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特開2024-125429PIK3CA関連過成長症候群(PROS CLOVaS症候群)の処置に使用するためのBYL719(アルペリシブ)
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  • 特開-PIK3CA関連過成長症候群(PROS  CLOVaS症候群)の処置に使用するためのBYL719(アルペリシブ) 図1A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125429
(43)【公開日】2024-09-18
(54)【発明の名称】PIK3CA関連過成長症候群(PROS CLOVaS症候群)の処置に使用するためのBYL719(アルペリシブ)
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4439 20060101AFI20240910BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240910BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20240910BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240910BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
A61K31/4439
A61P43/00 105
A61P9/00
A61P17/00
A61P19/08
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024107982
(22)【出願日】2024-07-04
(62)【分割の表示】P 2022012963の分割
【原出願日】2017-02-17
(31)【優先権主張番号】16305193.1
(32)【優先日】2016-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(71)【出願人】
【識別番号】595040744
【氏名又は名称】サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シャンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
(71)【出願人】
【識別番号】520053762
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・パリ・シテ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS CITE
(71)【出願人】
【識別番号】591140123
【氏名又は名称】アシスタンス ピュブリク-オピトー ドゥ パリ
【氏名又は名称原語表記】ASSISTANCE PUBLIQUE - HOPITAUX DE PARIS
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】カノー,ギヨーム
(57)【要約】      (修正有)
【課題】PIK3CA関連過成長症候群(PROS)、例えば、先天的脂肪腫性過成長-血管奇形-表皮母斑-脊椎/骨格奇形(CLOVES)の処置のための方法を提供する。
【解決手段】PROSの処置を必要とする対象においてPROSを処置する方法であって、この対象に治療上有効量のBYL719を投与する工程を含む、方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PIK3CA関連過成長症候群(PROS)の処置を必要とする対象においてPROSを処置する方法であって、この対象に治療上有効量のBYL719を投与する工程を含む、
方法。
【請求項2】
PROS障害が、先天的脂肪腫性過成長-血管奇形-表皮母斑-脊椎/骨格奇形及び/又は脊椎側湾症(CLOVES)症候群である、請求項1記載の処置方法。
【請求項3】
PROS障害が、クリッペル-トレノニー症候群である、請求項1記載の処置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、PIK3CA関連過成長症候群(PROS)、例えば、先天的脂肪腫性過成長-血管奇形-表皮母斑-脊椎/骨格奇形(CLOVES)の処置のための方法に関する。
【0002】
発明の背景
PIK3CA関連過成長症候群についての「PROS」という用語は、巨指症、FAO、HHML、CLOVES及び関連する巨脳症を含めた体性PIK3CA変異に関連する公知及び新しい臨床実体の両方を包含すると定められている(Keppler-Noreuil et al 2014)。PIK3CA関連体性過成長障害を有する患者の診断及び処置に関する合意文書を議論し、発展させるためのワークショップが国立衛生研究所(NIH)において召集された。
【0003】
CLOVESは、先天的脂肪腫性過成長-血管奇形-表皮母斑-脊椎/骨格奇形及び/又は脊椎側湾症を表わす。この症候群は、稀な障害と考えられ、進行性の複雑で混合性の体幹血管奇形、調節不全の脂肪組織、種々の度合いの脊椎側湾症及び進行性の骨格過成長を伴わない骨格構造肥大により特徴付けられる(Sapp et al 2007;Alomari et al 2009)。この症候群は、ガンとは異なる。実際に、CLOVES症候群では、腫瘍は良性であり、組織は単に過成長なだけであり、対象が変形する。CLOVES症候群は稀であり、出生時に明らかである。CLOVES症候群は、人種又は民族に関わらず、男性及び女性に等しく影響を及ぼす。この症候群を有する患者の多くは誤診されてしまう。
【0004】
CLOVES症候群は、PIK3CA遺伝子における体性モザイク変異により生じる。PIK3CAは、PI3Kの110-kD触媒性アルファサブユニットをコードし、PI3Kは、チロシンキナーゼレセプターリガンド結合に応じて活性化され、ホスファチジルイノシトール(3,4)-ビスホスファート(PIP2)をホスファチジルイノシトール(3,4,5)-トリホスファート(PIP3)に変換する。PIK3CAにおける活性化変異により、幾つかの種類のガンが説明されているが、CLOVES症候群は説明されていない。2012年に、Kurek et alによって、DNA又はRNAを配列決定することによりPIK3CAにおける活性化変異が特定された。しかしながら、今日において、CLOVES症候群のための治癒は存在しない。
