(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125255
(43)【公開日】2024-09-18
(54)【発明の名称】沈降防止機能を有する支柱、および、それを用いた柵
(51)【国際特許分類】
E04H 17/22 20060101AFI20240910BHJP
E01F 15/06 20060101ALI20240910BHJP
E01F 7/02 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
E04H17/22
E01F15/06
E01F7/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033276
(22)【出願日】2023-03-05
(71)【出願人】
【識別番号】304053946
【氏名又は名称】株式会社キャムズ
(72)【発明者】
【氏名】太田 雅章
【テーマコード(参考)】
2D001
2D101
2E142
【Fターム(参考)】
2D001PA01
2D001PD06
2D001PD10
2D101CA06
2D101CB02
2D101DA04
2D101EA02
2E142AA04
2E142JJ06
2E142JJ07
(57)【要約】
【課題】 積雪地域や軟弱地盤でも沈降しない支柱、および柵を提供する。
【解決手段】 本発明の沈降防止機能を有する支柱は、 一部が地中に埋設される中空の棒状体である支柱基部と、上記支柱基部の地上側に固定されるワイヤー固定具(ルートクラブ)と、上記支柱基部の中空部分に挿入され、両端が上記支柱基部の外にあるワイヤーと、上記ワイヤーの一端に設けられたランドフロートと、を有し、
上記支柱基部は可撓性を有し、上記ワイヤーの略他端が上記ワイヤー固定具に一定の張力を持って固定されることを特徴とするものである。。また、本発明の柵は、複数本の沈降防止機能を有する上記の支柱と、上記複数本の沈降防止機能を有する支柱間に固定される枠体と、を備えたものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
沈降防止機能を有する支柱であって、
一部が地中に埋設される中空の棒状体である支柱基部と、
上記支柱基部の地上側に固定されるワイヤー固定具(ルートクラブ)と、
上記支柱基部の中空部分に挿入され、両端が上記支柱基部の外にあるワイヤーと、
上記ワイヤーの一端に設けられたランドフロートと、
を有し、
上記支柱基部は可撓性を有し、
上記ワイヤーの略他端が上記ワイヤー固定具に一定の張力を持って固定される
ことを特徴とする沈降防止機能を有する支柱。
【請求項2】
上記支柱基部はグラスファイバーである
ことを特徴とする請求項1に記載の沈降防止機能を有する支柱。
【請求項3】
上記支柱基部の埋設される一端に固定可能なキャップ部をさらに設け、
当該キャップ部は上記ワイヤーを挿入可能な穴を有し、且つ、当該キャップ部の先端は地盤に打ち込み容易なコーン状である
ことを特徴とする請求項1または2に記載の沈降防止機能を有する支柱。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載された複数本の沈降防止機能を有する支柱と、
上記複数本の沈降防止機能を有する支柱間に固定される枠体と、
を備えた降防止機能を有する柵。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積雪地域や軟弱地盤で用いるための沈降防止機能を有する支柱、および、それを用いた柵に関するものである。
【背景技術】
【0002】
積雪地帯に設置される柵は、積雪による圧力、あるいは雪解け時に生じる圧力により、柵を支える支柱が沈降したり、傾倒したりすることがある。
これを防止するための対策として、予め地盤を広く掘り込み、沈下防止板を設置してから、沈下防止板上に支柱を設置して埋めなおす方法がある。しかし、この方法では、地盤の掘り込みに多大な労力を有するため、支柱の設置コストや設置時間が著しく増大するという問題があった。
