(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125141
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】抗原応答性増強剤
(51)【国際特許分類】
A23L 33/10 20160101AFI20240906BHJP
A61K 35/68 20060101ALI20240906BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240906BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240906BHJP
A61K 31/716 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
A23L33/10
A61K35/68
A61P43/00 111
A61P37/04
A61K31/716
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023111099
(22)【出願日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】P 2023032787
(32)【優先日】2023-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000192590
【氏名又は名称】株式会社神鋼環境ソリューション
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河野 高▲徳▼
(72)【発明者】
【氏名】西田 典永
(72)【発明者】
【氏名】内藤 淳子
【テーマコード(参考)】
4B018
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B018LE02
4B018MD33
4B018MD35
4B018MD89
4B018ME14
4B018MF08
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA20
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB09
4C086ZC41
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB01
4C087CA09
4C087MA52
4C087NA14
4C087ZB09
4C087ZC41
(57)【要約】
【課題】抗原応答性増強剤を提供すること。
【解決手段】ユーグレナ、パラミロン、パラミロン加工物、及びβ-1,3-グルカンからなる群より選択される少なくとも1種を含有する、抗原応答性増強剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーグレナ、パラミロン、パラミロン加工物、及びβ-1,3-グルカンからなる群より選択される少なくとも1種を含有する、抗原応答性増強剤。
【請求項2】
ユーグレナ、パラミロン、及びパラミロン加工物からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、請求項1に記載の抗原応答性増強剤。
【請求項3】
ユーグレナを含有し、且つ前記ユーグレナがユーグレナ・グラシリスである、請求項1に記載の抗原応答性増強剤。
【請求項4】
ユーグレナを含有し、且つ前記ユーグレナがユーグレナ・グラシリスEOD-1株(受託番号FERM BP-11530)である、請求項1に記載の抗原応答性増強剤。
【請求項5】
免疫老化抑制剤である、請求項1~4のいずれかに記載の抗原応答性増強剤。
【請求項6】
CD28陽性CD57陰性T細胞増加促進、ナイーブT細胞増加促進、ナイーブT細胞におけるCD28発現増加促進、単球におけるCD80発現増加促進、単球におけるCD86発現増加促進、単球におけるHLA-DR発現増加促進、CD28陰性CD57陽性T細胞減少促進、最終分化T細胞減少促進、単球におけるCD38発現増加促進、T細胞におけるCD38発現増加促進、制御性T細胞増加促進、インターロイキン-17A増加促進、インターロイキン-17C増加促進、及び顆粒球マクロファージコロニー刺激因子増加促進からなる群より選択される少なくとも1種に用いるための、請求項1~4のいずれかに記載の抗原応答性増強剤。
【請求項7】
食品組成物、栄養補助食品、食品添加剤、又は医薬である、請求項1~4のいずれかに記載の抗原応答性増強剤。
【請求項8】
経口組成物である、請求項1~4のいずれかに記載の抗原応答性増強剤。
【請求項9】
ユーグレナ、パラミロン、パラミロン加工物、及びβ-1,3-グルカンからなる群より選択される少なくとも1種を含有する、免疫老化抑制剤。
【請求項10】
ユーグレナ、パラミロン、パラミロン加工物、及びβ-1,3-グルカンからなる群より選択される少なくとも1種を含有する、CD28陽性CD57陰性T細胞増加促進、ナイーブT細胞増加促進、ナイーブT細胞におけるCD28発現増加促進、単球におけるCD80発現増加促進、単球におけるCD86発現増加促進、単球におけるHLA-DR発現増加促進、CD28陰性CD57陽性T細胞減少促進、最終分化T細胞減少促進、単球におけるCD38発現増加促進、T細胞におけるCD38発現増加促進、制御性T細胞増加促進、及び顆粒球マクロファージコロニー刺激因子増加促進からなる群より選択される少なくとも1種に用いるための組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗原応答性増強剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
生物は、外来抗原に対する防御機構として、外来抗原を取り込んだ抗原提示細胞がT細胞に抗原を提示し、提示を受けたT細胞は活性化・増殖し、外来抗原に対する各種免疫作用を発現させる、という防御機構を有する。この起点となる抗原応答性(すなわち、抗原提示細胞とT細胞との反応)は、この防御機構にとって特に重要である。
【0003】
一方、生物は、加齢に伴い、抗原刺激後の増殖能が低下している又は失われている老化T細胞や最終分化型T細胞が増加し、一方で抗原刺激後の増殖能が高いナイーブT細胞や老化が進んでいないT細胞が減少することが報告されている。このため、老化による免疫機能の低下を防ぐために、または老化に関係なく上記防御機構を高めるためには、ナイーブT細胞や老化が進んでいないT細胞の抗原応答性を高めることが特に重要である。
【0004】