【0005】
Limaye et al 2015には、PIK3CAにおける体性変異は、ガン、過成長症候群及びリンパ奇形(LM)に関与することが開示されている。とりわけ、著者らにより、健康なドナー(PROSを患っていない)から得られ、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)と呼ばれ、変異PIK3CAによりレトロウイルストランスフェクションされた培養細胞系統が、AKT/mTORC経路の活性化を有することが示された。薬剤BYL719は、予測されたとおり、この人工的なモデルにおいて、PIK3CA変異体誘引AKTリン酸化を無効にした。このことから、これらのタンパク質が同じシグナル伝達経路に関与していることが示される。ただし、このin vitroモデルは、PROS患者に関連する任意の症候又は疾患の表現型を再現しておらず、とりわけ、この薬剤がPROSを患う患者を処置するのに使用することができるという、証拠を何ら示していない。このため、PROS、とりわけ、CLOVES症候群又はクリッペル-トレノニー症候群を有する患者におけるBYL719の使用を理解する必要性が存在する。
【0006】
発明の概要
本発明は、PROSの処置を必要とする対象においてPROSを処置する方法であって、この対象に治療上有効量のBYL719を投与する工程を含む、方法に関する。特に、本発明は、特許請求の範囲により定義される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1A】PROSのマウスモデルの特徴決定及びBYL719の有効性。
図1B】PROSのマウスモデルの特徴決定及びBYL719の有効性。
図1C】PROSのマウスモデルの特徴決定及びBYL719の有効性。
図2A】重篤なCLOVES症候群を有する成人患者におけるBYL719の有効性。
図2B】重篤なCLOVES症候群を有する成人患者におけるBYL719の有効性。
図3】重篤なCLOVES症候群を有する小児患者におけるBYL719の有効性。
【0008】
発明の詳細な説明
Novartisにより合成されたBYL719は、進行した固体腫瘍についての第II/III相臨床試験中である。本発明者らは、ヒトの疾患を再現するPROSの初めての遺伝マウスモデルを開発し、このPROSマウスにおいて、全ての臓器機能不全を予防し、改善するのにおける、PIK3CAの薬理学的阻害剤であるBYL719の有効性を証明した。これらの結果に基づいて、本発明者らは、BYL719を使用して、重篤なCLOVES症候群を有する2名の患者(1名は成人、1名は小児)を処置した。この薬剤は、全ての冒された臓器の急速な回復を誘引して、2名の患者における疾患に堅牢な有効性を有した。以前に、難治性の血管腫瘍収縮、うっ血性心不全が完全に回復し、片側肥大が減少し、脊椎側湾症弱まった。この薬剤は、著しい副作用に何ら関連しなかった。まとめると、本研究は、PROS患者における有望な治療剤としてのPIK3CA阻害を支持する初めての直接的な証拠を提供する。
【0009】
したがって、本発明は、PROSの処置を必要とする対象においてPROSを処置する方法であって、この対象に治療上有効量のBYL719を投与する工程を含む、方法に関する。とりわけ、本発明は、CLOVES症候群の処置を必要とする対象においてCLOVES症候群を処置する方法であって、この対象に治療上有効量のBYL719を投与する工程を含む、方法に関する。
【0010】
本明細書で使用する場合、「処置すること」又は「処置」という用語は、予防的又は防止的処置及び治癒的又は疾患改変処置の両方を指し、疾患にかかるリスクにある対象又は疾患にかかっている疑いがある対象及び病気であるか、もしくは、疾患もしくは健康状態を患っていると診断された対象の処置を含み、臨床的逆行の抑制を含む。処置は、医療的障害を有する対象又は最終的に障害を取得してしまうおそれがある対象に、障害を予防し、治癒し、同障害の1つ以上の症候の開始を遅延させ、同症候の重症度を低下させ、もしくは、同症候を軽減し又は障害を回復させるために、又は、このような処置の不存在において予測されるのを超えて対象の生存を伸ばすために、適用することができる。「治療計画」は、疾患の処置パターン、例えば、治療中に使用される投与パターンを意味する。治療計画は、誘引計画及び維持計画を含むことができる。「誘引計画」又は「誘引期間」という表現は、疾患の初期処置に使用される治療計画(又は治療計画の一部)を指す。誘引計画の一般的な目的は、処置計画の初期の間に、高レベルの薬剤を対象に提供することである。誘引計画は、「負荷計画」を(部分的又は全体的に)利用することができ、同負荷計画は、臨床医が維持計画中に利用するであろうより多くの用量の薬剤を投与すること、臨床医が維持計画中に薬剤を投与するであろうより高頻度に薬剤を投与すること、又は両方を含むことができる。「維持計画」又は「維持期間」という表現は、疾患の処置中に対象を維持するのに、例えば、長期間(数ヶ月又は数年)対象を軽減に維持するのに使用される治療計画(又は治療計画の一部)を指す。維持計画は、連続的な治療(例えば、薬剤を規則的な間隔、例えば、毎週1回、毎月1回、1年に1回等で投与すること)又は断続的な治療(例えば、中断された処置、断続的な処置、逆行時の処置又は特定の所定の評価基準[例えば、疼痛、疾患症候等]の達成による処置)を利用することができる。
【0011】
本明細書で使用する場合、「PROS」という用語は、PIK3CA関連過成長症候群を指す。PROSは、線維脂肪過成長(FAO)、巨頭症-毛細血管奇形(MCAP)症候群、胴体、リンパ、毛細血管、静脈の先天的脂肪腫性非対称過成長及び混合型血管奇形-表皮母斑-骨格及び脊椎奇形(CLOVES)症候群並びに半身過形成多発性脂肪性腫瘍(HHML)及びクリッペル-トレノニー症候群等の一群の障害である。
【0012】
本明細書で使用する場合、「線維脂肪過成長(FAO)」という用語は、骨格過成長を伴う、皮下、筋肉及び内蔵の線維脂肪組織の体節進行性過成長の主要所見により特徴付けられる症候群を指す(Lindhurst et al 2012)。
【0013】
本明細書で使用する場合、「巨頭症-毛細血管奇形(MCAP)症候群」という用語は、(1)低血圧、脳卒中及び中程度~重篤な知的障害の神経学的所見に関連する巨頭症(MEG)又は半巨頭症(HMEG)並びに(2)在局型又は全身型体性過成長を伴う皮膚毛細血管奇形の主要所見により特徴付けられる症候群を指す(Mirzaa et al 2013)。
