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特開2024-125220粒状被覆肥料、粒状被覆肥料の製造方法、硝酸化成抑制材を粒状の肥料に被覆させるための工業用潤滑油及び肥料被覆用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125220
(43)【公開日】2024-09-13
(54)【発明の名称】粒状被覆肥料、粒状被覆肥料の製造方法、硝酸化成抑制材を粒状の肥料に被覆させるための工業用潤滑油及び肥料被覆用組成物
(51)【国際特許分類】
   C05G 5/30 20200101AFI20240906BHJP
   C05G 5/10 20200101ALI20240906BHJP
   C05G 3/90 20200101ALI20240906BHJP
   C05G 3/70 20200101ALI20240906BHJP
【FI】
C05G5/30
C05G5/10
C05G3/90
C05G3/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024032058
(22)【出願日】2024-03-04
(31)【優先権主張番号】P 2023032349
(32)【優先日】2023-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】508160602
【氏名又は名称】ホクレン肥料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110766
【弁理士】
【氏名又は名称】佐川 慎悟
(74)【代理人】
【識別番号】100165515
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 清子
(74)【代理人】
【識別番号】100169340
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 陽輔
(74)【代理人】
【識別番号】100195682
【弁理士】
【氏名又は名称】江部 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100206623
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 智行
(72)【発明者】
【氏名】小田 剛
(72)【発明者】
【氏名】江良 和紀
(72)【発明者】
【氏名】阿部 奨
(72)【発明者】
【氏名】赤澤 敏之
(72)【発明者】
【氏名】中津 智史
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 剛
(72)【発明者】
【氏名】片岡 純一
(72)【発明者】
【氏名】藤井 真
(72)【発明者】
【氏名】松久 春季
(72)【発明者】
【氏名】加藤 愛可
(72)【発明者】
【氏名】有澤 幸平
【テーマコード(参考)】
4H061
【Fターム(参考)】
4H061BB10
4H061BB12
4H061BB15
4H061BB16
4H061DD03
4H061DD15
4H061DD16
4H061DD18
4H061EE07
4H061EE25
4H061EE53
4H061FF07
4H061FF15
4H061GG16
4H061GG26
4H061GG41
4H061GG43
4H061HH02
(57)【要約】
【課題】土壌中で硝酸化成抑制材と肥料とが同時期に溶出することで肥料に対して硝酸化成抑制効果を確実に発揮し、流動特性に優れるため施肥しやすく、施肥後、土壌中にプラスチック殻が残存することのない粒状被覆肥料、粒状被覆肥料の製造方法、硝酸化成抑制材を粒状の肥料に被覆させるための工業用潤滑油及び肥料被覆用組成物を提供する。
【解決手段】粒状被覆肥料は、粒状の肥料と、前記肥料を被覆する、硝酸化成抑制材及び工業用潤滑油の混合物からなる第1の層と、前記第1の層を被覆する、固結防止材からなる第2の層と、を備える。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒状の肥料と、
前記肥料を被覆する、硝酸化成抑制材及び工業用潤滑油の混合物からなる第1の層と、
前記第1の層を被覆する、固結防止材からなる第2の層と、
を備える粒状被覆肥料。
【請求項2】
前記工業用潤滑油は、ISO VG 5~150の工業用潤滑油ISO粘度グレードを有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の粒状被覆肥料。
【請求項3】
前記肥料は、尿素又は尿素と硫酸アンモニアとの混合物である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の粒状被覆肥料。
【請求項4】
前記硝酸化成抑制材は、1-アミジノ-2-チオウレア又はジシアンジアミドである、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の粒状被覆肥料。
【請求項5】
前記硝酸化成抑制材は、1-アミジノ-2-チオウレアである、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の粒状被覆肥料。
【請求項6】
硝酸化成抑制材と工業用潤滑油とを混合して粒状の肥料に被覆し、さらに固結防止材を被覆して粒状被覆肥料を得ることを含む、粒状被覆肥料の製造方法。
【請求項7】
硝酸化成抑制材と工業用潤滑油とを混合してスラリーを得る工程と、
前記スラリーを粒状の肥料に被覆した後、さらに固結防止材を被覆する工程と、
を含む、
ことを特徴とする請求項6に記載の粒状被覆肥料の製造方法。
【請求項8】
前記工業用潤滑油は、ISO VG 5~150の工業用潤滑油ISO粘度グレードを有する、
ことを特徴とする請求項6又は7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記肥料は、尿素又は尿素と硫酸アンモニアとの混合物である、
