(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125137
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】米糠抽出組成物の調製方法及びスキンケアにおけるその用途
(51)【国際特許分類】
A23L 33/105 20160101AFI20240906BHJP
A61K 8/9794 20170101ALI20240906BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240906BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20240906BHJP
A23L 5/40 20160101ALN20240906BHJP
【FI】
A23L33/105
A61K8/9794
A61Q19/00
A61Q19/08
A23L5/40
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023069316
(22)【出願日】2023-04-20
(31)【優先権主張番号】112107722
(32)【優先日】2023-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(71)【出願人】
【識別番号】519051920
【氏名又は名称】台湾中油股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】CPC Corporation,Taiwan
【住所又は居所原語表記】No.2,Zuonan Rd.,Nanzi Dist.,Kaohsiung City,Taiwan
(74)【代理人】
【識別番号】110002516
【氏名又は名称】弁理士法人白坂
(72)【発明者】
【氏名】陳瑞惠
(72)【発明者】
【氏名】▲チャン▼育欣
(72)【発明者】
【氏名】林守麟
(72)【発明者】
【氏名】羅勝仁
(72)【発明者】
【氏名】陳勁中
(72)【発明者】
【氏名】陳錦坤
(72)【発明者】
【氏名】王逸萍
(72)【発明者】
【氏名】蔡銘璋
【テーマコード(参考)】
4B018
4C083
【Fターム(参考)】
4B018LB10
4B018LE04
4B018LE05
4B018MD15
4B018MD26
4B018MD50
4B018ME10
4B018ME14
4B018MF01
4B018MF04
4B018MF08
4C083AA111
4C083AA112
4C083CC02
4C083EE11
4C083EE16
4C083EE17
4C083FF01
(57)【要約】
【課題】
本発明は、廃棄されがちであるがヘルスケア成分が豊富な米糠をリサイクルし、米糠抽出組成物を調製してパーソナルケア製品に添加して、製品の肌美白、抗老化、抗炎症、抗アレルギーなどのスキンケア効果を改善し、また、調製プロセスで減圧濃縮された溶媒を回収して本発明の溶媒として再利用することができ、資源節約及び循環経済の効果を得ることができる。
【解決手段】
本発明は米糠抽出組成物の調製方法及びスキンケアにおけるその用途を提供し、調製方法は、米糠を、80%を超える濃度の溶媒と混合して混合溶液を得て、40~55℃の環境で撹拌しながら抽出する工程と、混合溶液を遠心分離又は濾過して、上澄み液又は濾液を収集する工程と、上澄み液又は濾液を減圧濃縮して米糠抽出物を得る工程と、米糠抽出物を米糠抽出組成物に加工する工程とを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
米糠抽出組成物の調製方法であって、
米糠を、80%を超える濃度の溶媒と混合して混合溶液を得て、40~55℃の環境で撹拌しながら抽出する工程と、
前記混合溶液を遠心分離又は濾過して、上澄み液又は濾液を収集する工程と、
前記上澄み液又は濾液を減圧濃縮して米糠抽出物を得る工程と、
前記米糠抽出物を米糠抽出組成物に加工する工程とを含む、米糠抽出組成物の調製方法。
【請求項2】
前記米糠が脱脂又は未脱脂米糠であり、前記米糠と前記溶媒の米糠重量:溶媒体積の混合比が1:4~1:8であり、前記重量の単位がグラムであり、前記体積の単位がミリリットルである、請求項1に記載の米糠抽出組成物の調製方法。
【請求項3】
前記溶媒が、エタノール体積:水体積が100~80:0~20の溶媒、又はプロパノール体積:水体積が100~80:0~20の溶媒である、請求項1に記載の米糠抽出組成物の調製方法。
【請求項4】
前記上澄み液又は濾液を減圧濃縮する前に、活性炭を使用して脱色及び浄化する工程を含み、前記減圧濃縮は、減圧蒸留方法を用いて、前記上澄み液又は濾液の体積を18~22倍に濃縮して前記米糠抽出物を得ることである、請求項1に記載の米糠抽出組成物の調製方法。
【請求項5】
前記加工は、賦形剤を添加して米糠抽出組成物を調製することであり、前記賦形剤は、水、油、乳化剤、防腐剤、及び共溶媒を含み、前記米糠抽出組成物は、前記米糠抽出物を20~30%含有する液体の剤形になる、請求項1に記載の米糠抽出組成物の調製方法。
【請求項6】
前記加工は、植物デンプンを添加して米糠抽出組成物を調製することであり、前記植物デンプンの添加比率は、米糠抽出物体積:植物デンプン重量が1:0.4~1:2であり、また、噴霧乾燥して、前記米糠抽出組成物を粉末の剤形にし、前記重量の単位がグラムであり、前記体積の単位がミリリットルである、請求項1に記載の米糠抽出組成物の調製方法。
【請求項7】
前記噴霧乾燥の前に、乳化剤、防腐剤、及び共溶媒を添加する工程を含み、前記植物デンプンは、マルトデキストリン、コーンスターチ、小麦デンプン、米デンプン、又はタピオカデンプンを含む、請求項6に記載の米糠抽出組成物の調製方法。
【請求項8】
前記米糠抽出物中のグルコシルセラミド濃度を測定することにより、前記米糠抽出物と前記植物デンプンの添加比率を調整する、請求項6に記載の米糠抽出組成物の調製方法。
【請求項9】
スキンケアにおける米糠抽出組成物の用途であって、前記米糠抽出組成物は請求項1に記載の調製方法によって調製され、前記米糠抽出組成物は細胞毒性、光毒性及び皮膚刺激性を有さず、前記スキンケアは、肌美白、抗老化、抗炎症、抗アレルギーを含む、スキンケアにおける米糠抽出組成物の用途。