【0014】
特定の実施態様では、PROS障害は、CLOVESである。本明細書で使用する場合、「CLOVES」という用語は、先天的脂肪腫性過成長-血管奇形-表皮母斑-脊椎/骨格奇形及び/又は脊椎側湾症を指す。この症候群は、複雑な先天性過成長(典型的には、体幹脂肪腫性塊として現れる)を示す脂肪腫性組織及び血管とリンパ奇形との組み合わせにより特徴付けられる。
【0015】
本明細書で使用する場合、「半身過形成多発性脂肪性腫瘍(HHML)」という用語は、非対称な非進行性過成長、多発性脂肪腫瘍及び表面血管奇形により特徴付けられる症状を指す(BG et al 2013)。
【0016】
特定の実施態様では、PROS障害は、クリッペル-トレノニー症候群である。本明細書で使用する場合、「クリッペル-トレノニー症候群」という用語は、血管及び/又はリンパ管が適切に形成されていない、稀な先天性の医療症状を指す。
【0017】
このため、本発明の方法を、PROSにおける障害のうちの1つを表わすと診断された対象に提供することができる。
【0018】
本明細書で使用する場合、「対象」という用語は、任意のほ乳類、例えば、げっ歯類、ネコ、イヌ及び霊長類を指す。特に、本発明では、対象は、PROS障害を患っているヒト又はPROS障害を患っていると疑われるヒトである。特定の実施態様では、対象は、CLOVES症候群を患っているヒト又はCLOVES症候群を患っていると疑われるヒトである。特定の実施態様では、対象は、クリッペル-トレノニー症候群を患っているヒト又はクリッペル-トレノニー症候群を患っていると疑われるヒトである。
【0019】
本明細書で使用する場合、「BYL719」という用語は、変異PIK3CA遺伝子により活性化されるp110αアイソフォームに選択的なATP競合的経口PI3K阻害剤である(Furet P., et al. 2013;Fritsch C., et al 2014)。この分子は、アルペリシブとも呼ばれ、当技術分野において、下記式:
【化1】

を有する。
【0020】
「治療上有効量」は、対象に治療的利益を付与するのに必要な、最少量の活性剤を意図する。例えば、対象に対する「治療上有効量」は、障害に関連する病的な症候、疾患の進行または生理学的症状における改善又は障害で死ぬのに対する抵抗を誘引し、緩和し、又は何らかの方法で生じさせるような量である。本発明の化合物の総日量は、主治医により適切な医療的判断の範囲内で決定されるであろうことが、理解されるであろう。任意の特定の対象についての具体的な治療上有効な用量レベルは、各種の要因により決まるであろう。同要因は、処置される障害及び障害の重篤性;利用される具体的な化合物の活性;利用される具体的な組成物;対象の年齢、体重、健康全般、性別及び食事;利用される具体的な化合物の投与期間、投与経路及び排出速度;処置期間;利用される具体的な化合物と組み合わせて又は同時に使用される薬剤;並びに医療分野において同様の周知の要因を含む。例えば、所望の治療効果を達成するのに必要な用量より少ないレベルで、化合物の用量を開始し、所望の効果が達成されるまで徐々に用量を多くすることは、当業者の十分な範囲内である。ただし、製品の日量は、成人1人当たり1日当たりに0.01~1,000mgの広い範囲で変化させることができる。典型的には、組成物は、処置される対象に対する用量の症候的調節のために、0.01、0.05、0.1、0.5、1.0、2.5、5.0、10.0、15.0、25.0、50.0、100、250及び500mg 有効成分を含有する。医薬は、典型的には、約0.01mg~約500mg 有効成分、好ましくは、1mg~約100mg 有効成分を含有する。有効量の薬剤は、通常、1日当たりに0.0002mg/kg~約20mg/kg 体重、特に、1日当たりに約0.001mg/kg~7mg/kg 体重の用量レベルで提供される。
【0021】
上記されたPIK3CA阻害剤は、医薬組成物を形成するために、薬学的に許容し得る賦形剤及び場合により持続放出マトリックス、例えば、生分解性ポリマーと組み合わせることができる。「薬学的に」又は「薬学的に許容し得る」は、哺乳類、特にヒトに適切に投与された場合、有害、アレルギー又は他の望ましくない反応を生じない分子実体及び組成物を指す。薬学的に許容し得る担体又は賦形剤は、任意の種類の非毒性の固体、半固体又は液体の充填材、希釈剤、封入材料又は配合助剤を指す。経口、舌下、皮下、筋肉内、静脈内、経皮、局所又は直腸投与用の本発明の医薬組成物について、活性原理を、単独又は別の活性原理との組み合わせにおいて、単位投与形態において、従来の薬学的支持体との混合物として、動物及びヒトに投与することができる。適切な単位投与形態は、経口経路形態、例えば、錠剤、ゲルカプセル剤、散剤、顆粒剤及び経口懸濁剤又は液剤、舌下及び頬側投与形態、エアロゾル剤、インプラント、皮下、経皮、局所、腹腔内、筋肉内、静脈内、真皮下、経皮、くも膜下及び鼻内投与形態並びに直腸投与形態を含む。典型的には、医薬組成物は、注入可能な製剤について薬学的に許容し得る媒体を含有する。これらは、特定の等張性で無菌の生理食塩水(リン酸一ナトリウムもしくはリン酸二ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウムもしくは塩化マグネシウム等又はこのような塩の混合物)、又は、ケースバイケースで滅菌水もしくは生理食塩水の添加により、注射液の構成が可能な乾燥、特に、凍結乾燥組成物であることができる。注入用途に適した医薬形態は、無菌の水溶性液剤又は懸濁剤;ゴマ油、ピーナッツ油又は水性プロピレングリコールを含む製剤;及び無菌注射液又は懸濁剤の即席調製用の無菌散剤を含む。全ての場合において、形態は無菌である必要があり、容易な注入性が存在する程度に流動性である必要がある。医薬形態は、製造及び保管の条件下で安定である必要があり、微生物、例えば、細菌及び真菌の汚染作用に対して保持される必要がある。遊離塩基又は薬理学的に許容し得る塩として本発明の化合物を含む液剤は、界面活性剤、例えば、ヒドロキシプロピルセルロースを適切に混合した水において調製することができる。分散剤も、グリセロール、液状ポリエチレングルコール及びそれらの混合物並びに油において調製することができる。保存及び使用の通常の条件下では、これらの調製物は、微生物の増殖を防止するための保存剤を含有する。ポリペプチド(又はそれをコードする核酸)は、中性又は塩の形態で組成物に配合することができる。