ことを特徴とする請求項6又は7に記載の製造方法。
【請求項10】
前記硝酸化成抑制材は、1-アミジノ-2-チオウレア又はジシアンジアミドである、
ことを特徴とする請求項6又は7に記載の製造方法。
【請求項11】
前記硝酸化成抑制材は、1-アミジノ-2-チオウレアである、
ことを特徴とする請求項6又は7に記載の製造方法。
【請求項12】
硝酸化成抑制材を粒状の肥料に被覆させるための工業用潤滑油。
【請求項13】
硝酸化成抑制材及び工業用潤滑油の混合物からなる、肥料被覆用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒状被覆肥料、粒状被覆肥料の製造方法、硝酸化成抑制材を粒状の肥料に被覆させるための工業用潤滑油及び肥料被覆用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
肥料に含まれている尿素や、有機質肥料が分解して生成されたアンモニア態窒素は、土壌中の酸化的条件下で、亜硝酸菌、硝酸菌等の硝化細菌によって硝化されて硝酸態窒素となりやすい。より具体的には、アンモニアは亜硝酸菌によって亜硝酸態窒素に変化し、生成した亜硝酸態窒素は硝酸菌によって硝酸態窒素に変化する。陽イオンであるアンモニア態窒素は、負の荷電状態にある土壌コロイドに吸着されやすい一方で、陰イオンである硝酸態窒素は、土壌コロイドに吸着され難いため、土壌中から地下水に流れ出やすい。したがって、硝酸化成作用の強い土壌条件においては、施肥された窒素肥料の作物による利用率が低いことが問題視されていた。
【0003】
そこで、施肥された肥料の土壌中の硝化を抑制する方法がいくつか提案されてきた。
【0004】
特許文献1では、硝酸化成抑制材であるジシアンジアミドを含有する粒子であって、該粒子からのジシアンジアミドの累積溶出率が制御された硝化抑制粒剤を、肥料に混合する方法が開示されている。また、特許文献2では、ビューレットと窒素肥料とを含む粒子を被覆材料(ポリエチレンなど)で被覆した被覆粒状物を用いることで、植物による施肥窒素の利用率を向上させる方法が開示されている。また、特許文献3では、肥料の表面を、硝酸化成抑制材を含有する第1被覆層(ポリエチレンなど)で被覆し、次いで溶出制御機能を有する第2被覆層で被覆する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-278973号公報
【特許文献2】特開2003-226592号公報
【特許文献3】特開2004-345872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法では、硝化抑制粒剤中のジシアンジアミドの累積溶出率は制御されているものの、ジシアンジアミドの溶出と肥料成分の供給が常に同時期に行われるとは限らず、硝酸化成抑制効果が不確実である点で課題を残していた。また、特許文献2、3の方法では、被覆材としてポリエチレンなどのプラスチック素材を用いる場合、施肥後にプラスチック殻が分解されずに土壌中に残存したり、土壌中から流れ出て河口域や海に蓄積するため、環境破壊に繋がるという問題点を有していた。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、土壌中で硝酸化成抑制材と肥料とが同時期に溶出することで肥料に対して硝酸化成抑制効果を確実に発揮し、流動特性に優れるため施肥しやすく、施肥後、土壌中にプラスチック殻が残存することのない粒状被覆肥料、粒状被覆肥料の製造方法、硝酸化成抑制材を粒状の肥料に被覆させるための工業用潤滑油及び肥料被覆用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係る粒状被覆肥料は、
粒状の肥料と、
前記肥料を被覆する、硝酸化成抑制材及び工業用潤滑油の混合物からなる第1の層と、
前記第1の層を被覆する、固結防止材からなる第2の層と、
を備える。
【0009】
例えば、前記工業用潤滑油は、ISO VG 5~150の工業用潤滑油ISO粘度グレードを有する。
【0010】
例えば、前記肥料は、尿素又は尿素と硫酸アンモニアとの混合物である。
【0011】
例えば、前記硝酸化成抑制材は、1-アミジノ-2-チオウレア又はジシアンジアミドである。
【0012】
例えば、前記硝酸化成抑制材は、1-アミジノ-2-チオウレアである。
【0013】
本発明の第2の観点に係る粒状被覆肥料の製造方法は、
硝酸化成抑制材と工業用潤滑油とを混合して粒状の肥料に被覆し、さらに固結防止材を被覆して粒状被覆肥料を得ることを含む。
【0014】
例えば、硝酸化成抑制材と工業用潤滑油とを混合してスラリーを得る工程と、
前記スラリーを粒状の肥料に被覆した後、さらに固結防止材を被覆する工程と、
を含む。
【0015】
例えば、前記工業用潤滑油は、ISO VG 5~150の工業用潤滑油ISO粘度グレードを有する。
【0016】
例えば、前記肥料は、尿素又は尿素と硫酸アンモニアとの混合物である。
【0017】
例えば、前記硝酸化成抑制材は、1-アミジノ-2-チオウレア又はジシアンジアミドである。
【0018】
例えば、前記硝酸化成抑制材は、1-アミジノ-2-チオウレアである。
【0019】
本発明の第3の観点に係る工業用潤滑油は、
硝酸化成抑制材を粒状の肥料に被覆させるための工業用潤滑油である。
【0020】
本発明の第4の観点に係る肥料被覆用組成物は、
硝酸化成抑制材及び工業用潤滑油の混合物からなる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、土壌中で硝酸化成抑制材と肥料とが同時期に溶出することで肥料に対して硝酸化成抑制効果を確実に発揮し、流動特性に優れるため施肥しやすく、施肥後、土壌中にプラスチック殻が残存することのない粒状被覆肥料、粒状被覆肥料の製造方法、硝酸化成抑制材を粒状の肥料に被覆させるための工業用潤滑油及び肥料被覆用組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本実施例による粒状被覆肥料のSEM画像の写真図である。