【請求項10】
前記米糠抽出物の有効量が7.8~1000μg/mlである、請求項9に記載のスキンケアにおける米糠抽出組成物の用途。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米糠抽出組成物の調製方法及びスキンケアにおけるその用途に関し、特に、美白、抗老化、抗炎症、抗アレルギーなどの効果があり、スキンケアに適用することができる。
【背景技術】
【0002】
米糠は、玄米を白米にする工程の産物であり、タンパク質12~16%、脂肪16~22%、食物繊維20~25%をはじめ、オリザノール(γ-oryzanol)、植物ステロール、ビタミンE、スクアレン、グルコシルセラミドなどの微量ミネラルや植物性化学物質を多く含有する。しかしながら、米糠は保存が難しく、酸敗しやすいため、有機栽培者の中では、それを不活性化したり焙煎したりして食べたり販売したりする者は少なく、また、ざらざらした食感や味の悪さから市場では人気がない。かつては米糠は飼料として使用され、余分な米糠は廃棄物として直接廃棄されるなど、環境に負荷をかけていた。米糠に含まれる植物性化学物質がスキンケアに役立つことが多くの文献で報告されており、したがって、製品の効果と価値を高めるために多くの製品に米糠抽出物が加えられている。しかし、米糠はありふれた材料であり、入手も容易であり、詳細な抽出方法及び産物形態がなければ、米糠抽出物はただ抽象名詞であり、効果の再現性や使いやすさには疑問がある。
【0003】
米糠の抽出については、従来技術では、米糠を米糠の6~10倍量の75℃を超える熱湯で処理し、40℃未満に冷却してから80%未満のエタノールを使用して少なくとも30分間抽出し、そして濾過又は遠心分離後の最初の上澄み液(濾液)を使用する。又は、更に減圧濃縮して層状の上澄み液と沈殿物を得て、次に沈殿物を水性アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール)で処理して2回目の上澄み液及び2回目の沈殿物を得る。しかし、上記の技術では、工程が煩雑であり、未脱脂米糠の最初の上澄み液を噴霧乾燥する際に、n-ヘキサンなどの毒性のある溶媒も使用される。
【0004】
従来技術では、メタノール、アセトン、エタノールなどを水と30~70:70~30(体積比)で混合して抽出液とし、換算後の溶媒濃度は約30%~70%であり、そして米糠:抽出液=1:1~20(重量比)で抽出する。温度を50~70℃に設定し、1~3時間抽出する。抽出物に様々な試験管生化学試験(インビトロ)を行う。従来の技術では、まず、米糠を酵素で処理し、次に水とエタノールの混合溶液(比率は1:1~25:1、50%~3.8%エタノールに相当)を4~40℃の温度で6時間~7日間抽出する。
【0005】
上記の従来技術から、米糠の脱脂を先に行うか否か、抽出に使用する溶媒の種類及び比率、酵素を使用するか否か、抽出温度、時間などで、米糠抽出工程の難易度は大きく異なることがわかり、また、効果試験方法も異なり、試験管試験もあれば、細胞実験もあり、ロット間及び効果の違いを比較する指標成分がない。
【0006】
また、米糠に含まれる多くの植物性化学物質、例えば、オリザノール(γ-オリザノール)、植物ステロール、ビタミンE、スクアレン、グルコシルセラミドなどは、肌を改善する効果があるが、ほとんどが油溶性で、溶媒濃度が低すぎると油溶性物質が抽出されにくくなる。温度を上げることは、油溶性物質を抽出するのに役立ち、従来技術のように、まず米糠を75℃を超える熱湯で処理し、冷却後(40℃未満)に溶媒で抽出する。別の従来技術では、抽出温度を50~70℃に上げるが、溶媒濃度は70%未満である。更に別の従来技術では、溶媒の濃度が低い場合(50%未満)、酵素を使用し、抽出時間を延長することによって達成することができる。しかし、これらの従来技術は、水処理と溶媒処理の2段階に分けなければならなかったり、抽出時間を延長しなければならなかったりするなど、手順が煩雑で手間がかかり、温度を上げると抽出が容易になる可能性があるが、高温処理は油溶性物質を破壊及び酸化しやすい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記を考慮して、本発明者は従来技術の不足及び欠点を深く理解し、改善と革新を熱心に考え、長年の研究の末、ついに米糠の抽出工程を大幅に簡素化できる方法を開発し、同時に、調製された米糠抽出組成物をパーソナルケア製品に添加して、製品の肌美白、抗老化、抗炎症、抗アレルギーなどのヘルスケア効果を改善し、スキンケアのための斬新で低コストのヘルスケア戦略を提供することもできる。更に、米糠の価値を高め、新たな経済を生み出し、農業廃棄物による環境への負担を減らし、資源循環と再利用の精神を実践することができる。
【0008】
本発明の目的は、抽出工程を簡素化し、溶媒濃度を80%超に上げ、抽出温度を下げ(55℃以下)、米糠の効果及び活性の破壊を回避し、抽出時間を少なくとも1時間に短縮することである。一連の細胞試験により米糠抽出物の効果を示し、また、米糠抽出物を使用しやすい形態(米糠抽出組成物)にすることで、その産業上の利用可能性を実現する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明の主な目的は、米糠抽出組成物の調製方法を提供することであり、調製方法は、米糠を、80%を超える濃度の溶媒と混合して混合溶液を得て、40~55℃の環境で撹拌しながら抽出する工程と、混合溶液を遠心分離又は濾過して、上澄み液又は濾液を収集する工程と、上澄み液又は濾液を減圧濃縮して米糠抽出物を得る工程と、米糠抽出物を米糠抽出組成物に加工する工程とを含む。
【0010】
本発明の一実施形態では、米糠は脱脂又は未脱脂米糠であり、米糠と溶媒の米糠重量:溶媒体積の混合比は1:4~1:8であり、重量の単位はグラムであり、体積の単位はミリリットルである。
【0011】
本発明の一実施形態では、溶媒は、エタノール体積:水体積が100~80:0~20の溶媒、又はプロパノール体積:水体積が100~80:0~20の溶媒である。
【0012】
本発明の一実施形態では、上澄み液又は濾液を減圧濃縮する前に、調製方法は、活性炭を使用して脱色及び浄化する工程を含み、減圧濃縮は、減圧蒸留方法を用いて、上澄み液又は濾液の体積を18~22倍に濃縮して米糠抽出物を得ることである。
