(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125307
(43)【公開日】2024-09-18
(54)【発明の名称】アミロイドペプチドバリアント
(51)【国際特許分類】
C07K 14/465 20060101AFI20240910BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20240910BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20240910BHJP
A61K 38/22 20060101ALI20240910BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240910BHJP
【FI】
C07K14/465 ZNA
A61P3/10
A61P3/04
A61K38/22
C07K14/465
C12N15/12
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024091172
(22)【出願日】2024-06-05
(62)【分割の表示】P 2021549163の分割
【原出願日】2020-02-24
(31)【優先権主張番号】62/809,167
(32)【優先日】2019-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】521365060
【氏名又は名称】ロヨラ メリーマウント ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】Loyola Marymount University
(71)【出願人】
【識別番号】521365071
【氏名又は名称】マウント セイント メアリーズ ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】Mount Saint Mary’s University
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】モフェット,デビッド
(72)【発明者】
【氏名】ノガジ,ルイザ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ヒト膵島アミロイドポリペプチド(ヒトIslet Amyloid Polypeptide;ヒトIAPP)の凝集に起因する疾患、またはヒトIAPPの凝集が進行に関連する疾患の治療に使用可能な医薬組成物を提供する。
【解決手段】ヒトIAPP凝集を阻害するための医薬組成物であって、特定のアミノ酸配列を含むIAPPペプチド、および1つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤を含む、医薬組成物が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)配列番号15~18、
b)配列番号26~37、
c)配列番号42~46、
d)配列番号53~64、および
e)配列番号65~68
からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するIAPPペプチド。
【請求項2】
配列番号15~18からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する、請求項1に記載のIAPPペプチド。
【請求項3】
配列番号26~37および配列番号42~46からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する、請求項1に記載のIAPPペプチド。
【請求項4】
配列番号53~64および配列番号65~68からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する、請求項1に記載のIAPPペプチド。
【請求項5】
請求項1に記載のIAPPペプチドおよび1つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤を含む、医薬組成物。
【請求項6】
IAPP凝集を阻害するための、請求項1に記載のIAPPペプチドの使用。
【請求項7】
アミロイド疾患の治療における、請求項1に記載のIAPPペプチドの使用。
【請求項8】
前記疾患が糖尿病である、請求項7に記載のIAPPペプチドの使用。
【請求項9】
0.1mcg/kg/日~5.0mcg/kg/日の前記IAPPペプチドが対象に投与される、請求項7に記載のIAPPペプチドの使用。
【請求項10】
前記IAPPペプチドが、配列番号16~17、配列番号31~34、配列番号46、配列番号59~61、および配列番号66~68からなる群から選択される、請求項7に記載のIAPPペプチドの使用。
【請求項12】
IAPPペプチドが、配列番号2~7からなる群から選択される、アミロイド疾患の治療における前記IAPPペプチドの使用。
【請求項13】
前記IAPPペプチドが、配列番号4および配列番号6からなる群から選択される、請求項12に記載のIAPPペプチドの使用。
【請求項14】
アミロイド疾患を患う対象を治療する方法であって、それを必要とする対象に配列番号2~7、配列番号15~18、配列番号26~37、配列番号42~46、配列番号53~64、および配列番号65~68からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するIAPPペプチドを投与するステップを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年2月22日に出願された「AMYLOID PEPTIDE VARIANTS FOR THE TREATMENT OF DIABETES」というタイトルの米国特許出願第62/809,167号からの優先権の利益を主張する。
【背景技術】
【0002】
多くのタンパク質は、様々な疾患に連鎖し得る代替的な、ミスフォールドした構造をとることが公知である。タンパク質、例えば2型糖尿病におけるヒト膵島アミロイドポリペプチド(hIAPP、アミリン)、アルツハイマー病におけるAβ42、およびパーキンソン病におけるα-シヌクレインは全て、ミスフォールドして毒性オリゴマーおよび線維に凝集することが公知である。これらのミスフォールドしたタンパク質は細胞にとって毒性であることが公知であるが、これらの疾患の進行においてそれらが果たす正確な役割は謎のままである。
【0003】
