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特開2024-125377ロード可能な検出分子を使用したハイスループットのエピトープ同定及びT細胞受容体特異性決定
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125377
(43)【公開日】2024-09-18
(54)【発明の名称】ロード可能な検出分子を使用したハイスループットのエピトープ同定及びT細胞受容体特異性決定
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20240910BHJP
   C07K 14/74 20060101ALI20240910BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALN20240910BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20240910BHJP
【FI】
C12Q1/02 ZNA
C07K14/74
C12Q1/02
C12N5/0783
C12N15/12
【審査請求】有
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024103957
(22)【出願日】2024-06-27
(62)【分割の表示】P 2021517029の分割
【原出願日】2019-09-26
(31)【優先権主張番号】18197682.0
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】523285823
【氏名又は名称】10エックス ジェノミクス,インク.
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハドルップ,シネ レカー
(72)【発明者】
【氏名】ヤコブセン,ソレン ニブロエ
(72)【発明者】
【氏名】サイニ,スニル クマー
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ハイスループットのエピトープ同定及びTCR特異性決定に利用できる改良された検出分子を提供する。
【解決手段】MHCクラスI分子の重鎖に2つのシステイン残基を組換え導入することによって、アルファ-1ドメインとアルファ-2ドメインの間に追加のジスルフィド架橋を導入し、MHC分子のペプチド結合クレフトに結合した抗原ペプチドなしに調製できる、MHCクラスI分子のジスルフィド安定化バージョンを提供する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
方法、ロード可能な検出分子、組成物、使用、キットなど。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗原ペプチドと、T細胞受容体(TCR)や抗原ペプチド応答性T細胞などの結合相手との間の相互作用の検出に関する。具体的には、本発明は、ハイスループットのエピトープ同定及びTCR特理性決定に利用されるペプチドフリーMHC分子をもつロード可能な検出分子を提供することに関する。
【背景技術】
【0002】
主要組織適合性複合体クラスI(MHC-I)タンパク質は、細胞プロテオームを小さなペプチド断片として細胞表面に提示して、T細胞による免疫監視を媒介し、ウイルス感染やがんなどの細胞の異常に対抗するために必要不可欠である。抗原特異的T細胞の同定と特性解析は、治療法の開発や、免疫が冒された疾患のメカニズムの洞察に非常に重要である。大きなpMHC分子のライブラリーを用いたT細胞の特異性のスクリーニングは、モデル抗原の選択に限定した解析よりもむしろ、潜在的に全ゲノムレベルでT細胞の認識を解析するのに適している。そのような戦略は、疾患の発症や免疫療法への反応に関与する免疫特異性についての新たな洞察をもたらし、T細胞の認識パターン及びTCRによる交差認識に関連する基本的な知見を広げる。
【0003】
これまでのプロトコールは、MHCマルチマーに基づく検出技術の能力を拡大し、限られた生物学的材料における大規模なエピトープの発見や免疫モニタリングを容易にすることを目指してきた。
【0004】
Hadrup et al.(2009)及び国際公開第2010/060439A1号には、蛍光標識されたMHCマルチマーのコンビナトリアルエンコーディングに基づいたアプローチが記載されている。この方法では、それぞれの異なるpMHCマルチマーにユニークな2色コードが割り当てられ、それを用いてこの特定のpMHC分子に結合するT細胞が同定される。ユニークな2色コードを採用した場合、予め決められた色の組み合わせに一致しないいずれのT細胞もバックグラウンドイベントとして記録される。このコンビコーディング(combicoding)アプローチは、8つのフルオロフォアの組み合わせが28個のユニークな2色コードを生み出すので、従来の蛍光標識されたMHCマルチマーをベースとしたアッセイと比較して、低い検出限界をもたらし、スループットの増加を可能にする。
【0005】
Bentzen et al. (2016)及び国際公開第2015/188839A2号には、MHCマルチマーに結合したDNAバーコードが、pMHCエピトープそれぞれに特異的なタグを形成する別のアプローチが記載されている。そのDNAバーコードは、異なるユニークな配列が最大で1010通りの複雑さで設計でき、したがって抗原応答性T細胞の検出は、この技術を用いて利用可能な標識の数に制限されない。
【0006】
このように、MHCマルチマーに基づくT細胞の検出アプローチは、試料当たり数個の抗原特異的T細胞集団の検出から、1000を超える特異性を並行して同定するまで進化してきた。しかし、これらの最先端のT細胞検出プラットフォームの柔軟性、迅速性、及び品質保証を制限する大きな制約は、異なるペプチド-MHC複合体(pMHC)(しばしば100-1000の異なるpMHC)の大きなライブラリーを生成することである。この課題を克服するために、ペプチド交換技術が開発されて、所与のHLA又はH-2分子に対する条件付きリガンドMHC-Iの単一ストックから複数のpMHCを容易に生成することができるようになった。これらの戦略には、ペプチド交換の触媒としてのジペプチドの使用、広く使用されているUV媒介ペプチド交換技術、及び最近開発された温度誘導交換技術が含まれる。残念ながら、追加のペプチド交換プロセスのステップを必要とすること以外に、交換技術には欠点があり、例えばHLAに特異的な設計及び最適化、低親和性の入力ペプチドの非効率的なペプチド交換、ペプチド交換後にのみ多量体化する能力、並びに長い交換時間などが挙げられる。
【0007】
現在のマルチマーに基づくT細胞検出アプローチのさらに別の限界は、抗原ペプチド依存性の寿命を有することが知られている主要組織適合性複合体固有の不安定性である。pMHCの不安定性は、pMHCが完全に機能を維持しており、したがってT細胞検出に有用である時間枠を制限する。また、pMHC複合体の不安定性は、MHCマルチマーが完全に機能を維持し、効率的かつ抗原特異的にT細胞を同定できる時間を制限する。
【0008】
米国特許第9,494,588号には、抗原ペプチドなしで作製できる変異MHCクラスI分子の提供が記載されている。この空のMHCクラスI分子は、ハイスループットのMHCに基づくT細胞検出に必要な、異なるペプチド-MHC複合体(pMHC)の大きなライブラリーを生成するために使用されうる。しかし、この方法論がそのような設定での使用に適用できるかどうかは、純粋に推測であり、開示されていない。例えば、野生型(wt)MHC分子と同様の抗原特異的相互作用特性をもつT細胞と相互作用するそれらの分子の能力は示されていない。さらに、導入された変異がTCR-pMHC相互作用に構造的又は機能的に影響を与えるかどうかは不明であり、抗原ペプチドとTCR又は抗原ペプチド応答性T細胞との間の本来の相互作用を反映していない、信頼性の低い結果をもたらす可能性がある。
【0009】
さらに、MHCに基づくT細胞検出アッセイのための既存の技術はすべて、抗原ペプチドとTCR又は抗原ペプチド応答性T細胞との間の稀で弱い相互作用を検出することに関しては一貫性がない。一例として、コンビコーディング技術の蛍光をベースとする読み出しはフローサイトメトリーによって検出され、したがって所与のpMHCに関連するシグナル強度は、MHCマルチマーと特異的に相互作用するT細胞とそうでないT細胞を区別する唯一の尺度となる。したがって、十分な蛍光強度を得て、それによってその特異性の明確な識別を可能にするためには、所与のT細胞が多数のMHCマルチマーと結合することが不可欠である。結果として、抗原ペプチドの相互作用が弱くなり、発生頻度が少なくなるにつれて、その相互作用を正確に解明し発見することがますます困難になる。これにより、一貫性のない結果がもたらされる可能性がある。したがって、がん関連抗原及び変異由来ネオエピトープの発見に特に重要となる、稀で弱い相互作用を検出する能力は、現状では不十分である。低アビディティーの相互作用と小さなT細胞集団を特徴とすることが多い自己抗原の認識では尚更そうである。今もなお疾患の発症にする可能性のあるそのような稀な集団を検出するためには、検出技術の向上が必要である。
【0010】
したがって、ハイスループットにエピトープを同定し、TCR特異性を決定するための改良された方法は有利であることになる。具体的には、エンドユーザーが必要に応じて、スクリーニングのための大きな抗原ペプチドライブラリーを容易に生成でき、稀で弱い相互作用、例えばがん関連抗原及び変異由来のネオエピトープの相互作用でさえも確実に発見できる、より柔軟な、感度の高い、より迅速な方法は有益であろう。
【発明の概要】
【0011】
したがって、本発明の目的は、ハイスループットのエピトープ同定及びTCR特異性決定に利用できる改良された検出分子を提供することに関する。
【0012】
具体的には、抗原ペプチド-MHC複合体(pMHC)の大きなライブラリーの生成及び稀で弱い相互作用を検出するのに感度が不十分という先行技術の上記問題を解決する方法を提供することが本発明の目的である。
【0013】
したがって、本発明の1つの態様は、試料中の1つ又は複数の抗原ペプチド応答性T細胞を検出するための方法に関し、その方法は以下のステップ:
i.少なくとも1つのペプチドフリーMHCクラスI分子及び少なくとも1つの検出可能な標識を含むロード可能な検出分子を用意すること、
ii.少なくとも1つの抗原ペプチドを用意すること、
iii.ロード可能な検出分子を少なくとも1つの抗原ペプチドと接触させて、少なくとも1つのペプチド-MHC(pMHC)クラスI分子を含むロード済み検出分子を形成すること、
iv.ロード済み検出分子を試料と接触させること、並びに
v.ロード済み検出分子の1つ又は複数の抗原ペプチド応答性T細胞への結合を検出することを含み、
少なくとも1つの抗原ペプチドはそれぞれ、
-少なくとも2つの異なる検出可能な標識、又は
-核酸標識である少なくとも1つの検出可能な標識
によって表される。
【0014】
本発明の別の態様は、少なくとも1つのペプチドフリーMHCクラスI分子及び核酸標識を含むロード可能な検出分子に関する。
【0015】
本発明のさらに別の態様は、試料中の1つ又は複数の抗原ペプチド応答性T細胞を検出するための組成物を提供することであり、その組成物は、
(a)少なくとも1つのペプチドフリーMHCクラスI分子及び核酸標識を含む少なくとも2つのロード可能な検出分子、又は
(b)各ロード可能な検出分子が異なる検出可能な標識を含み、少なくとも3つの少なくとも1つのペプチドフリーMHCクラスI分子及び少なくとも1つの検出可能な標識を含むロード可能な検出分子を含む。
【0016】
本発明のさらに別の態様は、試料中の1つ又は複数の抗原ペプチド応答性T細胞を検出するための、本明細書に記載の少なくとも1つのペプチドフリーMHCクラスI分子及び核酸標識を含むロード可能な検出分子又は組成物の使用に関する。
【0017】
本発明のさらなる態様は、試料中の1つ又は複数の抗原ペプチド応答性T細胞を検出するためのキットを提供することであり、そのキットは、
i.本明細書に記載の少なくとも1つのペプチドフリーMHCクラスI分子及び核酸標識を含むロード可能な検出分子又は組成物、
ii.少なくとも1つの抗原ペプチド、並びに
iii.任意選択で、使用説明書を含む。
【0018】
本発明のさらにさらなる態様は、T細胞受容体(TCR)又は抗原ペプチド応答性T細胞と抗原ペプチドのライブラリーの間の相互作用を決定する方法に関し、その方法は以下のステップ:
i.少なくとも1つのペプチドフリーMHCクラスI分子及び核酸標識を含むロード可能な検出分子を用意すること、
ii.抗原ペプチドのライブラリーを用意すること、
iii.ロード可能な検出分子を抗原ペプチドのライブラリーと接触させて、ペプチド-MHC(pMHC)クラスI分子を含むロード済み検出分子のライブラリーを形成すること、
iv.T細胞受容体(TCR)又は抗原ペプチド応答性T細胞をロード済み検出分子のライブラリーと接触させること、及び
v.T細胞受容体(TCR)又は抗原ペプチド応答性T細胞とロード済み検出分子のライブラリーの結合を検出することを含む。
【0019】
本発明のさらにさらなる態様は、T細胞受容体(TCR)又は抗原ペプチド応答性T細胞と抗原ペプチドのライブラリーの間の相互作用を決定するための、少なくとも1つのペプチドフリーMHCクラスI分子及び核酸標識を含むロード可能な検出分子の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】(A)健常なドナーのPBMCからCys変異体MHC及び野生型MHC検出分子(PEタグ付き)を用いてHLA-A*02:01(A2)制限-NLVPMVATV特異的T細胞を検出するためのフローサイトメトリー解析の比較ドットプロット。2×106個のPBMCを、A2-NLVPMVATVウイルス由来抗原に特異的なCys変異体A2検出分子又は野生型A2検出分子で染色した。同等の抗原特異的T細胞頻度(ドットプロット上の数字は全CD8+細胞に対するパーセント割合)が見られたが、Cys変異体MHC検出分子を用いると、より明るく、より良好な分離が得られた。(B)図1AのプロットからNLVPMVATV特異的T細胞を検出するためのCys変異体MHCと野生型MHC検出分子を比較した染色指数。染色指数は(陽性の中央値-陰性の中央値)/(陰性のSD*2)として計算した。Cys変異体MHC検出分子で3倍高い染色指数が検出された。
【0021】
図2】(A)2つの異なる健常なドナーのPBMCからCys変異体MHC及び野生型MHC検出分子(APCタグ付き)を用いてA2-NLVPMVATV特異的T細胞を検出するためのフローサイトメトリー解析の比較ドットプロット。2×106個のPBMCを、A2-NLVPMVATVウイルス由来抗原に特異的なCys変異体A2検出分子又は野生型A2検出分子で染色した。同等の抗原特異的T細胞頻度(ドットプロット上の数字は全CD8+細胞に対するパーセント割合)が見られたが、やはり、APCフルオロフォアでタグ付けしたCys変異体MHC検出分子用いると、より明るく、より良好な分離が得られた。(B)図2Aのプロットから、NLVPMVATV特異的T細胞を検出するためのCys変異体MHC検出分子と野生型MHC検出分子を比較した染色指数。染色指数は(陽性の中央値-陰性の中央値)/(陰性のSD*2)として計算した。2つのドナー試料のどちらにおいても、APCでタグ付けしたCys変異体MHC検出分子で、野生型MHC検出分子と比較して6~8倍の染色指数が検出された。
【0022】
図3】(A)健常なドナーのPBMCからCys変異体MHC及び野生型MHC検出分子(APCタグ付き)を用いてHLA-A*02:01(A2)制限-YVLDHLIVV(EBV BRLF1)及びVLEETSVML(CMV IE1)特異的T細胞を検出するためのフローサイトメトリー解析の比較ドットプロット。Cys変異体MHC検出分子は、低頻度(A2-YVLDHLIVV)と高頻度(A2-VLEETSVML)CD8+T細胞の両方を、野生型MHC検出分子と同等に検出したが(ドットプロット上の数字は全CD8+細胞に対するパーセント割合)、より明るく、より良好な分離が得られた。(B)図3Aのプロットから、A2-YVLDHLIVV及びA2-VLEETSVML特異的T細胞を検出するためのCys変異体MHCと野生型MHC検出分子を比較した染色指数。どちらのタイプの抗原特異的T細胞においても、野生型MHC検出分子と比較して、APCでタグ付けしたCys変異体MHC検出分子ではるかに高い染色指数が検出された。
【0023】
図4A】コンビコーディングを用いて検出された抗原特異的T細胞のフローサイトメトリープロット。ドットプロットは、検出された抗原特異的CD8+T細胞を示し、灰色のドットはpMHC検出分子陰性又は単色陽性細胞を表し、黒色のドットは2色検出分子陽性細胞を表す。ドットプロットは、並行してCys変異体MHC検出分子及び野生型MHC検出分子を用いて検出したT細胞を比較する。2×106個の健常なドナーのPBMCを、異なる抗原特異性の、2色コンビコーディングした検出分子のプールで染色した。同定された2色の検出分子陽性のCD8細胞を、それぞれの色の組み合わせでX軸とY軸にプロットしたプロットに示している。Cys変異体MHCと野生型MHC検出分子の間で、抗原特異的T細胞検出の相対的な頻度(ドットプロット上の数字は全CD8+細胞に対するパーセント割合)が見られた。
図4B図4Aで検出された所与の抗原特異的T細胞集団に用いた標識各色について、Cys変異体MHCと野生型MHC検出分子を比較した染色指数の倍率変化。3つの抗原特異的T細胞すべてにわたって、野生型MHC検出分子と比べてCys変異体MHCについては、より高い倍数変化が染色指数で見られた。
【0024】