図2】(a)は粒状尿素に1-アミジノ-2-チオウレア(ASU)を展着させた試料「ASU2.0%」のSEM画像(30倍)の写真図及び特性X線スペクトル図であり、(b)はそのSEM画像(30倍)の写真図及びEDSによるX線像の図である。
図3】(a)は本実施例による粒状被覆肥料「タルク6.0%/ASU2.0%」のSEM画像(37倍)の写真図及び特性X線スペクトル図であり、(b)はそのSEM画像(37倍)の写真図及びEDSによるX線像の図である。
図4】(a)は本実施例による粒状被覆肥料「オプライト4.0%/ASU2.0%」のSEM画像(30倍)の写真図及び特性X線スペクトル図であり、(b)はそのSEM画像(30倍)の写真図及びEDSによるX線像の図である。
図5】粒状尿素にASUを展着させて作製した試料のSEM画像の写真図であり、(a)はスクリューコンベアを用いて作製した試料(ASU添加量:0.5%)、(b)はスクリューコンベアを用いて作製した試料(ASU添加量:2.0%)、(c)はパン型造粒機を用いて作製した試料(ASU添加量:2.0%)のSEM画像である。
図6】スラリー試料の粘度を測定したグラフ図であり、(a)は20℃、(b)は40℃でのグラフ図である。
図7】硝酸化成抑制効果を測定したグラフ図である。
図8】本実施例による粒状被覆肥料の水中溶解時間を測定したグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(1.粒状被覆肥料)
本発明の粒状被覆肥料は、(i)粒状の肥料と、(ii)肥料を被覆する、硝酸化成抑制材及び工業用潤滑油の混合物からなる第1の層と、(iii)第1の層を被覆する、固結防止材からなる第2の層と、を備える。
【0024】
本発明の粒状被覆肥料においては、肥料としての主成分となる粒状の肥料の表面が、硝酸化成抑制材及び工業用潤滑油を含む第1の層によって被覆され、さらにその表面が固結防止材からなる第2の層によって被覆されている。本発明の粒状被覆肥料では、粒状の肥料の表面に、工業用潤滑油を介して硝酸化成抑制材が展着することで、硝酸化成抑制材が確実に被覆し、さらにその表面を固結防止材が被覆しているため、施肥後も硝酸化成抑制材が土壌中へ直ちに流出することなく、硝酸化成抑制材が肥料を被覆したまま維持される。水分を含む土壌との接触時には、第1の層の硝酸化成抑制材と、肥料と、が同時期に溶出するため、硝酸化成抑制材が肥料の硝酸化を確実に抑制することができる。このため、本発明においては硝酸化成抑制材が肥料に対して確実に硝酸化成抑制効果を発揮し、作物による施肥窒素の利用率を効果的に向上させることができる。
【0025】
また、本発明において、肥料への硝酸化成抑制材の被覆には、工業用潤滑油を用いており、ポリエチレンなどのプラスチック素材は使用していないため、施肥後、土壌中にプラスチック殻が残存することがなく、環境に配慮した肥料を提供できる。
【0026】
本発明の粒状被覆肥料に用いられる肥料として、特に限定されるものではないが、例えば、窒素質肥料が用いられ、より具体的には、尿素、硫酸アンモニア、塩化アンモニア、硝酸アンモニア、リン酸アンモニア、腐植酸アンモニア、石灰窒素、窒素を含む有機質肥料などが用いられ得る。また、窒素質肥料に加えて、必要に応じて、りん酸質肥料、加里質肥料、化学合成系緩効性肥料などを用いてもよく、より具体的には、りん酸質肥料として過りん酸石灰、重過りん酸石灰、熔成りん肥、焼成りん肥、腐植酸りん肥、加工りん酸肥料などが、加里質肥料として硫酸加里、塩化加里、けい酸加里肥料、腐植酸加里肥料などが、化学合成系緩効性肥料としてイソブチルアルデヒド縮合尿素、アセトアルデヒド縮合尿素、硫酸グアニル尿素、オキサミドなどが用いられ得る。本発明の粒状被覆肥料に用いられる肥料として、上記のほかに、植物の生育に必須な微量要素であるナトリウム、カルシウム、マグネシウム、硫黄、マンガン、ホウ素、亜鉛、鉄、銅、モリブデン、珪素、セレン、コバルト、ニッケルなどの微量要素なども用いられ得る。また、化成肥料、配合肥料、有機質肥料なども本発明の粒状被覆肥料に用いることができ、さらに、農薬を含有する肥料をも用いることができる。
【0027】
本発明の粒状被覆肥料に用いられる肥料は、窒素質肥料であることが好ましく、例えば、尿素又は尿素と硫酸アンモニアとの混合物を好適に用いることができる。
【0028】
本発明の粒状被覆肥料に用いられる肥料の形状は、粒状であり、例えば、施肥時の作業性や粉塵防止、さらに被覆のしやすさの観点から0.5mm~5.0mm程度の粒子状であることが好ましい。該肥料の造粒方法は特に限定されるものではないが、具体的には、押出造粒法、流動層式造粒法、転動造粒法、圧縮造粒法、被覆造粒法及び吸着造粒法などが採用され得る。また、本発明において、前記造粒方法以外に、一方向に被搬送物を送るための回転機構を有する搬送機、攪拌又は配合機構を有する混合機などにも用いることができる。
【0029】
本発明の粒状被覆肥料において用いられる硝酸化成抑制材としては、硝酸化成細菌によってなされるアンモニア態窒素の硝酸化成を抑制する物質であれば特に制限なく採用され得るが、具体的には、1-アミジノ-2-チオウレア(ASU)、ジシアンジアミド、チオウレア、2-アミノ-4-クロロ-6-メチルピリミジン、2-メルカプトベンゾチアゾール、サルファーチアゾール、N-2,5-ジクロロフェニルサクシナミド酸、4-アミノ-1,2,4-トリアゾール塩酸塩、2-[(N-ニトロ)メチルアミノ-1,3,4-チアジアゾール、5-メルカプト-1,3,4-トリアゾール、2-クロロ-6-(トリクロロメチル)ピリジン、トリクロロメチル-1,3,5-トリアジン、2,4-ジクロロアニリン、2-トリクロロメチルキノリンなどが挙げられる。なお、本発明の粒状被覆肥料において用いられる硝酸化成抑制材の粒径は、被覆のしやすさの観点から、例えば、0.3mm以下が好ましく、0.1mm以下がより好ましい。
【0030】
本発明の粒状被覆肥料において用いられる硝酸化成抑制材としては、例えば、1-アミジノ-2-チオウレア(ASU)若しくはジシアンジアミド、又は1-アミジノ-2-チオウレア(ASU)を好適に用いることができる。
【0031】