薬学的に許容し得る塩は、(タンパク質の遊離アミノ基と形成された)酸付加塩を含む。同酸付加塩は、無機酸、例えば、塩酸もしくはリン酸又は有機酸、例えば、酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸等により形成される。また、遊離カルボキシル基と形成される塩は、無機塩基、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム又は水酸化鉄等及び有機塩基、例えば、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカイン等から得ることができる。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、ポリエチレングリコール及び液状ポリエチレングルコール等)、それらの適切な混合物及び植物油を含有する溶媒又は分散媒体であることもできる。適切な流動性を、例えば、コーティング、例えば、レシチンの使用により、分散剤の場合に必要とされる粒子サイズの維持により及び界面活性剤の使用により維持することができる。微生物作用の防止は、種々の抗菌剤及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサール等によりもたらすことができる。多くの場合には、等張化剤、例えば、糖類又は塩化ナトリウムを含むのが好ましいであろう。注射組成物の延長した吸収は、吸収を遅延させる作用剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンの組成物への使用によりもたらすことができる。無菌注射液は、活性なポリペプチドを上記想定された幾つかの他の成分をと共に、適切な溶媒に必要量で包含させ、必要に応じて続けて、滅菌ろ過することにより調製される。一般的には、分散剤は、種々の無菌有効成分を基礎的な分散媒体を含有する無菌媒体及び上記想定されたものから必要とされる他の成分に包含させることにより調製される。無菌注射液の調製用の無菌散剤の場合には、好ましい調製法は、有効成分と任意の更なる所望の成分の散剤を予め滅菌ろ過したその溶液から生成する、真空乾燥及び凍結乾燥技術である。配合後に、液剤は、製剤に適合可能な様式及び治療上有効な量で投与されるであろう。製剤は、各種の投与形態、例えば、上記されたある種の注射液で容易に投与される。ただし、薬剤放出カプセル剤等も利用することができる。水性液剤における非経口投与について、例えば、液剤は、必要に応じて適切に緩衝化される必要があり、液体の希釈剤をまず十分な生理食塩水又はグルコースにより等張性にする。これらの特定の水性液剤は、静脈内、筋肉内、皮下及び腹腔内投与に特に適している。この点について、利用することができる無菌水性媒体は、本開示を考慮すれば、当業者に公知であろう。例えば、ある用量を、等張性のNaCl溶液 1mLに溶解させることができ、皮下点滴流体 1000mlに加えるか又は注入の目的部位に注射されるかのいずれかをすることができる。用量の一部の変形例が、処置される対象の症状に応じて必然的に生じるであろう。いずれにして、投与を担う人物は、個々の対象に適した用量を決定するであろう。
【0022】
本発明は、下記図面及び実施例により更に例証されるであろう。ただし、これらの実施例及び図面は、本発明の範囲を限定するとは全く解釈されるべきではない。
【0023】
図面
図1:PROSのマウスモデルの特徴決定及びBYL719の有効性。A)タモキシフェン投与後のPIK3CAWT及びPIK3CACAGG-CreERマウスのカプラン-マイヤー生存曲線。B)タモキシフェン投与後にBYL719で処置した又は処置しなかった、PIK3CACAGG-CreERマウスのカプラン-マイヤー生存曲線。処置の40日後に、BYL719を休薬する。C)タモキシフェン投与の10日後にBYL719で処置した又は処置しなかった、PIK3CACAGG-CreERマウスのカプラン-マイヤー生存曲線。スケールバー10μm。
【0024】
図2:重篤なCLOVES症候群を有する成人患者におけるBYL719の有効性。A)BYL719開始前後での患者1の臨床パラメータ(体重、胸囲及び腹囲)。B)BYL719開始前後での脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)及び血清クレアチニンレベル。
【0025】
図3:重篤なCLOVES症候群を有する小児患者におけるBYL719の有効性。BYL719開始前後での患者2の臨床パラメータ(大腿中央囲及び腹囲)。
【0026】
実施例
材料及び方法 動物
この研究のために、Jackson Laboratoriesから取得したC57BL/6バックグラウンドに、ホモ接合性R26StopFLP110(Stock# 012343)及びヘテロ接合性CAGGCre-ERTM(Stock# 004682)を挿入した。R26StopFLP110*+/-×CAGGCre-ERTM+(ここでは、PIK3CACAGG-CreERと呼ばれる)及びR26StopFLP110*+/+×CAGGCre-ERTM-(ここでは、PIK3CAWTと呼ばれる)を得た。動物に自由に食餌を与え、一定の周囲温度で12時間の光サイクルで収容した。動物の取扱いは、the Departmental Director of 「Services Veterinaires de la Prefecture de Police de Paris」及びParis Descartes Universityの倫理委員会の承認を得た。タモキシフェンの単回用量(40mg×kg-1)を21日齢において経口強制栄養により投与した。生存研究のために、マウスを、タモキシフェン強制栄養後に毎日フォローした(PIK3CAWT n=16及びPIK3CACAGG-CreER n=16)。治療研究のために、マウスをPI3KCA阻害剤BYL719(Chem Express;0.5% カルボキシメチルセルロース(Sigma)中の50mg×kg-1、毎日p.o.)又は媒体(0.5% カルボキシメチルセルロース(Sigma)、毎日p.o.)により処置した。処置を予防研究(PIK3CACAGG-CreER n=18)についてのタモキシフェン強制栄養の合間又は治療研究(PIK3CACAGG-CreER n=6)についての10日後に開始した。PIK3CACAGG-CreERの媒体群において、合計6匹のマウスをタモキシフェン強制栄養後51日目に殺処分し、予防的BYL719群において、6匹のマウスをタモキシフェン強制栄養後51日目に殺処分し、組織検査のためのPIK3CACAGG-CreERの治療研究において、6匹のマウスをタモキシフェン強制栄養後70日目に殺処分した。
