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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125189
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】害虫定着抑制方法
(51)【国際特許分類】
   A01M 29/12 20110101AFI20240906BHJP
   A01P 17/00 20060101ALI20240906BHJP
   A01N 37/02 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
A01M29/12
A01P17/00
A01N37/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024028264
(22)【出願日】2024-02-28
(31)【優先権主張番号】P 2023032736
(32)【優先日】2023-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000100539
【氏名又は名称】アース製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004152
【氏名又は名称】弁理士法人お茶の水内外特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】玉井 一彦
【テーマコード(参考)】
2B121
4H011
【Fターム(参考)】
2B121AA11
2B121CC21
2B121EA28
2B121FA13
4H011AC06
4H011BB06
(57)【要約】
【課題】有機酸および/またはその塩を有効成分とする組成物を、植物に施用することにより害虫防除機能を明確にし、その機能を利用する農薬資材を提供すること。
【解決手段】有機酸および/またはその塩を有効成分とする組成物を、植物体に施用することにより、植物体から揮発性物質を放散させて、害虫の植物体への定着を抑制する方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機酸および/またはその塩を有効成分とする組成物を、
植物体に施用することにより、
植物体から揮発性物質を放散させて、
害虫の植物体への定着を抑制する方法。
【請求項2】
酢酸および/またはその塩を有効成分とする、
植物体における揮発性害虫定着抑制物質の放散誘発剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機酸および/またはその塩を有効成分とする組成物を、植物体に施用することにより、植物体から揮発性物質を放散させて、害虫の植物体への定着を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の農業は、病害虫防除の多くを化学合成農薬に頼らざるを得ない状況にあるが、薬剤抵抗性が発達した害虫の発生や、非ターゲット生物への影響の知見蓄積などにより、化学合成農薬のみへの依存から脱却する試みが始まっている。
また、家庭菜園や家庭園芸においては、使用者の安全志向の高まりにより、天然物由来の病害虫防除剤のニーズが高まっている。
これらの試みやニーズに対して、重曹や酢酸といった特定防除資材(特定農薬)と呼ばれる資材により、病害虫防除効果を得る提案(特許文献1、2等)がなされている。しかしながら、これらの特定防除資材(特定農薬)は、満足できる病害虫防除効果を得るためには、高濃度の散布液を用いる必要や、低濃度の散布液を多量に施用する必要があるため、植物体に薬害が生じるといった問題があった。
また、特定防除資材(特定農薬)により病害虫防除効果が得られるメカニズムについては、未だ、その詳細が解明されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-190198号公報
【特許文献2】特開2007-320943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、有機酸および/またはその塩を有効成分とする組成物を、植物に施用することにより害虫防除機能を明確にし、その機能を利用する農薬資材の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、植物体が揮発性物質を放散することに着目し、これらの植物の揮発性物質の放散を促進させることができれば、害虫による被害を抑制できると考え、鋭意研究を重ねた結果、有機酸および/またはその塩を有効成分とする組成物を、植物体に施用することにより、植物体が放散する揮発性物質が増加し、当該揮発性物質により、害虫の植物体への定着が抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明は、詳しくは以下の事項を要旨とする。
