IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社細胞応用技術研究所の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024012530
(43)【公開日】2024-01-30
(54)【発明の名称】培養上清製剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/12 20150101AFI20240123BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20240123BHJP
   A61K 35/36 20150101ALI20240123BHJP
   A61K 35/35 20150101ALI20240123BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240123BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20240123BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20240123BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20240123BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20240123BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240123BHJP
   A61K 8/98 20060101ALI20240123BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240123BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20240123BHJP
   C12P 21/02 20060101ALN20240123BHJP
   C12P 19/34 20060101ALN20240123BHJP
【FI】
A61K35/12
A61K35/28
A61K35/36
A61K35/35
A61K9/08
A61K9/10
A61K47/02
A61K47/26
A61K47/22
A61P43/00 105
A61K8/98
A61Q19/00
A23L33/10
C12P21/02 A
C12P19/34
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023189703
(22)【出願日】2023-11-07
(62)【分割の表示】P 2020534786の分割
【原出願日】2019-08-02
(31)【優先権主張番号】P 2018146349
(32)【優先日】2018-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】513066111
【氏名又は名称】株式会社細胞応用技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(74)【代理人】
【識別番号】100165847
【弁理士】
【氏名又は名称】関 大祐
(72)【発明者】
【氏名】井上 肇
(72)【発明者】
【氏名】藤田 千春
(57)【要約】      (修正有)
【課題】生体親和性に優れ,特定の遺伝子又はタンパク質を多く含む培養上清製剤を提供することを目的とする。
【解決手段】細胞を,第1培地を用いてコンフルエントとなるまで培養する第1培養工程と,
第1培養工程の後に,第1培地と異なる第2培地を培地として,前記細胞を培養する第2培養工程と,
第2培養工程の後に,第2培地を含む培養上清製剤を得る培養上清製剤取得工程を含み,
第2培地は,カルシウムイオン及び緩衝剤を含む,
培養上清製剤の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養上清製剤の製造方法であって,
細胞を,第1培地を用いてコンフルエントとなるまで培養する第1培養工程と,
第1培養工程の後に,第1培地と異なる第2培地を培地として,前記細胞を培養する第2培養工程と,
第2培養工程の後に,第2培地を含む培養上清製剤を得る培養上清製剤取得工程を含み,
第2培地は,電解質溶液である,方法。
【請求項2】
請求項1に記載の培養上清製剤の製造方法であって,第2培地の電解質溶液がHANKS-HEPESを含む,方法。
【請求項3】
請求項2に記載の培養上清製剤の製造方法であって,前記HANKS-HEPESのPHが7.0からPH7.8である,方法。
【請求項4】
請求項2に記載の培養上清製剤の製造方法であって,第2培地におけるHEPESの濃度が20mMである,方法。
【請求項5】
請求項1に記載の培養上清製剤の製造方法であって,第2培養工程は、C0非存在下で前記細胞を培養する工程である、方法。
【請求項6】
HEPESの濃度が20mMであり、PHが7.0からPH7.8であるHANKS-HEPES培養上清製造用培地。
【請求項7】
請求項1に記載の培養上清製剤の製造方法であって,培養上清製剤取得工程はトレハロースを添加する工程を含む,方法。
【請求項8】
請求項1に記載の培養上清製剤の製造方法であって,
前記培養上清製剤は,第2培養工程後の第2培地を50重量%以上100重量%以下含む,方法。
【請求項9】
請求項1に記載の培養上清製剤の製造方法であって,
前記細胞は,脂肪組織由来間葉系間質細胞,表皮由来上皮系細胞又は歯髄由来間葉系幹細胞である,方法。
【請求項10】
請求項1に記載の培養上清製剤の製造方法であって,
第2培養工程は,5時間以上5日以下前記細胞を培養する工程である,方法。
【請求項11】
請求項1に記載の培養上清製剤の製造方法であって,
第2培養工程の後に,培養上清を回収する培養上清回収工程と,
前記培養上清回収工程で回収した培養上清を凍結する凍結工程と,
をさらに含む,方法。
【請求項12】
請求項1に記載の培養上清製剤の製造方法であって,
前記培養上清製剤が,化粧品,医薬品,食料品,又は飲料の原料である,
方法。
【請求項13】
請求項1に記載の培養上清製剤の製造方法により製造された培養上清製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,培養上清製剤の製造方法などに関する。具体的に説明すると,注射や点滴に用いられる輸液などの電解質溶液を用いて,細胞を培養して得られた培養上清を用い,細胞培養用の培地の混入が少ない,培養上清製剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
培養上清は,細胞を培養する際に細胞から分泌された物質(分泌物)を含む。このため,培養上清に含まれる各種疾患の治療又は予防用の組成物(培養上清製剤)は,様々な疾患などの改善に有効であると考えられている。例えば,特許第6296622号公報には, 培養上清を含む損傷部治療用組成物の製造方法が記載されている。特許第6152205号公報には,培養上清を含有する抗アレルギー治療用組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6296622号公報