図5】(A)メラノーマ患者の増殖TILからCys変異体MHC及び野生型MHC検出分子を用いて検出されたメラノーマ関連抗原特異的T細胞を表すドットプロット。12個のメラノーマ関連抗原ペプチドのライブラリーを、コンビコーディング法を用いてスクリーニングした。メラノーマ患者試料の2つの同定されたT細胞集団を、それぞれの色の組み合わせで示し、同定された頻度(ドットプロット上の数字は全CD8+細胞に対するパーセント割合)を2つのタイプのT細胞検出分子間で比較したドットプロット。(B)図5Aのドットプロットに示されたメラノーマ関連抗原特異的T細胞の染色指数(図4Bに記載)の倍率変化。ドットプロットの上の数字は、全CD8+T細胞のうちのpMHCマルチマー陽性細胞のパーセント割合を表す。どちらのタイプの抗原特異的T細胞でも、野生型MHC検出分子と比べてCys変異体MHCについては、より高い倍数変化が染色指数で見られた。
【0025】
図6】(A)Cys変異体MHCI分子を用いて組み立てられたロード可能な検出分子の模式図。ロード可能なCys変異体検出分子を-20℃で保存し、必要に応じてペプチドでロードした。(B)ロード可能なマルチマーに対するペプチドのロード時間とペプチド濃度の最適化。FLU MP GILGFVFTL抗原ペプチドを異なる時点で4つの異なる抗原濃度(0.1、1、10、及び100μM)でCys変異体A2検出分子にロードした。所与のペプチド濃度の各時点の後、健常なドナーのPBMCから2x106細胞を染色することによって、GILGFVFTL特異的T細胞を検出した。試験ペプチド濃度ごとに、検出分子陽性のCD8+T細胞として検出された頻度をインキュベーション時間に対してプロットした。機能的な抗原特異的ロード済み検出分子は、わずか1分で、ロード可能なCys変異体MHC検出分子から変換することができる。
【0026】
図7】ロード可能なCys変異体MHC検出分子を用いたコンビコーディング戦略によって同定されたメラノーマTIL中のネオアンチゲン特異的T細胞。43個のA2制限ペプチド(ネオアンチゲン)に対するpMHC Cys変異体検出分子を、それぞれ2色の組み合わせで精製した。ロード可能なCys変異体A2検出分子を100μMのペプチドと15分間インキュベートし、続いてメラノーマ患者の2×106個のTILを染色した。ドットプロットは、この患者試料で同定された3つのネオアンチゲン特異的T細胞集団を示し、それぞれの集団は蛍光色素とペプチド配列の表示とともに示されている。ネオアンチゲンの変異したアミノ酸の位置を下線と太字で示した。ドットプロットの上の数字は、全CD8+T細胞のうちのpMHCマルチマー陽性細胞のパーセント割合を表す。
【0027】
図8】Cys変異体A2分子(図8A)又は野生型MHC A2分子(図8B)を用いて調製した検出分子の間で比較した抗原ペプチド-MHC(pMHC)。A2-GILGGFVFTL(FLU MP)特異的検出分子を、野生型A2又はCys変異体A2を用い、ロード可能なマルチマーを用いて調製した。pMHCマルチマーを調製した後、分子量カットオフスピンカラムを用いて過剰なペプチドを除去し、マルチマーを3つの異なる温度で指示された時間インキュベートし、その後健常なドナーのPBMCから、T細胞検出の効率を測定した。T細胞検出の効率として測定したペプチドの解離率は、Cys変異体MHC分子の優れた安定性を示している。野生型のMHC A2を用いて調製した検出分子は、37℃で12時間後からT細胞検出の効率の減少を示すのに対して、Cys変異体A2検出分子は、37℃で48時間時点まで同じ検出効率で機能する。
【0028】
図9】抗原特異的T細胞検出のためのハイスループットのバーコーディング法に利用したCys変異体A2分子。175個の抗原(167個のがん関連抗原及び8個のウイルス由来抗原)のライブラリーをスクリーニングして、健常なドナーのPBMCから抗原特異的T細胞を同定した。検出分子は、Cys変異体A2又は野生型A2分子を用いて組み立てた。各抗原特異的検出分子を、ユニークなDNAバーコードでタグ付けした。175個の抗原特異的検出分子のプールしたライブラリーを5×106個の健常なドナーPBMCと染色した。175個すべてのpMHC特異性(x軸)に対するCys変異体A2分子と野生型A2分子から作った検出分子の比較結果をプロット上に示す。Y軸にしたデータは、DNAバーコード化検出分子の-log10(P)(pMHC関連DNAバーコードを対する)である。x=3の点線(-log10(0.001))は、選択された閾値を表し、これより上の読み出しはすべて、同定された抗原特異的T細胞に対して有意であるとみなされる。
【0029】
図10】Cys変異体A2分子を用いたハイスループットのバーコーディング法で想定されたがん関連抗原特異的CD8T細胞。2名のメラノーマ患者のTILにおいて、175個の抗原(167個のがん関連抗原及び8個のウイルス由来抗原)のライブラリーをスクリーニングして抗原特異的T細胞を同定した。検出分子は、Cys変異体A2分子又は野生型A2分子を用いて組み立てた。各抗原特異的検出分子を、ユニークなDNAバーコードでタグ付けした。175個の抗原特異的T細胞検出分子のプールされたライブラリーを3~5×106個のメラノーマ患者TILと染色した。175個すべてのpMHC特異性(x軸)に対するCys変異体A2分子と野生型A2分子から作った検出分子の比較結果をプロット上に示す。Y軸にプロットしたデータは、DNAバーコード化検出分子の-log10(P)(pMHC関連DNAバーコードに対する)である。x=3の点線(-log10(0.001))は、選択された閾値を表し、これより上の読み出しはすべて、同定された抗原特異的T細胞に対して有意であるとみなされる。Cys変異体MHC検出分子(三角形)のみが、メラノーマ患者試料の両方において、がん関連抗原特異的T細胞を同定することができた。
【0030】
図11】Cys変異体A2分子と野生型A2分子のTCR認識プロファイルの比較。シャノンロゴ(Shannon logos)は、ペプチドの各位置におけるpMHC-TCR相互作用に必要なアミノ酸を示している。TCR認識プロファイルは、元のKLLEIAPNYペプチドのアミノ酸バリデーションをもつ192個のペプチド-A2マルチマーのDNAバーコード標識ライブラリーを用いて生成した。これらのペプチドバリエーションそれぞれに対するTCR認識を、メルケル細胞ポリオーマウイルス由来エピトープであるA2-KLLEIAPNYを認識する2つのT細胞クローンについて、Cys変異体A2分子又は野生型A2分子から調製したpMHCデキストラーマーを用いて決定した。Cys変異体A2分子又は野生型A2分子いずれかを用いた2つのT細胞クローンのTCRフィンガープリントを示すシャノンロゴを表す。
【0031】
以下に、本発明をより詳細に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0032】
定義
本発明をさらに詳しく論じる前に、まず以下の用語や慣例(conventions)を定義する。
【0033】
検出分子
本発明の文脈では、「検出分子」という用語は、抗原ペプチドと、T細胞受容体(TCR)又は抗原ペプチド応答性T細胞との間の相互作用を検出するために使用され得る実体を指す。
【0034】
本明細書に記載の検出分子は2つの形態で存在する。(i)いかなる抗原ペプチドも結合していない1つ又は複数のMHCクラスI分子(すなわちペプチドフリー/空のMHC分子)を含むロード可能な形態及び(ii)1つ又は複数のペプチド-MHC(pMHC)クラスI分子を含むロード済みの形態ある。
【0035】
検出分子はまた、検出分子によって提示される抗原ペプチドと、TCR又は抗原ペプチド応答性T細胞との間の相互作用の検出を可能にする1つ又は複数の検出可能な標識も含む。したがって、検出分子は、例えば、(i)T細胞の集団における1つ又は複数の抗原ペプチド応答性T細胞の同定、及び(ii)抗原特異的検出分子の大きなライブラリーのTCR-pMHC相互作用をスクリーニングすることによるTCRフィンガープリンティングに利用することができる。
【0036】
検出分子は、1つ又は複数のペプチドフリーMHCクラスI分子及び検出可能な標識に結合しているコネクター分子及び/又はスカフォールド分子を含んでいてもよい。検出分子が2つ以上のMHC分子を含む場合は、マルチマーと呼ばれることがある。
【0037】
検出分子の1つのバリアントでは、コネクター分子は、4つのMHC分子と結合したストレプトアビジンであり、それによってテトラマーを形成している。あるいは、検出分子は、MHC分子が直接又はコネクター分子を介して結合した多糖スカフォールドを含むこともできる。多糖はデキストランであることができる。
【0038】
MHC及びCys変異体MHC
本発明の文脈では、「MHC」という用語は主要組織適合性複合体を指し、その主な機能が、病原体に由来する抗原ペプチドと結合し、それらを適切なT細胞による認識のために細胞表面に提示することあるタンパク質複合体である。
【0039】
MHC分子には、MHCクラスI分子とMHCクラスII分子という2つの大きなクラスがある。本明細書では、「MHC」はMHCクラスI分子を指す。MHCクラスI分子は、MHC遺伝子から作られるアルファ鎖(重鎖)及びβ2-マイクログルブリン遺伝子から作られるベータ鎖(軽鎖又はβ2-マイクログルブリン)からなる。
【0040】
重鎖は、それぞれアルファ-1、アルファ-2、アルファ-3と呼ばれる3つのドメインからなる。アルファ-1ドメインは、非共有結合で結合したβ2-マイクログルブリンの隣に位置する。アルファ-3ドメインは膜貫通ドメインであり、MHCクラスI分子を細胞膜に固定している。アルファ-1ドメイン及びアルファ-2ドメインは一緒になって、特異的な抗原ペプチドを結合するペプチド結合溝を含有するヘテロ二量体を形成する。ペプチド結合溝のアミノ酸配列は、どの特異的抗原ペプチドがMHCクラスI分子に結合するかに関する決定因子である。
【0041】
天然では、MHCクラスI分子の重鎖には、2つのジスルフィド架橋の形成をもたらす4つの保存されたシステイン残基がある。MHCクラスI分子が正しく折り畳まれたコンフォメーションには、アルファ-2ドメイン内のCys101とCys164の間に1つのジスルフィド架橋があり、アルファ-3ドメイン内のCys203とCys259の間にもう1つのジスルフィド架橋があり、アミノ酸の番号付けはシグナルペプチドを含まないHLA-Aを参照している。
【0042】
本発明では、2つのシステイン残基を組換え導入することによって、アルファ-1ドメインとアルファ-2ドメインの間に追加のジスルフィド架橋を導入している。したがって、「Cys変異体MHC」という用語が本明細書において使用され、MHC分子のペプチド結合クレフトに結合した抗原ペプチドなしに調製できる、MHCクラスI分子のジスルフィド安定化バージョンを指す。
【0043】
したがって、「Cys変異体MHC」は、空の状態か、抗原ペプチドと結合しているかのいずれかでありうる。したがって、本発明の文脈では、抗原ペプチドを含まない空のMHC分子(Cys変異体MHCのみ可)と、抗原ペプチドが結合したMHC分子(野生型(wt)MHCでもCys変異体MHCでも可)を指すpMHC分子の間に区別がある。
【0044】
ヒトの場合、MHC複合体はヒト白血球抗原(HLA)遺伝子複合体にコードされている。したがって、本発明の文脈では、「MHC」という用語は「HLA」も包含する。HLAには3つの主なタイプが存在し、したがって、本発明の文脈では、MHCには、HLA-A、HLA-B、及びHLA-Cの遺伝子座にコードされているHLAアレルが含まれるが、これらに限定されない。同様に、MHCには、HLA-E、HLA-F、HLA-G、HLA-H、MIC A、MIC B、CD1d、ULBP-1、ULBP-2、及びULBP-3などのMHCクラスI様分子が含まれるが、これらに限定されない。
【0045】
ペプチドフリーMHCクラスI分子
本発明の文脈では、「ペプチドフリーMHCクラスI分子」という用語は、抗原ペプチドが結合していないMHCクラスI分子を指す。「ペプチドフリーMHCクラスI分子」、「空のMHCクラスI分子」及び「ペプチド受容性MHCクラスI分子」という用語は、本明細書において互換的に使用される。
【0046】
pMHC
本発明の文脈では、「pMHC」という用語は、抗原ペプチドに結合している上記で定義されたMHC分子を指す。「pMHC」という用語は、抗原ペプチドに結合している野生型MHC又はCys変異体MHCのいずれかを指しうる。
【0047】
変異体システイン残基
本発明の文脈では、「変異体システイン残基」という用語は、MHCクラスI分子の重鎖に人為的に導入されたシステイン残基を指す。したがって、変異体システイン残基は、対応する野生型MHCクラスI分子の重鎖には存在しない。
【0048】
変異体システイン残基は、当業者に公知の変異誘発技術、例えば部位特異的変異誘発によって導入することができる。
【0049】
抗原ペプチド
本発明の文脈では、「抗原ペプチド」という用語は、主要組織適合性複合体(MHC)分子に結合してペプチド-MHC(pMHC)複合体を形成できるペプチドを指す。pMHC複合体は、抗原ペプチドを免疫細胞に提示して、T細胞受容体依存性の免疫応答を誘発することができる。MHC分子はMHCクラスI分子でありうる。
【0050】
本発明の文脈では、「異なる抗原ペプチド」という表現は、非同一のアミノ酸配列をもつ抗原ペプチドを指す。
【0051】
本発明の文脈では、「標的抗原ペプチド」という用語は、医薬候補の標的である抗原ペプチドを指す。したがって、医薬候補は、TCR、抗原ペプチド応答性T細胞、小分子薬物、又は天然化合物でありうるが、これらに限定されない。潜在的なオフターゲットの問題を特定するために、標的抗原ペプチドの単一位置変異に基づく抗原ペプチドのライブラリーを作り、医薬候補との意図しない相互作用についてスクリーニングすることができる。これらの医薬候補のフィンガープリントを利用して有害作用のリスクを評価することができる。
【0052】
標的抗原ペプチドは、がん関連エピトープ、ウイルスエピトープ、自己エピトープ又はその他の臨床的に関連性のある標的でありうるが、これらに限定されない。
【0053】
エピトープ
本発明の文脈では、「エピトープ」という用語は、T細胞のTCR又は医薬候補物質などの別の結合相手によって認識される抗原決定基を意味する。pMHCによって提示されるエピトープは、いかなる異物に対しても高い特異性をもち、TCRとの相互作用は、ペプチド-MHC-指向性方式での特異的なT細胞の効果的な増殖及び機能的な刺激を確実にする。
【0054】
ライブラリー
本発明の文脈では、「ライブラリー」という用語は、複数の実体を指す。したがって、ライブラリーは、異なる抗原ペプチド又は核酸標識の複数(又はコレクション)であることができる。
【0055】
検出可能な標識
本発明の文脈では、「検出可能な標識」という用語は、分光学的、光化学的、生化学的、免疫化学的、又は化学的手段によって検出可能な部位を指す。検出可能な標識は、試料中の結合した検出可能な部分の量を定量するために使用できる、蛍光シグナル、放射性シグナル、発色性シグナルなどの測定可能なシグナルを生成することができる。検出可能な標識はまた、核酸標識などの、シークエンシングによって解読されうる分子コード化標識であってもよい。
【0056】
検出可能な標識は、共有結合的に、又はイオン結合、ファンデルワールス結合若しくは水素結合を通して、MHC分子又はコネクター分子を介して検出分子に結合することができる。検出可能な標識の例としては、蛍光マーカー、核酸標識、放射性同位体、磁気マーカー及び金属標識が挙げられるが、これらに限定されない。
【0057】
本発明の文脈では、「異なる検出可能な標識」という表現は、異なる読み出し、例えば異なる波長の蛍光発光又は異なる配列の核酸などを生じる検出可能な標識を指す。異なる検出可能な標識は、例えば2つの異なるフルオロフォアのように同じカテゴリーの標識に属してもよく、例えば放射性同位体及び核酸標識にように2つの異なるカテゴリーの標識に属してもよい。
【0058】
試料
本発明の文脈では、「試料」という用語は、T細胞の集団を含む任意の溶液又は固体画分を指す。T細胞集団には、異なる特異性をもつT細胞が入っている可能性がある。
【0059】
試料はどの特定のソースにも限定されないが、末梢血単核細胞、腫瘍、組織、骨髄、生検組織(biopsies)、血清、血液、血漿、唾液、リンパ液、胸膜液、脳脊髄液(cerospinal fluid)及び滑液でありうる。試料は対象から抽出することができる。個人から抽出された試料は、がん若しくは疾患の間又は免疫療法後の免疫応答を特定及び評価するために、本明細書に記載の方法に供することができる。
【0060】
コネクター分子
本発明の文脈では、「コネクター分子」という用語は、検出分子の一部であり、1つ又は複数のMHC分子に結合している分子実体を指す。コネクター分子は、MHC分子上に位置するアフィニティータグに非共有結合的に結合することができる。
【0061】
コネクター分子の例としては、ストレプトアビジン、アビジン、金属イオンキレート、抗体などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0062】
コネクター分子はまた、デキストランのような多糖などのスカフォールド分子に結合していてもよい。それによって、検出分子は、少なくとも5つのコネクター分子、少なくとも10個のコネクター分子、例えば少なくとも15個のコネクター分子などの、スカフォールド分子に結合した2つ以上のコネクター分子を含みうる。
【0063】
アフィニティータグ
本発明の文脈では、「アフィニティータグ」という用語は、MHC分子上に位置する部位を指す。アフィニティータグは、コネクター分子に非共有相互作用で非常に特異的に結合する。アフィニティータグの例としては、ビオチン、抗体エピトープ、Hisタグ、ストレプトアビジン、ストレプトタクチン、ポリヒスチジン、ペプチド、ハプテン、及び金属イオンキレートなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0064】
非共有相互作用
本発明の文脈では、「非共有相互作用」という用語は、共有結合以外の相互作用を介した任意の結合を意味する。非共有結合は、例えば疎水性相互作用、親水性相互作用、イオン相互作用、ファンデルウォール力、水素結合、及びそれらの組み合わせによって形成されうる。
【0065】
バーコード領域
本発明の文脈では、「バーコード領域」という用語は、核酸標識の一部を形成する領域を指す。バーコード領域は、増幅及び/又はシーケンシングの際に、核酸標識が付いた検出分子を識別するために使用できるコードとして機能する多数の連続した核酸を含む。
【0066】
