(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024012536
(43)【公開日】2024-01-30
(54)【発明の名称】信号処理装置
(51)【国際特許分類】
G01S 7/493 20060101AFI20240123BHJP
G01S 17/36 20060101ALI20240123BHJP
G01C 3/06 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
G01S7/493
G01S17/36
G01C3/06 120Q
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023190118
(22)【出願日】2023-11-07
(62)【分割の表示】P 2019131307の分割
【原出願日】2019-07-16
(71)【出願人】
【識別番号】000005016
【氏名又は名称】パイオニア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001025
【氏名又は名称】弁理士法人レクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】落合 孝典
(57)【要約】 (修正有)
【課題】迷光の影響を抑えて対象物までの距離を正確に測定するための信号処理を行うことが可能な信号処理装置を提供する。
【解決手段】第1の波長を有し、第1の変調周波数に基づいて光強度を変調した第1の出射光を出射する第1の光源と、第1の波長とは異なる第2の波長を有し、第1の周波数とは異なる第2の変調周波数に基づいて光強度を変調した第2の出射光を出射する第2の光源と、第1の出射光及び第2の出射光を共通の経路に沿って進行させる第1の光学素子と、第1の出射光及び第2の出射光の経路上に設けられた第2の光学素子と、第2の光学素子を通過した第1の出射光及び第2の出射光の経路上に配され、第1の波長の光を通過させ、第2の波長の光を減衰させるフィルタ部と、光を受光する受光素子と、受光素子の受光結果から、第1の出射光が外部の物体によって反射された光である反射光の成分を抽出する信号処理部と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の波長を有し、第1の変調周波数に基づいて光強度を変調した第1の出射光を出射する第1の光源と、
前記第1の波長とは異なる第2の波長を有し、前記第1の周波数とは異なる第2の変調周波数に基づいて光強度を変調した第2の出射光を出射する第2の光源と、
前記第1の出射光及び前記第2の出射光の経路上に配され、前記第1の波長の光を通過させ、前記第2の波長の光を減衰させるフィルタ部と、
光を受光する受光素子と、
前記受光素子の受光結果から、前記第1の出射光が外部の物体によって反射された光である反射光の成分を抽出する信号処理部と、
を有することを特徴とする信号処理装置。
【請求項2】
前記第1の出射光及び前記第2の出射光を共通の経路に沿って進行させる第1の光学素子と、
前記第1の出射光及び前記第2の出射光の経路上に設けられた第2の光学素子と、を有し、
前記信号処理部は、前記第1の出射光が外部に出射されずに前記第2の光学素子によって反射された光である第1の迷光及び前記第2の出射光が外部に出射されずに前記第2の光学素子によって反射された光である第2の迷光の成分を含む迷光成分を取得し、前記迷光成分に基づいて前記受光結果から前記反射光の成分を抽出することを特徴とする請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項3】
前記信号処理装置は、前記抽出された反射光の成分に基づいて、前記外部の物体までの距離を算出する測距部をさらに備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の信号処理装置。
【請求項4】
前記測距部は、前記第1の出射光と前記反射光の成分との位相差を検出し、検出された前記位相差に基づいて前記外部の物体までの距離を算出することを特徴とする請求項3に記載の信号処理装置。
【請求項5】
前記フィルタ部は、前記第1の波長を含む所定帯域の波長の信号を通過させ、前記第2の波長を含み且つ前記所定帯域外の帯域である他の帯域の波長の光を減衰させるバンドパスフィルタであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1に記載の信号処理装置。
【請求項6】
