVSからなるアミノ酸配列を有する。
【0061】
本明細書で提供する実施形態のいくつかは、本明細書において抗FL(FITCE2 HisH131Ala)と呼ぶscFv(配列番号6)に関し、このScFvは、本開示に従ってCARに組み込むことができ、SVLTQPSSVSAAPGQKVTISCSGSTSNIGNNYVSWYQQHPGKAPKLMIYDVSKRPSGVPDRFSGSKSGNSASLDISGLQSEDEADYYCAAWDDSLSEFLFGTGTKLTVLGGGGGSGGGGSGGGGSQVQLVESGGNLVQPGGSLRLSCAASGFTFGSFSMSWVRQAPGGGLEWVAGLSARSSLTHYADSVKGRFTISRDNAKNSVYLQMNSLRVEDTAVYYCARRSYDSSGYWGAFYSYMDVWGQGTLVTVSからなるアミノ酸配列を有する。
【0062】
「抗原特異的結合ドメイン」は、低い結合親和性または高い結合親和性(fM~mMの結合力)で、タンパク質上のエピトープに特異的に結合することができるタンパク質またはタンパク質ドメインを含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、融合タンパク質は、免疫応答を調節することができるタンパク質またはその一部を含む。いくつかの実施形態において、前記タンパク質は抗原特異的結合ドメインを含む。
【0063】
本明細書において「T細胞」または「Tリンパ球」は、どのような哺乳動物種から得られたものであってもよく、たとえば、サル、イヌ、ヒトなどから得られたものであってもよく、霊長類から得られたものであることが好ましい。いくつかの実施形態において、T細胞は、レシピエント対象と同種(同種であるが別のドナーに由来するもの)である。いくつかの実施形態においては、T細胞は自己由来である(ドナーとレシピエントは同じである)。いくつかの実施形態において、T細胞は同系である(ドナーとレシピエントは異なるが、一卵性双生児である)。
【0064】
本明細書で述べる「併用療法」とは、2種以上の薬剤または治療法を使用して治療を行うことを指す。また、併用療法は、たとえば、単一の疾患を治療するために複数の治療法を使用することも指し、これを目的として複数の医薬製剤が併用されることが多い。さらに、併用療法は、別々の薬剤を処方および投与して2種以上の有効成分を投与することも含む。いくつかの実施形態において、腫瘍微小環境を改変するための遺伝子組換え免疫細胞を投与することを含む併用療法を提供する。いくつかの実施形態において、前記併用療法は、腫瘍微小環境における免疫応答の抑制を調節するための遺伝子組換え免疫細胞を投与することを含む。いくつかの実施形態において、前記併用療法は、腫瘍細胞および免疫抑制細胞の増殖を最小限に抑えるための遺伝子組換え免疫細胞を、これを必要とする対象(たとえばヒト)に投与することを含む。いくつかの実施形態において、前記併用療法は、抗がん療法、抗感染症療法、抗細菌療法、抗ウイルス療法または抗腫瘍療法の効率を向上させるための遺伝子組換え免疫細胞を、これを必要とする対象(たとえばヒト)に投与することを含む。いくつかの実施形態において、前記併用療法は、阻害剤を投与することをさらに含む。いくつかの実施形態において、前記阻害剤は酵素阻害物質ではない。いくつかの実施形態において、前記阻害剤は酵素阻害剤である。いくつかの実施形態において、前記併用療法は、阻害剤または抗体もしくはその結合断片の治療投与量を投与することを含む。いくつかの実施形態において、前記抗体またはその結合断片は、ヒト化されていてもよい。いくつかの実施形態において、前記併用療法は、CAR発現T細胞を、これを必要とする対象(たとえばヒト)に投与することをさらに含む。
【0065】
「化学療法薬」は、標準化された化学療法レジメンの一部として投与することが可能な化学物質(たとえば抗がん薬(化学療法剤))などが使用されてもよい抗がん医薬品類である。化学療法薬は、治癒、生存期間の延長または症状の緩和を目的として投与することができる(緩和的化学療法)。化学療法は、腫瘍内科の主要なカテゴリーの1つであるホルモン療法および標的療法をさらに含んでいてもよい(がん薬物療法)。これらの化学療法は、放射線療法、外科手術、および/または温熱療法などの別のがん療法としばしば併用される。いくつかの症例においては、外科手術によってがんが拡散することが知られている。いくつかの実施形態において、外科的処置の前またはその後に、遺伝子組換え免疫細胞を腫瘍部位に投与する。
【0066】
化学療法では化学療法薬が投与されるが、1回の化学療法において1種類の薬剤を使用してもよく(単剤化学療法)、あるいは複数種の薬剤を同時に使用してもよい(併用化学療法または多剤併用化学療法)。放射線療法を併用した化学療法は、化学放射線療法と呼ばれる。光線に暴露させると細胞傷害活性を発揮する物質に変換される薬剤を使用した化学療法は、光化学療法または光線力学療法と呼ばれる。本明細書に記載の遺伝子組換え免疫細胞を投与することを含む方法の実施形態のいくつかにおいて、この方法は、がんを有する対象に本発明の遺伝子組換え免疫細胞または遺伝子組換えマクロファージ(GEM)を投与した後に、該対象に光化学療法または光線力学療法を行う工程をさらに含むことができる。
【0067】
化学療法薬としては、抗体-薬物複合体(たとえば、リンカーを介して薬物に結合された抗体)、ナノ粒子(たとえば、腫瘍選択性を向上させ、低溶解性薬物の送達を補助する1~1000nmのサイズのナノ粒子であってもよい)、電気化学療法、アルキル化薬、代謝拮抗薬(たとえば、5-フルオロウラシル(5-FU)、6-メルカプトプリン(6-MP)、カペシタビン(ゼローダ(登録商標))、クラドリビン、クロファラビン、シタラビン(Ara-C(登録商標))、フロクスウリジン、フルダラビン、ゲムシタビン(ジェムザール(登録商標))、ヒドロキシウレア、メトトレキサート、ペメトレキセド(アリムタ(登録商標))、ペントスタチンまたはチオグアニン)、抗腫瘍抗生物質、トポイソメラーゼ阻害薬、分裂阻害薬、コルチコステロイド類、DNAインターカレーター、またはチェックポイント阻害物質(たとえば、チェックポイントキナーゼCHK1またはCHK2)が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書に記載の方法の実施形態のいくつかにおいて、前記遺伝子組換え免疫細胞、または該遺伝子組換え免疫細胞を含む組成物は、前記化合物または治療法の1種以上などの、1種以上の抗がん剤と併用投与される。いくつかの実施形態において、本発明の遺伝子組換え免疫細胞と共投与または併用投与される前記1種以上の抗がん剤は、抗体-薬物複合体、ナノ粒子、電気化学療法、アルキル化薬、代謝拮抗薬、抗腫瘍抗生物質、トポイソメラーゼ阻害薬、分裂阻害薬、コルチコステロイド類、DNAインターカレーターまたはチェックポイント阻害物質を含む。いくつかの実施形態において、前記代謝拮抗薬は、5-フルオロウラシル(5-FU)、6-メルカプトプリン(6-MP)、カペシタビン(ゼローダ(登録商標))、クラドリビン、クロファラビン、シタラビン(Ara-C(登録商標))、フロクスウリジン、フルダラビン、ゲムシタビン(ジェムザール(登録商標))、ヒドロキシウレア、メトトレキサート、ペメトレキセド(アリムタ(登録商標))、ペントスタチンおよびチオグアニンを含む。
【0068】
本明細書で述べる「対象」または「患者」は、たとえば、実験、診断、予防および/または治療を目的として、本明細書に記載の実施形態を使用または投与してもよいあらゆる生物を指す。対象または患者として、たとえば、動物が挙げられる。いくつかの実施形態において、前記対象は、マウス、ラット、ウサギ、非ヒト霊長類およびヒトである。いくつかの実施形態において、前記対象は、ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマ、イヌ、ネコ、霊長類またはヒトである。
【0069】
いくつかの実施形態は、腫瘍指向性CAR T細胞標的化剤(CTCT)に関する。本明細書で提供する実施形態のいくつかは、ハプテンとしてのフルオレセインに連結されたエーテルリン脂質(PLE)(FL-PLE)に関する。本明細書で述べる「フルオレセイン」は、水およびアルコールに可溶性の合成有機化合物である。フルオレセインは、蛍光トレーサーとして様々な用途に広く使用されている。本発明の実施形態において、フルオレセインは、脂質上の標的部分であり、フルオレセインに対して結合能または相互作用能を有するように設計および/または選択されたキメラ抗原受容体によって特異的に認識される。いくつかの実施形態において、前記脂質はエーテルリン脂質である。
【0070】
本明細書で述べる「脂質」は、炭素鎖、脂肪酸または脂肪酸誘導体を含む有機化合物の1種であり、通常、水には溶解しないが、疎水性溶媒または有機溶媒に混和または混合することができる。脂質としては、脂肪、ワックス、脂溶性ビタミン、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド、スフィンゴ脂質、セレブロシド、セラミド、またはリン脂質が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書では、極性頭部基と疎水性部分または疎水基を有していてもよい両親媒性脂質について述べている。本明細書で述べる「疎水基」すなわち疎水性部分は、水を反発し、極性を持たない傾向がある分子または分子の一部である。疎水性部分として、アルカン、油または脂肪を挙げることができる。また、脂質として、グリセロ脂質、グリセロリン脂質、スフィンゴ脂質、ステロール脂質、プレノール脂質、サッカロ脂質またはポリケチドを挙げることができるが、これらに限定されない。本発明の実施形態において、脂質を含む複合体を提供する。いくつかの実施形態において、前記脂質は、極性頭部基および疎水性部分を含む。いくつかの実施形態において、前記疎水性部分は、疎水性の炭素鎖テールである。いくつかの実施形態において、疎水性炭素鎖テールは、飽和炭素鎖テールまたは不飽和炭素鎖テールである。いくつかの実施形態において、疎水性炭素鎖テールは、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個もしくは25個の炭素原子、またはこれらの数値のいずれかによって定義される範囲内の数の炭素原子を含む。いくつかの実施形態において、前記疎水性部分は、ステロイドまたはコレステロールである。いくつかの実施形態において、前記脂質は、グリセロ脂質、グリセロリン脂質、スフィンゴ脂質、ステロール脂質、プレノール脂質、サッカロ脂質またはポリケチドを含む。いくつかの実施形態において、前記脂質はエーテルリン脂質である。いくつかの実施形態において、前記脂質は分岐アルキルテールを含む。
【0071】
いくつかの実施形態において、前記脂質はスフィンゴ脂質であってもよい。スフィンゴ脂質は、スフィンゴイド塩基からなる骨格を含んでいてもよく、たとえば、スフィンゴシンを含む一連の脂肪族アミノアルコールが挙げられる。R基が水素原子のみからなるスフィンゴ脂質は、セラミドである。一般的なその他のR基としては、ホスホコリン(R基がホスホコリンの場合、スフィンゴミエリンが得られる)、および様々な糖モノマーまたは糖ダイマー(R基が糖モノマーの場合はセレブロシドが得られ、R基が糖ダイマーの場合はグロボシドが得られる)が挙げられる。セレブロシドおよびグロボシドは、スフィンゴ糖脂質の総称で知られている。いくつかの実施形態において、前記脂質はスフィンゴ糖脂質である。
【0072】
本明細書によれば、前記脂質は、極性頭部基および疎水基を含む。いくつかの実施形態において、前記疎水基は、脂肪鎖などの脂肪酸を含む。この脂肪酸は、飽和脂肪酸であってもよく、不飽和脂肪酸であってもよい。いくつかの実施形態において、前記疎水基は、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を含む。いくつかの実施形態において、前記疎水基は、ステロイドまたはコレステロールなどのテルペノイド脂質を含む。いくつかの実施形態において、前記疎水基は、前記極性頭部基と前記脂肪鎖の間にエーテル結合を含む。いくつかの実施形態において、前記脂質はエーテルリン脂質である。いくつかの実施形態において、前記極性頭部基は、コリン、ホスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、ホスホエタノールアミン基、オリゴ糖残基、糖残基、ホスファチジルセリンまたはホスファチジルイノシトールを含む。いくつかの実施形態において、前記糖は、グリセロールまたは糖アルコールである。
【0073】
いくつかの実施形態において、前記脂質は単鎖アルキルリン脂質である。
【0074】
いくつかの実施形態において、前記脂質は、エデルホシン、ペリホシン、エルシルホスホコリンなどの、合成アルキルリン脂質構造を含む。いくつかの実施形態において、前記脂質は、リゾホスファチジルコリン、エデルホシン、エルシルホスホコリン、D-21805またはペリホシンである。このような脂質は、たとえば、van der Luiら(“A new class of anticancer alkylphospholipids uses lipid rafts as membrane gateways to induce apoptosis in lymphoma cells” Mol Cancer Ther 2007; 6(8), 2007(この文献は引用によりその全体が本明細書に明示的に援用される))によって報告されている。本明細書に記載の脂質の実施形態のいくつかにおいて、極性頭部基内のコリンはピペリジン部分と置換することができる。いくつかの実施形態において、前記脂質は、抗がん性アルキルリン脂質である。抗がん性リン脂質も、van der Luiら(“A new class of anticancer alkylphospholipids uses lipid rafts as membrane gateways to induce apoptosis in lymphoma cells” Mol Cancer Ther 2007; 6(8), 2007(この文献は引用によりその全体が本明細書に明示的に援用される))によって報告されている。
【0075】