核酸標識のライブラリーの各メンバーは、核酸標識ライブラリーの1つ1つのメンバー及びそれに結合している検出分子の識別を可能にする別個のヌクレオチド配列をもつユニークなバーコード領域を含む。ユニークなバーコード領域により、検出分子と、それらが結合する標的、例えばTCR又は抗原ペプチド応答性T細胞との間の相互作用をモニタリングすることが可能になる。
【0067】
バーコード領域は、核酸標識ライブラリーのサイズに応じて長さが異なっていてもよい。したがって、バーコード領域は、いかなる特定の長さに限定されず、5~100個のヌクレオチド、好ましくは5~30個のヌクレオチドを含みうる。
【0068】
バーコード領域はPCRで増幅することができる。この目的を達成するために、バーコード領域は、バーコード領域の増幅を可能にするプライマー領域(フォワード及びリバース)によって隣接されていてもよい。プライマー領域は核酸標識の3’末端と5’末端に配置され、バーコード領域はプライマー領域間に配置されている。
【0069】
ユニークな分子識別子(UMI)領域
本発明の文脈では、「ユニークな分子識別子(UMI)領域」という用語は、増幅に続いて特定の配列のオリゴヌクレオチドソースの初期数を決定するために使用できる核酸標識の領域を指す。UMI領域は、2~4、4~6、6~8、又は8~10個のヌクレオチド塩基を含みうるランダムな配列である。非常に大きなライブラリーの場合、UMI領域は10個より多い塩基を含むこともある。
【0070】
固体基材
本発明の文脈では、「固体基材」という用語は、検出分子が結合できる任意の種類の不溶性材料を指す。検出分子は、固体基材に共有結合又は可逆的に結合することができる。固体基材に結合している検出分子は、過剰な試薬又は溶媒から(濾過、クロマトグラフィー、遠心分離などによって)容易に分離することができる。
【0071】
固体基材としては、マイクロアレイ、スライドガラス(glass slides)、ビーズ、ウェルプレート、粒子、フィルター、ゲル、チューブ、ペトリ皿などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0072】
固定化されたロード可能な検出分子を含む固体基材は、TCRや抗原ペプチド応答性T細胞などの医薬候補物質のフィンガープリンティングのアレイ化した抗原ペプチドライブラリーを迅速に生成するために利用することができる。
【0073】
配列同一性
本発明の文脈では、「配列同一性」という用語は、ここでは、遺伝子又はタンパク質間の、それぞれヌクレオチド、塩基又はアミノ酸レベルでの配列同一性として定義される。具体的には、DNA配列の転写物が同一のRNA配列に転写されうる場合、DNA配列とRNA配列は同一であるとみなされる。
【0074】
したがって、本発明の文脈では、「配列同一性」は、アミノ酸レベルでのタンパク質間の同一性の尺度であり、ヌクレオチドレベルでの核酸間の同一性の尺度である。タンパク質配列同一性は、配列をアラインメントしたときに、各配列の所与の位置のアミノ酸配列を比較することによって決定することができる。同様に、核酸配列同一性は、配列をアラインメントしたときに、各配列の所与の位置のヌクレオチド配列を比較することによって決定することができる。
【0075】
2つのアミノ酸配列又は2つの核酸の同一性のパーセント同一性を決定するために、配列は最適な比較目的のためにアラインメントされる(例えば、第2のアミノ酸配列又は核酸配列との最適なアラインメントのために、第1のアミノ酸配列又は核酸配列の配列にギャップが導入されることがある)。次いで、対応するアミノ酸位置又はヌクレオチド位置のアミノ酸残基又はヌクレオチドが比較される。第1の配列のある位置が、第2の配列の対応する位置と同じアミノ酸残基又はヌクレオチドによって占められている場合、分子はその位置で同一である。2つの配列間のパーセント同一性は、配列によって共有される同一位置の数の関数である(すなわち、%同一性=同一位置の数/位置の総数(例えば重複位置)×100)。1つの実施形態では、2つの配列は同じ長さである。
【0076】
別の実施形態では、2つの配列は異なる長さであり、ギャップは異なる位置と見なされる。手作業で配列をアラインメントし、同一のアミノ酸の数を数えることもできる。あるいは、パーセント同一性の決定に数学的アルゴリズムを用いて2つの配列のアライメントを行うこともできる。そのようなアルゴリズムは、(Altschul et al. 1990)のNBLAST及びXBLASTプログラムに組み込まれている。BLASTヌクレオチド検索を、NBLASTプログラム、スコア(score)=100、ワード長(wordlength)=12を用いて行って、本発明の核酸分子に相同なヌクレオチド配列を得ることができる。BLASTタンパク質検索を、XBLASTプログラム、スコア=50、ワード長=3を用いて行って、本発明のタンパク質分子に相同なアミノ酸配列を得ることができる。
【0077】
比較目的のためにギャップのあるアラインメントを得るには、Gapped BLASTを利用することができまる。あるいは、PSI-Blastを使用して、分子間の遠い関係を検出する反復検索を行うこともできる。NBLAST、XBLAST、Gapped BLASTプログラムを利用する場合は、それぞれのプログラムのデフォルトパラメーターを使用することができる。http://www.ncbi.nlm.nih.govを参照されたい。あるいは、配列同一性は、例えば、EMBLデータベースのBLASTプログラム(www.ncbi.nlm.gov/cgi-bin/BLAST)によって配列をアラインメントした後に計算することもできる。一般的には、例えば「スコアリングマトリクス(scoring matrix)」や「ギャップペナルティー(gap penalty)」などに関するデフォルトの設定を、アライメントに使用することができる。本発明においては、BLASTN及びPSI BLASTのデフォルト設定が有利なことがある。
【0078】
2つの配列間のパーセント同一性は、ギャップを許容してもしなくても、上記ものと同様の技術を用いて決定することができる。パーセント同一性の計算では、完全な一致だけがカウントされる。したがって、本発明の一実施形態は、ある程度の配列多様性を有する本発明の配列に関する。
【0079】
抗原ペプチドとTCR又は抗原ペプチド応答性T細胞との間の相互作用を、柔軟にかつ迅速に高感度でスクリーニングする方法
ペプチド-主要組織適合複合体(pMHC)クラスI及びII分子のT細胞媒介認識は、細胞内病原体及び癌がんの制御、並びに効率的な細胞傷害性応答の刺激及び維持に極めて重要である。そのような相互作用はまた、自己免疫疾患の発症にも関与している可能性がある。この機構への新しい洞察は、疾患発症を理解し、新しい治療戦略を確立するために極めて重要である。Altman et al. (1996)による最初の報告が、pMHCクラスI分子の四量体化はT細胞受容体(TCR)-pMHC相互作用に十分な安定性をもたらし、フローサイトメトリーを用いたMHCマルチマー結合T細胞の検出を可能にすることを示して以来、MHCマルチマーが抗原応答性T細胞の検出に使用されてきた。pMHC-TCR相互作用のスクリーニングのための迅速で信頼性の高いプラットフォームを提供することを目的として、数多くの方法が開発されてきた。MHCマルチマーに基づいたさまざまな種類の標識を含む検出分子が検討されてきた。
【0080】
しかし、MHC抗原提示に基づく技術を、高感度で真にハイスループットのプラットフォームに発展させるという難しい課題が未だに残っている。これは、抗原ペプチドがなければMHC分子の再折り畳みは不可能であり、結果的にその作製は複雑で高価であるからである。数千のMHCクラスIアロタイプが存在するだけでなく、スクリーニングされるべき抗原ペプチドごとに新たに個別化されたpMHCマルチマーが作製されなければならない。抗原ペプチドなしでMHC分子を作製し、代わりに、検出分子を組み立てる直前に必要に応じて抗原ペプチドを加えれば、より効率的でかつ柔軟性があると思われる。MHC分子を含む完全に組み立てられた検出分子を抗原ペプチドなしで作製し、その代わりに必要に応じて抗原ペプチドを加えることはさらに好ましいであろう。
【0081】
したがって、T細胞の検出のためのハイスループットの方法を提供するために、本発明の検出分子は、検出分子の作製の後に抗原ペプチドを添加できる空のMHCクラスI分子を備えることができる。MHCクラスI分子は、重鎖のアルファ-1ドメインとアルファ-2ドメインを連結するジスルフィド架橋を人為的に導入することによって安定化され、それによってCys変異体MHCバリアントを生成することができる。ジスルフィド架橋は、C末端のペプチド結合ポケットの遠位端のペプチド結合溝の外側に配置されている。このMHCクラスI分子の構造の変化は、結合した特異的な抗原ペプチドのコンフォメーション効果及び動的効果を模倣し、それによってMHCクラスI分子を安定化する。
【0082】
天然のクラスI MHC分子は、多様な配列のペプチドに特異的な親和性で結合する。これは、ペプチドの結合を促進するポケット(典型的にはMHC結合溝のA及びFポケット)を形成するペプチド結合溝の末端に保存されたアミノ酸を使用することによって達成される。これらの結合ポケットは、通常アンカーモチーフと呼ばれる抗原ペプチド(典型的には2位又は3位、ペプチドのC末端位置)の結合に必要な一連の要件を決定する。天然のMHCクラスI分子は、アンカーモチーフの認識を通して多くの異なる抗原ペプチドと結合するが、各アレルは、利用可能なすべての抗原ペプチドのうちの特異なサブセットのみと高い親和性で結合する。しかし、Cys変異体MHC分子の人為的に導入されたジスルフィド結合は、結合した特異的抗原ペプチドのコンフォメーション効果と動的効果を模倣するので、本明細書に記載の検出分子は、多種多様な抗原ペプチドを結合できるペプチドフリーMHCクラスI分子を用いて作製することができる。これらのすぐに使えるロード可能な検出分子は、単一ステップのペプチド添加で抗原特異的pMHCクラスI分子を含むロード済み検出分子に変換でき、MHCマルチマーの大きなアレイを迅速に生成することを必要とする最先端の抗原特異的T細胞検出プラットフォームに完璧に適合する。
【0083】
さらに、本発明者らは、Cys変異体MHC分子に結合した抗原ペプチドを含む検出分子は、従来のpMHC分子を含む検出分子よりも、長期間にわたって安定であり、より良好な性能(すなわち高感度)を示すことを見出した。したがって、改良された検出分子は、例えば個別化免疫療法のためにT細胞の認識を迅速かつ効果的に評価する上で非常に有利であろう。
【0084】
ここでは、迅速なワンステップで抗原ペプチドと組み立てることができるペプチドフリーMHCクラスI分子を含む検出分子について記載する。この検出分子は、TCR又はT細胞の検出の向上に利用でき、最終的には、稀で弱い相互作用であっても同定することを可能にする。したがって、本発明の第1の態様は、試料中の1つ又は複数の抗原ペプチド応答性T細胞を検出するための方法であって、以下のステップ:
i.少なくとも1つのペプチドフリーMHCクラスI分子及び少なくとも1つの検出可能な標識を含むロード可能な検出分子を用意すること、
ii.少なくとも1つの抗原ペプチドを用意すること、
iii.ロード可能な検出分子を少なくとも1つの抗原ペプチドと接触させて、少なくとも1つのペプチド-MHC(pMHC)クラスI分子を含むロード済み検出分子を形成すること、
iv.ロード済み検出分子を試料と接触させること、並びに
v.ロード済み検出分子の1つ又は複数の抗原ペプチド応答性T細胞への結合を検出することを含み、
少なくとも1つの抗原ペプチドがそれぞれ、
-少なくとも2つの異なる検出可能な標識、又は
-核酸標識である少なくとも1つの検出可能な標識
によって表される方法に関する。
【0085】
ペプチドフリーMHCクラスI分子は、MHCクラスI分子の重鎖内部にアルファ-1ドメインとアルファ-2ドメインを結ぶジスルフィド架橋を人為的に導入することで安定化させることができる。したがって、本発明の好ましい実施形態は本明細書に記載の方法に関し、ここではペプチドフリーMHCクラスI分子が、ジスルフィド架橋によってアルファ-1ドメインとアルファ-2ドメインを含む重鎖を含む。
【0086】
そのような改変は、当業者に公知の変異誘発技術、例えば、部位特異的変異誘発によって行うことができる。具体的には、重鎖のアミノ酸配列に2つの変異体システイン残基が導入されて、アルファ-1ドメインとアルファ-2ドメインの間のジスルフィド架橋の形成が可能になる。したがって、本発明の一実施形態は、ジスルフィド架橋がアルファ-1ドメインに配置された変異体システイン残基とアルファ-2ドメインに配置された変異体システイン残基との間に形成される本明細書に記載の方法に関する。
【0087】
好ましくは、変異導入の位置は、アルファ-1ドメイン及びアルファ-2ドメインに配置された変異体システイン残基が、正常なタンパク質フォールディング条件下でジスルフィド架橋の形成を可能であろう空間的距離内にあるように選択される。したがって、本発明の一実施形態は、アルファ-1ドメインに配置された変異体システイン残基とアルファ-2ドメインに配置された変異体システイン残基との間の空間距離が、2~8オングストロームなどの2~10オングストローム、好ましくは2~5オングストロームである本明細書に記載の方法に関する。
【0088】
本発明の別の実施形態は、重鎖が、
(a)配列番号1、又は
(b)(a)の配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列
から選択されるアミノ酸配列を含み、
そのアミノ酸配列が、アルファ-1ドメインに配置された変異体システイン残基とアルファ-2ドメインに配置された変異体システイン残基を含む本明細書に記載の方法に関する。
【0089】
本発明のさらなる実施形態は、重鎖が、
(a)配列番号1、又は
(b)(a)の配列と少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、若しくは少なくとも99%の配列同一性などの(a)の配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列
から選択されるアミノ酸配列を含み、又はその配列からなり、
前記(said)アミノ酸配列が、アルファ-1ドメインに配置された変異体システイン残基とアルファ-2ドメインに配置された変異体システイン残基を含む本明細書に記載の方法に関する。
【0090】
2つのシステイン残基の好ましい変異には、139位のアミノ酸及び84位又は85位のいずれかのアミノ酸の改変が含まれる。139位のアミノ酸は、重鎖のアルファ-2ドメインに位置し、多くの場合、アラニン残基である。84位又は85位のアミノ酸は、重鎖のアルファ-1ドメインに位置し、多くの場合、チロシン残基である。システインの変異は、標準的な遺伝子工学を用いて重鎖の遺伝子配列を改変することを通したアミノ酸の置換によって導入することができる。したがって、本発明の好ましい実施形態は、アルファ-1ドメインの変異体システイン残基がアミノ酸残基84又は85にあり、アルファ-2ドメインに配置された変異体システイン残基がアミノ酸残基139にある本明細書に記載の方法に関する。
【0091】
MHCクラスI分子が折り畳まれると、Cys-84又はCys-85とCys-139の間にジスルフィド架橋が形成される。新たに形成されたジスルフィド架橋は、MHCクラスI分子を安定化し、その結果抗原ペプチド不在でも溶液中で安定した状態を維持する。システイン変異体残基の導入は、どのようなタイプのMHCクラスI分子にも適用することができる。したがって、本発明の一実施形態は、少なくとも1つのペプチドフリーMHCクラスI分子が、脊椎動物のペプチドフリーMHCクラスI分子、例えばヒトや、ネズミ、ラット、ブタ、ウシ又はトリなどの分子である本明細書に記載の方法に関する。本発明の別の実施形態は、ペプチドフリーMHCクラスI分子がヒトの分子である本明細書に記載の方法に関する。本発明のさらなる実施形態は、ペプチドフリーMHCクラスI分子が、HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-E、HLA-F、HLA-G、HLA-H、MIC A、MIC B、CD1d、ULBP-1、ULBP-2、及びULBP-3からなる群より選択されるMCH分子に基づく本明細書に記載の方法に関する。
【0092】
本明細書に記載の方法はまた、マウスに由来するペプチドフリーMHC分子での使用にも適用可能である。このマウスMHC分子はH-2複合体と呼ばれる。したがって、本発明の一実施形態は、重鎖が、H-2KbやH-2DbなどのH-2分子である本明細書に記載の方法に関する。本発明の別の実施形態は、重鎖が、
(a)配列番号12若しくは配列番号13のいずれか1つ、又は
(b)(a)の配列のいずれか1つと少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列
から選択されるアミノ酸配列を含む本明細書に記載の方法に関する。
【0093】
ペプチドフリーMHCクラスI分子の好ましいバリアントとしては、それぞれが2つの変異体システイン残基を含むHLA-A、HLA-B及びH-2が挙げられる。したがって、本発明の一実施形態は、重鎖が、
(a)配列番号2~13のいずれか1つ、又は
(b)(a)の配列のいずれか1つと少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列、
から選択されるアミノ酸配列を含み、
そのアミノ酸配列が、アルファ-1ドメインに配置された変異体システイン残基とアルファ-2ドメインに配置された変異体システイン残基を含む本明細書に記載の方法に関する。
【0094】
本発明の別の実施形態は、重鎖が、
(a)配列番号2~13のいずれか1つ、又は
(b)(a)の配列のいずれか1つと少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、若しくは少なくとも99%の配列同一性などの(a)の配列のいずれか1つと少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列
から選択されるアミノ酸配列を含み、又はその配列からなり、
