(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125248
(43)【公開日】2024-09-17
(54)【発明の名称】会計処理のための情報処理装置、および情報処理方式
(51)【国際特許分類】
G06Q 40/12 20230101AFI20240909BHJP
【FI】
G06Q40/12 420
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2023046025
(22)【出願日】2023-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】522503078
【氏名又は名称】合同会社コトイコンサルタンシー
(72)【発明者】
【氏名】謝 昊辰
(72)【発明者】
【氏名】森山 巧
【テーマコード(参考)】
5L040
5L055
【Fターム(参考)】
5L040BB64
5L055BB64
(57)【要約】 (修正有)
【課題】入力データに対して、自動的に会計・集計処理を施し、使用者の、自他の財務・経済状況の把握の補助、または財務・会計報告を行うための文書の作成、若しくは前二者を行うために有用な情報の編纂、を行う情報処理装置、または情報処理方式、または前二者を実現するプログラムを提供する。
【解決手段】方法は、証憑を一次データとして受け取り、仕訳を会計処理にとって必須なデータとしての地位から単なる情報処理装置の処理過程の中間生成物の地位に下げる。また、広範な入力形式、用途の入力データに対応するため、従来の会計処理装置になかった新たなデータ処理フローを採用し、また入力データの空間の拡大に伴って処理に十分な柔軟性を持たせるため、使用者が需要や要求によって会計・集計処理の方法を設定可能とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単独または他の情報と対となることで財務・経済状況の把握に有益となるような値から成る第一の集合と、
前記第一の集合に対する作用から成る代数体系と、
会計・集計処理を行う対象である勘定科目から成る第二の集合と、
を備え、
操作者が簿記会計上の、所謂仕訳データの入力または確定を行う必要がないことと、
必要に応じて多種多様なデータを入力データとすることができることと、
を特徴とし、
更に、
使用者の需要や要求によって設定された会計・集計処理の方法に従い、前記入力データから、前記第二の集合の要素と前記作用から成る順序対から成る列を導出する順序対列導出手段と、
勘定科目ごとに、前記順序対列導出手段によって導出された前記順序対から成る列を参照して、当該勘定科目との順序対が前記順序対から成る列に含まれるような作用から成る列を定め、当該作用から成る列に含まれる作用を前記第一の集合に属する適切な要素に順次作用させることによって、当該勘定科目に対応して、前記第一の集合の要素を定める値生成手段と、
を備え、
前記入力データに対して、会計・集計処理を施し、使用者の、自他の財務・経済状況の把握の補助、または財務・会計報告を行うための文書の作成、若しくは前二者を行うために有用な情報の編纂、を行うことを目的とした、
情報処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の情報処理装置であって、
前記第一の集合、または前記代数体系、若しくは前記第二の集合が、使用者の需要や要求によって任意に設定できる、
情報処理装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の情報処理装置であって、
更に、
前記第二の集合として一種類だけの集合を備える必要はなく、複数の前記第二の集合を共存させることを可能とすることを特徴とする、
情報処理装置。
【請求項4】
請求項1または2または3に記載の情報処理装置であって、
更に、
前記第二の集合の要素である勘定科目のうち、一科目あるいは複数科目を与えられ、当該勘定科目に対応する前記第一の集合の要素を、当該勘定科目の各々と対応する形で生成するクエリ手段
を備えた、
情報処理装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の情報処理装置であって、
前記第二の集合として、互いに単位が異なる量で表される項目から成る二つ以上の集合を共存させることを特徴とする、
または前記第二の集合として、単一の集合であって、当該集合中に互いに単位の異なる量で表される二つ以上の項目を含む様な集合を備えることを特徴とする、
または前二者の特徴を共に持つ、
ような
情報処理装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の情報処理装置であって、
更に、
勘定科目に対して前記値生成手段によって生成される、当該勘定科目と前記第一の集合の要素の対応に関する、何らかの制限を一項目、もしくは複数項目備え、
前記値生成手段実行時に、前記値生成手段によって実際に生成された値について、当該制限が満たされるか否かを判定することで、当該生成された値の正当性を検証する正当性検証手段
を備えた、
情報処理装置。
【請求項7】
請求項6に記載の情報処理装置であって、
前記第二の集合の部分集合を二つ以上を備え、
前記第一の集合が可換半群の公理を満たす何らかの演算を備え、
前記正当性検証手段が用いる前記制限の一部または全部として、
備えられた前記第二の集合の部分集合のうち、どの二つに関しても、
当該第二の集合の部分集合のうち前者に属する要素に対応して、前記値生成手段によって生成される、前記第一の集合の要素の、前記可換半群の前記演算の意味での総和と、
当該後第二の集合の部分集合のうち後者に属する要素に対応して、前記値生成手段によって生成される、前記第一の集合の要素の、前記可換半群の前記演算の意味での総和と、
が、等しくなる、
という形式の制限を備えた、
情報処理装置。
【請求項8】
請求項7に記載の情報処理装置であって、前記第二の集合に、複式簿記勘定科目における、
資産、費用、負債、純資産、利益のいずれかに相当する要素、
または複数によって資産、費用、負債、純資産、利益のいずれかに相当する要素群を、それぞれ含み、
前記部分集合として、
資産、費用に相当する要素からなる前記第二の集合の部分集合と、
負債、純資産、利益に相当する要素からなる前記第二の集合の部分集合と、
を備えた、
情報処理装置。
【請求項9】
単独または他の情報と対となることで財務・経済状況の把握に有益となるような値から成る第一の集合と、
前記第一の集合に対する作用から成る代数体系と、
会計・集計処理を行う対象である勘定科目から成る第二の集合と、
を備え、
操作者が簿記会計上の、所謂仕訳データの入力または確定を行う必要がないことと、
必要に応じて多種多様なデータを入力データとすることができることと、
を特徴とし、
更に、
使用者の需要や要求によって設定された会計・集計処理の方法に従い、前記入力データから、前記第二の集合の要素と前記作用から成る順序対から成る列を導出する順序対列導出手段と、
勘定科目ごとに、前記順序対列導出手段によって導出された前記順序対から成る列を参照して、当該勘定科目との順序対が前記順序対から成る列に含まれるような作用から成る列を定め、当該作用から成る列に含まれる作用を前記第一の集合に属する適切な要素に順次作用させることによって、当該勘定科目に対応して、前記第一の集合の要素を定める値生成手段と、
を備え、
前記入力データに対して、会計・集計処理を施し、使用者の、自他の財務・経済状況の把握の補助、または財務・会計報告を行うための文書の作成、若しくは前二者を行うために有用な情報の編纂、を行うことを目的とした、
情報処理方式。
【請求項10】
コンピュータを請求項1から8のいずれか一項に記載の情報処理装置として機能させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力データに対して、自動的に会計・集計処理を施し、使用者の、自他の財務・経済状況の把握の補助、または財務・会計報告を行うための文書の作成、若しくは前二者を行うために有用な情報の編纂、を行う情報処理装置、または情報処理方式、または前二者を実現するプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、会計処理を行う装置(以下会計処理装置ともいう。)は数多く存在するが、その多くは操作者が簿記のルールに従って仕訳を行い、当該仕訳を入力するという形式を取る。
【0003】
言い換えると、現在までに主に運用されている会計処理装置は、物理的な帳簿の機能を装置上に移したものに過ぎず、操作者自身が簿記のルールを理解している必要があるものがほとんどである。
【0004】
自動的に仕訳をする会計処理装置も登場してきてはいるが、当該会計処理装置であっても基本的には人間の入力に対する補助機能としてであったり、小規模な運用を想定していて仕訳の精度については妥協的であったりするものであった。
【0005】
その中にあって特許文献1では、物理的な証憑を光学的に検出し、自動で当該証憑を仕訳する方式であり、しかも高精度で正しい仕訳を行うことを目指せる方式が発明されている。