ユーグレナは、ミドリムシ属(=ユーグレナ属)に属する微細藻類であり、食品材料として利用されている。また、ユーグレナ抽出物を皮膚に適用することも行われている(特許文献1)。また、パラミロンは、ミドリムシが産生するβ-1,3-グルカンであり、創傷治療やアレルギー抑制などに有用であることが報告されている。しかしながら、ユーグレナやβ-1,3-グルカンの抗原応答性に対する作用については未だしられていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、抗原応答性増強剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題に鑑みて鋭意研究した結果、ユーグレナ、パラミロン、パラミロン加工物、及びβ-1,3-グルカンからなる群より選択される少なくとも1種を含有する、抗原応答性増強剤、であれば、上記課題を解決できることを見出した。この知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明が完成した。即ち、本発明は、下記の態様を包含する。即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0008】
項1. ユーグレナ、パラミロン、パラミロン加工物、及びβ-1,3-グルカンからなる群より選択される少なくとも1種を含有する、抗原応答性増強剤。
【0009】
項2. ユーグレナ、パラミロン、及びパラミロン加工物からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、項1に記載の抗原応答性増強剤。
【0010】
項3. ユーグレナを含有し、且つ前記ユーグレナがユーグレナ・グラシリスである、項1又は2に記載の抗原応答性増強剤。
【0011】
項4. ユーグレナを含有し、且つ前記ユーグレナがユーグレナ・グラシリスEOD-1株(受託番号FERM BP-11530)である、項1~3のいずれかに記載の抗原応答性増強剤。
【0012】
項5. 免疫老化抑制剤である、項1~4のいずれかに記載の抗原応答性増強剤。
【0013】
項6. CD28陽性CD57陰性T細胞増加促進、ナイーブT細胞増加促進、ナイーブT細胞におけるCD28発現増加促進、単球におけるCD80発現増加促進、単球におけるCD86発現増加促進、単球におけるHLA-DR発現増加促進、CD28陰性CD57陽性T細胞減少促進、最終分化T細胞減少促進、単球におけるCD38発現増加促進、T細胞におけるCD38発現増加促進、制御性T細胞増加促進、インターロイキン-17A増加促進、インターロイキン-17C増加促進、及び顆粒球マクロファージコロニー刺激因子増加促進からなる群より選択される少なくとも1種に用いるための、項1~5のいずれかに記載の抗原応答性増強剤。
【0014】
項7. 食品組成物、栄養補助食品、食品添加剤、又は医薬である、項1~6のいずれかに記載の抗原応答性増強剤。
【0015】
項8. 経口組成物である、項1~7のいずれかに記載の抗原応答性増強剤。
【0016】
項9. ユーグレナ、パラミロン、パラミロン加工物、及びβ-1,3-グルカンからなる群より選択される少なくとも1種を含有する、免疫老化抑制剤。
【0017】
項10. ユーグレナ、パラミロン、パラミロン加工物、及びβ-1,3-グルカンからなる群より選択される少なくとも1種を含有する、CD28陽性CD57陰性T細胞増加促進、ナイーブT細胞増加促進、ナイーブT細胞におけるCD28発現増加促進、単球におけるCD80発現増加促進、単球におけるCD86発現増加促進、単球におけるHLA-DR発現増加促進、CD28陰性CD57陽性T細胞減少促進、最終分化T細胞減少促進、単球におけるCD38発現増加促進、T細胞におけるCD38発現増加促進、制御性T細胞増加促進、インターロイキン-17A増加促進、インターロイキン-17C増加促進、及び顆粒球マクロファージコロニー刺激因子増加促進からなる群より選択される少なくとも1種に用いるための組成物。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、抗原応答性増強剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】試験例1-1の項目(1):CD28+CD57-のCD4+ T細胞の割合(%)の測定結果を示す。Placeboは対照食摂取群、Activeは被験食摂取群を示す。縦軸は、試験終了時の測定値から試験開始時の測定値を減じた値を示す。各カラムは平均値を示す。*は群間で有意(P値<0.05, ウェルチのt検定)であることを示す。
【
図2】試験例1-1の項目(2):CD28+CD57-のCD8+ T細胞の割合(%)の測定結果を示す。グラフの説明は
図1と同様である。
【
図3】試験例1-1の項目(3):ナイーブ型 CD4+ T細胞の割合(%)の測定結果を示す。グラフの説明は
図1と同様である。
【
図4】試験例1-1の項目(4):最終分化型 CD4+ T細胞の割合(%)の測定結果を示す。グラフの説明は
図1と同様である。
【
図5】試験例1-2の項目(9):ナイーブ型CD4+ T細胞におけるCD28発現量の測定結果を示す。Placeboは対照食摂取群、EOD-1は被験食摂取群を示す。縦軸は、試験終了時の測定値から試験開始時の測定値を減じた値を示す。各カラムは平均値を示す。*は群間で有意(P値<0.05, ウェルチのt検定)であることを示す。
【
図6】試験例1-2の項目(10):ナイーブ型CD8+ T細胞におけるCD28発現量の測定結果を示す。グラフの説明は
図5と同様である。
【
図7】試験例1-3の項目(11):単球におけるCD80発現量の測定結果を示す。Placeboは対照食摂取群、EOD-1は被験食摂取群を示す。縦軸は、試験終了時の測定値から試験開始時の測定値を減じた値を示す。各カラムは平均値を示す。*は群間で有意(P値<0.05, ウェルチのt検定)であることを示す。
【
図8】試験例1-4の項目(14)~(18):ナイーブ型CD4+ T細胞、CD4+ セントラルメモリーT細胞(Tcm)、CD4+ エフェクターメモリーT細胞(Tem)、ナイーブ型CD8+ T細胞、及びCD8+ 最終分化T細胞(Temra)におけるCD38発現量の測定結果を示す。横軸中、SCRは試験開始時を示し、12Wは試験終了時を示し、縦軸がCD38発現量を示す。各ボックス中のバーが中央値を示す。SCR及び12Wそれぞれにおいて、左側が対照食摂取群を示し、右側が被験食摂取群を示す。各グラフ上方の値は、対照食摂取群と被験食摂取群との比較をlme4 package (v1.1-31)とemmeans package (v1.8.2) を用いて、介入を固定効果、個人をランダム効果とする線形混合効果モデルにより評価した場合のP値を示す。
【
図9】試験例1-4の項目(19)~(20):Intermediate単球、及びNonclassical単球におけるCD38発現量の測定結果を示す。グラフの説明は
図8と同様である。
【
図10】試験例1-5の項目(21):CD4+ T細胞中の制御性T細胞(Treg)の割合(%)の測定結果を示す。横軸中、SCRは試験開始時を示し、12Wは試験終了時を示し、縦軸がCD4+ T細胞中の制御性T細胞の割合を示す。各ボックス中のバーが中央値を示す。SCR及び12Wそれぞれにおいて、左側が対照食摂取群を示し、右側が被験食摂取群を示す。各グラフ上方の値は、対照食摂取群と被験食摂取群の比較を、lme4 package (v1.1-31)とemmeans package (v1.8.2) を用いて、介入を固定効果、個人をランダム効果とする線形混合効果モデルにより評価した場合のP値を示す。
【