【特許文献2】特許第6152205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方,これらの培養上清製剤は,最終的な培養工程の培地を含む。培地の種類には,無血清培地やアニマルフリー培地といった,ヒト以外生物由来の成分を軽減したものもある。しかし,培地自体は,細胞を培養する目的で調整されたものである。このため,培養上清を生体内に投与する場合,様々な問題を引き起こす可能性があった。そこで,本発明は,生体親和性に優れた培養上清製剤を提供することを目的とする。また,培地は,細胞を培養することを主目的としており,必ずしも細胞上清を患者に投与することを目的としていない。このため,本発明の好ましい例は,特定の遺伝子又はタンパク質を多く含む培養上清製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は,基本的には,最終培養段階の培地を,注射剤や点滴などに用いられている輸液などの電解質溶液とすることで,生体親和性に優れた培養上清製剤を得ることができるという知見に基づく。また,後述する実施例により実証された通り,通常の細胞培養用の培地に比べて,輸液を用いた方が,ある種の遺伝子やタンパク質が培養上清中に多く含まれており,各種治療,予防,改善効果も高い場合があるという知見に基づく。
【0006】
本明細書に開示される最初の発明は,培養上清製剤の製造方法に関する。
この方法は,第1培養工程と,第2培養工程と,培養上清製剤取得工程を含む。
【0007】
第1培養工程は,細胞を,第1培地を用いてコンフルエントとなるまで培養する工程である。細胞は,脂肪組織由来間葉系間質細胞,表皮由来上皮系細胞又は歯髄由来間葉系幹細胞であることが好ましい。
【0008】
第2培養工程は,第1培養工程の後に,第1培地と異なる第2培地を培地として,細胞を培養する工程である。
第2培地は,カルシウムイオン及び緩衝剤を含む電解質溶液である。第2培地は,注射用の輸液又は点滴用の輸液であってもよい。第2培養工程は,CO2培養器を用いず,CO2培養を行わないものが好ましい。第2培養工程は,5時間以上5日以下細胞を培養する工程であることが好ましい。第2培地はさらにプロスタグランジンを含むものが好ましい。
【0009】
培養上清製剤取得工程は,第2培養工程の後に,第2培地を含む培養上清製剤を得る工程である。培養上清製剤は,第2培養工程後の第2培地を50重量%以上100重量%以下含むことが好ましい。培養上清製剤取得工程はトレハロースを添加する工程を含むことが好ましい。
【0010】
上記の方法は,第2培養工程の後に,培養上清を回収する培養上清回収工程と,
培養上清回収工程で回収した培養上清を凍結する凍結工程と,
をさらに含むものが好ましい。培養上清製剤が,化粧品,医薬品,食料品,又は飲料の原料であるものが好ましい。
【0011】
本明細書に開示される上記とは別の発明は,培養上清製剤に関する。この培養上清製剤は,上記のいずれかの方法により製造された培養上清製剤である。
つまり,この培養上清製剤は,
細胞を,第1培地を用いてコンフルエントとなるまで培養する第1培養工程と,
第1培養工程の後に,第1培地と異なる第2培地を培地として,細胞を培養する第2培養工程とを含む培養上清製剤の製造方法により製造されたものである。そして,培養上清製剤は,第2培養工程後の第2培地を50重量%以上100重量%以下含み第2培地は,カルシウムイオン及び緩衝剤を含む。
【0012】
本明細書に開示される上記とは別の発明は,細胞培養用培地及び輸液として機能する薬液であって,薬液は,カルシウムイオン,プロスタグランジン及び緩衝剤を含む,薬液である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば,生体親和性に優れた培養上清製剤を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下,本発明を実施するための形態について説明する。本発明は,以下に説明する形態に限定されるものではなく,以下の形態から当業者が自明な範囲で適宜修正したものも含む。
【0015】
本明細書に開示される最初の発明は,培養上清製剤の製造方法に関する。培養上清製剤とは,培養上清を有効成分として有効量含む組成物,医薬,化粧品又は栄養補助食品である。この方法は,第1培養工程と,第2培養工程と,培養上清製剤取得工程を含む。
【0016】
第1培養工程は,細胞を,第1培地を用いてコンフルエントとなるまで培養する工程である。細胞は,ヒト又は非ヒト哺乳動物由来であってもよいし,昆虫由来であってもよいし,鳥類由来であってもよいし,植物由来であっても良い。細胞は,脂肪組織由来間葉系間質細胞又は表皮由来上皮系細胞であることが好ましい。第1培養工程は,公知の培養方法を適宜採用すればよい。
【0017】
培養方法は,対象となる細胞に応じて適宜調整すればよい。培養液の例は,10~15%の自己血清または牛胎児血清(FBS)および抗生物質を補充したα-MEMやDMEMを用いることができる。ヒト又は動物由来の成分を含まない培地を用いてもよい。必要に応じて線維芽細胞増殖因子(bFGF)やアドレノメデユリンなどの成長因子を加えてもよい。培養は,哺乳動物の細胞の培養に適する任意の条件で実施することができるが,一般的には37℃,5% COで数日間培養し,必要に応じて培地を交換すればよい。
【0018】
第2培養工程は,第1培養工程の後に,第1培地と異なる第2培地を培地として,細胞を培養する工程である。
第2培地は,カルシウムイオン及び緩衝剤などを含む電解質溶液である。また,第2培地は,糖質が少ないものが好ましく,糖質(例えばグルコース)の含有量が,1g/l以下であることが好ましく,0.8g/l以下でもよく,0.5g/l以下でもよいし,0.1g/L以上1.5g/Lでもよく,0.1g/L以上1.2g/L以下でもよいし,0.1g/L以上1g/L以下でもよいし,0.5g/L以上1.2g/L以下でもよいし,0.8g/L以上1.1g/L以下でもよい。
【0019】
第2培地に含まれるカルシウムイオンは,0.045mM以上1.802mM以下が好ましく,0.074mM以上1.505mM以下でもよいし,0.045mM以上2mM以下でもよいし,0.180mM以上2mM以下でもよいし,1mM以上2mM以下でもよいし,1.3mM以上1.8mM以下でもよいし,1.2mM以上1.6mM以下でもよいし,1mM以上1.6mM以下でもよいし,0.045mM以上1.352mM以下でもよいし,0.180mM以上0.901mM以下でもよいし,20mg/l以上100mg/l以下でもよい。第2培地に含まれる塩類の例は,NaCl,KCl,及びCaClであり,1g/L以上30g/L以下含まれてもよいし,4g/L以上30g/L以下含まれてもよく,6g/L以上11g/L以下含まれてもよい。
【0020】
緩衝剤の例は,MgSO・7HO,NaHPO,KHPO,及びヒドロキシエチルピペラジンエタンスルホン酸である。これらは,他の塩(例えば炭酸水素ナトリウム,炭酸ナトリウム,ピルビン酸,クエン酸,並びにその塩類など)と併せて用いられてもよい。これらの緩衝剤の含有量は,1mg/l以上5g/l以下であることが好ましく,2mg/l以上500mg/l以下でもよいし,10mg/l以上300mg/l以下でもよい。
【0021】
第2培地の酸性度は,例えばpH5.5以上pH9以下であり,pH7.2以上pH7.8以下でもよい。また,第2培地は,アミノ酸が少ないか,アミノ酸を全く含まないことが好ましく,アミノ酸含有量が1mg/ml以下が好ましく,0.8mg/l以下が好ましく,0.5mg/l以下がさらに好ましい。第2培地は,ビタミン類が少ないか,ビタミン類を全く含まないことが好ましく,ビタミン類の含有量が1mg/ml以下が好ましく,0.8mg/l以下が好ましく,0.5mg/l以下がさらに好ましい。第2培地は,抗生物質(例えばペニシリン),成長因子やサイトカインを含まないことが好ましい。第2培地は,鉄,銅,鉛といった重金属元素や,微量元素を少ししか含まないか,全く含まないことが好ましい。このような元素が少ないので,金属含有たんぱく質の合成を抑え,増殖因子の合成を促すことができる。第2培地は,ポリアミン(例えば,Putrescine 2HCl)といった発がん性物質を含まないことが好ましい。第2培地は,プリン塩基を含まないことが好ましい.第2培地がプリン塩基を含まない場合,核酸のサルベージ経路を活性化できる。