1.有機酸および/またはその塩を有効成分とする組成物を、植物体に施用することにより、植物体から揮発性物質を放散させて、害虫の植物体への定着を抑制する方法。
2.酢酸および/またはその塩を有効成分とする、植物体における揮発性害虫定着抑制物質の放散誘発剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、植物体が放散する揮発性物質が増加し、当該揮発性物質により、害虫の植物体への定着が抑制されるので、害虫による食害や吸汁被害を抑制することができ、植物体の生育を促進することが可能となる。
本発明によれば、化学合成農薬を使用することなく害虫による食害や吸汁被害を抑制するなど、新たな防除効果を得ることができ有用である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例の「害虫定着抑制効果の確認試験」における、2枚のリーフディスクを用いた試験方法を示す概略図である。
図2】実施例の「害虫定着抑制効果の確認試験」における、試験検体1~5の何れかと、試験検体5との組み合わせにおいて、ナミハダニが何れの試験検体で処理したリーフディスクを選択したかを示すグラフである。
図3】実施例の「揮発性物質に対する害虫の反応確認試験1」における、試験装置を説明する概略図である。
図4】実施例の「揮発性物質に対する害虫の反応確認試験1」における、試験検体4、5の何れかを処理した植物体から放散される揮発性物質を選択した、ナミハダニの個体の割合を示すグラフである。
図5】実施例の「揮発性物質に対する害虫の反応確認試験2」における、試験方法を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
<本発明における定着抑制について>
本発明は、植物体に有機酸および/またはその塩を有効成分とする組成物を施用することにより、放散される揮発性物質量や放散される揮発性物質の種類が増加すること、さらには、害虫が当該揮発性物質を嫌がるため、植物体への当該害虫の定着が抑制されるという効果を発揮するものである。すなわち、本発明は、有機酸および/またはその塩を有効成分とする組成物の植物体への施用により、植物体から害虫が嫌がる揮発性物質の放散を増加させることにより、植物体への当該害虫の定着を抑制するものである。
なお、本発明における「誘発」とは、有機酸および/またはその塩を有効成分とする組成物を、植物体に施用することにより、施用以前には放散していなかった揮散性物質を放散させること、および、施用以前から放散していた揮散性物質の放散量が、施用により増加することの両方を意味する。
【0010】
<有機酸および/またはその塩について>
本発明における有効成分は、有機酸および/またはその塩であり、植物体に有機酸および/またはその塩を有効成分とする組成物を用いるものである。
本発明における有機酸としては、カルボキシル基(-COH基)を有するカルボン酸と、スルホ基(-SOH基)を有するスルホン酸が挙げられるが、中でも、カルボン酸が好ましい。カルボン酸としては、蟻酸、酢酸等の飽和カルボン酸、オレイン酸等の不飽和カルボン酸、リンゴ酸、クエン酸等のヒドロキシカルボン酸、安息香酸等の芳香族カルボン酸、シュウ酸、コハク酸等のジカルボン酸が挙げられる。中でも、炭素数1以上10以下の有機酸が好ましく、例えば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸等の飽和脂肪酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸等のジカルボン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸等のヒドロキシカルボン酸、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、サリチル酸等の芳香族カルボン酸等が挙げられる。
これらの有機酸の中でも、本発明における有効成分として、炭素数1以上5以下の飽和カルボン酸が好適である。
また、本発明における有効成分として、例えば、酢酸を用いる場合は、純粋な酢酸の他、食酢である醸造酢や合成酢が含まれる。これらは市販されており、例えば、穀物酢や特濃酢、燻製酢、高濃度醸造酢、粉末食酢(酢酸とデキストリン等の混合物)などを利用することができる。また、ワインビネガーやアップルビネガーといった果実酢も利用可能である。