図11】試験例1-6の項目(22)~(24):血清中のインターロイキン-17A(IL17A)、インターロイキン-17C(IL17C)、及び顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF(CSF2))の量の測定結果を示す。横軸中、SCRは試験開始時を示し、12Wは試験終了時を示し、縦軸がグラフ上方に示されるサイトカインの量(単位:pg/mL)を示す。各ボックス中のバーが中央値を示す。SCR及び12Wそれぞれにおいて、左側が対照食摂取群を示し、右側が被験食摂取群を示す。各グラフ上方の「p」は、対照食摂取群と被験食摂取群との比較で、RankProd package (v3.22.0) を用いたrank sum methodにて検定を行った場合のP値を示し、「FC」は、倍率変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0021】
本発明は、その一態様において、ユーグレナ、パラミロン、パラミロン加工物、及びβ-1,3-グルカンからなる群より選択される少なくとも1種を含有する、抗原応答性増強剤(本明細書において、「本発明の剤」と示すこともある。)に関する。以下に、これについて説明する。
【0022】
1.ユーグレナ
ユーグレナは、ミドリムシ属(=ユーグレナ属)に属する微細藻類であり、その限りにおいて特に制限されない。ユーグレナとして、具体的には、例えばEuglena gracilis(ユーグレナ・グラシリス)、Euglena longa、Euglena caudata、Euglena oxyuris、Euglena tripteris、Euglena proxima、Euglena viridis、Euglena sociabilis、Euglena ehrenbergii、Euglena deses、Euglena pisciformis、Euglena spirogyra、Euglena acus、Euglena geniculata、Euglena intermedia、Euglena mutabilis、Euglena sanguinea、Euglena stellata、Euglena terricola、Euglena klebsi、Euglena rubra、Euglena cyclopicolaなどが挙げられる。これらの中でも、本発明の効果をより確実に発揮できるという観点から、好ましくはユーグレナ・グラシリスが挙げられ、より好ましくはユーグレナ・グラシリスEOD-1株[2013年6月28日付で独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター{NITE-IPOD(郵便番号292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)}にブダペスト条約の規定下で、受託番号FERM BP-11530として国際寄託済み]が挙げられる。
【0023】
ユーグレナの形態は、ユーグレナの細胞体又はその成分の大半を含むものである限り、特に制限されない。ユーグレナの形態としては、例えばユーグレナの乾燥粉末形態、ユーグレナの懸濁液、ユーグレナエキス等が挙げられ、中でも、好ましくはユーグレナの乾燥粉末形態が挙げられる。
【0024】
ユーグレナの乾燥状態におけるパラミロン含有率は、例えば50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上である。
【0025】
ユーグレナは、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0026】
2.β-1,3-グルカン、パラミロン
β-1,3-グルカンは、グルコースがβ1,3結合のみで連結してなる1本の糖鎖(又は糖鎖構造)を主鎖として有するものであれば特に制限されない。β-1,3-グルカンは、直鎖状のものに限らず、分枝鎖を有するものも包含する。
【0027】
β-1,3-グルカン誘導体の重量平均分子量は、特に限定されないが、例えば1×104~2×106、好ましくは5×104~1×106、更に好ましくは1×105~1×106ある。なお、重量平均分子量は、GPC法により測定することができる。
【0028】
β-1,3-グルカンは、化学合成により得られたものであってもよいが、入手容易性等の観点から、各種生物が産生する天然β-1,3-グルカンが好ましい。天然β-1,3-グルカンとしては、例えばパラミロン、カードラン、ラミナラン、カロース、レンチナン、シゾフィラン等が挙げられる。これらの中でも、特に好ましくはパラミロンが挙げられる。以下、パラミロンについて説明する。
【0029】
パラミロンは、ユーグレナ由来のβ-1,3-グルカンであり、その限りにおいて特に制限されない。
【0030】
パラミロンが由来するユーグレナについては、上記「1.ユーグレナ」における説明と同様である。
【0031】
パラミロンの質量平均分子量は、特に限定されないが、例えば1×104~5×106、好ましくは2×104~1×106、より好ましくは5×104~1×106、さらに好ましくは1×105~5×105である。
【0032】
なお、質量平均分子量は、SEC-MALS分析により、以下の条件で測定 することができる:
検出器:多角度散乱検出器(Wyatt Technology製DAWN HELEOS II) 示差屈折計検出器(Wyatt Technology製Optilab T-rEX)使用カラム:TSKgel α-M 2本(東ソー製)移動相:0.05M臭化カリウム添加DMSO
流 速:0.5 mL/min。
【0033】
パラミロンは、ユーグレナの細胞内において、通常、β-1,3-グルカン鎖が形成する3重螺旋構造体が一定の規則性の基に高度に集積してなるパラミロン粒子として存在している。
【0034】
パラミロン粒子の形状は、特に制限されないが、通常は、偏平な回転楕円体状である。
【0035】
パラミロン粒子の粒子径分布は、特に制限されないが、例えば0.5~15μm、好ましくは1~6μmである。また、パラミロン粒子の平均粒子径も特に制限されないが、例えば1~10、好ましくは2~4μmである。
【0036】
パラミロンの形態は、パラミロンを含むものである限り、特に制限されない。ユーグレナの形態としては、例えばパラミロンの乾燥粉末形態、パラミロンの懸濁液等が挙げられ、中でも、好ましくはパラミロンの乾燥粉末形態が挙げられる。
【0037】
パラミロンは、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0038】
3.ユーグレナ及びパラミロンの製造方法
ユーグレナは、液体に含まれたユーグレナを培養する工程(培養工程)を含む方法により、大量に調製することが可能である。培養工程は、例えば公知の方法(例えば、特許第5883532号公報に記載の方法)に従って行うことができる。該培養工程では、典型的には、水と、ユーグレナと、ユーグレナが利用できる栄養素とを含む液体(培養液)を撹拌しつつ好気条件でユーグレナ属微細藻類を培養する。
【0039】
