(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125354
(43)【公開日】2024-09-18
(54)【発明の名称】ペプチド-MHC複合体に対する治療用抗体を生成するための遺伝子改変非ヒト動物、ならびにその作製方法および使用方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20240910BHJP
A01K 67/0275 20240101ALI20240910BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240910BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240910BHJP
C12N 15/54 20060101ALI20240910BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240910BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20240910BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20240910BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
C12N15/13
A01K67/0275 ZNA
C12N15/12
C12N15/62 Z
C12N15/54
C12N5/10
C12P21/08
C07K16/46
C07K16/18
A01K67/0275
C12N15/13 ZNA
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024100480
(22)【出願日】2024-06-21
(62)【分割の表示】P 2023070884の分割
【原出願日】2019-03-22
(31)【優先権主張番号】62/647,720
(32)【優先日】2018-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/647,724
(32)【優先日】2018-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】597160510
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】REGENERON PHARMACEUTICALS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー ジェイ. マーフィー
(57)【要約】
【課題】ペプチド-MHC複合体に対する治療用抗体を生成するための遺伝子改変非ヒト動物、ならびにその作製方法および使用方法の提供。
【解決手段】非ヒト動物は、ヒトまたはヒト化MHC分子をコードする配列、または例えばβ2マイクログロブリンなどの関連分子をコードする配列、で遺伝子改変され、そして当該非ヒト動物が当該配列を発現させることで、当該ヒトまたはヒトMHC分子が誘導される対応するヒトHLAに対する寛容が誘導される。これら非ヒト動物により呈される寛容は、そうしたHLAが、当該非ヒト動物に対して抗原性のあるペプチドを提示するときに、対応するヒトHLAに対して、これら動物が特異的抗体反応を生じさせることを可能にする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
図面に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書において、ヒト(ヒト化)MHC分子(例えば限定されないが、空のヒト(ヒト化)MHC分子)またはそのペプチド結合部分(例えばMHC分子のペプチド結合溝(groove))に対して寛容であり、それにより当該非ヒト動物に対して外来性のペプチドと、ヒト(ヒト化)MHC分子が複合体化されるなどで提示されるとき、例えばペプチド/MHC(pMHC)複合体の一部であるとき、当該ヒト(ヒト化)MHC分子に対して当該非ヒト動物が安定的なB細胞反応を生じさせ得る遺伝子改変非ヒト動物(例えば齧歯類(例えばラット、マウスなど))が開示され、この場合において当該ペプチドは、当該非ヒト動物に対して異種である。そうした動物は、例えばヒトHLAを背景として提示される自己免疫原性のヒト自己ペプチドなどの病原性pMHC複合体に対する治療用抗原結合タンパク質の生成に有用であり得る。
【0002】
関連出願
本出願は、2018年3月24日に出願された米国仮特許出願第62/647,720号明細書、および2018年3月24日に出願された米国仮特許出願第62/647,724号明細書の優先権の利益を主張するものであり、それら各文献は、その全体で参照により本明細書に組み込まれる。
配列表
【0003】
本明細書は、「10116WO01_ST25_AsFiled」という名称のascii.txtファイルとして電子的に提出された配列表に対する参照を行うものであり、当該ファイルは、2019年3月22日に作成され、38.9キロバイトのファイルサイズを有し、その内容はその全体で参照により組み込まれる。
【背景技術】
【0004】
T細胞は、適応型の抗感染反応および抗腫瘍反応において重要な役割を果たすが、例えば自己免疫反応や移植片拒絶反応などの不適切な免疫反応でも機能する。一般的に、T細胞介在性の免疫反応は、T細胞と抗原提示細胞(APC)の間に密接な接触を伴う。T細胞の活性を誘発する免疫シナプスの形成には、限定されないが以下をはじめとするいくつかの分子対が関与する:(a)APC上の主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)分子のペプチド結合溝に提示されたペプチドに特異的に結合するT細胞上のT細胞受容体(TCR)、および(b)APC上のB7分子と対形成する(T細胞上の)CD28。TCRはCD3分子と共にTCR複合体を形成し、ペプチド-MHC(pMHC)複合体とTCRが対形成するとシグナルがCD3を通じて送られる。T細胞上のTCR複合体とCD28の両方を通じたシグナル伝達により、T細胞の活性化が生じる。
【0005】
疾患を治療する免疫療法は、例えば、自己免疫反応や移植片拒絶反応を下方制御するために、インビボでT細胞の活性を制御するよう作用する。しかし多くの免疫療法はCD3、および/または共刺激性分子の対に結合することによりTCR複合体のシグナル伝達を標的とすることから、そうした方法は多くの場合、特異性を欠いている。そうした方法はしばしば、例えば過剰な免疫反応または全身性の免疫抑制などの望ましくない副作用をもたらしてしまう。したがって、TCRとpMHC複合体との間の固有の相互作用を活用する治療法は、特定のT細胞の活性をインビボで調節する能力を提供し、そしてT細胞の調節に基づく新たな治療を提供し得る。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
遺伝子改変され、ヒトHLA分子および/またはβ2マイクログロブリンに対して寛容であり、そしてヒト抗体またはヒト化抗体を産生する能力を有する非ヒト動物(例えば哺乳動物、例えば齧歯類、例えばラットまたはマウス)が開示される。(1)ヒトHLA分子に対する、これら非ヒト動物の寛容性、および(2)これら非ヒト動物の、ヒト化抗原結合タンパク質を提供する能力、の両方によって、例えば同種反応などのインビボ実験で有用であり得る細胞の単離のためのユニークなプラットフォーム、および/または対象のペプチド-MHC複合体に特異的に結合するヒトまたはヒト化抗原結合タンパク質の産生ためのユニークなプラットフォームとして使用することが可能となり、当該抗原結合タンパク質は、独自で有用な治療剤となる準備が整った状態となる。したがって本明細書において、本明細書に開示される非ヒト動物の作製方法および使用方法、ならびに当該動物から単離された細胞、組織、核酸および抗原結合タンパク質も提供される。
【0007】
一部の実施形態では、遺伝子改変非ヒト動物は、(a)ヒトもしくはヒト化MHC分子、または少なくともそのペプチド結合部分をコードするヌクレオチド配列、および(b)(非)再構成ヒトもしくはヒト化免疫グロブリン重鎖座位、および/または(非)再構成ヒトもしくはヒト化免疫グロブリン軽鎖座位、を含み、任意で当該(非)再構成ヒトもしくはヒト化免疫グロブリン重鎖座位および/または(非)再構成ヒトもしくはヒト化免疫グロブリン軽鎖座位のうちの少なくとも一つは、再構成されておらず、当該遺伝子改変非ヒト動物は、ヒトもしくはヒト化MHC分子または少なくともそのペプチド結合部分を発現し、当該遺伝子改変非ヒト動物は、ヒトもしくはヒト化重鎖可変ドメインおよび/またはヒトもしくはヒト化軽鎖可変ドメインを含有する免疫グロブリンを発現し、そして当該非ヒト動物は、ヒトもしくはヒト化MHC分子または少なくともそのペプチド結合部分に対して寛容であり、それによって、(ii)当該ヒトもしくはヒト化MHC分子が誘導されるヒトHLA分子、またはその一部、(i)(ii)と複合体化された、当該非ヒト動物に対して異種であるペプチド、を含有する抗原性ペプチド-MHC(pMHC)複合体で免疫化されたときに、特異的B細胞反応を生じさせる。一部の実施形態では、遺伝子改変非ヒト動物は、ヒトまたはヒト化MHC分子が誘導されるヒトHLA分子と関連付けられた、当該非ヒト動物に対して異種であるペプチドを含有する抗原性ペプチド-MHC(pMHC)複合体をさらに含有する。一部の実施形態では、遺伝子改変非ヒト動物はさらに、(c)(ii)ヒトまたはヒト化MHC分子が誘導されるHLA分子、またはその一部、(i)(ii)と関連付けられた、非ヒト動物に対して異種であるペプチド、を含む抗原性ペプチド-MHC(pMHC)複合体、および(d)当該抗原性pMHCに特異的に結合し、当該ヒトまたはヒト化MHCが誘導されるヒトHLA分子には結合しない、ヒトまたはヒト化抗原結合タンパク質、を含有する。
【0008】
一部の実施形態では、ヒトまたはヒト化MHC分子は、ヒトもしくはヒト化MHCクラスI分子、ヒトもしくはヒト化MHCクラスIIα分子、ヒトもしくはヒト化MHCクラスIIβ分子、またはそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。一部の実施形態では、ヒトまたはヒト化MHC分子は、ヒトまたはヒト化MHCクラスI分子である。一部の実施形態では、ヒトまたはヒト化MHC分子は、HLA-A分子、HLA-B分子、HLA-C分子、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択されるHLAクラスI分子から誘導される。一部の実施形態では、遺伝子改変非ヒト動物はさらに、ヒトまたはヒト化β2マイクログロブリンをコードするヌクレオチド配列を、自身のゲノム中、任意で内因性β2マイクログロブリン座位で含有し、この場合において当該非ヒト動物は、当該ヒトまたはヒト化β2マイクログロブリンを発現し、それにより当該非ヒト動物は、当該β2マイクログロブリンそれ自体、またはヒトもしくはヒト化クラスI分子と関連付けられたβ2マイクログロブリンに対して寛容となる。
【0009】
一部の実施形態では、ヒトまたはヒト化MHC分子は、ヒトまたはヒト化MHCクラスII分子であり、任意で当該ヒトまたはヒト化MHC分子は、HLA-DP分子、HLA-DQ分子、HLA-DR分子およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択されるHLAクラスII分子のα鎖および/もしくはβ鎖、または少なくともそのペプチド結合溝から誘導される。
【0010】
一部の実施形態では、ヒトまたはヒト化MHC分子は、ヒトHLA分子である。一部の実施形態では、非ヒト動物は、内因性MHC座位で、ヒトHLA分子をコードするヌクレオチド配列を含有し、任意で当該ヌクレオチド配列は、内因性MHC分子をコードする内因性核酸配列を置換する。一部の実施形態では、非ヒト動物は、異所性の座位で、ヒトHLA分子をコードするヌクレオチド配列を含有する。一部の実施形態では、非ヒト動物は、ROSA26座位で、ヒトHLA分子をコードするヌクレオチド配列を含有する。一部の実施形態では、非ヒト動物は、内因性MHC座位、異所性の座位、またはROSA26座位で、ヌクレオチド配列に関してホモ接合性である。一部の実施形態では、非ヒト動物は、内因性MHC座位、異所性の座位、またはROSA26座位で、ヌクレオチド配列に関してヘテロ接合性である。
【0011】
一部の実施形態では、ヒトまたはヒト化MHC分子は、例えばキメラMHC分子などのヒト化MHC分子である。一部の実施形態では、非ヒト動物は、内因性MHC座位で、キメラMHC分子をコードするヌクレオチド配列を含有し、任意で当該ヌクレオチド配列は、内因性MHC分子をコードする内因性核酸配列を置換する。一部の実施形態では、非ヒト動物は、異所性の座位で、キメラMHC分子をコードするヌクレオチド配列を含有する。一部の実施形態では、非ヒト動物は、ROSA26座位で、キメラMHC分子をコードするヌクレオチド配列を含有する。一部の実施形態では、非ヒト動物は、内因性MHC座位、異所性の座位、またはROSA26座位で、キメラMHC分子をコードするヌクレオチド配列に関してホモ接合性である。一部の実施形態では、非ヒト動物は、内因性MHC座位、異所性の座位、またはROSA26座位で、キメラMHC分子をコードするヌクレオチド配列に関してヘテロ接合性である。
【0012】
一部の実施形態では、ヌクレオチド配列は、内因性MHC分子の膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインに動作可能に連結されたヒトHLA分子の細胞外ドメインを含む、キメラヒト/非ヒトMHC分子をコードする。一部の実施形態では、ヌクレオチド配列は、(i)例えば内因性マウスH-2Kポリペプチド、内因性マウスH-2Dポリペプチドまたは内因性マウスH-DLポリペプチドなどの内因性非ヒトMHCクラス分子の膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインに動作可能に連結されたHLA-A、HLA-BおよびHLA-Cからなる群から選択されるヒトMHCクラスI分子のα1ドメイン、α2ドメインおよびα3ドメインを含むキメラヒト/非ヒトMHCクラスI分子、ならびに/または(ii)例えば内因性マウスH-2Aαポリペプチドまたは内因性マウスH-2Eαポリペプチドなどの内因性非ヒトMHCクラスIIα分子の膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインに動作可能に連結されたヒトHLAクラスIIαポリペプチドのα1ドメインおよびα2ドメイン、ならびに/または例えば内因性マウスH-2Aαポリペプチドもしくは内因性マウスH-2Eαポリペプチドなどの内因性非ヒトMHCクラスIIβ分子の膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインに動作可能に連結されたヒトHLAクラスIβポリペプチドのβ1ドメインおよびβ2ドメイン、を含むキメラヒト/非ヒトMHCクラスII分子、をコードする。
【0013】
一部の実施形態では、ヒトまたはヒト化MHC分子をコードするヌクレオチド配列は、内因性非ヒトMHC座位を破壊しない。一部の実施形態では、ヒトまたはヒト化MHC分子をコードするヌクレオチド配列は、内因性MHC座位の外側の座位に統合される。一部の実施形態では、当該統合は、他のすべての内因性遺伝子の機能を破壊しない。一つの実施形態では、ヌクレオチド配列は、内因性ROSA26座位内に配置される。
【0014】
一部の実施形態では、非ヒト動物は、ヒトもしくはヒト化MHC分子または少なくともそのペプチド結合部分をコードするヌクレオチド配列に関してヘテロ接合性である。
【0015】
一部の実施形態では、遺伝子改変された非ヒト動物は、内因性重鎖定常領域に動作可能に連結された非再構成ヒト(ヒト化)免疫グロブリン重鎖可変領域を、内因性重鎖座位で含有する。一部の実施形態では、遺伝子改変された非ヒト動物は、内因性重鎖定常領域に動作可能に連結された拘束(restricted)非再構成ヒト(ヒト化)重鎖可変領域を、内因性重鎖座位で含有する。一部の実施形態では、遺伝子改変された非ヒト動物は、共通重鎖コード配列を、内因性重鎖座位で含有する。一部の実施形態では、遺伝子改変された非ヒト動物は、内因性重鎖定常領域に動作可能に連結されたヒスチジン改変非再構成ヒト(ヒト化)重鎖可変領域を、内因性重鎖座位で含有する。一部の実施形態では、遺伝子改変された非ヒト動物は、重鎖のみの免疫グロブリンコード配列を、内因性重鎖座位で含有する。一部の実施形態では、遺伝子改変された非ヒト動物は、ハイブリッド免疫グロブリン鎖をコードする非再構成ヒト(ヒト化)ハイブリッド重鎖配列を、内因性重鎖座位で含有する。一部の実施形態では、遺伝子改変された非ヒト動物は、内因性軽鎖定常領域に動作可能に連結された非再構成ヒト(ヒト化)免疫グロブリン軽鎖可変領域を、内因性軽鎖座位で含有する。一部の実施形態では、遺伝子改変された非ヒト動物は、共通軽鎖コード配列を、内因性軽鎖座位で含有する。一部の実施形態では、遺伝子改変された非ヒト動物は、内因性軽鎖定常領域に動作可能に連結された拘束非再構成ヒト(ヒト化)軽鎖可変領域を、内因性軽鎖座位で含有する。一部の実施形態では、遺伝子改変された非ヒト動物は、内因性軽鎖定常領域に動作可能に連結されたヒスチジン改変非再構成ヒト(ヒト化)軽鎖可変領域を、内因性軽鎖座位で含有する。一部の実施形態では、遺伝子改変された非ヒト動物は、内因性軽鎖定常領域に動作可能に連結されたヒスチジン改変再構成ヒト(ヒト化)軽鎖可変領域を、内因性軽鎖座位で含有する。
【0016】
一部の実施形態では、遺伝子改変された非ヒト動物は、機能性ADAM6遺伝子を含有し、任意で当該機能性ADAM6遺伝子は、内因性ADAM6遺伝子である。
【0017】
一部の実施形態では、遺伝子改変された非ヒト動物は、外因性末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)遺伝子を発現する。
【0018】
一部の実施形態では、前述の請求項のいずれかの遺伝子改変非ヒト動物を作製する方法は、(a)ヒトもしくはヒト化MHC分子または少なくともそのペプチド結合部分をコードするヌクレオチド配列、ならびに(b)(非)再構成ヒトもしくはヒト化免疫グロブリン重鎖座位および/または(非)再構成ヒトもしくはヒト化免疫グロブリン軽鎖座位、を含有する非ヒト動物のゲノムを改変することを含み、任意で当該(非)再構成ヒトまたはヒト化免疫グロブリン重鎖座位および/または当該(非)再構成ヒトまたはヒト化免疫グロブリン軽鎖座位のうちの少なくとも一つは、再構成されておらず、当該遺伝子改変非ヒト動物は、
ヒトもしくはヒト化MHC分子または少なくともそのペプチド結合部分に対して寛容であり、それにより、(ii)当該ヒトまたはヒト化MHC分子が誘導されるヒトHLA分子、またはその一部、(i)(ii)と複合体化された、当該非ヒト動物に対して異種であるペプチド、を含有するペプチド-MHC複合体で免疫化されたときに、特異的B細胞反応を生じさせ、そしてヒトもしくはヒト化重鎖可変ドメインおよび/またはヒトもしくはヒト化軽鎖可変ドメインを含有するヒトまたはヒト化抗原結合タンパク質を提供する能力を有する。一部の実施形態では、方法は、
(a)
(i)ヒトもしくはヒト化MHC分子または少なくともそのペプチド結合部分をコードするヌクレオチド配列を、第一の異所性座位に挿入すること、または
(ii)非ヒト動物MHC Iポリペプチドをコードするヌクレオチド配列と、ヒト(ヒト化)MHC Iポリペプチドをコードするヌクレオチド配列とを、内因性非ヒト動物MHC I座位で置換し、および/または非ヒト動物MHC II分子をコードするヌクレオチド配列と、ヒト(ヒト化)MHC II分子をコードするヌクレオチド配列とを、内因性非ヒト動物MHC II座位で置換することであって、
任意で、当該ヒト(ヒト化)MHC I分子は、ヒトMHC Iのα1ドメイン、α2ドメインおよびα3ドメイン、ならびに内因性非ヒトMHC Iポリペプチドの少なくとも膜貫通ドメインおよび細胞質ドメイン、を含有し、
任意で、当該ヒト(ヒト化)MHC II分子は、ヒトMHC IIのα1ドメイン、α2ドメイン、β1ドメインおよびβ2ドメイン、ならびに内因性齧歯類MHC IIポリペプチドの少なくとも膜貫通ドメインおよび細胞質ドメイン、を含有する、置換すること、ならびに
(b)
(i)(非)再構成ヒトもしくはヒト化免疫グロブリン重鎖座位、および/または(非)再構成ヒトもしくはヒト化免疫グロブリン軽鎖座位を、第二の異所性座位に挿入すること、または
(ii)
(A)内因性非ヒト重鎖座位で、内因性非ヒト免疫グロブリン可変(VH)遺伝子セグメントと、非再構成ヒト免疫グロブリン可変(VH)遺伝子セグメントとを、置換すること、ならびに任意で内因性非ヒト免疫グロブリン多様性(diversity)(DH)遺伝子セグメントおよび/または内因性非ヒト結合(joining)(JH)遺伝子セグメントと、非再構成ヒト免疫グロブリン多様性(DH)遺伝子セグメントおよび/または非再構成ヒト免疫グロブリン結合(JH)遺伝子セグメントとを、それぞれ置換することであって、当該非再構成ヒトVH遺伝子セグメント、ならびに任意でDH遺伝子およびJH遺伝子セグメントは、内因性重鎖定常領域遺伝子配列に動作可能に連結される、置換すること、および/または
(B)内因性非ヒト軽鎖座位で、内因性非ヒト軽鎖可変(VL)遺伝子セグメントおよび内因性非ヒト軽鎖結合(JL)遺伝子セグメントと、ヒト軽鎖可変(VL)遺伝子セグメントおよびヒト軽鎖結合(JL)遺伝子セグメントとを、置換することであって、それらは任意で再構成されてVL/JL遺伝子配列を形成し、当該ヒトVL遺伝子セグメントおよび結合JL遺伝子セグメントは、内因性軽鎖定常領域遺伝子配列に動作可能に連結される、置換すること、を含み、
(a)それぞれ、非ヒトMHC I分子および/または非ヒトMHC II分子をコードするヌクレオチド配列、ならびに(b)VH、DH、JH、VL、およびJL遺伝子セグメントは、
(I)一つの非ヒト胚性幹(ES)細胞中で、連続相同組み換えにより挿入もしくは置換され、または
(II)第一のES細胞および第二のES細胞においてそれぞれ使用され、第一の非ヒト動物および第二の非ヒト動物が作製され、および当該方法は、当該第一および第二の非ヒト動物を交配させることをさらに含む。
【0019】
一部の実施形態では、遺伝子改変非ヒト動物を作製する方法は、ヒトまたはヒト化MHC分子が誘導されるヒトHLA分子と関連付けられた、当該非ヒト動物に対して異種であるペプチドを含有する抗原性pMHC複合体を当該非ヒト動物に投与することを含む。一部の実施形態では、抗原性pMHC複合体は、ヘルパーT細胞エピトープに連結される。一部の実施形態では、ヘルパーT細胞エピトープは、例えば配列番号28に記載されるPADREを含む。
【0020】
一部の実施形態では、対象の抗原性pMHC複合体に特異的に結合する抗原結合タンパク質、または同タンパク質をコードする核酸配列を作製する方法は、本明細書に記載される遺伝子改変非ヒト動物を、対象の抗原性pMHC複合体に対する免疫反応を当該非ヒト動物が開始するのに充分な条件下に維持することを含み、この場合において当該対象の抗原性pMHC複合体は、当該非ヒト動物に対して異種であり、ヒトまたはヒト化MHC分子が誘導されるヒトHLA、またはその一部を背景として提示されるペプチドを含む。一部の実施形態では、方法は、第一の工程として、当該非ヒト動物を、対象の抗原性pMHC複合体で免疫化し、任意で当該免疫化非ヒト動物の免疫反応をブーストすることを含み、任意でこの場合において免疫化および/またはブーストは、当該非ヒト動物に、例えばPADRE(配列番号28)などのヘルパーT細胞エピトープに連結された対象のpMHC複合体を投与することを含む。
【0021】
一部の実施形態では、ヒト免疫グロブリン重鎖可変ドメインおよび/またはヒト免疫グロブリン軽鎖可変ドメインをコードする核酸を取得する方法は、本明細書に記載の非ヒト動物から、当該非ヒト動物のリンパ球または当該リンパ球から作製されたハイブリドーマにより発現されたヒト免疫グロブリン可変ドメインをコードする再構成ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子配列を含む核酸を単離すること、を含み、この場合において当該リンパ球または当該リンパ球から作製されたハイブリドーマにより発現されたヒト免疫グロブリン可変ドメインは、その同系可変ドメインと関連付けられて、抗原性pMHC複合体に特異的な抗原結合ドメインを形成する。一部の実施形態では、方法は、当該非ヒト動物を、対象の抗原性pMHC複合体で免疫化すること、および当該非ヒト動物に、当該抗原に対する免疫反応を開始させ、その後に核酸を取得すること、をさらに含む。一部の実施形態では、取得された再構成ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子配列は、少なくとも一つの体細胞超変異を含む。
【0022】
一部の実施形態では、本明細書に記載の核酸は、再構成ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子配列に動作可能に連結されたヒト定常領域遺伝子配列を含む。一部の実施形態では、ヒト重鎖定常領域遺伝子配列は、5.5~6.0の範囲のpHで、胎児性Fc受容体(FcRn)に対する、IgG重鎖定常領域アミノ酸配列のCH2-CH3領域のアフィニティを増加させる改変を含み、この場合において当該改変は、M428L、N434S、V259I、V308F、N434A、M252Y、S254T、T256E、T250Q、H433K、N434Yおよびそれらの組み合わせからなる群から選択されるIgG重鎖定常領域アミノ酸配列における変異である。さらに本明細書において、例えば、抗原性pMHC複合体に特異的なヒト免疫グロブリン重鎖および/または軽鎖をコードする核酸を発現するための哺乳動物宿主細胞が記載される。
【0023】
一部の実施形態では、ヒト免疫グロブリン重鎖可変ドメインおよび/またはヒト免疫グロブリン軽鎖可変ドメインを発現する細胞を取得する方法は、本明細書に記載の非ヒト動物からリンパ球を単離することを含み、この場合において当該リンパ球は、抗原性pMHC複合体に特異的な抗原結合ドメインを形成するヒト免疫グロブリン可変ドメインを発現する。一部の実施形態では、方法は、当該単離リンパ球からハイブリドーマを作製することを含む。
【0024】
一部の実施形態では、本明細書に記載の例えば生殖細胞、胚性幹細胞、体細胞(例えば、B細胞)などの単離細胞は、(a)ヒトもしくはヒト化MHC分子または少なくともそのペプチド結合部分をコードするヌクレオチド配列、ならびに(b)(非)再構成ヒトもしくはヒト化免疫グロブリン重鎖座位および/または(非)再構成ヒトもしくはヒト化免疫グロブリン軽鎖座位、を含む。一部の実施形態では、(非)再構成ヒトもしくはヒト化免疫グロブリン重鎖座位および/または(非)再構成ヒトもしくはヒト化免疫グロブリン軽鎖座位のうちの少なくとも一つは、再構成されていない。一部の実施形態では、単離細胞は、本明細書に記載の方法に従い取得される。
【0025】
一部の実施形態では、ヒト免疫グロブリン可変ドメインをインビトロで作製する方法は、本明細書に記載の非ヒト動物のリンパ球または当該リンパ球から作製されたハイブリドーマにより発現されたヒト免疫グロブリン可変ドメインをコードする再構成ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子配列を含む第一の核酸を細胞中で発現させること、を含み、この場合において当該リンパ球または当該リンパ球から作製されたハイブリドーマにより発現されたヒト免疫グロブリン可変ドメインは、その同系可変ドメインと関連付けられて、抗原性pMHC複合体に特異的な抗原結合ドメインを形成する。一部の実施形態では、第一の核酸は、再構成ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子配列に動作可能に連結されたヒト免疫グロブリン定常領域遺伝子配列をさらに含む。一部の実施形態では、ヒト免疫グロブリン定常領域遺伝子配列は、重鎖定常領域遺伝子配列であり、5.5~6.0の範囲のpHで、胎児性Fc受容体(FcRn)に対する、IgG重鎖定常領域アミノ酸配列のCH2-CH3領域のアフィニティを増加させる改変を含み、この場合において当該改変は、M428L、N434S、V259I、V308F、N434A、M252Y、S254T、T256E、T250Q、H433K、N434Yおよびそれらの組み合わせからなる群から選択されるIgG重鎖定常領域アミノ酸配列における変異である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1A~1Cは、本発明の例示的な実施形態であり、例えば内因性H-2K座位でのキメラHLA-A2/H-2KなどのキメラMHC IおよびMHC IIの座位(
図1A)、例えば内因性H-2E座位でのキメラHLA-DR2/H-2E座位(
図1B)、および例えば内因性β2M座位でのヒト化β2M座位(
図1C)の概略図(正確な縮尺ではない)を提示する。別段の示唆が無い限り、ヒト配列は、白抜きで示され、マウス配列は黒塗りで示される。縞模様は、内因性座位とは異なるマウス系統由来のH-2E遺伝子配列のエクソン1およびその下流のイントロンの一部を示す。Cre介在性にカセットを除去する前(
図1C)およびCreによりカセットが除去された後(
図1Aおよび1B)のFlox化ネオマイシンホスホトランスフェラーゼカセットは、適宜ラベリングされた矢印で示されている。
【0027】
【
図2】
図2は、 ROSA26(Gt(ROSA)26 Sor)座位でヒトβ2マイクログロブリン(B2m)と関連付けられた成熟HLA-A2(A2)ポリペプチド(例えば、HLA-A2のアミノ酸25~365)の全長を含む一本鎖MHC分子(配列番号23)をコードする本発明の例示的な導入遺伝子(配列番号22)の概略図(正確な縮尺ではない)を提示する。別段の示唆が無い限り、ヒト配列は、白抜きで示され、マウス配列は黒塗りで示され、そしてヒト配列でもマウス配列でもない配列は様々なパターンで示されている。黒塗りの矢印は、内因性マウスROSA26座位のエクソンを示す。5’HBおよび3’HB:相同組み換えによる、一本鎖HLA-A2/β2M複合体(配列番号23)をコードするB2m-G4Sx4-HLA-A2導入遺伝子(配列番号22)の挿入に使用されるROSA26遺伝子の相同ボックス。SA:コンセンサススプライスアクセプター。ROR:マウスRORシグナル配列。G4Sx4:GGGSリンカー(配列番号21)、SV40PA:SV40ウイルス由来のポリアデニル化シグナル。LoxP-New-LoxP:カセットがCre介在性に除去される前のflox化ネオマイシンホスホトランスフェラーゼカセット。
【0028】
【
図3】
図3は、本発明の例示的な実施形態の結果を示すものであり、ヒトβ2マイクログロブリンと関連付けられたHLA-Aのペプチド結合溝で提示されるペプチドBを含む免疫原をコードするヌクレオチド配列で免疫化された、被験マウス(ヒト化MHC I分子(HLA-A2/H-2K)、ヒト化β2マイクログロブリン、非再構成ヒト化免疫グロブリン重鎖座位、およびヒト化共通軽鎖座位Vκ1-39/Jκをコードするヌクレオチド配列を含む;●)または対照マウス(機能性(例えばマウス)ADAM6遺伝子ならびにヒト化重鎖座位およびヒト化軽鎖座位を含む;■)の血清が、一本鎖pMHC複合体としてヒトβ2マイクログロブリンと関連付けられたHLA-Aのペプチド結合溝において提示された非関連ペプチドまたは関連ペプチド(ペプチドA(非関連)、ペプチドB(関連)またはペプチドC(非関連))に結合する抗体の力価(y軸)に関して検証された。個々のpMHC複合体に結合する血清中の抗体の力価は、結合シグナルがバックグラウンドの2倍である、補間血清希釈因子として算出される。
【0029】
【
図4】
図4は、本発明の例示的な実施形態の結果を示すものであり、ヒトβ2マイクログロブリンと関連付けられたHLA-Aのペプチド結合溝で提示されるペプチドBを含む一本鎖pMHC複合体免疫原で免疫化された、被験マウス(ヒト化MHC I分子(HLA-A2/H-2K)、ヒト化β2マイクログロブリン、非再構成ヒト化免疫グロブリン重鎖座位、およびヒト化共通軽鎖座位Vκ1-39/Jκをコードするヌクレオチド配列を含む;●)または対照マウス(機能性(例えばマウス)ADAM6遺伝子ならびにヒト化重鎖座位およびヒト化軽鎖座位を含む;■)の血清が、一本鎖pMHC複合体としてヒトβ2マイクログロブリンと関連付けられたHLA-Aのペプチド結合溝において提示された非関連ペプチド、または関連ペプチド(ペプチドA(非関連)、ペプチドB(関連)またはペプチドC(非関連))に結合する抗体の力価(y軸)に関して検証された。個々のpMHC複合体に結合する血清中の抗体の力価(y軸)は、結合シグナルがバックグラウンドの2倍である、補間血清希釈因子として算出される。
【0030】
【
図5】
図5は、本発明の例示的な実施形態の結果を示すものであり、ヒトβ2マイクログロブリンと関連付けられたHLA-Aのペプチド結合溝で提示されるペプチドBを含む免疫原で免疫化され、ヒトβ2マイクログロブリンおよびヘルパーT細胞エピトープ(PADRE)と関連付けられたHLA-Aのペプチド結合溝で提示されるペプチドBを含む別の組み換えポリペプチドでブーストされた被験マウス(ヒト化MHC I分子(HLA-A2/H-2K)、ヒト化β2マイクログロブリン、非再構成ヒト化免疫グロブリン重鎖座位、およびヒト化共通軽鎖座位Vκ1-39/Jκをコードするヌクレオチド配列を含む)の血清が、一本鎖pMHC複合体としてヒトβ2マイクログロブリンと関連付けられたHLA-Aのペプチド結合溝において提示された非関連ペプチド、または関連ペプチド(ペプチドA(非関連)、ペプチドB(関連)またはペプチドC(非関連))への結合に関して検証された。個々のpMHC複合体に結合する血清中の抗体の抗体力価(y軸)は、結合シグナルがバックグラウンドの2倍である、補間血清希釈倍数として算出される。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本明細書に示されるように、ヒトHLAおよびヒトβ2マイクログロブリン分子に対して寛容ではないが、HLA分子を背景として提示される対象ペプチド、すなわち対象pMHC複合体で免疫化された対照非ヒト動物は、対象のpMHC複合体に対して抗体力価を惹起させる。
図3~4(正方形シンボル)。しかしながら、非寛容で、免疫化された対照動物の血清は、当該非ヒト動物が免疫化されなかった非関連pMHC複合体(例えば同じ背景で提示される非関連ペプチド)に対しても同等の抗体力価を保有していた。このことから、対象のpMHC複合体に対して生じた反応は、特異的反応ではないことが示唆される。
図3~4(正方形シンボル)を参照のこと。
【0032】
対照的に、ヒトHLAおよびヒトβ2マイクログロブリン分子、または少なくともそのペプチド結合溝(例えば、その細胞外部分)に対して寛容であり、ヒトHLA分子から誘導された対象のpMHC複合体で免疫化された非ヒト動物は、非関連pMHC複合体よりも高い抗体力価を対象のpMHC複合体に対して惹起した。
図3~5を参照のこと。従って本明細書において、ヒトHLAおよびヒトβ2マイクログロブリン分子(またはその少なくともそのペプチド結合溝(例えば、その細胞外部分))に対して寛容である非ヒト動物は、対象のpMHCに対する特異的免疫反応の発生のためのインビボプラットフォームを提供し、そこからリード化合物が選択され得ることが示される。当該プラットフォームは、対象のpMHCに非特異的な免疫反応を生じさせる非寛容動物を伴うプラットフォームを上回る改善がなされている。したがって本明細書において、ヒトHLA分子に対して寛容であるように遺伝子改変された非ヒト動物は、当該ヒトHLA分子を背景として提示された対象ペプチドを含む対象pMHC複合体で免疫化されたとき、対象pMHC複合体に対し特異的なB細胞反応を生じさせることができる。
【0033】
例示的な実施形態では、非ヒト動物は、ヒトHLA分子、その一部、および/またはその一本鎖誘導体に対して寛容であるが、当該非ヒト動物が寛容化されたヒトHLA分子と関連付けられた(例えば、当該ヒトHLA分子により提示された)抗原性ペプチド(例えば当該遺伝子改変非ヒト動物に対して異種であるペプチド)を含む抗原性ペプチド-MHC(pMHC)複合体に対しては寛容ではないように遺伝子改変される。当該非ヒト動物は、当該抗原性pMHC複合体に対して寛容ではないため、本明細書に開示されるように遺伝子改変された動物は、例えばインビトロ実験を目的とした、ヒトHLA分子、その一部、および/またはその一本鎖誘導体に対して非反応性である免疫細胞の単離に有用であるのみならず、対象の抗原性pMHC複合体に特異的に結合する特にヒトまたはヒト化抗原結合タンパク質などの抗原結合タンパク質の生成にも有用であり得る。当該特異的(ヒトまたはヒト化)抗原結合タンパク質は、ヒト疾患の治療のための療法、例えば自己反応性TCRと、自己反応性抗原を含むpMHC複合体の間の免疫シナプスの形成の予防(例えば、自己免疫性障害、移植片対宿主病、移植片拒絶などの予防および/または治療)、病原体(例えばウイルス)に感染した細胞の標的化、および細胞表面上に発現されたpMHC複合体を介したウイルスペプチドの提示に有用であり得る。ヒトもしくはヒト化HLA分子、その一部、および/またはその一本鎖誘導体に対して寛容である非ヒト動物、および当該非ヒト動物の作製方法の記載に加えて、抗pMHC抗体反応を生じさせるために当該非ヒト動物に抗原性pMHC複合体を投与する方法、ならびに当該抗原性pMHC複合体を作製する方法も開示される。
【0034】
用語の定義
別途定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、当分野の当業者により普遍的に理解される意味と同一の意味を有する。
【0035】
単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈で別途明確に指示されない限り、複数への言及を含む。したがって、例えば、「一つの方法」への言及は、本明細書に記載され、かつ/または当業者には本開示の閲読により明らかになるであろう種類の一つ以上の方法および/または工程を含む。
【0036】
「約」または「およそ」という用語は、意義のある値の範囲内であることを含む。「約」または「およそ」という用語によって包含される許容可能な変動は、研究中の特定の系に依存し、当業者によって容易に理解され得る。
【0037】
