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特開2024-125191カルバクロールを含有する抗アニサキス組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125191
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】カルバクロールを含有する抗アニサキス組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/105 20160101AFI20240906BHJP
   A61P 33/10 20060101ALI20240906BHJP
   A61K 31/05 20060101ALI20240906BHJP
   A61K 36/53 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
A23L33/105
A61P33/10
A61K31/05
A61K36/53
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024029093
(22)【出願日】2024-02-28
(31)【優先権主張番号】P 2023032571
(32)【優先日】2023-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】519057081
【氏名又は名称】学校法人北海道科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002480
【氏名又は名称】弁理士法人IPアシスト
(72)【発明者】
【氏名】丁野 純男
(72)【発明者】
【氏名】戸上 紘平
(72)【発明者】
【氏名】中谷 日向子
【テーマコード(参考)】
4B018
4C088
4C206
【Fターム(参考)】
4B018LB10
4B018LE05
4B018MD08
4B018MD15
4B018MD66
4B018ME11
4B018MF01
4B018MF02
4B018MF14
4C088AB38
4C088BA08
4C088CA03
4C088MA02
4C088MA17
4C088MA22
4C088MA52
4C088NA14
4C088ZB39
4C206AA01
4C206AA02
4C206CA17
4C206KA01
4C206KA18
4C206MA01
4C206MA02
4C206MA03
4C206MA04
4C206MA05
4C206MA37
4C206MA42
4C206MA72
4C206NA14
4C206ZB39
4C206ZC75
(57)【要約】
【課題】アニサキス症の予防又は症状緩和に有用な手段、特に、胃内環境下でアニサキスを殺滅する又はその運動性を低減させる効果を発揮することができる、胃アニサキス症の予防又は症状緩和に有用な手段を提供する。
【解決手段】本発明は、経口摂取によるアニサキス症の予防又は症状緩和のための、カルバクロールを含む水混和性液体又はエマルションである、抗アニサキス組成物に関する。本発明の抗アニサキス組成物は、経口的に摂取することで、アニサキス症、とりわけ胃アニサキス症を予防し、また付随する症状を緩和することができる。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
経口摂取によるアニサキス症の予防又は症状緩和のための、カルバクロールを含む水混和性液体又はエマルションである、抗アニサキス組成物。
【請求項2】
カルバクロールを含む水混和性液体であって、水混和性液体がエタノール及び/又はプロピレングリコールと水との混合物である、請求項1に記載の抗アニサキス組成物。
【請求項3】
カルバクロールと油性成分と乳化剤と水とを含む、水中油型のエマルションである、請求項1に記載の抗アニサキス組成物。
【請求項4】
オレガノ抽出物を含む水混和性液体又はエマルションである、請求項1に記載の抗アニサキス組成物。
【請求項5】
胃アニサキス症の予防又は症状緩和のための、請求項1に記載の抗アニサキス組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の抗アニサキス組成物を含む、飲食品。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載の抗アニサキス組成物を含む、医薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アニサキス症の予防又は症状緩和のための、カルバクロールを含有する抗アニサキス組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アニサキスは、回虫目アニサキス科のアニサキス属及びシュードテラノパ属に分類される線虫で、その幼虫は、待機宿主であるサバ、アジ、サンマ、カツオ、イワシ、サケ、イカなどの魚介類に寄生する。アニサキス幼虫(以下、単にアニサキスと表す)が寄生している生鮮魚介類を生(不十分な冷凍又は加熱のものを含む)で食べることで、アニサキスが胃壁や腸壁に刺入して食中毒(アニサキス症)が引き起こされる。
【0003】
アニサキス症の有病率が最も高い国は日本である。また、アニサキスの感染は生魚を食べる食習慣と関連しており、世界においても日本食の浸透によって寿司や刺身を食べる機会が増えていることから、アニサキス症の患者数は増加しつつある。
【0004】
アニサキス症は、アニサキスが寄生する消化器官の部位により、胃アニサキス症、腸アニサキス症および異所性アニサキス症の3つに分類され、胃アニサキス症の症例が95%を占める。胃アニサキス症は、アニサキスがヒトの胃に到達してから数時間以内に発症し、激しい心窩部痛、嘔吐、下痢、および微熱を引き起こす。
【0005】
アニサキス症の処置は、内視鏡を用いてアニサキスを摘出する外科的処置がほとんどである。一方、化学的処置として、エキノコックス症治療薬であるアルベンダゾールが腸アニサキス症に対して効果的であることが示唆されている(非特許文献1及び2)。このほか、特許文献1はクレオソートを有効成分として含有する消化器アニサキス症用薬剤を、特許文献2は木香から単離されるコスツノライド、デヒドロコスタスラクトンまたはその誘導体を有効成分として含むアニサキス症予防剤を、特許文献3は[6]-ショウガオールおよび/または[6]-ジンゲロールを有効成分とする抗寄生虫剤を開示している。
【0006】
アニサキス症の感染部位はほとんどの症例で胃壁であり、またアニサキスは低pH条件下においてその成長が促進され、運動性が亢進することが知られている(非特許文献3)。さらに、胃アニサキス症は経口感染後、数時間以内という短時間で発症することから、発症を未然に防ぐ、あるいは発症後に症状を速やかに緩和するためには、化学的処置としては短時間で奏功するものが好ましい。このように、消化管内で、特に胃内で、かつ好ましくは短時間で、アニサキスを殺滅可能あるいはアニサキスの運動性を低減可能な、効果的かつ容易な手段が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012-017276
【特許文献2】特開平4-145076
【特許文献3】特開平2-004711
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Moore DA., et al., Lancet, 360(9326), 54, 2002.