【0022】
第2培地は,ビタミンやアミノ酸を含まないか,わずかしか含まないので,オートファジーを促進して増殖因子の合成を増やすことができる。
第2培地は,一般的な培養環境において,培養中の環境を一定に保つことができる(例えば,酸性度の変動を抑えることができ,培養中,緩衝能を持つので,CO2培養などを行う必要がなくなる。)。
【0023】
第2培地は,通常の培地に比べ水分量が多いことが好ましい。例えば第2培地を100重量%とした場合,水分量は95重量%以上99.99重量%以下が好ましく,96重量%以上99.9重量%以下でもよく,97重量%以上99.9重量%以下でもよい。培地の水分量が多いことで浸透圧を下げることができる。すると,例えば,細胞を接着培養した場合,通常トリプシンといった動物由来の消化酵素を用いて培養容器から細胞をはがすものの,第2培地を用いると,消化酵素を用いる必要がなくなる。すると,第2培地を含む剤を患者に投与した際に,動物由来成分による感染等の副作用を軽減することができる。
【0024】
第2培地は,糖質(例えば,グルコース),塩類(カルシウムイオン源を含み,例えばNaCl,KCl及びCaClのみからなるか主な塩類としてこれらを含むもの),及び緩衝剤(例えばMgSO・HO,NaHPO・2HO,KHPO,NaHCO,及びHEPESのみからなるか主な緩衝剤としてこれらを含むもの)と残部が溶媒(例えば水)のみからなるものであってもよい。このような組成であれば,後述する実施例でその有効性が確認された通り,特定の遺伝子やタンパク質を高発現するとともに,生体親和性に優れた培地かつ輸液として機能する。
【0025】
第2培地は,注射用の輸液又は点滴用の輸液であってもよい。この場合,注射用の輸液又は点滴用の輸液として製造販売されているものを適宜用いることができる。注射用の輸液の例は,糖液剤,細胞外液補充液(生理食塩液,リンゲル液,乳酸リンゲル液,細胞外液補充液,酢酸リンゲル液,重炭酸リンゲル液),低張性電解質液,アミノ酸製剤(高濃度アミノ酸液,腎不全用アミノ酸液,肝不全用アミノ酸液,小児用アミノ酸液),PPN(末梢静脈栄養輸液),TPN(高カロリー輸液),脂肪乳剤及び代用血漿増量剤である。これらの中では,細胞外液補充液(生理食塩液,リンゲル液,乳酸リンゲル液,細胞外液補充液,酢酸リンゲル液,重炭酸リンゲル液),及び等張性電解質液が好ましい。具体的な輸液は,パレプラス(登録商標)である。
【0026】
第2培地は,アミノ酸含有量が少ないことで,合成分泌された増殖因子との相互作用を(主に酸化・還元)及び重合反応が回避され,成分の変質を防げるとともに,混入するアミノ酸による吸湿と変質を防げることができる。また,第2培地は,アミノ酸含有量が少ないことで,化粧品原料とした時に細菌の繁殖リスクが軽減されるため,防腐剤・酸化防止剤を添加しなくても,製品の安定性が担保できる。第2培地が,アミノ酸を含まない場合,患部に使うための脱アミノ酸工程が不要となり,患部に常在する細菌などの増殖のための栄養とはならない。このことは,創傷面に利用した際に,悪臭の原因とならないことを意味する。また,製剤化した後に,第2培地を含む剤を点滴投与した際の味覚障害,体臭の原因にならないので,化粧品や医薬として用いる際に利便性が高い。第2培地が,アミノ酸を含まない場合,脱塩が行いやすい。そのため,細胞を大量培養した際に簡便に凍結乾燥化による高濃度増殖因子乾燥物を得ることができる。通常の培地の場合,どのような場合でも48~72時間で培地を交換しなければならない。第2培地がアミノ酸含有培地ではない場合,培養細胞の代謝活性を抑えることで,4℃冷所に保管しておけば長期間(例えば7日間程度)生存環境を維持でき,その後に培地に交換することで細胞を再び増殖できる。第2培地は,カルシウムイオン及び緩衝剤を含む培地であり,好ましくはシンプルな組成を有するものであるため,汎用性が高く全ての動物細胞( ES細胞,iPS細胞・幹細胞含む)及び植物細胞(特に植物のカルス培養や,植物幹細胞の維持)に適用できる。
【0027】
第2培養工程は,CO2培養器を用いず,CO2培養を行わないものが好ましい。つまり,培養容器を用い,CO2インキュベートせずに,培養を行うことが好ましい。第2培養工程は,5時間以上5日以下(10時間以上2日以下,又は5時間以上3日以下)細胞を培養する工程であることが好ましい。培養は,培養される細胞に応じて接着培養でも浮遊培養でもよいし,細胞を取り除く場合は,細胞が取り除かれやすい方法で培養すればよい。
【0028】
培養上清製剤取得工程は,第2培養工程の後に,第2培地を含む培養上清製剤を得る工程である。培養上清製剤は,第2培養工程後の第2培地を50重量%以上100重量%以下含むことが好ましい。培養上清製剤は,第2培養工程後の第2培地(培養上清を含む)を60重量%以上100重量%以下含んでもよいし,70重量%以上99重量%以下,70重量%以上90重量%以下,80重量%以上99重量%以下,90重量%以上100重量%以下,90重量%以上95重量%以下含むことが好ましい。通常,幹細胞などの培養上清は,通常,遠心分離により培養上清を固液分離して得られる上清成分を用いる。この明細書に記載される方法は,第2培地を積極的に製剤に含めることができるので,単に,第2培養工程後の培地をろ過したものを用いてもよい。
【0029】
培養上清製剤は,上記のようにして得られた培養上清を,凍結乾燥により水分を除去して得られる処理物,エバポレーター等を用いて培養上清を減圧濃縮して得られる処理物,限外ろ過膜等を用いて培養上清を濃縮して得られる処理物,又はフィルターを用いて培養上澄みを固液分離して得られる処理物,もしくは,上述のような処理をする前の培養上清の原液であってもよい。また,例えば,細胞を培養した上澄みを,遠心分離(例えば,1,000×g,10分)した後,硫安(例えば,65%飽和硫安)で分画し,沈殿物を適切な緩衝液で懸濁した後に透析処理を行い,シリンジフィルター(例えば,0.2μm)で濾過し,無菌的な培養上清を得てもよい。採取した培養上清を,そのまま用いても,また凍結保存しておき使用時に解凍して用いることもできる。また薬剤学的に許容される担体を加えて,取り扱いやすい液量,例えば0.2ml又は0.5ml等となるように滅菌容器に分注してもよい。さらに,感染性病原体リスクの対策として,培養上清をウイルスクリアランスフィルターやγ線照射により処理してもよい。
【0030】
上記の通り,第2培養工程の後に,培養上清を回収する培養上清回収工程と,培養上清回収工程で回収した培養上清を凍結する凍結工程とを含んでもよい。培養上清を凍結するためには,例えば,培養上清を-200℃以上0℃以下にすればよく,-100℃以上-5℃以下にしてもよい。
なお,培養上清製剤は,第2培養工程後の細胞を破砕し,遠心分離後,フィルターを用いてろ過したものであっても,さらにろ過物を凍結・乾燥したものであってもよい。
【0031】