【0006】
特許文献1に見られる証憑を入力データとし、高精度の仕訳を行う方式は非常に有効であると考えられるが、特許文献1はあくまでも自動仕訳を行うものであり、最終的には操作者が仕訳を確定させる必要がある。特に、一旦証憑の入力操作を完了した後に、証憑に修正あるいは更新があった場合は、仕訳自体を再度行わなければならない。上記の意味で特許文献1は完全に仕訳が不要な会計処理方式を提供するわけではない。
【0007】
また、企業における会計処理を完全に自動化することを目的とする場合には、会計に明るくない労働者から提供された形式が不完全な情報を扱う必要があったり、従来的な意味での証憑(例えば領収書や請求書)から得られる情報のみでは不十分になり、例えば労働者の労働時間や社内在庫の管理に関連した情報を扱う必要が出てきたりする。すなわち、証憑という概念を従来より広く捉える必要があり、当該目的にとっては特許文献1は不十分な部分がある。
【0008】
また、現在、勘定と関連した処理、例えば会計処理、給与計算、在庫管理などは全て独立に行われていることがほとんどである。しかしながら、前記勘定と関連した処理は相互に影響を与え合っているはずであり、独立に処理することによって不整合が起こるリスクがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Wolfgang Balzer、Richard Mattessich、”An axiomatic basis of accounting:a structuralist reconstruction.”、平成3年、Theory and Decision 第30号:213-243頁
【非特許文献2】Jos▲e▼ M.Guti▲e▼rrez、”On the gearing adjustment.An axiomatic approach.”、平成4年、Theory and Decision 第33号:207-221頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は以下に挙げる三を課題とする。
【0012】
操作者が仕訳を入力または確定させる必要がなく、操作者に要求する簿記知識の量が極めて小さく、また入力操作の完了後に一次データが更新された場合にも、仕訳を再度行う必要がない、
会計処理のための情報処理装置、および情報処理方式を提供することを第一の課題とする。
【0013】
企業における会計処理を、完全に自動化可能とすることを目標とし、当該目標の実現のために必須な要件と考えられる、より多種多様な情報を処理することを可能とする、
会計処理のための情報処理装置、および情報処理方式を提供することを第二の課題とする。
【0014】
企業において、従来ではほとんどの場合に独立に行われていた複数の勘定と関連した処理、例えば会計処理、給与計算、在庫管理など、を同一一次データから一元的に行い、当該複数の勘定と関連した処理の処理結果を相互に検証することを可能とする、
会計処理のための情報処理装置、および情報処理方式を提供することを第三の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
特許文献1のように証憑を一次データとして受け取ることにより、会計処理装置の操作者が直接仕訳を作成する必要はなくなる。
【0016】
また、仕訳を必須なデータではなく、単に必要な数値を抽出する過程の処理の中間生成物であると捉え、情報処理装置にも記録されないとすることで、操作者は仕訳を確定する必要もなくなる。特に、証憑の入力操作の完了後に、証憑自体に修正あるいは更新があった場合でも、証憑を更新するのみで正しい挙動を得ることができ、仕訳を更新する必要はない。
【0017】
また、完全に自動で企業全体の会計処理を行うためには、従来の証憑という概念に収まらず、必要に応じて、会計に明るくない労働者から提供された形式が不完全な文書や、その他の相互関連する文書、例えば労働者の労働時間や社内在庫の管理に関連した文書などといった、非常に広義に捉えた証憑をも入力として受け入れる必要があり、入力データの広範な形式に対処する必要が出てくる。またこの様に入力データの空間が拡大するのに伴って、当該入力データの処理に関しても十分な柔軟性が必要である。
【0018】
広範な入力形式、用途の入力データに対応するため、従来の会計処理装置になかった新たなデータ処理フローを採用し、また入力データの空間の拡大に伴って処理に十分な柔軟性を持たせるため、使用者が需要や要求によって会計・集計処理の方法を設定可能とする。
【0019】
また、前記のように広範な入力形式、用途の入力データに対応することは、0008段落で述べたように従来ではほとんどの場合に独立に行われていた、勘定と関連した処理を同時に行い、結果を相互検証することを可能とする。即ち、会計処理と同時に、会計処理以外の勘定に関連する処理を一元的に行い、結果を相互に検証することを可能とするわけである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、多種多様な一次データを元に、自動的に、会計処理および、その他勘定と関連した処理を行い、当該会計処理および、その他勘定と関連した処理の結果を相互に検証することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】第一の実施例で記述される情報処理装置のシステム構成図である。
【
図2】第一の実施例において、情報処理装置が会計処理を行う、仮想の企業Aの経済活動の例を表す図である。
【
図3】
図2に示した経済活動と、第一の実施例において情報処理装置の入力データとなる証憑との対応を表す図である。
【
図4】
図2に示した企業Aの経済活動と、
図3に示した証憑を情報処理装置が抽象化した証憑データセットとの対応を表す図である。
【
図5】
図4に示した証憑データセットを仕訳関数の入力とした場合の、当該入力と出力となる仕訳エントリーバッグとの対応を示した図である。
【
図6】
図5において仕訳関数の出力として得られた仕訳エントリーバッグの各要素を仕訳エントリー分解関数の入力とした場合の、当該入力と出力となる仕訳アイテム集合との対応を示した図である。
【
図7】第一の実施例において、情報処理装置が実施する値生成手段の最終結果となる複合量を表す図である。
【
図8】第一の実施例において、情報処理装置が備える勘定科目と値の対応に対する制限が、
図7の結果においては満たされることが確認可能な図である。
【
図9】第一の実施例において、情報処理装置が出力する資料の形式の例となる図である。
【
図10】第一の実施例よりも単位空間が大きい実施例において、情報処理装置が出力する資料の形式の例となる図である。
【
図11】第二の実施例における、勘定科目クラス、単位空間、勘定科目命名言語、勘定科目命名言語の標準的な解釈の構成をプログラミング言語Standard MLを模した疑似コードで記述した図である。
【
図12】第二の実施例において、情報処理装置が会計処理、労働時間管理処理を行う、仮想の企業Aの仮想の従業員Yの稼働状況並びに給与支払状況の例を表す図である。
【
図13】
図12に示した従業員Yの稼働状況並びに給与支払状況と、第二の実施例において情報処理装置の入力データとなるワークログおよび証憑との対応を表す図である。
【
図14】第二の実施例において、情報処理装置が会計処理を行う、仮想の企業Aの経済活動の例を表す図である。
【
図15】
図14に示した企業Aの経済活動と、第二の実施例において情報処理装置の入力データとなる証憑との対応を表す図である。
【
図16】
図12に示した従業員Yの稼働状況並びに給与支払状況および
図14に示した企業Aの経済活動と、
図13および
図15に示したワークログおよび証憑を情報処理装置が抽象化した証憑データセットとの対応を表す図である。
【
図17】
図16に示した証憑データセットを仕訳関数の入力とした場合の、当該入力と出力となる仕訳エントリーバッグとの対応を示した図である。
【
図18(a)】
図17において仕訳関数の出力として得られた仕訳エントリーバッグの各要素を仕訳エントリー分解関数の入力とした場合の、当該入力と出力となる仕訳アイテム集合との対応を示した図である。
【
図18(b)】
図17において仕訳関数の出力として得られた仕訳エントリーバッグの各要素を仕訳エントリー分解関数の入力とした場合の、当該入力と出力となる仕訳アイテム集合との対応を示した図である。
【
図19】第二の実施例において、情報処理装置が実施する値生成手段の最終結果となる複合量を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(実施例で用いる共通の構成)
以下の実施例において、請求項における「第一の集合」および、「代数体系」、および「第二の集合」として使われるオブジェクトについて、共通の構成を用いるので、先に当該共通の構成について説明する。
【0023】
前記共通の構成では、使用者が「勘定科目クラス」、「単位空間」とそれぞれ呼ばれる二つの集合を交わりを持たないように定める。ここで、単位空間は有限集合である必要がある。また、以下では「勘定科目クラス」の要素を「勘定科目指示子」と呼び、「単位空間」の要素を「単位」と呼ぶ。