本発明の粒状被覆肥料における硝酸化成抑制材の含量は、例えば、粒状被覆肥料100質量部に対して、0.1~10.0質量部であってもよい。また、硝酸化成抑制材の含量は、粒状被覆肥料100質量部に対して、好ましくは0.2~9.0質量部、より好ましくは0.3~8.0質量部、さらに好ましくは0.4~7.0質量部、さらにより好ましくは0.5~6.0質量部である。
【0032】
本発明の粒状被覆肥料において用いられる工業用潤滑油は、例えば、ISO VG 5~150の工業用潤滑油ISO粘度グレードを有する。本発明の粒状被覆肥料に用いられる工業用潤滑油ISO粘度グレードは、被覆のしやすさの観点から、例えば、7~100であり、好適には10~68、より好適には15~46、さらに好適には22~32であってもよい。
【0033】
本発明の粒状被覆肥料において用いられる固結防止材として、例えば、タルク、シリカヒューム、珪藻土、ポリエチレングリコール、ステアリン酸金属塩、ラウリル硫酸金属塩、カオリン、炭酸カルシウム、酸化ケイ素、テレフタル酸カルシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、リン酸カルシウム、フッ化リチウムなど、又はこれらの組み合わせ(例えば、オプライト、シリカライトなど)を挙げることができる。
【0034】
本発明の粒状被覆肥料は、水分を含む土壌との接触時には、第1の層の硝酸化成抑制材と、肥料と、が同時期に溶出するため、硝酸化成抑制材が肥料の硝酸化を確実に抑制することができる。このため、本発明においては硝酸化成抑制材が肥料に対して確実に硝酸化成抑制効果を発揮し、作物による施肥窒素の利用率を効果的に向上させることができる。硝酸化成抑制材が肥料の溶出を阻害することなく拡散することは、例えば、水中溶解試験により確認することができる。水中溶解試験は、例えば、水中に静止させた篩に肥料又は粒状被覆肥料を置き、各々、網下へと落下するまで時間を計測して、肥料の落下時間と粒状被覆肥料の落下時間とが同程度又は30秒以内の時間差の場合に、硝酸化成抑制材と肥料とが同時期に溶出していると判断することができる。
【0035】
本発明の粒状被覆肥料は、流動性に優れるため、土壌に施肥する際、特に、機械施肥に有用である。本発明の粒状被覆肥料は、例えば、該粒状被覆肥料に含まれる(何も被覆していない)肥料と同程度の流動性を有していてもよい。流動性は、例えば、容器に充填した粒状被覆肥料を、容器外に排出させて、容器内に安定残存した試料の斜面と水平面のなす角度(安息角)を測定することで求めてもよく(安息角が小さい程、流動性が良好である)、容器に充填した粒状被覆肥料を、容器外に排出させ、その際に容器外へ排出された粒状被覆肥料の重量を測定して、排出率を算出することで測定してもよい(排出率が大きい程、流動性が良好である)。
【0036】
(2.粒状被覆肥料の製造方法)
本発明の粒状被覆肥料の製造方法は、硝酸化成抑制材と工業用潤滑油とを混合して粒状の肥料に被覆し、さらに固結防止材を被覆して粒状被覆肥料を得ることを含む。肥料、硝酸化成抑制材、工業用潤滑油、固結防止材、粒状被覆肥料等の詳細は、前述同様である。
【0037】
本発明の粒状被覆肥料の製造方法は、例えば、
硝酸化成抑制材と工業用潤滑油とを混合してスラリーを得る工程(A)と、
スラリーを粒状の肥料に被覆した後、さらに固結防止材を被覆する工程(B)と、
を含んでいてもよい。
【0038】
工程(A)においては、硝酸化成抑制材と工業用潤滑油とを混合してスラリーを得る。硝酸化成抑制材及び工業用潤滑油の詳細は、前述同様である。硝酸化成抑制材として、例えば、1-アミジノ-2-チオウレア(ASU)若しくはジシアンジアミド、又は1-アミジノ-2-チオウレア(ASU)を好適に用いることができる。また、工業用潤滑油として、例えば、ISO VG 5~150の工業用潤滑油ISO粘度グレードを有する工業用潤滑油を好適に用いることができる。硝酸化成抑制材と工業用潤滑油とを混合してスラリーとすることで、肥料の表面に効果的に硝酸化成抑制材を展着させることができるため、肥料の表面に硝酸化成抑制材を確実に被覆することができる。このため、肥料に対して確実に硝酸化成抑制効果を発揮し、作物による施肥窒素の利用率を効果的に向上させることが可能な粒状被覆肥料を製造することができる。
【0039】
工程(A)において、硝酸化成抑制材と工業用潤滑油との混合比は、本発明の効果を奏する範囲であれば任意の混合比とすることができるが、例えば、硝酸化成抑制材:工業用潤滑油=1:1~1:2.0、好ましくは、例えば、硝酸化成抑制材:工業用潤滑油=1:1~1:1.5とすることができる。
【0040】
工程(A)において、硝酸化成抑制材と工業用潤滑油との混合方法については、最終的にスラリーを形成できれば任意の方法を採用し得るが、例えば、公知の撹拌機に工業用潤滑油を入れ、硝酸化成抑制材を加えて一定時間攪拌する方法が挙げられる。得られたスラリーの粘度は、温度に依存し得るが、本発明の効果を奏する範囲であれば任意の粘度とすることができる。スラリーの粘度は、操作性及び展着効率の観点から、例えば、20~40℃において、好ましくは0.1~50Pa・s、より好ましくは0.5~20Pa・s、さらにより好ましくは1~15Pa・sであってもよい。スラリーの粘度は、例えば、回転粘度計(B型)で測定することができる。
【0041】
工程(B)において、工程(A)で得られたスラリーを粒状の肥料に被覆した後、さらに固結防止材を被覆する。粒状の肥料及び固結防止材の詳細は、前述同様である。肥料は、窒素質肥料であることが好ましく、例えば、尿素又は尿素と硫酸アンモニアとの混合物を好適に用いることができる。
【0042】
工程(B)において、被覆の方法については、本発明の効果を奏する範囲であれば任意の方法を採用し得るが、例えば、転動造粒法を挙げることができる。転動造粒法の具体例として、工程(A)で得られたスラリー及び粒状の肥料を公知の造粒機に入れて一定時間攪拌することで、該スラリーを粒状の肥料に被覆し、その後、固結防止材を加えて一定時間攪拌することで、さらに固結防止材を被覆することができる。
【0043】