有機酸の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩、エタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩等が挙げられ、本発明における有効成分として、酢酸塩を使用する場合には、ナトリウム塩、トリエタノールアミン塩、アンモニウム塩、カリウム塩が好ましい。これらの塩は単体として、本発明の組成物中に加えてもよいが、有機酸と対応する中和剤とを別々に加えて製剤調製時に塩を形成させてもよい。例えば、酢酸と、中和剤として水酸化ナトリウムとを別々に加えて、ナトリウム塩として使用することができる。中和剤として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が好適である。
本発明における有効成分としては、上記の有機酸および/またはその塩を含有するものを、1種のみ使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
本発明の放散誘発剤における有効成分は、酢酸および/またはその塩である。
【0011】
本発明における組成物あるいは放散誘発剤は、有効成分である有機酸(または酢酸)および/またはその塩を、組成物あるいは放散誘発剤全体の好ましくは0.04重量%以上、より好ましくは0.05重量%以上、さらに好ましくは0.06重量%以上の含有量とすることができる。また、有機酸および/またはその塩をあまり多量に用いると、植物体に対する薬害のほか有機酸による刺激臭が気になる使用者もいるため、10重量%以下の含有量とすることが好ましく、4重量%以下がより好ましく、1重量%以下がさらに好ましい。
本発明における組成物あるいは放散誘発剤は、そのまま植物体に施用することができるが、所定の有効成分を含有した製剤を使用時に水で希釈して植物体に処理することもできる。希釈して使用する場合は、組成物あるいは放散誘発剤全体における有効成分である有機酸および/またはその塩の濃度に応じて、希釈倍率を適宜調整することが好ましい。水で希釈された製剤においても、有効成分である有機酸および/またはその塩の含有量を、好ましくは0.04重量%以上、より好ましくは0.05重量%以上、さらに好ましくは0.06重量%以上となるように、また、好ましくは10重量%以下、より好ましくは4重量%以下、さらに好ましくは1重量%以下となるように調製して使用することが好適である。
【0012】
本発明における組成物あるいは放散誘発剤は、各種製剤として用いることができる。
製剤としては、例えば、油剤、乳剤、水和剤、フロアブル剤(水中懸濁剤、水中乳濁剤等)、マイクロカプセル剤、粉剤、粒剤、錠剤、液剤、スプレー剤、エアゾール剤等が挙げられる。その中でも、スプレー剤やエアゾール剤等の噴霧用製剤や、液剤をジョウロヘッド付き容器に充填した散布剤等が、本発明における組成物あるいは放散誘発剤の性能を、最大限に活用することができる製剤型として好適である。スプレー剤やエアゾール剤とするには、所定の噴霧パターン、噴霧粒子を供給する噴霧装置を備えたエアゾール缶、薬剤ボトルを用いることができる。
上記製剤の1つの製造例としては、有効成分である有機酸および/またはその塩と、必要に応じて界面活性剤を用いて溶剤に溶かして溶液(A液)を調製し、このA液を適量の水に混合、撹拌して製剤とすることにより、使用時に希釈する必要がない、本発明における組成物あるいは放散誘発剤とする方法を挙げることができる。
水としては、水道水、イオン交換水、蒸留水、濾過処理した水、滅菌処理した水、地下水などを用いることができる。
【0013】
製剤時に用いられる液体担体としては、例えば、アルコール類(メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ヘキサノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール等)、エーテル類(ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等)、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル、ミリスチン酸イソプロピル、乳酸エチル等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等)、芳香族または脂肪族炭化水素類(キシレン、トルエン、アルキルナフタレン、フェニルキシリルエタン、ケロシン、軽油、ヘキサン、シクロヘキサン等)、ハロゲン化炭化水素類(クロロベンゼン、ジクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン等)、ニトリル類(アセトニトリル、イソブチロニトリル等)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシド等)、ヘテロ環系溶剤(スルホラン、γ-ブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N-オクチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン)、酸アミド類(N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等)、炭酸アルキリデン類(炭酸プロピレン等)、植物油(大豆油、綿実油等)、植物精油(オレンジ油、ヒソップ油、ハッカ油、レモン油等)、及び水が挙げられる。
