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特開2024-12543芳香族ポリエステルおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024012543
(43)【公開日】2024-01-30
(54)【発明の名称】芳香族ポリエステルおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/133 20060101AFI20240123BHJP
   C08G 63/68 20060101ALI20240123BHJP
   C09J 167/00 20060101ALI20240123BHJP
   C09D 167/00 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
C08G63/133
C08G63/68
C09J167/00
C09D167/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023190900
(22)【出願日】2023-11-08
(62)【分割の表示】P 2022501802の分割
【原出願日】2021-02-05
(31)【優先権主張番号】P 2020024137
(32)【優先日】2020-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内山 翔子
(57)【要約】
【課題】機能性官能基を複数有する芳香族ポリエステルおよびその合成方法を提供すること。
【解決手段】共重合成分として、多価カルボン酸成分と多価アルコール成分を含有する芳香族ポリエステルであって、全多価カルボン酸成分を100モル%としたとき、機能性官能基を有する多価カルボン酸成分を50モル%以上含有し、全多価アルコール成分を100モル%としたとき、芳香族多価アルコール成分を50モル%以上含有する芳香族ポリエステル。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
共重合成分として、多価カルボン酸成分と多価アルコール成分を含有する芳香族ポリエステルであって、全多価カルボン酸成分を100モル%としたとき、機能性官能基を有する多価カルボン酸成分を50モル%以上含有し、全多価アルコール成分を100モル%としたとき、芳香族多価アルコール成分を50モル%以上含有する芳香族ポリエステル。
【請求項2】
前記機能性官能基が、水酸基、チオール基、カルボキシル基、アルデヒド基、アジド基、ハロゲン、ジスルフィド基、スルホニル基、スルフィニル基およびメチリデン基からなる群より選択される1種以上である請求項1に記載の芳香族ポリエステル。
【請求項3】
下記式(1)で表される構成単位を含有する請求項1または2に記載の芳香族ポリエステル。
【化1】

(式(1)中、X、X、YおよびYはそれぞれ独立に、水素、アルキル基、水酸基、チオール基、カルボキシル基、アルデヒド基、アジド基、ハロゲン、酸素またはメチリデン基である。Z-X結合、Z-X結合、Z-Y結合およびZ-Y結合はそれぞれ独立に、単結合または二重結合であり、Z-Z結合は、単結合、二重結合またはS-S結合である。X、X、YおよびYが全て水素またはアルキル基のときは、Z-X結合、Z-X結合、Z-Y結合およびZ-Y結合はすべて単結合であり、Z-Z結合は二重結合である。Z-Z結合がS-S結合のときは、X、X、YおよびYはそれぞれ独立に酸素であるか、または存在しない。Xがメチリデン基のときは、Z-X結合は二重結合であり、Xは存在せず、Z-Z結合は単結合である。Xがメチリデン基のときは、Z-X結合は二重結合であり、Xは存在せず、Z-Z結合は単結合である。Yがメチリデン基のときは、Z-Y結合は二重結合であり、Yは存在せず、Z-Z結合は単結合である。Yがメチリデン基のときは、Z-Y結合は二重結合であり、Yは存在せず、Z-Z結合は単結合である。Aは芳香族多価アルコールの残基である。R、R、RおよびRはそれぞれ独立に、水素またはアルキル基である。mおよびnはそれぞれ独立に0~10の整数であり、pは1~10の整数である。)
【請求項4】
フッ素を500質量ppm以上、硫黄を250質量ppm以上含有する、請求項1~3のいずれかに記載の芳香族ポリエステル。
【請求項5】
有機溶剤を実質的に含有しないことを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の芳香族ポリエステル。
【請求項6】
80~150℃の低温溶融重縮合法よる請求項1~5のいずれかに記載の芳香族ポリエステルの製造方法。
【請求項7】
請求項1~5のいずれかに記載の芳香族ポリエステルを含有する接着剤。
【請求項8】
請求項1~5のいずれかに記載の芳香族ポリエステルを含有する塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、官能基を有する芳香族ポリエステルに関する。より詳しくは、ゲル化を引き起こすことなく、カルボン酸成分由来の機能性官能基を残したままポリマー化することのできる、機能性官能基を有する芳香族ポリエステルに関する。
