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特開2024-125173異常判定装置、異常判定方法および異常判定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125173
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】異常判定装置、異常判定方法および異常判定プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 25/72 20060101AFI20240906BHJP
   B65H 63/06 20060101ALI20240906BHJP
   G01J 5/48 20220101ALI20240906BHJP
   G06T 7/00 20170101ALI20240906BHJP
   D06H 3/08 20060101ALI20240906BHJP
   D01D 11/00 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
G01N25/72 Z
B65H63/06 Z
G01J5/48 A
G06T7/00 350B
D06H3/08
G01J5/48 C
D01D11/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】28
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024014663
(22)【出願日】2024-02-02
(31)【優先権主張番号】P 2023032375
(32)【優先日】2023-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】502455511
【氏名又は名称】TMTマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100185719
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 悠樹
(72)【発明者】
【氏名】北川 重樹
(72)【発明者】
【氏名】橋本 欣三
(72)【発明者】
【氏名】吉田 一登
(72)【発明者】
【氏名】松田 涼
【テーマコード(参考)】
2G040
2G066
3B154
3F115
4L045
5L096
【Fターム(参考)】
2G040AA05
2G040AB12
2G040BA14
2G040BA25
2G040CA02
2G040DA06
2G040DA12
2G040DA22
2G040EA08
2G040GA05
2G040HA02
2G040HA03
2G040HA08
2G040HA13
2G040ZA08
2G066AC16
2G066BC15
2G066CA02
2G066CA04
3B154AB03
3B154BA53
3B154BB18
3B154BB76
3B154BC17
3B154BC42
3B154CA12
3B154CA16
3B154CA22
3B154DA21
3F115CA16
3F115CB08
3F115CC01
3F115CC08
3F115CC23
4L045AA05
4L045BA03
4L045DA52
4L045DB14
4L045DB17
4L045DC06
4L045DC40
5L096AA06
5L096BA18
5L096CA02
5L096DA02
5L096HA11
5L096KA04
(57)【要約】
【課題】糸の異常を精度良く判定できる異常判定装置を提供する。
【解決手段】制御装置は、入力部と、判定部と、出力部と、を備える。入力部には、紡糸引取機1が備える第1糸ガイド5aの一部である糸道領域を含む熱画像が入力される。判定部は、入力部に入力された熱画像に基づいて、糸93に関する異常の有無を判定する。出力部は、判定部の判定結果を出力する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成繊維製造設備が備える糸ガイドの一部である糸道領域を含む熱画像が入力される入力部と、
前記入力部に入力された前記熱画像に基づいて、糸に関する異常の有無を判定する判定部と、
前記判定部の判定結果を出力する出力部と、を備えることを特徴とする異常判定装置。
【請求項2】
前記判定部は、前記入力部に入力された判定用の前記熱画像と、複数の学習用データを機械学習することにより生成されている判定モデルとに基づいて、前記異常の有無を判定し、
前記複数の学習用データの各々は、前記合成繊維製造設備または他の合成繊維製造設備が備える糸ガイドを写す学習用の熱画像に対して、当該糸ガイドを通過する糸に関する異常の有無をラベルとして関連付けている、請求項1に記載の異常判定装置。
【請求項3】
前記複数の学習用データの各々は、前記学習用の熱画像に対して、前記異常の種別を前記ラベルとして関連付けている、請求項2に記載の異常判定装置。
【請求項4】
前記異常判定装置は、さらに、前記複数の学習用データから前記判定モデルを生成するための学習部を備える、請求項2または3に記載の異常判定装置。
【請求項5】
前記異常は、糸道の異常を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の異常判定装置。
【請求項6】
前記異常は、糸張力の異常を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の異常判定装置。
【請求項7】
前記異常は、糸に付与される油剤の付着量の異常を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の異常判定装置。
【請求項8】
前記異常判定装置は、類似する稼動条件別に学習された複数の前記判定モデルを備え、
前記判定部は、
複数の前記判定モデルの内から現在の稼動条件に応じた判定モデルを選択し、
当該選択された判定モデルと、前記入力部に入力された判定用の前記熱画像とに基づいて、前記異常の有無を判定する、請求項2~4のいずれか1項に記載の異常判定装置。
【請求項9】
前記合成繊維製造設備は、さらに、前記糸ガイドを撮影可能に構成されている撮影装置を備え、
前記入力部に入力される前記熱画像は、前記撮影装置から取得される、請求項1~7のいずれか1項に記載の異常判定装置。
【請求項10】
前記異常判定装置は、前記合成繊維製造設備または他の合成繊維製造設備が備える糸ガイドと撮影装置との位置関係別に学習された複数の前記判定モデルを備え、
前記判定部は、
複数の前記判定モデルの内から、前記合成繊維製造設備が備える前記糸ガイドと前記撮影装置との位置関係に応じた判定モデルを選択し、
当該選択された判定モデルと、前記入力部に入力された判定用の前記熱画像とに基づいて、前記異常の有無を判定する、請求項9に記載の異常判定装置。
【請求項11】
前記合成繊維製造設備は、紡糸引取機である、請求項1~10のいずれか1項に記載の異常判定装置。
【請求項12】
前記合成繊維製造設備は、仮撚加工機である、請求項1~10のいずれか1項に記載の異常判定装置。
【請求項13】
合成繊維製造設備が備える糸ガイドの一部である糸道領域を含む熱画像を入力するステップと、
前記入力するステップで入力した前記熱画像に基づいて、糸に関する異常の有無を判定するステップと、
前記判定するステップの判定結果を出力するステップと、を含むことを特徴とする異常判定方法。
【請求項14】
前記判定するステップでは、前記入力するステップで入力された判定用の前記熱画像と、複数の学習用データを機械学習することにより生成されている判定モデルとに基づいて、前記異常の有無が判定され、
前記複数の学習用データの各々は、前記合成繊維製造設備または他の合成繊維製造設備が備える糸ガイドを写す学習用の熱画像に対して、当該糸ガイドを通過する糸に関する異常の有無をラベルとして関連付けている、請求項13に記載の異常判定方法。
【請求項15】
前記複数の学習用データの各々は、前記学習用の熱画像に対して、前記異常の種別を前記ラベルとして関連付けている、請求項14に記載の異常判定方法。
【請求項16】
前記異常判定方法は、さらに、前記複数の学習用データから前記判定モデルを生成するステップを備える、請求項14または15に記載の異常判定方法。
【請求項17】
前記異常は、糸道の異常を含む、請求項13~16のいずれか1項に記載の異常判定方法。
【請求項18】
前記異常判定方法は、さらに、類似する稼動条件別に学習された複数の前記判定モデルを取得するステップを備え、
前記判定するステップは、
複数の前記判定モデルの内から現在の稼動条件に応じた判定モデルを選択するステップと、
当該選択された判定モデルと、前記入力するステップで入力された判定用の前記熱画像とに基づいて、前記異常の有無を判定するステップとを含む、請求項14~16のいずれか1項に記載の異常判定方法。
【請求項19】
前記合成繊維製造設備は、さらに、前記糸ガイドを撮影可能に構成されている撮影装置を備え、
前記入力するステップで入力される前記熱画像は、前記撮影装置から取得される、請求項13~17のいずれか1項に記載の異常判定方法。
【請求項20】
前記異常判定方法は、さらに、前記合成繊維製造設備または他の合成繊維製造設備が備える糸ガイドと撮影装置との位置関係別に学習された複数の前記判定モデルを取得するステップを備え、
前記判定するステップは、
複数の前記判定モデルの内から、前記合成繊維製造設備が備える前記糸ガイドと前記撮影装置との位置関係に応じた判定モデルを選択するステップと、
当該選択された判定モデルと、前記入力するステップで入力された判定用の前記熱画像とに基づいて、前記異常の有無を判定するステップとを含む、請求項19に記載の異常判定方法。
【請求項21】
異常判定プログラムであって、
前記異常判定プログラムは、異常判定装置に、
合成繊維製造設備が備える糸ガイドの一部である糸道領域を含む熱画像を入力するステップと、
前記入力するステップで入力した前記熱画像に基づいて、糸に関する異常の有無を判定するステップと、
前記判定するステップの判定結果を出力するステップとを実行させる、異常判定プログラム。
【請求項22】
前記判定するステップでは、前記入力するステップで入力された判定用の前記熱画像と、複数の学習用データを機械学習することにより生成されている判定モデルとに基づいて、前記異常の有無が判定され、
前記複数の学習用データの各々は、前記合成繊維製造設備または他の合成繊維製造設備が備える糸ガイドを写す学習用の熱画像に対して、当該糸ガイドを通過する糸に関する異常の有無をラベルとして関連付けている、請求項21に記載の異常判定プログラム。
【請求項23】
前記複数の学習用データの各々は、前記学習用の熱画像に対して、前記異常の種別を前記ラベルとして関連付けている、請求項22に記載の異常判定プログラム。
【請求項24】
前記異常判定プログラムは、前記異常判定装置に、さらに、前記複数の学習用データから前記判定モデルを生成するステップを実行させる、請求項22または23に記載の異常判定プログラム。
【請求項25】
前記異常は、糸道の異常を含む、請求項21~24のいずれか1項に記載の異常判定プログラム。
【請求項26】
前記異常判定プログラムは、前記異常判定装置に、さらに、類似する稼動条件別に学習された複数の前記判定モデルを取得するステップを実行させ、
前記判定するステップは、
複数の前記判定モデルの内から現在の稼動条件に応じた判定モデルを選択するステップと、
当該選択された判定モデルと、前記入力するステップで入力された判定用の前記熱画像とに基づいて、前記異常の有無を判定するステップとを含む、請求項22~24のいずれか1項に記載の異常判定プログラム。
【請求項27】
前記合成繊維製造設備は、さらに、前記糸ガイドを撮影可能に構成されている撮影装置を備え、