前記第1の光学素子は、ハーフミラー又は穴あきミラーであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1に記載の信号処理装置。
【請求項7】
前記第2の光学素子は、望遠レンズであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1に記載の信号処理装置。
【請求項8】
第1の光源と、第2の光源と、第1の光学素子と、第2の光学素子と、フィルタ部と、受光素子と、信号処理部と、を有する信号処理装置が実行する信号処理方法であって、
第1の波長を有し、第1の変調周波数に基づいて光強度を変調した第1の出射光を前記第1の光源から出射するステップと、
前記第1の波長とは異なる第2の波長を有し、前記第1の変調周波数とは異なる第2の変調周波数に基づいて光強度を変調した第2の出射光を前記第2の光源から出射するステップと、
前記第1の出射光及び前記第2の出射光を共通の経路に沿って進行させるステップと、
前記共通の経路に沿って進行した前記第1の出射光及び前記第2の出射光を前記第2の光学素子に入射させるステップと、
前記第2の光学素子を通過した前記第1の出射光及び前記第2の出射光を前記フィルタ部に入射させ、前記第1の波長の光を通過させ、前記第2の波長の光を減衰させるステップと、
光を前記受光素子に受光させるステップと、
前記受光素子の受光結果から前記第1の出射光が外部の物体によって反射された光である反射光の成分を抽出するステップと、
を含むことを特徴とする信号処理方法。
【請求項9】
第1の光源と、第2の光源と、第1の光学素子と、第2の光学素子と、フィルタ部と、受光素子と、信号処理部と、を有する信号処理装置に、
第1の波長を有し、第1の変調周波数に基づいて光強度を変調した第1の出射光を前記第1の光源から出射するステップと、
前記第1の波長とは異なる第2の波長を有し、前記第1の変調周波数とは異なる第2の変調周波数に基づいて光強度を変調した第2の出射光を前記第2の光源から出射するステップと、
前記第1の出射光及び前記第2の出射光を共通の経路に沿って進行させるステップと、
前記共通の経路に沿って進行した前記第1の出射光及び前記第2の出射光を前記第2の光学素子に入射させるステップと、
前記第2の光学素子を通過した前記第1の出射光及び前記第2の出射光を前記フィルタ部に入射させ、前記第1の波長の光を通過させ、前記第2の波長の光を減衰させるステップと、
光を前記受光素子に受光させるステップと、
前記受光素子の受光結果から前記第1の出射光が外部の物体によって反射された光である反射光の成分を抽出するステップと、
を実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項10】
第1の光源と、第2の光源と、第1の光学素子と、第2の光学素子と、フィルタ部と、受光素子と、信号処理部と、を有する信号処理装置に、
第1の波長を有し、第1の変調周波数に基づいて光強度を変調した第1の出射光を前記第1の光源から出射するステップと、
前記第1の波長とは異なる第2の波長を有し、前記第1の変調周波数とは異なる第2の変調周波数に基づいて光強度を変調した第2の出射光を前記第2の光源から出射するステップと、
前記第1の出射光及び前記第2の出射光を共通の経路に沿って進行させるステップと、
前記共通の経路に沿って進行した前記第1の出射光及び前記第2の出射光を前記第2の光学素子に入射させるステップと、
前記第2の光学素子を通過した前記第1の出射光及び前記第2の出射光を前記フィルタ部に入射させ、前記第1の波長の光を通過させ、前記第2の波長の光を減衰させるステップと、
光を前記受光素子に受光させるステップと、
前記受光素子の受光結果から前記第1の出射光が外部の物体によって反射された光である反射光の成分を抽出するステップと、
を実行させるプログラムを記録することを特徴とする記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号処理装置に関し、特に、送信信号及び受信信号の位相を比較して対象物までの距離を測定するための信号処理を行う信号処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ光を対象物に照射し、当該対象物によって反射されたレーザ光を受光して解析することにより、対象物までの距離を計測する測距装置が知られている(例えば、特許文献1)。かかる測距装置の測距方式としては、TOF(Time of Flight)方式や位相差法方式がある。TOF方式では、送信した信号が対象物に反射して戻ってくるまでの時間を計測し、計測した時間に基づいて距離を測定する。
【0003】