そのアミノ酸配列が、アルファ-1ドメインに配置された変異体システイン残基とアルファ-2ドメインに配置された変異体システイン残基を含む本明細書に記載の方法に関する。
【0095】
「配列番号2~13」という表現は、「配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、又は配列番号13」と理解されるべきであることに留意されたい。
【0096】
本発明のさらなる実施形態は、重鎖が、
(a)配列番号2~11のいずれか1つ、又は
(b)(a)の配列のいずれか1つと少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列
から選択されるアミノ酸配列を含む本明細書に記載の方法に関する。
【0097】
本発明のさらにさらなるは、重鎖が、
(a)配列番号2~6のいずれか1つ、又は
(b)(a)の配列のいずれか1つと少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列
から選択されるアミノ酸配列を含む本明細書に記載の方法に関する。
【0098】
T細胞検出によく利用されるHLAのアレルは、HLA-A 02:01アレルである。したがって、本発明の好ましい実施形態は、重鎖が、
(a)配列番号2、又は
(b)(a)の配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列
から選択されるアミノ酸配列を含む本明細書に記載の方法に関する。
【0099】
本発明の別の実施形態は、重鎖が、
(a)配列番号2、又は
(b)(a)の配列と少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、若しくは少なくとも99%の配列同一性などの(a)の配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列
から選択されるアミノ酸配列を含む、又はその配列からなる本明細書に記載の方法に関する。
【0100】
天然では、重鎖はβ2-ミクログロブリン分子(B2M)と結合してMHCクラスI分子を形成する。具体的には、重鎖のアルファ-3ドメインがB2Mに隣接して配置されている。したがって、本発明の一実施形態は、少なくとも1つのペプチドフリーMHCクラスI分子がβ2-ミクログロブリン分子を含む本明細書に記載の方法に関する。
【0101】
本発明の別の実施形態は、β2-ミクログロブリン分子が
(a)配列番号15、又は
(b)(a)の配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列
から選択されるアミノ酸配列を含む本明細書に記載の方法に関する。
【0102】
ペプチドフリーMHCクラスI分子はまた、は、B2Mがリンカーを介して重鎖に連結された最終的な融合タンパク質として提供することもできる。リンカーは、好ましくはペプチドリンカーである。したがって、本発明の一実施形態は、少なくとも1つのペプチドフリーMHCクラスI分子が、
(a)配列番号16、又は
(b)(a)の配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列
から選択されるアミノ酸配列を含む本明細書に記載の方法に関する。
【0103】
本発明の検出分子は、単一の検出分子内に例えば数個のペプチドフリーMHCクラスI分子を組み立てるのに適したコネクター分子をさらに含む複合分子として提供することができる。したがって、本発明の一実施形態は、ロード可能な検出分子が、少なくとも1つのコネクター分子、少なくとも1つのペプチドフリーMHCクラスI分子及び少なくとも1つの検出可能な標識を含む本明細書に記載の方法に関する。本発明の別の実施形態は、少なくとも1つのペプチドフリーMHCクラスI分子がコネクター分子に結合している本明細書に記載の方法に関する。
【0104】
コネクター分子は、アフィニティータグ付きのペプチドフリーMHCクラスI分子がモジュール式で固定できる柔軟なテンプレートを形成する。アフィニティータグは、限定されないが非共有相互作用を介してコネクター分子に特異的に結合する分子種である。ペプチドフリーMHCクラスI分子それぞれにアフィニティータグを結合することによって、カスタムメイドのロード可能な検出分子を組み立てることが容易である。したがって、本発明の好ましい実施形態は、ペプチドフリーMHCクラスI分子がアフィニティータグを含む本明細書に記載の方法に関する。
【0105】
本発明の別の実施形態は、ペプチドフリーMHCクラスI分子が、コネクター分子とペプチドフリーMHCクラスI分子上のアフィニティータグとの間の非共有相互作用を介してコネクター分子に結合している本明細書に記載の方法に関する。
【0106】
アフィニティータグとコネクター分子の多くの既知の互いに対応するペアが本発明に使用することができ、例としては、ビオチン/ストレプトアビジン、ビオチン/アビジン、ビオチン/ニュートラビジン、ビオチン/ストレプトタクチン、ポリHis/金属イオンキレート、ペプチド/抗体、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ/グルタチオン、エピトープ/抗体、マルトース結合タンパク質/アミラーゼ及びマルトース結合タンパク質/マルトースなどが挙げられるが、これらに限定されない。他の既知の互いに対応するアフィニティータグとコネクター分子のペアも、本発明に使用することができる。本発明の一実施形態は、アフィニティータグが、ビオチン、抗体エピトープ、Hisタグ、ストレプトアビジン、ストレプトタクチン、ポリヒスチジン、ペプチド、ハプテン及び金属イオンキレートからなる群より選択される本明細書に記載の方法に関する。本発明の別の実施形態は、コネクター分子が、ストレプトアビジン、アビジン、金属イオンキレート及び抗体からなる群より選択される本明細書に記載の方法に関する。本発明の好ましい実施形態は、コネクター分子がストレプトアビジンであり、アフィニティータグがビオチンである本明細書に記載の方法に関する。
【0107】
ビオチンなどのアフィニティータグは、MHCクラスI分子上に配置される。ビオチンの重鎖への結合は、重鎖のビオチン化のためのAviタグなどのハンドル(handle)を含めることによって達成することができる。したがって、本発明の一実施形態は、重鎖がAviタグを含む本明細書に記載の方法に関する。本発明の別の実施形態は、重鎖が、
(a)配列番号14、又は
(b)(a)の配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列
から選択されるアミノ酸配列を含む本明細書に記載の方法に関する。
【0108】
本発明の変形形態では、検出分子は、コネクター分子又はペプチドフリーMHCクラスI分子が結合できるスカフォールド分子を含む。典型的には、この変形形態では、ペプチドフリーMHCクラスI分子がコネクター分子に結合することになり、次にそれがスカフォールド分子に結合している。これらの結合は共有結合でも非共有結合でもよく、好ましくは非共有結合である。スカフォールド分子は、デキストランなどの多糖類でありうるが、これに限定されない。したがって、本発明の一実施形態は、ロード可能な検出分子が、少なくとも1つのペプチドフリーMHCクラスI分子及び少なくとも1つの検出可能な標識を含む少なくとも1つのコネクター分子に結合しているスカフォールド分子を含む本明細書に記載の方法に関する。本発明の別の実施形態は、スカフォールド分子がデキストランであり、コネクター分子がストレプトアビジンである本明細書に記載の方法に関する。
【0109】
他の好適なスカフォールド分子の例としては、多糖類、合成多糖類、ビニルポリマー、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、誘導体化セルロース系プラスチック、ストレプトタクチン、ポリストレプトアビジンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0110】
試料中の抗原ペプチド応答性T細胞に対する検出分子の十分な結合を確保するために、ロード可能な検出分子は、2つ以上のペプチドフリーMHCクラスI分子を備えることができる。MHCマルチマーはここ数十年の間に広く使用されてきており、特にMHCテトラマーはT細胞検出技術のなかでも最先端の技術とみなされている。したがって、本発明の一実施形態は、ロード可能な検出分子が、少なくとも3つのペプチドフリーMHCクラスI分子などの少なくとも2つのペプチドフリーMHCクラスI分子、好ましくは4つのペプチドフリーMHCクラスI分子を含む本明細書に記載の方法に関する。本発明の好ましい実施形態は、ロード可能な検出分子が、ストレプトアビジンと、各ペプチドフリーMHCクラスI分子上のビオチンタグとの間の非共有相互作用を介してストレプトアビジンに結合した4つのペプチドフリーMHCクラスI分子を含む本明細書に記載の方法に関する。
【0111】
ロード可能な検出分子は、少なくとも1つの検出可能な標識を含み、コネクター分子、ペプチドフリーMHCクラスI分子又はスカフォールド分子に結合されていてもよい。好ましくは、検出可能な標識はコネクター分子に結合している。したがって、本発明の一実施形態は、少なくとも1つの検出可能な標識がコネクター分子に結合している本明細書に記載の方法に関する。検出可能な標識の結合は、共有結合又は非共有結合のいずれでもよい。
【0112】
各検出分子の検出可能な標識の数は、検出のモードに応じて異なりうる。少なくとも1つの抗原ペプチドのそれぞれが、少なくとも2つの異なる検出可能な標識によって表される検出の場合、各検出分子は、蛍光マーカーや放射性同位体などの単一の検出可能な標識のみを含んでいてもよい。したがって、本発明の一実施形態は、検出分子は単一の検出可能な標識を含む本明細書に記載の方法に関する。少なくとも1つの抗原ペプチドのそれぞれが、核酸標識である少なくとも1つの検出可能な標識によって表される検出の場合、各検出分子は、前記核酸標識にくわえて、追加の検出可能な標識を含んでいてもよい。したがって、本発明の一実施形態は、検出分子が核酸標識及び少なくとも1つの検出可能な標識を含む本明細書に記載の方法に関する。本発明の好ましい実施形態は、検出分子が、核酸標識及び少なくとも1つの蛍光マーカー、好ましくは1つの蛍光マーカーを含む本明細書に記載の方法に関する。
【0113】
ロード可能な検出分子は、抗原ペプチドが結合していない状態で組み立てられるので、必要に応じて使用直前に大きなライブラリーを迅速に生成するのに適している。スクリーニングの設定に応じて、異なる数の抗原ペプチドがアッセイに望まれる場合がある。あるアッセイでは、少量の非常に特異的なタイプのT細胞のみをスクリーニングするのが好ましいことがある一方で、他のアッセイでは、多くのさまざまな異なるT細胞を並行して同定するのが目的となることがある。したがって、本発明の一実施形態は、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも6つ、少なくとも7つ、少なくとも8つ、少なくとも9つ、少なくとも10個、少なくとも15個、少なくとも20個、少なくとも25個、少なくとも50個、少なくとも100個の異なる抗原ペプチドなどの少なくとも2つの異なる抗原ペプチドが、ステップii)で用意される本明細書に記載の方法に関する。しかし、ロード可能な検出分子を利用する方法は、より大きなライブラリーにも適している。したがって、本発明の別の実施形態は、10,000個、100,000個、1,000,000個の異なる抗原ペプチドなどの少なくとも1,000個の異なる抗原ペプチドがステップii)で用意される本明細書に記載の方法に関する。
【0114】
多数の異なる抗原ペプチドを同時にハイスループットでスクリーニングするためには、複数の異なるロード済み検出分子が生成され、試料と接触することが理解されるべきである。したがって、本発明の一実施形態は、複数のロード可能な検出分子が提供される本明細書に記載の方法に関する。本発明の別の実施形態は、試料が、複数又はライブラリーの異なるロード済み検出分子と接触する本明細書に記載の方法に関する。
【0115】
pMHC分子によって提示される抗原ペプチドが、最終的に本明細書に記載の方法によってどのタイプのT細胞が同定されるかを決める。本発明によるαAPCスカフォールドと使用するのに適した抗原ペプチドは、本質的にどのようなソースからでもよい。抗原の源としては、ヒトや、ウイルス、細菌、寄生虫、植物、菌類、腫瘍を挙げることができるが、これらに限定されない。したがって、本発明の一実施形態は、pMHC分子の抗原ペプチドが、ヒト、ウイルス、細菌、寄生虫、植物、真菌、及び腫瘍からなる群より選択される供給源に由来する本明細書に記載の方法に関する。
【0116】
抗原ペプチドは、例えばウイルスや腫瘍細胞の既知の免疫原性エピトープである可能性があり、したがって、この抗原に応答するT細胞の存在を検出及びそれに続くウイルス感染又はがんの診断を可能にする。抗原ペプチドは、未知のエピトープであることもあり、このエピトープに応答するT細胞の検出は、このペプチド内に免疫原性アミノ酸配列が存在することを意味し、例えばポリペプチドなどの免疫原性領域又はエピトープの同定を可能にする。
【0117】
本明細書に記載の方法の変形形態では、コンビコーディングアプローチに従って、ロード可能な検出分子が少なくとも1つの検出可能な標識を備え、抗原は少なくとも2つの異なる標識検出分子によって表されるか、又はコードされる。したがって、個々の抗原ペプチドは、それぞれが異なる蛍光マーカー又は放射性同位体などの異なる検出可能な標識を含む少なくとも2つの別個の検出分子にロードされる。
【0118】
ロード可能な検出分子は、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、又は8つの異なる検出可能な標識などの少なくとも2つの異なる検出可能な標識を備えていてもよい。したがって、抗原ペプチドは1つの多重標識検出分子によって表されうる。本発明の方法のこの変形形態では、各抗原ペプチドは、異なる蛍光マーカーなどの2つの異なる検出可能な標識を含む別個の検出分子にロードされる。
【0119】
したがって、本発明の一実施形態は、少なくとも1つの抗原ペプチドが少なくとも2つの異なる検出可能な標識によって表され、ロード済み検出分子の1つ又は複数の抗原ペプチド応答性T細胞への結合が、ロード済み検出分子を通して抗原応答性T細胞に結合した少なくとも2つの異なる検出可能な標識の存在を検出することによって検出される本明細書に記載の方法に関する。本発明の好ましい実施形態は、個々の抗原ペプチドが、それぞれが異なる検出可能な標識を含む少なくとも2つの別個の検出分子上にロードされる本明細書に記載の方法に関する。本発明の別の好ましい実施形態は、各抗原ペプチドが、2つの異なる検出可能な標識を含む別個の検出分子上にロードされる本明細書に記載の方法に関する。
【0120】
検出分子と抗原ペプチド応答性T細胞の間の相互作用は、検出可能な標識によって生じる読み出しによって検出される。原則として、どのような種類の検出可能な標識でも本発明の方法に使用することができる。したがって、本明細書に記載の方法は、単独で、又は互いに組み合わせて、異なる種類の検出可能な標識の選択を用いて適用することができる。したがって、本発明の実施形態は、少なくとも2つの異なる検出可能な標識が、蛍光マーカー、放射性同位体、磁気マーカー及び金属標識からなる群より選択される本明細書に記載の方法に関する。これは例えば、2つの異なる蛍光標識又は金属標識を組み合わせた蛍光マーカーでありうる。
【0121】
蛍光マーカーは、蛍光マーカーが広範に利用可能であること及び大部分の研究室が蛍光測定に広く精通していることから、特に好ましい検出可能な標識を構成する。したがって、本発明の一実施形態は、少なくとも2つの異なる検出可能な標識が蛍光マーカーである本明細書に記載の方法に関する。本発明の方法にとって実用上重要なことは、蛍光マーカーが、一般的なフローサイトメーターに見られるレーザーラインで励起できることである。したがって、UVレーザー(355nm)、紫レーザー(405nm)、青レーザー(488nm)、黄/緑レーザー(561nm)又は赤レーザー(640nm)で励起可能な蛍光マーカーが好ましい。したがって、本発明の一実施形態は、蛍光マーカーが、355nm、405nm、488nm、561nm及び640nmからなる群より選択される波長で励起される1つ又は複数の蛍光マーカーである本明細書に記載の方法に関する。好適な蛍光マーカーの例としては、PE、BV421、BUV395、APC-Cy(商標)7、APC、BV510、BV480、PE-Cy(商標)5、PE-CF594、PE-Cy(商標)7、PerCP-Cy(商標)5.5、PerCP、FITC、BV605、BUV737、BV650、V500、BV786、BUV496、BUV805、V450、APC-R700、BUV563、BV711、BB515及びBUV661が挙げられるが、これらに限定されない。
【0122】
量子ドット(QDot)などの代替的な蛍光マーカーも、本明細書に記載の方法のために利用することができる。
【0123】
好ましい検出可能な標識の別のグループは、金属標識であり、これは良く知られた有益な標識グループを構成する。マスサイトメトリーは、細胞の特性の測定(サイトメトリー)に使用される、誘導結合プラズマ質量分析法と飛行時間型質量分析法に基づく質量分析技術である。このアプローチでは、抗体及びMHCテトラマーなどの検出分子は、同位体的に純粋な金属元素を結合し、これらの抗体及びMHCテトラマーを使用して細胞タンパク質、例えばT細胞を標識する。細胞を霧状にして、金属結合抗体とテトラマーをイオン化するアルゴンプラズマに通す。次いで、金属シグナルを飛行時間型質量分析計で分析する。このアプローチは、幅広い発光スペクトルを有しうる従来のフルオロフォアの代わりに、レポーターシステムとして別個の同位体を利用することによって、フローサイトメトリーにおけるスペクトル重複による潜在的な限界を克服する。
【0124】