前記入力するステップで入力される前記熱画像は、前記撮影装置から取得される、請求項21~25のいずれか1項に記載の異常判定プログラム。
【請求項28】
前記異常判定プログラムは、前記異常判定装置に、さらに、前記合成繊維製造設備または他の合成繊維製造設備が備える糸ガイドと撮影装置との位置関係別に学習された複数の前記判定モデルを取得するステップを実行させ、
前記判定するステップは、
複数の前記判定モデルの内から、前記合成繊維製造設備が備える前記糸ガイドと前記撮影装置との位置関係に応じた判定モデルを選択するステップと、
当該選択された判定モデルと、前記入力するステップで入力された判定用の前記熱画像とに基づいて、前記異常の有無を判定するステップとを含む、請求項27に記載の異常判定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、主として、合成繊維製造設備の糸に関する異常の判定結果を出力する異常判定装置、異常判定方法および異常判定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、複数の糸を列状に紡糸して製布する際の紡糸不良を検出する欠点検出装置を開示する。欠点検出装置は、CCDカメラと、データ処理部と、を備える。CCDカメラは、複数の糸を撮影して映像信号をデータ処理部に出力する。データ処理部は、映像信号に基づいて紡糸不良を検出する。具体的には、複数の糸がそれぞれ映像信号のどの位置(どの画素)に対応するかが事前に記憶されている。例えば糸の位置ズレ又は糸切れ等の異常が発生した場合、異常が発生した糸に対応する位置(画素)の検出強度が低下する。従って、データ処理部は、映像信号の画素毎の検出強度に基づいて、紡糸不良を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-279923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、糸が映像信号のどの画素に対応するかを事前に記憶する。しかし、一般的に糸の幅は細く、更に、糸の位置は容易に変化するため、糸が対応する画素に表示されない事態が頻繁に発生し得る。つまり、糸を含む可視画像を単純に解析するだけでは、糸に関する異常を精度良く検出できない可能性がある。
【0005】
本開示は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、糸に関する異常を精度良く判定できる異常判定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一例では、異常判定装置が提供される。上記異常判定装置は、合成繊維製造設備が備える糸ガイドの一部である糸道領域を含む熱画像が入力される入力部と、上記入力部に入力された上記熱画像に基づいて、糸に関する異常の有無を判定する判定部と、上記判定部の判定結果を出力する出力部とを備える。
【0007】
本開示の一例では、上記判定部は、上記入力部に入力された判定用の上記熱画像と、複数の学習用データを機械学習することにより生成されている判定モデルとに基づいて、上記異常の有無を判定する。上記複数の学習用データの各々は、上記合成繊維製造設備または他の合成繊維製造設備が備える糸ガイドを写す学習用の熱画像に対して、当該糸ガイドを通過する糸に関する異常の有無をラベルとして関連付けている。
【0008】
本開示の一例では、上記異常判定装置は、さらに、上記複数の学習用データから上記判定モデルを生成するための学習部を備える。
【0009】
本開示の一例では、上記異常は、糸道の異常を含む。
【0010】
本開示の一例では、上記異常は、糸張力の異常を含む。
【0011】
本開示の一例では、上記異常は、糸に付与される油剤の付着量の異常を含む。
【0012】
本開示の一例では、上記異常判定装置は、類似する稼動条件別に学習された複数の上記判定モデルを備える。上記判定部は、複数の上記判定モデルの内から現在の稼動条件に応じた判定モデルを選択し、当該選択された判定モデルと、上記入力部に入力された判定用の上記熱画像とに基づいて、上記異常の有無を判定する。
【0013】
本開示の一例では、上記合成繊維製造設備は、さらに、上記糸ガイドを撮影可能に構成されている撮影装置を備える。上記入力部に入力される上記熱画像は、上記撮影装置から取得される。
【0014】
本開示の一例では、上記異常判定装置は、上記合成繊維製造設備または他の合成繊維製造設備が備える糸ガイドと撮影装置との位置関係別に学習された複数の上記判定モデルを備える。上記判定部は、複数の上記判定モデルの内から、上記合成繊維製造設備が備える上記糸ガイドと上記撮影装置との位置関係に応じた判定モデルを選択し、当該選択された判定モデルと、上記入力部に入力された判定用の上記熱画像とに基づいて、上記異常の有無を判定する。
【0015】
本開示の一例では、上記合成繊維製造設備は、紡糸引取機である。
【0016】
本開示の一例では、上記合成繊維製造設備は、仮撚加工機である。
【0017】
本開示の他の例では、異常判定方法が提供される。上記異常判定方法は、合成繊維製造設備が備える糸ガイドの一部である糸道領域を含む熱画像を入力するステップと、上記入力するステップで入力した上記熱画像に基づいて、糸に関する異常の有無を判定するステップと、上記判定するステップの判定結果を出力するステップとを備える。
【0018】
本開示の一例では、上記判定するステップでは、上記入力するステップで入力された判定用の上記熱画像と、複数の学習用データを機械学習することにより生成されている判定モデルとに基づいて、上記異常の有無が判定される。上記複数の学習用データの各々は、上記合成繊維製造設備または他の合成繊維製造設備が備える糸ガイドを写す学習用の熱画像に対して、当該糸ガイドを通過する糸に関する異常の有無をラベルとして関連付けている。
【0019】
本開示の一例では、上記異常判定方法は、さらに、上記複数の学習用データから上記判定モデルを生成するステップを備える。
【0020】
本開示の一例では、上記異常は、糸道の異常を含む。
【0021】
本開示の一例では、上記異常判定方法は、さらに、類似する稼動条件別に学習された複数の上記判定モデルを取得するステップを備える。上記判定するステップは、複数の上記判定モデルの内から現在の稼動条件に応じた判定モデルを選択するステップと、当該選択された判定モデルと、上記入力するステップで入力された判定用の上記熱画像とに基づいて、上記異常の有無を判定するステップとを含む。
【0022】
本開示の一例では、上記合成繊維製造設備は、さらに、上記糸ガイドを撮影可能に構成されている撮影装置を備える。上記入力するステップで入力される上記熱画像は、上記撮影装置から取得される。
【0023】
本開示の一例では、上記異常判定方法は、さらに、上記合成繊維製造設備または他の合成繊維製造設備が備える糸ガイドと撮影装置との位置関係別に学習された複数の上記判定モデルを取得するステップを備える。上記判定するステップは、複数の上記判定モデルの内から、上記合成繊維製造設備が備える上記糸ガイドと上記撮影装置との位置関係に応じた判定モデルを選択するステップと、当該選択された判定モデルと、上記入力するステップで入力された判定用の上記熱画像とに基づいて、上記異常の有無を判定するステップとを含む。
【0024】
本開示の他の例では、異常判定プログラムが提供される。上記異常判定プログラムは、異常判定装置に、合成繊維製造設備が備える糸ガイドの一部である糸道領域を含む熱画像を入力するステップと、上記入力するステップで入力した上記熱画像に基づいて、糸に関する異常の有無を判定するステップと、上記判定するステップの判定結果を出力するステップとを実行させる。
【0025】
本開示の一例では、上記判定するステップでは、上記入力するステップで入力された判定用の上記熱画像と、複数の学習用データを機械学習することにより生成されている判定モデルとに基づいて、上記異常の有無が判定される。上記複数の学習用データの各々は、上記合成繊維製造設備または他の合成繊維製造設備が備える糸ガイドを写す学習用の熱画像に対して、当該糸ガイドを通過する糸に関する異常の有無をラベルとして関連付けている。
【0026】
本開示の一例では、上記異常判定プログラムは、上記異常判定装置に、さらに、上記複数の学習用データから上記判定モデルを生成するステップを実行させる。
【0027】
本開示の一例では、上記異常は、糸道の異常を含む。
【0028】
本開示の一例では、上記異常判定プログラムは、上記異常判定装置に、さらに、類似する稼動条件別に学習された複数の上記判定モデルを取得するステップを実行させる。上記判定するステップは、複数の上記判定モデルの内から現在の稼動条件に応じた判定モデルを選択するステップと、当該選択された判定モデルと、上記入力するステップで入力された判定用の上記熱画像とに基づいて、上記異常の有無を判定するステップとを含む。
【0029】
本開示の一例では、上記合成繊維製造設備は、さらに、上記糸ガイドを撮影可能に構成されている撮影装置を備える。上記入力するステップで入力される上記熱画像は、上記撮影装置から取得される。
【0030】
本開示の一例では、上記異常判定プログラムは、上記異常判定装置に、さらに、上記合成繊維製造設備または他の合成繊維製造設備が備える糸ガイドと撮影装置との位置関係別に学習された複数の上記判定モデルを取得するステップを実行させる。上記判定するステップは、複数の上記判定モデルの内から、上記合成繊維製造設備が備える上記糸ガイドと上記撮影装置との位置関係に応じた判定モデルを選択するステップと、当該選択された判定モデルと、上記入力するステップで入力された判定用の上記熱画像とに基づいて、上記異常の有無を判定するステップとを含む。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の一実施形態に係る紡糸引取機の側面図を示す図である。
図2】糸巻取機の正面図を示す図である。
図3】糸巻取機のブロック図を示す図である。
図4】機械学習により判定モデルを構築する処理を示す図である。
図5】判定モデルを用いて判定結果を得る処理を示す図である。
図6】糸及び糸ガイドが正常であるときの糸道領域及び糸ガイドの状況及び熱画像を示す図である。
図7】糸又は糸ガイドが異常であるときの糸道領域及び糸ガイドの状況及び熱画像を示す図である。
図8】判定モデルを用いた糸の異常判定に関するフローチャートを示す図である。
図9】制御装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
図10】学習用データセットの一例を示す図である。
図11】制御装置の機能構成の一例を示す図である。
図12】学習部による学習処理を概念的に示す図である。
図13】判定部による異常判定処理を概念的に示す図である。
図14】異常判定システムの装置構成の一例を示す図である。
図15】学習用データセットの一例を示す図である。
図16】判定処理に係るフローチャートを示す図である。
図17】学習用データセットの一例を示す図である。
図18】判定処理に係るフローチャートを示す図である。
図19】切り出し処理を概略的に示す図である。
図20】仮撚加工機の側面図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照しつつ、本発明に従う各実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品および構成要素には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、これらについての詳細な説明は繰り返さない。なお、以下で説明される各実施の形態および各変形例は、適宜選択的に組み合わされてもよい。
【0033】
<A.紡糸引取機1>