【0014】
製剤時に用いられる界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、及び両性界面活性剤を挙げることができる。非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルホルムアルデヒド縮合物、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマーアルキルフェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル(例、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンラウレート)、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリエチレングリコール脂肪酸エステルなどが挙げられる。陰イオン性界面活性剤としては、例えば、硫酸アルキル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸、ポリオキシエチレンベンジル(またはスチリル)フェニルエーテル硫酸またはポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマー硫酸のナトリウム、カルシウムまたはアンモニウムの各塩;スルホン酸アルキル、ジアルキルスルホサクシネート、アルキルベンゼンスルホン酸(例、ドデシルベンゼンスルホン酸カルシウムなど)、モノ-またはジ-アルキルナフタレン酸スルホン酸、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、リグニンスルホン酸、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルスルホン酸またはポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホサクシネートのナトリウム、カルシウム、アンモニウムまたはアルカノールアミン塩の各塩;ポリオキシエチレンアルキルエーテルホスフェート、ポリオキシエチレン、モノ-またはジ-アルキルフェニルエーテルホスフェート、ポリオキシエチレンベンジル(またはスチリル)化フェニルエーテルホスフェート、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマーホスフェートのナトリウムまたはカルシウム塩などの各塩が挙げられる。陽イオン性界面活性剤としては、例えば第4級アンモニウム塩、アルキルアミン塩、アルキルピリジニウム塩、アルキルオキサイドなどが挙げられる。両性界面活性剤としては、例えばアルキルベタイン、アミンオキシドなどが挙げられる。
【0015】
エアゾール剤とする時に用いられる噴射剤としては、例えば、ブタンガス、フロンガス、代替フロン(HFO、HFC等)、液化石油ガス(LPG)、ジメチルエーテル、炭酸ガスが挙げられる。
また固体担体としては、例えば、粘土類(カオリン、珪藻土、ベントナイト、クレー、酸性白土等)、合成含水酸化珪素、タルク、ゼオライト、セラミック、その他の無機鉱物(セリサイト、石英、硫黄、活性炭、炭酸カルシウム、水和シリカ等)、多孔質体等が挙げられる。
【0016】
本発明における組成物あるいは放散誘発剤は、製剤調製時に必要に応じて、消泡剤、防腐剤、酸化防止剤及び増粘剤等を添加することができる。
消泡剤としては、例えば、シリコーン系消泡剤、フッ素系消泡剤等が挙げられる。
防腐剤としては、例えば、有機窒素硫黄系複合物、有機臭素系化合物、イソチアゾリン系化合物、ベンジルアルコールモノ(ポリ)ヘミホルマル、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム等が挙げられる。
酸化防止剤としては、例えば、テトラキス〔メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、没食子酸プロピル、及びビタミンE、混合トコフェロール、α-トコフェロール、エトキシキン及びアスコルビン酸等が挙げられる。
増粘剤としては、例えば、ポリビニルピロリドン、キサンタンガム、ポリビニルアルコール、グアーガム、カルボキシビニルポリマー等が挙げられる。
【0017】
<害虫について>
本発明における植物体への定着を抑制される害虫は、植物体に対して吸汁や咀嚼による食害被害を与える害虫を意味する。また、ハダニ等のダニ類も本発明における害虫に含まれる。
