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特開2024-125174研磨パッド及びウェハのノッチ研磨方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125174
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】研磨パッド及びウェハのノッチ研磨方法
(51)【国際特許分類】
   B24D 5/00 20060101AFI20240906BHJP
   B24B 9/00 20060101ALI20240906BHJP
   B24B 37/24 20120101ALI20240906BHJP
   B24D 3/32 20060101ALI20240906BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
B24D5/00 Z
B24B9/00 601H
B24B37/24 C
B24B37/24 E
B24D3/32
H01L21/304 621E
H01L21/304 622F
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024015232
(22)【出願日】2024-02-02
(31)【優先権主張番号】P 2023032444
(32)【優先日】2023-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】ノリタケ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】594002288
【氏名又は名称】株式会社BBS金明
(74)【代理人】
【識別番号】110001117
【氏名又は名称】弁理士法人ぱてな
(72)【発明者】
【氏名】後藤 崇将
(72)【発明者】
【氏名】岸本 正俊
(72)【発明者】
【氏名】上野 敬
(72)【発明者】
【氏名】服部 貴俊
(72)【発明者】
【氏名】昌子 沙里
【テーマコード(参考)】
3C049
3C063
3C158
5F057
【Fターム(参考)】
3C049AA03
3C049AA07
3C049AA09
3C049AA13
3C049AC04
3C049CB01
3C063AA02
3C063AB03
3C063BA02
3C063BB01
3C063BB02
3C063BB03
3C063BC03
3C063BC09
3C063BG18
3C063EE10
3C158AA03
3C158AA07
3C158AA09
3C158AA13
3C158AC04
3C158CB01
3C158EB01
3C158EB19
3C158EB20
5F057AA05
5F057AA24
5F057AA42
5F057BA12
5F057BB03
5F057CA22
5F057DA02
5F057EB03
5F057EB05
5F057EB07
5F057EB10
5F057EB13
5F057EB30
(57)【要約】
【課題】ノッチを有するウェハの無駄を可及的に少なくできる研磨パッドと、そのようなウェハのノッチ研磨方法とを提供する。
【解決手段】本発明の研磨パッド1は、第1回転軸心Pを中心とする円環状に形成されている。研磨パッド1は、第1面1aと、第2面1bと、外周側で第1面1aと第2面1bとを接続する研磨面3とを有する。研磨パッド1は、円盤形状のウェハ5に形成された結晶軸の方向を示すノッチ7に対して研磨面3を押し付けつつ第1回転軸心P周りで回転されることにより、ノッチ7を研磨する。研磨面3は、バインダ樹脂及び繊維からなり、複数の気孔が形成された母材と、母材内又は気孔内に保持された研磨粒子とを含む研磨体によって構成されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1回転軸心を中心とする円環状に形成され、
前記第1回転軸心と略直交する方向に延びる円環状の第1面と、前記第1回転軸心と略直交する方向に延び、前記第1面の逆に位置する円環状の第2面と、外周側で前記第1面と前記第2面とを接続する研磨面とを有し、
円盤形状のウェハに形成された結晶軸の方向を示すノッチに対して前記研磨面を押し当てつつ前記第1回転軸心周りで回転されることにより、前記ノッチを研磨する研磨パッドであって、