【非特許文献2】Pacios E., et al., Clin. Infect. Dis., 41(12),1825-1826, 2005.
【非特許文献3】Dziekonska-Rynko J., et al., Wiad. Parazytol., 47(3), 317-322, 2001.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、アニサキス症の予防又は症状緩和に有用な手段を提供すること、特に、胃内環境下でアニサキスを殺滅する又はその運動性を低減させる効果を発揮することができる、胃アニサキス症の予防又は症状緩和に有用な手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、カルバクロールが広いpH範囲にわたってアニサキスに対する殺滅活性を有すること、また、カルバクロールを溶解した水混和性液体、及びカルバクロールを乳化したエマルションが胃内のアニサキスを殺滅する効果を示すことを見出した。
【0011】
本開示は以下の発明を提供する。
[項1]経口摂取によるアニサキス症の予防又は症状緩和のための、カルバクロールを含む水混和性液体又はエマルションである、抗アニサキス組成物。
[項2]カルバクロールを含む水混和性液体であって、水混和性液体がエタノール及び/又はプロピレングリコールと水との混合物である、項1に記載の抗アニサキス組成物。
[項3]カルバクロールと油性成分と乳化剤と水とを含む、水中油型のエマルションである、項1に記載の抗アニサキス組成物。
[項4]オレガノ抽出物を含む水混和性液体又はエマルションである、項1~3に記載の抗アニサキス組成物。
[項5]胃アニサキス症の予防又は症状緩和のための、項1~4のいずれか一項に記載の抗アニサキス組成物。
[項6]項1~5のいずれか一項に記載の抗アニサキス組成物を含む、飲食品。
[項7]項1~5のいずれか一項に記載の抗アニサキス組成物を含む、医薬。
【発明の効果】
【0012】
本発明の抗アニサキス組成物は、胃内の低pH環境下でも腸内の中性pH環境下でもアニサキスを殺滅する、又はその運動性を低減させる効果を有することから、経口的に摂取することで、アニサキス症、とりわけ胃アニサキス症を予防し、また付随する症状を緩和することができる。また、本発明の抗アニサキス組成物によると、胃又は小腸に滞留している数時間の間にカルバクロールをアニサキス虫体に浸透させることができるため、カルバクロールの有効濃度を維持するために連続的に投与することは必要なく、通常の飲食品、サプリメント等の形態で摂取すればよいという簡便性も有する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】pH1.2、3.0及び6.8における、クレオソート、カルバクロール、レバミゾール、ブロメライン、パパイン、ゲラニオール及びベルベリン存在下でのアニサキスの運動性を示すグラフである。なお、図1、2、5、6、15、16、19及び20において、+++~-はアニサキスの運動性レベル(+++:「自発的に運動している又はピンセットで刺激するとすぐ丸まる、++:ピンセットで刺激すると丸まらないが動く、+:ピンセットで刺激してもわずかにしか動かない、-:反応なし又は虫体が壊れている)であり、縦軸は各レベルについて判定された虫体数を表す。
図2】pH3.0における、クレオソート、ブロメライン、カルバクロール及びゲラニオールの濃度に応じたアニサキスの運動性を示すグラフである。
図3】pH3.0における、クレオソート、ブロメライン、カルバクロール及びゲラニオールの処理時間に応じたアニサキスの死滅数を示すグラフである。なお、図3、7、8、17及び21において、横軸は時間を、縦軸は運動性-と判定された虫体数を表す。
図4】クレオソート、ブロメライン、カルバクロール及びゲラニオール存在下でのCaco-2細胞の生存率を示すグラフである。
図5】pH1.2及び6.8における、カルバクロールのエマルション(カルバクロール-エマルション)の濃度に応じたアニサキスの運動性を示すグラフである。
図6】pH1.2及び6.8における、カルバクロールのエタノール水溶液(カルバクロール-水混和性液体)の濃度に応じたアニサキスの運動性を示すグラフである。
図7】pH1.2及び6.8における、カルバクロール-エマルションの処理時間に応じたアニサキスの死滅数を示すグラフである。
図8】pH1.2及び6.8における、カルバクロール-水混和性液体の処理時間に応じたアニサキスの死滅数を示すグラフである。
図9】pH1.2及び6.8における、カルバクロール-エマルションの処理時間に応じたアニサキス虫体内へのカルバクロール送達量を示すグラフである。
図10】pH1.2及び6.8における、カルバクロール-水混和性液体の処理時間に応じたアニサキス虫体内へのカルバクロール送達量を示すグラフである。
図11】カルバクロール-エマルション存在下でのCaco-2細胞の生存率を示すグラフである。
図12】カルバクロール-水混和性液体存在下でのCaco-2細胞の生存率を示すグラフである。
図13】カルバクロール-エマルション又はカルバクロール-水混和性液体を投与したアニサキス感染ラットにおける消化管内のアニサキスの死滅率を示すグラフである。図中、縦軸は、投与した全虫体数に対する、運動性-と判定された虫体数の割合を表す。
図14】カルバクロール-エマルション又はカルバクロール-水混和性液体を投与したラットの消化管の画像を示す。図中、△は傷害が観察された箇所を示す。
図15】pH1.2、3.0及び6.8におけるチモール存在下でのアニサキスの運動性を示すグラフである。