アミロイド疾患はヒトの健康に対する深刻な脅威となる。2型糖尿病と関連付けられる経済的および社会的費用は過去10年にかけて十分に文書化されている。米国糖尿病学会(The American Diabetes Association)は、米国において集団の約8.3%である2580万人の子供および成人が糖尿病を有し、200万に近い新たな症例が各年で診断されていると概算している。この疾患の有病率は年齢と共に増加するため、2型糖尿病に罹患した人の数は集団の加齢と共に増加する。この疾患の進行を予防または緩慢化させるための治療が見出されなければ、米国人だけで1億人もが次の40年のうちに糖尿病を有し得ると概算され、コストは年間で1740億ドルより高くなると概算される。2008年に、米国において1160億ドルが直接的な医療費に費やされ、追加の間接的な費用は、労働損失、能力障害および若年死のために580億ドルと概算される。
【0004】
肥満症は2型糖尿病に連鎖した明確な要因であるが、肥満者の70%より多くは糖尿病を有さず、他の要因がこの疾患の進行に影響を及ぼすことを示唆している。2型糖尿病の進行に連鎖した1つのあり得る要因はアミロイド原性ペプチド膵島アミロイドポリペプチド(Islet Amyloid Polypeptide;IAPP)の凝集である。この37アミノ酸のポリペプチドは膵臓のβ膵島細胞からインスリンと共分泌される。2型糖尿病の進行の間に、IAPPは様々な異なるアミロイド原性状態に凝集する。IAPPは、この疾患に罹患した患者の90%より多くにおいてアミロイドの細胞外沈着として見出されることが公知である。
【0005】
IAPP凝集および糖尿病の間の連鎖は、非ヒトにも拡張されるようである。ヒトと同様に、ネコおよび霊長動物は糖尿病を発症することが公知である。これもヒトと同様に、ネコおよび霊長動物は、凝集して毒性アミロイドを形成するIAPPバリアントを発現する。反対に、ラット、マウスおよびハムスターからのIAPPバリアントは凝集せず、毒性のアミロイド原性の種も形成しない。ラット、マウスおよびハムスターは、糖尿病を自然発生的に発症しない。しかしながら、マウスおよびラットがヒトIAPPを発現するように操作された場合、それらは2型糖尿病および該疾患と関連付けられる症状を発症する。
【0006】
最近、IAPPの1つの形態はシリンドリン(cylindrin)フォールドをとり得ることが示唆された。凝集物形成性IAPP分子の構造は未だ決定されていないが、これらの凝集物の一部は細胞にとって高度に毒性であることは明確である。合成IAPPは、ヒト膵島β細胞の他に様々な追加の哺乳動物細胞系に加えられた場合に、インビトロで高度に毒性の剤として作用することを研究は示している。IAPPは、2型糖尿病に罹患した患者の約90%においてアミロイドの細胞外沈着として見出される。IAPPはまた、哺乳動物細胞に加えられた場合にインビトロで毒性の剤であることが示されている。IAPPの自己集合が疾患の発症にどのように繋がるのかは依然として明確でないが、より低次のタンパク質凝集物(2~10個の自己集合したタンパク質)の形成が細胞毒性および最終的に疾患の進行に繋がることを最近の研究は示唆している。
【発明の概要】
【0007】
本発明者らは最近、ヒトIAPP凝集を阻害し、かつ哺乳動物細胞をhIAPP毒性からレスキューする一連のIAPPペプチドを同定した。これらのIAPPバリアントは、hIAPP凝集の強力な阻害剤であり、治療剤およびアミロイドタンパク質の根本的な毒性を理解するためのプローブとして使用することができる。本IAPPペプチドは、以下の配列:
a)配列番号15~18、
b)配列番号26~37、
c)配列番号42~46、
d)配列番号53~64、および
e)配列番号65~68
の1つから選択されるアミノ酸配列を有する。
【0008】
これらのペプチドとしては、ウェッデルアザラシIAPP(配列番号15~18)、アライグマIAPP(配列番号26~37および配列番号42~46)、ならびにニワトリIAPP(配列番号53~64および配列番号65~68)から突然変異したペプチドが挙げられる。一部の実施形態において、好ましい配列としては、配列番号16~17(WS_RLおよびWS_RP)、配列番号46(Rac_L26Y)、配列番号31~34(R1-27~R1-30)、配列番号66~68(Chv16L、ChI22L、ChY26L)、ならびに配列番号59~61(C1-27~C1-29)が挙げられる。
【0009】
以上のIAPPペプチドは、インビトロまたはインビボでhIAPP凝集を阻害するために使用することができる。1つの実施形態において、これらのペプチドは、アミロイド疾患、例えば糖尿病の治療において使用することができる。治療応用において使用される場合、IAPPペプチドは、1つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤と組み合わせられて医薬組成物を形成することができる。
【0010】
ネコ、イヌ、ニワトリ、ホッキョクグマ、アライグマ、およびウェッデルアザラシにおいて天然に見出されるIAPPペプチドもまた、アミロイド疾患の治療においておよびhIAPP凝集を阻害するために使用することができる。これらのペプチドは、配列番号2~7から選択される配列を有することができる。アライグマおよびニワトリのIAPPペプチドが好ましい。
【0011】
本IAPPペプチドはそのため、アミロイド疾患を患う対象を治療する方法であって、IAPPペプチドをそれを必要とする対象に投与するステップを含み、IAPPペプチドが、配列番号2~7、配列番号15~18、配列番号26~37、配列番号42~46、配列番号53~64、および配列番号65~68から選択されるアミノ酸配列を有する、方法において使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、ヒトIAPPを様々な動物のIAPPと比較した表である。hIAPPから異なるアミノ酸を太字で指し示す。
【
図2】
図2は、ヒトIAPPを他の種からのIAPPと混合したチオフラビンT結合アッセイの結果を示すチャートである。少なくとも3回の試行の平均を、試行の間の標準偏差を指し示すエラーバーと共に示す。
【
図3】
図3は、IAPPバリアントの原子間力顕微鏡法(AFM)走査の結果を示す。37μMのヒトIAPPを75μMの各動物IAPPと混合し、試料を振盪と共に37℃で40分間インキュベートした。全ての走査は平坦化を伴わない未加工データを示し、10μm×10μmである。
【
図4】
