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特開2024-125216複合材料、高分子充填木材、複合材料の製造方法及び高分子充填木材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125216
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】複合材料、高分子充填木材、複合材料の製造方法及び高分子充填木材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 1/00 20060101AFI20240906BHJP
   C08L 97/00 20060101ALI20240906BHJP
   C08L 101/16 20060101ALI20240906BHJP
   B27K 5/02 20060101ALI20240906BHJP
   B27K 3/36 20060101ALI20240906BHJP
   B27K 3/38 20060101ALI20240906BHJP
【FI】
C08L1/00 ZBP
C08L97/00
C08L101/16
B27K5/02 E
B27K3/36
B27K3/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024031153
(22)【出願日】2024-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2023033128
(32)【優先日】2023-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】大谷 毅
【テーマコード(参考)】
2B230
4J002
4J200
【Fターム(参考)】
2B230AA30
2B230BA03
2B230CB01
2B230CB02
2B230EA17
2B230EB02
2B230EB03
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4J002AB01X
4J002AB02W
4J002AB02X
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4J200BA11
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4J200BA15
4J200BA17
4J200BA18
4J200BA36
4J200BA37
4J200BA38
4J200BA39
4J200DA12
4J200DA16
4J200DA17
4J200EA11
(57)【要約】
【課題】自然環境への負担低減に貢献できる高分子充填木材を提供する。
【解決手段】高分子充填木材が、天然高分子及び/又は生分解性高分子を含む高分子が木材に充填されてなる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース(ヘミセルロースを含む。)又はその誘導体を主成分として含み、管状構造、網目状構造又は多孔質構造を有する三次元構造体と、
前記三次元構造体の内部に配される樹脂材料と、
を備え、
前記樹脂材料は、(a)JIS K6955:2017に準拠して測定される土壌中での好気的生分解度、及び/又は、(b)ISO19679:2020に準拠して測定される海水/堆積物界面における生分解度が180日以下の期間内で60%以上である生分解性高分子材料を含む、
複合材料。
【請求項2】
前記樹脂材料は、非結晶性の前記生分解性高分子材料を含み、
前記生分解性高分子材料の屈折率と、前記セルロース又は前記誘導体の屈折率との差の絶対値は、0.25以下である、
請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
厚みが1mm以上2mm以下の場合における波長600nm以上700nm以下での光透過率の最大値は、50%以上である、
請求項1に記載の複合材料。
【請求項4】
前記三次元構造体の空隙又は細孔の少なくとも一部の内部に、前記複合材料が充填されてなる、
請求項1に記載の複合材料。
【請求項5】
前記三次元構造体は、前記セルロース又は前記誘導体の結晶を含む複数のミクロフィブリルが互いに水素結合してなる繊維又は当該繊維の集合体を有する、
請求項1から請求項4までの何れか一項に記載の複合材料。
【請求項6】
前記複合材料の質量に対する、リグニン又は主鎖にリグニンを含む高分子の質量の割合は、0.25質量%以上25質量%以下である、
請求項1から請求項4までの何れか一項に記載の複合材料。
【請求項7】
前記セルロース又は前記誘導体の質量に対する、リグニン又は主鎖にリグニンを含む高分子の質量の割合は、2.5質量%以上25質量%以下である、
請求項1から請求項4までの何れか一項に記載の複合材料。
【請求項8】
天然高分子及び/又は生分解性高分子を含む高分子が木材に充填されてなる、
高分子充填木材。
【請求項9】
前記天然高分子及び/又は前記生分解性高分子が、非結晶性高分子である、
請求項8に記載の高分子充填木材。
【請求項10】
前記天然高分子及び/又は前記生分解性高分子が、多糖類、タンパク質、及びポリエステルの1以上である、請求項8に記載の高分子充填木材。
【請求項11】
前記天然高分子及び/又は前記生分解性高分子が、グルコース多糖類である、
請求項10に記載の高分子充填木材。
【請求項12】
波長600nmでの光透過率が50%以上である、
請求項8から請求項11までの何れか一項に記載の高分子充填木材。
【請求項13】
厚みが1mm以上2mm以下の場合における波長600nm以上700nm以下での光透過率の最大値が50%以上である、
請求項8から請求項11までの何れか一項に記載の高分子充填木材。
【請求項14】
前記充填前の前記木材の密度が、0.1kg/m以上1.3kg/m以下である、
請求項8から請求項11までの何れか一項に記載の高分子充填木材。
【請求項15】
セルロース(ヘミセルロースを含む。)又はその誘導体を主成分として含み、管状構造、網目状構造又は多孔質構造を有する三次元構造体を準備する段階と、
前記三次元構造体の空隙又は細孔の少なくとも一部の内部に、樹脂材料を配置する段階と、
を有し、
前記樹脂材料は、(a)JIS K6955:2017に準拠して測定される土壌中での好気的生分解度、及び/又は、(b)ISO19679:2020に準拠して測定される海水/堆積物界面における生分解度が180日以下の期間内で60%以上である生分解性高分子材料を含む、
複合材料の製造方法。
【請求項16】
木材を漂白して、漂白済み木材を得て、
前記漂白済み木材に、高分子の溶液又は流動状態の高分子を充填することを含む、
高分子充填木材の製造方法。
【請求項17】
前記高分子を充填することが、前記漂白済み木材に、前記高分子の溶液又は前記流動状態の高分子を含侵させることを含む、
請求項16に記載の高分子充填木材の製造方法。
【請求項18】
前記高分子の溶液又は前記流動状態の高分子の粘度が、1mPa・s以上100,000mPa・s以下である、
請求項16又は17に記載の高分子充填木材の製造方法。
【請求項19】
前記漂白済み木材に前記高分子の水溶液を含侵させ、当該水溶液の前記高分子の濃度が0.05質量%以上50質量%以下である、
請求項16又は17に記載の高分子充填木材の製造方法。
【請求項20】
前記高分子が、天然高分子及び/又は生分解性高分子である、
請求項16又は17に記載の高分子充填木材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材料、高分子充填木材、複合材料の製造方法及び高分子充填木材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、木材基板と少なくとも1種のポリマーとを含む透明木材が開示されている。特許文献1の具体的な開示によれば、漂白された木材基板に、メチルメタクリレートプレポリマーを含む溶液を含侵させた後、プレポリマーを熱硬化させることによって高分子充填木材を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2020-515437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
木材自体、又は、木材の主成分であるセルロース若しくはヘミセルロースを各種材料の素材として用いることは、自然環境への負担の低減(カーボンニュートラル、廃棄時の環境負担低減等を含む)という観点からも好ましい。しかしながら、特許文献1に開示されている高分子充填木材に含まれるポリマーは石油由来の材料であるため、上記の自然環境への負担の低減という観点からの改善が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様によれば、セルロースを含む複合材料が提供される。上記の複合材料は、例えば、三次元構造体を備える。上記の複合材料において、三次元構造体は、例えば、セルロース(ヘミセルロースを含む。)又はその誘導体を主成分として含む。上記の三次元構造体は、例えば、管状構造、網目状構造又は多孔質構造を有する。上記の複合材料は、例えば、三次元構造体の内部に配される樹脂材料を備える。上記の複合材料において、樹脂材料は、例えば、(a)JIS K6955:2017に準拠して測定される土壌中での好気的生分解度、及び/又は、(b)ISO19679:2020に準拠して測定される海水/堆積物界面における生分解度が180日以下の期間内で60%以上である生分解性高分子材料を含む。
【0006】
本開示の他の態様によれば、自然環境への負担低減に貢献できる高分子充填木材が提供される。上記の高分子充填木材は、天然高分子及び/又は生分解性高分子を含む高分子が木材に充填されてなる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[複合材料]
本実施形態において、複合材料は、三次元構造体と、当該三次元構造体の内部に配される樹脂材料とを備える。上記の三次元構造体は、例えば、セルロース(ヘミセルロースを含む。)又はその誘導体を主成分として含む。上記の樹脂材料は、生分解性を有する高分子材料(生分解性高分子材料と称される場合がある。)を含む。これにより、機械的強度及び生分解性に優れた複合材料が得られる。機械的強度としては、曲げ強度、引張強度などが例示される。
【0008】