栄養素としては、糖類(グルコース(ブドウ糖)、フルクトース(果糖)などの単糖類)、ミネラル類(例えばナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、鉄、亜鉛、モリブデン、銅、リン、窒素、硫黄、又は、ホウ素など)、ビタミンB類(例えばビタミンB1(チアミン)、ビタミンB2(リボフラビン)、ナイアシン、パントテン酸、ビタミンB6(ピリドキシン、ピリドキサール、又はピリドキサミン)、ビタミンB12(シアノコバラミン)、葉酸、ビオチンなど)などが挙げられる。培養液中の栄養素の濃度は、ユーグレナの生存、増殖等が可能な濃度である限り特に制限されない。
【0040】
培養工程の光条件は特に制限されず、培養工程は明条件と暗条件のいずれで行われてもよい。従属栄養培養にて培養する際には暗条件で培養される。明条件としては、藻類を増殖させるための通常の光強度を採用することができる。暗条件としては、例えば10μmol/m2/s未満、好ましくは光が全く当たらない完全な暗所条件が挙げられる。
【0041】
培養工程における培養温度は、ユーグレナが増殖できる温度であれば、特に限定されない。該培養温度(培養液の温度)としては、例えば、20℃~35℃が採用される。
【0042】
培養工程における液体のpHは、ユーグレナが増殖できるpHであれば、特に限定されない。ユーグレナが増殖できるpHとしては、例えば3.0~5.5が採用される。
【0043】
培養工程の後に、液体の遠心分離や重力分離などによってユーグレナを濃縮することが好ましい。得られたユーグレナは、所望の形態に応じて、追加の処理(例えば、液体への懸濁、水中又は油中への分散、エキス抽出、乾燥粉末化等)に供することができる。
【0044】
パラミロン粒子は、公知の方法(例えば特許第5883532号公報に記載の方法)に従って又は準じて、ミドリムシから分離、単離、又は精製することによって製造することができる。パラミロン粒子は、例えばミドリムシの細胞膜を破壊することによって得られる細胞内容成分を回収することによって、容易に得ることができる。また、必要に応じて、パラミロン粒子を精製してもよい。パラミロン粒子の精製については各種知られており(例えば、特許第5883532号公報)、それらの方法に従って行うことができる。精製工程としては、例えば、界面活性剤処理工程、洗浄工程などが挙げられる。得られたユーグレナは、所望の形態に応じて、追加の処理(例えば、液体への懸濁、水中又は油中への分散、乾燥粉末化等)に供することができる。
【0045】
4.パラミロン加工物
パラミロン加工物は、パラミロンに対して加工処理、例えば物理処理、化学処理等することによって得られるものであり、その限りにおいて特に制限されない。パラミロン加工物としては、例えば、繊維化パラミロン、アモルファスパラミロン等が挙げられる。アモルファスパラミロンは、公知の方法に従って又は準じて、例えば特開2011-184592号公報に記載の方法を用いて化学的に処理することにより、得ることができる。
【0046】
パラミロン加工物としては、繊維化パラミロンが好ましい。以下に、繊維化パラミロンについて説明する。
【0047】
繊維化パラミロンは、ユーグレナ由来のβ-1,3-グルカンであり、繊維状の形態のものである限りにおいて特に制限されない。これまで、パラミロン粒子を化学処理(アルカリ処理等)して得られたアモルファスパラミロンが報告されているが、これは、電子顕微鏡で観察すると繊維化であるとは認められず、形や大きさが不定形の塊であるため、繊維化パラミロンには包含されない。
【0048】
繊維化パラミロンの重量平均分子量は、特に限定されないが、例えば1×104~2×107、好ましくは1×105~5×105である。
【0049】
なお、重量平均分子量は、SEC-MALS分析により、以下の方法で測定することができる:検出器:多角度散乱検出器(Wyatt Technology製DAWN HELEOS II) 示差屈折計検出器(Wyatt Technology製Optilab T-rEX)使用カラム:TSKgel α-M 2本(東ソー製)移動相:0.05M臭化カリウム添加DMSO
流 速:0.5 mL/min。
【0050】
繊維化パラミロンの繊維の直径は、特に制限されないが、例えば10~500 nm、好ましくは20~300 nm、より好ましくは50~200 nmである。繊維化パラミロンの繊維の直径は、通常、繊維化パラミロンの電子顕微鏡像に基づいて測定することができる。
【0051】
繊維化パラミロンの水中沈定体積は、特に制限されないが、例えば30~300 mL/g、好ましくは50~250 mL/g、より好ましくは70~200 mL/gである。
【0052】
水中沈定体積は以下の方法に従って又は準じて測定することができる:
「日本食物繊維学会監修、日本食物繊維学会編集委員会編(2008)食物繊維 ‐基礎と応用‐ 第3版, p.111 第一出版, 東京」に記載されている方法に準じて測定を行う。具体的には、次の通りである。サンプルのスラリー状の試験試料を、25 mL容積のプラスチックチューブに、乾燥質量換算で125 mg計り取り、プラスチックチューブを手で激しく振って、内容物を撹拌する。その後、25 mL容積のメスシリンダーに内容物を移し、25 mLになるまで純水を加える。メスシリンダー内の液体を撹拌した後、37℃で24時間静置する。これによりサンプルが沈殿し、界面を介して分けられる2つの層(沈殿したサンプルを主に含む層(下層)、及び水を主に含む層(上層))が生じる。下層の体積をメスシリンダーの目盛から求め、得られた体積をサンプル質量(乾燥質量)で除して、水中沈定体積(mL/g)を算出する。試験は3回又は4回行い、平均値及び標準偏差を算出する。
【0053】
繊維化パラミロンは、酵素による分解に対して、比較的高い耐性を有する。例えば、βグルカナーゼの分解により生成されるモノマー(グルコース)の量は、繊維化パラミロン1 g当たり、例えば0.1~50 mg、好ましくは1~10 mgである。
【0054】
この量は以下の方法に従って又は準じて測定することができる:
反応液[被検物質30 mg(乾燥重量)、緩衝液(東京化成工業社製 B0156、フタル酸水素カリウム-水酸化ナトリウムバッファー (pH4.0))5 mL、酵素液(日本バイオコン社製 endo-1,3-β-Glucanase (酵素含有量:50 units/mL))0.1 mL、純水、反応液量 10 mL]を調製し、40℃で24時間、45 rpmで水平振盪する。振盪後、直ちに凍結保存し、濃縮のために凍結乾燥する。凍結乾燥後、各試料に純水を0.5 mLずつ加え、攪拌する(20倍濃縮)。遠心分離(10000G、5分間、4℃)し、上澄を回収する作業を2回繰り返す。回収した上澄中のグルコース濃度を、測定キット(和光純薬工業社製、グルコースCII-テストワコー)を用いて測定する。測定値に基づいて、被検物質1 g当たりのグルコース生成量(mg)を算出する。
【0055】
繊維化パラミロンは、アルカリ溶液への溶解性が、比較的低い。例えば、繊維化パラミロンは、0.1~0.3Mの水酸化ナトリウム水溶液に対して溶解しない。ここで、「溶解しない」とは、例えば、当該水溶液に繊維化パラミロンを懸濁した後(例えば、直後~1時間経過後)の溶液の吸光度(660 nm)が、例えば0.1以上、好ましくは1.0以上であることを意味する。
【0056】
溶解性は以下の方法に従って又は準じて測定することができる:
被検物質250 mg(乾燥重量)をバイアル中の試験液(純水、0.1M NaOH水溶液、0.3M NaOH水溶液)10 mLに懸濁する。バイアルを20秒間、手で激しく振った後、およびシェーカーで80 rpmで1時間振盪した後に、それぞれバイアル中の液の660 nmにおける吸光度を測定する。なお、吸光度の測定は、日本分光株式会社製分光光度計 V-730を用いて行う。
【0057】
繊維化パラミロンの結晶化度の粒状パラミロンに対する相対値(繊維化パラミロンの結晶化度/粒状パラミロンの結晶化度)は、例えば0.60~0.90、好ましくは0.65~0.80である。
【0058】
結晶化度は以下の方法に従って又は準じて測定することができる:
被検物質について、XRD測定する。条件は次のとおりである。機器:PANalytical X’Pert3 Powder、管電圧:45kV、管電流:40mA、測定範囲:5.005~50.018°、測定間隔:0.013°、解析ソフト:HighScore。結晶化度は2θ=5~80°における非晶質部の強度と結晶部の強度の比により解析する。解析は各測定テ一夕から装置によるバックグラウンドを除去(バックグラウンド設定Auto、ベンティングファクター0、粒状度100)した後に実施し、非晶質部は2θ=14、29°を通る接線で決定する。それぞれの非晶質部を決定するペンディングファクターと粒状度の条件は、0/20とする。
【0059】
繊維化パラミロンは、水などの溶媒に分散した形態であってもよいし、乾燥形態であってもよい。繊維化パラミロンは、乾燥形態であっても、水に再分散することが可能である。
【0060】
なお、本明細書において、「乾燥形態」とは、水分含量が15質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下であることを示す。
【0061】
繊維化パラミロンとしては、好ましくはこのパラミロン粒子を物理的に解繊処理して得られる、パラミロン粒子の解繊物を用いることができる。また、この解繊処理をユーグレナに適用することによって得られる、ユーグレナの解繊処理物を、繊維化パラミロンとして用いることもできる。
【0062】
解繊処理は、パラミロン粒子中に存在するβ-1,3グルカンの水素結合をほとんど切断せずに(例えば、β-1,3グルカンの水素結合の10%以下、5%以下、2%以下、1%以下しか切断せずに)解繊することができる処理、又はパラミロン粒子中に存在するβ-1,3-グルカン鎖又はこれが形成する3重螺旋構造体の一部又は全部を解くことができる処理である限り特に制限されない。好ましくはパラミロン粒子中に存在するβ-1,3グルカンの水素結合をほとんど切断せずに解繊処理し、繊維状とすることが好ましい。パラミロン粒子の様な微粒子を摩砕(せん断)又は粉砕(好ましくは摩砕(せん断))することができる公知の処理を、解繊処理として採用することができる。
【0063】
解繊処理は、公知の摩砕機(せん断機)、粉砕機などの装置を用いて行うことができる。解繊処理に用いる装置としては、例えば石臼式摩砕機、ジェットミル、二軸混練機、高圧ホモジナイザー、高圧乳化機、二軸押し出し機、ビーズミルなどが挙げられる。これらの中でも、好ましくは石臼式摩砕機やビーズミルが挙げられる。
【0064】
解繊処理は、湿式で行うことも、乾式で行うこともできる。湿式で解繊処理を行う方が、繊維化パラミロンをより効率的に溶液中に分散させることが可能となり、好ましい。湿式で行う場合の溶媒としては、繊維化パラミロンを分散可能な溶媒である限り特に制限されず、水を好適に用いることができる。
【0065】
解繊処理は、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。また、一部が解繊処理されたパラミロンであってもよく、解繊処理されたパラミロンを含む限り本発明の意図するものである。
【0066】
5.用途
ユーグレナ、パラミロン、パラミロン加工物、及びβ-1,3-グルカンからなる群より選択される少なくとも1種(以下、「本発明の有効成分」と示すこともある。)は、抗原応答性増強作用を有することから、抗原応答性増強剤の有効成分として利用することができる。
【0067】
抗原応答性の増強は、抗原提示細胞とT細胞との反応の増強、特に抗原提示細胞とナイーブT細胞との反応の増強であり、その限りにおいて特に制限されない。抗原応答性の増強は、T細胞の活性化自体は包含しない、或いは本発明の有効成分によるT細胞の活性化は包含しない(すなわち、本発明の有効成分以外の抗原に対する応答性の増強である)。
【0068】
抗原応答性の増強とは、例えば、抗原提示反応を担う分子の発現増加促進、抗原提示反応を担う分子を発現する細胞の増加促進、抗原提示における反応性が高い細胞の増加促進、抗原提示における反応性が低い細胞の減少促進等であることができる。抗原応答性の増強とは、より具体的には、CD28陽性CD57陰性T細胞増加促進、ナイーブT細胞増加促進、ナイーブT細胞におけるCD28発現増加促進、単球におけるCD80発現増加促進、単球におけるCD86発現増加促進、単球におけるHLA-DR発現増加促進、CD28陰性CD57陽性T細胞減少促進、最終分化T細胞減少促進、単球におけるCD38発現増加促進からなる群より選択される少なくとも1種であることができる。陽性及び陰性の判定は、表面タンパク質に対する抗体で染色した上でFACS解析、マスサイトメトリー等をすることにより行うことができる。
【0069】
また、CD28陽性CD57陰性T細胞増加促進、ナイーブT細胞増加促進、CD28陰性CD57陽性T細胞減少促進、及び最終分化T細胞減少促進からなる群より選択される少なくとも1種は、免疫老化の指標として報告されている。このため、本発明の有効成分は、免疫老化抑制剤の有効成分として利用することもできる。
【0070】
本発明の有効成分によれば、抗原応答の下流の免疫活性化を促進することができる。例えば、本発明の有効成分は、T細胞におけるCD38発現増加促進、インターロイキン-17A増加促進、インターロイキン-17C増加促進、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子増加促進に有用である。
【0071】
本発明の有効成分によれば、制御性T細胞を増加させることができる。これにより、抗原応答性を増強しながらも、過剰な炎症を抑え、それによって引き起こされる悪影響・疾患を抑制することができる。
【0072】
本発明の有効成分は、
抗原応答性増強に加えて、
CD28陽性CD57陰性T細胞増加促進、ナイーブT細胞増加促進、ナイーブT細胞におけるCD28発現増加促進、単球におけるCD80発現増加促進、単球におけるCD86発現増加促進、単球におけるHLA-DR発現増加促進、CD28陰性CD57陽性T細胞減少促進、最終分化T細胞減少促進、単球におけるCD38発現増加促進、T細胞におけるCD38発現増加促進、制御性T細胞増加促進、インターロイキン-17A増加促進、インターロイキン-17C増加促進、及び顆粒球マクロファージコロニー刺激因子増加促進からなる群より選択される少なくとも1種に用いることができる。
【0073】
「増強」とは、作用を強化することのみならず、作用が弱化基調にあるものの弱化を抑える(弱化幅又は弱化の程度を低減させる、弱化させない)ことも包含する。
【0074】