前記研磨面は、バインダ樹脂及び繊維からなり、複数の気孔が形成された母材と、前記母材内又は前記気孔内に保持された研磨粒子とを含む研磨体によって構成されていることを特徴とする研磨パッド。
【請求項2】
前記研磨面は、前記第1面と連続し、前記第2面に近づくにつれて大径となるテーパ状をなす第3面と、前記第2面と連続し、前記第1面に近づくにつれて大径となるテーパ状をなす第4面とを有し、
前記第3面と前記第4面とは前記ノッチの開き角度と整合する内角を有している請求項1記載の研磨パッド。
【請求項3】
前記繊維は繊維ウェブによって構成され、前記バインダ樹脂、前記研磨粒子及び前記気孔は前記繊維ウェブ内に内包されている請求項1又は2記載の研磨パッド。
【請求項4】
前記バインダ樹脂は熱可塑性ポリウレタンであり、前記繊維はポリエチレンテレフタレート又はポリプロピレンである請求項3記載の研磨パッド
【請求項5】
前記バインダ樹脂は8.5~12.7体積%であり、前記研磨粒子は10.6~14.8体積%であり、前記繊維は17.4~26.1体積%であり、前記気孔は54.0~58.6体積%である請求項4記載の研磨パッド。
【請求項6】
前記研磨粒子の体積%を分子とし、前記バインダ樹脂の体積%と前記繊維の体積%との合計を分母とする計算値が0.30~0.48である請求項5記載の研磨パッド。
【請求項7】
密度が0.66~0.74g/cm3であり、
デュロメータ硬度が30~38であり、
弾性率が93.4~257.5N/mm2である請求項3記載の研磨パッド。
【請求項8】
ウェハと研磨パッドと研磨液とを用意する第1工程と、
前記ウェハと前記研磨パッドとの間に前記研磨液を供給しつつ、前記ウェハを前記研磨パッドにより研磨する第2工程とを備え、
前記ウェハは、中心軸線と、前記中心軸線と略直交する方向に延びる表面と、前記表面と逆に位置し、前記中心軸線と略直交する方向に延びる裏面と、前記表面から前記裏面まで切り欠けられ、結晶軸の方向を示すノッチとを有し、
前記研磨パッドは、第1回転軸心を中心とする円環状に形成され、
前記研磨パッドは、前記第1回転軸心と略直交する方向に延びる円環状の第1面と、前記第1回転軸心と略直交する方向に延び、前記第1面の逆に位置する円環状の第2面と、外周側で前記第1面と前記第2面とを接続する研磨面とを有し、
前記研磨面は、バインダ樹脂及び繊維からなり、複数の気孔が形成された母材と、前記母材内又は前記気孔内に保持された研磨粒子とを含む研磨体によって構成され、
前記第2工程では、前記第1回転軸心を前記中心軸線と直交させ、前記研磨粒子を含まない前記研磨液を用いつつ、前記ノッチに対して前記研磨面を押し当てつつ前記第1回転軸心周りで前記研磨パッドを回転することを特徴とするウェハのノッチ研磨方法。
【請求項9】
前記第2工程では、前記表面又は前記裏面と前記第1回転軸心との距離を変動させる請求項8記載のウェハのノッチ研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨パッドと、ウェハのノッチ研磨方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1~4に従来の研磨パッドが開示されている。特許文献1~3の研磨パッドは、不織布にペーストを含浸し、ペースト中の溶剤を除去したものである。特許文献1のペーストは、ウレタンと、ジメチルホルムアミド等の溶剤と、SiO2等の研磨粒子と、炭酸ナトリウム等のアルカリ微粒子とからなる。特許文献2のペーストは、エーテル系ウレタンと、N,N-ジメチルホルムアミド等の溶剤とからなる。特許文献3のペーストは、ウレタンと、溶剤と、撥水剤とからなる。乾燥等による溶剤の除去により、ウレタンは不織布に結合した状態で固化している。特許文献4の研磨パッドは、バインダ樹脂、研磨粒子及び溶剤を混合したペーストを用いて製造したものである。
【0003】
特許文献1の研磨パッドは、半導体素子を製造するために用いられるシリコン等からなる円盤形状のウェハの外周縁部を研磨するために用いられる。すなわち、回転中心周りに回転可能な回転テーブルにウェハが保持される。この際、ウェハの中心軸線が回転テーブルの回転中心に位置される。一方、研磨パッドの外周端面がウェハの外周縁部と当接するようにスピンドルの上端に研磨パッドを設ける。そして、ウェハの外周縁部と研磨パッドの外周端面との間に研磨液を供給するとともに所定の荷重を付加しつつ、回転テーブル及びスピンドルを回転させる。これにより、ウェハの外周縁部を研磨できる。このため、ウェハの外周縁部による半導体デバイスの欠陥の発生を抑制することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-46838号公報