複合材料の少なくとも一部が炭化されてもよい。例えば、三次元構造体及び樹脂材料の少なくとも一方の一部が炭化される。複合材料の炭化された部分にドーパント(例えば、ドナー又はアクセプタである)がドープされてよい。これにより、複合材料の一部がp型半導体又はn型半導体として機能しうる。本実施形態による複合材料は、例えば、建材、壁紙、家具、容器、梱包材料、包装材料、衛生材料、合成紙、防水シート、装飾品、日用雑貨、看板、置物、芸術品、電子部品、及び/又はこれらの原材料として用いられる。
【0009】
<三次元構造体>
(組成)
本実施形態において、三次元構造体は、セルロース(ヘミセルロースを含む。)又はその誘導体を主成分として含む。セルロース(ヘミセルロースを含む。)は生分解性を有しており、セルロース誘導体の多くも生分解性を有する。セルロース(ヘミセルロースを含む。)又はその誘導体は、例えば、(a)ISO17556若しくはJIS K6955:2017に準拠して測定される土壌中での好気的生分解度、及び/又は、(b)ISO19679:2020に準拠して測定される海水/堆積物界面における生分解度が180日以下の期間内で60%以上である。三次元構造体がセルロース(ヘミセルロースを含む。)又はその誘導体を主成分として含むことにより、生分解性に優れた複合材料が得られる。
【0010】
例えば、三次元構造体の質量に対する、セルロース及びヘミセルロース並びにこれらの誘導体の質量の合計の割合が70質量%以上である場合、当該三次元構造体は、セルロース(ヘミセルロースを含む。)又はその誘導体を主成分として含むと判定され得る。例えば、三次元構造体が天然の植物又は藻類に由来する場合、当該三次元構造体の質量に対する、セルロース及びヘミセルロースの質量の合計の割合は70質量%以上である。多くの場合、上記の割合は80質量%程度である。
【0011】
セルロースの誘導体としては、変性セルロースが例示される。変性セルロースとしては、酢酸セルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどが例示される。一般的に、セルロースが化学修飾される割合が大きくなるほど、当該化学修飾されたセルロースの生分解性が低下する。そのため、変性されていないセルロースは、変性セルロースと比較して生分解性に優れる。同様に、酢酸セルロースは、ヒドロキシプロピルセルロースと比較して生分解性に優れる。
【0012】
三次元構造体は、リグニンを含んでもよい。三次元構造体は、主鎖にリグニンを含む高分子を含んでもよい。例えば、植物又は藻類に含まれるリグニンを漂白するための工程が実施されたり、植物又は藻類からリグニンを除去するための工程が実施されたりすることで、主鎖にリグニンを含む高分子を有する三次元構造体が作製され得る。
【0013】
一実施形態において、複合材料の質量に対する、リグニン又は主鎖にリグニンを含む高分子の質量の割合は、0.25質量%以上25質量%以下であってよい。上記の割合は、0.4質量%以上22質量%以下であってもよく、0.5質量%以上20質量%以下であってもよい。上記の割合は、1質量%以上15質量%以下であってもよく、5質量%以上10質量%以下であってもよい。三次元構造体の製造工程においてリグニンが積極的に除去される場合、上記の割合は、0.25質量%以上5質量%以下であってもよく、0.45質量%以上4.5質量%以下であってもよく、0.5質量%以上4.5質量%以下であってもよく、1質量%以上3質量%以下であってもよい。三次元構造体の製造工程においてリグニンが積極的に除去されない場合、上記の割合は、1.5質量%以上25質量%以下であってもよく、2質量%以上20質量%以下であってもよい。例えば、三次元構造体が天然の植物又は藻類に由来する場合、複合材料における、リグニン又は主鎖にリグニンを含む高分子の含有量が上記の数値範囲の範囲内であることが多い。
【0014】
他の実施形態において、三次元構造体に含まれるセルロース(ヘミセルロースを含む。)又はその誘導体の質量に対する、リグニン又は主鎖にリグニンを含む高分子の質量の割合は、2.5質量%以上25質量%以下であってよい。上記の割合は、4質量%以上22質量%以下であってもよく、5質量%以上20質量%以下であってもよい。三次元構造体の製造工程においてリグニンが積極的に除去される場合、上記の割合は、2.5質量%以上7.5質量%以下であってもよく、4.5質量%以上5.5質量%以下であってもよい。三次元構造体の製造工程においてリグニンが積極的に除去されない場合、上記の割合は、15質量%以上25質量%以下であってもよく、18質量%以上22質量%以下であってもよい。例えば、三次元構造体が天然の植物又は藻類に由来する場合、三次元構造体における、リグニン又は主鎖にリグニンを含む高分子の含有量が上記の数値範囲の範囲内であることが多い。
【0015】
本実施形態において、三次元構造体は、天然資源に由来するセルロース(ヘミセルロースを含む。)又はその誘導体を含んでよい。三次元構造体に含まれるセルロース(ヘミセルロースを含む。)又はその誘導体が、実質的に天然資源に由来することが好ましい。上記の天然資源としては、植物、藻類などが例示される。植物としては、維管束植物、蘚苔類などが例示される。三次元構造体が維管束植物に由来する場合、三次元構造体が蘚苔類又は藻類に由来する場合と比較して、曲げ強度に優れた構造体が得られる。
【0016】
一実施形態によれば、複合材料又は三次元構造体の製造過程を検証することで、三次元構造体が天然資源に由来するか否かが判定され得る。他の実施形態よれば、ASTMD6866-10に準拠して測定されるpMCの値に基づいて、上記の三次元構造体が天然由来であるか否かが判定され得る。
【0017】
例えば、ASTMD6866-10に準拠して測定されるpMC(percent Modern Carbon)が10.8%以上である場合、上記の三次元構造体が天然由来であると判定される。上記の三次元構造体が天然由来であるか否かを判定するための閾値は、20%以上であってもよく、30%以上であってもよく、40%以上であってもよく、50%以上であってもよく、60%以上であってもよく、70%以上であってもよい。上記の閾値は、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがさらに好ましく、100%以上であることが特に好ましい。
【0018】
特定の試料のpMCは、標準現代炭素(modern standard reference)の14C濃度に対する、当該試料の14C濃度の比として導出される。具体的には、試料のpMCは、1950年のバイオマス中の14Cと12Cとの比(14C/12C)を100として導出され、具体的な標準物質としては、NIST(National Institute of Standards and Technology:米国国立標準・技術研究所)により提供されるシュウ酸標準体が用いられる。なお、標準物質との比率で計算されるという性質上、pMCの値は100%を超え得る。
【0019】
放射性炭素同位体である14Cの半減期は5730年であり、現在採掘される石炭、石油、天然ガス等の化石燃料には14Cが含まれておらず、当該化石燃料を原料として生産された化学物質も14Cを含まない。一方、現在の環境中で生育している天然資源(バイオマス資源と称される場合がある。)は、C原子全体に対して約1×10-12mol%程度の14Cを含む。そのため、100%化石燃料に由来する試料のpMCは約0(例えば、0.3程度である)であり、100%天然資源に由来する試料のpMCは約110である。
【0020】
(構造)
本実施形態において、三次元構造体は、管状構造、網目状構造又は多孔質構造を有する。管状構造を有する物体としては、中空の管状若しくは筒状の構造物、又は、当該構造物の集合体が例示される。網目状構造を有する物体としては、(i)織物、編物又は不織布などのシート状の構造物、(ii)三次元網目構造を有するスポンジ状の構造物などが例示される。三次元網目構造を有する構造物は、多孔質構造を有する物体の一例であってもよい。多孔質構造を有する物体としては、開気孔及び/又は閉気孔を有する多孔体が例示される。樹脂材料が内部に配されていない状態において、乾燥時の三次元構造体の空隙率は、乾燥状態における木材の空隙率と同程度であってよい。具体的には、上記の乾燥時の三次元構造体の空隙率(未充填乾燥状態における空隙率と称される場合がある。)は10%以上97%以下であってもよく、15%以上95%以下であってもよく、16%以上94%以下であってもよい。
【0021】
本実施形態において、三次元構造体は、例えば、セルロース又はその誘導体の結晶を含む複数のミクロフィブリルが互いに水素結合してなる繊維(セルロース繊維と称される場合がある)又は当該繊維の集合体を有する。セルロースには、ヘミセルロースが含まれ得る。三次元構造体、主として上記のセルロース繊維又は当該繊維の集合体からなる骨格構造を有してよい。三次元構造体は、実質的に、上記のセルロース繊維又は当該繊維の集合体と、リグニン又はリグニンに由来する物質とからなる骨格構造を有してよい。
【0022】
セルロースは、上記のセルロース繊維の他に、微細化セルロース繊維(セルロースナノファイバーと称される場合がある。)として存在しうる。例えば、木材中のセルロース繊維が、その構造の少なくとも一辺がナノメートルオーダーになるまで微細化(解繊と称される場合がある。)されることで、微細化セルロース繊維が得られる。
【0023】
主として上記のセルロース繊維又は当該繊維の集合体からなる骨格構造を有する三次元構造体は、主として微細化セルロース繊維からなる骨格構造を有する三次元構造体と比較して、容易に作製され得る。例えば、上記のセルロース繊維又は当該繊維の集合体が主原料として用いられることにより、厚さが0.5mm以上であって未充填乾燥状態における空隙率が10%以上である三次元構造体が容易に作製され得る。上記のセルロース繊維又は当該繊維の集合体が主原料として用いられることにより、1mm以上の厚さを有する上記の三次元構造体又は2mm以上の厚さを有する上記の三次元構造体も、比較的容易に作製され得る。また、上記のセルロース繊維又は当該繊維の集合体を用いて作製された三次元構造体は、微細化セルロース繊維を用いて作製された三次元構造体と比較して曲げ強度に優れることが推測される。
【0024】
加えて、セルロース繊維が水に難溶性又は不溶性であるのに対して、微細化セルロース繊維は水に溶解する。そのため、上記のセルロース繊維又は当該繊維の集合体を用いて作製された三次元構造体は、微細化セルロース繊維を用いて作製された三次元構造体と比較して耐水性に優れる。さらに、三次元構造体が、天然の植物又は藻類に由来する上記のセルロース繊維を用いて作製される場合、最終製品の審美性又は意匠性が向上する。
【0025】
