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特開2024-12521レシプロエンジンシステム、レシプロエンジンの運転方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024012521
(43)【公開日】2024-01-30
(54)【発明の名称】レシプロエンジンシステム、レシプロエンジンの運転方法
(51)【国際特許分類】
   F02M 21/02 20060101AFI20240123BHJP
   F02D 23/00 20060101ALI20240123BHJP
   F02M 25/00 20060101ALI20240123BHJP
   F02B 37/24 20060101ALI20240123BHJP
   F01N 3/08 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
F02M21/02 N
F02D23/00 N
F02M25/00 F
F02B37/24
F01N3/08 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】27
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023189340
(22)【出願日】2023-11-06
(62)【分割の表示】P 2023553934の分割
【原出願日】2022-11-09
(31)【優先権主張番号】P 2021186474
(32)【優先日】2021-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】503116899
【氏名又は名称】株式会社IHI原動機
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】田貝 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】眞島 豊
(72)【発明者】
【氏名】増田 裕
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 孝行
(72)【発明者】
【氏名】宮内 健太
(72)【発明者】
【氏名】相場 宏樹
(57)【要約】
【課題】アンモニアを燃料として用いるレシプロエンジンにおいて、二酸化炭素の排出削減の効果をより大きくすることを目的とする。
【解決手段】このレシプロエンジンシステムは、燃焼室を形成するシリンダと、前記シリンダ内を往復移動するピストンと、前記シリンダに気体のアンモニアを供給し空気と予混合させるアンモニア燃料供給装置と、前記シリンダ内に前記アンモニアを着火させる液体補助燃料を供給する液体補助燃料供給装置と、を有するレシプロエンジンと、前記シリンダ内の圧縮端温度が前記アンモニアの燃焼遅れが生じない所定の温度以上の状態で、前記アンモニアと前記液体補助燃料による混焼運転を行う制御装置と、を備える。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室を形成するシリンダと、
前記シリンダ内を往復移動するピストンと、
前記シリンダに気体のアンモニアを供給し空気と予混合させるアンモニア燃料供給装置と、
前記シリンダ内に前記アンモニアを着火させる液体補助燃料を供給する液体補助燃料供給装置と、を有するレシプロエンジンと、
前記シリンダ内の圧縮端温度が前記アンモニアの燃焼遅れが生じない所定の温度以上の状態で、前記アンモニアと前記液体補助燃料による混焼運転を行う制御装置と、を備える、
レシプロエンジンシステム。
【請求項2】
前記所定の温度が、750Kである、
請求項1に記載のレシプロエンジンシステム。
【請求項3】
前記シリンダの一つ当たりの行程容積が5000cc以上であり、且つ、前記レシプロエンジンの定格回転速度が1200rpm以下である、
請求項2に記載のレシプロエンジンシステム。
【請求項4】
前記制御装置は、前記混焼運転において、前記レシプロエンジンの出力の増大に応じて燃料全体に対する前記アンモニアの混焼率を増大させ、
前記アンモニアの最大の混焼率は、熱量比で80%以上とする、
請求項3に記載のレシプロエンジンシステム。
【請求項5】
前記制御装置は、前記混焼運転において、前記空気に対する燃料全体の当量比を0.5以上且つ1.0以下とする、
請求項4に記載のレシプロエンジンシステム。
【請求項6】
前記制御装置は、前記空気に対する燃料全体の当量比が所定の値未満となる運転領域では、前記アンモニアの混焼率をゼロとし、前記液体補助燃料のみで運転を行う、
請求項5に記載のレシプロエンジンシステム。
【請求項7】
前記制御装置は、前記圧縮端温度が前記所定の温度より低い運転領域において、前記圧縮端温度を上げる制御を行う、
請求項1~6のいずれか一項に記載のレシプロエンジンシステム。
【請求項8】
前記圧縮端温度を上げる制御は、前記レシプロエンジンの吸気を加熱する制御である、
請求項7に記載のレシプロエンジンシステム。
【請求項9】
コンプレッサとタービンを有し前記レシプロエンジンに過給を行う過給機をさらに備え、
前記制御装置は、前記コンプレッサの下流における吸気の温度が所定の温度より低い運転領域において、吸気を加熱する制御を行う、
請求項1~6のいずれか一項に記載のレシプロエンジンシステム。
【請求項10】
前記制御装置は、前記混焼運転において、前記液体補助燃料の供給量を一定とし、前記アンモニアの供給量を調速制御する、
請求項1~6のいずれか一項に記載のレシプロエンジンシステム。
【請求項11】
前記制御装置は、前記混焼運転において、前記液体補助燃料の供給量をマップ制御し、前記アンモニアの供給量を調速制御する、
請求項1~6のいずれか一項に記載のレシプロエンジンシステム。
【請求項12】
コンプレッサとタービンを有し前記レシプロエンジンに過給を行う過給機と、
前記コンプレッサと前記レシプロエンジンとを繋ぐ吸気路と、
前記レシプロエンジンと前記タービンとを繋ぐ排気路と、
前記吸気路と前記排気路とを繋ぐ開閉式の第1短絡路及び前記吸気路と前記タービンの下流とを繋ぐ開閉式の第2短絡路の少なくとも一方と、をさらに備え、
前記制御装置は、前記レシプロエンジンの排気温度に応じて前記第1短絡路及び前記第2短絡路の少なくとも一方の開閉制御を行う、
請求項1~6のいずれか一項に記載のレシプロエンジンシステム。
【請求項13】
前記レシプロエンジンの吸気側に空気量を制限するスロットルバルブをさらに備え、
前記制御装置は、前記空気に対する前記アンモニアの当量比が前記混焼運転を可能とする範囲に入るように、前記スロットルバルブの開度を制御する、
請求項1~6のいずれか一項に記載のレシプロエンジンシステム。
【請求項14】
前記制御装置は、前記液体補助燃料のみにより前記レシプロエンジンを起動し、前記圧縮端温度が前記所定の温度となるまで前記液体補助燃料のみにより運転を行い、前記圧縮端温度が前記所定の温度に到達した後に、前記混焼運転を行う、
請求項1~6のいずれか一項に記載のレシプロエンジンシステム。
【請求項15】
前記制御装置は、前記液体補助燃料のみにより前記レシプロエンジンを起動し、前記レシプロエンジンが所定の出力に達するまで前記液体補助燃料のみにより運転を行い、前記レシプロエンジンが所定の出力に達した後に、前記混焼運転を行う、
請求項1~6のいずれか一項に記載のレシプロエンジンシステム。
【請求項16】
前記制御装置は、前記液体補助燃料のみにより前記レシプロエンジンを起動し、前記液体補助燃料の噴射量を増加させ、前記空気に対する燃料全体の当量比が所定値に到達した後に、前記混焼運転を行う、
請求項1~6のいずれか一項に記載のレシプロエンジンシステム。
【請求項17】
前記制御装置は、前記液体補助燃料のみにより前記レシプロエンジンを起動し、前記レシプロエンジンの排気ガスの温度が所定の温度に達するまで前記液体補助燃料のみにより運転を行い、前記排気ガスの温度が所定の温度に達した後に、前記混焼運転を行う、
請求項1~6のいずれか一項に記載のレシプロエンジンシステム。
【請求項18】
前記シリンダの排気路の下流に設けられ、前記シリンダから排気される排気ガスを、触媒を用いて処理する触媒処理装置を備え、
前記制御装置は、前記液体補助燃料のみにより前記レシプロエンジンを起動し、前記触媒処理装置の温度が、前記触媒が機能する処理温度に達するまで前記液体補助燃料のみにより運転を行い、前記触媒処理装置の温度が前記処理温度に達した後に、前記混焼運転を行う、
請求項1~6のいずれか一項に記載のレシプロエンジンシステム。
【請求項19】
前記触媒処理装置を加熱する加熱装置を備え、
前記制御装置は、前記触媒処理装置の温度が、前記処理温度に達するよう、前記加熱装置により前記触媒処理装置を加熱する、
請求項18に記載のレシプロエンジンシステム。
【請求項20】
前記レシプロエンジンは、直接的または間接的にプロペラを駆動する舶用エンジンであり、
前記制御装置は、前記液体補助燃料の供給量を増加させることで出力を増加し、次いで前記液体補助燃料の供給量を減少させながら前記アンモニアの供給量を増加させる、
請求項1~6のいずれか一項に記載のレシプロエンジンシステム。
【請求項21】
前記レシプロエンジンは、発電機を駆動する発電エンジンであり、
前記制御装置は、負荷投入の際に前記液体補助燃料の供給量を増加させることで出力を増加し、次いで前記液体補助燃料の供給量を減少させながら前記アンモニアの供給量を増加させる、
請求項1~6のいずれか一項に記載のレシプロエンジンシステム。
【請求項22】
前記レシプロエンジンは、前記混焼運転を行う混焼運転モードと、前記アンモニアの供給を行わずに前記液体補助燃料のみで運転を行うディーゼル運転モードと、を有する、
請求項1~6のいずれか一項に記載のレシプロエンジンシステム。
【請求項23】
前記レシプロエンジンの吸気側に追加となる空気を供給する空気供給装置を備え、
前記制御装置は、前記混焼運転モードから前記ディーゼル運転モードに切り替える際に、前記空気供給装置から一時的に空気を供給させる、
請求項22に記載のレシプロエンジンシステム。
【請求項24】
コンプレッサ又はタービンに可変機構を備える可変容量型の過給機を備え、
前記制御装置は、前記混焼運転モードにおいて前記過給機の容量を制御することで前記過給機の回転速度を過給に必要な速度よりも高く維持し、前記混焼運転モードから前記ディーゼル運転モードに切り替える際に前記過給機の容量を制御することでより多くの空気を供給させる、
請求項22に記載のレシプロエンジンシステム。
【請求項25】
前記シリンダの排気路の下流に設けられ、前記シリンダから排気される排気ガスを、触媒を用いて処理する触媒処理装置を備え、
前記アンモニア燃料供給装置は、前記混焼運転において、前記アンモニアの一部を、還元剤として前記触媒処理装置に供給する、
請求項1~6のいずれか一項に記載のレシプロエンジンシステム。
【請求項26】
前記アンモニア燃料供給装置は、さらに、前記液体補助燃料のみの運転においても、前記アンモニアの一部を、還元剤として前記触媒処理装置に供給する、
請求項25に記載のレシプロエンジンシステム。
【請求項27】
燃焼室を形成するシリンダと、
前記シリンダ内を往復移動するピストンと、
前記シリンダに気体のアンモニアを供給し空気と予混合させるアンモニア燃料供給装置と、