一方、位相差法では、例えば正弦波によって光強度を変調したレーザ光を対象物に照射し、対象物によって反射されたレーザ光である反射光を受光して、その光強度を電気信号に変換する。そして、電気信号に含まれる正弦波の成分と射出時のレーザ光の光強度に含まれる正弦波の成分との位相差を抽出し、抽出した位相差を遅延時間に変換し、当該遅延時間及び光速度に基づいて対象物との距離を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような測距装置において、光源から出射されたレーザ光が外部に出力される前に、測距装置内部の望遠レンズ等の光学素子によって反射され、迷光として受光部に入射する場合がある。装置内部での反射による迷光は、反射するまでの距離が短いため、対象物からの反射光と比べて信号強度が大きい。従って、迷光が受光部に入射すると、対象物までの距離を正確に測定することができないという問題があった。また、特に位相差法を用いた測距では、外部からの入射光を一定期間に亘って受光部に入射させる必要があるため、迷光の受光自体を時間的に分離することができないという問題があった。
【0006】
本発明は上記した点に鑑みてなされたものであり、迷光の影響を抑えて対象物までの距離を正確に測定するための信号処理を行うことが可能な信号処理装置を提供することを目的の一つとしている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、第1の波長を有し、第1の変調周波数に基づいて光強度を変調した第1の出射光を出射する第1の光源と、前記第1の波長とは異なる第2の波長を有し、前記第1の周波数とは異なる第2の変調周波数に基づいて光強度を変調した第2の出射光を出射する第2の光源と、前記第1の出射光及び前記第2の出射光の経路上に配され、前記第1の波長の光を通過させ、前記第2の波長の光を減衰させるフィルタ部と、光を受光する受光素子と、前記受光素子の受光結果から、前記第1の出射光が外部の物体によって反射された光である反射光の成分を抽出する信号処理部と、を有することを特徴とする。
【0008】
請求項8に記載の発明は、第1の光源と、第2の光源と、第1の光学素子と、第2の光学素子と、フィルタ部と、受光素子と、信号処理部と、を有する信号処理装置が実行する信号処理方法であって、第1の波長を有し、第1の変調周波数に基づいて光強度を変調した第1の出射光を前記第1の光源から出射するステップと、前記第1の波長とは異なる第2の波長を有し、前記第1の変調周波数とは異なる第2の変調周波数に基づいて光強度を変調した第2の出射光を前記第2の光源から出射するステップと、前記第1の出射光及び前記第2の出射光を共通の経路に沿って進行させるステップと、前記共通の経路に沿って進行した前記第1の出射光及び前記第2の出射光を前記第2の光学素子に入射させるステップと、前記第2の光学素子を通過した前記第1の出射光及び前記第2の出射光を前記フィルタ部に入射させ、前記第1の波長の光を通過させ、前記第2の波長の光を減衰させるステップと、光を前記受光素子により受光するステップと、前記受光素子の受光結果から前記第1の出射光が外部の物体によって反射された光である反射光の成分を抽出するステップと、を含むことを特徴とする。
【0009】
請求項9に記載の発明は、プログラムであって、第1の光源と、第2の光源と、第1の光学素子と、第2の光学素子と、フィルタ部と、受光素子と、信号処理部と、を有する信号処理装置に、第1の波長を有し、第1の変調周波数に基づいて光強度を変調した第1の出射光を前記第1の光源から出射するステップと、前記第1の波長とは異なる第2の波長を有し、前記第1の変調周波数とは異なる第2の変調周波数に基づいて光強度を変調した第2の出射光を前記第2の光源から出射するステップと、前記第1の出射光及び前記第2の出射光を共通の経路に沿って進行させるステップと、前記共通の経路に沿って進行した前記第1の出射光及び前記第2の出射光を前記第2の光学素子に入射させるステップと、前記第2の光学素子を通過した前記第1の出射光及び前記第2の出射光を前記フィルタ部に入射させ、前記第1の波長の光を通過させ、前記第2の波長の光を減衰させるステップと、光を前記受光素子により受光するステップと、前記受光素子の受光結果から前記第1の出射光が外部の物体によって反射された光である反射光の成分を抽出するステップと、を実行させることを特徴とする。
【0010】