図4はMTT生存アッセイの結果を示すチャートである。一番左の黒バーは細胞単独での平均生存を示す。水平軸上のそれぞれの種識別表示(アライグマ、ニワトリなど)の上の左側のバーは、個々に12.8μMのhIAPPまたは動物IAPPバリアントの添加での平均細胞生存を指し示す。水平軸上のそれぞれの種識別表示の上の右側のバーは、各動物IAPPバリアントと混合されたhIAPPの細胞生存を示す(1:1の比での各指し示される動物IAPPとのhIAPPの12.8μMの混合物)。アステリスクは、hIAPP単独およびアライグマまたはニワトリIAPPバリアントと混合されたhIAPPの間の細胞生存における有意な増加を示す。
【
図5】
図5は、指し示される材料のAFM走査の結果を示す。hIAPPと標識された試料は40μMのhIAPPを含有した。プラムリンチドおよびhIAPPの試料は2:1モル混合物を含有した(40μMのhIAPPと混合された80μMのプラムリンチド)。アライグマIAPP単独およびプラムリンチド単独の試料は40μMの指し示されるペプチドを含有した。各試料を振盪と共に37℃で40分間インキュベートし、これはhIAPPアミロイド形成を促進することが公知の条件である。全ての走査は平坦化を伴わない未加工データを示し、10μm×10μmである。
【
図6】
図6はMTT生存アッセイの結果を示すチャートである。左側のバーは細胞単独での平均生存を示す。水平軸上のそれぞれのペプチド識別表示の上の左側のバーは、個々に12.8μMのhIAPPまたはIAPPバリアント(水平軸上に指し示されるバリアント)の添加での平均細胞生存を指し示す。水平軸上のそれぞれのペプチド識別表示の上の右側のバーは、各IAPPバリアントと混合されたhIAPPの細胞生存を示す(12.8μMのhIAPPと共に1:1の比の各IAPP)。
【
図7】
図7は、hIAPPアミロイド形成に対する阻害能力について試験されたアザラシIAPPのバリアントのアミノ酸配列を列記する表である。hIAPPアミロイド形成を阻害するペプチドは「阻害」の列における太字の「する」で指し示され、細胞をhIAPP毒性からレスキューするペプチドは「レスキュー」の列における太字の「する」で指し示される。
【
図8】
図8は、指し示されるウェッデルアザラシIAPPペプチドバリアントと混合された場合のhIAPPのチオフラビンT結合アッセイの結果を示すチャートである。データは3回の試行の最小の平均を示し、エラーバーは試行の間の標準偏差を示す。
【
図9】
図9は、指し示されるウェッデルアザラシIAPPバリアントと混合されたhIAPPのAFM画像を示す。全ての走査は平坦化を伴わない未加工データを示し、10μm×10μmである。
【
図10】
図10はMTT生存アッセイの結果を示すチャートである。一番左の黒バーは細胞単独での平均生存を示す。水平軸上のそれぞれのペプチド識別表示(WS、WS-Rなど)の上の左側のバーは、個々に12.8μMのhIAPPまたはウェッデルアザラシIAPPバリアントペプチドの添加での平均細胞生存を指し示す。水平軸上のそれぞれのペプチド識別表示の上の右側のバーは、ウェッデルアザラシIAPPバリアントと混合されたhIAPPの細胞生存を示す(1:1の比でのウェッデルアザラシIAPPとのhIAPPの12.8μMの混合物)。
【
図11】
図11は、全長アライグマIAPPの配列の切断に基づくいくつかのペプチドを列記する表である。hIAPPアミロイド形成を阻害するペプチドは「阻害」の列における太字の「する」で指し示され、細胞をhIAPP毒性からレスキューするペプチドは「レスキュー」の列における太字の「する」で指し示される。
【
図12】
図12は、指し示されるアライグマIAPPバリアントと混合された場合のhIAPPのチオフラビンT結合アッセイの結果を示すチャートである。ヒトIAPPを振盪と共に37℃で各指し示されるペプチドとインキュベートした。各ペプチドの4つの鉛直バーは、左から右にそれぞれ10分、20分、25分、および30分後の蛍光を指し示す。データは2回の試行の最小の平均を示し、エラーバーは試行の間の標準偏差を示す。
【
図13】
図13は、アライグマIAPP切断突然変異体について
図12に示される結果を描写するチャートである。各ペプチドの4つの鉛直バーは、左から右にそれぞれ10分、20分、25分、および30分後の蛍光を指し示す(30分の読み取りは、チャートの左側のネイティブなアライグマIAPPについて含まれない)。
【
図14】
図14は、アライグマIAPPの配列の突然変異に基づくいくつかのペプチドを列記する表である。hIAPPアミロイド形成を阻害するペプチドは「阻害」の列における太字の「する」で指し示され、細胞をhIAPP毒性からレスキューするペプチドは「レスキュー」の列における太字の「する」で指し示される。
【
図15】
図15は、指し示されるニワトリおよびアライグマIAPPバリアントと混合された場合のhIAPPのチオフラビンT結合アッセイの結果を示すチャートである。ヒトIAPPを振盪と共に37℃で各指し示されるペプチドとインキュベートした。各ペプチドについての4つの鉛直バーは、左から右にそれぞれ10分、20分、25分、および30分後の蛍光を指し示す。データは2回の試行の最小の平均を示し、エラーバーは試行の間の標準偏差を示す。
【
図16】
図16は、バリアントアライグマIAPPペプチドを比較したMTT生存アッセイの結果を示すチャートである。一番左の黒バーは細胞単独での平均生存を示す。水平軸上のそれぞれのペプチド識別表示の上の左側のバーは、個々に12.8μMの各指し示されるIAPPペプチドの添加での平均細胞生存を指し示す。水平軸上のそれぞれのペプチド識別表示の上の右側のバーは、指し示されるIAPPペプチドと混合されたhIAPPの細胞生存を示す(1:1の比での各指し示されるIAPPペプチドとのhIAPPの12.8μMの混合物)。
【
図17】
図17は、ニワトリIAPPの配列の切断に基づくいくつかのペプチドを列記する表である。hIAPPアミロイド形成を阻害するペプチドは「阻害」の列における太字の「する」で指し示され、細胞をhIAPP毒性からレスキューするペプチドは「レスキュー」の列における太字の「する」で指し示される。
【
図18】
図18は、指し示されるニワトリIAPPバリアントと混合された場合のhIAPPのチオフラビンT結合アッセイの結果を示すチャートである。hIAPPを振盪と共に37℃で各指し示されるペプチドとインキュベートした。各ペプチドの4つの鉛直バーは、左から右にそれぞれ10分、20分、25分、および30分後の蛍光を指し示す。データは2回の試行の最小の平均を示し、エラーバーは試行の間の標準偏差を示す。
【
図19】