いくつかの実施形態において、本明細書で提供する脂質は、細胞膜と相互作用することを特徴とする構造上互いに関連した合成抗腫瘍剤類である。これらの合成脂質類はアルキルリン脂質であり、たとえば、van Blitterswijkら(“Anticancer mechanisms and clinical application of alkylphopholipids” Biochimica et Biophysica Acta 1831 (2013)663-674(この文献は参照によりその全体が本明細書に援用される))によって報告されている。このような合成アルキルリン脂質として、エデルホシン、ミルテホシン、ペリホシン、エルシルホスホコリンまたはErufosineが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、前記脂質は、エデルホシン、ミルテホシン、ペリホシン、エルシルホスホコリンまたはErufosineである。いくつかの実施形態において、前記脂質は、リゾホスファチジルコリンの安定な類似体である。いくつかの実施形態において、前記脂質は、エデルホシンのチオエーテル結合バリアント、または1-ヘキサデシルチオ-2-メトキシメチル-rac-グリセロ-3-ホスホコリンである。いくつかの実施形態において、前記脂質は、LysoPC、エデルホシン、イルモホシン、ミルテホシン、ペリホシン、エルシルホスホコリンまたはErufosineである。
【0076】
本明細書で述べる「極性頭部基」は、脂質(リン脂質など)の親水基である。本明細書で述べる「リン脂質」は、両親媒性の特性を有することから、脂質二重層を形成することができる特別な種類の脂質である。リン脂質分子は、少なくとも1つの疎水性脂肪酸「テール」と、親水性の「頭部」すなわち「極性頭部基」を含む。本明細書の実施形態において、リン脂質またはエーテルリン脂質は極性頭部基を含む。いくつかの実施形態において、前記極性頭部基は、ホスホコリン、ピペリジン部分またはトリメチルアルセノ-エチル-ホスファート部分を含む。いくつかの実施形態において、前記脂質は標的部分を含み、該標的部分との相互作用を介して、CARが該脂質と結合するか、または結合するように構成されている。いくつかの実施形態において、前記脂質は、極性頭部基(たとえば芳香環を含む極性頭部基)とアルキル炭素鎖を含む。本発明の実施形態において、1つ以上の前記脂質を含む複合体を提供する。いくつかの実施形態において、前記脂質は、極性頭部基を含む。いくつかの実施形態において、前記脂質はエーテルリン脂質である。いくつかの実施形態において、エーテルリン脂質は標的部分を含み、該標的部分との相互作用および/または結合を介して、CARがエーテルリン脂質と結合するか、または結合するように構成されている。いくつかの実施形態において、エーテルリン脂質は、極性頭部基とアルキル炭素鎖を含む。いくつかの実施形態において、前記極性頭部基は、コリン、ホスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、ホスホエタノールアミン基、オリゴ糖残基、糖残基、ホスファチジルセリンまたはホスファチジルイノシトールを含む。いくつかの実施形態において、前記極性頭部基は、ホスホコリン、ピペリジン部分またはトリメチルアルセノ-エチル-ホスファート部分を含む。いくつかの実施形態において、前記脂質はエーテルリン脂質である。いくつかの実施形態において、前記糖は、グリセロールまたは糖アルコールである。いくつかの実施形態において、前記極性頭部基は、糖類基を含む。いくつかの実施形態において、前記脂質は、マンノースを含む頭部基を含む。いくつかの実施形態において、前記極性頭部基は、スフィンゴシンを含む。いくつかの実施形態において、前記極性頭部基は、グルコースを含む。いくつかの実施形態において、前記極性頭部基は、二糖類、三糖類または四糖類を含む。いくつかの実施形態において、前記脂質は、グルコシルセレブロシドである。いくつかの実施形態において、前記脂質は、ラクトシルセラミドである。いくつかの実施形態において、前記脂質は糖脂質である。いくつかの実施形態において、前記糖脂質は、n-グルコース、n-ガラクトース、N-アセチル-n-ガラクトサミンなどの糖単位を含む。いくつかの実施形態において、前記脂質は、ステロールなどの炭化水素環を含む。
【0077】
いくつかの実施形態において、前記脂質の極性頭部基は、グリセロールまたは糖アルコールを含む。いくつかの実施形態において、前記脂質の極性頭部基は、リン酸基を含む。いくつかの実施形態において、前記脂質の極性頭部基は、コリンを含む。いくつかの実施形態において、前記脂質はホスファチジルエタノールアミンである。いくつかの実施形態において、前記脂質はホスファチジルイノシトールである。いくつかの実施形態において、前記脂質は、スフィンゴイド塩基からなる骨格を含む。いくつかの実施形態において、前記脂質は、コレステロールまたはその誘導体などのステロール脂質を含む。いくつかの実施形態において、前記脂質はサッカロ脂質を含む。いくつかの実施形態において、前記極性頭部基は、コリン、リン酸塩および/またはグリセロールを含む。
【0078】
いくつかの実施形態において、前記脂質は糖脂質である。いくつかの実施形態において、前記脂質は糖類を含む。いくつかの実施形態において、前記脂質は、スフィンゴシンに由来するものである。いくつかの実施形態において、前記脂質は、グリセロ糖脂質またはスフィンゴ糖脂質である。
【0079】
いくつかの実施形態において、前記脂質は、疎水性分岐鎖を有するエーテル脂質である。
【0080】
本明細書で述べる「飽和」は、炭素分子間に二重結合を持たない脂肪酸分子を指す。本明細書で述べる「不飽和」は、脂肪酸鎖内に1つ以上の二重結合が存在することを指す。本発明のいくつかの実施形態において、脂質を含む複合体を提供する。いくつかの実施形態において、前記脂質は、飽和脂肪酸鎖または不飽和脂肪酸鎖を含む。
【0081】
本明細書で述べる「アルキル」は、水素原子が1つ除かれたアルキル置換基である。
【0082】
「アルケニル」基は、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を含む不飽和炭化水素である。
【0083】
「アルキニル」基は、少なくとも1つの炭素-炭素三重結合を含む不飽和炭化水素である。
【0084】
本明細書で述べる「テルペノイド」は、5炭素イソプレン単位に由来する分子である。ステロイドおよびステロールは、テルペノイド前駆体から製造することができる。たとえば、ステロイドおよびコレステロールは、テルペノイド前駆体から生合成することができる。
【0085】
本明細書で述べる「エーテルリン脂質」は、極性頭部基の1つ以上の炭素原子が、より一般的なエステル結合ではなく、エーテル結合を介してアルキル鎖に結合された脂質である。いくつかの実施形態において、極性頭部基はグリセロールである。
【0086】
いくつかの種類の「スペーサー」を本明細書において述べている。キメラ抗原受容体のスペーサーは、ポリペプチドスペーサーを指し、このスペーサーの長さは、キメラ抗原受容体の結合もしくはキメラ抗原受容体との相互作用を増強することができ、またはCAR T細胞療法に付随する有害な副作用を低減もしくは最小限に抑えることができるように構成されるか、このような能力が発揮されるように選択される。いくつかの実施形態において、CARの短いスペーサードメインは、2個~約12個のアミノ酸を有し、IgG4のヒンジ領域配列の全体もしくはその一部、またはそのバリアントの全体もしくはその一部を含む。いくつかの実施形態において、CARの中程度の長さのスペーサードメインは、2個~約119個のアミノ酸を有し、IgG4のヒンジ領域配列とCH3領域からなる配列の全体もしくはその一部、またはそのバリアントの全体もしくはその一部を含む。いくつかの実施形態において、CARの長いスペーサードメインは、2個~約229個のアミノ酸を有し、IgG4のヒンジ領域配列とCH2領域とCH3領域からなる配列の全体もしくはその一部、またはそのバリアントの全体もしくはその一部を含む。脂質に関しては、該脂質から標的部分を遠ざけるためのスペーサーを含んでいてもよく、このスペーサーは、該脂質の極性頭部基に結合されている。脂質のスペーサーは、PEGスペーサー、ハプテンスペーサー、小さなペプチドまたはアルカン鎖を含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、ハプテンスペーサーは、2個のハプテン(ハプテン(2×)スペーサー)を含む。いくつかの実施形態において、脂質は、アルカン鎖などの疎水基を含む。いくつかの実施形態において、アルカン鎖は、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個もしくは18個の炭素原子、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の数の炭素原子を含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、前記PEGスペーサーは、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個もしくは16個のPEG分子、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の数のPEG分子を含む。
【0087】
本明細書で述べる「ハプテン」は、タンパク質などの大きな担体に結合した場合にのみ、免疫応答を誘導することができる小分子である。この担体は、単独では免疫応答を誘導できないものであってもよい。生体内において、ハプテン担体付加物に対する抗体が産生されると、この低分子ハプテンも抗体に結合しうるが、通常、ハプテン自体は免疫応答を開始せず、通常、ハプテン担体付加物のみが免疫応答を開始することができる。いくつかの実施形態において、ハプテンは、scFvもしくは抗体が結合することができる低分子結合部分、またはscFvもしくは抗体に対する特異性を有していてもよい低分子結合部分である。
【0088】
本発明のいくつかの実施形態において、提供される細胞は細胞傷害性Tリンパ球である。本明細書において「細胞傷害性Tリンパ球(CTL)」は、細胞表面上にCD8を発現するTリンパ球(たとえばCD8+T細胞)を指す。いくつかの実施形態において、そのような細胞は、抗原を経験したことのある「メモリー」T細胞(TM細胞)であることが好ましい。いくつかの実施形態において、前記細胞は前駆T細胞である。いくつかの実施形態において、前記前駆T細胞は造血幹細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞は、ナイーブCD8+T細胞、セントラルメモリーCD8+T細胞、エフェクターメモリーCD8+T細胞およびバルクCD8+T細胞からなる群から選択されるCD8+細胞傷害性Tリンパ球である。いくつかの実施形態において、前記細胞は、ナイーブCD4+T細胞、セントラルメモリーCD4+T細胞、エフェクターメモリーCD4+T細胞およびバルクCD4+T細胞からなる群から選択されるCD4+ヘルパーTリンパ球である。
【0089】
本明細書で述べる「マスキング部分」は、標的部分に結合された、エーテル脂質の一部分を指す。マスキング部分は、標的部分に特異的なキメラ抗原受容体による結合および認識を阻害することによって、脂質上の標的部分の認識を阻止する保護基として機能する。腫瘍環境または活性酸素種の発生部位に存在する細胞に脂質が組み込まれると、マスキング部分が自己切断して、キメラ抗原受容体が標的部分に結合、相互作用および/または認識することが可能になる。いくつかの実施形態において、前記脂質はエーテルリン脂質である。いくつかの実施形態において、マスキング部分は、フェノール性水酸基またはPEGを含む。いくつかの実施形態において、フェノール性水酸基は、フルオレセインのキサンテン部分のヒドロキシル基に結合している。いくつかの実施形態において、マスキング部分は、切断可能な部分を介して標的部分に結合しており、この切断可能な部分は、腫瘍微小環境において特異的に切断可能に構成されていてもよい。いくつかの実施形態において、腫瘍微小環境において切断可能に構成された切断可能部分は、活性酸素種による反応、酸性pH、低酸素またはニトロシル化によって切断される。いくつかの実施形態において、エーテルリン脂質は標的部分を含み、該標的部分との相互作用および/または結合を介して、CARがエーテルリン脂質と結合する。いくつかの実施形態において、エーテルリン脂質は、極性頭部基とアルキル炭素鎖を含む。
【0090】
本明細書で述べる「がん」は、体内の他の部位に浸潤または拡散することがある異常細胞の増殖を伴う疾患群である。本明細書に記載の方法を用いて処置することができる対象としては、がんを有すると特定または選択された対象が挙げられ、該がんとしては、大腸がん、肺がん、肝臓がん、乳がん、腎臓がん、前立腺がん、卵巣がん、皮膚がん(悪性黒色腫を含む)、骨がん、白血病、多発性骨髄腫、または脳腫瘍などが挙げられるが、これらに限定されない。がん患者の特定および/または選択は、臨床的評価または診断的評価によって行うことができる。いくつかの実施形態においては、腫瘍関連抗原または腫瘍関連分子が知られており、該腫瘍としては、悪性黒色腫、乳がん、脳腫瘍、扁平上皮腫、大腸がん、白血病、骨髄腫、または前立腺がんなどが挙げられる。前記がんとしては、B細胞リンパ腫、乳がん、脳腫瘍、前立腺がん、および/または白血病が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、1種以上の腫瘍形成性ポリペプチドが、腎臓がん、子宮がん、大腸がん、肺がん、肝臓がん、乳がん、腎臓がん、前立腺がん、卵巣がん、皮膚がん(悪性黒色腫を含む)、骨がん、脳腫瘍、腺癌、膵臓がん、慢性骨髄性白血病または白血病に関連している。いくつかの実施形態において、対象において、がんを治療、緩和または抑制する方法を提供する。いくつかの実施形態において、前記がんは、乳がん、卵巣がん、肺がん、膵臓がん、前立腺がん、悪性黒色腫、腎臓がん、膵臓がん、神経膠芽腫、神経芽腫、髄芽腫、肉腫、肝臓がん、大腸がん、皮膚がん(悪性黒色腫を含む)、骨がんまたは脳腫瘍である。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の治療法のいずれかを受ける対象は、さらに、別のがん療法を実施するために選択され、この別のがん療法として、がん治療薬、放射線療法、化学療法またはがん療法薬が挙げられる。いくつかの実施形態において、提供されるがん療法薬として、アビラテロン、アレムツズマブ、アナストロゾール、アプレピタント、三酸化ヒ素、アテゾリズマブ、アザシチジン、ベバシズマブ、ブレオマイシン、ボルテゾミブ、カバジタキセル、カペシタビン、カルボプラチン、セツキシマブ、化学療法薬の組み合わせ、シスプラチン、クリゾチニブ、シクロホスファミド、シタラビン、デノスマブ、ドセタキセル、ドキソルビシン、エリブリン、エルロチニブ、エトポシド、エベロリムス、エキセメスタン、フィルグラスチム、フルオロウラシル、フルベストラント、ゲムシタビン、イマチニブ、イミキモド、イピリムマブ、イクサベピロン、ラパチニブ、レナリドミド、レトロゾール、ロイプロリド、メスナ、メトトレキサート、ニボルマブ、オキサリプラチン、パクリタキセル、パロノセトロン、ペムブロリズマブ、ペメトレキセド、プレドニゾン、ラジウム223、リツキシマブ、Sipuleucel-T、ソラフェニブ、スニチニブ、タルク胸膜腔内注入用懸濁剤、タモキシフェン、テモゾロミド、テムシロリムス、サリドマイド、トラスツズマブ、ビノレルビンまたはゾレドロン酸が挙げられる。