前記共通の構成では、使用者は直接、装置のシステム上のパラメータである第一の集合、代数体系、第二の集合を定めることはできないが、勘定科目クラス、単位空間、および後述する勘定科目命名言語、および当該勘定科目命名言語の標準的な解釈を通して、間接的に当該装置のシステム上のパラメータを定めることができる。
従って、前記共通の構成は請求項2に記載の「前記第一の集合、または前記代数体系、若しくは前記第二の集合が、使用者の需要や要求によって任意に設定できる」という特徴を満たす。
【0024】
前記勘定科目クラスと前記単位空間の直積集合を「勘定科目宇宙」と呼ぶ。また、以下では勘定科目宇宙の要素を「原始勘定科目」と呼ぶ。
【0025】
正の符号を表す記号「+」、
および負の符号を表す記号「-」、
の二つの要素からなる集合を以下では「符号集合」と呼ぶ。
前記単位空間と、
前記符号集合と、
の直積集合を「符号付き単位空間」と呼び、符号付き単位空間の元を以下では、「符号付き単位」と呼ぶ。
【0026】
符号付き単位空間から、
非負の有理数全体の集合への、
写像全体からなる集合を以下では「複合量空間」と呼び、複合量空間の要素を以下では「複合量」と呼ぶ。
複合量mは、何らかの勘定科目と対になった時、
単位denと符号を表す記号sgnに対して、当該単位および当該符号を表す記号によってなる符号付き単位(den,sgn)のmによる関数値m(den,sgn)を参照することで、
sgn=+の場合は、当該勘定科目を単位denで評価した場合の増加高を、sgn=-の場合は、当該勘定科目を単位denで評価した場合の減少高を、
それぞれ表すと見なすことで、当該勘定科目に関する「財務・経済状況の把握に有益」となるから、請求項1に記載の「第一の集合」として適切である。
そこで、以下の全ての実施例では、複合量を請求項1に記載の「第一の集合」に対応するものとして用いる。
また、
単位空間から、
有理数全体の集合への、
写像全体からなる集合を以下では「符号を潰された複合量空間」と呼び、符号を潰された複合量空間の要素を以下では「符号を潰された複合量」と呼ぶ。
また複合量mに対して、当該複合量に「対応する」符号を潰された複合量fmを、
全ての単位denに対して
fm(den)=m(den,+)-m(den,-)
たる写像であると定める。
ある勘定科目と対になっている複合量に対応して、当該複合量と対応する符号を潰された複合量を与えることは、当該勘定科目の、正負の変動を合計した変動高を表すことであると見做せるから、符号を潰された複合量もまた当該勘定科目に関する「財務・経済状況の把握に有益」であり、請求項1に記載の「第一の集合」として適切である。
そこで、以下の全ての実施例では、
符号を潰された複合量も、
複合量と並んで、
請求項1に記載の「第一の集合」に対応するものとして用いる。
【0027】
非負の有理数全体は、標準的な有理数上の加法に対して可換半群をなし、複合量は非負の有理数を終域とする写像であったから、二つの複合量に対して、点ごとの標準的な有理数上の加法を考えることができる。
前記点ごとの標準的な有理数上の加法を、複合量空間上の二項演算と考えることによって、複合量空間は可換半群をなす。
また同様に、(非負とは限らない)有理数全体も、標準的な有理数上の加法に対して可換半群をなし、符号を潰された複合量は有理数を終域とする写像であったから、二つの符号を潰された複合量に対して、点ごとの標準的な有理数上の加法を考えることができる。
前記点ごとの標準的な有理数上の加法を、符号を潰された複合量空間上の二項演算と考えることによって、符号を潰された複合量空間は可換半群をなす。
よって前記点ごとの標準的な有理数上の加法は、請求項7に記載の「可換半群の公理を満たす何らかの演算」として適切である。
そこで以下の実施例の全てで、前記点ごとの標準的な有理数の加法を、請求項7に記載の「可換半群の公理を満たす何らかの演算」と対応するものとして用いる。
【0028】
可換半群は当該可換半群自身の上に自然な方法で作用するから、前記点ごとの標準的な有理数の加法を演算として備えると見做した複合量空間自身は請求項1に記載の「代数体系」として適切である。
そこで以下の実施例全てで、「前記点ごとの標準的な有理数の加法を演算として備えると見做した複合量空間」を請求項1に記載の「代数体系」に対応するものとして用いる。
【0029】
前記共通の構成では、使用者が「勘定科目命名言語」と呼ばれる集合と、「勘定科目命名言語の標準的な解釈」(以下紛れの恐れがない場合は単に、「標準的な解釈」や「解釈」と呼ぶこともある。)と呼ばれる、勘定科目命名言語から勘定科目宇宙の冪集合への写像を定める。
ただしここで、勘定科目命名言語の標準的な解釈は、
もし、あるαが当該勘定科目命名言語の標準的な解釈の値域に含まれたならば、
全てのαに属する原始勘定科目aについてaのみからなるシングルトンは、当該勘定科目命名言語の標準的な解釈の値域に含まなければならないものとする。
なお、勘定科目命名言語の要素は、「勘定科目命名言語項」、もしくは紛れの恐れのない場合は単に「項」と呼ぶ。
【0030】
勘定科目命名言語の標準的な解釈の値域を以下では「報告勘定科目空間」と呼び、報告勘定科目空間の要素を以下では「報告勘定科目」と呼ぶ。
以下の実施例全てで、報告勘定科目空間の部分集合を請求項1に記載の「第二の集合」に対応するものとして用いている。ただし、どのような部分集合かは、実施例により異なっている。
【0031】
以下、本発明の実施形態の例を説明する。
【実施例0032】
(第一の実施例)
以降で述べる実施形態の例は、本発明を用いて、標準的な複式簿記を行う場合である。
【0033】
本実施形態では、本発明は情報処理装置として実現され、そのシステム構成図は
図1である。
図示した通り、情報処理装置の全体は、「入力データ受入部」、「操作受入部」、「処理部」、「表示部」、「通信部」、「出力部」、「記憶部」の七の構成要素から成る。
前記入力データ受入部は会計処理のための情報を含む入力データを受け入れる部分であり、
前記操作受入部は情報処理装置の操作を行う者が入力操作を行う際のインターフェースとなる部分であり、
前記処理部は情報処理装置が以降で説明する情報処理を行う部分であり、
前記表示部は情報処理装置からの、情報処理装置の操作を行う者への操作の要求や出力データを表示する部分であり、
前記通信部は情報処理装置が他の何らかの装置と通信を行うための部分であり、
前記出力部は出力データを紙面に印刷するなどして情報装置外部に出力する部分であり、
前記記憶部は情報処理装置内部に何らかのデータを保存するための部分である。
前記七の構成要素のうち、通信部は必須な構成要素ではない。
また、記憶部は、少なくともシステムの挙動を記憶するための記憶部を要求するが、書き込み可能な記憶部を持つことも持たないことも可能である。
ただし、通信部や書き込み可能な記憶部を省略する場合は、以降で示すいくつかの可能な構成や運用が失われることになる。ただし、代替可能な構成や運用が存在するため、情報処理装置が請求項1に示す目的、「入力データに対して、会計・集計処理を施し、使用者の、自他の財務・経済状況の把握の補助、または財務・会計報告を行うための文書の作成、若しくは前二者を行うために有用な情報の編纂、を行うこと」を達成することは、当該の場合でも依然として可能である。
また本実施形態では、本発明の「使用者」という語を、本発明を導入する経済主体の意味で用い、本発明の情報処理装置の「操作者」という語を、情報処理装置を実際に操作する人物の意味で用いる。使用者および操作者は同一であることも、異なることも可能である。
【0034】
本実施の形態では勘定科目クラスおよび勘定科目命名言語は集合として同一であり、「資産」、「費用」、「負債」、「純資産」、「利益」の計五の要素(ただし、各要素は当該要素の意味する事物そのものではなく、単なる記号である。)から成る集合である。
また、単位空間は「万円」(「万円」も、やはり何らかの事物を指すのではなく、単なる記号である。)のみから成るシングルトンである。
勘定科目命名言語の標準的な解釈は、ある記号aを受け取って、aと、記号「万円」と、から成る順序対のみから成るシングルトンを返す関数として定義を行う。
前記定義は勘定科目クラスと勘定科目命名言語が集合として同一だから意味を成しており、かつ各原始勘定科目からなるシングルトンが値域に含まれるから勘定科目命名言語の標準的な解釈として適切であることに注意せよ。
なお、以降では今段落で行ったように日本語の文章を用いて、順序対や集合を指示することもあるが、数学における標準的な記号法による記号を用いて、これらを指示することもある。
この場合、例えば{資産、費用、負債、純資産、利益}のように波括弧内にカンマ区切りで要素を列挙することで、当該要素が成す集合を指し、(資産,万円)のように丸括弧内にコンマ区切りで要素を列挙することで、当該要素が列挙されたのと同じ順序で成す順序対を指す。
【0035】
勘定科目命名言語の定義から報告勘定科目空間は自動的に定まる。
即ち、集合
{(資産,万円),(費用,万円),(負債,万円),(純資産,万円),(利益,万円)}
が報告勘定科目空間となる。