【特許文献2】特開2019-118981号公報
【特許文献3】特開2020-49639号公報
【特許文献4】特許第5511266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ウェハには、円弧の中心をなす中心軸線の他、結晶軸の方向を示すノッチ(Notch)を有している場合がある。結晶軸の方向を示すために用いられる一般的なオリエンテーションフラット(Orientation Flat)では、大口径のウェハから切除する面積が大きくなってしまい、ウェハを無駄にしてしまうからである。
【0006】
このようにノッチを有するウェハでは、ノッチに何らの対策をしないまま表面又は裏面の研磨を行うと、それらの研磨の最中にノッチ近傍で欠けや割れが発生し、ウェハの無駄を生じてしまう。
【0007】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、ノッチを有するウェハの無駄を可及的に少なくできる研磨パッドと、そのようなウェハのノッチ研磨方法とを提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の研磨パッドは、第1回転軸心を中心とする円環状に形成され、
前記第1回転軸心と略直交する方向に延びる円環状の第1面と、前記第1回転軸心と略直交する方向に延び、前記第1面の逆に位置する円環状の第2面と、外周側で前記第1面と前記第2面とを接続する研磨面とを有し、
円盤形状のウェハに形成された結晶軸の方向を示すノッチに対して前記研磨面を押し付けつつ前記第1回転軸心周りで回転されることにより、前記ノッチを研磨する研磨パッドであって、
前記研磨面は、バインダ樹脂及び繊維からなり、複数の気孔が形成された母材と、前記母材内又は前記気孔内に保持された研磨粒子とを含む研磨体によって構成されていることを特徴とする。
【0009】
また、本発明のウェハのノッチ研磨方法は、ウェハと研磨パッドと研磨液とを用意する第1工程と、
前記ウェハと前記研磨パッドとの間に前記研磨液を供給しつつ、前記ウェハを前記研磨パッドにより研磨する第2工程とを備え、
前記ウェハは、中心軸線と、前記中心軸線と略直交する方向に延びる表面と、前記表面と逆に位置し、前記中心軸線と略直交する方向に延びる裏面と、前記表面から前記裏面まで切り欠けられ、結晶軸の方向を示すノッチとを有し、
前記研磨パッドは、第1回転軸心を中心とする円環状に形成され、
前記研磨パッドは、前記第1回転軸心と略直交する方向に延びる円環状の第1面と、前記第1回転軸心と略直交する方向に延び、前記第1面の逆に位置する円環状の第2面と、外周側で前記第1面と前記第2面とを接続する研磨面とを有し、
前記研磨面は、バインダ樹脂及び繊維からなり、複数の気孔が形成された母材と、前記母材内又は前記気孔内に保持された研磨粒子とを含む研磨体によって構成され、
前記第2工程では、前記第1回転軸心を前記中心軸線と直交させ、前記研磨粒子を含まない前記研磨液を用いつつ、前記ノッチに対して前記研磨面を押し付けつつ前記第1回転軸心周りで前記研磨パッドを回転することを特徴とする。
【0010】
本発明の研磨パッドは、研磨面が母材と研磨粒子とを含む研磨体によって構成されている。母材は、バインダ樹脂及び繊維からなり、複数の気孔が形成されている。そして、母材内又は気孔内に研磨粒子が保持されている。このため、本発明のノッチ研磨方法により、本発明の研磨パッドでウェハのノッチを研磨すれば、ノッチに押し付ける際に優れた追随性を発揮しつつ、良好な研磨を行うことができる。このため、ノッチ研磨後のウェハは、表面又は裏面の研磨の最中にノッチ近傍で欠けや割れが発生し難く、又は発生しない。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ノッチを有するウェハの無駄を可及的に少なくできる。また、本発明によれば、研磨粒子を含まない又は研磨粒子の少ない研磨液を用いることができることから、研磨後のウェハに残留する研磨粒子であるパーティクルが少なく、研磨後のウェハの洗浄性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施例1~10の研磨パッドに係り、図(A)は平面図、図(B)は断面図である。