「主要組織適合性遺伝子複合体」および「MHC」という用語は、「ヒト白血球抗原」または「HLA」(後者二つは一般的に、ヒトMHC分子に対するものである)、天然MHC分子、MHC分子の個々の鎖(例えばMHCクラスIα(重)鎖、β2マイクログロブリン、MHCクラスIIα鎖、およびMHCクラスIIβ鎖)、MHC分子のそうした鎖の個々のサブユニット(例えば、MHCクラスIα鎖のα1、α2および/またはα3サブユニット、MHCクラスIIα鎖のα1-α2サブユニット、MHCクラスIIβ鎖のβ1-β2サブユニット)、ならびにその一部(例えば、ペプチド結合部分、例えば、ペプチド結合溝)、その変異体および様々な誘導体(融合タンパク質を含む)といった用語を包含するものであり、この場合において当該部分、変異体および誘導体は、T細胞受容体(TCR)、例えば抗原特異的TCRによる認識のために抗原性ペプチドを提示する能力を保持している。MHCクラスI分子は、約8~10アミノ酸のペプチドを収容することができるα重鎖のα1ドメインおよびα2ドメインにより形成されるペプチド結合溝を含む。両方のクラスのMHCとも、ペプチド内の約9アミノ酸(例えば、5~17アミノ酸)のコアに結合するという事実にもかかわらず、MHCクラスIIペプチド結合溝(MHCクラスII βポリペプチドのβ1ドメインと関連付けられたMHCクラスIIのαポリペプチドのα1ドメイン)が末端開放している性質によって、より広範な範囲のペプチド長が可能となる。MHCクラスIIに結合するペプチドは通常、13~17アミノ酸の長さの間で変化するが、それより短いまたは長いアミノ酸の長さも珍しくはない。その結果として、ペプチドは、MHCクラスIIのペプチド結合溝内でシフトする場合があり、任意の所与の時点で溝内に直接存在する9merは変化する。特定のMHCバリアントの従来的な識別法を本明細書で使用する。一部の実施形態では、遺伝子改変非ヒト動物は、少なくともヒトペプチド結合溝(例えば、ペプチド結合部分)を含むヒト(ヒト化)MHC分子をコードするヌクレオチドを含み、さらなる実施形態では、少なくともヒトHLAクラスI/ヒトβ2マイクログロブリン分子、および/またはヒトHLAクラスII分子の細胞外ドメインをコードするヌクレオチドを含む。
【0038】
「寛容化された」、「寛容」、「寛容化」などの用語は、例えば本明細書に開示される遺伝子改変非ヒト動物などの動物が、物質に対する免疫反応を開始させる能力がないこと、または能力が低下していることを指す。概して動物は、胚発生中および/または出生時に発現される自己のタンパク質または自己の分子に対して、寛容化され、寛容を呈し、寛容化を経る。例えば、自身の生殖細胞系列ゲノムなど、自身のゲノムから発現された自己タンパク質または自己分子に対する免疫反応を動物は開始させない、または開始させる可能性は低い。例えば生殖細胞系列ゲノムなど、自身のゲノム中にヒト(ヒト化)MHC分子を含有するよう動物を遺伝子改変することにより、「空の」ヒト(ヒト化)MHC分子が発現された際に、当該動物は、当該ヒト(ヒト化)MHC分子が自己のタンパク質であるように、当該空のヒト(ヒト化)MHC分子に対し寛容となり、寛容を呈し、寛容化を経る。HLA分子、MHC分子、ヒト(ヒト化)MHC分子などの文脈において、「空」とは、ペプチド結合溝内にペプチドを伴わずに発現された、または当該HLA分子、MHC分子、ヒト(ヒト化)MHC分子などを発現する動物に対して内因性であるペプチドを伴い発現された、HLA分子、MHC分子、ヒト(ヒト化)MHC分子などを含む。例えば、空のMHC分子は、動物において、当該動物の例えば生殖細胞系列ゲノムなどのゲノムから発現され、内因性動物自己タンパク質またはその一部を提示するヒト(ヒト化)MHC分子を含み得る。
【0039】
非ヒト動物のゲノムは、「体細胞ゲノム」とみなされ得る。例えば、当該非ヒト動物の体細胞中に存在するゲノムであってもよい。または非ヒト動物のゲノムは、「生殖細胞系列ゲノム」とみなされる場合もある。例えば、当該非ヒト動物の生殖細胞中に存在し、当該非ヒト動物の子孫に受け継がれるゲノムでもあり得る。当業者であれば、生殖細胞系列ゲノム中の再構成されていない免疫グロブリン重鎖および/または軽鎖の可変領域座位は、当該非ヒト動物の体細胞(例えばB細胞)中で再構成され、免疫グロブリン可変ドメインをコードする再構成免疫グロブリン可変領域座位を形成する能力を有することを容易に認識するであろう。したがって、例示的な実施形態において、再構成されていない重鎖座位および/または軽鎖座位は、非ヒト動物の生殖細胞系列ゲノム中に存在してもよく、およびそれから誘導された再構成配列は、当該非ヒト動物の例えばB細胞などに存在してもよい。
【0040】
「非ヒト動物」などの用語は、ヒトではない任意の脊椎生物を指す。一部の実施形態では、非ヒト動物は、円口類、硬骨魚、軟骨魚(例えば、サメまたはエイ)、両生類、は虫類、哺乳類、および鳥である。一部の実施形態では、非ヒト動物は哺乳類である。一部の実施形態では、非ヒト哺乳類は、霊長類、ヤギ、ヒツジ、ブタ、イヌ、ウシ、または齧歯類である。一部の実施形態では、非ヒト動物はラットまたはマウスなどの齧歯類である。
【0041】
「ヒト化された」、「キメラ」、「ヒト/非ヒト」などの用語は、起源は非ヒトであり、それに対する部分が、改変(例えばヒト化、キメラ、ヒト/非ヒトなど)分子が、その生物学的機能を保持し、および/または当該保持された生物学的機能を遂行する構造が維持されるように、対応するヒト分子の対応する部分で置換された分子(例えば、核酸、タンパク質など)を指す。ヒト化分子は、ヒト分子から誘導されたとみなされてもよく、この場合、当該ヒト化分子は、ヒト分子(またはその一部)をコードする核酸配列を含むヌクレオチドによりコードされる。対照的に、「ヒト」などは、ヒト起源のみ、例えば、ヒトのヌクレオチドおよびアミノ酸配列のみをそれぞれ含有するヒトのヌクレオチドまたはタンパク質を有する分子を包含する。「ヒト(ヒト化)」という用語は、当該ヒト(ヒト化)分子が、(a)ヒト分子であり得る、または(b)ヒト化された分子であり得ることを反映するために使用される。
【0042】
一部の実施形態では、ヒトHLA分子の少なくともヒトペプチド-結合溝を含有するヒト(ヒト化)MHC分子を、ヒト(ヒト化)MHC分子は含有し、または非ヒト動物は発現し、および当該分子に対して非ヒト動物は寛容化される。この場合において当該ヒト(ヒト化)MHC分子は、ヒトペプチド-結合溝において抗原を提示する能力を保持し、および/または当該ヒト(ヒト化)MHC分子は、ヒトHLA分子のヒトペプチド-結合溝の構造を維持する。一部の実施形態では、ヒトHLA分子の少なくともヒト細胞外ドメインを含有するヒト(ヒト化)MHC分子を、ヒト(ヒト化)MHC分子は含有し、または非ヒト動物は発現し、および当該分子に対して非ヒト動物は寛容化される。この場合において当該ヒト(ヒト化)MHC分子は、抗原を提示する能力を保持し、および/または当該ヒト(ヒト化)MHC分子は、ヒトHLA分子のヒト細胞外ドメインの構造を維持し、ペプチド結合溝を形成させる。一部の実施形態では、ヒトHLAクラスIポリペプチドのヒトペプチド-結合溝(例えば、ヒトHLAクラスIポリペプチドの少なくともα1ドメインおよびα2ドメイン、例えば少なくとも全長成熟ヒトHLAクラスIポリペプチドなどのヒトHLAクラスIポリペプチドの細胞外部分)を含有するヒト(ヒト化)MHC分子を、ヒト(ヒト化)MHC分子は含有し、または非ヒト動物は発現し、および当該分子に対して非ヒト動物は寛容化される。この場合において当該ヒト(ヒト化)MHCクラスIポリペプチドは、抗原を提示する能力を保持し、および/または当該ヒトペプチド結合溝中で抗原を提示するために必要な構造を保持する。一部の実施形態では、ヒトHLAクラスIポリペプチドのヒトペプチド-結合溝(例えば、ヒトHLAクラスIポリペプチドの少なくともα1ドメインおよびα2ドメイン、例えば少なくとも全長成熟ヒトHLAクラスIポリペプチドなどのヒトHLAクラスIポリペプチドの細胞外部分)を含有するヒト(ヒト化)MHC分子を、ヒト(ヒト化)MHC分子は含有し、または非ヒト動物は発現し、および当該分子に対して非ヒト動物は寛容化される。この場合において当該ヒト(ヒト化)MHCクラスI分子は、抗原を提示する能力を保持し、および/または当該ヒトペプチド結合溝中で抗原を提示するために必要な構造を保持し、ならびにこの場合において当該ヒト(ヒト化)MHCクラスI分子は、当該MHCクラスI分子を安定化させるヒトまたはヒト化β2マイクログロブリンをさらに含有する。
【0043】
「抗原」という用語は、免疫能力を有する宿主に導入されたときに、当該宿主の免疫系によって認識され、当該宿主による免疫反応を惹起させる任意の物質(例えばタンパク質、ペプチド、多糖類、糖タンパク質、糖脂質、ヌクレオチド、それらの一部、またはそれらの組み合わせ)を指す。T細胞受容体は、免疫シナプスの一部として、主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)を背景として提示されるペプチドを認識する。ペプチド-MHC(pMHC)複合体はTCRによって認識され、当該ペプチド(抗原決定基)とTCRイディオタイプが、当該相互作用の特異性をもたらす。したがって、「抗原」という用語は、例えば、pMHC複合体などのペプチド-MHC複合体などのMHCを背景として提示されるペプチドを包含する。MHC上で提示されるペプチドは、「エピトープ」または「抗原決定基」と呼称される場合もある。「ペプチド」、「抗原決定基」、「エピトープ」などの用語は、抗原提示細胞(APC)により自然に提示されるものを包含するだけでなく、例えば免疫系の細胞に適切に提示されたときに遺伝子改変非ヒト動物の免疫細胞により認識される限り、任意の所望のペプチドであってもよい。例えば、人工的に調製されたアミノ酸配列を有するペプチドも、エピトープとして使用され得る。
【0044】
「ペプチド-MHC複合体」、「pMHC複合体」、「溝中のペプチド(peptide-in-groove)」などは、
(i)MHC分子、例えば、ヒトおよび/またはヒト化された(例えば、ヒト(ヒト化))MHC分子、またはその一部(例えば、そのペプチド結合溝、および例えばその細胞外部分)、および
(ii)抗原性ペプチド、を含み、
この場合において当該MHC分子および抗原性ペプチドは複合体化されて、当該pMHC複合体は、T細胞受容体に特異的に結合することができる。pMHC複合体は、細胞表面で発現されたpMHC複合体、および可溶性pMHC複合体を包含する。例示的な実施形態では、例えば生殖細胞系列ゲノムなどの自身のゲノム中に、ヒト(ヒト化)MHC分子または少なくともそのヒトペプチド結合溝をコードするヌクレオチド配列を含む非ヒト動物は、空のヒト(ヒト化)MHC分子に対して寛容となり、またはその空のヒトペプチド結合溝に対して寛容となる。非ヒト動物に抗原性pMHC複合体を投与した際に、例えばpMHC複合体が投与される宿主非ヒト動物に対して外来性であるペプチドと複合体化されたヒト(ヒト化)MHC分子を含む複合体を非ヒト動物に投与した際に、当該非ヒト動物は、当該抗原性pMHC複合体に対する抗体反応を生じさせる能力を有する。次いでそうした特異的抗原結合タンパク質を単離し、抗原性pMHCと特異的T細胞受容体の相互作用を特異的に調節する治療剤として使用してもよい。例示的な実施形態では、非ヒト動物が寛容化されたMHC分子と複合体化されたペプチド(pMHC複合体が投与される宿主非ヒト動物に対して外来性)を含む可溶性pMHC複合体は、投与されたpMHC複合体の可溶性の性質によって、T細胞免疫反応を惹起させない場合がある。しかし、そうした可溶性pMHC複合体でも、当該pMHC複合体に特異的に結合する抗原結合タンパク質を生成するB細胞介在性免疫反応を惹起させ得るという点で、抗原性であるとみなされ得る。
【0045】
「遺伝子セグメント」または「セグメント」という文言は、可変(V)遺伝子セグメント(例えば、免疫グロブリン軽鎖可変(VL)遺伝子セグメントまたは免疫グロブリン重鎖可変(VH)遺伝子セグメント)、免疫グロブリン重鎖多様性(DH)遺伝子セグメント、または結合(J)遺伝子セグメント、例えば免疫グロブリン軽鎖結合(JL)遺伝子セグメントまたは免疫グロブリン重鎖結合(JL)遺伝子セグメントに対する参照を含み、これらは、(例えば内因性リコンビナーゼにより介在される)再構成に関与して、再構成軽鎖VL/JL配列を形成し得る、または再構成重鎖VH/DH/JH配列を形成し得る免疫グロブリン座位で、非再構成配列を含む。別段の示唆が無い限り、非再構成V、D、およびJセグメントは、12/23ルールに従うVL/JL組み換え、またはVH/DH/JH組み換えを可能にする組み換えシグナル配列(RSS:recombination signal sequence)を含有する。
【0046】
「抗原結合タンパク質」、「免疫グロブリン」、「抗体」、「結合タンパク質」などの用語は、モノクローナル抗体、多特異性抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、一本鎖Fv(scFv)、単鎖抗体、Fab断片、F(ab’)断片、ジスルフィド結合Fv(sdFv)、イントラボディ、ミニボディ、ダイアボディ(diabodies)、および抗イディオタイプ(抗Id)抗体(例えば抗原特異的TCRに対する抗Id抗体を含む)、ならびに上記のうちのいずれかのエピトープ結合断片を指す。「抗体(antibody)」および「抗体antibodies)」という用語はまた、米国特許20070004909に開示される共有結合ダイアボディ、および例えば米国特許20090060910に開示されるIg-DARTSなども指し、それら出願公開は、その全体で参照により本明細書に組み込まれる。pMHC結合タンパク質とは、pMHC複合体に特異的に結合する抗原結合タンパク質、免疫グロブリン、抗体などを指す。
【0047】
「特異的に結合する」、「特異的な様式で結合する」、「抗原特異的」などの用語は、特異的結合に関与する分子が、(1)生理学的条件下で、安定的に結合することができる、例えば安定的に関連することができる、例えば安定的に分子間非共有結合を形成することができること、および(2)生理学的条件下で、特定の結合対以外の他の分子と安定的な結合を形成することができないことを示す。したがって特異的な様式でpMHC複合体と結合する抗原結合タンパク質(例えば免疫グロブリン、抗体など)とは、当該pMHC結合タンパク質が、当該pMHC複合体と安定的な分子間非共有結合を形成することを示唆する。したがって第一のMHC分子と複合体化された第一のペプチドを含む特定のpMHC複合体と特異的に結合する、例えば特異的な様式で結合するpMHC結合タンパク質は、
(i)生理学的条件下で、第一のMHC分子の背景化で提示される第二のペプチドを含むpMHC複合体とは安定的に結合せず、この場合において当該第一および第二のペプチドは同一ではなく、例えば第一のMHC分子のペプチド結合溝と関連付けられた際に異なるイディオタイプ(立体構造)を呈し、
(ii)(a)第一のMHC分子を背景として提示される第一のペプチドを特異的に認識する第一のTCRと、(b)当該第一のペプチドと第一のMHC分子を含むpMHC複合体の間の相互作用に干渉(例えば妨害)し得るが、
(iii)(a)第一のMHC分子を背景として提示される第二のペプチドを特異的に認識する第二のTCR、または(b)第一のMHC分子を背景として提示される第二のペプチドを含むpMHC複合体の間の相互作用には干渉せず、この場合において当該第一および第二のペプチドは異なっており、例えば第一のMHC分子のペプチド結合溝と関連付けられた際に異なるイディオタイプ(立体構造)を呈する。第一のペプチドと第一のMHC分子を含むpMHC複合体に特異的に結合するpMHC結合タンパク質はさらに、または独立して、第一のMHC分子を背景とした第一のペプチドを提示する第一の細胞に結合し得るが、第一のMHC分子を背景とした第二のペプチドを提示する第二の細胞には結合せず、この場合において当該第一および第二のペプチドは異なっており、MHC分子のペプチド結合溝と関連付けられた際に異なるイディオタイプ(立体構造)を呈する。特異的結合はまた、低いマイクロモル~ピコモルの範囲の平衡解離定数(KD)により特徴付けることもできる。特異性が高ければ、低いナノモル範囲であり得、非常に高い特異性であれば、ピコモル範囲内となる。二つの分子が特異的に結合するかどうかを判定するための方法は、当該技術分野で公知であり、例えば、平衡透析、表面プラズモン共鳴などを含む。
【0048】
「個体」または「対象」または「動物」とは、ヒト、獣医動物(例えば、ネコ、イヌ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、など)および疾患の実験動物モデル(例えば、マウス、ラット)を指す。一つの実施形態では、対象はヒトである。
【0049】
本明細書において使用される「タンパク質」という用語は、すべての種類の天然タンパク質および合成タンパク質を包含するものであり、すべての長さのタンパク質断片、融合タンパク質、および限定されないが糖タンパク質をはじめとする改変タンパク質を含み、ならびに他のすべての種類の改変タンパク質(例えば、リン酸化、アセチル化、ミリストイル化、パルミトイル化、グリコシル化、酸化、ホルミル化、アミド化、ポリグルタミル化、ADP-リボシル化、ペグ化、ビオチニル化から生じるタンパク質)を含む。
【0050】
「核酸」および「ヌクレオチド」という用語は、別段の指定がない限り、DNAおよびRNAの両方を包含する。
【0051】
「力価」、「抗体力価」、「抗体の力価」などの用語は、特異的または非特異的な様式で抗原に結合する例えばアイソタイプなどの特徴的な能力を共有する(例えば、対象から取得された血清中の)抗体サンプルの能力を指す。対象から採取された血清中の抗体の力価の決定方法は、当分野で公知である。一部の実施形態では、対象から採取された血清中の抗体の力価は、結合シグナルがバックグラウンドの2倍である、補間血清希釈倍数として算出される。一部の実施形態では、ヒト(ヒト化)MHC分子を発現し、これに対して寛容である非ヒト動物は、対象のpMHC複合体(例えば、当該ヒト(ヒト化)MHC分子が誘導されたHLA分子を背景として提示される対象ペプチド)で免疫化されたとき、特異的反応(例えば、特異的抗体反応などの特異的B細胞反応などの特異的免疫反応)を生じさせることができ、または生じさせる。一部の実施形態では、反応は、「特異的反応」またはそれに類するものとみなされる。この場合において当該非ヒト動物は、対象のpMHC複合体で免疫化されたときに、非関連pMHC複合体に対する抗体価よりも、対象pMHC複合体に対して高い抗体価を生じさせる。一部の実施形態では、反応は、特異的反応またはそれに類するものとみなされる。この場合において当該非ヒト動物は、対象のpMHC複合体で免疫化されたときに、非関連pMHC複合体に対する抗体価よりも、対象pMHC複合体に対して、少なくとも2倍高い抗体価を生じさせる。一部の実施形態では、反応は、特異的反応またはそれに類するものとみなされる。この場合において当該非ヒト動物は、対象のpMHC複合体で免疫化されたときに、非関連pMHC複合体に対する抗体価よりも、対象pMHC複合体に対して、少なくとも5倍高い抗体価を生じさせる。一部の実施形態では、反応は、特異的反応またはそれに類するものとみなされる。この場合において当該非ヒト動物は、対象のpMHC複合体で免疫化されたときに、非関連pMHC複合体に対する抗体価よりも、対象pMHC複合体に対して、少なくとも10倍高い抗体価を生じさせる。一部の実施形態では、反応は、特異的反応またはそれに類するものとみなされる。この場合において当該非ヒト動物は、対象のpMHC複合体で免疫化されたときに、非関連pMHC複合体に対する抗体価よりも、対象pMHC複合体に対して、有意に高い抗体価を生じさせる。
【0052】
「動作可能に連結した」などの用語は、記載される構成要素が、それらが意図された様式で機能することができるような関係にある並置を意味する。例えば、再構成されていない可変領域遺伝子セグメントが再構成されて、再構成済み可変領域遺伝子を形成することができ、そして当該再構成済み可変領域が、定常領域遺伝子と連結されて抗原結合タンパク質のポリペプチド鎖として発現される場合は、当該再構成されていない可変領域遺伝子セグメントは、連続的な定常領域遺伝子に「動作可能に連結されている」。コード配列に「動作可能に連結した」対照配列は、対照配列に適合する条件下でコード配列の発現が達成されるように結合されている。「動作可能に連結した」配列には、対象の遺伝子と連続する発現制御配列と、トランスで、または離れて作用して対象の遺伝子(または対象の配列)を制御する発現制御配列の両方を含む。「発現制御配列」という用語は、ポリヌクレオチド配列を含み、それらが結合されるコード配列の発現およびプロセッシングに作用するために必要である。「発現制御配列」には、適切な転写開始、終結、プロモーターおよびエンハンサー配列、スプライシングおよびポリアデニル化シグナルなどの効率的RNAプロセシングシグナル、細胞質mRNAを安定化する配列、翻訳効率を強化する配列(すなわち、コザック配列)、ポリペプチド安定性を強化する配列、および望ましい場合には、ポリペプチド分泌を強化する配列を含む。このような制御配列の性質は、宿主生物によって異なる。例えば、原核生物では、かかる制御配列としては、概して、プロモーター、リボソーム結合部位、および転写終結配列が挙げられる一方、真核生物では、かかる制御配列としては、概して、プロモーターおよび転写終結配列が挙げられる。「制御配列」という用語は、その存在が発現およびプロセシングのために必須である要素を含むことを意図しており、その存在が有利である追加的要素、例えば、リーダー配列および融合パートナー配列も含むことができる。
【0053】
「投与」などの用語は、対象またはシステム(たとえば、細胞、臓器、組織、生物体、または関連構成要素もしくはその構成要素のセット)に対する組成物の投与を指し、これを含む。当業者であれば、投与経路は、例えば、その組成物が投与される対象またはシステム、組成物の性質、投与目的などに応じて異なり得ることを認識するであろう。例えば、特定の実施形態では、動物対象(例えば、ヒトまたは齧歯類)への投与は、気管支投与(気管支注入を含む)、口腔投与、腸内投与、皮間投与、動脈内投与、皮内投与、胃内投与、髄内投与、筋肉内投与、鼻内投与、腹腔内投与、髄腔内投与、静脈内投与、心室内投与、粘膜投与、経鼻投与、経口投与、直腸投与、皮下投与、舌下投与、局所投与、気管投与(気管内注入を含む)、経皮投与、膣投与、および/または硝子体投与であってもよい。一部の実施形態では、投与は、間欠投薬を含み得る。一部の実施形態では、投与は、少なくとも選択された期間にわたる連続投薬(例えば、かん流)を含み得る。
【0054】
「~から誘導された」という用語は、非再構成可変領域および/または非再構成可変領域遺伝子セグメント「から誘導された」再構成可変領域遺伝子または再構成可変ドメインに関して使用される場合、当該再構成可変領域遺伝子または当該再構成可変ドメインの配列を、再構成された非再構成可変領域遺伝子セグメント群まで遡り、可変ドメインを発現する再構成可変領域遺伝子を形成させる能力を指す(適応可能な場合には、スプライス差異、および体細胞変異の原因となる)。例えば、体細胞変異を経た再構成済み可変領域遺伝子は、再構成されていない可変領域遺伝子セグメントから誘導されたという事実は変わらない。
【0055】
「内因性座位」または「内因性遺伝子」という用語は、本明細書に記載される破壊、削除、置換、変化、または改変の導入前に、親または基準生物において存在する遺伝子座位を指す。一部の実施形態では、内因性座位は自然界に存在する配列を有する。一部の実施形態では、内因性座位は野生型座位である。一部の実施形態では、内因性座位は操作された座位である。
【0056】
「異種」という用語は、異なる供給源からの物質または実体を意味する。例えば、特定の細胞もしくは生物体に存在するポリペプチド、遺伝子、または遺伝子産物に関連して使用されるとき、当該用語は、関連ポリペプチド、遺伝子、または遺伝子産物が、1)ヒトの手によって遺伝子操作されたこと、2)ヒトの手によって(例えば、遺伝子操作によって)細胞または生物(またはその前駆体)に導入されたこと、および/または3)関連細胞または生物(例えば、関連細胞タイプまたは生物タイプ)によって自然には生成されない、またはその中に存在しないことを明確にする。「異種」は、たとえば天然では関連していない、および一部の実施形態では非内因性の制御因子(たとえばプロモーター)の制御下にある、特定の天然の細胞または生物中に通常存在するが、突然変異または置換により変化する、または改変されるポリペプチド、遺伝子、または遺伝子産物も含む。
【0057】
【0058】
本明細書の開示内容に従い、当分野の技術範囲内にある従来からの分子生物学、微生物学、および組み換えDNA技術が採用されてもよい。そうした技術は、文献内で完全に説明されている。例えば、Sambrook,Fritsch & Maniatis,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Second Edition.Cold Spring Harbor,NY:Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989(本明細書において、「Sambrook et al.,1989」);DNA Cloning:A Practical Approach,Volumes I and II(D.N.Glover ed.1985);Oligonucleotide Synthesis(M.J.Gait ed.1984);Nucleic Acid Hybridization [B.D.Hames & S.J.Higgins eds.(1985)];Transcription And Translation [B.D.Hames & S.J.Higgins,eds.(1984)];Animal Cell Culture [R.I.Freshney,ed.(1986)];Immobilized Cells And Enzymes [IRL Press,(1986)];B.Perbal,A Practical Guide To Molecular Cloning(1984);Ausubel,F.M.et al.(eds.).Current Protocols in Molecular Biology.John Wiley & Sons,Inc.,1994を参照のこと。それら各公表文献は、参照によりその全体で本明細書に組み込まれる。これらの技術には、部位指向性突然変異誘導が含まれ、例えば、Kunkel,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:488- 492(1985)、米国特許第5,071,743号、Fukuoka et al.,Biochem.Biophys.Res.Commun.263:357-360(1999);Kim and Maas,BioTech.28:196-198(2000);Parikh and Guengerich,BioTech.24:4 28-431(1998);Ray and Nickoloff,BioTech.13:342-346(1992);Wang et
al.,BioTech.19:556-559(1995);Wang and Malcolm,BioTech.26:680-682(1999);Xu and Gong,BioTech.26:639-641(1999)、米国特許第5,789,166号および第5,932,419号、Hogrefe,Strategies l4.3:74-75(2001)、米国特許第5,702,931号、第5,780,270号および第6,242,222号、Angag and Schutz,Biotech.30:486-488(2001),Wang and Wilkinson,Biotech.29:976-978(2000),Kang et al.,Biotech.20:44-46(1996),Ogel and McPherson,Protein Engineer.5:467-468(1992),Kirsch and
Joly,Nucl.Acids.Res.26:1848-1850(1998),Rhem and Hancock,J.Bacteriol.178:3346-3349(1996),Boles and Miogsa,Curr.Genet.28:197-198(1995),Barrenttino et al.,Nuc.Acids.Res.22:541-542(1993),Tessier and Thomas,Meths.Molec.Biol.57:229-237,ならびにPons et al.,Meth.Molec.Biol.67:209-218を参照のこと。それら各公表文献は、その全体で参照により本明細書に組み込まれる。
【0059】
ヒトまたはヒト化MHC分子の寛容化
例示的実施形態では、遺伝子改変非ヒト動物、例えば、哺乳動物、例えば、齧歯類、例えば、ラットまたはマウスは、少なくとも一つの空のヒトもしくはヒト化MHC分子、または少なくともその空のヒトペプチド結合溝を発現し、これらに対して寛容である。しかしながら、例えば異種などの抗原性のペプチドと複合体化されたときに、ヒト(ヒト化)MHC分子に対する、例えばヒトまたはヒト化可変ドメインを含む抗原結合タンパク質などの抗原結合タンパク質を生成することができる。一部の実施形態では、空のヒト(ヒト化)MHC分子に対する非ヒト動物の寛容は、当該非ヒト動物を、そのゲノム中に、当該ヒト(ヒト化)MHC分子または少なくともそのヒトペプチド結合溝をコードするヌクレオチド配列を含有するように遺伝子改変して、当該非ヒト動物が、当該ヒト(ヒト化)MHC分子または少なくともそのヒトペプチド結合溝を、空のヒト(ヒト化)MHC分子として、またはその空のヒトペプチド結合溝として発現することにより実現される。ヒト(ヒト化)MHC分子をコードするヌクレオチドを含有するよう遺伝子改変された当該動物をさらに改変して、ヒト化免疫グロブリン重鎖および/または軽鎖の座位を含有させて、ヒトまたはヒト化された抗原結合タンパク質、例えばヒトまたはヒト化可変ドメインを有する抗原結合タンパク質を発現させてもよい。
【0060】
MHC分子は一般的に、クラスIおよびクラスIIのMHC分子の二つのカテゴリに分類される。MHCクラスI分子は、本明細書においてα鎖とも呼称される、糖タンパク質重鎖を含有する統合型膜タンパク質であり、当該α鎖は、三つの細胞外ドメイン(すなわち、α1、α2、およびα3)と二つの細胞内ドメイン(すなわち、膜貫通ドメイン(TM)および細胞質ドメイン(CYT))を有する。重鎖は、β2マイクログロブリン(β2mまたはβ2M)と呼ばれる可溶性サブユニットと非共有結合している。MHCクラスII分子またはMHCクラスIIタンパク質は、ヘテロ二量体統合型膜タンパク質であり、非共有結合した一つのα鎖と一つのβ鎖を含む。α鎖は、二つの細胞外ドメイン(α1およびα2)と、二つの細胞内ドメイン(TMドメインおよびCYTドメイン)を有する。β鎖は、二つの細胞外ドメイン(β1およびβ2)と、二つの細胞内ドメイン(TMドメインおよびCYTドメイン)を含有する。
【0061】
クラスIおよびクラスIIのMHC分子のドメイン構造は、MHC分子の抗原決定性結合部位、例えば、ペプチド結合部分またはペプチド結合溝を形成する。ペプチド結合溝は、例えば抗原決定基などのペプチドが結合することができる空洞を形成するMHCタンパク質部分を指す。ペプチド結合溝の構造は、ペプチド結合の際に変化する能力を有し、ペプチド-MHC(pMHC)複合体へのTCRの結合に重要なアミノ酸残基を適切にアライメントすることができる。
【0062】
一部の実施形態では、MHC分子は、ペプチド結合溝を形成するのに充分なMHC鎖の断片を含む。例えば、クラスIタンパク質のペプチド結合溝は、重鎖のα1ドメインとα2ドメインの部分を含有し、二つのβプリーツ型のシートと、二つのαヘリックスを形成することができる。β2マイクログロブリン鎖の一部を含めることで、MHCクラスI分子が安定化する。MHCクラスII分子の最も多くのバージョンについては、α鎖とβ鎖の相互作用はペプチドの非存在下でも起こり得る一方で、MHCクラスIの二つの鎖の分子は、結合溝がペプチドで満たされるまで不安定である。クラスIIタンパク質のペプチド結合溝は、α1ドメインとβ1ドメインの部分を含有し、二つのβプリーツ型シートと、二つのαヘリックスを形成することができる。α1ドメインの第一の部分は、第一のβプリーツ型シートを形成し、α1ドメインの第二の部分は第一のαヘリックスを形成する。β1ドメインの第一の部分は、第二のβプリーツ型シートを形成し、β1ドメインの第二の部分は第二のαヘリックスを形成する。タンパク質の結合溝に会合したペプチドを有するクラスIIタンパク質のX線結晶構造解析から、会合したペプチドの一つの末端または両方の末端が、MHCタンパク質を超えて突出し得ることが示されている(Brown
et al.,pp.33-39,1993,Nature,Vol.364、その全体で参照により本明細書に組み込まれる)。したがって、クラスIIのα1およびβ1のαヘリックスの末端は、開放空洞を形成し、結合溝に結合されたペプチドの末端は、空洞内に埋もれていない。さらに、クラスIIタンパク質のX線結晶構造解析により、MHC
β鎖のN末端は、体系化されていない様式でMHCタンパク質の側面から明白に突出しており、β鎖の最初の4アミノ酸残基は、X線結晶解析に割り当てることができなかったことが示されている。
【0063】
多くのヒトおよび他の哺乳動物のMHCが、当分野で公知である。
【0064】
一部の実施形態では、非ヒト動物は、第一、第二、および/または第三のヌクレオチド配列のうち少なくとも一つを含有し、それら各々は、ヒトまたはヒト化MHC IIαポリペプチド、ヒトまたはヒト化MHC IIβポリペプチド、およびヒトまたはヒト化MHC Iαポリペプチドからなる群から選択される様々なヒトまたはヒト化MHCポリペプチドをコードする。非ヒト動物はさらに、例えばヒトまたはヒト化MHC Iαポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含有する実施形態においては、ヒトまたはヒト化β2マイクログロブリンを含有してもよい。本明細書において第一、第二、および第三という指定の使用は、任意の特定の順序で三つのヌクレオチド配列のすべてを必要とする、または任意の特定の順序でヒトまたはヒト化MHCポリペプチドのいずれかの存在を必要とするとして、本明細書に開示の非ヒト動物を限定するとは解釈されないものとする。
【0065】
本明細書の様々な実施形態において、ヒトもしくはヒト化MHC Iポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、および/またはヒトもしくはヒト化MHC IIタンパク質、または少なくともそのヒトペプチド結合溝をコードするヌクレオチド配列を、そのゲノム中に含有する遺伝子改変非ヒト動物、例えば哺乳動物、例えば齧歯類(例えばマウスまたはラット)が提供される。MHC Iヌクレオチド配列は、完全にヒトであるMHC Iポリペプチド(例えば、ヒトHLAクラスI分子)、または部分的にヒトであり、部分的に非ヒトであるヒト化MHC Iポリペプチド(例えば、キメラヒト/非ヒトMHC Iポリペプチド)をコードしてもよく、およびMHC IIヌクレオチド配列は、完全にヒトであるMHC IIタンパク質(例えば、ヒトHLAクラスII分子)、または部分的にヒトであり、部分的に非ヒトであるヒト化MHCクラスIIタンパク質(例えば、キメラヒト/非ヒトMHC IIタンパク質、例えばキメラヒト/非ヒトMHC IIαおよびβポリペプチドを含む)をコードしてもよい。
【0066】
本明細書の実施例において、内因性座位から、非ヒトMHC I分子の膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインに動作可能に連結されたヒトHLAクラスI分子のヒト細胞外部分(ヒトペプチド結合ドメインを含有する)を含むキメラヒト/非ヒトMHC I分子を発現する遺伝子改変動物が、空であるときのヒトHLAクラスI分子の例えばヒトペプチド結合ドメインなどのヒト細胞外ドメインに対して寛容であること、および例えば当該非ヒト動物に対して異種であるペプチドなどの抗原と複合体化されたときのヒトペプチド結合ドメインに対し、特異的免疫反応を生じさせ得ることを示す。例えば、実施例を参照のこと。したがって一部の実施形態では、例えばラットまたはマウスなどのげっ歯類などの非ヒト動物は、
(1)例えば、内因性MHC座位から、(b)非ヒトMHC I分子の非ヒト膜貫通ドメインおよび細胞質ドメイン、(a)(b)に動作可能に連結されたヒトHLA分子の少なくともヒトペプチド-結合溝、例えばヒト細胞外部分、を含有するキメラヒト/非ヒトMHC分子を発現し、および
(2)ヒトHLA分子の少なくとも細胞外部分に対して寛容である。
【0067】
そのゲノム中に、例えば内因性座位で、キメラヒト/非ヒトMHCIポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む遺伝子改変非ヒト動物は、米国特許第9,591,835号および第9,615,550号に開示されており、各公表文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。そのゲノム中に、例えば内因性座位で、ヒト化、例えばキメラヒト/非ヒトのMHC IIポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む遺伝子改変非ヒト動物は、米国特許第8,847,005号および第9,043,996号に開示されており、各公表文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。そのゲノム中に、例えば内因性座位で、ヒト化、例えばキメラヒト/非ヒトのMHC Iポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含み、およびそのゲノム中に、例えば内因性座位で、ヒト化、例えばキメラヒト/非ヒトMHC IIポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む遺伝子改変非ヒト動物は、米国特許第10,154,658号に開示されており、当該特許は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0068】
様々な本明細書の実施形態において、そのゲノム中、例えば、その生殖細胞系列ゲノム中、例えば一つまたは複数の内因性MHC座位で、