前記シリンダ内に前記アンモニアを着火させる液体補助燃料を供給する液体補助燃料供給装置と、を有するレシプロエンジンの運転方法であって、
前記シリンダ内の圧縮端温度が前記アンモニアの燃焼遅れが生じない所定の温度以上の状態で、前記アンモニアと前記液体補助燃料による混焼運転を行う、
レシプロエンジンの運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レシプロエンジンシステム、レシプロエンジンの運転方法に関するものである。
本願は、2021年11月16日に、日本に出願された特願2021-186474号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化対策として、温室効果ガスである二酸化炭素(CO)の排出を削減することが求められている。アンモニア(NH)は、燃焼時に二酸化炭素を発生しない新たな燃料として注目されている。
アンモニアを燃料として用いるレシプロエンジンについては、以下のような特許出願がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6702475号公報
【特許文献2】特許第4919922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アンモニアを燃料として用いる場合、従来から使用されている燃料である重油、軽油、ガソリン、天然ガスなどに比べ、燃焼しにくい点が問題となる。
【0005】
特許文献1には、レシプロエンジンにおいて、気体状態のアンモニアを空気と予混合してシリンダ内で圧縮し、燃焼室内で燃料噴射弁から重油等の燃料油を噴射して着火させることで、燃料油を点火源としてアンモニアと混合燃焼させるものが記載されている。ここで、アンモニアと重油の割合について、熱量比で重油が80%に対してアンモニアを20%とする例が記載されている。燃料全体に対するアンモニアの割合がわずかに20%に留まるのは、アンモニアが燃焼しにくいことからアンモニアの割合を少なくせざるを得ないためである。この場合、二酸化炭素の排出削減の効果は限定的となる。
【0006】
特許文献2には、レシプロエンジンにおいて、アンモニアと助燃燃料を吸気管内に噴射し、アンモニア及び助燃燃料と空気との混合気に、点火栓の火花放電により点火するものが記載されている。また、特許文献2には、内燃機関の回転速度の減少に対してアンモニアの使用割合を増加させる、あるいは、内燃機関の負荷の増大に対してアンモニアの使用割合を増加させることが記載されている。ここで特許文献2には、燃料全体に対するアンモニアの割合が何%であるかについては明示されていないが、アンモニアの割合を増やすことが容易ではないことが理解できる。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、アンモニアを燃料として用いるレシプロエンジンにおいて、二酸化炭素の排出削減の効果をより大きくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係るレシプロエンジンシステムは、燃焼室を形成するシリンダと、前記シリンダ内を往復移動するピストンと、前記シリンダに気体のアンモニアを供給し空気と予混合させるアンモニア燃料供給装置と、前記シリンダ内に前記アンモニアを着火させる液体補助燃料を供給する液体補助燃料供給装置と、を有するレシプロエンジンと、前記シリンダ内の圧縮端温度が前記アンモニアの燃焼遅れが生じない所定の温度以上の状態で、前記アンモニアと前記液体補助燃料による混焼運転を行う制御装置と、を備える。
【0009】
レシプロエンジンシステムは、アンモニアを燃料として用いる場合、従来から使用されている燃料に比べて燃焼しにくい点が問題となる。従来では、アンモニア単独で燃焼を開始させるのが困難であることから補助燃料との混焼が試みられていた。また、従来の研究や特許出願の例では、補助燃料の種類の選択や、補助燃料の混焼割合を増やすことでアンモニアの燃焼を確保する試みがなされていた。
本願発明者らは、鋭意研究の結果、レシプロエンジンにおいて、アンモニアを気体の状態で空気と予混合し、シリンダ内で混合気を圧縮した状態で液体補助燃料をシリンダ内に噴射して着火させることで、気体アンモニアと空気の混合気に点火する混焼運転を行うのが最適であるとの結論に至った。また、本願発明者らは、シリンダ内で混合気を圧縮するとピストンからの仕事が熱に変わることでシリンダ内の混合気の温度は上昇するが、ピストンが上死点に到達する際の混合気の温度である圧縮端温度を、アンモニアの燃焼遅れが生じない所定の温度以上とすることで、アンモニアの良好な燃焼が可能になることを見出した。これにより、アンモニアと液体補助燃料の割合について、従来よりもアンモニアの割合を増やすことができ、アンモニアを燃料として用いるレシプロエンジンにおいて、二酸化炭素の排出削減の効果をより大きくすることができる。
ここで、液体補助燃料としては、所定の圧縮端温度で自着火をする液体燃料が使用可能であり、一般にディーゼルエンジンで用いられる燃料、具体的には重油、軽油、植物油などが好適に使用できる。
【0010】
上記レシプロエンジンシステムにおいては、前記所定の温度が、750Kであってもよい。
【0011】
アンモニアの着火温度は、約652℃(925K)であり、軽油の約247℃(520K)、天然ガスの主成分であるメタンの537℃(810K)に比べ、100℃以上高い。従来の研究や特許出願の例においては、混合気の圧縮端温度は充分に高くされていない。したがって、液体補助燃料をシリンダ内に噴射して着火させた場合、液体補助燃料の燃焼による火炎に近い所に存在するアンモニアの混合気は火炎の高温にさらされて燃焼するが、火炎から離れた混合気は充分に燃焼しない。一方、本願発明者らの知見に基づき、圧縮端温度をアンモニアの燃焼遅れが生じない所定の温度以上、具体的には750K以上とすれば、気体アンモニアと空気の混合気がアンモニアの着火温度に近い温度で燃焼室内に圧縮されて保持された状態となる。そのため、適量の液体補助燃料が着火することでアンモニアの混合気に点火がされると、アンモニアの燃焼による火炎は燃焼室内を伝播し、燃焼室内の全体にわたって混合気が燃焼する。
なお、圧縮端温度のアンモニアの燃焼遅れが生じない所定の温度は、具体的には750K以上であるが、シリンダの大きさ、エンジンの回転速度、運転の状態等の条件に応じて変更され得る。また、後述する発明を実施するための形態では、レシプロエンジンとして4ストロークのエンジンを例に上げて説明しているが、2ストロークのエンジンについても同じ原理が適用される。
【0012】
上記レシプロエンジンシステムにおいては、前記シリンダの一つ当たりの行程容積が5000cc以上であり、且つ、前記レシプロエンジンの定格回転速度が1200rpm以下であってもよい。
【0013】
シリンダ内の混合気のピストンによる圧縮が理想的な断熱圧縮であれば、圧縮比に応じて混合気の圧縮端温度が上昇する。しかしながら、実際には、燃焼室の内面に熱が逃げるため、圧縮端温度は理想的な断熱圧縮の場合よりも下がる。燃焼室の内面を形成するシリンダ、シリンダヘッド、ピストンは、それぞれが熱容量を有し、かつ冷却水や潤滑油によって冷却されるため、圧縮端温度が下がる要因となる。燃焼室から逃げる熱の量は、燃焼室内面の面積に相関し、燃焼室で発生する熱の量は燃焼室の容積に相関するため、二乗三乗の法則の関係となる。圧縮端温度をアンモニアの燃焼遅れが生じない所定の温度以上とするためには、燃焼室を大きくするのが有効ある。具体的には、一つのシリンダあたりの行程容積を5000cc以上とする。また、燃焼行程においてアンモニアの燃焼に必要な時間を確保するため、レシプロエンジンの定格回転速度を1200rpm以下とする。なお、一般に天然ガスの混合気を燃焼するレシプロエンジンでは、圧縮比を13~14程度に設定する例が多いが、アンモニアの混合気を燃焼するレシプロエンジンの場合には、圧縮比をより高く15以上に設定することが、圧縮端温度を上げる点でより望ましい。
【0014】
上記レシプロエンジンシステムにおいては、前記制御装置は、前記混焼運転において、前記レシプロエンジンの出力の増大に応じて燃料全体に対する前記アンモニアの混焼率を増大させ、前記アンモニアの最大の混焼率は、熱量比で80%以上としてもよい。
【0015】
レシプロエンジンの実際の運転においては、出力を上下させる必要がある。レシプロエンジンの出力が小さい場合は、シリンダ内で燃料が燃焼することによる温度上昇は小さくなり、燃焼室内面の温度は低下し、圧縮端温度も低下する傾向となる。また、レシプロエンジンの出力が大きい場合には、上記出力が小さい場合と逆の傾向となる。よって、アンモニアの混合気の燃焼を確保するため、出力が小さい場合は、燃料全体に対するアンモニアの混焼率を小さくし、出力の増大に応じてアンモニアの混焼率を増大させる。また、最大出力付近におけるアンモニアの最大の混焼率を熱量比で80%以上とすることで、充分な二酸化炭素の排出削減の効果を得る。なお、上述した制御装置の処理を別の表現とすると、混焼運転において、圧縮端温度の上昇に応じて燃料全体に対するアンモニアの混焼率を増大させ、アンモニアの最大の混焼率は熱量比で80%以上とする、となる。
【0016】
上記レシプロエンジンシステムにおいては、前記制御装置は、前記混焼運転において、前記空気に対する燃料全体の当量比を0.5以上且つ1.0以下としてもよい。
【0017】
アンモニアを燃料として用いる場合には、亜酸化窒素(NO)の発生が問題視されている。亜酸化窒素は温室効果ガスの一つであり、亜酸化窒素の発生が多いと、アンモニアを燃料とすることによる二酸化炭素削減の効果を相殺することになる。本願発明者らは研究の結果、亜酸化窒素の発生には、空気に対する燃料全体の当量比(アンモニアの当量比と液体補助燃料の当量比の合計)が関係することを見出した。より具体的には、空気に対する燃料全体の当量比が0.5未満では、当量比が下がるほど亜酸化窒素の発生が急激に増加することを見出した。したがって、混焼運転では、空気に対する燃料全体の当量比を0.5以上とすることが望ましい。
また、空気に対する燃料全体の当量比を1.0以上とした場合には、燃料の燃焼に必要な空気が不足するため、燃料が未燃成分として排出される。この場合、アンモニアは液体補助燃料に比べ燃焼しにくいため、主にアンモニアが未燃成分として排出される。したがって、混焼運転では、空気に対する燃料全体の当量比を1.0以下とすることが望ましい。
【0018】
上記レシプロエンジンシステムにおいては、前記制御装置は、前記空気に対する燃料全体の当量比が所定の値未満となる運転領域では、前記アンモニアの混焼率をゼロとし、前記液体補助燃料のみで運転を行ってもよい。
【0019】
レシプロエンジンでは、出力を調整するために、燃料の供給量を調整する手法が一般に用いられる。ここで、いわゆるリーンバーンのエンジンにおいては、空気に対する燃料の当量比を1近辺に固定せずにより低い当量比で運転を行う。このリーンバーンのエンジンにおいては、出力を下げるために燃料の供給量を下げる場合、空気の供給量の減少割合よりも燃料の供給量の減少割合が大きくなり、当量比が下がる傾向がある。アンモニアと液体補助燃料の混焼運転を行うエンジンにおいて、出力を下げるために燃料全体の供給量を下げた場合、発生する熱の量が小さくなるためアンモニアは燃えにくくなる。また、当量比が下がって所定値未満、具体的には0.5未満となる領域では、上述の亜酸化窒素の増加の問題が生じる。そこで、空気に対する燃料全体の当量比が所定値未満となる運転領域では、アンモニアの混焼率をゼロとし、液体補助燃料のみで運転を行う。これにより、未燃アンモニアの発生及び亜酸化窒素の発生を防止する。当量比が所定値未満となる運転領域は、エンジンの具体的な条件により異なるが、例として、アイドリングや、アイドリングに近い低出力での運転が挙げられる。