図19は、切断されたニワトリおよびアライグマIAPPペプチドのAFM走査の結果を示す。描写された走査において、R1-23、R8-23、およびR8-30ペプチドはhIAPP凝集を阻害しなかったが、R1-29、R1-27、C1-29、およびC1-27ペプチドは阻害した。各試料は37μMのhIAPPおよび75μMの指し示されるペプチドを含有した。試料を振盪と共に37℃で40分間インキュベートした。全ての走査は平坦化を伴わない未加工データを示し、10μm×10μmである。
【
図20】
図20は、ニワトリIAPPの配列の突然変異に基づくいくつかのペプチドを列記する表である。hIAPPアミロイド形成を阻害するペプチドは「阻害」の列における太字の「する」で指し示され、細胞をhIAPP毒性からレスキューするペプチドは「レスキュー」の列における太字の「する」で指し示される。
【
図21】
図21は、バリアントニワトリIAPPペプチドを比較したMTT生存アッセイの結果を示すチャートである。一番左の黒バーは細胞単独での平均生存を示す。水平軸上のそれぞれのペプチド識別表示の上の左側のバーは、個々に12.8μMのhIAPPまたはニワトリIAPPバリアントの添加での平均細胞生存を指し示す。水平軸上のそれぞれのペプチド識別表示の上の右側のバーは、ニワトリIAPPバリアントと混合されたhIAPPの細胞生存を示す(1:1の比での各指し示されるIAPPペプチドとのhIAPPの12.8μMの混合物)。
【
図22】
図22は、hIAPPと混合された場合のアライグマおよびニワトリIAPPバリアントのAFM走査の結果を示す。各試料は、37μMの指し示されるペプチドと混合された37μMのhIAPPを含有した。試料を振盪と共に37℃で30分間インキュベートした後、各試料を新たに切断されたマイカに沈着させた。
【発明を実施するための形態】
【0013】
定義
本明細書において使用される場合、以下の用語およびそのバリエーションは、そのような用語が使用される文脈により異なる意味が意図されなければ、以下に与える意味を有する。
【0014】
「約」および「おおよそ」は、そのような使用の状況が異なる意味を指し示さなければ、参照される量の10%以内の量を指す。非限定的に例えば、「約10」は9~11を意味し、「約10%」は9%~11%を意味する。
【0015】
「アミロイド疾患」は、線維形態およびβ-シート二次構造を有する、ペプチドおよび/またはタンパク質、特にアミリンの凝集物により引き起こされるまたはそれと関連付けられる医学的状態を指す。ヒトIAPPはオリゴマーまたはプラークを形成することができ、そのような凝集物は、一部の場合には、II型糖尿病およびアルツハイマー病と関連付けられる。
【0016】
「細胞保護」は、細胞損傷または死、特にhIAPPへの曝露の毒性効果を減弱、軽減、または予防する能力を指す。細胞保護は、当該技術分野で公知のやり方、例えば細胞生存および細胞傷害性アッセイを用いて測定することができる。
【0017】
「IAPP」は、様々な動物、特に哺乳動物および鳥において見出される膵島アミロイドポリペプチドを指す。
【0018】
「IAPPペプチド」は、ヒトIAPP(配列番号1)と比較して1つまたは複数のアミノ酸置換を有するペプチドを指す。IAPPペプチドは、hIAPPと比較して切断されることができ、好ましくは、hIAPPの少なくとも70%、73%、75%、80%、85%、90%またはそれより大きい長さを有する。好ましくは、IAPPペプチドは、hIAPPと少なくとも80%の配列同一性、例えば89%、92%、95%の、または97%までの配列同一性を有する。
【0019】
「阻害」は、アミロイドオリゴマー、線維、および凝集物に関して、そのような阻害を引き起こす材料の非存在下でのそのような材料の形成と比較して、そのようなオリゴマー、線維、および凝集物の形成を緩慢化させかつ/または予防することを意味する。アミロイド形成は、当該技術分野で公知のやり方で、例えば、チオフラビンT結合アッセイを用いて測定することができる。好ましくは、IAPPペプチドはIAPP凝集物形成を約50%またはそれより高く阻害する。
【0020】
「医学的状態」は、対象において疾患、不快感および/または能力障害を引き起こす状態を指す。
【0021】
「薬学的効果」および「治療効果」は、対象における医学的状態の治癒、軽減、治療または予防を含めて、対象の生理学的機能の回復、矯正または修飾における効果を指す。「医薬組成物」および「医薬」は、薬学的効果を有する組成物である。
【0022】
「治療」は、医学的状態を減弱し、改善し、予防し、かつ/または消散させる行為を指す。治療は、治療を必要とする医学的状態の予防または発症後の治療のいずれかを指すことができる。
【0023】
「含む」(comprise)という用語および該用語のバリエーション、例えば「含む」(comprising)および「含む」(comprises)は、他の添加剤、成分、整数またはステップを除外することを意図しない。「a」、「an」、および「the」という用語ならびに本明細書において使用される類似した参照語は、文脈におけるそれらの使用がそうでないことを指し示さなければ、単数および複数の両方をカバーすると解釈されるべきである。2つの値の「間」にあるとして記載される範囲は、指し示される値を含む。
【0024】
IAPPペプチド
他の種のIAPPペプチド
本発明者らは、様々な生物からの天然に存在するIAPPペプチドの凝集可能性を比較し、これとの関連でヒトIAPP(hIAPP)とのそのようなペプチドの相互作用を評価した。これらの研究の間に、本発明者らは驚くべきことに、これらの動物IAPPペプチドのいくつかは、hIAPP凝集を阻害する顕著な能力を示して、アミロイドの形成を予防し、かつ哺乳動物細胞をhIAPP毒性から保護することを見出した。
【0025】
本発明者らが評価した天然に存在するIAPPペプチドのアミノ酸配列を、太字で示されるヒトIAPPからの配列差異と共に
図1に示す。hIAPP凝集を阻害する能力を示すとして同定された動物IAPPペプチドを図の上に列記し、阻害能力を欠いたバリアントを下に列記している。ウシ、デグー、モルモット、ウマ、ブタ、ラット、およびヒツジ起源のIAPPペプチドはヒトIAPPの凝集を阻害しなかったが、本発明者らは驚くべきことに、ネコ、イヌ、ニワトリ、ホッキョクグマ、アライグマ、およびアザラシ起源のIAPPは、hIAPPと混合された場合にそのような凝集を阻害できることを見出した。これらの阻害性IAPPペプチドの配列を以下の表1に示す。
【0026】
【0027】
以下の実施例1~3において議論されるように、これらのペプチドはhIAPPによる凝集物形成を阻害し(
図1~3)、アライグマおよびニワトリIAPPペプチドはまた、生細胞をhIAPPの毒性効果からレスキューした(
図4)。