次に、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る紡糸引取機(合成繊維製造設備)1の側面図である。
【0034】
図1に示す紡糸引取機1は、紡糸装置2と、糸巻取機9と、を備える。紡糸装置2は、紡糸口金2aを備える。紡糸装置2には、図略の原料供給装置からナイロン又はポリエステル等の溶融繊維材料が供給される。紡糸装置2は、高温状態の溶融繊維材料を紡糸口金2aから押し出す。これにより、紡糸口金2aから複数の糸93が紡出される。糸巻取機9は、紡糸装置2が紡出した糸93を巻き取ってパッケージ94を製造する。なお、糸93は、例えばナイロン又はポリエステル等の合繊糸である。糸93は、紡績糸等の短繊維糸ではなく、長繊維糸(フィラメント糸)である。また、糸93は、スパンデックス等の弾性糸であってもよい。
【0035】
糸93の走行方向において、紡糸装置2と糸巻取機9の間には、給油ガイド3と、糸切断吸引装置4と、第1糸ガイド5aと、第1ゴデットローラ7と、第2糸ガイド5bと、第2ゴデットローラ8と、第3糸ガイド5cと、が配置される。
【0036】
給油ガイド3は、紡糸装置2から紡出された糸93をガイドしつつ、糸93に油剤を塗布する。糸切断吸引装置4は、給油ガイド3の下流に配置されている。糸切断吸引装置4には、駆動装置4aと、吸引源4bと、が接続されている。駆動装置4aの駆動力により、糸切断吸引装置4は糸93に対して進退可能である。吸引源4bの負圧により、糸切断吸引装置4は糸93を吸引可能である。第1糸ガイド5aは、糸切断吸引装置4の下流に配置されている。第1糸ガイド5aは、複数の糸93を個別にガイドする。第1糸ガイド5aの詳細な形状は後述する。
【0037】
第1糸ガイド5aの周囲には、撮影装置6が設けられている。撮影装置6は、レンズが第1糸ガイド5aを向くように配置されており、第1糸ガイド5aを撮影して画像を生成する。撮影装置6は、サーマルカメラであり、物体から放射される遠赤外線の強度に基づいて、物体の温度を計測して、熱画像を生成する。熱画像とは、物体の温度に基づいて濃度、輝度、彩度等を異ならせて生成した画像である。なお、熱画像は、必ずしも、物体から放射される遠赤外線の強度に基づいて生成されたものである必要はなく、サーマルカメラから出力される生データであってもよい。当該生データは、たとえば、物体の各箇所の温度を配列で示す。また、熱画像は、必ずしも撮影装置6から取得される必要はなく、温度センサなどから取得されてもよい。撮影装置6は、糸道領域を撮影する。糸道領域とは、糸道(糸93が通る経路)が通過する領域を示す。詳細には、正常時において糸道が通過することが想定される領域であり、異常時においては糸93が糸道領域を通過するとは限らない。糸道領域は、設計時に想定される糸93の経路であり、例えば、糸93をガイドする様々な部材の位置から導かれる。詳細には、撮影装置6は、第1糸ガイド5aの一部を含む糸道領域を撮影して熱画像を生成する。撮影装置6が生成した熱画像は、後述するように、糸93に関する異常の判定に用いられる。
【0038】
第1ゴデットローラ7及び第2ゴデットローラ8は、図略のモータにより駆動される。第1ゴデットローラ7及び第2ゴデットローラ8は、糸93を巻き付けて回転することにより、糸93を引き取ることができる。また、糸93の走行方向において、第1ゴデットローラ7と第2ゴデットローラ8の間には、第2糸ガイド5bが配置されている。第2糸ガイド5bは、第1ゴデットローラ7から第2ゴデットローラ8に向かう複数の糸93を個別にガイドする。第1ゴデットローラ7は、第1糸ガイド5aの下流に配置されている。第1ゴデットローラ7は、第1糸ガイド5aから糸93を引き取る。第2ゴデットローラ8は、第1ゴデットローラ7の下流に配置されている。第2ゴデットローラ8は、第1ゴデットローラ7から糸93を引き取る。第2ゴデットローラ8の下流には、糸巻取機9が配置されている。第2ゴデットローラ8を通過した糸93は、第3糸ガイド5cによってガイドされ、糸巻取機9に供給される。第3糸ガイド5cは、糸93の走行方向において、第2ゴデットローラ8と後述のトラバース装置21との間に配置されている。第3糸ガイド5cは、複数の糸93を個別にガイドする。
【0039】
次に、図1から図3を参照して、糸巻取機9について説明する。図1及び図2に示すように、糸巻取機9は、フレーム11と、第1ハウジング20と、第2ハウジング30と、ターレット板40と、を備える。
【0040】
フレーム11は、糸巻取機9が備える各部を保持する部材である。フレーム11には、第1ハウジング20及び第2ハウジング30が取り付けられている。第1ハウジング20及び第2ハウジング30は、フレーム11に対して昇降可能である。
【0041】
第1ハウジング20には、トラバース装置21が取り付けられている。トラバース装置21は、後述するトラバースガイド23が糸93と係合した状態で、後述する第1ボビンホルダ41の軸方向に沿って、パッケージ94の巻幅に往復動することにより、下流側に送られる糸93をトラバースさせる。この糸93のトラバース動作により、ボビン91又はパッケージ94に糸層が形成される。図3に示すように、トラバース装置21は、トラバースカム22と、トラバースガイド23と、を備える。
【0042】
トラバースカム22は、ボビン91又はパッケージ94と平行に配置されたローラ状の部材である。トラバースカム22の外周面には、螺旋状のカム溝が形成されている。トラバースカム22は、トラバースモータ51により回転駆動される。
【0043】
トラバースモータ51は、後述する制御装置50によって制御される。トラバースガイド23は、糸93と係合する部分である。トラバースガイド23の先端は例えば略U字状のガイド部を有しており、糸93を巻幅方向で挟み込むようにして、糸93と係合する。トラバースガイド23の基端はトラバースカム22のカム溝に位置している。この構成により、トラバースカム22を回転駆動することで、トラバースガイド23を巻幅方向に往復動させることができる。
【0044】
第2ハウジング30には、接触ローラ31が回転可能に取り付けられている。接触ローラ31は、糸93の巻取り時にパッケージ94の糸層に所定の圧力で接触しながら従動回転することにより、トラバースガイド23からの糸93をパッケージ94の糸層に送るとともにパッケージ94の糸層形状を整える。なお、モータ等の駆動部を用いて接触ローラ31を回転駆動してもよい。
【0045】
第2ハウジング30には、操作パネル32が設けられている。操作パネル32は、オペレータによって操作される装置である。オペレータは、操作パネル32を操作することにより、糸巻取機9に対して指示を行う。オペレータが行う指示としては、例えば、巻取りの開始、巻取りの停止、巻取条件の変更等である。
【0046】
ターレット板40は、円板形状の部材である。ターレット板40は、フレーム11に回転可能に取り付けられている。ターレット板40は、円板の中心を通る法線を回転軸として回転可能である。ターレット板40は、図3に示すターレットモータ53により回転駆動される。ターレットモータ53は、後述する制御装置50により制御される。
【0047】
ターレット板40のうち、円板の中心を挟んで対向する2箇所には、それぞれ第1ボビンホルダ41と第2ボビンホルダ42が設けられている。第1ボビンホルダ41には、第1ボビンホルダ41の軸方向に並べて複数のボビン91を装着可能である。第2ボビンホルダ42には、第2ボビンホルダ42の軸方向に並べて複数のボビン91を装着可能である。ターレット板40を回転させることにより、第1ボビンホルダ41と第2ボビンホルダ42の位置を変更することができる。なお、第1ボビンホルダ41と第2ボビンホルダ42の位置を変更可能であれば、ターレット板40に代えて別の装置を用いてもよい。
【0048】
第1ボビンホルダ41は、第1ボビンホルダ41の軸位置を回転中心として、ターレット板40に対して回転可能である。第1ボビンホルダ41は、図3に示す第1ボビンホルダモータ54により回転駆動される。同様に、第2ボビンホルダ42は、第2ボビンホルダ42の軸位置を回転中心として、ターレット板40に対して回転可能である。第2ボビンホルダ42は、図3に示す第2ボビンホルダモータ55により回転駆動される。第1ボビンホルダモータ54及び第2ボビンホルダモータ55は、後述する制御装置50により制御される。
【0049】
以下では、第1ボビンホルダ41と第2ボビンホルダ42をまとめて、ボビンホルダ41,42と称する。図2では、ボビンホルダ41,42が上下に並んだ状態が示されている。このとき、高い方にあるボビンホルダ41,42の位置が巻取位置であり、低い方にあるボビンホルダ41,42の位置が待機位置である。糸巻取機9は、巻取位置にあるボビンホルダ41,42のボビン91に対して糸93を巻き取ってパッケージ94を製造する。
【0050】
また、所定量の糸93を巻き取って、第1ボビンホルダ41のパッケージ94が満巻となった場合、ターレット板40が回転することにより、第1ボビンホルダ41と第2ボビンホルダ42の位置が切り替わる。その後、満巻となって待機位置にある第1ボビンホルダ41のパッケージ94が回収され、巻取位置にある第2ボビンホルダ42のボビン91に対して糸93が巻き取られる。パッケージ94が回収された第1ボビンホルダ41には、新たにボビン91が装着される。
【0051】
制御装置50は、制御部50aと、学習部50bと、判定部50cと、記憶部50dと、入力部50eと、出力部50fと、を備える。具体的に説明すると、制御装置50は公知のコンピュータとして構成されており、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、SSD(Solid State Drive)等を備える。CPUは、プロセッサの一種である。SSDには、糸巻取機9を制御するためのプログラム及びデータが予め記憶されている。CPUがプログラムをRAMに読み出して実行することにより、制御装置50を、制御部50a、学習部50b、及び判定部50cとして動作させることができる。また、SSDは記憶部50dに相当する。なお、SSDに代えて、HDD(Hard Disk Drive)又はフラッシュメモリを用いてもよい。あるいは、制御装置50の外部に設けられ、制御装置50と通信可能なストレージを記憶部として用いてもよい。入力部50e及び出力部50fは、具体的には通信モジュールであり、入力部50eは外部からのデータの入力を行い、出力部50fは、外部へのデータの出力を行う。本実施形態では、制御装置50が異常判定装置に相当する。つまり、本実施形態では、紡糸引取機1を制御する装置と、異常判定を行う装置と、が共通である。これに代えて、異常判定を行うとともに紡糸引取機1の制御を行わない装置を異常判定装置として設けてもよい。
【0052】
制御部50aは、制御装置50が行う制御の全般を司る。制御部50aは、外部から制御装置50の入力部50eに入力されたデータ、又は、記憶部50dに記憶されているデータを処理する。制御部50aは、この処理により得られたデータを記憶部50dに記憶するか、制御装置50の外部に出力する。学習部50bは、機械学習を用いて判定モデルを構築する処理を行う。学習部50bが構築する判定モデルの詳細は後述する。判定部50cは、制御装置50に外部から入力されたデータ(詳細には撮影装置6からの熱画像)と、学習部50bが構築して記憶部50dに記憶された判定モデルと、に基づいて、判定処理を行う。記憶部50dは、制御部50aの処理に応じてデータを記憶する。
【0053】
図3には、報知部65が示されている。報知部65は、判定部50cの判定結果をオペレータに報知する。報知部65は、例えば、報知ランプ又は報知ブザーである。
【0054】
制御装置50が判定可能な異常は、糸93に関する異常である。具体的には、糸93の糸道の異常、糸93の糸張力の異常、又は、糸93に塗布される油剤の付着量の異常である。本実施形態では、一例として、糸93の糸道の異常を判定するが、それに代えて又は加えて、上記の少なくとも1つの異常を更に判定可能であってもよい。