【0020】
上記レシプロエンジンシステムにおいては、前記制御装置は、前記圧縮端温度が前記所定の温度より低い運転領域において、前記圧縮端温度を上げる制御を行ってもよい。
【0021】
レシプロエンジンの起動後のしばらくの間は、燃焼室の内面の温度が低い状態であるため、圧縮端温度が上がりにくい。また、レシプロエンジン起動後の出力が低く燃料の供給量が少ない状態では熱の発生が小さいため、圧縮端温度が上がりにくい。このような運転領域において、アンモニアの供給を開始して液体補助燃料との混焼を行うと、未燃アンモニアの発生が増加する可能性がある。そこで、圧縮端温度が低い運転領域においては、圧縮端温度を上げる制御を行う。圧縮端温度を上げる制御としては、過給機のコンプレッサの下流に設けられるエアクーラでの冷却温度の目標値を上げる制御、過給機のコンプレッサの下流または上流で空気の加熱を行う制御、レシプロエンジンの有効圧縮比を上げる制御、等が挙げられる。特に、レシプロエンジンの起動後やレシプロエンジンの出力が低い状態からレシプロエンジンの出力を上昇する際、気体アンモニアの供給の開始に先立って、この圧縮端温度を上げる制御を行うのが効果的である。また、レシプロエンジンの出力が低い領域でもアンモニアの混焼を可能とするために、上述の制御を行うこともできる。
【0022】
上記圧縮端温度を上げる制御は、前記レシプロエンジンの吸気を加熱する制御であってもよい。
【0023】
上述の圧縮端温度を上げる制御としては、レシプロエンジンの吸気路において、過給機のコンプレッサの下流または上流に、吸気(以下、「給気」とも言う。)を加熱する装置を設け、これにより吸気を加熱する制御を行うのが効果的である。
【0024】
上記レシプロエンジンシステムにおいては、コンプレッサとタービンを有し前記レシプロエンジンに過給を行う過給機をさらに備え、前記制御装置は、前記コンプレッサの下流における吸気の温度が所定の温度より低い運転領域において、吸気を加熱する制御を行ってもよい。
【0025】
圧縮端温度を支配する要素として、レシプロエンジンが吸入する外気の温度、過給機のコンプレッサでの圧縮仕事による温度上昇、レシプロエンジンのシリンダでの圧縮仕事による温度上昇、が挙げられる。ここで、レシプロエンジンのシリンダでの圧縮比は、予め所望の値に定められる設計値であり、可変バルブタイミングなどの可変機構を用いる場合でも、容積比として把握ができる。一方で、過給機のコンプレッサでの圧縮比は、レシプロエンジンの運転状況に依存する。また、外気の温度は、環境条件に依存する。ここで、コンプレッサの下流における吸気の温度は、外気の温度と、コンプレッサの圧縮比の影響とを合わせたものであることから、これを判断材料として吸気を加熱する制御を行うことが効果的である。例えば、レシプロエンジンの出力が低い運転状況では、コンプレッサの圧縮仕事による吸気の温度上昇が少ないため、コンプレッサの下流における吸気の温度が、適切な圧縮端温度を得るのに必要な温度(例えば50℃)に達しない運転領域が生じる。これは、外気の温度が低い場合により顕著である。そこで、制御装置は、コンプレッサの下流における吸気の温度が所定の温度より低い運転領域において、適切な圧縮端温度を得るために、吸気を加熱する制御を行う。
【0026】
上記レシプロエンジンシステムにおいては、前記制御装置は、前記混焼運転において、前記液体補助燃料の供給量を一定とし、前記アンモニアの供給量を調速制御してもよい。
【0027】
混焼運転では、液体補助燃料の供給量を一定とし、気体アンモニアの供給量を調速制御する制御の手法が簡易かつ効果的である。前述のように、混焼運転においては、出力の増大に応じて燃料全体に対するアンモニアの混焼率を増大させるのが効果的である。またレシプロエンジンの運転においては、レシプロエンジンが目標の回転速度となるように燃料の供給量の増減を行う調速制御が必要となる。液体補助燃料の供給量を、レシプロエンジンの出力が低い状態を維持するのに必要な供給量で一定とし、出力増大の要求に応じて気体アンモニアの供給量を調速制御すれば、これら二つの要求が同時に満たされる。
【0028】
上記レシプロエンジンシステムにおいては、前記制御装置は、前記混焼運転において、前記液体補助燃料の供給量をマップ制御し、前記アンモニアの供給量を調速制御してもよい。
【0029】
より高度な制御の手法として、液体補助燃料の供給量を運転条件に応じてマップ制御し、気体アンモニアの供給量を調速制御することが、より効果的である。レシプロエンジンの起動後のしばらくの間や、レシプロエンジンの出力が低く燃料の供給量が少ない状態を継続した状態では、燃焼室の内面の温度が低い状態であるためアンモニアが燃えにくい。そこで、このような状態では、液体補助燃料の供給量を増やすことが望ましい。一方、レシプロエンジンが運転を継続する状態、特に、レシプロエンジンの出力が高く燃料の供給量が多い状態では、燃焼室の内面の温度が高い状態であるためアンモニアが燃えやすい。そこで、このような状態では、液体補助燃料の供給量を減らし、替わりにアンモニアの供給量を増やすことが望ましい。そこで、液体補助燃料の供給量を、出力、運転時間、レシプロエンジン各部の温度の測定値などの運転条件に応じてマップ制御し、それをベースとして気体アンモニアの供給量を調速制御すれば、よりレシプロエンジンの運転状態に対応した制御が可能となる。
【0030】
上記レシプロエンジンシステムにおいては、コンプレッサとタービンを有し前記レシプロエンジンに過給を行う過給機と、前記コンプレッサと前記レシプロエンジンとを繋ぐ吸気路と、前記レシプロエンジンと前記タービンとを繋ぐ排気路と、前記吸気路と前記排気路とを繋ぐ開閉式の第1短絡路及び前記吸気路と前記タービンの下流とを繋ぐ開閉式の第2短絡路の少なくとも一方と、をさらに備え、前記制御装置は前記レシプロエンジンの排気温度に応じて前記第1短絡路及び前記第2短絡路の少なくとも一方の開閉制御を行ってもよい。
【0031】
気体のアンモニアを液体補助燃料と混焼させてエンジンを運転している際は、燃料全体の当量比が従来のディーゼルエンジンや天然ガス等の燃料を用いたガスエンジンの場合に比べて高い。したがって、中・高負荷では、タービン入口での排気温度がタービンの許容温度を超える可能性がある。そのため、中・高負荷では、コンプレッサ出口の空気をタービン入口にバイパスさせてタービンに流入する排気の温度を下げると共に、後述する触媒入口の排気温度も適切にする。一方で、低負荷になると過給機が充分に働いていないために、コンプレッサ出口の圧力に比べてタービン入口の圧力の方が高くなり、タービン入口からコンプレッサ出口へ排気が逆流する恐れがある。そのため、低負荷では、コンプレッサ出口の空気をタービンの下流(触媒入口)にバイパスさせることで、触媒に流れる排気の温度を適切な温度にする。ここで、第1短絡路及び第2短絡路のいずれか一方の開閉制御の具体例としては、例えばタービン入口、触媒入口に温度センサを設け、その測定値に基づいて、第1短絡路及び第2短絡路のいずれか一方の開閉を行っても良い。
【0032】
上記レシプロエンジンシステムにおいては、前記レシプロエンジンの吸気側に空気量を制限するスロットルバルブをさらに備え、前記制御装置は、前記空気に対する前記アンモニアの当量比が前記混焼運転を可能とする範囲に入るように前記スロットルバルブの開度を制御してもよい。
【0033】
気体アンモニアを液体補助燃料と混焼させてエンジンを運転している際は、気体アンモニアの空気に対する当量比を一定の範囲内で維持する必要がある。この当量比の維持は、前述の亜酸化窒素、未燃アンモニアやその他の窒素酸化物などの排ガス成分の発生や、燃焼安定性と関係している。しかし、低負荷運転時は、必要となるアンモニアの絶対量が少なく、過給機が充分に働かない自然吸気の状態でも空気量が多いため、気体アンモニアの当量比が目標範囲より低くなってしまう。そのため、吸気入口にスロットルバルブを設けて吸気量を絞ることでアンモニアの当量比を、混焼運転が可能となる目標の範囲内に維持する。目標の範囲となるアンモニアの当量比は、0.4~0.8とすることが望ましい。これは、アンモニアの混焼率が80%である場合には、液体補助燃料を含めた燃料全体の当量比に換算すると0.5~1.0となり、前述の空気に対する燃料全体の当量比を0.5以上且つ1.0以下とすることとも整合する。
【0034】
上記レシプロエンジンシステムにおいては、前記制御装置は、前記液体補助燃料のみにより前記レシプロエンジンを起動し、前記圧縮端温度が前記所定の温度となるまで前記液体補助燃料のみにより運転を行い、前記圧縮端温度が前記所定の温度に到達した後に、前記混焼運転を行ってもよい。
【0035】
アンモニアは燃えにくいことから、レシプロエンジンが停止しエンジンが冷えた状態において、アンモニアを燃料として燃焼させることは困難である。したがって、液体補助燃料のみにより起動し、圧縮端温度が所定値となるまで液体補助燃料のみにより運転を行う。そして、圧縮端温度が所定値に到達した後に、液体補助燃料と気体アンモニアによる混焼運転を行う。圧縮端温度は、燃焼室内にセンサを設けて温度を測定してもよい。また、圧縮端温度は、レシプロエンジンの設計値および各部の温度の測定値や運転条件から推定値として求めてもよい。また、圧縮端温度として実測値や推定値を求めて制御することをせず、予め圧縮端温度が所定値に一定の余裕をもって達する条件を設定してもよい。そして、その条件に達した後に、液体補助燃料と気体アンモニアによる混焼運転を開始してもよい。
上述した制御装置の処理を別の表現とすると、圧縮端温度がアンモニアの燃焼遅れが生じない所定の温度以上とならない運転領域においては、気体アンモニアの供給をゼロとし液体補助燃料のみで運転を行う、となる。
【0036】
上記レシプロエンジンシステムにおいては、前記制御装置は、前記液体補助燃料のみにより前記レシプロエンジンを起動し、前記レシプロエンジンが所定の出力に達するまで前記液体補助燃料のみにより運転を行い、前記レシプロエンジンが所定の出力に達した後に、前記混焼運転を行ってもよい。
【0037】
上記の圧縮端温度が所定値に一定の余裕をもって達する条件の一例として、制御装置は、先ず、液体補助燃料のみにより起動し、所定の出力に達するまで液体補助燃料のみにより運転を行い、次に、所定の出力に達した後に、液体補助燃料と気体アンモニアによる混焼運転を行ってもよい。出力と圧縮端温度は、相関関係があるため、制御パラメータとして出力を基準に用いるのが簡易かつ実用的である。
【0038】
上記レシプロエンジンシステムにおいては、前記制御装置は、前記液体補助燃料のみにより前記レシプロエンジンを起動し、前記液体補助燃料の噴射量を増加させ、前記空気に対する燃料全体の当量比が所定値に到達した後に、前記液体補助燃料と前記アンモニアによる混焼運転を行ってもよい。
【0039】
前述のように、亜酸化窒素の発生の抑制の観点からは、空気に対する燃料全体の当量比を0.5以上とすることが望ましい。したがって、液体補助燃料のみにより起動し、液体補助燃料の噴射量を増加させて出力を増加させ、当量比が所定値に到達した後に気体アンモニアの供給を開始して混焼運転を行うことが望ましい。また、液体補助燃料の噴射量を増加させる際には、給気圧の制御を行って給気量をコントロールし、当量比をより正確に制御するようにしてもよい。