本発明における害虫としては、揮発性物質を受容できる発育ステージの節足動物を示しており、具体的には、例えば、咀嚼性害虫である、ハスモンヨトウ、シロイチモジヨトウ、アオムシ、オオタバコガ、イラガ、コナガ、ネキリムシ、ハマキムシ、ミノガ、メイガ、ケムシ類などのチョウ目、カミキリムシ、ゾウムシ、オトシブミ、コガネムシ、テントウムシダマシ、ハムシなどのコウチュウ目、ハモグリバエ、キノコバエなどのハエ目、ハバチ、タマバチなどのハチ目、バッタ、コオロギ等のバッタ目、ダンゴムシなどのワラジムシ目、吸汁性害虫である、アブラムシ、コナジラミ、アオバハゴロモ、カイガラムシ、カメムシ、グンバイムシなどのカメムシ目、アザミウマなどのアザミウマ目、ハダニ、サビダニ、ホコリダニなどのダニ目等が挙げられ、好ましくは、アブラムシ、ハダニ、コナジラミ、アザミウマ、ハスモンヨトウ、ハモグリバエ等が挙げられる。
【0018】
<植物体について>
本発明における植物体としては、地上部より揮発性物質を放散し得る植物種ならば限定されるものではなく、具体的には、例えば、ダイコン、ニンジン、ゴボウ、ジャガイモなどの根菜類、ハクサイ、キャベツ、ネギ、タマネギ、ブロッコリー、アスパラ等の葉茎菜類、トマト、ミニトマト、ナス、キュウリ、ピーマン、カボチャ、インゲンマメ、ソラマメ、オクラ等の果菜類、シソ、ミョウガ、ワサビ、バジル、ミント、ローズマリー、パセリ等の香辛野菜類、イチゴ、メロン、スイカ等の果実的野菜類、バラ、チューリップ、パンジー、キク、スイセン、アサガオ、マリーゴールドなどの花卉類、ブルーベリー、カキ、ミカン、ウメ、レモンなどの果樹類、サクラ、アジサイ、サツキ、ツツジ、キンモクセイ、サザンカ、ツバキなどの樹木類、ポトス、アイビー、パキラ、ガジュマルなどの観葉植物類、サボテン、アロエなどの多肉植物類等が挙げられる。
本発明における組成物あるいは放散誘発剤は、植物体に付着させることができる限り、付着させる植物体の部位に制限はないが、吸収効率の良さの点から、植物茎葉部分や根部に対して施用することが好ましい。
本発明における組成物あるいは放散誘発剤の処理時期は、植物体の生育状況に応じて適宜選択すればよい。施用頻度は、1~10日に1回、好ましくは1~7日に1回、より好ましくは1~4日に1回の頻度で施用するのがよい。施用手段は特に制限されない。
本発明における組成物あるいは放散誘発剤の植物体への施用量としては、施用頻度に関わらず、有効成分である有機酸および/またはその塩の積算処理量を、地上部が60cm未満の植物体に対しては、0.0001g/週以上、5g/週以下の範囲、好ましくは0.0005g/週以上、3g/週以下の範囲、より好ましくは0.001g/週以上、1g/週以下の範囲で施用するのが良く、地上部が60cm以上の植物に対しては、有機酸および/またはその塩の積算処理量で0.001g/週以上、50g/週以下の範囲、好ましくは0.005g/週以上、30g/週以下の範囲、より好ましくは0.01g/週以上、10g/週以下の範囲で施用するのがよい。
【0019】
本発明における組成物あるいは放散誘発剤は、植物体に施用することにより、放散される揮発性物質量が増加し、さらには、害虫が当該揮発性物質を嫌がるため、植物体への当該害虫の定着が抑制されるものである。
後述する試験例に基づき、以下に説明する。
本発明における有効成分として、酢酸を含有する組成物を施用した植物体から発せられる揮発性物質は、酢酸を含有しない組成物を施用した植物に比べて、炭素数が5~8の揮発性物質、及びテルペン類、詳しくは炭素数が5~8の揮発性物質であるアルコール、アルデヒド、ケトン、エステル、及びテルペン類の増加が確認された。より詳しくは、炭素数が5の揮発性物質としてペンテノール、炭素数が6の揮発性物質としてヘキセノール、ヘキサナール、ヘキセナール、炭素数が7の揮発性物質としてヘプタナール、炭素数が8の揮発性物質としてオクタナール、オクテノール、オクテノン、酢酸へキセニル、及びテルペン類としてファルネセンの増加が確認された。また、さらに詳しくは、後述する試験例に示すとおり、(Z)-3-ヘキセナール、1-ペンテン-3-オール、(E)-2-ヘキセナール、1-オクテン-3-オン、酢酸ヘキセニル、3-ヘキセン-1-オール、α-ファルネセン、1-オクテン-3-オール、ヘキサナール、ヘプタナール、オクタナールの増加が確認された。
害虫は、これらの成分を嫌がり植物体に近づかず、植物体への定着が抑制されるものと考える。
有機酸(塩)の施用により、害虫が嫌がる揮発性物質の放散量の増加を誘発することは全く知られておらず、有機酸(塩)が有する新たな機能を本発明者らが今回初めて見出したものである。
【0020】