図16】pH3.0におけるチモールの濃度に応じたアニサキスの運動性を示すグラフである。
図17】pH3.0におけるチモールの処理時間に応じたアニサキスの死滅数を示すグラフである。
図18】チモール存在下でのCaco-2細胞の生存率を示すグラフである。
図19】pH1.2、3.0及び6.8におけるオレガノ抽出物存在下でのアニサキスの運動性を示すグラフである。
図20】pH3.0におけるオレガノ抽出物の濃度に応じたアニサキスの運動性を示すグラフである。
図21】pH3.0におけるオレガノ抽出物の処理時間に応じたアニサキスの死滅数を示すグラフである。
図22】オレガノ抽出物のエマルション又は水混和性液体を投与したアニサキス感染ラットにおける消化管内のアニサキスの死滅率を示すグラフである。図中、縦軸は、投与した全虫体数に対する、運動性-と判定された虫体数の割合を表す。
図23】オレガノ抽出物のエマルション又は水混和性液体を投与したラットの消化管の画像を示す。図中、△は傷害が観察された箇所を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に示す説明は、代表的な実施形態又は具体例に基づくことがあるが、本発明はそのような実施形態又は具体例に限定されるものではない。本明細書において示される各数値範囲の上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。また、本明細書において「~」又は「-」を用いて表される数値範囲は、特に断りがない場合、その両端の数値を上限値及び下限値として含む範囲を意味する。
【0015】
本発明は、経口摂取によるアニサキス症の予防又は症状緩和のための、カルバクロールを含む水混和性液体又はエマルションである、抗アニサキス組成物を提供する。抗アニサキス組成物は、消化管内環境下で、とりわけ胃内環境下でアニサキスを殺滅する又はその運動性を低減させるための組成物である。
【0016】
カルバクロール(Carvacrol)は、以下の式で表される常温で液状のモノテルペン誘導体であり、食用ハーブの一種であるオレガノ(Origanum vulgale)の香り成分として知られている。
【化1】
【0017】
カルバクロールは、オレガノの他、タイム(Thymus vulgaris)、ウインターセイボリー(Satureja montana)、サマーセイボリー(Satureja hortensis)、アジョワン(Trachyspermum ammi)、タイマツバナ(Monarda didyma)、ヤグルマハッカ(Monarda fistulosa)、ヤマジソ(Mosla japonica)などにも含まれている。本発明の抗アニサキス組成物は、単離精製されたカルバクロールを用いて製造してもよく、上に例示したようなカルバクロールを含有する植物からの抽出物を用いて製造してもよい。抽出物の例としては、精油や食品添加物であるオレガノ抽出物等を挙げることができる。
【0018】
抽出物は、カルバクロールを含有する植物の葉、花、幹、樹皮、種子、根等の任意の部分から、蒸留又は溶媒抽出等の公知の方法により調製することができる。抽出物は、カルバクロールの他に、植物由来のエステル、アルデヒド、アルコール、ケトン、テルペン、モノテルペン、セスキテルペン、フェノール、オキシド等を含んでいてもよい。
【0019】
本発明の抗アニサキス組成物は、抗アニサキス効果を有する。抗アニサキス効果とは、経口的に摂取されたとき、消化管内に、とりわけ胃内に存在するアニサキスを殺滅する又はその運動性を低減させる効果を意味する。抗アニサキス効果は、例えば、消化管内環境を模した溶液中にアニサキスと組成物とを共存させた後、アニサキスの運動性を評価することで、確認することができる。
【0020】
抗アニサキス組成物中のカルバクロール含量は、組成物が抗アニサキス効果を発揮できるかぎり制限はなく、所望のカルバクロール摂取量、組成物の形態や容量といった要因に応じて適宜設定することができる。
【0021】
一つの実施形態において、抗アニサキス組成物は、カルバクロールを溶解した水混和性液体である。水混和性液体は、カルバクロールを溶解することができ、かつ水に混和する液体であればよく、その例としては、エタノール、グリセリン、プロピレングリコール、常温で液体のポリエチレングリコール(マクロゴール)、及びこれらと水との混合物等を挙げることができる。水混和性液体の好ましい例は、エタノール、又はエタノールと水の混合物(エタノール水溶液)である。水混和性液体の別の好ましい例は、プロピレングリコール、又はプロピレングリコールと水との混合物(プロピレングリコール水溶液)である。水混和性液体のまた別の好ましい例は、エタノールとプロピレングリコールとの混合物、又はエタノールとプロピレングリコールと水との混合物である。
【0022】
エタノールを含む水混和性液体のエタノール濃度は、所望量のカルバクロールを溶解できるかぎり制限はなく、例えば5%以上、10%以上、15%以上、20%以上であり得て、また90%以下、80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下であり得る。また、プロピレングリコールを含む水混和性液体のプロピレングリコール濃度は、所望量のカルバクロールを溶解できるかぎり制限はなく、例えば5%以上、10%以上、15%以上、20%以上であり得て、また90%以下、80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、40%以下、30%以下、20%以下であり得る。
【0023】