【0055】
図6(a)には、糸道が正常であるときの糸道領域及び第1糸ガイド5aの状況が示されている。図6(a)に示すように、第1糸ガイド5aは櫛歯状の部材である。第1糸ガイド5aには、複数の糸93を個別にガイドする複数のガイド溝61が形成されている。糸道が正常であるときは、図6(a)に示すように、1つのガイド溝61に1つの正しい糸93が入ってガイドされる。ここで、糸93が第1糸ガイド5aにガイドされる際には、糸93と第1糸ガイド5aが接触する。そのため、摩擦熱が発生する。図6(b)には、この状況で生成される熱画像が示されている。図6(b)に示すように、この熱画像では、糸93と第1糸ガイド5aの接触箇所及びその近傍の温度が、周囲の温度よりも高くなる。更に、全てのガイド溝61に糸93が入っているため、全てのガイド溝61の温度が周囲よりも高い。
【0056】
一方、図7(a)には、糸道が異常であるときの糸道領域及び第1糸ガイド5aの状況が示されている。図7(a)には、ある1つのガイド溝61に2つの糸93が入ってガイドされており、別の1つのガイド溝61に糸93が入っていない状況が示されている。つまり、ある糸93が誤って隣のガイド溝61にガイドされているため、糸道が異常である。この状況で生成された熱画像が図7(b)に示されている。図7(b)では、2つの糸93が入っているガイド溝61の周囲の温度は、他のガイド溝61の温度よりも高い。更に、糸93が入っていないガイド溝61の周囲の温度は、他のガイド溝61の温度よりも低い。このように、糸道の異常は熱画像に明確に表れる。一般的に糸93は細いため、可視画像で的確に糸93を特定することは困難である。しかし、糸93とガイド溝61で生じる摩擦熱は周囲に広がるため、熱画像を用いることにより糸道の異常(具体的には糸93がガイド溝61に入っているか否かに関する異常、または生産時における正常な糸道から糸93が外れているか否かに関する異常)を的確に検出できる。
【0057】
図4には、学習部50bが機械学習を用いて判定モデルを構築するための処理が概念的に示されている。図4に示すように、判定モデルを構築するための学習用データとしては、学習用熱画像とその正解データが用いられる。学習用熱画像とは、第1糸ガイド5aを含む糸道領域を撮影して生成される熱画像であって、かつ、学習用データとして用いられる熱画像である。本実施形態では、撮影装置6を用いて、学習用熱画像を生成する。ただし、撮影装置6以外の装置を用いて学習用熱画像を生成してもよい。
【0058】
学習用データは、学習用熱画像と、学習用熱画像に写っている糸道が正常か異常かを示す正解データ(ラベル)と、を相互に対応付けたデータである。学習用データとしては、糸道が正常の熱画像だけを用いてもよいし、糸道が異常の熱画像だけを用いてもよいし、両方を用いてもよい。学習用データに含まれる学習用熱画像は複数であることが好ましい。例えば、糸道が正常の熱画像は撮影が容易である(即ち、学習用データの準備が容易である)。糸道が異常の熱画像は、糸道が異常である状況を意図的に作る必要があるため手間は掛かるが、これを学習することにより、同種の異常が発生しているか否かを精度良く判定できる。
【0059】
学習用熱画像は正解データとともに機械学習に用いられるため、本実施形態の機械学習は教師あり学習である。機械学習を行う具体的な手法は任意であるが、本実施形態では、深層学習が用いられる。これにより、学習部50bは、学習用熱画像と、糸道が正常又は異常な状態に表れる熱画像上の特徴と、を抽出又は推定することにより、熱画像から糸道の異常を判定するための特徴を抽出できる。例えば、糸道が正常の複数の学習用熱画像を学習する場合は、複数の学習用熱画像に共通する熱画像上の特徴が学習される。この特徴は、例えば、第1糸ガイド5aのそれぞれのガイド溝61に糸93が入っていることに起因して全てのガイド溝61の温度が均一である、及び/又は第1糸ガイド5aの最高温度が高い等の特徴である。また、糸道が異常の複数の学習用熱画像を学習する場合は、複数の学習用熱画像に共通する熱画像上の特徴が学習される。この特徴は、例えば、第1糸ガイド5aのあるガイド溝61に糸93が入っていないことに起因して温度が低い、及び/又は第1糸ガイド5aの最高温度が低い等の特徴である。以上により、学習部50bは、判定モデルを構築する。学習部50bが構築した判定モデルは記憶部50dに記憶される。
【0060】
上述した判定モデルは一例であり、別の方法で判定モデルを構築してもよい。即ち、深層学習に代えて、糸道の異常に関連する特徴量を指定して機械学習を行ってもよい。また、上述したように、糸道領域を撮影して生成した熱画像を直接用いて機械学習を行ってもよいし、糸道領域を撮影して生成した熱画像に何らかの前処理を行った後に、機械学習を行ってもよい。前処理としては、例えば、熱画像に糸93が鮮明に映るための画像調整、又は、糸93と第1糸ガイド5a以外の物体の削除等が考えられる。
【0061】
図5に示すように、糸道の異常判定を行う段階では、判定部50cは、判定モデルを用いて以下の処理を行う。即ち、判定モデルは、撮影装置6が生成した熱画像に基づいて、糸道の異常判定を行う。以下の説明では、糸道の異常判定を行う段階で撮影装置6が撮影した熱画像を「判定用熱画像」と称する。上述したように、判定モデルは、糸道が正常又は異常な状態に表れる画像上の特徴を学習して構築されている。そのため、判定モデルは、判定用熱画像にこれらの特徴があるか等に基づいて、糸道が正常か異常かを判定する。
【0062】
なお、糸道以外の異常を検出対象とする場合でも、糸道の異常を検出対象とする場合と同様の処理を行えばよい。以下では、糸道以外の異常を熱画像に基づいて判定できることを説明する。
【0063】
糸93の糸張力が大幅に高い場合、糸93と第1糸ガイド5aが及ぼし合う力が大きくなるため、摩擦熱が大きくなり、ガイド溝61の温度が高くなり易い。従って、熱画像を用いて、糸93の糸張力の異常を検出できる。例えば、糸張力が正常の範囲にある正常状態で撮影された熱画像と、糸張力が正常という正解データと、を対応付けている学習用データが機械学習されてもよい。あるいは、糸張力が正常の範囲から外れた異常状態で撮影された熱画像と、糸張力が異常という正解データと、を対応付けている学習用データが機械学習されてもよい。
【0064】
また、糸93に塗布される油剤の付着量が少な過ぎる場合、糸93と第1糸ガイド5aの間の摩擦係数が高くなるため、摩擦熱が大きくなり、ガイド溝61の温度が高くなり易い。従って、熱画像を用いて、糸93に塗布される油剤の付着量の異常を検出できる。例えば、油剤の付着量が正常の範囲にある正常状態で撮影された熱画像と、油剤の付着量が正常という正解データと、を対応付けている学習用データが機械学習されてもよい。あるいは、油剤の付着量が正常の範囲から外れた異常状態で撮影された熱画像と、油剤の付着量が異常という正解データと、を対応付けている学習用データが機械学習されてもよい。
【0065】
また、第1糸ガイド5aの摩耗が進むと、第1糸ガイド5aの摩擦係数が大きくなるため、ガイド溝61の温度が高くなり易い。従って、熱画像を用いて、第1糸ガイド5aの摩耗の異常を検出できる。例えば、第1糸ガイド5aが摩耗していない正常状態で撮影された熱画像と、第1糸ガイド5aが摩耗していないことを示す正解データと、を対応付けている学習用データが機械学習されてもよい。あるいは、第1糸ガイド5aが摩耗している異常状態で撮影された熱画像と、第1糸ガイド5aが摩耗していることを示す正解データと、を対応付けている学習用データが機械学習されてもよい。
【0066】
判定モデルは、上述した異常のうち1つの異常を判定できるように作成されたものである。ただし、判定モデルは、上述した異常のうち複数の異常を判定できるように作成されてもよい。この場合、判定モデルは、判定対象の複数の異常のうち少なくとも1つが発生しているか否かだけを判定してもよい(即ち、何れの異常が発生しているかまでは判定しない)。あるいは、判定モデルは、判定対象の異常のうち、何れの異常が発生しているかを含めて判定してもよい(この場合は個別の異常状態に応じた熱画像の学習が必要)。
【0067】
次に、主に図8を参照して、制御装置50が行う異常判定について説明する。
【0068】
制御装置50は、糸93の異常判定タイミングか否かを判定する(S101)。糸93の異常判定タイミングは、例えば、糸93の巻取中における所定時間毎に設定されている。なお、これは一例であり、以下に示すように異なる設定がされていてもよい。例えば、糸93の巻取りの開始時のみに、糸93の異常判定タイミングが設定されていてもよい。あるいは、オペレータの指示があった場合に、糸93の異常判定タイミングとなるように設定されていてもよい。
【0069】
制御装置50の制御部50aは、糸93の異常判定タイミングと判定した場合、撮影装置6に糸道領域の撮影を指示する(S102)。次に、判定部50cは、制御装置50が選択した判定モデルと、撮影装置6が撮影して入力部50eに入力された判定用熱画像とに基づいて、上述したように、糸93に関する異常を判定する(S104)。
【0070】
判定部50cが糸93に関する異常があると判定しなかった場合(S105)、制御装置50は、再びステップS101の処理を行う。判定部50cが糸93に関する異常があると判定した場合(S105)、制御装置50の制御部50aは、報知部65を制御して、オペレータに異常を報知する(S106)。
【0071】
以上の処理を繰返し行うことにより、制御装置50は、糸93が異常か否かを判定する。特に、機械学習により構築した判定モデルを用いて検出を行うことにより、判定精度を高くすることができる。
【0072】
本実施形態では、撮影装置6は第1糸ガイド5aを撮影して判定用熱画像を生成する。これに代えて、撮影装置6は、給油ガイド3、第2糸ガイド5b、第3糸ガイド5c、又は、トラバースガイド23を撮影して、判定用熱画像を生成してもよい。また、判定対象の糸ガイドは1つであってもよいし、複数であってもよい。
【0073】
以下では、説明の便宜のために、第1糸ガイド5a、第2糸ガイド5bおよび第3糸ガイド5cを特に区別しない場合には、第1糸ガイド5a、第2糸ガイド5bまたは第3糸ガイド5cを「糸ガイド5」と称する。
【0074】
本実施形態では、判定部50cは、糸道領域の判定用熱画像を用いて、異常の判定を行う。ただし、判定部50cは、判定用熱画像に加え、糸道領域の判定用可視画像を用いて、異常の判定を行ってもよい。具体的には、可視光カメラを準備し、レンズが糸道領域(詳細には第1糸ガイド5aを含む領域)を向くように配置する。特に、可視光カメラは、撮影装置6と画角が近いことが好ましい。可視光カメラは糸道領域を撮影して判定用可視画像を生成し、制御部50aへ出力する。
【0075】
図6(b)に示すように、判定用熱画像では、糸93とガイド溝61の接触箇所の温度が最も高くなる。また、糸道が正常の場合、糸93はガイド溝61の所定領域を通る。所定領域は設計上の情報から特定可能である。以上により、判定用可視画像から得られる第1糸ガイド5aの位置(特にガイド溝61の位置)と、所定領域の情報と、を用いることにより、判定用可視画像において、糸道が正常の場合に糸93が通る位置を特定可能である。その情報を判定用熱画像に適用することにより、糸道が正常の場合に高温となり易い領域を特定できる。例えば、糸道が正常の場合に判定用熱画像で最も高温となる領域(判定用熱画像上で糸93とガイド溝61が接触するべき領域)と、判定用熱画像の実際の温度分布と、を比較することにより、糸道が正常か否かを更に的確に判定できる。
【0076】
<B.制御装置50のハードウェア構成>
次に、図9を参照して、図3に示される制御装置50のハードウェア構成について説明する。図9は、制御装置50のハードウェア構成の一例を示す図である。