請求項10に記載の発明は、記録媒体であって、第1の光源と、第2の光源と、第1の光学素子と、第2の光学素子と、フィルタ部と、受光素子と、信号処理部と、を有する信号処理装置に、第1の波長を有し、第1の変調周波数に基づいて光強度を変調した第1の出射光を前記第1の光源から出射するステップと、前記第1の波長とは異なる第2の波長を有し、前記第1の変調周波数とは異なる第2の変調周波数に基づいて光強度を変調した第2の出射光を前記第2の光源から出射するステップと、前記第1の出射光及び前記第2の出射光を共通の経路に沿って進行させるステップと、前記共通の経路に沿って進行した前記第1の出射光及び前記第2の出射光を前記第2の光学素子に入射させるステップと、前記第2の光学素子を通過した前記第1の出射光及び前記第2の出射光を前記フィルタ部に入射させ、前記第1の波長の光を通過させ、前記第2の波長の光を減衰させるステップと、光を前記受光素子により受光するステップと、前記受光素子の受光結果から前記第1の出射光が外部の物体によって反射された光である反射光の成分を抽出するステップと、を実行させるプログラムを記録することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施例の測距装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図2A】実施例1における第1の出射光の光強度を示す波形図である。
【
図2B】実施例1における第2の出射光の光強度を示す波形図である。
【
図3A】望遠レンズを通過する第1の出射光及び第2の出射光の波長及び強度を示す図である。
【
図3B】望遠レンズでの反射による迷光の波長及び強度を示す図である。
【
図4A】投光ビームに含まれる光のうち、第1の波長の光がバンドパスフィルタを通過し、第2の波長の光がバンドパスフィルタによって遮断されることを示す図である。
【
図4B】外部から測距装置に入射する光のうち、第1の波長の光がバンドパスフィルタを通過し、第2の波長の光がバンドパスフィルタによって遮断されることを示す図である。
【
図5A】信号処理部の構成例を示すブロック図である。
【
図5B】投光ビームの迷光成分と迷光モニタ信号との関係を模式的に示す図である。
【
図6】光学的な干渉成分の周波数と迷光モニタ用信号の周波数とが相違することを模式的に示す図である。
【
図7】実施例1の測距装置の機能ブロックを示すブロック図である。
【
図8】実施例1の測距装置の動作の処理ルーチンを示すフローチャートである。
【
図9】実施例2の測距装置の機能ブロックを示すブロック図である。
【
図10A】実施例2における第1の出射光の光強度を示す波形図である。
【
図10B】実施例2における第2の出射光の光強度を示す波形図である。
【
図11A】迷光をキャンセルしない場合の受光信号の信号波形のイメージを示す図である。
【
図11B】迷光のキャンセルを模式的に示す波形図である。
【
図11C】迷光がキャンセルされた後の受光信号の信号波形のイメージを示す図である。
【
図12】光学的な干渉成分の周波数と迷光モニタ用信号の周波数とが相違することを模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の好適な実施例を詳細に説明する。なお、以下の各実施例における説明及び添付図面においては、実質的に同一または等価な部分には同一の参照符号を付している。
【実施例0013】
図1は、実施例1の測距装置100の概略構成を示すブロック図である。測距装置100は、光学的に対象物までの距離を測定するLiDAR(Light Detection and Ranging)等の光測距装置から構成され、当該対象物の位置を検知する検知装置である。
【0014】
測距装置100は、所定周波数の信号に基づいて光強度を変調したレーザ光を測距領域に向けて出射し、測距領域内の対象物により反射されたレーザ光を受光して、出射時の及び受光時のレーザ光の光強度に含まれる当該所定周波数の信号成分の位相差(位相角)に基づいて、対象物までの距離を測定する。
【0015】
本実施例の測距装置100は、第1光源11、第2光源12、ハーフミラー13、穴あきミラー14、スキャンミラー15、望遠レンズ16、バンドパスフィルタ17、集光レンズ18、受光素子19、信号処理部20、測距部21及び制御部22を含む。
【0016】
第1光源11は、連続波状のレーザ光(すなわち、連続波光) を出射する光源であり、例えばレーザダイオードから構成されている。第1光源11は、第1の変調周波数f1で光強度を変調した波長λ1のレーザ光を、第1の出射光OL1として出射する。第1の出射光OL1は、対象物までの距離を測定するために対象物に照射するレーザ光である。
【0017】