【0027】
細胞培養
乳癌細胞系統T-47DをSigma Aldrichから取得した。細胞を、DMEM+2mM グルタミン+10% 牛胎児血清(FBS)を含む媒体において培養した。BYL719実験(Chem Express)のために、細胞を、上昇する濃度のBYL719(0、0.5、1及び5μmol/L)で、ウェスタンブロットを行う前の2、4及び6時間処理した。各実験をダプリケートで行い、少なくとも3回繰り返した。
【0028】
形態分析
マウス組織を4% パラホルムアルデヒドにおいて固定し、パラフィンに包埋した。肝臓の4μm切片を過ヨウ素酸シッフ反応(PAS)により染色した。脾臓又は肝臓の4μm切片をヘマトキシリン及びエオシン(H&E)により染色し、腎臓の4μm切片をマッソントリクロームにより染色した。
【0029】
免疫組織化学及び免疫蛍光
パラフィン包埋腎臓の4μm切片を抗P-AKT(Ser473)抗体(Cell Signaling Technology, ref# 4060)、抗P-S6RP抗体(Cell Signaling Technology, ref# 5364)及び抗CD34抗体(eBioscience, ref# 14-0341)と共にインキュベーションした。免疫蛍光研究を、共焦点顕微鏡Zeiss LSM 700を使用して分析した。
【0030】
ウェスタンブロット
ウェスタンブロットを以前に記載21されたように行った。簡潔に、肝臓、筋肉、心臓、腎臓及びT-47D細胞からのタンパク質抽出物をSDS-PAGEにより分離し、その後に、適切なメンブラン上にトランスファーし、抗P-AKT(Ser473)抗体(Cell Signaling Technology, ref# 4060)抗P-AKT(Thr308)抗体(Cell Signaling Technology, ref# 13038)、抗P-S6RP抗体(Cell Signaling Technology, ref# 5364)、抗GAPDH(Merck Millipore, ref#374)及び抗β-アクチン抗体(Sigma-Aldrich, ref#A2228)と共に、続けて、適切なペルオキシダーゼコンジュゲート二次抗体と共にインキュベーションした。化学発光を、Fusion FX7カメラ(Vilbert Lourmat)を使用して取得し、密度測定を、Bio1Dソフトウェア(Certain Tech)を使用して行った。
【0031】
患者
この研究を、the Renal Division of Necker Hospitalにおいて、2015年9月から開始して行った。CLOVES症候群を有する患者は、処置開始前に臨床検査、腫瘍測定、母斑測定を有した。BYL719処置を1日当たりに経口用量250mgで開始した。本研究を2名の患者(1名の成人及び1名の小児)について行い、Necker Hospitalにおいてフォローした。このプロトコールは、ANSMにより承認され(許可No553984-986及びNo584018)、書面によるインフォームドコンセントを各患者又はその法定代理人から取得した。BYL719は、Novartisにより特例で提供された。第1の患者に250mg/日で受けさせ、第2の患者に50mg/日で受けさせた。BYL719を毎朝朝食前に経口送達した。糖血症を2ヶ月の間は任意の食後にモニタリングし、その後、次第に間隔をあけた。
【0032】
データ解析及び統計学
データを平均±SEMとして表現した。生存曲線をマンテル-コックス(ロングランク)検定により解析した。実験群間の差異を、ANOVAを使用し、続けて、テューキー-クレーマー検定により有意(P<0.05)であるかどうかを評価した。2つの群のみを比較した場合、マン-ホイットニー検定を使用した。統計学的解析を、Graph Prismソフトウェアを使用して行った。
【0033】
腎機能
血清クレアチニンレベルを1年目の間は毎週及びその後は3ヶ月毎にSynchron Cx4 autoanalyzer(Beckman Coulter, Villepinte, France)を使用して測定した。糸球体ろ過速度を、MDRD式(eGFR)を使用して見積もった。
【0034】
生検サンプル及び形態分析
腎生検標本をアルコール-ホルマリン-酢酸溶液において固定し、パラフィンに包埋した。4マイクロメートル切片を過ヨウ素酸シッフ反応(PAS)染料、マッソントリクローム並びにヘマトキシリン及びエオシン(H&E)により染色した。電子顕微鏡分析を行った。
免疫組織化学及び免疫蛍光
パラフィン包埋腎臓の4つの切片を抗ネフリン抗体(Progen)、抗WT1抗体(Dako)、抗ポドシン抗体(Sigma)及び抗シナプトポジン抗体(Novus Biologicals)と共にインキュベーションした。総糸球体面積に応じて、各生検について、全ての糸球体切片を定量した。一次抗体を適切なAlexa 488又は555コンジュゲート二次抗体(Molecular Probes)により明らかにした。免疫蛍光染色を、Zeiss LSM 700共焦点顕微鏡を使用して可視化した。ポドサイト染色面積を、NikonデジタルカメラDx/m/1200及びImage Jソフトウェアを使用して自動的に定量し、% ポドサイト染色面積として表現した。
【0035】
in situハイブリダイゼーション
アルコール-ホルマリン-酢酸溶液固定、パラフィン包埋組織をPI3KCα RNA発現について、先に記載されたジゴキシゲニン抗ジゴキシゲニン技術を使用してアッセイした。ニトロブルー テトラゾリウム-5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルホスファートトルジニウム(NBT-BCIP)を使用して、組織における冒された細胞を可視化した。ハイブリダイゼーションシグナルの特異性を、センスプローブを平行切片とハイブリダイゼーションさせ、アンチセンスプローブを冒されていない腎臓組織とハイブリダイゼーションさせることにより体系的に確認した。ISH染色組織を可視化し、Olympus Proxis顕微鏡及びZeiss Axio Cam ICc1により撮影した。
【0036】
細胞培養
ヒト繊維芽細胞を、15% FBS、ペニシリン(50IU/ml)/ストレプトマイシン(50μg/ml)及び非必須アミノ酸(Invitrogen)を加えたDMEMにおいて増殖させた。
【0037】
ウェスタンブロット