この他、目的に応じて、例えば、殺菌剤、防カビ剤、殺虫殺ダニ剤、忌避剤、香料、精油等を併用してもよい。例えば、ビテルタノール、ブロムコナゾール、シプロコナゾール、ジフェノコナゾール、ヘキサコナゾール、イマザリル、ミクロブタニル、シメコナゾール、テトラコナゾール、チアベンダゾール、ペンチオピラド、マンゼブ等の殺菌剤;塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、ヒノキチオール、フェノキシエタノール、イソプロピルメチルフェノール等の防カビ剤;除虫菊エキス、天然ピレトリン、プラレトリン、イミプロトリン、フタルスリン、アレスリン、ビフェントリン、レスメトリン、フェノトリン、シフェノトリン、ペルメトリン、サイパーメスリン、エトフェンプロックス、シフルトリン、デルタメトリン、ビフェントリン、フェンバレレート、フェンプロパトリン、エムペントリン、シラフルオフェン、トランスフルトリン、メトフルトリン、プロフルトリン等のピレスロイド系化合物、カルバリル、プロポクスル、メソミル、チオジカルブ等のカーバメート系化合物、メトキサジアゾン等のオキサジアゾール系化合物、フィプロニル等のフェニルピラゾール系化合物、アミドフルメト等のスルホンアミド系化合物、ジノテフラン、イミダクロプリド等のネオニコチノイド系化合物、クロルフェナピル等のピロール系化合物等、フェニトロチオン、ダイアジノン、マラソン、ピリダフェンチオン、プロチオホス、ホキシム、クロルピリホス、ジクロルボス等の有機リン系化合物等の殺虫殺ダニ剤;ディート、ジ-n-ブチルサクシネート、ヒドロキシアニソール、ロテノン、エチル-ブチルアセチルアミノプロピオネート、イカリジン(ピカリジン)、3-(N-n-ブチル-N-アセチル)アミノプロピオン酸エチルエステル(IR3535)等の忌避剤の1種または2種以上を用いることができる。香料、精油としては、用途に応じて天然香料及び合成香料、天然抽出物等からなる群から適宜選択される1種または2種以上の組み合わせを用いることができる。
【実施例0021】
以下に実施例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、実施例において、特に明記しない限り、部は重量部を意味する。
【0022】
<害虫定着抑制効果の確認試験>
(1)試験検体
試験検体1
酢酸0.03重量部、展着剤(ポリエーテル変性シリコーン:トリシロキサンエトキシレート)0.05重量部およびイオン交換水を使用して、全体量を100重量部として試験検体1を調製した。
試験検体2
酢酸0.06重量部、展着剤(ポリエーテル変性シリコーン:トリシロキサンエトキシレート)0.05重量部およびイオン交換水を使用して、全体量を100重量部として試験検体2を調製した。
試験検体3
酢酸0.125重量部、展着剤(ポリエーテル変性シリコーン:トリシロキサンエトキシレート)0.05重量部およびイオン交換水を使用して、全体量を100重量部として試験検体3を調製した。
試験検体4
酢酸0.25重量部、展着剤(ポリエーテル変性シリコーン:トリシロキサンエトキシレート)0.05重量部およびイオン交換水を使用して、全体量を100重量部として試験検体4を調製した。
試験検体5
展着剤(トリシロキサンエトキシレート)0.05重量部およびイオン交換水を使用して、全体量を100重量部として試験検体5を調製した。
【0023】
(2)害虫定着抑制効果の確認試験方法
供試植物として、育苗培土(タキイ種苗社製)で満たしたポリポット(直径7.5cm、容量220mL)に播種してから10日程度のインゲンマメ(長鶉)を使用した。供試植物に対して、試験検体1~5の何れかを、ハンドスプレーを用いて植物体の地上部全体がまんべんなく濡れるよう噴霧した(1回あたり約10~20mLを施用)。48時間後、供試植物に対して、再度、前述の方法で1回目と同じ試験検体を噴霧した。2回目の試験検体処理から72時間後、試験検体により2回処理された供試植物の初生葉からリーフディスク(直径2cm)を作製した。水で湿らせた脱脂綿を敷いた9cmシャーレの中心部に、試験検体1~5の何れかを処理したリーフディスクと、試験検体5を処理したコントロールのリーフディスクを5mm離して、1枚ずつ裏向きに載置した(図1)。2枚のリーフディスク間をつなぐ橋としてパラフィルム(5mm×10mm、Bemis社製)をリーフディスク間中央に長辺(10mm)がリーフディスク間をつなぐように載置し、パラフィルム中央部にナミハダニのメス成虫を1個体接種した。
ナミハダニ接種から24時間後、ナミハダニが選択したリーフディスクとして、ナミハダニがどちらのリーフディスク上に存在したかを記録した。各リーフディスクを選択したナミハダニの個体の割合を、図2にまとめて示した。本試験は、試験検体5と試験検体5の組み合わせでは77回、試験検体5と試験検体1の組み合わせでは65回、試験検体5と試験検体2の組み合わせでは63回、試験検体5と試験検体3の組み合わせでは110回、試験検体5と試験検体4の組み合わせでは58回繰り返し行った。図2中のバー内の数字は選択したナミハダニの個体数を意味し、バーの長さは、選択したナミハダニの個体数から算出された割合(%)を示す。
【0024】