第2光源12は、第1光源11と同様、連続波状のレーザ光を出射する光源であり、例えばレーザダイオードから構成されている。第2光源12は、第2の変調周波数f2で光強度を変調した波長λ2のレーザ光を、第2の出射光OL2として出射する。第2の出射光OL2は、後述する「迷光」を監視(モニタ)するために出射するレーザ光である。すなわち、本実施例の第2光源12は、迷光監視光生成部としての性質を有する。
【0018】
図2Aは、第1の出射光OL1の光強度の波形を示す波形図である。
図2Bは、第2の出射光OL2の光強度の波形を示す波形図である。このように、本実施例では互いに異なる変調周波数で光強度を変調したレーザ光が、それぞれ第1の出射光OL1及び第2の出射光OL2として出射される。
【0019】
再び
図1を参照すると、ハーフミラー13は、第1光源11から出射された第1の出射光OL1及び第2光源12から出射された第2の出射光OL2の各々の経路が交わる位置に配置されている。ハーフミラー13は、第1の出射光OL1を通過させる一方、第2の出射光OL2を反射させる。本実施例では、ハーフミラー13を通過した第1の出射光OL1とハーフミラー13で反射された第2の出射光OL2とが共通の経路上に進行するように、ハーフミラー13の配置位置及び角度が設定されている。
【0020】
穴あきミラー14は、入射した光を反射させる光反射面と、光反射面の中央部付近に設けられた孔部と、を有する。穴あきミラー14は、ハーフミラー13を経て進行する第1の出射光OL1及び第2の出射光OL2の共通の経路上に孔部が位置するように配置されている。
【0021】
スキャンミラー15は、例えば揺動するMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)ミラーから構成されている。スキャンミラー15の光反射面は、穴あきミラー14の孔部を通過して共通の経路上を進行する第1の出射光OL1及び第2の出射光OL2(以下、まとめて投光ビームOLと称する)の経路上に設けられている。スキャンミラー15が揺動することにより、投光ビームOLは出射方向(光軸方向)を変化させつつ測距領域に向けて投光される。例えば、スキャンミラー15は、ラスタスキャンやリサージュスキャンの軌道で走査するように、投光ビームOLを投光する。また、スキャンミラー15の光反射面は、測定領域内の対象物によって反射されたからの戻り光を反射させる。
【0022】
望遠レンズ16は、投光ビームOLの走査角度を拡大するとともに、戻り光を広角で受光するために設けられた拡大レンズである。望遠レンズ16は、スキャンミラー15により反射された出射光及び測距領域からの戻り光の経路上(例えば、スキャンミラー15と測距装置100の図示せぬ出射口との間)に設けられている。
【0023】
望遠レンズ16に入射した投光ビームOLは、基本的には望遠レンズ16を通過してバンドパスフィルタ17に入射するが、その一部は望遠レンズ16を通過せずに反射するいわゆる「迷光」となる。
【0024】
図3Aは、望遠レンズ16を通過する第1の出射光及び第2の出射光の波長及び強度を示す図である。
図3Bは、望遠レンズ16での反射による迷光の波長及び強度を示す図である。このように、波長λ1の光成分及び波長λ2の光成分のいずれについても、投光ビームOLの一部は望遠レンズ16で反射されて迷光となる。
【0025】
再び
図1を参照すると、バンドパスフィルタ17は、所定の波長帯域の光を通過させ、当該所定帯域外の波長の光を遮断する帯域制限フィルタである。本実施例において、バンドパスフィルタ17は、波長λ1及びその周辺の波長帯域の光を通過させる。また、バンドパスフィルタ17は、波長λ2の光を減衰させ、その通過を遮断する。バンドパスフィルタ17は、望遠レンズ16を透過した投光ビームOLの経路上に配置されている。バンドパスフィルタ17を通過した投光ビームOLは、測距装置100の図示せぬ出射口を介して測距装置100の外部に出射される。
【0026】
バンドパスフィルタ17を通過して測距装置100の外部に出射された投光ビームOLは、測距領域内の対象物によって反射され、反射光として測距装置100に入射する。測距装置100に入射した反射光は、バンドパスフィルタ17及び望遠レンズ16を経て、スキャンミラー15の光反射面に入射する。なお、以下の説明では、測距領域内の対象物によって反射され、バンドパスフィルタ17を通過してスキャンミラー15に入射する反射光と、望遠レンズ16を通過せずに望遠レンズ16で反射されてスキャンミラー15に入射するいわゆる迷光と、を合わせて「戻り光RL」と称する。
【0027】
図4Aは、投光ビームOLに含まれる光のうち、第1の波長λ1の光(すなわち、第1の出射光OL1)がバンドパスフィルタ17を通過し、第2の波長λ2(すなわち、第2の出射光OL2)の光がバンドパスフィルタ17によって遮断されることを示す図である。