【0028】
ウェッデルアザラシバリアント
hIAPPの凝集を阻害する能力を決定するためにウェッデルアザラシIAPPのバリアント(突然変異)を調製した。
図7中の表に示されるように、これらの一部は、hIAPP凝集を阻害することおよび/または細胞をhIAPP毒性から保護することができることが見出された。これらの配列を以下の表2に示す。
【0029】
【0030】
指し示されるウェッデルアザラシバリアントと混合された場合のhIAPPのチオフラビンT結合アッセイの結果を
図8に示す。WS-RL(配列番号16)およびWS-LP(配列番号18)IAPPペプチドはhIAPP凝集を阻害した。WS-RLおよびWS-RP(配列番号17)はまた、MTTアッセイにおいて細胞をhIAPP毒性からレスキューした(
図10)。しかしながら、WS-LP(およびWS-P)ペプチドは、hIAPPの添加のありおよびなしで、細胞に対して毒性であることが判明した。
【0031】
アライグマバリアント
hIAPPによる凝集物形成を阻害し、そしてまた生細胞をhIAPPの毒性効果からレスキューするアライグマIAPPの能力を考慮して、天然のアライグマIAPPペプチド配列に基づく一連のIAPPペプチドを合成し、ヒトIAPPアミロイド形成を阻害しかつ細胞をhIAPP毒性からレスキューする能力について特徴付けた。
図12、
図16、および
図19に示されるように、アライグマIAPPペプチドのC末端から切断されたいくつかのIAPPペプチドは、hIAPP凝集を阻害し、そしてまた細胞をhIAPP毒性から保護することが見出された。全長アライグマIAPPのN末端(配列番号21および23)ならびに中央(配列番号22、24、および25)からのアミノ酸の除去は、hIAPPの凝集を阻害することもその細胞傷害性を低減させることもないペプチドを結果としてもたらしたが、全長アライグマIAPPのC末端における13アミノ酸までの除去は、hIAPP凝集を阻害し、そしてまた細胞を保護することができるペプチドを結果としてもたらした。以下の表3は、hIAPP凝集物形成を阻害しかつ細胞をhIAPP細胞傷害性から保護する能力を有する切断されたアライグマhIAPPペプチドを列記する。
【0032】
【0033】
対応する天然のアライグマIAPPペプチドは、膵臓細胞とインキュベートされた場合にある程度の細胞毒性を示したが、これらの切断されたペプチドは毒性を実質的に示さなかった。
【0034】
アライグマIAPPから改変(突然変異)された配列を有する追加のペプチドを作出し、hIAPP凝集を阻害するそれらの能力を分析した。以下の表4および
図12に示される配列はhIAPPアミロイド形成の強い阻害を示した。
【0035】
【0036】
Rac-L26Y(配列番号46)は、最小の固有の毒性を示しながら、hIAPP線維形成を阻害しかつ細胞をhIAPP毒性からレスキューする能力に優れていた。
【0037】
ニワトリバリアント
hIAPPによる凝集物形成を阻害し、そしてまた生細胞をhIAPPの毒性効果からレスキューするニワトリIAPPの能力を考慮して、天然のニワトリIAPPペプチド配列に基づく一連のIAPPペプチドを合成し、ヒトIAPPアミロイド形成を阻害しかつ細胞をhIAPP毒性からレスキューする能力について特徴付けた。
図18、
図19、および
図21に示されるように、ニワトリIAPPペプチドのC末端から切断されたいくつかのIAPPペプチドは、hIAPP凝集を阻害しかつ/または細胞をhIAPP毒性から保護することが見出された。全長ニワトリIAPPのN末端からのアミノ酸の除去は、hIAPPの凝集を阻害することもその細胞傷害性を低減させることもないペプチドを結果としてもたらし、24アミノ酸を下回る長さに切断されたペプチドはアミロイド阻害能力を喪失した。しかしながら、全長ニワトリIAPPのC末端における13アミノ酸までの除去は、hIAPP凝集を阻害することおよび/または細胞をhIAPP細胞傷害性から保護することができるペプチドを結果としてもたらす。これらのペプチドを以下の表5に示す。
【0038】
【0039】
対応する天然のニワトリIAPPペプチドは、膵臓細胞とインキュベートされた場合にある程度の細胞毒性を示したが、これらの切断されたペプチドは毒性を実質的に示さなかった。
【0040】
ニワトリIAPPから改変された配列を有する追加のペプチドを作出し、hIAPP凝集を阻害するそれらの能力を分析した。以下の表6における配列はhIAPPアミロイド形成の強い阻害を示した。
【0041】
【0042】
Ch-I22L(配列番号67)は、最小の固有の毒性を示しながら、hIAPP線維形成を阻害しかつ細胞をhIAPP毒性からレスキューすることができた(
図15、
図21、および
図22を参照)。
【0043】
IAPPペプチドの効果の測定
当該技術分野で公知の多数のアッセイのいずれかを使用して、hIAPP凝集を阻害しかつ/または細胞をhIAPP毒性から保護するIAPPペプチドの能力を評価することができる。チオフラビンT(ThT)結合は、アミロイド形成をリアルタイムで同定するための1つのそのような技術である。ヒトIAPPは、凝集およびアミロイド形成の間にチオフラビンTに結合することが公知であり、アミロイド原線維への結合で、ThTは450nmで励起された場合に約482nmの強い蛍光シグナルを与える。ThT蛍光は試料中のアミロイド濃度と線形に相関しており、したがって試料中の凝集の量を決定するために使用することができる。この技術は、したがって、hIAPPによる凝集物の形成を結果としてもたらすことが公知の条件下でそのような物質をヒトIAPPと混合した場合にアミロイド阻害能力を有する物質を同定するために使用することができる。凝集の程度の決定はまた、他の技術、例えば原子間力顕微鏡法(AFM)を使用して決定することができ、AFMは、ナノメートルの分解能で粒子の寸法、形状、および部分構造に関する情報を提供することができる。以上のアッセイおよび当業者により使用され得るその他において、有意な阻害は、hIAPPおよびIAPPペプチドと組み合わせられたhIAPPの間の差異を測定することによりt検定を使用して決定することができる。有意な結果は<0.05のt検定値を示す。
【0044】
細胞保護は同様に、当該技術分野で公知の多数のアッセイにより測定することができる。1つのそのようなアッセイはMTTアッセイであり、これは細胞代謝活性を評価するための比色アッセイである。細胞のサイトゾル区画中のNAD(P)H依存性細胞オキシドレダクターゼ酵素は、テトラゾリウム色素MTT 3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミドを、紫色を有する不溶性形態、ホルマザンに還元する。MTT(および他のテトラゾリウム色素)の還元は細胞の代謝活性に依存するため、MTTアッセイの実施の過程における色の喪失は低い代謝活性を指し示し、そのため細胞損傷および死の指標である。