【0003】
また、このような問題を解決するため、沈下傾倒防止具を用いた次のような沈下傾倒防止支柱が提案されている。沈下防止具は、沈下防止用横板とその一端部に屈折連設された傾倒防止用縦板とからなるL形のものである。そして、沈下傾倒防止具における前記横板の透孔に、上部に柵体取付部を有する支柱の中間部が嵌挿され、かつその支柱には前記横板の上面に係合するピンが挿通され、前記支柱と縦板とにわたって挿通されたボルトは、これに螺合されたナツトにより支柱に固定され、かつボルトには前記縦板の外面に係合するナツトが螺合されている(例えば、特許文献1。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された沈下傾倒防止支柱の場合、沈下傾倒防止具より上部、すなわち地上に出た支柱部分に積雪や雪解け時の圧力が掛かる。この圧力が横方法の傾倒圧力である場合には、支柱には曲げ応力が掛かる。支柱の中間部は沈下傾倒防止具に固定されているため、この支柱の中間部に応力が集中し、折れることがある。支柱が可撓性を有する材質の場合には、曲げ応力は支柱の地上部で分散されるものの、沈下傾倒防止具で固定された支柱の中間部には最大の応力が掛かるため、やはり折れやすい状態になる。
ただし、特許文献1に記載された支柱は、防護柵用であるため、支柱の地上部高さが比較的低くても良い。したがって、積雪や雪解け時の圧力が加わったとしても、支柱が折れることはあまりなかった。
【0006】
しかし、獣害防止柵やコン柱(電柱)、学校グランドなどの外周の高尺フェンス用の支柱の場合には十分な高さが必要であり、地上部分が長くなるため、支柱の中間部が極めて折れやすく、特許文献1のような構造を適用することは難しかった。
本発明は上記のような問題を解決するためになされたものであり、地上部分が長くても、極めて折れにくい、沈降防止機能を有する支柱を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の沈降防止機能を有する支柱は、
一部が地中に埋設される中空の棒状体である支柱基部と、
上記支柱基部の地上側に固定されるワイヤー固定具と、
上記支柱基部の中空部分に挿入され、両端が上記支柱基部の外にあるワイヤーと、
上記ワイヤーの一端に設けられたランドフロートと、
を有し、
上記支柱基部は可撓性を有し、
上記ワイヤーの略他端が上記ワイヤー固定具に一定の張力を持って固定される
ことを特徴とするものである。。
【0008】
また、本発明の柵は、
複数本の沈降防止機能を有する上記の支柱と、
上記複数本の沈降防止機能を有する支柱間に固定される枠体と、
を備えたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、パイプ状の支柱基部にワイヤーを通し、そのワイヤーを一定の張力で張り、地面に置かれたランドフロートにより支柱基部の沈降を防止するという、従来には全くない新たな発想に基づく支柱を提案するものである。これにより、以下の優れた特長が得られる。
【0010】
第一に、積雪地帯や軟弱地盤地帯でも沈降しない。。
第二に、平面方向の圧力が掛かった際にも、曲げ応力が支柱全体に渡って分散し、一点に集中しないため折れない。
第三に、事前に広い穴を掘る等の面倒な施工が不要であり、施工費用の低減、施工時間の短縮が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の沈降防止機能を有する支柱の鉛直方向の断面図である。。
【
図2】本発明の沈降防止機能を有する支柱のワイヤーの張力を説明する図である。
【
図3】本発明の沈降防止機能を有する支柱に曲がり応力が掛かった際の図である。
【
図4】本発明の沈降防止機能を有する支柱に逆方向の曲がり応力が掛かった際の図である。
【
図5】本発明の沈降防止機能を有する支柱にキャップ部を設けた際の図である。。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態.