図4Bは、外部から測距装置100に入射する光のうち、第1の波長λ1の光がバンドパスフィルタ17を通過し、第2の波長λ2の光がバンドパスフィルタ17によって遮断されることを示す図である。このように、バンドパスフィルタ17は測距装置100の内部から外部に向けて出射される光と、外部から測距装置100の内部に入射する光の双方に対して通過帯域を制限する機能を有する。そのため、バンドパスフィルタ17は背景光BLに対しても通過帯域を制限する機能を有する。従って、測距装置100に入射し、ノイズ成分となる背景光BLは減衰される。
【0028】
再び
図1を参照すると、集光レンズ18は、例えば凸レンズとして構成され、入射した光を集光する。集光レンズ18は、穴あきミラー14の光反射面で反射された戻り光RLが入射する位置に設けられている。集光レンズ18により集光された戻り光RLは、受光部19により受光される。
【0029】
受光素子19は、フォトダイオード等から構成されている。受光素子19は、外部から測距装置100に入射し、バンドパスフィルタ17、望遠レンズ16、スキャンミラー15、穴あきミラー14及び集光レンズ18を経た戻り光RLを受光する。受光素子19は、受光した戻り光RLを電気信号に変換して信号処理部20に供給する。
【0030】
信号処理部20は、戻り光RLの受光結果から反射光の光成分を抽出するための信号処理を行う。具体的には、信号処理部20は、戻り光RLの受光結果から、第1の波長λ1の迷光(以下、第1の迷光と称する)及び第2の波長λ2の迷光(以下、第2の迷光と称する)の迷光成分を取得する。そして、信号処理部20は、取得した迷光成分に基づいて戻り光RLの受光結果から反射光の成分を抽出する。
【0031】
図5Aは、信号処理部20の構成例を示すブロック図である。信号処理部20は、第1復調回路20A及び第2復調回路20Bから構成されている。第1復調回路20Aは、受光素子19による受光結果から周波数f1の信号成分を復調する。この復調処理により、第1復調回路20Aは、対象物によって反射された反射光(以下、ターゲット光Sとも称する)と、第1の出射光OL1による迷光成分(すなわち、波長λ1、周波数f1の迷光成分)と、を合わせた信号を検出信号Tとして検出する。
【0032】
第2復調回路20Bは、受光素子19による受光結果から周波数f2の信号成分を復調する。この復調処理により、第2復調回路20Bは、第2の出射光OL2による迷光成分(すなわち、波長λ2、周波数f2の迷光成分)を迷光モニタ信号成分M´として検出する。
【0033】
図5Bは、投光ビームOLによる迷光成分Mと、迷光モニタ信号成分M´との関係を模式的に示すグラフである。投光ビームOLによる迷光成分M(すなわち、第1の出射光OL1による迷光成分と第2の出射光OL2による迷光成分)は、迷光モニタ信号成分M´を用いて、次の数式(数1)により算出される。なお、θ
M=αθ
M´、|M|=β|M´|、α=(f1/f2)θ
Mを表している。
【0034】
【数1】
位相差検出に用いるターゲット光Sの信号成分は、S=T-Mの計算式により求めることが出来る。信号処理部20は、演算結果を測距部21に供給する。
【0035】
なお、本実施例では、波長及び周波数の異なる2種類のレーザ光を出射し、1つの受光部で受光信号の検出を行っているため、光学的な干渉が発生する。しかし、光学的な干渉成分は迷光モニタ用信号成分M´とは異なるため、迷光モニタ用信号成分M´のみを抽出することが可能である。これについて、以下説明する。
【0036】
例えば、光の波長及び周波数が異なる2つの単色の光を出射する場合の光の振幅は、次の数式(数2)により表される。ここで、cは光の速さ、tは時間を表している。また、fe1及びfe2はそれぞれ光の周波数である。
【0037】
【数2】
これら2つの単色の光が1つのディテクタに入射する場合、光の振幅は次の数式(数3)により表される。
【0038】
【数3】
また、ディテクタ上での光の強度の時間変化は次の数式(数4)で表される。
【0039】
【数4】
このように、周波数の異なる2つの光が1つのディテクタに入射すると光学的に干渉し、ディテクタ上ではその周波数差がビート周波数f
beat=f
e1-f
e2となって、強度が時間的に変化する。
【0040】
ここで、|A|2は、本実施例における第1の出射光OL1による迷光成分に相当する。また、|B|2は、本実施例における迷光モニタ用信号成分M´に相当する。また、2AB・cos(2π・(fe1-fe2)・t)は、第1の出射光OL1による迷光成分と迷光モニタ用信号成分M´との光学的な干渉成分に相当する。