図2図2は、実施例1~10の研磨パッドの拡大断面図である。
図3図3は、実施例1の研磨パッドの500倍のSEM写真である。
図4図4は、実施例1の研磨パッドの2000倍のSEM写真である。
図5図5は、実施例のノッチ研磨方法で用いた研磨前のウェハに係り、図(A)は平面図、図(B)は断面図である。
図6図6は、実施例のノッチ研磨方法で用いた研磨前のウェハの一部拡大側面図である。
図7図7は、実施例のノッチ研磨方法を示す模式平面図である。
図8図8は、実施例のノッチ研磨方法を示す模式側面図である。
図9図9は、実施例のノッチ研磨方法で研磨した後のウェハの一部拡大平面図である。
図10図10は、実施例のノッチ研磨方法で研磨した後のウェハの一部拡大側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の研磨パッドは、研磨面が研磨体によって構成され、研磨体は母材と研磨粒子とを含んでいる。母材は、バインダ樹脂及び繊維からなり、複数の気孔が形成されている。研磨粒子は母材内又は気孔内に保持されている。
【0014】
バインダ樹脂としては、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル、フッ化ビニル・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリエチレン、ポリメタクリル酸メチル等を採用することが可能である。これらは1種でもよく、2種以上が混合されていてもよい。
【0015】
繊維は、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリプロピレン(PP)繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、セルロース繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維、ポリエチレン繊維、ポリオレフィン繊維、レーヨン繊維、低密度ポリエチレン樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、合成ゴム、共重合ポリアミド樹脂、共重合ポリエステル樹脂等を採用することができる。これらは1種でもよく、2種以上が混合されていてもよい。また、繊維長や太さなどの形状を選択することも可能である。
【0016】
研磨粒子としては、シリカ、セリア、アルミナ、ダイヤモンド、ジルコニア、チタニア、マンガン酸化物、炭酸バリウム、酸化クロム、炭化ホウ素、酸化鉄等を採用することが可能である。これらは1種でもよく、2種以上が混合されていてもよい。
【0017】
発明者らの試験結果によれば、バインダ樹脂は熱可塑性ポリウレタンであり、繊維はポリエチレンテレフタレート又はポリプロピレンであることが好ましい。この場合、ノッチに押し付ける際に優れた追随性を発揮する。
【0018】
特に、発明者らの試験結果によれば、バインダ樹脂は8.5~12.7体積%であり、研磨粒子は10.6~14.8体積%であり、繊維は17.4~26.1体積%であり、気孔は54.0~58.6体積%であることが好ましい。また、研磨粒子の体積%を分子とし、バインダ樹脂の体積%と繊維の体積%との合計を分母とする計算値が0.30~0.48であることが好ましい。この場合、耐摩耗性に優れるとともに、研磨効率に優れる。
【0019】
また、発明者らの試験結果によれば、密度が0.66~0.74g/cm3であり、デュロメータ硬度が30~38であり、弾性率が93.4~257.5N/mm2であることが好ましい。この場合、耐摩耗性に優れるとともに、研磨効率に優れる。
【0020】
研磨パッドの繊維は、予め成形された繊維ウェブに基づいてもよく、予め成形されていないものであってもよい。繊維ウェブとは、縦方向に繊維を配列したり、繊維の配列をクロスさせたり、繊維をランダムに配列したりして繊維を重ねたものである。不織布は繊維ウェブの繊維同士を結合させたものである。
【0021】