【0040】
上記レシプロエンジンシステムにおいては、前記制御装置は、前記液体補助燃料のみにより前記レシプロエンジンを起動し、前記レシプロエンジンの排気ガスの温度が所定の温度に達するまで前記液体補助燃料のみにより運転を行い、前記排気ガスの温度が所定の温度に達した後に、前記液体補助燃料と前記アンモニアによる混焼運転を行ってもよい。
【0041】
混焼運転を開始するための条件として、レシプロエンジンの排気ガスの温度をセンサにより測定する。そして、センサの測定値が予め実験等により定めておいた所定の温度まで上昇したことを条件として混焼運転を開始する。これにより、アンモニアの良好な燃焼が期待できる。また、後述のように排気ガスを処理する触媒処理装置を用いる場合には、排気ガスの温度が、触媒が機能する処理温度に達した後に、混焼運転を開始することで、混焼運転によって生じる窒素酸化物(NOx)、亜酸化窒素、未燃アンモニアの処理を行うことができる。
【0042】
上記レシプロエンジンシステムにおいては、前記シリンダの排気路の下流に設けられ、前記シリンダから排気される排気ガスを、触媒を用いて処理する触媒処理装置を備え、前記制御装置は、前記液体補助燃料のみにより前記レシプロエンジンを起動し、前記触媒処理装置の温度が、触媒が機能する処理温度に達するまで前記液体補助燃料のみにより運転を行い、前記触媒処理装置の温度が前記処理温度に達した後に、前記混焼運転を行ってもよい。
【0043】
排気ガスを処理する触媒処理装置を用いる場合には、この触媒処理装置の温度をセンサにより測定する。そして、センサの測定値が、触媒が機能する処理温度まで高くなったことを条件として、混焼運転を開始する。これにより、混焼運転によって生じる窒素酸化物(NOx)、亜酸化窒素、未燃アンモニアの処理を良好に行うことができる。
【0044】
上記レシプロエンジンシステムにおいては、前記触媒処理装置を加熱する加熱装置を備え、前記制御装置は、前記触媒処理装置の温度が、前記処理温度に達するよう、前記加熱装置により前記触媒処理装置を加熱してもよい。
【0045】
液体補助燃料のみによりレシプロエンジンを起動すれば、液体補助燃料の燃焼による排気ガスで触媒処理装置が加熱される。しかし、触媒処理装置の温度を触媒が機能する処理温度にするためには、液体補助燃料の供給量を増加して出力を増加した状態をしばらく維持し、高温の排気ガスで触媒処理装置を加熱する必要がある。ここで加熱装置により触媒処理装置を加熱すれば、より短時間で触媒が機能する処理温度となり、混焼運転を開始することができる。加熱装置としては、電力によるヒータや、燃料を燃焼させることで加熱する装置が利用できる。
【0046】
上記レシプロエンジンシステムにおいては、前記レシプロエンジンは、直接的または間接的にプロペラを駆動する舶用エンジンであり、前記制御装置は、前記液体補助燃料の供給量を増加させることで出力を増加し、次いで前記液体補助燃料の供給量を減少させながら前記アンモニアの供給量を増加させてもよい。
【0047】
レシプロエンジンが直接的または間接的にプロペラを駆動する舶用エンジンである場合には、液体補助燃料の供給量を増加させることで出力を増加し、次いで液体補助燃料の供給量を減少させながら気体アンモニアの供給量を増加させるようにしてもよい。上述のように、レシプロエンジンの出力が小さい場合には発生する熱の量が小さくなるため、アンモニアは燃えにくい。したがって、液体補助燃料の供給量を増加させることで出力を増加させ、発生する熱の量を大きくし、レシプロエンジン本体や冷却水の温度が高くなった状態とする。この状態で、液体補助燃料の供給量を減少させながら気体アンモニアの供給量を増加させれば、未燃アンモニアの排出の増加を抑制しながら混焼運転が行える。液体補助燃料の供給量を増加させることによる出力の増加は、回転速度または出力が定格に達するまで行ってもよいし、定格未満の中間の適当な出力まで行ってもよい。
ここで、レシプロエンジンが直接的にプロペラを駆動するとは、レシプロエンジンの出力軸が必要により減速機等を介して機械的にプロペラを駆動することを含む。レシプロエンジンが間接的にプロペラを駆動するとは、レシプロエンジンが発電機を駆動して、得られた電力によりモータでプロペラを駆動することを含む。
【0048】
上記レシプロエンジンシステムにおいては、前記レシプロエンジンは、発電機を駆動する発電エンジンであり、前記制御装置は、負荷投入の際に前記液体補助燃料の供給量を増加させることで出力を増加し、次いで前記液体補助燃料の供給量を減少させながら前記アンモニアの供給量を増加させてもよい。
【0049】
レシプロエンジンが発電機を駆動する発電エンジンである場合には、負荷投入の際は液体補助燃料の供給量を増加させることで出力を増加し、次いで液体補助燃料の供給量を減少させながら気体アンモニアの供給量を増加させるようにしてもよい。特に、発電に用いられる発電エンジンの場合には、電力系統上の負荷を何回かに分けて、段階的に発電機に接続する負荷投入の操作が必要になる。負荷投入の際には短い時間で出力を増加する必要があるが、アンモニアの供給量を短い時間で増加すれば未燃アンモニアが増加する懸念がある。負荷投入の際は液体補助燃料の供給量を増加させることで出力を増加し、次いで液体補助燃料の供給量を減少させながら気体アンモニアの供給量を増加させれば、未燃アンモニアの増加を抑制しながら、大きな負荷の投入が可能となる。
【0050】
上記レシプロエンジンシステムにおいては、前記レシプロエンジンは、前記混焼運転を行う混焼運転モードと、前記アンモニアの供給を行わずに前記液体補助燃料のみで運転を行うディーゼル運転モードと、を有してもよい。
【0051】
レシプロエンジンは、混焼運転を行う混焼運転モードに加え、気体アンモニアの供給を行わずに液体補助燃料のみで必要とされる出力を継続して出力するディーゼル運転モードを有することができる。舶用エンジンでは、運転の冗長性を確保するために、気体アンモニアを使用した運転の他、液体補助燃料のみでの運転の要請がある。また、発電エンジンにおいても、非常時の運転の継続性の観点などから液体補助燃料のみで運転を行う要請がある。混焼運転時に液体補助燃料を噴射する燃料噴射装置としては、コモンレール方式の燃料噴射装置を用いれば、噴射タイミングや噴射回数のコントロールの点で有利である。このコモンレール方式の燃料噴射装置に加えて機械的な燃料噴射弁装置も備えることで、液体補助燃料のみでの運転も可能となる。また、コモンレール方式の燃料噴射装置をより噴射量が大きい範囲に対応可能なものとすることで、一つの燃料噴射装置により混焼運転モードとディーゼル運転モードの両方の運転に対応してもよい。
【0052】
上記レシプロエンジンシステムにおいては、前記レシプロエンジンの吸気側に追加となる空気を供給する空気供給装置を備え、前記制御装置は、前記混焼運転モードから前記ディーゼル運転モードに切り替える際に、前記空気供給装置から一時的に空気を供給させてもよい。
【0053】
混焼運転モードとディーゼル運転モードの双方で運転が可能なレシプロエンジンシステムでは、混焼運転モードでの運転を維持するのに何らかの問題が生じた場合に、短時間でディーゼル運転モードに切り替えることが必要となる。何らかの問題としては、例えば、想定を超える大きな負荷変動が生じた場合やレシプロエンジンシステムに異常の兆候が生じた場合などである。気体アンモニアと液体補助燃料を混焼させてエンジンを運転している際は、同一負荷において液体補助燃料単体で運転している時と比べ、過給機の運転点が大幅に異なる。過給機の運転点は、液体補助燃料単体で運転している時の方が大幅に空気の風量および過給圧が高い。一方で、レシプロエンジンで気体アンモニアを混焼させて運転している場合は、排気バイパス路に設けられた弁を開いて過給機の運転点を下げ、吸気バイパス路に設けられた弁を活用して一定の空気量を逃がしている。そのため、燃料を気体アンモニア燃料から液体燃料へ瞬時に切り替えた場合は、空気量の不足によりスモークの排出、機関出力の低下や機関回転数の低下が懸念される。そこで、吸気バイパス路や排気バイパス路に設けられた弁を閉じて過給機の回転数が上昇するまでの間、空気量の不足を補うため空気供給装置から追加空気を供給し、液体補助燃料の燃焼に必要な空気量を確保する。空気供給装置としては、例えば空気を充填したエアタンクを用いるのが簡易であり、また電気式のブロアなどを用いても良い。
【0054】
上記レシプロエンジンシステムにおいては、コンプレッサ又はタービンに可変機構を備える可変容量型の過給機を備え、前記制御装置は、前記混焼運転モードにおいて前記過給機の容量を制御することで前記過給機の回転速度を過給に必要な速度よりも高く維持し、前記混焼運転モードから前記ディーゼル運転モードに切り替える際に前記過給機の容量を制御することでより多くの空気を供給させてもよい。
【0055】
上述のように、燃料を気体アンモニア燃料から液体燃料へ瞬時に切り替えた場合は、空気量の不足が生じる。そこで、コンプレッサ又はタービンに可変機構を備える可変容量型の過給機を利用する。可変容量型の過給機としては、コンプレッサの側で吸入口にくさび状の可動ベーン(翼)を設け、可動ベーンの角度を変えることによりインペラに吸い込まれる空気量を調整するものがある(インレットガイドベーン、IGV)。また、可変容量型の過給機としては、タービンの側で排気ガスを吹き込むノズル部分に可動ベーンを設けるもの等がある。例えばIGVの場合、混焼運転において可動ベーンをそのときの運転状態における最適値よりも絞った状態に制御することで、過給機の回転速度を必要より高く維持する。そして、混焼運転モードからディーゼル運転モードに切り替える際に、一時的に可動ベーンを開くことで過給機の回転エネルギーを空気量に変換し、一時的に大きな空気量を確保する。
【0056】
上記レシプロエンジンシステムにおいては、前記シリンダの排気路の下流に設けられ、前記シリンダから排気される排気ガスを、触媒を用いて処理する触媒処理装置を備え、前記アンモニア燃料供給装置は、前記混焼運転において、前記アンモニアの一部を、還元剤として前記触媒処理装置に供給してもよい。
【0057】
アンモニアと液体補助燃料の混焼運転においては、従来のディーゼルエンジンでも問題とされていた窒素酸化物(NOx)の発生に加え、亜酸化窒素、未燃アンモニアの発生の懸念がある。これらに対しては、エンジン単体での対応は困難である。したがって、窒素酸化物、亜酸化窒素を処理する選択還元触媒および未燃アンモニアを処理する酸化触媒、または、還元触媒と酸化触媒の両方の機能を発揮する酸化還元触媒を備えるとよい。ここで、未燃アンモニアは、選択還元触媒または酸化還元触媒において、窒素酸化物および亜酸化窒素から酸素を奪う還元剤として働くため、排気ガス中のこれらの発生割合を考慮する必要がある。窒素酸化物および亜酸化窒素の発生量よりも、未燃アンモニアの発生量の割合が大きい場合は、ほとんどの窒素酸化物および亜酸化窒素は、未燃アンモニアによって還元されて無害となる。また、窒素酸化物および亜酸化窒素を還元しなかった余った未燃アンモニアは、酸化触媒または酸化還元触媒において排気ガス中の酸素により酸化されて無害となる。一方、窒素酸化物および亜酸化窒素の発生量よりも、未燃アンモニアの発生量の割合が小さい場合は、還元しきれない窒素酸化物および亜酸化窒素が排出されることになる。そこで、選択還元触媒または酸化還元触媒の上流に気体アンモニアを供給する。これにより、アンモニアの発生量の割合が小さい場合にも、アンモニアの不足を補うことができる。また、供給する気体アンモニアとして、アンモニア供給装置からレシプロエンジンに燃料として供給される気体アンモニアの系統に分岐を設け、燃料としてのアンモニアの一部を流用して触媒に供給する。これによりアンモニアの貯蔵設備と補給作業の共通化が図られる。ここで排気路中には、NOxセンサ、アンモニアセンサ等のセンサを設け、測定される排気の成分に応じて気体アンモニアの供給量を調整することが望ましい。