三次元構造体に含まれるセルロース繊維又は当該繊維の集合体は、天然の植物又は藻類の組織に由来するセルロース繊維又は当該セルロール繊維の集合体であってもよい。例えば、三次元構造体が天然の植物又は藻類に由来する場合、三次元構造体は、上記のセルロース繊維又は当該繊維の集合体を有する。特に、三次元構造体が天然の維管束植物に由来する場合、三次元構造体は、上記のセルロース繊維の集合体を有する。
【0026】
例えば、維管束植物の維管束は、木部及び師部により構成される。木部の構成要素としては、道管、仮道管組織、木部繊維組織、木部柔組織、射出線、樹脂溝、細胞間溝などが例示される。師部の構成要素としては、師管、師細胞組織、師部繊維組織、師部柔組織などが例示される。上述された各種の組織は、上記のセルロース繊維を含む。
【0027】
(物性)
本実施形態において、三次元構造体は、生分解性を有してよい。三次元構造体は、例えば、土壌生分解性及び海洋生分解性の少なくとも一方を有する。
【0028】
特定の試料に関して、JIS K6955:2017に準拠して測定される土壌中での好気的生分解度が180日以下の期間内で60%以上である場合、当該試料は生分解性(土壌生分解性と称される場合がある。)を有すると判定され得る。土壌生分解性の判定基準として、より厳しい基準が採用されてもよい。例えば、上記の生分解度は、180日以下の期間内で70%以上であることが好ましく、180日以下の期間内で80%以上であることがさらに好ましい。上記の生分解度は、60日以下の期間内で60%以上であることが好ましく、60日以下の期間内で70%以上であることがさらに好ましい。例えば、60日後の生分解度が、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上であってよい。
【0029】
特定の試料に関して、ISO19679:2020に準拠して測定される海水/堆積物界面における生分解度が180日以下の期間内で60%以上である場合、当該試料は生分解性(海洋生分解性と称される場合がある。)を有すると判定され得る。海洋生分解性の判定基準として、より厳しい基準が採用されてもよい。例えば、上記の生分解度は、180日以下の期間内で70%以上であることが好ましく、180日以下の期間内で80%以上であることがさらに好ましい。上記の生分解度は、60日以下の期間内で60%以上であることが好ましく、60日以下の期間内で70%以上であることがさらに好ましい。えば、60日後の生分解度が、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上であってよい。
【0030】
上述されたとおり、三次元構造体は、セルロース(ヘミセルロースを含む。)又はその誘導体を主成分として含む。本実施形態において、セルロース(ヘミセルロースを含む。)又はその誘導体は上記の生分解性を有するように調整される。例えば、天然の植物又は藻類の組織に由来する三次元構造体を準備することで、土壌生分解性及び海洋生分解性の少なくとも一方を有するセルロース(ヘミセルロースを含む。)又はその誘導体を主成分とする三次元構造体が得られる。
【0031】
本実施形態において、三次元構造体は、水に難溶性又は不溶性の物質であってよい。上述されたとおり、三次元構造体は、セルロース繊維又は当該繊維の集合体を主成分として含む。三次元構造体は、例えば、水に難溶性のセルロース繊維又は当該繊維の集合体を主成分として含む。上記のセルロース繊維の水に対する溶解度は、例えば、0.01g/水1g未満である。上記のセルロース繊維の水に対する溶解度は、0.001g/水1g以下であってもよい。これにより、耐水性に優れた複合材料が得られる。
【0032】
<樹脂材料>
本実施形態において、樹脂材料は、三次元構造体の内部に配される。より具体的には、樹脂材料は、三次元構造体の空隙又は細孔の少なくとも一部の内部に配される。例えば、樹脂材料が当該空隙又は細孔の少なくとも一部に充填されることで、樹脂材料が当該空隙又は細孔の少なくとも一部に配される。
【0033】
複合材料の質量に対する樹脂材料の質量の割合は、10質量%以上90%質量以下であってよい。上記の割合は、20質量%以上90質量%以下であってもよく、30質量%以上90質量%以下であってもよい。上記の割合は、20質量%以上80質量%以下であってもよく、30質量%以上80質量%以下であってもよい。これにより、機械的強度及び生分解性に優れた複合材料が得られる。
【0034】
三次元構造体の空隙又は細孔の体積の合計に対する、複合材料に含まれる樹脂材料の体積の割合は、60%以上であってよく、80%以上であることが好ましい。上記の割合が大きくなるほど、複合材料の透明性も向上する。上記の割合は、実質的に100%であってよい。
【0035】
樹脂材料が充填されていない状態における三次元構造体の空隙又は細孔の体積は、例えば、試料のX線CT画像の画像解析により導出される。三次元構造体の空隙又は細孔の体積は、試料の3箇所の位置におけるX線CT画像から導出される3つの値を平均することで決定されてよい。複合材料に含まれる樹脂材料の体積は、例えば、三次元構造体の空隙率から想定される含浸可能体積から導出され得る。他の実施形態において、複合材料に含まれる樹脂材料の体積は、(i)樹脂が含浸又は充填された後の複合材料の質量と、樹脂材料が含浸又は充填される前の三次元構造体の質量との差から算出される樹脂材料の質量、及び、(ii)樹脂材料の密度に基づいて導出されてよい。
【0036】
本実施形態において、樹脂材料は、生分解性を有する。樹脂材料は、上述された土壌生分解性及び/又は海洋生分解性を有してよい。樹脂材料は、生分解性を有する高分子材料(生分解性高分子材料と称される場合がある。)を含む。
【0037】
樹脂材料の質量に対する、生分解性高分子材料の質量の割合は、50質量%以上であってよく、60質量%以上であってよく、70質量%以上であってよく、80質量%以上であってよく、90質量%以上であってよく、95質量%以上であってよく、98質量%以上であってよく、99質量%以上であってよい。樹脂材料は、実質的に生分解高分子材料からなってよい。樹脂材料が、生分解高分子材料と、生分解高分子材料及び/又は樹脂材料の製造工程において不可避的に生成又は混入する成分とからなる場合、当該樹脂材料は、実質的に生分解高分子材料からなると判定され得る。
【0038】
複合材料の質量に対する生分解性高分子材料の質量の割合が調整されることにより、複合材料の生分解性が調整され得る。例えば、樹脂材料の質量に対する生分解性高分子材料の質量の割合が調整されることにより、樹脂材料の生分解性が調整され得る。
【0039】
一実施形態において、樹脂材料は、JIS K6955:2017に準拠して測定される土壌中での好気的生分解度が180日以下の期間内で60%以上である材料であってよい。他の実施形態において、樹脂材料は、ISO19679:2020に準拠して測定される海水/堆積物界面における生分解度が180日以下の期間内で60%以上である材料であってよい。さらに他の実施形態において、樹脂材料は、JIS K6955:2017に準拠して測定される土壌中での好気的生分解度が180日以下の期間内で60%以上であり、且つ、ISO19679:2020に準拠して測定される海水/堆積物界面における生分解度が180日以下の期間内で60%以上である材料であってよい。なお、土壌生分解性及び/又は海洋生分解性の判定基準として、上述されたより厳しい基準が採用されてもよい。
【0040】
<生分解性高分子材料>
本実施形態において、生分解性高分子材料は、上述された土壌生分解性及び/又は海洋生分解性を有する。一実施形態において、生分解性高分子材料は、JIS K6955:2017に準拠して測定される土壌中での好気的生分解度が180日以下の期間内で60%以上である高分子化合物であってよい。他の実施形態において、生分解性高分子材料は、ISO19679:2020に準拠して測定される海水/堆積物界面における生分解度が180日以下の期間内で60%以上である高分子化合物であってよい。さらに他の実施形態において、生分解性高分子材料は、JIS K6955:2017に準拠して測定される土壌中での好気的生分解度が180日以下の期間内で60%以上であり、且つ、ISO19679:2020に準拠して測定される海水/堆積物界面における生分解度が180日以下の期間内で60%以上である高分子化合物であってよい。なお、土壌生分解性及び/又は海洋生分解性の判定基準として、上述されたより厳しい基準が採用されてもよい。
【0041】
本実施形態において、生分解性高分子材料は、非結晶性の高分子材料であってよい。生分解性高分子材料は、25℃において非結晶性の材料であってよい。
【0042】
本実施形態において、生分解性高分子材料は、三次元構造体の主成分であるセルロース又は誘導体の屈折率と同程度の屈折率を有してよい。生分解性高分子材料は、例えば、25℃において、三次元構造体の主成分であるセルロース又は誘導体の屈折率と同程度の屈折率を有してよい。屈折率は、例えば、JIS K 7142に準拠して測定される。屈折率は、例えば、測定試料薄膜をアッベ屈折系またはこれと同等な性能を持つ屈折計を用いて測定され得る。
【0043】
これにより、複合材料の透明性が向上する。例えば、厚みが1mm以上2mm以下の場合における波長600nm以上700nm以下での光透過率の最大値が50%以上である複合材料が得られる。上記の光透過率の最大値は、60%以上であることが好ましく、70%以上であることがさらに好ましく、80%以上であることが特に好ましい。
【0044】
複合材料は、可視光に対して透明であってよい。例えば、特定の複合材料について、上記の光透過率の最大値が60%以上であるとき、当該複合材料が透明であると判定され得る。
【0045】
例えば、生分解性高分子材料の屈折率と、上記のセルロース又はその誘導体の屈折率との差の絶対値は、0.25以下である。上記の絶対値は0.2以下であってもよい。例えば、三次元構造体は、主に、セルロース、ヘミセルロース及びリグニンにより構成される。セルロースの屈折率は約1.54であり、ヘミセルロースの屈折率は約1.53であり、リグニンの屈折率は約1.61である。そこで、透明性に優れた複合材料を作製する場合、1.3以上1.7以下の屈折率を有する生分解性高分子材料が用いられ得る。
【0046】
本実施形態において、生分解性高分子材料は上述された土壌生分解性及び/又は海洋生分解性を有する化合物であればよく、生分解性高分子材料の種類は特に限定されない。生分解性高分子材料は、上述されたセルロース繊維とは異なる材料であってよい。
【0047】