【0041】
図6は、光学的な干渉成分の周波数と迷光モニタ用信号の周波数とが相違することを模式的に示す図である。このように、光学的な干渉成分は迷光モニタ用信号成分M´とは異なるため、電気的なバンドパスフィルタにより迷光モニタ用信号成分M´のみを抽出することができる。
【0042】
再び
図1を参照すると、測距部21は、信号処理部20による信号処理の結果に基づいて、戻り光RLに含まれる波長λ1の光の光成分と投光ビームOLに含まれる波長λ1の光成分の光(すなわち、第1の出射光OL1)との光強度の位相差を検出することにより、対象物までの距離を算出する。
【0043】
制御部22は、測距装置100の各部の制御を行う。例えば、制御部22は、第1光源11及び第2光源12の出射の制御や、スキャンミラー15の駆動制御を実行する。
【0044】
図7は、実施例1の測距装置100の機能ブロックを示すブロック図である。測距装置100は、投光部31、迷光監視光生成部32、合成部33、投受光分離素子34、走査部35、分離部36、受光部37及び演算部38から構成されている。
【0045】
投光部31は、
図1の第1光源11に相当する機能ブロックであり、第1の出射光OL1を出射する。迷光監視光生成部32は、
図1の第2光源12に相当する機能ブロックであり、第2の出射光OL2を出射する。
【0046】
合成部33は、
図1のハーフミラー13に相当する機能ブロックである。合成部33は、第1の出射光OL1及び第2の出射光ОL2を合わせた光を投光ビームOLとして第1の出射光OL1のもとの経路に沿って進行させる。
【0047】
投受光分離素子34は、
図1の穴あきミラー14に相当し、合成部33を通過した投光ビームOLを走査部35に向かって進行させる。また、投受光分離素子34は、走査部35を経た戻り光RLを受光部37に向かって進行させる。
【0048】
走査部35は、
図1のスキャンミラー15に相当し、投光ビームOLを反射させ、走査するように投光する。また、走査部35は、戻り光RLを反射させ、投受光分離素子34に向けて進行させる。
【0049】
分離部36は、
図1のバンドパスフィルタ17に相当する機能ブロックである。分離部36は、投光ビームOLのうちの波長λ1の成分を通過させ、波長λ2の成分を遮断する。これにより、投光ビームOLは、波長λ1のレーザ光とλ2のレーザ光とに分離される。また、分離部36は、測距装置100の外部から入射した光についても、波長λ1の成分を通過させ、波長λ2の成分を遮断する。
【0050】
受光部37は、
図1の受光素子19に相当する機能ブロックである。受光部37は、測距装置100の外部から入射し、分離部36及び投受光分離素子34を経た戻り光RLを受光する。
【0051】
演算部38は、
図1の信号処理部20及び測距部21に相当する機能ブロックである。演算部38は、戻り光RLの受光結果から迷光成分に相当する受光結果を取り除く演算を実行する。また、演算部38は、迷光成分を取り除いた戻り光RLの受光結果と第1の出射光OL1との位相差を検出することにより、対象物までの距離を算出する演算を実行する。
【0052】
次に、本実施例の測距装置100の動作について、
図8のフローチャートを参照しつつ説明する。
【0053】
まず、第1光源11は、波長λ1を有し、変調周波数f1で光強度を変調した第1の出射光OL1を出射する。また、第2光源11は、波長λ2を有し、変調周波数f2で光強度を変調した第2の出射光OL2を出射する(STEP101)。
【0054】
ハーフミラー13を通過した第1の出射光OL1、及びハーフミラー13によって反射された第2の出射光OL2は、共通の経路に沿って進行する(STEP102)。
【0055】
共通の経路に沿って進行した第1の出射光OL1及び第2の出射光OL2は、投光ビームOLとして穴あきミラー14の孔部を通過する。投光ビームOLは、スキャンミラー15の光反射面で反射される。スキャンミラー15は、所定の軌道に沿って走査するように反射方向を変化させる。スキャンミラー15によって反射された投光ビームOLは、望遠レンズ16に入射する(STEP103)。
【0056】
望遠レンズ16に入射した投光ビームOLは、一部が望遠レンズ16によって反射されて迷光となり、残りは望遠レンズ16を通過してバンドパスフィルタ17に入射する。バンドパスフィルタ17に入射した投光ビームOLのうち、波長λ1の光成分がバンドパスフィルタ17を通過し、測距装置100の外部の測距領域に向けて投光される。一方、波長λ2の光成分はバンドパスフィルタ17によって減衰し、通過が遮断される(STEP104)。
【0057】