培養上清製剤(本発明の剤)は,当業者に公知の方法で製造すればよい。本発明の剤は,経口用製剤および非経口用製剤として製造することができるが,好ましくは非経口用製剤である。このような非経口用製剤は,液剤(水性液剤,非水性液剤,懸濁性液剤,乳濁性液剤など)としてもよいし,固形剤(粉末充填製剤,凍結乾燥製剤など)としてもよい。また,本発明の剤は,徐放製剤としてもよい。生きた細胞を剤とする場合の剤形としては液剤が好ましく,細胞の部分成分もしくは死細胞全体を剤とする場合の剤形としては,液剤も固形剤も選択できる。
【0032】
培養上清を有効成分として含む剤は,例えば,特開2013-18756号公報,特許第5139294号,及び特許第5526320号公報に開示されるとおり公知である。したがって,本発明の培養上清を含む剤を,公知の方法を用いて製造することができる。
【0033】
本発明による培養上清の剤型としては,液剤と固形剤の両方を選択できる。タンパク質を主剤とするバイオ医薬品においては,安定性の問題から,保存性に優れる粉体化がしばしば選択される。本発明の培養上清もまた,安定性と保存期間の向上のために,固形剤として製造されることが望ましい。
【0034】
本発明の培養上清を含む剤は,静脈内投与,動脈内投与,筋肉内投与,皮下投与,腹腔内投与,鼻腔内投与,脊髄管腔内投与,関節内投与,歯肉内投与,塗布などの公知の投与方法を用いて投与することができる。本発明の剤は,患部や対象部位に直接投与してもよく,また外科手術により患部を開口し本発明の剤を投与しても良く,内視鏡並びにカテーテル下に非観血的に投与することも可能である。対象となる疾患によって最適なあらゆる投与方法が可能である。移植法として静脈内注射を選択する場合においては,培養上清を1投与単位として0.1mL以上1,000mL以下で投与することが好ましく,さらに好ましくは,30mL以上300mL以下で投与される。
【0035】
液剤を製造する方法は,公知の方法で製造することができる。例えば,間葉系幹細胞を薬学的に許容された溶媒に混合し,滅菌された液剤用の容器に充填することで製造することができる。薬学的に許容された溶媒の例は,注射用水,蒸留水,生理食塩水,電解質溶液剤,若しくは培養液に準ずる組成の液剤であり,滅菌された溶媒を用いることが好ましい。滅菌された液剤用の容器の例は,アンプル,バイアル,シリンジ,及びバッグである。これら容器は,ガラス製やプラスチック製など公知の容器を用いることができる。具体的には,プラスチック製容器の例は,ポリ塩化ビニル,ポリエチレン,ポリプロピレン,エチレン・酢酸ビニル・コポリマーなどの材質を用いたものである。これら容器や溶剤の滅菌法の例は,加熱法(火炎法,乾燥法,高温蒸気法,流通蒸気法,煮沸法など),濾過法,照射法(放射線法,紫外線法,高周波法など),ガス法,及び薬液法である。このような滅菌法は,容器の材質,溶剤の性質に応じて,当業者であれば適宜選択して用いることができる。
【0036】
なお,本明細書は,培養細胞を含む,製剤をも開示する。細胞を液剤として治療に用いる場合,移植法として静脈内注射が最も多用され得る。例として,静脈内注射の場合においては,1×10細胞/mL以上5×10細胞/mL以下で液剤として調整することが好ましく,1×10細胞/mL以上1×10細胞/mLがさらに好適である。また,ヒトにおいて静脈内注射1投与単位として調整される間葉系幹細胞剤としては,1×10細胞以上1×10細胞が好ましく,2×10細胞以上2×10細胞がさらに好適である。その他の投与ルートについては,組織へ移植可能な液量と,その液量に懸濁可能な最大の細胞数以下の範囲において,用いることができる。
【0037】
固形剤を製造する方法として,例えば,凍結乾燥法,スプレードライ(噴霧乾燥)法,及び無菌再結晶法を用いることができる。
【0038】
細胞を含む剤は,静脈内投与,動脈内投与,筋肉内投与,皮下投与,腹腔内投与,鼻腔内投与,脊髄管腔内投与,関節内投与,歯肉内投与などの公知の投与方法を用いて投与することができる。投与形態の好ましい例は,注射による投与であり,静脈内投与の場合は,点滴によって本発明の剤を注入することもよい。
【0039】
細胞が,薬学的に許容される担体又は媒体とともに調整されてもよい。薬学的に許容される担体又は媒体は,例えば,賦形剤,安定化剤,溶解補助剤,乳化剤,懸濁化剤,緩衝剤,等張化剤,抗酸化剤,又は保存剤など薬学的に許容される物質があげられる。また,ポリエチレングリコール(PEG)などの高分子材料やシクロデキストリン等の抱合化防物を使用することもできる。賦形剤の例は,デンプンや乳糖などそれ自体が薬理作用を有さないものである。安定化剤の例は,アルブミン,ゼラチン,ソルビトール,マンニトール,乳糖,ショ糖,トレハロース,マルトース,及びグルコースである。これらのうちでは,ショ糖又はトレハロースが好ましい。溶解補助剤の例は,エタノール,グリセリン,プロピレングリコール,及びポリエチレングリコールである。乳化剤の例は,レシチン,ステアリン酸アルミニウム,またはセスキオレイン酸ソルビタンである。懸濁化剤の例は,マクロゴール,ポリビニルピロリドン(PVP),またはカルメロース(CMC)である。等張化剤の例は,塩化ナトリウム,及びグルコースである。緩衝剤の例は,クエン酸塩,酢酸塩,ホウ酸,及びリン酸塩である。細胞を懸濁させるための水性媒質としては,例えば,浸透圧やpHを血液の値付近に調整し,塩類濃度等を調整した注射用の水溶液等を適宜用いればよく,例えば,酢酸リンゲル液,糖加酢酸リンゲル液等のリンゲル液その他の輸液,生理食塩水,またはブドウ糖液等を用いることができるが,これらに限定されない。例えば輸液用リンゲル液を用いる場合,これに許容量のジメチルスルホキシド(DMSO)またはヒト血清アルブミン(HSA)を添加してもよい。抗酸化剤の例は,アスコルビン酸,亜硫酸水素ナトリウム,及びピロ亜硫酸ナトリウムである。保存剤の例は,フェノール,チメロサール,及び塩化ベンザルコニウムである。
【0040】
本発明は,対象(ヒト又はヒト以外の哺乳動物)の各種疾患を治療し,各種能力を向上させるため,対象に培養上清(又は培養細胞,培養細胞由来精製物)を投与する工程を含む,方法をも提供する。
【0041】
本明細書に開示される上記とは別の発明は,細胞培養用培地及び輸液として機能する薬液であって,薬液は,カルシウムイオン,プロスタグランジン及び緩衝剤を含む,薬液である。この薬液は,上記した第2培地を適宜採用すればよい。
【0042】
特許6497827号公報に記載される通り,培養上清は,エイコサノイド産生促進剤として機能する。この剤は,動脈硬化,又は糖尿病の治療剤であることが好ましい。特許第6250196号公報には,PPARアゴニストが糖尿病の治療剤であることが記載されている。特許第4515026号には,PPARγを活性化することが,糖尿病の治療に有効であることが示されている。特許第6157041号には,PPARγ活性化剤が動脈硬化,及び糖尿病の治療に有効であることが示されている。本発明の剤は,PPARγを活性化するので,動脈硬化,及び糖尿病の治療に有効である。この剤は,関節リウマチの治療剤であることが好ましい。関節リウマチモデルにおいて,15-デオキシ-デルタ-12,14-プロスタグランジンJ2が,リウマチ臨床スコア,痛み,及び浮腫を抑制することが知られている(Mediators Inflamm. 2016;2016:9626427. Epub 2016 Oct 31.)。本発明の剤は,マクロファージからのPPARγの活性化剤であるエイコサノイドの産生を促進するものであり,例えば,15-デオキシ-デルタ-12,14-プロスタグランジンJ2の産生を促進するので,関節リウマチの治療に有効である。この剤は,前立腺癌,脳梗塞,又は脳機能障害の予防剤又は治療剤であることが好ましい。例えば,Cancer Res. 2001 Jan 15;61(2):497-503.では,15-HETEが,前立腺癌細胞株(PC3)の増殖を抑制することや,複数の癌腫において抑制的な作用が報告されている。