本実施形態に係る生分解性高分子材料として用いられる化合物としては、多糖類、タンパク質、ペプチド、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリグリコール酸、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)、特定のポリエステルなどが例示される。生分解性高分子材料として、単一の種類の高分子化合物が用いられてもよく、2以上の種類の高分子化合物が用いられてもよい。
【0048】
多糖類としては、プルラン、セルロース(セルロースナノファイバーの形態を含む)、変性セルロース、タマリンドシードガム、アラビアガム、ペクチン、カラギナン、アルギン酸、ヒアルロン酸、キトサン、キチン、でんぷん、変性でんぷんなどが例示される。変性セルロースとしては、酢酸セルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどが例示される。変性でんぷんとしては、でんぷんポリエステル、化学修飾でんぷんなどが例示される。
【0049】
タンパク質としては、コラーゲン、ケラチン、シルク、ゼラチン、ニカワ、ガゼイン、アラビアガムなどが例示される。なお、アラビアガムは、親水性の多糖類構造部分と、疎水性のタンパク質構造部分とを含む化合物である。
【0050】
上記の特定のポリエステルは、脂肪族ポリエステルであってよい。脂肪族ポリエステルとしては、ポリ乳酸(PLA)、ポリエチレンアジペート(PEA)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネート/アジペート(PBSA)、ポリブチレンサクシネートアジペートテレフタレート(PBSAT)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリブチレンサクシネート/カーボネイト(PEC)、ポリエチレンサクシネート(PES)、ポリエチレンサクシネート/アジペート、ポリ乳酸/ポリカプロラクトン共重合体、ポリ乳酸/ポリエーテル共重合体が例示される。
【0051】
上記の特定のポリエステルは、芳香族ポリエステルであってよい。芳香族ポリエステルとしては、ポリブチレンアジペート/テレフタレート(PBAT)、ポリテトラメチレンアジペート/テレフタレート、ポリエチレンテレフタレート/サクシネート(CPE)などが例示される。
【0052】
ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)としては、ポリ-3-ヒドロキシ酪酸(PHB)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート/3-ヒドロキシバレレート)(PHBV)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート/3-ヒドロキシヘキサノエート)(PHBH)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート/4-ヒドロキシブチレート)などが例示される。
【0053】
一般的に、多糖類、ペプチド及びタンパク質は、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリグリコール酸、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)及びポリエステルと比較して、生分解性に優れる。そのため、複合材料の生分解性を考慮すると、生分解性高分子材料として、多糖類、ペプチド及び/又はタンパク質が用いられることが好ましい。
【0054】
特に、生分解性高分子材料として、プルラン、アラビアガム、タマリンドシードガム及び/又はイヌリンが用いられた場合には、当該生分解性高分子材料及び溶媒を混合することで、粘度の小さな溶液が得られる。溶媒が水である場合、例えば、1mPa・s以上100,000mPa・s以下の水溶液が得られる。上記の水溶液の粘度は、1mPa・s以上1,000mPa・s以下であることが好ましい。生体性高分子材料の水溶液の粘度が小さいほど、三次元構造体の内部の空隙の体積に対する生分解性高分子材料の体積の割合(充填率と称される場合がある。)が、容易に調整され得る。これにより、生分解性高分子材料が三次元構造体の内部の空隙に容易に充填され得る。三次元構造体の空隙率が小さいほど光の散乱が抑制されるので、三次元構造体の内部への生分解性高分子材料の充填工程が容易になるほど、複合材料の透明性が容易に調整され得る。
【0055】
[複合材料の製造方法]
本実施形態によれば、複合材料は、例えば下記の手順に従って製造される。本実施形態によれば、まず、三次元構造体が準備される。上記の三次元構造体は、例えば、セルロース(ヘミセルロースを含む。)又はその誘導体を主成分として含む。また、上記の三次元構造体は、管状構造、網目状構造又は多孔質構造を有する。次に、上記の三次元構造体の空隙又は細孔の少なくとも一部の内部に、樹脂材料が配置される。例えば、上記の三次元構造体の空隙又は細孔の少なくとも一部の内部に、樹脂材料が充填される。上記の樹脂材料は、例えば、(a)JIS K6955:2017に準拠して測定される土壌中での好気的生分解度、及び/又は、(b)ISO19679:2020に準拠して測定される海水/堆積物界面における生分解度が180日以下の期間内で60%以上である材料(上述されたとおり、生分解性高分子材料と称される場合がある。)を含む。これにより、上述された複合材料が得られる。
【0056】
[高分子充填木材]
次に、木材に由来する三次元構造体が用いられる場合を例として、複合材料の詳細が説明される。なお、複合材料は下記に示される高分子充填木材に限定されるものではない。
【0057】
本発明の一実施形態は、木材に高分子が充填されてなる、高分子含有木材であってよい。別言すると、木材が内部に高分子を含む、若しくは木材の組織中の空隙に高分子が含まれる材料である。より具体的には、本実施形態による高分子充填木材は、天然高分子及び/又は生分解性高分子を含む高分子が充填されてなる材料である。木材に高分子が充填されることによって、木材の元来の特性に追加的な特性・機能が付与され、新しい素材を得ることができる。さらに、上述のように、本実施形態では、天然素材である木材に天然高分子及び/又は生分解性高分子を組み合わせているので、カーボンニュートラル、製造時のエネルギー削減、廃棄時の環境負担低減等に寄与でき、持続可能な開発目標の達成にも貢献できる。
【0058】
高分子充填木材及び高分子含有木材は、上述された複合材料の一例であってよい。木材及び後述される漂白済み木材は、上述された三次元構造体の一例であってよい。木材又は漂白済み木材の組織中の空隙は、上述された三次元構造体の空隙又は細孔の一例であってよい。木材及び漂白済み木材の維管束又は当該維管束の各部は、上述された三次元構造体の空隙又は細孔の一例であってよい。
【0059】
上記の木材又は漂白済みの木材は、例えば、維管束植物に由来する。維管束植物の維管束は、木部及び師部により構成される。木部の構成要素としては、道管、仮道管組織、木部繊維組織、木部柔組織、射出線、樹脂溝、細胞間溝などが例示される。師部の構成要素としては、師管、師細胞組織、師部繊維組織、師部柔組織などが例示される。これらの組織の細胞壁は、主として、多糖であるセルロース及びヘミセルロースと、芳香族分子であるリグニンとにより構成される。そのため、木材及び漂白済みの木材は、上述されたセルロース繊維及びリグニンからなる三次元構造(つまり、セルロース繊維又は当該繊維の集合体を主成分とする三次元構造である。)を有する。なお、上述されたとおり、三次元構造体は、蘚苔類(非維管束植物、コケ植物などと称される場合がある。)若しくは藻類の組織に由来するセルロース繊維又は当該セルロール繊維の集合体であってもよい。
【0060】
天然高分子は、上述された複合材料に係る樹脂材料及び/又は生分解性高分子材料の一例であってよい。生分解性高分子は、上述された複合材料に係る樹脂材料及び/又は生分解性高分子材料の一例であってよい。
【0061】
<高分子>
(天然高分子)
本実施形態において、天然高分子(非石油由来高分子若しくは自然由来高分子と呼ぶ場合がある)は、天然由来成分(天然に産出される成分)を含む高分子を意味し、天然由来成分を含む成分から合成された高分子であってもよいし、それ自体が天然由来であるもの(天然に産出されるもの)であってもよい。但し、それ自体が天然由来である高分子を用いることで、合成若しくは加工(例えば重合反応)のために必要なエネルギーを削減することができるので好ましい。
【0062】
一実施形態によれば、高分子含有木材の製造過程を検証することで、上記の高分子が天然由来であるか否かが判定され得る。他の実施形態よれば、ASTMD6866-10に準拠して測定されるpMCの値に基づいて、上記の高分子が天然由来であるか否かが判定され得る。
【0063】
天然高分子は、ASTMD6866-10に準拠して測定されるpMC(percent Modern Carbon)が10.8%以上の高分子であってよい。天然高分子は、上記のpMCが20%以上の高分子であってもよく、上記のpMCが30%以上の高分子であってもよく、上記のpMCが40%以上の高分子であってもよく、上記のpMCが50%以上の高分子であってもよく、上記のpMCが60%以上の高分子であってもよく、上記のpMCが70%以上の高分子であってもよい。天然高分子は、好ましくは上記のpMCが80%以上の高分子であり、さらに好ましくは上記のpMCが90%以上の高分子であり、特に好ましくは、上記のpMCが100%以上の高分子である。
【0064】
上述されたとおり、本実施形態に係る高分子含有木材は、木材(漂白済みの木材を含む。)に高分子が充填されてなる。木材は天然資源であることから、ASTMD6866-10に準拠して測定される高分子含有木材のpMCも10.8%以上であってよい。高分子含有木材のpMCは、20%以上であってもよく、30%以上であってもよく、40%以上であってもよく、50%以上であってもよく、60%以上であってもよく、70%以上であってもよい。高分子含有木材のpMCは、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがさらに好ましく、100%以上であることが特に好ましい。
【0065】
(生分解性高分子)
本実施形態において、生分解性高分子とは、自然環境において微生物若しくは酵素の働きによって分解可能な高分子である。なお、本実施形態における高分子は、製造時及び廃棄時の両方において自然環境への負担を軽減できるという観点から、天然由来であり且つ生分解性の高分子を含むことが好ましい。
【0066】