「増加促進」とは、増加させることのみならず、減少基調にあるものの減少を抑える(減少幅又は減少の程度を低減させる、減少させない)ことも包含する。
【0075】
「減少促進」とは、減少させることのみならず、増加基調にあるものの増加を抑える(増加幅又は増加の程度を低減させる、増加させない)ことも包含する。
【0076】
さらには、本発明の有効成分は、以下に列挙する用途、目的、対象に用いることができる:
(a)免疫機能を維持する・高める。
(b)抗原応答性を維持する・高める。
(c)抗原提示能を維持する・高める。
(d)共刺激分子の連携を維持する・強化する。
(e)獲得免疫を活性化する・活性状態にする。
(f)獲得免疫の活性・活性状態を維持する・高める。
(g)獲得免疫応答能を維持する・高める。
(h)T細胞を活性状態にする。
(i)T細胞の活性・活性状態を維持する・高める。
(j)T細胞の不応答性を改善・抑制する。
(k)単球を活性化する・活性状態にする。
(l)単球の活性・活性状態を維持する・高める。
(m)免疫老化を改善・抑制する。
(n)T細胞の老化を改善・抑制する。
(o)体調を維持・改善する。
(p)ナイーブ型細胞を増やす・維持する。
(q)若いT細胞を増やす・維持する。
(r)元気なT細胞を増やす・維持する。
(s)老化したT細胞を減らす・増加抑制する。
【0077】
本発明の剤は、各種分野において、例えば食品組成物(健康食品、健康増進剤、栄養補助食品(サプリメントなど)を包含する)、食品添加剤、化粧品、化粧品添加剤、医薬、試薬、飼料などとして用いることができる。本発明の剤は、好ましくは経口組成物である。
【0078】
本発明の剤の形態は、特に限定されず、用途に応じて、各用途において通常使用される形態をとることができる。
【0079】
本発明の剤の形態としては、用途が食品組成物の場合は、液状、ゲル状あるいは固形状の食品、例えばジュース、清涼飲料、茶、スープ、豆乳などの飲料、サラダ油、ドレッシング、ヨーグルト、ゼリー、プリン、ふりかけ、育児用粉乳、ケーキミックス、乳製品(例えば、粉末状、液状、ゲル状、固形状等)、パン、菓子(例えば、クッキー等)などが挙げられる。
【0080】
本発明の剤の形態としては、用途が化粧品である場合は、例えば乳液、化粧液、フェイスクリーム、ハンドクリーム、ローション、ボディソープ、シャンプー、リンス、化粧用ゲル、パック、ファンデーション、リップクリーム、洗顔剤等が挙げられる。
【0081】
本発明の剤の形態としては、用途が医薬である場合は、例えば軟膏剤、外用液剤(リニメント剤、ローション剤等)、スプレー剤(外用エアゾール剤、ポンプスプレー剤等)、クリーム剤、ゲル剤、貼付剤(プラスター剤、硬膏剤等のテープ剤(リザーバー型、マトリックス型等)、パップ剤、パッチ剤、マイクロニードル等)、点眼剤、眼軟膏剤、点鼻剤、坐剤、直腸用半固形剤、注腸剤等の非経口摂取に適した製剤形態(特に、外用製剤形態); 錠剤(口腔内側崩壊錠、咀嚼可能錠、発泡錠、トローチ剤、ゼリー状ドロップ剤などを含む)、丸剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、ドライシロップ剤、液剤(ドリンク剤、懸濁剤、シロップ剤を含む)、ゼリー剤などの経口摂取に適した製剤形態(経口製剤形態)が挙げられる。
【0082】
本発明の剤の形態としては、用途が添加剤、健康増進剤、栄養補助食品(サプリメントなど)などである場合は、例えば錠剤(口腔内側崩壊錠、咀嚼可能錠、発泡錠、トローチ剤、ゼリー状ドロップ剤などを含む)、丸剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、ドライシロップ剤、液剤(懸濁剤、シロップ剤を含む)、ゼリー剤などが挙げられる。
【0083】
本発明の剤は、必要に応じてさらに他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、食品組成物(健康食品、健康増進剤、栄養補助食品(サプリメントなど)を包含する)、食品添加剤、化粧品、化粧品添加剤、医薬、試薬、飼料などに配合され得る成分である限り特に限定されるものではないが、例えば基剤、担体、溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、増粘剤、着色料、香料、キレート剤などが挙げられる。
【0084】
本発明の剤における有効成分の含有量は、用途、使用態様、適用対象の状態などに左右されるものであり、限定はされないが、例えば0.0001~100質量%、好ましくは0.001~50質量%とすることができる。
【0085】
本発明の剤の適用(例えば、投与、摂取、接種など)量は、抗原応答性増強作用を発現する有効量であれば特に限定されず、通常は、有効成分の乾燥重量として、一般に1日あたり0.1~10000 mg/kg体重である。上記適用量は1日1回以上(例えば1~3回)に分けて適用するのが好ましく、年齢、病態、症状により適宜増減することもできる。
【0086】
本発明の好ましい一態様において、ユーグレナ適用量(乾燥重量)は、1日あたり好ましくは50~3000mg、より好ましくは100~2000mg、さらに好ましくは200~1000mgである。適用期間は、好ましくは1週間以上、より好ましくは4週間以上、さらに好ましくは8週間以上である、さらに長期間(10週間以上、15週間以上、又は20週間以上)適用することも可能である。本発明の有効成分は天然由来であり安全性が高いので適用期間の上限は特に制限されないが、例えば3年間、1年間、6ヶ月間、4ヶ月間である。
【実施例0087】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0088】
製造例1
ユーグレナ・グラシリスEOD-1株(独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター(NITE-IPOD)の乾燥粉末(神鋼環境ソリューション製、パラミロン含有率70%以上)を下記配合でカプセル錠(カプセル構成成分:プルラン及びコウリャン色素)としたものを被験食とし、対照食としてセルロースを配合したカプセル錠(カプセル構成成分:プルラン及びコウリャン色素)を製造した。
【0089】
【0090】
各原料の含有量(1日あたり含有量)
試験例1
試験概要は以下のとおりである。
・試験食摂取期間 : 12週間
・試験食の摂取量 : 2カプセル/day
・被験者 :被験食12名、対照食11名。
【0091】
試験食は被験食と対照食(プラセボ)の2種類(製造例1)とし、被験食はユーグレナグラシリスEOD-1株含有食品、対照食(プラセボ)はユーグレナグラシリスEOD-1株非含有食品とした。
【0092】
試験食を1日2カプセル摂取させ、これを12週間継続させた。2カプセル中の原料の合計含有量は次のとおりである。被験食:ユーグレナグラシリスEOD-1株444mg含有(パラミロンとして350mg含有)。対照食:セルロース350mg含有。
【0093】
試験開始時及び試験終了時(摂取開始から12週間経過時)に、被験者それぞれから、ヘパリン採血管を用いて、血液を採取し、ヘパリン加全血とした。遠心分離により血液から末梢血単核球 (peripheral blood mononuclear cells ;PBMC)の単離を行った。