【0091】
本明細書で述べる「腫瘍微小環境」は、腫瘍が存在する細胞環境である。腫瘍微小環境には、周囲血管、免疫細胞、線維芽細胞、骨髄由来の炎症性細胞、リンパ球、シグナル伝達分子または細胞外マトリックス(ECM)が含まれうるが、これらに限定されない。
【0092】
いくつかの実施形態において、前記方法は、フルオレセイン結合エーテルリン脂質(FL-PLE)またはその誘導体の輸液剤と、フルオレセイン(FL)に特異的なCAR T細胞の輸液剤を患者に併用投与するヒト腫瘍療法を含む。この場合、本発明のシステムは、汎用的なCARおよび/または汎用的なCARを発現する抗腫瘍エフェクター細胞と併用される汎用的な標的抗原として使用できる。いくつかの実施形態において、フルオレセイン(FL)が付加されたCAR認識部位を有するエーテルリン脂質(PLE)(C18アルキル鎖)が提供され、このCAR認識部位は、3つのPEGリピートスペーサーを介して極性頭部基のコリンに付加されている。抗FL CARライブラリーは、CARのスペーサー要素とscFvの結合の解離定数が200fM~10nMの様々な一本鎖可変領域断片(scFv)(たとえば6種以上のscFv)を使用して作製してもよく、CARのスペーサー要素とscFvの結合の解離定数は、たとえば、200fM、210fM、220fM、230fM、240fM、250fM、260fM、270fM、280fM、290fM、300fM、400fM、500fM、600fM、700fM、800fM、900fM、1pM、100pM、200pM、300pM、400pM、500pM、600pM、700pM、800pM、900pM、1nM、2nM、3nM、4nM、5nM、6nM、7nM、8nM、9nMもしくは10nM、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の数値であってもよい。各scFvのFLへの結合は、scFvごとにわずかに異なる方法で行われる。特定の理論に拘束されることを望むものではないが、FLへのscFvの結合は、結合ポケット内の変異により結合親和性に差が出ること、およびいくつかのscFvは酵母ディスプレイではなくファージディスプレイに由来することにより部分的に影響を受ける。いくつかの実施形態において、3種のスペーサー(いずれも抗体成分に由来)を使用してもよく、このようなスペーサーとして、たとえば、CH3ドメインに連結されたCH2ドメインに連結されたIgG4ヒンジからなる長いスペーサー;CH3ドメインに連結されたIgG4ヒンジからなる中程度の長さのスペーサー;およびIgG4ヒンジのみからなる短いスペーサーが挙げられる。いくつかの実施形態において、適切な方向性および適切なスペーサー長を有するFL特異的scFv CAR T細胞のみが、FL PLE-CTCTが搭載されたインビトロ腫瘍およびインビボ腫瘍に対して標的指向性の抗腫瘍機能を発揮する。さらに、scFv結合ポケットの形状およびサイズも、CARの良好な活性化に対して一定の役割を果たす場合がある。
【0093】
本明細書で提供する実施形態のいくつかは、適切な方向性と適切なスペーサー長で提示された、標的化および認識を担うドメインを含み、所望のT細胞応答を発揮するように選択された結合親和性を有するFL特異的CAR T細胞に関する。いくつかの実施形態において、前記スペーサー長は、目的とする特定の細胞においてT細胞応答が誘導されるように選択される。いくつかの実施形態において、結合親和性は、目的とする特定の細胞においてT細胞応答が誘導されるように選択される。いくつかの実施形態において、所望のCAR T細胞応答を誘導可能な、CAR T細胞の方向性、スペーサー長、および親和性を様々に変更すると、様々な腫瘍または様々な細胞にとって有利となる。したがって、本明細書で提供する実施形態のいくつかは、選択した治療法に対して、方向性、スペーサー長および結合親和性の組み合わせを所望のものとすること、または選択した治療法に対して、方向性、スペーサー長および結合親和性の組み合わせを選択することに関する。
【0094】
いくつかの実施形態において、インビトロにおいてCAR T細胞の作製の成功を示す指標または尺度として、細胞融解およびサイトカインの産生が挙げられる。短いスペーサーを有するCARは、通常、サイトカインを産生しないが、長いスペーサーを有するCARは、大量のサイトカインを産生する。これについては本明細書でさらに詳細に述べる。
【0095】
いくつかの実施形態において、配列番号4を含む抗FL(4D5Flu)CARを提供する。この抗FL(4D5Flu)CARは、FL-PLEと組み合わせた場合にはサイトカインを産生することができないが、別の方法により細胞をFLで標識すると、サイトカインを産生することができる。この結果は、FL-PLEのFL部分に対するscFvの方向性が、T細胞の活性において重要な変数であることを強調しているが、このことは過去に報告されていない。いくつかの実施形態において、結合親和性の向上などを目的として解離定数を低下させても、CARの活性化は必ずしも向上しない。いくつかの実施形態において、T細胞の不均一な抗腫瘍反応性は、scFvのKDと相関していない。いくつかの実施形態において、T細胞の不均一な抗腫瘍反応性は、スペーサー長に依存していてもよい。いくつかの実施形態において、配列番号1を含む抗FL(FITC-E2 Mut2)CARは、堅牢なCARであり、このことは、CAR構造の機能性に関する過去の知識またはscFvの研究に関する過去の知識からは予測不能であった。このような本発明の知見に反して、当技術分野では、scFvの親和性が最も高いと、得られるCARも最も良好なものになることが教示されている。
【0096】
いくつかの実施形態において、腫瘍を有する哺乳動物にFL-PLEを投与すると、投与されたFL-PLEは腫瘍細胞の細胞膜上に保持され、FL特異的CAR T細胞によって認識される汎用可能な腫瘍標的化剤として機能する。また、本明細書において、FL-PLEが搭載された腫瘍細胞と会合した場合に、過去の知識からは予測不能であった堅牢なシグナル伝達をT細胞において誘導することが可能なFL特異的CARの同定を提供する。さらに、いくつかの実施形態において、本開示は、CAR T細胞製剤と併用される医薬品グレードのFL-PLEの最終形態(キットなど)の開発に関する。また、FLの代わりに、前記PLEと反応するように設計されたその他のハプテンをCARと組み合わせて使用することができる。
【0097】
表1に、本明細書で提供する実施形態に有用な配列の一例を挙げる。
【表1】
【0098】
治療方法
本明細書で提供する方法および組成物の実施形態のいくつかは、対象において、がんを治療、緩和または抑制する方法を含む。このような実施形態のいくつかは、
マスキング部分を含む標的部分を付加した脂質を含む組成物の有効量を対象に投与する工程;および
前記マスキング部分の非存在下において前記標的部分に特異的に結合するキメラ抗原受容体(CAR)またはT細胞受容体(TCR)を含む細胞(細胞集団など)を前記対象に投与する工程
を含み、
前記CARまたはTCRが、配列番号1~6から選択される配列と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を含み;かつ/または
前記スペーサードメインが、
CH3ドメインに連結されたCH2ドメインに連結されたIgG4ヒンジ(たとえば、配列番号7と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を有するか、もしくは配列番号7のアミノ酸配列を有する長いスペーサー);
CH3ドメインに連結されたIgG4ヒンジ(たとえば、配列番号8と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を有するか、もしくは配列番号8のアミノ酸配列を有する中程度の長さのスペーサー);もしくは
IgG4ヒンジ(たとえば、配列番号9と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を有するか、もしくは配列番号9のアミノ酸配列を有する短いスペーサー)
を含むか、これらのいずれかから実質的になるか、これらのいずれかからなる。
【0099】
いくつかの実施形態において、前記CARまたはTCRは、配列番号1~6から選択されるアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態において、前記スペーサーは、229アミノ酸長である。いくつかの実施形態において、前記CARまたはTCRは、配列番号1のアミノ酸配列を有するscFvドメイン(FITC-E2 Mut2)と、配列番号7のアミノ酸配列を有するスペーサードメイン(長いスペーサーの一例)とを含む。いくつかの実施形態において、前記CARまたはTCRは、配列番号2のアミノ酸配列を有するscFvドメイン(4M5.3)と、配列番号7のアミノ酸配列を有するスペーサードメイン(長いスペーサーの一例)とを含む。いくつかの実施形態において、前記CARまたはTCRは、配列番号5のアミノ酸配列を有するscFvドメイン(FITC-E2)と、配列番号7のアミノ酸配列を有するスペーサードメイン(長いスペーサーの一例)とを含む。
【0100】
本明細書で提供する方法および組成物の実施形態のいくつかは、対象において、がんを治療、緩和または抑制する方法を含み、この方法は、
(a)マスキング部分に結合された標的部分を含む脂質を含む組成物を対象に導入、提供または投与する工程;
(b)前記マスキング部分が除去された前記標的部分に特異的なキメラ抗原受容体(CAR)またはT細胞受容体(TCR)を含む細胞を前記対象に導入、提供または投与する工程;
(c)前記標的部分から前記マスキング部分を除去することにより、前記細胞上に存在する前記CARに前記標的部分を結合させる工程;
(d)工程(a)~(c)の後に、任意で、前記CARを含む前記細胞の前記脂質への結合を測定または評価する工程;
(e)工程(a)~(d)の後に、任意で、がんの治療、緩和または抑制を測定または評価する工程;および/または
(f)工程(a)~(c)の前に、任意で、がんの治療が必要な対象を特定する工程
を含み、
前記CARまたはTCRが、1~22アミノ酸長、23~50アミノ酸長、51~100アミノ酸長、100~150アミノ酸長または151~250アミノ酸長のスペーサードメインを含み、
前記CARまたはTCRが、配列番号1~6から選択される配列を含み、かつ/または
前記スペーサードメインが、
CH3ドメインに連結されたCH2ドメインに連結されたIgG4ヒンジ(たとえば、配列番号7と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を有するか、もしくは配列番号7のアミノ酸配列を有する長いスペーサー);
CH3ドメインに連結されたIgG4ヒンジ(たとえば、配列番号8と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を有するか、もしくは配列番号8のアミノ酸配列を有する中程度の長さのスペーサー);または
IgG4ヒンジ(たとえば、配列番号9と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を有するか、または配列番号9のアミノ酸配列を有する短いスペーサー)
を含むか、これらのいずれかから実質的になるか、これらのいずれかからなる。
【0101】
いくつかの実施形態において、前記細胞は、前記組成物の投与と同時に前記対象に提供されるか、前記組成物を投与する1時間前、2時間前、3時間前、4時間前、5時間前、6時間前、7時間前、8時間前、9時間前、10時間前、11時間前、12時間前、15時間前、20時間前、24時間前、36時間前もしくは48時間前、もしくは前記組成物の投与より、これらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の時間分早い時点で前記対象に提供されるか、または前記組成物を投与した1時間後、2時間後、3時間後、4時間後、5時間後、6時間後、7時間後、8時間後、9時間後、10時間後、11時間後、12時間後、15時間後、20時間後、24時間後、36時間後もしくは48時間後、もしくは前記組成物の投与から、これらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の時間が経過した後に前記対象に提供される。いくつかの実施形態において、前記細胞は、前記組成物を投与する1時間前、2時間前、3時間前、4時間前、5時間前、6時間前、7時間前、8時間前、9時間前、10時間前、11時間前、12時間前、15時間前、20時間前、24時間前、36時間前もしくは48時間前、または前記組成物の投与より、これらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の時間分早い時点で前記対象に提供される。いくつかの実施形態において、前記組成物を前記対象に提供した後、数秒以内または数分以内、たとえば1時間が経過する前に、前記細胞が該対象に提供される。