【0077】
制御装置50は、上述の記憶部50d(図3参照)と、プロセッサ81と、通信インターフェイス84と、表示インターフェイス85と、入力インターフェイス87とを含む。これらのコンポーネントは、バスBSに接続される。記憶部50dとしては、ROM(Read Only Memory)82、RAM83と、および補助記憶装置90などが挙げられる。
【0078】
プロセッサ81は、たとえば、少なくとも1つの集積回路によって構成される。集積回路は、たとえば、少なくとも1つのCPU、少なくとも1つのGPU(Graphics Processing Unit)、少なくとも1つのASIC(Application Specific Integrated Circuit)、少なくとも1つのFPGA(Field Programmable Gate Array)、またはそれらの組み合わせなどによって構成され得る。
【0079】
プロセッサ81は、各種プログラムを実行することで制御装置50の動作を制御する。プロセッサ81は、各種プログラムの実行命令を受け付けたことに基づいて、補助記憶装置90またはROM82からRAM83に実行対象のプログラムを読み出す。RAM83は、ワーキングメモリとして機能し、プログラムの実行に必要な各種データを一時的に格納する。
【0080】
通信インターフェイス84には、LAN(Local Area Network)やアンテナなどが接続される。制御装置50は、通信インターフェイス84を介して、外部機器との間でデータをやり取りする。当該外部機器は、たとえば、サーバーなどを含む。
【0081】
表示インターフェイス85には、表示デバイス86が接続される。表示インターフェイス85は、プロセッサ81などからの指令に従って、表示デバイス86に対して、画像を表示するための画像信号を送出する。表示デバイス86は、たとえば、液晶表示ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ、またはその他のディスプレイである。なお、表示デバイス86は、制御装置50と一体的に構成されてもよいし、制御装置50とは別に構成されてもよい。
【0082】
入力インターフェイス87には、入力デバイス88が接続される。入力デバイス88は、たとえば、マウス、キーボード、タッチパネル、またはユーザの操作を受け付けることが可能なその他の装置である。なお、入力デバイス88は、制御装置50と一体的に構成されてもよいし、制御装置50とは別に構成されてもよい。
【0083】
補助記憶装置90は、たとえば、ハードディスク、フラッシュメモリ、およびSSDなどの記憶媒体である。補助記憶装置90は、たとえば、学習用データセット122と、判定モデル124と、学習プログラム126と、異常判定プログラム128とを格納する。これらの格納場所は、補助記憶装置90に限定されず、プロセッサ81の記憶領域(たとえば、キャッシュメモリなど)、ROM82、RAM83、外部機器(たとえば、サーバー)などに格納されていてもよい。
【0084】
学習プログラム126は、学習用データセット122を用いて判定モデル124を生成するためのプログラムである。学習プログラム126は、単体のプログラムとしてではなく、任意のプログラムの一部に組み込まれて提供されてもよい。この場合、学習プログラム126による学習処理は、任意のプログラムと協働して実現される。このような一部のモジュールを含まないプログラムであっても、本実施の形態に従う学習プログラム126の趣旨を逸脱するものではない。さらに、学習プログラム126によって提供される機能の一部または全部は、専用のハードウェアによって実現されてもよい。さらに、少なくとも1つのサーバーが学習プログラム126の処理の一部を実行する所謂クラウドサービスのような形態で制御装置50が構成されてもよい。
【0085】
異常判定プログラム128は、学習済みの判定モデル124を用いて、糸ガイド5を通過する糸に関して異常が発生しているか否かを判定するためのプログラムである。異常判定プログラム128は、単体のプログラムとしてではなく、任意のプログラムの一部に組み込まれて提供されてもよい。この場合、異常判定プログラム128による判定処理は、任意のプログラムと協働して実現される。このような一部のモジュールを含まないプログラムであっても、本実施の形態に従う異常判定プログラム128の趣旨を逸脱するものではない。さらに、異常判定プログラム128によって提供される機能の一部または全部は、専用のハードウェアによって実現されてもよい。さらに、少なくとも1つのサーバーが異常判定プログラム128の処理の一部を実行する所謂クラウドサービスのような形態で制御装置50が構成されてもよい。
【0086】
<C.学習用データセット122>
次に、図10を参照して、図9に示される判定モデル124を生成するために用いられる学習用データセット122について説明する。図10は、学習用データセット122の一例を示す図である。
【0087】
学習用データセット122は、複数の学習用データ123を含む。学習用データセット122に含まれる学習用データ123の数は、任意である。一例として、学習用データ123の数は、数十~数十万である。
【0088】
学習用データ123の各々は、上述の糸ガイド5の表面温度の分布を示す熱画像に対して、当該糸ガイドを通過する糸に係る異常の種別をラベル(正解値)として関連付けている。なお、学習用データ123は、1つの紡糸引取機1から取得されてもよいし、紡糸引取機1とは異なる他の紡糸引取機から取得されてもよい。
【0089】
学習用データセット122に規定されるラベルの種類は、1種類であってもよいし、複数種類であってもよい。図10の例では、異常の種別を示すラベルとして、異常「A」~「D」が示されている。異常「A」は、糸93が糸ガイド5上の正常な糸道領域から外れていることを示す糸道異常を示す。異常「B」は、糸ガイド5を通過する糸93の張力が正常な範囲から外れていることを示す張力異常を示す。異常「C」は、糸ガイド5を通過する糸93に付着する油剤の付着量が正常な範囲から外れていることを示す油剤付着量異常を示す。異常「D」は、糸ガイド5の摩耗量が正常な範囲から外れていることを示す摩耗異常を示す。なお、正常を示すラベルが熱画像に関連付けられていてもよい。
【0090】
<D.制御装置50の機能構成>
次に、図11図13を参照して、制御装置50の機能構成について説明する。図11は、制御装置50の機能構成の一例を示す図である。
【0091】
図11に示されるように、制御装置50は、機能構成として、学習部50bと、判定部50cと、入力部50eと、出力部50fとを含む。以下では、これらの機能構成について、学習部50b、入力部50e、判定部50c、および出力部50fの順で説明する。
【0092】
(D1.学習部50b)
まず、図12を参照して、図11に示される学習部50bについて説明する。図12は、学習部50bによる学習処理を概念的に示す図である。
【0093】
学習部50bは、上述の学習用データセット122(図10参照)を用いた学習処理を実行し、糸ガイド5を通過する糸93に関して異常が発生しているか否かを判定するための判定モデル124を生成する。学習処理に採用される機械学習アルゴリズムは、特に限定されず、たとえば、ディープラーニング、コンボリューションニューラルネットワーク(CNN)、全層畳み込みニューラルネットワーク(FCN)、サポートベクターマシンなどが採用され得る。以下では、ディープラーニングを用いた学習処理について説明する。
【0094】
図12に示されるように、判定モデル124は、入力層Xと、中間層Hと、出力層Yとで構成される。
【0095】
入力層Xは、学習用データ123である熱画像の入力を受け付けるように構成されている。入力層Xは、たとえば、N個のユニットx~xで構成されている(Nは自然数)。入力層Xを構成するユニット数は、入力される情報の次元数と同数である。
【0096】
一例として、熱画像の画素数がNピクセルであり、熱画像の各画素がそのまま入力層Xに入力される場合、入力層Xは、N個のユニットで構成される。他の例として、熱画像から特徴抽出された特徴量が入力層Xに入力されてもよい。この場合、入力層Xは、そのユニット数が特徴量の次元数と同数になるように構成される。入力層Xを構成する各ユニットは、入力されたデータを中間層Hの1層目の各ユニットに出力する。
【0097】
中間層Hは、1層または複数層で構成されている。図12の例では、中間層Hは、L層で構成されている(Lは自然数)。中間層Hの各層は、複数のユニットを含む。中間層Hの各層におけるユニット数は、同数であってもよいし、異なっていてもよい。図12の例では、中間層Hの1層目は、Q個のユニットhA1~hAQで構成されている(Qは自然数)。また、中間層Hの最終層は、R個のユニットhL1~hLRで構成されている(Rは自然数)。
【0098】
中間層Hの各層を構成する各ユニットは、前の層の各ユニットと、次の層の各ユニットとに接続されている。各層の各ユニットは、前の層の各ユニットから出力値を受けて、各出力値に重みを乗算し、それらの乗算結果を積算し、その積算結果に対して所定のバイアスを加算(または減算)し、その加算結果(または減算結果)を所定の関数(たとえば、シグモイド関数)に入力し、その関数の出力値を次の層の各ユニットに出力する。
【0099】
出力層Yは、入力された熱画像に応じた推定結果を出力する。出力層Yは、たとえば、ユニットy~yで構成される。以下では、ユニットy~yをユニットyとも称する。
【0100】
ユニットyの各々は、中間層Hの最終層のユニットhL1~hLRと接続されている。ユニットyの各々は、中間層Hの最終層の各ユニットからの出力値を受けて、各出力値に重みを乗算し、それらの乗算結果を積算し、その積算結果に対して所定のバイアスを加算(または減算)し、その加算結果(または減算結果)を所定の関数(たとえば、シグモイド関数)に入力し、その関数の出力結果を出力値として出力する。
【0101】
出力層Yを構成するユニット数は、学習用データ123に規定される異常種別数に応じて決定される。一例として、異常「A」~「D」を検出する場合、出力層Yを構成するユニット数は、ユニットy~yの4つとなる。この場合、ユニットyは、異常「A」が発生している可能性を示すスコア「sa」を出力するように構成される。ユニットyは、異常「B」が発生している可能性を示すスコア「sb」を出力するように構成される。ユニットyは、異常「C」が発生している可能性を示すスコア「sc」を出力するように構成される。ユニットyは、異常「D」が発生している可能性を示すスコア「sd」を出力するように構成される。
【0102】
なお、図12の例では、1つの判定モデル124が複数のスコアを出力するように構成されているが、1つの判定モデルが1つのスコアを出力するように構成されてもよい。一例として、第1の判定モデルが異常「A」に係るスコア「sa」を出力するように構成され、第2の判定モデルが異常「B」に係るスコア「sb」を出力するように構成され、第3の判定モデルが異常「C」に係るスコア「sc」を出力するように構成され、第4の判定モデルが異常「D」に係るスコア「sd」を出力するように構成されてもよい。
【0103】
次に、学習部50bによる判定モデル124の内部パラメータの更新処理について説明する。
【0104】
学習部50bは、1つ目の学習用データ123に規定されている熱画像を判定モデル124に入力する。次に、学習部50bは、判定モデル124から出力された推定結果「sa」~「sd」と、1つ目の学習用データ123に対応付けられている異常種別に応じた正解スコア「sa'」~「sd'」とを比較する。
【0105】