【0094】
<試験例1-1.抗原応答性評価1>
Maxpar Direct Immune Profiling Assay kit(フリューダイム社)を用いて単離したPBMCの染色を行った。マスサイトメトリーにより、CD4+ T細胞およびCD8+ T細胞中のCD28+CD57-細胞、CD28-CD57+細胞、ナイーブ型細胞、最終分化型細胞の割合を測定した。各細胞のゲーティングに用いた染色抗体は、89Y Anti-CD45 (HI30), 172Yb Anti-CD66b (G10F5), 144Nd Anti-CD19 (HIB19), 171Yb Anti-CD20 (2H7), 168Er Anti-CD14 (63D3), 147Sm Anti-CD11c (Bu15), 170Er Anti-CD3 (UCHT1), 164Dy Anti-TCRγδ(B1), 163Dy Anti-CD56 (NCAM16.2), 146Nd Anti-CD8a (RPA-T8), 145Nd Anti-CD4 (RPA-T4) , 160Gd Anti-CD28 (CD28.2), 155Gd Anti-CD57(HCD57), 176Yb Anti-CD127 (A019D5), 153Eu Anti-CD25 (BC96), 167Er Anti-CCR7 (G043H7), 150Nd Anti-CD45RA (HI100)である。マスサイトメトリーによる測定は、Helios(フリューダイム社)にて実施した。データ解析は、Flow Joソフトウェア(BD社)を用いた。試験食摂取開始前のCD4+ T細胞およびCD8+ T細胞中のCD28+CD57-細胞、CD28-CD57+細胞、ナイーブ型細胞、最終分化型細胞の割合(%)の平均値から、12週間摂取後のCD4+ T細胞およびCD8+ T細胞中のCD28+CD57-細胞、CD28-CD57+細胞、ナイーブ型細胞、最終分化型細胞の割合(%)の平均値を減じて、得られた値を変化量(%)とした。なお、以下の項目において「+」は陽性であることを示し、「-」は陰性であることを示し、CD4+ T細胞はCD45+/CD66b-, CD20-/CD19-, CD14-/CD11c-, CD45+/CD3+, TCRgd-/CD3+, CD56-/CD3+, CD8-/CD4+、CD8+ T細胞はCD45+/CD66b-, CD20-/CD19-, CD14-/CD11c-, CD45+/CD3+, TCRgd-/CD3+, CD56-/CD3+, CD8+/CD4-でゲーティングされる細胞と定義される。
(1)CD28+CD57-のCD4+ T細胞の割合
(2)CD28+CD57-のCD8+ T細胞の割合
(3)ナイーブ型(CD45RA+/CCR7+、CD127+/CD25-) CD4+ T細胞の割合
(4)最終分化型(CD45RA+/CCR7-) CD4+ T細胞の割合
(5)CD28-CD57+のCD4+ T細胞の割合
(6)CD28-CD57+のCD8+ T細胞の割合
(7)ナイーブ型(CD45RA+/CCR7+) CD8+ T細胞の割合
(8)最終分化型(CD45RA+/CCR7-) CD8+ T細胞の割合
項目(1)及び(2)のCD28+CD57- T細胞は、分化後期に発現する分子であるCD57が陰性であり、老化が進んでいないT細胞である。一方、項目(5)及び(6)のCD28-CD57+ T細胞は、分化後期に発現する分子であるCD57が陽性であり、老化T細胞である。老化T細胞は、抗原刺激後の増殖能を失っている。
【0095】
項目(3)及び(7)のナイーブT細胞は、抗原と接触したことが無いT細胞であり、新たな抗原に対する反応性・増殖性に優れる。一方、項目(4)及び(8)の最終分化型T細胞(TEMRA)は、加齢に伴って増加する細胞であり、抗原刺激後の増殖能を失っている。
【0096】
(1)~(4)の結果を
図1~4に示す。老化の進んでいない細胞・ナイーブT細胞((1)~(3))はユーグレナ摂取により増加促進され、老化細胞((4))はユーグレナ摂取により減少促進されることが分かった。また、(5)~(8)についても、老化の進んでいない細胞・ナイーブT細胞((7))はユーグレナ摂取により増加促進され、老化細胞((5)~(6)及び(8))はユーグレナ摂取により減少促進される結果であった。なお、上記結果は、ユーグレナが含むパラミロンに起因すると推察された。
【0097】
<試験例1-2.抗原応答性評価2>
Maxpar Direct Immune Profiling Assay kit(フリューダイム社)を用いて単離したPBMCの染色を行った。マスサイトメトリーにより、ナイーブ型CD4+ T細胞およびCD8+ T細胞中におけるCD28の発現量を測定した。各細胞の染色に用いた抗体は、89Y Anti-CD45 (HI30), 172Yb Anti-CD66b (G10F5), 144Nd Anti-CD19 (HIB19), 171Yb Anti-CD20 (2H7), 168Er Anti-CD14 (63D3), 147Sm Anti-CD11c (Bu15), 170Er Anti-CD3 (UCHT1), 164Dy Anti-TCRγδ(B1), 163Dy Anti-CD56 (NCAM16.2), 146Nd Anti-CD8a (RPA-T8), 145Nd Anti-CD4 (RPA-T4) , 160Gd Anti-CD28 (CD28.2), 176Yb Anti-CD127 (A019D5), 153Eu Anti-CD25 (BC96), 167Er Anti-CCR7 (G043H7), 150Nd Anti-CD45RA (HI100)である。マスサイトメトリーによる測定は、Helios(フリューダイム社)にて実施した。データ解析は、Flow Joソフトウェア(BD社)を用いた。なお、以下の項目において「+」は陽性であることを示し、「-」は陰性であることを示す。
(9)ナイーブ型CD4+ T細胞におけるCD28発現量
(10)ナイーブ型CD8+ T細胞におけるCD28発現量
CD28は、T細胞の活性化に不可欠な補助刺激受容体である。このため、ナイーブT細胞のCD28発現量が高いほど、抗原応答性が高いことを示す。
【0098】
結果を
図5~6に示す。ナイーブT細胞におけるCD28発現はユーグレナ摂取により増加促進されることが分かった。なお、上記結果は、ユーグレナが含むパラミロンに起因すると推察された。
【0099】
<試験例1-3.抗原応答性評価3>
単離したPBMCを、FITC Anti-Human CD14 (Bio Legend)、APC Anti-Human CD16 (Bio Legend)、Per Cp/Cyanine5.5 Anti-Human HLA-DR (Bio Legend)、PE Anti-Human CD80 (Bio Legend)、PE Anti-Human CD86 (Bio Legend)で染色を行い、FACS buffer(0.5% BSA in PBS buffer)で洗浄後、4%パラフォルムアルデヒドで固定し、BD FACS ViaTM Flow Cytometer (日本BD)を用いて測定を行った。BD FACS ViaTM Reserch Software (日本BD)を用い、HLA-DR陽性細胞集団のうちCD14陽性/CD16陽性の細胞を単球として、以下の項目を測定した。