本実施形態では、報告勘定科目空間全体を請求項1に記載の「第二の集合」として用いる。
【0036】
また本実施形態の情報処理装置は、報告勘定科目空間の二つの部分集合、すなわち、
第一の報告勘定科目空間の部分集合
{(資産,万円),(費用,万円)}
と、
第二の報告勘定科目空間の部分集合
{(負債,万円),(純資産,万円),(利益,万円)}
と、
を請求項7に記載の「前記第二の集合の部分集合」として備え、
請求項7に記載の「備えられた前記第二の集合の部分集合のうち、どの二つに関しても、
当該第二の集合の部分集合のうち前者に属する要素に対応して、前記値生成手段によって生成される、前記第一の集合の要素の、前記可換半群の前記演算の意味での総和と、
当該後第二の集合の部分集合のうち後者に属する要素に対応して、前記値生成手段によって生成される、前記第一の集合の要素の、前記可換半群の前記演算の意味での総和と、
が、等しくなる、
という形式の制限」
を、請求項6に記載の
「勘定科目に対して前記値生成手段によって生成される、当該勘定科目と前記第一の集合の要素の対応に関する、何らかの制限」
として備える。
前記構成は、計二つの部分集合を備えているから、請求項7に記載の「二つ以上備え」るという記述に対して適切であり、
また上記で示した請求項7の「備えられた前記第二の集合の部分集合のうち、どの二つに関しても、」という箇所は、本実施形態においては、
前記第一の報告勘定科目空間の部分集合と、前記第二の報告勘定科目空間の部分集合と、に関して、という意味となる。
さらに{(a,den)}たる形式で表される報告勘定科目は、記号aに相当する勘定科目を表していると解釈すると、
報告勘定科目空間は請求項8に記載の「前記第二の集合に、複式簿記勘定科目における、資産、費用、負債、純資産、利益のいずれかに相当する要素、または複数によって資産、費用、負債、純資産、利益のいずれかに相当する要素群を、それぞれ含」むという記述を満たすと解釈することができ、
さらに、
前記第一の勘定科目空間の部分集合および前記第二の勘定科目空間の部分集合は請求項8に記載の、
「資産、費用に相当する要素からなる前記第二の集合の部分集合」および、
「負債、純資産、利益に相当する要素からなる前記第二の集合の部分集合」
にそれぞれ対応すると考えることができる。
なお、以下では前記第一の勘定科目空間の部分集合を「借方」と呼び、前記第二の勘定科目空間の部分集合を「貸方」と呼ぶ。
【0037】
以下では、情報処理装置がどのような情報をどのように処理するのかを可視的にするため、具体的な本発明の本実施形態による情報処理装置の運用の一場面を例としてとる。
本実施例では、某年5月1日に設立され、同日を最初の会計期間の期首とする、本発明の本実施形態を導入した仮想の企業Aが本発明の使用者であり、企業Aに所属する仮想の従業員Xが本発明の操作者であると仮定する。
ここで例を簡略化するため、企業Aについていくつかの制限を仮定する。
第一に企業Aは管理する証憑の形式として振替伝票、売上伝票、出金伝票、借入伝票、返済証明書の計五のみを管理することを仮定する。
第二に企業Aは現金以外の形態の資産を持たないものとする。
前記仮定は、あくまでも例としての理解を容易にするためのものであり、本発明が要求する前提ではなく、容易に取り除くことができる。
図2は企業Aの設立から設立と同年の6月3日までの全ての経済活動を表した仮想の履歴であり、また企業Aには、
図3のように、当該履歴中の出来事それぞれに対応して、当該出来事を証明する証憑が保管されているものとする。
【0038】
本発明の、本実施形態による情報処理装置は、入力データを入力することによって動作を開始する。
入力データおよび当該入力データの形態には大きな自由度があり、請求項1に記載の「必要に応じて多種多様なデータを入力データとすることができること」という特徴を満たす。
ただし前記自由度の中でも、最も実装として容易な入力の形態は、伝票や領収書などの証憑を入力データとして用いる形式であるため、以降では証憑を扱う場合について詳述する。証憑を入力データとして用いる方法論については特許文献1を参照せよ。
ここでは従業員Xが
図3に示された証憑を入力データとして、情報処理装置に入力したものと仮定する。
なお、説明の簡潔さのため、証憑を物理的に保管しておき、情報処理装置の操作時に複数の証憑を同時に入力するかのような説明を行ったが、
情報処理装置の記憶部が書き込み可能なものである場合、証憑は得られるたびに順次入力して、当該証憑に含まれるデータを、当該記憶部に電子的に保管することでも同様の効果が得られる。
また証憑が電子的なものである場合は、何らかのポータブル記憶媒体を用いて当該証憑を情報処理装置に入力することも可能であるし、情報処理装置が通信部を備えているならば当該通信部を用いて入力を受け取っても良い。
【0039】
前記入力データは、情報処理装置によって、以下で「シナリオ」と呼ぶ、
グレゴリオ暦における日付全てからなる集合の冪集合の適当な部分集合から、
当該集合に含まれるいずれかの日付に発行された情報源から抽出されたデータの集合
への写像
の形式のデータ構造に整理される。
ここで、証憑データセットに含まれる前記情報源から抽出された情報とは、情報源の単純なコピー画像などではなく、情報源を情報処理装置が利用可能な形式に抽象化したものである。
なおここで、グレゴリオ暦における日付全てからなる集合としたのは一例であり、一般に時刻を表す表現の集合であれば代わりに用いることができる。
また、入力データがシナリオに整理される過程を、以下では「シナリオ生成手段」と呼び、シナリオの出力となるような前記証憑から抽出されたデータの集合を以下では「証憑データセット」と呼ぶ。なお、証憑データセットという名称は、代表的な情報源である証憑からとられたものであり、実際に、本例でも入力データを証憑としているが、0017段落で述べた通り、今発明の入力データはさらに広範な形式を受け入れることを考慮しており、狭義的に捉えた証憑に拘るものではない。一例であるが、使用者の雇用する従業員が提出する日報を情報源とするような実施の形態も可能である。
シナリオ生成手段の実行において、データの入力を行った従業員Xは、単に証憑に記載のデータを情報処理装置上に転写するのみであり、当該データの簿記的な仕訳を入力したり、確定する必要はなく、従って本実施例の情報処理装置は請求項1に記述の「仕訳を入力、または確定させる必要がないこと」という条件を満たす。
【0040】
以降では、
シナリオが入力として受け取る前記適当な部分集合は、
グレゴリオ暦における日付全てからなる集合を「date2はdate1以降である」で定義される順序date1≦date2を以て順序集合と見做した時、当該順序集合において閉区間であるような集合であるとの仮定を置く。
なお、前記仮定は可能な構成の一例にすぎない。
例えば、ある期間での曜日ごとの売上傾向を求めたい、との要請があるのであれば、
閉区間と、曜日が水曜日である日の集合との共通部分、
というような入力を受け入れるようなシナリオを生成できるようにしても良い。
シナリオがどのような入力を受け入れるかは、前記適当な部分集合をどのように設定するかのみに依存しており、実施の形態ごとに自由に定めることができる。
【0041】
0039段落の操作によって生成されたシナリオに対して、従業員Xが、5月1日から6月3日まで閉区間を入力すると、情報処理装置によって、当該区間の証憑データセットが生成される。
前記証憑データセットを、対応する出来事と結びつける形で図示すれば、
図4のようになる。
ここで証憑データセットに含まれる要素のうち、
G((a
1,cd
1,am
1),...,(a
n,cd
n,am
n))
(ここで1≦l≦nたる自然数lに対して、a
lは資産、費用、負債、純資産、利益のうちいずれかであり、cd
lは借方か貸方のうちのいずれかであり、am
lは正の有理数である。)
は、
「(複式簿記の仕訳帳につけた場合)全ての1≦l≦nたる自然数lに対して複式簿記の勘定科目a
lに対して、当該勘定科目をcd
l側に金額am
l万円分だけ記入するような振替」
を意味する
振替伝票の抽象化であり、
CO(a,am)
(ここでaは資産、費用、負債、純資産、利益のうちいずれかであり、amは正の有理数である。)
は、
「(複式簿記の仕訳帳につけた場合)複式簿記の勘定科目aに対してaが借方に記入され、現金が貸方に記入されるような金額am万円分の出金取引」
を意味する
出金伝票の抽象化であり、
S(am)
(ここでamは正の有理数である。)
は、
「(複式簿記の仕訳帳につけた場合)資産が借方に記入され、利益が貸方に記入されるような金額am万円分の売上取引」
を意味する売上伝票の抽象化であり、
L(am,d)
(ここでamは正の有理数であり、dは経済主体の名前やIDである。)
は、
「(複式簿記の仕訳帳につけた場合)資産が借方に記入され、負債が貸方に記入されるような金額am万円分の経済主体dからの借入取引」
を意味する借入伝票の抽象化であり、
R(am,d)
(ここでamは正の有理数であり、dは経済主体の名前やIDである。)
は、
「(複式簿記の仕訳帳につけた場合)負債が借方に記入され、資産が貸方に記入されるような金額am万円分の経済主体dへの負債返済取引」
を意味する返済証明書の抽象化である。