ウェスタンブロットを先に記載されたように、ヒトホスホ-p70 S6キナーゼ(Thr389)に対するウサギ抗体(Cell Signaling Technologies)を1:1000で、続けて、西洋ワサビペルオキシダーゼコンジュゲート抗ウサギ二次抗体(Dako)を1:10,000で使用して行った。p70 S6キナーゼのThr389におけるリン酸化状態は、mTORリン酸化に特異的である。マウスモノクローナル抗b-アクチン抗体(Sigma-Aldrich, Lyon, France)を対照として使用した。タンパク質のリン酸化レベルをb-アクチンの一致した密度測定値に対して正規化した。
【0038】
DNA配列決定
DNAを、標準的な技術を使用して患者から採取した末梢血単核球(PBMC)及び腫瘍領域における皮膚生検から抽出した。変異スクリーニングを全てのPI3KCαエキソン及び隣接するイントロン領域の直接シーケンシングにより行った。
【0039】
体積測定
核磁気共鳴画像法(MRI)を使用して、各腫瘍の体積を測定した。MRIをBYL719開始の0日目及びその後は毎月行った。簡潔に、体積を、面積測定値とスライス厚との積を合計することにより算出した。
【0040】
データ解析及び統計学
データを平均±SDとして表現した。実験群間の差異を、ANOVAを使用し、続けて、テューキー-クレーマー検定により有意であったかどうかを評価した。2つの群のみを比較した場合、マン-ホイットニー検定を使用した。確率値<0.05を統計学的に有意であると考えた。解析を、GraphPad Prism 5(GraphPad software, La Jolla, CA)により行った。
【0041】
結果
BYL719を投与された対象における過成長組織のサイズの有意な低下が観察された。1ヶ月の処置後、患者の体重は、83.5kgから73.5kgに減少した。この体重減少は、浮腫の劇的な減少及び全心機能速度の改善(処置前の2015年12月に心拍出量が22l/分であったのが、2月8日には8l/分と測定された)に関連した。血漿中の脳性ナトリウム利尿ペプチドレベルは、30日目に2500pg/分から240pg/分に低下した。このことから、心不全の改善が確認される。皮下腫瘍サイズは、CTスキャン及び核磁気共鳴画像法(MRI)により評価した場合、処置後30日で10%の全体的な減少を示した。患者のカルノフスキー・パフォーマンスステータススケールは、30日目において、40から60%に改善した。ヘモグロビンレベルは、8g/dlから11.8g/dlに上昇した。
【0042】
処置前に加速された加齢の表現型を示した一部の皮膚領域(左耳)は、1ヶ月のBYL719投与後に改善された。更に、幾つかの大きな母斑は、処置の開始後に脱色を示した。
【0043】
PROSのマウスモデル
この研究をPROSのマウスモデルを開発することにより開始した。この目的を達成するために、トランスジェニックマウス系統R26StopFLP110を利用した。これらのマウスでは、組織特異的な様式で、活性化PI3KCAヘテロ二量体の誘引性発現が可能である。R26StopFLP110マウスをCAGG-CreERマウスと交配させて、タモキシフェン投与によりPIK3CAを遍在性に過剰発現するPIK3CACAGG-CreER動物を発生させた。3週齢のマウスを40mg.kg-1 タモキシフェンの単回投与により処置して、Cre組換えを誘引した16。対照PIK3CAWTマウスと比較して、PIK3CACAGG-CreERマウスがCre誘引後3日目(Cre組換え後平均6日)に死に始めたのが観察された(図1A)。突然生じた死亡の大部分は、検死により、腹膜内及び肝臓の出血によると明らかになった(データを示さず)。肥大性腰筋により歩行困難を表わした一部のマウスを核磁気共鳴画像法(MEI)により評価した(データを示さず)。加えて、全身のMRIから、脊椎側湾症、血管異常、腎嚢胞及び筋肥大の急速な発生が示された(図1C)。組織学的検査から、血管破壊を伴う重篤な脂肪肝(データを示さず)、脾臓の微小構造の完全性の喪失(データを示さず)、特発性出血、迷入血管を含む腎臓の線維症を含む、複数の臓器異常が明らかとなった。血管異常を更に特徴付けるために、CD34免疫染色を行って、重篤な血管拡張の存在が確認された。予測されたとおり、ウェスタンブロット及び免疫蛍光研究から、全ての検査した臓器においてAKT/mTORC経路活性化が示された。したがって、PIK3CACAGG-CreERマウスは、ヒトPROS表現型を再現すると結論付けられた。
【0044】
BYL719はマウスにおけるPROSを予防し、PROSに有効な治療法である
PIK3CACAGG-CreERマウスにおけるBYL719の影響を検査するのを決定した。この目的で、まず、Cre誘引直後に開始してBYL719を経口投与する予防研究を行った(データを示さず)。BYL719の毎日投与により動物の生存が劇的に改善されたのが観察された(図1C)。実際に、プラセボ群における全てのPIK3CACAGG-CreERマウスが21日以内に死んだが、BYL719により処置されたPIK3CACAGG-CreERマウスは、明らかに正常な外観で40日後に生きていた。重要なことには、Cre組換え後40日目での処置中断により、全てのPIK3CACAGG-CreER動物が死んでしまった。BYL719を受けさせた数匹のPIK3CACAGG-CreERマウスをCre誘引後40日目に殺処分した。組織学的検査から、BYL719により処置されたマウスは、保存された組織(データを示さず)及び正常な血管(データを示さず)を有した。ウェスタンブロット及び免疫蛍光から、PI3KCA活性化の阻害おけるBYL719の有効性が確認された(データを示さず)。
【0045】
次に、プラセボ又はBYL719のいずれかをPIK3CACAGG-CreERマウスにCre誘引後10日(マウスが死に始めた時点)で与えることにより、治療研究を行った(図1C)。Cre誘引後10日目に、MRIにより、先に記載された組織異常の存在を確認した(データを示さず)。プラセボ群のマウスは翌日には死んでしまったが、BYL719により、PIK3CACAGG-CreERマウスの生存が劇的に改善された(図1J)。処置開始後12日目(Cre誘引後22日目)に行ったMRIから、脊椎側湾症、筋肥大及び血管異常の非常に急速な改善が証明された(データを示さず)。組織学的分析から、BYL719処置マウスは、組織変化なし又は少しのみの組織変化を表わしたことが証明された(データを示さず)。予防研究におけるのと同様に、ウェスタンブロット及び免疫蛍光から、PIK3CA阻害が確認された(データを示さず)。