(i)非ヒトMHC Iポリペプチド、例えば内因性MHC Iポリペプチドの膜貫通ドメインと細胞質ドメインを含む非ヒト部分に動作可能に連結された、ヒトMHC Iポリペプチドの細胞外部分(またはその一部。例えば、一つまたは複数の細胞外ドメイン、例えば、ペプチド結合溝)を含むヒト部分を含む、キメラヒト/非ヒトMHC Iポリペプチドをコードする第一のヌクレオチド配列、ならびに/または
(ii)非ヒト部分に動作可能に連結されたヒト部分を含むキメラヒト/非ヒトMHC IIαポリペプチドをコードする第二のヌクレオチド配列であって、当該キメラMHC IIαポリペプチドのヒト部分は、ヒトMHCクラスII分子のαポリペプチドの細胞外部分(またはその一部。例えば、一つまたは複数の細胞外ドメイン、例えば、α1ドメイン)を含む、第二のヌクレオチド配列、および非ヒト部分に動作可能に連結されたヒト部分を含むキメラヒト/非ヒトMHC IIβポリペプチドをコードする第三のヌクレオチド配列であって、当該キメラMHC IIβポリペプチドのヒト部分は、ヒトMHCクラスII分子のβポリペプチドの細胞外部分(またはその一部。例えば、一つまたは複数の細胞外ドメイン、例えば少なくともβ1ドメイン)を含む、第三のヌクレオチド配列、を含む遺伝子改変非ヒト動物が提供され、
当該非ヒト動物は、キメラヒト/非ヒトのMHC Iタンパク質および/またはMHC
IIタンパク質を発現し、当該キメラヒト/非ヒトのMHC Iタンパク質および/またはMHC IIタンパク質に対して寛容である。一つの実施形態では、第一、第二、および/または第三のヌクレオチド配列はそれぞれ、内因性非ヒトMHC I、MHC IIαおよびMHC IIβ座位に位置する。一つの実施形態では、非ヒト動物はマウスであり、第一、第二、および/または第三のヌクレオチド配列は、マウスの17番染色体上の内因性マウスMHC座位に位置する。一つの実施形態では、第一のヌクレオチド配列は、内因性非ヒトMHC I座位に位置する。一つの実施形態では、第二のヌクレオチド配列は、内因性非ヒトMHC IIα座位に位置する。一つの実施形態では、第三のヌクレオチド配列は、内因性非ヒトMHC IIβ座位に位置する。
【0069】
一つの実施形態では、キメラヒト/非ヒトMHC Iポリペプチドは、非ヒト部分に動作可能に連結されたヒト部分を含み、この場合において当該ヒト部分は、ヒトMHC Iポリペプチドの少なくともペプチド結合溝を含む。一つの実施形態では、キメラポリペプチドのヒト部分は、ヒトMHC I分子の細胞外部分を含む。本実施形態では、キメラポリペプチドのヒト部分は、ヒトMHC I分子のα鎖の細胞外ドメインを含む。一つの実施形態では、キメラポリペプチドのヒト部分は、ヒトMHC I分子のα1ドメインおよびα2ドメインを含む。別の実施形態では、キメラポリペプチドのヒト部分は、ヒトMHC I分子のα1ドメイン、α2ドメイン、およびα3ドメインを含む。
【0070】
一つの実施形態では、キメラMHC IIαポリペプチドのヒト部分、および/またはキメラMHC IIβポリペプチドのヒト部分は、それぞれヒトMHC IIαポリペプチドおよび/またはヒトMHC IIβポリペプチド、例えばヒトMHC IIタンパク質のMHC IIαおよびβポリペプチドのペプチド結合ドメインを含む。一つの実施形態では、キメラMHC IIαおよび/またはβポリペプチドのヒト部分は、それぞれヒトMHC IIαおよび/またはβポリペプチド、例えばヒトMHC IIタンパク質のMHC IIαおよびβポリペプチドの細胞外部分を含む。一つの実施形態では、キメラMHC IIαポリペプチドのヒト部分は、ヒトMHC IIαポリペプチドのα1ドメインを含み、別の実施形態では、キメラMHC IIαポリペプチドのヒト部分は、ヒトMHC IIαポリペプチドのα1ドメインおよびα2ドメインを含む。追加的な実施形態では、キメラMHC IIβポリペプチドのヒト部分は、ヒトMHC IIβポリペプチドのβ1ドメインを含み、別の実施形態では、キメラMHC IIβポリペプチドのヒト部分は、ヒトMHC IIβポリペプチドのβ1ドメインおよびβ2ドメインを含む。
【0071】
例示的実施形態における非ヒト動物は、キメラヒト/非ヒトMHC分子を発現し、これに対して寛容である。一つの実施形態では、ヒト部分はそれぞれ、ヒトMHC I分子、MHC IIα分子、および/またはMHC IIβ分子の細胞外ドメインを含み、ヒト部分は、非ヒト部分に動作可能に連結され、当該キメラヒト/非ヒトMHC Iポリペプチド、MHC IIαポリペプチドおよび/またはMHC IIβポリペプチドの非ヒト部分は、それぞれ内因性非ヒト(例えば齧歯類、例えばマウス、ラット)MHC Iポリペプチド、MHC IIαポリペプチド、および/もしくはMHC IIβポリペプチドの膜貫通ドメインならびに/または細胞質ドメインを含む。したがって、キメラヒト/非ヒトMHC Iポリペプチドの非ヒト部分は、内因性非ヒトMHC Iポリペプチドの膜貫通ドメインおよび/または細胞質ドメインを含み得る。キメラMHC IIαポリペプチドの非ヒト部分は、内因性非ヒトMHC IIαポリペプチドの膜貫通ドメインおよび/または細胞質ドメインを含み得る。キメラヒト/非ヒトMHC IIβポリペプチドの非ヒト部分は、内因性非ヒトMHC IIβポリペプチドの膜貫通ドメインおよび/または細胞質ドメインを含み得る。一つの実施形態では、非ヒト動物は、マウスであり、キメラMHC Iポリペプチドの非ヒト部分は、マウスH-2Kタンパク質から誘導される。一つの実施形態では、非ヒト動物は、マウスであり、キメラMHC IIαおよびβポリペプチドの非ヒト部分は、マウスH-2Eタンパク質から誘導される。したがって、キメラMHC Iポリペプチドの非ヒト部分は、マウスH-2Kから誘導された膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインを含み得、およびキメラMHC IIαおよびβポリペプチドの非ヒト部分は、マウスH-2Eタンパク質から誘導された膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインを含み得る。特定のH-2K配列およびH-2E配列が本実施例において予期されるが、任意の適切な配列、例えば、多型バリアント、保存的/非保存的アミノ酸置換などが本明細書に包含される。
【0072】
一つの実施形態では、キメラヒト/マウスMHC Iポリペプチドのヒト部分は、ヒトMHC I(例えば、ヒトHLA-A、例えばヒトHLA-A2、例えばヒトHLA-A2.1)のペプチド結合ドメインまたは細胞外ドメインを含む。ヒトMHC Iのペプチド結合溝は、α1ドメインとα2ドメインを含み得る。あるいはヒトMHC Iのペプチド結合溝は、αドメイン、α2ドメイン、およびα3ドメインを含み得る。一つの実施形態では、ヒトMHC Iの細胞外ドメインは、ヒトMHC Iα鎖の細胞外ドメインを含む。一つの実施形態では、内因性マウスMHC I座位は、H-2K(例えば、H-2Kb)座位であり、キメラMHC Iポリペプチドのマウス部分は、マウスH-2K(例えば、H-2Kb)ポリペプチドの膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインを含む。したがって一つの実施形態では、本発明のマウスは、その内因性マウスMHC I座位で、キメラヒト/マウスMHC Iをコードするヌクレオチド配列を含み、この場合において当該キメラポリペプチドのヒト部分は、ヒトHLA-A2(例えば、HLA-A2.1)ポリペプチドの細胞外ドメインを含み、ならびにマウス部分は、マウスH-2K(例えば、H-2Kb)ポリペプチドの膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインを含み(例えば、配列番号24を参照のこと)、そしてマウスはキメラヒト/マウスのHLA-A2/H-2Kタンパク質を発現する。他の実施形態では、キメラMHC Iポリペプチドのマウス部分は、他のマウスMHC I、例えば、H-2D、H-2Lなどから誘導されてもよく、キメラMHC Iポリペプチドのヒト部分は、他のヒトMHC I、例えば、HLA-B、HLA-Cから誘導されてもよい。
【0073】
一つの実施形態では、キメラヒト/マウスMHC IIαポリペプチドのヒト部分は、ヒトMHC IIαのペプチド結合ドメインまたは細胞外ドメインを含み、キメラヒト/マウスMHCIIβポリペプチドのヒト部分は、ヒトMHC IIβのペプチド結合ドメインまたは細胞外ドメインを含む。ヒトMHC IIαポリペプチドのペプチド結合ドメインは、α1ドメインを含んでもよく、ヒトMHC IIβポリペプチドのペプチド結合ドメインは、β1ドメインを含んでもよい。したがって、キメラMHC II分子のペプチド結合ドメインは、ヒトα1ドメインおよびβ1ドメインを含んでもよい。ヒトMHC
IIαポリペプチドの細胞外ドメインは、α1ドメインおよびα2ドメインを含んでもよく、ヒトMHC IIβポリペプチドの細胞外ドメインは、β1ドメインおよびβ2ドメインを含んでもよい。したがって、キメラMHC II分子の細胞外ドメインは、ヒトα1ドメイン、α2ドメイン、β1ドメイン、およびβ2ドメインを含んでもよい。一つの実施形態では、キメラMHC II分子のマウス部分は、マウスMHC II、例えばマウスH-2Eの膜貫通ドメインおよび細胞質ドメイン(例えば、マウスH-2Eαおよびβ鎖の膜貫通ドメインおよび細胞質ドメイン)を含む。したがって一つの実施形態では、本発明のマウスは、その内因性マウスMHC II座位で、キメラヒト/マウスMHC
IIαをコードするヌクレオチド配列を含み、この場合において当該キメラMHC IIαポリペプチドのヒト部分は、ヒトMHC IIのα鎖(例えば、HLA-DR2のα鎖)から誘導された細胞外ドメインを含み、マウス部分は、マウスMHC II(例えば、H-2E)のα鎖から誘導された膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインを含む。そしてマウスは、その内因性マウスMHC II座位で、キメラヒト/マウスMHC IIβをコードするヌクレオチド配列を含み、この場合において当該キメラMHC IIβポリペプチドのヒト部分は、ヒトMHC IIのβ鎖(例えば、HLA-DR2のβ鎖)から誘導された細胞外ドメインを含み、マウス部分は、マウスMHC II(例えば、H-2E)のβ鎖から誘導された膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインを含む。例えば、この場合において当該マウスは、キメラヒト/マウスのHLA-DR2/H-2Eタンパク質を発現する。他の実施形態では、キメラMHC IIタンパク質のマウス部分は、他のマウスMHC II、例えば、H-2Aなどから誘導されてもよく、キメラMHC IIタンパク質のヒト部分は、他のヒトMHC II、例えば、HLA-DQなどから誘導されてもよい。
【0074】
一部の実施形態では、キメラヒト/非ヒトポリペプチドは、ヒトまたは非ヒトのリーダー(シグナル)配列を含むものであってもよい。一つの実施形態では、キメラMHC Iポリペプチドは、内因性MHC Iポリペプチドの非ヒトリーダー配列を含む。一つの実施形態では、キメラMHC IIαポリペプチドは、内因性MHC IIαポリペプチドの非ヒトリーダー配列を含む。一つの実施形態では、キメラMHC IIβポリペプチドは、内因性MHC IIβポリペプチドの非ヒトリーダー配列を含む。別の実施形態では、キメラMHC Iポリペプチド、MHC IIαポリペプチド、および/またはMHC
IIβポリペプチドは、それぞれ、別の非ヒト動物、例えば別のげっ歯類または別のマウス系統由来のMHC Iポリペプチド、MHC IIαポリペプチド、および/またはMHC IIβポリペプチドの非ヒトリーダー配列を含む。したがって、キメラMHC Iポリペプチド、MHC IIαポリペプチド、および/またはMHC IIβポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、それぞれ非ヒトMHC Iリーダー配列、MHC
IIαリーダー配列、および/またはMHC IIβリーダー配列をコードするヌクレオチド配列に動作可能に連結されてもよい。さらに別の実施形態では、キメラMHC Iポリペプチド、MHC IIαポリペプチド、および/またはMHC IIβポリペプチドは、それぞれ、ヒトMHC Iポリペプチド、ヒトMHCIIαポリペプチド、および/またはヒトMHC IIβポリペプチドのヒトリーダー配列を含む(例えば、それぞれ、ヒトHLA-A2、ヒトHLA-DRα、および/またはヒトHLA-DRβ1*1501のリーダー配列)。
【0075】
一部の実施形態では、キメラヒト/非ヒトMHC Iポリペプチド、MHC IIαポリペプチド、および/またはMHC IIβポリペプチドは、そのヒト部分に、それぞれ、ヒトMHC Iポリペプチド、ヒトMHC IIαポリペプチド、および/またはヒトMHC IIβポリペプチドの完全な、または実質的に完全な細胞外ドメインを含んでもよい。したがって、ヒト部分は、ヒトMHC Iポリペプチド、ヒトMHC IIαポリペプチド、および/またはヒトMHC IIβポリペプチド(例えば、ヒトHLA-A2、ヒトHLA-DRα、および/またはヒトHLA-DRβ1*1501)の細胞外ドメインをコードするアミノ酸の少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、例えば95%以上を含んでもよい。一つの例では、ヒトMHC Iポリペプチド、ヒトMHC IIαポリペプチド、および/またはヒトMHC IIβポリペプチドの実質的に完全な細胞外ドメインは、ヒトリーダー配列を欠く。別の例では、キメラヒト/非ヒトMHC Iポリペプチド、キメラヒト/非ヒトMHC IIαポリペプチド、および/またはキメラヒト/非ヒトMHC IIβポリペプチドは、ヒトリーダー配列を含む。
【0076】
さらに、一部の実施形態では、キメラMHC Iポリペプチド、MHC IIαポリペプチド、および/またはMHC IIβポリペプチドは、それぞれ、例えば、マウスのMHC I、MHC IIα、および/またはMHC IIβの制御エレメントなどの内因性非ヒトプロモーターおよび制御エレメントに動作可能に連結されてもよい(制御下で発現されてもよい)。そうした配置によって、例えば非ヒト動物における免疫反応中の当該非ヒト動物におけるキメラMHC Iポリペプチド、および/またはキメラMHC IIポリペプチドの適切な発現が促進される。
【0077】
本明細書に提供される実施例は、内因性MHC座位から発現されたキメラヒト/非ヒトMHC分子のヒトペプチド結合ドメインに対する寛容を示すが、そうした寛容は、異所性座位からヒトMHC分子(またはその機能性ペプチド結合ドメイン)を発現する非ヒト動物でも発生する(データは示さず)。さらに、異所性座位から空のヒトMHC分子(またはその空のペプチド結合ドメイン)を発現し、これに対して寛容化された非ヒト動物は、当該非ヒト動物が、例えば当該非ヒト動物に対して異種であるペプチドなどの抗原性ペプチドと複合体化されたヒトHLA分子(またはそのペプチド結合ドメイン、および/またはその誘導体)で免疫化されたとき、発現されるヒトMHC分子が誘導されるヒトHLA分子(またはそのペプチド結合ドメイン、またはその誘導体)に対して特異的免疫反応を生じさせることができる。
【0078】
理論に束縛されることは望まないが、ヒトまたはヒト化MHC分子の発現の際に、当該非ヒト動物の寛容が発生すると考えられる。そのため、ヒトまたはヒト化MHC分子は、必ずしも内因性座位から発現される必要はない。したがって、本明細書の様々な実施形態では、自身のゲノム中に、ヒト(ヒト化)MHC Iポリペプチド(またはその一部および/もしくは誘導体)をコードする第一のヌクレオチド配列、ヒト(ヒト化)MHC IIαポリペプチド(またはその一部および/もしくは誘導体)をコードする第二のヌクレオチド配列、および/またはヒト(ヒト化)MHC IIβポリペプチド(またはその一部および/もしくは誘導体)をコードする第三のヌクレオチド配列、を含む遺伝子改変非ヒト動物が提供され、この場合において当該非ヒト動物は、ヒト(ヒト化)MHC Iポリペプチド、MHC II αポリペプチド、および/またはMHC II βポリペプチド(またはその一部および/もしくは誘導体)を発現し、当該ヒト(ヒト化)ポリペプチドまたはその一部および/もしくは誘導体に対して寛容である。一つの実施形態では、第一、第二、および/または第三のヌクレオチド配列はそれぞれ、内因性の非ヒトMHC
I座位、MHC IIα座位およびMHC IIβ座位を破壊しない。例えば、それらは例えばROSA26座位などの異所性座位に位置する。一部の実施形態では、遺伝子改変マウスは、例えばROSA26座位などの異所性座位で、キメラヒト/マウスMHC Iをコードするヌクレオチド配列を含み、この場合において当該キメラポリペプチドのヒト部分は、ヒトHLA-A2(例えば、HLA-A2.1)ポリペプチドの細胞外ドメインを含み、ならびにマウス部分は、マウスH-2K(例えば、H-2Kb)ポリペプチドの膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインを含み(例えば、配列番号24を参照のこと)、そしてマウスはキメラヒト/マウスのHLA-A2/H-2Kタンパク質を発現し、これに対して寛容である。
【0079】
さらに、異所性座位からである場合、完全ヒトMHC分子、もしくは完全ヒト部分、および/またはその誘導体が発現されてもよい。したがって、本明細書の様々な実施形態では、自身のゲノム中に、完全ヒトMHC Iポリペプチド(またはその完全ヒトの部分および/もしくは誘導体)をコードする第一のヌクレオチド配列、完全ヒトMHC IIαポリペプチド(またはその完全ヒトの部分および/もしくは誘導体)をコードする第二のヌクレオチド配列、および/または完全ヒトMHC IIβポリペプチド(またはその完全ヒトの部分および/もしくは誘導体)をコードする第三のヌクレオチド配列、を含む遺伝子改変非ヒト動物が提供され、この場合において当該非ヒト動物は、完全ヒトMHC Iポリペプチド、MHC II αポリペプチド、および/またはMHC II βポリペプチド(またはその完全ヒトの部分および/もしくは誘導体)を発現し、当該ポリペプチドまたはその完全ヒトの部分および/もしくは誘導体に対して寛容である。一つの実施形態では、第一、第二、および/または第三のヌクレオチド配列はそれぞれ、内因性の非ヒトMHC I座位、MHC IIα座位およびMHC IIβ座位を破壊せず、任意で、いずれの内因性座位も破壊せず、例えばROSA26座位などの異所性座位に位置する。
【0080】
一部の実施形態では、例えばHLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-E、HLA-F、HLA-G、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される機能性ヒトHLA分子をコードするヌクレオチド配列の一部をコードするか、またはそれを含む核酸によってヒトまたはヒト化MHC Iポリペプチドがコードされるなど、ヒトまたはヒト化MHC Iポリペプチドは、それらから誘導されてもよい。ヒトまたはヒト化MHC IIのαポリペプチドまたはβポリペプチドは、HLA-DP座位、HLA-DQ座位、およびHLA-DR座位のいずれかによりコードされる機能性ヒトHLA分子のαポリペプチドまたはβポリペプチドから誘導されてもよい。普遍的に使用されるHLA抗原およびアレルのリストは、Shankarkumar et al.((2004)The Human Leukocyte Antigen(HLA)System,Int.J.Hum.Genet.4(2):91-103)に記載されており、当該文献は参照によりその全体で本明細書に組み込まれる。Shankarkumarらは、当分野で使用されるHLAの用語体系に関する簡単な説明も提示している。HLAの用語体系および様々なHLAアレルに関する追加情報は、Holdsworth et al.(2009)The HLA dictionary 2008:a summary of HLA-A,-B,-C,-DRB1/3/4/5,and DQB1 alleles and their association with serologically defined HLA-A,-B,-C,-DR,and -DQ antigens,Tissue Antigens 73:95-170に見出すことができ、およびMarshら(2010)Nomenclature for factors of the HLA system,2010,Tissue Antigens 75:291-455によって近年にアップデートされている。それら公表文献は、参照によりその全体で本明細書に組み込まれる。一部の実施形態では、MHC IポリペプチドまたはMHC IIポリペプチドは、任意の機能性のヒトHLA-A、B、C、DR、またはDQ分子から誘導されてもよい。したがって、ヒトもしくヒト化されたMHC Iポリペプチドおよび/またはMHC IIポリペプチドは、例示的な実施形態において、任意の機能性ヒトHLA分子から誘導されてもよい。一部の実施形態では、細胞表面上で発現されるすべてのMHC IポリペプチドおよびMHC IIポリペプチドは、ヒトHLA分子から誘導された部分を含む。
【0081】
特に興味深いのは、多型ヒトHLAアレルであり、例えばヒトの自己免疫性疾患など、多くのヒト疾患と関連することが知られている。実際に、関節リウマチ、I型糖尿病、橋本甲状腺炎、多発性硬化症、重症筋無力症、グレーブス病、全身性紅斑性狼瘡、セリアック病、クローン病、潰瘍性大腸炎、および他の自己免疫性障害の発症と相関するHLA座位中の特有の多型が同定されている。例えば、Wong and Wen(2004)What can the HLA transgenic mouse tell us
about autoimmune diabetes?,Diabetologia
47:1476-87;Taneja and David(1998)HLA Transgenic Mice as Humanized Mouse Models of Disease and Immunity,J.Clin.Invest.101:921-26;Bakker et al.(2006),A high-resolution HLA and SNP haplotype map for disease association studies in the extended
human MHC,Nature Genetics 38:1166-72、および捕捉情報;ならびにInternational MHC and Autoimmunity Genetics Network(2009)Mapping of multiple susceptibility variants within the MHC region for 7 immune-mediated diseases,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 106:18680-85を参照のこと。それら各公表文献は、その全体で参照により本明細書に組み込まれる。したがって、一部の実施形態では、ヒトまたはヒト化MHC Iポリペプチドおよび/またはMHC IIポリペプチドは、例えば自己免疫性疾患などの特定の疾患と関連していることが公知のヒトHLA分子から誘導されてもよい。
【0082】
一つの個別の実施形態では、ヒトまたはヒト化MHC Iポリペプチドは、ヒトHLA-Aから誘導される。個別の実施形態では、HLA-Aポリペプチドは、HLA-A2ポリペプチド(例えば、HLA-A2.1ポリペプチド)である。一つの実施形態では、HLA-Aポリペプチドは、HLA-A*0201アレル、例えば、HLA-A*02:01:01:01アレルによりコードされるポリペプチドである。HLA-A*0201アレルは、北米の集団の間で広く使用されている。本実施例は、この特定のHLA配列について記載しているが、任意の適切なHLA-A配列も本明細書に包含される。例えば、ヒト集団で示されるHLA-A2の多型バリアント、一つもしくは複数の保存的アミノ酸置換または非保存的アミノ酸置換を有する配列、遺伝子コードの縮重に起因して本明細書の例示的実施形態の配列とは異なるヌクレオチド配列などが包含される。
【0083】
別の個別の実施形態では、ヒトまたはヒト化MHC Iポリペプチドは、HLA-BおよびHLA-Cから選択されるヒトMHC Iから誘導される。一つの実施形態では、HLA-B、例えば、HLA-B27から誘導される。別の実施形態では、HLA-A3、HLA-B7、HLA-Cw6から誘導される。
【0084】
一つの個別の実施形態では、ヒトまたはヒト化MHC IIαポリペプチド、およびβポリペプチドは、ヒトHLA-DR、例えば、HLA-DR2から誘導される。典型的には、HLA-DRα鎖は、単型である。例えば、HLA-DRタンパク質のα鎖は、HLA-DRA遺伝子(例えば、HLA-DRα*01遺伝子)によりコードされる。他方で、HLA-DRβ鎖は、多型である。したがって、HLA-DR2は、HLA-DRA遺伝子によりコードされるβ鎖、およびHLA-DR1β*1501遺伝子によりコードされるβ鎖を含む。任意の適切なHLA-DR配列が本明細書に包含され、例えば、ヒト集団で示される多型バリアント、一つもしくは複数の保存的アミノ酸置換または非保存的アミノ酸置換を有する配列が包含される。
【0085】
一部の実施形態では、ヒトまたはヒト化MHC IIαポリペプチド、および/またはβポリペプチドは、普遍的なヒト疾患と関連することが知られているHLAアレルのヌクレオチド配列、またはその一部によりコードされてもよい。そうしたHLAアレルとしては限定されないが、HLA-DRB1*0401、-DRB1*0301、-DQA1*0501、-DQB1*0201、DRB1*1501、-DRB1*1502、-DQB1*0602、-DQA1*0102、-DQA1*0201、-DQB1*0202、-DQA1*0501およびそれらの組み合わせが挙げられる。HLAアレル/疾病の関連性の概要については、上記のBakkerら(2006)を参照のこと。当該文献は、参照によりその全体で本明細書に組み込まれる。
【0086】
さらなる実施形態では、本発明の非ヒト動物、例えば、齧歯類、例えば、ラットまたはマウスは、(例えば、内因性β2マイクログロブリン座位で)、ヒトまたはヒト化β2マイクログロブリンをコードするヌクレオチド配列を含む。MHCクラスIタンパク質のβ2マイクログロブリンまたは軽鎖(「β2M」とも略される)は、小さな(12kDa)非グリコシル化タンパク質であり、主にMHC Iα鎖を安定化するよう機能する。ヒトまたはヒト化β2マイクログロブリン動物の作製は、米国特許第9,615,550号に詳述されており、当該文献は、その全体で参照により本明細書に組み込まれる。
【0087】
一部の実施形態では、ヒトまたはヒト化β2マイクログロブリンポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、ヒトβ2マイクログロブリン遺伝子の一部のみに対応するヌクレオチド残基、例えば、少なくともヒト(ヒト化)MHC I分子の安定化を補助する部分のみに対応するヌクレオチド残基を含有してもよい。一部の実施形態では、ヒトβ2マイクログロブリンポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、ヒトβ2マイクログロブリン遺伝子全体を含む。あるいは一部の実施形態では、ヌクレオチド配列は、ヒトβ2マイクログロブリンタンパク質のアミノ酸21~119に記載されるアミノ酸配列(すなわち、成熟ヒトβ2マイクログロブリンに対応するアミノ酸残基)をコードするヌクレオチド残基を含んでもよい。別の実施形態では、ヌクレオチド配列は、ヒトβ2マイクログロブリンタンパク質のアミノ酸23~115に記載されるアミノ酸配列、例えば、ヒトβ2マイクログロブリンタンパク質のアミノ酸23~119に記載されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド残基を含んでもよい。ヒトβ2マイクログロブリンの核酸配列およびアミノ酸配列は、Gussow et al.,(1987)The β2-Microglobulin Gene.Primary Structure and Definition of the Transcriptional Unit,J.Immunol.139:3131-38に記載されており、当該文献は、参照によりその全体で本明細書に組み込まれる。
【0088】
したがって、一部の実施形態では、ヒトまたはヒト化β2マイクログロブリンポリペプチドは、ヒトβ2マイクログロブリンポリペプチドのアミノ酸23~115に記載されるアミノ酸配列、例えば、ヒトβ2マイクログロブリンポリペプチドのアミノ酸23~119に記載されるアミノ酸配列、例えば、ヒトβ2マイクログロブリンポリペプチドのアミノ酸21~119に記載されるアミノ酸配列を含んでもよい。あるいは、ヒトβ2マイクログロブリンは、ヒトβ2マイクログロブリンポリペプチドのアミノ酸1~119を含んでもよい。
【0089】
一部の実施形態では、ヒトまたはヒト化β2マイクログロブリンをコードするヌクレオチド配列は、ヒトβ2マイクログロブリン遺伝子のエクソン2~エクソン4に記載されるヌクレオチド配列を含む。あるいは、ヌクレオチド配列は、ヒトβ2マイクログロブリン遺伝子のエクソン2、3、および4に記載されるヌクレオチド配列を含む。この実施形態において、エクソン2、3、および4に記載されるヌクレオチド配列は、遺伝子の正常な転写および翻訳を可能にするように動作可能に連結される。したがって、一つの実施形態では、ヒト配列は、ヒトβ2マイクログロブリン遺伝子のエクソン2~エクソン4に対応するヌクレオチド配列を含む。個別の実施形態では、ヒト配列は、ヒトβ2マイクログロブリン遺伝子のエクソン2~エクソン4後の約267bpに対応するヌクレオチド配列を含む。個別の実施形態では、ヒト配列は、約2.8kbのヒトβ2マイクログロブリン遺伝子を含む。
【0090】
したがって、一部の実施形態では、ヒトまたはヒト化β2マイクログロブリンポリペプチドは、ヒトβ2マイクログロブリンのエクソン2~エクソン4に記載されるヌクレオチド配列、例えばヒトβ2マイクログロブリン遺伝子のエクソン2~エクソン4に対応するヌクレオチド配列を含むヌクレオチド配列によりコードされてもよい。あるいは、一部の実施形態では、ポリペプチドは、ヒトβ2マイクログロブリン遺伝子のエクソン2、3、および4に記載されるヌクレオチド配列を含むヌクレオチド配列によりコードされてもよい。個別の実施形態では、ヒトまたはヒト化β2マイクログロブリンポリペプチドは、ヒトβ2マイクログロブリン遺伝子のエクソン2~エクソン4後の約267bpに対応するヌクレオチド配列によりコードされる。別の特定の実施形態では、ヒトまたはヒト化ポリペプチドは、約2.8kbのヒトβ2マイクログロブリン遺伝子を含むヌクレオチド配列によりコードされる。β2マイクログロブリン遺伝子のエクソン4が、5’非翻訳領域を含有する場合、ヒトまたはヒト化ポリペプチドは、β2マイクログロブリン遺伝子のエクソン2および3を含むヌクレオチド配列によりコードされてもよい。
【0091】
さらに一部の実施形態では、ヒトまたはヒト化β2マイクログロブリンをコードするヌクレオチド配列を含む非ヒト動物は、非ヒトβ2マイクログロブリン遺伝子のエクソン1に記載されるヌクレオチド配列も含む。したがって、個別の実施形態では、非ヒト動物は、そのゲノム中に、ヒトまたはヒト化β2マイクログロブリンをコードするヌクレオチド配列を含み、この場合において当該ヌクレオチド配列は、非ヒトβ2マイクログロブリンのエクソン1、ならびにヒトβ2マイクログロブリン遺伝子のエクソン2、3および4を含む。したがって、ヒトまたはヒト化β2マイクログロブリンポリペプチドは、非ヒトβ2マイクログロブリン遺伝子のエクソン1、ならびにヒトβ2マイクログロブリン遺伝子のエクソン2、3および4(例えば、ヒトβ2マイクログロブリン遺伝子のエクソン2および3)によりコードされる。
【0092】
一部の実施形態では、ヒトまたはヒト化β2マイクログロブリンをコードするヌクレオチド配列は、内因性非ヒト動物β2マイクログロブリン座位にある。一部の実施形態では、ヒトβ2マイクログロブリンのヌクレオチド配列は、内因性非ヒト動物β2マイクログロブリン座位で、内因性非ヒトβ2マイクログロブリンをコードする対応ヌクレオチド配列を置換する。たとえば一部の実施形態では、ヒトβ2マイクログロブリン遺伝子のエクソン2~エクソン4に対応するヌクレオチド配列は、マウスβ2マイクログロブリン遺伝子のエクソン2~エクソン4に対応する内因性マウス配列を、内因性マウスβ2マイクログロブリン座位で、置換する(
図1Cを参照)。一部の実施形態では、ヒトβ2マイクログロブリン遺伝子のエクソン2、3、および4に記載されるヌクレオチド配列を含むヌクレオチド配列は、マウスβ2マイクログロブリン遺伝子のエクソン2、3、および4に記載されるヌクレオチド配列を置換する。
【0093】
一部の実施形態では、ヒトまたはヒト化β2マイクログロブリンをコードするヌクレオチド配列は、内因性非ヒト動物β2マイクログロブリン座位を破壊せず、例えば、ROSA26座位などの異所性座位に位置する。
【0094】
一部の実施形態では、遺伝子改変非ヒト動物は、自身のゲノム中に、例えばROSA26座位などの異所性座位で、第一のヌクレオチド配列および/または第二のヌクレオチド配列を含み、この場合において当該第一のヌクレオチド配列は、任意でヒトまたはヒト化されたβ2マイクログロブリン(またはその一部)に動作可能に連結、例えば融合された、HLAクラスI分子の機能性ペプチド結合部分(例えば少なくともヒトMHCクラスI分子のα1ドメインおよびα2ドメイン)を含む一本鎖ポリペプチドをコードし、およびこの場合において当該第二のヌクレオチド配列は、HLAクラスII分子の機能性ペプチド結合部分(例えば、少なくともヒトMHCクラスII分子のα1ドメインおよびβ1ドメイン)を含む一本鎖ポリペプチドをコードする。一部の実施形態では、遺伝子改変非ヒト動物は、例えば異所性座位で、ヒトβ2マイクログロブリンと融合されたヒトHLA-A2ポリペプチド(例えば全長成熟型HLA-A2ポリペプチド)の少なくとも機能性ペプチド結合部分を含む一本鎖ポリペプチドをコードする第一のヌクレオチド配列を含む(例えば、
図2を参照のこと)。一部の実施形態では、ヒトβ2マイクログロブリンと融合されたヒトHLA-A2ポリペプチド(例えば、全長成熟型HLA-A2ポリペプチド)の少なくとも機能性ペプチド結合部分を含む一本鎖ポリペプチドは、配列番号18、配列番号20、または配列番号23に記載されるアミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、本明細書に記載される遺伝子改変非ヒト動物は、例えばROSA26座位などの異所性座位で、ヒト(ヒト化)β2マイクログロブリンと融合されたヒトHLA-A2分子の少なくとも機能性ペプチド結合部分を含むヒト(ヒト化)MHCクラスI分子をコードするヌクレオチド配列、例えば配列番号17、配列番号19、配列番号22、またはそれらの縮重バリアントとして記載されるヌクレオチド配列を含む。一部の実施形態では、本明細書に記載される遺伝子改変非ヒト動物は、異所性座位として例えばROSA26座位で、キメラMHCポリペプチド、例えば配列番号24として記載されるHLA-A2/H2-Kポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む。
【0095】
当業者であれば、一部の実施形態において遺伝子操作動物を作製するための特定のヌクレオチド配列およびアミノ酸配列が含まれているが、一つもしくは複数の保存的アミノ酸置換または非保存的アミノ酸置換の配列、または遺伝子コードの縮重に起因して本明細書に記載の実施形態から異なる配列も、本発明の範囲内とみなされることを理解するであろう。
【0096】
したがって、一部の実施形態では、ヒト(ヒト化)MHCクラスIαポリペプチドの核酸配列を発現する非ヒト動物が提供されているが、当該ヒト(ヒト化)MHCクラスIαポリペプチドの核酸配列またはその一部は、遺伝子コードの縮重に起因して、ヒトMHCクラスIαポリペプチドの核酸配列と同一ではなく、しかし少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一である。個別の実施形態では、ヒト(ヒト化)MHCクラスIαポリペプチドの核酸配列は、本明細書に例示される実施形態のヒトMHCクラスIαポリペプチドの核酸配列に対し、少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一である。一つの実施形態では、発現されたヒト(ヒト化)MHCクラスIαポリペプチドの配列は、一つまたは複数の保存的置換を含む。一つの実施形態では、ヒト(ヒト化)MHCクラスIαポリペプチドの配列は、一つまたは複数の非保存的置換を含む。
【0097】
さらに一部の実施形態では、ヒト(ヒト化)β2マイクログロブリン配列を発現する非ヒト動物が提供されているが、当該ヒト(ヒト化)β2マイクログロブリン配列またはその一部は、遺伝子コードの縮重に起因して、ヒトβ2マイクログロブリン配列と同一ではなく、しかし少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一である。個別の実施形態では、ヒト(ヒト化)β2マイクログロブリン配列は、本明細書に例示される実施形態のヒトβ2マイクログロブリン配列と、少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一である。一つの実施形態では、ヒト(ヒト化)β2マイクログロブリン配列は、一つまたは複数の保存的置換を含む。一つの実施形態では、ヒト(ヒト化)β2マイクログロブリン配列は、一つまたは複数の非保存的置換を含む。
【0098】
一部の実施形態では、ヒト(ヒト化)MHCクラスIIαポリペプチドの核酸配列を発現する非ヒト動物が提供されているが、当該ヒト(ヒト化)MHCクラスIIαポリペプチドの核酸配列またはその一部は、遺伝子コードの縮重に起因して、ヒトMHCクラスIαポリペプチドの核酸配列と同一ではなく、しかし少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一である。一つの実施形態では、発現されたヒト(ヒト化)MHCクラスIIαポリペプチドの配列は、一つまたは複数の保存的置換を含む。一つの実施形態では、ヒト(ヒト化)MHCクラスIIαポリペプチドの配列は、一つまたは複数の非保存的置換を含む。
【0099】