【0058】
上記レシプロエンジンシステムにおいては、前記アンモニア燃料供給装置は、さらに、前記液体補助燃料のみの運転においても、前記アンモニアの一部を、還元剤として前記触媒処理装置に供給してもよい。
【0059】
上述のように、アンモニアと液体補助燃料の混焼運転では、アンモニアの供給量をゼロとし液体補助燃料のみで運転する状態が生じる。また、気体アンモニアの供給を行わずに液体補助燃料のみで必要とされる出力を継続して出力するディーゼル運転モードの要請もある。一方で、アンモニアを燃料とするレシプロエンジンでは圧縮端温度を上げる必要があるため、液体補助燃料のみで運転を行う場合、従来のディーゼルエンジンよりもNOxの発生が増加する可能性がある。そこでレシプロエンジンに液体補助燃料のみが供給される運転状態において、気体アンモニアを、選択還元触媒または酸化還元触媒の上流に供給することでNOxを処理する。ここで、液体補助燃料のみが供給される運転の際は、アンモニアと液体補助燃料の混焼運転の際よりも、気体アンモニアの供給量を増加させることが望ましい。それは、液体補助燃料のみが供給される運転の際は、未燃アンモニアの発生が無いため、その分を、気体アンモニアの供給量を増やすことで補う必要があるためである。
【0060】
本発明の一態様に係るレシプロエンジンの運転方法は、燃焼室を形成するシリンダと、前記シリンダ内を往復移動するピストンと、前記シリンダに気体のアンモニアを供給し空気と予混合させるアンモニア燃料供給装置と、前記シリンダ内に前記アンモニアを着火させる液体補助燃料を供給する液体補助燃料供給装置と、を有するレシプロエンジンの運転方法であって、前記シリンダ内の圧縮端温度が前記アンモニアの燃焼遅れが生じない所定の温度以上の状態で、前記アンモニアと前記液体補助燃料による混焼運転を行う。
【0061】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、レシプロエンジンにおいて、アンモニアを気体の状態で空気と予混合し、シリンダ内で混合気を圧縮した状態で液体補助燃料をシリンダ内に噴射して着火させることで、気体アンモニアと空気の混合気に点火する混焼運転を行うのが最適であるとの結論に至った。さらに、本願発明者らは、シリンダ内で混合気を圧縮するとピストンからの仕事が熱に変わることでシリンダ内の混合気の温度は上昇するが、ピストンが上死点に到達する際の混合気の温度である圧縮端温度をアンモニアの燃焼遅れが生じない所定の温度以上とすることで、アンモニアの良好な燃焼が可能になることを見出した。これにより、アンモニアと液体補助燃料の割合について、熱量比でアンモニアを例えば80%以上とすることが可能になり、アンモニアを燃料として用いるレシプロエンジンにおいて、二酸化炭素の排出削減の効果をより大きくすることができる。
【発明の効果】
【0062】
上記本発明の一態様によれば、アンモニアを燃料として用いるレシプロエンジンにおいて、二酸化炭素の排出削減の効果をより大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
図1】一実施形態に係るレシプロエンジンシステムの構成図である。
図2】一実施形態に係るレシプロエンジンのディーゼル運転モードの動作を説明する説明図である。
図3】一実施形態に係るレシプロエンジンの混焼運転モードの動作を説明する説明図である。
図4】一実施形態に係るレシプロエンジンシステムの給排気系統の構成図である。
図5】一実施形態に係るレシプロエンジンシステムの給排気系統の変形例を示す構成図である。
図6】一実施形態に係る触媒処理装置の構成図である。
図7】一実施形態に係るシリンダ内の圧縮端温度と、液体補助燃料の噴射タイミングを基準とした、気体アンモニアと空気の混合気の燃焼遅れとの関係を示すグラフである。
図8】一実施形態に係る気体アンモニアと液体補助燃料の混焼運転における燃料全体の当量比と排気ガス中のNO、未燃NHの関係を示すグラフである。
図9】一実施形態に係るレシプロエンジンが舶用エンジンの場合の動作を説明する説明図である。
図10】一実施形態に係るレシプロエンジンが発電機を駆動する発電エンジンの動作を説明する説明である。
【発明を実施するための形態】
【0064】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0065】
図1は、一実施形態に係るレシプロエンジンシステム1の構成図である。
図1に示すように、レシプロエンジンシステム1は、レシプロエンジン2と、レシプロエンジン2の制御装置3と、を備えている。図1に示すレシプロエンジン2は、直接的または間接的にプロペラを駆動する舶用エンジンである。なお、レシプロエンジン2は、後述するように発電機を駆動する発電エンジンであってもよい。
【0066】
レシプロエンジン2は、燃焼室10を形成するシリンダ11と、シリンダ11内を往復移動するピストン12と、ピストン12に連結されたクランク軸13と、クランク軸13の回転を検出する回転検出センサ14と、クランク軸13のトルクを検出するトルク検出センサ15と、を備えている。クランク軸13は、例えば、船舶のプロペラの回転軸に連結されている。
【0067】
シリンダ11のシリンダヘッドには、吸気路20と排気路30とが接続されている。また、シリンダヘッドには、吸気路20を開閉する吸気弁21と、排気路30を開閉する排気弁31とが設置されている。また、シリンダヘッドには、燃焼室10に液体補助燃料を噴射する液体燃料噴射弁53及び着火装置55が設置されている。着火装置55は、例えば、マイクロパイロット油噴射弁であり、後述する混燃運転モードで使用される。
【0068】
吸気路20は、燃焼用の空気を圧縮するコンプレッサ22と、コンプレッサ22の下流側に設置されたエアクーラ23と、エアクーラ23よりも下流側に設置された燃料ガス噴射弁43と、を備えている。燃料ガス噴射弁43は、吸気路20の内部に、燃料となる気体アンモニアを噴射する。気体アンモニアは、吸気路20において、圧縮空気と予混合されて混合気となり、シリンダ内に供給される。
【0069】
なお、エアクーラ23は、冷水で空気を冷やす機能だけでなく、温水やヒータ等により空気を温める機能を持った空気冷却器兼加熱装置としてもよい。また必要に応じ、吸気路20におけるコンプレッサ22の上流側に、空気加熱装置24を設置してもよい。空気加熱装置24は、例えば、レシプロエンジン2と熱交換した冷媒を熱源として用いる冷却加熱系統25を有するとよい。
【0070】
排気路30は、燃焼室10から排出された排ガスによって回転するタービン33と、タービン33の下流側に設置され、排ガスに含まれる物質を処理する触媒処理装置60と、を備えている。タービン33の回転軸は、後述する図4に示すように、コンプレッサ22に接続されており、排ガスを回転源としてコンプレッサ22を回転させる。つまり、タービン33及びコンプレッサ22は、過給機4を構成している。
【0071】
図1に戻り、触媒処理装置60は、アンモニアと液体補助燃料の燃焼によって発生する、窒素酸化物(NOx)、亜酸化窒素、未燃アンモニア等の特定物質を、触媒を用いて処理する。触媒処理装置60には、当該特定物質を検出する検出センサ61が取り付けられている。
【0072】
レシプロエンジン2は、シリンダ11内に、アンモニアを供給するアンモニア燃料供給装置40と、シリンダ11内に、アンモニアを着火させる液体補助燃料を供給する液体補助燃料供給装置50と、を備えている。アンモニア燃料供給装置40は、アンモニアタンク41と、気化装置42と、燃料ガス噴射弁43と、を備えている。
【0073】
アンモニアタンク41は、液体アンモニアを収容している。気化装置42は、アンモニアタンク41から排出された液体アンモニアを気化し、気体アンモニアを生成する。ここで、気化装置42は、気体アンモニアを加圧する加圧ポンプを含んでも良い。気化装置42は、アンモニア供給路44を介して燃料ガス噴射弁43に接続されている。アンモニア供給路44は、レギュレータ44aと、レギュレータ44aの下流側に設置された圧力センサ44bと、を備えている。
【0074】
また、アンモニア供給路44は、レギュレータ44aの上流側で分岐したアンモニア第2供給路45を備えている。アンモニア第2供給路45は、上述した触媒処理装置60と接続されている。アンモニア第2供給路45は、レギュレータ45aと、レギュレータ45aの下流側に設置された圧力センサ45bと、を備えている。
【0075】
液体補助燃料供給装置50は、液体補助燃料タンク51と、第1液体燃料供給ポンプ52と、液体燃料噴射弁53と、第2液体燃料供給ポンプ54と、着火装置55と、を備えている。液体補助燃料タンク51は、液体補助燃料を収容している。第1液体燃料供給ポンプ52は、液体補助燃料タンク51に収容された液体補助燃料を液体燃料噴射弁53に供給する。
【0076】
液体燃料噴射弁53は、例えば、後述するディーゼル運転モードで使用する機械式燃料噴射装置である。第2液体燃料供給ポンプ54は、液体補助燃料タンク51に収容された液体補助燃料を着火装置55に供給する。着火装置55は、例えば、後述する混焼運転モードで使用するコモンレール式燃料噴射装置である。
【0077】
上記構成のレシプロエンジン2は、アンモニアと液体補助燃料による混焼運転を行う混焼運転モードと、アンモニアの供給を行わずに液体補助燃料のみで運転を行うディーゼル運転モードと、を有する。
【0078】
図2は、一実施形態に係るレシプロエンジン2のディーゼル運転モードの動作を説明する説明図である。
図2に示すように、ディーゼル運転モードのときは、液体燃料噴射弁53から重油等の液体補助燃料を燃焼室10に噴射させ、ピストン12で圧縮された圧縮空気中で着火・燃焼させる。このとき、燃料ガス噴射弁43は、停止している。
【0079】
図3は、一実施形態に係るレシプロエンジン2の混焼運転モードの動作を説明する説明図である。
図3に示すように、混焼運転モードのときは、燃料ガス噴射弁43から気体アンモニアを吸気路20内に噴射させ、燃焼室10の手前で空気と予混合させる。次に、着火装置55から着火用の液体補助燃料を燃焼室10に噴射させ、ピストン12で圧縮された混合気を着火・燃焼させる。このとき、液体燃料噴射弁53は、停止している。
【0080】
図4は、一実施形態に係るレシプロエンジンシステム1の吸排気系統の構成図である。
図4に示すように、レシプロエンジンシステム1の吸排気系統は、負荷Lと、レシプロエンジン2と、過給機4と、エアクーラ23と、圧力センサ26と、回転検出センサ14と、トルク検出センサ15と、第1駆動部70と、第1流量調整弁71と、第2駆動部80と、第2流量調整弁81と、吸気路20と、吸気バイパス路20aと、排気路30と、排気バイパス路30aと、制御装置3と、を備えている。
【0081】