一つの実施形態において、抗アニサキス組成物は、カルバクロールを乳化したエマルション(エマルション組成物)である。エマルション組成物は、好ましくは、カルバクロールと油性成分と乳化剤と水とを含む、水中油型のエマルションである。
【0024】
エマルション組成物において用いられ得る油性成分は、好ましくは、中鎖脂肪酸トリグリセライド及び動植物性油脂からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。中鎖脂肪酸トリグリセライドの例としては、トリグリセライドを構成する脂肪酸の炭素数が8~10である中鎖脂肪酸トリグリセリドが挙げられる。動植物性油脂の例としては、大豆油、菜種油、綿実油、ひまわり油、サフラワー油、やし油、小麦胚芽油、コーン胚芽油、オリーブ油、米ぬか油、ココナッツ油等の植物性、油脂、肝油、魚油、鯨油等の動物性油脂が挙げられる。油性成分は、1種のみであってもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。エマルション組成物の全質量に対する油性成分の含有比率は、所望量のカルバクロールを乳化したエマルションを形成できるかぎり制限はなく、例えば5~50質量%、5~30質量%、又は5~20質量%であり得る。
【0025】
エマルション組成物において用いられ得る乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル(例としてTween80等)、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、レシチン、サポニン、ステロール等を挙げることができる。乳化剤は、1種のみであってもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。エマルション組成物の全質量に対する乳化剤の含有比率は、所望量のカルバクロールを乳化したエマルションを形成できるかぎり制限はなく、例えば0.001~10質量%、0.01~5質量%、又は0.05~2質量%であり得る。
【0026】
エマルションは、一般的な方法により、カルバクロールと水とを又はカルバクロールと油性成分と水とを乳化剤の存在下で混合、乳化することにより、製造することができる。水は他の任意の水溶性成分を含んでいてもよく、また油性成分は他の油溶性成分を含んでいてもよい。エマルションは、各成分を一括に混合して又は逐次混合することで製造してもよい。混合、乳化は、例えば、超音波処理装置、スターラー、インペラー式撹拌機、ホモミキサーその他の通常の乳化装置を用いて行うことができる。エマルションの粒子径の均一化を図る目的で、乳化は複数回行ってもよい。
【0027】
エマルション組成物の平均粒子径は、特に限定されず、例えば10nm~400nm、20nm~300nm、50nm~250nm、又は100nm~250nmであり得る。ここで平均粒子径とは、散乱光強度基準の調和平均粒子径(直径)を意味し、動的光散乱(DLS)法による測定及びキュムラント解析により得ることができる。動的光散乱法による測定及びキュムラント解析は、市販のDLS装置等を用いて、JIS Z 8828:2019、ISO 22412:2017等に記載される方法によって行うことができる。
【0028】
エマルション組成物は、多分散指数(PdI)が0.4以下、0.35以下、0.3以下、又は0.25以下であり得て、また0.05以上、0.1以上、0.15以上、0.2以上であり得る。PdIは、DLS法による測定及びキュムラント解析により得ることができる。
【0029】
本発明の抗アニサキス組成物は、必要に応じて任意の他の成分を1種又は2種以上含有していてもよい。他の成分は、飲食品、医薬に使用可能なものであれば、特に制限されない。他の成分の例としては、カルバクロール以外の抗アニサキス成分その他の生理活性成分、緩衝剤、安定剤、保存剤、賦形剤等が挙げられる。
【0030】
カルバクロールは比重が0.976と低く、水に不溶であることから、直に経口摂取しても胃液又は胃内容物の上面にしか到達せず、十分な抗アニサキス効果を期待することは困難である。一方、本発明の抗アニサキス組成物は、水混和性液体又はエマルションの形態であることから、消化管内に広がってアニサキスを有効量のカルバクロールに暴露させ、結果として高い抗アニサキス効果を発揮することができる。また、本発明の抗アニサキス組成物は、胃内の低pH環境下、腸内の中性pH環境下のいずれにおいても、短い滞留時間のうちに抗アニサキス効果を示すことができる。
【0031】
以上から、アニサキスに汚染された食材、典型的には生の又は調理不十分な魚介類を食してアニサキス症を発症した際に、本発明の抗アニサキス組成物を摂取すれば、アニサキスが死滅する又はその運動性が低減されることにより、アニサキス症の諸症状を消失又は緩和することができると期待される。また、アニサキスに汚染された又はそのおそれのある食材を食する前、食事中又は食後に本発明の抗アニサキス組成物を摂取することで、アニサキス症の発症を予防したり、発症時の症状を軽くしたりすることができると期待される。
【0032】
抗アニサキス組成物は、飲食品及び医薬の形態で利用することができる。ここで飲食品とは、飲料(飲料の濃縮原液を含む)、調味料を含む一般的な加工食品、サプリメント、健康食品(機能性飲食品)、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品)を幅広く含むものとして理解される。
【0033】
抗アニサキス組成物を含む飲食品及び医薬の形態は、経口摂取に適したものであればよい。一つの実施形態において、飲食品及び医薬は、例えば、カプセル剤、懸濁剤、乳剤、液剤、シロップ剤等の経口剤の形態であり得る。
【0034】