一部の実施形態では、ヒト(ヒト化)MHCクラスIIβポリペプチドの核酸配列を発現する非ヒト動物が提供されているが、当該ヒト(ヒト化)MHCクラスIIβポリペプチドの核酸配列またはその一部は、遺伝子コードの縮重に起因して、ヒトMHCクラスIαポリペプチドの核酸配列と同一ではなく、しかし少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一である。一つの実施形態では、発現されたヒト(ヒト化)MHCクラスIIαポリペプチドの配列は、一つまたは複数の保存的置換を含む。一つの実施形態では、ヒト(ヒト化)MHCクラスIIαポリペプチドの配列は、一つまたは複数の非保存的置換を含む。
【0100】
一部の実施形態では、非ヒト動物は、第一、第二、および/または第三のヌクレオチド配列に関してヘテロ接合性であり、各配列は、ヒトもしくはヒト化MHC IIαポリペプチド、ヒトもしくはヒト化MHC IIβポリペプチド、およびヒトもしくはヒト化MHC Iαポリペプチド、またはそれらの一部からなる群から選択される異なるヒトまたはヒト化MHCポリペプチドをコードする。一部の実施形態では、非ヒト動物は、第一、第二、および/または第三のヌクレオチド配列に関してホモ接合性であり、各配列は、ヒトもしくはヒト化MHC IIαポリペプチド、ヒトもしくはヒト化MHC IIβポリペプチド、およびヒトもしくはヒト化MHC Iαポリペプチド、またはそれらの一部からなる群から選択される異なるヒトまたはヒト化MHCポリペプチドをコードする。
【0101】
ヒトまたはヒト化B細胞の免疫反応
一部の実施形態では、遺伝子改変された非ヒト動物は、各配列が、ヒトもしくはヒト化MHC IIαポリペプチド、ヒトもしくはヒト化MHC IIβポリペプチド、およびヒトもしくはヒト化MHC Iαポリペプチド、またはそれらの一部からなる群から選択される異なるヒトまたはヒト化MHCポリペプチドをコードする第一、第二および/または第三のヌクレオチド配列を含むことに加え、例えばヒトもしくはヒト化免疫グロブリン重鎖および/または軽鎖の座位も含み、それにより当該非ヒト動物は、例えばヒトまたはヒト化可変ドメインなどのヒトまたはヒト化抗原結合ドメインを含むヒトまたはヒト化抗原結合タンパク質を提供する能力を有する。
【0102】
ヒト可変領域遺伝子セグメントを含む免疫グロブリン座位は、当分野で公知であり、例えば、米国特許第5,633,425号、第5,770,429号、第5,814,318号、第6,075,181号、第6,114,598号、第6,150,584号、第6,998,514号、第7,795,494号、第7,910,798号、第8,232,449号、第8,502,018号、第8,697,940号、第8,703,485号、第8,754,287号、第8,791,323号、第8,809,051号、第8,907,157号、第9,035,128号、第9,145,588号、第9,206,263号、第9,447,177号、第9,551,124号、第9,580,491号、および第9,475,559号に見出すことができ、これら各特許は、参照によりその全体で本明細書に組み込まれ、ならびに米国特許出願公開20100146647、20110195454、20130167256、20130219535、20130326647、20130096287、および2015/0113668にも見出すことができ、これら特許出願公開は、その全体で参照により本明細書に組み込まれ、ならびにPCT出願公開WO2007117410、WO2008151081、WO2009157771、WO2010039900、WO2011004192、WO2011123708、およびWO2014093908にも見出すことができ、これらPCT出願公開は、その全体で参照により本明細書に組み込まれる。
【0103】
一部の実施形態では、本明細書に開示される非ヒト動物は、ヒトまたはヒト化MHC分子をコードするヌクレオチド配列に加えて、外因的に導入される完全ヒト免疫グロブリン導入遺伝子を含み、当該遺伝子は、マウスのB細胞前駆体において再構成することができる(Alt et al.,1985,Immunoglobulin genes in transgenic mice,Trends Genet 1:231-236。その全体で参照により本明細書に組み込まれる)。これらの実施形態では、完全ヒト免疫グロブリン導入遺伝子は、(無作為に)挿入されてもよく、および内因性免疫グロブリン遺伝子は、ノックアウトされてもよい(Green et al.,1994,Antigen-specific human monoclonal antibodies from mice engineered with human Ig heavy and light chain YACs,Nat Genet 7:13-21;Lonberg et al.,1994,Antigen-specific human antibodies from mice comprising four distinct genetic modifications,Nature 368:856-859;Jakobovits et al.,2007,From XenoMouse technology to panitumumab,the first fully human antibody product from transgenic mice,Nat Biotechnol 25:1134-1143。これら各公表文献は、その全体で参照により本明細書に組み込まれる)。例えばこの場合において内因性免疫グロブリン重鎖およびκ軽鎖の座位は、例えば各内因性座位の小さいが必須の部分を標的化欠失させ、その後に、無作為統合される巨大導入遺伝子、またはミニ染色体としてヒト免疫グロブリン遺伝子座位を導入することにより不活化される(Tomizuka et al.,2000,Double trans-chromosomic mice:maintenance of two individual human chromosome fragments containing
Ig heavy and kappa loci and expression of fully human antibodies,PNAS USA 97:722-727。その全体で参照により本明細書に組み込まれる)。
【0104】
一部の実施形態では、ヒトまたはヒト化免疫グロブリンの重鎖および軽鎖の座位は、それぞれ内因性免疫グロブリンの重鎖および軽鎖の座位にある。マウスが子孫を残す能力を維持しつつ、マウス生殖細胞系列の免疫グロブリン可変遺伝子座位と、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン可変遺伝子座位を大規模にin situ遺伝子置換する方法は、過去に報告されている。例えば、米国特許第6,596,541号および第8,697,940号を参照のこと。これら特許は、参照によりその全体で本明細書に組み込まれる。具体的には、マウスの定常領域をそのまま残しながらの、マウス重鎖とκ軽鎖の両方の免疫グロブリン可変遺伝子座位の6メガ塩基と、そのヒトのカウンターパートとの正確な置換が記載されている。結果として、マウス定常領域を維持しながら、生殖細胞系列の免疫グロブリン可変レパートリー全体と、同等のヒト生殖細胞系列の免疫グロブリン可変配列が正確に置換されたマウスが生成された。ヒト可変領域はマウス定常領域に連結され、生理学的に適切なレベルで再構成および発現するキメラヒト-マウスの免疫グロブリン座位が形成される。発現された抗体は、「逆キメラ」である。すなわち、抗体は、ヒト可変領域配列とマウス定常領域配列を含んでいる。ヒトまたはヒト化された可変領域とマウス定常領域を有する抗体を発現する、免疫グロブリン可変領域がヒト化されたこれらのマウスは、VELOCIMMUNE(登録商標)マウスと呼ばれる。
【0105】
VELOCIMMUNE(登録商標)ヒト化マウスは、野生型マウスと本質的に識別不可能な完全に機能性の液性免疫系を呈する。これらマウスは、B細胞発生のすべての段階で正常な細胞集団を呈する。これらマウスは、正常なリンパ器官形態を呈する。VELOCIMMUNE(登録商標)マウスの抗体配列は、正常なV(D)J再構成、および正常な体細胞超変異頻度を呈する。これらのマウスにおける抗体群は、正常なクラススイッチ(例えば、正常なアイソタイプのシス-スイッチ)から生じるアイソタイプ分布を反映している。VELOCIMMUNE(登録商標)マウスを免疫化することで、安定的な液性免疫反応が生じ、治療候補物質としての使用に適したヒト免疫グロブリン可変ドメインを有する大規模で多様な抗体レパートリーを生成する。このプラットフォームは、薬学的に許容可能な抗体および他の抗原結合タンパク質の作製を目的とした、天然アフィニティ成熟したヒト免疫グロブリン可変領域配列の豊富な供給源を提供する。また、一つの内因性VH遺伝子セグメントと、ヒトVH遺伝子セグメントの置換であっても、ヒト化免疫グロブリン可変ドメインを含む免疫反応が生じ得ることも示されている。例えば、Tien et al.(2016)Cell 166:1471-84を参照のこと。当該文献は、参照によりその全体で本明細書に組み込まれる。マウス免疫グロブリン可変配列と、ヒト免疫グロブリン可変配列を正確に置換することによって、当該ヒト免疫グロブリン可変配列は、逆キメラの様式で内因性非ヒト定常領域遺伝子配列と動作可能に連結され、VELOCIMMUNE(登録商標)マウスが作製される。
【0106】
逆キメラ様式で改変されたマウスには、内因性免疫グロブリン座位で、内因性定常領域に動作可能に連結されたヒト(ヒト化)可変領域(例えば、(D)、J、および一つまたは複数のヒトV遺伝子セグメントを含む)を含むように改変されたマウスが含まれ、例えば、
(a)内因性重鎖座位で、
(i)内因性重鎖定常領域に動作可能に連結された非再構成ヒト(ヒト化)免疫グロブリン重鎖可変領域であって、当該非再構成ヒト(ヒト化)免疫グロブリン重鎖可変領域は、複数の非再構成ヒト重鎖可変領域VH遺伝子セグメント(例えば、すべて機能性のヒト非再構成非VH遺伝子セグメント)、一つまたは複数の非再構成免疫グロブリン重鎖DH遺伝子セグメント、および一つまたは複数の非再構成免疫グロブリン重鎖JH遺伝子セグメントを含み、
任意で、当該一つまたは複数の非再構成免疫グロブリン重鎖DH遺伝子セグメント、および一つまたは複数の非再構成免疫グロブリン重鎖JH遺伝子セグメントは、一つもしくは複数の非再構成ヒト免疫グロブリン重鎖DH遺伝子セグメント(例えば、すべて機能性のヒトDH遺伝子セグメント)および/または一つもしくは複数の非再構成ヒト免疫グロブリン重鎖JH遺伝子セグメント(例えば、すべて機能性のヒトJH遺伝子セグメント)であり、
(ii)内因性重鎖定常領域に動作可能に連結された拘束非再構成ヒト(ヒト化)重鎖可変領域であって、当該拘束非再構成ヒト(ヒト化)重鎖可変領域は、一つまたは複数の非再構成免疫グロブリン重鎖DH遺伝子セグメントおよび一つまたは複数の非再構成免疫グロブリン重鎖JH遺伝子セグメントと動作可能に連結された一つの非再構成ヒト重鎖可変領域VH遺伝子セグメントから本質的になり、任意で、当該一つまたは複数の非再構成免疫グロブリン重鎖DH遺伝子セグメント、および一つまたは複数の非再構成免疫グロブリン重鎖JH遺伝子セグメントは、それぞれ、一つもしくは複数の非再構成ヒト免疫グロブリン重鎖DH遺伝子セグメント、および/または一つもしくは複数の非再構成ヒト免疫グロブリン重鎖JH遺伝子セグメントであり、
(iii)内因性重鎖定常領域に動作可能に連結された再構成ヒト(ヒト化)重鎖可変領域配列を含む共通重鎖コード配列であって、当該再構成ヒト(ヒト化)重鎖可変領域配列は、免疫グロブリン重鎖DH遺伝子セグメントと再構成され、免疫グロブリン重鎖JH遺伝子セグメントと再構成される、ヒト重鎖可変領域VH遺伝子セグメントを含み、
任意で、当該免疫グロブリン重鎖JH遺伝子セグメント、または免疫グロブリン重鎖DH遺伝子セグメントは、それぞれ、ヒト免疫グロブリン重鎖DH遺伝子セグメント、および/またはヒト免疫グロブリン重鎖JH遺伝子セグメントであり、
(iv)内因性重鎖定常領域に動作可能に連結されたヒスチジン改変非再構成ヒト(ヒト化)重鎖可変領域であって、当該ヒスチジン改変非再構成ヒト(ヒト化)重鎖可変領域は、相補性決定領域3(CDR3)コード配列に、少なくとも一つの非ヒスチジンコドンとヒスチジンコドンの置換、または少なくとも一つのヒスチジンコドンの挿入を含む、非再構成免疫グロブリン重鎖可変遺伝子配列を含み、
(v)内因性重鎖定常領域に動作可能に連結された非再構成ヒト(ヒト化)重鎖可変領域を含む、重鎖のみの免疫グロブリンコード配列であって、当該内因性重鎖定常領域は、(1)軽鎖と関連するIgMアイソタイプをコードするインタクトな内因性IgM遺伝子、および(2)機能性CH1ドメインをコードする配列を欠く例えばIgG遺伝子などの非IgM遺伝子、を含み、この場合において、当該非IgM遺伝子は、軽鎖定常ドメインと共有結合することができるCH1ドメインを欠く非IgMアイソタイプをコードし、または
(vi)ハイブリッド免疫グロブリン鎖をコードする非再構成ヒト(ヒト化)ハイブリッド重鎖配列であって、当該非再構成ヒト(ヒト化)ハイブリッド重鎖配列は、内因性重鎖定常領域に動作可能に連結された非再構成ヒト軽鎖可変(VL)遺伝子セグメントおよび非再構成結合(JL)遺伝子セグメントを含み、
任意で、当該内因性重鎖定常領域は、(1)軽鎖と関連するIgMアイソタイプをコードするインタクトな内因性IgM遺伝子、および(2)機能性CH1ドメインをコードする配列を欠く例えばIgG遺伝子などの非IgM遺伝子、を含み、この場合において、当該非IgM遺伝子は、軽鎖定常ドメインと共有結合することができるCH1ドメインを欠く非IgMアイソタイプをコードし、
および/または
(b)内因性軽鎖座位で、
(i)内因性軽鎖定常領域に動作可能に連結された非再構成ヒト(ヒト化)免疫グロブリン軽鎖可変領域であって、当該非再構成ヒト(ヒト化)免疫グロブリン軽鎖可変領域は、複数の非再構成ヒト軽鎖可変領域VL遺伝子セグメント(例えば、すべて機能性のヒト非再構成非VL遺伝子セグメント)、および一つまたは複数の非再構成免疫グロブリン軽鎖JL遺伝子セグメントを含み、
任意で、当該一つまたは複数の非再構成免疫グロブリン軽鎖JL遺伝子セグメントは、一つまたは複数の非再構成ヒト免疫グロブリン軽鎖JL遺伝子セグメント(例えば、すべて機能性のヒトJHL遺伝子セグメント)であり、
任意で、当該内因性免疫グロブリン軽鎖座位は、内因性免疫グロブリン軽鎖カッパ(κ)座位であり、当該非再構成ヒト(ヒト化)免疫グロブリン軽鎖可変領域は、ヒト可変κ(Vκ)遺伝子セグメントおよび結合κ(Jκ)遺伝子セグメントを含み、およびこの場合において当該内因性軽鎖定常領域は、内因性κ鎖定常領域配列であり、および/または当該内因性免疫グロブリン軽鎖軽鎖座位は、内因性免疫グロブリン軽鎖ラムダ(λ)であり、当該非再構成ヒト(ヒト化)免疫グロブリン軽鎖可変領域は、ヒト可変λ(Vλ)遺伝子セグメントおよび結合λ(Jλ)遺伝子セグメントを含み、および内因性軽鎖定常領域は、内因性λ鎖定常領域配列であり、任意でこの場合において当該内因性免疫グロブリン軽鎖λ座位は、(a)一つまたは複数のヒトVλ遺伝子セグメント、(b)一つまたは複数のヒトJλ遺伝子セグメント、および(c)一つまたは複数のヒトCλ遺伝子セグメントを含み、この場合において(a)および(b)は、(c)および齧歯類免疫グロブリン軽鎖定常(Cλ遺伝子セグメント)に動作可能に連結され、およびこの場合において当該内因性免疫グロブリンλ軽鎖座位はさらに、一つまたは複数のげっ歯類免疫グロブリンλ軽鎖エンハンサー(Eλ、および一つまたは複数のヒト免疫グロブリンλ軽鎖エンハンサー(Eλ)を含み、任意で三つのヒトEλを含み、
(ii)内因性軽鎖定常領域に動作可能に連結された再構成ヒト(ヒト化)軽鎖可変領域配列を含む共通軽鎖コード配列であって、当該再構成ヒト(ヒト化)軽鎖可変領域配列は、免疫グロブリン軽鎖JL遺伝子セグメントと再構成された、ヒト軽鎖可変領域VL遺伝子セグメントを含み、
(iii)内因性軽鎖定常領域に動作可能に連結された拘束非再構成ヒト(ヒト化)軽鎖可変領域であって、当該拘束非再構成ヒト(ヒト化)軽鎖可変領域は、一つまたは複数の非再構成ヒト免疫グロブリン軽鎖結合(JL)遺伝子セグメントに動作可能に連結された2個以下の非再構成ヒト免疫グロブリン軽鎖可変(VL)遺伝子セグメントを含み、
(iv)内因性軽鎖定常領域に動作可能に連結されたヒスチジン改変非再構成ヒト(ヒト化)軽鎖可変領域であって、当該ヒスチジン改変非再構成ヒト(ヒト化)軽鎖可変領域は、相補性決定領域3(CDR3)コード配列に、少なくとも一つの非ヒスチジンコドンとヒスチジンコドンの置換、または少なくとも一つのヒスチジンコドンの挿入を含む、非再構成ヒト(ヒト化)免疫グロブリン軽鎖可変遺伝子配列を含み、または
(v)内因性軽鎖定常領域に動作可能に連結されたヒスチジン改変再構成ヒト(ヒト化)軽鎖可変領域であって、当該ヒスチジン改変再構成ヒト(ヒト化)軽鎖可変領域は、相補性決定領域3(CDR3)コード配列に、少なくとも一つの非ヒスチジンコドンとヒスチジンコドンの置換、または少なくとも一つのヒスチジンコドンの挿入を含む、再構成ヒト(ヒト化)免疫グロブリン軽鎖可変遺伝子配列を含む、を含むように改変されたマウスが過去に報告されており、
任意で、当該マウスはさらに、
(i)機能性ADAM6遺伝子を含むヒト(ヒト化)免疫グロブリン重鎖座位を含み、それにより当該マウスは、非ヒト動物の野生型の生殖能力を呈し、および/または
(ii)抗原受容体の多様性を増すために外因性末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)遺伝子を含み、任意でそれにより再構成可変領域遺伝子の少なくとも10%は、鋳型には無い付加を含む。
例えば、米国特許第8,697,940号、第8,754,287号、第9,204,624号、第9,334,334号、第9,801,362号、第9,332,742号、および第9,516,868号、米国特許出願公開20110195454、20120021409、20120192300、20130045492、20150289489、20180125043、20180244804、PCT特許出願公開WO2017210586およびWO2011163314、Lee et al.(2014)Nature Biotechnology 32:356を参照のこと。それら各公表文献は、参照によりその全体で本明細書に組み込まれる
【0107】
一部の実施形態では、本発明は、例えば生殖細胞系列ゲノムなどの自身のゲノムが、
ヒトVH遺伝子セグメント、ヒトDH遺伝子セグメント、およびヒトJH遺伝子セグメントを含む免疫グロブリン重鎖可変領域を含む内因性免疫グロブリン座位であって、当該免疫グロブリン重鎖可変領域は、定常領域に動作可能に連結される座位、および/または
ヒトVL遺伝子セグメント、およびヒトJL遺伝子セグメントを含む免疫グロブリン軽鎖可変領域を含む内因性鎖座位であって、当該免疫グロブリン軽鎖可変領域は、定常領域に動作可能に連結される座位、を含む、遺伝子改変非ヒト動物を含む。
【0108】
一部の実施形態では、本発明は、例えば生殖細胞系列ゲノムなどの自身のゲノムが、
ヒトVH遺伝子セグメント、ヒトDH遺伝子セグメント、およびヒトJH遺伝子セグメントを含む免疫グロブリン重鎖可変領域を含む内因性免疫グロブリン重鎖座位であって、当該免疫グロブリン重鎖可変領域は、定常領域に動作可能に連結される座位、および/または
ヒトVL遺伝子セグメント、およびヒトJL遺伝子セグメントを含む免疫グロブリン軽鎖可変領域を含む内因性免疫グロブリン軽鎖座位であって、当該免疫グロブリン軽鎖可変領域は、定常領域に動作可能に連結される座位、を含む、遺伝子改変非ヒト動物を含む。
【0109】
一部の実施形態では、例えば齧歯類、例えばラットまたはマウスなどの非ヒト動物は、ヒトまたはヒト化MHCをコードするヌクレオチド配列に加えて、自身のゲノム中に、内因性免疫グロブリン重鎖座位で、一つまたは複数の内因性VH、DH、およびJHセグメントと、一つまたは複数のヒトVH、DH、およびJHセグメントの置換を含み、この場合において当該一つまたは複数のヒトVH、DH、およびJHセグメントは、内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子に動作可能に連結されており、および任意で、非再構成または再構成されたヒトVLセグメントおよびヒトJLセグメントは、例えばマウスもしくはラットなどのげっ歯類などの非ヒト、またはヒトの免疫グロブリン軽鎖定常(CL)領域遺伝子に、例えば内因性非ヒト軽鎖座位で、動作可能に連結され、それにより当該非ヒト動物は、ヒトまたはヒト化MHC分子に対して寛容であり、例えば抗原性pMHC複合体などの免疫原に反応して逆キメラ抗体を産生する。
【0110】
特定の実施形態では、ヒトまたはヒト化MHC分子を発現し、これに寛容である遺伝子改変非ヒト動物は、例えば生殖細胞系列ゲノムなどの自身のゲノム中に、一つまたは複数の非再構成ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子セグメントを含む免疫グロブリン可変領域、および免疫グロブリン定常領域遺伝子を含む免疫グロブリン定常領域、を含有する免疫グロブリン座位(外因性または内因性)をさらに含み、および当該座位において、一つまたは複数の非再構成ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子セグメントは、当該免疫グロブリン定常領域遺伝子に動作可能に連結される。一部の実施形態では、ヒトまたはヒト化MHC分子を発現し、これに寛容である非ヒト動物は、例えば生殖細胞系列ゲノムなどの自身のゲノム中に、複数のそうした免疫グロブリン座位を含む。例えば、一部の実施形態では、遺伝子改変非ヒト動物は、例えば生殖細胞系列ゲノムなどの自身のゲノム中に、ヒトまたはヒト化MHC分子、および一つまたは複数の免疫グロブリン座位(遺伝子改変された再構成または非再構成免疫グロブリン座位を含む)をコードするヌクレオチド配列を含み、それにより当該マウスは、ヒト抗体、ヒト化抗体、部分的ヒト抗体および/または逆キメラ抗体(ヒト可変領域と非ヒト定常領域)を作製する。
【0111】
概して遺伝子改変免疫グロブリン座位は、免疫グロブリン定常領域に動作可能に連結された免疫グロブリン可変領域(免疫グロブリン可変領域遺伝子セグメントを含む)を含む。一部の実施形態では、遺伝子改変免疫グロブリン座位は、重鎖定常領域遺伝子に動作可能に連結された一つまたは複数のヒト非再構成免疫グロブリン重鎖可変領域遺伝子セグメントを含む。一部の実施形態では、遺伝子改変免疫グロブリン座位は、重鎖定常領域遺伝子に動作可能に連結された例えばκ遺伝子セグメントなどのヒト非再構成免疫グロブリン軽鎖を含む。例えば、米国特許第9,516,868号を参照のこと。当該特許は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。一部の実施形態では、遺伝子改変免疫グロブリン座位は、κ鎖定常領域遺伝子に動作可能に連結されたヒト非再構成免疫グロブリン重鎖可変領域遺伝子セグメントを含む。一部の実施形態では、遺伝子改変免疫グロブリン座位は、κ鎖定常領域遺伝子に動作可能に連結されたヒト非再構成免疫グロブリン可変領域κ遺伝子セグメントを含む。一部の実施形態では、遺伝子改変免疫グロブリン座位は、κ鎖定常領域遺伝子に動作可能に連結されたヒト非再構成免疫グロブリン可変領域λ遺伝子セグメントを含む。一部の実施形態では、遺伝子改変免疫グロブリン座位は、λ鎖定常領域遺伝子に動作可能に連結されたヒト非再構成免疫グロブリン可変領域λ遺伝子セグメントを含む。
【0112】
特定の実施形態では、非ヒト動物は、内因性重鎖定常領域に動作可能に連結された非再構成ヒト(ヒト化)免疫グロブリン重鎖可変領域を、内因性重鎖座位で含有し、この場合において免疫グロブリン可変領域は、一つまたは複数の非再構成ヒトIg重鎖可変領域遺伝子セグメントを含有する。一部の実施形態では、一つまたは複数の非再構成ヒトIg可変領域遺伝子セグメントは、少なくとも一つのヒト免疫グロブリン重鎖可変(VH)セグメント、一つまたは複数の免疫グロブリン重鎖多様性(DH)セグメント(任意で一つまたは複数の非再構成ヒトDHセグメント)、および一つまたは複数の免疫グロブリン重鎖結合(JH)セグメント(任意で一つまたは複数の非再構成ヒトJHセグメント)を含む。一部の実施形態では、非再構成ヒトIg可変領域遺伝子セグメントは、複数の非再構成ヒトVHセグメント、一つまたは複数の非再構成(ヒト)DHセグメント、および一つまたは複数の非再構成(ヒト)JHセグメントを含む。一部の実施形態では、非再構成ヒトIg可変領域遺伝子セグメントは、少なくとも3個のVH遺伝子セグメント、少なくとも18個のVH遺伝子セグメント、少なくとも20個のVH遺伝子セグメント、少なくとも30個のVH遺伝子セグメント、少なくとも40個のVH遺伝子セグメント、少なくとも50個のVH遺伝子セグメント、少なくとも60個のVH遺伝子セグメント、少なくとも70個のVH遺伝子セグメント、または少なくとも80個のVH遺伝子セグメントを含む。一部の実施形態では、非再構成ヒトIg遺伝子セグメントは、機能性ヒトDH遺伝子セグメントのすべてを含む。一部の実施形態では、非再構成ヒトIg遺伝子セグメントは、機能性ヒトJH遺伝子セグメントのすべてを含む。Ig重鎖遺伝子セグメントを含む例示的な可変領域は、例えば、Macdonald et al,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 111 :5147-52および補足情報に提示されており、当該文献は、その全体で参照により本明細書に組み込まれる。
【0113】
一部の実施形態では、本明細書に提供される非ヒト動物は、内因性重鎖座位で、少なくとも非ヒトIgM遺伝子を含む、内因性重鎖定常領域に動作可能に連結された拘束非再構成ヒト(ヒト化)重鎖可変領域を含み、この場合において当該拘束非再構成ヒト(ヒト化)重鎖可変領域は、一つのヒトVH遺伝子セグメント、複数のDH遺伝子セグメント(例えば、ヒトDH遺伝子セグメント)、および複数のJH遺伝子セグメント(例えば、ヒトJH遺伝子セグメント)により特徴付けられ、この場合において当該拘束免疫グロブリン重鎖座位は、再構成を行うことができ、および複数の別個の再配列を形成することができ、この場合において各再配列は、一つのヒトVH遺伝子セグメント、DHセグメントのうちの一つ、およびJHセグメントのうちの一つから誘導され、およびこの場合において各再配列は、異なる重鎖可変ドメインをコードする(例えば、米国特許出願公開20130096287に記載される。当該出願公開は、その全体で参照により本明細書に組み込まれる)。一部の実施形態では、一つのヒトVH遺伝子セグメントはは、VH1-2またはVH1-69である。
【0114】
特定の実施形態では、非ヒト動物は、内因性軽鎖定常領域に動作可能に連結された非再構成ヒト(ヒト化)免疫グロブリン軽鎖可変領域を、内因性軽鎖座位で含有する。一部の実施形態では、非再構成ヒト(ヒト化)免疫グロブリン軽鎖可変領域は、非再構成ヒトIg κ可変領域遺伝子セグメントを含有する。一部の実施形態では、非再構成ヒト(ヒト化)免疫グロブリン可変領域は、複数の非再構成ヒトVκセグメント、および一つまたは複数の非再構成ヒトJκセグメントを含む。一部の実施形態では、非再構成ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子セグメントは、ヒトJκセグメントのすべてを含む。一部の実施形態では、免疫グロブリン可変領域遺伝子セグメントは、4個の機能性Vκセグメント、およびすべてのヒトJκセグメントを含む。一部の実施形態では、免疫グロブリン可変領域遺伝子セグメントは、16個の機能性Vκセグメント、およびすべてのヒトJκセグメント(例えば、すべての機能性ヒトVκセグメントおよびJκセグメント)を含む。一部の実施形態では、非再構成ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子セグメントは、ヒトJκセグメントのすべて、およびすべてのヒトJκセグメントを含む。Igκ遺伝子セグメントを含む例示的な可変領域は、例えば、Macdonald et al,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1 11 :5147-52および補足情報に提示されており、当該文献は、その全体で参照により本明細書に組み込まれる。
【0115】
一部の実施形態では、内因性軽鎖定常領域に動作可能に連結された拘束非再構成ヒト(ヒト化)軽鎖可変領域は、当該非再構成ヒト(ヒト化)軽鎖可変領域が、2個以下のヒトVL遺伝子セグメント、および複数のJL遺伝子セグメントを含むという点で特徴付けられる(例えば、米国特許第9,796,788号に記載される、デュアル軽鎖マウス、またはDLCなど。当該特許は、その全体で参照により本明細書に組み込まれる)。一部の実施形態では、VL遺伝子セグメントは、Vκ遺伝子セグメントである。一部の実施形態では、VL遺伝子セグメントは、Vλ遺伝子セグメントである。一部の実施形態では、Vκ遺伝子セグメントは、IGKV3-20およびIGKV1-39である。一部の実施形態では、非ヒト動物は厳密に、マウスの内因性κ軽鎖座位で、マウス軽鎖定常領域に動作可能に連結された2個の非再構成ヒトVκ遺伝子セグメントと、5個の非再構成ヒトJκ遺伝子セグメントを含み、任意でこの場合において当該厳密な2個の非再構成ヒトVκ遺伝子セグメントは、ヒトVκ1-39遺伝子セグメントとヒトVκ3-20遺伝子セグメントであり、当該5個の非再構成ヒトJκ遺伝子セグメントは、ヒトJκ1遺伝子セグメント、ヒトJκ2遺伝子セグメント、ヒトJκ3遺伝子セグメント、ヒトJκ4遺伝子セグメント、およびヒトJκ5遺伝子セグメントであり、当該非再構成ヒトカッパ軽鎖遺伝子セグメントは、抗体のヒト可変ドメインを再構成およびコードする能力があり、および任意でさらに、当該非ヒト動物は、免疫グロブリン軽鎖可変領域が形成されるよう再構成する能力を有する内因性Vκ遺伝子セグメントを含まない。
【0116】
特定の実施形態では、内因性軽鎖定常領域に動作可能に連結された非再構成ヒト(ヒト化)免疫グロブリン軽鎖可変領域は、非再構成ヒトIgλ可変領域遺伝子セグメントを含有する。一部の実施形態では、非再構成ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子セグメントは、複数のヒトVλセグメント、および一つまたは複数のヒトJλセグメントを含む。一部の実施形態では、非再構成ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子セグメントは、一つまたは複数のヒトVλセグメント、一つまたは複数のヒトJλセグメント、および一つまたは複数のヒトCλ定常領域配列を含む。一部の実施形態では、非再構成ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子セグメントは、ヒトVλセグメントのすべてを含む。一部の実施形態では、非再構成ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子セグメントは、ヒトJλセグメントのすべてを含む。Igλ遺伝子セグメントを含む例示的な可変領域は、例えば、米国特許第9,035,128号および第6,998,514号に提供されている。それら各特許は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。一部の実施形態では、内因性軽鎖定常領域に動作可能に連結された非再構成ヒト(ヒト化)免疫グロブリン軽鎖可変領域は、(a)一つまたは複数のヒトVλ遺伝子セグメント、(b)一つまたは複数のヒトJλ遺伝子セグメント、および(c)一つまたは複数のヒトCλ遺伝子セグメントを含み、この場合において、(a)および(b)は、(c)および内因性(例えば齧歯類)Cλ遺伝子セグメントに動作可能に連結され、およびこの場合において当該内因性免疫グロブリンλ軽鎖座位はさらに、一つまたは複数のげっ歯類免疫グロブリンλ軽鎖エンハンサー(Eλ)、および一つまたは複数のヒト免疫グロブリンλ軽鎖エンハンサー(Eλ)を含み、任意で3個のヒトEλを含む。
【0117】
特定の実施形態では、内因性軽鎖定常領域に動作可能に連結された非再構成ヒト(ヒト化)免疫グロブリン軽鎖可変領域は、内因性(例えば、齧歯類、例えば、ラットまたはマウス)Cκ遺伝子に動作可能に連結された非再構成ヒトIgλ可変領域遺伝子セグメントを含み、それにより、当該非ヒト動物は、内因性κ定常ドメインと融合されたVλおよびJλ遺伝子セグメントから誘導されたヒトλ可変ドメイン配列を含む免疫グロブリン軽鎖を発現する。例えば、米国特許第9,226,484号を参照のこと。当該特許は、参照によりその全体で本明細書に組み込まれる。
【0118】
一部の実施形態では、非再構成ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子セグメントを含む免疫グロブリン可変領域は、ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子間配列も含む。一部の実施形態では、免疫グロブリン可変領域は、非ヒト(例えば、齧歯類、ラット、マウス)Ig可変領域遺伝子間配列を含む。一部の実施形態では、遺伝子間配列は、内因性の種起源の遺伝子間配列である。
【0119】
一部の実施形態では、免疫グロブリン可変領域は、再構成された重鎖可変領域(ユニバーサル重鎖可変領域、または共通重鎖コード配列)である。一部の実施形態では、再構成されたIg重鎖可変領域遺伝子は、ヒト再構成Ig重鎖可変領域遺伝子である。再構成Ig重鎖可変領域の例は、米国特許公開20140245468、ならびに米国特許第9,204,624号および第9,930,871号に提供されている。それら各特許は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。一部の実施形態では、ユニバーサル重鎖可変領域を含む非ヒト生物体を使用して、二特異性抗体が産生される。一部の実施形態では、非ヒト動物は、内因性免疫グロブリン重鎖座位で、例えば内因性免疫グロブリン定常領域遺伝子配列に動作可能に連結された再構成ヒト免疫グロブリン重鎖可変領域ヌクレオチド配列、例えば内因性重鎖定常領域遺伝子配列に動作可能に連結された再構成ヒト免疫グロブリン重鎖可変領域ヌクレオチド配列などの共通重鎖コード配列を含み、この場合において当該再構成重鎖可変領域ヌクレオチド配列は、VH3-23/X1X2/JHの配列をコードし、この場合においてX1は、任意のアミノ酸であり、およびX2は、任意のアミノ酸であり、この場合において当該非ヒト動物は、内因性重鎖定常領域遺伝子配列に連結された再構成ヒト免疫グロブリン重鎖可変領域ヌクレオチド配列、例えばVH3-23/X1X2/JH 遺伝子から誘導され、および任意でヒト免疫グロブリン軽鎖可変ドメインと同系である、免疫グロブリン重鎖可変ドメインを発現する。
【0120】
一部の実施形態では、免疫グロブリン可変領域は、再構成された軽鎖可変領域(ユニバーサル軽鎖可変領域)である。一部の実施形態では、再構成されたIg軽鎖可変領域遺伝子は、ヒト再構成Ig軽鎖可変領域遺伝子である。再構成されたIg軽鎖可変領域の例は、例えば、米国特許第9,969,814号、第10,130,181号、および第10,143,186号、ならびに米国特許出願公開20120021409、20120192300、20130045492、20130185821、20130302836、および20150313193に提供されている。それら各特許文献は、その全体で参照により本明細書に組み込まれる。一部の実施形態では、ユニバーサル軽鎖可変領域を含む非ヒト生物体(「ユニバーサル軽鎖」生物体)を使用して、二特異性抗体が産生される。一部の実施形態では、共通軽鎖コード配列は、内因性軽鎖定常領域に動作可能に連結された一つの再構成ヒト免疫グロブリン軽鎖Vκ/Jκ配列を含み、この場合において当該一つの再構成ヒト免疫グロブリン軽鎖Vκ/Jκ配列は、(i)ヒトJκ5遺伝子セグメントに融合されたヒトVκ1-39遺伝子セグメントを含むヒトVκ1-39/Jκ5配列、または(ii)ヒトJκ1遺伝子セグメントに融合されたヒトVκ3-20遺伝子セグメントを含むヒトVκ3-20/Jκ1配列のいずれかである。
【0121】
一部の実施形態では、免疫グロブリン可変領域は、そうした非ヒト生物体において産生された抗体に、pH依存性の結合特性を導入するために設計されたヒスチジンコドンの挿入および/または置換を含む、軽鎖および/または重鎖の免疫グロブリン可変領域である。当該実施形態の一部において、ヒスチジンコドンは、CDR3をコードする核酸配列に挿入および/または置換される。様々なそうした軽鎖および/または重鎖免疫グロブリン座位が、米国特許第9,301,510号、第9,334,334号、および第9,801,362号、ならびに米国特許出願公開20140013456に提供されている。各特許文献は、参照によりその全体で本明細書に組み込まれる。一部の実施形態では、内因性軽鎖定常領域に動作可能に連結されたヒスチジン改変再構成ヒト(ヒト化)軽鎖可変領域は、ヒトVκセグメント配列およびヒトJκセグメント配列を含む一つの再構成ヒト免疫グロブリン軽鎖可変領域遺伝子配列を含み、任意でこの場合において、当該Vκセグメント配列は、ヒトVκ1-39またはヒトVκ3-20遺伝子セグメントから誘導され、およびこの場合において当該一つの再構成ヒト免疫グロブリン軽鎖可変領域遺伝子配列は、105、106、107、108、109、111およびそれらの組み合わせ(IMGTナンバリングに準拠)からなる群から選択される位置で発現される、Vκセグメント配列の少なくとも一つの非ヒスチジンコドンと、ヒスチジンコドンとの置換を含む。一部の実施形態では、内因性重鎖定常領域に動作可能に連結されたヒスチジン改変非再構成ヒト(ヒト化)重鎖可変領域は、相補性決定領域3(CDR3)コード配列に、少なくとも一つの非ヒスチジンコドンとヒスチジンコドンとの置換、または少なくとも一つのヒスチジンコドンの挿入を含む、非再構成ヒト(ヒト化)免疫グロブリン重鎖可変遺伝子配列を含む。一部の実施形態では、非再構成ヒト(ヒト化)免疫グロブリン重鎖可変遺伝子配列は、非再構成ヒトVH、非再構成ヒトDH、または合成DH、および非再構成ヒトJH遺伝子セグメントを含み、任意でこの場合において当該非再構成ヒトDH、または合成DH遺伝子セグメントは、少なくとも一つの非ヒスチジンコドンとヒスチジンコドンとの置換、または少なくとも一つのヒスチジンコドンの挿入を含む。一部の実施形態では、内因性重鎖定常領域に動作可能に連結されたヒスチジン改変非再構成ヒト(ヒト化)軽鎖可変領域は、非再構成VL、および非再構成JL遺伝子セグメントを含む。一部の実施形態では、ヒスチジン改変非再構成ヒト(ヒト化)軽鎖可変領域は、2個以下の非再構成ヒトVL(例えば、2個以下のVκ遺伝子セグメント)、および一つまたは複数の非再構成ヒトJL(例えば、Jκ)遺伝子セグメントを含み、この場合において当該2個以下のヒトVL遺伝子セグメントの各々は、CDR3コード配列中に、少なくとも一つの非ヒスチジンコドンとヒスチジンコドンとの置換、または少なくとも一つのヒスチジンコドンの挿入を含む。一部の実施形態では、当該2個以下の非再構成ヒトVκ遺伝子セグメントは、ヒトVκ1-39およびヒトVκ3-20遺伝子セグメントであり、各々、一つまたは複数の非ヒスチジンコドンとヒスチジンコドンとの置換を含み、およびこの場合において当該ヒトVκおよびJκ遺伝子セグメントは、再構成を行う能力を有し、ならびにヒトVκおよびヒトJκ遺伝子セグメントは、105、106、107、108、109、111(IGMTナンバリングに準拠)、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される位置で、一つまたは複数のヒスチジンを含むヒト軽鎖可変ドメインをコードし、この場合において当該一つまたは複数のヒスチジンは、当該一つまたは複数の置換から誘導される。