【0013】
本発明の一実施形態では、加工は、賦形剤を添加して米糠抽出組成物を調製することであり、賦形剤は、水、油、乳化剤、防腐剤、及び共溶媒を含み、米糠抽出組成物は、米糠抽出物を20~30%含有する液体の剤形になる。
【0014】
本発明の一実施形態では、加工は、植物デンプンを添加して米糠抽出組成物を調製することであり、植物デンプンの添加比率は、米糠抽出物体積:植物デンプン重量が1:0.4~1:2であり、また、噴霧乾燥して、米糠抽出組成物を粉末の剤形にし、重量の単位はグラムであり、体積の単位はミリリットルである。
【0015】
本発明の一実施形態では、噴霧乾燥の前に、調製方法は、乳化剤、防腐剤、及び共溶媒を添加する工程を含み、植物デンプンは、マルトデキストリン、コーンスターチ、小麦デンプン、米デンプン、又はタピオカデンプンを含む。
【0016】
本発明の一実施形態では、米糠抽出物中のグルコシルセラミド濃度を測定することにより、米糠抽出物と植物デンプンの添加比率を調整する。
【0017】
本発明は更に、スキンケアにおける米糠抽出組成物の用途を提供し、米糠抽出組成物は上記の調製方法によって調製され、米糠抽出組成物は細胞毒性、光毒性及び皮膚刺激性を有さず、スキンケアは、肌美白、抗老化、抗炎症、抗アレルギーを含む。
【0018】
本発明の一実施形態では、米糠抽出物の有効量は7.8~1000μg/mlである。
【発明の効果】
【0019】
本発明の米糠抽出組成物の調製方法の工程において、使用される温度は重要な因子である。なぜなら、米糠抽出物を高温、例えば70℃の水浴中で0.5~1時間処理すると、その後の加工により調製される米糠抽出組成物(粉末及び液体)の効果が弱まるからである。
【0020】
本発明は、もともと廃棄物として処理されていた米糠に新たな命を吹き込み、自然で環境に優しい米糠をリサイクルして再利用し、米糠の抽出工程を大幅に簡素化しながら米糠抽出組成物を調製し、また、調製プロセスで減圧濃縮された溶媒を回収して本発明の溶媒として再利用することができ、即ち、本発明は、資源節約及び循環経済の効果を得ることができる。更に、調製された米糠抽出組成物をパーソナルケア製品に添加して、製品の肌美白、抗老化、抗炎症、抗アレルギーなどのヘルスケア効果を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態による米糠抽出物の細胞毒性試験である。
【
図2】本発明の一実施形態による米糠抽出物の光毒性試験である。
【
図3】本発明の一実施形態による米糠抽出物の皮膚刺激性試験である。
【
図4】本発明の一実施形態による米糠抽出物のチロシナーゼ活性インビトロ阻害試験である(チロシナーゼのインビトロ阻害)。
【
図5】本発明の一実施形態による米糠抽出物のメラニン形成抑制試験である(B16F10細胞における抗メラニン形成)。
【
図6】本発明の一実施形態による米糠抽出物のメラノソーム貪食試験である(ケラチノサイトへのメラノソーム転移)。
【
図7】本発明の一実施形態による米糠抽出物の抗老化試験である。
【
図8】本発明の一実施形態による米糠抽出物の抗炎症試験である。
【
図9】本発明の一実施形態による米糠抽出物の抗アレルギー試験である。
【
図10】本発明の一実施形態による米糠抽出組成物のメラニン形成抑制試験である。
【
図11】本発明の一実施形態による米糠抽出組成物のメラノソーム貪食試験である。
【
図12】本発明の一実施形態によるグルコシルセラミドの質量分析パラメータ及び分析スペクトルである。
【
図13】本発明の一実施形態による、高温処理による米糠抽出組成物のメラニン形成抑制試験である。
【
図14】本発明の一実施形態による、高温処理による米糠抽出組成物のメラノソーム貪食試験である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[用語定義]
【0023】
本明細書では、バイオテクノロジー分野で一般的に使用される多くの技術用語及び化学用語が広く使用されており、以下の説明では、本明細書、特許出願の範囲、及びこれらの用語に割り当てられた範囲を明確且つ一貫して理解するために、以下の定義を提供する。以下で具体的に定義されていない他の用語は、当該分野の専門家によって一般的に理解されている意味を有する。
【0024】
本明細書で使用される「又は」、「及び」、「と」は、特に明記しない限り、すべて「及び/又は」を指す。更に、「包含する」及び「含む」という用語は、制限のない開放接続詞である。前述の段落は体系的な参照のみであり、本発明の主題に対する限定として解釈されるべきではない。
【0025】
本明細書で使用される「%」は、特に明記しない限り、すべて「重量パーセント(wt%)」を意味する。数値範囲(例えば、Aが10%~11%)は、特に明記しない限り、すべて上限値と下限値を含む(即ち、10%≦A≦11%)。数値範囲の下限値が定義されていない場合(例えば、Bが0.2%未満、又は0.2%未満のBなど)、すべて下限値が0(即ち、0%≦B≦0.2%)である可能性があることを意味する。各成分の「重量パーセント」の比例関係は、「重量部」の比例関係に置き換えることもできる。
【0026】
本明細書で開示されているすべての数値には、±10%の標準技術測定誤差(標準偏差)がある場合がある。「約」という用語は、特定の値の±10%、±5%、±2.5%、又は±1%を意味することを意図しており、即ち、「約20%」は、20±2%、20±1%、20±0.5%、又は20±0.25%を意味する。
【0027】
本明細書で使用される「有効量」とは、対象に投与される、1つ以上の疾患症状又は生理学的状態を予防又は軽減するのに十分な有効活性物質の量を指し、その結果は、徴候、症状、又は病因の軽減及び/又は緩和、又は他の生理系の意図的な変化である。
【0028】
[米糠原料]
【0029】
本発明で使用される米糠の状態は限定されず、例えば、未処理の米糠、又は処理された(例えば、発酵、脱脂など)米糠が挙げられる。一実施形態では、本発明で使用される米糠は、脱脂又は未脱脂米糠である。更に、特に明記しない限り、本発明で使用される材料はいずれも市販されており、容易に入手可能である。
【0030】
[混合抽出工程]
【0031】