【0102】
いくつかの実施形態において、前記細胞および/または前記組成物のブースト投与が前記対象に提供される。
【0103】
いくつかの実施形態において、低分子(たとえば化合物)、抗体療法(たとえば放射性核種、毒素もしくは薬物に結合されたヒト化モノクローナル抗体、またはこれらに結合されていないヒト化モノクローナル抗体)、外科手術、および/または放射線療法などの別のがん療法が前記対象に提供される。
【0104】
いくつかの実施形態において、前記がんは固形腫瘍である。いくつかの実施形態において、前記がんは、大腸がん、乳がん、卵巣がん、肺がん、膵臓がん、前立腺がん、悪性黒色腫、腎臓がん、膵臓がん、脳腫瘍、神経膠芽腫、神経芽腫、髄芽腫、肉腫、骨がん、膀胱がん、頭頸部がんまたは肝臓がんである。いくつかの実施形態において、前記がんは、白血病や多発性骨髄腫などの非固形腫瘍である。固形腫瘍の例として、肉腫、癌腫およびリンパ腫が挙げられる。固形腫瘍や非固形腫瘍などのがんのさらなる例は、Amin, M.B., et al.,. (Eds.). AJCC Cancer Staging Manual (8th edition). Springer International Publishing: American Joint Commission on Cancer; 2017(この文献は参照によってその全体が本明細書に援用される)に記載されている。
【0105】
いくつかの実施形態において、前記細胞上に存在するCARに前記標的部分が結合することによって、少なくとも1種のサイトカインの産生が誘導される。いくつかの実施形態において、前記少なくとも1種のサイトカインは、IL-2、TNF-αおよび/またはINF-αを含む。
【0106】
いくつかの実施形態において、前記脂質は、極性頭部基および疎水基を含む。いくつかの実施形態において、前記極性頭部基は、コリン、ホスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、ホスホエタノールアミン基、オリゴ糖残基、糖残基、ホスファチジルセリンまたはホスファチジルイノシトールを含む。いくつかの実施形態において、前記極性頭部基は、ホスホコリン、ピペリジン部分またはトリメチルアルセノ-エチル-ホスファート部分を含む。いくつかの実施形態において、前記疎水基は、脂肪鎖などの脂肪酸である。いくつかの実施形態において、前記脂肪酸は、飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸である。いくつかの実施形態において、前記疎水基は、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を含む。いくつかの実施形態において、前記疎水基は、ステロイドまたはコレステロールなどのテルペノイド脂質を含む。いくつかの実施形態において、前記疎水基は、前記極性頭部基と前記脂肪鎖の間にエーテル結合を含む。いくつかの実施形態において、前記糖残基は、グリセロールまたは糖アルコールである。いくつかの実施形態において、前記疎水基は、アルキル炭素鎖を含み、該アルキル炭素鎖は、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個もしくは20個の炭素原子、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の数の炭素原子を含む。いくつかの実施形態において、前記アルキル炭素鎖は18個の炭素原子を含む。いくつかの実施形態において、前記脂質はエーテルリン脂質である。
【0107】
いくつかの実施形態において、前記標的部分は、ビオチン、ジゴキシゲニン、ジニトロフェノール、フルオレセインまたはこれらの誘導体である。いくつかの実施形態において、前記標的部分は、フルオレセインまたはその誘導体である。
【0108】
いくつかの実施形態において、前記スペーサーは、ポリエチレングリコール(PEG)スペーサー、(2個の)ハプテンからなるスペーサー、またはアルカン鎖を含む。いくつかの実施形態において、前記PEGスペーサーは、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個もしくは16個のPEG分子、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の数のPEG分子を含む。
【0109】
いくつかの実施形態において、前記細胞は前駆T細胞である。いくつかの実施形態において、前記前駆T細胞は造血幹細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞は、ナイーブCD8+T細胞、セントラルメモリーCD8+T細胞、エフェクターメモリーCD8+T細胞およびバルクCD8+T細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞は、ナイーブCD4+T細胞、セントラルメモリーCD4+T細胞、エフェクターメモリーCD4+T細胞およびバルクCD4+T細胞からなる群から選択されるCD4+ヘルパーTリンパ球である。
【0110】
キット
本明細書で提供する方法および組成物の実施形態のいくつかは、キットを含む。いくつかの実施形態において、このキットは、標的部分に結合された医薬品のグレードの脂質を含んでいてもよい。
【0111】
いくつかの実施形態において、前記脂質は、極性頭部基および疎水基を含む。いくつかの実施形態において、前記極性頭部基は、コリン、ホスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、ホスホエタノールアミン基、オリゴ糖残基、糖残基、ホスファチジルセリンまたはホスファチジルイノシトールを含む。いくつかの実施形態において、前記極性頭部基は、ホスホコリン、ピペリジン部分またはトリメチルアルセノ-エチル-ホスファート部分を含む。いくつかの実施形態において、前記疎水基は、脂肪鎖などの脂肪酸である。いくつかの実施形態において、前記脂肪酸は、飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸である。いくつかの実施形態において、前記疎水基は、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を含む。いくつかの実施形態において、前記疎水基は、ステロイドまたはコレステロールなどのテルペノイド脂質を含む。いくつかの実施形態において、前記疎水基は、前記極性頭部基と前記脂肪鎖の間にエーテル結合を含む。いくつかの実施形態において、前記糖残基は、グリセロールまたは糖アルコールである。いくつかの実施形態において、前記疎水基は、アルキル炭素鎖を含み、該アルキル炭素鎖は、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個もしくは20個の炭素原子、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の数の炭素原子を含む。いくつかの実施形態において、前記アルキル炭素鎖は18個の炭素原子を含む。いくつかの実施形態において、前記脂質はエーテルリン脂質である。
【0112】
いくつかの実施形態において、前記標的部分は、ビオチン、ジゴキシゲニン、ジニトロフェノール、フルオレセインまたはこれらの誘導体である。いくつかの実施形態において、前記標的部分は、フルオレセイン、またはその誘導体である。
【0113】
いくつかの実施形態において、前記スペーサーは、ポリエチレングリコール(PEG)スペーサー、(2個の)ハプテンからなるスペーサー、またはアルカン鎖を含む。いくつかの実施形態において、前記PEGスペーサーは、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個もしくは16個のPEG分子、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の数のPEG分子を含む。
【実施例0114】
実施例1-CAR T細胞の調製
血小板フェレーシスの実施後に通常廃棄される白血球除去用「コーン」(円錐型フィルター)からT細胞を単離した。具体的には、フィコール密度勾配遠心分離により、T細胞を含む末梢血単核細胞(PBMC)画分を得た後、適切な磁気濃縮キットを使用して、CD8+T細胞およびCD4+T細胞を順次精製した。得られたT細胞はいずれも、単離の当日に直ちにCARの作製に使用した。0日目に、50万個~500万個のT細胞に抗ヒトCD3/CD28活性化ビーズを1:1の比率で加えて刺激した。いくつかの実施形態において、抗ヒトCD3/CD28活性化ビーズを使用した刺激に使用されるT細胞の濃度は、50万個、100万個、200万個、300万個、400万個または500万個であってもよい。
【0115】
刺激の1~3日目に、spinoculation法を使用して、硫酸プロタミンの存在下、感染多重度(MOI)=1~6にて、CARを含むレンチウイルスでT細胞に形質導入した。2~3日ごとに培地の半量または全量を交換して、細胞培養を適切な細胞密度で維持し、必要に応じて大きな培養容器に移して増殖させた。通常、細胞濃度が150万個~200万個/mLに達した場合、または目視で培養密度が高いと判断され、培地が黄色を呈した場合に、細胞を大きな培養容器に移した。最終濃度50ng/mLの新鮮なrhIL-7と最終濃度0.5ng/mLの新鮮なrhIL-15によるCD4+T細胞の遺伝子再構成と、最終濃度50U/mLの新鮮なrhIL-2と最終濃度0.5ng/mLの新鮮なrhIL-15によるCD8+T細胞の遺伝子再構成を0日目から開始し、細胞への栄養分の供給ごとに、これらのサイトカインを添加した。刺激の9~11日目に、活性化ビーズを磁気的に除去した。
【0116】
メトトレキサートを使用したCAR発現の選択用のDHFRdmを含まないCAR T細胞(たとえば、
図8B、
図15A、
図15C、
図15D、
図15D、
図15E、
図18C、
図19b、
図19C、
図21Aおよび
図21Bに示した例におけるCAR T細胞)は、培養の10~21日目に、レポーターであるEGFRtの発現に基づいて、ビオチン化抗体および抗ビオチンマイクロビーズを使用して磁気的にソートした。メトトレキサートを使用したCAR発現の濃縮用のDHFRdmを含むCAR T細胞(たとえば、
図9、
図10、
図12、
図13、
図14Aおよび
図14Bに示した例におけるCAR T細胞)は、まず、培養の7~14日目に50nMメトトレキサートで細胞を処理し、培養の14~19日目にメトトレキサートの濃度を100nMまで上げた後、培養の19~21日目にメトトレキサートの濃度を50nMに戻した。また、メトトレキサートを使用した選択により細胞の生存能力が低下して培養が失敗してしまうことを避けるため、培養の12日目に、細胞をFicolで分離して死細胞を除去し、培養細胞の生存能力を向上させた。
【0117】
培養の14日目または21日目に、放射線照射したPBMCとTM-LCL細胞をフィーダー細胞として使用した急速培養法(REP)により、50万個~200万個の各CAR T細胞を培養した。凍結していない新鮮なPBMCを使用した場合、各急速培養において、2500万個のPBMCと500万個のTM-LCL細胞を使用した。凍結したPBMCを使用した場合、各フィーダー細胞の数を2倍とした。セシウムを放射線源とした放射線照射装置を使用して、PBMCに3500radの放射線を照射し、TM-LCL細胞には8000radの放射線を照射した。急速培養の0~5日目に、前述の通常のサイトカインに加えて、30ng/μLのOKT3抗体を細胞に添加してTCRを急激に刺激した。急速培養の5日目に、放射線照射したフィーダー細胞を剥がし、前述と同様にしてCAR T細胞を維持した。メトトレキサートを使用したCAR発現の濃縮用のDHFRdmを含むCAR T細胞(たとえば、
図9、
図10、
図12、
図13、
図14Aおよび
図14Bに示した例におけるCAR T細胞)は、急速培養の5日目以降に100nMのメトトレキサートを添加し、急速培養の12日目まで維持してCAR陽性細胞をさらに濃縮した。急速培養の14日目に、本実験で得たすべてのCAR T細胞を、機能性クロム放出細胞傷害性アッセイ(CD8+T細胞のみ)および機能性3-plexサイトカイン放出アッセイ(CD4+T細胞およびCD8+T細胞)で評価した。
【0118】
実施例2-細胞傷害性アッセイおよびクロム放出アッセイ
標的細胞に
51Crを加えて一晩インキュベートした。腫瘍指向性CAR T細胞標的化剤に連結されたエーテルリン脂質(CTCT-PLE)による処理を行う標的細胞には、培地にCTCT-PLEをさらに加えて、
51Crの存在下で一晩インキュベートした。翌日、標的細胞を洗浄し、1ウェルあたり5000個の濃度で96ウェルプレートに播種した。CD8+抗フルオレセイン(FL)エフェクターT細胞およびmockエフェクターT細胞を洗浄し(通常、急速培養法の8~16日目)、E:T比を様々に変えて(30:1、10:1、3:1、1:1)、標的細胞とともに三連で播種し、37℃で4時間共培養した。また、コントロールとしての
51Crの放出を評価するため、各標的細胞株を培地のみに播種した。さらに、
51Crの最大放出を評価するため、各標的細胞株を播種し、2%SDSで溶解した。コントロール群は6連で実験を行った。共培養後、上清を回収し、LUMAプレートに播種し、一晩かけて乾燥させた。翌日、Top Countシンチレーションカウンターで試料を測定した。特異的溶解率(%)を以下の式で算出した。
【数1】
【0119】
たとえば、Gonzalez, S., Naranjo, A., Serrano, L. M., Chang, W.-C., Wright, C. L., & Jensen, M. C. (2004). Genetic engineering of cytolytic T lymphocytes for adoptive T-cell therapy of neuroblastoma. The Journal of Gene Medicine, 6(6), 704-711を参照されたい(この文献は引用によりその全体が明示的に本明細書に援用される)。
【0120】
実施例3-サイトカイン放出アッセイ