【0122】
一部の実施形態では、免疫グロブリン定常領域は、重鎖定常領域遺伝子を含む。一部の実施形態では、重鎖定常領域は、ヒト重鎖定常領域遺伝子である。一部の実施形態では、重鎖定常領域遺伝子は、内因性の種起源の重鎖定常領域遺伝子である。一部の実施形態では、重鎖定常領域遺伝子は、マウス定常領域遺伝子またはラット定常領域遺伝子である。一部の実施形態では、定常領域遺伝子は、ヒトと非ヒトの配列の混合である。例えば、一部の実施形態では、定常領域遺伝子は、ヒトCH1領域、ならびに非ヒト(例えば、内因性の種起源、マウス、ラット)のCH2および/またはCH3領域をコードする。一部の実施形態では、重鎖定常領域遺伝子は、Cμ、Cδ、Cγ(Cγl、Cγ2、Cγ3、Cγ4)、CαまたはCεの定常領域遺伝子である。一部の実施形態では、定常領域遺伝子は、内因性定常領域遺伝子である。一部の実施形態では、定常領域遺伝子は、変異CH1領域をコードし、それによって、非ヒト動物は、重鎖のみの抗体を発現する(例えば、米国特許第8,754,287号、米国特許出願公開2015/0289489を参照のこと。それら公開文献の各々が、参照によりその全体で本明細書に組み込まれる)。例えば、(ユニバーサルまたはデュアル軽鎖の生物体において)二特異性抗体を作製するための重鎖を生成することが目的である一部の実施形態では、重鎖のFcドメインは、重鎖のヘテロ二量体形成を促進する、および/または重鎖のホモ二量体形成を阻害する改変を含む。そのような改変は、例えば米国特許第5,731,168号、第5,807,706号、第5,821,333号、第7,642,228号、および第8,679,785号、ならびに米国特許出願公開2013/0195849に提供されており、それら特許文献は、その全体で参照により本明細書に組み込まれる。
【0123】
一部の実施形態では、免疫グロブリン定常領域は、軽鎖定常領域遺伝子を含む。一部の実施形態では、軽鎖定常領域遺伝子は、κ定常領域遺伝子である。一部の実施形態では、軽鎖定常領域遺伝子は、λ定常領域遺伝子である。一部の実施形態では、軽鎖定常領域遺伝子は、内因性の種起源の軽鎖定常領域遺伝子である。一部の実施形態では、軽鎖定常領域遺伝子は、マウス定常領域遺伝子またはラット定常領域遺伝子である。一部の実施形態では、軽鎖定常領域遺伝子は、ヒトと非ヒトの配列の混合である。
【0124】
一部の実施形態では、ヒト可変領域遺伝子セグメントを含む免疫グロブリン可変領域と、当該可変領域遺伝子セグメントが動作可能に連結される免疫グロブリン定常領域遺伝子は、内因性免疫グロブリン座位に位置する。一部の実施形態では、内因性免疫グロブリン座位は、内因性重鎖の座位である。一部の実施形態では、内因性免疫グロブリン座位は、内因性κの座位である。一部の実施形態では、内因性免疫グロブリン座位は、内因性λの座位である。一部の実施形態では、ヒト可変領域遺伝子セグメントが動作可能に連結される定常領域遺伝子は、内因性定常領域遺伝子である。
【0125】
一部の実施形態では、本明細書において提供される非ヒト動物のゲノム中の内因性免疫グロブリン座位のうちの一つまたは複数、または当該一つまたは複数の内因性座位の一部(例えば、可変領域および/または定常領域)は、不活化される。内因性免疫グロブリン可変領域遺伝子座位およびその一部は、限定されないが、生物体のゲノムから座位またはその一部を削除すること、座位またはその一部を異なる核酸配列と置換すること、座位の一部を逆位にさせること、および/または座位の一部を当該非ヒト生物体のゲノム中の別の位置に移動させること、をはじめとする当分野に公知の任意の方法を使用して不活化され得る。一部の実施形態では、座位の不活化は、部分的な不活化のみである。一部の実施形態では、座位の可変領域は不活化されるが、定常領域は機能性を維持する(例えば、非内因性可変領域遺伝子セグメントに動作可能に連結されるため)。
【0126】
一部の実施形態では、遺伝子改変された非ヒト動物は、不活化された内因性免疫グロブリン重鎖座位を含む。一部の実施形態では、内因性免疫グロブリン重鎖座位またはその一部は、当該内因性重鎖座位の内因性可変領域の少なくとも一部が削除、置換、移動および/または逆位されることにより、不活化される。一部の実施形態では、削除、置換、移動および/または逆位される内因性重鎖座位の可変領域の少なくとも一部は、可変領域のJセグメントを含む。一部の実施形態では、内因性免疫グロブリン重鎖座位またはその一部は、当該内因性重鎖座位の内因性定常領域の少なくとも一部が削除、置換、移動および/または逆位されることにより、不活化される。一部の実施形態では、削除、置換、移動および/または逆位される内因性重鎖座位の定常領域の少なくとも一部は、内因性定常領域のOμ遺伝子を含む。
【0127】
一部の実施形態では、遺伝子改変された非ヒト動物は、不活化された内因性免疫グロブリンκ鎖座位を含む。一部の実施形態では、内因性免疫グロブリンκ鎖座位またはその一部は、当該内因性κ鎖座位の内因性可変領域の少なくとも一部が削除、置換、移動および/または逆位されることにより、不活化される。一部の実施形態では、削除、置換、移動および/または逆位される内因性κ鎖座位の可変領域の少なくとも一部は、可変領域のJセグメントを含む。一部の実施形態では、内因性免疫グロブリンκ鎖座位またはその一部は、当該内因性κ鎖座位の内因性定常領域の少なくとも一部が削除、置換、移動および/または逆位されることにより、不活化される。一部の実施形態では、削除、置換、移動および/または逆位される内因性κ鎖座位の定常領域の少なくとも一部は、内因性定常領域のCκ遺伝子を含む。
【0128】
一部の実施形態では、遺伝子改変された非ヒト動物は、不活化された内因性免疫グロブリンλ鎖座位を含む。一部の実施形態では、内因性免疫グロブリンλ鎖座位またはその一部は、当該内因性λ鎖座位の内因性可変領域の少なくとも一部が削除、置換、移動および/または逆位されることにより、不活化される。一部の実施形態では、内因性λ鎖座位中の少なくとも一つのV-J-C遺伝子クラスターの少なくとも一部が、削除、置換、移動および/または逆位される。一部の実施形態では、内因性免疫グロブリンλ鎖座位またはその一部は、当該内因性λ鎖座位の内因性定常領域の少なくとも一部が削除、置換、移動および/または逆位されることにより、不活化される。一部の実施形態では、削除、置換、移動および/または逆位される内因性λ鎖座位の定常領域の少なくとも一部は、内因性定常領域のC遺伝子を含む。
【0129】
様々な実施形態では、免疫グロブリン座位の改変は、非ヒト動物の生殖能力に影響を与えない。一部の実施形態では、重鎖座位は、機能性の例えば内因性ADAM6a遺伝子、ADAM6b遺伝子、またはその両方を含み、遺伝子改変は、当該内因性ADAM6a遺伝子、ADAM6b遺伝子、もしくはその両方の発現および/または機能に影響を与えない。一部の実施形態では、遺伝子改変された非ヒト動物のゲノムはさらに、異所性に位置づけられた機能性の例えば内因性ADAM6a遺伝子、ADAM6b遺伝子、またはその両方を含む。外因性のADAM6aおよび/またはADAM6bを発現する非ヒト動物の例は、米国特許第8,642,835号および第8,697,940号に記載されている。それら各文献は、その全体で参照により本明細書に組み込まれる。
【0130】
一部の実施形態では、遺伝子改変された非ヒト動物はさらに、抗原受容体の多様性を増加させるために、外因性末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)遺伝子を含有および発現する。外因性TdTを発現する非ヒト動物の例は、PCT特許出願公開WO2017210586に記載されており、当該公表文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0131】
一部の実施形態では、遺伝子改変された非ヒト動物は、ヒトまたはヒト化MHC分子をコードするヌクレオチド配列を含有および発現し、ならびにヒト可変ドメイン(例えば、再構成ヒト可変領域遺伝子セグメントから誘導される(例えばコードされる)ヒト可変ドメイン)を有する抗体を発現するが、空のヒトまたはヒト化MHCに特異的に結合する抗体は欠く。一部の実施形態では、ヒトまたはヒト化可変ドメインは、ヒトまたはヒト化重鎖可変ドメインである。一部の実施形態では、抗体は、重鎖のみの抗体である。一部の実施形態では、ヒトまたはヒト化可変ドメインは、ヒトまたはヒト化軽鎖可変ドメインである。一部の実施形態では、非ヒト動物により産生される抗体は、ヒトまたはヒト化重鎖可変ドメイン、およびヒトまたはヒト化軽鎖可変ドメインの両方を有する。一部の実施形態では、抗体は、ヒトまたはヒト化重鎖定常ドメインを有する。一部の実施形態では、抗体は、ヒトまたはヒト化軽鎖定常ドメインを有する。一部の実施形態では、重鎖および/または軽鎖の定常ドメインは、非ヒト起源の定常ドメインである。例えば一部の実施形態では、重鎖定常ドメインは、内因性の種起源の重鎖定常ドメインである。一部の実施形態では、重鎖定常ドメインは、マウスまたはラット起源の重鎖定常ドメインである。一部の実施形態では、軽鎖定常ドメインは、内因性の種起源の軽鎖定常ドメインである。一部の実施形態では、軽鎖定常ドメインは、マウスまたはラット起源の軽鎖定常ドメインである。
【0132】
非ヒト動物、組織および細胞
一部の実施形態では、本発明の遺伝子改変非ヒト動物は、マウス、ラット、ウサギ、ブタ、ウシ(例えば、乳牛、雄ウシ、水牛)、シカ、ヒツジ、ヤギ、ニワトリ、ネコ、イヌ、フェレット、霊長類(例えば、マーモセット、アカゲザル)からなる群から選択されてもよい。好適な遺伝子改変可能なES細胞が直ちに利用可能ではない非ヒト動物については、遺伝子改変を含む非ヒト動物を作製するために他の方法が採用される。かかる方法としては、例えば、非ES細胞ゲノム(例えば、線維芽細胞または誘発された多能性細胞)を改変すること、および核移植を利用して好適な細胞、例えば卵母細胞、に改変されたゲノムを導入すること、および改変された細胞(例えば、改変された卵母細胞)を胚の形成に好適な条件下で非ヒト動物に懐胎させることが挙げられる。
【0133】
一実施形態では、非ヒト動物は、哺乳動物である。一実施形態では、非ヒト動物は、例えばトビネズミ上科またはネズミ上科の小さな哺乳動物である。一実施形態では、遺伝子改変動物は齧歯類である。一実施形態では、齧歯類は、マウス、ラット、およびハムスターから選択される。一実施形態では、齧歯類はネズミ上科から選択される。一実施形態では、遺伝子改変動物は、ヨルマウス科(例えば、マウス様のハムスター)、キヌゲネズミ科(例えば、ハムスター、New Worldラット及びマウス、ハタネズミ)、ネズミ科(純種のマウス及びラット、アレチネズミ、トゲマウス、タテガミネズミ)、アシナガマウス科(キノボリマウス、ロックマウス、オジロラット、マダガスカルラット及びマウス)、トゲヤマネ科(例えば、トゲヤマネ)、及びメクラネズミ科(例えば、メクラネズミ、タケネズミ、及び高原モグラネズミ)から選択された科からのものである。個別の実施形態では、遺伝子改変齧歯類は、純種のマウスまたはラット(ネズミ科)、アレチネズミ、トゲマウス、およびタテガミネズミから選択される。一実施形態では、遺伝子改変マウスはネズミ科のメンバー由来のものである。一実施形態では、非ヒト動物は齧歯類である。個別の実施形態では、齧歯類は、マウス、およびラットから選択される。一実施形態では、非ヒト動物はラットである。一実施形態では、非ヒト動物はマウスである。
【0134】
個別の実施形態では、非ヒト動物は、C57BL/A、C57BL/An、C57BL/GrFa、C57BL/KaLwN、C57BL/6、C57BL/6J、C57BL/6ByJ、C57BL/6NJ、C57BL/10、C57BL/10ScSn、C57BL/10Cr、及びC57BL/Olaから選択されるC57BL系のマウスである齧歯類である。別の実施形態では、マウスは129P1、129P2、129P3、129X1、129S1(例えば、129S1/SV、129S1/SvIm)、129S2、129S4、129S5、129S9/SvEvH、129S6(129/SvEvTac)、129S7、129S8、129T1、129T2の系統からなる群から選択される129系統である(参照、 例えば、Festing et al.(1999)Revised nomenclature for strain 129 mice、Mammalian Genome 10:836、Auerbach et al(2000)Establishment and Chimera Analysis of 129/SvEv- and C57BL/6-Derived Mouse Embryonic Stem Cell Linesも参照のこと)。ある実施形態では、遺伝子改変マウスは、前述の129系統と前述のC57BL/6系統との混合である。別の個別の実施形態では、マウスは前述の129系統の混合、または前述のBL/6系統の混合である。個別の実施形態では、上記混合の129系統は129S6(129/SvEvTac)系統である。別の実施形態では、マウスはBALB系統、例えばBALB/c系統、である。さらに別の実施形態では、マウスはBALB系統と別の前述の系統との混合である。本明細書に提供される非ヒト動物は、前述の系統の任意の組み合わせに由来するマウスであってもよい。
【0135】
ラットES細胞における標的改変アレルの生殖細胞遺伝は、過去10年において確立されている。例えば、米国特許出願公開20140235933および20140310828;Tong et al.(2010)Nature 467:211-215,Tong et al.(2011)Nat Protoc.6(6):doi:10.1038/nprot.2011.338。それら各文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。したがって一実施形態では、ラットは、Wistarラット、LEA系統、Sprague Dawley系統、Fischer系統、F344、F6、及びDark Agoutiから選択される。一実施形態では、ラット系統は、Wistar、LEA、Sprague Dawley、Fischer、F344、F6、及びDark Agoutiからなる群から選択される二つ以上の系統のミックスである。
【0136】
ゆえに本発明の一つの実施形態では、遺伝子改変マウスが提供され、この場合において当該マウスは、例えば自身の生殖細胞系列ゲノムなど自身のゲノムにおいて、
(a)ヒトもしくはヒト化MHC分子または少なくともそのペプチド結合部分をコードするヌクレオチド配列、および
(b)(非)再構成ヒトもしくはヒト化免疫グロブリン重鎖座位および/または(非)再構成ヒトもしくはヒト化免疫グロブリン軽鎖座位であって、任意で当該(非)再構成ヒトもしくはヒト化免疫グロブリン重鎖座位および/または(非)再構成ヒトもしくはヒト化免疫グロブリン軽鎖座位のうちの少なくとも一つは、再構成されていない座位、を含み、
当該遺伝子改変非ヒト動物は、ヒトもしくはヒト化MHC分子または少なくともそのペプチド結合部分を発現し、
当該遺伝子改変非ヒト動物は、ヒトもしくはヒト化重鎖可変ドメインおよび/またはヒトもしくはヒト化軽鎖可変ドメインを含む免疫グロブリンを発現し、および
当該非ヒト動物は、当該ヒトもしくはヒト化MHC分子または少なくともそのペプチド結合部分に対して寛容であり、それにより、(ii)当該ヒトまたはヒト化MHC分子が誘導されるヒトHLA分子またはその一部、(i)(ii)と複合体化された当該非ヒト動物に対して異種であるペプチド、を含有する抗原性ペプチド-MHC(pMHC)複合体で免疫化されたときに、特異的B細胞反応を生じさせる。
【0137】
一部の実施形態では、マウスは、第一の完全ヒトまたはキメラヒト/マウスMHCポリペプチド(例えばMHC IIα)をコードする第一のヌクレオチド配列、第二の完全ヒトまたはキメラヒト/マウスMHCポリペプチド(例えば、MHC IIβ)をコードする第二のヌクレオチド配列、および/または第三の完全ヒトまたはキメラヒト/マウスMHCポリペプチド(例えば、MHC I)をコードする第三のヌクレオチド配列、および任意でヒトまたはヒト化β2マイクログロブリンをコードするβ2マイクログロブリン座位、を含み、ならびに
(a)内因性重鎖座位で、
(i)内因性重鎖定常領域に動作可能に連結された非再構成ヒト(ヒト化)免疫グロブリン重鎖可変領域、
(ii)内因性重鎖定常領域に動作可能に連結された拘束非再構成ヒト(ヒト化)重鎖可変領域、
(iii)共通重鎖コード配列、
(iv)内因性重鎖定常領域に動作可能に連結されたヒスチジン改変非再構成ヒト(ヒト化)重鎖可変領域、
(v)重鎖のみの免疫グロブリンコード配列、または
(vi)ハイブリッド免疫グロブリン鎖をコードする非再構成ヒト(ヒト化)ハイブリッド重鎖配列、を含み、
および/または
(b)内因性軽鎖座位で、
(i)内因性軽鎖定常領域に動作可能に連結された非再構成ヒト(ヒト化)免疫グロブリン軽鎖可変領域、
(ii)共通軽鎖コード配列、
(iii)内因性軽鎖定常領域に動作可能に連結された拘束非再構成ヒト(ヒト化)軽鎖可変領域、
(iv)内因性軽鎖定常領域に動作可能に連結されたヒスチジン改変非再構成ヒト(ヒト化)軽鎖可変領域、または
(v)内因性軽鎖定常領域に動作可能に連結されたヒスチジン改変再構成ヒト(ヒト化)軽鎖可変領域、を含み、
任意で、当該マウスはさらに、
(i)機能性ADAM6遺伝子を含むヒト(ヒト化)免疫グロブリン重鎖座位を含み、それにより当該マウスは、野生型の生殖能力を呈し、および/または
(ii)抗原受容体の多様性を増すために外因性末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)遺伝子を含み、任意でそれにより再構成可変領域遺伝子の少なくとも10%は、鋳型には無い付加を含む。
【0138】
遺伝子改変動物(例えばマウスまたはラットなどのげっ歯類)に加えて、組織または細胞も提供され、この場合において当該組織または細胞は、一部の実施形態の非ヒト動物から誘導され、例えば当該組織または細胞は、(a)第一の完全ヒトまたはキメラヒト/マウスMHCポリペプチド(例えば、MHC IIα)をコードする第一のヌクレオチド配列、第二の完全ヒトまたはキメラヒト/マウスMHCポリペプチド(例えば、MHC IIβ)をコードする第二のヌクレオチド配列、および/または第三の完全ヒトまたはキメラヒト/マウスMHCポリペプチド(例えば、MHC I)をコードする第三のヌクレオチド配列、および任意でヒトまたはヒト化β2マイクログロブリンをコードするβ2マイクログロブリン座位、を含み、および(b)当該細胞がB細胞ではないとき、(非)再構成ヒトもしくはヒト化免疫グロブリン重鎖座位および/または(非)再構成ヒトもしくはヒト化免疫グロブリン軽鎖座位、を含み、任意でこの場合において当該(非)再構成ヒトもしくはヒト化免疫グロブリン重鎖座位および/または(非)再構成ヒトもしくはヒト化免疫グロブリン軽鎖座位のうちの少なくとも一つは、再構成されていない。
【0139】
一部の実施形態では、組織または細胞は、ヒトもしくはヒト化MHC分子、およびヒトもしくはヒト化抗原結合タンパク質、および/または当該ヒトもしくはヒト化抗原結合タンパク質の一つまたは複数の可変ドメインをコードする核酸を発現し、この場合において当該抗原結合タンパク質は、当該組織または細胞が誘導される非ヒト動物に対して抗原性であるpMHC複合体に特異的に結合し、例えば当該pMHC複合体は、ヒトMHC(またはその一部)と複合体化された抗原性ペプチドを含み、そのヒトMHC(またはその一部)に対して、当該非ヒト動物は概して寛容である。一部の実施形態では、細胞は、B細胞である。一部の実施形態では、細胞は、一部の実施形態の非ヒト動物から単離されたB細胞と、ミエローマ細胞の融合から誘導されたハイブリドーマまたはクアドローマである。一部の実施形態では、組織は、抗原結合タンパク質、または当該抗原結合タンパク質をコードする核酸配列であり、この場合において当該抗原結合タンパク質は、当該抗原結合タンパク質が誘導される非ヒト動物に対して抗原性であるpMHC複合体に特異的に結合し、例えば当該pMHC複合体は、ヒトMHC(またはその一部)と複合体化された抗原性ペプチドを含み、そのヒトMHC(またはその一部)に対して、当該非ヒト動物は概して寛容である。
【0140】
遺伝子操作された非ヒト動物に加えて、非ヒト胚(例えば、齧歯類、例えば、マウスまたはラットの胚)も提供され、この場合において当該非ヒト胚は、例示的実施形態の非ヒト動物(例えば、齧歯類、例えば、マウスまたはラット)を作製するために使用され得るドナーES細胞を含む。一つの実施形態では、非ヒト動物胚は、ヒトもしくはヒト化MHC I(例えば、MHC Iα)ヌクレオチド配列、ヒトもしくはヒト化MHC II(例えば、MHC IIαおよび/またはMHC IIβ)ヌクレオチド配列、(非)再構成ヒトもしくはヒト化免疫グロブリン座位(例えば、重鎖および/または軽鎖可変座位)、および/またはヒトもしくはヒト化β2マイクログロブリン遺伝子配列を含むESドナー細胞、および宿主胚細胞を含む。
【0141】
一部の実施形態では、非ヒト動物(例えば齧歯類、例えば、ラットまたはマウス)の細胞またはゲノムは、非ヒト動物を作製するために使用され得る。例えば、多能性細胞、胚性幹(ES)細胞、生殖細胞などであり、この場合において当該細胞またはゲノムは、
(a)ヒトもしくはヒト化MHC分子または少なくともそのペプチド結合部分をコードするヌクレオチド配列、および
(b)(非)再構成ヒトもしくはヒト化免疫グロブリン重鎖座位および/または(非)再構成ヒトもしくはヒト化免疫グロブリン軽鎖座位であって、任意で当該(非)再構成ヒトもしくはヒト化免疫グロブリン重鎖座位および/または(非)再構成ヒトもしくはヒト化免疫グロブリン軽鎖座位のうちの少なくとも一つは、再構成されていない座位、を含み、
その結果得られた遺伝子改変非ヒト動物は、ヒトもしくはヒト化MHC分子または少なくともそのペプチド結合部分を発現し、
その結果得られた遺伝子改変非ヒト動物は、ヒトもしくはヒト化重鎖可変ドメインおよび/またはヒトもしくはヒト化軽鎖可変ドメインを含む免疫グロブリンを発現し、およびその結果得られたヒト動物は、当該ヒトもしくはヒト化MHC分子または少なくともそのペプチド結合部分に対して寛容であり、それにより、(ii)当該ヒトまたはヒト化MHC分子が誘導されるヒトHLA分子またはその一部、(i)(ii)と複合体化された当該非ヒト動物に対して異種であるペプチド、を含有する抗原性ペプチド-MHC(pMHC)複合体で免疫化されたときに、特異的B細胞反応を生じさせる。
【0142】
一部の例示的実施形態では、細胞またはゲノムは、第一の完全ヒトまたはキメラヒト/マウスMHCポリペプチド(例えばMHC IIα)をコードする第一のヌクレオチド配列、第二の完全ヒトまたはキメラヒト/マウスMHCポリペプチド(例えば、MHC IIβ)をコードする第二のヌクレオチド配列、および/または第三の完全ヒトまたはキメラヒト/マウスMHCポリペプチド(例えば、MHC I)をコードする第三のヌクレオチド配列、および任意でヒトまたはヒト化β2マイクログロブリンをコードするβ2マイクログロブリン座位、を含み、ならびに
(a)内因性重鎖座位で、
(i)内因性重鎖定常領域に動作可能に連結された非再構成ヒト(ヒト化)免疫グロブリン重鎖可変領域、
(ii)内因性重鎖定常領域に動作可能に連結された拘束非再構成ヒト(ヒト化)重鎖可変領域、
(iii)共通重鎖コード配列、
(iv)内因性重鎖定常領域に動作可能に連結されたヒスチジン改変非再構成ヒト(ヒト化)重鎖可変領域、
(v)重鎖のみの免疫グロブリンコード配列、または
(vi)ハイブリッド免疫グロブリン鎖をコードする非再構成ヒト(ヒト化)ハイブリッド重鎖配列、を含み、
および/または
(b)内因性軽鎖座位で、
(i)内因性軽鎖定常領域に動作可能に連結された非再構成ヒト(ヒト化)免疫グロブリン軽鎖可変領域、
(ii)共通軽鎖コード配列、
(iii)内因性軽鎖定常領域に動作可能に連結された拘束非再構成ヒト(ヒト化)軽鎖可変領域、
(iv)内因性軽鎖定常領域に動作可能に連結されたヒスチジン改変非再構成ヒト(ヒト化)軽鎖可変領域、または
(v)内因性軽鎖定常領域に動作可能に連結されたヒスチジン改変再構成ヒト(ヒト化)軽鎖可変領域、を含み、
任意で、当該細胞またはゲノムはさらに、
(i)機能性ADAM6遺伝子を含むヒト(ヒト化)免疫グロブリン重鎖座位を含み、それにより当該マウスは、野生型の生殖能力を呈し、および/または
(ii)抗原受容体の多様性を増すために外因性末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)遺伝子を含み、それにより任意で、再構成可変領域遺伝子の少なくとも10%は、鋳型には無い付加を含む。
【0143】
以下の実施例は、自身のゲノムが、マウスH-2Kタンパク質をコードする核酸配列と、キメラヒト/マウスHLA-A2/H-2Kをコードする核酸配列の置換を含む遺伝子操作動物を記載しているが、当業者であれば、同様の戦略を使用して、他のヒト(ヒト化)MHC I遺伝子およびMHC II遺伝子(他のHLA-A遺伝子、HLA-B遺伝子およびHLA-C遺伝子、ならびに他のHLA-DR遺伝子、HLA-DP遺伝子およびHLA-DQ遺伝子を、例えば内因性座位で、または異所性座位で、例えばROSA26座位で)導入し得ることを理解するであろう。内因性MHC座位で、複数のキメラヒト/非ヒト(例えば、ヒト/齧歯類、例えば、ヒト/マウス)MHC I遺伝子およびMHC II遺伝子を含むような動物も提供される。そうしたキメラMHC Iタンパク質およびMHC IIタンパク質の例は、米国特許出願公開第20130111617、20130185819、20130185820および20140245467、ならびに米国特許第8,847,005号に記載されており、各特許が参照によりその全体で本明細書に組み込まれる。
【0144】
また、本発明の実施形態の非ヒト動物の染色体、またはその断片を含む非ヒト細胞も提供される。一つの実施形態では、非ヒト細胞は、本発明の非ヒト動物の実施形態の核を含む。一つの実施形態では、非ヒト細胞は、核移植の結果としての当該染色体またはその断片を含む。
【0145】
遺伝子改変非ヒト動物の作製
さらに遺伝子操作された非ヒト動物(例えば、遺伝子操作された齧歯類、例えば、マウスまたはラット)を作製する方法も提供される。概して、方法は、非ヒト細胞の例えば生殖細胞系列ゲノムなどのゲノムが、(a)第一のキメラヒト/非ヒトMHCポリペプチドをコードする第一の核酸配列、第二のキメラヒト/非ヒトMHCポリペプチドをコードする第二の核酸配列、第三のキメラヒト/非ヒトMHCポリペプチドをコードする第三の核酸配列、および/またはヒトもしくはヒト化β2マイクログロブリンポリペプチドをコードするβ2マイクログロブリン座位、ならびに(b)ヒトまたはヒト化抗体をコードする免疫グロブリン重鎖および免疫グロブリン軽鎖の座位、を含むように改変することを含む。一部の実施形態では、内因性MHCポリペプチド細胞外ドメイン、β2マイクログロブリンのすべてまたは一部、および免疫グロブリン可変領域、をコードする配列を標的化すること、ならびにそれらと、ヒトMHC細胞外ドメイン、ヒトβ2マイクログロブリンのすべてまたは一部、およびヒト免疫グロブリン可変領域とをそれぞれ置換させること、を含む。
【0146】
一部の実施形態では、改変は、例えば育種など、同種の動物との交配を含んでもよい。他の実施形態では、改変は、一つまたは複数のES細胞における連続相同組み換えを含む。一部の実施形態では、ES細胞は、望ましい遺伝子改変のうちのすべてのではない一つまたは複数を含むように遺伝子改変された非ヒト動物から誘導され、当該ES細胞中における相同組み換えが、遺伝子改変を完了させる。他の実施形態では、改変は、例えば、動物と、同種の別(または複数の)動物を交配させるなどの交配と、ES細胞における相同組み換えの組み合わせを含んでもよく、この場合において当該非ヒト動物のうちの一部またはすべては、1回の相同組み換えを介して遺伝子改変された、または連続相同組み換え事象を介して遺伝子改変されたES細胞から作製されてもよく、およびこの場合において一部のES細胞は、本明細書に開示される遺伝子改変のうちの一つまたは複数を含む非ヒト動物から単離されてもよい。一部の実施形態では、改変は、単一ES細胞における連続相同組み換えを含む。
【0147】
一部の実施形態では、方法は、VELOCIGENE(登録商標)技術を使用して作製された標的化構築体を利用し、当該構築体をES細胞に導入し、VELOCIMOUSE(登録商標)技術を使用して標的ES細胞クローンをマウス胚に導入する(例えば、米国特許第7,294,754号およびPoueymirou et al.(2007)Nature Biotech 25:91-99を参照のこと。各文献は、その全体で参照により本明細書に組み込まれる)。標的化構築体は、置換される内因性配列を標的とする5’および/または3’相同アーム、(内因性配列を置換する)挿入配列、ならびに一つまたは複数の選択カセットを含んでもよい。選択カセットは、対象の構築体を統合した細胞(例えば、ES細胞)の選択を促進するために、標的化構築体に挿入されたヌクレオチド配列である。多くの適切な選択カセットが当分野に公知である。通常、選択カセットは、特定の抗生物質(例えば、Neo、Hyg、Pur、CM、SPECなど)の存在下での陽性選択を可能とする。さらに、選択カセットは、組換え部位に隣接してもよく、これはリコンビナーゼ酵素で処理されると選択カセットの欠失を可能にする。一般的に使用される組換え部位は、それぞれCre酵素およびFlp酵素によって認識されるloxPおよびFrtであるが、他も当技術分野で知られている。選択カセットは、コード領域の外側の構築物のどこにでも位置してもよい。一つの実施形態では、選択カセットは、ヒトDNA断片の5’末端に位置する。別の実施形態では、選択カセットは、ヒトDNA断片の3’末端に位置する。別の実施形態では、選択カセットは、ヒトDNA断片の内に位置する。別の実施形態では、選択カセットは、ヒトDNA断片のイントロン内に位置する。別の実施形態では、選択カセットは、ヒトおよびマウスのDNA断片の接合部に位置する。本質的に完全にドナー遺伝子標的ES細胞から誘導されるF0世代マウスであれば、直ちに表現型の解析が可能である。独立して、ヒトもしくはヒト化MHCクラスI遺伝子、ヒトもしくはヒト化β2マイクログロブリン遺伝子、および/またはヒトもしくはヒト化MHCクラスII遺伝子、ならびにヒト化免疫グロブリン座位を担持するVELOCIMICE(登録商標)(ドナーES細胞から完全に誘導されたF0マウス)は、これら固有の遺伝子配列の存在を検出するアレルアッセイの改変型を使用して遺伝子型決定を行うことにより特定される(Valenzuela et al.(2003)High-throughput engineering of the mouse genome
coupled with high-resolution expression
analysis,Nature Biotech.21(6):652-659。当該文献は、その全体で参照により本明細書に組み込まれる)。この方法により作製されたヘテロ接合性マウスを交配させて、ホモ接合性にしてもよい。
【0148】
一部の実施形態では、ヒトまたはヒト化MHC I、β2マイクログロブリン、MHC
II分子を含む非ヒト動物は、同種の第二の非ヒト動物と交配され、この場合において当該第二の非ヒト動物は、非再構成ヒトもしくはヒト化免疫グロブリン重鎖座位、および/または非再構成ヒトもしくはヒト化免疫グロブリン軽鎖座位を含む。例えば、ヒトまたはヒト化MHC I、β2マイクログロブリン、MHC II分子を含むマウスは、以下を含む第二のマウスと交配されてもよい:
(a)内因性重鎖座位で、
(i)内因性重鎖定常領域に動作可能に連結された非再構成ヒト(ヒト化)免疫グロブリン重鎖可変領域、
(ii)内因性重鎖定常領域に動作可能に連結された拘束非再構成ヒト(ヒト化)重鎖可変領域、
(iii)共通重鎖コード配列、
(iv)内因性重鎖定常領域に動作可能に連結されたヒスチジン改変非再構成ヒト(ヒト化)重鎖可変領域、
(v)重鎖のみの免疫グロブリンコード配列、または
(vi)ハイブリッド免疫グロブリン鎖をコードする非再構成ヒト(ヒト化)ハイブリッド重鎖配列、
および/または
(b)内因性軽鎖座位で、
(i)内因性軽鎖定常領域に動作可能に連結された非再構成ヒト(ヒト化)免疫グロブリン軽鎖可変領域、
(ii)共通軽鎖コード配列、
(iii)内因性軽鎖定常領域に動作可能に連結された拘束非再構成ヒト(ヒト化)軽鎖可変領域、
(iv)内因性軽鎖定常領域に動作可能に連結されたヒスチジン改変非再構成ヒト(ヒト化)軽鎖可変領域、または
(v)内因性軽鎖定常領域に動作可能に連結されたヒスチジン改変再構成ヒト(ヒト化)軽鎖可変領域。
任意で、当該第二のマウスはさらに、
(i)機能性ADAM6遺伝子を含むヒト(ヒト化)免疫グロブリン重鎖座位を含み、それにより当該マウスは、野生型の生殖能力を呈し、および/または
(ii)抗原受容体の多様性を増すために外因性末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)遺伝子を含み、それにより任意で、再構成可変領域遺伝子の少なくとも10%は、鋳型には無い付加を含む。
【0149】
別の実施形態では、ヒトもしくはヒト化MHC I、MHC II、および/またはβ2マイクログロブリンを挿入する構築体は、非再構成ヒトもしくはヒト化免疫グロブリン重鎖座位および/または非再構成ヒトもしくはヒト化免疫グロブリン軽鎖座位を含むように遺伝子改変された非ヒト動物ES細胞における(内因性MHC I、MHC IIおよび/もしくはβ2マイクログロブリン座位での、または異所性座位での)相同組み換えに関与する。あるいは、挿入用構築体は、非再構成ヒトもしくはヒト化免疫グロブリン重鎖座位および/または非再構成ヒトもしくはヒト化免疫グロブリン軽鎖座位を含み、ヒトもしくはヒト化MHC I、MHC IIおよび/またはβ2マイクログロブリンをコードするヌクレオチド配列を含むように遺伝子改変された非ヒト動物ES細胞における相同組み換えに関与する。一つの実施形態では、標的化、ならびに内因性MHC I、MHC IIおよび/またはβ2マイクログロブリン配列と、キメラヒト/マウスMHC I、MHC IIおよび/またはβ2マイクログロブリンをコードする核酸配列との置換を行うための構築体、または一本鎖MHC I/β2マイクログロブリンタンパク質および/もしくは一本鎖MHC IIタンパク質の挿入用の構築体は、以下をさらに含み得るES細胞における相同組み換えに関与する:
(a)内因性重鎖座位で、
(i)内因性重鎖定常領域に動作可能に連結された非再構成ヒト(ヒト化)免疫グロブリン重鎖可変領域、
(ii)内因性重鎖定常領域に動作可能に連結された拘束非再構成ヒト(ヒト化)重鎖可変領域、
(iii)共通重鎖コード配列、
(iv)内因性重鎖定常領域に動作可能に連結されたヒスチジン改変非再構成ヒト(ヒト化)重鎖可変領域、
(v)重鎖のみの免疫グロブリンコード配列、または
(vi)ハイブリッド免疫グロブリン鎖をコードする非再構成ヒト(ヒト化)ハイブリッド重鎖配列、
および/または
(b)内因性軽鎖座位で、
(i)内因性軽鎖定常領域に動作可能に連結された非再構成ヒト(ヒト化)免疫グロブリン軽鎖可変領域、
(ii)共通軽鎖コード配列、
(iii)内因性軽鎖定常領域に動作可能に連結された拘束非再構成ヒト(ヒト化)軽鎖可変領域、
(iv)内因性軽鎖定常領域に動作可能に連結されたヒスチジン改変非再構成ヒト(ヒト化)軽鎖可変領域、または
(v)内因性軽鎖定常領域に動作可能に連結されたヒスチジン改変再構成ヒト(ヒト化)軽鎖可変領域。
任意で、当該ES細胞はさらに、
(i)機能性ADAM6遺伝子を含むヒト(ヒト化)免疫グロブリン重鎖座位、および/または
(ii)抗原受容体の多様性を増加させるための外因性末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)遺伝子を含む。
【0150】
本発明の様々な実施形態では、キメラヒト/非ヒトMHC IポリペプチドおよびMHC IIポリペプチドをコードする配列は、内因性非ヒトMHC座位(例えば、マウスH-2K座位および/またはH-2E座位)に位置する。一つの実施形態では、これによって、内因性MHC遺伝子またはその一部と、ヒトまたはヒト化MHC Iポリペプチドをコードする核酸配列との置換などの配置が生じる。1匹の動物におけるMHC IとMHC IIの両方のヒト化を最大限に実現させるよう、MHC Iポリペプチド、MHC IIαポリペプチド、およびMHC IIβポリペプチドをコードする核酸配列は、染色体上で互いに近接して配置されているため、所望の場合には、MHC I座位とMHC II座位は、連続して標的化されるものとする。したがって本明細書において、キメラヒト/非ヒトMHC Iポリペプチド、MHC IIαポリペプチドおよびMHC IIβポリペプチドをコードする核酸配列を含む遺伝子改変非ヒト動物を作製する方法も提供される。
【0151】
したがって一部の実施形態では、キメラヒト/非ヒトMHCを含む遺伝子改変動物を作製するためのヌクレオチド構築体が提供される。一つの実施形態では、核酸構築体は、5’および3’非ヒト相同アーム、ヒトMHC遺伝子配列(例えばヒトHLA-A2遺伝子配列またはヒトHLA-DR遺伝子配列)を含むヒトDNA断片、および組み換え部位に隣接した選択カセット、を含む。一つの実施形態では、ヒトDNA断片は、ヒトMHC遺伝子(例えば、ヒトHLA-A2遺伝子またはHLA-DR2遺伝子)のイントロンとエクソンの両方を含むゲノム断片である。一つの実施形態では、非ヒト相同アームは、非ヒトMHC座位(例えば、MHC I座位またはMHC II座位)に対して相同である。