一例として、学習用データ123に対応付けられている異常種別が異常「A」である場合には、正解スコアは、(sa',sb',sc',sd')=(1,0,0,0)となる。学習用データ123に対応付けられている異常種別が異常「B」である場合には、正解スコアは、(sa',sb',sc',sd')=(0,1,0,0)となる。学習用データ123に対応付けられている異常種別が異常「C」である場合には、正解スコアは、(sa',sb',sc' ,sd')=(0,0,1,0)となる。学習用データ123に対応付けられている異常種別が異常「D」である場合には、正解スコアは、(sa',sb',sc' ,sd')=(0,0,0,1)となる。
【0106】
学習部50bは、判定モデル124の出力結果「sa」~「sd」と、正解スコア「sa'」~「sd'」との間の誤差「Z」を算出する。誤差「Z」は、たとえば、下記の式(1)に基づいて算出される。
【0107】
Z={(sa-sa')+(sb-sb')+(sc-sc')+(sd-sd')}/4・・・(1)
次に、学習部50bは、誤差「Z」が小さくなるように、判定モデル124に含まれる各種のパラメータ(たとえば、重みやバイアス)を更新する。当該パラメータの更新は、たとえば、誤差逆伝播法により実現される。
【0108】
以上のように、学習部50bは、学習用データ123に含まれている熱画像を判定モデル124に入力することで判定モデル124から出力される推定結果が、当該熱画像に関連付けられているラベルとしての異常の種別に近付くように、判定モデル124の内部パラメータを更新する。学習部50bは、判定モデル124の内部パラメータの更新処理を、学習用データセット122に含まれる各学習用データ123について繰り返し行う。その結果、判定モデル124は、学習が進むにつれて正確な推定結果を出力するようになる。
【0109】
なお、学習部50bは、学習用データセット122に含まれる全ての学習用データ123を学習処理に用いる必要はなく、学習用データセット122に含まれる一部の学習用データ123を用いて判定モデル124を生成してもよい。残りの学習用データ123は、たとえば、判定モデル124の評価などに用いられる。
【0110】
(D2.入力部50e)
次に、図11に示される入力部50eの機能について説明する。
【0111】
入力部50eは、上述の撮影装置6との通信を実現するための通信モジュールである。制御装置50と撮影装置6とは、有線で通信接続されてもよいし、無線で通信接続されてもよい。
【0112】
入力部50eは、撮影装置6に撮影指示を出力することにより撮影装置6から判定用熱画像を取得し、当該判定用熱画像を判定モデル124に入力する。このとき、入力部50eは、判定用熱画像の各画素をそのまま判定モデル124に入力してもよいし、判定用熱画像から特徴抽出された特徴量を判定モデル124に入力してもよい。これにより、判定モデル124は、糸ガイド5を通過している糸93に関して異常が発生している可能性を示すスコアを異常の種別に出力する。
【0113】
(D3.判定部50c)
次に、図13を参照して、図11に示される判定部50cの機能について説明する。図13は、判定部50cによる異常判定処理を概念的に示す図である。
【0114】
図13に示されるように、判定モデル124は、たとえば、推定結果として、異常「A」が発生している可能性を示すスコア「sa」と、異常「B」が発生している可能性を示すスコア「sb」と、異常「C」が発生している可能性を示すスコア「sc」と、異常「D」が発生している可能性を示すスコア「sd」とを出力する。判定部50cは、スコア「sa」,「sb」,「sc」,「sd」に基づいて、発生している異常種別を判定する。
【0115】
判定部50cは、スコア「sa」が第1閾値を超えている場合には、異常「A」が発生していると判定する。第1閾値は、予め設定されていてもよいし、ユーザによって任意に設定されてもよい。
【0116】
判定部50cは、スコア「sb」が第2閾値を超えている場合には、異常「B」が発生していると判定する。第2閾値は、予め設定されていてもよいし、ユーザによって任意に設定されてもよい。また、第2閾値は、上記第1閾値と同じであってもよいし、上記第1閾値と異なっていてもよい。
【0117】
判定部50cは、スコア「sc」が第3閾値を超えている場合には、異常「C」が発生していると判定する。第3閾値は、予め設定されていてもよいし、ユーザによって任意に設定されてもよい。また、第3閾値は、上記第1,第2閾値と同じであってもよいし、上記第1,第2閾値と異なっていてもよい。
【0118】
判定部50cは、スコア「sd」が第4閾値を超えている場合には、異常「D」が発生していると判定する。第4閾値は、予め設定されていてもよいし、ユーザによって任意に設定されてもよい。また、第4閾値は、上記第1~第3閾値と同じであってもよいし、上記第1~第3閾値と異なっていてもよい。
【0119】
判定部50cは、スコア「sa」が第1閾値以下であり、かつスコア「sb」が第2閾値以下であり、かつスコア「sc」が第3閾値以下であり、かつスコア「sd」が第4閾値以下である場合、異常が発生していないと判定する。すなわち、この場合には、判定部50cは、糸93が糸ガイド5を正常に通過していると判定する。
【0120】
(D4.出力部50f)
次に、図11に示される出力部50fの機能について説明する。
【0121】
出力部50fは、判定部50cによる判定結果に応じた制御指令を所定の出力先に出力する。
【0122】
ある局面において、出力部50fは、警告の表示指令を上述の表示デバイス86(図9参照)に出力する。これにより、表示デバイス86は、糸ガイド5に異常が発生していることを示す警告を表示する。表示デバイス86に表示される警告は、たとえば、発生している異常種別と、異常を示す判定用熱画像とを含む。なお、警告の表示指令は、予め登録されている通信端末に送信されてもよい。これにより、担当者や管理者は、紡糸引取機1内の糸ガイド5に異常が発生していることを認識できる。
【0123】
他の局面において、出力部50fは、警告の報知指令を上述の報知部65(図3参照)に出力する。これにより、報知ランプとしての報知部65は、発生している異常種別に応じた光を発する。また、報知ブザーとしての報知部65は、発生している異常種別に応じた音を発する。
【0124】
一例として、判定結果が正常を示す場合、出力部50fは、報知ランプを緑色に点灯させる。また、判定結果が糸道異常を示す場合、出力部50fは、報知ランプを赤色に点滅させる。さらに、判定結果が油剤の付着量の異常を示す場合、出力部50fは、報知ランプを赤色に点滅させる。さらに、判定結果が張力異常を示す場合、出力部50fは、報知ランプを黄色に点滅させる。判定結果が糸ガイド5の摩耗異常を示す場合、出力部50fは、報知ランプを黄色に点灯させる。
【0125】
また、出力部50fは、判定結果が糸道異常、油剤の付着量の異常、張力異常、または摩耗異常を示す場合、報知ブザーに異常状態を報知させてもよい。好ましくは、出力部50fは、異常の種別に応じた音を報知ブザーに出力させる。
【0126】
さらに、出力部50fは、判定結果が糸道異常、油剤の付着量の異常、張力異常、または摩耗異常を示す場合、異常が発生していることを示す通知を出力してもよい。当該通知は、上述の表示デバイス86に表示されてもよいし、外部機器に送信されてもよい。当該通知に含まれる内容は、たとえば、異常が発生している紡糸引取機の識別子(たとえば、機台ID)と、発生している異常の種別とを含む。
【0127】
さらに他の局面において、出力部50fは、ログの記憶指令を上述の記憶部50d(図3参照)に出力する。これにより、記憶部50dは、発生している異常種別に応じたログを記憶する。一例として、当該ログは、異常の発生時刻と、発生している異常の種別と、異常を示す判定用熱画像とを含む。
【0128】
<E.第1変形例>
次に、図14を参照して、上記実施形態の第1変形例について説明する。なお、以後の説明においては、前述の実施形態と同一又は類似の部材には図面に同一の符号を付し、説明を省略する場合がある。
【0129】
上述の図11の例では、学習部50b、判定部50cが同一の紡糸引取機1に実装されていた。しかしながら、学習部50bおよび判定部50cは、必ずしも同一の紡糸引取機1に実装される必要はない。一例として、学習部50bは、異なる装置に実装されてもよい。
【0130】
図14は、本変形例における異常判定システム500の装置構成の一例を示す図である。図14に示されるように、異常判定システム500は、1つ以上の紡糸引取機1と、1つ以上の情報処理装置200とを含む。図14の例では、異常判定システム500は、3つの紡糸引取機1A~1Cと、1つの情報処理装置200とで構成されている。
【0131】
紡糸引取機1A~1Cおよび情報処理装置200は、同一のネットワークNWに接続されており、互いに通信可能に構成される。紡糸引取機1および情報処理装置200は、有線で通信接続されてもよいし、無線で通信接続されてもよい。
【0132】
情報処理装置200は、デスクトップ型のパソコン、ノート型のパソコン、タブレット端末、または、その他の情報処理端末である。
【0133】
図14の例では、学習部50bは、情報処理装置200に実装されている。また、判定部50cは、紡糸引取機1Cに実装されている。
【0134】
情報処理装置200は、ネットワークNWに接続されている紡糸引取機1(たとえば、紡糸引取機1A,1B)から上述の学習用データ123(図10参照)を収集する。次に、情報処理装置200の学習部50bは、あらゆる紡糸引取機1から収集した学習用データ123を用いて学習処理を実行し、上述の判定モデル124を生成する。学習部50bの機能については上述の通りであるので、その説明については繰り返さない。
【0135】
その後、情報処理装置200は、生成した判定モデル124を紡糸引取機1(たとえば、紡糸引取機1C)に送信する。判定部50cは、当該判定モデル124を用いて、紡糸引取機1C内の糸ガイド5に関して異常が発生していないか否かを判定する。判定部50cの機能については上述の通りであるので、その説明については繰り返さない。
【0136】
<F.第2変形例>
次に、図15および図16を参照して、上記実施形態の第2変形例について説明する。
【0137】
糸93と第1糸ガイド5aの摩擦により発生する熱(温度)は、紡糸引取機1の稼動条件に応じて異なる。例えば、糸93の走行速度が速くなるに連れて、第1糸ガイド5aの温度が高くなる傾向にある。また、糸93の材質に応じて摩擦係数が変化するので、第1糸ガイド5aの温度が変化する。
【0138】
そこで、本変形例では、紡糸引取機1の稼動条件毎に上述した判定モデル124を作成する。ただし、稼動条件毎の判定モデルの作成は必須ではなく、稼動条件に関係なく1つの判定モデルを用いてもよい。
【0139】
(F1.学習処理)
まず、図15を参照して、本変形例に従う学習処理について説明する。図15は、本変形例に従う学習用データセット122Aの一例を示す図である。
【0140】
学習用データセット122Aは、複数の学習用データ123Aを含む。学習用データセット122Aに含まれる学習用データ123Aの数は、任意である。一例として、学習用データ123Aの数は、数十~数十万である。
【0141】
上述の図10に示される学習用データ123においては、糸ガイド5の表面温度の分布を示す熱画像に対して、糸93に係る異常種別がラベル(正解値)として関連付けられていた。これに対して、本変形例に従う学習用データ123Aにおいては、学習用熱画像に対して、紡糸引取機1または他の紡糸引取機の稼動条件がさらに関連付けられている。当該稼動条件としては、たとえば、糸93の走行速度、および糸93の材質などが挙げられる。
【0142】
上述の学習部50bは、学習用データセット122Aに含まれる学習用データ123Aを、類似する稼動条件ごとに分類する。分類の手法には任意の方法が採用され得る。一例として、学習用データ123Aは、クラスタリングにより分類される。クラス数(分類数)は、予め設定されていてもよいし、自動で決められてもよい。
【0143】