本発明の粒状被覆肥料の製造方法の一例を以下説明する。公知の撹拌機に工業用潤滑油を入れ、硝酸化成抑制材を加えて一定時間攪拌することで、硝酸化成抑制材と工業用潤滑油とを含むスラリーを得る(工程(A))。工程(A)で得られたスラリー及び粒状の肥料を公知の造粒機に入れて一定時間攪拌することで、該スラリーを粒状の肥料に被覆し、その後、固結防止材を加えて一定時間攪拌することで、さらに固結防止材を被覆する(工程(B))。このようにして、粒状の肥料の表面を、硝酸化成抑制材及び工業用潤滑油を含む層によって被覆し、さらにその表面を固結防止材からなる層によって被覆した粒状被覆肥料を得ることができる。なお、本発明の粒状被覆肥料の製造方法について、上記において公知の造粒機を用いた方法を例示したが、別法として、一方向に被搬送物を送るための回転機構を有する搬送機、攪拌又は配合機構を有する混合機なども用いることができ、例えば、スクリューコンベアを用いた方法を採用することもできる。
【0044】
(3.工業用潤滑油)
本発明の工業用潤滑油は、硝酸化成抑制材を粒状の肥料に被覆させるためのものであり、工業用潤滑油の新規の用途を提供するものである。工業用潤滑油、硝酸化成抑制材及び粒状の肥料の詳細については、前述同様である。例えば、工業用潤滑油に硝酸化成抑制材を混合し、その混合物を粒状の肥料に被覆することによって、工業用潤滑油を、硝酸化成抑制材を粒状の肥料に被覆させる用途に用いることができる。
【0045】
(4.粒状肥料被覆用組成物)
本発明の粒状肥料被覆用組成物は、硝酸化成抑制材及び工業用潤滑油の混合物からなり、粒状の肥料に、硝酸化成抑制材を被覆させるための組成物である。工業用潤滑油、硝酸化成抑制材及び粒状の肥料の詳細については、前述同様である。また、硝酸化成抑制材と工業用潤滑油との混合比や硝酸化成抑制材と工業用潤滑油との混合方法についても前述同様である。
【0046】
(5.結語)
以上述べたように、本発明の粒状被覆肥料においては、粒状の肥料の表面に、工業用潤滑油を介して硝酸化成抑制材を展着させることで、硝酸化成抑制材を粒状の肥料の表面に確実に被覆し、さらにその表面を固結防止材が被覆しているため、施肥後も硝酸化成抑制材が土壌中へ直ちに流出することなく、硝酸化成抑制材が肥料を被覆したまま維持される。また、土壌中で硝酸化成抑制材と肥料とが同時期に溶出するため、本発明においては硝酸化成抑制材が肥料に対して確実に硝酸化成抑制効果を発揮し、作物による施肥窒素の利用率を効果的に向上させることができる。また、本発明の粒状被覆肥料は、流動特性に優れるため施肥しやすく、特に、機械施肥において有用である。さらに、本発明において、肥料への硝酸化成抑制材の被覆には、工業用潤滑油を用いており、ポリエチレンなどのプラスチック素材は使用していないため、施肥後、土壌中にプラスチック殻が残存することがなく、環境に配慮した肥料を提供できる。
【0047】
また、本発明において、硝酸化成抑制材と工業用潤滑油とを混合して粒状の肥料に被覆し、さらに固結防止材を被覆して粒状被覆肥料を得ることを含む新規の粒状被覆肥料の製造方法を提供する。本発明の製造方法では、硝酸化成抑制材を工業用潤滑油と混合させることで、肥料の表面に効果的に硝酸化成抑制材を展着させることができるため、肥料の表面に硝酸化成抑制材を確実に被覆することができる。また、土壌中で硝酸化成抑制材と肥料とを同時期に溶出させることができる。このため、硝酸化成抑制材は肥料に対して確実に硝酸化成抑制効果を発揮でき、作物による施肥窒素の利用率を効果的に向上させることが可能な粒状被覆肥料を製造することができる。
【実施例0048】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0049】
(実施例1)
本実施例の粒状被覆肥料を以下のとおり製造した。
【0050】
(粒状被覆肥料の製造)
原料として、以下を使用した。
・肥料:粒状尿素(PETRONAS Chemicals Group Berhad製)(篩分して、粒径がφ1.40mm~4.00mm内のものを使用)
・硫酸アンモニア(硫安):肥料用硫安(UBE株式会社製)(篩分して、粒径がφ1.40mm~4.00mm内のものを抽出)
・1-アミジノ-2-チオウレア(ASU):製品コード mucD_ASU(純度:90%)
・工業用潤滑油(マシン油):出光興産株式会社製 ダイアナ フレシア N-28(動粘度:40℃で27.77mm/S)
・固結防止材:タルク(Haicheng Hongdarefractory Material製)
【0051】
(肥料成分が尿素のみである粒状被覆肥料の製造)
工業用潤滑油(マシン油)に1-アミジノ-2-チオウレア(ASU)を質量比1:1で加え、2~3分間攪拌してスラリーを得た。粒状尿素及び該スラリーをパン型造粒機(自社製)に入れ、パン回転数22.6rpmで5分間攪拌することにより、粒状尿素に該スラリーを被覆させた。その後、固結防止材(タルク)をさらに加えて5分間攪拌することにより、固結防止材を被覆させて、本実施例の粒状被覆肥料を得た。尿素、ASU、マシン油及び固結防止材の配合比は下記(表1)のとおりである。なお、表1において、例えば「ASU2.0%」とは、粒状被覆肥料(又は試料全体)100質量部に対してASUを2質量部含むことを意味し、「固結防止材(添加量)2.0%」とは、粒状被覆肥料(又は試料全体)100質量部に対して固結防止材を2質量部含むことを意味する(以下の実施例において同様)。
【0052】
【表1】
【0053】
(肥料成分が尿素及び硫安の混合物である粒状被覆肥料の製造)
マシン油に1-アミジノ-2-チオウレア(ASU)を質量比1:1で加え、2~3分間攪拌してスラリーを得た。粒状尿素及び硫安並びに該スラリーをパン型造粒機(自社製)に入れ、パン回転数22.6rpmで5分間攪拌することにより、粒状尿素及び硫安に該スラリーを被覆させた。その後、固結防止材(タルク)をさらに加えて5分間攪拌することにより、固結防止材を被覆させて、本実施例の粒状被覆肥料を得た。尿素、硫安、ASU、マシン油及び固結防止材の配合比は下記(表2)のとおりである。
【0054】
【表2】
【0055】