CTCT-PLEによる処理を行う標的細胞には、CTCT-PLEを培地に加えて一晩インキュベートした。翌日、すべての標的細胞を回収し、洗浄し、1ウェルあたり5×104個の濃度で96ウェルプレートに播種した。CD8+抗FLエフェクターT細胞およびmockエフェクターT細胞を洗浄し(通常、急速培養法の8~16日目)、各T細胞(1×105個/ウェル)と標的細胞を播種して、37℃で24時間共培養した。24時間後に上清を回収し、Bio-Plex(登録商標)200システム(バイオ・ラッド)を使用して、上清中のIFN-γ、TNF-αおよびIL-2の濃度を測定した。
【0121】
実施例4-EGFRtおよび抗FL CARの発現のFACS分析
抗FL CARを含むCD8+T細胞を染色して、EGFRtまたは抗FLの結合を分析した。
図6は、EGFRt選択マーカーの染色により分析したCD8+抗FL CAR T細胞の陽性率を示す。
図6(a)に、配列番号5を含む抗FL(FITC-E2)CAR[陽性率96%]を示す。
図6(b)に、配列番号2を含む抗FL(4M5.3)CAR[陽性率80%]を示す。また、FLに対する抗FL CARの結合能を試験するため、各T細胞にマウスCD19-FITC抗体を加えてインキュベートし、洗浄した。次に、抗マウスFc-Alexa647抗体を使用して、結合したFITC抗体を染色した。
図6(c)に、抗FL(FITC-E2)CAR[陽性率97%]を示し、
図6(d)に、抗FL(4M5.3)CAR[陽性率79%]を示す。2種の染色法により同じ陽性率が得られたことから、CARと表面マーカーは1対1の関係であり、抗FL CARがFLに結合できることが確認された。CARの結合ドメインは、配列番号1~6に示される配列を含んでいてもよく、CARの一部として含まれていてもよいスペーサードメインは、配列番号7~9に示される配列を含んでいてもよい。
【0122】
実施例5-インビトロにおけるFL-PLEを介したCAR T細胞による認識およびその活性化
抗FL CARを含むT細胞のFL-PLEへの結合性と、このCAR T細胞の活性化を試験した。
図7A、
図7Bおよび
図7Cは、インビトロにおけるFL-PLEを介したCAR T細胞による認識およびその活性化を示す。K562細胞(白血病)にFL-PLEを加えて一晩インキュベートした。細胞へのFL-PLEの取り込みをフローサイトメトリーで分析した(
図7A)。コントロールであるK562親細胞から、5μM FL-PLEの存在下でインキュベートしたK562親細胞へと明らかなシフトが見られたが、0.5μM FL-PLEの存在下でインキュベートしたK562親細胞では、非常にわずかなシフトしか認められなかった。このわずかなシフトは、CAR T細胞によって認識される細胞表面上に露出したFLの量の差異を示していた。また、K562 OKT3+細胞(TCRを介したT細胞の内因性の活性化を試験するために作製した細胞株)は、K562親細胞と全く同じ結果を示した。さらに、これらの細胞を使用して、クロム放出アッセイ(
図7B)およびサイトカイン放出アッセイ(
図7C)を実施し、CD8+抗FL(FITC-E2)CAR T細胞の活性化を、
図6に示したCD8+mock T細胞と比較した。これらの実験から、抗FL(FITC-E2)CAR T細胞は、細胞膜に組み込まれたFL-PLEのFL部分を認識し、活性化されたことが確認できた。活性化の程度は、細胞表面上に露出されたFLの量と関連していた。
【0123】
図8Aおよび
図8Bは、腫瘍細胞に搭載されるFL-PLEの汎用性と、抗FL CAR T細胞によるフルオレセイン部分の認識を示す。K562細胞(白血病)、U87細胞(神経膠芽腫)、251T細胞(神経膠腫)、Be2細胞(神経芽腫)、MDA-MB-231細胞(腺癌)、NIH OVCAR細胞(腺癌)および143B細胞(骨肉腫)にFL-PLEを加え、一晩インキュベートした。細胞へのFL-PLEの取り込みをフローサイトメトリーで分析した(
図8A)。コントロール親細胞株から、5μM FL-PLEの存在下でインキュベートした親細胞株へと明らかなシフトが見られ、これは、CAR T細胞によって認識される細胞表面上に露出したFLの量を反映していた。また、予想した通り、K562 OKT3+細胞(TCRを介したT細胞の内因性の活性化を試験するために作製した細胞株)は、K562親細胞と全く同じ結果を示した。さらに、これらの細胞を使用して、クロム放出アッセイ(
図8B)を実施し、CD8+抗FL(FITC-E2)CAR T細胞の細胞障害性反応を、CD8+mock T細胞と比較した。これらの実験から、抗FL(FITC-E2)CAR T細胞は、様々な種類のがん細胞の細胞膜に組み込まれたFL-PLEのFL部分を認識し、標的細胞を溶解できることが示された。
【0124】
実施例6-メトトレキサートによるCAR T細胞の選択
メトトレキサートでCAR T細胞を選択した。
図9は、化学療法薬であるメトトレキサートで選択した様々なCD8+抗FL CAR T細胞を示す。具体的には、FITC-E2 scFvドメインと長いスペーサーを含むCARを含む抗FL CAR細胞、FITC-E2 scFvドメインと中程度の長さのスペーサーを含むCARを含む抗FL CAR細胞、FITC-E2 scFvドメインと短いスペーサーを含むCARを含む抗FL CAR細胞、および図に示した抗FL scFvドメインと長いスペーサーを有するその他のCARを含む抗FL CAR細胞を使用した。さらに、各CD8+抗FL CAR T細胞において、表面マーカーであるEGFRtを染色して、陽性を示すCARを検出した。これらの抗FL CARは、二重変異ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFRdm)遺伝子を有しており、このDHFRdm遺伝子は、メトトレキサート耐性を付与することから、メトトレキサートを使用してCAR陽性細胞を濃縮することが可能になる。EGFRt+細胞が占める割合が最も低かった細胞株を除いて、各細胞株をmock T細胞で希釈し、同じ条件のストックを作製して機能アッセイに使用した。目標値:EGFRt+18.1%。実際値:EGFRt+約13~20%。
【0125】
図10は、別の例として、化学療法薬であるメトトレキサートで選択した様々なCD4+抗FL CAR T細胞を示す。各CD4+抗FL CAR T細胞において、表面マーカーであるEGFRtを染色し、陽性を示すCARを検出した。これらの抗FL CARは、二重変異ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFRdm)遺伝子を有しており、このDHFRdm遺伝子は、メトトレキサート耐性を付与することから、メトトレキサートを使用してCAR陽性細胞を濃縮することが可能になる。EGFRt+細胞が占める割合が最も低かった細胞株を除き、各細胞株をmock T細胞で希釈し、同じ条件のストックを作製し、機能アッセイに使用した。目標値:EGFRt+18.1%。実際値:EGFRt+約15~24%。
【0126】
実施例7-FL-PLEによる細胞の標識
標的細胞をFL-PLEで標識した。
図11は、細胞へのFL-PLEの搭載を示す。機能アッセイ用の標的細胞は、K562細胞およびMDA-MB-231細胞を使用して作製した。各標的細胞群をFL-PLEで標識した。細胞膜へのFL-PLEの組み込みをフローサイトメトリーで分析した。
【0127】
実施例8-CAR T細胞の細胞傷害性アッセイ
CAR T細胞の細胞傷害性を試験した。
図12は、CD8+抗FL CAR T細胞の細胞傷害性アッセイを示す。MDA-MB-231細胞にFL-PLEを加えてインキュベートした。MDA-MB-231細胞へのFL-PLEの取り込みをフローサイトメトリーで分析した。このMDA-MB-231細胞とCAR T細胞を使用して、クロム放出アッセイを行った。ネガティブコントロール(K562親細胞およびMDA-MB-231細胞)は、いずれも殺傷を示さなかったが、ポジティブコントロール(K562 OKT3+細胞)では、予想した通り細胞融解が示された。FL-PLEで標識したMDA-MB-231細胞では、長いスペーサーを有するCARが、中程度の長さのスペーサーを有するCARよりもわずかに性能が優れていたが、短いスペーサーを有するCARでは、ごくわずかな殺傷しか見られなかった。これらの結果から、CAR T細胞による標的細胞の溶解において、スペーサーの長さが重要であること、ハプテンを使用して細胞を標識する方法は、スペーサーの長さの決定に有用であることが示された。
【0128】
図14Aは、抗FL scFvが異なる様々なCD8+抗FL CAR T細胞の分析を示す。MDA-MB-231細胞にFL-PLEを加えてインキュベートした。MDA-MB-231細胞へのFL-PLEの取り込みをフローサイトメトリーで分析した。このMDA-MB-231細胞とCAR T細胞を使用して、クロム放出アッセイを行った。ネガティブコントロール(K562親細胞およびMDA-MB-231細胞)は、いずれも殺傷を示さなかったが、ポジティブコントロール(K562 OKT3+細胞)では、予想した通り細胞融解が示された(
図14A)。このクロム放出アッセイでは、長いスペーサーを有するCARにおいて、4種の抗FL scFvを試験した。FL-PLEで標識したMDA-MB-231細胞では、3種の抗FL CARにおいて同程度の溶解が示されたが、配列番号4を含む抗FL(4D5Flu)では、殺傷がほとんど示されなかった。一方、抗FL(4D5Flu)を使用した別の実験では、FLで標識した細胞に対する溶解能が示されている。したがって、抗FL(4D5Flu)は、細胞膜に組み込まれたFL-PLE上のFL部分の認識には適していなかった。
【0129】
実施例9-CAR T細胞のサイトカイン放出アッセイ
CAR T細胞からのサイトカインの放出を分析した。
図13は、CD4+抗FL CAR T細胞のサイトカイン放出アッセイを示す。K562細胞およびMDA-MB-231細胞にそれぞれFL-PLEを加え、インキュベートした。各細胞へのFL-PLEの取り込みをフローサイトメトリーで分析した。これらの細胞と抗FL CAR T細胞を使用して、サイトカイン放出アッセイを行った。ネガティブコントロール(K562親細胞およびMDA-MB-231細胞)は、いずれもサイトカインの産生を示さなかったが、ポジティブコントロール(K562 OKT3+細胞)では、すべての抗FL CAR T細胞株において、3種すべてのサイトカインの産生が示された。このアッセイは、CARのスペーサー長とFL-PLEの関係を評価するために設計したものである。これらのデータから、FL-PLEを使用した場合、長いスペーサーを有するCARのみが、3種すべてのサイトカインを産生することができたことが示された。
【0130】
図14Bは、様々な抗FL scFvを使用したCD4+抗FL CAR T細胞のサイトカイン放出アッセイを示す。K562細胞およびMDA-MB-231細胞にそれぞれFL-PLEを加え、インキュベートした。各細胞へのFL-PLEの取り込みをフローサイトメトリーで分析した。これらの細胞とCAR T細胞を使用して、サイトカイン放出アッセイを行った。ネガティブコントロール(K562親細胞およびMDA-MB-231細胞)は、いずれもサイトカインの産生を示さなかったが、ポジティブコントロール(K562 OKT3+細胞)では、すべての抗FL CAR T細胞株において、3種すべてのサイトカインの産生が示された。このサイトカイン放出アッセイでは、長いスペーサーを有するCARにおいて、5種の抗FL scFvを試験した。5μMのFL-PLEで標識したK562細胞では、4種の抗FL CARのみが活性化を示した。K562細胞においてFL-PLEの量を500nMに減らした場合、配列番号2を含む抗FL(4M5.3)および配列番号1を含む抗FL(FITC-E2 Mut2)において、サイトカインの産生量が最も多くなったが、IL-2を産生できたのは抗FL(FITC-E2 Mut2)のみであった。5μMのFL-PLEで標識したMDA-MB-231細胞でも、抗FL(4M5.3)と抗FL(FITC-E2 Mut2)においてサイトカインの産生量が最も多かった。FL-PLEを使用した場合、抗FL(4M5.3)と抗FL(FITC-E2 Mut2)が最も良好な活性化を示したが、これらの解離定数は非常に異なり、FL-PLEと抗FL(4M5.3)の解離定数は270fmであり、FL-PLEと抗FL(FITC-E2 Mut2)の解離定数は3.1nMであった。この結果から、CARの解離定数を単に低下させるだけでは、最も優れたCARを得ることはできないことが示された。FL-PLEを使用した場合、配列番号4を含む抗FL(4D5Flu)では、CARが機能を発揮しなかった。抗FL(4D5Flu)は、5μM FL-PLEで標識した両方の細胞株においてサイトカインの産生を示さなかった。一方、抗FL(4D5Flu)を使用した別の実験では、FLで標識した細胞に対する溶解能が示されている。したがって、抗FL(4D5Flu)は、細胞膜に組み込まれたFL-PLE上のFL部分の認識には適していなかった。
【0131】
高い機能性を示した、長いスペーサーを有する3種の抗FL CAR(4M5.3、FITC-E2およびFITC-E2 Mut2)をさらに試験した。各抗FL CARを使用してCAR T細胞を作製した。
図15Aは、EGFRt選択マーカーの染色により選択した純粋なCD4+抗FL CAR T細胞集団および純粋なCD8+抗FL CAR T細胞集団を示す。K562細胞(白血病)およびMDA-MB-231細胞(腺癌)にそれぞれFL-PLEを加え、一晩インキュベートし、各細胞へのFL-PLEの取り込みをフローサイトメトリーで分析した(
図15B)。コントロール親細胞株から、5μM FL-PLEの存在下でインキュベートした親細胞株へと明らかなシフトが見られ、これは、CAR T細胞によって認識される細胞表面上に露出したFLの量を反映していた。さらに、作製した各CAR T細胞を、クロム放出アッセイ(
図15C)とサイトカイン放出アッセイ(
図15Dおよび
図15E)で分析し、各CAR T細胞株同士を比較し、かつmock T細胞と比較することによって、最適な抗FL CAR T細胞の活性化を試験した。これらの実験から、CAR T細胞による認識およびその活性化に関して、白血病細胞および腺癌細胞のいずれにおいても、抗FL(Mut2)CAR T細胞が最も良好な応答を示し、これに次いで抗FL(FITC-E2)CAR T細胞が優れており、さらにこれに次いで抗FL(4M5.3)CAR T細胞が優れていた。