【0042】
0041段落に続いて、情報処理装置は0041段落で得られた証憑データセットに、請求項1に以下で「仕訳関数」と呼ぶ関数を適用することによって、証憑データセットを、以下では「仕訳エントリーバッグ」と呼ぶ、
勘定科目宇宙から、
非零有理数の集合への、
有限部分関数の、
多重集合の形式のデータ構造へ変換する。
また、仕訳エントリーバッグの各要素である有限部分関数を、以下では仕訳エントリーと呼ぶ。
各仕訳エントリーは一つの経済事象に対応していると考えることができ、当該経済事象が影響を及ぼす勘定科目に対して値をもち、当該値は当該勘定科目の変動値であるような部分関数として定義される。
0041段落で生成された証憑データセットを適切な仕訳関数で仕訳し、証憑データセットと仕訳エントリーバッグの対応関係を図示すると
図5のようになる。
図5から容易に読み取れるように、本実施の形態の本例においては、仕訳関数は、証憑の種類に関するルールに基づくものである。しかし、本発明において仕訳関数の実装方法はルールに基づく方法に限られるものではない。一例であるが、入力データの形式によっては、機械学習的なアプローチが有力となり、特許文献1のようにルールに基づく方法と機械学習を併用するような方法も有用である。
ただし、仕訳関数の実装に関する制限も存在する。本例では単純化されているが、実際には複数の考えられる仕訳が存在し、どれを選択するかに任意性があるような場合も存在し、当該の場合、請求項1に記載の通り、「使用者の需要や要求によって設定された会計・集計処理の方法に従」うことが仕訳関数には求められる。従って仕訳関数は使用者が自由に設定可能なパラメータを持つことが要求される。
【0043】
仕訳エントリーを入力とし、
当該仕訳エントリーが値をもつ原始勘定科目に対して、
当該幽霊アカウントが持つ単位と一致する単位と、
当該仕訳エントリーの当該幽霊アカウントに対する値の符号と一致する符号と、
を持つ、
符号つき単位
一点でのみ値をもつ複合量を生成し、
当該原始勘定科目と当該複合量を順序対にすること、
を一連の操作とし、当該一連の操作を全ての仕訳エントリーが値をもつ原始勘定科目について行い、当該順序対を集合にまとめて、
出力とする
という関数を、
以下では「仕訳エントリー分解関数」と呼ぶ。
なお、以下では仕訳エントリー分解関数の出力を、「仕訳アイテム集合」と呼び、同様に仕訳アイテム集合の要素は「仕訳アイテム」と呼ぶ。
本実施の形態では、単位は「万円」唯一であるから、仕訳エントリー分解関数は事実上仕訳エントリーが値をもつ原始勘定科目を特定し、当該原始勘定科目について当該仕訳エントリーがもたらす変化が正の変化であるか、負の変化であるかを判断し、正ならば正、負ならば負の符号つき単位に振り分けることのみを行っていると言える。
0042段落に続いて、情報処理装置は仕訳エントリー分解関数を、0042段落で生成した仕訳エントリーバッグに含まれる各仕訳エントリーに対して適用し、得られた仕訳アイテム集合たちを多重集合の意味で合計して多重集合を得、当該多重集合に適当な順序を与えて列にすることで、原始勘定科目と複合量の順序対の列を得るという一連の操作を行う。
図6は、表左列の各仕訳エントリー(これらは0042段落で生成された仕訳エントリーバッグの要素である。)が、仕訳エントリー分解関数によって、表右列の仕訳アイテム集合に分解されることを表すものである。
シナリオ生成手段、仕訳関数の適用、仕訳エントリー分解関数の適用の三処理を合わせて捉えると、当該三処理の組み合わせは、「使用者の需要や要求によって設定された会計・集計処理の方法に従い、前記入力データから、前記第二の集合の要素と前記作用から成る順序対から成る列を導出」しているため、当該三処理の組み合わせは、請求項1に記載の「順序対列生成手段」に対応する。
【0044】
0043段落に続いて、情報処理装置は、
各報告勘定科目に対して、
0043段落で生成された原始勘定科目と複合量から成る順序対から成る列を参照して、
当該報告勘定科目に含まれる原始勘定科目との対が、
当該順序対からなる列に含まれているような複合量の列を定め、
当該複合量の列に対する、0027段落で指摘した演算の意味での総和の結果となる複合量を求め、
当該報告勘定科目と当該総和の結果となる複合量とを対応づける、
という手法を行う。
総和することは、可換半群と見た複合量空間の零元、すなわち恒等的に0をとる複合量に順次適用させているのと同じことであるから、
前記手法は「勘定科目ごとに、前記順序対列導出手段によって導出された前記順序対から成る列を参照して、当該勘定科目との順序対が前記順序対から成る列に含まれるような作用から成る列を定め、当該作用から成る列に含まれる作用を前記第一の集合に属する適切な要素に順次作用させることによって、当該勘定科目に対応して、前記第一の集合の要素を定め」ていると言える。
従って前記手法は請求項1における「値生成手段」に対応する。そこで、以下では前記手法を指して値生成手段という語を用いる。
なお、今実施例では報告勘定科目は全てシングルトンであるから、報告勘定科目一つごとに、当該報告勘定科目に対応する原始勘定科目(即ち当該報告勘定科目の唯一の要素)が定まり、当該原始勘定科目を含む順序対に関する総和を取れば良い、という状況が生じているが、一般的に当該状況が成立するわけではない。後述の第二の実施例では、このような状況が成り立たない例を見ることができる。
0043段落で生成された順序対から成る列を用いて、値生成手段を実行した時生成される、報告勘定科目と複合量の対応を表として表すと、
図7のようになる。
【0045】
0044段落に続いて、情報処理装置は、0044段落で生成された報告勘定科目と複合量との対応づけに対して、
借方に属する全ての報告勘定科目に対して前記対応づけによって対応する複合量の、0027段落で指摘した演算の意味での総和の結果となる第一の複合量を求め、
さらに、貸方に属する全ての報告勘定科目に対して前記対応づけによって対応する複合量の、0027段落で指摘した演算の意味での総和の結果となる第二の複合量を求め、
当該第一の複合量と当該第二の複合量を、それぞれ対応する符号を潰された複合量に変換し、当該符号を潰された複合量の間に、関数外延性の意味での等号が成り立つか否かの判定を行う、という手段によって、複式簿記における正当性検証方法である貸借対照表等式の成立を確かめる。
本実施形態の場合では、単位が万円のみであるため、前記関数外延性の意味での等号が成り立つか否かの判定は、事実上有理数一組についての等号を確かめるだけで良い。
図8のように試算帳の形式にすれば、前記手段によって検証されている内容が可視的で、容易に理解できるであろう。
また、前記手段は、0036段落に記載の制限を満たすことを検証していると見做すことができ、すなわち
「前記値生成手段実行時に、前記値生成手段によって実際に生成された値について、当該制限が満たされるか否かを判定することで、当該生成された値の正当性を検証」
していると言えるから、請求項6に記載の「正当性検証手段」に対応する。
なお前記手段によって異常を検知した場合、情報処理装置は操作者に異常の通知を行う必要があるが、当該異常の通知の手段は様々であって良く、複数の手段を組み合わせても良い。
前記通知を行った後、情報処理装置は動作を終了しても良いが、動作を終了することは本発明の本実施形態において必須ではない。また、動作を終了しない場合、情報処理装置は、異常を解決するために、何らかの追加の処理を行う、または何らかの追加の入力を操作者に要求しても良いが、何らかの追加の処理を行う、または何らかの追加の入力を操作者に要求することも、本発明の本実施形態において必須ではない。
【0046】
0045段落の後、情報処理装置は、出力に要求する報告勘定科目を一科目、または複数科目、勘定科目命名言語を用いて選択せよとの指示を操作者に与える。また、複数の出力形式を備えるような情報処理装置は前期指示と同時に、出力形式も同時に選択させるよう、操作者に指示しても良い。
従業員Xが前記指示に従った後、情報処理装置は0044段落の値生成手段で生成された、 報告勘定科目と、複合量と、の対応を参照して、従業員Xが要求した報告勘定科目を含む対応を、何らかの(従業員Xに出力形式を選択させた場合は、選択された)形式で出力を生成する。本例の場合は、一例であるが、
図9のような出力が得られる。
なお、正当性検証手段で異常を検知した場合でも情報処理装置の動作を停止しないとしていた場合に、正当性検証手段で異常を検知し、それが解決されないまま情報処理装置が出力を求められた時には、当該出力に、「異常がある結果を利用した出力である」旨の情報を何らかの形式で含めることとしても良く、「異常がある結果を利用した出力である」旨の情報を含めることを、0045段落記載の「操作者に異常を通知する」ための「通知手段」、もしくはその一部として扱っても良い。
また、複合量は写像であるため、実施の形態によっては出力形式はやや複雑となり得、工夫の余地がある。それでも、単位空間は有限集合であり、従って符号つき単位空間も有限集合だから、少なくとも
図10のような単位と符号に対して値を対応させた表の形式での出力が可能である。