CyTOF(飛行時間によるサイトメトリー)が商品化され、一般的に使用されるさまざまな金属-抗体結合体が入手可能である。利点は、金属シグナルのオーバーラップが最小であることであり、その装置は、理論的には1つの細胞あたり100個を超えるパラメーターを検出することができる。しかし、単一の金属標識に基づく現在の方法では、サイトメーターの使用が1つの細胞あたり約40パラメーターに制限される。MHCテトラマーなどの検出分子に2つ以上の金属標識を組み合わせることにより、試料内で解析できるT細胞の特異性の数が劇的に増える。したがって、本発明の一実施形態は、少なくとも2つの異なる検出可能な標識が金属標識である本明細書に記載の方法に関する。
【0125】
コンビコーディングアプローチを用いて異なるTCR又は抗原ペプチド応答性T細胞のより大きなプールを検出するためには、その方法では、より多く数の異なる検出可能な標識を導入する必要がある。したがって、本発明の一実施形態は、異なる検出可能な標識の数が、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10、少なくとも15、少なくとも20、少なくとも50などのなどの少なくとも3である本明細書に記載の方法に関する。
【0126】
並行して検出できる抗原ペプチド応答性T細胞の数を増やす別の手段は、各抗原ペプチドを3つ以上の異なる検出可能な標識によって表すことである。したがって、本発明の一実施形態は、各抗原ペプチドが、少なくとも3つ又は少なくとも4つの異なる標識で表される本明細書に記載の方法に関する。本発明の別の実施形態は、各検出分子が、少なくとも3つ又は少なくとも4つの異なる標識を含む本明細書に記載の方法に関する。
【0127】
本明細書に記載の方法による検出のモードは検出可能な標識の選択に依存する。典型的には、当業者であれば、所与の検出可能な標識と、どの検出手段を組み合わせるべきかを知っているであろう。本発明の一実施形態は、検出が、フローサイトメトリー、蛍光スペクトロメトリー及びマスサイトメトリーからなる群より選択される1つ又は複数の方法を含む本明細書に記載の方法に関する。本発明の好ましい実施形態は、検出可能な標識が蛍光マーカーであり、検出のモードがフローサイトメトリーである本明細書に記載の方法に関する。
【0128】
(ヒト白血球抗原(HLA)-A及びHLA-B座位の)アレル産物それぞれについて、推定100,000~750,000個のpMHCクラスI複合体が発現しており、各個人は~107個の異なるTCRを保有し、それぞれは所与のペプチド配列の最大で106の多様性を検出する。したがって、本明細書に記載の方法別の変形は、バーコーディングアプローチに従って、評価可能な抗原ペプチドのライブラリーのサイズを拡大し、TCR又は抗原ペプチド応答性T細胞が検出できる解析範囲を増加させる。
【0129】
バーコードは、結合している実体を一意的に識別する標識である。ユニークな標識の大きなリザーバーを生成できる優れた組み合わせの可能性があるので、核酸はバーコードとして好ましい構成要素である。核酸標識は、標識の識別を可能にする連続したヌクレオチドのユニークな領域(バーコード領域)、及びラベルの増幅を可能にするプライマー領域を含んでいてもよい
さらに、核酸標識は、特定の配列のオリゴヌクレオチドソースの初期数を推定するために使用することができる領域を含んでいてもよい。したがって、本発明の一実施形態は、少なくとも1つの検出可能な標識が、
i.5’第1のプライマー領域(フォワード)、バーコード領域及び3’第2のプライマー領域(リバース)、並びに
ii.ランダムヌクレオチド塩基からなるユニークな分子識別子(UMI)領域を含む核酸標識であり、
そのバーコード領域が、検出分子の識別タグとして機能するユニークなバーコードである本明細書に記載の方法に関する。
【0130】
本発明の別の実施形態は、核酸標識が、DNA標識、RNA標識及び人工核酸標識からなる群より選択される本明細書に記載の方法に関する。本発明の好ましい実施形態は、核酸標識がDNA標識である本明細書に記載の方法に関する。
【0131】
増幅されたオリゴヌクレオチド材料を定量する際に考慮すべき重要なことは、得られたオリゴヌクレオチド材料の量が、単一のオリゴヌクレオチドソースに由来するのか、又はいくつかの同一のオリゴヌクレオチドソースに由来するのかということである。この問題を克服するために、オリゴヌクレオチド材料にユニークな分子識別子(UMI)と呼ばれる小さな領域を加えることができる。これらのUMI領域は、増幅の後に、特定の配列のオリゴヌクレオチドソースの初期数を決定するために使用できるランダムな配列である。したがって、本発明の一実施形態は、核酸標識がランダムヌクレオチド塩基からなるユニークな分子識別子(UMI)領域を含む本明細書に記載の方法に関する。このようなUMI領域は、2~4、4~6、6~8又は8~10個のヌクレオチド塩基を含みうる。非常に大きなライブラリーの場合、UMI領域は10塩基より多い塩基を含むこともある。したがって、本発明の一実施形態は、UMI領域が6~8個のランダムヌクレオチド塩基を含む本明細書に記載の方法に関する。
【0132】
核酸標識のデザインは、1つ又は複数の追加要素を加えることによってさらに修正することができる。したがって、本発明の一実施形態は、核酸標識が、リンカー分子、シーケンシング用アダプター、及びアニーリング領域からなる群より選択される1つ又は複数をさらに含む本明細書に記載の方法に関する。中でも、シングルオリゴ核酸標識とデュアルオリゴ核酸標識の2つのデザインが好ましい。シングルオリゴ核酸標識は、フォワードプライマー、バーコード領域、リバースプライマー及びUMI領域を含む。デュアルオリゴ核酸標識は2つの配列からなり、第1の配列はフォワードプライマー領域、UMI領域、第1のバーコード領域、及びアニーリング領域を含み、第2の配列は相補的なアニーリング領域、第2のバーコード領域、UMI領域及びリバースプライマー領域を含む。デュアルオリゴ核酸標識の第1の配列はビオチン化されていてもよい。実施例6では、第1の配列はオリゴAと呼ばれ、第2の配列はオリゴBと呼ばれ、第1のバーコードはバーコードAと呼ばれ、第2のバーコードはバーコードBと呼ばれる。第1の配列を第2の配列とアニーリングした後、検出分子に結合する前に、第1及び第2の配列が伸長されて、それらの二本鎖の形態が得られる。検出分子結合T細胞を分離した後、DNAバーコードはPCRで増幅され、シークエンシングで解析される。したがって、本発明の一実施形態は、核酸標識が2つの配列を含み、第1の配列がフォワードプライマー領域、UMI領域、バーコード領域、及びアニーリング領域を含み、第2の配列が相補的なアニーリング領域、バーコード領域、UMI領域及びリバースプライマー領域を含む本明細書に記載の方法に関する。
【0133】
T細胞に結合しているバーコード標識検出分子は、最初に蛍光マーカーを用いてソートすることができる。したがって、本発明の一実施形態は、ロード可能な検出分子が核酸標識及び蛍光マーカーを含む本明細書に記載の方法に関する。T細胞に結合している検出分子はしたがって、例えば蛍光活性化セルソーティング(FACS)などによって蛍光的にソートし、その後、関連する核酸標識の組成物を核酸増幅やハイスループットシーケンシングによって回収することができる。
【0134】
核酸標識は、大きな検出分子のライブラリーから個々のメンバーを同定するのに適している。したがって、本発明の一実施形態は、少なくとも50個などの、少なくとも100個などの、少なくとも500個などの、少なくとも1,000個などの、少なくとも10,000個などの、少なくとも100,000個などの、少なくとも1,000,000個などの少なくとも25個の異なる抗原ペプチドが、ステップiiで用意される本明細書に記載の方法に関する。本発明の別の実施形態は、検出が、標識の増幅、標識のシーケンシング、DNAシーケンシング、質量分析、ゲル電気泳動、ゲル濾過、PAGE、カラム分画、PCR、及びQPCRからなる群より選択される1つ又は複数の方法を含む本明細書に記載の方法に関する。好ましくは、DNA標識を含む検出分子の検出はDNAシーケンシングで行われる。
【0135】
本明細書に記載の方法は、性能を上げるための1つ又は複数の追加ステップを含むことができる。したがって、本発明の一実施形態は、インキュベーション、洗浄、精製及び分離からなる群より選択される1つ又は複数の追加のステップを含む本明細書に記載の方法に関する。追加のステップは、コンビコーディングアプローチ又はバーコードアプローチのいずれかに続いて、その方法に適用することができる。本発明の好ましい実施形態は、分離のステップが、フローサイトメトリー、FACSソーティング、洗浄、遠心分離、沈殿、濾過、アフィニティーカラム、及び固定化からなる群より選択される1つ又は複数の方法を含む本明細書に記載の方法に関する。
【0136】
本発明の方法は、特定の種類の試料に限定されず、T細胞の集団を含むあらゆる溶液や固体画分に適用することができる。T細胞集団には、異なる特異性をもつT細胞が入っている可能性がある。試料の起源はどの特定の生物種にも限定されないが、ヒトの試料が好ましい。本発明の一実施形態は、試料が、末梢血単核細胞、腫瘍、組織、骨髄、生検組織、血清、血液、血漿、唾液、リンパ液、胸膜液、脳脊髄液及び滑液からなる群より選択される本明細書に記載の方法に関する。本発明の別の実施形態、細胞が、CD8T細胞、CD4T細胞、制御性T細胞、ナチュラルキラーT(NKT)細胞、ガンマデルタT細胞、NK細胞、及び自然免疫型粘膜関連インバリアント(innate mucosal-associated invariant)T(MAIT)細胞からなる群より選択される本明細書に記載の方法に関する。
【0137】
Cys変異体MHCクラスI分子は、どのような種類の抗原ペプチドでもロードでき、したがって、本方法は抗原ペプチドの特定の種類又はバリアントに限定されない。しかし、いくつかの抗原ペプチドのグループは、その治療又は診断用途の可能性に起因して、他のものよりも関心が高い。がん免疫療法では、がん関連エピトープ及び変異由来のネオエピトープに対するT細胞の認識を理解し、これらを治療戦略に活用する可能性に大きな関心が寄せられている。ほとんどの場合、ネオエピトープの認識を包括的に評価するためには、大きなpMHCライブラリーのスクリーニングが必要である。ロード可能な検出分子を適用する能力は、そのような大きなpMHCライブラリーを生成するプロセスを容易にすることになる。したがって、本発明の一実施形態は、抗原ペプチドが、がん関連エピトープ、ウイルスエピトープ、自己エピトープ及びそのバリアントから選択される本明細書に記載の方法に関する。本発明の別の実施形態は、がん関連エピトープが、ウイルスによって誘発されるがんに関連するウイルスエピトープ本明細書に記載の方法に関する。本発明の好ましい実施形態は、ウイルスエピトープが、ヒトパピローマウイルス(HPV)、メルケル細胞ポリオーマウイルス(MCV)、サイトメガロウイルス(CMV)、エプスタイン・バーウイルス(EBV)、ヒトTリンパ球向性ウイルス(HTLV)、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)及びインフルエンザウイルスからなる群より選択されるウイルスに由来する本明細書に記載の方法に関する。本発明のさらなる実施形態は、抗原ペプチドがネオエピトープである本明細書に記載の方法に関する。
【0138】
本明細書に記載のCys変異体MHCクラスI分子は、免疫モニタリング用の、診断用の、及び免疫療法アプローチにおける適応T細胞移植に向けた抗原特異的T細胞の分離又は特異的刺激などの治療用途の、品質が保証された試薬(例えば検出分子)を作製するための効率的なツールである。本明細書に示されるように、Cys変異体MHCクラスI分子を含む検出分子は、野生型MHCクラスI分子を含む検出分子と比べて、柔軟性、安定性、感度に関して性能の向上をもたらす。Cys変異体MHCクラスI分子を含む検出分子は、野生型MHCクラスI分子を含む検出分子よりも高い蛍光強度を示し、検出分子陰性T細胞からの分離が良好で、その結果染色指数を増加させる。理論に縛られるものではないが、Cys変異体MHCクラスI分子を含むロード済み検出分子の安定性の向上は、染色能に影響を与える可能性があると考えられる。したがって、本発明の一実施形態は、少なくとも1つのペプチドフリーMHCクラスI分子を含むロード可能な検出分子が、野生型MHCクラスI分子を含む検出分子と比較して染色指数を増加させる本明細書に記載の方法に関する。染色指数は、検出の間の蛍光出力に基づいて、(陽性の中央値-陰性の中央値)/(陰性のSD*2)として計算される。
【0139】
本発明の別の態様は、試料中の1つ又は複数の抗原ペプチド応答性T細胞を検出するための方法であって、以下のステップ:
i.少なくとも1つのペプチドフリーMHCクラスI分子及び少なくとも1つの検出可能な標識を含むロード可能な検出分子を用意すること、
ii.少なくとも1つの抗原ペプチドを用意すること、
iii.ロード可能な検出分子を少なくとも1つの抗原ペプチドと接触させて、少なくとも1つのペプチド-MHC(pMHC)クラスI分子を含むロード済み検出分子を形成すること、
iv.ロード済み検出分子を試料と接触させること、並びに
v.ロード済み検出分子の1つ又は複数の抗原ペプチド応答性T細胞への結合を検出することを含み、
少なくとも1つの抗原ペプチドがそれぞれ、少なくとも2つの異なる検出可能な標識によって表される方法に関する。他の態様のいずれか1つの文脈で記載された実施形態及び特徴はすべて、この特定の態様にも適用される。
【0140】
本発明の別の実施形態は、検出分子の1つ又は複数の抗原ペプチド応答性T細胞への結合が、少なくとも2つの異なる検出可能な標識を検出することによって検出される本明細書に記載の方法に関する。
【0141】
本発明のさらなる態様は、試料中の1つ又は複数の抗原ペプチド応答性T細胞を検出するための方法であって、以下のステップ:
i.少なくとも1つのペプチドフリーMHCクラスI分子及び少なくとも1つの核酸標識を含むロード可能な検出分子を用意すること、
ii.少なくとも1つの抗原ペプチドを用意すること、
iii.ロード可能な検出分子を少なくとも1つの抗原ペプチドと接触させて、少なくとも1つのペプチド-MHC(pMHC)クラスI分子を含むロード済み検出分子を形成すること、
iv.ロード済み検出分子を試料と接触させること、並びに
v.ロード済み検出分子の1つ又は複数の抗原ペプチド応答性T細胞への結合を検出することを含む方法に関する。
【0142】
他の態様のいずれか1つの文脈で記載された実施形態及び特徴はすべて、この特定の態様にも適用される。
【0143】
本発明の好ましい実施形態は、少なくとも1つのpMHCクラスI分子の同一性を決定する追加のステップ(vi)を含む本明細書に記載の方法に関する。より明瞭には、本発明の一実施形態は、試料中の1つ又は複数の抗原ペプチド応答性T細胞を検出するための方法であって、以下のステップ:
i.少なくとも1つのペプチドフリーMHCクラスI分子及び少なくとも1つの核酸標識を含むロード可能な検出分子を用意すること、
ii.少なくとも1つの抗原ペプチドを用意すること、
iii.ロード可能な検出分子を少なくとも1つの抗原ペプチドと接触させて、少なくとも1つのペプチド-MHC(pMHC)クラスI分子を含むロード済み検出分子を形成すること、
iv.ロード済み検出分子を試料と接触させること、
v.ロード済み検出分子の1つ又は複数の抗原ペプチド応答性T細胞への結合を検出すること、並びに
vi.少なくとも1つのpMHCクラスI分子の同一性を決定することを含む方法に関する。
【0144】
少なくとも1つのペプチドフリーMHCクラスI分子及び核酸標識を含むロード可能な検出分子は、試料からT細胞を検出するために、又は親和性に基づくTCR-pMHC相互作用を測定し、結果としてTCRの認識の優先傾向を示すために使用することができる。したがって、本発明の別の態様は、少なくとも1つのペプチドフリーMHCクラスI分子及び核酸標識を含むロード可能な検出分子に関する。他の態様のいずれか1つの文脈で記載された実施形態及び特徴はすべて、この特定の態様にも適用される。
【0145】
本発明の一実施形態は、ペプチドフリーMHCクラスI分子が本明細書で画定された通りである本明細書に記載のロード可能な検出分子に関する。本発明の別の実施形態は、ペプチドフリーMHCクラスI分子が、ジスルフィド架橋によって連結されたアルファ-1ドメイン及びアルファ-2ドメインを含む重鎖本明細書に記載のロード可能な検出分子に関する。
【0146】
本発明の好ましい実施形態は、重鎖が、
(a)配列番号1、又は
(b)(a)の配列と少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、若しくは少なくとも99%の配列同一性などの(a)の配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列
から選択されるアミノ酸配列を含み、又はその配列からなり、
前記アミノ酸配列が、アルファ-1ドメインに配置された変異体システイン残基とアルファ-2ドメインに配置された変異体システイン残基を含む本明細書に記載のロード可能な検出分子に関する。
【0147】
本発明のさらなる実施形態は、アルファ-1ドメインの変異体システイン残基がアミノ酸残基84又は85にあり、アルファ-2ドメインに配置された変異体システイン残基がアミノ酸残基139にある本明細書に記載のロード可能な検出分子に関する。
【0148】
本発明のさらにさらなる実施形態は、重鎖が、
(a)配列番号2~13のいずれか1つ、又は
(b)(a)の配列と少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、若しくは少なくとも99%の配列同一性などの(a)の配列と少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列
から選択されるアミノ酸配列を含み、
そのアミノ酸配列は、アルファ-1ドメインに配置された変異体システイン残基とアルファ-2ドメインに配置された変異体システイン残基を含む本明細書に記載のロード可能な検出分子に関する。
【0149】
ロード可能な検出分子の核酸標識は、本明細書で先に画定された通りであることができる。本発明の一実施形態は、核酸標識が本明細書に記載のように画定された通りである本明細書に記載のロード可能な検出分子に関する。本発明の好ましい実施形態は、少なくとも1つのペプチドフリーMHCクラスI分子及び核酸標識を含むロード可能な検出分子に関し、その少なくとも1つの検出可能な標識は、