(粒状被覆肥料の表面状態の評価)
上記のとおり得られた、肥料成分が尿素のみである粒状被覆肥料(ASU添加量2.0%、固結防止材6.0%)の表面状態を、走査型電子顕微鏡を用いて評価した。
【0056】
試料(上記の粒状被覆肥料)を真鍮製試料台上にカーボンテープで固定し、イオンスパッタ装置(日本電子株式会社製、型番:JFC-1500)によりPtを蒸着した。走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、型番:JSM-6610LA)内に試料を導入し、加速電圧10keVで2次電子像(SEM像)により表面組織を観察し、30倍、100倍、1,000倍、2,000倍、5,000倍及び10,000倍の写真を撮影した。
【0057】
SEM画像を図1に示す。前述の製造方法により、略球状の粒状被覆肥料が得られたことが示された。
【0058】
(ASUの定量)
上記のとおり得られた、肥料成分が尿素のみである粒状被覆肥料(ASU添加量2.0%、固結防止材6.0%)及び肥料成分が尿素及び硫安の混合物である粒状被覆肥料(ASU添加量2.0%、固結防止材4.0%)のASUを定量した。
【0059】
細粉した試料(上記の粒状被覆肥料)1gに純水を加えよく混合し、乾燥濾紙でろ過して、塩化カリウム緩衝液を加え試料液とした。試料液を、分光光度計を用いて多波長測定(262,252,272nm)し、試料液と同一条件で操作した標準液より検量線を作成し、ASU(CS)を定量した(分析方法:紫外部吸光光度法(肥料分析法(農林水産省農業環境技術研究所法)6.2.1に記載))。その結果、肥料成分が尿素のみである粒状被覆肥料(ASU添加量2.0%、固結防止材6.0%)については、1回目の測定ではASU:2.03%、2回目の測定ではASU:2.04%であり、肥料成分が尿素及び硫安の混合物である粒状被覆肥料(ASU添加量2.0%、固結防止材4.0%)については、ASU:2.14%であり、たしかにASUの添加量が2.0%であることが確認された。
【0060】
(粒状被覆肥料の表面の元素マッピング)
粒状被覆肥料の表面状態を、走査型電子顕微鏡及び電子線微小部分析装置を用いて評価した。以下の3種の試料を用いた。
・「ASU2.0%」:マシン油にASUを質量比1:1で加え、2~3分間攪拌してスラリーを得た。粒状尿素及び該スラリーをパン型造粒機(自社製)に入れ、パン回転数22.6rpmで5分間攪拌することにより、粒状尿素に該スラリーを被覆させて「ASU2.0%」を得た。
・「タルク/ASU2.0%」:上記で得られた肥料成分が尿素のみである粒状被覆肥料(ASU添加量2.0%、固結防止材(タルク)添加量6.0%)を「タルク/ASU2.0%」として用いた。
・「オプライト/ASU2.0%」:肥料成分が尿素のみである粒状被覆肥料において、固結防止材としてタルクに代えてオプライト(商品名:オプライトP1200、中央シリカ株式会社製)(添加量4.0%)を用いた粒状被覆肥料(ASU添加量2.0%)を上記同様に作製し、「オプライト/ASU2.0%」として用いた。
【0061】
試料を真鍮製試料台上にカーボンテープで固定し、高真空蒸着装置(日本電子/日電子テクニクス株式会社製JEE-4X)によりカーボンを蒸着した。走査型電子顕微鏡内に試料を導入し、加速電圧15kVでSEM像により表面組織を観察し、30倍、1,000倍の写真を撮影した。同時に、エネルギー分散型分光器(EDS)により表面近傍に含有される元素の特性X線スペクトルを測定した。
【0062】
「ASU2.0%」についての結果を図2に示す。粒状被覆肥料の表面に、尿素及びASUの各分子を構成する元素であるC、N、O、Sが検出された。したがって、粒状尿素の表面に、ASUがたしかに展着されていることが確認された。
【0063】
「タルク/ASU2.0%」についての結果を図3に示す。粒状被覆肥料の表面に、タルクを構成する元素であるMg、Si、Oが検出された。したがって、粒状被覆肥料の表面が、タルクによってたしかに被覆されていることが確認された。
【0064】
「オプライト/ASU2.0%」についての結果を図4に示す。粒状被覆肥料の表面に、オプライトを構成する元素であるMg、Al、Si、Oが検出された。したがって、粒状被覆肥料の表面が、オプライトによってたしかに被覆されていることが確認された。
【0065】
(実施例2)
(異なる製造方法の検証)
実施例1では、パン型造粒機を用いて粒状被覆肥料を製造したが、本実施例では異なる方法での製造について検証した。
【0066】
一方向に被搬送物を送るための回転機構を有する搬送機を用いて、粒状尿素にASUを展着させた。より具体的には、水平Uトラフ型スクリューコンベア(機長5,100mm、回転数71rpm、シャフト軸径114.3mm、羽根外径φ320mm、250ピッチ及び同型のスクリューコンベア(機長4,050mm、回転数71rpm、シャフト軸径114.3mm、羽根外径φ320mm、250ピッチ)に、粒状尿素を7kg/秒で搬送し、マシン油を0.06kg/秒で添加し、ASUを0.05kg/秒又は0.19kg/秒で添加し、回転混合しながら連続的に搬送することで2種の試料(ASU添加量:0.5%又は2.0%)を得た。また、実施例1と同様の方法により、パン型造粒機を用いて粒状尿素にASUを展着させた試料(ASU添加量:2.0%)を得た。なお、マシン油、粒状尿素及びASUについては、実施例1と同様のものを使用した。
【0067】
上記のとおり得られた3種の試料の表面状態を、走査型電子顕微鏡を用いて評価した。試料を真鍮製試料台上にカーボンテープで固定し、イオンスパッタ装置によりPtを蒸着した。走査型電子顕微鏡内に試料を導入し、加速電圧10KeVでSEM像により表面組織を観察し、30倍、100倍、1,000倍、2,000倍、5,000倍及び10,000倍の写真を撮影した。
【0068】