本発明の研磨パッドは以下の製造方法によって製造可能である。この製造方法は、バインダ樹脂、前記バインダ樹脂を溶解する溶剤及び無数の研磨粒子を含有するペーストと、繊維ウェブとを準備する準備工程と、
前記繊維ウェブに前記ペーストを含浸させ、含浸体を形成する含浸工程と、
前記含浸体から前記溶剤を除去して前記バインダ樹脂を固化する固化工程とを備えている。
【0022】
この製造方法で得られる研磨パッドの研磨体は、繊維を構成する繊維ウェブと、繊維ウェブ内に内包されたバインダ樹脂及び研磨粒子とを含む。この場合、繊維が繊維ウェブとして予め成形されているため、研磨パッドの生産性が高い。
【0023】
ペーストは、バインダ樹脂、無数の研磨粒子の他、溶剤を含む。溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン、酢酸エチル、メチルエチルケトン等を採用することができる。これらは1種でもよく、2種以上が混合されていてもよい。溶剤は、バインダ樹脂に応じて種々選択される。
【0024】
また、ペーストは、炭酸ナトリウム、ピペラジン、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、酸化カルシウム、炭酸カリウム、酸化マグネシウム等のアルカリ微粒子を含んでいてもよい。また、ペーストは、フッ素系撥水剤、シリコン系撥水剤、炭化水素系撥水剤及び金属化合物系撥水剤等の撥水剤を含んでもよい。さらに、ペーストは、二酸化チタン、炭酸カルシウム、カーボンブラック等の無機顔料、アゾ顔料、多環顔料等の有機顔料等の顔料を含んでもよい。これらは1種でもよく、2種以上が混合されていてもよい。
【0025】
研磨液を用いる場合、研磨液は純水であってもよく、油性であってもよく、酸性又はアルカリ性の薬品を含むものであってもよい。
【0026】
研磨面は、第1面と連続し、第2面に近づくにつれて大径となるテーパ状をなす第3面と、第2面と連続し、第1面に近づくにつれて大径となるテーパ状をなす第4面とを有し得る。第3面と第4面とはノッチの開き角度と整合する内角を有していることが好ましい。具体的には、ノッチの開き角度は110°±20°であると規格されているため、ウェハが規格されたノッチを有しているのであれば、第3面と第4面との内角を110°±20°とすることが好ましい。この場合、ノッチをより好適に研磨できる。
【0027】
本発明の研磨方法において、第2工程では、ウェハの表面又は裏面と第1回転軸心との距離を変動させることが好ましい。この場合、ノッチと表面又は裏面との縁部も好適に研磨でき、ノッチ研磨後のウェハにノッチ近傍での欠けや割れがより発生し難く、又は発生しない。
【0028】
(実施例・比較例)
以下、本発明を具体化した実施例1~10と、比較例1、2とを説明する。
【0029】
まず、準備工程として、以下のバインダ樹脂、研磨粒子、溶剤及び繊維ウェブを準備した。繊維ウェブは、図1に示す製造する研磨パッド1と同じく、第1回転軸心Pを中心とする円環状に形成されている。
【0030】
(バインダ樹脂)
TPU(熱可塑性ポリウレタン)
(溶剤)
NMP(N-メチル-2-ピロリドン)
(研磨粒子)
シリカ(SiO2)(平均粒径:200nm)
(繊維ウェブ)
PET(ポリエチレンテレフタレート)繊維100%、目付量1200~1700g/m2
PP(ポリプロピレン)繊維100%、目付量400g/m2
【0031】
そして、表1に示すように、繊維ウェブとペーストとの組み合わせを変えるとともに、バインダ樹脂、研磨粒子及び溶剤を表1に示す質量%で混合し、ペーストとした。
【0032】
【表1】
【0033】
そして、各繊維ウェブの表裏面に荷重を掛けながら各ペーストを接触させ、各繊維ウェブに各ペーストを含浸して含浸体とした。得られた各含浸体を乾燥させることにより、各含浸体から溶剤を除去し、バインダ樹脂を固化した。こうして、各研磨体が得られる。
【0034】
各研磨体の外周部分及び内周部分を第1回転軸心Pを中心として切除し、実施例1~10及び比較例1の研磨パッド1を得た。各研磨体は繊維が繊維ウェブとして予め成形されているため、研磨パッド1の生産性が高い。比較例2の研磨パッド1は、表1に示す繊維ウェブそのものである。各研磨パッド1は、図1及び図2に示すように、内径φ1が152mm、外径φ2が200mm、厚みtが4.5mmである。
【0035】