i.5’第1のプライマー領域(フォワード)、バーコード領域及び3’第2のプライマー領域(リバース)、並びに
ii.ランダムヌクレオチド塩基からなるユニークな分子識別子(UMI)領域を含む核酸標識であり、
そのバーコード領域は、検出分子の識別タグとして機能するユニークなバーコードである。
【0150】
ロード可能な検出分子は、1つ又は複数のペプチドフリーMHCクラスI分子及び検出可能な標識に結合した、ストレプトアビジンなどのコネクター分子及び/又はデキストランなどのスカフォールド分子を含むことができる。本発明の好ましい実施形態は、ロード可能な検出分子は、ストレプトアビジンと各ペプチドフリーMHCクラスI分子上のビオチン標識との間の非共有相互作用を介してストレプトアビジンに結合した4つのペプチドフリーMHCクラスI分子を含む本明細書に記載のロード可能な検出分子に関する。
【0151】
ロード可能な検出分子溶液中に存在してもよく、固体基材に固定化されてもよい。検出分子を固体支持体に固定化することによって、TCR又は抗原ペプチド応答性T細胞に結合したロード済み検出分子を、洗浄過程の間などに残留する未結合の試薬及び/又は交換バッファーから容易に分離することが可能である。さらに、ロード可能な検出分子を固体基材に予め決められたパターンでスポットすることによって、スクリーニング目的のための既知の座標をもつ高度なアレイを提供することが可能である。したがって、本発明の一実施形態は、ロード可能な検出分子が固体基材に固定化されている本明細書に記載のロード可能な検出分子に関する。
【0152】
固体基材は、ロード可能な検出分子が使用される設定に応じて、さまざまな材料からなるものであることができる。ロード可能な検出分子のマイクロアレイは大きなライブラリーのスクリーニングに有利でありうる一方で、ビーズに固定化されたロード可能な検出分子は精製プロトコールに有利でありうる。したがって、本発明の一実施形態は、固体基材が、マイクロアレイ、スライドガラス、ビーズ、ウェルプレート、粒子、フィルター、ゲル、チューブ、及びペトリ皿からなる群から選択される本明細書に記載のロード可能な検出分子に関する。本発明の好ましい実施形態は、固体基材がマイクロアレイである本明細書に記載のロード可能な検出分子に関する。
【0153】
本発明の追加の態様は、少なくとも1つのペプチドフリーMHCクラスI分子を含む固体基材に関する。ペプチドフリーMHCクラスI分子は、ジスルフィド架橋で連結されたアルファ-1ドメインとアルファ-2ドメインを含む重鎖を含むなど、本明細書で画定された通りでありうる。
【0154】
ロード可能な検出分子はまた、本明細書に記載のコンビコーディングアプローチ又はバーコーディングアプローチのいずれかを用いる使用に適した組成物として提供されうる。したがって、本発明の一態様は、試料中の1つ又は複数の抗原ペプチド応答性T細胞を検出するための組成物に関し、この組成物は、
(a)少なくとも2つの本明細書に記載のロード可能な検出分子、又は
(b)少なくとも3つの、少なくとも1つの本明細書に記載のペプチドフリーMHCクラスI分子及び少なくとも1つの検出可能な標識を含むロード可能な検出分子
を含み、各ロード可能な検出分子は異なる検出可能な標識を含む。
【0155】
本発明の別の態様は、試料中の1つ又は複数の抗原ペプチド応答性T細胞を検出するための、本発明に記載のロード可能な検出分子又は本明細書に記載の組成物の使用に関する。
【0156】
ロード可能な検出分子又はその組成物は、ロード済み検出分子を必要に応じて容易かつ迅速に形成するための、ロード可能な検出分子及び目的の抗原ペプチドを含むすぐに使えるパッケージ/キットとして提供することができる。キットには、例えば、所与の疾患に重要な少数の非常に特異的な抗原ペプチドから、ヒトペプチドームの抗原ペプチドライブラリーに及ぶさまざまなサイズの抗原ペプチドのライブラリーが入っている。したがって、本発明の別の態様は、試料中の1つ又は複数の抗原ペプチド応答性T細胞を検出するためのキットに関し、このキットは、
i.本発明に記載のロード可能な検出分子又は本明細書に記載の組成物、
ii.少なくとも1つの抗原ペプチド、及び
iii.任意選択で、使用説明書
を含む。
【0157】
本発明の一実施形態は、検出分子が抗原ペプチドで予めロードされている本明細書に記載のキットに関する。この実施形態では、キットは追加の抗原ペプチドを含まない。本発明の別の実施形態は、ロード可能な検出分子がマイクロアレイなどの固体基材に固定化されている本明細書に記載のキットに関する。
【0158】
T細胞受容体(TCR)の雑多な(promiscuous)性質は、私たちが幅広く病原体を認識する能力の基礎となっている。しかし、この性質はT細胞認識の理解及び制御を困難なものにしている。既存の技術では、T細胞認識にとって重要な要件や、TCRが構造的に関連する要素を相互に認識する能力について限られた情報しか得られない。本明細書に記載の検出分子は、pMHCのTCR認識を支配するパターンを確立するための「ワンポット(one-pot)」戦略として機能する。本明細書に記載の検出分子を使用して、ペプチドバリアントをロードしたMHCとのTCR相互作用の親和性に基づく階層を決定し、この知識を適用して、ここでTCRフィンガープリントと呼ばれる認識モチーフを理解することができる。ロード可能な検出分子は、高品質なTCRフィンガープリンティングに必要な抗原ペプチドの大きなライブラリーを迅速に調製するのに完璧に適した柔軟な解決策である。TCRフィンガープリントの決定は、T細胞の相互作用を理解し、臨床開発に向けてTCRを選択する前に潜在的な相互認識を評価するための貴重な戦略である。したがって、本発明の一態様は、T細胞受容体(TCR)又は抗原ペプチド応答性T細胞と抗原ペプチドのライブラリーとの間の相互作用を決定する方法に関し、この方法は以下のステップ:
i.本明細書に記載のロード可能な検出分子を用意すること、
ii.抗原ペプチドのライブラリーを用意すること、
iii.ロード可能な検出分子を抗原ペプチドのライブラリーと接触させて、ペプチド-MHC(pMHC)クラスI分子を含むロード済み検出分子のライブラリーを形成すること、
iv.T細胞受容体(TCR)又は抗原ペプチド応答性T細胞を、ロード済み検出分子のライブラリーと接触させること、及び
v.T細胞受容体(TCR)又は抗原ペプチド応答性T細胞とロード済み検出分子のライブラリーとの結合を検出することを含む。
【0159】
この方法は、「TCRフィンガープリントを得るための方法」とも呼ばれる。したがって、本発明の一実施形態は、抗原ペプチドのライブラリーが、少なくとも50個、少なくとも100個、少なくとも500個、少なくとも1,000個、少なくとも10,000個の異なる抗原ペプチドなどの少なくとも25個の異なる抗原ペプチドを含むTCRフィンガープリントを得るための方法に関する。本発明の別の実施形態は、抗原ペプチドのライブラリーが、少なくとも1,000,000個の異なる抗原ペプチドなどの少なくとも100,000個の異なる抗原ペプチドを含むTCRフィンガープリントを得るための方法に関する。
【0160】
本明細書に記載の方法とロード可能な検出分子によって提供されるさまざまな抗原ペプチドライブラリーを迅速に生成するための柔軟なプラットフォームを考慮すると、大きな、複雑かつ/又は多様な抗原ペプチドライブラリーに対する詳細なTCRフィンガープリントを、単純に必要に応じて確立することが可能である。したがって、本発明の一実施形態は、抗原ペプチドのライブラリーがヒトペプチドームを含むTCRフィンガープリントを得るための方法に関する。本発明の別の実施形態は、抗原ペプチドのライブラリーが、標的抗原ペプチド及び前記標的抗原ペプチドの単一位置のバリエーションから生み出されるTCRフィンガープリントを得るための方法に関する。本発明のさらなる実施形態は、抗原ペプチドのライブラリーが、天然に存在するペプチドから選択されるTCRフィンガープリントを得るための方法に関する。
【0161】
TCRフィンガープリントを得るための方法に適した抗原ペプチドとしては、病原性が知られている、又は疑われている抗原ペプチドが挙げられるが、これらに限定されない。したがって、本発明の一実施形態は、標的抗原ペプチドは、がん関連エピトープ、ウイルスエピトープ及び自己エピトープから選択されるTCRフィンガープリントを得るための方法に関する。本発明の別の実施形態は、がん関連エピトープは、ウイルスによって誘発されるがんに関連するウイルスエピトープであるTCRフィンガープリントを得るための方法に関する。本発明のさらなる実施形態は、ウイルスエピトープは、ヒトパピローマウイルス(HPV)、メルケル細胞ポリオーマウイルス(MCV)、サイトメガロウイルス(CMV)、エプスタイン・バーウイルス(EBV)、ヒトTリンパ球向性ウイルス(HTLV)、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)及びインフルエンザウイルスからなる群より選択されるウイルスに由来するTCRフィンガープリントを得るための方法に関する。
【0162】
本発明の別の態様は、T細胞受容体(TCR)又は抗原ペプチド応答性T細胞と抗原ペプチドのライブラリーとの間の相互作用を決定するための、本発明に記載のロード可能な検出分子の使用に関する。
【0163】
本発明の態様の1つに関連して記載された実施形態及び特徴は、本発明の他の態様にも適用されることに留意されたい。
【0164】
本出願で引用されているすべての特許文献及び非特許文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0165】
以下の非限定的な実施例において、本発明をさらに詳細に説明する。
【実施例0166】
実施例1:Cys変異体MHC分子の作製と抗原特異的T細胞検出のための検出分子の組み立て
ここでは、wt(野生型)MHCクラスI分子とCys変異体MHCクラスI分子の作製法と本発明による検出分子を作る方法について説明する。この実施例では、野生型MHC及びジスルフィドで安定化したCys変異体MHCの両方を用意し、検出分子の組み立てに使用する。
【0167】
この実施例では、ストレプトアビジン-フィコエリスリン(PE)、ストレプトアビジン-アロフィコシアニン(APC)など、例えばBDバイオサイエンスから市販されている、さまざまな蛍光色素で標識されたストレプトアビジン分子を使用して検出分子を調製する。
【0168】
野生型MHCとCys変異体MHCはともに、古典的な大腸菌の発現によって作られ、ここでは、それぞれ野生型HLA-Aの重鎖(配列番号1)及びCys変異体HLA-Aの重鎖(配列番号2)を用いて例示されている。野生型MHC及びMHC Cys変異体タンパク質と軽鎖ベータ-2ミクログロブリン(B2M)タンパク質はいずれも、pETシリーズのプラスミドを用いて大腸菌で作製する。大腸菌によって作られたタンパク質が入っている封入体を超音波処理で集め、大腸菌細胞を溶解バッファー(TrisCl 50mM、pH8.0、1mM EDTA、25%スクロース)で溶解する。変性タンパク質の可溶性画分を、界面活性剤バッファー(Tris-Cl 20mM、pH7.5、200mM NaCl、2mM EDTA、1%NP40、1%デオキシコール酸)、及び洗浄バッファー(0.5%トリトンX-100、1mM EDTA)で洗浄し、それに続いて再可溶化バッファー(HEPES 50mM、pH6.5、8M尿素、0.1mM β-メルカプトエタノール)で4℃にて48時間インキュベートすることによって封入体から回収し、MHCクラスIモノマー作製に使用するまで-80℃で保存する。
【0169】
Cys変異体MHCモノマーは、例えばジペプチド/トリペプチド/小分子などのヘルパー分子の存在下で、Cys変異体MHCタンパク質及びB2Mのインビトロでの折り畳みによって作製する(折り畳みバッファー:100mM Tris-Cl、pH8.0、400mM L-アルギニン、2mM EDTA、及びプロテアーゼ阻害剤カクテル)。野生型MHCは、ヘルパー分子が含まれていないことを除いて、Cys変異体MHC単量体と同様に作る。その代わりに、野生型MHC分子は、UVで不安定なペプチドKILGFVF-X-V(配列番号17)の存在下で再度折り畳まれる。ここで、XはUV感受性アミノ酸である3-アミノ-2-(2-ニトロフェニル)プロピオン酸を指し、UV光に曝露すると全長ペプチドを切断する。切断されたペプチド断片のMHC分子への結合親和性が低下することにより、入ってくる交換抗原ペプチドの結合が可能になる。
【0170】
MHCモノマーは従来のサイズ排除クロマトグラフィーで精製する。あるいは、他の標準的なタンパク質精製方法を使用することも可能である。サイズ排除クロマトグラフィーによるCys変異体MHCモノマーの精製は、MHCモノマーを安定化させるヘルパー分子を含む、又は含まないバッファーを用いて行うことができる。
【0171】
pMHCは、標準的な化学的及び酵素的プロトコールの両方でビオチン化する。これらの実施例では、部位特異的ビオチン化を可能にするMHC重鎖にビオチン化コンセンサスペプチド配列を含めることによって、精製過程の間にBirA酵素(アビディティー社(Avidity Inc.)から入手可能)及び遊離ビオチンを用いて、アビディティー社のプロトコールに従ってpMHCを酵素的にビオチン化する。
【0172】
本明細書に記載の実施例では、野生型及びCys変異体MHCの抗原特異的MHC検出分子、又はCys変異体MHCのロード可能な検出分子を、ストレプトアビジン-ビオチン相互作用を介して組み立てる。簡単に説明すると、ビオチン化した分子とフルオロフォア結合ストレプトアビジンを、PBSなどの水性バッファー中で、下記の実施例に従って相対的な化学量論で混合(100μg/mLのMHC分子と18μg/mLのストレプトアビジン-フルオロフォア結合体を混合)し、氷上で30分間インキュベートする。組み立てた検出分子は、4℃では少なくとも1週間、-20℃ではより長い期間保存することができる。検出分子はこの温度で少なくとも6か月間機能的に安定である。
【0173】
下記実施例で詳述するように、これらの検出分子を用いて、ヒトPBMC又はTILから抗原特異的T細胞を検出する。2~5×106細胞を検出分子と37℃で15分間インキュベートした後、細胞表面マーカー抗体を4℃で30分間染色した。次いで、細胞をFACSバッファー(2%のFCSを含むPBS)で2回洗浄し、フローサイトメーターで染色された細胞を得ることによって抗原特異的CD8+T細胞の有無を解析する。
【0174】
実施例2:Cys変異体MHC分子を用いて調製した検出分子は、抗原特異的T細胞検出を向上させて優れたものにする
この実施例では、検出分子を用いて健常なドナーのPBMCから抗原特異的CD8+T細胞を検出する方法を詳述し、検出分子はCys変異体MHC分子を用いて調製される。Cys変異体MHC分子を用いて調製した検出分子は、検出されたすべての抗原特異的T細胞特異性に関して、野生型MHCモノマーから調製した検出分子と比較して、染色指数として算出して有意に明るい染色が得られる。これは、異なる色のフルオロフォアでも一貫して見られた。図1では、フローサイトメトリーのデータを用いて、健常なドナーPBMC試料での抗原特異的T細胞検出について、野生型及びCys変異体MHCモノマーでそれぞれ調製した検出分子を比較している。
【0175】
健常なドナーPBMC試料を検出分子に供して、CMV pp65 NLVPMVATV(配列番号18、CMV pp65 NLV)抗原特異的CD8+T細胞を検出する。野生型及びCys変異体A2分子を用いてHLA A*02:01(A2)特異的CMV pp65 NLVPMVATV検出分子を調製し、T細胞検出の効率を比較する。野生型及びCys変異体A2分子は実施例1に記載のように作製及び精製する。CMV pp65 NLVPMVATV抗原特異的検出分子を作製するために、2μM野生型A2分子を、100μMのCMV pp65 NLVPMVATVペプチドと、UVランプ(365nm)下で1時間インキュベートして、UV光媒介ペプチド交換を促進して、A2 CMV pp65 NLVPMVATVモノマーを作製した(野生型A2分子は、折り畳みの間に付加され、これらの分子の安定に必要なUV不安定性ペプチドを持つので、UV媒介交換プロセスを必要とする)。
【0176】
Cys変異体MHC分子の場合、100μM CMV pp65 NLVPMVATVを、2μM Cys変異体A2分子と4℃で1時間直接インキュベートする。Cys変異体MHC分子は、折り畳み後、ペプチドを含まない構造で安定しているので、いかなる交換プロセスも必要とせず、選択したペプチドを交換プロセスなしに直接ロードすることができる。したがって、Cys変異体MHC分子は、T細胞検出のため抗原ペプチドを直接、簡単かつ迅速にロードするのに理想的な分子である。
【0177】
次いで、2μMのA2 CMV pp65 NLVPMVATVを、18μg/mLのフルオロフォアを結合させたストレプトアビジンと4℃で30分間インキュベートすることによって、野生型及びCys変異体のA2 CMV pp65 NLVPMVATVモノマーをMHC検出分子に変換する。健常なドナーのPBMCを、これらの野生型及びCys変異体A2 CMV pp65 NLVPMVATV特異的検出分子を用いて染色する。A2 CMV pp65 NLVPMVATVに特異的なCD8+T細胞を示す代表的なドットプロットを図1Aに示す。
【0178】
Cys変異体MHC検出分子によってA2 CMV pp65 NLVPMVATV特異的T細胞に検出されたより明るい染色、すなわち背景シグナルからの検出分子陽性(抗原特異的)T細胞のより良好な分離を、染色指数を計算することによって検証した。Cys変異体検出分子では、野生型検出分子に比べて3倍近く高い染色指数が見られた(図1B)。Cys変異体MHC分子から調製した検出分子の優位性は、異なるフルオロフォアタグを用いた2つの追加の健常なドナー試料でも見られた(図2A)。どのフルオロフォアタグ検出分子を使用したかにかかわらず、染色指数の計算を用いて決定された、いずれの健常なドナーの試料においても、Cys変異体A2 CMV pp65 NLVPMVATV特異的検出分子は、野生型MHC検出分子よりも優れた性能を示した(図2B)。
【0179】