本発明の米糠抽出組成物の調製方法は、米糠を、80%を超える濃度の溶媒と混合して混合溶液を得て、40~55℃の環境で撹拌しながら抽出する工程を含み、溶媒の濃度は、溶媒の種類に応じて、80%を超える重量パーセント濃度、又は80%を超える体積パーセント濃度であってもよく、本発明はそれに限定されない。
【0032】
米糠と溶媒の混合比率は限定されないが、米糠の抽出効率を向上させる観点から、米糠と溶媒の米糠重量(単位がグラム):溶媒体積(単位がミリリットル)の混合比は、好ましくは約1:4~1:8であり、例えば、約1:5.5、1:6、1:6.5、1:7、1:7.5、又は上記の任意の2つの値の間の比であってもよい。混合抽出工程は、バッチで行うことができ、各混合抽出工程で使用される米糠と溶媒の混合比は同じであっても異なっていてもよい。
【0033】
米糠と溶媒とを混合する際の温度は、約55℃を超えてはならず、即ち約55℃未満である必要があり、具体的な温度は限定されないが、米糠の抽出効率を向上させる観点から、好ましくは50℃未満であり、例えば、約5℃、10℃、15℃、20℃、25℃、30℃、35℃、40℃、45℃、又は上記の任意の2つの値の間の温度であってもよく、最も好ましくは約40~50℃である。混合抽出工程は、バッチで行うことができ、各混合抽出工程の温度は同じであっても異なっていてもよい。
【0034】
米糠と溶媒とを混合した後の撹拌抽出時間は限定されないが、米糠の抽出効率を向上させる観点から、撹拌抽出時間は、好ましくは少なくもと約1時間であり、例えば、約1.5時間、2時間、2.5時間、3時間、3時間超、又は上記の任意の2つの値の間の撹拌時間であってもよい。混合抽出工程は、バッチで行うことができ、各混合抽出工程の撹拌抽出時間は同じであっても異なっていてもよい。
【0035】
溶媒の濃度は約80%を超える必要があり、その具体的な濃度は限定されないが、米糠の抽出効率を向上させる観点から、溶媒は、好ましくは約80%~100%(体積パーセント濃度)のエタノール又はプロパノールであり、例えば、約82%、84%、86%、88%、90%、92%、94%、96%、98%、99%、又は上記の任意の2つの値の間の体積パーセント濃度のエタノール又はプロパノールであってもよい。上記のエタノール、プロパノールは、それらの任意の異性体、例えば、n‐プロパノール、イソプロパノールなどを含んでもよく、即ち、溶媒は、好ましくは、エタノール体積:水体積が約100~80:0~20の溶媒、又はプロパノール体積:水体積が約100~80:0~20の溶媒であり、例えば、約99:1、98:2、96:4、94:6、92:8、90:10、88:12、86:14、84:16、82:18、又は上記の任意の2つの値の間の比率であってもよい。混合抽出工程は、バッチで行うことができ、各混合抽出工程で使用される溶媒の種類及び濃度は同じであっても異なっていてもよい。
【0036】
本発明は、n-ヘキサンのような有毒な溶媒を使用しなくてもよく、即ち、本発明では、人体に優しく、環境にやさしい溶媒を優先的に選択する。また、本発明では抽出に熱湯を使用しなくてもよく、即ち、本発明では、溶媒抽出(温度は55℃を超えない)を優先的に選択する。
【0037】
[混合溶液分離工程]
【0038】
本発明の米糠抽出組成物の調製方法は、抽出した混合溶液を遠心分離又は濾過して米糠と溶媒を分離し、上澄み液又は濾液を得る工程を含む。
【0039】
遠心分離を用いる実施形態では、米糠を溶媒から分離することができる遠心分離であれば、具体的な遠心分離の速度、回数などは限定されない。また、濾過を用いる実施形態では、米糠を溶媒から分離することができる限り、濾過に使用される機器(例えば、フィルタスクリーン、フィルタエレメントなど)や濾過孔径は限定されず、分離状況に応じて適宜調整することができる。
【0040】
一実施形態では、混合抽出工程及び混合溶液分離工程はバッチで行われ、例えば、3回に分けて、合計3回分の上澄み液又は濾液を得て、すべての上澄み液又は濾液を収集した後、後続の脱色浄化工程(場合によっては省略可能)、及び減圧濃縮工程を行うことができる。一実施形態では、抽出及び分離状況に応じて、各バッチを個別に抽出及び分離することも、同じバッチを分離(濾過)してから1~2回抽出することもできる。
【0041】
[脱色浄化工程]
【0042】
一実施形態では、混合溶液分離工程の後、分離した上澄み液又は濾液を脱色及び浄化し、次に後続の減圧濃縮工程を行うことができる。脱色及び浄化に使用される材料は限定されないが、米糠抽出物の品質向上の観点から、活性炭を使用することが好ましい。
【0043】
[減圧濃縮工程]
【0044】
本発明の米糠抽出組成物の調製方法は、上澄み液又は濾液を減圧濃縮して米糠抽出物を得る工程を含み、減圧濃縮の方法は限定されず、例えば、減圧蒸留、真空濃縮などの方法であってもよい。
【0045】
一実施形態では、減圧濃縮工程で溶媒を回収することができ、回収した溶媒の濃度は、約80%超であり、この回収した溶媒を本発明の溶媒として使用して、資源節約及び循環経済の効果を得ることもできる。回収した溶媒の具体的な濃度は、混合抽出工程で使用される溶媒の濃度に依存するが、本発明はそれに限定されない。
【0046】
一実施形態では、減圧濃縮は、減圧蒸留方法を用いて上澄み液又は濾液の体積を約18~22倍(例えば、約19倍、20倍、21倍、又は上記の任意の2つの値の間の倍率である)に濃縮して米糠抽出物(濃縮液)を得て、後続の加工を行うことであるが、本発明はそれに限定されない。
【0047】
一実施形態では、濃縮液を場合によって更に濃縮して、より粘性の高い米糠抽出物を得ることができ、例えば、上澄み液又は濾液の体積を約23倍、24倍又は25倍に濃縮して米糠抽出物(濃縮液)を得ることができる。一実施形態では、米糠原料の総重量と比較して、抽出された米糠抽出物の重量は、約12~18%(例えば、約13%、14%、15%、16%、17%、又は上記の任意の2つの値の間の重量パーセント濃度)であるが、本発明はそれに限定されない。
【0048】
[加工工程]
【0049】
本発明の米糠抽出組成物の調製方法は、米糠抽出物を製品としての米糠抽出組成物に加工する加工工程を含み、具体的な方法は米糠抽出組成物の剤形に応じて適宜調整される。
【0050】
米糠抽出組成物を液体にする実施形態では、加工工程は、米糠抽出物に賦形剤を添加して米糠抽出組成物を調製することであり、ここで、賦形剤は、水、油、乳化剤、防腐剤、共溶媒などを含み、米糠抽出組成物は、米糠抽出物を20~30%(例えば、22%、24%、26%、28%、又は上記の任意の2つの値の間の濃度)含有する液体の剤形になる。