本実施形態において、生分解性高分子は、上述された土壌生分解性及び/又は海洋生分解性を有する。一実施形態において、生分解性高分子は、JIS K6955:2017に準拠して測定される土壌中での好気的生分解度が180日以下の期間内で60%以上である高分子化合物であってよい。他の実施形態において、生分解性高分子は、ISO19679:2020に準拠して測定される海水/堆積物界面における生分解度が180日以下の期間内で60%以上である高分子化合物であってよい。さらに他の実施形態において、生分解性高分子は、JIS K6955:2017に準拠して測定される土壌中での好気的生分解度が180日以下の期間内で60%以上であり、且つ、ISO19679:2020に準拠して測定される海水/堆積物界面における生分解度が180日以下の期間内で60%以上である高分子化合物であってよい。なお、土壌生分解性及び/又は海洋生分解性の判定基準として、上述されたより厳しい基準が採用されてもよい。
【0067】
さらに、本実施形態による高分子充填木材に充填されている高分子中の、天然高分子及び/又は生分解性高分子の割合は、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、98質量%以上、又は99質量%以上であってよい。また、製造時且つ/又は廃棄時の自然環境への負担軽減を一層促進できることから、高分子は、天然高分子及び/又は生分解性高分子から実質的になることが好ましい。本明細書において、「所定成分から実質的になる」若しくは「実質的に100%所定成分である」とは、所定成分以外の、製造時に不可避的に生成又は混入する成分の含有が許容されることを意味する。なお、天然高分子から実質的になる高分子を、天然素である木材に組み合わせることで、得られる高分子充填材料を、実質的に非石油由来100%の材料、若しくは非石油由来100%の材料とすることも可能となる。
【0068】
さらに、高分子充填木材に充填されている高分子中の、天然由来であり且つ生分解性の高分子の割合は、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、98質量%以上、又は99質量%以上であってよい。また、高分子が、天然由来であり且つ生分解性の高分子から実質的になることが好ましい。
【0069】
本実施形態における高分子は、溶液にした状態で又はそれ自体を流動状態に変化(変態)させることで、木材の空隙内に充填できるものであればよいが、木材の空隙内に良好に保持されるよう成膜性を有するものが好ましい。高分子の好ましい具体例としては、多糖類、タンパク質、ポリエステル等が挙げられ、このうち、溶媒へ容易に溶解するため溶液の形態で木材へ充填可能であることから、多糖類が好ましい。
【0070】
多糖類は、植物由来、海藻由来、微生物由来のいずれの多糖類であってもよく、これらのうち植物由来の多糖類、中でもグルコース多糖類が好ましい。多糖類の具体例としては、プルラン、セルロース(セルロースナノファイバーの形態を含む)、酢酸セルロース、タマリンドシードガム、アラビアガム、ペクチン、カラギナン、ヒアルロン酸、キトサン、キチン、でんぷん、変性でんぷんなどが例示される。変性でんぷんとしては、でんぷんポリエステル、化学修飾でんぷんなどが例示される。酢酸セルロースは、変性セルロースの一例であってよい。
【0071】
タンパク質の具体例としては、コラーゲン、ケラチン、シルク、アラビアガム等が挙げられる。アラビアガムは、親水性の多糖類構造部分と、疎水性のタンパク質構造部分とを含む。ポリエステルの例としては、ポリ乳酸、ポリヒドロキシ酪酸等が挙げられる。具体例として挙げた上記高分子は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0072】
上述された化合物のうち、プルラン、アラビアガム、タマリンドシードガム及びイヌリンの1以上が用いられることが好ましく、プルラン及び/又はアラビアガムが用いられることがより好ましい。これらの化合物は、天然由来の生分解性の高分子であり、得られる高分子充填木材の透明性(後述)を向上できること、水への溶解性が高いこと、粘度が高くなり過ぎないこと、結晶性が低いこと等の利点があることから、好ましい。
【0073】
本実施形態による高分子充填木材は、充填する高分子の種類及び/又は空隙率を適宜選択することによってその透明性を調整できる。すなわち、高分子充填木材は、透明若しくは半透明の木材として構成することもできるし、不透明の木材として構成することもできる。ここで、高分子充填木材を、透明木材若しくは半透明木材として構成する場合、特に透明木材として構成する場合には、元来の木材とは異なる光透過特性、熱透過特性、審美性等を備えた材料を得ることができるので、様々な用途に利用され得る。
【0074】
本実施形態による高分子充填木材を透明木材若しくは半透明木材として構成する場合には、常温(15~25℃)で透明若しくは半透明である、又は透明材料若しくは半透明材料を構成可能な高分子を用いることが好ましい。さらに、本実施形態による高分子充填木材を透明木材として構成する場合には、用いられる高分子は、常温(15~25℃)で透明である若しくは透明材料を構成可能な高分子であると好ましい。
【0075】
なお、本明細書において、「透明」とは、可視光線の光透過率が60%以上であることを指す。また、「透明若しくは半透明」とは、可視光線の光透過率が30%以上であることを指す。一実施形態において、上記光透過率は、例えば、吸光度計によって測定した波長600nmでの数値とすることができる。他の実施形態において、例えば、高分子充填木材の試料の厚みが1mm以上2mm以下である場合において、波長が600nm以上700nm以下の範囲における光透過率の最大値が60%以上であるとき、当該高分子充填木材は透明であると判定され得る。
【0076】
高分子充填木材を透明木材として構成する場合に用いられる高分子は、結晶領域がなく屈折率の不均一構造のない、非結晶性高分子であると好ましい。なお、透明性を向上させる観点からは、高分子の屈折率は1.3以上1.7以下であると好ましい。
【0077】
また、本実施形態による高分子充填木材に含まれる高分子の分子量は特に限定されないが、プルランを用いる場合には、数平均分子量5,000以上800,000以下、好ましくは50,000以上200,000以下のものであってよい。また、高分子は、常温(15~25℃)で固体又は半固体の状態であるものが好ましい。
【0078】
高分子充填木材中の高分子の含有量は、高分子充填木材の用途、目的に応じて決定することができるが、高分子充填木材中の高分子の含有量が大きいほど、高分子によって付与できる機能を向上できる。例えば、木材の透明性を向上させたい場合には、透明性の向上に寄与する高分子を木材により多く充填する。なお、高分子充填木材中の高分子の含有量、すなわち高分子充填木材の全体の質量に対する充填高分子の質量は、好ましくは10質量%以上90質量%以下、より好ましくは20質量%以上80質量%以下であってよい。また、木材の空隙の体積の合計に対する、当該木材に含まれる高分子の体積を高分子充填率(%)とした場合、高分子充填率は、好ましくは60%以上、より好ましくは80%以上であってよい。また、高分子充填木材の用途、目的、木材の種類、高分子の種類等にもよるが、例えば高分子充填木材を透明木材として構成する場合には、高分子充填率100%(飽和充填)であるとと好ましい。
【0079】
上述の高分子には、高分子以外の成分として、防腐剤、安定化剤、pH調整剤、可塑性、硬化剤、色材等の添加剤が添加されててもよい。
【0080】
<木材>
本実施形態において使用される木材は特に限定されないが、密度(高分子充填前の密度)が比較的小さいものが好ましい。木材の密度(高分子充填前の密度)は、好ましくは0.1kg/m以上1.3kg/m以下、より好ましくは0.1kg/m以上0.5kg/m以下であってよい。0.1kg/m以上の密度を有する木材を用いることで、得られる木材の強度を確保できる。また、1.3kg/m以下の密度を有する木材を用いることで、得られる高分子充填木材を軽量にでき、また充填される高分子の量を増やすことができる。透明木材を得ようとするために透明性の高い高分子を使用する場合には、充填される高分子の量が大きい方が、透明性の高い(光透過率の高い)高分子充填木材を得ることができるので好ましい。
【0081】
木材の具体例としては、バルサ、キリ、スギ、米スギ、木曾ヒノキ、カバ、マツ、トネリコ、オーク、バーチ、ポプラ、バスウッド、ビーチ等が挙げられる。これらのうち、密度が比較的低いことから、バルサ及びキリが好ましく、バルサが特に好ましい。
【0082】
木材は、木目等があるため独特な自然の風合いがあるので、その風合いを最終製品(高分子充填木材)にも反映させることで、最終製品の審美性又は意匠性を高めることができる。また、木材を利用することで、軽量で堅牢、低熱伝導率等の木材の元来の性質を最終製品に反映させることができる。
【0083】
<高分子充填木材のその他の特性>
本実施形態による高分子充填木材の形状は、板状、直方体状、柱状、その他の形状であってよいが、多くの用途に利用できることから板状のものが好ましい。高分子充填木材が板状である場合、その厚みは、好ましくは0.1mm以上10mm以下、より好ましくは0.5mm以上5mm以下のものを使用できる。これにより、例えば、高分子の充填時間が短縮され得る。また、板状の高分子充填木材の平面視のサイズは、好ましくは10mm以上1,000mm以下、より好ましくは30mm以上300mm以下を一辺とする正方形、又はそれに相当する平面視面積を有するものであってよい。なお、製造方法にもよるが、高分子充填木材の体積は原料木材の体積に比して小さくなっている。
【0084】
本実施形態においては、板状の高分子充填木材が10mm以下の厚さを有し、略正方形の形状を有する場合を例として、高分子充填木材の平面形状及び寸法の一例が説明された。しかしながら、高分子充填木材の平面形状及び寸法は特に限定されるものではない。高分子充填木材の厚さは10mm超であってもよく、20mm以上であってもよく、30mm以上であってもよい。高分子充填木材の平面形状は、矩形であってもよく、多角形であってもよく、円形であってもよく、楕円形であってもよく、任意の直線及び/又は曲線の組み合わせであってもよい。
【0085】
上述のように、高分子充填木材は透明木材として構成することができる。その場合、高分子充填木材の波長600nmでの光透過率は50%以上であってよく、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上であってよい。なお、高分子充填木材の可視光線透過率は、例えば分光光度計により測定できる。高分子充填木材の可視光線透過率は、例えば、厚さが10mm以下の試料を用いて測定される。