【0132】
実施例10-インビボにおける標的化とFL-PLEの組み込み
インビボにおけるFL-PLEによる標的化とFL-PLEの取り込みを試験した。
図16は、結合に利用可能なFL部分を有するFL-PLEによるインビボでの標的化およびこのFL-PLEの取り込みを示す。頭蓋内注射によりマウスの1群において神経膠芽腫(U87細胞)を樹立した後、FL-PLEをマウスに静脈内注射した。FL-PLEの注射後の様々な時点において、マウスを屠殺し、脳を採取した。具体的には、神経膠腫の同所性異種移植片を有するマウスに、FL-PLEを静脈内投与し、14日間にわたって脳を評価した。48時間後に脳の組織切片を作製した。DAPIで核を染色した。さらに、抗フルオレセイン抗体を使用して、細胞膜に組み込まれたFL-PLEのフルオレセイン分子を染色し、利用可能なフルオレセイン分子を調べた。神経膠腫は、同じ対象の腫瘍がない対側脳半球と比べて、過剰量のFL-PLEを保持していた。
図16の左上パネルは、10倍の蛍光画像を示し、Nで示した正常な健常組織と比べて、腫瘍が非常に明るく光っている。これは、腫瘍の細胞膜にFL-PLEが選択的に取り込まれ、FL部分が結合に利用可能であることを示している。左下パネルでは、対側の脳の画像を見ると、明るいシグナルが見られる。右パネルでは、これらのシグナルを定量するため、腫瘍および対側部位のMFIを別々に算出した。この分析を複数の時点で繰り返した。得られた数値をプロットし、FL-PLEを投与後、数日間にわたるFL-PLEの保持時間を示すグラフを得た。
【0133】
図17に示した結果では、インビボにおけるFL-PLEによる標的化とFL-PLEの取り込みの汎用性が実証されている。この実験では、汎用性を示すため、腺癌細胞株(MDA-MB-231)、骨肉腫細胞株(143B)および神経膠芽腫細胞株(U87)を使用した。腺癌と骨肉腫は、各群において両側の脇腹に腫瘍を接種し、神経膠芽腫は、一方の脇腹のみに腫瘍を接種した。第4の群では、一方の脇腹に腺癌腫瘍を接種し、反対側の脇腹に骨肉腫を接種した。各マウス群において皮下注射により腫瘍を樹立した後、FL-PLEをマウスに静脈内注射した。FL-PLEの注射後の様々な時点において、マウスを屠殺し、腫瘍を採取した。採取した腫瘍を直ちに蛍光観察し、FL-PLE上のフルオレセイン分子の有無を確認した。3種のがんを示した
図17のグラフは、腫瘍の蛍光がベースラインレベル(FL-PLEを接種していない腫瘍)に達するまでの、数日間にわたるFL-PLEの保持時間を示す。第4の群では、2種のがんを同時に標的化したFL-PLEが、数日間にわたって保持されることが示された。
【0134】
実施例11-FL-PLEのプロドラッグ形態であるProFL-PLEによる、CAR T細胞の結合の阻害
マスキングされたFL-PLE(ProFL-PLE)で細胞を標識し、このProFL-PLEが該細胞へのCAR T細胞の結合を抑制する活性を有するか否かを試験した。
図18Aおよび
図18Bは、マスキングの除去前に観察された、CAR T細胞による認識に対するProFL-PLEの阻害能を示す。K562細胞(白血病)に、FL-PLE(高用量もしくは低用量)またはProFL-PLEを加えて一晩インキュベートした。FL-PLEまたはProFL-PLEの細胞への取り込みをフローサイトメトリーで分析した(
図18A)。コントロールであるK562親細胞から、高用量のFL-PLEの存在下でインキュベートしたK562親細胞へと明らかなシフトが見られたが、低用量のFL-PLEの存在下でインキュベートしたK562親細胞では、わずかなシフトしか認められなかった。このわずかなシフトは、CAR T細胞によって認識される細胞表面上に露出したFLの量の差異を示している。ProFL-PLEは、マスキング剤であるフェノール性水酸基の存在により蛍光を発しなかった。したがって、ProFL-PLEの存在下のK562細胞とK562親細胞は、ほぼ同じプロファイルを有することがフローサイトメトリーで観察された。ProFL-PLEのマスキングを除去すると、フルオレセインの蛍光が発生した。マスキングを除去したProFL-PLEでは、低用量のFL-PLEを添加した細胞の表面上に露出したFLと同程度の量のFLが観察された。
図18Bは、CD8+mock T細胞と比較することにより、CD8+抗FL CAR T細胞の活性化を試験したクロム放出アッセイにおいて使用した細胞を示す。これらの実験の結果、抗FL CAR T細胞は、細胞膜に組み込まれたFL-PLEのFL部分を認識することが示された。ProFL-PLEは、抗FL CARによる認識を完全に阻害したが、プロドラッグ化部分による保護を除去すると、FL部分が抗FL CARによって認識された。マスキングを除去したProFL-PLEを有する細胞の溶解は、低用量のFL-PLEの存在下とほぼ同程度であり、これは、K562細胞の表面上に露出したFLの量と相関していた。
【0135】
図18Aおよび
図18Cは、CD4+mock T細胞と比較することにより、CD4+抗FL CAR T細胞の活性化を評価したサイトカイン放出アッセイにおいて使用した細胞を示す。FL-PLEまたはProFL-PLEの細胞への取り込みをフローサイトメトリーで分析した(
図18A)。
図18Cに示すように、ネガティブコントロール(K562親細胞)は、サイトカインの産生を示さなかったが、ポジティブコントロール(K562 OKT3+細胞)では、すべての抗FL CAR T細胞株において、3種すべてのサイトカインの産生が示された。FL-PLEで標識した細胞を使用した場合、3種のサイトカインすべてを産生することができ、これらのサイトカインの産生量は、細胞表面上に露出したFLの量に依存していた。プロドラッグ化部分(pro moiety)で標識したProFL-PLEが組み込まれた細胞を使用した場合、マスキングの除去前は、サイトカインは産生されず、抗FL CAR T細胞が活性化されなかったことを示していた。ProFL-PLEで標識した細胞のマスキングを除去すると、3種のサイトカインすべてが産生され、プロドラッグ化部分の除去により、がん細胞の表面に組み込まれたProFL-PLEを介して抗FL CAR T細胞が活性化されたことが示された。これらの実験結果から、マスキングされたハプテンに結合した脂質(ProFL-PLEなど)で標識された腫瘍細胞において、腫瘍細胞の細胞膜に組み込まれた脂質に結合したハプテンのマスキングを除去して、マスキングが除去されたハプテンとし、このハプテンを抗ハプテンCAR T細胞と接触させることによって、少なくともインビトロ環境において該CAR T細胞を活性化できることが示された。
【0136】
図19A、
図19Bおよび
図19Cは、ProFL-PLEのマスキングの除去前では、CAR T細胞による認識がProFL-PLEにより阻害され、マスキングを除去すると、細胞表面上に新たに露出したフルオレセインが抗FL CAR T細胞によって認識され、抗FL CAR T細胞が活性化されたことを示す。K562細胞(白血病)にFL-PLEまたはProFL-PLEを加えて一晩インキュベートした。FL-PLEまたはProFL-PLEの細胞への取り込みをフローサイトメトリーで分析した(
図19A)。コントロールK562親細胞株から、FL-PLEの存在下でインキュベートしたK562親細胞株へと明らかなシフトが見られ、これは、CAR T細胞によって認識される細胞表面上に露出したFLの量を反映していた。ProFL-PLEは、マスキング剤であるフェノール性水酸基の存在によって、蛍光を発しなかった。したがって、ProFL-PLE(すなわちプロドラッグ化部分を除去していないProFL-PLE)の存在下でインキュベートしたK562細胞とK562親細胞は、ほぼ同じプロファイルを有することがフローサイトメトリーで観察された。ProFL-PLEのマスキングを除去(FBSを含まない培地中で一晩インキュベーション)すると、フルオレセインの蛍光が発生した。マスキングを除去したProFL-PLEでは、FL-PLEの存在下でインキュベートしたK562細胞の表面上に露出したFLと同程度の量のFLが観察された。
図19Bは、CD4+mock T細胞およびCD8+mock T細胞と比較することにより、CD4+抗FL CAR T細胞およびCD8+抗FL CAR T細胞の活性化を続いて評価したサイトカイン放出アッセイにおいて使用した細胞を示す。ネガティブコントロール(K562親細胞)は、サイトカインの産生を示さなかったが、ポジティブコントロール(K562 OKT3+細胞)では、すべての抗FL CAR T細胞株において、3種すべてのサイトカインの産生が示された。予想した通り、FL-PLEで標識した細胞を使用した場合、3種のサイトカインすべてを産生することができた。プロドラッグ化部分で標識したProFL-PLEが組み込まれた細胞を使用した場合、マスキングの除去前は、サイトカインは産生されず、設計通り、抗FL CAR T細胞が活性化されなかったことを示していた。ProFL-PLEで標識した細胞のマスキングを除去すると、3種のサイトカインすべてが産生され、プロドラッグ化部分の除去により、がん細胞の表面に組み込まれたマスキング除去ProFL-PLEを介して抗FL CAR T細胞が活性化されたことが示された。これは、ProFL-PLEの設計が、インビトロ環境において機能することを示している。
図19Cは、サイトカイン放出アッセイにおける共培養において、24時間後のCAR T細胞上の活性化マーカー(LAG3、41BBおよびPD-1)のアップレギュレーションを調査するために細胞を染色した結果を示す。長いスペーサーを有する生きたCD8+抗FL(FITC-E2)CAR T細胞を示す。予想した通り、K562親細胞と共培養したネガティブコントロールは、活性化マーカーのアップレギュレーションを示さず、ポジティブコントロール(K562 OKT3+細胞)では、3種の活性化マーカーすべてがアップレギュレートされた。ProFL-PLEを加えたK562細胞との共培養では、活性化マーカーの発現量がわずかに上昇し、これは、インタクトなプロドラッグ化部分が、抗FL CAR T細胞による認識およびその活性化を阻害したことを示していた。FL-PLEまたはマスキングが除去されたProFL-PLEを加えたK562細胞との共培養では、ポジティブコントロールと同程度の活性化が認められ、このことから、抗FL CAR T細胞が、FL-PLEを介してでも、マスキングが除去されたProFL-PLEを介してでも、同様に活性化されることが示された。
【0137】
実施例12-インビボにおける抗FL CAR T細胞の活性
脳腫瘍を有するマウスに、マスキングされたFL-PLEまたはマスキングが除去されたFL-PLEと、抗FL CAR T細胞とを投与した。
図20は、FL-PLEまたはProFL-PLEを投与した初回インビボ療法を示す。3群のマウスにおいて頭蓋内注射により神経芽腫(Be2)を樹立した後、長いスペーサーを有し、配列番号5を含む抗FL(FITCE2)CAR T細胞をマウスに頭蓋内注射した。コントロール群には、長いスペーサーを有する抗FL(FITCE2)CAR T細胞のみを投与した。コントロール群の腫瘍は、通常通りに進行した(黒色の棒)。第2の群には、T細胞を注射する前にFL-PLEを1回静脈内注射した。この群は、コントロール群よりも生存期間が約20%延長した。第3の群には、ProFL-PLEを静脈内注射により計3回にわたって定期的に投与し(T細胞注射前に1回とT細胞注射後に2回)、この群のマウスも生存期間が約20%延長した。これらの結果から、ProFL-PLEの再投与が安全であることも確認された。
【0138】
実施例13-マスキングされたFL-PLEを投与した場合の抗FL CAR T細胞のインビボ活性
マスキングされたFL-PLE(ProFL-PLE)と抗FL CAR T細胞の併用投与を、乳がん細胞マウスモデルにおいて試験した。
図21Aおよび
図21Bは、脇腹に腫瘍を有するモデルにおけるインビボProFL-PLE療法を示す。3群のマウスにおいて皮下注射により腺癌腫瘍(MDA-MB-231 eGFP:ffLuc IL2+)(1匹のマウスにつき2つの腫瘍)を樹立した後、このうち、2群のマウスには、腫瘍内注射(
図21A)または静脈内注射(IV)(
図21B)によりProFL-PLEを投与し、コントロール群には薬物を注射しなかった。初回の薬物注射後、長いスペーサーを有する抗FL(FITC-E2)CARを含む細胞を3つの群すべてに静脈内注射(IV)した。グラフにおいて垂直に引かれた灰色の点線は、注射を行った日を示す。コントロール群は、腫瘍負荷により16日間で死亡した(
図21A)。ProFL-PLE腫瘍内注射群では、45日間にわたってProFL-PLEを12回投与し、3匹のマウスすべてにおいて、40日目までに腫瘍がベースラインレベルまで退縮した。これらのマウスは、90日目の研究の終了時まで腫瘍が発生することなく生存した(
図21B)。ProFL-PLE静脈内注射群では、34日間にわたってProFL-PLEを10回投与し、2匹のマウスにおいて、約40日目までに腫瘍がベースラインレベルまで退縮した。これらのマウスは、90日目の研究の終了時まで腫瘍が発生することなく生存した。この群の1匹のマウスは、コントロールマウスと同様に16日目に死亡した。これらの結果から、腫瘍内注射または静脈内注射によるProFL-PLEと抗FL CAR T細胞の併用投与は、実用可能な治療法であることが示された。
【0139】
以下の引用文献はいずれも参照によりその全体が本明細書に明示的に援用される。
【0140】
引用文献
1. Ma, J. S. et al. (2016). Versatile strategy for controlling the specificity and activity of engineered T cells. Versatile strategy for controlling the specificity and activity of engineered T cells. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 113(4), E450-E458.