負荷Lとは、エンジンの回転を妨げる負荷である。負荷Lは、例えば、レシプロエンジンシステム1が船舶に搭載される場合、プロペラ等を駆動させる際の機械的負荷を含む。また、負荷Lは、例えば、レシプロエンジンシステム1が車両に搭載される場合、クラッチ、ギア、スロットルバルブ、車輪等を駆動させる際の機械的負荷を含む。また、負荷Lは、例えば、レシプロエンジンシステム1が発電用に用いられる場合、発電機等を駆動させる際の電気的および機械的負荷を含む。
【0082】
レシプロエンジン2は、例えば、複数のシリンダ11(燃焼室)を備える。過給機4によって圧縮されて供給される空気は、吸気路20を介してエアクーラ23に送られ、その後、レシプロエンジン2に送られる。
【0083】
レシプロエンジン2は、過給機4によって圧縮されて供給された空気を、各シリンダ11内で燃焼させて、内部のピストン12を往復運動させる。レシプロエンジン2は、シリンダ11内のピストン12の往復運動を、図示しないコネクティングロッドおよびクランク軸13により回転運動に変える。これによって、レシプロエンジン2は、この回転運動に基づくエネルギーを負荷Lに与え、負荷Lを駆動させる。
【0084】
過給機4は、上述したように、コンプレッサ22と、タービン33とを備えている。コンプレッサ22は、タービン33の回転に応じて、外部から空気を取り込み、取り込んだ空気の圧力を大気圧以上に圧縮する。そして、コンプレッサ22は、圧縮した空気を、吸気路20を介してレシプロエンジン2に供給する。タービン33は、レシプロエンジン2内にて燃焼した排気ガスを取り込み、取り込んだ排気ガスの量に応じて回転する。そして、タービン33は、回転の駆動源として利用した排気ガスを外部に排気する。
【0085】
エアクーラ23は、過給機4からレシプロエンジン2に空気を供給するための吸気路20の一部に設けられる。エアクーラ23は、図示しない供給路を介して外部から所定の圧力で供給される冷却水によって、吸気路20の内部を通過する空気を冷却させる。冷却水は、例えば、工業用水、海水、循環冷却水である。
【0086】
圧力センサ26は、例えば、エアクーラ23の下流側の吸気路20に設けられ、エアクーラ23によって冷却された空気の圧力(例えば単位[Pa])を測定する。
【0087】
回転検出センサ14は、例えば、クランク軸13の回転軸の回転速度を検出する。なお、回転検出センサ14は、回転軸の回転数や回転角速度を検出してもよい。
【0088】
トルク検出センサ15は、例えば、クランク軸13の回転軸のねじれ量(例えば変位量)を検出し、このねじれ量と回転軸の半径とに基づいて、トルクを導出する。なお、回転検出センサ14およびトルク検出センサ15の一方または双方は、軸馬力計等のねじれ検出センサであってもよいし、渦電流式の電気動力計であってもよい。
【0089】
第1駆動部70および第2駆動部80は、例えば、電磁式や、油圧式、空気圧式等のアクチュエータである。第1駆動部70および第2駆動部80のそれぞれは、制御装置3による制御を受けて駆動する。第1駆動部70は、第1流量調整弁71を駆動し、第1流量調整弁71の弁開度を調整する。第2駆動部80は、第2流量調整弁81を駆動し、第2流量調整弁81の弁開度を調整する。
【0090】
吸気バイパス路20aは、吸気路20の一部に設けられ、吸気路20内部を通過する空気の一部を、過給機4のコンプレッサ22に供給して循環させる。図4に示すように、例えば、吸気バイパス路20aは、エアクーラ23の上流側の吸気路20に設けられる。なお、吸気バイパス路20aは、エアクーラ23の下流側の吸気路20に設けられてもよい。この場合、吸気バイパス路20aは、エアクーラ23により冷却された空気の一部を、過給機4のコンプレッサ22に供給して循環させる。
【0091】
排気バイパス路30aは、排気路30の一部に設けられ、排気路30内部を通過する排気ガスの一部を、過給機4のタービン33を介さずに外部に排気する。
【0092】
第1流量調整弁71は、吸気バイパス路20aに設けられ、吸気バイパス路20aを介してコンプレッサ22に循環する空気の流量を調整する。第1流量調整弁71は、例えば、コンプレッサ22から供給される空気を、弁開度に応じた分量で、エアクーラ23側へ向けた吸気路20と、吸気バイパス路20aとに分流する。第1流量調整弁71が全開の場合(弁開度が“1”の場合)、コンプレッサ22から供給された空気は、エアクーラ23側へ向けた吸気路20と、吸気バイパス路20aとに分流される。また、第1流量調整弁71が閉じている場合(弁開度が“0”の場合)、コンプレッサ22から供給される空気は、エアクーラ23側へ向けた吸気路20のみに全量流れる。
【0093】
第2流量調整弁81は、排気バイパス路30aに設けられ、排気バイパス路30aを介して外部に排気する排気ガスの流量を調整する。第2流量調整弁81は、例えば、レシプロエンジン2から排出される排気ガスを、弁開度に応じた分量で、過給機4側へ向けた排気路30と、排気バイパス路30aとに分流する。例えば、弁が全開の場合(弁開度が“1”の場合)、レシプロエンジン2から排出される排気ガスは、過給機4側へ向けた排気路30と、排気バイパス路30aとに分流される。また、弁が閉じている場合(弁開度が“0”の場合)、レシプロエンジン2から排出される排気ガスは、過給機4側へ向けた排気路30のみに全量流れる。
【0094】
制御装置3は、例えば、第1制御部110と、第2制御部120と、その共通部と、記憶部(不図示)とを備える。共通部とは、第1制御部110および第2制御部120と異なる第3の制御部であり、自身が行う処理の一部または全部は、第1制御部110または第2制御部120により行われてもよい。
【0095】
上述した第1制御部110、第2制御部120及び共通部(第3の制御部)のいずれか又は全部は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサが、記憶部に記憶されたプログラムを実行することにより実現される。また、第1制御部110および第2制御部120の一方または双方は、LSI(Large Scale Integration)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、またはFPGA(Field-Programmable Gate Array)などのハードウェアにより実現されてもよい。
【0096】
記憶部は、例えば、HDD(Hard Disc Drive)、フラッシュメモリ、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)、ROM(Read Only Memory)、またはRAM(Random Access Memory)などにより実現される。記憶部には、ファームウェアやプロセッサが実行するプログラムなどが記憶される。
【0097】
制御装置3の共通部においては、例えば、回転検出センサ14により検出された回転速度と、トルク検出センサ15により検出されたトルクとに基づいて、現時点での負荷に対する出力(仕事量[kW])を導出し、この現時点での出力と、予め記憶部に記憶させておいた定格出力とに基づいて、負荷率を導出する。負荷率は、例えば、現時点での出力を定格出力で除算することで導出される。なお、負荷率を導出する処理については、第1制御部110または第2制御部120が行ってもよい。
【0098】
第1制御部110は、共通部により算出されたレシプロエンジン2の負荷率に基づく給気圧目標値と、圧力センサ26により測定された給気圧力とに基づいて、第1流量調整弁71の弁開度を調整する第1駆動部70を制御する。
【0099】
第1制御部110は、導出した負荷率と、予め記憶部に記憶させておいた給気圧目標値導出情報とを用いて、フィードバック制御時に目標とする吸気路20内の圧力(以下、給気圧目標値と称する)を導出する。給気圧目標値導出情報とは、予め定められた負荷率および給気圧目標値の関係を示した情報である。この情報は、例えば、マップや関数として予め記憶部に記憶されている。
【0100】
第2制御部120は、記憶部に予め記憶させておいた弁開度情報と、第1制御部110により導出された負荷率とに基づいて、第2流量調整弁81の弁開度を調整する第2駆動部80を制御する。これにより、第2制御部120は、稼動中の内燃機関の負荷率に基づいて、過給機4の回転速度を制御していることになる。
【0101】
弁開度情報とは、予め定められた負荷率と、排気路30内の圧力が理想値となるように設定された第2流量調整弁81の弁開度との関係を示した情報である。排気路30内の圧力の理想値は、例えば、各負荷率における第1流量調整弁71の弁開度が所定値を維持した状態、または所定値を超えない状態で、吸気路20内の圧力を給気圧目標値に保つことができるように調整された排気路30内の圧力である。この弁開度情報は、例えば、マップや関数として予め記憶部に記憶されている。
【0102】
図5は、一実施形態に係るレシプロエンジンシステム1の吸排気系統の変形例を示す構成図である。図5に示す吸排気系統は、上述した図4に示す吸排気系統において、さらに付加的あるいは置換的に実施可能な構成を示している。また、図5では、図4において説明したものと同じ構成については同じ番号を付している。以下では、同じ番号を付した構成についての説明を省略する。
【0103】
レシプロエンジンシステム1は、コンプレッサ22とタービン33を有しレシプロエンジン2に過給を行う過給機4と、コンプレッサ22とレシプロエンジン2とを繋ぐ吸気路20と、レシプロエンジン2とタービン33とを繋ぐ排気路30とを備える。
【0104】
吸気路20のエアクーラ23の上流側と、排気路30のタービン33の上流側とは、短絡路96、97、98を介して短絡される(第1短絡路)。短絡路96と短絡路97の間には第1短絡弁91が、短絡路97と短絡路98の間には第2短絡弁92が、それぞれ設けられている。短絡路97には分岐が設けられており、その分岐には第3短絡弁93を介して短絡路99の一端が接続され、短絡路99の他端はタービン33の下流において排気路30に接続されている。吸気路20とタービンの下流とは、短絡路96、97、99を介して短絡される(第2短絡路)。排気路30のさらに下流には、後述する触媒処理装置60が設けられている。排気路30のタービン33の入口、触媒処理装置60の入口、および触媒処理装置60には、それぞれ温度センサ66、67、68が設けられている。また、触媒処理装置60には、必要に応じて触媒処理装置60を加熱するヒータ69が設けられている。
【0105】
気体のアンモニアを液体補助燃料と混焼させてエンジンを運転している際は、燃料全体の当量比が従来のディーゼルエンジンや天然ガス等の燃料を用いたガスエンジンの場合に比べて高いため、中・高負荷ではタービン33の入口での排気温度がタービン33の許容温度を超える可能性がある。そのため、中・高負荷ではコンプレッサ22の出口の空気をタービン33の入口に第1短絡路によりバイパスさせ、タービン33に流入する排気の温度を下げると共に、触媒処理装置60の入口の排気温度も適切にする。第1短絡路によりバイパスを行う際は、第3短絡弁93は閉とされ、第1短絡弁91及び第2短絡弁92は開とされて制御装置3により開度が調整される。
【0106】