健常なドナーのPBMCにおいて、さらに2つのウイルス特異的抗原に対する抗原特異的T細胞を検出することで示されるように、Cys変異体T細胞検出分子の染色指数の優位性はいくつかの抗原特異異性にわたって見出される。A2 YVLDHLIVV(配列番号19、EBV BRLF1 YVL)、及びA2 VLEETSVML(配列番号20、CMV IE1 VLE)抗原特異的検出分子は、本実施例で前述したように野生型A2又はCys変異体A2を用いて組み立てる。健常なドナーのPBMCを検出分子とインキュベートし、野生型及びCys変異体検出分子について染色指数を比較する。Cys変異体MHC検出分子は、どちらのタイプの抗原特異的CD8T細胞(A2 YVLDHLIVV及びA2 VLEETSVML)に対しても、はるかに優れた染色指数(4~5倍高い)をもたらす(図3A、B)。
【0180】
結論:この実験は、Cys変異体MHC分子で調製した検出分子を用いて抗原特異的T細胞を検出することが実行可能であることを示している(図1)。Cys変異体MHC検出分子のT細胞検出の効率は、野生型の検出分子と同等であることがわかった。
【0181】
T細胞検出の効率は、Cys変異体MHC検出分子と野生型MHC検出分子の間で同等であるので、Cys変異体MHC分子の利点は、抗原ペプチドのロードがより速いことである。Cys変異体MHC分子は空っぽに折り畳まれており、安定であるのに完全な長さのペプチドを必要としない。したがって、Cys変異体MHC分子はペプチド受容性であり、ペプチド交換技術又は各pMHC特異性の個々の折り畳及び精製を使用することなく、任意の抗原ペプチドをロードすることができる。
【0182】
さらに、Cys変異体検出分子の別の利点は、染色指数によって示されるように、より良好T細胞検出の効率からくるものである(図1B、2B、3B)。Cys変異体A2検出分子は、3つの異なる抗原(A2-NLVPMVATV、A2 YVLDHLIVV及びA2 VLEETSVML)にわたって、3つの異なるドナー試料(BC60、89、90)において2つの異なる色(PE、APC)で、野生型A2検出分子と比べて3~8倍高い染色指数を示す。これらのデータは、Cys変異体MHC検出分子を用いたMHC検出分子による抗原特異的T細胞検出の進歩を実現し、T細胞検出における既存のアプローチと比べて向上した特徴を示している。
【0183】
図3Aは、Cys変異体MHC分子を用いたT細胞検出におけるこの進歩の特長を示している。健常なドナーのPBMCで検出された低頻度のA2 YVLDHLIVV(EBV BRLF1)特異的T細胞は、Cys変異体検出分子を使用した場合、より明るい染色(すなわち、より良好な染色指数)起因し、検出分子陰性集団と明確に区別され、より良好に分離される。対照的に、同じ抗原特異的T細胞を検出するために使用された野生型A2検出分子は、検出分子陽性細胞の分離が悪く、識別不能でこの集団をほとんど検出することができない。したがって、低頻度で低親和性の抗原特異的T細胞を同定するには、より明るい分離(染色指数の向上)が重要であり、これはCys変異体MHC分子を使用することで促進され、したがって既存のアプローチから明らかに進歩している。
【0184】
実施例3:Cys変異体MHC分子から作られた検出分子をコンビコーディングすることにより、抗原特異的T細胞の検出が著しく向上する
この実施例では、試料中の複数のT細胞特異性を検出するために、コンビコーディングと呼ばれる検出分子の組み合わせ設定を適用する利点を示す。コンビコーディングは、従来の野生型MHC検出分子と比較して、Cys変異体MHC検出分子に特に有利である。複数の抗原を検出するために、1つのフルオロフォアタグが、1つの抗原のみに特異的な第2のフルオロフォアタグと組み合わせて使用され、それによって各抗原特異性に対してユニークな2色の組み合わせが形成すされる組み合わせ設定において、Cys変異体/野生型検出分子のより良好な染色指数比が見られることが示されている。大きなペプチドライブラリーをコンビコーディングによってスクリーニングするとき、検出分子陽性T細胞の明確な分離は、特に抗原特異的T細胞が希で、所与の抗原ペプチドとMHCの組み合わせに対する親和性が低い場合に、大きな細胞プールからのより良好な同定を容易にする。コンビコーディング技術は、Hadrup et al. (2009)及び国際公開第2010/060439A1号によって以前に記載されている。
【0185】
コンビコーディング例では、A2-FLU MP GILGFVFTL(配列番号21、FLU MP GIL)、A2-EBV BMF1 GLCTLVAML(配列番号22、EBV BMF1 GLC)、及びA2 EBV LMP2 FLYALALLL(配列番号23、EBV LMP2 FLY)の3つの異なる抗原にわたって、野生型及びCys変異体A2検出分子をT細胞検出の効率について比較している。3つの抗原特異的検出分子はすべて、実施例2に記載の方法と同様に調製する。簡単に説明すると、200μMの各抗原ペプチドを2μM 野生型又はCys変異体A2分子とUVランプ下(野生型A2交換反応の場合)又はそのまま4℃(Cys変異体A2)で1時間インキュベートする。1時間後、各抗原特異的モノマーを2つの反応に分け、それぞれを異なる色のフルオロフォア結合ストレプトアビジンと30分間インキュベートする。3つの抗原特異性すべてに対してAPCを第1の色として使用し、第2の色としてBUV395 (A2-FLU MP GILGFVFTLの場合)、BUV737(A2-EBV BMF1 GLCTLVAMLの場合)、及びPE(A2 EBV LMP2 FLYALALLLの場合)を使用する。したがって、この二色アプローチにより、抗原特異的検出分子それぞれに固有の色の組み合わせが与えられる。A2-FLU MP GILGFVFTLに対してAPC-BUV395、A2-EBV BMF1 GLCTLVAMLに対してAPC-BUV737、及びA2 EBV LMP2 FLYALALLLに対してAPC-PE。
【0186】
細胞を染色する前に、3つすべてにわたって各抗原特異性に対する二色組み合わせ検出分子コンビコーディング検出分子を等量でプールする(1μL/色/特異性)。次いで、プールした検出分子を、2~5×106細胞と37℃で15分間、細胞表面マーカー抗体と4℃で30分間インキュベートする。次いで、細胞を洗浄し、CD8+抗原特異的T細胞に対するフローサイトメトリーで捕捉する。図4Aのドットプロットは、野生型及びCys変異体A2検出分子の抗原特異的T細胞検出効率の比較を示す。染色指数を、所与の組み合わせの両方の色に関して検出された抗原特異的T細胞プロットそれぞれについて計算する(図4B)。ドットプロット及び染色指標の棒グラフ(倍率変化Cys変異体/野生型A2検出分子)は、野生型検出分子と比較して、Cys変異体検出分子を用いた際、検出の向上を示している。
【0187】
Cys変異体MHC検出分子はまた、コンビコーディングの設定で、メラノーマ患者試料から、がん関連抗原特異的T細胞を同定するのにも有利である(図5)。12個のメラノーマ関連がん抗原(HLA A*02:01制限)のライブラリーを解析し、メラノーマ患者のTIL(腫瘍浸潤リンパ球)中のCD8+T細胞を同定する。12個の抗原をカバーするコンビコーディング検出分子のパネルを生成し、pMHCの組み合わせをそれぞれ、この実施例で上記したように2色の検出分子をタグ付けする。染色する前に、2色の組み合わせのpMHC検出分子をそれぞれ1μlずつ、1本のチューブにプールし、2×106個のメラノーマ患者TILと混ぜ、37℃で15分間インキュベートする。次いで、細胞表面の抗体と4℃で30分間インキュベートした後、フローサイトメーターで細胞を捕捉する。図5のドットプロットは、2つのがん関連抗原(ITDQVPFSV(配列番号24、gp100 ITD)及びAMLGTHTMEV(配列番号25、gp100 AML))に特異的なCD8+T細胞が同定されたことを示し、Cys変異体と野生型A2検出分子の比較を示す。Cys変異体検出分子は、同定されたすべての抗原特異的T細胞特異性に関して一貫して優れた染色指数を示し、コンビコーディングでのCys変異体MHC検出分子の有利な点がさらに確認された。
【0188】
結論:この実施例は、Cys変異体MHC分子を用いて調製した検出分子が、抗原特異的なCD8T細胞をコンビコーディングによって同定及び検出する際に有用であることを示している。Cys変異体MHC検出分子の特長は、より良好な染色指数にあり、したがってT細胞の陰性集団からのより良好な分離が生じる。この特徴はコンビコーディングにとって非常に重要である。その理由は、単一の蛍光体タグが複数の抗原特異的検出分子によって表すことができ、したがって、最終的なフローサイトメーターの読み出しにおいて、単一の色の検出分子陽性T細胞集団が2つ以上の抗原特異的T細胞を表すことができるからである。これらの細胞は、検出分子ペアの第2の色を識別することによってのみ分離することができる。したがって、Cys変異体の検出分子によって示されるように、より良好な分離及びより高い染色指数は決定的に有利である。
【0189】
Cys変異体MHC検出分子によって提供される利点は、メラノーマ患者試料中のがん関連抗原の同定及び検出によって示されている(図5)。MHC検出分子に基づくコンビコーディングなどのハイスループットアプローチでは、免疫療法開発に向けて患者試料中のがん関連抗原特異的T細胞を同定するために、大きなペプチドライブラリーをスクリーニングすることが必要である。Cys変異体MHC検出分子は、スクリーニングに大きなペプチドライブラリーが必要とされる場合にはるかに速くロードでき、がん関連抗原についても染色指標の向上をもたらすので、そのようなハイスループットアプローチにより適している。がん関連抗原に対する染色指数の向上も、pMHCとT細胞受容体の相互作用の可能性が広範であるので、大きな利点を有する。
【0190】
実施例4:Cys変異体MHC分子を用いて調製したロード可能な検出分子は、コンビコーディングによって抗原特異的T細胞を検出するための抗原特異的検出分子を迅速に生成する方法をもたらす
この実施例は、大きな抗原ライブラリーをスクリーニングして抗原特異的なCD8T細胞を同定するために、Cys変異体MHCを用いて検出分子を作製する迅速な方法を示す。野生型MHC分子と違って、Cys変異体MHC分子は安定性が高く、ペプチドを受容する性質があるので、これらの空のモノマーは迅速に検出可能な分子に変換することができる(図6A)。この方法は、-20℃で保存できるロード可能な検出分子を生成することを含む。これらのロード可能な検出分子は、ワンステップのインキュベーションによって、選択した抗原ペプチドをロードすることができる。この実施例は、このプロセスがわずか1分で達成でき、そのような抗原ペプチド特異的検出分子はT細胞検出において機能的に活性を有することを示している。
【0191】
Cys変異体A2モノマーを実施例1に記載のように作製する。次いで、Cys変異体MHCモノマー(100μg/mL)を、フルオロフォアタグ付きストレプトアビジン(18μg/mL)と4℃で30分間インキュベートして、ロード可能な検出分子を生成する。ロード可能な検出分子を、抗原特異的検出分子の作製に使用するまで、保存バッファー(0.5% BSA、5%グリセロール)に-20℃で保存する。
【0192】
ペプチドのロード効率を調べ、ロード可能なA2検出分子を機能的に検証するために、ロード可能なMHC検出分子(APC標識)を、異なる濃度のペプチド(0.1、1、10、100μM)、異なるインキュベーション時間(1、5、15、30、及び60分)で4℃にてインキュベートすることによって、pMHC検出分子に変換する。この実施例(図6B)では、A2 GILGFVFTL(FLU MP)抗原を用いて抗原特異的T細胞を検出する。各ペプチドロード条件のA2 GILGFVFTL Cys変異体検出分子を、健常なドナーのPBMC(2×106個の細胞/染色)とインキュベートする。図6Bは、各ペプチドローディング条件によってドナー試料で検出されたA2 GILGFVFTL特異的T細胞を示す。このデータは、1分間のペプチドのロードが、その制限されたT細胞を検出できる抗原特異的検出分子を作るのに充分であることを示している。
【0193】
この実施例では、メラノーマ患者の試料に含まれるネオアンチゲン反応性CD8T細胞を同定するためにコンビコーディングにロード可能な検出分子を適用することがさらに検証されている。ネオアンチゲンはがんに特異的な変異に由来し、さまざまな免疫療法アプローチに使用できる可能性がある。ネオアンチゲン特異的T細胞を同定するには、個々の患者に特異的な大きなペプチドライブラリーをスクリーニングすることが必要である。したがって、そのような大きなペプチドライブラリーをスクリーニングするためには、ハイスループットの系では、検出分子の迅速な調製が求められることになろう。この実施例では、Cys変異体MHC分子から作られたロード可能な検出分子が、そのようなアプローチに理想的であることが示されている。これは、43個のペプチド抗原(HLA-A2制限)のメラノーマ患者に特異的なネオアンチゲンライブラリーを、コンビコーディング設定で生成することによって例示されている。ロード可能な検出分子(2色の組み合わせ)を100μMのネオアンチゲンと15分間インキュベートし、すぐにプールしてメラノーマTILとインキュベートする。細胞を前述のように染色し、フローサイトメーターで捕捉する。ロード可能な検出分子とコンビコーディングすることによって、3つのネオアンチゲン(RLMVAVEEA(配列番号26、VANGL1 RLM)、RLMVAVEEAFI(配列番号27、VANGL1(2)RLM)及びLLLFLTIFI(配列番号28、DYSF LLL))に特異的なCD8T細胞が同定される(図7)。
【0194】
結論:ネオアンチゲン特異的T細胞を同定するためにCys変異体MHC検出分子をコンビコーディングで使用する利点がこの実施例で示されている。先行技術における他の既存のアプローチは、検出分子を作る前に目的のペプチドをロードするための交換プロセスを必要とするので、特に大きな患者特異的ペプチドライブラリーを解析する必要がある場合には、そのプロセスは非効率的で非常に時間がかかる。ワンステップで抗原特異的検出分子に変換できるロード可能な検出分子は、既存解決策の問題のあるアプローチに対して、有利で速やかな解決策を提供する。この実施例では、わずか15分で抗原特異的検出分子に迅速に変換されるロード可能なA2検出分子を用いて、ネオアンチゲン特異的T細胞が同定され、これは検出分子に基づく既存のT細胞検出法のいずれと比べても大幅な改善である。
【0195】
実施例5:Cys変異体MHC分子を用いて調製した検出分子は、野生型MHCを用いて調製した検出分子と比較して安定性が高い
この実施例は、Cys変異体MHC検出分子が野生型MHC検出分子と比較して非常に安定していることを示す。抗原特異的MHC検出分子のより高い安定性は、特に低親和性の抗原に対して、T細胞検出のためのコンビコーディング法やバーコーディング法を用いた場合にT細胞検出が向上する。
【0196】
この実施例では、Cys変異体抗原特異的検出分子の安定性の向上が、ペプチドの解離測定によって示され、抗原特異的検出分子と比較されている。ロード可能な検出分子(APCタグ付き)は、実施例4に記載したようにCys変異体A2 MHC分子から調製する。10μM GILGFVFTL(FLU MP)ペプチドを、ロード可能なA2検出分子と4℃で15分間インキュベートし、A2-GILGFVFTL抗原特異的検出分子を生成する。野生型A2-GILGFVFTL抗原特異的検出分子を、200μM GILGFVFTLペプチドの存在下で野生型A2モノマーをUVランプ(365nm)で1時間照射し、続いてストレプトアビジンAPCと4℃で30分間インキュベートすることによって生成する。抗原特異的検出分子を調製した後、野生型とCys変異体検出分子の両方とも、分子量カットオフフィルター(市販)を用いて過剰なペプチドを除去する。得られたA2-GILGFVFTL特異的検出分子を4℃、室温、及び37℃で、1時間、12時間、48時間、及び168時間インキュベートして、pMHC複合体の安定性を決定する。各時点後及びインキュベーション温度でのこれらの複合体の安定性を、健常なドナーのPBMCからA2 GILGFVFTL抗原特異的T細胞を検出するための機能的読み出しとして測定する。T細胞の染色は、前述の実施例に記載のように行う。
【0197】
Cys変異体A2分子を用いて調製したA2-GILGFVFTL検出分子は、同じ特異性をもつ野生型検出分子よりも明らかに安定していることがわかる。37℃で12時間以上インキュベートした場合、検出分子に明らかな違いが見られ、野生型検出分子では、A2-GILGFVFTL特異的T細胞検出の効率が有意に低下する。対照的に、37℃で最大48時間インキュベートしたCys変異体検出分子は、A2 GILGFVFTL特異的T細胞を依然として検出することができる(図8A、B)。
【0198】
結論:ペプチドの解離率を用いて測定して、Cys変異体検出分子は非常に安定である。37℃で48時間インキュベートした後でも、Cys変異体検出分子は機能的に安定し、効率的に抗原特異的な細胞を検出する。低親和性pMHC-TCR(T細胞受容体)相互作用は、より安定なpMHC複合体を用いた場合に検出される可能性がより高いので、検出分子のコンビコーディング及びバーコード付けなどによるハイスループットT細胞検出プラットフォームにおいて、Cys変異体pMHC複合体の高い安定性により、それらの複合体は野生型pMHC複合体と比べて明らかな利点をもつ。
【0199】
実施例6:Cys変異体MHC分子を用いて調製した検出分子は、バーコーディングに基づくハイスループットのT細胞検出法に大きな有意性をもたらす
この実施例では、バーコード付きのCys変異体MHC分子と野生型MHC分子の検出分子を用いた抗原特異的T細胞の検出を記載する。バーコード法は、各種類のpMHC検出分子に結合したユニークな短い核酸配列をバーコードとして利用する。この方法は、核酸バーコード付きT細胞検出分子を用いて、数千の抗原ペプチドをシングルポットアッセイでスクリーニングすることができる。この技術は、Bentzen et al. (2016)及び国際公開第2015/188839A2号において以前に記載されている。
【0200】