(11)単球におけるCD80発現量
(12)単球におけるCD86発現量
(13)単球におけるHLA-DR発現量
CD80及びCD86は抗原を取り込んで活性化した抗原提示細胞が表面に発現させる分子であり、ナイーブT細胞上のCD28と結合することにより、T細胞活性化を促進する。HLA-DRは抗原と複合体を形成してナイーブT細胞に提示することにより、T細胞活性化を促進する。
【0100】
(11)の結果を
図7に示す。単球におけるCD80発現量はユーグレナ摂取により増加促進されることが分かった。また、(12)~(13)についても、ユーグレナ摂取により増加促進される結果であった。なお、上記結果は、ユーグレナが含むパラミロンに起因すると推察された。
【0101】
<試験例1-4.抗原応答性評価4>
Maxpar Direct Immune Profiling Assay kit(フリューダイム社)を用いて単離したPBMCの染色を行った。マスサイトメトリーにより、ナイーブ型CD4+ T細胞、CD4+ セントラルメモリーT細胞(Tcm)、CD4+ エフェクターメモリーT細胞(Tem)、ナイーブ型CD8+ T細胞、最終分化型CD8+ T細胞(Temra)、Intermediate単球、及びNonclassical単球におけるCD38発現量を測定した。各細胞の染色に用いた抗体は、89Y Anti-CD45 (HI30), 172Yb Anti-CD66b (G10F5), 144Nd Anti-CD19 (HIB19), 171Yb Anti-CD20 (2H7), 168Er Anti-CD14 (63D3), 147Sm Anti-CD11c (Bu15), 170Er Anti-CD3 (UCHT1), 164Dy Anti-TCRγδ(B1), 163Dy Anti-CD56 (NCAM16.2), 146Nd Anti-CD8a (RPA-T8), 145Nd Anti-CD4 (RPA-T4) , 176Yb Anti-CD127 (A019D5), 153Eu Anti-CD25 (BC96), 167Er Anti-CCR7 (G043H7), 150Nd Anti-CD45RA (HI100), 148Nd Anti-CD16 (3G8), 161Dy Anti-CD38 (HB-7)である。マスサイトメトリーによる測定は、Helios(フリューダイム社)にて実施した。データ解析は、Flow Joソフトウェア(BD社)を用いた。なお、以下の項目において「+」は陽性であることを示し、「-」は陰性であることを示す。
(14)ナイーブ型CD4+ T細胞におけるCD38発現量
(15)CD4+ セントラルメモリーT細胞(Tcm:CD45RA-/CCR7+、CD25-/CD127+のCD4+ T細胞)におけるCD38発現量
(16)CD4+ エフェクターメモリーT細胞(Tem:CD45RA-/CCR7-、CD25-/CD127+のCD4+ T細胞)におけるCD38発現量
(17)ナイーブ型CD8+ T細胞におけるCD38発現量
(18)最終分化型CD8+ T細胞におけるCD38発現量
(19)Intermediate単球(CD45+/CD66b-、CD3-/CD19-、CD20-/HLA-DR+、HLA-DR+/CD11c、CD38int/CD14int、CD14+-/CD16+)におけるCD38発現量
(20)Nonclasscical単球(CD45+/CD66b-、CD3-/CD19-、CD20-/HLA-DR+、HLA-DR+/CD11c、CD38-/CD14-、CD14+-/CD16+)におけるCD38発現量
T細胞におけるCD38発現上昇は、エフェクターT細胞としての活性化や分化・増殖を促進する。単球などの抗原提示細胞におけるCD38発現上昇は、炎症部位・感染部位への遊走を促進する。
【0102】
(14)~(18)の結果を
図8に示し、(19)~(20)の結果を
図9に示す。T細胞及び単球におけるCD38発現量はユーグレナ摂取により増加促進されることが分かった。なお、上記結果は、ユーグレナが含むパラミロンに起因すると推察された。
【0103】
<試験例1-5.制御性T細胞の測定>
Maxpar Direct Immune Profiling Assay kit(フリューダイム社)を用いて単離したPBMCの染色を行った。マスサイトメトリーにより、CD4+ T細胞中の制御性T細胞(Treg)の割合を測定した。細胞のゲーティングに用いた染色抗体は、89Y Anti-CD45 (HI30), 172Yb Anti-CD66b (G10F5), 144Nd Anti-CD19 (HIB19), 171Yb Anti-CD20 (2H7), 168Er Anti-CD14 (63D3), 147Sm Anti-CD11c (Bu15), 170Er Anti-CD3 (UCHT1), 164Dy Anti-TCRγδ(B1), 163Dy Anti-CD56 (NCAM16.2), 146Nd Anti-CD8a (RPA-T8), 145Nd Anti-CD4 (RPA-T4), 176Yb Anti-CD127 (A019D5), 153Eu Anti-CD25 (BC96)である。
(21)制御性T細胞(CD25+/CD127-のCD4+ T細胞)の割合
制御性T細胞は、免疫応答に抑制的に働く細胞であることが知られている。当該細胞が増加することにより、過剰な炎症を抑制することを示しており、過剰な炎症によって引き起こされる悪影響・疾患を抑制することができる。
【0104】
(21)の結果を
図10に示す。制御性T細胞はユーグレナ摂取により増加促進されることが分かった。なお、上記結果は、ユーグレナが含むパラミロンに起因すると推察された。
【0105】
<試験例1-6.サイトカインの測定>
単離した血液から血清を調製し、血清中のインターロイキン-17A(IL17A)、インターロイキン-17C(IL17C)、及び顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF(CSF2))の量をProximity Extension Assay法により測定した。採血した全血から1300×g, 15分, 室温にて遠心分離を行い、血清を得た。調製した血清について、Olink Target 48 Cytokine panel (Olink Holding, Sweden) にて測定を行い、各サイトカイン濃度を定量した。
(22)血清中のインターロイキン-17Aの量
(23)血清中のインターロイキン-17Cの量
(24)血清中の顆粒球マクロファージコロニー刺激因子の量
インターロイキン-17A、インターロイキン-17C、及び顆粒球マクロファージコロニー刺激因子はいずれもT細胞の活性化に関与する分子である。
【0106】
(22)~(24)の結果を
図11示す。インターロイキン-17A、インターロイキン-17C、及び顆粒球マクロファージコロニー刺激因子はユーグレナ摂取により増加促進されることが分かった。なお、上記結果は、ユーグレナが含むパラミロンに起因すると推察された。