【0051】
本発明の賦形剤に含まれる水、油、乳化剤、防腐剤、共溶媒などの各成分の具体的な種類及び含有比率は限定されず、製品(米糠抽出組成物)の状態に応じて適宜調整することができる。
【0052】
米糠抽出組成物を粉末にする実施形態では、加工工程は、米糠抽出物に植物デンプンを添加して米糠抽出組成物を調製することであり、ここで植物デンプンの添加比率は、米糠抽出物体積(単位がミリリットル):植物デンプン重量(単位がグラム)が1:0.4~1:2(例えば、約1:0.5、1:0.6、1:0.7、1:0.8、1:0.9、1:1、1:1.1、1:1.2、1:1.3、1:1.4、1:1.5、1:1.6、1:1.7、1:1.8、1:1.9、又は上記の任意の2つの値の間の添加比率)であり、また、噴霧乾燥して、米糠抽出組成物を粉末にする。
【0053】
一実施形態では、植物デンプンの具体的な種類は限定されないが、粉末化の品質向上の観点から、植物デンプンは好ましくは、マルトデキストリン、コーンスターチ、小麦デンプン、米デンプン、又はタピオカデンプンを含む。
【0054】
一実施形態では、米糠抽出物(濃縮物)を均一に混合し、後続の噴霧乾燥を行うため、噴霧乾燥の前に、乳化剤、防腐剤、及び共溶媒を添加する工程を含んでもよい。使用される乳化剤、防腐剤、共溶媒などの成分の具体的な種類及び含量比率は限定されず、製品(米糠抽出組成物)の状態に応じて適宜調整することができる。
【0055】
一実施形態では、本発明では、米糠抽出物(濃縮物)を液体又は粉末の剤形(米糠抽出組成物)にした後、細胞試験によりその効果の再現性を証明する。
【0056】
[品質管理]
【0057】
米糠は天然物であるため、同じプロセスでも米の産地やその年の気候などの因子により品質に差が生じる。したがって、バッチ間の違いを確認し、米糠抽出濃縮液と植物デンプンの噴霧乾燥比率を調整するために、指標成分が必要である。
【0058】
指標成分としては、例えば、オリザノール、ビタミンE、スクアレン、グルコシルセラミド(glucosyceramide、GluCer)などを使用することができる。そのうち、グルコシルセラミドは微量で判別しやすいため、本発明では、米糠抽出物中のグルコシルセラミド濃度を測定することにより、米糠抽出物と植物デンプンの添加比率を調整することが好ましい。
【0059】
[スキンケアにおける用途]
【0060】
本発明は更に、スキンケアにおける米糠抽出物の用途を提供し、米糠抽出物は上記の調製方法によって調製され、米糠抽出物は細胞毒性、光毒性及び皮膚刺激性を有さず、スキンケアは、肌美白、抗老化、抗炎症、抗アレルギーを含む。
【0061】
一実施形態では、細胞試験により、本発明の米糠抽出物の安全性を確認し、その安全性は、細胞生存率/細胞毒性、光毒性、及び皮膚刺激性(インビトロ皮膚刺激性)を含む。また、細胞試験により、本発明の米糠抽出物の効果を確認し、その効果は、美白、抗老化、抗炎症、及び抗アレルギーを含む。
【0062】
一実施形態では、本発明の米糠抽出組成物に含まれる米糠抽出物の有効量は7.8~1000μg/mlであり、例えば、15.6μg/ml、31.2μg/ml、62.5μg/ml、125μg/ml、250μg/ml、500μg/ml、又は上記の任意の2つの値の間の有効量であってもよい。
【0063】
本発明の米糠抽出組成物の調製方法を説明するために、いくつかの実施例及び比較例を以下に列挙するが、これらは本発明を限定することを意図するものではなく、当業者であれば、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、様々な変更及び修正を行うことができ、また、以下で使用される材料はすべて市販されており、容易に入手できる。
【実施例0064】
実験1:米糠抽出物の調製
【0065】
本実験では、米糠100gを溶媒(エタノール400mLと水50mLの混合溶液、即ち89%エタノール)に加え、42℃で1時間撹拌しながら抽出し、遠心分離して上澄み液を取り、更に抽出を2回繰り返し、合計3回分の上澄み液を得た。すべての上澄み液を合わせて約1000~1200mLとし、活性炭で処理し、減圧濃縮して、約15gの粘性抽出物(米糠抽出物)を得て、抽出率は約15%であった。
【0066】
実験2:細胞生存率/細胞毒性試験
【0067】
本実験では、まず、8×103個のマウスL929線維芽細胞株を96ウェルプレートに接種し、24時間の細胞付着後、異なる濃度の米糠抽出物で24~48時間処理した後、培養液を除去し、MTS試薬を加えて細胞と2~4時間反応させ、マイクロプレートリーダーで波長490nmでの吸光度を測定した。陰性対照群NC(negative control)は、米糠抽出物を含まない培養液(1%DMSO)であり、細胞の生存が確認され、陽性対照群PC(positive control)は、5%DMSOで処理された細胞であり、細胞死が確認された。陰性対照群の吸光度を細胞生存率100%として実験群との比較分析を行い、細胞生存率80%をサンプルの安全濃度基準値とした。
【0068】
図1は、米糠抽出物の細胞毒性試験の結果である。
図1から、本発明の調製方法により得られた米糠抽出物は、500μg/mLで90%以上の生存率を示し、1000μg/mLの高濃度でも依然として70%の生存率を示すことが分かる。
【0069】
実験3:光毒性試験
【0070】
本実験では、OECDガイドラインNo.432を参考に、1×104個のマウス3T3細胞株を2枚の96ウェルプレートに接種し、24時間培養後、米糠抽出物とCPZ(クロルプロマジン、陽性対照)をそれぞれ加え、各群は8濃度を含む必要があり、そして、暗所で37℃で1時間培養した後、1枚のプレートの細胞をUVA(5J/cm2)に0.5~1時間曝露し、もう1枚のプレートを暗所に保管した。新しい細胞培養液に交換し、18時間培養した。ニュートラルレッド色素を加えて3時間作用させ、細胞をリン酸緩衝液で洗浄し、細胞内のニュートラルレッドを抽出し、マイクロプレートリーダーで波長540nmでの吸光度を測定し、読み取り値が高いほど細胞の生存率が高いことを示す。被験物質濃度に対応する細胞生存率反応曲線を描き、IC50を算出した。光刺激因子(PIF)の計算式[IC50(-UV)/IC50(+UV)]≧6は、光毒性のリスクがあることを示す。