【0152】
一つの実施形態では、5’および3’非ヒト相同アームは、それぞれ、内因性非ヒト(例えば、マウス)のMHCクラスI遺伝子座位またはクラスII遺伝子座位の5’位と3’位で、ゲノム配列を含む(例えば、第一のリーダー配列の5’とマウスMHC I遺伝子のα3エクソンの3’、またはマウスH-2Ab1遺伝子の上流とマウスH-2Ea遺伝子の下流)。一つの実施形態では、内因性MHCクラスI座位は、マウスのH-2K、H-2DおよびH-2Lから選択される。個別の実施形態では、内因性MHCクラスI座位は、マウスH-2Kである。一つの実施形態では、内因性MHC II座位は、マウスのH-2EおよびH-2Aから選択される。一つの実施形態では、操作されたMHC II構築体は、マウスH-2E遺伝子とマウスH-2A遺伝子の両方を置換させる。一つの実施形態では、マウスは、そのH-2D座位から、機能性の内因性MHCポリペプチドを発現しない。一部の実施形態では、マウスは、内因性H-2D座位のすべてまたは一部を欠くように操作される。別の実施形態では、マウスは、細胞表面上に機能性の内因性MHC IポリペプチドおよびMHC IIポリペプチドをいずれも発現しない。一つの実施形態では、マウスにより細胞表面上に発現されるMHC IおよびMHC IIのみが、キメラヒト/マウスMHC IおよびMHC IIである。
【0153】
本開示はさらに、自身のゲノムが、ヒトまたはヒト化β2マイクログロブリンポリペプチドをコードするβ2マイクログロブリン座位を含む、遺伝子操作された非ヒト動物(例えば、遺伝子操作されたげっ歯類、例えばマウスまたはラット)を作製する方法も提供する。一つの実施形態では、この方法によって、自身のゲノムが、内因性β2マイクログロブリン座位で、ヒトまたはヒト化β2マイクログロブリンポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む、遺伝子操作された例えばマウスなどのげっ歯類が得られる。いくつかの例では、マウスは、内因性マウスβ2マイクログロブリン座位から、機能性のマウスβ2マイクログロブリンを発現しない。
【0154】
遺伝子操作された非ヒト動物の作製に使用されるヌクレオチド構築体も提供される。一部の実施形態では、ヌクレオチド構築体は、5’および3’非ヒト相同アーム、ヒトβ2マイクログロブリン配列を含むヒトDNA断片、および組み換え部位に隣接した選択カセット、を含んでもよい。一つの実施形態では、ヒトDNA断片は、ヒトβ2マイクログロブリン遺伝子のイントロンとエクソンの両方を含むゲノム断片である。一つの実施形態では、非ヒト相同アームは、非ヒトβ2マイクログロブリン座位に対して相同である。ゲノム断片は、ヒトβ2マイクログロブリン遺伝子のエクソン2、3、および4を含んでもよい。一つの例では、ゲノム断片は、5’から3’に向かって、エクソン2、イントロン、エクソン3、イントロン、およびエクソン4の、ヒトβ2マイクログロブリン配列のすべてを含む。選択カセットは、構築体において、β2マイクログロブリンコード領域の外側のいずれに配置されてもよく、例えば、ヒトβ2マイクログロブリンのエクソン4の3’側に配置されてもよい。5’および3’の非ヒト相同アームは、内因性非ヒトβ2マイクログロブリン遺伝子のそれぞれ5’側および3’側のゲノム配列を含んでもよい。別の実施形態では、5’および3’の非ヒト相同アームは、それぞれ内因性非ヒト遺伝子のエクソン2の5’側、およびエクソン4の3’側のゲノム配列を含む。
【0155】
本発明の別の実施形態は、非ヒト動物(例えば、齧歯類、例えばマウスまたはラット)のβ2マイクログロブリン座位を改変して、ヒトまたはヒト化β2マイクログロブリンポリペプチドを発現させる方法に関連する。例えばマウスなどの非ヒト動物のβ2マイクログロブリン座位を改変して、ヒトまたはヒト化β2マイクログロブリンポリペプチドを発現させる方法の一つは、内因性β2マイクログロブリン座位で、マウスβ2マイクログロブリンをコードするヌクレオチド配列と、ヒトまたはヒト化β2マイクログロブリンポリペプチドをコードするヌクレオチド配列とを置換することを含む。そうした方法の一つの実施形態では、例えばマウスなどの非ヒト動物は、例えばマウスなどの内因性非ヒトβ2マイクログロブリン座位から機能性のβ2マイクログロブリンポリペプチドを発現しない。一部の個別の実施形態では、ヒトまたはヒト化されたβ2マイクログロブリンポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、ヒトβ2マイクログロブリン遺伝子のエクソン2~エクソン4に記載されるヌクレオチド配列を含む。他の実施形態では、ヒトまたはヒト化されたβ2マイクログロブリンポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、ヒトβ2マイクログロブリン遺伝子のエクソン2、エクソン3、およびエクソン4に記載されるヌクレオチド配列を含む。
【0156】
本開示はさらに、自身のゲノムが、例えばROSA26座位などの異所性座位で、ヒト(ヒト化)β2マイクログロブリンおよびヒト(ヒト化)MHCクラスIαポリペプチド、ヒト(ヒト化)MHCクラスIαポリペプチドおよび/またはヒト(ヒト化)β2マイクログロブリンを含む一本鎖β2マイクログロブリン/MHC複合体をコードする配列を含む、遺伝子操作された非ヒト動物(例えば遺伝子操作されたげっ歯類、例えばマウスまたはラット)を作製する方法も提供する。一つの実施形態では、この方法によって、自身のゲノムが、例えば内因性ROSA26座位などの内因性のMHC I座位またはβ2マイクログロブリン座位ではない内因性座位で、ヒト(ヒト化)β2マイクログロブリンおよびヒト(ヒト化)MHC複合体を含む一本鎖β2マイクログロブリン/MHC複合体、ヒト(ヒト化)MHCクラスIαポリペプチドおよび/またはヒト(ヒト化)β2マイクログロブリンをコードするヌクレオチド配列を含む、例えばラットまたはマウスなどの遺伝子操作されたげっ歯類が得られる。ROSA座位を標的化する方法は、当分野で公知である。例えば、Stefano Casola,Mouse Models for miRNA expression:the ROSA26 Locus,in Methods in Molecular Biology vol.667:145-163(S.Monticelli ed.2010)を参照のこと。当該文献は、参照によりその全体で本明細書に組み込まれる。
【0157】
遺伝子操作された非ヒト動物の作製に使用されるヌクレオチド構築体も提供される。一部の実施形態では、ヌクレオチド構築体は、5’および3’非ヒト相同アーム、ヒト(ヒト化)β2マイクログロブリンとヒト(ヒト化)MHCクラスIαポリペプチドを含む一本鎖β2マイクログロブリン/MHC複合体(例えば、配列番号23に記載される一本鎖β2マイクログロブリン/HLA-A2複合体)をコードするヌクレオチド配列、組み換え部位に隣接する選択カセット、を含んでもよい。一部の実施形態では、ヌクレオチド構築体は、5’および3’非ヒト相同アーム、ヒト(ヒト化)MHCクラスIαポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、および組み換え部位に隣接する選択カセット、を含んでもよい。一部の実施形態では、ヌクレオチド構築体は、5’および3’非ヒト相同アーム、ヒト(ヒト化)β2マイクログロブリンをコードするヌクレオチド配列、および組み換え部位に隣接する選択カセット、を含んでもよい。5’および3’非ヒト相同アームは、内因性ROSA26イントロンに隣接するゲノム配列を含んでもよい。
【0158】
一部の実施形態では、遺伝子改変非ヒト動物(例えば、マウス)は、ヒトもしくはヒト化MHC I、ヒトもしくはヒト化β2マイクログロブリン;ヒトもしくはヒト化MHC
II(例えば、MHC IIαおよび/またはMHC IIβ);ならびにヒトもしくはヒト化免疫グロブリン重鎖および軽鎖を1コピーまたは2コピー、含んでもよい。したがって、一部の実施形態では、非ヒト動物は、これらの遺伝子のいずれか、またはすべてに対してヘテロ接合性またはホモ接合性であってもよい。ヒトまたはヒトMHC I、ヒトまたはヒト化β2マイクログロブリン;ヒトまたはヒト化MHC II(例えば、MHC IIαおよび/またはMHC IIβ)を含むよう非ヒト動物を改変する非限定的な目的は、当該非ヒト動物を、当該ヒトまたはヒト化されたMHC分子に対して寛容化させることであるため、これら遺伝子のホモ接合性は必須ではない。したがって一部の実施形態では、非ヒト動物は、ヒトまたはヒト化MHC分子をコードするヌクレオチド配列に関し、ヘテロ接合性であってもよい。対照的に、非ヒト動物の免疫グロブリン座位を改変する非限定的な目的は、対象の抗原性pMHC複合体に対するヒトまたはヒト化抗体を作製することであるため、一部の実施形態では、非ヒト動物は、当該改変免疫グロブリン座位に関し、ホモ接合性であってもよい。
【0159】
遺伝子標的化が完了したら、ES細胞または遺伝子改変非ヒト動物は、対象の外因性ヌクレオチド配列の組み込み、または外因性ポリペプチドの発現が成功したかを確認するためにスクリーニングされる。多数の技術が、当業者には公知であり、(限定されないが、)サザンブロッティング、ロングPCR、定量的 PCR(例えば、TAQMAN(登録商標)を使用するリアルタイムPCRなど)、蛍光in situハイブリダイゼーション、ノーザンブロッティング、フローサイトメトリー、ウェスタン分析、免疫細胞化学、免疫組織化学などが挙げられる。一例では、対象の遺伝子改変を担持する非ヒト動物(例えば、マウス)は、上記のValenzuela et al.(2003)に記載されるアレルアッセイの改変型を使用して、マウスアレルの消失および/またはヒトアレルの獲得に関しスクリーニングすることにより、特定され得る。遺伝子改変動物内の特定ヌクレオチドまたはアミノ酸配列を特定する他のアッセイは、当業者に公知である。
【0160】
対象の抗原性ペプチド-MHC複合体
本明細書に記載されるMHCタンパク質に対し寛容化されたマウスは、抗原性ペプチド-MHC複合体で免疫化され、pMHC特異的抗原結合タンパク質を産生する。一部の実施形態では、抗原性ペプチド-MHC(pMHC)複合体の一部として有用なMHCとしては、天然型の全長MHC、ならびにMHCの個々の鎖(例えば、MHCクラスIα(重)鎖、β2マイクログロブリン、MHCクラスIIα鎖、およびMHCクラスIIβ鎖)、MHCのかかる鎖の個々のサブユニット(例えば、MHCクラスIα鎖のα1~α3サブユニット、MHCクラスIIα鎖のα1~α2サブユニット、MHCクラスIIβ鎖のβ1~β2サブユニット)、ならびにそれらの断片、変異体および様々な誘導体(融合タンパク質を含む)が挙げられ、この場合において当該断片、変異体および誘導体は、抗原特異的TCRにより認識されるための抗原決定基を提示する能力を保持している。
【0161】
天然型MHCは、ヒト6番染色体上の遺伝子クラスターによりコードされている。MHCには、限定されないが、例えばA(例えば、A1~A74)、B(例えば、B1~B77)、C(例えば、C1~C11)、D(例えば、D1-D26)、DR(例えば、DR1~DR8)、DQ(例えば、DQ1~DQ9)およびDP(例えば、DP1~DP6)などのHLA特異性が含まれる。HLA特異性には、A1、A2、A3、A11、A23、A24、A28、A30、A33、B7、B8、B35、B44、B53、B60、B62、DR1、DR2、DR3、DR4、DR7、DR8、およびDR 11が含まれる。
【0162】
天然型MHCクラスI分子は、細胞によって、タンパク質分解により分解されたタンパク質、特に内因性に合成されたタンパク質から誘導されたペプチドに結合する。そうして得られた小さなペプチドは小胞体内に輸送され、そこで、初期MHCクラスI分子と関連付けられ、その後、ゴルジ装置を経由し、細胞表面上に提示されて、細胞傷害性Tリンパ球により認識される。
【0163】
天然型MHCクラスI分子は、β2マイクログロブリンと関連付けられたα(重鎖)鎖からなる。重鎖は、サブユニットα1-α3からなる。β2マイクログロブリンタンパク質、および重鎖のα3サブユニットが、関連付けられる。特定の実施形態では、β2マイクログロブリンとα3サブユニットは、共有結合によって関連付けられる。特定の実施形態では、β2マイクログロブリンとα3サブユニットは、非共有結合的に関連付けられる。重鎖のα1サブユニットとα2サブユニットは、フォールディングして、例えば抗原決定基などの、提示され、TCRにより認識されるペプチドのための溝を形成する。
【0164】
クラスI分子は概して、例えば、約8~9アミノ酸(例えば、7~11アミノ酸)の長さのペプチドと関連付けられ、例えば、結合する。すべてのヒトは、3~6個の異なるクラスI分子を有し、各々が、多くの異なるタイプのペプチドに結合することができる。
【0165】
一部の実施形態では、pMHC複合体は、(i)クラスI MHCポリペプチド、またはその断片、変異体もしくは誘導体、を含み、および任意で、(ii)β2マイクログロブリンポリペプチド、またはその断片、変異体もしくは誘導体を含む。一つの個別の実施形態では、クラスI MHCポリペプチドは、ペプチドリンカーによってβ2マイクログロブリンポリペプチドに関連付けられ、例えば、連結される。
【0166】
一つの個別の実施形態では、MHCクラスIポリペプチドは、HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-E、HLA-F、およびHLA-Gからなる群から選択されるヒトMHCクラスIポリペプチドである。別の個別の実施形態では、MHCクラスIポリペプチドは、H-2K、H-2D、H-2L、H2-IA、H2-IB、H2-IJ、H2-IE、およびH2-ICからなる群から選択されるマウスMHCクラスIポリペプチドである。
【0167】
一部の実施形態では、抗原性pMHC複合体のMHCクラスIα重鎖は、完全にヒトである。一部の実施形態では、抗原性pMHC複合体のMHCクラスIα重鎖は、ヒト化されている。ヒト化されたMHCクラスIα重鎖は、例えば、米国特許出願公開2013/0111617、2013/0185819、および2014/0245467に記載されている。一部の実施形態では、MHCクラスIα重鎖は、ヒト細胞外ドメイン(ヒトα1ドメイン、α2ドメイン、および/またはα3ドメイン)、および別の種の細胞質ドメインを含む。一部の実施形態では、クラスIα重鎖ポリペプチドは、HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-E、HLA-F、HLA-G、HLA-K、またはHLA-Lである。一部の実施形態では、HLA-A配列は、HLA-A*0201配列であってもよい。様々な実施形態では、ペプチド-MHCは、MHCクラスI重鎖のすべてのドメインを含んでもよい。
【0168】
一部の実施形態では、抗原性pMHC複合体は、β2マイクログロブリンを含む。一部の実施形態では、β2マイクログロブリンは、完全にヒトである。一部の実施形態では、β2マイクログロブリンは、ヒト化されている。ヒト化されたβ2マイクログロブリンポリペプチドは、例えば、米国特許出願公開2013/0111617および2013/0185819に記載されている。それら各文献は、その全体で参照により本明細書に組み込まれる。
【0169】
一部の実施形態では、抗原性pMHC複合体のMHCクラスI分子は、ヒト(ヒト化)β2マイクログロブリン(β2mまたはB2M)ポリペプチド中、およびヒト(ヒト化)MHCクラスIα重鎖中に変異を含み、それによって、当該ヒト(ヒト化)B2Mとヒト(ヒト化)MHCクラスIα重鎖の間にジスルフィド結合が形成され得る。一部の実施形態では、ジスルフィド結合は、以下の残基対のうちの一つを連結させる:ヒト(ヒト化)B2M残基12、ヒト(ヒト化)MHCクラスI α重鎖残基236;ヒト(ヒト化)B2M残基12、ヒト(ヒト化)MHCクラスI α重鎖残基237;ヒト(ヒト化)B2M残基8、ヒト(ヒト化)MHCクラスI α重鎖残基234;ヒト(ヒト化)B2M残基10、ヒト(ヒト化)MHCクラスI α重鎖残基235;ヒト(ヒト化)B2M残基24、ヒト(ヒト化)MHCクラスI α重鎖残基236;ヒト(ヒト化)B2M残基28、ヒト(ヒト化)MHCクラスI α重鎖残基232;ヒト(ヒト化)B2M残基98、ヒト(ヒト化)MHCクラスI α重鎖残基192;ヒト(ヒト化)B2M残基99、ヒト(ヒト化)MHCクラスI α重鎖残基234;ヒト(ヒト化)B2M残基3、ヒト(ヒト化)MHCクラスI α重鎖残基120;ヒト(ヒト化)B2M残基31、ヒト(ヒト化)MHCクラスI α重鎖残基96;ヒト(ヒト化)B2M残基53、ヒト(ヒト化)MHCクラスI α重鎖残基35;ヒト(ヒト化)B2M残基60、ヒト(ヒト化)MHCクラスI α重鎖残基96;ヒト(ヒト化)B2M残基60、ヒト(ヒト化)MHCクラスI α重鎖残基122;ヒト(ヒト化)B2M残基63、ヒト(ヒト化)MHCクラスI α重鎖残基27;ヒト(ヒト化)B2M残基Arg3、ヒト(ヒト化)MHCクラスI α重鎖残基Gly 120;ヒト(ヒト化)B2M残基His31、ヒト(ヒト化)MHCクラスI α重鎖残基Gln96;ヒト(ヒト化)B2M残基Asp53、ヒト(ヒト化)MHCクラスI α重鎖残基Arg35;ヒト(ヒト化)B2M残基Trp60、ヒト(ヒト化)MHCクラスI α重鎖残基Gln96;ヒト(ヒト化)B2M残基Trp60、ヒト(ヒト化)MHCクラスI α重鎖残基Asp 122;ヒト(ヒト化)B2M残基Tyr63、ヒト(ヒト化)MHCクラスI α重鎖残基Tyr27;ヒト(ヒト化)B2M残基Lys6、ヒト(ヒト化)MHCクラスI α重鎖残基Glu232;ヒト(ヒト化)B2M残基Gln8、ヒト(ヒト化)MHCクラスI α重鎖残基Arg234;ヒト(ヒト化)B2M残基Tyr 10、ヒト(ヒト化)MHCクラスI α重鎖残基Pro235;ヒト(ヒト化)B2M残基Serl l、ヒト(ヒト化)MHCクラスI α重鎖残基Gln242;ヒト(ヒト化)B2M残基Asn24、ヒト(ヒト化)MHCクラスI α重鎖残基Ala236;ヒト(ヒト化)B2M残基Ser28、ヒト(ヒト化)MHCクラスI α重鎖残基Glu232;ヒト(ヒト化)B2M残基Asp98、ヒト(ヒト化)MHCクラスI α重鎖残基His 192;ヒト(ヒト化)B2M残基Met99、ヒト(ヒト化)MHCクラスI α重鎖残基Arg234、および/またはヒト(ヒト化)B2M残基Arg 12、ヒト(ヒト化)MHCクラスI α重鎖残基Gly237。例えば、国際特許出願公開WO/2015195531を参照のこと。当該文献は、その全体で参照により本明細書に組み込まれる。
【0170】
一部の実施形態では、抗原決定基のアミノ酸配列は、例えば、MHCクラスI分子によって提示されるなど、MHCクラスI分子と関連付けられ得るペプチドのアミノ酸配列であってもよい。特定の実施形態では、配列は、6~20個の連続アミノ酸を含んでもよい。特定の実施形態では、ペプチド配列は、タンパク質断片のペプチド配列であってもよく、この場合において当該タンパク質は、例えば自己免疫性障害と関連のあるタンパク質などの細胞タンパク質の一部から誘導され、この場合において当該ペプチドは、MHCクラスI重鎖に結合されてもよい。
【0171】
一部の実施形態では、MHCの少なくとも一つの鎖、およびペプチドは、融合タンパク質として関連付けられている。一つの実施形態では、MHCとペプチドは、リンカー配列により関連付けられている。例えば、一本鎖分子は、アミノ末端からカルボキシル末端に向かって、抗原決定基、β2マイクログロブリン配列、およびクラスIα(重)鎖配列を含んでもよい。あるいは一本鎖分子は、アミノ末端からカルボキシル末端に向かって、抗原決定基、クラスIα(重)鎖配列、およびβ2マイクログロブリン配列を含んでもよい。一本鎖三量体としてのpMHC複合体の作製および使用は、過去に報告されている。例えば、米国特許第8,895,020号、米国特許第8,992,937号;Hansen et al.(2010)Trends Immunol.31:363-69;Truscott et al.(2007)J.Immunol.178:6280-89;Mitaksov et al.(2007)Chem Biol 14:909-22を参照のこと。それら各文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。一本鎖pMHC複合体は、アミノ末端でシグナルペプチド配列をさらに含んでもよい。特定の実施形態では、ペプチド配列とβ2マイクログロブリン配列との間にリンカー配列があってもよい。特定の実施形態では、β2マイクログロブリン配列とクラスIα(重)鎖配列との間にリンカー配列があってもよい。一本鎖分子は、アミノ末端でシグナルペプチド配列、ならびに当該ペプチド配列とβ2マイクログロブリン配列との間を伸長させる第一のリンカー配列、および/またはβ2マイクログロブリン配列とクラスI重鎖配列との間を伸長させる第二のリンカー配列をさらに含んでもよい。
【0172】
一部の実施形態では、一本鎖pMHC複合体は、ペプチドリガンドセグメントとβ2マイクログロブリン配列との間に第一の柔軟なリンカーを含んでもよい。例えばリンカーは、当該ペプチドリガンドセグメントのカルボキシル末端から伸長して、当該末端を、β2マイクログロブリンセグメントのアミノ末端に連結させてもよい。一部の実施形態では、リンカーは、連結されたペプチドリガンドが結合溝へとフォールディングされ、機能性MHC-抗原ペプチドを生じるように構築される。一部の実施形態では、当該リンカーは、少なくとも3アミノ酸、最大で約15アミノ酸(例えば、20アミノ酸)を含んでもよい。一部の実施形態では、一本鎖分子は、β2マイクログロブリンセグメントとMHC I重鎖セグメントとの間に挿入される第二の柔軟なリンカーを含んでもよい。例えばリンカーは、当該β2マイクログロブリンセグメントのカルボキシル末端から伸長して、当該末端を、MHC I重鎖セグメントのアミノ末端に連結させてもよい。特定の実施形態では、β2マイクログロブリンとMHC I重鎖は、結合溝へとフォールディングして、T細胞拡張の促進に機能し得る分子を生じさせる。
【0173】
pMHC複合体に使用される適切なリンカーは、例えば1アミノ酸(例えば、Gly)~20アミノ酸、2アミノ酸~15アミノ酸、3アミノ酸~12アミノ酸などの、4アミノ酸~10アミノ酸、5アミノ酸~9アミノ酸、6アミノ酸~8アミノ酸、または7アミノ酸~8アミノ酸を含む多数の適切な長さのうちのいずれかであってもよく、および1、2、3、4、5、6、または7アミノ酸であってもよい。例示的リンカーとしては、グリシンポリマー(Gn)、グリシン-セリンポリマー(例えば、(GS)n、(GSGGS)(配列番号1)、および(GGGS)(配列番号2)を含み、式中、nは、少なくとも1の整数である)、グリシン-アラニンポリマー、アラニン-セリンポリマー、および当分野に公知のその他の柔軟なリンカーが挙げられる。グリシンポリマーおよびグリシン-セリンポリマーが使用されてもよい。GlyとSerの両方とも比較的非構造的であり、それゆえ構成要素間を中立に繋ぐ役割を果たし得る。グリシンポリマーが使用されてもよい。グリシンは、同等のアラニンよりも遥かに多くのφ-ψ空間にアクセスし、長い側鎖を有する残基よりもずっと制限が少ない(Scheraga,Rev.Computational Chem.1 1173-142(1992)を参照のこと。当該文献は、参照によりその全体で本明細書に組み込まれる)。例示的リンカーは、限定されないが、GGSG(配列番号3)、GGSGG(配列番号4)、GSGSG(配列番号5)、GSGGG(配列番号6)、GGGSG(配列番号7)、GSSSG(配列番号8)、GCGASGGGGSGGGGS(配列番号9)、GCGASGGGGSGGGGS(配列番号10)、GGGGSGGGGS(配列番号11)、GGGASGGGGSGGGGS(配列番号12)、GGGGSGGGGSGGGGS(配列番号13)、またはGGGASGGGGS(配列番号14)、GGGGSGGGGSGGGGS(配列番号15)、GGGGSGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号16)、GCGGS(配列番号21)をはじめとするアミノ酸配列を含んでもよい。一部の実施形態では、リンカーポリペプチドは、第二のポリペプチド中に存在するシステイン残基とジスルフィド結合を形成することができるシステイン残基を含む。
【0174】
特定の実施形態では、一本鎖pMHC複合体は、ジスルフィド結合(すなわち二つのシステイン間のジスルフィド結合)を介してMHCクラスIα(重)鎖に共有結合したペプチドを含んでもよい。例えば、米国特許第8,992,937号および第8,895,020号を参照のこと。各特許は、その全体で参照により本明細書に組み込まれる。特定の実施形態では、ジスルフィド結合は、抗原ペプチドのカルボキシ末端から伸長するリンカー内に位置する第一のシステイン、およびMHCクラスI重鎖(例えば、抗原ペプチドの共有結合部位を有するMHCクラスIα(重)鎖)内に位置する第二のシステインを含む。特定の実施形態では、第二のシステインは、MHCクラスIα(重)鎖中の変異(付加または置換)であってもよい。特定の実施形態では、一本鎖分子は、一つの連続ポリペプチド鎖ならびにジスルフィド結合を含んでもよい。特定の実施形態では、一本鎖分子は、唯一の共有結合としてジスルフィド結合を介して結合した二つの連続ポリペプチド鎖を含んでもよい。一部の実施形態では、連結配列は、システインに加えて、一つもしくは複数のグリシン、一つもしくは複数のアラニン、および/または一つもしくは複数のセリンをはじめとする少なくとも一つのアミノ酸を含んでもよい。一部の実施形態では、一本鎖分子は、N末端からC末端に向けて、MHCクラスIペプチド(例えば、抗原性ペプチド)は、第一のシステインを含む第一のリンカー、ヒト(ヒト化)β2マイクログロブリン配列、第二のリンカー、第二のシステインを含むヒト(ヒト化)MHCクラスI重鎖配列を含み、この場合において当該第一のシステインと当該第二のシステインは、ジスルフィド結合を含む。一部の実施形態では、第二のシステインは、T80C、Y84CおよびN86Cからなる群から選択されるヒト(ヒト化)MHCクラスI重鎖のアミノ酸の置換である(Y84Cとは、成熟タンパク質中の108位の変異を指し、成熟タンパク質とはシグナル配列を欠くものである。あるいはタンパク質が24merのシグナル配列をまだ含んでいるときには、当該位置は代わりにY108Cと呼称される)。
【0175】
特定の実施形態では、ジスルフィド結合は、pMHC複合体が、ペプチドのC末端とβ2マイクログロブリンの間を伸長させるGly-Serリンカー中に第一のシステインを含み、近接する重鎖の位置に第二のシステインを含む場合には、pMHC複合体のクラスIの溝において抗原ペプチドを連結させてもよい。
【0176】
一部の実施形態では、β2マイクログロブリン配列は、全長(ヒトまたは非ヒト)β2マイクログロブリン配列を含んでもよい。特定の実施形態では、β2マイクログロブリン配列は、リーダーペプチド配列を欠いている。したがって、β2マイクログロブリン配列は、約99アミノ酸を含んでもよく、およびヒトβ2マイクログロブリン配列(Genebank AF072097.1)であってもよい。
【0177】
一部の実施形態では、pMHC複合体は、ヒトβ2マイクログロブリンと融合したヒトHLAクラスI分子を含む。一部の実施形態では、ヒトβ2マイクログロブリンと融合したヒトHLAクラスI分子は、例えば当該HLA分子と当該β2マイクログロブリンを連結させるリンカー、および/または当該ペプチドと、ヒトβ2マイクログロブリンと融合したヒトHLAクラスI分子を連結させるリンカーなど、一つまたは複数のリンカーを含む。一部の実施形態では、pMHC複合体をコードするヌクレオチド配列は、ヒトHLAおよびβ2マイクログロブリンをコードする配列を含み得る。一部の実施形態では、pMHC複合体をコードするヌクレオチド配列は、ヒトHLAおよびβ2マイクログロブリン、ならびに一つまたは複数のリンカーをコードする配列を含み得る。一部の実施形態では、pMHC複合体をコードするヌクレオチド配列は、ヒトHLAとβ2マイクログロブリンをコードする配列、および標識(例えば緑色蛍光タンパク質)またはタグ(例えばc-myc、ヒスチジンタグなど)をコードする配列を含み得る。一部の実施形態では、pMHC複合体をコードするヌクレオチド配列は、ヒトHLAおよびβ2マイクログロブリンをコードする配列、リンカーをコードする配列、ならびに標識またはタグをコードする配列を含み得る。例示的なヒトHLAおよびβ2マイクログロブリン、ならびに一つまたは複数のリンカーをコードするヌクレオチド配列の非限定的な例は、配列番号17および配列番号19として記載される。それからコードされるアミノ酸配列はそれぞれ、配列番号18および配列番号20として記載される。
【0178】
対象ペプチドは、配列番号18および配列番号20のN末端GCGGSリンカー配列(配列番号21)に結合してもよく、この場合において当該リンカーのシステインは、ヒトHLA-A2ポリペプチドのY108Cアミノ酸とジスルフィド結合を形成する。したがって、一部の実施形態では、非ヒト動物は、配列番号18として記載される配列、または配列番号20として記載される配列を含むアミノ酸配列を含むpMHC複合体で免疫化、および/またはブーストされる。一部の実施形態では、非ヒト動物は、配列番号18または配列番号20として記載される配列を含むアミノ酸配列を有するpMHC複合体をコードするDNAで免疫化される。
【0179】
一部の実施形態では、例えばPADREなどのヘルパーT細胞エピトープは、一本鎖pMHC複合体のC末端に連結されてもよい。例えば、米国特許第6,413,935号およびAlexander J.et al.(1994)Immunity 1:751-61を参照のこと。それら各文献は、その全体で参照により本明細書に組み込まれる。一部の実施形態では、PADREは、一本鎖pMHC複合体のC末端に直接連結される。複数の実施形態では、PADREは、リンカーを介して一本鎖pMHC複合体のC末端に連結される。一部の実施形態では、本明細書に記載される免疫化プロトコールは、非ヒト動物に、C末端でPADREが連結した一本鎖pMHC複合体を投与することを含む。一部の実施形態では、C末端でPADREが連結した一本鎖pMHC複合体は、配列番号25に記載されるアミノ酸配列を含む。
【0180】
一部の実施形態では、pMHC複合体は、米国特許第4,478,82号、第6,011,146号、第8,895,020号、第8,992,937号、WO 96/04314、Mottez et al.J.Exp.Med.181:493-502,1995、Madden et al.Cell 70:1035-1048,1992、Matsumura et al.,Science 257:927-934,1992、Mage et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:10658-10662,1992、Toshitani et al,Proc.Nat’l Acad.Sci.93:236-240,1996、Chung et al,J.Immunol.163:3699-3708,1999、Uger and Barber,J.Immunol.160:1598-1605,1998、Uger et al.,J.Immunol.162,pp.6024-6028,1999、White et al.,J.Immunol.162:2671-2676,1999に記載されるpMHC複合体であり得る。
【0181】
一部の実施形態では、pMHC複合体は、クラスII MHCポリペプチド、またはその断片、変異体もしくは誘導体を含む。一つの個別の実施形態では、MHCは、クラスII MHC分子のαポリペプチドおよびβポリペプチド、またはその断片、変異体もしくは誘導体を含む。一つの個別の実施形態では、αポリペプチドおよびβポリペプチドは、ペプチドリンカーによって連結される。一つの個別の実施形態では、MHCは、HLA-DP、HLA-DR、HLA-DQ、HLA-DM、およびHLA-DOからなる群から選択されるヒトクラスII MHC分子のαポリペプチドおよびβポリペプチドを含む。
【0182】
MHCクラスII分子は概して、αおよびβの二つのポリペプチド鎖からなる。当該鎖は、DP、DQまたはDR遺伝子群に由来し得る。約40個の公知の異なるヒトMHCクラスII分子が存在している。全てが同じ基本構造を有しているが、その分子構造はわずかに異なっている。MHCクラスII分子は、13~18アミノ酸の長さのペプチドに結合する。
【0183】
一部の実施形態では、抗原性pMHC複合体は、一つまたは複数のMHCクラスIIα鎖を含む。一部の実施形態では、MHCクラスIIα鎖は、完全にヒトである。一部の実施形態では、MHCクラスIIα鎖は、ヒト化されている。ヒト化されたMHCクラスIIα鎖は、例えば、米国特許第8,847,005号および第9,043,996号、ならびに米国特許出願公開2014/0245467に記載されている。一部の実施形態では、ヒト化MHCクラスIIα鎖ポリペプチドは、ヒト細胞外ドメインと、別の種の細胞質ドメインを含む。一部の実施形態では、クラスIIα鎖は、HLA-DMA、HLA-DOA、HLA-DPA、HLA-DQAまたはHLA-DRAである。一部の実施形態では、クラスIIα鎖ポリペプチドは、ヒト化されたHLA-DMA、HLA-DOA、HLA-DPA、HLA-DQAおよび/またはHLA-DRAである。
【0184】
一部の実施形態では、ウイルス粒子は、一つまたは複数のMHCクラスIIβ鎖を含む。一部の実施形態では、MHCクラスIIβ鎖は、完全にヒトである。一部の実施形態では、MHCクラスIIβ鎖ポリペプチドは、ヒト化されている。ヒト化されたMHCクラスIIβ鎖ポリペプチドは、例えば、米国特許第8,847,005号および第9,043,996号、ならびに米国特許出願公開2014/0245467に記載されている。一部の実施形態では、ヒト化MHCクラスIIβ鎖は、ヒト細胞外ドメインと、別の種の細胞質ドメインを含む。一部の実施形態では、クラスIIβ鎖は、HLA-DMB、HLA-DOB、HLA-DPB、HLA-DQBまたはHLA-DRBである。一部の実施形態では、クラスIIβ鎖は、ヒト化されたHLA-DMB、HLA-DOB、HLA-DPB、HLA-DQBおよび/またはHLA-DRBである。
【0185】
一部の実施形態では、抗原性pMHC複合体中に含まれる例えばペプチドなどの抗原決定基は、当該pMHC複合体が、例えば特定の様式でTCRに結合することができるよう、MHCタンパク質に結合する能力を有する任意のペプチドを含んでもよい。
【0186】
例としては、加水分解により生成されるペプチド、最も典型的には、合成で生成されたペプチドが挙げられ、無作為に生成されたペプチド、具体的に設計されたペプチド、およびアミノ酸位置の少なくともいくつかは一部のペプチド間で保存され、残りの位置は無作為であるペプチドが含まれる。
【0187】
自然界では、加水分解により生成されるペプチドは、加水分解を経て、MHCタンパク質に抗原が結合する。クラスI MHCは、典型的には、細胞の細胞質で能動的に合成されたタンパク質から誘導されたペプチドを提示する。対照的に、クラスII MHCは、典型的には、細胞のエンドサイトーシス経路に入る外因性タンパク質、またはERで合成されたタンパク質のいずれかから誘導されたペプチドを提示する。細胞内輸送により、ペプチドは、MHCタンパク質と関連付けられる。
【0188】
ペプチドとMHCペプチド結合溝の結合は、TCRにより認識されるMHCおよび/またはペプチドのアミノ酸残基の空間的配置を制御することができ、または本明細書に開示される遺伝子改変動物により産生されるpMHC結合タンパク質を制御することができる。そうした空間的制御は、部分的には、ペプチドとMHCタンパク質との間に形成された水素結合に依存している。どのようにペプチドが様々なMHCに結合するかについての知見に基づいて、主要MHCアンカーアミノ酸と、異なるペプチド間で変化する表面暴露アミノ酸が決定され得る。一部の実施形態では、MHC結合ペプチドの長さは、5~40アミノ酸残基、例えば6~30アミノ酸残基、例えば、8~20アミノ酸残基、例えば、9~11アミノ酸残基であり、すべての整数増分での5~40アミノ酸の間の任意の大きさのペプチドを含む(すなわち、5、6、7、8、9...40)。天然型MHCクラスII結合ペプチドは、約9~40アミノ酸で変化する。一方で、ほぼすべての場合で、ペプチドは、MHC結合能力またはT細胞認識を失うことなく、9~11アミノ酸のコアへと短縮されることができる。
【0189】
ペプチドは、例えば、自己免疫性障害と関連するヒト自己タンパク質、感染性物質(例えば、細菌、ウイルス、寄生体)のタンパク質、アレルゲン、および腫瘍関連タンパク質からなる群から選択されるタンパク質の抗原決定基などの少なくとも一部を含むペプチドを含む。一つの実施形態では、pMHC複合体は、自己免疫性障害と関連するヒト自己タンパク質の抗原決定基を含む。別の実施形態では、pMHC複合体は、アレルゲンの抗原決定基を含む。別の実施形態では、pMHC複合体は、細菌の抗原決定基を含む。別の実施形態では、pMHC複合体は、ウイルスの抗原決定基を含む。別の実施形態では、pMHC複合体は、寄生虫の抗原決定基を含む。
【0190】
柔軟なリンカーを介してMHCクラスI分子またはMHCクラスII分子にペプチドが結合することで、当該ペプチドが、生合成、輸送および提示の間、MHCを占有し、関連付けられて留まることが確保されるという利点がある。代替的なアプローチとして、一部の実施形態では、MHCとペプチドは別個に発現される。
【0191】
対象の抗原性pMHC複合体に特異的に結合する抗原結合タンパク質、同タンパク質を作製するための核酸構築体、細胞および方法。
一つの実施形態では、抗原性pMHC複合体に特異的に結合する抗原結合ドメインの可変ドメインをコードする核酸、および当該核酸を発現する細胞が提供される。
【0192】
一つの実施形態では、ヒト用治療剤の製造のための細胞株を作製するための非ヒト動物由来の核酸配列の使用が提供される。一つの実施形態では、ヒト用治療剤は、ヒト抗原結合ドメインとヒトFc領域を含む結合タンパク質である。
【0193】
一つの実施形態では、発現システムが提供され、当該システムは、ヒトCH領域と融合した体細胞変異したヒト重鎖可変ドメインを含むポリペプチドをコードする核酸、および/またはヒトCL領域と融合した体細胞変異したヒト軽鎖可変ドメインを含むポリペプチドをコードする核酸、を含む哺乳動物宿主細胞を含み、この場合において当該VHドメインとVLドメインは、同系である。