図2に示すとおり、ナミハダニは、酢酸を組成物全体に対して0.04重量%以上含有する試験検体2~4を施用した植物体を嫌がり、定着が大きく抑制されることが明らかとなった。また、酢酸を組成物全体に対して0.03重量%しか含有しない試験検体1は、酢酸を含有しない試験検体5とナミハダニの定着に差異が無いこと、すなわち、酢酸を全体に対して0.03重量%含有する組成物は、ナミハダニの定着抑制効果が無いことが確認された。
【0025】
(3)揮発性物質に対する害虫の反応確認試験1
試験検体として、上記試験検体4、5を使用した。
植物体が放散する揮発性物質に対する害虫の反応を確認するために、図3に示す、ガラス製のY字オルファクトメーターを用いて、植物体が放散する揮発性物質に対するナミハダニの反応を調べた。
活性炭にて洗浄した空気を、流量計にて4L/分に調整し、供試植物を入れたガラス容器(直径:20cm、容量:6L)を経由させ、Y字オルファクトメーターの左右のそれぞれへ流した。供試植物として、上記(2)と同様の方法で、試験検体4又は試験検体5を処理後、2回目検体処理から72時間経過したインゲンマメ2株を、土壌部分をアルミホイルで覆い、2つのガラス容器にそれぞれ設置し「匂い源」とした。Y字オルファクトメーターの中心軸に沿って、Y字の金属製ワイヤーを設置した。
ナミハダニのメス成虫1個体をワイヤー上の始点に接種して、観察を開始した。
観察は、ナミハダニがY字のワイヤーに沿って歩行し、Y字の分岐点にて「匂い源」の植物体が放散した揮発性物質の何れかを選択し、Y字オルファクトメーターの終点に到達するか、観察開始から15分経った時点で終了とした。なお、観察開始から15分経過した時点で、終点に到達しなかった個体はデータから除外した。本試験は、116回繰り返し行った。観察開始から15分以内にY字オルファクトメーターの終点に到達した個体を、「匂い源」の植物体から放散された揮発性物質を選択した個体とし、選択したナミハダニの個体の割合を図4に示した。図4中のバー内の数字は、選択したナミハダニの個体数を意味し、バーの長さは、選択したナミハダニの個体数から算出された割合(%)を示す。
【0026】
図4に示すとおり、ナミハダニは、酢酸を有効成分とする組成物の試験検体4を施用した植物体が放散する揮発性物質を嫌がることが確認された。本試験系におけるナミハダニは、植物体が放散する揮発性物質以外の情報を受容することが出来ないことから、本試験の結果は、酢酸を含有する試験検体4により処理した植物体が放散する揮発性物質を、ナミハダニが嫌がったことを示すものである。したがって、害虫定着抑制効果の確認試験の結果は、植物体が放散する揮発性物質が関与していると考えられる。
【0027】
(4)植物体が放散する揮発性物質の同定試験1(インゲンマメ)
試験検体として、上記試験検体4、5を使用した。
<捕集方法>
供試植物として、上記(2)と同様の方法で、試験検体4、5を処理したインゲンマメを使用した。供試植物が放散する揮発性物質を、以下の方法にて捕集を行った。
活性炭にて洗浄した空気を、流量計にて0.3L/分に調整し、地上部以外をアルミホイルで覆った供試植物1株を入れたガラス容器(直径12.5cm、容量2L)を経由させ、ガラス製捕集管TenaxTA(60/80mesh、180mg充填、Camsco社製)を用いて、供試植物が放散する揮発性物質を3時間捕集した。揮発性物質の捕集後、捕集管に内部標準物質としてヘキサンで希釈したノニルアセテート(1μg/mL)を5μL添加した。内部標準物質を添加した捕集管に、活性炭にて洗浄された空気を、流量計にて0.05L/分に調整し、1分間通過させることで捕集管を乾燥させた。供試植物が放散する揮発性物質を捕集し、内部標準物質を添加した捕集管に捕集された揮発性物質について、下記に説明する加熱脱離法にて分析を行った。
【0028】
<分析方法>
本分析は15回繰り返した。
[分析装置構成]
サーマルデソープション:TD-30(株式会社島津製作所製)
ガスクロマトグラフィー質量分析計:GCMS-TQ8040 NX(株式会社島津製作所製)
カラム:DB-WAX(内径0.25mm、長さ30m、膜厚0.25μm)(アジレント・テクノロジー株式会社製)
[TD-30条件]
チューブデソーブ温度:250℃
チューブデソーブ流量:0.07L/分(10分)
トラップ冷却温度:-25℃
トラップデソーブ温度:250℃(2分)
ジョイント温度:220℃
バルブ温度:220℃
トランスファライン温度:220℃
[GC条件]
キャリアガス:ヘリウム
キャリアガス圧力:61.8kPa
注入モード:スプリットレス
カラムオーブン温度:40℃(5分)-(5℃/分)-220℃(5分)
[MS条件]
イオン源温度:200℃
インタフェース温度:250℃
測定モード:シングルMSモード
Scan質量範囲:m/z45-500
試験検体5を施用した植物体が放散する揮発性物質と、試験検体4を施用した植物体が放散する揮発性物質のピーク面積を内部標準物質にて補正後、比較を行い、同じ成分における、試験検体5の揮発性物質に対する試験検体4の揮発性物質の平均相対比を「揮発性物質増加度」として、表1に示した。