【0071】
図2は、米糠抽出物の光毒性試験の結果であり、光照射後に細胞生存曲線が左にシフトする場合、光毒性があることを意味する。
図2から、本発明の調製方法により得られた米糠抽出物のPIF値が1.28~1.67(曲線を計算することさえできないバッチもある)であることが分かる。上記の結果から、陽性対照と比較して、CPZはいずれも31を超え、米糠抽出物のPIF値はいずれも2未満であり、即ち、本発明の米糠抽出物の光毒性リスクは極めて低いことがわかる。
【0072】
実験4:皮膚刺激性試験(インビトロ皮膚刺激性)
【0073】
本実験では、OECDガイドラインNo.439を参考に、ケラチノサイトを試験用に皮膚模倣再構成細胞角質層に培養し、試験濃度(通常、製品に添加する最高濃度又はその2~3倍の濃度)を選択して皮膚模倣組織表面(頂端表面)に塗布して室温で15分間作用させ、陽性対照群PCは5%SDSで塗布されたものであり、陰性対照群NCは米糠抽出物を調製するための溶媒(鉱物油)であった。皮膚表面サンプルを取り出し、リン酸緩衝液で表面を3回洗浄した後、MTS試薬を加えて24時間作用させ、マイクロプレートリーダーで波長490nmでの吸光度を測定し、陰性対照群の吸光度を生存率100%とし、陽性対照群の細胞生存率は50%未満である必要があり、試験したサンプルの細胞生存率が50%を超える場合、皮膚への刺激性はないと見なされる。
【0074】
図3は、米糠抽出物の皮膚刺激性試験の結果である。
図3から、本発明の調製方法により得られた米糠抽出物は、50mg/mLの高濃度でも皮膚刺激性がないことがわかる。
【0075】
実験5:美白試験:チロシナーゼ活性インビトロ阻害試験(チロシナーゼのインビトロ阻害)
【0076】
本実験では、異なる濃度のサンプルを含む緩衝液を96ウェルプレートに添加し、陽性対照群PCはコウジ酸(最終濃度6.25μg/ml)を含み、陰性対照群NCは試験物質を含まない緩衝液(2%DMSO)であった。125Uのマッシュルームチロシナーゼを加え、室温で5分間作用させた後、基質L-チロシンを加え、マイクロプレートリーダーで波長475nmにおける1分間あたりの吸光度変化を合計30分間測定し、チロシナーゼ活性が阻害されていない場合、吸光度は時間とともに増加し、吸光度の増加低下は活性が阻害されていることを示し、チロシナーゼ活性を比較するために、0~15分の単位時間当たりの吸光度の変化を計算した。
【0077】
図4は、米糠抽出物のチロシナーゼ活性インビトロ阻害の結果である。
図4から、本発明の調製方法により得られた米糠抽出物は、チロシナーゼ活性の阻害において濃度と正の相関関係にあることがわかる。
【0078】
実験6:美白試験:メラニン形成抑制試験(B16F10細胞における抗メラニン形成)
【0079】
本実験では、まず2×104個の黒色腫細胞株(B16/F10)を6ウェル培養プレートに接種し、24時間の付着後に培養液を除去し、100ng/mLのメラノサイト刺激ホルモン(α-MSH)を加えて30分間反応させ、次に2倍濃度の抽出物を含む等量の細胞培養液を加え、陰性対照群NCは米糠抽出物を含まない細胞培養液であり(α-MSHで処理されたが、米糠抽出物を含まない)、陽性対照群PCは、0.5mg/mlコウジ酸(α-MSHで処理された)であり、細胞バックグラウンド値群(ベースライン)はα-MSHで処理されなかった。72時間培養後、培養液を除去し、リン酸緩衝液で洗浄し、0.25%トリプシンを加えて細胞を剥離し、遠心分離によって細胞を収集し、次に滅菌リン酸緩衝液で細胞を2~3回洗浄し、沈殿した細胞塊にM-PER細胞溶解液100ulを加えて細胞を破壊してから遠心分離し、上澄み液を採取してタンパク質濃度を定量化し、沈殿物に1N水酸化ナトリウム溶液を加えて80℃で2時間反応させた後、上澄み液を96ウェルプレートに移し、マイクロプレートリーダーで波長405nmでの吸光度を測定し、吸光度が小さいほど、メラニンが少ないことを示す。メラニン吸光度を自体のタンパク質濃度で割って正規化した後、実験群と陰性対照群の値を比較し、陰性対照群のメラニン含有量を100%とした。
【0080】
図5は、米糠抽出物のメラニン形成抑制試験の結果である。
図5から、本発明の調製方法により得られた米糠抽出物は、50μg/mLの濃度でメラニン形成を抑制する傾向を示し、250μg/mLでの抑制効果は500μg/mLのコウジ酸よりも優れていたことがわかる。
【0081】
実験7:美白試験:メラノソーム貪食試験(ケラチノサイトへのメラノソーム転移)
【0082】
実験5~6の2つの美白試験では、細胞外試験(インビトロ)及び細胞試験の結果に差異が見られた。これは、米糠抽出物には、美白に関連する複数の生理学的メカニズムがあるためである可能性がある。そこで、美白効果を更に検証し、本発明の調製方法により得られた米糠抽出物の美白メカニズムを別の角度から検討するために、別の細胞試験を行った。
【0083】
メラニンは強い抗酸化力を有し、ケラチノサイトが紫外線によって刺激されると、遺伝物質であるリボ核酸の変異を避けるために、ケラチノサイトはメラノサイトによって分泌されるメラノソームを貪食し、細胞核を取り囲んで遺伝物質を保護する。このような正常な防御メカニズムも、肌が黒くなる原因の1つである。低成長因子(即ち、飢餓)の刺激下では、ケラチノサイトの貪食作用(エンドサイトーシス)が促進されるため、メラノソームの大きさに相当する蛍光ビーズでメラノソームを模擬し、抽出物がケラチノサイトによるメラノソーム貪食を阻害できるか否かを観察し、黒化を阻害するメカニズムを理解する。
【0084】
本実験では、まず、1×104個のケラチノサイトを24ウェルプレートに接種し、10%血清(成長因子)培地で培養して付着させた後、0~2%血清培養条件下で米糠抽出物を添加し、4~6時間共培養した後、メラノソーム相当の粒径の赤色蛍光マイクロビーズ(0.5μm)を添加して2時間作用させた。貪食されていない蛍光マイクロビーズを取り除き、細胞を4%ホルマリン溶液で固定し、DAPIで細胞核を染色し、蛍光顕微鏡(ex/em:580/605nm)で50個の細胞に貪食された蛍光マイクロビーズの量を観察及び計数して平均値を算出した。0~5個:0点、6~10個:1点、11~15個:2点、16~20個:3点、21~25個:4点、26個以上:5点。ブランク対照群PCは、10%成長因子濃度(10%血清、十分な栄養、ケラチノサイトは貪食しない)で培養し、陰性対照群NCは、抽出物を含まない0~2%血清(例えば、2%血清、飢餓はケラチノサイトの貪食作用を刺激する)で培養した。