可能な出力の別の例として、報告勘定科目と、当該報告勘定科目と対応する複合量と、をそのまま出力するのではなく、当該複合量に対応する符号を潰された複合量を、当該勘定科目と対応させて、出力しても良い。例えば0045段落で、当該段落で行われた検証内容の可視化として用いた
図8は、符号を潰された複合量を用いた出力形式の一種だと捉えることもできるため、
図8のような形式を、出力形式、またはその一として備えるような情報処理装置も可能である。
また創業最初の会計期間を送っていると仮定した企業Aを例にとったため、期首の時点では全ての勘定科目の残高が0であるとみなせたが、前期からの引き継ぎの残高がある場合であれば、前期期末もしくは当期期首時点での、ある報告勘定科目の残高を、符号を潰された複合量の形式で記憶しておき、当該符号を潰された複合量に、値生成手段が生成した対応において、当該報告勘定科目と対応する、複合量に対応する符号を潰された複合量を、0027段落で説明した演算の意味で加えたものを出力するなどしても良い。
報告勘定科目の選択を指示すること、および値生成手段で生成された報告勘定科目と、複合量との対応を参照して操作者が要求した報告勘定科目を含む対応を、何らかの(操作者に選択させたのであれば、操作者によって選択された)形式で出力することを合わせて、以下では「出力生成手段」と呼ぶ。
出力生成手段は、物理的な手段(多くの場合は紙面への印刷が想定されるがそれに限らない)と、電子的な手段(表示部への表示や、何らかの電子ファイルの生成)と、が考えられ、物理的な手段と電子的な手段の両方を利用可能な情報処理装置も可能である。
電子的な出力生成手段を用いる場合、表示部を出力部の一部として利用しても良く、また何らかの外部装置に生成した電子ファイルを転送するために、通信部を出力部の一部として利用しても良い。
また電子的な出力は、固定の図面や数表によるものではなく、出力自体が操作者の更なる入力に反応するインタラクティブなものであっても良い。
出力生成手段によって、従業員Xが得る出力は、
当該出力自体が企業Aの「財務・会計報告を行うための文書」として利用されるか、
企業Aの「自他の財務・経済状況の把握の補助」のために利用されるか、
「若しくは前二者を行うために有用な情報の編纂」として利用されることになる、
と想定されるから、本実施形態の本例での情報処理装置の一連の挙動は、請求項1に記載の「目的」に沿ったものであると言える。
値生成手段、および0045段落の正当性検証手段、および出力生成手段の二処理を合わせてみると、当該二処理の組み合わせは「記第二の集合の要素である勘定科目のうち、一科目あるいは複数科目を与えられ、当該勘定科目に対応する前記第一の集合の要素を、当該勘定科目の各々と対応する形で生成」しているため、当該二処理の組み合わせが、請求項4に記載の「クエリ手段」に対応する。
【0047】
以上で記述した情報処理装置の挙動を踏まえて、操作者は仕訳を入力する必要も、確定させる必要もないという本発明の定義特徴について再度の説明を加える。
クエリ手段の一連の構成中に、確かに仕訳関数というものは出現するが、仕訳関数はあくまでもクエリ手段を実行するための一時的な中間データを生成する役割であり、それによって仕訳されたデータをシステムの基本においている訳ではない。即ち、本発明による情報処理装置において、仕訳というのはクエリ手段の途中で生成されるだけのオブジェクトであって、システムがそのデータ形式を専門に扱う訳ではなく、実際には情報処理装置に記憶されることすらない。仕訳が記憶自体されない以上、仕訳の更新や修正をする必要もなく、またクエリごとに仕訳はやり直されるから、「ある仕訳が正しいこと」を確定させる必要もないのである。
既存の会計システムは、仮に表面上他の入力データ形式に対応しており、自動で仕訳を行うとしても、複式簿記における仕訳データをシステムの基本としており、記憶する対象も仕訳データそのものであるから、上記のような効果は得られないのである。
【0048】
以上詳細に説明したように、本実施形態の情報処理装置によれば、
操作者が簿記会計上の、所謂仕訳データの入力または確定を行う必要がないことと、
必要に応じて多種多様なデータを入力データとすることが可能であることと、
という特徴を持った、自動的な複式簿記の生成が可能である。
【0049】
(第二の実施例)
以降で述べる実施形態の例は、本発明を用いて、標準的な複式簿記会計と、従業員の労働時間管理を同時に行う例である。
本実施形態は、0019段落に記載の「会計処理と同時に、会計処理以外の勘定に関連する処理を一元的に行い、結果を相互に検証」できるという本発明の特徴を、「従業員の労働時間管理処理」を「会計処理以外の勘定と関連した処理」の例として、説明するものとなっている。
前記特徴は、本発明の本実施形態が、0008段落で指摘した処理間で発生する不整合の課題に対して、当該不整合が「従業員の労働時間管理」と「会計処理」との間では起こらなくなる、という効果を与えられることを意味する。
なお、前記不整合の課題を完全に解決するためには、勘定と関連した処理を全て一元的に行う必要があるが、実際に本発明は、複数個の「会計処理以外の勘定と関連した処理」に対しても、当該会計処理以外の勘定と関連した処理と、会計処理と、を全て同時に行うこと(一例だが、在庫管理処理、労働時間管理処理、会計処理の三者を全て同時に行うといったこと)が可能である。
本実施形態において、同時に処理する「会計処理以外の勘定と関連した処理」を、「従業員の労働時間管理処理」のみとしたのは、単に例としての理解の容易さのためにすぎない。実際、以降の実施形態の方法論をもとに、同時に行われる処理をさらに追加することは容易である。
【0050】
本実施形態の情報処理装置は、当該情報処理装置が行う処理の一連の流れに関しては第一の実施例に記載の実施形態と差がない。
変更点があるのは、勘定科目クラス、単位空間、勘定科目命名言語と当該勘定科目命名言語の標準的な解釈、利用可能な情報源と当該情報源から抽出するデータの形式、および仕訳関数であるので、それらについて説明する。
【0051】
以降の説明では、第一の実施例と同様に、具体的な本発明の本実施形態による情報処理装置の運用の一場面を例として挙げ、データがどのように変換されるかを説明する。
第一の実施例と同様に、某年5月1日に設立され、同日を最初の会計期間の期首とする、本発明の本実施形態を導入した仮想の企業Aが本発明の使用者であり、企業Aに所属する仮想の従業員Xが本発明の操作者であると仮定する。
また例として理解を容易にするため、以下の二の仮定を置く。
第一の仮定は、第一の実施例と同様の企業Aは現金以外の形態で資産を持たないという仮定である。
第二の仮定は、本実施例において情報処理装置が労働時間管理を行う従業員は一名のみであるという仮定を置き、当該従業員を従業員Yと呼称する。
前記二つの仮定は本実施形態の情報処理装置の能力に関する本質的な制約ではなく、他の形態での資産を管理したり、複数の労働者の労働時間管理を行ったりするように拡張することは容易である。
【0052】
本実施形態では勘定科目クラス、単位空間、勘定科目命名言語、勘定科目命名言語の標準的な解釈は、以下のように構成される。
勘定科目クラスは、
{資産,給与手当,その他費用,未払給与,企業間借入,純資産,利益,給与未精算稼働,給与清算済未支払稼働,給与支払済稼働}
たる集合、
単位空間は、
{万円,時間}
たる集合、
勘定科目命名言語は、
{資産,給与手当(F/S),その他費用,費用,未払給与,企業間借入,負債,純資産,利益,給与未精算稼働(時間),給与未精算稼働(万円),給与清算済未支払稼働(時間),給与清算済未支払稼働(万円),給与支払済稼働(時間),給与支払済稼働(万円),給与手当(労働時間管理)(時間),給与手当(労働時間管理)(万円),総稼働(時間),総稼働(万円)}たる集合である。
なお勘定科目クラス、単位空間、勘定科目命名言語の要素は、当該要素の意味する事物そのものではなく、単なる記号であることに注意せよ。
当該勘定科目命名言語の標準的な解釈は
{(給与精算済未支払稼働,時間),(給与支払済稼働,時間)}
{(給与精算済未支払稼働,万円),(給与支払済稼働,万円)}
{(給与未精算稼働,時間),(給与精算済未支払稼働,時間),(給与支払済稼働,時間)}
{(給与未精算稼働,万円),(給与精算済未支払稼働,万円),(給与支払済稼働,万円)}
によって定まる。
勘定科目命名言語と、当該勘定科目命名言語の標準的な解釈が定まったことにより、報告勘定科目空間も定まる。
なお、報告勘定科目を集合として書き下すと複雑になるため、以降では報告勘定科目は、
のとする。
なお、前記と同様の構成を、プログラミング言語Standard MLを模した、本発明の情報処理装置のための仮想のDSL(Domain Specific Language)で記述すると、
図11のようになる。
図11のソースコード中、account_classは「勘定科目クラス」を、denomination_spaceは「単位空間」を、account_universeは「勘定科目宇宙」を、account_naming_languageは「勘定科目命名言語」を、それぞれ型として実現したものを指し、normal_interpretationは「アカウント命名言語の標準的な解釈」を表す関数である。