また,J Lipid Res. 2015 Mar;56(3):502-14では,15-HETEの投与が,脳梗塞モデルの脳虚血後の脳組織障害レベルや,脳における炎症反応を抑制することが報告されている。本発明の剤は,マクロファージからのPPARγの活性化剤であるエイコサノイドの産生を促進するものであり,例えば15-ハイドロキシエイコサテトラエノイックアシッド(15-HETE)の産生を促進するので,前立腺癌の治療に有効である。特許第5940261号公報には,ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体γ(PPARγ)活性化剤が,高血圧症,インスリン抵抗性疾患,脳梗塞,アルツハイマー病,神経疾患の少なくともひとつを予防及び改善することが記載されている。本発明の剤は,PPARγを活性化するので,脳梗塞,及び脳機能障害の予防及び治療に有効である。この剤は,疼痛の予防剤又は治療剤であることが好ましい。例えば,Exp. Ther. Med.2016 Oct;12(4):2644-2650. では,PPARγの活性化剤であるピオグリタゾンの投与が,神経障害性疼痛における活性化ミクログリアを抑制し,その結果,機械刺激に対する疼痛閾値を緩和することが示されている。本発明の剤は,マクロファージからのPPARγの活性化剤であるエイコサノイドの産生を促進するものであり,例えば,15-デオキシ-デルタ-12,14-プロスタグランジンJ2の産生を促進するので,疼痛の予防又は治療に有効である。
【0043】
特許6132459 号公報には,間葉系幹細胞の培養上清を含む腸炎の予防・治療剤が記載されている。このため,本発明の培養上清を含む剤は,腸炎の予防・治療に有効である。
【実施例0044】
細胞培養,培養上清回収
正常ヒト脂肪組織を酵素処理して抽出した脂肪組織由来間質細胞を,20%FBS(ウシ胎児血清)含有DME培地(ギブコ社製ダルベッコ改変イーグル培地,高グルコース)を用いノンコートの培養フラスコ(FALCON社製)で培養し,初代培養とした。コンフルエント直前の初代培養細胞を酵素処理により回収後,同培地でノンコート培養用12ウェルプレート(住友ベークライト社製)に播種し,コンフルエントになるまで培養した。
【0045】
コンフルエントになったことを確認した後,培地を除去し,細胞表面をPBS(DSファーマバイオメディカル社製ダルベッコリン酸緩衝液)で洗浄した。
洗浄後の細胞を,FBS不含DME培地,又はHBSS(シグマアルドリッチ社製ハンクス平衡塩溶液)-HEPESに置換した。その後12ウェルを3ウェルずつ4つの群に分け,FBS不含DME培地は5%CO2培養器内(参考例),HBSS-HEPESは培養器内(実施例)で培養した。置換した直後(0時間),3時間後,6時間後,24時間後,48時間後に各ウェル内の培養上清を回収した。
【0046】
FBS不含DME培地は,FBSを含まないダルベッコ改変イーグル培地である。DME培地は,グルコース,L-グルタミンといった各種成分を含む。
HBSS(ハンクス平衡塩溶液)は,(1)等張液である炭酸水素ナトリウム溶液,(2)NaCl,KCl,MgSO・7HO,NaHPO,グルコース,及びKHPOを含む緩衝液及び(3)CaCl溶液及び緩衝液である。
HEPESは,ヒドロキシエチルピペラジンエタンスルホン酸であり,緩衝剤又はpH調整剤である。
【0047】
FBS不含DME培地に含まれる糖質の量は,4.5g/L,アミノ酸(L-グルタミン酸他)の総量は1.6g/L,カルシウムイオンは1.8mMであった。
一方,HBSS-HEPES培地(hanks-HEPESpH7.4)に含まれる糖質の量は,1.0g/L,NaClは,8.0g/L,KClは,0.4g/L,CaClは,0.14g/L,MgSO・HOは,0.2g/L,NaHPO・2HOは,0.06g/L,KHPOは,0.06g/L,NaHCOは,0.35g/L,20mM HEPESpH7.4であり,アミノ酸(L-グルタミン酸他)の総量は0g/L,カルシウムイオンは1.5mMであった。
【0048】
遺伝子発現量の測定方法
上記に示したように培養上清を回収後,そのウェルにそれぞれ400マイクロリットルのRNA抽出液ISOGEN(ニッポン・ジーンNo.319-90211)を添加し,定法に従い細胞から全RNAを抽出,エタチンメイト(ニッポン・ジーンNo.312-01791)を用いて得られた全RNAの沈殿物をヌクレアーゼフリー水に溶解させた。このうちの1.5マイクロリットルを用いてナノドロップ(サーモサイエンテフィック社)により全RNA の濃度を測定した。得られた全RNA 100ナノグラムからアイスクリプトcDNA合成キット(BIO RADNo.1708891)を用いて相補的DNAを合成し,リアルタイムPCR(QIAGEN社製ローター・ジーンQ)による各遺伝子発現量の定量に用いた。
【0049】
リアルタイムPCR法による遺伝子発現の定量化
合成したDNA,検出・定量化する遺伝子に特異的なプライマー(QuantiTect Primer Assay,QIAGEN),リアルタイムPCR試薬(RotorGene SYBR Green,QIAGEN )を混合し,RotorGeneQシステム(QIAGEN社)にて,リアルタイムPCRを行い,検出・定量化する遺伝子の断片を増幅した。この際,ハウスキーピング遺伝子であるβ―Actin特異的なプライマーを同様に増幅し,その増幅曲線を指標として検出・定量化したい遺伝子の定量値を相対的に算出した。
各遺伝子に特異的なプライマーとしてQIAGEN社の以下のプライマー混合液を用いた。
【0050】
ヒトβ―Actin
Hs_ACTB_1_SG カタログ番号QT00095431
ヒトFGF2
Hs_FGF2_1_SG カタログ番号QT00047579
ヒトVEGFA
Hs_VEGFA_1_SG カタログ番号QT01010184
【0051】
培養上清に含まれるタンパク質の定量化方法
細胞培養,培養上清回収で示したように回収した培養上清を0.22マイクロメートル径のフィルターに通し,タンパク質定量用のサンプルとした。
サンプルのタンパク質定量にはR&D SYSTEMSR社のQUANTIKINE ELISA (Human VEGF,FGF-2)キットを用い,そのプロトコールに従って,各タンパク質の定量値を得た。
その結果を表1及び表2に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
リアルタイムPCRの結果
細胞内のVEGF遺伝子の発現量はHanks-HEPES溶液が一番多かった。
細胞内のFGF-2遺伝子の発現量はHanks-HEPES溶液が一番多かった。
【0055】
タンパク定量の結果
培養上清中のVEGFの量はHanks-HEPES溶液が一番多かった。
培養上清中のFGF-2の量はDME培地が一番多かった。
【0056】
考察
0,6,24,48時間,経時的に遺伝子の発現量,培養上清中のタンパク質の量,ともに増加傾向にあった。VEGF遺伝子の発現量,培養上清中のタンパク質の量はHanks-HEPES溶液(実施例)が一番多かった。FGF-2の遺伝子発現量はHanks-HEPES溶液が一番多かったが培養上清中のタンパク質の量に関してはDME(H)(参考例)の方が多かった。
【実施例0057】
細胞培養,培養上清回収
正常ヒト皮膚組織を酵素処理し抽出した表皮角化細胞を,サプリメントS7(ギブコ社製No.S0175)含有無血清細胞用培地(ギブコ社製No.MEPI500CA)を用いノンコートの培養フラスコ(FALCON社製)で培養し,初代培養とした。コンフルエント直前の初代培養細胞を酵素処理により回収後,同培地でノンコート培養用12ウェルプレート(住友ベークライト社製)に播種し,コンフルエントになるまで培養した。