【0085】
図6は、米糠抽出物のメラノソーム貪食試験の結果である。
図6から、本発明の調製方法により得られた米糠抽出物は、16~40μg/mLの濃度で濃度と正の相関でケラチノサイトによるメラノソーム貪食を阻害する効果を示したことがわかる。
【0086】
実験8:抗老化試験
【0087】
本実験では、まず、5×104個の線維芽細胞を6ウェルプレートに接種し、一晩培養した後、血清を含まない新しい培養液に交換し、8mMヒドロキシ尿素と抽出物を加えて24時間処理した。血清を含まない新しい培養液に交換した後に更に24時間培養し、細胞をリン酸緩衝衝液で2回洗浄し、3.7%ホルマリン溶液で固定し、β-ガラクトシダーゼ染色を行った。細胞バックグラウンド値群(ベースライン)はヒドロキシ尿素で処理されておらず、陰性対照群NCはヒドロキシ尿素で処理されたが、米糠抽出物が添加されず、ヒドロキシ尿素は老化を誘導し、細胞内のβ-ガラクトシダーゼ(SA-β-ガラクトシダーゼ)の増加につながるため、細胞が染色後に青色を示し、青色の比率が低いほど細胞が抗老化特性を有することを示す。光学顕微鏡で観察及び撮影し、3~5視野で100個の細胞中の青色反応の比率を計数した。
【0088】
図7は、米糠抽出物の抗老化試験の結果である。
図7から、本発明の調製方法により得られた米糠抽出物は、細胞の青色比率を減少させることができ、濃度と正の相関を示し、抗老化特性を示すことが分かる。
【0089】
実験9:抗炎症試験
【0090】
本実験では、まず2×104個のマクロファージ(RAW264.7)を96ウェルプレートに接種し、細胞が付着した後、元の培養液を取り除いてリポ多糖(LPS)250ng/mLと米糠抽出物を含む新しい培養液を加え、陰性対照群NCは米糠抽出物を含まない培養液(ニトロアルギニンを投与しなかった)であり、陽性対照群PCには1mMニトロアルギニン(nitroarginine、LNNA)を投与した。LPSは亜硝酸塩の上昇を誘導するが、LNNAは亜硝酸塩の上昇を抑制する。細胞培養24時間後、培養液を回収し、Griess試薬と反応させて生成した亜硝酸塩の量を測定した。亜硝酸塩は、細胞内の炎症調節因子である一酸化窒素(NO)の指標として使用でき、NOの生成を抑制することは抗炎症効果があることを表し、したがって亜硝酸塩の生成量が少ないほど抗炎症効果が高くなる。
【0091】
図8は、米糠抽出物の抗炎症試験の結果である。
図8から、本発明の調製方法により得られた米糠抽出物は、500μg/mLで明らかに亜硝酸塩を抑制することができ、抗炎症効果を有することがわかる。
【0092】
実験10:抗アレルギー試験
【0093】
本実験では、まず3×105個の好塩基球(RBL-2H3)を24ウェルプレートに接種し、24時間培養した後に元の培養液を除去した。実験群に米糠抽出物を含む培養液を添加し、細胞を4~6時間培養した後、500ng/mLの薬剤A23187を添加して30分間刺激し、培養上澄み液を収集してヘキソサミニダーゼ(β-ヘキソサミニダーゼ)の活性を測定した。細胞バックグラウンド値群(ベースライン)は、ケトチフェンで処理されておらず、A23187でも処理されていないものであり、陰性対照群NCは米糠抽出物を含まない培養液(ケトチフェンを投与しなかったが、酵素活性を誘導するためにA23178を投与した)であり、陽性対照群PCには、0.3mMケトチフェンを投与した後、酵素活性を誘導するためにA23178を投与した。培養上澄み液30μLと酵素基質溶液(p-ニトロフェニルN-アセチル-Dグルコサミン、濃度1.3mg/mL)50μLを37℃で1時間反応させ、0.5M水酸化ナトリウム溶液を加えて反応を停止させ、マイクロプレートリーダーで波長405nmでの吸光度を測定した。吸光度が低いほど、β-ヘキソサミニダーゼの活性が低くなり、アレルギーの緩和効果が高くなる。A23187は、RBL-2H3細胞の脱顆粒を誘導し、且つ多くの炎症メディエーターを放出し、そのうち、β-ヘキソサミニダーゼは、アレルギーが発生しているか否かを検出するための生化学的指標としてよく使用される。
【0094】
図9は、米糠抽出物の抗アレルギー試験の結果である。
図9から、本発明の調製方法により得られた米糠抽出物は、500μg/mLでβ-ヘキソサミニダーゼの活性を明らかに阻害することができ、抗アレルギー効果を有することがわかる。
【0095】
実験11:加工工程-液体調製
【0096】
本実験は、油相と水相の2つの部分に分けられた。
油相:米糠抽出物、乳化剤、グリセリン、及び防腐剤を約50℃に加熱して混合した。
水相:水、防腐剤、共溶媒などを約50℃に加熱して混合した。
次に、油相を水相に注ぎ、均一に混合して、米糠抽出物を20~30%含有する米糠抽出組成物(液体)を調製した。
【0097】
実験12:加工工程-粉末調製
【0098】
スキンケア製品を製造する際に秤量・配合において粉末原料の方が便利であることを考慮し、更に、本発明の調製方法の産業上の利用可能性を検証するために、本実験では、抽出スケールを100倍に拡大し、米糠抽出物を更に粉末にした。
【0099】
米糠10kgに溶媒(エタノール60Lと水7.5Lの混合溶液)を加えて42℃で1時間撹拌しながら抽出し、遠心分離後、上澄み液をとって米糠を濾過し、更に溶媒(エタノール50Lと水6.25Lの混合溶液)を加えて2回目の抽出上澄み液を得た。上澄み液を合わせ、活性炭で処理して約100Lを得た。減圧濃縮して濃縮液(米糠抽出物)約5Lを得た後、防腐剤Spectrastat(商標)Eとブタンジオールを加え、マルトデキストリン3000gで噴霧乾燥して米糠抽出組成物(粉末)を得た。
【0100】
実験13:米糠抽出組成物の美白効果
【0101】
前述の実験は米糠抽出物を用いて行われ、米糠抽出物の美白効果が最も高いことが確認されたため、本実験では米糠抽出組成物(粉末)についても米糠抽出物と同様の美白に関連する細胞試験を行い、本発明の調製方法により得られた米糠抽出組成物にも美白効果があることを証明する。
【0102】