【0029】
【表1】
【0030】
表1に示すとおり、酢酸を含有する試験検体4を施用した植物体が放散した揮発性物質は、酢酸を含有しない試験検体5を施用した植物体が放散した揮発性物質に比べて、(Z)-3-ヘキセナール、1-ペンテン-3-オール、(E)-2-ヘキセナール、1-オクテン-3-オン、酢酸ヘキセニル、3-ヘキセン-1-オール、α-ファルネセンの増加が認められた。また、3,5-オクタジエン-2-オンは、酢酸を含有しない試験検体5を施用した植物体では放散が確認されず、酢酸を含有する試験検体4を施用した植物体でのみ放散したことが確認された。これらの揮発性物質は、植物の香りとして知られ、特に(Z)-3-ヘキセナール、(E)-2-ヘキセナール、3-ヘキセン-1-オールは植物の防衛に関わることが知られる成分である。したがって、揮発性物質に対する害虫の反応確認試験の結果は、揮発性物質の放散量の増加によって説明される。
【0031】
(5)植物体が放散する揮発性物質の同定試験2(キャベツ)
試験検体として上記試験検体4、5を使用し、上記(4)とインゲンマメをキャベツに代える以外は同様にして、供試植物が放散する揮発性物質を捕集し、内部標準物質を添加した捕集管に捕集された揮発性物質について分析を行った。キャベツは、播種してから30日程度の株を使用した。
試験検体5を施用した植物体が放散する揮発性物質と、試験検体4を施用した植物体が放散する揮発性物質のピーク面積を内部標準物質にて補正後、比較を行い、同じ成分における、試験検体5の揮発性物質に対する試験検体4の揮発性物質の平均相対比を「揮発性物質増加度」として、表2に示した。
【0032】
【表2】
【0033】
表2に示すとおり、酢酸を含有する試験検体4を施用した植物体が放散した揮発性物質は、酢酸を含有しない試験検体5を施用した植物体が放散した揮発性物質に比べて、ヘキサナール、1-オクテン-3-オール、酢酸ヘキセニル、ヘプタナール、オクタナールの増加が認められ、キャベツもまた、インゲンマメと同様に植物の防衛に関わることが知られる成分を放散させることが確認された。
【0034】
(6)揮発性物質に対する害虫の反応確認試験2
上記表1、2に示すとおり、酢酸を含有する試験検体を施用した植物体が放散した揮発性物質のうち、(E)-2-ヘキセナール、ヘキサナール、1-オクテン-3-オン、酢酸ヘキセニルに対するナミハダニ、ミカンキイロアザミウマ、ハスモンヨトウの反応を調べた。本試験は、(E)-2-ヘキセナールに対するナミハダニの反応は3回、それ以外は2回繰り返し行った。
【0035】
<試験方法>
図5に示すように、水で湿らせた脱脂綿を敷いた9cmシャーレの中心部に、ナミハダニ、ミカンキイロアザミウマ、ハスモンヨトウを自由に歩行させるための足場としてパラフィルム(25mm×50mm、Bemis社製)を載置し、パラフィルム中央部にナミハダニ成虫、ミカンキイロアザミウマ成虫またはハスモンヨトウ若齢幼虫を10個体接種した。足場としたパラフィルム長辺の両端から5mm、かつ、短辺から10mm離した位置にそれぞれ揮発性物質を含浸させたろ紙(5mm×5mm、ADVANTEC社製)を2つ配置した。パラフィルムを長辺中心から2区画に区分けして、1つの区画のろ紙にはアセトン5μLを含侵させ無処理区とした。他方の区画のろ紙には、試験検体の効果を確認するために、試験検体5μL(ナミハダニ、ミカンキイロアザミウマに対しては揮発性物質100μg、ハスモンヨトウに対しては1000μgを、それぞれアセトン10mLで希釈したもの)を含浸させ試験区とした。
含浸から5分後、ナミハダニ、ミカンキイロアザミウマまたはハスモンヨトウが無処理区/試験区どちらに存在していたか記録し、その区画を、ナミハダニ、ミカンキイロアザミウマまたはハスモンヨトウが選択したと判断した。この確認試験にて無処理区/試験区を選択したナミハダニ、ミカンキイロアザミウマまたはハスモンヨトウの個体数を表3に示した。
【0036】
【表3】
【0037】
上記「植物体が放散する揮発性物質の同定試験1、2」において、酢酸を含有する試験検体4を施用した植物体の揮発性物質放散量が、酢酸を含有しない試験検体5を施用した植物体の揮発性物質放散量より増加することが確認された、(E)-2-ヘキセナール、ヘキサナール、1-オクテン-3-オン、酢酸ヘキセニルは、表3に示すとおり、ナミハダニ、ミカンキイロアザミウマ、ハスモンヨトウに対して、定着を抑制させる効果を発揮することが確認された。
【0038】
以上の結果より、有機酸および/またはその塩を有効成分とする組成物を植物体に施用することにより、植物体が放散する揮発性物質が、植物体に対する害虫の選好性に関与し、当該揮発性物質の放散量の増加が、害虫の植物体への定着を抑制するものと考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5