また、本発明者らは、カルバクロールに加えて、チモール、ゲラニオール、ブロメライン及びパパインもアニサキスに対する殺滅活性を有することを見出した。本発明は、経口摂取によるアニサキス症の予防又は症状緩和のための、チモール、ゲラニオール、ブロメライン及びパパインよりなる群から選択される少なくとも1つを含む抗アニサキス組成物を提供する。
【0035】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の理解を助けるためのものであって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【実施例0036】
[試験材料及び方法]
(1)材料
クレオソート、カルバクロール、レバミゾール、ブロメライン、パパイン及び大豆油は、富士フイルム和光純薬株式会社より、ベルベリンは東京化成工業株式会社より、ゲラニオールはSigma-Aldrichより、Tween 80は関東化学株式会社より、チモールは富士フイルム和光純薬株式会社より、オレガノ抽出物はNATURAL FACTORS(米国)より、それぞれ購入した。その他の試薬は、市販特級品及び高速液体クロマトグラフィー(HPLC)用を用いた。
【0037】
アニサキスは、北海道沿岸海域で捕獲されたホッケ及びニシンの内臓から採取し、生理食塩水中に4℃で保存した。採取後7日以内のアニサキスを実験に用いた。
【0038】
(2)アニサキスの運動性試験
各被験物質の抗アニサキス効果は、被験物質との共存下でのアニサキスの運動性を指標として評価した。被験物質を溶解させる等張食塩水として、pH1.2及び3.0での試験の場合は140mM 塩化ナトリウムを含む塩酸水溶液を、pH6.8での試験の場合は140mM 塩化ナトリウムを含む10mM 2-(N-morpholino)ethanesulfonic acid(MES)緩衝液を用いた。なお、pH1.2の等張食塩水は人工胃液、pH6.8の等張食塩水は人工腸液とも表す。
【0039】
等張食塩水に所定濃度の被験物質を添加して調製した試験液2mLを12ウェル細胞培養プレート(Thermo Fisher Scientific)の各ウェルに分注し、アニサキスを1匹/ウェル入れ、37℃でインキュベートした(n=12)。アニサキスの運動性は、ピンセットで刺激したときのアニサキスの反応を観察し、以下に示す4段階で評価した。
+++:自発的に運動している又はピンセットで刺激するとすぐ丸まる
++ :ピンセットで刺激すると丸まらないが動く
+ :ピンセットで刺激してもわずかにしか動かない
- :反応なし又は虫体が壊れている(死滅とみなした)
【0040】
(3)in vitro細胞毒性試験
理化学研究所Cell Bankから購入したヒト結腸癌由来細胞Caco-2を、培養液として1% Non-essential amino acids solution(Thermo Fisher Scientific)、10%fetal bovine serum(Biowest)及び40μg/mLゲンタマイシン(MSD株式会社)を含むDulbecco改変培地(富士フイルム和光純薬)を用いて、37℃、5%CO条件下で培養した。90%コンフルエントに達した細胞を0.25%トリプシン-EDTAを用いて回収、継代培養し、54-61代目のCaco-2細胞を実験に使用した。
【0041】
96ウェル細胞培養プレートにCaco-2細胞を2.5×10cells/100μL/ウェル播種し、37℃、5%CO条件下で90-100%コンフルエントまで培養した。培養液を除去した後、所定濃度の被験物質を添加した新たな培養液100μLを添加し、37℃、5%CO条件下で24時間培養した。培養後、MTT Cell Proliferation Assay Kit(Roche Diagnostics)を用いてMTT assayを行った。
【0042】
(4)カルバクロールの定量
試料中のカルバクロール濃度は、HPLC-紫外吸光測定法によって測定した。HPLC条件を以下に示す。検量線は0.2-12.8μg/mLの範囲で良好な直線性を示した。
移動相:10mMリン酸緩衝液(pH7.0):アセトニトリル=50:50(v/v)
注入量:20μL
流速:0.4mL/min
カラム:InertSustain C18、5μm、3.0×250mm
(GL Science.)
ガードカラム:Cartridge Guard Column E、
InertSustain Swift C18 5μm
Cartridge(3.0×10mm)(GL Science)
カラム温度:40℃
ポンプ:LC20-AT(島津製作所)
検出器:SPD-40V(島津製作所)
検出波長:275nm
【0043】
エマルション中のカルバクロール濃度を測定する場合は、エマルションを10mMリン酸緩衝液(pH7.0)で2500倍希釈し、希釈液150μLに内標準物質としてp-安息香酸ブチルのアセトニトリル溶液(5μg/mL)150μLを加えることでHPLC試料を調製した。
【0044】
カルバクロールの虫体への取り込み実験におけるアニサキス虫体中のカルバクロール量を測定する場合は、虫体抽出液150μLにp-安息香酸ブチルのアセトニトリル溶液(5μg/mL)150μLを加え、遠心分離(10,000×g、5分、4℃)後に上清を回収し、0.45μmフィルターのMillex(登録商標)-HV(Merck Millipore)で濾過することでHPLC試料を調製した。
【0045】
(5)統計解析
統計解析にはSPSS Version 27(IBM)を用いた。得られたデータは全て平均値±標準偏差(mean±S.D.)で示した。Student t-testを、また多重比較にはDunnettの方法を用い、p<0.05を統計学的に有意とした。