一方で、低負荷になると過給機4が充分に働いていないためにコンプレッサ22の出口の圧力に比べてタービン33の入口圧力の方が高くなりタービン33の入口からコンプレッサ22の出口へ排気が逆流する恐れがある。そのため、低負荷ではコンプレッサ22の出口の空気をタービン33の下流(触媒入口)に第2短絡路によりバイパスさせることで、触媒処理装置60に流れる排気の温度を適切な温度にする。第2短絡路によりバイパスを行う際は、第2短絡弁92は閉とされ、第1短絡弁91及び第3短絡弁93は開とされて制御装置3により開度が調整される。また必要により、第1短絡弁91を閉とし第2短絡弁92及び第3短絡弁93を開として制御装置3により開度を調整することで、前述の第2流量調整弁81と同様の構成となり、排気バイパス路30aとしてタービン33に供給する排気ガスの量を制御することもできる。
【0107】
レシプロエンジンシステム1は、レシプロエンジン2の吸気側に空気量を制限するスロットルバルブ94を備える。本実施形態では、#1~#6の6つのシリンダ11のそれぞれの入り口にスロットルバルブ94を設けている。制御装置3は、空気に対するアンモニアの当量比が、アンモニアと液体補助燃料による混焼運転を可能とする範囲に入るようにスロットルバルブ94の開度を制御する。
【0108】
気体アンモニアを液体補助燃料と混焼させてエンジンを運転している際は、前述の亜酸化窒素、未燃アンモニアやその他の窒素酸化物などの排ガス成分や燃焼安定性との関係上、気体アンモニアの空気に対する当量比を一定の範囲内で維持する必要がある。しかし、低負荷運転時は必要となるアンモニアの絶対量が少ないため、過給機4が働いていない自然吸気の状態でも気体アンモニアの当量比が目標範囲より低くなってしまう。そのため、吸気入口にスロットルバルブ94を設けて吸気量を絞ることでアンモニアの当量比を、混焼運転が可能となる目標の範囲内に維持する。ここで、目標の範囲となるアンモニアの当量比は、0.4~0.8とする。
なお、本実施形態では#1~#6の6つのシリンダ11のそれぞれの入口にスロットルバルブ94を設けているが、吸気路20が各シリンダに向けて分岐する前の、エアクーラ23の出口あるいは入口付近の吸気路20に1つのスロットルバルブ94を設けても良い。
【0109】
レシプロエンジンシステム1は、レシプロエンジン2の吸気側、具体的には吸気路20のコンプレッサ22の出口付近に接続された、追加となる空気を供給する空気供給装置であるエアタンク装置95を備える。制御装置3は、混焼運転モードからディーゼル運転モードに切り替える際に、エアタンク装置95から一時的に空気を供給する。
【0110】
混焼運転モードとディーゼル運転モードの双方で運転が可能なレシプロエンジンシステム1では、混焼運転モードでの運転を維持するのに何らかの問題が生じた場合に短時間でディーゼル運転モードに切り替えることが必要となる場合がある。この場合、空気量の不足によりスモークの排出、機関出力の低下や機関回転数の低下が懸念される。そこで、吸気バイパス路20aや排気バイパス路30aに設けられた弁を閉じて過給機4の回転数が上昇するまでの間、空気量の不足を補うためエアタンク装置95から追加となる空気を供給し、液体補助燃料の燃焼に必要な空気量を確保する。
【0111】
またエアタンク装置95を用いない別の例として、過給機4のコンプレッサ22の吸入口に、くさび状の可動ベーン(翼)を設け、可動ベーンの角度を変えることによりインペラに吸い込まれる空気量を調整する可変容量型のもの(IGV)を用いてもよい。制御装置3は、混焼運転モードにおいて、可動ベーンをそのときの混焼運転の運転状態における最適な角度よりも絞った状態に制御することで、過給機の回転速度を必要より高く維持する。そして、制御装置3は、混焼運転モードからディーゼル運転モードに切り替える際に、一時的に可動ベーンを開く制御を行う。これにより過給機の回転エネルギーが空気量に変換され、一時的に大きな空気量を確保する。ディーゼル運転モードへの切り替えの終了の後は、制御装置3は可動ベーンをディーゼル運転に適した角度にする制御を行う。
【0112】
図6は、一実施形態に係る触媒処理装置60の構成図である。
図6(a)に示す触媒処理装置60は、レシプロエンジン2から排出された排ガスを処理する選択還元触媒槽62と、選択還元触媒槽62から排出された排ガスをさらに処理する酸化触媒槽63と、を備えている。選択還元触媒槽62の上流側には、アンモニア第2供給路45を介して、レシプロエンジン2に燃料として供給される気体アンモニアの一部が分岐されて導かれ、図示しない噴射ノズルより排気ガス中に噴射される。選択還元触媒槽62の下流側及び酸化触媒槽63の下流側の、少なくとも一方には、NOxセンサ、アンモニアセンサ等の検出センサ61が設けられ、測定される排気ガス中の成分に応じて気体アンモニアの供給量が調整される。
【0113】
アンモニアと液体補助燃料の混焼運転においては、エンジンの排気ガス中に、窒素酸化物(NOx)に加え、亜酸化窒素、未燃アンモニアが発生する。この未燃アンモニアは、選択還元触媒槽62において、窒素酸化物および亜酸化窒素から酸素を奪う還元剤として働く。未燃アンモニアの発生割合が、窒素酸化物および亜酸化窒素の発生割合に対し不足する場合、不足分の気体アンモニアがアンモニア第2供給路45の噴射ノズルより排気ガス中に噴射される。
【0114】
窒素酸化物および亜酸化窒素の大部分は、選択還元触媒槽62において還元されて無害化される。また、気体アンモニアと液体補助燃料の混焼運転においては、空気に対する燃料全体の当量比が0.5以上1.0以下とすることが望ましく、実際の運転の大部分は当量比が1.0未満のリーンバーンの領域でなされる。そのため、排気ガス中には一定割合の酸素が含まれている。未燃アンモニアの発生割合が、窒素酸化物および亜酸化窒素の発生割合に対し多い場合など排気ガス中に余剰のアンモニアが残る場合には、下流側の酸化触媒槽63において、アンモニアは排気ガス中の酸素で酸化されて無害化される。
【0115】
図6(b)に示す例では、図6(a)に示す例のレシプロエンジン2と選択還元触媒槽62との間に、さらに酸化触媒槽64が設けられている。このようにすれば、レシプロエンジン2の直後の酸化触媒槽64によって、排気ガス中の未燃炭化水素や一酸化炭素をより効果的に処理することができる。
【0116】
図6(c)に示す例では、レシプロエンジン2の下流側に、酸化還元触媒槽65が設けられている。酸化還元触媒槽65は、窒素酸化物および亜酸化窒素のアンモニアによる還元反応と、アンモニアの排気ガス中の酸素による酸化反応の両方を促進する。この例においても、窒素酸化物および亜酸化窒素のアンモニアによる還元と、アンモニアの排気ガス中の酸素による酸化の効果が得られる。
【0117】
上記構成のレシプロエンジンシステム1は、シリンダ11内の圧縮端温度がアンモニアの燃焼遅れが生じない所定の温度以上の状態で、アンモニアと液体補助燃料による混焼運転を行うことを特徴としている。
以下の図7及び図8は、上述したレシプロエンジン2のシリンダ11部分のみを再現した急速圧縮膨張装置を用いて行った、気体アンモニアと液体補助燃料の混焼試験の結果を示している。
【0118】
図7は、一実施形態に係るシリンダ11内の圧縮端温度と、液体補助燃料の噴射タイミングを基準とした、気体アンモニアと空気の混合気の燃焼遅れとの関係を示すグラフである。
同図において、破線は給気圧力0.1MPa、圧縮端圧力2.6MPaの場合の圧縮端温度に対する燃焼遅れ(点火遅れ)の測定値を、一点鎖線は給気圧力0.2MPa、圧縮端圧力5.3MPaの場合の測定値を、それぞれ示す。いずれにおいても圧縮端温度が750K未満では燃焼遅れが大きくなり、特に前者の給気圧力が低い条件において燃焼遅れが著しくなることが分かる。このように、圧縮端温度がアンモニア混合気の燃焼に支配的な影響を与えることが分かる。
【0119】
図8は、一実施形態に係る気体アンモニアと液体補助燃料の混焼運転における燃料全体の当量比と排気ガス中のNO(実線)、未燃NH(破線)の関係を示すグラフである。空気に対する燃料全体の当量比が0.5未満では、当量比が下がるほど亜酸化窒素の発生が急激に増加する。また、空気に対する燃料全体の当量比を1.0以上とした場合には、燃料の燃焼に必要な空気が不足するため、燃料が未燃成分として排出される。この場合、アンモニアは液体補助燃料に比べ燃焼しにくいため、主にアンモニアが未燃成分として排出されることが分かる。
【0120】
なお、図1に示すレシプロエンジン2(実機用列形エンジン)と、その予備実験に使用した予備試験用単気筒エンジンの仕様は、以下の通りである。
【0121】
(1)予備試験用単気筒エンジン
シリンダ数 1
ボア× ストローク 180×200 mm
シリンダあたり行程容積 5089 cc
定格回転速度 1000~1200 rpm
【0122】
(2)実機用列形エンジン
シリンダ数 6
ボア× ストローク 280×390 mm
シリンダあたり行程容積 24014 cc
定格回転速度 750 ~800 rpm
【0123】
続いて、上記構成のレシプロエンジンシステム1の動作(レシプロエンジン2の運転方法)について説明する。なお、以下の動作は、制御装置3が主体となって制御を行う。
【0124】
本実施形態のレシプロエンジンシステム1は、アンモニアを燃料として使用する。図1に示すように、燃料として使用されるアンモニアは、加圧されて液体の状態でアンモニアタンク41内に貯蔵され、気化装置42により気化されて気体アンモニアとなる。気体アンモニアは、レギュレータ44aで圧力が制御され、燃料ガス噴射弁43(電磁弁)を介して吸気路20中に供給される。また、気体アンモニアの一部は分岐され、レギュレータ45aで圧力が制御されて触媒処理装置60に供給される。
【0125】
液体補助燃料は、液体燃料噴射弁53、および、着火装置55により、燃焼室10内に噴射される。液体燃料噴射弁53は、例えば、機械式燃料噴射装置であり、着火装置55は、例えば、コモンレール式燃料噴射装置である。気体アンモニアと液体補助燃料の混焼運転モードでは、燃料噴射タイミングの調整が容易なコモンレール式燃料噴射装置(着火装置55)が主に使用されるが、補助的に機械式燃料噴射装置(液体燃料噴射弁53)を用いてもよい。また、コモンレール式燃料噴射装置(着火装置55)により多段噴射を行うことで、アンモニアの燃焼性を向上する効果がある。
【0126】
液体補助燃料のみのディーゼル運転モードにおいては、機械式燃料噴射装置(液体燃料噴射弁53)が主に使用される。液体補助燃料としては、重油、軽油が一般的に使用できる。ここで使用する液体補助燃料としては、ライフサイクルで二酸化炭素の発生が防止されるバイオ燃料などのCOフリーの代替燃料を用いてもよい。この場合には、アンモニア利用の効果と併せ、ほぼ100%の二酸化炭素の排出削減が可能となる。
【0127】
吸気弁21の動弁装置としては、可変バルブタイミング機構を有する動弁装置を使用するとよい。これにより、吸気弁21の閉じるタイミングを給気行程でのピストン12の下死点のタイミングより早くし(早閉じ)、または下死点のタイミングより遅くする(遅閉じ)することで、有効圧縮比を可変することができる。例えば、レシプロエンジン2の始動時や出力が低い運転状態では、有効圧縮比を高くすることで圧縮端温度を上げることができ、より早いタイミングで、液体補助燃料のみによる運転から、気体アンモニアと液体補助燃料の混焼運転に移行することができる。また、出力が高い運転状態では有効圧縮比を低くすることで、シリンダ11内圧力が過剰に高くなるのを防ぎ、またミラーサイクル化による効率の向上の効果が得られる。
【0128】