本実験の方法は、米糠抽出物を米糠抽出組成物(粉末)に置き換えたことを除いて、前述の実験6~7のメラニン形成抑制試験(B16F10細胞における抗メラニン形成)、メラノソーム貪食(ケラチノサイトへのメラノソーム転移)試験の実験方法と同じである。
【0103】
図10~
図11は、それぞれ米糠抽出組成物のメラニン形成抑制試験及びメラノソーム貪食試験の結果である。
図10~
図11から、本発明の調製方法により得られた米糠抽出組成物は、0.1%濃度で500μg/mLのコウジ酸に匹敵するメラニン抑制効果及びケラチノサイトによるメラノソーム貪食を阻害する効果を有することが分かる。
【0104】
実験14:米糠抽出組成物の指標成分
【0105】
指標成分は、抽出バッチ間の違いを確認するため、及び濃縮液(米糠抽出物)と植物デンプンの噴霧乾燥比率を調整するために使用される。本実験では、米糠抽出組成物0.5~0.25gに水10mLを加えて均一に混合し、100%メタノールで20~50倍に希釈し、濾過して5uLを注入し、LC-MSMSを使用してグルコシルセラミド(GluCer)の定量及び定性分析を行った。使用されたカラムはAgilent Poroshell 120 EC-C18 4.6*50mm 2.7-Micron、移動相は0.5~5mM酢酸アンモニウムを含む100%メタノール、流速は1mL/min、温度は40℃であった。必要に応じて、ガラクトシルセラミドを内部標準として加えることができる。
【0106】
以下の表1及び
図12は、各GluCerのイオンパラメータ及びクロマトグラムである。表1及び
図12から、本発明の調製方法により得られた米糠抽出組成物中のGluCer濃度は約0.01~0.03%であることがわかる。
【0107】
【0108】
実験15:温度の重要性
【0109】
本実験は、本発明の調製方法によって規定される温度の重要性を説明するために使用される。米糠4kgに溶媒(エタノール24Lと水3Lの混合溶液)を加え、42℃で1時間撹拌しながら抽出し、遠心分離後、上澄み液をとって米糠を濾過し、更に溶媒(エタノール20Lと水2.5Lの混合溶液)を加えて2回目の抽出上澄み液を得た。上澄み液を合わせ、活性炭で処理して約40Lを得た。減圧濃縮して濃縮液(米糠抽出物)約1.9Lを得た後、防腐剤Spectrastat(商標)Eとブタンジオールを加え、マルトデキストリン2500gで噴霧乾燥した。LC-MSMSでGluCer濃度を測定したところ、0.019%で正常群であった。
【0110】
米糠10kgに溶媒(エタノール60Lと水7.5Lの混合溶液)を加えて42℃で1時間撹拌しながら抽出し、遠心分離後、上澄み液をとって米糠を濾過し、更に溶媒(エタノール50Lと水6.25Lの混合溶液)を加えて2回目の抽出上澄み液を得た。上澄み液を合わせ、活性炭で処理して約105Lを得た。減圧濃縮して濃縮液(米糠抽出物)約5Lを得た後、防腐剤Spectrastat(商標)Eとブタンジオールを加え、濃縮液約2.5Lを採取して70℃の水浴に入れて1時間高温処理した。その後、マルトデキストリン3000gで噴霧乾燥し、LC-MSMSでGluCer濃度を測定したところ、約0.029%で高温処理群であった。米糠抽出組成物中のGluCer濃度は比較的高く、理論的には比較的高い美白組成物を含んでおり、細胞試験の結果はより良いはずである。
【0111】
実験方法は、米糠抽出物を正常群と高温処理群に置き換えたことを除いて、実験6~7と同様である。
図13~
図14はそれぞれ、米糠抽出組成物(正常群、高温処理群)のメラニン形成抑制試験及びメラノソーム貪食試験の結果である。
図13~
図14から、高温処理群はGluCer濃度が高い(0.029%)ものの、メラニン形成抑制試験及びメラノソーム貪食試験の結果が正常群(0.019%GluCer)の半分に過ぎず、抽出温度が組成物の美白効果に大きく影響することがわかる。したがって、美白効果を確実にするために、本発明の調製方法によって規定される温度は、55℃未満である必要があり、好ましくは40~50℃である。
【0112】
要約すると、本発明は、廃棄されがちであるがヘルスケア成分が豊富な米糠をリサイクルして米糠抽出組成物を調製し、その調製工程が簡単であり、また、減圧濃縮された溶媒を回収して本発明の溶媒として再利用することができ、即ち、本発明は、資源節約及び循環経済の効果を得ることができ、グリーン技術の範囲に属する。また、米糠抽出組成物は、美白、抗老化、抗炎症、抗アレルギーなどの効果を有する。
【0113】
上述の実施形態は、本発明の技術的思想と特徴を説明するためだけのものであり、その目的は、当業者が本発明の内容を理解し、それに従って実施できるようにすることであるが、本発明の特許範囲を限定するために使用できない場合、即ち、本発明で開示された精神に基づいてなされたすべての均等な変更又は修正は、依然として本発明の特許範囲に含まれるべきである。
前記上澄み液又は濾液を減圧濃縮する前に、活性炭を使用して脱色及び浄化する工程を含み、前記減圧濃縮は、減圧蒸留方法を用いて、前記上澄み液又は濾液の体積を18~22倍に濃縮して前記米糠抽出物を得ることである、請求項1に記載の米糠抽出組成物の調製方法。
前記加工は、賦形剤を添加して米糠抽出組成物を調製することであり、前記賦形剤は、水、油、乳化剤、防腐剤、及び共溶媒を含み、前記米糠抽出組成物は、前記米糠抽出物を20~30%含有する液体の剤形になる、請求項1に記載の米糠抽出組成物の調製方法。
前記加工は、植物デンプンを添加して米糠抽出組成物を調製することであり、前記植物デンプンの添加比率は、米糠抽出物体積:植物デンプン重量が1:0.4~1:2であり、また、噴霧乾燥して、前記米糠抽出組成物を粉末の剤形にし、前記重量の単位がグラムであり、前記体積の単位がミリリットルである、請求項1に記載の米糠抽出組成物の調製方法。
前記噴霧乾燥の前に、乳化剤、防腐剤、及び共溶媒を添加する工程を含み、前記植物デンプンは、マルトデキストリン、コーンスターチ、小麦デンプン、米デンプン、又はタピオカデンプンを含む、請求項5に記載の米糠抽出組成物の調製方法。
スキンケアにおける米糠抽出組成物の用途であって、前記米糠抽出組成物は請求項1に記載の調製方法によって調製され、前記米糠抽出組成物は細胞毒性、光毒性及び皮膚刺激性を有さず、前記スキンケアは、肌美白、抗老化、抗炎症、抗アレルギーを含む、スキンケアにおける米糠抽出組成物の用途。