【0046】
[実施例1.カルバクロールの抗アニサキス効果に対するpHの影響]
クレオソート1000μg/mL、カルバクロール100μg/mL、レバミゾール50μg/mL、ブロメライン200μM、パパイン200μM、ゲラニオール100μg/mL、又はベルベリン500μg/mLを含むpH1.2、3.0又は6.8の試験液を用いてアニサキスを24時間インキュベートし、運動性を評価した。結果を図1に示す。レバミゾール及びベルベリンはいずれのpHにおいてもアニサキスを全く又はほとんど死滅させることはできなかった。また、ブロメライン及びゲラニオールはpH3.0以上の場合に、パパインはpH6.8の場合のみ、アニサキスを死滅させた。一方、クレオソート及びカルバクロールは、いずれのpHにおいてもアニサキスを死滅させ、pH1.2という低pH環境下でも抗アニサキス効果を示すことが確認された。
【0047】
[実施例2.カルバクロールの抗アニサキス効果の濃度依存性]
10~1000μg/mLのクレオソート、3.125~800μMのブロメライン、3~300μg/mLのカルバクロール、又は3~300μg/mLのゲラニオールを含むpH3.0の試験液を用いてアニサキスを24時間インキュベートし、運動性を評価した。
【0048】
結果を図2に示す。クレオソートは1000μg/mLで、ブロメラインは50μM以上で、カルバクロールは100μg/mL以上で、ゲラニオールは300μg/mLで、大半もしくは全てのアニサキスを死滅させた。ブロメラインによって死滅したアニサキスは、虫体が破壊され形状が保たれていなかった。カルバクロール及びゲラニオールによって死滅したアニサキスは、虫体が白濁し、不自然な姿勢のまま硬直していた。
【0049】
[実施例3.カルバクロールの抗アニサキス効果の時間依存性]
クレオソート1000μg/mL、ブロメライン800μM、カルバクロール300μg/mL又はゲラニオール300μg/mLを含むpH3.0の試験液を用いてアニサキスを0.5、1、2、6又は24時間インキュベートして運動性を評価し、-と判定された虫体数を計測した。
【0050】
結果を図3に示す。カルバクロールでは0.5時間後に、ゲラニオールでは6時間後に、クレオソート及びブロメラインでは24時間後に全アニサキスが死滅した。カルバクロールはきわめて短時間で抗アニサキス効果を示すことが確認された。
【0051】
[実施例4.消化管細胞に対するカルバクロールの細胞毒性]
3~1000μg/mLのクレオソート、3.125~800μMのブロメライン、3~300μg/mLのカルバクロール、又は3~300μg/mLのゲラニオールを含む培養液を用いてCaco-2細胞を24時間培養し、細胞毒性を評価した。
【0052】
結果を図4に示す。クレオソートは1000μg/mLで、ブロメラインは3.125μM以上で、カルバクロールは100μg/mL以上で、ゲラニオールは300μg/mLで、細胞生存率が有意に低下した。カルバクロールは、抗アニサキス効果を示す100μg/mLにおける細胞生存率は80%であり、細胞毒性の程度は比較的弱いものであった。
【0053】
実施例1~4の結果から、カルバクロールは広いpH範囲において短時間で抗アニサキス効果を発揮し、かつ有効性を示す濃度で著しい細胞毒性を示さないことが明らかになった。
【0054】
[実施例5.カルバクロールを含有するエマルション及び水混和性液体の調製]
(1)カルバクロール含有エマルションの調製
カルバクロール25mg、大豆油250mg及び10%Tween80 300mgに精製水を加えて全量2.5mLとし、超音波処理(50W、20秒×3回)を行って、濃度10mg/mLのカルバクロール含有エマルション(以下、カルバクロール-エマルションと表す)を調製した。粒子径・ゼータ電位測定装置(Zetasizer Nano ZS,Malvern)を用いて動的光散乱法にて測定したカルバクロール-エマルションの平均粒子径は約230nm、多分散指数は0.25未満であった。また、メチレンブルーを用いた色素法にて乳剤型を判別したところ、分散媒が青色に着色され、水中油型(O/W型)であることが確認された。
【0055】
(2)カルバクロール含有エタノール水溶液の調製
カルバクロール3mgを100μLの99.5%エタノールに溶解した後、全量が1mLとなるように精製水を添加して、濃度3mg/mLのカルバクロール含有エタノール水溶液(以下、カルバクロール-水混和性液体と表す)を調製した。カルバクロール-水混和性液体は、透明な液体であった。
【0056】
[実施例6.カルバクロール-エマルション及びカルバクロール-水混和性液体の評価(in vitro)]
(1)抗アニサキス効果の濃度依存性
カルバクロールの最終濃度が10~300μg/mLとなるようにカルバクロール-エマルション又はカルバクロール-水混和性液体を添加したpH1.2の試験液(人工胃液)又はpH6.8の試験液(人工腸液)を用いてアニサキスを24時間インキュベートし、運動性を評価した。
【0057】
エマルションの結果を図5に、水混和性液体の結果を図6に示す。これらは、いずれのpHにおいても、100μg/mL以上で全てのアニサキスを死滅させた。
【0058】
(2)抗アニサキス効果の時間依存性
カルバクロールの最終濃度が300μg/mLとなるようにエマルション又は水混和性液体を添加したpH1.2の試験液(人工胃液)又はpH6.8の試験液(人工腸液)を用いてアニサキスを0.5、1、2、6又は24時間インキュベートして運動性を評価し、-と判定された虫体数を計測した。
【0059】