吸気路20には、過給機4のコンプレッサ22の下流側にエアクーラ23が設けられる。このエアクーラ23は冷水で吸気を冷やす機能だけでなく、温水やヒータ等により吸気を温める機能を持った空気冷却器兼加熱装置としてもよい。また必要に応じ、コンプレッサの上流側に吸入する空気を温める空気加熱装置24を備えてもよい。空気加熱装置24は、レシプロエンジン2と熱交換した冷却水を熱源として利用する冷却加熱系統25を有している。レシプロエンジン2の始動時や出力が低い運転状態では、エアクーラ23又は空気加熱装置24により吸気を加熱することで圧縮端温度を上げることができ、より早いタイミングで、液体補助燃料のみによる運転から、気体アンモニアと液体補助燃料の混焼運転に移行することができる。また、吸気路20においてコンプレッサ22の下流側となる位置、より具体的にはエアクーラ23の出口付近に図示しない温度センサを設けてもよい。この温度センサによって測定される吸気の温度が所定の温度より低くなる運転領域において、エアクーラ23又は空気加熱装置24が吸気を加熱してもよい。
【0129】
図9は、一実施形態に係るレシプロエンジン2が舶用エンジンの場合の動作を説明する説明図である。なお、ここでは、レシプロエンジン2が固定ピッチプロペラを直接的に駆動する場合を代表例として説明する。なお、レシプロエンジン2が可変ピッチプロペラを駆動する場合でもプロペラピッチによって出力、燃料供給量を示す線が上下にシフトする以外は、図9と同様となる。また、レシプロエンジン2が発電機を駆動して、得られた電力によりモータでプロペラを駆動する場合、レシプロエンジン2の回転速度が一定の状態で発電量を上下する場合もある。この場合は後述の発電機を駆動する発電エンジンの例に準じた運転となるが、エンジンの回転速度を上下しつつ発電量を上下する場合には、本実施例に準じた運転となる。
【0130】
図9の横軸は、時間の経過、縦軸の(a)はレシプロエンジン2の回転速度、(b)はレシプロエンジン2の出力、(c)及び(d)は燃料供給量の例を示している。図9に示す例では、T0でレシプロエンジン2が始動され、T1までアイドリング状態の一定の回転速度でレシプロエンジン2が運転される。この間のレシプロエンジン2の出力はゼロであるが、アイドリングを維持するため一定量の燃料が供給される。レシプロエンジン2は調速制御されており、レシプロエンジン2の回転速度が目標回転速度となるよう、燃料の供給量が調速制御される。T1で船舶の推進が開始され、T2で定格の回転速度となるまで、レシプロエンジン2の目標回転速度が徐々に上げられると、調速制御の働きにより燃料の供給量が徐々に増やされてレシプロエンジン2の出力が徐々に増加し、T2にて定格出力に到達する。プロペラのピッチが一定の場合、出力と回転速度との関係は、出力が回転速度の約三乗に比例するいわゆる舶用三乗曲線に沿った関係になる。
【0131】
図9(c)は、速力の増加が比較的遅い場合、あるいはレシプロエンジン2の一つのシリンダ11あたりの行程容積が比較的大きい場合に適した燃料供給の制御の例である。レシプロエンジン2の始動後のアイドリング状態では、ほぼ一定量の液体補助燃料が供給される。アイドリング運転を適当な時間行いレシプロエンジン2の温度が上昇して温態状態となり、圧縮端温度が所定の温度以上となった段階で、ディーゼル運転モードから混焼運転モードに切り替わり、気体アンモニアの調速制御による供給が開始される。液体補助燃料の供給量が一定とされ、目標回転速度が徐々に上げられると、調速制御の働きにより気体アンモニアの供給量が徐々に増加する。回転速度及び出力が定格に達した状態では、アンモニアの混焼率は熱量比で80%以上となる。
【0132】
図9(d)は、速力の増加が比較的速い場合、あるいはレシプロエンジン2の一つのシリンダ11あたりの行程容積が比較的小さい場合に適した燃料供給の制御の例である。アイドリング運転後、圧縮端温度が所定の温度以上とならない状態では、液体補助燃料の供給量が調速制御され、目標回転速度が徐々に上げられると、調速制御の働きにより液体補助燃料の供給量が徐々に増加する。この例では、回転速度及び出力が定格に達するまで液体補助燃料のみにより運転がされている。出力が増加してレシプロエンジン2の温度が上昇し、圧縮端温度が所定の温度以上となった段階で、ディーゼル運転モードから混焼運転モードに切り替わり、気体アンモニアの調速制御による供給が開始される。気体アンモニアの供給開始後、液体補助燃料の供給量は徐々に下げられ、調速制御の働きにより気体アンモニアの供給量が増加する。最終的にアンモニアの混焼率は熱量比で80%以上となる。
【0133】
なお、この例では、レシプロエンジン2の回転速度及び出力が定格に達するまで液体補助燃料のみにより運転がされている。しかしながら、例えば図9(d)中に一点鎖線で示すように、圧縮端温度が所定の温度以上となりうる適当な出力、例えば50%の出力まで液体補助燃料のみにより運転し、その段階で気体アンモニアの供給を開始してもよい。その場合は、図9(d)において一点鎖線の上のハッチングした領域もアンモニアの供給領域となる。この場合も、気体アンモニアの供給開始後、液体補助燃料の供給量は徐々に下げられ、調速制御の働きにより気体アンモニアの供給量が増加する。液体補助燃料の供給量を運転条件に応じてマップ制御し、気体アンモニアの供給量を調速制御すれば、さまざまなパターンでの適切な制御が可能になる。
【0134】
図10は、一実施形態に係るレシプロエンジン2が発電機を駆動する発電エンジンの動作を説明する説明図である。ここでは典型的な例として、陸上において発電エンジンにより発電機を駆動して電力系統に電力を供給する場合を代表例として説明するが、船舶において発電を行う場合でも、レシプロエンジン2の回転速度が一定の状態で発電量を上下する場合、この例に準じたものとなる。
【0135】
図10に示す例では、T0でレシプロエンジン2が始動され、T1までアイドリング状態の一定の回転速度でレシプロエンジン2が運転される。レシプロエンジン2は、調速制御されており、レシプロエンジン2の回転速度が目標回転速度となるよう、燃料の供給量が調速制御される。次いで、レシプロエンジン2の回転速度の目標値が上げられ、T2において、レシプロエンジン2の回転速度が発電周波数に応じた定格の回転速度に到達する。この間は、レシプロエンジン2の出力はゼロであるが、回転を維持するため一定量の燃料が供給される。T3で発電機に対して最初の負荷投入がされる。負荷投入がなされると、回転速度を維持するために、燃料の供給量は短時間で増加する。さらにT4で2回目の負荷投入がなされ、燃料の供給量が再度増加し、レシプロエンジン2は定格出力に達する。なお、負荷投入の回数は2回には限られず、より多くの回数に分けてなされる場合もあり、また1回だけの場合もある。
【0136】
ここで、負荷投入の際は短時間で燃料の供給量を増加する必要があるが、特にレシプロエンジン2の温度が充分に上がっておらず、圧縮端温度が充分に上がらない場合には、気体アンモニアの供給量を短時間で増加させると気体アンモニアが充分に燃焼せず未燃アンモニアが増加する恐れがある。
【0137】
図10(c)の例では、レシプロエンジン2が起動直後で温度が充分に上がらない状態で行われることの多い、1回目の負荷投入までは液体補助燃料のみにより運転を行い、次いで液体補助燃料の供給量を徐々に一定値まで下げ、気体アンモニアの供給量を調速制御の働きにより徐々に増加する。1回目の負荷投入後、しばらく時間が経過し、レシプロエンジン2の温度が上がった状態で2回目の負荷投入を行うが、この際は圧縮端温度が充分に上がっているため、気体アンモニアの供給量を増やすことで負荷投入に対応する。最終的にアンモニアの混焼率は熱量比で80%以上となる。
【0138】
図10(d)の例は、より短時間で負荷投入を完了する場合や、レシプロエンジン2の一つのシリンダ11あたりの行程容積が比較的小さい場合の燃料供給の制御の例である。この例においては、複数の負荷投入が終了するまで液体補助燃料のみにより運転を行い、次いで液体補助燃料の供給量を徐々に一定値まで下げ、気体アンモニアの供給量を調速制御の働きにより徐々に増加する。最終的にアンモニアの混焼率は熱量比で80%以上となる。
【0139】
液体補助燃料のみによりレシプロエンジン2を起動した後、液体補助燃料とアンモニアによる混焼運転を開始するための条件として、上述した圧縮端温度、レシプロエンジン2の出力、空気に対する燃料全体の当量比だけでなく、必要に応じて他の条件を用いてもよい。図5に示すように、排気路30の触媒処理装置60の入口には、温度センサ67が設けられる。制御装置3は、液体補助燃料のみによりレシプロエンジン2を起動し、温度センサ67によって測定される排気ガスの温度が所定の温度に到達するまで液体補助燃料による運転を継続する。この所定の温度は、触媒が機能するための排気ガスの温度として予め実験により求められる。制御装置3は、排気ガスの温度が所定の温度に到達すると、液体補助燃料とアンモニアによる混焼運転を開始する。
【0140】
また、図5に示すように、触媒処理装置60には、触媒処理装置60の温度を測定するための温度センサ68が設けられる。制御装置3は、液体補助燃料のみによりレシプロエンジン2を起動し、温度センサ68によって測定される触媒処理装置60の温度が所定の温度に到達するまで液体補助燃料による運転を継続する。この所定の温度は、触媒が機能する処理温度として予め実験により求められる。制御装置3は、触媒処理装置60の温度が上記処理温度に到達すると、液体補助燃料とアンモニアによる混焼運転を開始する。
【0141】
また、図5に示すように、触媒処理装置60は、触媒処理装置60を加熱するヒータ69を備える。制御装置3は、触媒処理装置60の温度が、上記処理温度に到達するまで、ヒータ69により触媒処理装置60を加熱する。制御装置3は、触媒処理装置60の温度が上記処理温度に到達すると、液体補助燃料とアンモニアによる混焼運転を開始する。混焼運転を開始し触媒処理装置60の温度が所定の温度を維持できる状態になると、制御装置3は、ヒータ69による加熱を終了する。また、制御装置3は、温度センサ68による触媒処理装置60の温度の測定を継続し、触媒処理装置60の温度が所定の温度を下回る場合には、ヒータ69による加熱を再開する。
【0142】
以上、本発明の好ましい実施形態を記載し説明してきたが、これらは本発明の例示的なものであり、限定するものとして考慮されるべきではないことを理解すべきである。追加、省略、置換、およびその他の変更は、本発明の範囲から逸脱することなく行うことができる。好ましい実施形態として4ストロークのエンジンを例に上げて説明したが、2ストロークのエンジンについても同じ原理が適用される。また、シリンダ内の圧縮端温度について実際の測定は必ずしも必要ではなく、レシプロエンジンの設計値および運転状態から合理的に推測し得る。従って、本発明は、前述の説明によって限定されていると見なされるべきではなく、特許請求の範囲によって制限されている。
【符号の説明】
【0143】
1 … レシプロエンジンシステム
2 … レシプロエンジン
3 … 制御装置
4 … 過給機
10 … 燃焼室
11 … シリンダ
12 … ピストン
20 … 吸気路
30 … 排気路
40 … アンモニア燃料供給装置
50 … 液体補助燃料供給装置
60 … 触媒処理装置
94 … スロットルバルブ
95 … エアタンク装置(空気供給装置)
96、97、98 … 短絡路(第1短絡路)
96、97、99 … 短絡路(第2短絡路)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10