【0058】
コンフルエントになったことを確認後,培地を除去し,細胞表面をPBS(DSファーマバイオメディカル社製ダルベッコリン酸緩衝液)で洗浄し,サプリメント7不含無血清細胞用培地(EpiLife:参考例),またはHBSS-HEPESpH7.4溶液(実施例)に置換した。その後12ウェルを3ウェルずつ4つの群に分け,置換した直後(0時間),3時間後,6時間後,24時間後に各ウェル内の培養上清を回収した。
【0059】
サプリメント7不含無血清細胞用培地(EpiLife:参考例)に含まれる糖質の量は,1.0 g/L,アミノ酸(L-グルタミン酸他)の総量は1.5g/L,カルシウムイオンは8.4mg/Lであった。
【0060】
遺伝子発現量の測定方法
上記に示したように培養上清を回収後,そのウェルにそれぞれ400マイクロリットルのRNA抽出液ISOGEN(ニッポン・ジーンNo.319-90211)を添加し,定法に従い細胞から全RNAを抽出,エタチンメイト(ニッポン・ジーンNo.312-01791)を用いて得られた全RNAの沈殿物をnuclease-free水に溶解させた。このうちの1.5マイクロリットルを用いてナノドロップ(サーモサイエンテフィック社)により全RNA の濃度を測定した。得られた全RNA 100ナノグラムからiScript cDNA Synthesis Kit(BIO RADNo.1708891)を用いて相補的DNAを合成し,リアルタイムPCR(QIAGEN社製ローター・ジーンQ)による各遺伝子発現量の定量に用いた。
【0061】
リアルタイムPCR法による遺伝子発現の定量化
合成したDNA定量化する遺伝子に特異的なプライマー(QuantiTact Primer Assay,QIAGEN),リアルタイムPCR試薬(Rotor-Gene SYBR Green,QIAGEN)を混合し,Rotor-GeneQシステム(QIAGEN社)にて,リアルタイムPCRを行い,検出・定量化する遺伝子の断片を増幅した。この際,ハウスキーピング遺伝子であるβ―Actin特異的なプライマーを同様に増幅し,その増幅曲線を指標として検出・定量化したい遺伝子の定量値を相対的に算出した。
各遺伝子に特異的なプライマーとしてQIAGEN社の以下のプライマー混合液を用いた。
ヒトβ―Actin
Hs_ACTB_1_SG カタログ番号QT00095431
ヒトEGF
Hs_EGF_1_SG カタログ番号QT00051646
ヒトVEGFA
Hs_VEGFA_1_SG カタログ番号QT01010184
ヒトFGF2
Hs_FGF2_1_SG カタログ番号QT00047579
【0062】
培養上清に含まれるタンパク質の定量化方法
細胞培養,培養上清回収で示したように回収した培養上清を0.22マイクロメートル径のフィルターに通し,タンパク質定量用のサンプルとした。
サンプルのタンパク質定量にはR&D SYSTEMSR社のQUANTIKINE ELISA (Human VEGF)キットを用い,そのプロトコールに従って,各タンパク質の定量値を得た。その結果を表3~表5に示す。
【0063】
【表3】
【0064】
【表4】
【0065】
【表5】
【0066】
リアルタムPCR結果
細胞内のEGF遺伝子の発現量はEpiLife培地(参考例)よりもHanks-HEPES溶液(実施例)の方が多かった。 細胞内のFGF-2遺伝子発現量はEpiLifeよりもHanks-HEPES溶液の方が多かった。
細胞内のVEGF遺伝子発現量はEpiLifeよりもHanks-HEPES溶液の方が多かった。タンパク定量の結果,培養上清中のVEGFの量はHanks-HEPESの方が多かった。
【実施例0067】
コンフルエントになった脂肪組織由来間質細胞の培養液を3種類の溶液で置換し,48時間後の細胞内各mRNAの発現量を定量した。置換した溶液は,FBS不含有DME培地,HBSS-HEPES培地及びパレプラス輸液であった。mRNAの発現量を定量した結果を表6に示す。
【0068】
パレプラスは,パレプラス輸液を意味し,ブドウ糖,塩化ナトリウム,L-乳酸ナトリウム,塩化カルシウム水和物,硫酸マグネシウム水和物,硫酸亜鉛水和物,チアミン塩化物塩酸塩,ピリドキシン塩酸塩,シアノコバラミン,パンテノール,氷酢酸,アミノ酸,電解質,安定剤,及びpH調節剤含む。
【0069】
【表6】
【0070】
表6から培地(DME(H))よりも,電解質溶液(Hanks-HEPES,パレプラス)の方が遺伝子の発現量は多いことが分かる。電解質溶液では,Hanks-HEPESがより好ましいことが分かる。
【実施例0071】
コンフルエントになった脂肪組織由来間質細胞の培養液を下記の溶液で置換し,48時間後の細胞内各mRNAの発現量を定量した。
【0072】
【表7】
【0073】
KN2号は,KN2号輸液を示す。KN2号輸液は,塩化ナトリウム,塩化カリウム,L-乳酸ナトリウム,塩化マグネシウム,リン酸二水素ナトリウム水和物,リン酸二カリウム及びブドウ糖を含む。
【0074】
【表8】
【0075】
HBSS-HEPESpH7.4とHBSSを比較した場合,HEPESpH7.4が添加されていることによって,PHが酸性になる速度が緩やかになることで,遺伝子発現が促進されることがわかる。
【実施例0076】
培養上清の回収,凍結乾燥
第二培養工程にて48時間経過後の培養上清を50mL遠沈管(住友ベークライト株式会社)に回収後,遠心分離(740G,5分間)し,その上清を,膜孔径0.2マイクロメートルの濾過フィルター(倉敷紡績株式会社)に通し,シリンジ(テルモ株式会社)に分注した。シリンジを滅菌バックに封入し,-80℃のフリーザー内で凍結させた後,凍結乾燥装置(ヤマト科学株式会社)内に移し,凍結乾燥を行った。凍結乾燥終了後,シリンジ用ルアーキャップ(テルモ株式会社)で密閉した。
【実施例0077】
実施例1と同様に脂肪組織由来間質細胞がコンフルエントになったことを確認した後,培地を除去し,細胞表面をPBSで洗浄した。
洗浄後の細胞を,HBSS-HEPESに置換した。その後12ウェルを2ウェルずつ6つの群に分け,HBSS-HEPESは培養器内(実施例)で培養した。置換した直後(0時間),1日後,2日後,3日後,4日後,5日後,6日後に各ウェルの細胞からISOGEN(ニッポンジーン社製)を用いトータルRNAを抽出し,リアルアイムPCRによりVEGF遺伝子の発現の相対定量を行った。その結果を表9に示す。表9に示される通り,5日後まで遺伝子発現が維持されていることが明らかとなった。
【0078】
【表9】
【実施例0079】
実施例1と同様に脂肪組織由来間質細胞がコンフルエントになったことを確認した後,培地を除去し,細胞表面をPBSで洗浄した。
洗浄後の細胞を,HBSS-HEPESpH6.5,HBSS-HEPESpH7.0,HBSS-HEPESpH7.4,HBSS-HEPESpH7.8,HBSS-HEPESpH9.0に置換した。置換した直後(0時間),48時間後に各ウェルの細胞からISOGEN(ニッポンジーン社製)を用いトータルRNAを抽出し,リアルアイムPCRによりVEGF遺伝子の発現の相対定量を行った。その結果を表10に示す。表10に示されるように,HBSS-HEPESpH7.0からHBSS-HEPESpH7.8まで遺伝子発現が維持されていることが明らかとなった。
【0080】
【表10】
【実施例0081】
実施例1と同様に,12ウェルプレートに脂肪組織由来間質細胞を培養し,コンフルエントになったことを確認した後,培地を除去し,細胞表面をPBSで洗浄した。