ただし、
図11中では、上記の構成を、プログラミング言語で記述する場合の必要性や利便性のために、変形している箇所が三箇所ある。
一箇所目は、前記の構成では、勘定科目クラスと勘定科目命名言語に同名の記号があるが、これはStandard MLのソースコードとしては許されないから、衝突している箇所について、勘定科目命名言語の要素にはプライムを付けて区別している点である。
二箇所目は、前記の構成では「(時間)」や「(万円)」で終わる名前を持つことで、その単位を持つ報告勘定科目を指定する勘定科目命名言語の要素があったが、Standard MLのソースコードとしては、このまま記号(コンストラクタ)の名前として実装するよりも、単位空間の元をパラメータに取るコンストラクタとして実現する設計の方が簡潔であるため、その様に変更した点である。
三箇所目はStandard MLでは括弧やスラッシュといった記号をコンストラクタ名に用いることができないから、当該記号を省いたり別の記号に置き直した点である。そのため一部名前が変わってしまった要素があるが、対応関係は明らかであろう。
前期三箇所の構成変更は、いずれも本発明の機能に大きな変更を与えるものでないのは明らかである。
【0053】
本実施形態では、前記報告勘定科目空間の部分集合のうち以下に示す三を、請求項1に記載の「第二の集合」として用いる。即ち、
を第一の第二の集合とし、
を第二の第二の集合とし、
を第三の第二の集合とする。
前記の第二の集合の構成から、本実施形態の情報処理装置は請求項2に記載の「前記第二の集合として一種類だけの集合を備える必要はなく、複数の前記第二の集合を共存させることを可能とすること」を特徴とする情報処理装置であると言える。
また、前記第二の第二の集合は「万円」を単位とする報告勘定科目と、「時間」を単位とする報告勘定科目を共に含んでおり、前記第一の第二の集合および前記第三の第二の集合は「万円」を単位とする報告勘定科目を含んでいるから、本実施形態の情報処理装置は請求項5に記載の「前記第二の集合として、互いに単位が異なる量で表される項目から成る二つ以上の集合を共存させること」および、「または前記第二の集合として、単一の集合であって、当該集合中に互いに単位の異なる量で表される二つ以上の項目を含む様な集合を備えること」を特徴とする情報処理装置であると言える。
【0054】
前記第一の第二の集合および、前記第二の第二の集合および、前記第三の第二の集合はいずれも、当該集合に属する報告勘定科目の間に集合としての包含関係が発生している。
以降では、単一の第二の集合に属する報告勘定科目に包含関係が発生するとき、包含関係の意味で大きい報告勘定科目を小さい報告勘定科目に対して、「上位勘定科目」であると呼び、逆に小さい報告勘定科目を大きい報告勘定科目に対して、「部分勘定科目」であると呼び、当該包含関係を指して「部分勘定科目関係」と呼ぶ。
部分勘定科目関係が存在する第二の集合に対して値生成手段を適用した際出力される、報告勘定科目と複合量の関係について、自然に期待されるであろう制約として以下の二種類が存在する。
第一の種類の制約は、
値生成手段によって、部分勘定科目に対応する値は常に上位勘定科目より小さいと主張するものである。
ただし、ここで複合量の順序関係として、複合量を非負有理数全体の成す集合の、符号付き単位による添字付き直積と見做した時、有理数の自然な順序の直積順序によって与えられるものを用いる。これは、複合量に対応する符号を潰された複合量を、単位による添字付き直積と見做して直積順序をとった場合とは一致しないことに注意せよ。
当該第一の種類の制約を「非加法的制約」と呼ぶ。
第二の種類の制約は、ある報告勘定科目αが、他の幾つかの報告勘定科目β1,...,βnの非交和としてかけた時、値生成手段によって、β1,...,βnにそれぞれ対応する複合量を複合量の演算の意味で総和すると、αに対応する複合量と等しくなるという制約である。
当該第二の種類の制約を「加法的制約」と呼ぶ。
以下、本実施例において全ての第二の集合は加法的制約を満たすこととする。
なお、加法的制約を次段落で説明する第二の集合に対する制限の一部に含めることもできるが、以下の二の理由から本文では区別して扱う。
即ち、第一の理由として、加法的制約はより一般的に利用される制約であり、個別の実施例ごとに定める制限とは区別したいことである。
第二の理由として、後述するように、本実施例で用いる値生成手段の構成が自動的に加法的制約を満たすような対応のみを生成するからである。
【0055】
また前記第一の第二の集合は、当該集合の二つの部分集合、すなわち、
たる部分集合および、
たる部分集合を請求項7に記載の「前記第二の集合の部分集合」として備える。
また、前記第一の第二の集合および、前記第二の第二の集合および、前記第三の第二の集合は、それぞれ、請求項6に記載の「勘定科目に対して前記値生成手段によって生成される、当該勘定科目と前記第一の集合の要素の対応に関する、何らかの制限」として、以下の制限を持つ。
即ち、前記第一の第二の集合は、
請求項7に記載の「備えられた前記第二の集合の部分集合のうち、どの二つに関しても、
当該第二の集合の部分集合のうち前者に属する要素に対応して、前記値生成手段によって生成される、前記第一の集合の要素の、前記可換半群の前記演算の意味での総和と、
当該後第二の集合の部分集合のうち後者に属する要素に対応して、前記値生成手段によって生成される、前記第一の集合の要素の、前記可換半群の前記演算の意味での総和と、
が、等しくなる、
という形式の制限」
を前記何らかの制限として持つ。これは複式簿記における貸借対照表等式を表す制限である。
前記第二の第二の集合は、
aを給与未精算稼働,給与清算済未支払稼働,給与支払済稼働,給与手当(労働時間管理),総稼働のいずれかとし、
値生成手段が与える報告勘定科目と複合量の対応を関数の形で
val(α)=m
(ここでαは報告勘定科目で、mは複合量)
と書いたとし、
従業員Yの時給をc円/時間とすると、
(この式の記法は、valの返り値である複合量が、それ自身関数として定義されていたことを用いている。)
が全てのaに対して成り立つという制限を前記何らかの制限として持つ。これは従業員Yの給与が、
c×(労働時間)
という形式で定まることを表す制限である。
い、という制限を前記何らかの制限として持つ。これは労働時間管理によって算出された従業員Yに支払うべき給与と、損益計算書の費用の項に入る給与手当の項目とは等しくなければならないという制限である。
【0056】
以降では、企業Aと従業員Yの雇用契約は、時給2000円/時の時給契約であると仮定し、また、従業員Yは企業Aの設立年の5月1日から6月13日の期間中、それぞれ
図13のように稼働し、また給与の支払いを受けたと仮定する。
【0057】
企業Aの内規では、労働者は自身が出勤・稼働した日付と、当該の日付に含まれる労働時間と、を専用の書類で報告する義務を負うことになっていることとし、情報処理装置は、当該専用の書類を情報源として用いることとする。
また、同様に企業Aの内規では給与の精算(確定)および支払時に(借入伝票や出金伝票を流用するのではなく)専用の証憑を用いることになっていることとし、情報処理装置は当該専用の証憑も情報源として用いることとする。
図12に記載の従業員Yの稼働状況と給与の状況に対し、前記専用の書類および前記専用の証憑を対応させたものが
図13となる。ただし、
図13中では、前記専用の書類を「ワークログ」と呼称しており、前記専用の証憑のうち、給与の精算時に用いられるものを「給与精算伝票」、給与の支払時に用いられるものを「給与支払伝票」との呼称で表している。以降の本文および図中でも前記呼称を用いる。
【0058】
また、企業Aの、設立年の5月1日から6月13日の期間中の対外的経済活動は
図14のようなものであったと仮定し、さらに
図14中の各経済活動に
図15のように対応した各証憑が企業A内で保管されており、情報処理装置が情報源として利用できるものとする。
【0059】
以降では、従業員Xが実際に情報処理装置を以下のように操作したと仮定し、情報が処理される様子を説明する。
従業員Xが、
図13および
図15に記載の情報源を情報処理装置に入力データとして入力し、
当該入力データを入力された情報処理装置がシナリオを生成するのは第一の実施例と同様である。
【0060】
0059段落で得られたシナリオに、従業員Xが、5月1日から6月13日までの閉区間を入力すると、
図16の最右列に示すような証憑データセットが得られる。ここで証憑データセットに含まれる要素のうち、
G((a
1,cd
1,am
1),...,(a
n,cd
n,am
n))
(ここで1≦l≦nたる自然数lに対して、a
lは資産、給与手当、その他費用、未払給与、企業間借入、純資産、利益のうちいずれかであり、cd
lは借方か貸方のうちのいずれかであり、am
lは正の有理数である。)
は、
「(複式簿記の仕訳帳につけた場合)全ての1≦l≦nたる自然数lに対して複式簿記の勘定科目a
lに対して、当該勘定科目をcd
l側に金額am
l万円分だけ記入するような振替」
を意味する
振替伝票の抽象化であり、
CO(a,am)
(ここでaは資産、給与手当、その他費用、未払給与、企業間借入、純資産、利益のうちいずれかであり、amは正の有理数である。)