【背景技術】
【0002】
共重合ポリエステル樹脂は塗料、コーティング剤および接着剤等に用いられる樹脂組成物の原料として広く使用されている。共重合ポリエステル樹脂は一般に多価カルボン酸と多価アルコールから構成される。多価カルボン酸と多価アルコールの選択と組合せ、分子量の高低は自由にコントロールでき、得られる共重合ポリエステル樹脂は塗料用途や接着剤用途をはじめ、様々な用途で使用されている。特に、芳香族ポリエステルは耐熱性や耐薬品性に優れるため、工業的には特に有用である。
【0003】
中でも水酸基やカルボキシル基等の、重合に関与しない分岐性官能基(機能性官能基)を有する芳香族ポリエステルは、硬化剤等との反応性が良好となることから、工業的にはとりわけ有用である。例えば、特許文献1には、重合性二重結合含有ポリエステル樹脂が開示されており、また特許文献2には、イタコン酸エステル単位を反応性不飽和部位として含む不飽和ポリエステル樹脂が開示されている。
【0004】
一方、機能性官能基を複数有する脂肪族ポリエステルとして、希土類トリフラート触媒を用いた合成例が報告されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-302779号公報
【特許文献2】特表2012-521469号公報
【特許文献3】特開2003-306535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のポリエステル樹脂は、機能性官能基として重合性二重結合を有しているものの、共重合成分として機能性官能基を有さないモノマーを大量に使用しているため、その濃度は低く、工業的な利用価値が高いとはいえない。また、前記ポリエステル樹脂の重合性二重結合の濃度を上げると、重合時に、異性化や三次元架橋によるゲル化を引き起こしてしまうことが分かった。また、特許文献2には、少なくとも1種のポリオールと、不飽和カルボン酸としてのイタコン酸、シトラコン酸および/またはメサコン酸とを重縮合させたポリエステル樹脂が記載されているが、芳香族骨格を有しておらず、さらに重合時の異性化やゲル化を抑制するためにラジカル禁止剤を必須成分としている。そのため、工業的な利用価値が高くない上、不純物の原因にもなっている。また、特許文献3は重合に関与する官能基以外の種々の官能基(機能性官能基)を有する脂肪族モノマーの重縮合が検討されているが、芳香族モノマーについては検討されていない。その理由としては、ジカルボン酸とジオールの直接重合法の場合、融点が300℃以上の芳香族ジカルボン酸とジオールをジオールの沸点以上の高温(例えば、200~240℃)でエステル化反応をさせるのが一般であり、重縮合中のエネルギー消費が大きいこと、さらに、芳香族ポリエステルの原料として一般的に使用される、テレフタル酸、イソフタル酸はいずれも融点が300℃以上であるのに加え、昇華性結晶のため、取り扱いが困難であるという技術的な理由が挙げられる。
【0007】
本発明は、これまで合成困難であった、重合に関与しない機能性官能基を複数有する芳香族ポリエステルおよびその合成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。すなわち本発明は、以下の構成からなる。
【0009】
共重合成分として、多価カルボン酸成分と多価アルコール成分を含有する芳香族ポリエステルであって、全多価カルボン酸成分を100モル%としたとき、機能性官能基を有する多価カルボン酸成分を50モル%以上含有し、全多価アルコール成分を100モル%としたとき、芳香族多価アルコール成分を50モル%以上含有する芳香族ポリエステル。
【0010】
前記機能性官能基は、水酸基、チオール基、カルボキシル基、アルデヒド基、アジド基、ハロゲン、ジスルフィド基、スルホニル基、スルフィニル基およびメチリデン基からなる群より選択される1種以上であることが好ましい。
【0011】
前記芳香族ポリエステルは、下記式(1)で表される構成単位を含有することが好ましい。
【化1】

(式(1)中、X、X、YおよびYはそれぞれ独立に、水素、アルキル基、水酸基、チオール基、カルボキシル基、アルデヒド基、アジド基、ハロゲン、酸素またはメチリデン基である。Z-X結合、Z-X結合、Z-Y結合およびZ-Y結合はそれぞれ独立に、単結合または二重結合であり、Z-Z結合は、単結合、二重結合またはS-S結合である。X、X、YおよびYが全て水素またはアルキル基のときは、Z-X結合、Z-X結合、Z-Y結合およびZ-Y結合はすべて単結合であり、Z-Z結合は二重結合である。Z-Z結合がS-S結合のときは、X、X、YおよびYはそれぞれ独立に酸素であるか、または存在しない。Xがメチリデン基のときは、Z-X結合は二重結合であり、Xは存在せず、Z-Z結合は単結合である。Xがメチリデン基のときは、Z-X結合は二重結合であり、Xは存在せず、Z-Z結合は単結合である。Yがメチリデン基のときは、Z-Y結合は二重結合であり、Yは存在せず、Z-Z結合は単結合である。Yがメチリデン基のときは、Z-Y結合は二重結合であり、Yは存在せず、Z-Z結合は単結合である。Aは芳香族多価アルコールの残基である。R、R、RおよびRはそれぞれ独立に、水素またはアルキル基である。mおよびnはそれぞれ独立に0~10の整数であり、pは1~10の整数である。)