各研磨パッド1は、図1に示すように、第1回転軸心Pを中心とする円環状に形成されている。また、各研磨パッド1は、第1回転軸心Pと略直交する方向に延びる円環状の第1面1aと、第1回転軸心Pと略直交する方向に延び、第1面1aの逆に位置する円環状の第2面1bと、外周側で第1面1aと第2面1bとを接続する研磨面3とを有している。
【0036】
研磨面3は、図2に示すように、第1面1aと連続し、第2面1bに近づくにつれて第1回転軸心Pから大径となるテーパ状をなす第3面3aと、第2面1bと連続し、第1面1aに近づくにつれて第1回転軸心Pから大径となるテーパ状をなす第4面3bとを有している。第3面3aと第4面3bとは110°±20°の内角θ1を有している。また、第3面3aと第4面3bとは稜線Lを形成している。
【0037】
実施例1の研磨パッド1の500倍のSEM写真を図3に示し、2000倍のSEM写真を図4に示す。図3及び図4に示すように、実施例1~10の研磨パッド1は、研磨体と同様、母材と研磨粒子とからなる。母材は、バインダ樹脂及び繊維からなり、複数の気孔が形成されている。研磨粒子は、母材内又は気孔内に保持されている。
【0038】
こうして得られた実施例1~10及び比較例1、2の研磨パッド1について、表2に示すように、研磨粒子の体積%Vg、バインダ樹脂の体積%Vb、繊維ウェブの体積%Vf及び気孔の体積%Vpを求めた。また、研磨粒子の体積%Vgを分子とし、バインダ樹脂の体積%Vbと繊維の体積%Vfとの合計を分母とする計算値を求めた。この計算値も表2に示す。
【0039】
【表2】
【0040】
また、実施例1~10及び比較例1、2の研磨パッド1について、密度(g/cm3)、研磨面3のデュロメータ硬度(D)及び弾性率(N/mm2)も求めた。この結果を表3に示す。
【0041】
【表3】
【0042】
(試験)
図5に示すように、Siからなり、研磨前のウェハ5を用意した。ウェハ5は、直径が8インチの円盤状である。ウェハ5は、円弧の中心をなす中心軸線Qと、中心軸線Qと略直交する方向に延びる表面5aと、表面5aと逆に位置し、中心軸線Qと略直交する方向に延びる裏面5bとを有している。また、ウェハ5の外周縁の1か所には、表面5aから裏面5bまで切り欠けられ、結晶軸の方向を示すノッチ7を有している。
【0043】
ノッチ7は、図6に示すように、外周縁の1か所から中心軸線Qに延びる第5面7aと、外周縁の他の1か所から中心軸線Qに延びる第6面7bとによって形成されている。図5に示すノッチ7の開き角度θ2は、研磨パッド1の研磨面3の内角θ1と整合する110°±20°である。
【0044】
また、図7に示す研磨装置を用意した。研磨装置は、BBS金明製「FINE SURFACE E-200」であり、研磨パッド1を第1回転軸心P周りに回転可能な図示しないブラケットを備えている。第1回転軸心Pは、図示しないドラムに保持されたウェハ5の中心軸線Qと直交している。ブラケットは、ドラムに対し、研磨パッド1を押し付けることが可能になっている。これにより、ノッチ7の第5面7aと第6面7bとの境界部分が研磨パッド1の稜線Lによって研磨可能である。
【0045】
また、研磨装置は、図8に示すように、第1回転軸心Pが中心軸線Q周りで揺動するようになっており、これによってウェハ5の表面5a又は裏面5bと第1回転軸心Pとの距離Sを変動させることが可能になっている。これにより、ノッチ7は、ウェハ5の表面5aとの境界部分と、裏面5bとの境界部分とが研磨可能である。
【0046】
また、研磨液として、研磨粒子としてのシリカ(SiO2)(平均粒径:0.2μm)の濃度を異ならせたピペラジン水溶液を用いた。
【0047】
そして、以下の条件で200枚のウェハ5のノッチ7を研磨した。
研磨パッド1の回転数:600(rpm)
ノッチ7に対する研磨面3の押し付け荷重:0.8(kgf)
【0048】
研磨後のノッチ7の一部拡大平面図を図9に示し、一部拡大側面図を図10に示す。図9及び図10に示すように、研磨後のノッチ7は、表面が平滑にされるとともに、先端、表面5aとの境界部分及び裏面5bとの境界部分に面取り9が形成され、研磨後のウェハ5はノッチ7の近傍で欠けや割れが発生し難くなる。
【0049】
ウェハ1枚当たりの研磨パッド1の摩耗量と、研磨時間と磨き残しの有無と、パーティクルと、研磨液とを評価した。この際、磨き残しは、ノッチ7の先端(TOP-VN)、ノッチ7の表面5a部分(A-VN)及びノッチ7の裏面5b部分(B-VN)で評価した。