エマルションの結果を図7に、水混和性液体の結果を図8に示す。エマルションでは6時間後に、水混和性液体では1時間後に、いずれのpHにおいても大半のアニサキスが死滅した。両組成物は、きわめて短時間で抗アニサキス効果を示すことが確認された。
【0060】
(3)カルバクロールの虫体内送達能
カルバクロールの最終濃度が30μg/mLとなるようにエマルション又は水混和性液体を添加したpH1.2の試験液(人工胃液)1.8mLを、アニサキス1匹と共に2mLマイクロチューブに入れ、37℃で0.25、0.5、1又は2時間インキュベートした。インキュベート後、アニサキスを回収し、生理食塩水で洗浄した。水気を切ったアニサキス3匹を生理食塩水0.6mLを入れた試験管に加えてホモジネートし、得られたアニサキス虫体抽出液を-30℃で保存した。虫体抽出液中のカルバクロール濃度は、HPLCを用いて測定した。また、虫体抽出液中のDNA濃度は、Fluorescent DNA Quantitation Kit(BioRad Laboratories)を用いて測定し、アニサキスのDNA量あたりのカルバクロール送達量を算出することで、虫体内送達能を評価した。
【0061】
エマルションの結果を図9に、水混和性液体の結果を図10に示す。これらは、いずれのpHにおいても、時間依存的にカルバクロールの虫体内送達量を増加させることが確認された。
【0062】
(4)細胞毒性
カルバクロールの最終濃度が30~500μg/mLとなるようにエマルション又は水混和性液体を添加した培養液を用いてCaco-2細胞を24時間培養し、細胞毒性を評価した。
【0063】
エマルションの結果を図11に、水混和性液体の結果を図12に示す。エマルションは300μg/mLで、水混和性液体は100μg/mL以上で、細胞生存率が有意に低下した。エマルションは、抗アニサキス効果を示す100μg/mL及びその2倍濃度の200μg/mLにおいても細胞生存率の低下を認めなかった。また水混和性液体は、100μg/mLにおける細胞生存率が約85%であり、細胞毒性の程度は比較的弱いものであった。
【0064】
以上から、カルバクロールのエマルション及び水混和性液体は、胃内環境下でも腸内環境下でも短時間で抗アニサキス効果を発揮し、かつ有効性を示す濃度で著しい細胞毒性を示さないこと、特にエマルションは有効性を示す濃度の2倍の濃度であっても細胞毒性を示さないことが明らかになった。
【0065】
[実施例7.カルバクロール-エマルション及びカルバクロール-水混和性液体の評価(in vivo)]
(1)抗アニサキス効果
Wistar雌性ラット(9週齢、140g)を1日絶食させた後、ラット1匹あたりアニサキス6匹/0.6mLをゾンデで経口投与した(n=6/群)。アニサキス投与後直ちに、実施例5で調製したカルバクロール-エマルション1mL又は0.25mL、あるいはカルバクロール-水混和性液体1mLを、また比較例として生理食塩水1mL、1.6mgの正露丸(大幸薬品)を生理食塩水に懸濁した液1mL、又はオリーブ油にカルバクロールを溶解して調製したオリーブ油賦形液体(3mg/mL)1mLをゾンデで経口投与した。1時間後、ラット消化管内のアニサキスを回収し、ピンセットで刺激を与えて運動性を判定し、-と判定された虫体数を計測して致死率を算出した。
【0066】
結果を図13に示す。エマルションは0.25mL(カルバクロール2.5mg)以上の投与で約75%のアニサキスを死滅させた。また、水混和性液体は1mLの投与で100%のアニサキスを死滅させた。いずれの組成物を投与した場合も、アニサキスの大半は胃内で死んでいたが、腸内で死んでいるものも認められた。これに対し、オリーブ油賦形液体は、水混和性液体と同じカルバクロール含量であるにもかかわらず、アニサキスに対して弱い効果しか示さなかった。ラットに投与した液体の総量から算出されたカルバクロールのラット胃内濃度は、エマルション0.25mL投与の場合は2.94mg/mL、エマルション1mL投与の場合は6.25mg/mL、水混和性液体1mL投与の場合は1.875mg/mLであった。
【0067】
(2)消化管傷害性
Wistar雌性ラット(9週齢、140g)を1日絶食させた後、ラット1匹あたりエマルション1mL又は水混和性液体1mLを、また比較例として生理食塩水1mL、又は99.5%エタノール1mLをゾンデで経口投与した。6時間後、ラットから消化管を摘出し、内壁の様子を観察した。
【0068】
結果を図14に示す。エマルションを投与したラット、水混和性液体を投与したラットのいずれも、ネガティブコントロールである生理食塩水を投与したラットと同様、消化管の傷害は認められなかった。一方、ポジティブコントロールであるエタノールを投与したラットでは、胃が赤くただれ、小腸でも傷害が確認された(図中、△で示す箇所)。
【0069】
以上から、カルバクロールのエマルション及び水混和性液体は、ラット胃内で短時間で抗アニサキス効果を発揮し、かつ消化管傷害性を示さないことが明らかになった。
【0070】
[実施例8.チモールの抗アニサキス効果]
(1)pH
チモール100μg/mLを含むpH1.2、3.0又は6.8の試験液を用いてアニサキスを24時間インキュベートし、運動性を評価した。結果を図15に示す。チモールは、クレオソート及びカルバクロールと同様に、いずれのpHにおいてもアニサキスを死滅させ、pH1.2という低pH環境下でも抗アニサキス効果を示すことが確認された。
【0071】
(2)濃度依存性
3~300μg/mLのチモールを含むpH3.0の試験液を用いてアニサキスを24時間インキュベートし、運動性を評価した。結果を図16に示す。チモールは、カルバクロールと同様に、100μg/mL以上で全てのアニサキスを死滅させた。