投光ビームOLのうちの波長λ1の光は、対象物によって反射されて反射光となり、測距装置100に入射する。入射した反射光は、バンドパスフィルタ17及び望遠レンズ16を通過して、スキャンミラー15の光反射面に入射する。また、投光ビームOLのうち、望遠レンズ16で反射された迷光も、投光ビームOLの進行方向とは逆方向に進行し、スキャンミラー15の光反射面に入射する。スキャンミラー15の光反射面に入射した反射光及び迷光は、戻り光RLとしてスキャンミラー15により反射され、さらに穴あきミラー14の光反射面で反射される。
【0058】
穴あきミラー14の光反射面で反射された戻り光RLは、集光レンズ18に入射して集光される。受光素子19は、集光された戻り光RLを受光する(STEP105)。
【0059】
信号処理部20は、戻り光RLの受光結果から第1の迷光(すなわち、第1の出射光OL1による迷光)及び第2の迷光(すなわち、第2の出射光OL2による迷光)の迷光成分を取得し、取得した迷光成分に基づいて戻り光RLの受光結果から反射光の成分を抽出する(STEP106)。
【0060】
測距部21は、抽出された反射光の成分と第1の出射光OL1との光強度の位相差を検出し、対象物までの距離を算出する(STEP107)。
【0061】
以上の一連の動作により、対象物までの距離が測定される。本実施例の測距装置100によれば、迷光の影響を抑制しつつ、対象物までの距離を正確に測定することが可能となる。
本実施例の第2光源12は、第1の変調周波数f1と同じ変調周波数を有し、且つ第1の出射光OL1の変調信号とは逆位相になる変調信号に基づいて光強度を変調した波長λ2のレーザ光を、第2の出射光OL2として出射する。本実施例における第2の出射光OL2は、迷光を低減するために出射するレーザ光である。
スキャンミラー15によって反射された第1の出射光OL1の一部は、望遠レンズ16によって反射されて迷光となり、第1の出射光OL1と同じ経路上を逆方向に進行して穴あきミラー14に入射する。その際、第2の出射光OL2は、第1の出射光OL1の変調信号と同じ変調周波数を有し且つ逆位相である変調信号に基づいて光強度が変調された信号であるため、第1の出射光OL1による迷光と同じ経路を逆方向に進行することにより迷光を低減する性質を有する。理想的には、第2の出射光OL2によって迷光が低減されることにより、迷光の影響が光学的にキャンセルされる。
図中、RS(実線で示す)は、受光素子19の受光結果である受光信号の波形を示している。また、M1(点線で示す)は、第1の出射光OL1による迷光の信号波形を示している。S1(太い破線で示す)は、受光信号から迷光成分を取り除いた信号、すなわち受光信号から抽出したい対象物からの反射光の信号波形を示している。このように、受光信号は、対象物からの反射光と迷光とが重畳された信号波形を有している。
以上のように、本実施例の測距装置200によれば、迷光の影響を光学的にキャンセルすることにより、迷光の影響を抑制しつつ、対象物までの距離を正確に測定することが可能となる。また、実施例1とは異なり、迷光成分を取り除くための演算を信号処理部により実行する必要がないため、簡易な構成で迷光の影響を抑制することが可能となる。
なお、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、上記実施例では、ハーフミラー13を用いて第1の出射光OL1及び第2の出射光OL2を共通の経路に進行させる構成について説明した。しかし、これに限られず、何らかの光学素子を用いて第1の出射光OL1及び第2の出射光OL2を共通の経路に進行させることが可能に構成されていればよい。
また、上記実施例では、ハーフミラー13は、第1の出射光OL1を通過させる一方、第2の出射光OL2を反射させる構成としていたが、これに限られず、第1光源11の位置に第2光源12を配し、第2光源12の位置に第1光源11を配することで、第1の出射光OL1を反射させる一方、第2の出射光OL2を通過させる構成としてもよい。
また、上記実施例では、投受光分離素子34として穴あきミラー14を用いる例について説明したが、これ以外の光学素子(例えば、ハーフミラー)を投受光分離素子34として用いてもよい。
また、上記実施例では、測距装置100内ですべての処理を行う例について説明したが、第1光源11と、第2光源12と、ハーフミラー13と、穴あきミラー14と、スキャンミラー15と、望遠レンズ16と、バンドパスフィルタ17と、集光レンズ18と、受光素子19とを備える光学装置から出力される、受光素子19が戻り光RLの受光結果に基づく出力信号を、信号処理部20と、測距部21と、制御部22とを備える信号処理装置が処理する構成としてもよい。