洗浄後の細胞を3ウェルずつ4つの群に分け,それぞれ0ng/mL,4ng/mL,40ng/mL,400ng/mLの濃度のPGE1(プロスタンディン 丸石製薬株式会社製)を添加したHBSS-HEPESに置換し,培養器内(実施例)で培養した。置換してから48時間後,各ウェルから培養上清を回収しQUANTIKINE ELISA Human VEGF(R&D SYSTEMS社製)でタンパク定量を行なった。また,培養上清回収後の各ウェルより,ISOGEN(ニッポンジーン社製)を用いトータルRNAを抽出後アイスクリプトcDNA合成キット(BIO RAD社製)を用いて相補的DNAを合成し,それをリアルタイムPCR(ローター・ジーンQ,QIAGEN社製)によるVEGF遺伝子発現量の相対定量に用いた。その結果を表11に示す。表11に示されるように,mRNAの発現量の相対定量値はPGE1の添加量に依らずほぼ同程度であった。タンパク量に関してはPGE1の添加量に応じ,増加傾向にあることが明らかとなった。このことから,培地をPGE1含有HBSS-HEPESに置換し48時間培養することで,より高濃度のVEGFを含む培養上清が得られることがわかった。
【0082】
【表11】
【実施例0083】
正常ヒト脂肪組織を酵素処理して抽出した脂肪組織由来間質細胞(ASC)を,20%FBS(ウシ胎児血清)含有DME培地(ギブコ社製ダルベッコ改変イーグル培地,高グルコース)を用いて,培養フラスコT75(BD FALCON社製)で培養し,初代培養とした。コンフルエント直前の初代培養細胞を酵素処理により回収後,適宜希釈し,適量細胞数を同培地で培養用6ウェルプレート(住友ベークライト社製)1枚に播種し,コンフルエントになるまで培養した。
コンフルエントになった各ウェルの細胞を3ウェルずつ2つの群に分け,それぞれの培地を除去し,各ウェルの細胞表面をPBS(DSファーマバイオメディカル社製ダルベッコリン酸緩衝液)で洗浄した。
洗浄後,1つ目の群にDME高グルコース培地を,2つ目の群に終濃度10mMHEPESpH7.4となるように調製したHBSS(シグマアルドリッチ社製ハンクス平衡塩溶液)を,3つ目の群には終濃度20mMHEPESpH7.4となるように調製したHBSSを添加した。培養器内(実施例)で48時間培養した後,培養上清をそれぞれ5mL容量のチューブ(BD FALCON社製)に回収し,QUANTIKINE ELISA Human VEGF(R&D SYSTEMS社製)にてVEGFタンパク質の定量を行った。更に各ウェルの細胞からISOGEN(ニッポンジーン社製)を用いトータルRNAを抽出,濃縮し,アイスクリプトcDNA合成キット(BIO RAD社製)を用いて相補的DNAを得た。そしてそれを用いてリアルアイムPCR(ロータージーンQ,QIAGEN社製)によりVEGF,FGF2basic,MMP1,EFNA3,BMP1,WNT5A遺伝子の各発現量の相対定量を行った。その結果を表12~表17に示す。相対定量値は、ベータアクチンを内部標準としサンプル間の補正を行い、DME高グルコース培地での値を基準値として算出した。表12~表17に示される通り,細胞内の各mRNAは,DME培地よりもHBSS-10mMHEPESpH7.4で培養した細胞内により多く発現する傾向が見られ,さらにHEPESの濃度は20mMである方がより多いことがわかった。
【0084】
【表12】
【0085】
【表13】
【0086】
【表14】
【0087】
【表15】
【0088】
【表16】
【0089】
【表17】
【実施例0090】
実施例4と同様に,脂肪組織由来間質細胞(ASC)を培養用6ウェルプレート(住友ベークライト社製)5枚に播種し,コンフルエントになるまで培養した。
同様に,ヒト歯髄幹細胞(SHED)を6ウェルプレート5枚に播種し,コンフルエントになるまで培養した。
コンフルエントになったASCとSHEDについて,各ウェルの細胞を2ウェルずつ3つの群に分け,それぞれの培地を除去し,各ウェルの細胞表面をPBS(DSファーマバイオメディカル社製ダルベッコリン酸緩衝液)で洗浄した。
洗浄後,3つの群にHBSS(シグマアルドリッチ社製ハンクス平衡塩溶液)-HEPESpH7.4をそれぞれ3mL,2mL,1mL添加し,培養器内(実施例)で48時間培養した後,培養上清をそれぞれ5mL容量のチューブ(BD FALCON社製)に回収し,QUANTIKINE ELISA Human VEGF(R&D SYSTEMS社製)にてVEGFタンパク質の定量を行った。更に各ウェルの細胞からISOGEN(ニッポンジーン社製)を用いトータルRNAを抽出,濃縮し,アイスクリプトcDNA合成キット(BIO RAD社製)を用いて相補的DNAを得た。そしてそれを用いてリアルアイムPCR(ロータージーンQ,QIAGEN社製)によりVEGF遺伝子発現量の相対定量を行った。
相対定量値はベータアクチンを内部標準としサンプル間の補正を行い、通常の培地量2mLの値を基準値として算出した。
【0091】
【表18】
【0092】
【表19】
細胞内のmRNAの発現量に関しては培養上清の量による変化は見られなかった。培養上清中に含まれるVEGFタンパク質の量は,培養上清の容積が多い方が少なく,培養上清の容積が少ない方がより多くなっていた。このことから,通常使用する培地の容積よりも少ない量の培地を用いることでより多くの成長因子を含む培養上清が得られることがわかった。
【実施例0093】
実施例5と同様にして,第二培養工程にて48時間経過後の培養上清を回収し,遠心分離(740G,5分間)して得られた培養上清を,無添加の群,250mMトレハロース(林原社製)を加えた群,の2つの群に分けた。その後,膜孔径0.2マイクロメートルの濾過フィルター(倉敷紡績株式会社)に通し,シリンジ(テルモ株式会社)に分注した。シリンジを滅菌バックに封入し,-80℃のフリーザー内で凍結させた後,凍結乾燥装置(ヤマト科学株式会社)内に移し,凍結乾燥を行った。凍結乾燥終了後,シリンジ用ルアーキャップ(テルモ株式会社)で密栓した。密栓した状態で,-80℃,4℃,25℃,の3つの温度条件でそれぞれを3週間,保管した。3週間経過後,凍結乾燥試料を注射用水(大塚製薬株式会社製)で再懸濁し,QUANTIKINE ELISA Human VEGF(R&D SYSTEMS社製)でタンパク定量を行なった。定量値は-80℃で3週間保管後の培養上清に含まれるVEGFタンパク質の定量値を基準とし,各保管温度におけるVEGFタンパク質の相対定量値を算出した。その結果を表20に示す。表20に示される通り,無添加の凍結乾燥培養上清では,25℃環境下での保管により,顕著なVEGFタンパク質の減少が確認できた。これは吸湿や光酸化に伴うタンパク質の分解を示唆している。一方で終濃度250mMのトレハロースを添加するとVEGFタンパク質の減少は抑制されることがわかった。
【0094】
【表20】
【実施例0095】
正常ヒト脂肪組織を酵素処理して抽出した脂肪組織由来間質細胞を,20%FBS(ウシ胎児血清)含有DME培地(ギブコ社製ダルベッコ改変イーグル培地,高グルコース)を用いて,培養フラスコ(FALCON社製)で培養し,初代培養とした。コンフルエント直前の初代培養細胞を酵素処理により回収後,同培地で培養用フラスコT75(BD FALCON社製)5枚に播種し,コンフルエントになるまで培養した。
コンフルエントになったことを確認した後,培地を除去し,細胞表面をPBS(DSファーマバイオメディカル社製ダルベッコリン酸緩衝液)で洗浄した。
洗浄後の細胞を,HBSS(シグマアルドリッチ社製ハンクス平衡塩溶液)-HEPESに置換し,培養器内(実施例)で48時間培養した後,培養上清をそれぞれ20mL容量のシリンジ(テルモ社製)に15mLずつ回収した。