【0086】
高分子充填木材の試料の厚みが1mm以上2mm以下である場合において、波長が600nm以上700nm以下の範囲における光透過率の最大値は50%以上であってよい。上記の光透過率の最大値は、60%以上であることが好ましく、70%以上であることがさらに好ましく、80%以上であることが特に好ましい。例えば、特定の高分子充填木材について、上記の光透過率の最大値が60%以上であるとき、当該高分子充填木材が透明であると判定され得る。
【0087】
波長が600nm以上700nm以下の範囲における光透過率の最大値に基づいて高分子充填木材が透明であるか否かを判定することにより、作製された高分子充填木材が透明であるか否かがより正確に判定され得る。より具体的には、無色透明な材料は、可視光線のほぼ全域の光が透過する。一方、有色透明な材料は、可視光線の一部の光が透過し、残りの光は透過しない。そのため、高分子充填木材が実質的に透明とみなされる場合であっても、例えば、木材(漂白済みの木材を含む。)の空隙に充填された高分子に含まれる不純物の影響により、特定の波長を有する光の透過率が抑制されることがあり得る。高分子充填木材が実質的に透明とみなされる場合としては、高分子充填木材の少なくとも一部が有色透明である場合が例示される。例えば、漂白済みの木材にアラビアガムが充填されてなる高分子充填木材は、赤色透明である。このような場合であっても、波長が600nm以上700nm以下の範囲における光透過率の最大値に基づいて高分子充填木材が透明であるか否かを判定することにより、実態に即した判定が可能になる。
【0088】
本実施形態による高分子充填木材は、建材、家具、容器、装飾品、日用雑貨、看板、置物、芸術品等に使用できる。
【0089】
<高分子充填木材の製造方法>
本発明の一実施形態は、上述の高分子充填木材の製造方法であって、木材を漂白して、漂白済み木材を得て、前記漂白済み木材に、高分子の溶液又は流動状態の高分子を充填することを含む、製造方法であってよい。より具体的には、本実施形態による高分子充填木材の製造方法は、(a)原料木材を漂白して漂白済み木材を得る、漂白ステップ、(b)漂白済み木材を洗浄する、洗浄ステップ、(c)洗浄後の漂白済み木材に、高分子の溶液又は流動状態の高分子を充填する、充填ステップ、並びに、(d)乾燥させる若しくは高分子を固体に変態させる、仕上げステップを含んでいてよい。以下、各ステップについてそれぞれ説明する。
【0090】
<(a)漂白ステップ>
(a)漂白ステップは、原料木材を漂白(白色化)若しくは無色化するステップである。木材は元来、茶系の色を有しているが、その色は木材中に含まれるリグニンに起因する。そのため、(a)漂白ステップにおいて、木材中に含まれるリグニンを除去、分解、又は変性(発色官能基を化学変化させることを含む)させてリグニンの色を失わせることで、白色若しくは無色の木材(漂白済み木材)を得ることができる。(a)漂白ステップは、より具体的には、原料木材を漂白処理液に浸漬させるか又は塗布することによって、行うことができる。
【0091】
本実施形態で用いられる原料木材の種類は上述の通りである。また、原料木材の形状は、最終製品の形状と同様、板状、直方体状、柱状、その他の形状であってよい。このうち、各ステップにおける処理がし易く且つ最終製品の用途多いことから、板状のものが好ましい。
【0092】
原料木材が板状である場合、その厚みは、好ましくは0.1mm以上10mm以下、より好ましくは0.5mm以上5mm以下のものを使用できる。また、板状の原料木材の平面視のサイズは、好ましくは10mm以上1,000mm以下、より好ましくは30mm以上300mm以下を一辺とする正方形、又はそれに相当する平面視面積を有するものであってよい。
【0093】
本実施形態においては、板状の高分子充填木材が10mm以下の厚さを有し、略正方形の形状を有する場合を例として、高分子充填木材の平面形状及び寸法の一例が説明された。しかしながら、高分子充填木材の平面形状及び寸法は特に限定されるものではない。高分子充填木材の厚さは10mm超であってもよく、20mm以上であってもよく、30mm以上であってもよい。高分子充填木材の平面形状は、矩形であってもよく、多角形であってもよく、円形であってもよく、楕円形であってもよく、任意の直線及び/又は曲線の組み合わせであってもよい。
【0094】
(a)漂白ステップにおいて用いられる漂白処理液は、その主たる機能が、リグニンの除去(脱リグニン)ではなく、リグニンの漂白であることが好ましい。リグニンの漂白は、リグニン化学変化させて、具体的にはリグニンに含まれる発色官能基(リグニンの色を生ぜしめている官能基)を化学変化させることによって行うことができる。これにより、(a)漂白ステップ後も、漂白済み木材に、リグニン若しくはリグニンの骨格が残されるので、得られる高分子充填木材の強度を向上させることができ、また残されたリグニン若しくはリグニン骨格によって、漂白済み木材、及び最終製品である高分子充填木材の外観の審美性若しくは意匠性を高めることもできる。
【0095】
漂白処理液は、例えば過酸化物を含有すると好ましい。漂白成分として過酸化物を用いることで、上述のようなリグニンの漂白が可能となるので、リグニンの元来の色を除去しつつ、漂白済み木材中にリグニン若しくはリグニンの骨格を残すことができる。また、過酸化物を用いることで、次亜塩素酸のような塩素系の漂白成分の使用を回避できるので、製造作業時の安全性の確保、及び処理液廃棄時の環境への負担軽減、並びに最終製品の安全性の向上を図ることができる。
【0096】
過酸化物の例としては、過酸化水素、過炭酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム、過酢酸、過酸化ナトリウムが挙げられる。これらは、化合物によっては塩の形態であってもよい。また、上記例示された過酸化物は、単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。上記例示のうち、化合物自体の安全性が高く、漂白の化学反応による副生成物が水分子であって反応後においても安全性が高いこと、安価であること等から、過酸化水素又はその塩が好ましい。
【0097】
漂白処理液中の過酸化物の含有量は、漂白処理液全量に対して、好ましくは1質量%以上30質量%以下、より好ましくは3質量%以上15質量%以下であってよい。過酸化物の含有量が上記範囲にあることで、適切な漂白作用が得られるとともに、作業時の安全性の確保も図ることができる。漂白処理液は、過酸化物を良好に溶解できること、取り扱いが容易となることから、水溶液とする(溶媒として主として水を用いる)ことが好ましい。
【0098】
漂白処理液は、塩基性に調整されていると好ましい。そのために、漂白処理液は、金属の水酸化物、硫酸化合物、ケイ酸化合物等の塩基を含有していてよい。例えば、漂白処理液は、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物を含有していてよい。
【0099】
さらに、漂白処理液は、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA、2-プロパノール)、1-プロパノール等の水溶性の低級アルコールを溶媒として含有することが好ましい。これにより、漂白処理液の表面張力を低下させて漂白処理液を木材内部に良好に浸透させることができ、漂白作用を向上できる。また、上記溶媒は漂白中に発生する泡の消泡作用もあるため、効率的に漂白を行うことができる。上記低級アルコールのうち、水への高い溶解性及び表面張力の低下効果が得られるという点で、イソプロピルアルコールを含有していることが好ましい。また、洗浄力が高い、安全性が高い等という点では、エタノールも好ましい。さらに、天然由来の溶媒(天然由来イソプロピルアルコール、天然由来エタノール等)を使用した場合、石油由来の溶媒の使用を回避できるので、持続可能な開発目標の観点等から好ましく、十分な供給量があるという点では天然由来エタノールが好ましい。
【0100】
なお、漂白処理液は、(a)漂白ステップにおける漂白作用を妨げない範囲で、上記成分の他に、安定剤、キレート剤等の成分を含有していてよい。
【0101】
(a)漂白ステップは、加熱下で行うことができる。その場合、漂白処理液を昇温させて使用することができる。その場合、漂白処理液の温度は、好ましくは50℃以上100℃以下、より好ましくは60℃以上80℃以下とすることができる。上記範囲の温度とすることで、材料にダメージを与えることなく、漂白のための反応を迅速に進めることができる。
【0102】
なお、原料木材を漂白処理液へ浸漬させる場合、その浸漬時間は、おおよそ1時間以上24時間以下であってよい。
【0103】
<(b)洗浄ステップ>
上述の(a)漂白ステップ後には、任意に、(b)洗浄ステップを行うことができる。(b)洗浄ステップでは、(a)漂白ステップ後に漂白済み木材内部表面に付着している漂白処理液を除去することができる。また、漂白済み木材内部表面(木材の空隙を形成する壁部の表面)付着している漂白処理液を別の溶媒で置換し、これにより、当該内部表面に対して、後続の(c)充填ステップで用いられる高分子の溶液又は流動状態の高分子が付着しやすくすることができる。
【0104】
(b)洗浄ステップで用いられる洗浄液としては、水、及び有機溶媒の1以上を使用することができる。有機溶媒を使用する場合、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA、2-プロパノール)、1-プロパノール等の低級アルコールを用いると好ましい。十分な漂白処理液の除去ができることから、洗浄液は、水と低級アルコールとの混合物であると好ましく、水とイソプロピルアルコールとの混合物であるとより好ましい。洗浄液が水を含有することで、前に行われた(a)漂白ステップで使用された漂白処理液(水溶液)に対する親和性が高くなるので漂白処理液の洗浄除去が容易になる。また、洗浄液がイソプロピルアルコールを含有することで、洗浄液の表面張力を下げ、洗浄液を木材内部に行きわたらせることができる。また、洗浄液に含有させるイソプロピルアルコールとして、天然由来のイソプロピルアルコールを使用した場合には、石油由来の溶媒の使用を回避できるので、持続可能な開発目標の観点等から好ましい。
【0105】
なお、洗浄液として、水と、イソプロピルアルコール等の有機溶媒との混合液を使用する場合、有機溶媒の割合は、洗浄液全量に対して、好ましくは20質量%以上80質量%以下、より好ましくは40質量%以上60質量%以下であってよい。
【0106】