【0045】
医薬製剤
IAPPペプチドは、筋肉内、静脈内、および皮下投与を含めて、当該技術分野で公知のやり方での投与のための医薬組成物(医薬)として製剤化することができる。投与の経路に依存して、医薬組成物は、液体として、粉末もしくは他の固体として、またはゲルとして製剤化することができる。組成物が粉末形態である場合、IAPPペプチドは塩、例えば酢酸塩などの形態であることができる。医薬組成物は、1つまたは複数の薬学的に許容される担体、ならびに/または、例えば、組成物を安定化させるためおよび/もしくは組成物を対象に送達するための、他の薬学的に許容される賦形剤を含むことができる。本医薬組成物のための賦形剤は、適切な添加剤、例えば薬学的に有効な担体(すなわち、無菌水、水、および食塩水など)、緩衝剤、中和剤、安定化剤、湿潤剤、粘度上昇剤、化学的安定化剤、増粘剤、希釈剤、ならびに/または溶媒を含むことができる。一部の実施形態のための賦形剤の例としては、アルコールおよびポリグリコール、グリセリン、ワックス、水、脱イオン水、および脂肪酸エステルなど、これらの混合物およびこれらの組み合わせが挙げられるがこれらに限定されない。例えば、静脈内、筋肉内、皮内、および皮下経路などによる、非経口投与のために好適な製剤としては、水性および非水性等張無菌注射溶液が挙げられる。
【0046】
IAPPペプチドの使用
IAPPペプチドは、例えば以下の実施例に記載されるように、IAPP凝集を阻害しまたは細胞を保護するために使用することができる。1つの実施形態において、外因的に適用された場合および細胞から分泌された場合の両方において細胞傷害性を誘導することが見出されているアミロイド線維、例えばhIAPPの凝集物への曝露から細胞を保護するために、IAPPペプチドはインビトロで細胞に投与される。本IAPPペプチドはまた、インビボでIAPP凝集を低減させるために対象に投与することができる。本IAPPペプチドは特に、アミロイド疾患、例えば糖尿病を有するヒトまたは他の哺乳動物対象を治療するために使用することができる。本発明の1つの実施形態において、hIAPP凝集を阻害しかつ細胞をhIAPP毒性から保護する本IAPPペプチドは、アミロイド疾患を治療するために対象に投与することができる。
【0047】
アミロイド原線維形成を阻害しかつ細胞傷害性を減少させるヒトIAPPに由来するペプチド、例えばANFLVHなどは、注射後の対象において空腹時血中グルコースレベルおよび耐糖能を向上させることが示されている(Wijesekaraら、Diabetes,Obesity and Metabolism 17:1003~1006、2015)。IAPPペプチドプラムリンチドもまた、ヒトにおいて糖尿病を治療するために使用されている。このペプチドは、ラットIAPP中に見出される3アミノ酸の置換を含有する。プラムリンチドは、しかしながら、本IAPPペプチドよりもアミロイド原性であり、そしてまた細胞保護効果を有しない。
図5に示されるAFM走査において見ることができるように、単独でのアライグマIAPPは凝集しなかったが、プラムリンチドは同じ条件下でアミロイド線維を形成した。アライグマIAPPペプチドはまた、hIAPPの凝集を予防したが、プラムリンチドは同じ条件下でこれをすることができなかった。アライグマおよびニワトリIAPPとは異なり、プラムリンチドはまた、細胞に対して毒性であり、細胞をhIAPPの毒性効果から保護する能力を有しない(
図6を参照)。
【0048】
IAPPペプチドは、当該技術分野で公知のやり方で、例えば非経口投与により、例えば筋肉内、静脈内、または皮下投与を介して、対象に投与することができる。1つの実施形態において、IAPPペプチド組成物は、凝集したIAPPが見出される部位に、例えば膵臓、特にランゲルハンスの膵島に直接的に投与することができる。アミリンオリゴマーおよびプラークはまた、血管、血管周囲空間、および脳組織(実質)において同定されているため、これらの臓器または区画へのIAPPペプチド組成物の注射または適用もまた、対象に本IAPPペプチドを投与するために行うことができる。
【0049】
関与する個々の対象の特定の必要性に依存して、本ペプチドは、アミロイド疾患に対する有効な治療を提供するための様々な用量で投与することができる。好ましくは、約1マイクログラム(mcg)~約500マイクログラムの用量を対象に投与することができ、これは例えば、約2mcg、5mcg、7mcg、10mcg、15mcg、20mcg、30mcg、40mcg、50mcg、60mcg、70mcg、80mcg、90mcg、100mcg、120mcg、150mcg、170mcg、200mcg、220mcg、250mcg、270mcg、300mcg、320mcg、350mcg、370mcg、400mcg、420mcg、450mcg、または470mcgの用量である。例えば、本IAPPペプチドは、例えば、0.1mcg/kg/日、0.15mcg/kg/日、0.2mcg/kg/日、0.25mcg/kg/日、0.3mcg/kg/日、0.4mcg/kg/日、0.5mcg/kg/日、0.7mcg/kg/日、0.9mcg/kg/日、1.0mcg/kg/日、1.2mcg/kg/日、1.5mcg/kg/日、1.7mcg/kg/日、2.0mcg/kg/日、2.2mcg/kg/日、2.5mcg/kg/日、3.0mcg/kg/日、3.5mcg/kg/日、4.0mcg/kg/日、4.5mcg/kg/日、または5.0mcg/kg/日の量で投与することができる。選択されたペプチドの凝集阻害活性、ペプチドの半減期、対象の生理学的特徴、対象の状態の程度または性質、および投与の方法などの要因は、当業者に公知のように、選択されたペプチドの有効量を構成するものを決定する。一般に、初期用量は、特定の対象の治療のための最適な投薬量を決定するために改変される。長期の時間的期間にかけて投与される本ペプチドの繰り返しの用量が要求されることがある。
【0050】
本発明の任意の実施形態の有効量は、当該技術分野における通常の技能を有する薬理学者および臨床医に公知の方法を使用して決定される。例えば、動物モデルを使用して、患者のための応用可能な投薬量を決定することができる。糖尿病および他のアミロイド疾患のための多数のモデルが公知である。IAPP由来のペプチドを評価するために使用されている2型糖尿病のトランスジェニックマウスモデルは、例えばWijesekaraら(Diabetes, Obesity and Metabolism 17:1003~1006、2015)に開示されている。