この実施例では、健常なドナー(図9)及びメラノーマ患者の試料中のがん関連抗原特異的T細胞を検出する(図10)。167個のA2制限がん抗原と8個のA2制限のウイルス由来抗原に対して、DNAバーコード付き検出分子(野生型及びCys変異体)を調製する。
【0201】
DNAバーコードは、特徴的な25merのヌクレオチド配列をもつオリゴヌクレオチドから作る。特徴的な25mer領域にくわえて、各オリゴには、イオントレント(IonTorrent)シーケンシングに対応したプライマー領域及び6×Nのランダムヌクレオチドのユニークな分子識別子(UMI)領域が含まれる。5’ビオチン標識で修飾したオリゴヌクレオチド(Aバーコード)を、無修飾の部分的に相補的なオリゴヌクレオチド(Bバーコード)に結合させて、175個のユニークな二本鎖Ax-By DNAバーコードを生成する(5個の代表的なAバーコード(配列番号32~36)及びBバーコード(配列番号37-41)の配列と、それらがコードする抗原ペプチドを表1に示す。「N」はランダムなヌクレオチドを示す)。オリゴAとオリゴB(各1個)の組み合わせを、それぞれ26μM(オリゴA)と52μM(オリゴB)の最終濃度になるように5×シーケナーゼ反応バッファー(Sequenase Reaction Buffer)ミックス(PN70702、アフィメトリクス(Affymetrix))と混合し、65℃で2分間加熱し、15~30分かけて<35℃にゆっくりと冷却してアニーリングさせる。アニーリングしたオリゴAとBは、シーケナーゼポリメラーゼ(70775Y、アフィメトリクス)、20μM DTT、800μM又は72μM dNTPを加え、続いてRTで5~10分間インキュベートすることによって伸長されて、二本鎖のAxBy DNAバーコードを作製する。伸長したAxByバーコードを、ヌクレースフリー水+0.1%ツイーンで(Aオリゴについて)2.17μMに希釈し、-20℃で保存する。5’ビオチン化AxBy DNAバーコードは、PE及びストレプトアビジンが結合したデキストランに2:1の化学量論で結合している。DNAバーコードをデキストラン結合体と混合し、続いて4℃で30分間インキュベートすることによって結合させる。
【0202】
175個の抗原のそれぞれについて、A2分子にそれらの抗原をロードすることによって、個々のpMHCの組み合わせを調製する。野生型A2分子の場合、抗原をUV媒介のペプチド交換法を用いてロードされ、ここでは、100μg/mLの野生型A2モノマーを200μMのペプチドとUV光(365nm)下で1時間インキュベートする。Cys変異体A2分子は、100μMのペプチド抗原をわずか15分間インキュベートするだけで、交換プロセスを必要とせずに抗原をロードされる。
【0203】
【表1】
【0204】
次いで、組み立てたpMHC特異性を、ストレプトアビジン結合デキストラマー(DNAバーコードタグ付き)と4℃で30分インキュベートして、DNAバーコード付き抗原特異性検出分子を得る。次いで、175個の異なるpMHC特異的バーコード付きT細胞検出分子をすべて、1本のチューブにプールし(各特異性から1.5μL)、健常なドナーのPBMC又はメラノーマ患者のTIL試料(2~5×106細胞)と37℃で15分間インキュベートする。細胞を前述のように細胞表面の抗体で染色し、セルソーターで捕捉して、検出分子に陽性の抗原特異的T細胞を分離する。これらのソートした細胞から、イオントレントに適合するフォワードPCRプライマーA-Key 2OS-F1-xxx及びリバースPCRプライマーP1R2を使用してDNAバーコードを増幅する(フォワードプライマーの1つ、A-Key 2OS-F1-233(配列番号42)及びリバースプライマーP1R2(配列番号43)を表1に例示)。PCR増幅したDNAバーコードを精製し、イオントレントシーケンシングによって配列を決定し、Bentzen et al. (2016)に記載のように、本質的にそれぞれのDNAバーコードに結合した抗原特異的T細胞を同定する。
【0205】
Cys変異体A2分子を用いて組み立てたバーコード付き検出分子は全体に、野生型A2分子を用いて組み立てた検出分子と比較して、より多くの抗原特異的CD8T細胞を検出する。健常なドナーでは、野生型A2及びCys変異体A2のpMHCはともに、ウイルス由来の抗原に特異的なT細胞を同数検出したが、Cys変異体検出分子は、この試料でさらにいくつかのがん関連抗原に特異的なT細胞を検出し(図9)、Cys変異体MHC分子の感度の高さを示した。注目すべきことに、メラノーマ患者試料のどちらにおいても、野生型A2検出分子は抗原特異的T細胞を同定しなかったが、Cys変異体MHC検出分子は、メラノーマ患者1で1つ、別のメラノーマ患者試料で2つのがん抗原特異的T細胞を同定した(VLYRYGSFSV(配列番号29、MEL VLY)及びKASEKIFYV(配列番号30、MEL KAS))(図10)。
【0206】
結論:この実施例(図9及び10)は、Cys変異体MHC分子を用いたバーコード付き検出分子が、ハイスループットのT細胞検出に魅力的なプラットフォームを提供することを示している。がん抗原に特異的なT細胞は検出が非常に難しい。これは恐らく、低頻度又はpMHCとTCRの間の低親和性の相互作用のためと思われる。Cys変異体T細胞検出分子のみが、メラノーマ患者試料中の稀ながん関連抗原特異的T細胞を検出するのに十分な感度を有するので、ハイスループットのT細胞検出に関してCys変異体MHC分子は野生型MHC検出分子よりも優れている。
【0207】
実施例7:TCRフィンガープリントを決定するための、Cys変異体MHC分子を用いて調製したDNAバーコード付き検出分子
この実施例では、T細胞受容体(TCR)のフィンガープリントを決定するためのCys変異体MHC分子の使用を記載する。TCRフィンガープリントは、TCR-pMHC相互作用の詳細及びT細胞認識における各残基の重要性を提供する。この実施例は、Cys変異体MHC分子が、野生型MHC分子を用いて同定したTCRフィンガープリントと同等に、TCRフィンガープリントを同定することを示す。
【0208】
TCRフィンガープリントを決定するために、検出分子のバーコード化を用いて、メルケル細胞ポリオーマウイルス由来のエピトープであるA2-KLLEIAPNY(配列番号31、MCV KLL)由来の192個のペプチドを、各アミノ酸の位置を天然に存在する20個のアミノ酸で順次置き換えることによって特徴付けする。これらのペプチドバリアントをそれぞれ、Cys変異体A2の空のモノマーにロードするか、又は野生型A2のUVで切断可能なリガンドに置き換える。次いで、MHCマルチマーを生成し、実施例6に記載のように生成した192個のユニークなDNAバーコードでタグ付けする。すべてのpMHCマルチマーの組み合わせの混合物を使用して、T細胞クローン(A2-KLLEIAPNYに特異的)を染色し、親和性に基づくTCR-pMHC相互作用の測定を可能にし、結果的にTCRの認識優先傾向が示される。TCRフィンガープリントは、MHCマルチマー結合DNAバーコードのシークエンシングに基づいて決定され、その結果は入力pMHCライブラリーに対するlogFcとして与えられる。LogFcをシャノンロゴに変換して、TCRのpMHC相互作用に必要なアミノ酸をよりわかりやすく図示している(図11)。TCRフィンガープリントに基づくと、Cys変異体と野生型のA2はともに、A2-KLLEIAPNYに特異的なTCRクローン両方に対して同等のTCRフィンガープリントパターンを示した。
【0209】
結論:この実施例は、Cys変異体MHC分子のTCRフィンガープリント解析への適用を記載している。Cys変異体MHC分子は、TCRのフィンガープリントを正確に再現し、所望の抗原ペプチドをワンステップで迅速にロードできるので、そのような解析により適していることが示されている。これは、大きなペプチドライブラリーをスクリーニングする必要があるハイスループットのバーコード法において、明らかな利点である。
【0210】
参考文献
Hadrup et al. (2009), Nat. Methods. 6, 520-526
国際公開第2010/060439A1号
Bentzen et al. (2016), Nat. Biotechnol. 34, 1037-1045
国際公開第2015/188839A2号
Altman et al. (1996), Science, 274, 94-96
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【配列表】
2024125377000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2024-07-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の1つ又は複数の抗原ペプチド応答性T細胞を検出するための方法であって、以下のステップ:
i.少なくとも1つのペプチドフリーMHCクラスI分子及び少なくとも1つの検出可能な標識を含むロード可能な検出分子を用意すること、
ii.少なくとも1つの抗原ペプチドを用意すること、
iii.ロード可能な検出分子を少なくとも1つの抗原ペプチドと接触させて、少なくとも1つのペプチド-MHC(pMHC)クラスI分子を含むロード済み検出分子を形成すること、
iv.前記ロード済み検出分子を前記試料と接触させること、並びに
v.前記ロード済み検出分子の前記1つ又は複数の抗原ペプチド応答性T細胞への結合を検出すること
を含み、
少なくとも1つの抗原ペプチドがそれぞれ、
-少なくとも2つの異なる検出可能な標識、又は
-核酸標識である少なくとも1つの検出可能な標識、
によって表され、
前記ペプチドフリーMHCクラスI分子が、ジスルフィド架橋によって連結されたアルファ-1ドメイン及びアルファ-2ドメインを含む重鎖を含み、前記重鎖が、
(a)配列番号2~13のいずれか、又は
(b)(a)の配列と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列を含み、
変異体システイン残基が前記アルファ-1ドメインに配置され、かつ変異体システイン残基がアルファ-2ドメインに配置される方法。
【請求項2】
前記変異体システイン残基が前記アルファ-1ドメインにおいてアミノ酸残基84又は85に配置され、かつ前記変異体システイン残基がアルファ-2ドメインにおいてアミノ酸残基139に配置される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ペプチドフリーMHCクラスI分子が、コネクター分子と前記ペプチドフリーMHCクラスI分子上のアフィニティータグとの間の非共有相互作用によって前記コネクター分子に結合する請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記コネクター分子がストレプトアビジンであり、前記アフィニティータグがビオチンである請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ロード可能な検出分子が、少なくとも3つのペプチドフリーMHCクラスI分子など、少なくとも2つのペプチドフリーMHCクラスI分子、好ましくは4つのペプチドフリーMHCクラスI分子を含む請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ロード可能な検出分子が、ストレプトアビジンと各ペプチドフリーMHCクラスI分子上のビオチン標識との間の非共有相互作用を介してストレプトアビジンに結合した4つのペプチドフリーMHCクラスI分子を含む請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つの検出可能な標識が前記コネクター分子に結合している請求項3~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも6つ、少なくとも7つ、少なくとも8つ、少なくとも9つ、少なくとも10個、少なくとも15個、少なくとも20個、少なくとも25個、少なくとも50個、少なくとも100個の異なる抗原ペプチドなどの、少なくとも2つの異なる抗原ペプチドがステップii)で用意される請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つの抗原ペプチドが少なくとも2つの異なる検出可能な標識によって表され、前記ロード済み検出分子の前記1つ又は複数の抗原ペプチド応答性T細胞への結合が、前記ロード済み検出分子を通して抗原応答性T細胞に結合された前記少なくとも2つの異なる検出可能な標識の存在を検出することによって検出される請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも2つの異なる検出可能な標識が、蛍光マーカー、放射性同位体、磁気マーカー及び金属標識からなる群より選択される請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも2つの異なる検出可能な標識が蛍光マーカーである請求項9又は10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも2つの異なる検出可能な標識が金属標識である請求項9又は10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも1つの検出可能な標識が、
i.5’第1のプライマー領域(フォワード)、3’第2のプライマー領域(リバース)及び前記5’第1のプライマー領域と前記3’第2のプライマー領域との間のバーコード領域、並びに
ii.ランダムヌクレオチド塩基からなるユニークな分子識別子(UMI)領域を含む核酸標識であり、
前記バーコード領域が、前記検出分子の識別タグとして機能するユニークなバーコードであり、前記UMI領域が、前記5’第1のプライマー領域と前記3’第2のプライマー領域との間に存在する、
請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
少なくとも1つのペプチドフリーMHCクラスI分子及び核酸標識を含むロード可能な検出分子であって、それぞれ、少なくとも2つの異なる検出可能な標識であって、そのうちの少なくとも1つが、前記核酸標識である、検出可能な標識によって表され、
前記ペプチドフリーMHCクラスI分子が、ジスルフィド架橋によって連結されたアルファ-1ドメイン及びアルファ-2ドメインを含む重鎖を含み、前記重鎖が、
(a)配列番号2~13のいずれか、又は
(b)(a)の配列と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列を含み、
変異体システイン残基が前記アルファ-1ドメインに配置され、かつ変異体システイン残基がアルファ-2ドメインに配置されるロード可能な検出分子。
【請求項15】
前記変異体システイン残基が前記アルファ-1ドメインにおいてアミノ酸残基84又は85に配置され、かつ前記変異体システイン残基がアルファ-2ドメインにおいてアミノ酸残基139に配置される請求項14に記載のロード可能な検出分子。
【請求項16】
前記核酸標識が請求項13に画定されている通りである請求項14又は15に記載のロード可能な検出分子。
【請求項17】
前記ロード可能な検出分子が、ストレプトアビジンと各ペプチドフリーMHCクラスI分子上のビオチン標識との間の非共有相互作用を介してストレプトアビジンに結合した4つのペプチドフリーMHCクラスI分子を含む前述の請求項14~16のいずれか一項に記載のロード可能な検出分子。
【請求項18】
試料中の1つ又は複数の抗原ペプチド応答性T細胞を検出するための組成物であって、
(a)請求項14~17のいずれか一項に記載の少なくとも2つのロード可能な検出分子、又は
(b)各ロード可能な検出分子が異なる検出可能な標識を含み、それぞれが少なくとも1つのペプチドフリーMHCクラスI分子及び少なくとも1つの検出可能な標識を含む少なくとも3つのロード可能な検出分子
を含み、
前記ペプチドフリーMHCクラスI分子が、ジスルフィド架橋によって連結されたアルファ-1ドメイン及びアルファ-2ドメインを含む重鎖を含み、前記重鎖が、
(a)配列番号2~13のいずれか、又は
(b)(a)の配列と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列を含み、
変異体システイン残基が前記アルファ-1ドメインに配置され、かつ変異体システイン残基がアルファ-2ドメインに配置される組成物。
【請求項19】
前記変異体システイン残基が前記アルファ-1ドメインにおいてアミノ酸残基84又は85に配置され、かつ前記変異体システイン残基がアルファ-2ドメインにおいてアミノ酸残基139に配置される請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
試料中の1つ又は複数の抗原ペプチド応答性T細胞を検出するための、請求項14~17のいずれか一項に記載のロード可能な検出分子又は請求項18に記載の組成物の使用。
【請求項21】
試料中の1つ又は複数の抗原ペプチド応答性T細胞を検出するためのキットであって、
i.請求項14~17のいずれか一項に記載のロード可能な検出分子又は請求項18に記載の組成物、
ii.少なくとも1つの抗原ペプチド、及び
iii.任意選択で、使用説明書
を含むキット。
【請求項22】
T細胞受容体(TCR)又は抗原ペプチド応答性T細胞と抗原ペプチドのライブラリーの間の相互作用を決定するための方法であって、以下のステップ:
i.請求項14~17のいずれか一項に記載のロード可能な検出分子を用意すること、
ii.抗原ペプチドのライブラリーを用意すること、
iii.前記ロード可能な検出分子を前記抗原ペプチドのライブラリーと接触させて、ペプチド-MHC(pMHC)クラスI分子を含むロード済み検出分子のライブラリーを形成すること、
iv.前記T細胞受容体(TCR)又は抗原ペプチド応答性T細胞を前記ロード済み検出分子のライブラリーと接触させること、及び
v.前記T細胞受容体(TCR)又は抗原ペプチド応答性T細胞と前記ロード済み検出分子のライブラリーの結合を検出すること
を含む方法。
【請求項23】
T細胞受容体(TCR)又は抗原ペプチド応答性T細胞と抗原ペプチドのライブラリーの間の相互作用を決定するための請求項14~17のいずれか一項に記載のロード可能な検出分子の使用。