回収した培養上清を凍結乾燥させた。
20mLシリンジにて凍結乾燥させた培養上清2本をそれぞれ注射用水15mLに懸濁し,VIVASPIN20,VS2041(ザルトリウス社製)と遠心分離機KUBOTA2800(クボタ社製)を用いて0.6mLとなるまで濃縮操作を行った。
濃縮操作後,1本について,Exosome Isolation Kit(富士フィルム和光社製)を用い,定法に従い培養上清中のExosomeを単離抽出した(サンプル1)。抽出したExosome抽出液は0.1mLであった。残りの1本についてはそのまま1.5mLチューブ(エッペンドルフ社製)に保管した(サンプル2)。
濃縮操作を行い,Exosomenを単離抽出したサンプル1と,濃縮操作を行っただけの培養上清サンプル2に関し,ExosomeELISA Kit(富士フィルム和光社製)を用い,定法に従いそれらに含まれるExosomeを相対的に定量した。定量値は450nmの吸光度と650nmの吸光度の差を求め,ブランクの値で補正を行い,その吸光度の値をもとに培養上清15mLに含まれる吸光度の積算値として表した。その結果を表21に示す。表21に示される通り,両者の吸光度の値の比較より,本製造方法による培養上清にはExosomeが含まれており,あえてそれを単離抽出せずとも相当量のExosomeを活用できることがわかった。
【0096】
【表21】
【実施例0097】
正常ヒト脂肪組織を酵素処理して抽出した脂肪組織由来間質細胞(ASC)を,20%FBS(ウシ胎児血清)含有DME培地(ギブコ社製ダルベッコ改変イーグル培地,高グルコース)を用いて,培養フラスコT75(BD FALCON社製)で培養し,初代培養とした。コンフルエント直前の初代培養細胞を酵素処理により回収後,同培地で培養用6ウェルプレート(住友ベークライト社製)2枚に播種し,コンフルエントになるまで培養した。
コンフルエントになった各ウェルの細胞を3ウェルずつ2つの群に分け,それぞれの培地を除去し,各ウェルの細胞表面をPBS(DSファーマバイオメディカル社製ダルベッコリン酸緩衝液)で洗浄した。
洗浄後,2つの群にHBSS(シグマアルドリッチ社製ハンクス平衡塩溶液)-HEPESpH7.4を2mL添加し,培養器内(実施例)で24時間または48時間培養した。24時間または48時間経過後,1つ目の群については通常通り培養上清を5mL容量のチューブ(BD FALCON社製)に回収した。2つ目の群に関してはセルスクレイパー(旭硝子社製)を用い,接着細胞を培養上清をと共に5mL容量のチューブに回収し,ヒスコトロン(日音医理科器械製作所社製)を用い細胞を破砕し,測定試料とした。それぞれの試料をQUANTIKINE ELISA Human VEGF(R&D SYSTEMS社製)を用い,VEGFタンパク質の定量を行った。1つ目の群(培養上清)から得られたVEGFタンパク質の定量値を基準として,細胞含有培養上清に含まれるVEGFタンパク質の相対定量値を算出した。その結果を表22及び表23に示す。表23において,相対定量値は,24時間培養後の培養上清から得られたVEGFタンパク質の定量値を基準として,48時間培養後の各試料に含まれるVEGFタンパク質の相対定量値を算出したものである。表22及び表23に示される通り, 細胞含有培養上清を用いることで、より多くの増殖因子を活用できることが明らかとなった。
【0098】
【表22】
【0099】
【表23】
【実施例0100】
健常人皮膚組織由来表皮細胞から、常法により線維芽細胞を選択培養した。得られた初代培養を維持培養し、その4継代目を6ウェルプレート(住友ベークライト社製)5枚に播種、コンフルエントになるまで培養した。コンフルエントになった各ウェルの細胞を3ウェルずつ2つの群に分け、それぞれの培地を除去し、各ウェルの細胞表面をPBS(DSファーマバイオメディカル社製ダルベッコリン酸緩衝液)で洗浄した。洗浄後、1群目はHBSS(シグマアルドリッチ社製ハンクス平衡塩溶液)-HEPESpH7.4、各2mLで置換し、2群目、3群目には同量のHBSS-HEPESpH7.4に実施例1で示した脂肪組織幹細胞由来培養上清(ASCsup.)をそれぞれ終濃度10%、50%となるように添加した溶液で置換した。その後培養器内で3、6、24または48時間培養した。それぞれの時間経過後、各ウェルより、ISOGEN(ニッポンジーン社製)を用いトータルRNAを抽出後アイスクリプトcDNA合成キット(BIO RAD社製)を用いて相補的DNAを合成し、それをリアルタイムPCR(ローター・ジーンQ、QIAGEN社製)によるFGFbasic,VEGF遺伝子発現量の相対定量に用いた。相対定量値は、ベータアクチンを内部標準としサンプル間の補正を行い、コンフルエントになった時点での細胞の各遺伝子発現量の値を基準値として算出した。その結果を表24及び表25に示す。
【0101】
【表24】
【0102】
【表25】
【0103】
表24及び表25に示されるように,FGF-basic遺伝子に関して、ASC-sup.無添加群においては培地置換後24時間までは時間経過に伴い発現が増加傾向であったが、48時間後には停滞した。一方で添加群においては置換後48時間まで、時間経過とともに発現の増加が見られ、その添加量に依存し増加率は高くなった。
VEGF遺伝子に関しては無添加群、添加群ともに置換後48時間まで、時間経過に伴い発現が増加傾向となり、ASC-sup.の添加量依存的にその増加率は顕著に高くなった。
線維芽細胞に脂肪組織由来間質細胞培養上清を添加することでその細胞自体の増殖因子の発現を促進させ、組織再生に有効であることが示唆された。
【実施例0104】
健常人皮膚組織由来表皮細胞を常法により抽出し、6ウェルプレートに播種した。その際、EpiLife培地、EpiLife培地に実施例1で示した脂肪組織幹細胞由来培養上清を添加したもの、の2群に分け、コンフルエントになるまで培養した。コンフルエントになったことを確認した後、常法に従い、L-DOPA染色を施し、表皮細胞に含まれる色素幹細胞の色調を定量した。定量値は画像ソフトウェアImageJを用い、L-DOPA染色を施した色素幹細胞の黒色部分の面積の割合から得た。その結果を表26に示す。
【0105】
【表26】
【0106】
表26に示される通り,脂肪組織幹細胞由来の培養上清を添加した培地の方が、表皮細胞中に存在する色素幹細胞のL-DOPA染色による色調の定量値が低いことから、脂肪組織幹細胞由来の培養上清には色素幹細胞の増殖、色素細胞への分化を抑える働きがあることが示唆された。そのため、美白成分として有効であることが明らかとなった。
【実施例0107】
実施例5と培養上清の凍結乾燥品を製造した。1ml分の培養上清から製造した凍結乾燥培養上清を2種類のヒアルロン酸製剤であるレスチレンリド(GALDETRAMA社製)及びベロテロ(MERZ社)1mlに融解させた。凍結乾燥培養上清は、ヒアルロン酸に融解することが明らかとなった。そのため、ヒアルロン酸を皮下や関節内などに投与する際に、ヒアルロン酸とともに凍結乾燥培養上清を投与することができるため、医薬品の原料として使用することができた。
【実施例0108】
実施例5と培養上清の凍結乾燥品を製造した。1ml分の培養上清から製造した凍結乾燥培養上清を蒸留水1mlに融解し、化粧水及び食料品、飲料として使用した。また、親水軟膏であるヒルドイドソフト軟膏(マルホ社製)1gに融解させ、軟膏として使用した。そのため、化粧品、医薬品、食料品、飲料の原料として使用することができた。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明は,医薬産業において利用されうる。