SEM画像を図5に示す。図5(a)はスクリューコンベアを用いて製造した試料(ASU添加量:0.5%)、図5(b)はスクリューコンベアを用いて製造した試料(ASU添加量:2.0%)、図5(c)はパン型造粒機を用いて製造した試料(ASU添加量:2.0%)のSEM画像である。スクリューコンベアを用いて製造した試料(図5(a)(b))では、パン型造粒機を用いて製造した試料(図5(c))と同様に、略球状の、ASUが展着された粒状尿素が得られたことが示された。したがって、スクリューコンベアを用いた場合でも、パン型造粒機を用いた場合と同様に、粒状被覆肥料を製造できることが示唆された。
【0069】
また、粒状尿素958kg又は粒状尿素835kgと粒状硫酸アンモニア89kgを混合したものを水平Uトラフ型スクリューコンベア(機長4,170mm、回転数66rpm、シャフト軸径139.8mm、羽根外径φ400mm、両端2枚300ピッチ、中央部210ピッチ)に24kg/秒で搬送し、ASUとマシン油を1:1の質量比で混合したスラリーを0.29kg/秒又は1.15kg/秒で添加し、回転混合しながら連続的に搬送した。その後、肥料累積配合設備によりバッチ混合して、再度スクリューコンベアで搬送し、オプライトを0.75kg/秒で添加し、回転混合しながら連続的に搬送した。その後、肥料累積配合設備によりバッチ混合することで粒状被覆肥料(ASU添加量:0.5%又は2.0%)を得た(図示せず)。スクリューコンベア及び肥料累積配合設備を用いた場合でも、粒状被覆肥料を製造できることが明らかとなった。
【0070】
(実施例3)
(ASUとマシン油を混合したスラリーの粘度測定)
粒状の肥料の表面に、硝酸化成抑制材(ASUなど)を均一に被覆するためには、硝酸化成抑制材とマシン油とを混合して得られるスラリーの粘度が重要な因子となる。以下のとおり、粒状被覆肥料を製造する際に用いられるスラリーの粘度を測定した。
【0071】
ASUとマシン油とを、ASU:マシン油=1:1、1:1.5、1:2の各重量比でトールビーカーに入れて混合し、試料スラリー(450cm)を得た。それらをウオーターバスに入れ、所定温度(20℃又は40℃)になるまで静置した。回転B型粘度計(東機産業製TVB-10M)に各種ローター(M1、M3、M4)を装着し、回転数(10~100rpm)で5分間回転させ、試料スラリーの粘度を測定した。なお、ASU及びマシン油については、実施例1と同様のものを使用した。
【0072】
各温度における試料スラリーの粘度とローター回転数との関係を図6に示す。マシン油の粘度はローター回転数に関係なく一定で、ASUとマシン油の混合スラリーの粘度はローター回転数の増加に伴い低下したことから、マシン油はニュートン流体、混合スラリーは非ニュートン流体であることがわかった。本実施例において使用したマシン油の動粘度(40℃)は27.49mm/sであり、工業用潤滑油ISO粘度グレードとしてはISO VG 28に該当することが確認された。マシン油の粘度(=動粘度×密度)(40℃)は密度1.1g/cmから計算して0.0302Pa・sであった。
【0073】
図6において、ASUの混合比が高い試料スラリーの粘度はより高値を示した。例えば、20℃では、ASU:マシン油=1:1の試料スラリーの粘度は4.2~10.6Pa・s、ASU:マシン油=1:1.5の試料スラリーの粘度は2.3~9.8Pa・sであった。また、40℃では、ASU:マシン油=1:1の試料スラリーの粘度は2.0~9.9Pa・sであり、ASU:マシン油=1:1.5の試料スラリーの粘度は1.3~5.3Pa・sであった。本実施例において、この範囲の粘度であれば、操作性及び展着効率の観点から、粒状被覆肥料の製造において好適に用いられ得ることが示された。
【0074】
(実施例4)
参考例として、粒状尿素にASUを展着させた試料の硝酸化成抑制効果を、無機化速度の評価によって検証した。
【0075】
(粒状尿素にASUを展着させた試料の製造)
粒状尿素を、実施例1と同様のパン型造粒機に入れ、マシン油及びASUを下記(表3)の配合割合で加えてパン回転数22.6rpmで5分間攪拌することにより、粒状尿素にASUを展着させた試料を作製した。なお、対照肥料として、尿素のみの肥料を用いた。粒状尿素、マシン油及びASUについては、実施例1と同様のものを使用した。
【0076】
【表3】
【0077】
(無機化速度試験)
生土(褐色低地土、pH6.5、EC(Electrical Conductivity:電気伝導度):0.03mS/cm、水分含量:8.3%、試験前に目開き5mmの網に通した)35gを100mLのポリ瓶に採取し、脱塩水5mLを添加した(添加後の水分含量21%)。上記のとおり得られた各試料又は対照肥料を、窒素成分として20mg相当量を土に添加し、スパチュラで混合して分析試料とした。分析試料にアルミホイルを被せて蓋をして、設定温度20℃のインキュベーター庫内で2週間、4週間、8週間又は12週間培養した。培養期間中は、蒸発した水分を補充するために、2週間毎に土に加水した。培養した分析試料を十分に攪拌し、該分析試料20gを別のポリ瓶に採取し、10%塩加カリウム水溶液を加え30分間振とうした後、乾燥濾紙でろ過して、試料液とした。該試料液をオートアナライザー(BLTEC製、QuAAtro2-HR)で測定し(「土壌・作物栄養診断分析法2012」を参照)、アンモニア態窒素及び硝酸態窒素を定量した。なお、各試験区において分析試料を同一条件下で3点ずつ作製し、各試験区の3点の分析試料についての分析結果の平均値をアンモニア態窒素及び硝酸態窒素の値とした。
【0078】
測定したアンモニア態窒素及び硝酸態窒素の値に基づき、無機態窒素中の硝酸態窒素の比率(%)(硝酸化の程度を示す)を算出した。
【0079】
結果を図7に示す。尿素のみの対照肥料(図7において「尿素」)では、培養開始12週後にはほぼ100%近く硝酸化されたのに対して、粒状尿素にASUを展着させた試料では、硝酸化成が抑制されていることが示された。特に、ASU添加量4.5%の試料では、培養開始12週後でも硝酸化の程度が極めて低く維持されており、優れた硝酸化成抑制効果が発揮された。
【0080】
以上より、本実施例の粒状尿素にASUを展着させた試料は、尿素(肥料)の表面に、工業用潤滑油を介してASUが展着することで、ASUが尿素に対して確実に硝酸化成抑制効果を発揮していることが示された。
【0081】
(実施例5)
(粒状被覆肥料の流動性評価)