【0046】
BYL719によりPROSマウスを劇的に改善することができたことと結論付けられた。これにより、BYL719は現在治療薬が存在しないPROS患者のための有効な治療選択肢となる可能性があることが示唆される。
【0047】
PIK3CA変異を有するヒト細胞におけるBYL719の効果
次に、ヒト細胞においてPIK3CA経路を阻害するのにおけるBYL719の有効性を試験した。この目的で、乳ガンから得られたT-47Dヒト細胞を使用した。これらの細胞は、PIK3CA c.3140A>G(H1047R)のヘテロ接合性変異を有する。この機能変異の取得は、PROS患者において観察される最も高頻度な変異でもある
【0048】
まず、これらの細胞において、残基Thr308及びSer473におけるAKTのリン酸化状態だけでなく、S6RPタンパク質のリン酸化によっても評価した場合の、AKT/mTORC経路の自発的活性化を確認した(データを示さず)。ついで、細胞を上昇する濃度のBYL719に曝した。濃度1μmol/LでのBYL暴露の2時間後に、AKT/mTORC経路が完全に阻害されたことが観察された(データを示さず)。この効果は、細胞をBYL719に4及び6時間曝した場合と同様であった。
これらのデータは、BYL719が、PIK3CA c.3140A>G(H1047R)突然変異とともに、ヒト細胞におけるPIK3CAの活性化を阻害することができることを示している。
【0049】
PROSを有する患者におけるBYL719の劇的な影響
これらの結果に基づいて、CLOVES症候群の極度に重篤な臨床症候を患い、治療の失敗及び生命を脅かす合併症を経験した2名の患者(1名の成人及び1名の小児)のための救済使用として、BYL719を投与することを決定した。患者1は、29歳の男性であり、モザイク現象及び生検から、機能変異PIK3CA c.3140A>G(H1047R)の獲得が証明された。患者1は、左脚の肥大、脊椎側湾症、多発性母斑及び極度に重篤な血管異常により特徴付けられる過成長症候群を有した(データを示さず)。患者1は、腹部及び背中の血管腫瘍を除去するために複数回の侵襲的な減量手術を受け、かつ、腫瘍成長を制限するために塞栓療法による複数回の血管造影検査を受けていた。患者1は、脊髄圧迫により20歳で対まひになり、尿を排出するための膀胱ステント留置が必要となった。患者1は、全ての通常の薬剤に対して抵抗性の、測定心拍出量18l/分及び脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)レベルが常に2500pg/mL超(N<100pg/mL)を伴って、進行的に悪化する重篤な収縮期心不全に進行した。心不全が血管シャントの存在、心筋細胞におけるPIK3CA変異又は両方によるものであったか否かは不明である。5年の間、この患者は、腫瘍成長進行を制限するためにラパマイシンを受けたが、何ら効果はなかった。最後に、この患者は、重篤なタンパク質尿を伴う腎機能障害に進行した。腎生検から、広範な線維症を伴う糸球体病変が明らかとなった。腎臓病変は、心機能障害、ラパマイシンの使用11及び/又は腎臓表皮細胞におけるPIK3CA変異の結果である可能性がある。CTスキャン(データを示さず)及びMRI(データを示さず)から、重篤な血管異常が示されたが、PETスキャンは陰性であった。乏しい予後を有する症例の重大性のために、医師、外科医及びレントゲン技師は、任意の介在的処置を中止し、支持療法及び緩和ケアのみを患者に提供することを決定した。患者の生命予後は、数か月と推定された生存に掛かっていた。
【0050】
検査知見及び倫理的考慮の後に、BYL719をこの患者に提案することを決定した。Novartis及びランス監督当局(Agence nationale de securite du medicament et des produits de sante, ANSM)から、BYL719を救済使用として投与することの許可を得た。ラパマイシンを中断し、1ヶ月後に、BYL719を開始した。この薬剤を毎日経口送達した。開始用量として、臨床試験に使用された最低用量であり、in vitroデータに基づいて、1日当たりに250mgを選択する。最初の数日以内に、患者の全身状態の劇的な改善が観察された。患者は、より良好で、より快適に感じ始めた。腫瘍サイズ、静脈拡張及び皮膚の態様における薬剤の劇的な効果を毎週目的とすることができた(データを示さず)。患者は、浮腫の除去によるだけでなく、全ての血管腫瘍異常のかなりの減少によっても、12ヶ月の間に23kg減量した(データを示さず)。胸囲及び腹囲はそれぞれ、12ヶ月の間にΔ-20%及びΔ-35%劇的に低下した(図2A)。CTスキャン及びMRIから、12ヶ月の間に63%の体積減少を伴う全体的な血管腫瘍の収縮及び皮下浸潤消失が確認された(データを示さず)。心機能における薬剤の効果は顕著であった。4週間の経過において、BNPレベルは完全に修正された(図2B)。心拍出量は、3l/分に低下し、心臓のサイズは、CTスキャンにより測定した場合、25%減少した(データを示さず)。身体表面積に相関する左心室量は、250g/m2から148g/m2に減少した。腎機能も、急速に改善した。推定糸球体濾過速度は、33から52ml/分/1.75m2に上昇した(図3D)。肥大した左脚の体積も減少した(データを示さず)。神経着色の変化及び耳のサイズの減少を伴って、皮膚肥大の劇的な改善が観察された(データを示さず)。最後に、BYL719開始後6ケ月で、患者は、サドル麻酔の改善を伴って膀胱機能を部分的に獲得し始めた。MRIから、脊髄を圧迫していた静脈奇形のサイズが60%減少したことが証明された。12ヶ月後、患者には、高血糖を除いて副作用が無かった。同高血糖は、計画により十分抑制された。患者は、今でもBYL719を受けている。
【0051】