【0141】
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【0142】
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【0143】
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【0144】
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6. Jung et al. (1997). Improving in vivo folding and stability of a single-chain Fv antibody fragment by loop grafting. Protein Engineering Design & Selection, 10(8), 956-966.
【0146】
7. Schwesinger et al. (2000). Unbinding forces of single antibody-antigen complexes correlate with their thermal dissociation rates. PNAS, 97(18), 9972-9977.
【0147】
8. Boder et al. (2000). Directed evolution of antibody fragments with monovalent femtomolar antigen-binding affinity. PNAS, 97(20), 10701-10705.
【0148】
9. Honegger et al. (2005). A mutation designed to alter crystal packing permits structural analysis of a tight-binding fluorescein-scFv complex. Prot Sci, 14(10), 2537-2549.
【0149】
本明細書に記載の実施例および実施形態は、説明のみを目的としたものであり、これらの実施例および実施形態を様々に改変したり変更したりできることが当業者に対して示唆されている。これらの改変および変更は、本願の要旨および範囲ならびに添付の請求項の範囲内に含まれる。
【0150】
本明細書で使用されている実質的に複数形および/または単数形の用語は、当業者であれば、本明細書の記載および/または用途に適するように、複数形の用語を単数のものとして、かつ/または単数形の用語を複数のものとして解釈することができる。本発明を明確なものとするために、様々な単数形/複数形の用語が意図的に使い分けられている。
【0151】
当業者であれば、本明細書に記載の用語、特に添付の請求項(たとえば添付の請求項の本体部)に記載の用語は、通常、「オープンエンドな」用語であることを理解できるであろう(たとえば、「含んでいる(including)」という用語は、「含んでいるが、これらに限定されない」と解釈されるべきであり、「有する(having)」という用語は、「少なくとも有する」と解釈されるべきであり、「含む(include)」という用語は「含むが、これらに限定されない」と解釈されるべきである)。さらに、特定の数が請求項に記載されている場合、前述のような意図も請求項に明確に記載されており、特定の数が記載されていない場合はそのような意図も存在しないことも、当業者であれば理解できるであろう。具体的に説明をすれば、たとえば、後述の特許請求の範囲では、請求項を定義するために、「少なくとも1つ」や「1つ以上」といった前置きが記載されている場合がある。しかしながら、このような前置きが記載されているからといって、不定冠詞「1つ(aまたはan)」を使用して構成要素が記載された請求項を、1つのみの構成要素を含む実施形態に限定すべきではなく、たとえ同じ請求項内に「1つ以上」または「少なくとも1つ」といった前置きと「1つ(aまたはan)」といった不定冠詞とが含まれていたとしても、1つのみの構成要素を含む実施形態に限定すべきではない(たとえば、「1つ(aおよび/またはan)」は、「少なくとも1つ」または「1つ以上」を意味すると解釈すべきである)。これは、定冠詞を使用して記載された請求項でも同じである。また、請求項に特定の数が明確に記載されていたとしても、「少なくとも」記載されたその数であるということを当業者であれば理解するであろう(たとえば、修飾語を伴わない「2つ」という記載は、「少なくとも2つ」または「2つ以上」を意味する)。さらに、「A、BおよびCのうちの少なくとも1つ」といった慣用語句が使用されている場合、通常、そのような語句は、当業者がその語句を通常理解する意味で記載されている(たとえば「A、BおよびCのうちの少なくとも1つを有するシステム」は、Aのみを有するシステム、Bのみを有するシステム、Cのみを有するシステム、AとBを有するシステム、AとCを有するシステム、BとCを有するシステム、ならびに/またはA、BおよびCを有するシステムなどを包含するが、これらに限定されない)。また、「A、BまたはCのうちの少なくとも1つ」といった慣用語句が使用されている場合、通常、そのような語句は、当業者がその語句を通常理解する意味で記載されている(たとえば「A、BまたはCのうちの少なくとも1つを有するシステム」は、Aのみを有するシステム、Bのみを有するシステム、Cのみを有するシステム、AとBを有するシステム、AとCを有するシステム、BとCを有するシステム、ならびに/またはA、BおよびCを有するシステムなどを包含するが、これらに限定されない)。さらに、2つ以上の選択肢を表すための選言的用語および/または選言的語句は、明細書、特許請求の範囲または図面のいずれにおいても、記載された用語のうちの1つ、記載された用語のいずれか、または記載された用語の両方を含む場合があると当業者であれば理解するであろう。たとえば「AまたはB」という表現は、「AまたはB」または「AおよびB」を含む場合がある。
【0152】
本発明は、以下の発明を含む。
[1]キメラ抗原受容体(CAR)またはT細胞受容体(TCR)を含む複合体であって、前記CARまたはTCRが、標的部分を含む脂質に結合するように構成されており、該脂質への該CARの結合が、該標的部分との相互作用を介したものであり;前記CARまたはTCRが、1~22アミノ酸長、23~50アミノ酸長、51~100アミノ酸長、100~150アミノ酸長または151~250アミノ酸長のスペーサードメインを含み、前記CARまたはTCRが、配列番号1~6から選択される配列と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を含み;かつ/または前記スペーサードメインが、CH3ドメインに連結されたCH2ドメインに連結されたIgG4ヒンジ(たとえば、配列番号7と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を有するか、もしくは配列番号7のアミノ酸配列を有する長いスペーサー);CH3ドメインに連結されたIgG4ヒンジ(たとえば、配列番号8と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を有するか、もしくは配列番号8のアミノ酸配列を有する中程度の長さのスペーサー);もしくはIgG4ヒンジ(たとえば、配列番号9と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を有するか、もしくは配列番号9のアミノ酸配列を有する短いスペーサー)を含むか、これらのいずれかから実質的になるか、これらのいずれかからなる、複合体。
[2]前記CARまたはTCRが、配列番号1~6から選択されるアミノ酸配列を含む、[1]に記載の複合体。
[3]前記スペーサーが、229アミノ酸長である、[1]または[2]に記載の複合体。
[4]前記CARまたはTCRが、配列番号1のアミノ酸配列を有するscFvドメイン(FITC-E2 Mut2)と、配列番号7のアミノ酸配列を有するスペーサードメイン(長いスペーサー)とを含む、[1]~[3]のいずれか1項に記載の複合体。
[5]前記CARまたはTCRが、配列番号2のアミノ酸配列を有するscFvドメイン(4M5.3)と、配列番号7のアミノ酸配列を有するスペーサードメイン(長いスペーサー)とを含む、[1]または[2]に記載の複合体。
[6]前記CARまたはTCRが、配列番号5のアミノ酸配列を有するscFvドメイン(FITC-E2)と、配列番号7のアミノ酸配列を有するスペーサードメイン(長いスペーサー)とを含む、[1]~[3]のいずれか1項に記載の複合体。
[7]前記脂質が、極性頭部基および疎水基を含む、[1]~[6]のいずれか1項に記載の複合体。
[8]前記極性頭部基が、コリン、ホスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、ホスホエタノールアミン基、オリゴ糖残基、糖残基、ホスファチジルセリンまたはホスファチジルイノシトールを含む、[7]に記載の複合体。
[9]前記極性頭部基が、ホスホコリン、ピペリジン部分またはトリメチルアルセノ-エチル-ホスファート部分を含む、[7]に記載の複合体。
[10]前記疎水基が、脂肪鎖などの脂肪酸である、[7]に記載の複合体。
[11]前記脂肪酸が、飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸である、[10]に記載の複合体。
[12]前記疎水基が、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を含む、[7]に記載の複合体。
[13]前記疎水基が、ステロイドまたはコレステロールなどのテルペノイド脂質を含む、[7]に記載の複合体。
[14]前記疎水基が、前記極性頭部基と前記脂肪鎖の間にエーテル結合を含む、[7]に記載の複合体。
[15]前記糖残基が、グリセロールまたは糖アルコールである、[8]に記載の複合体。
[16]前記疎水基が、アルキル炭素鎖を含み、該アルキル炭素鎖が、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個もしくは20個の炭素原子、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の数の炭素原子を含む、[7]に記載の複合体。
[17]前記アルキル炭素鎖が18個の炭素原子を含む、[16]に記載の複合体。
[18]前記脂質がエーテルリン脂質である、[1]~[17]のいずれか1項に記載の複合体。
[19]前記標的部分が、ビオチン、ジゴキシゲニン、ジニトロフェノール、フルオレセインまたはこれらの誘導体である、[1]~[18]のいずれか1項に記載の複合体。
[20]前記標的部分が、フルオレセインまたはその誘導体である、[1]~[19]のいずれか1項に記載の複合体。
[21]前記スペーサーが、ポリエチレングリコール(PEG)スペーサー、(2個の)ハプテンからなるスペーサー、またはアルカン鎖を含む、[1]~[20]のいずれか1項に記載の複合体。
[22]前記PEGスペーサーが、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個もしくは16個のPEG分子、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の数のPEG分子を含む、[21]に記載の複合体。
[23]前記CARまたはTCRが、細胞またはT細胞で発現される、[1]~[22]のいずれか1項に記載の複合体。
[24]前記CARまたはTCRが、細胞またはT細胞の表面上に発現される、[1]~[23]のいずれか1項に記載の複合体。
[25]前記細胞が前駆T細胞である、[23]または[24]に記載の複合体。
[26]前記前駆T細胞が造血幹細胞である、[23]または[24]に記載の複合体。
[27]前記細胞が、ナイーブCD8+T細胞、セントラルメモリーCD8+T細胞、エフェクターメモリーCD8+T細胞およびバルクCD8+T細胞からなる群から選択されるCD8+細胞傷害性Tリンパ球である、[23]~[26]のいずれか1項に記載の複合体。
[28]前記細胞が、ナイーブCD4+T細胞、セントラルメモリーCD4+T細胞、エフェクターメモリーCD4+T細胞およびバルクCD4+T細胞からなる群から選択されるCD4+ヘルパーTリンパ球である、[23]~[27]のいずれか1項に記載の複合体。
[29]前記脂質が、標的細胞の脂質二重層に挿入される、[1]~[28]のいずれか1項に記載の複合体。
[30]前記標的細胞が腫瘍細胞である、[29]に記載の複合体。
[31]前記標的細胞が免疫細胞である、[29]または[30]に記載の複合体。
[32]前記免疫細胞がT細胞またはB細胞である、[31]に記載の複合体。