以下に、本発明の実施の形態に係る沈降防止機能を有する支柱について、図を用いて説明する。なお、以下の実施の形態は、本発明の良好な一例であって、特に本発明をこの一例に限定するものではない。本発明の良好な一例を示すにすぎないため、以下の実施の形態と同様の発明概念を持つ発明品を本発明は含有するものである。
【0013】
また、本実施の形態においては、沈降防止機能を有する支柱について詳述するが、沈降防止機能を有する支柱の主用途は、枠体を支柱間に固定し、柵として使用することである。ただし、複数の支柱を直列に並べ、その支柱間に枠体を固定して柵とすることは、極めて一般的であるため、本実施例においては、支柱の詳細についてのみ述べ、柵についての記載は省略する。
【0014】
<本発明の構成>
まず、図を用いて、沈降防止機能を有する支柱の構成について説明する。
図1は、沈降防止機能を有する支柱の鉛直方向の断面図である。沈降防止機能を有する支柱は、一部が地中に埋設される中空の棒状体である支柱基部1と、支柱基部1の地上側に固定されるワイヤー固定具4と、支柱基部1の中空部分に挿入され、両端が上記支柱基部1の外にあるワイヤー3と、ワイヤー3の一端に設けられたランドフロート2を有する。そして、支柱基部1は可撓性を有し、ワイヤー3の他端が上記ワイヤー固定具4に一定の張力を持って固定される。
【0015】
支柱基部1は、例えば、グラスファイバー製であり、可撓性を有しているため、曲げ応力に対しては、全体がしなるように曲がることができる。支柱基部1はパイプ状の構造体であり、中央は中空になっている。この中空部にワイヤー3が挿入される。ワイヤー3は支柱基部1よりも長いため、ワイヤー3の両端は、支柱基部1の両端から外に出ている。
【0016】
ランドフロート2は、例えば、金属や岩石であり、ある程度の重量物である。ランドフロート2は、ワイヤー3の一端と結合している。
ワイヤー3の他端は、ワイヤー固定具4によって支柱基部1の外側に、一定の張力を持って固定されている。
【0017】
<設置方法>
次に、沈降防止機能を有する支柱の設置方法について説明する。支柱は、以下に述べる手順で設置される。
【0018】
(手順1)支柱基部1と同様の径を持つ先端が尖った棒で、地盤に所定の深さの鉛直な支柱基部用の穴を開ける。この穴の近くに、さらに小さな径の棒でワイヤー3用の穴を開け、ふたつの穴が底面でつながるようにする。
(手順2)ワイヤー3と結合したランドフロート2を地面に置き、ワイヤー3をワイヤー用の穴に入れる。ワイヤー3を支柱基部用の穴から引き揚げ、支柱基部1に通す。
(手順3)支柱基部1を支柱基部用の穴に埋め、踏み固める。
(手順4)支柱基部1の地上部上端から出たワイヤー3を強く引っ張る。
(手順5)ワイヤーが強く引っ張られた状態で、ワイヤー3をワイヤー固定具4に確実に固定することで、一定の張力を持ってワイヤー3を固定する。
【0019】
<機能>
次に、沈降防止機能を有する支柱の機能を図を用いて説明する。
図2は、ワイヤーの張力を説明する図である。図において、白抜き矢印a、b、cはワイヤー3の張力の働く方向を示している。
【0020】
ランドフロート2には、ワイヤー3の張力がa方向に働き、ランドフロート2を地面Gに強く押し付ける。ランドフロート2は、支柱基部1の断面積よりも十分に大きな面積で地面Gに接しており、地面Gに少し食い込むが、それ以上沈下することはない。また、ランドフロート2は地面Gに強く押し付けられ、且つ静止摩擦係数も大きいため、平面方向に大きくずれることはない。したがって、ランドフロート2は、鉛直方向にも平面方向にも殆ど動かず、ほぼ固定された状態にある。
【0021】
支柱基部1の最下部Aには、ワイヤーの張力bおよびcが働き、支柱基部1の重力や積雪による沈降圧力と釣り合って、沈降を防止している。また、ランドフロート2がほぼ固定された状態にあるため、支柱基部1の最下部Aもほぼ動かない。
【0022】
沈降防止機能を有する支柱に右下向きの積雪等による圧力が加わった場合の状態を
図3に示す。