肥料の機械施肥において、肥料の流動性は極めて重要な因子である。本実施例の粒状被覆肥料の流動性を下記のとおり検証した。
【0082】
以下の各試料を用いた。
・「粒状尿素」:実施例1に記載のものと同様のものを用いた。
・「ASU2.0%」「ASU4.0%」:マシン油にASUを質量比1:1で加え、2~3分間攪拌してスラリーを得た。粒状尿素及び該スラリーをパン型造粒機(自社製)に入れ、パン回転数22.6rpmで5分間攪拌することにより、粒状尿素に該スラリーを被覆させて「ASU2.0%」「ASU4.0%」を得た。
・「ASU2.0%/オプライト2.0%」「ASU2.0%/オプライト4.0%」「ASU2.0%/オプライト6.0%」「ASU4.0%/オプライト2.0%」「ASU4.0%/オプライト4.0%」「ASU4.0%/オプライト6.0%」:肥料成分が尿素のみである粒状被覆肥料において、固結防止材としてタルクに代えてオプライト(添加量2.0%、4.0%、6.0%)を用いた粒状被覆肥料(ASU添加量2.0%、4.0%)を実施例1と同様に作製した。
・「ASU2.0%/シリカライト2.0%」「ASU2.0%/シリカライト4.0%」「ASU2.0%/シリカライト6.0%」「ASU4.0%/シリカライト2.0%」「ASU4.0%/シリカライト4.0%」「ASU4.0%/シリカライト6.0%」:肥料成分が尿素のみである粒状被覆肥料において、固結防止材としてタルクに代えてシリカライト(商品名:マイクロシリカ、エルケム・ジャパン株式会社製)(添加量2.0%、4.0%、6.0%)を用いた粒状被覆肥料(ASU添加量2.0%、4.0%)を実施例1と同様に作製した。
【0083】
各試料1,000gをアクリル製の10cm四方の容器に充填し、容器の一辺の壁面を外して試料を排出させ、容器外へ排出された試料重量を測定して、排出率を算出した。排出率が大きい程、流動性が良好であることを意味する。
【0084】
結果を表4に示す。粒状尿素では排出率は65.8%であったが、ASUを被覆させることにより、ASU2.0%では56.0%、ASU4.0%では37.2%に排出率が低下し、流動性が低くなった。ASU2.0%にさらにオプライト又はシリカライトを被覆させることで、排出率が上昇し、特に、「ASU2.0%/オプライト2.0%」「ASU2.0%/オプライト4.0%」「ASU2.0%/オプライト6.0%」「ASU2.0%/シリカライト4.0%」「ASU2.0%/シリカライト6.0%」「ASU4.0%/オプライト4.0%」「ASU4.0%/オプライト6.0%」では、何も被覆させていない粒状尿素と同等の排出率を示し、ASUのみを被覆した試料よりも流動性が向上していた。したがって、粒状尿素にASUを被覆し、さらに固結防止材を被覆させることで、流動性が良好な粒状被覆肥料が得られることが示された。
【0085】
【表4】
【0086】
また、以下のオプライトを被覆させた各試料を用いて、各試料1,000gをアクリル製の10cm四方の容器に充填し、容器の一辺の壁面を外して試料を排出させ、容器内に安定残存した試料の斜面と水平面のなす角度(安息角)を測定した。また、その際に容器外へ排出された試料重量を測定して、排出率を算出した。安息角が小さく、排出率が大きい程、流動性が良好であることを意味する。なお、安息角及び排出率を各試料につき3回測定し、その平均値を算出した。
・「粒状尿素」:実施例1に記載のものと同様のものを用いた。
・「ASU0.5%/オプライト1.0%」「ASU1.0%/オプライト2.0%」「ASU2.0%/オプライト2.0%」「ASU4.5%/オプライト4.0%」:肥料成分が尿素のみである粒状被覆肥料において、固結防止材としてタルクに代えてオプライト(添加量1.0%、2.0%、4.0%)を用いた粒状被覆肥料(ASU添加量0.5%、1.0%、2.0%、4.5%)を実施例1と同様に作製した。
【0087】
結果を表5に示す。粒状尿素では安息角は32°、排出率は65.8%であったが、ASU及びオプライトを被覆させても、安息角及び排出率は、何も被覆させていない粒状尿素と同等の安息角及び排出率を示し、流動性は維持されていた。したがって、粒状尿素にASUを被覆し、さらに固結防止材を被覆させることで、流動性が良好な粒状被覆肥料が得られることが示された。
【0088】
【表5】
【0089】
(実施例6)
(粒状被覆肥料の水中溶解特性の評価)
硝酸化成抑制材を含む肥料においては、土壌中に硝酸化成抑制材と肥料成分とが同時期に供給される必要がある。硝酸化成抑制材の溶出と、肥料成分の溶出と、のタイミングが異なる場合は、硝酸化成抑制材による肥料成分への硝酸化成抑制効果が十分に得られないためである。そこで、本実施例の粒状被覆肥料の水中溶解特性の評価を以下のとおり行った。
【0090】
試料として、実施例5で使用した「粒状尿素」「ASU0.5%/オプライト1.0%」「ASU1.0%/オプライト2.0%」「ASU2.0%/オプライト2.0%」「ASU4.5%/オプライト4.0%」を用いた。各試料について、篩掛けにより2.36~2.83 mm区画品を分取した。バットに目開き2.00mm区画の篩が十分に浸るように水道水を注入し、静止させた。上記のとおり分取した各試料3粒を篩上に静置し、網下へ落下する時間を計測した。上記試験を3回繰り返し、その落下時間の平均値と標準偏差を算出して、各試料の水中溶解時間とした。
【0091】
結果を図8に示す。粒状尿素の水中溶解時間は1分7秒であったのに対して、ASU及びオプライトで被覆した粒状被覆肥料の各試料は1分18~35秒であった。このように、本実施例の粒状被覆肥料では、何も被覆させていない粒状尿素に比べて、水中溶解時間はわずか11~28秒しか遅延していなかった。したがって、本実施例の粒状被覆肥料では、水と接触した時に、ASU及び尿素の両者がほぼ同時に溶解することが明らかとなり、土壌中においても、硝酸化成抑制材であるASUと肥料成分である尿素とが同時期に溶出し、硝酸化成抑制効果が確実に得られることが示された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8