クラスタリングの手法は、特に限定されず、類似する稼動条件を分類できる手法であればいずれでもよい。たとえば、クラスタリングの手法は、階層的な手法と、非階層的な手法とを含む。階層的なクラスタリングの手法としては、糸93の走行速度と、糸93の材質との少なくとも1つを含む指標で示される空間上で距離の近い2点を順次結合し、当該距離が予め定められた値を越えるまで結合を行なう手法が挙げられる。また、非階層的なクラスタリングの手法としては、k-means法などが挙げられる。
【0144】
学習部50bは、同一のクラスに属する学習用データ123Aの集合ごとに上述の学習処理を実行する。学習処理については、上述の図12で説明した通りであるので、その説明については繰り返さない。学習処理の結果として、紡糸引取機1の稼動条件範囲の別に判定モデル124が生成される。判定モデル124の各々は、稼動条件範囲が関連付けられた状態で記憶される。
【0145】
(F2.判定処理)
次に、図16を参照して、本変形例に従う判定処理について説明する。図16は、本変形例に従う判定処理に係るフローチャートを示す図である。
【0146】
図16に示されるフローチャートでは、図8に示されるフローチャートと比較して、ステップS103の処理が追加されている。その他の点については図8で説明した通りであるので、それらの説明については繰り返さない。
【0147】
ステップS103において、上述の判定部50cは、紡糸引取機1の現在の稼動条件を取得する。当該稼動条件としては、たとえば、糸93の走行速度、および糸93の材質などが挙げられる。当該稼動条件は、たとえば、上述の入力部50eに入力される。
【0148】
次に、判定部50cは、学習部50bによって生成された判定モデル124の内から、紡糸引取機1の現在の稼動条件に応じた判定モデル124を取得する。より具体的には、判定部50cは、判定モデル124の各々に関連付けられている稼動条件範囲の中から、現在の稼動条件が属する稼動条件範囲を特定し、当該稼動条件範囲に対応する判定モデル124を選択する。その後、判定部50cは、選択した判定モデル124を用いて上述の異常判定処理を実行する。判定部50cによる異常判定処理については、上述の図13で説明した通りであるので、その説明については繰り返さない。
【0149】
(F3.その他)
なお、上述では、類似する稼動条件ごとに判定モデル124が生成される例について説明を行ったが、紡糸引取機1の稼動条件の用い方は、これに限定されない。一例として、上述の学習部50bは、学習用データ123Aに含まれる熱画像だけでなく、稼動条件も含めて学習処理を実行する。この場合、判定モデル124は、熱画像の入力だけでなく、稼動条件の入力を受け付けるように構成される。次に、上述の入力部50eは、判定用熱画像だけでなく、紡糸引取機1の現在の稼動条件を判定モデル124に入力する。これにより、判定モデル124は、糸ガイド5を通過している糸93に関して異常が発生している可能性を示すスコアをより正確に出力する。
【0150】
<G.第3変形例>
次に、図17および図18を参照して、上記実施形態の第3変形例について説明する。
【0151】
上述の図15および図16では、類似する稼動条件ごとに判定モデル124を生成する例について説明を行ったが、判定モデル124は、稼動条件とは異なる別の情報ごとに生成されてもよい。一例として、判定モデル124は、撮影装置6による糸ガイド5の撮影条件の別に生成されてもよい。当該撮影条件は、たとえば、糸ガイド5に対する撮影装置6の相対的な位置関係を含む。
【0152】
以下では、判定モデル124が糸ガイド5に対する撮影装置6の相対的な位置関係の別に生成される例について説明する。
【0153】
(G1.学習処理)
まず、図17を参照して、本変形例に従う学習処理について説明する。図17は、本変形例に従う学習用データセット122Bの一例を示す図である。
【0154】
学習用データセット122Bは、複数の学習用データ123Bを含む。学習用データセット122Bに含まれる学習用データ123Bの数は、任意である。一例として、学習用データ123Bの数は、数十~数十万である。
【0155】
上述の図10に示される学習用データ123においては、糸ガイド5の表面温度の分布を示す熱画像に対して、糸93に係る異常種別がラベル(正解値)として関連付けられていた。これに対して、本変形例に従う学習用データ123Bにおいては、学習用熱画像に対して、糸ガイド5と撮影装置6との位置関係を示す情報がさらに関連付けられている。当該位置関係は、たとえば、糸ガイド5に対する撮影装置6の相対的な座標値と、糸ガイド5に対する撮影装置6の画角との少なくとも一方で規定される。学習用データ123に含まれる上記位置関係は、紡糸引取機1に備えられる糸ガイド5と撮影装置6との位置関係であってもよいし、紡糸引取機1とは異なる他機種に備えられる糸ガイド5と撮影装置6との位置関係であってもよい。
【0156】
上述の学習部50bは、学習用データセット122Bに含まれる学習用データ123Bを、類似する位置関係ごとに分類する。分類の手法には任意の方法が採用され得る。一例として、学習用データ123Bは、クラスタリングにより分類される。クラス数(分類数)は、予め設定されていてもよいし、自動で決められてもよい。
【0157】
クラスタリングの手法は、特に限定されず、類似する位置関係を分類できる手法であればいずれでもよい。たとえば、クラスタリングの手法は、階層的な手法と、非階層的な手法とを含む。階層的なクラスタリングの手法としては、糸ガイド5に対する撮影装置6の相対的な座標値と、糸ガイド5に対する撮影装置6の画角との少なくとも1つを含む指標で示される空間上で距離の近い2点を順次結合し、当該距離が予め定められた値を越えるまで結合を行なう手法が挙げられる。また、非階層的なクラスタリングの手法としては、k-means法などが挙げられる。
【0158】
学習部50bは、同一のクラスに属する学習用データ123Bの集合ごとに上述の学習処理を実行する。学習処理については、上述の図12で説明した通りであるので、その説明については繰り返さない。学習処理の結果として、類似する位置関係の別に判定モデル124が生成される。判定モデル124の各々は、位置関係が関連付けられた状態で記憶される。
【0159】
(G2.判定処理)
次に、図18を参照して、本変形例に従う判定処理について説明する。図18は、本変形例に従う判定処理に係るフローチャートを示す図である。
【0160】
図18に示されるフローチャートでは、図8に示されるフローチャートと比較して、ステップS103Aの処理が追加されている。その他の点については図8で説明した通りであるので、それらの説明については繰り返さない。
【0161】
ステップS103Aにおいて、上述の判定部50cは、糸ガイド5と撮影装置6との位置関係を取得する。当該位置関係は、予め設定されていてもよいし、ユーザによって入力されてもよい。当該位置関係は、たとえば、上述の入力部50eに入力される。以下、糸ガイド5と撮影装置6との位置関係を「入力位置関係」とも称する。
【0162】
次に、判定部50cは、学習部50bによって生成された判定モデル124の内から、上記入力位置関係に応じた判定モデル124を取得する。より具体的には、判定部50cは、判定モデル124の各々に関連付けられている位置関係の中から、上記入力位置関係が属する位置関係を特定し、当該位置関係に対応する判定モデル124を選択する。その後、判定部50cは、選択した判定モデル124を用いて上述の異常判定処理を実行する。判定部50cによる異常判定処理については、上述の図13で説明した通りであるので、その説明については繰り返さない。
【0163】
(G3.その他)
なお、上述では、類似する位置関係ごとに判定モデル124が生成される例について説明を行ったが、当該位置関係の用い方は、これに限定されない。一例として、上述の学習部50bは、学習用データ123Bに含まれる熱画像だけでなく、上記位置関係も含めて学習処理を実行する。この場合、判定モデル124は、熱画像の入力だけでなく、上記位置関係の入力を受け付けるように構成される。次に、上述の入力部50eは、判定用熱画像だけでなく、糸ガイド5と撮影装置6との位置関係を判定モデル124に入力する。これにより、判定モデル124は、糸ガイド5を通過している糸93に関して異常が発生している可能性を示すスコアをより正確に出力する。
【0164】
<H.第4変形例>
次に、図19を参照して、上記実施形態の第4変形例について説明する。図19は、本変形例に従う切り出し処理を概略的に示す図である。
【0165】
糸ガイド5と撮影装置6との相対的な位置関係が決まっている場合には、熱画像内に写る糸ガイド5の位置も一定となる。この場合には、制御装置50は、熱画像内の予め定められた領域を切り出し、当該切り出し領域の画像情報を学習処理および判定処理に用いることで学習精度および判定精度を向上することができる。しかしながら、糸ガイド5に対する撮影装置6の位置は、紡糸引取機1の機種により変わる場合もある。そこで、本変形例に従う制御装置50は、まず、熱画像内における糸ガイド5の領域を特定する。
【0166】
より具体的には、紡糸引取機1の内部には、サーマルカメラとしての撮影装置6の他に、可視光カメラ(図示しない)が設けられている。当該可視光カメラは、その撮影視野が糸ガイド5を含むように紡糸引取機1の内部に設けられている。好ましくは、当該可視光カメラは、撮影装置6に隣接するように設けられている。また、可視光カメラの光軸と、撮影装置6の光軸との成す角度は、所定角度以下(たとえば、10°以下)である。一例として、当該所定角度は、0°である。この場合、可視光カメラの光軸は、撮影装置6の光軸と平行である。
【0167】
図19には、可視光カメラから得られた可視画像IM1と、撮影装置6から得られた熱画像IM2とが示されている。制御装置50は、予め定められた物体検出アルゴリズムを用いて、可視画像IM1から、糸ガイド5を写す画像領域R1を特定する。物体検出アルゴリズムには、既知の任意のアルゴリズムが採用され得る。
【0168】
次に、制御装置50は、可視画像IM1内の画像領域R1の位置に基づいて、熱画像IM2内で糸ガイド5が写っている画像領域R2を特定する。このとき、撮影装置6と可視光カメラとの位置関係が既知であれば、熱画像IM2内における画像領域R2の位置は、可視画像IM1内の画像領域R1の位置から特定され得る。一例として、撮影装置6と可視光カメラとの設置位置が互いに略同じである場合には、制御装置50は、熱画像IM2内における画像領域R2の位置を、可視画像IM1内の画像領域R1の位置と同じとする。他の局面において、制御装置50は、予め決められた射影行列に基づいて、可視画像IM1内の画像領域R1を射影変換し、当該射影変換後の領域を熱画像IM2内における画像領域R2として特定する。なお、当該射影行列は、可視光カメラと撮影装置6との位置関係に基づいて予め決められている。
【0169】
その後、制御装置50は、熱画像IM2内の画像領域R2を切り出し、切り出し画像IM3を生成する。切り出し画像IM3は、上述の学習部50bによる学習処理に用いられ得る。また、切り出し画像IM3は、上述の判定部50cによる判定処理に用いられ得る。
【0170】
<I.第5変形例>
次に、図20を参照して、上記実施形態の第5変形例について説明する。図20は、仮撚加工機(合成繊維製造設備)100の側面図である。
【0171】
仮撚加工機100は、合繊糸104を加工する。図20に示すように、仮撚加工機100は、給糸部101と、加工部102と、巻取部103と、を備える。
【0172】
給糸部101は、合繊糸104が巻かれた複数のパッケージを保持する機構を備える。給糸部101は、加工部102の加工対象である複数の合繊糸104を、加工部102に供給する。
【0173】