は、
「(複式簿記の仕訳帳につけた場合)複式簿記の勘定科目aに対してaが借方に記入され、現金が貸方に記入されるような金額am万円分の出金取引」
を意味する
出金伝票の抽象化であり、
S(am)
(ここでamは正の有理数である。)
は、
「(複式簿記の仕訳帳につけた場合)資産が借方に記入され、利益が貸方に記入されるような金額am万円分の売上取引」
を意味する売上伝票の抽象化であり、
L(am,d)
(ここでamは正の有理数であり、dは経済主体の名前やIDである。)
は、
「(複式簿記の仕訳帳につけた場合)資産が借方に記入され、負債が貸方に記入されるような金額am万円分の経済主体dからの借入取引」
を意味する借入伝票の抽象化であり、
R(am,d)
(ここでamは正の有理数であり、dは経済主体の名前やIDである。)
は、
「(複式簿記の仕訳帳につけた場合)負債が借方に記入され、資産が貸方に記入されるような金額am万円分の経済主体dへの負債返済取引」
を意味する返済証明書の抽象化であ理、
WL(date,length)
(ここでdateはグレゴリオ暦の日付であり、lengthは正の有理数である。)
は、
「従業員Yのdateにおけるlength時間の稼働」
を意味するワークログの抽象化であり、
SA(period)
(ここでperiodはグレゴリオ暦の日付全体が成す集合を「date
2はdate
1以降である」で定義される順序date
1≦date
2を以て順序集合と見做し、当該順序集合における閉区間として記述されるような日付から成る集合である。)
は、
「periodの期間の従業員Yの給与精算」
(ただし、periodがシナリオに入力された区間の部分集合になっていない場合は、「periodとシナリオに入力された区間の共通部分となる期間での給与精算」と読み替えることにする。)
を意味する給与精算伝票の抽象化であり、
SP(a,am)
(ここでaは資産、給与手当、その他費用、未払給与、企業間借入、純資産、利益のうちいずれかであり、amは正の有理数である。)
は、
「(複式簿記の仕訳帳につけた場合)(従業員Yへの)未払給与が借方に記入され、aが貸方に記入されるようなam万円分の給与支払」
を意味する給与支払伝票の抽象化である。
図16は、当該証憑データセットが企業Aおよび従業員Yに起こった各出来事に対応していることを示しており、伝票やワークログの前記抽象化が各出来事を十分に表現できることを確認することができる。
重要なことは、
図13に記載の情報源(従業員の労働時間に関する情報源)と、
図15に記載の情報源(対外的経済活動に関する情報源)と、が単一の前記証憑データセット中に抽出されていることであり、本発明の本実施形態においては、従来別途に行われてきた労働時間管理処理と対外的経済活動の会計処理とが、証憑データセットの時点で一元的に扱われていると言える。
【0061】
0060段落に続いて、情報処理装置は0060段落で生成した証憑データセットに仕訳関数の適用を行う。
当該仕訳関数の適用によって得られる仕訳エントリーバッグを、証憑データセットと対照する形で図に示せば、
図17のようになる。なお同じ証憑データセットの要素については、
図16と
図17で同じ番号を持つようになっている。
【0062】
0061段落に続いて、情報処理装置は仕訳エントリー分解関数の適用を行うが、これについて第一の実施例と本実施例に格段の差はないため、これに関して細かい説明をすることはせず、以降の説明の理解を助けるため、0061段落で生成された仕訳エントリーバッグに仕訳エントリー分解関数を適用するに際し、仕訳エントリー分解関数の入力となる仕訳エントリーと出力となる仕訳アイテム集合の対応表を
図18(a)及び
図18(b)に示すのみとする。
なお、
図18(a)は
図17において1番から13番の番号が与えられた仕訳エントリーについて、その分解の様子を表し、
図18(b)は
図17において14番から20番の番号が振られた仕訳エントリーについて、その分解の様子を表す。また、同じ仕訳エントリー同士は
図17と
図18(a)及び
図18(b)で同じ番号が振られている。
以降では、仕訳エントリー分解関数の適用に引き続いて行われる、値生成手段から説明を再開する。
【0063】
値生成手段について、方法論上は第一の実施例と差はない。
しかしながら、第一の実施例と異なり、本実施例においてはシングルトンではないような報告勘定科目が存在するため、値生成手段の出力は第一の実施例の場合ほど明らかなものではない。
しかしながら、0044段落に記載の
「生成された原始勘定科目と複合量から成る順序対から成る列を参照して、
当該報告勘定科目に含まれる原始勘定科目との対が当該順序対からなる列に含まれているような複合量の列を定め、
当該複合量の列に対する、0027段落で指摘した演算の意味での総和の結果となる複合量を求め、
当該報告勘定科目と当該総和の結果となる複合量とを対応づける」、という手法は、
実際には0054段落で説明した加法的制約を満たすような、報告勘定科目と複合量との対応のみを生成することが証明できる。複合量の、特定の符号つき単位に対応する成分のみを見た時、当該手法は、実質的に報告勘定科目空間上にデルタ測度の線型結合で表せる測度を構成していることになるため、加法性が従うためである。
従って、本実施例においては、シングルトンでないような報告勘定科目に対応する複合量についても、他のシングルトンであるような報告勘定科目に対応する複合量の和として捉えることができることがわかる。
一例を挙げると、
する二報告会計科目に対応する複合量の和として表されることがわかり、また前記二報告会計科目はいずれもシングルトンであるから、第一の実施例の場合同様対応する複合量は直感的に理解できるであろう。
値生成手段が生成する報告勘定科目と複合量の対応は
図19に示す。
【0064】
0063段落以降の情報処理装置が行う処理の流れは、第一の実施例の場合とほぼ同様であるため、省略し、本実施例における情報処理装置の挙動についての説明は以上を以て終了とする。
【0065】
改めて、0055段落に記載の、第三の第二の集合に関する制限について考察する。
当該制限は、従来独立に処理されていた、会計処理と労働時間管理が、相互に検証しあうという、新たな検証方式を可能とする。
当該検証方式は、労働時間管理によって算出した給与を従業員Yに払い、その上で例えば給与支払伝票のみを会計処理に回すというように、会計処理と労働時間管理とを分離し、それぞれに別々の元データを利用する従来的な会計処理の方法論では原理的に得られないものであり、本実施形態の情報処理装置にとって当該検証方式が可能であること、即ち前記制限を本実施形態の情報処理装置が取り扱うことができることは、本発明の以下に示す二の特徴による。
即ち、第一の特徴として、広範な入力形式、用途の入力データに対応することである。これにより、従来ならば会計処理にのみ用いられると思われる
図15に記載のデータと、逆に労働時間管理処理にのみ用いられると思われる
図13に記載のデータを共に入力データとして受け取ることができたことが、当該検証方式を可能とする第一の理由である。
第二の特徴として、複数の単位に対する単位量を扱える点である。もしも、唯一の単位(おそらくは日本円に関するものであろう)のみを扱うとしたら、一元的に会計処理と労働時間管理の両方を行うことは明らかに不可能であり、本実施例のように複数の単位量を同時に扱うことは、当該検証方法を可能とする第二の理由である。
【0066】
以上で詳細に説明した通り、本実施形態の情報処理装置によれば、
操作者が簿記会計上の、所謂仕訳データの入力または確定を行う必要がないことと、
必要に応じて多種多様なデータを入力データとすることが可能であることと、
従来ではほとんどの場合に独立に行われていた複数の勘定と関連した処理である、会計処理と労働時間管理処理とを同一一次データから一元的に行い、処理結果を相互に検証することが可能であることと、
という特徴を持った、会計処理が可能である。
【0067】
なお、0065段落に記載の「検証方式」および0065段落に記載の「二の特徴」は、会計処理と労働時間管理処理との組み合わせにだけ有用なわけではないことは明らかである。
一例だが会計処理と在庫管理処理とを本発明の本実施形態の変形により一元化することでも、類似の効果が得られる。
さらに言えば、会計処理を含む三以上の処理を一元化するような変形も可能であり、同様の効果を持つ。
【0068】
なお、以上の実施例においては、本発明がスタンドアローンな情報処理装置として用いられることを前提に記述したが、本発明と同様の処理の方式を用いた何らかの装置や、コンピュータを本発明の情報処理装置として挙動させるためのプログラムなどは、本発明の変形であり、本特許請求の範囲であることは当業者には理解されるところである。
【0069】
上述した実施の形態、変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施の形態として有用である。請求項に記載の各構成要件が果たすべき機能は、実施の形態および変形例において示された各構成要素の単体もしくはそれらの連携によって実現されることも当業者には理解されるところである。