(b)洗浄ステップでは、漂白済み木材を、洗浄液に浸漬させて放置してもよいし、洗浄液に浸漬させた後に、一定時間にわたり洗浄液を漂白済み木材に対して流動させてもよい。洗浄液を流動させる場合、槽内に入れた洗浄液を、撹拌機等を用いて撹拌してもよい。また、槽を揺動させたり、外部から超音波等のエネルギーを付与したりすることによって、洗浄液を流動させてもよい。本実施形態では、超音波を利用する場合には、例えば、周波数28kHz以上120kHz、出力100W以上600W以下程度の超音波を照射することができる。超音波の利用によって、洗浄時間を短縮することができ、洗浄効率を上げることができる。
【0107】
(b)洗浄ステップは、1回のみであってもよいし、洗浄液を交換して複数回繰り返してもよい。なお、上述のように超音波を利用する等して、洗浄液を流動させた場合には洗浄効率を上げることができるので、1回の(b)洗浄ステップのみで、十分な洗浄効果を得ることができる。
【0108】
<(c)充填ステップ>
(b)洗浄ステップ後には、最後に使用された洗浄液が充填された状態で、(c)充填ステップに進むことができる。(c)充填ステップでは、漂白済み木材に、より詳細には、漂白済み木材内の空隙に高分子を充填させる。また、(c)充填ステップにおいて充填される高分子は、溶液の状態又は流動状態で用いる。このような高分子の溶液又は流動状態の高分子を、漂白済み木材に含侵させる。これにより、高分子の木材内への充填を迅速に行うことが可能になる。
【0109】
(c)充填ステップにおいて、充填される高分子は、上述の通りであり、天然高分子及び/又は生分解性高分子を含む高分子を含んでいてよく、天然由来であり且つ生分解性の高分子を含むことが好ましい。これにより、カーボンニュートラル、製造時のエネルギー削減、廃棄時の環境負担低減等に寄与でき、持続可能な開発目標の達成にも貢献できる。
【0110】
高分子の溶液を用いる場合、高分子を溶解又は分散させる溶媒として、水、及び有機溶媒の1以上を使用できる。用いられる溶媒は、高分子の種類によって適宜選択することができる。溶媒に有機溶媒を使用する場合、その例としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA、2-プロパノール)、1-プロパノール等の低級アルコール;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン;酢酸ブチル、酢酸エチル、グリコールエステル等のエステル;n-ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族又は脂環式炭化水素;ジエチルエーテル、グリコールエーテル等のエーテル等が挙げられる。これらの有機溶剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0111】
高分子として、例えばプルラン等を用いた場合には、高分子溶液を調製するための溶媒には水を用いることが好ましい。また、高分子として酢酸セルロースを用いた場合には、溶媒には、アセトン等のケトン、エタノール等のアルコール等を用いることが好ましい。
【0112】
高分子の溶液又は流動状態の高分子には、その機能を妨げない範囲で、防腐剤、安定化剤、pH調整剤、可塑剤、硬化剤、色材等の添加剤が添加されててもよい。
【0113】
高分子の溶液を用いる場合、溶液全量に対する高分子の含有量(高分子の濃度)は、最終製品(高分子充填木材)の用途等に応じて適宜決定することができるが、好ましくは0.05質量%以上50質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上40質量%以下、さらに好ましくは1質量%以上30質量%以下であってよい。高分子濃度が0.05質量%以上であることで、十分な量の高分子が木材にされた最終製品が得られ、高分子濃度が50質量%以下であることで、溶液の表面張力を小さくして高分子を木材の内部に浸透させ易くなる。なお、高分子充填木材を透明木材として製造したい場合には、、高分子充填木材の透明性の向上という観点から、高分子濃度を0.5質量%以上50質量%以下とすることが好ましい。
【0114】
一方、流動状態の高分子を用いる場合(すなわち溶媒等を使用せずに高分子を単独で使用する場合)、高分子の種類に応じた手法で流動状態の高分子を準備することができる。常温で流動状態を有する高分子であれば、当該高分子をそのまま(c)充填ステップにて使用できる。常温で流動状態を有さない高分子の場合には、例えば、先立って高分子を加熱して高分子を流動状態にしておくこともができるし、2種以上の高分子をブレンドすることによって流動状態の高分子が得られるのであれば、高分子ブレンドを調製しておくこともできる。
【0115】
なお、高分子溶液を使用するか流動化高分子を使用するかに関わらず、(c)充填ステップは、加圧下又は減圧下で行ってもよい。
【0116】
本実施形態においては、上述のように、漂白済み木材に高分子を充填するものであり、例えばモノマーを充填した後にそのモノマーを重合反応させてポリマー(高分子)を得る従来の方法とは異なっている。よって、本実施形態によれば、従来必要であった重合反応のためのエネルギーが不要になり、ひいては高分子充填木材全体の製造にかかるエネルギーが削減され、二酸化炭素排出量の低減に貢献できる。
【0117】
<(d)仕上げステップ>
(c)充填ステップにて、漂白済み木材に高分子溶液又は流動化高分子を充填させた後、(d)仕上げステップを行い、最終製品である高分子充填木材を得る。(c)充填ステップにて高分子溶液を用いた場合には、高分子溶液を乾燥させる、すなわち高分子溶液に含まれていた溶媒を揮発させて除去することができる。また、(c)充填ステップにて流動状態の高分子(流動化高分子)を使用した場合には、高分子を固体に変態させることができる。その場合、(c)充填ステップで得られた高分子充填直後の木材を冷却することもできる。また、(d)仕上げステップでは、(d)仕上げステップに至るまでに木材に侵入又は付着した揮発性成分を除去することもできる。
【0118】
(d)仕上げステップで行う乾燥は、自然乾燥によるものでもよいし、乾燥装置を用いて行ってもよい。但し、自然乾燥を利用する、すなわち電力等のエネルギーを使用せずに(d)乾燥ステップ行うことで、エネルギー消費量を低減でき、持続可能な開発目標の観点等から好ましい。乾燥装置を用いる場合、乾燥条件は、送風又は無風のいずれであってもよいし、加熱又は非加熱のいずれであってもよい。
【0119】
なお、本発明の一実施形態は、上述の高分子充填木材の製造方法により製造された高分子充填木材であってよい。すなわち、木材を漂白して、漂白済み木材を得て、前記漂白済み木材に、高分子の溶液又は流動状態の高分子を充填することにより製造された高分子充填木材であってよい。より具体的には、(a)原料木材を漂白して漂白済み木材を得る、漂白ステップ、(b)漂白済み木材を洗浄する、洗浄ステップ、(c)洗浄後の漂白済み木材に、高分子の溶液又は流動状態の高分子を充填する、充填ステップ、並びに(d)乾燥させる若しくは高分子を固体に変態させる、仕上げステップを経て製造される高分子充填木材であってよい。
【実施例0120】
(実施例1)
バルサ材片(30mm×30mm×厚み1mm)を準備し、漂白液(30質量%過酸化水素水溶液10質量%、水酸化ナトリウム5質量%、及びエタノール20質量%を含有する水溶液)に、70℃で6時間浸漬させ、漂白済み木片を得た。漂白液から取り出された漂白済み木片を、脱イオン水50質量部とエタノール50質量部との混合液(洗浄液)に浸漬させ、25℃で1時間、超音波を照射しながら洗浄した。超音波照射には、超音波洗浄機(BRANSON社製「ブランソニック2510」、周波数:42Hz、出力:125Wにて運転)を利用した。
【0121】
プルラン(東京化成工業社製「Pullulan」)を脱イオン水に溶解させて10質量%のプルラン水溶液(粘度400mPa・s)を調製した。得られたプルラン水溶液に、上記洗浄後の漂白済み木材を25℃で24時間浸漬させることによって、漂白済み木材にプルランを充填させて高分子充填木材を得た。洗浄液から取り出された高分子充填木材を、常温(25℃)で24時間自然乾燥させた。
【0122】
乾燥後に得られたプルラン充填木材(高分子充填木材)の厚みは1.1mmであった。また、厚み方向での光透過率(全光線透過率)を、分光光度計装置(日立分光社製「U-3500」)を用いて測定したところ透過率86%(波長600nm)であった。なお、600nm以上700nm以下の波長範囲において、700nmの波長の透過率が最大であり、700nmの波長における透過率は87%であった。
【0123】
得られた上記高分子充填木材について、生分解性を評価した。
【0124】
=土壌での生分解性評価=
本評価は、JIS K 6955: 2017「プラスチック-呼吸計を用いた酸素消費量又は発生した二酸化炭素量の測定による土壌中でのプラスチックの好気的究極生分解度の求め方」に準拠して行った。
【0125】
まず、JIS K 6949: 2015「プラスチック-生分解度試験のための試料の作り方」に記載の粉砕及びふるい分けの方法に準じて、得られた高分子充填木材を冷凍破砕機(日本分析工業株式会社製、JFC-2000)を用いて冷凍破砕し、破砕片の分級サイズが125~250μmである高分子充填木材試料を準備した。対照試料としては、セルロース(Sigma-Aldrich Co.LLC製、Sigmacell Cellulose Type20)を準備した。
【0126】
高分子充填木材試料及び対照試料をそれぞれ1g、畑地の表層(埼玉県北葛飾郡杉戸町)から採取した土壌400gとを混合し、その混合物を500mLの試験容器に充填した。25℃±2℃にて60日以上にわたり放置し、二酸化炭素発生量(CO2A)を経時的に測定した。より具体的には、二酸化炭素発生量(CO2A)の測定は、二酸化炭素吸収液として0.5mol/LのKOH水溶液を用い、測定試薬として0.5mol/LのHClを用いて電位差滴定法によって求めた。
【0127】
試料を入れずに土壌のみを容器に充填して上記同様の条件で試験を行い、空試験による二酸化炭素発生量(CO2B)も求めた。また、試料の元素分析に基づき、理論的二酸化炭素発生量(ThCO)も予め求めておいた。そして、生分解度(%)=(CO2A‐CO2B)/ThCO×100 を算出した。なお、CO2B及び各試料のCO2Aは、3つの試料の試験結果の平均値とした。結果を表1に示す。
【0128】
【表1】
【0129】
表1に示すように、高分子充填材試料の生分解度は、15日後で63%となり、60日後には75%となった。これは、対照材料であるセルロースの生分解度とあまり変わらない生分解度であった。