【0194】
一つの実施形態では、適切な宿主細胞は、B細胞、ハイブリドーマ、クアドローマ、CHO細胞、COS細胞、293細胞、HeLa細胞、およびウイルス核酸配列を発現するヒト網膜細胞(例えば、PERC.6(商標)細胞(Creative Biolabs社))から選択される。
【0195】
一つの実施形態では、結合タンパク質を作製する方法が提供され、当該方法は、本明細書に開示される非ヒト動物から細胞または核酸を単離することを含み、この場合において当該細胞または核酸は、対象pMHC複合体に特異的に結合する抗原結合タンパク質を含む、またはコードする。一部の実施形態では、当該方法はさらに、ヒトの重鎖または軽鎖の可変領域配列(これはヒスチジン改変ヒト重鎖可変ドメインおよび/またはヒスチジン改変ヒト軽鎖可変ドメインをコードし得、また同時に、あるいは独立して、ユニバーサル軽鎖可変ドメインであり得る)を、ヒトのCHまたはCL領域をコードする遺伝子とともにインフレームでコードするヌクレオチド配列をクローニングして、ヒト結合タンパク質配列を形成させること、および当該ヒト結合タンパク質配列を、適切な細胞中で発現させること、を含む。
【0196】
一つの実施形態では、非ヒト動物は、対象pMHC複合体で免疫化され、ヒト抗原結合ドメインは、対象pMHC複合体のエピトープに特異的に(マイクロモル、ナノモル、またはピコモルの範囲のKDで)結合する。一つの実施形態では、VHドメインおよび/またはVLドメインをコードするヌクレオチド配列は、非ヒト動物中で体細胞変異される。
【0197】
一つの実施形態では、対象pMHC複合体に結合する抗原結合タンパク質を作製する方法が提供され、当該方法は、
(1)非ヒト動物を、対象pMHC複合体で免疫化することであって、この場合において当該非ヒト動物は、自身のゲノム中に、
(i)ヒト(ヒト化)MHC分子または少なくともそのペプチド結合部分をコードするヌクレオチド配列、および
(ii)(非)再構成ヒトもしくはヒト化免疫グロブリン重鎖座位および/または(非)再構成ヒトもしくはヒト化免疫グロブリン軽鎖座位、を含み、それにより当該非ヒト動物は、例えばヒトまたはヒト化可変ドメインなどのヒトまたはヒト化抗原結合ドメインを含むヒトまたはヒト化抗原結合タンパク質を提供する能力を有し、
任意で、この場合において当該(非)再構成ヒトもしくはヒト化免疫グロブリン重鎖座位および/または(非)再構成ヒトもしくはヒト化免疫グロブリン軽鎖座位のうちの少なくとも一つは、再構成されていないこと、
(2)当該非ヒト動物に、対象pMHC複合体、または担体に連結された対象pMHC複合体に対する免疫反応を開始させること、
(3)当該免疫化非ヒト動物から細胞(例えばリンパ球)を単離させることであって、この場合において当該細胞は、対象pMHC複合体に特異的に結合する抗原結合ドメインを形成するヒト重鎖可変ドメインとヒト軽鎖可変ドメイン(それら各々が独立してヒスチジン改変されていてもよく、およびその軽鎖可変ドメインは、共通軽鎖可変ドメインであってもよい)をコードする第一および第二の免疫グロブリン可変領域核酸配列を含むこと、(4)対形成したときに、対象pMHC複合体に特異的に結合する、または担体に連結された対象pMHC複合体に特異的に結合する免疫グロブリン重鎖および軽鎖の可変ドメインをコードする免疫グロブリン重鎖および軽鎖の可変領域核酸配列を特定すること、および
(5)(d)の核酸配列を、抗原結合タンパク質の発現に適した発現系で発現させ、対象pMHC複合体に結合する重鎖可変ドメインと軽鎖可変ドメインの二量体を含む抗原結合タンパク質を形成させること、を含む。
【0198】
一部の実施形態では、対象pMHC複合体に結合する抗原結合タンパク質を作製する方法が提供され、当該方法は、
(1)非ヒト動物を、対象pMHC複合体で免疫化することであって、この場合において当該非ヒト動物は、自身のゲノム中に、
(i)ヒト(ヒト化)MHC分子または少なくともそのペプチド結合部分をコードするヌクレオチド配列、および
(ii)(非)再構成ヒトもしくはヒト化免疫グロブリン重鎖座位および/または(非)再構成ヒトもしくはヒト化免疫グロブリン軽鎖座位、を含み、それにより当該非ヒト動物は、例えばヒトまたはヒト化可変ドメインなどのヒトまたはヒト化抗原結合ドメインを含むヒトまたはヒト化抗原結合タンパク質を提供する能力を有し、
任意で、この場合において当該(非)再構成ヒトもしくはヒト化免疫グロブリン重鎖座位および/または(非)再構成ヒトもしくはヒト化免疫グロブリン軽鎖座位のうちの少なくとも一つは、再構成されていないこと、
(2)対象pMHC複合体に特異的に結合する抗体のヒト(ヒト化)免疫グロブリン重鎖可変ドメインおよび/またはヒト(ヒト化)免疫グロブリン軽鎖可変ドメインをそれぞれコードするヒト(ヒト化)免疫グロブリン重鎖可変領域配列および/またはヒト(ヒト化)免疫グロブリン軽鎖可変領域配列を取得すること、
(c)当該ヒト(ヒト化)免疫グロブリン重鎖可変領域配列および/またはヒト(ヒト化)免疫グロブリン軽鎖可変領域配列を採用して、pMHCに結合する抗体を生成すること、を含む。
【0199】
一部の実施形態では、細胞(例えばB細胞)は、非ヒト動物から(例えば脾臓またはリンパ節から)回収される。細胞を骨髄腫細胞株と融合させて不死化ハイブリドーマ細胞株を調製してもよく、そうしたハイブリドーマ細胞株をスクリーニングおよび選択して、免疫化に使用される抗原に特異的なハイブリッド重鎖を含有する抗体を産生するハイブリドーマ細胞株を特定する。
【0200】
一つの実施形態では、免疫化は、非ヒト動物に、対象pMHC複合体を用いてプライミングすること(例えば、投与すること)、当該非ヒト動物に一定期間、休息させること、そして当該非ヒト動物を、対象pMHC複合体を用いて再免疫化する(例えば当該非ヒト動物の免疫反応をブーストする)ことを含む。一部の実施形態では、方法は、例えば汎DR Tヘルパーエピトープ(PADRE)などのヘルパーT細胞エピトープを併用して非ヒト動物を免疫化および/またはブーストすることを含む。例えば、米国特許第6,413,935号およびAlexander J.et al.(1994)Immunity 1:751-61を参照のこと。それら各文献は、その全体で参照により本明細書に組み込まれる。一部の実施形態では、方法は、非ヒト動物を、対象pMHC複合体でプライミングすること、および例えばPADREなどのヘルパーT細胞エピトープと連結された対象pMHC複合体を用いて、当該免疫化動物をブーストすること、を含む。一部の実施形態では、方法は、非ヒト動物を、ヘルパーT細胞エピトープと連結された対象pMHC複合体を用いて、プライミングおよびブーストの両方を行うことを含む。PADREを用いてプライミングおよび/またはブーストを行うことを含む実施形態では、非ヒト動物は、C57/Bl6の遺伝的背景を備えたマウスである。例えば、非ヒト動物は、C57BL/A、C57BL/An、C57BL/GrFa、C57BL/KaLwN、C57BL/6、C57BL/6J、C57BL/6ByJ、C57BL/6NJ、C57BL/10、C57BL/10ScSn、C57BL/10CおよびC57BL/Olaから選択されるC57BL系統のマウスであるか、または前述のC57BL/6系統と別の系統の雑種、例えば129、BALBなどである。一部の実施形態では、非ヒト動物のプライミングと非ヒト動物のブーストの間の期間は、数日、少なくとも1週間、少なくとも2週間、少なくとも3週間、少なくとも4週間、または少なくとも1カ月である。
【0201】
一つの実施形態では、非ヒト動物中で生成された免疫グロブリン可変領域(VR)(例えば、再構成されたヒトVH/DH/JH遺伝子配列、または再構成されたヒトVL/JL遺伝子配列を含み、それらは各々、および独立して、ヒスチジン改変された再構成ヒトVH/DH/JH遺伝子配列または再構成ヒトVL/JL遺伝子配列であってもよく、そして後者はさらに、または独立して、共通再構成ヒトVL/JL遺伝子配列であってもよい)が提供される。一つの実施形態では、再構成VH/DH/JH遺伝子配列は、一つまたは複数のヒト重鎖定常領域配列(例えば、ヒトまたはマウスのCH1、ヒンジ、CH2、CH3、およびそれらの組み合わせ)と融合し、または再構成VL/JL遺伝子配列は、ヒト軽鎖定常領域配列と融合される。本明細書において、本発明の実施形態の非ヒト動物において生成される、および/または当該非ヒト動物から単離された核酸配列によりコードされる、結合タンパク質の免疫グロブリン可変ドメインのアミノ酸配列も提供される。
【0202】
一つの実施形態では、本発明の実施形態の非ヒト動物において生成される、または本発明の実施形態のマウスにおいて生成される配列から誘導された、結合タンパク質またはその抗原結合断片(例えば、Fab、F(ab)2、scFv)が提供される。
【0203】
二特異性結合タンパク質
対象pMHC複合体に特異的に結合するヒト可変ドメインを含む免疫グロブリン様結合タンパク質が提供される。そうした結合タンパク質を発現する細胞、当該細胞を生成するマウス、ならびに関連の方法および組成物も提供される。
【0204】
一部の実施形態では、結合タンパク質、および当該結合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を使用して、例えば二特異性結合タンパク質などの多特異性結合タンパク質が作製され得る。この実施形態では、第一の重鎖可変ドメインを含む第一のポリペプチドは、第二の重鎖可変ドメインを含む第二のポリペプチドと関連付けられ得る。第一の重鎖可変ドメインと第二の重鎖可変ドメインが、異なるエピトープに特異的に結合する場合、二特異性結合分子は、二つの重鎖可変ドメインを使用して作製され得る。CH領域は、同一であっても、異なっていてもよい。一つの実施形態では、例えばCH領域の一つが改変されてプロテインA結合決定基が取り除かれてもよく、一方で、他の重鎖定常領域はそのようには改変されない(例えば、米国特許第8,586,713 B2号を参照のこと。当該特許は、その全体で参照により本明細書に組み込まれる)。この固有配置により、例えばホモ二量体(例えば第一または第二のポリペプチドのホモ二量体)の混合物などからの二特異性結合タンパク質の単離が簡略化される。一部の実施形態では、二特異性pMHC結合タンパク質は、プロテインA結合に関してヘテロ二量体性であってもよく、および
a.N末端からC末端に向かって、第一のエピトープに選択的に結合する第一のエピトープ結合領域、IgG1、IgG2およびIgG4から選択されるヒトIgGの第一のCH3領域を含む免疫グロブリン定常領域を含む第一のポリペプチドであって、当該第一のCH3領域は、プロテインAに結合するもの、および
b.N末端からC末端に向かって、第二のエピトープに選択的に結合する第二のエピトープ結合領域、IgG1、IgG2およびIgG4から選択されるヒトIgGの第二のCH3領域を含む免疫グロブリン定常領域を含む第二のポリペプチドであって、当該第二のCH3領域は、プロテインAに対する当該第二のCH3領域の結合を低下させる、または抹消させる改変を含むもの、を含んでもよい。一部の実施形態では、改変は、IMGTエクソンナンバリングシステムの(a)95R、ならびに(b)95Rおよび96F、またはEUナンバリングシステムの(a’)435R、ならびに(b’)435Rおよび436F、からなる群から選択される。一部の実施形態では、第二のCH3領域はさらに、IMGTエクソンナンバリングシステムで、16E、18M、44S、52N、57Mおよび82I、またはEUナンバリングシステムで356E、358M、384S、392N、397Mおよび422Iからなる群から選択される改変を1~5個含む。
【0205】
一つの実施形態では、方法および組成物を使用して、二特異性結合タンパク質が作製される。この実施形態では、CH領域に融合される第一のVH、およびCH領域に融合される第二のVHはそれぞれ独立して、同アイソタイプのヒトIgG配列(例えば、ヒトIgG1、IgG2、またはIgG4)とともにインフレームでクローニングされる。第一のVHは、第一のpMHC複合体に特異的に結合し、第二のVHは、第二のpMHC複合体に特異的に結合する。第一および第二のエピトープは、異なるpMHC複合体上にあってもよく、または同じpMHC複合体上にあってもよい。
【0206】
一つの実施形態では、第一のVHに融合されるCH領域のIgGアイソタイプ、および第二のVHに融合されるCH領域のIgGアイソタイプは、同じアイソタイプであるが、一つのIgGアイソタイプは、少なくとも一つのアミノ酸置換を含むという点で異なっている。一つの実施形態では、当該少なくとも一つのアミノ酸置換によって、当該置換を担持する重鎖は、当該置換を欠く重鎖と比較して、プロテインAに結合することができなくなるか、または実質的に結合することができなくなる。
【0207】
一つの実施形態では、第一のCH領域は、IgG1、IgG2およびIgG4から選択されるヒトIgGの第一のCH3ドメインを含み、第二のCH領域は、IgG1、IgG2およびIgG4から選択されるヒトIgGの第二のCH3ドメインを含み、この場合において当該第二のCH3ドメインは、プロテインAへの当該第二のCH3ドメインの結合を低下させる、または消滅させる改変を含む(米国特許第8,586,713B2号を参照のこと。当該特許は、参照によりその全体で本明細書に組み込まれる)。
【0208】
一つの実施形態では、第二のCH3ドメインは、EUナンバリングシステムに従って番号付けされた435R改変を含む。別の実施形態では、第二のCH3ドメインは、EUナンバリングシステムに従って番号付けされた436F改変をさらに含む。
【0209】
一つの実施形態では、第二のCH3ドメインは、EUナンバリングシステムに従って番号付けされたD356E、L358M、N384S、K392N、V397M、およびV422Iからなる群から選択される改変を含むヒトIgG1のCH3ドメインである。
【0210】
一つの実施形態では、第二のCH3ドメインは、EUナンバリングシステムに従って番号付けされたN384S、K392N、およびV422Iからなる群から選択される改変を含むヒトIgG2のCH3ドメインである。
【0211】
一つの実施形態では、第二のCH3ドメインは、EUナンバリングシステムに従って番号付けされたQ355R、N384S、K392N、V397M、R409K、E419Q、およびV422Iからなる群から選択される改変を含むヒトIgG4のCH3ドメインである。
【0212】
一つの実施形態では、結合タンパク質は、本明細書に列挙される改変を一つまたは複数有するCH領域を含み、この場合において当該結合タンパク質の定常領域は、ヒトにおいて非免疫原性であるか、または実質的に非免疫原性である。個別の実施形態では、CH領域は、ヒトの免疫原性エピトープが存在しないアミノ酸配列を含む。別の個別の実施形態では、結合タンパク質は、野生型ヒト重鎖中には存在しないCH領域を含み、および当該CH領域は、T細胞エピトープを生成する配列を含まない。
【0213】
一つの実施形態では、Fcドメインを改変して、Fc受容体結合を変化させてもよく、その結果として、エフェクター機能が影響を受ける。Fcドメインを含む操作された重鎖定常領域(CH)は、キメラであってもよい。したがってキメラCH領域は、複数の免疫グロブリンアイソタイプから誘導されたCHドメインを組み合わせている。例えば、キメラCH領域は、ヒトIgG1、ヒトIgG2、またはヒトIgG4分子から誘導されたCH3ドメインの一部またはすべてと組み合わせられた、ヒトIgG1、ヒトIgG2、またはヒトIgG4分子から誘導されたCH2ドメインの一部またはすべてを含む。キメラCH領域は、キメラヒンジ領域も含有し得る。例えば、キメラヒンジは、ヒトIgG1ヒンジ領域、ヒトIgG2ヒンジ領域またはヒトIgG4ヒンジ領域から誘導された「下部ヒンジ」配列(EUナンバリングに従う228位~236位のアミノ酸残基)と組み合わされた、ヒトIgG1ヒンジ領域、ヒトIgG2ヒンジ領域またはヒトIgG4ヒンジ領域から誘導された「上部ヒンジ」アミノ酸配列(EUナンバリングに従う216位~227位のアミノ酸残基)を含んでもよい。一つの実施形態では、キメラヒンジ領域は、ヒトIgG1またはヒトIgG4上部ヒンジから誘導されたアミノ酸残基と、ヒトIgG2下部ヒンジから誘導されたアミノ酸残基とを含む。
【0214】
特定の療法に関し、Fcドメインは、Fc含有タンパク質(例えば、抗体)の所望の薬物動態特性に影響を与えることなく、正常なFcエフェクター機能のうちのすべて、一部を活性化するように、あるいはいずれをも活性化しないように作製され得る。キメラCH領域を含み、エフェクター機能が改変されたタンパク質の例については、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第9,359,437号を参照のこと。一部の実施形態では、pMHC-結合タンパク質は、N末端からC末端に向かって、CH1ドメイン、キメラヒンジ、CH2ドメインおよびCH3ドメインを含む重鎖定常(CH)領域を含む組み換えポリペプチドを含み、この場合において、(a)当該CH1ドメインは、212位~215位(EUナンバリング)にDKKVまたはDKRVのアミノ酸配列を含み、(b)当該キメラヒンジは、216位~227位(EUナンバリング)にヒトIgG1またはヒトIgG4の上部ヒンジアミノ酸配列、および228位~236位(EUナンバリング)にPCPAPPVA(配列番号29)のヒトIgG2の下部ヒンジアミノ酸配列を含み、(c)当該CH2ドメインは、配列番号10のアミノ酸配列を含む237位~340位(EUナンバリング)にヒトIgG4 CH2ドメインのアミノ酸配列を含み、および(d)当該CH3ドメインは、341位~447位(EUナンバリング)にヒトIgG1またはヒトIgG4のCH3ドメイン配列を含む。
【0215】
一部の実施形態では、二特異性抗体は、第一のVHおよび第二のVHを有してもよく、それぞれが、自身の同系VLドメインと共通の軽鎖を有する。
【0216】
内因性ペプチドに対する寛容の破壊
抗原性pMHCを用いた非ヒト動物(例えば、齧歯類、例えば、マウスまたはラット)の免疫化による、特異的pMHC-結合タンパク質の獲得は、当該非ヒト動物の免疫系が、非自己(すなわち外因性)として対象pMHC複合体を認識することが可能となる、非ヒト動物中の内因性タンパク質と提示される異種タンパク質の間の配列の相違に依存する。自己pMHCと高度な相同性を有するpMHCに対する抗体の生成は、自己pMHCに対する免疫寛容によって、困難な課題となる可能性がある。対象ペプチドと相同な自己ペプチドに対する寛容を破壊する方法は、当業者に公知である。例えば、米国特許出願公開20170332610を参照のこと。当該文献は、その全体で参照により本明細書に組み込まれる。一部の実施形態では、内因性ペプチドに対する寛容を破壊する方法は、本明細書に記載の非ヒト動物を改変して、対象ペプチドと高度な相同性を有する自己ペプチドの削除、例えばノックアウト変異を含ませることを含む。
【0217】
医薬組成物
特定の実施形態では、本明細書において、薬学的に許容可能な担体と共に製剤化された少なくとも一つのpMHC-結合タンパク質を含有する組成物、例えば医薬組成物が提供される。
【0218】
本明細書に提供される医薬組成物は、以下に対して適合された形態を含む、固形形態または液体形態での投与に対し、特に製剤化されてもよい:(1)経口投与、例えば、水薬(水性もしくは非水性の溶液または懸濁液)、錠剤、例えば口腔吸収、舌下吸収および全身吸収を目的とした錠剤、丸薬、粉末、顆粒、舌への適用のためのペースト、または(2)例えば滅菌溶液、または滅菌懸濁液、または滅菌徐放製剤として例えば皮下注射、筋肉内注射、静脈内注射、または硬膜外注射による非経口投与。
【0219】
一部の実施形態では、非経口投与に適した本明細書において提供される医薬組成物は、一つまたは複数の薬学的に許容可能な滅菌等張性の水溶液もしくは非水溶液、分散液、懸濁液もしくはエマルション、または使用直前に滅菌注射溶液または滅菌注射分散液へと再構成され得る滅菌粉末と組み合わされた、本発明の特定の実施形態の一つまたは複数の治療剤を含み、それらは糖類、アルコール類、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、意図されるレシピエントの血液と製剤を等張にさせる溶質、または懸濁剤もしくは増粘剤を含有してもよい。
【0220】
本明細書に提供される医薬組成物に採用され得る適切な水性担体および非水性担体の例としては、水、エタノール、ポリオール(例えば限定されないが、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、およびそれらの適切な混合物、例えばオリーブオイルなどの植物油、ならびに例えばオレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステル類が挙げられる。例えばレシチンなどのコーティング物質の使用により、分散液の場合には必要な粒子サイズを維持することにより、および界面活性剤の使用により、適切な流動性が維持され得る。
【0221】
特定の実施形態では、組成物は、所望の投与に適したw/vを生じさせる濃度で、pMHC-結合タンパク質を含む。pMHC-結合タンパク質は、少なくとも1mg/mL、少なくとも5mg/mL、少なくとも10mg/mL、少なくとも15mg/mL、少なくとも20mg/mL、少なくとも25mg/mL、少なくとも30mg/mL、少なくとも35mg/mL、少なくとも40mg/mL、少なくとも45mg/mL、少なくとも50mg/mL、少なくとも55mg/mL、少なくとも60mg/mL、少なくとも65mg/mL、少なくとも70mg/mL、少なくとも75mg/mL、少なくとも80mg/mL、少なくとも85mg/mL、少なくとも90mg/mL、少なくとも95mg/mL、少なくとも100mg/mL、少なくとも105mg/mL、少なくとも1
10mg/mL、少なくとも115mg/mL、少なくとも120mg/mL、少なくとも125mg/mL、少なくとも130mg/mL、少なくとも135mg/mL、少なくとも140mg/mL、少なくとも150mg/mL、少なくとも200mg/mL、少なくとも250 mg/mL、または少なくとも300mg/mLの濃度で組成物中に存在してもよい。一部の実施形態では、pMHC-結合タンパク質は、1mg/mL~300mg/mLの濃度で組成物中に存在してもよい。一部の実施形態では、pMHC-結合タンパク質は、5mg/mL~250mg/mLの濃度で組成物中に存在してもよい。一部の実施形態では、pMHC-結合タンパク質は、10mg/mL~200mg/mLの濃度で組成物中に存在してもよい。一部の実施形態では、pMHC-結合タンパク質は、15mg/mL~150mg/mLの濃度で組成物中に存在してもよい。一部の実施形態では、pMHC-結合タンパク質は、20mg/mL~140mg/mLの濃度で組成物中に存在してもよい。一部の実施形態では、pMHC-結合タンパク質は、25mg/mL~135mg/mLの濃度で組成物中に存在してもよい。一部の実施形態では、pMHC-結合タンパク質は、30mg/mL~130mg/mLの濃度で組成物中に存在してもよい。一部の実施形態では、pMHC-結合タンパク質は、35mg/mL~125mg/mLの濃度で組成物中に存在してもよい。一部の実施形態では、pMHC-結合タンパク質は、40mg/mL~120mg/mLの濃度で組成物中に存在してもよい。一部の実施形態では、pMHC-結合タンパク質は、45mg/mL~115mg/mLの濃度で組成物中に存在してもよい。一部の実施形態では、pMHC-結合タンパク質は、50mg/mL~110mg/mLの濃度で組成物中に存在してもよい。
【0222】
一部の実施形態では、治療される特定の症状に必要な一つまたは複数の活性化合物、典型的には、互いに有害な影響を与えない補完的な活性を有する化合物を一つまたは複数含む。そのような追加の活性化合物は、意図される目的に対し有効な量で併用されて適切に存在する。
一部の実施形態では、組成物は、pMHC-結合タンパク質と、限定されないが緩衝剤、糖類、塩類、界面活性剤、可溶化剤、ポリオール類、希釈剤、結合剤、安定剤、塩類、親油性溶媒、アミノ酸、キレーター、保存剤などをはじめとする任意の生理学的に許容可能な担体、賦形剤または安定剤を、所望の最終濃度で、凍結乾燥組成物の形態で、または水性溶液の形態で、混合させることにより調製される(Goodman and Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics,12th edition,L.Brunton,et al.and Remington’s Pharmaceutical Sciences,16th
edition,Osol,A.Ed.(1999))。許容可能な担体、賦形剤または安定剤は、採用される用量および濃度でレシピエントに対し非毒性であり、例えばヒスチジン、リン酸塩、クエン酸塩、グリシン、酢酸塩、および他の有機酸などの緩衝剤;アスコルビン酸およびメチオニンをはじめとする抗酸化剤;保存剤(例えばオクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンズアルコニウム;塩化ベンズエトニウム;フェノール、ブチルまたはベンジルアルコール;例えばメチルまたはプロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール;レソルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;およびm-クレゾール);低分子量(10~15残基未満)ポリペプチド;例えば血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリンなどのタンパク質;例えばポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;例えばグリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニンまたはリシンなどのアミノ酸;トレハロース、グルコース、マンノースまたはデキストリンを含む単糖、二糖および他の炭水化物;例えばEDTAなどのキレート剤;例えばスクロース、マンニトール、トレハロースまたはソルビトールなどの糖類;例えばナトリウムなどの塩形成カウンターイオン;金属錯体(例えばZn-タンパク質錯体);および/または例えばTWEEN(登録商標)、ポリソルベート80、PLURONICS(登録商標)またはポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤が挙げられる。
【0223】
一部の実施形態では、緩衝剤は、ヒスチジン、クエン酸塩、リン酸塩、グリシンまたは酢酸塩である。糖賦形剤は、トレハロース、スクロース、マンニトール、マルトースまたはラフィノースであってもよい。界面活性剤は、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート80、またはPluronic(登録商標)F68であってもよい。塩は、NaCl、KCl、MgCl2、またはCaCl2であってもよい。
【0224】
一部の実施形態では、組成物は、pH制御の改善をもたらすための緩衝剤またはpH調整剤を含む。そうした組成物は、約3.0~約9.0、約4.0~約8.0、約5.0~約8.0、約5.0~約7.0、約5.0~約6.5、約5.5~約8.0、約5.5~約7.0、または約5.5~約6.5のpHを有してもよい。さらなる実施形態では、そうした組成物は、約3.0、約3.5、約4.0、約4.5、約5.0、約5.1、約5.2、約5.3、約5.4、約5.5、約5.6、約5.7、約5.8、約5.9、約6.0、約6.1、約6.2、約6.3、約6.4、約6.5、約6.6、約6.7、約6.8、約6.9、約7.0、約7.5、約8.0、約8.5、または約9.0のpHを有する。個別の実施形態では、組成物は約6.0のpHを有する。
【0225】
一部の実施形態では、組成物は、pH制御の改善をもたらすための緩衝剤またはpH調整剤を含む。そうした組成物は、3.0~9.0、4.0~8.0、5.0~8.0、5.0~7.0、5.0~6.5、5.5~8.0、5.5~7.0、または5.5~6.5のpHを有してもよい。さらなる実施形態では、そうした組成物は、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.1、5.2、5.3、5.4、5.5、5.6、5.7、5.8、5.9、6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、7.0、7.5、8.0、8.5、または9.0のpHを有する。個別の実施形態では、組成物は、6.0のpHを有する。
【0226】
当業者であれば、組成物のpHは概して、当該組成物中で使用される特定のpMHC-結合タンパク質の等電点と等しくはないことを理解する。典型的には、緩衝剤は、有機もしくは無機の酸または塩基から調製される塩である。代表的な緩衝剤としては限定されないが、クエン酸、アスコルビン酸、グルコン酸、炭酸、酒石酸、コハク酸、酢酸、またはフタル酸の塩などの有機酸塩、トリス、トロメタミン塩酸塩、またはリン酸塩の緩衝剤が挙げられる。加えて、アミノ酸成分も、緩衝能力において機能し得る。組成物中で緩衝剤として利用され得る代表的なアミノ酸成分としては限定されないが、グリシンおよびヒスチジンが挙げられる。特定の実施形態では、緩衝剤は、ヒスチジン、クエン酸塩、リン酸塩、グリシン、および酢酸塩から選択される。個別の実施形態では、緩衝剤は、ヒスチジンである。別の個別の実施形態では、緩衝剤は、クエン酸塩である。さらに別の個別の実施形態では、緩衝剤は、グリシンである。緩衝剤の純度は、少なくとも98%、または少なくとも99%、または少なくとも99.5%でなければならない。本明細書において使用される場合、ヒスチジンおよびグリシンの文脈における「純度」という用語は、当分野において理解されるヒスチジンまたはグリシンの化学的純度を指し、例えば、The Merck Index,13th ed.,O’Neil et al.ed.(Merck & Co.,2001)に記載されている。当該文献は、その全体で参照により本明細書に組み込まれる。
【0227】
特定の実施形態では、組成物は、緩衝剤としてヒスチジンを含む。特定の実施形態では、ヒスチジンは、少なくとも約1mM、少なくとも約5mM、少なくとも約10mM、少なくとも約20mM、少なくとも約30mM、少なくとも約40mM、少なくとも約50mM、少なくとも約75mM、少なくとも約100mM、少なくとも約150mM、または少なくとも約200mMのヒスチジン濃度で、組成物中に存在する。別の実施形態では、組成物は、約1mM~約200mM、約1mM~約150mM、約1mM~約100mM、約1mM~約75mM、約10mM~約200mM、約10mM~約150mM、約10mM~約100mM、約10mM~約75mM、約10mM~約50mM、約10mM~約40mM、約10mM~約30mM、約20mM~約75mM、約20mM~約50mM、約20mM~約40mM、または約20mM~約30mMのヒスチジンを含む。さらなる実施形態では、組成物は、約1mM、約5mM、約10mM、約20mM、約25mM、約30mM、約35mM、約40mM、約45mM、約50mM、約60mM、約70mM、約80mM、約90mM、約100mM、約150mM、または約200mMのヒスチジンを含む。個別の実施形態では、組成物は、約10mMまたは約25mMのヒスチジンを含んでもよく、またはヒスチジンを含まなくてもよい。
【0228】
特定の実施形態では、組成物は、緩衝剤としてヒスチジンを含む。特定の実施形態では、ヒスチジンは、少なくとも1mM、少なくとも5mM、少なくとも10mM、少なくとも20mM、少なくとも30mM、少なくとも40mM、少なくとも50mM、少なくとも75mM、少なくとも100mM、少なくとも150mM、または少なくとも200mMのヒスチジン濃度で、組成物中に存在する。別の実施形態では、組成物は、1mM~200mM、1mM~150mM、1mM~100mM、1mM~75mM、10mM~200mM、10mM~150mM、10mM~100mM、10mM~75mM、10mM~50mM、10mM~40mM、10mM~30mM、20mM~75mM、20mM~50mM、20mM~40mM、または20mM~30mMのヒスチジンを含む。さらなる実施形態では、組成物は、1mM、5mM、10mM、20mM、25mM、30mM、35mM、40mM、45mM、50mM、60mM、70mM、80mM、90mM、100mM、150mM、または200mMのヒスチジンを含む。個別の実施形態では、組成物は、10mMまたは25mMのヒスチジンを含んでもよく、またはヒスチジンを含まなくてもよい。
【0229】
一部の実施形態では、組成物は、炭水化物賦形剤を含む。炭水化物賦形剤は、例えば、粘性強化剤、安定剤、増量剤、可溶化剤、および/またはこれに類するものとして作用し得る。炭水化物賦形剤は概して、体積または重量で約1%~約99%、例えば、約0.1%~約20%、約0.1%~約15%、約0.1%~約5%、約1%~約20%、約5%~約15%、約8%~約10%、約10%~約15%、約15%~約20%、0.1%~20%、5%~15%、8%~10%、10%~15%、15%~20%、約0.1%~約5%、約5%~約10%、または約15%~約20%で存在する。さらに他の個別の実施形態では、炭水化物賦形剤は、1%、または1.5%、または2%、または2.5%、または3%、または4%、または5%、または10%、または15%、または20%で存在する。
【0230】
一部の実施形態では、組成物は、炭水化物賦形剤を含む。炭水化物賦形剤は、例えば、粘性強化剤、安定剤、増量剤、可溶化剤、および/またはこれに類するものとして作用し得る。炭水化物賦形剤は概して、体積または重量で1%~99%、例えば、0.1%~20%、0.1%~15%、0.1%~5%、1%~20%、5%~15%、8%~10%、10%~15%、15%~20%、0.1%~20%、5%~15%、8%~10%、10%~15%、15%~20%、0.1%~5%、5%~10%、または15%~20%で存在する。さらに他の個別の実施形態では、炭水化物賦形剤は、1%、または1.5%、または2%、または2.5%、または3%、または4%、または5%、または10%、または15%、または20%で存在する。
【0231】
一部の実施形態では、組成物は、炭水化物賦形剤を含む。組成物中での使用に適した炭水化物賦形剤としては限定されないが、例えばフルクトース、マルトース、ガラクトース、グルコース、D-マンノース、ソルボースなどの単糖類;例えばラクトース、スクロース、トレハロース、セロビオースなどの二糖類;例えばラフィノース、メレジトース、マルトデキストリン、デキストラン、デンプンなどの多糖類;および例えばマンニトール、キシリトール、マルチトール、ラクチトール、キシリトールソルビトール(グルシトール)などのアルジトールが挙げられる。特定の実施形態では、本明細書において提供される組成物中で使用するための炭水化物賦形剤は、スクロース、トレハロース、ラクトース、マンニトール、およびラフィノースから選択される。個別の実施形態では、炭水化物賦形剤は、トレハロースである。別の個別の実施形態では、炭水化物賦形剤は、マンニトールである。また別の個別の実施形態では、炭水化物賦形剤は、スクロースである。さらに別の個別の実施形態では、炭水化物賦形剤は、ラフィノースである。炭水化物賦形剤の純度は、少なくとも98%、または少なくとも99%、または少なくとも99.5%でなければならない。
【0232】
一部の実施形態では、組成物は、トレハロースを含む。特定の実施形態では、組成物は、少なくとも約1%、少なくとも約2%、少なくとも約4%、少なくとも約8%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、または少なくとも約40%のトレハロースを含む。別の実施形態では、組成物は、約1%~約40%、約1%~約30%、約1%~約20%、約2%~約40%、約2%~約30%、約2%~約20%、約4%~約40%、約4%~約30%、または約4%~約20%のトレハロースを含む。さらなる実施形態では、組成物は、約1%、約2%、約4%、約6%、約8%、約15%、約20%、約30%、または約40%のトレハロースを含む。個別の実施形態では、組成物は、約4%、約6%、または約15%のトレハロースを含む。
【0233】
一部の実施形態では、組成物は、トレハロースを含む。特定の実施形態では、組成物は、少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも4%、少なくとも8%、少なくとも20%、少なくとも30%、または少なくとも40%のトレハロースを含む。別の実施形態では、組成物は、1%~40%、1%~30%、1%~20%、2%~40%、2%~30%、2%~20%、4%~40%、4%~30%、または4%~20%のトレハロースを含む。さらなる実施形態では、組成物は、1%、2%、4%、6%、8%、15%、20%、30%、または40%のトレハロースを含む。個別の実施形態では、組成物は、4%、6%、または15%のトレハロースを含む。
【0234】
特定の実施形態では、組成物は、賦形剤を含む。個別の実施形態では、組成物は、糖、塩、界面活性剤、アミノ酸、ポリオール、キレート剤、乳化剤および保存剤から選択される少なくとも一つの賦形剤を含む。特定の実施形態では、組成物は、例えば、NaCl、KCl、CaCl2、およびMgCl2から選択される塩などの塩を含む。個別の実施形態では、組成物は、NaClを含む。
【0235】
一部の実施形態では、組成物は、例えば、リシン、アルギニン、グリシン、ヒスチジン、またはアミノ酸塩などのアミノ酸を含む。組成物は、少なくとも約1mM、少なくとも約10mM、少なくとも約25mM、少なくとも約50mM、少なくとも約100mM、少なくとも約150mM、少なくとも約200mM、少なくとも約250mM、少なくとも約300mM、少なくとも約350mM、または少なくとも約400mMのアミノ酸を含んでもよい。別の実施形態では、組成物は、約1mM~約100mM、約10mM~約150mM、約25mM~約250mM、約25mM~約300mM、約25mM~約350mM、約25mM~約400mM、約50mM~約250mM、約50mM~約300mM、約50mM~約350mM、約50mM~約400mM、約100mM~約250mM、約100mM~約300mM、約100mM~約400mM、約150mM~約250mM、約150mM~約300mM、または約150mM~約400mMのアミノ酸を含んでもよい。さらなる実施形態では、組成物は、約1mM、1.6mM、25mM、約50mM、約100mM、約150mM、約200mM、約250mM、約300mM、約350mM、または約400mMのアミノ酸を含む。