【0072】
(3)時間依存性
チモール300μg/mLを含むpH3.0の試験液を用いてアニサキスを0.5、1、2、6又は24時間インキュベートして運動性を評価し、-と判定された虫体数を計測した。結果を図17に、実施例3の結果と合わせて示す。チモールは、カルバクロールと同様に、0.5時間後に全アニサキスを死滅させた。
【0073】
(4)細胞毒性
3~300μg/mLのチモールを含む培養液を用いてCaco-2細胞を24時間培養し、細胞毒性を評価した。結果を図18に示す。チモールは、30μg/mL以上で細胞生存率を有意に低下させた。
【0074】
実施例8の結果から、チモールは、広いpH範囲において短時間で抗アニサキス効果を発揮することが明らかになった。
【0075】
[実施例9.オレガノ抽出物の抗アニサキス効果]
実施例1~4と同様にして、以下のとおりにオレガノ抽出物の抗アニサキス効果を評価した。本実施例で用いたオレガノ抽出物は、カルバクロールを16%、チモールを0.21%含有する(いずれも乾燥質量ベース)。
【0076】
(1)pH
オレガノ抽出物100μg/mLを含むpH1.2、3.0又は6.8の試験液を用いてアニサキスを24時間インキュベートし、運動性を評価した。結果を図19に示す。オレガノ抽出物は、いずれのpHにおいてもアニサキスを死滅させ、pH1.2という低pH環境下でも抗アニサキス効果を示すことが確認された。
【0077】
(2)濃度依存性
10~300μg/mLのオレガノ抽出物を含むpH3.0の試験液を用いてアニサキスを24時間インキュベートし、運動性を評価した。結果を図20に示す。オレガノ抽出物は、100μg/mL以上で全てのアニサキスを死滅させた。
【0078】
(3)時間依存性
オレガノ抽出物300μg/mLを含むpH3.0の試験液を用いてアニサキスを0.5、1、2、6又は24時間インキュベートして運動性を評価し、-と判定された虫体数を計測した。結果を図21に示す。オレガノ抽出物は、6時間後に全アニサキスを死滅させた。
【0079】
実施例9の結果から、オレガノ抽出物は、広いpH範囲において短時間で抗アニサキス効果を発揮することが明らかになった。
【0080】
[実施例10.オレガノ抽出物を含有するエマルション及び水混和性液体の調製]
(1)オレガノ抽出物含有エマルションの調製
カルバクロール換算で25mgのオレガノ抽出物、大豆油250mg及び10%Tween80 300mgに精製水を加えて全量2.5mLとし、超音波処理(50W、20秒×3回)を行って、カルバクロール濃度10mg/mLのオレガノ抽出物含有エマルション(以下、オレガノ抽出物-エマルションと表す)を調製した。粒子径・ゼータ電位測定装置(Zetasizer Nano ZS,Malvern)を用いて動的光散乱法にて測定したオレガノ抽出物-エマルションの平均粒子径は約230nm、多分散指数は0.25であった。また、メチレンブルーを用いた色素法にて乳剤型を判別したところ、分散媒が青色に着色され、水中油型(O/W型)であることが確認された。
【0081】
(2)オレガノ抽出物含有水混和性液体の調製
カルバクロール換算で3mgのオレガノ抽出物を100μLの99.5%エタノール及び200μLのプロピレングリコールの混合液に溶解した後、全量が1mLとなるように精製水を添加して、カルバクロール濃度3mg/mLのオレガノ抽出物溶液(以下、オレガノ抽出物-水混和性液体と表す)を調製した。オレガノ抽出物-水混和性液体は、透明な液体であった。
【0082】
[実施例11.オレガノ抽出物を含有するエマルション及び水混和性液体の評価(in vivo)]
(1)抗アニサキス効果
Wistar雌性ラット(9週齢、140g)を1日絶食させた後、ラット1匹あたりアニサキス6匹/0.6mLをゾンデで経口投与した(n=6/群)。アニサキス投与後直ちに、実施例10で調製したオレガノ抽出物-エマルション1mL又は0.25mL、あるいはオレガノ抽出物-水混和性液体1mL、0.5mL又は0.25mLを、また比較例として生理食塩水1mL、又はオリーブ油にオレガノ抽出物を溶解して調製したオリーブ油賦形液体(カルバクロール換算で3mg/mL)1mLをゾンデで経口投与した。1時間後、ラット消化管内のアニサキスを回収し、ピンセットで刺激を与えて運動性を判定し、-と判定された虫体数を計測して致死率を算出した。
【0083】
結果を図22に示す。エマルション、水混和性液体はいずれも約60%以上のアニサキスを死滅させたのに対し、オリーブ油賦形液体は、水混和性液体と同じオレガノ抽出物含量であるにもかかわらず、アニサキスに対して弱い効果しか示さなかった。
【0084】
(2)消化管傷害性
Wistar雌性ラット(9週齢、140g)を1日絶食させた後、ラット1匹あたりエマルション1mL又は水混和性液体1mLを、また比較例として生理食塩水1mL、又は99.5%エタノール1mLをゾンデで経口投与した。6時間後、ラットから消化管を摘出し、内壁の様子を観察した。
【0085】
結果を図23に示す。エマルションを投与したラット、水混和性液体を投与したラットのいずれも、ネガティブコントロールである生理食塩水を投与したラットと同様、消化管の傷害は認められなかった。一方、ポジティブコントロールであるエタノールを投与したラットでは、胃が赤くただれ、小腸でも傷害が確認された(図中、△で示す箇所)。
【0086】
以上から、オレガノ抽出物のエマルション及び水混和性液体は、ラット胃内で短時間で抗アニサキス効果を発揮し、かつ消化管傷害性を示さないことが明らかになった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23