[33]前記標的細胞が腫瘍微小環境に存在する、[29]~[32]のいずれか1項に記載の複合体。
[34][1]~[33]のいずれか1項に記載の複合体を含む細胞であって、キメラ抗原受容体(CAR)またはT細胞受容体(TCR)を含み、該CARまたはTCRが、標的部分を含む脂質に結合するように構成されており、該CARを含む細胞が、該脂質の該標的部分に結合するか、該脂質の該標的部分と相互作用する、細胞。
[35]前駆T細胞である、[34]に記載の細胞。
[36]前記前駆T細胞が造血幹細胞である、[35]に記載の細胞。
[37]ナイーブCD8+T細胞、セントラルメモリーCD8+T細胞、エフェクターメモリーCD8+T細胞およびバルクCD8+T細胞からなる群から選択されるCD8+細胞傷害性Tリンパ球である、[34]~[36]のいずれか1項に記載の細胞。
[38]ナイーブCD4+T細胞、セントラルメモリーCD4+T細胞、エフェクターメモリーCD4+T細胞およびバルクCD4+T細胞からなる群から選択されるCD4+ヘルパーTリンパ球である、[34]~[37]のいずれか1項に記載の細胞。
[39]前記脂質が、標的細胞の脂質二重層に挿入される、[34]~[38]のいずれか1項に記載の細胞。
[40]前記標的細胞が腫瘍細胞である、[39]に記載の細胞。
[41]前記標的細胞が免疫細胞である、[39]または[40]に記載の細胞。
[42]前記免疫細胞がT細胞またはB細胞である、[41]に記載の細胞。
[43]前記標的細胞が腫瘍微小環境に存在する、[40]~[42]のいずれか1項に記載の細胞。
[44]対象において、がんを治療、抑制または緩和する方法であって、マスキング部分を含む標的部分を付加した脂質を含む組成物を対象に投与する工程;および前記マスキング部分の非存在下において前記標的部分に特異的に結合するキメラ抗原受容体(CAR)またはT細胞受容体(TCR)を含む細胞を前記対象に投与する工程を含み、前記CARまたはTCRが、配列番号1~6から選択される配列と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列と、スペーサードメインとを含み、かつ/または前記スペーサードメインが、CH3ドメインに連結されたCH2ドメインに連結されたIgG4ヒンジ(たとえば、配列番号7と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を有するか、もしくは配列番号7のアミノ酸配列を有する長いスペーサー);CH3ドメインに連結されたIgG4ヒンジ(たとえば、配列番号8と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を有するか、もしくは配列番号8のアミノ酸配列を有する中程度の長さのスペーサー);もしくはIgG4ヒンジ(たとえば、配列番号9と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を有するか、もしくは配列番号9のアミノ酸配列を有する短いスペーサー)を含むか、これらのいずれかから実質的になるか、これらのいずれかからなる、方法。
[45]前記CARまたはTCRが、配列番号1~6から選択されるアミノ酸配列を含む、[44]に記載の方法。
[46]前記スペーサーが、229アミノ酸長である、[44]または[45]に記載の方法。
[47]前記CARまたはTCRが、配列番号1のアミノ酸配列を有するscFvドメイン(FITC-E2 Mut2)と、配列番号7のアミノ酸配列を有するスペーサードメイン(長いスペーサー)とを含む、[44]~[46]のいずれか1項に記載の方法。
[48]前記CARまたはTCRが、配列番号2のアミノ酸配列を有するscFvドメイン(4M5.3)と、配列番号7のアミノ酸配列を有するスペーサードメイン(長いスペーサー)とを含む、[44]~[46]のいずれか1項に記載の方法。
[49]前記CARまたはTCRが、配列番号5のアミノ酸配列を有するscFvドメイン(FITC-E2)と、配列番号7のアミノ酸配列を有するスペーサードメイン(長いスペーサー)とを含む、[44]~[46]のいずれか1項に記載の方法。
[50]対象において、がんを治療、緩和または抑制する方法であって、(a)マスキング部分に結合された標的部分を含む脂質を含む組成物を対象に導入、提供または投与する工程;(b)前記マスキング部分が除去された前記標的部分に特異的なキメラ抗原受容体(CAR)またはT細胞受容体(TCR)を含む細胞を前記対象に導入、提供または投与する工程;(c)前記標的部分から前記マスキング部分を除去することにより、前記細胞上に存在する前記CARに前記標的部分を結合させる工程;(d)工程(a)~(c)の後に、任意で、前記CARを含む前記細胞の前記脂質への結合を測定または評価する工程;(e)工程(a)~(d)の後に、任意で、がんの治療、緩和または抑制を測定または評価する工程;および/または(f)工程(a)~(c)の前に、任意で、がんの治療が必要な対象を特定する工程を含み、前記CARまたはTCRが、1~22アミノ酸長、23~50アミノ酸長、51~100アミノ酸長、100~150アミノ酸長または151~250アミノ酸長のスペーサードメインを含み、前記CARまたはTCRが、配列番号1~6から選択される配列を含み、かつ/または前記スペーサードメインが、CH3ドメインに連結されたCH2ドメインに連結されたIgG4ヒンジ(たとえば、配列番号7と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を有するか、もしくは配列番号7のアミノ酸配列を有する長いスペーサー);CH3ドメインに連結されたIgG4ヒンジ(たとえば、配列番号8と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を有するか、もしくは配列番号8のアミノ酸配列を有する中程度の長さのスペーサー);もしくはIgG4ヒンジ(たとえば、配列番号9と少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を有するか、もしくは配列番号9のアミノ酸配列を有する短いスペーサー)を含むか、これらのいずれかから実質的になるか、これらのいずれかからなる、方法。
[51]前記細胞が、前記組成物の投与と同時に前記対象に提供されるか、前記組成物を投与する1時間前、2時間前、3時間前、4時間前、5時間前、6時間前、7時間前、8時間前、9時間前、10時間前、11時間前、12時間前、15時間前、20時間前、24時間前、36時間前もしくは48時間前、もしくは前記組成物の投与より、これらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の時間分早い時点で前記対象に提供されるか、または前記組成物を投与した1時間後、2時間後、3時間後、4時間後、5時間後、6時間後、7時間後、8時間後、9時間後、10時間後、11時間後、12時間後、15時間後、20時間後、24時間後、36時間後もしくは48時間後、もしくは前記組成物の投与から、これらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の時間が経過した後に前記対象に提供される、[44]~[50]のいずれか1項に記載の方法。
[52]前記細胞が、前記組成物を投与する1時間前、2時間前、3時間前、4時間前、5時間前、6時間前、7時間前、8時間前、9時間前、10時間前、11時間前、12時間前、15時間前、20時間前、24時間前、36時間前もしくは48時間前、または前記組成物の投与より、これらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の時間分早い時点で前記対象に提供される、[44]~[50]のいずれか1項に記載の方法。
[53]前記組成物を前記対象に提供した後、数秒以内または数分以内、たとえば1時間が経過する前に、前記細胞が該対象に提供される、[44]~[50]のいずれか1項に記載の方法。
[54]前記細胞および/または前記組成物のブースト投与が前記対象に提供される、[44]~[53]のいずれか1項に記載の方法。
[55]低分子(たとえば化合物)、抗体療法(たとえば放射性核種、毒素もしくは薬物に結合されたヒト化モノクローナル抗体、またはこれらに結合されていないヒト化モノクローナル抗体)、外科手術、および/または放射線療法などの別のがん療法が前記対象に提供される、[44]~[54]のいずれか1項に記載の方法。
[56]前記がんが、大腸がん、乳がん、卵巣がん、肺がん、膵臓がん、前立腺がん、悪性黒色腫、腎臓がん、膵臓がん、脳腫瘍、神経膠芽腫、神経芽腫、髄芽腫、肉腫、骨がん、肝臓がんなどの固形腫瘍;または白血病、多発性骨髄腫などの非固形腫瘍である、[44]~[55]のいずれかに記載の方法。
[57]前記細胞上に存在するCARに前記標的部分が結合することによって、少なくとも1種のサイトカインの産生が誘導される、[44]~[56]にいずれかに記載の方法。
[58]前記少なくとも1種のサイトカインが、IL-2、TNF-αおよび/またはINF-γを含む、[57]に記載の方法。
[59]前記脂質が、極性頭部基および疎水基を含む、[44]~[58]のいずれかに記載の方法。
[60]前記極性頭部基が、コリン、ホスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、ホスホエタノールアミン基、オリゴ糖残基、糖残基、ホスファチジルセリンまたはホスファチジルイノシトールを含む、[59]に記載の方法。
[61]前記極性頭部基が、ホスホコリン、ピペリジン部分またはトリメチルアルセノ-エチル-ホスファート部分を含む、[59]に記載の方法。
[62]前記疎水基が、脂肪鎖などの脂肪酸である、[59]に記載の方法。
[63]前記脂肪酸が、飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸である、[62]に記載の方法。
[64]前記疎水基が、アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を含む、[59]に記載の方法。
[65]前記疎水基が、ステロイドまたはコレステロールなどのテルペノイド脂質を含む、[59]に記載の方法。
[66]前記疎水基が、前記極性頭部基と前記脂肪鎖の間にエーテル結合を含む、[59]に記載の方法。
[67]前記糖残基が、グリセロールまたは糖アルコールである、[60]に記載の方法。
[68]前記疎水基が、アルキル炭素鎖を含み、該アルキル炭素鎖が、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個もしくは20個の炭素原子、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の数の炭素原子を含む、[59]に記載の方法。
[69]前記アルキル炭素鎖が18個の炭素原子を含む、[68]に記載の方法。
[70]前記脂質がエーテルリン脂質である、[44]~[69]のいずれか1項に記載の方法。
[71]前記標的部分が、ビオチン、ジゴキシゲニン、ジニトロフェノール、フルオレセインまたはこれらの誘導体である、[44]~[70]のいずれか1項に記載の方法。
[72]前記標的部分が、フルオレセインまたはその誘導体である、[44]~[71]のいずれか1項に記載の方法。
[73]前記スペーサーが、ポリエチレングリコール(PEG)スペーサー、(2個の)ハプテンからなるスペーサー、またはアルカン鎖を含む、[44]~[72]のいずれか1項に記載の方法。
[74]前記PEGスペーサーが、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個もしくは16個のPEG分子、またはこれらの数値のいずれか2つによって定義される範囲内の数のPEG分子を含む、[73]に記載の方法。
[75]前記細胞が前駆T細胞である、[44]~[74]のいずれか1項に記載の方法。
[76]前記前駆T細胞が造血幹細胞である、[75]に記載の方法。
[77]前記細胞が、ナイーブCD8+T細胞、セントラルメモリーCD8+T細胞、エフェクターメモリーCD8+T細胞およびバルクCD8+T細胞からなる群から選択されるCD8+細胞傷害性Tリンパ球である、[44]~[76]のいずれか1項に記載の方法。
[78]前記細胞が、ナイーブCD4+T細胞、セントラルメモリーCD4+T細胞、エフェクターメモリーCD4+T細胞およびバルクCD4+T細胞からなる群から選択されるCD4+ヘルパーTリンパ球である、[44]~[77]のいずれか1項に記載の方法。
[79]医薬品グレードのフルオレセイン結合エーテルリン脂質(FL-PLE)を含むキット。
[80]医薬品グレードの前記FL-PLEがハプテンを含む、[79]に記載のキット。
[81]医薬品のグレードの前記FL-PLEがフルオレセインを含む、[79]または[80]に記載のキット。