【0012】
前記芳香族ポリエステルは、フッ素を500質量ppm以上、硫黄を250質量ppm以上含有することが好ましく、有機溶剤を実質的に含有しないことが好ましい。また、芳香族ポリエステルは、80~150℃の低温溶融重縮合法より得られるものであることが好ましい。
【0013】
前記芳香族ポリエステルを含有する接着剤または塗料。
【発明の効果】
【0014】
本発明の芳香族ポリエステルは、機能性官能基を所定量含有する。そのため、機能性官能基が二重結合であり、主鎖に二重結合を有する芳香族ポリエステルは、チオール-エン反応やマイケル付加反応の反応点になる。また、機能性官能基がハロゲンであり、主鎖にハロゲンを導入した芳香族ポリエステルは、リビングラジカル重合の開始点となるなど種々の化学修飾を可能にすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の芳香族ポリエステルは、共重合成分として、多価カルボン酸成分と多価アルコール成分を含有し、全多価カルボン酸成分を100モル%としたとき、機能性官能基を有する多価カルボン酸成分を50モル%以上含有し、全多価アルコール成分を100モル%としたとき、芳香族多価アルコール成分を50モル%以上含有する樹脂である。
【0016】
前記機能性官能基としては、重合に関与する官能基(ジカルボン酸)以外の反応性官能基であることが好ましく、具体的には、水酸基(-OH)、チオール基(-SH)、カルボキシル基(-COH)、アルデヒド基(-CHO)、アジド基(-N)、ハロゲン(-F、-Cl、-Br、-I)、ジスルフィド基(-S-S-)、スルフィニル基(-S(=O)-)、スルホニル基(-S(=O)-)およびメチリデン基(=CH)からなる群より選択される1種以上であることが好ましい。
【0017】
機能性官能基を有する多価カルボン酸成分としては、機能性官能基を有する芳香族多価カルボン酸、機能性官能基を有する脂肪族多価カルボン酸または機能性官能基を有する脂環族多価カルボン酸が挙げられ、好ましくは機能性官能基を有する芳香族ジカルボン酸、機能性官能基を有する脂肪族ジカルボン酸または機能性官能基を有する脂環族ジカルボン酸であり、より好ましくは機能性官能基を有する脂肪族ジカルボン酸である。
【0018】
前記機能性官能基を有する多価カルボン酸成分としては、特に限定されないが、例えば、マレイン酸(不飽和結合)、フマル酸(不飽和結合)、シトラコン酸(不飽和結合)、イタコン酸(不飽和結合)、リンゴ酸(OH)、酒石酸(OH)、チオリンゴ酸(SH)、ブロモコハク酸(Br)、アジドコハク酸(N)、3、3-ジチオジプロピオン酸(S-S)、トリカルボン酸(COOH)等を挙げることができる。これらの中から、1種または2種以上を選択して使用できる。
【0019】
芳香族ポリエステルの多価カルボン酸成分を100モル%としたとき、前記機能性官能基を有する多価カルボン酸成分を50モル%以上含有することが必要であり、好ましくは60モル%以上であり、より好ましくは70モル%以上であり、さらに好ましくは80モル%以上であり、よりさらに好ましくは90モル%以上であり、特に好ましくは95モル%以上であり、最も好ましくは99モル%以上であり、100モル%であっても差し支えない。
【0020】
さらに、共重合成分として、前記機能性官能基を有する多価カルボン酸成分以外の多価カルボン酸成分を併用することができる。機能性官能基を有する多価カルボン酸成分以外の多価カルボン酸成分とは、重合に関与する官能基(ジカルボン酸)以外の反応性官能基を含まない多価カルボン酸(以下、機能性官能基を有さない多価カルボン酸成分ともいう。)であることが好ましい。機能性官能基を有さない多価カルボン酸成分として、以下に示す脂環族多価カルボン酸、脂肪族多価カルボン酸または芳香族多価カルボン酸等を挙げることができる。脂環族多価カルボン酸の例としては、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸とその酸無水物などの脂環族ジカルボン酸を挙げることができる。脂肪族多価カルボン酸の例としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸、1,2,3-プロパントリカルボン酸、1,3,5-ペンタントリカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸を挙げることができる。芳香族多価カルボン酸の例としてはテレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、ジフェン酸、5-ヒドロキシイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸が例示できる。また、スルホテレフタル酸、5-スルホイソフタル酸、4-スルホフタル酸、4-スルホナフタレン-2,7-ジカルボン酸、5-(4-スルホフェノキシ)イソフタル酸、スルホテレフタル酸、および/またはそれらの金属塩、アンモニウム塩などのスルホン酸基又はスルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸等を挙げることができる。これらの中から、1種または2種以上を選択して使用できる。