【0130】
=海洋での生分解性評価=
本評価は、ISO19679:2020「プラスチック-海水/堆積物界面における非浮遊プラスチック材料の好気性生物分解の測定-発生した二酸化炭素の分析による方法」に準拠して行った。
【0131】
まず、上記の「=土壌での生分解性評価=」と同様にして、破砕により高分子充填木材試料を準備し、陽性対照試料として同様のセルロースを準備した。また、陰性対照材料として、ポリエチレンテレフタレート(PET)(スタンダードテストピース製、STP010-2715_1)を、高分子充填木材試料と同様に冷凍破砕して、破砕片の分級サイズが125~250μmであるPET試料を得た。
【0132】
相模湾(神奈川県三浦郡葉山町鐙摺港)沿岸域にて採取した海水及び堆積物を、孔径10μmのフィルタで濾過した。フィルタに残った堆積物はふるいに掛け、粒径2mm以下の堆積物を確保した。濾過により得られた海水300mL、及びふるい掛けにより得られた堆積物60gとを、500mLの試験容器に充填し、さらに、高分子充填木材試料、セルロース試料(陽性対照)、及びPET試料(陰性対照)をそれぞれ270mg/Lとなるように入れた。25℃±2℃にて60日以上にわたり放置し、二酸化炭素発生量(CO2A')を経時的に測定した。より具体的には、二酸化炭素発生量(CO2A')は、二酸化炭素吸収液として0.5mol/LのKOH水溶液を用い、測定試薬として0.5mol/LのHClを用いて電位差滴定法によって求めた。
【0133】
また、試料を入れずに海水及び堆積物のみを容器に充填して上記同様の条件で試験を行い、空試験による二酸化炭素発生量(CO2B')も求めた。また、試料の元素分析に基づき、理論的二酸化炭素発生量(ThCO')も予め求めておいた。そして、生分解度(%)=(CO2A'‐CO2B')/ThCO'×100 を算出した。なお、CO2B'及び各試料のCO2A'は、3つの試料の試験結果の平均値とした。結果を表2に示す。
【0134】
【表2】
【0135】
表2に示すように、高分子充填木材試料の生分解度は、51日後で63%となっており、61日後には66%となった。これは、陽性対照であるセルロースの生分解度とあまり変わらない生分解度であった。また、陰性対照であるPETの生分解度は61日後でも5%であったことから、高分子充填木材試料の生分解性は、PETに比べて顕著に高くなっていることが分かった。
【0136】
(実施例2)
アラビアガム(富士フィルム和光試薬株式会社製「アラビアゴム」)を脱イオン水に溶解させて10質量%のアラビアガム水溶液(粘度13mPa・s)を調製した。得られたアラビアガム水溶液に、上記洗浄後の漂白済み木材を25℃で24時間浸漬させることによって、漂白済み木材にアラビアガムを充填させて高分子充填木材を得た。洗浄液から取り出された高分子充填木材を、常温(25℃)で24時間自然乾燥させた。
【0137】
乾燥後に得られたアラビアガム充填木材(高分子充填木材)の厚みは1.05mmであった。また、厚み方向での光透過率(全光線透過率)を、分光光度計装置(日立分光社製「U-3500」)を用いて測定したところ、透過率79%(波長600nm)であった。なお、600nm以上700nm以下の波長範囲において、670nmの波長の透過率が最大であり、670nmの波長における透過率は81%であった。
【0138】
(実施例3)
タマリンドシードガム(東京化成工業株式会社製「Tamarind Gum from Tamarind seed, Polysaccharide」)を脱イオン水に溶解させて1質量%のタマリンドシードガム水溶液(粘度98mPa・s)を調製した。得られたタマリンドシードガム水溶液に、上記洗浄後の漂白済み木材を25℃で24時間浸漬させることによって、漂白済み木材にタマリンドシードガムを充填させて高分子充填木材を得た。洗浄液から取り出された高分子充填木材を、常温(25℃)で24時間自然乾燥させた。
【0139】
乾燥後に得られたタマリンドシードガム充填木材(高分子充填木材)の厚みは1.13mmであった。また、厚み方向での光透過率(全光線透過率)を、分光光度計装置(日立分光社製「U-3500」)を用いて測定したところ、透過率81%(波長600nm)であった。なお、600nm以上700nm以下の波長範囲において、669nmの波長の透過率が最大であり、669nmの波長における透過率は82%であった。
【0140】
以上、本発明を具体的な実施形態及び実施例に基づいて説明したが、これらの実施形態及び実施例は例として提示したものにすぎず、本発明は上記実施形態及び実施例によって限定されるものではない。本発明の開示の範囲内において、様々な変更、修正、置換、削除、付加、及び組合せ等が可能である。
【0141】
本願明細書の記載に接した当業者であれば、技術的に矛盾しない範囲において、特定の実施形態について説明された事項が、他の実施形態に適用され得ることを理解することができる。例えば、複合材料又は複合材料の各部について説明された事項は、高分子充填木材又は高分子充填木材の各部にも適用され得る。同様に、高分子充填木材又は高分子充填木材の各部について説明された事項は、複合材料又は複合材料の各部にも適用され得る。また、その様な変更または改良が加えられた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0142】
特許請求の範囲及び/又は明細書において示された装置、システム、及び/又は方法における動作、手順、ステップ、段階などが実行される順序は、任意の順序で実現され得る。特許請求の範囲及び/又は明細書の説明において、便宜上「まず」、「次に」などの順番を示す用語が用いられている場合であっても、当該記載は、明細書に例示された順番で実施されることが必須であることを意味するものではないことに留意すべきである。
【0143】
本願明細書には、例えば、下記の事項が記載されている。
【0144】
[項目1]
セルロース(ヘミセルロースを含む。)又はその誘導体を主成分として含み、管状構造、網目状構造又は多孔質構造を有する三次元構造体と、
上記三次元構造体の内部に配される樹脂材料と、
を備え、
上記樹脂材料は、(a)ISO17556若しくはJIS K6955:2017に準拠して測定される土壌中での好気的生分解度、及び/又は、(b)ISO19679:2020に準拠して測定される海水/堆積物界面における生分解度が180日以下の期間内で60%以上である生分解性高分子材料を含む、
複合材料。
【0145】
[項目2]
上記樹脂材料は、非結晶性の生分解性高分子材料を含み、
上記生分解性高分子材料の屈折率と、上記セルロース又は上記誘導体の屈折率との差の絶対値は、0.25以下である、
項目1に記載の複合材料。
【0146】
[項目3]
厚みが1mm以上2mm以下の場合における波長600nm以上700nm以下での光透過率の最大値は、50%以上である、
項目1に記載の複合材料。
【0147】
[項目4]
上記三次元構造体の空隙又は細孔の少なくとも一部の内部に、上記複合材料が充填されてなる、
項目1に記載の複合材料。
【0148】
[項目5]
上記三次元構造体は、上記セルロース又は上記誘導体の結晶を含む複数のミクロフィブリルが互いに水素結合してなる繊維又は当該繊維の集合体を有する、
項目1から項目4までの何れかに記載の複合材料。
【0149】
[項目6]
上記複合材料の質量に対する、リグニン又は主鎖にリグニンを含む高分子の質量の割合は、0.5質量%以上20質量%以下である、
項目1から項目4までの何れかに記載の複合材料。
【0150】
[項目7]
上記セルロース又は上記誘導体の質量に対する、リグニン又は主鎖にリグニンを含む高分子の質量の割合は、2.5質量%以上25質量%以下である、
項目1から項目4までの何れかに記載の複合材料。
【0151】
[項目8]
天然高分子及び/又は生分解性高分子を含む高分子が木材に充填されてなる、
高分子充填木材。
【0152】
[項目9]
上記天然高分子及び/又は上記生分解性高分子が、非結晶性高分子である、
項目8に記載の高分子充填木材。
【0153】
[項目10]
上記天然高分子及び/又は上記生分解性高分子が、多糖類、タンパク質、及びポリエステルの1以上である、項目8に記載の高分子充填木材。
【0154】
[項目11]
上記天然高分子及び/又は上記生分解性高分子が、グルコース多糖類である、
項目10に記載の高分子充填木材。
【0155】
[項目12]
厚みが1.1mmの場合における波長600nmでの光透過率が50%以上である、
項目8から項目11までの何れかに記載の高分子充填木材。
【0156】
[項目13]
厚みが1mm以上2mm以下の場合における波長600nm以上700nm以下での光透過率の最大値が50%以上である、
項目8から項目11までの何れかに記載の高分子充填木材。
【0157】
[項目14]
上記充填前の上記木材の密度が、0.1kg/m以上1.3kg/m以下である、
項目8から項目11までの何れかに記載の高分子充填木材。
【0158】
[項目15]
セルロース(ヘミセルロースを含む。)又はその誘導体を主成分として含み、管状構造、網目状構造又は多孔質構造を有する三次元構造体を準備する段階と、
上記三次元構造体の空隙又は細孔の少なくとも一部の内部に、樹脂材料を配置する段階と、
を有し、
上記樹脂材料は、(a)ISO17556若しくはJIS K6955:2017に準拠して測定される土壌中での好気的生分解度、及び/又は、(b)ISO19679:2020に準拠して測定される海水/堆積物界面における生分解度が180日以下の期間内で60%以上である生分解性高分子材料を含む、
複合材料の製造方法。
【0159】
[項目16]
木材を漂白して、漂白済み木材を得て、
上記漂白済み木材に、高分子の溶液又は流動状態の高分子を充填することを含む、
高分子充填木材の製造方法。
【0160】
[項目17]
上記高分子を充填することが、上記漂白済み木材に、上記高分子の溶液又は上記流動状態の高分子を含侵させることを含む、
項目16に記載の高分子充填木材の製造方法。
【0161】
[項目18]
上記高分子の溶液又は上記流動状態の高分子の粘度が、1mPa・s以上100,000mPa・s以下である、
項目16又は17に記載の高分子充填木材の製造方法。
【0162】
[項目19]
上記漂白済み木材に上記高分子の水溶液を含侵させ、当該水溶液の上記高分子の濃度が0.05質量%以上50質量%以下である、
項目16又は17に記載の高分子充填木材の製造方法。
【0163】
[項目20]
上記高分子が、天然高分子及び/又は生分解性高分子である、
項目16又は17に記載の高分子充填木材の製造方法。