患者2は、この研究の2年前にCLOVES症候群であると診断された9歳の少女であった。生検により、PIK3CA c.3140A>G(H1047R)における機能モザイク変異の獲得が確かめられた。患者は、脊椎側湾症、左脚肥大、血管異常及び背中の筋肥大を有した(データを示さず)。重要なことに、患者2は、左側の腎臓及び消化管に関連する大きな嚢胞性リンパ管腫を有した。PETスキャンから、胸腺、背中の筋肉及び左脚の代謝固定が示された(データを示さず)。腹腔内腫瘍は急速に成長しており、手術又は介在的放射線医学は不可能であると考えられた。倫理的考慮の後に、Novartis及びフランス監督当局(ANSM)から、BYL719を提供する認可を得た。この薬剤は小児に試験されたことがなかったため、最少利用可能用量である50mg/日で開始するのを決定した。患者1と同様に、処置開始後、急速に劇的な臨床改善が観察された(データを示さず)。この患者により、120日目において、快適さの改善が報告され、左脚体積の15%減少、左足(1シューズサイズの低下)及び腹囲の8%低下が観察された(データを示さず)。背中の筋肥大は急速に収縮し、予期しなかったことに、患者2の脊椎側湾症は、何ら他の介在なしに、120日目において退行した(図3)。より重要なことに、MRIから、腹腔内腫瘍の体積がほんの4ヶ月の間に60%減少したことが示された。処置開始後4ヶ月で行われたPETスキャンから、ほとんど全ての組織における疾患の減少が確認された。フォローアップの間に、この患者の正常な成長がBYL719により影響を受けなかったことが見出された。患者2からは、副作用は報告されなかった。この患者は、今でも処置を受けている。
【0052】
議論
ここから、ヒトの表現型を再現するPROSの最初のマウスモデル、当該マウスモデルにおけるPI3CA阻害剤BYL719による処置によるPROSの救済及びPROS患者におけるBYL719の有効性を証明した変換アプローチの使用を報告する。この研究から、PIK3CA阻害を以前は処置不可能であったPROSにおける堅牢かつ有効な治療戦略として支持する最初の直接的証拠が提供される。
【0053】
BYL719処置により、処置開始後に急速に観察可能な陽性の臨床的影響を伴って、2名の患者(成人1名及び小児1名)の回復が促進された。マウスモデルにおけるのと同様に、この薬剤により、PROSに関連する全ての臓器機能不全が改善された。重要なことに、この薬剤は、処置期間全体を通して、奇形を改善する友好性を維持した。この薬剤は、mTOR阻害剤とは対照的に何ら著しい副作用なしに十分許容可能であった。予測されたとおりに、PI3KCAがインスリンレセプターの下流であるとすると、患者1において生じた高血糖は、長期副作用の所定の可能性を注意喚起する必要があり、特に、成長中の小児、受胎及び思春期に影響を及ぼすおそれがあることを示している。ただし、処置期間中に、小児の成長は影響を受けず、任意の有害作用は、この以前はひどく難治性であった疾患における利益に対して比較検討されるべきである。処置を開始すべき最良の期間及び治療を中断するおそれがある場合を含めて、幾つかの疑問が残っている。マウスのデータからすると、結節性硬化症を有する患者においても見られたように17、薬剤の休薬は疾患の再開に関連するであろう可能性が高いと考えられる。
【0054】
PIK3CAは、ヒトのガンにおいて最も一般的に変異したガン遺伝子のうちの1つであり、同様の変異は、PROS患者において見出されている。ガンにおけるのと同様に、PIK3CA変異を、この遺伝子のコード配列全体にわたって検出することができ、大部分の変異は、螺旋ドメイン(E542K、E545K)及びキナーゼドメイン(H1047R)における3つの主なホットスポットクラスターに見出される。これらの変異はそれぞれ、PIK3CA経路の機能獲得型活性化をもたらす。重要なことに、ガンモデルにおいて、BYL719は、変異の種類に関わらず、この経路の活性を完全に遮断することができる14。加えて、PIK3CA遺伝子のコピー数増大に基づく本発明者らのROSのマウスモデルは、BYL719により救済される。まとめると、これらのデータから、この薬剤は、全ての形態のPROSに確かに有効であり、H1047R変異においてのみ作用するものではないことが示唆される。
【0055】
この知見は、広い臨床的影響を有するかもしれない。重要なことに、PROSが稀であっても、例外ではない。PROS患者数は、誤診をもたらす表現型の不均質性のために、相当少なく見積もられていると推測される。モザイク現象は、多くの場合、PIK3CA体性改変を検出するための高感度な技術の使用を必要とする。発生率が1/100,000であるとすると、クリッペル-トレノニー症候群を有する患者をPROSに含めた最近の提唱により、BYL719による利益を受けることができる相当数の患者が強調される。重要なことに、PROSは、ますます多くの疾患、例えば、単離型静脈奇形もPIK3CA変異に関連する可能性があるため8、18、19、発展している実体である。
【0056】
本発明者らのマウスモデルにより、PROSの生理病理学をより良好に理解するための唯一の機会が提供される。このモデルは、血管異常、筋肥大、腎機能障害、脂肪肝、脾臓破壊及び脊椎側湾症を有するPROSを再現する。重症度は、タモキシフェン処置により誘引された高い割合のCre組換えイベントに関連した。特に腸間膜及び肝臓の血管からの重篤な出血のために、マウスは死んだ。重篤な合併症の中でも、出血及び漏出が、CLOVES症候群を有する患者において観察された。また、肝臓におけるPIK3CA遺伝子の過剰発現により、AKT/mTORCの遺伝的過剰活性化におけるのと同様に脂肪肝がもたらされることも見出された20。マウスは、Cre組換え後非常に素早く、脊椎側湾症に進行した。この病変は、確かに肥大傍脊椎体幹柔組織塊の進行による。BYL719がこの異常を素早く退行させることができたためである。脊椎側湾症の改善も、筋腫溜及び代謝亢進シグナルの減少を伴って、2名の患者において視認することができた。BYL719は、任意の組織異常の進行を予防し又は疾患が達成される間の全ての欠陥を救済するかのいずれかをすることができた。
【0057】
まとめると、本研究の結果から、PIK3CA阻害は、PROS患者の健康及び生活の質を改善するための、安全かつ有効な手段である可能性があることが示される。明らかに、これらの結果は、患者のより大きなコホートにおいて確認される必要があるであろうが、PROSを有する患者に対して最も有望で利用可能な治療を表わす。
【0058】
本願全体を通して、種々の参考文献は、本発明が属する技術分野の水準を説明している。これらの参考文献の開示は、参照により本開示に組み入れられる。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図3
【手続補正書】
【提出日】2024-08-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PIK3CA関連過成長症候群(PROS)の処置を必要とする対象においてPROSを処置する方法であって、この対象に治療上有効量のBYL719を投与する工程を含む、方法。
【外国語明細書】