【0236】
一部の実施形態では、組成物は、例えば、リシン、アルギニン、グリシン、ヒスチジン、またはアミノ酸塩などのアミノ酸を含む。組成物は、少なくとも1mM、少なくとも10mM、少なくとも25mM、少なくとも50mM、少なくとも100mM、少なくとも150mM、少なくとも200mM、少なくとも250mM、少なくとも300mM、少なくとも350mM、または少なくとも400mMのアミノ酸を含んでもよい。別の実施形態では、組成物は、1mM~100mM、10mM~150mM、25mM~250mM、25mM~300mM、25mM~350mM、25mM~400mM、50mM~250mM、50mM~300mM、50mM~350mM、50mM~400mM、100mM~250mM、100mM~300mM、100mM~400mM、150mM~250mM、150mM~300mM、または150mM~400mMのアミノ酸を含んでもよい。さらなる実施形態では、組成物は、1mM、1.6mM、25mM、50mM、100mM、150mM、200mM、250mM、300mM、350mM、または400mMのアミノ酸を含む。
【0237】
一部の実施形態では、組成物は、界面活性剤を含む。「界面活性剤」という用語は、本明細書で使用される場合、両親媒性の構造を有する有機物質を指す。すなわち、界面活性剤は、対立する溶解性傾向の群から構成され、典型的には、油溶性の炭化水素鎖と水溶性のイオン基から構成される。界面活性剤は、表面活性部分の荷電に応じて、陰イオン性、陽イオン性、および非イオン性の界面活性剤に分類することができる。界面活性剤は、多くの場合、生体材料の様々な医薬組成物および調製物のための湿潤剤、乳化剤、可溶化剤、および分散剤として使用される。ポリソルベート類(例えばポリソルベート20、または80);ポロキサマー類(例えばポロキサマー188);トリトン(Triton);ナトリウムオクチルグリコシド;ラウリルスルホベタイン、ミリスチルスルホベタイン、リノレイルスルホベタイン、またはステアリルスルホベタイン;ラウリルサルコシン、ミリスチルサルコシン、リノレイルサルコシン、またはステアリルサルコシン;リノレイルベタイン、ミリスチルベタイン、またはセチルベタイン;ラウロアミドプロピルベタイン、コカミドプロピルベタイン、リノレアミドプロピルベタイン、ミリストアミドプロピルベタイン、パルミドプロピルベタイン、またはイソステアロアミドプロピルベタイン(例えば、ラウロアミドプロピル);ミリストアミドプロピルジメチルアミン、パルミドプロピルジメチルアミン、またはイソステアロアミドプロピルジメチルアミン;ナトリウムメチルココイルタウレート、または二ナトリウムメチルオレイルタウレート;ならびにMONAQUA(商標)シリーズ(Mona Industries,Inc.,ニュージャージー州パターソン)、ポリエチルグリコール、ポリプロピルグリコール、およびエチレンとプロピレングリコールのコポリマー(例えばPLURONICS(登録商標)PF68など)といった薬学的に許容可能な界面活性剤を任意で組成物に添加して、凝集を低下させることができる。特定の実施形態では、組成物は、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、またはポリソルベート80を含む。界面活性剤は、ポンプまたはプラスチック容器を使用して組成物が投与される場合に特に有用である。薬学的に許容可能な界面活性剤が存在することで、タンパク質の凝集傾向が軽減する。組成物は、約0.001%~約1%、または約0.001%~約0.1%、または約0.01%~約0.1%の範囲の濃度のポリソルベートを含んでもよい。他の個別の実施形態では、組成物は、0.001%、または0.002%、または0.003%、または0.004%、または0.005%、または0.006%、または0.007%、または0.008%、または0.009%、または0.01%、または0.015%、または0.02%の濃度のポリソルベートを含む。組成物は、0.001%~1%、または0.001%~0.1%、または0.01%~0.1%の範囲の濃度のポリソルベートを含んでもよい。他の個別の実施形態では、組成物は、0.001%、または0.002%、または0.003%、または0.004%、または0.005%、または0.006%、または0.007%、または0.008%、または0.009%、または0.01%、または0.015%、または0.02%の濃度のポリソルベートを含む。
【0238】
一部の実施形態では、組成物は、限定されないが、希釈剤、結合剤、安定剤、親油性溶媒、保存剤、アジュバント等をはじめとする他の賦形剤および/または添加剤を含む。薬学的に許容可能な賦形剤および/または添加剤は、本明細書に提供される組成物において使用されてもよい。例えば薬学的に許容可能なキレーター(例えば限定されないが、EDTA、DTPAまたはEGTA)などの普遍的に使用されている賦形剤/添加剤を任意で組成物に添加して、凝集を低下させることができる。これらの添加剤は、ポンプまたはプラスチック容器を使用して組成物が投与される場合に特に有用である。
【0239】
一部の実施形態では、組成物は、保存剤を含む。例えばフェノール、m-クレゾール、p-クレゾール、o-クレゾール、クロロクレゾール、ベンジルアルコール、亜硝酸フェニル水銀、フェノキシエタノール、ホルムアルデヒド、クロロブタノール、塩化マグネシウム(例えば限定されないが、六水和物)、アルキルパラベン(メチル、エチル、プロピル、ブチルなど)、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンズエトニウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、およびチメロサール、またはそれらの混合物などの保存剤を任意で、例えば0.001%~5%またはその間の任意の範囲もしくは値などの任意の適切な濃度で組成物に添加することができる。組成物中で使用される保存剤の濃度は、微生物効果を生じさせるのに充分な濃度である。当該濃度は、選択された保存剤に依存し、当業者によって容易に決定される。
【0240】
一部の実施形態では、組成物は、ヒト血液と等張であり、この場合において当該組成物は、ヒト血液と本質的に同じ浸透圧を有する。そうした等張組成物は概して、250mOSm~350mOSmの浸透圧を有する。等張性は、例えば蒸気圧または氷凍結型浸透圧計を使用して測定することができる。組成物の張性は、張性調節剤の使用によって調整される。「張性調節剤」は、組成物の等張性を提供するために、組成物に添加することができる薬学的に許容可能な不活性物質である。本明細書において提供される組成物に適した張性調節剤としては限定されないが、糖、塩およびアミノ酸が挙げられる。
【0241】
特定の実施形態では、組成物は、エンドトキシンおよび/または関連発熱性物質を実質的に含まない、発熱物質フリーの組成物である。エンドトキシンには、微生物内に封じ込められ、当該微生物が破壊または死亡した場合にのみ放出される毒素が含まれる。発熱性物質には、細菌および他の微生物の外膜に由来する発熱誘導性で耐熱性の物質も含まれる。これらの物質は両方とも、ヒトに投与されたときに発熱、低血圧、およびショックを生じさせる可能性がある。有害作用の可能性があるため、少量のエンドトキシンであっても静脈内投与される薬剤溶液からは取り除かれなければならない。食品医薬品局(FDA)は、静脈内薬剤投与に対し、分割されていない1時間中、体重1キログラム当たり、5エンドトキシン単位(EU)の上限を定めている(The United States Pharmacopeial Convention,Pharmacopeial Forum 26(1):223(2000))。治療用タンパク質が、体重1キログラム当たり数百~数千ミリグラムの量で投与される場合、対象タンパク質(例えば抗体)の場合も同様であり得るが、ごく微量でも有害で危険なエンドトキシンは取り除かれなければならない。一部の実施形態では、組成物中のエンドトキシンおよび発熱物質レベルは、10EUmg未満、または5EUmg未満、または1EUmg未満、または0.1EUmg未満、または0.01EUmg未満、または0.001EUmg未満である。
【0242】
一部の実施形態では、インビボ投与に使用される場合、医薬組成物は滅菌されていなければならない。組成物は、滅菌ろ過、放射線照射をはじめとする様々な滅菌法により滅菌されてもよい。特定の実施形態では、組成物は、前もって滅菌された0.22ミクロンのフィルターでろ過滅菌される。注射用の滅菌組成物は、“Remington:The Science & Practice of Pharmacy”,21st ed.,Lippincott Williams & Wilkins,(2005)に記載される従来的な薬学的業務に従い、製剤化され得る。当該文献は、その全体で参照により本明細書に組み込まれる。
【0243】
本明細書に開示されるものなどのpMHC-結合タンパク質を含む組成物は、通常、凍結乾燥型で、または溶液中で保存される。pMHC-結合タンパク質を含む滅菌組成物は、例えば皮下注射針により穿刺可能なストッパーなど、組成物の回収が可能なアダプターを有する例えば静脈溶液バッグまたはバイアルなど、滅菌アクセスポートを有する容器へと入れられる。特定の実施形態では、組成物は、予め充填されたシリンジとして提供される。
【0244】
特定の実施形態では、組成物は、凍結乾燥製剤である。「凍結乾燥(lyophilizedまたはfreeze-dried)」という用語は、例えば凍結乾燥などの乾燥手順を受けた物質の状態を含み、少なくとも50%の水分が取り除かれている。
【0245】
選択された投与経路に関わらず、適切な水和形態で使用され得る本明細書に提供される剤、および/または本明細書に提供される医薬組成物は、当業者に公知の従来的方法によって薬学的に許容可能な剤形に製剤化される。
【0246】
本発明は、多数の実施形態を参照して具体的に示され、記載されているが、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、本明細書に開示の様々な実施形態に対して、形式および詳細が変更され得、本明細書に開示の様々な実施形態は、特許請求の範囲を限定するように機能することを意図しないことを当業者は理解するであろう。
【実施例0247】
以下の実施例は、説明目的のみに提供され、本発明の範囲を制限することを意図していない。
実施例1
【0248】
交配技術およびES細胞における連続相同組み換えのいずれか、または両方を使用して、(1)ヒトもしくはヒト化MHC I座位、ヒトもしくはヒト化β2マイクログロブリン座位、および/またはヒトもしくはヒト化MHC II座位(例えば、当該ヒト化座位の非限定的な例に関しては
図1~2を参照)、ならびに(2)ヒト化免疫グロブリン重鎖座位および/または軽鎖座位、を含むマウスが生成される(例えば、Macdonald
et al,(2014)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 111 :5147-52を参照のこと。当該文献は、参照によりその全体で本明細書に組み込まれる)。これらのマウスは、ヒトもしくはヒト化MHC I/β2マイクログロブリン分子、および/またはヒトもしくはヒト化MHC II分子を発現し、これらに対し寛容である。マウスは、マウスに対して抗原性のあるペプチド、および当該マウスが寛容なヒトまたはヒト化MHCを含む対象ペプチド-MHC(pMHC)複合体で免疫化される。マウスは追加的に、および任意で、対象pMHC複合体でブーストされ、このブースターは任意でさらにヘルパーT細胞エピトープに連結される。ヒト化免疫グロブリン重鎖座位および/または軽鎖座位から発現されたヒトまたはヒト化抗体は、免疫化マウスの血清から単離され、pMHC複合体への結合特異性に関して検証される。
【0249】
C57BLを背景として有し、ヒト化β2マイクログロブリンと関連付けられたヒト化MHC I分子(HLA-A2/H-2K)(例えば、
図1A および1Cを参照のこと。さらに米国特許第9,591,835号および第9,615,550号を参照のこと。当該特許はその全体で参照により本明細書に組み込まれる)、ヒト化免疫グロブリン重鎖座位(例えば、上記のMacdonald(2014)を参照のこと)、およびヒト化共通軽鎖座位(例えば、米国特許第10,143,186号、第10,130,081号、および第9,969,814号、米国特許出願公開20120021409、20120192300、20130045492、20130185821、20130302836、および20150313193を参照のこと。各文献は、その全体で参照により本明細書に組み込まれる)をコードするヌクレオチド配列を含有する被験マウスが作製された。これらの被験マウス、および機能性(例えば、マウス)ADAM6遺伝子(例えば、米国特許第8,642,835号および第8,697,940号を参照のこと。当該特許公開は、その全体で参照により本明細書に組み込まれる)、ならびにヒト化免疫グロブリン重鎖座位および軽鎖座位を含む対照マウスは、HLA-A2/β2m分子を背景として提示される異種ペプチド(ペプチドB)を含む一本鎖pMHC複合体で免疫化され、この場合において当該免疫原は、配列番号26に記載されるタンパク質免疫原(
図4)として、または配列番号27に記載されるアミノ酸配列を含む一本鎖pMHC複合体をコードするDNA(
図3)として、投与された。マウスは、標準アジュバントとともにpMHC複合体を使用して(
図3~4)、またはTヘルパーペプチドに連結されたpMHC複合体免疫原を使用して(PADRE、
図5)、様々な間隔で、様々な経路を介してブーストされた。免疫前血清をマウスから採取し、その後、免疫化が開始された。マウスは定期的に採血され、各抗原に対する抗血清力価が分析された。
【0250】
HLA-A2を背景として提示される非関連抗原(ペプチドAまたはペプチドC)および関連抗原に対する血清中の抗体力価は、ELISAを使用して決定された。96ウェルのマイクロタイタープレート(Thermo Scientific社)に、抗myc抗体のリン酸緩衝生理食塩水溶液(PBS、Irvine Scientific社)を一晩、5μg/mlでコーティングした。プレートは、0.05% Tween(登録商標) 20を含有するリン酸緩衝生理食塩水(PBS-T、Sigma-Aldrich社)で洗浄され、250μlの0.5%ウシ血清アルブミン(BSA、Sigma-Aldrich社)PBS溶液で、1時間、室温でブロッキングされた。プレートは、PBS-Tで洗浄され、HLA-A2を背景として提示される関連ペプチドB、または非関連抗原ペプチドAもしくはペプチドCを含む2μg/mlのc-mycタグ化一本鎖pMHC複合体でコーティングされた。
【0251】
免疫前血清、および免疫抗血清を、0.5% BSA-PBS中で連続3倍希釈し、プレートに1時間、室温で添加した。プレートを洗浄し、ヤギ抗マウスIgG-Fc-西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合二次抗体(Jackson Immunoresearch社)をプレートに加えて、室温で1時間インキュベートした。プレートを洗浄し、メーカーの推奨手順に従い基質として3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)/H2O2を使用して発色させ、450nmの吸光度を分光光度計(Victor、Perkin Elmer社)を使用して記録した。Graphpad PRISMソフトウェアを使用して、抗体力価を計算した。抗体力価は、結合シグナルがバックグラウンドの2倍である、補間血清希釈倍数として算出された。
【0252】
HLA-Aを背景とするペプチドBをコードするDNA免疫原、または当該ペプチドを含むタンパク質免疫原のいずれかで免疫化されたときの対照マウスにおいて、ペプチドB含有一本鎖pMHCに結合する抗体力価が惹起されていた。
図3~4。キメラHLA-A2/H-2Kポリペプチド、および/またはヒトもしくはヒト化β2マイクログロブリンに対して寛容ではない対照マウスがコホートに含まれた。しかしこれら対照マウスの血清は、HLA-Aを背景として提示される非関連ペプチド(ペプチドAまたはペプチドC)に対する抗体力価も含んでおり、ペプチドB含有一本鎖pMHCに対する抗体力価と同等であった(
図3~4)。したがって、非寛容動物は対象pMHC複合体に対する免疫反応を発生させることができるが、ペプチドB含有一本鎖pMHCに対する抗体力価と、非関連ペプチド含有一本鎖pMHCに対する抗体力価が同等であることから、そうした免疫反応は非特異的免疫反応とみなされ得る。
【0253】
対照的に、ヒト(ヒト化)HLA-Aおよびβ2マイクログロブリン分子に対して寛容な被験マウスの血清は、一本鎖ペプチドB/HLA-A/β2M複合体で免疫化されており、ペプチドB含有一本鎖pMHCに対する抗体力価を惹起していた。(
図4)。ペプチドBを含有するpMHC複合体に対する抗体力価は、非関連ペプチドAまたはCを含有するHLA-A/β2M複合体に対する抗体力価よりも高かった(
図4)。同様に、ペプチドB/HLA-A/β2M複合体をコードするDNAを免疫原として使用した場合も、関連ペプチドB一本鎖タンパク質に対する抗体力価は、(非関連pMHC複合体と比較して)高いことが観察された(
図3)。免疫原に対する高力価は、第三のコホートでも惹起されていた。このコホートでは、被験マウスは、ペプチドBを含有する一本鎖pMHC複合体のプライム注射を投与され、次いでPADREヘルパーT細胞エピトープに連結されたペプチドBを含有する一本鎖pMHC複合体でブーストが行われており、非関連pMHC複合体に対する抗体力価と比較された(
図5)。さらに、ROSA26座位から一本鎖HLA-A2/β2Mポリペプチド(配列番号23)を発現するマウス(例えば、
図2を参照)は、空のHLA-A2/β2M分子に対して同様に寛容であり、pMHC/ペプチドB複合体タンパク質で免疫化およびブーストされたとき(PADREの存在下または非存在下)、非関連ペプチドを提示するpMHC複合体に対する抗体力価と比較して、ペプチドBを提示するpMHC複合体に対し、高い抗体力価を生じさせた(データは示さず)。実施例2
【0254】
例えばROSA26座位など、対応する内因性座位以外の座位からMHCクラスI分子、MHCクラスII分子、および/またはβ2M分子を発現するマウスは、空のMHCクラスI分子、MHCクラスII分子、および/またはβ2M分子に対して寛容であり、空のMHCクラスI分子、MHCクラスII分子および/またはβ2M分子に対して寛容ではないマウスと比較して、一本鎖pMHC複合体をコードするDNAなどの免疫原に対し、高い抗体力価を生じさせる。。
【0255】
本明細書のデータは、ヒトHLAクラスI分子およびヒトβ2マイクログロブリン分子またはそれらの一部に対して非ヒト動物を寛容化させることで、ヒトHLAクラスI分子およびヒトβ2マイクログロブリン分子に対して寛容ではない対照非ヒト動物と比較して、対象pMHCに対し、特異的な抗体反応を生じさせる当該改変非ヒト動物の能力を強化することを示している。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
遺伝子改変非ヒト動物であって、自身のゲノムが、
(a)ヒトもしくはヒト化MHC分子または少なくともそのペプチド結合部分をコードするヌクレオチド配列、および
(b)(非)再構成ヒトもしくはヒト化免疫グロブリン重鎖座位および/または(非)再構成ヒトもしくはヒト化免疫グロブリン軽鎖座位であって、任意で前記(非)再構成ヒトもしくはヒト化免疫グロブリン重鎖座位および/または(非)再構成ヒトもしくはヒト化免疫グロブリン軽鎖座位のうちの少なくとも一つは、再構成されていない座位、を含み、
前記遺伝子改変非ヒト動物は、前記ヒトもしくはヒト化MHC分子または少なくともそのペプチド結合部分を発現し、
前記遺伝子改変非ヒト動物は、ヒトもしくはヒト化重鎖可変ドメインおよび/またはヒトもしくはヒト化軽鎖可変ドメインを含む免疫グロブリンを発現し、および
前記非ヒト動物は、前記ヒトもしくはヒト化MHC分子または少なくともそのペプチド結合部分に対して寛容であり、それにより、(ii)前記ヒトまたはヒト化MHC分子が誘導されるヒトHLA分子またはその一部、(i)(ii)と複合体化された前記非ヒト動物に対して異種であるペプチド、を含有する抗原性ペプチド-MHC(pMHC)複合体で免疫化されたときに、特異的B細胞反応を生じさせる、遺伝子改変非ヒト動物。
(項目2)
前記ヒトまたはヒト化MHC分子は、ヒトもしくはヒト化MHCクラスI分子、ヒトもしくはヒト化MHCクラスIIα分子、ヒトもしくはヒト化MHCクラスIIβ分子、またはそれらの任意の組み合わせからなる群から選択され、および/または
前記遺伝子改変非ヒト動物が、
(a)内因性重鎖座位で、
(i)内因性重鎖定常領域に動作可能に連結された非再構成ヒトまたはヒト化免疫グロブリン重鎖可変領域、
(ii)内因性重鎖定常領域に動作可能に連結された拘束非再構成ヒトまたはヒト化重鎖可変領域、
(iii)共通重鎖コード配列、
(iv)内因性重鎖定常領域に動作可能に連結されたヒスチジン改変非再構成ヒトまたはヒト化重鎖可変領域、
(v)重鎖のみの免疫グロブリンコード配列、または
(vi)ハイブリッド免疫グロブリン鎖をコードする非再構成ヒトまたはヒト化ハイブリッド重鎖配列、を含み、
および/または
(b)内因性軽鎖座位で、
(i)内因性軽鎖定常領域に動作可能に連結された非再構成ヒトまたはヒト化免疫グロブリン軽鎖可変領域、
(ii)共通軽鎖コード配列、
(iii)内因性軽鎖定常領域に動作可能に連結された拘束非再構成ヒトまたはヒト化軽鎖可変領域、
(iv)内因性軽鎖定常領域に動作可能に連結されたヒスチジン改変非再構成ヒトまたはヒト化軽鎖可変領域、もしくは
(v)内因性軽鎖定常領域に動作可能に連結されたヒスチジン改変再構成ヒトまたはヒト化軽鎖可変領域、を含む、項目1に記載の遺伝子改変非ヒト動物。
(項目3)
前記非ヒト動物が、機能性ADAM6遺伝子をさらに含み、任意で前記機能性ADAM6遺伝子が、内因性ADAM6遺伝子である、項目1または項目2に記載の遺伝子改変非ヒト動物。
(項目4)
前記非ヒト動物が、外因性末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)遺伝子をさらに発現する、項目1~3のいずれかに記載の遺伝子改変非ヒト動物。
(項目5)
前記ヒトまたはヒト化MHC分子が、ヒトまたはヒト化MHCクラスI分子であり、任意で、前記ヒトまたはヒト化MHC分子は、HLA-A分子、HLA-B分子、HLA-C分子、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択されるHLAクラスI分子から誘導される、項目1~4のいずれかに記載の遺伝子改変非ヒト動物。
(項目6)
自身のゲノム中、任意で内因性β2マイクログロブリン座位で、ヒトまたはヒト化β2マイクログロブリンをコードするヌクレオチド配列をさらに含み、
前記非ヒト動物が、前記ヒトまたはヒト化β2マイクログロブリンを発現し、それによって、前記非ヒト動物は、前記β2マイクログロブリンそれ自体に対して寛容であり、または前記ヒトもしくはヒト化MHCクラスI分子と関連付けられた前記β2マイクログロブリンに対して寛容である、項目5に記載の遺伝子改変非ヒト動物。
(項目7)
前記ヒトまたはヒト化MHC分子は、ヒトまたはヒト化MHCクラスII分子であり、任意で、前記ヒトまたはヒト化MHC分子は、HLA-DP分子、HLA-DQ分子、HLA-DR分子、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択されるHLAクラスII分子のα鎖および/もしくはβ鎖、または少なくともそのペプチド結合溝から誘導される、項目1~4のいずれか1項に記載の遺伝子改変非ヒト動物。
(項目8)
前記ヌクレオチド配列が、完全ヒトHLA分子をコードし、
任意で前記ヌクレオチド配列は、内因性非ヒトMHC座位を破壊せず、任意で前記ヌクレオチド配列は、内因性ROSA26座位に配置される、項目1~7のいずれかに記載の遺伝子改変非ヒト動物。
(項目9)
前記ヌクレオチド配列が、内因性MHC分子の膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインに動作可能に連結されたヒトHLA分子の細胞外ドメインを含む、キメラヒト/非ヒトMHC分子をコードし、任意で前記ヌクレオチド配列は、
(i)内因性非ヒトMHCクラスi分子、例えば内因性マウスH-2Kポリペプチド、内因性マウスH-2Dポリペプチド、または内因性マウスH-DLポリペプチドの膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインと動作可能に連結された、HLA-A、HLA-BおよびHLA-Cからなる群から選択されるヒトMHCクラスI分子のα1ドメイン、α2ドメイン、およびα3ドメインを含むキメラヒト/非ヒトMHCクラスI分子、および/または
(ii)内因性非ヒトMHCクラスIIα分子、例えば内因性マウスH-2Aαポリペプチドまたは内因性マウスH-2Eαポリペプチドの膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインと動作可能に連結されたヒトHLAクラスIIαポリペプチドのα1ドメインおよびα2ドメイン、および/または内因性非ヒトMHCクラスIIβ分子、例えば内因性マウスH-2Aαポリペプチドまたは内因性マウスH-2Eαポリペプチドの膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインと動作可能に連結されたヒトHLAクラスIβポリペプチドのβ1ドメインおよびβ2ドメイン、を含むキメラヒト/非ヒトMHCクラスII分子をコードする、項目1~7のいずれか1項に記載の遺伝子改変非ヒト動物。
(項目10)
前記ヒトまたはヒト化MHC分子が誘導されるヒトHLA分子と関連付けられた、前記非ヒト動物に対して異種であるペプチドを含有する抗原性ペプチド-MHC(pMHC)複合体をさらに含む、項目1~9のいずれかに記載の遺伝子改変非ヒト動物。
(項目11)
(c)(ii)前記ヒトまたはヒト化MHC分子が誘導されるヒトHLA分子またはその一部、(i)(ii)と関連付けられた、前記非ヒト動物に対して異種であるペプチド、を含有する抗原性ペプチド-MHC(pMHC)複合体、および
(d)前記抗原性ペプチド-MHCに特異的に結合し、前記ヒトまたはヒト化MHC分子が誘導される前記ヒトHLA分子には結合しない、ヒトまたはヒト化抗原結合タンパク質、をさらに含む、項目1~10のいずれかに記載の遺伝子改変非ヒト動物。
(項目12)
前記非ヒト動物が、ヒトもしくはヒト化MHC分子または少なくともそのペプチド結合部分をコードする前記ヌクレオチド配列に関し、ヘテロ接合性である、項目1~11のいずれかに記載の遺伝子改変非ヒト動物。
(項目13)
前記非ヒト動物が、例えばラットまたはマウスなどの齧歯類である、項目1~12のいずれかに記載の遺伝子改変非ヒト動物。
(項目14)
前記非ヒト動物が、マウスである、項目1~13のいずれかに記載の遺伝子改変非ヒト動物。
(項目15)
項目1~14のいずれかに記載の遺伝子改変非ヒト動物を作製する方法であって、
(a)ヒトもしくはヒト化MHC分子または少なくともそのペプチド結合部分をコードするヌクレオチド配列、および
(b)(非)再構成ヒトもしくはヒト化免疫グロブリン重鎖座位および/または(非)再構成ヒトもしくはヒト化免疫グロブリン軽鎖座位であって、任意で前記(非)再構成ヒトもしくはヒト化免疫グロブリン重鎖座位および/または(非)再構成ヒトもしくはヒト化免疫グロブリン軽鎖座位のうちの少なくとも一つは再構成されていない、座位を含むよう自身のゲノムを改変すること、を含み、
前記遺伝子改変非ヒト動物は、
A.前記ヒトもしくはヒト化MHC分子または少なくともそのペプチド結合部分に対して寛容であり、それにより、(ii)前記ヒトまたはヒト化MHC分子が誘導されるヒトHLA分子またはその一部、(i)(ii)と複合体化された前記非ヒト動物に対して異種であるペプチド、を含むペプチド-MHC(pMHC)複合体で免疫化されたときに、特異的B細胞反応を生じさせ、および
B.ヒトもしくはヒト化重鎖可変ドメインおよび/またはヒトもしくはヒト化軽鎖可変ドメインを含む、ヒトまたはヒト化抗原結合タンパク質を提供する能力を有する、方法。(項目16)
前記方法は、
(a)
(i)ヒトもしくはヒト化MHC分子または少なくともそのペプチド結合部分をコードするヌクレオチド配列を、第一の異所性座位に挿入すること、または
(ii)非ヒト動物MHC Iポリペプチドをコードするヌクレオチド配列と、キメラヒト/非ヒトMHC Iポリペプチドをコードするヌクレオチド配列とを、内因性非ヒト動物MHC I座位で置換すること、および/もしくは非ヒト動物MHC II分子をコードするヌクレオチド配列と、キメラヒト/非ヒトMHC II分子をコードするヌクレオチド配列とを、内因性非ヒト動物MHC II座位で置換することであって、
前記キメラヒト/非ヒトMHC I分子は、ヒトMHC Iのα1ドメイン、α2ドメインおよびα3ドメイン、ならびに内因性非ヒトMHC Iポリペプチドの少なくとも膜貫通ドメインおよび細胞質ドメイン、を含有し、
前記キメラヒト/非ヒトMHC II分子は、ヒトMHC IIのα1ドメイン、α2ドメイン、β1ドメインおよびβ2ドメイン、ならびに内因性齧歯類MHC IIポリペプチドの少なくとも膜貫通ドメインおよび細胞質ドメイン、を含有する、置換すること、および
(b)
(i)(非)再構成ヒトもしくはヒト化免疫グロブリン重鎖座位、および/または(非)再構成ヒトもしくはヒト化免疫グロブリン軽鎖座位を、第二の異所性座位に挿入すること、または
(ii)
(A)内因性非ヒト重鎖座位で、内因性非ヒト免疫グロブリン可変(VH)遺伝子セグメントと、非再構成ヒト免疫グロブリン可変(VH)遺伝子セグメントとを、置換すること、ならびに任意で内因性非ヒト免疫グロブリン多様性(DH)遺伝子セグメントおよび/または内因性非ヒト結合(JH)遺伝子セグメントと、非再構成ヒト免疫グロブリン多様性(DH)遺伝子セグメントおよび/または非再構成ヒト免疫グロブリン結合(JH)遺伝子セグメントとを、それぞれ置換することであって、前記非再構成ヒトVH遺伝子セグメント、ならびに任意のDH遺伝子セグメントおよびJH遺伝子セグメントは、内因性重鎖定常領域遺伝子配列に動作可能に連結される、置換すること、および/または
(B)内因性非ヒト軽鎖座位で、内因性非ヒト軽鎖可変(VL)遺伝子セグメントおよび内因性非ヒト軽鎖結合(JL)遺伝子セグメントと、ヒト軽鎖可変(VL)遺伝子セグメントおよびヒト軽鎖結合(JL)遺伝子セグメントとを、置換することであって、それらは任意で再構成されてVL/JL遺伝子配列を形成し、前記ヒトVL遺伝子セグメントおよび結合JL遺伝子セグメントは、内因性軽鎖定常領域遺伝子配列に動作可能に連結される、置換すること、を含み、
(a)それぞれ、非ヒトMHC I分子および/または非ヒトMHC II分子をコードする前記ヌクレオチド配列、ならびに(b)前記VH、DH、JH、VL、およびJL遺伝子セグメントは、
(I)一つの非ヒト胚性幹(ES)細胞中で、連続相同組み換えにより挿入もしくは置換され、または
(II)第一のES細胞および第二のES細胞においてそれぞれ使用され、第一の非ヒト動物および第二の非ヒト動物が作製され、および前記方法は、前記第一および第二の非ヒト動物を交配させることをさらに含む、項目15に記載の方法。
(項目17)
前記ヒトまたはヒト化MHC分子が誘導されるヒトHLA分子と関連付けられた、前記非ヒト動物に対して異種であるペプチドを含む抗原性pMHC複合体を、前記非ヒト動物に投与することをさらに含み、任意で、前記抗原性pMHC複合体は、ヘルパーT細胞エピトープに連結され、任意で前記ヘルパーT細胞エピトープは、PADREである、項目15または16に記載の方法。
(項目18)
対象の抗原性pMHC複合体に特異的に結合する抗原結合タンパク質、または前記タンパク質をコードする核酸配列を作製する方法であって、項目1~14のいずれか1項に記載の非ヒト動物、または項目15~17のいずれか1項に記載の方法に従い作製された非ヒト動物を、前記非ヒト動物が、前記対象の抗原性pMHC複合体に対する免疫反応を開始するのに充分な条件下で維持することを含み、前記対象の抗原性pMHC複合体は、前記非ヒト動物に対して異種であり、前記ヒトまたはヒト化MHC分子が誘導されるヒトHLA、またはその一部を背景として提示されるペプチドを含む、方法。
(項目19)
第一の工程として、前記非ヒト動物を、前記対象の抗原性pMHC複合体で免疫化すること、および任意で前記免疫化非ヒト動物の免疫反応をブーストすることを含み、任意で免疫化および/またはブーストは、前記非ヒト動物に、ヘルパーT細胞エピトープに連結された前記対象のpMHC複合体を投与することを含み、任意で前記ヘルパーT細胞エピトープは、配列番号28に記載されるPADREを含む、項目18に記載の方法。
(項目20)
ヒト免疫グロブリン重鎖可変ドメインおよび/またはヒト免疫グロブリン軽鎖可変ドメインをコードする核酸を取得する方法であって、
項目10~14のいずれか1項に記載の非ヒト動物から、前記非ヒト動物のリンパ球、または前記リンパ球から作製されたハイブリドーマにより発現されるヒト免疫グロブリン可変ドメインをコードする再構成ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子配列を含む核酸を単離すること、を含み、
前記リンパ球、または前記リンパ球から作製されたハイブリドーマにより発現される前記ヒト免疫グロブリン可変ドメインは、その同系可変ドメインと関連して、前記抗原性pMHC複合体に特異的な抗原結合ドメインを形成する、方法。
(項目21)
前記非ヒト動物を、対象の抗原性pMHC複合体で免疫化すること、および前記非ヒト動物に、前記抗原に対する免疫反応を開始させ、その後に前記核酸を取得すること、をさらに含む、項目20に記載の方法。
(項目22)
前記取得された再構成ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子配列は、少なくとも一つの体細胞超変異を含む、項目20または21に記載の方法。
(項目23)
項目20~22のいずれか1項に記載の方法により作製された再構成ヒト免疫グロブリン重鎖可変領域遺伝子配列を含む核酸。
(項目24)
前記核酸は、前記再構成ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子配列に動作可能に連結されたヒト定常領域遺伝子配列をさらに含む、項目23に記載の核酸。
(項目25)
前記ヒト重鎖定常領域遺伝子配列は、5.5~6.0の範囲のpHで、胎児性Fc受容体(FcRn)に対する、IgG重鎖定常領域アミノ酸配列のCH2-CH3領域のアフィニティを増加させる改変を含み、前記改変は、M428L、N434S、V259I、V308F、N434A、M252Y、S254T、T256E、T250Q、H433K、N434Yおよびそれらの組み合わせからなる群から選択されるIgG重鎖定常領域アミノ酸配列における変異である、項目22または項目24に記載の核酸。
(項目26)
項目23~25のいずれか1項に記載の核酸を含む宿主細胞。
(項目27)
ヒト免疫グロブリン重鎖可変ドメインおよび/またはヒト免疫グロブリン軽鎖可変ドメインを発現する細胞を取得する方法であって、
項目10~14のいずれか1項に記載の非ヒト動物からリンパ球を単離することを含み、前記リンパ球は、前記抗原性pMHC複合体に対し特異的な抗原結合ドメインを形成するヒト免疫グロブリン可変ドメインを発現する、方法。
(項目28)
前記単離リンパ球からハイブリドーマを作製することをさらに含む、項目27に記載の方法。
(項目29)
例えば生殖細胞、胚性幹細胞、体細胞(例えば、B細胞)などの単離細胞であって、
(a)ヒトもしくはヒト化MHC分子または少なくともそのペプチド結合部分をコードするヌクレオチド配列、および
(b)(非)再構成ヒトもしくはヒト化免疫グロブリン重鎖座位および/または(非)再構成ヒトもしくはヒト化免疫グロブリン軽鎖座位、を含み、前記非ヒト動物は、ヒトまたはヒト化抗原結合ドメインを含むヒトまたはヒト化抗原結合タンパク質を提供する能力を有し、任意で前記ヒトまたはヒト化抗原結合ドメインは、ヒトまたはヒト化可変ドメインを含み、
任意で、前記(非)再構成ヒトもしくはヒト化免疫グロブリン重鎖座位および/または(非)再構成ヒトもしくはヒト化免疫グロブリン軽鎖座位のうちの少なくとも一つは、再構成されておらず、
任意で、前記単離細胞は、項目27または項目28に記載の方法に従い取得される、単離細胞。
(項目30)
ヒト免疫グロブリン可変ドメインをインビトロで作製する方法であって、
項目10~14のいずれか1項に記載の非ヒト動物のリンパ球、または前記リンパ球から作製されたハイブリドーマにより発現されるヒト免疫グロブリン可変ドメインをコードする再構成ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子配列を含む第一の核酸を、細胞中で発現させること、を含み、
前記リンパ球、または前記リンパ球から作製されたハイブリドーマにより発現される前記ヒト免疫グロブリン可変ドメインは、その同系可変ドメインと関連して、前記抗原性pMHC複合体に特異的な抗原結合ドメインを形成する、方法。
(項目31)
前記第一の核酸は、前記再構成ヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子配列に動作可能に連結されたヒト免疫グロブリン定常領域遺伝子配列をさらに含む、項目30に記載の方法。(項目32)
前記ヒト免疫グロブリン定常領域遺伝子配列は、重鎖定常領域遺伝子配列であり、5.5~6.0の範囲のpHで、胎児性Fc受容体(FcRn)に対する、IgG重鎖定常領域アミノ酸配列のCH2-CH3領域のアフィニティを増加させる改変を含み、前記改変は、M428L、N434S、V259I、V308F、N434A、M252Y、S254T、T256E、T250Q、H433K、N434Yおよびそれらの組み合わせからなる群から選択されるIgG重鎖定常領域アミノ酸配列における変異である、項目31に記載の方法。
(項目33)
項目30~32のいずれか1項に記載の方法に従って作製されたヒト免疫グロブリン重鎖可変ドメイン。