【0051】
当業者に公知のように、非常に低用量のペプチド、すなわち、動物において最小の毒性であることが見出された用量(例えば、マウスにおいて1/10×LD10)を患者に最初に投与することができ、その用量が安全であると見出された場合、より高用量で患者を治療することができる。アミロイド疾患を治療するための本ペプチドの1つの治療有効量は次に、患者の症状が観察されるか、または減少もしくは排除されるべきことが患者により報告されるような時点までそのような状態を患う患者に増加性の量のそのようなペプチドを投与することにより決定することができる。
【0052】
本ペプチドの血中レベルは、常用の生物学的および化学的アッセイを使用して決定することができ、これらの血中レベルは、投与の経路および選択されたペプチドの半減期にマッチさせることができる。血中レベルおよび投与の経路を次に使用して、アミロイド疾患を予防および/または治療するための本ペプチドの1つを含む医薬組成物の治療有効量を確立することができる。
【0053】
アライグマおよびニワトリIAPPは、ヒトインスリンの存在下でhIAPP凝集を予防することが見出され、したがって糖尿病に対する治療と組み合わせた使用のために安全であることが留意されるべきである。アライグマおよびニワトリの両方のIAPPはまた、別の糖尿病治療であるプラムリンチドよりも凝集の傾向がより低い。
【実施例0054】
実施例1:他の種からのhIAPP阻害剤を用いたチオフラビンTアッセイ
hIAPP凝集に対する阻害能力を有するIAPPペプチドを同定するために、多数の種(ウシ、デグー、モルモット、ウマ、ブタ、ラット、およびヒツジ、ウシ、デグー、モルモット、ウマ、ブタ、ラット、およびヒツジ)からの
図1に示されるペプチドを2:1のモル比の動物ペプチド対hIAPPでhIAPPと混合し、hIAPP凝集および原線維形成を促進することが公知の条件下でインキュベートした。単独でのIAPP、または動物IAPPと混合されたhIAPPをピペットでガラスチューブに入れ、HFIPをスピードバキューム下で除去した。結果としてもたらされたペプチド試料を20mMのTris緩衝液(pH7.4)に溶解した。
【0055】
37μMのヒトIAPPを75μMの各指し示される動物IAPPと混合した。試料を200rpmでの振盪と共に37℃で40分間インキュベートすることにより凝集を開始させた。指し示される時点に、各試料の17μLのアリコートを663μLの20mMのTris緩衝液(pH7.4)中の50.0μMのチオフラビンTと混合した。Hitachi F-7000蛍光分光光度計を使用してチオフラビンT蛍光放出を次に488nmで記録した。
【0056】
40分後に、チオフラビンTに結合する能力(
図2を参照)および原子間力顕微鏡法を用いて同定されるような原線維を形成する能力についてこれらの試料をモニターした。
【0057】
実施例2:他の種からのhIAPP阻害剤を用いた原子間力顕微鏡法
AFMを使用して、
図1に示される各動物IAPPペプチドのアミロイド阻害能力を直接的に試験した。動物IAPPを含むまたは含まないhIAPPの試料を実施例1に記載されるように調製し、次に振盪と共に37℃で40分間インキュベートした。このインキュベーションの後に、17μLの各試料を新たに切断されたマイカに沈着させた。試料を室温で5分間インキュベートした後に、200μLの無菌水を用いて洗浄した。乾燥後に、A/Cモードに設定されたMFP-3D原子間力顕微鏡(Asylum Research)および240μmシリコンカンチレバー(Olympus)を使用して試料を走査した。
【0058】
ヒトIAPPは、これらの条件下で、マイカに沈着されかつAFMを介して走査された場合に、高密度原線維を形成する。動物IAPPバリアントの多くは、AFMを介して走査された場合に同様に原線維を形成し、アミロイドプラークをもたらすことが公知である。hIAPPと混合された場合、ウシ、デグー、イルカ、モルモット、ウマ、ブタ、ラットおよびヒツジからの動物IAPPペプチドはいずれもhIAPP原線維形成に対して効果を有さず、またはhIAPPを伴う原線維を促進するようであった。6つのIAPPバリアントはhIAPP原線維形成を阻害することが見出され、ニワトリ、ネコ、イヌ、ホッキョクグマ、アライグマ、およびアザラシはいずれも、線維形成を予防する有意な能力を示した。(ホッキョクグマIAPPを除いて)これらのIAPPペプチドの全ては、これらのまたは類似した条件下で凝集し、単独で原線維を形成することが公知であるという事実にこれはかかわらない。
【0059】
実施例3:他の種からのhIAPP阻害剤を用いた細胞生存アッセイ
生細胞をhIAPPの毒性効果からレスキューする動物IAPPバリアントの能力を試験するために、生存および細胞傷害性の両方のアッセイを行った。細胞生存を試験するために、ミトコンドリアレダクターゼにより触媒される黄色のテトラゾリウム塩の紫色のホルマザン結晶への変換を測定するMTT比色アッセイを使用した。細胞生存研究は、RIN-m細胞(ATCC、CRL-2057)を使用して行った。等数のRIN-m細胞を3連でプレーティングし、96ウェルプレート中で終夜インキュベートした。翌日、10%のFBSを補足したフェノールレッドと共に新鮮なRPMI-1640を細胞に加えた。centrivap concentrator(LabOnco)を使用してヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)を各個々のヒトおよび動物IAPPから除去した。全てのIAPPペプチド試料を、10%のFBSを含むRPMI-1640に再懸濁した。均一な再懸濁を確実にするために、結果としてもたらされた各IAPP含有バイアルを、ピペットチップを用いて6回掻爬し、15秒間ボルテックスした(Vortex Genie Mixer)。各IAPPペプチドの乾燥から細胞への各IAPPペプチドの添加までの全過程を均一なものとして、各試料が等しい時間量にわたり各IAPPペプチドとインキュベートされることを確実にした。IAPPペプチドを細胞に加え、37℃で46時間インキュベートした。インキュベーション後に、各ウェル中の培地をフェノールレッドを含まない新鮮なDMEM/F-12で置き換えた。MTT(3-(4,5-ジメチル-2-チアゾリル)-2,5-ジフェニル-テトラゾリウムブロミド)を各ウェルに加え、37℃で2時間インキュベートした。ウェルの底に形成されたホルマザン結晶を可溶化緩衝液(20%のSDSおよび50%のジメチルホルムアミド)に再懸濁した。Multiskan FC Microplate Photometer(Thermos Fisher Scientific)を使用して各ウェルにおける吸光度を570nmで取得した。培地はATCCから入手した。全てのインキュベーションは、5%の二酸化炭素中37℃で水ジャケット付きインキュベーター(Shell Lab)中で行った。