【0050】
研磨パッド1の摩耗量に関しては、200枚のウェハ5のノッチ7を研磨した後の摩耗量が0.010mm未満であれば◎、その摩耗量が0.010mm以上、0.020mm未満であれば〇、その摩耗量が0.020mm以上、0.050mm未満であれば△、その摩耗量が0.050mm以上であれば×とした。研磨パッド1の外径φ2が180mm以下となれば、その研磨パッド1は廃棄する。
【0051】
研磨時間と磨き残しの有無に関しては、研磨時間が60秒以内であり、かつ磨き残しが無ければ◎、研磨時間が120秒以内であり、かつ磨き残しが無ければ〇、研磨時間が180秒以内であり、かつ磨き残しが無ければ△、研磨時間が180秒以上であり、かつ磨き残しが有れば×とした。但し、ノッチ7において、前加工の研削痕(キズ)が横方向に存在しており、顕微鏡観察にて横方向の研削痕が確認された場合は磨き残し有りと判断する。
【0052】
パーティクルに関しては、電子顕微鏡の観察判定により、5μm×5μmの面内において、パーティクル数が0個であれば◎、5個以内であれば〇、5個以上、10個以内であれば△、10個以上であれば×とした。
【0053】
研磨液に関しては、研磨粒子の濃度が0ppmで研磨可能であれば◎、研磨粒子の濃度が1ppm以上、1000ppm未満でなければ研磨できなかった場合は〇、研磨粒子の濃度が1000ppm以上、5000ppm未満でなければ研磨できなかった場合は△、研磨粒子の濃度が5000ppm以上、10000ppm以下でなければ研磨できなかった場合は×とした。
【0054】
総合では、摩耗量、研磨時間と磨き残しの有無、パーティクル及び研磨液の全てが△以上の場合を〇と、これら全てが○以上の場合を◎とした。結果を表4に示す。
【0055】
【表4】
【0056】
表4から、総合において、実施例1、6~10の研磨パッド1が◎を得ており、実施例2~5の研磨パッド1が〇を得ている。上記表2より、実施例1~10の研磨パッド1は、バインダ樹脂が8.5~12.7体積%であり、研磨粒子が10.6~14.8体積%であり、繊維が17.4~26.1体積%であり、気孔が54.0~58.6体積%であるためである。また、実施例1~10の研磨パッド1は、研磨粒子の体積%を分子とし、バインダ樹脂の体積%と繊維の体積%との合計を分母とする計算値が0.30~0.48であるためである。さらに、上記表3より、実施例1~10の研磨パッド1は、密度が0.66~0.74g/cm3であり、デュロメータ硬度が30~38であり、弾性率が93.4~257.5N/mm2であるためである。
【0057】
これに対し、比較例1の研磨パッド1では、磨耗量が劣ったり、磨き残しを生じている。また、比較例2の研磨パッド1では、パーティクル及び研磨液で評価が劣っている。
【0058】
したがって、実施例1~10の研磨パッド1及びこれらを用いたノッチ研磨方法によれば、ノッチ7を有するウェハ5の無駄を可及的に少なくできることがわかる。
【0059】
また、実施例1~10の研磨パッド1及びこれらを用いたノッチ研磨方法によれば、研磨面3を構成する研磨体が無数の研磨粒子を含むため、研磨粒子を含まない又は研磨粒子の少ない研磨液を用いることができ、研磨後のウェハ5に残留する研磨粒子であるパーティクルが少ないことから、研磨後のウェハ5の洗浄性に優れる。
【0060】
以上において、本発明を実施例1~10に即して説明したが、本発明は上記実施例1~10に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0061】
例えば、実施例1~10ではSiからなるウェハ5のノッチ7を研磨したが、本発明の研磨パッド及びウェハ研磨方法はSiCからなるウェハのノッチを研磨する場合にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は半導体デバイスの製造装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0063】
P…第1回転軸心
1a…第1面
1b…第2面
3…研磨面
7…ノッチ
1…研磨パッド
3a…第3面
3b…第4面
θ1…内角
5…ウェハ
Q…中心軸線
5a…表面
5b…裏面
7…ノッチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10