支柱基部1は可撓性を持つため、最下部Aを固定点として全体が撓む。また、最下部Aはワイヤー3により、ほぼ点接触の状態で支持されているので、位置が固定されているだけで、回転は可能である。したがって、積雪等による圧力によって生じる支柱基部1に対する応力は、一点に集中することなく、支柱基部1の全体に分散するため、折れることはない。
【0023】
沈降防止機能を有する支柱に左下向きの積雪等による圧力が加わった場合も同様であり、
図4に示すように、
図3と同様に全体が撓み、応力は分散する。
【0024】
以上のように、支柱基部1が可撓性を持つことに加え、固定点となる支柱基部1の最下部Aが、ワイヤー3によって点で支持されているため回転可能であり、応力が集中することなく、支柱基部1全体に分散するため、支柱基部1が折れることはない。
【0025】
<その他の構成>
上述したように、支柱基部1の最下部Aは、ワイヤー3とほぼ点で接触する。そのため、支柱基部1の材質が脆弱な場合や、ワイヤー3が細い場合には、ワイヤー3が支柱基部1に深く食い込んで、ワイヤー3が緩んでしまうことがある。
そこで、
図5に示すように、支柱基部1の端部をカバーするキャップ5を設けても良い。キャップ5は金属や硬質樹脂で形成され、ワイヤー3を通すための穴が設けられている。支柱基部1の端部とキャップ5の固定方法に関しては、例えば、支柱基部1の内径と支柱基部1の外形を略同一とすることで、嵌合により両者を固定できるようにしても良い。
また、キャップ5の先端を尖った形状にすることで、地盤への打ち込みや挿入を行いやすくすることもできる。
【0026】
<本発明のまとめ>
本発明は、パイプ状の支柱基部にワイヤーを通し、そのワイヤーを一定の張力で張り、地面に置かれたランドフロートにより支柱基部の沈降を防止するという、従来には全くない新たな発想に基づく支柱を提案するものである。具体的な機能、機構、および、それらに伴う特長は以下のようなものである。
【0027】
ランドフロートは、ワイヤーによって下方に強く引っ張られるため、地面に強く固定され、平面方向にほとんど移動しない。ランドフロートが地面に接する十分な面積を持っていれば、下方への強い圧力と相まって非常に強い静止摩擦力が生じるためである。また、ランドフロートは、地面を掘りこんで沈むこともない。地面に接する十分な面積を持っていれば、地盤が多少柔らかくても、初期的に地盤に食い込むだけで、それ以上は沈まない。このように、ランドフロートは平面方向、鉛直方向ともに殆ど移動しない。
【0028】
このランドフロートとワイヤーの強い張力により結合する支柱基部の埋められた端部(埋め込まれた最下部)も同様であり、鉛直方法および平面方向には殆ど移動しない。
したがって、支柱基部の地上部分に鉛直下方方向の圧力が加わっても、支柱基部が沈下することはない。
【0029】
また、支柱基部の地上部分に平面方向の圧力が加わった場合には、支柱基部全体にほぼ一様な曲げ応力が生じ、特定の箇所に応力が集中することはない。したがって、折れることはない。曲げ応力が生じると、支柱基部の埋められた端部(埋め込まれた最下部)を固定端として支柱基部全体が一様に撓む。且つ、支柱基部の埋められた端部(埋め込まれた最下部)の位置は固定されているが、ワイヤーの張力による固定であるため、多少の回転は可能であり、曲げ応力はさらに緩和される。
【0030】
以上のように、積雪や雪解け時の強い圧力が加わっても、支柱基部は沈下せず、撓むだけで折れることはない。また、地盤が極めて堅くなければ、事前の広い面積を掘り込むことも不要であり、打設だけの簡単な施工が可能である。
なお、支柱基部の埋められた端部の一点にワイヤーの張力が集中する。したがって、支柱基部の材質やワイヤーの口径によって、ワイヤーが徐々に支柱基部端部に食い込み、ワイヤーの張力が緩んでしまう場合がある。そこで、金属や硬質樹脂製のキャップを用いるのも有効である。先端が尖った形状であれば、ワイヤーの食い込み防止だけでなく、支柱基部の打設を容易にすることも可能である。
【符号の説明】
【0031】
1 支柱基部
2 ランドフロート
3 ワイヤー
4 ワイヤー固定具
5 キャップ部