【0060】
MTT生存アッセイを使用して、単独でのhIAPPの添加、単独での各動物IAPPペプチドの添加、および各動物IAPPペプチドと混合されたhIAPPでのRIN-m細胞の細胞生存を測定した(結果を
図5に示す)。単独でのRIN-m細胞を対照として使用し、100%の細胞生存に設定した。12.8μMのヒトIAPPの添加は一貫して、55+/-5%への細胞生存における減少を結果としてもたらした。個々に12.8μMのアライグマ、ネコ、アザラシ、ホッキョクグマ、およびブタIAPPバリアントの添加は、細胞生存における平均で20~25%の減少を結果としてもたらしたが、ニワトリおよびラットIAPPの添加は、細胞生存に対する向上した効果を有した。1:1の比でのアライグマIAPPバリアントとのhIAPPの混合(12.8μMの濃度の各IAPP)は、RIN-m細胞をhIAPPの毒性効果から保護した。hIAPPへのアライグマIAPPの添加は、細胞生存を55%から平均で72%に増加させた(p=0.005705)。hIAPPへのニワトリIAPPバリアントの添加は、細胞生存を平均で76%に増加させた(p=0.013556)。hIAPPへのネコおよびアザラシIAPPバリアントの添加もまた、約62%に細胞生存を増加させ、より変化に富む結果であった。ホッキョクグマ、ラット、およびブタIAPPバリアントは、RIN-m細胞をhIAPPの毒性効果から保護することができなかった。
【0061】
実施例4:ウェッデルアザラシIAPPペプチドバリアント
図7に示されるウェッデルアザラシIAPPのバリアントを用いてチオフラビンT結合アッセイを行った。ヒトIAPP(37μM)を指し示されるウェッデルアザラシバリアント(75μM)のそれぞれと混合し、200rpmでの振盪と共に37℃で30分間インキュベートした。結果を
図8に示す。ウェッデルアザラシIAPPペプチドを同様に実施例2に記載されるように原子間力顕微鏡法に供した。
図9に示されるこれらの結果は、WS_RLおよびWS_LPバリアントはhIAPP線維形成の強い阻害剤であったことを指し示す。
【0062】
実施例5:切断されたアライグマIAPPペプチドバリアント
図11に示されるアライグマIAPPのバリアントを用いてチオフラビンT結合アッセイを行った。ヒトIAPPを指し示されるアライグマバリアントのそれぞれと混合し、振盪と共に37℃でインキュベートした。結果を
図12および
図13に示す。R1-27、R1-29、およびR1-30バリアントはhIAPP凝集を阻害し、そしてまたMTT生存アッセイにおいて細胞をhIAPP誘導性細胞傷害性からレスキューした(
図16を参照)。
【0063】
実施例6:突然変異したアライグマIAPPペプチドバリアント
図10に示されるアライグマIAPPのバリアントを用いてチオフラビンT結合アッセイを行った。ヒトIAPPを指し示されるアライグマバリアントのそれぞれと混合し、振盪と共に37℃でインキュベートした。結果を
図15に示す。
図16に示されるように、Rac_V8A、Rac_N13D、Rac_L16V、Rac_L22I、およびRac_L26YバリアントはhIAPP凝集を阻害し、Rac_L26Yはまた、MTT生存アッセイにおいてhIAPPの存在下で細胞生存を向上させた。
【0064】
実施例7:切断されたニワトリIAPPペプチドバリアント
図17に示されるニワトリIAPPのバリアントを用いてチオフラビンT結合アッセイを行った。ヒトIAPPを指し示されるニワトリバリアントのそれぞれと混合し、振盪と共に37℃でインキュベートした。結果を
図18に示す。C1-27およびC1-29バリアントはhIAPP凝集を阻害し、そしてまたMTT生存アッセイにおいて細胞をhIAPP誘導性細胞傷害性からレスキューした(
図21を参照)。C1-29ペプチドはThT結合を予防したが、(実施例2に記載されるように)このペプチドを用いてAFM走査を行った場合にアミロイド線維が形成されたので、このペプチドはhIAPPの凝集を阻害しないとして
図13において指し示される。しかしながら、それはMTTアッセイにおいて細胞を保護することができたので、線維の形成の阻害に対してより低い効果を有しながら毒性オリゴマーの形成を阻害すると考えられる(より低い毒性かつThTに結合するより低い能力)。
【0065】
実施例8:突然変異したニワトリIAPPペプチドバリアント
図14に示されるニワトリIAPPのバリアントを用いてチオフラビンT結合アッセイを行った。ヒトIAPPを指し示されるニワトリバリアントのそれぞれと混合し、振盪と共に37℃でインキュベートした。結果を
図15に示す。Ch_V16L、Ch_I22L、およびCh_Y26LはhIAPP凝集を阻害し、そしてまたMTT生存アッセイにおいて細胞をhIAPP誘導性細胞傷害性からレスキューした(
図21を参照)。
【0066】
「含む」(comprise)という用語および該用語のバリエーション、例えば「含む」(comprising)および「含む」(comprises)は、他の添加剤、成分、整数またはステップを除外することを意図しない。「a」、「an」、および「the」という用語ならびに本明細書において使用される類似した参照語は、文脈におけるそれらの使用がそうでないことを指し示さなければ、単数および複数の両方をカバーすると解釈されるべきである。2つの値の「間」にあるとして記載される範囲は、指し示される値を含む。
【0067】
ある特定の好ましい実施形態を参照して本発明をかなりの詳細において記載したが、他の実施形態が可能である。例えば、本方法のために開示されるステップは、限定的であることは意図されず、各ステップが必然的に方法にとって必須であると指し示すことも意図されず、代わりに例示的なステップに過ぎない。したがって、添付の請求項の範囲は、本開示に含有される好ましい実施形態の記載に限定されるべきではない。
【0068】
本明細書における値の範囲の記載は単に、該範囲内に入る各別々の値を個々に言及するための簡略化された方法として役立つことが意図される。本明細書において他に指し示されなければ、各個々の値は、本明細書に個々に記載されたかのように本明細書に組み込まれる。例えば、「約10」は正確に10の記載を含む。本明細書において参照される全ての参考文献は参照により全体が組み込まれる。