加工部102は、合繊糸104を仮撚加工する。加工部102は、合繊糸104の走行方向の上流側から順に、第1フィードローラ105と、糸ガイド106と、第1加熱装置107と、冷却装置108と、仮撚装置109と、第2フィードローラ110と、合糸装置111と、第3フィードローラ112と、第2加工装置113と、第4フィードローラ114と、を備える。
【0174】
第1フィードローラ105は対向するローラで構成されており、複数の合繊糸104を挟み込んで回転することにより、給糸部101の複数のパッケージからそれぞれ合繊糸104を引き出す。糸ガイド106は、第1フィードローラ105が引き出した複数の合繊糸104をそれぞれ個別にガイドする。第1加熱装置107は、例えばヒータを備えており、複数の合繊糸104を加熱する。また、第1加熱装置107の内部には、図略の糸ガイドが設けられている。冷却装置108は、例えば気流を用いて複数の合繊糸104を冷却する。また、冷却装置108の内部には、図略の糸ガイドが設けられている。仮撚装置109は、複数の合繊糸104を仮撚りする。第2フィードローラ110は、仮撚装置109により仮撚りが施された複数の合繊糸104を引き出す。合糸装置111は、2つの合繊糸104を合糸する。第3フィードローラ112は、合糸装置111により合糸された複数の合繊糸104を引き出す。第2加工装置113は、複数の合繊糸104を再び加熱する。第4フィードローラ114は、第2加工装置113により加熱された複数の合繊糸104を引き出す。
【0175】
巻取部103は、第4フィードローラ114によって引き出された複数の合繊糸104をそれぞれ巻き取って複数のパッケージを製造する。
【0176】
糸ガイド106の近傍には、上記実施形態と同等の撮影装置6が配置されている。撮影装置6は、レンズが糸ガイド106を向くように配置されており、糸ガイド106を撮影して判定用熱画像を生成する。糸ガイド106の近傍では合繊糸104に比較的高い糸張力が掛かるため、高い摩擦熱が発生し易い。従って、糸ガイド106の熱画像に基づいて、上記実施形態と同様の処理を行うことにより、糸道の異常を検出できる。
【0177】
撮影装置6は糸ガイド106以外を撮影して判定用熱画像を生成してもよい。例えば、第1加熱装置107の内部の糸ガイド、冷却装置108の内部の糸ガイド、又は、巻取部103に設けられるトラバースガイド等を撮影して判定用熱画像を生成してもよい。
【0178】
<J.まとめ>
以上に説明したように、本実施形態の制御装置50は、入力部50eと、判定部50cと、出力部50fと、を備える。入力部50eには、紡糸引取機1(又は仮撚加工機100、以下同じ)が備える第1糸ガイド5a(糸ガイド106、以下同じ)の一部である糸道領域を含む熱画像が入力される(入力工程、入力手段)。判定部50cは、入力部50eに入力された熱画像に基づいて、糸93に関する異常の有無を判定する(判定工程、判定手段)。出力部50fは、判定部50cの判定結果を出力する(出力工程、出力手段)。また、制御装置50は、入力工程、判定工程、出力工程を含む異常判定方法を行う。また、制御装置50の記憶部50dには、入力手段、判定手段、出力手段として制御装置50を機能させるための異常判定プログラムが記憶されている。
【0179】
糸93の正常時と糸93の異常時では、第1糸ガイド5aで生じる摩擦状況が異なるため、第1糸ガイド5aの温度が異なる。また、糸93が細過ぎて糸93自体の検出が困難な場合であっても、摩擦熱は広がるため、熱画像であれば糸93を間接的に検出できる。以上により、第1糸ガイド5aの一部である糸道領域を含む熱画像に基づいて、糸93に関する異常を精度良く判定できる。
【0180】
本実施形態の制御装置50において、判定部50cは、入力部50eに入力された熱画像に基づいて、糸道の異常を判定する。
【0181】
糸道が異常である場合、第1糸ガイド5aの温度が変化するため、糸道の異常の有無を精度良く判定できる。
【0182】
本実施形態の制御装置50において、判定部50cは、入力部50eに入力された熱画像に基づいて、糸張力の異常を判定する。
【0183】
糸張力が異常である場合、第1糸ガイド5aの温度が変化するため、糸張力の異常の有無を精度良く判定できる。
【0184】
本実施形態の制御装置50において、判定部50cは、入力部50eに入力された熱画像に基づいて、糸93に付与される油剤の付着量の異常を判定する。
【0185】
糸93に付与される油剤の付着量が異常である場合、第1糸ガイド5aの温度が変化するため、糸93に付与される油剤の付着量の異常の有無を精度良く判定できる。
【0186】
本実施形態の制御装置50は、稼動条件に応じた複数の判定モデルを記憶する。判定部50cは、現在の稼動条件に応じて選択された判定モデルと、入力部50eに入力された熱画像とに基づいて、糸93に関する異常の有無を判定する。
【0187】
稼動条件に応じて第1糸ガイド5aで発生し得る温度は変化するため、稼動条件に応じた判定モデルを用いることにより、糸93に関する異常を精度良く判定できる。
【0188】
本実施形態の制御装置50において、入力部50eに入力される熱画像は、撮影装置6によって撮影される。
【0189】
これにより、糸道領域を含む熱画像を取得して、糸93に関する異常の判定に用いることができる。
【0190】
本実施形態の制御装置50は、合成繊維製造設備としての紡糸引取機1の糸93に関する異常の判定結果を出力する。
【0191】
上記の別の実施形態の制御装置50は、合成繊維製造設備としての仮撚加工機100の合繊糸104の異常の判定結果を出力する。
【0192】
これにより、紡糸引取機1(又は仮撚加工機100)の糸93(又は合繊糸104)に関する異常を判定できる。
【0193】
本実施形態の制御装置50において、判定モデルは、糸道領域を予め撮影して生成された学習用熱画像を学習用データとして機械学習を行うことにより構築される。判定モデルは、糸93が異常か否かを判定するためのモデルである。
【0194】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0195】
上記実施形態では、判定部50cは、判定用熱画像と判定モデルを用いて、糸93に関する異常を判定する。この処理を2つのモデルを用いて行ってもよい。つまり、判定モデルの作成時では、学習部50bは、学習用熱画像と温度判定箇所(具体的には正常時において糸93と第1糸ガイド5aが接触する箇所及びその近傍)を示す正解データを学習用データとして第1判定モデルを構築する。次に、学習部50bは、温度判定箇所の温度分布と、糸93又は第1糸ガイド5aが異常か否かを示す正解データと、を学習用データとして第2判定モデルを構築する。そして、判定時では、判定部50cは、判定用熱画像と第1判定モデルに基づいて、温度判定箇所の範囲を求める。次に、判定部50cは、温度判定箇所の範囲と第2判定モデルに基づいて、糸93又は第1糸ガイド5aが異常か否かを判定し、判定結果を出力する。
【0196】
上記実施形態で示したフローチャートは一例であり、一部の処理を省略したり、一部の処理の内容を変更したり、新たな処理を追加したりしてもよい。例えば、図16のフローチャートでは、制御装置50からの指示があった場合に撮影装置6が糸道領域を撮影するが、撮影装置6が自発的に所定の時間間隔で撮影を行って判定用熱画像を制御装置50に出力してもよい。
【0197】
<I.付記>
以上のように、本実施形態は以下のような開示を含む。
【0198】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0199】
本発明の第1の観点によれば、以下の構成の異常判定装置が提供される。即ち、異常判定装置は、入力部と、判定部と、出力部と、を備える。前記入力部には、合成繊維製造設備が備える糸ガイドの一部である糸道領域を含む熱画像が入力される。前記判定部は、前記入力部に入力された前記熱画像に基づいて、糸に関する異常の有無を判定する。前記出力部は、前記判定部の判定結果を出力する。
【0200】
糸の正常時と異常時では、糸ガイドで生じる摩擦状況が異なるため、糸ガイドの温度が異なる。また、糸が細過ぎて糸自体の検出が困難な場合であっても、摩擦熱は広がるため、熱画像であれば糸を間接的に検出できる。以上により、糸ガイドの一部である糸道領域を含む熱画像に基づいて、糸に関する異常を精度良く判定できる。
【0201】
前記の異常判定装置においては、前記判定部は、前記入力部に入力された前記熱画像に基づいて、糸道の異常の有無を判定することが好ましい。
【0202】
糸道が異常である場合、糸ガイドの温度が変化するため、糸道の異常の有無を精度良く判定できる。
【0203】
前記の異常判定装置においては、前記判定部は、前記入力部に入力された前記熱画像に基づいて、糸張力の異常の有無を判定することが好ましい。
【0204】
糸張力が異常である場合、糸ガイドの温度が変化するため、糸張力の異常の有無を精度良く判定できる。
【0205】
前記の異常判定装置においては、前記判定部は、前記入力部に入力された前記熱画像に基づいて、糸に付与される油剤の付着量の異常の有無を判定することが好ましい。
【0206】
糸に付与される油剤の付着量が異常である場合、糸ガイドの温度が変化するため、油剤の付着量の異常を精度良く判定できる。
【0207】
前記の異常判定装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、異常判定装置は、稼動条件に応じた複数の前記判定モデルを備える。前記判定部は、現在の稼動条件に応じて選択された前記判定モデルと、前記入力部に入力された前記熱画像とに基づいて、糸に関する異常の有無を判定する。
【0208】
稼動条件に応じて糸ガイドで発生し得る温度は変化するため、稼動条件に応じた判定モデルを用いることにより、糸に関する異常を精度良く判定できる。
【0209】
前記の異常判定装置においては、前記入力部に入力される前記熱画像は、撮影装置によって撮影されることが好ましい。
【0210】
これにより、糸道領域を含む熱画像を取得して、糸に関する異常の判定に用いることができる。
【0211】
前記の異常判定装置においては、前記合成繊維製造設備としての紡糸引取機の糸に関する異常の判定結果を出力することが好ましい。
【0212】
前記の異常判定装置においては、前記合成繊維製造設備としての仮撚加工機の糸に関する異常の判定結果を出力することが好ましい。
【0213】
これにより、紡糸引取機又は仮撚加工機の糸に関する異常を判定できる。
【0214】
本発明の第2の観点によれば、以下の異常判定方法が提供される。即ち、異常判定方法は、入力工程と、判定工程と、出力工程と、を含む。前記入力工程では、合成繊維製造設備が備える糸ガイドの一部である糸道領域を含む熱画像を入力する。前記判定工程では、前記入力工程で入力した前記熱画像に基づいて、糸に関する異常の有無を判定する。前記出力工程では、前記判定工程での判定結果を出力する。
【0215】
本発明の第3の観点によれば、コンピュータに以下の手段として機能させるための異常判定プログラムが提供される。手段は、入力手段と、判定手段と、出力手段と、を含む。前記入力手段では、合成繊維製造設備が備える糸ガイドの一部である糸道領域を含む熱画像を入力する。前記判定手段では、前記入力手段で入力した前記熱画像に基づいて、糸に関する異常の有無を判定する。前記出力手段では、前記判定手段での判定結果を出力する。
【0216】
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0217】
1 紡糸引取機(合成繊維製造設備)
5a 第1糸ガイド(糸ガイド)
6 撮影装置
9 糸巻取機
50 制御装置
50a 制御部
50b 学習部
50c 判定部
50d 記憶部
100 仮撚加工機(合成繊維製造設備)
106 糸ガイド
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