【0021】
前記機能性官能基を有さない多価カルボン酸成分の含有量は、芳香族ポリエステルの多価カルボン酸成分を100モル%としたとき、50モル%以下であることが好ましく、より好ましくは40モル%以下であり、さらに好ましくは30モル%以下であり、よりさらに好ましくは20モル%以下であり、一層好ましくは10モル%以下であり、特に好ましくは5モル%以下であり、最も好ましくは1モル%以下であり、0モル%であっても差し支えない。
【0022】
本発明の芳香族ポリエステルに用いる芳香族多価アルコール成分としては、前記機能性官能基(重合に関与する官能基(ジオール)以外の反応性官能基)を有しても良いし、有さなくても良い。好ましくは機能性官能基を有さない芳香族多価アルコール成分であり、より好ましくは機能性官能基を有さない芳香族ジオール成分である。機能性官能基を有さない芳香族ジオールとしては、特に限定されないが、芳香族ジオール化合物、芳香族ジオール化合物のグリコール変性物、芳香族ジカルボン酸のグリコール変性物であることが好ましく、芳香族ジオール化合物のグリコール変性物または芳香族ジカルボン酸のグリコール変性物であることがより好ましい。芳香族グリコール化合物の具体例としては、特に限定されず、1,2-フェニレングリコ-ル、1,3-フェニレングリコ-ル、1,4-フェニレングリコ-ル、ナフタレンジオール、ビスフェノールA、ビスフェノールF等が挙げられる。また、芳香族ジオール化合物のグリコール変性物の具体例としては、特に限定されないが、1,2-フェニレングリコ-ルのエチレンオキサイド付加物、1,2-フェニレングリコ-ルのプロピレンオキサイド付加物、1,3-フェニレングリコ-ルのエチレンオキサイド付加物、1,3-フェニレングリコ-ルのプロピレンオキサイド付加物、1,4-フェニレングリコ-ルのエチレンオキサイド付加物、1,4-フェニレングリコ-ルのプロピレンオキサイド付加物、ナフタレンジオールのエチレンオキサイド付加物、ナフタレンジオールのプロピレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物、ビスフェノールFのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールFのプロピレンオキサイド付加物等が挙げられる。また、芳香族ジカルボン酸のグリコール変性物の具体例としては、特に限定されないが、テレフタル酸のエチレングリコール変性物、テレフタル酸のプロピレングリコール変性物、イソフタル酸のエチレングリコール変性物、イソフタル酸のプロピレングリコール変性物、オルソフタル酸のエチレングリコール変性物、オルソフタル酸のプロピレングリコール変性物等が挙げられる。さらに、芳香族ジカルボン酸のグリコール変性物の他の例としては、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、ジフェン酸、5-ヒドロキシイソフタル酸、スルホテレフタル酸、5-スルホイソフタル酸、4-スルホフタル酸、4-スルホナフタレン-2,7-ジカルボン酸、5-(4-スルホフェノキシ)イソフタル酸、スルホテレフタル酸、および/またはそれらの金属塩、アンモニウム塩などのスルホン酸基又はスルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸等のグリコール変性物を挙げることができる。これらを単独で、または2種以上を併用することができる。中でもより好ましくは、1,4-フェニレングリコ-ルのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノ-ルA、ビスフェノ-ルAのエチレンオキサイド付加物(三洋化成工業(株)製、ニューポール(登録商標)BPE-20T)およびプロピレンオキサイド付加物(三洋化成工業(株)製、ニューポールBP-5P)等の、ビスフェノ-ル類の2つのフェノ-ル性水酸基にエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイドをそれぞれ1~数モル付加して得られるグリコ-ル類、BHET(テレフタル酸のエチレングリコール変性品)等を用いることができる。
【0023】
芳香族ポリエステルの多価アルコール成分を100モル%としたとき、前記芳香族ジオール成分は50モル%以上含有することが必要であり、好ましくは60モル%以上であり、より好ましくは70モル%以上であり、さらに好ましくは80モル%以上であり、よりさらに好ましくは90モル%以上であり、特に好ましくは95モル%以上であり、最も好ましくは99モル%以上であり、100モル%であっても差し支えない。
【0024】
さらに、前記芳香族多価アルコール成分以外の多価アルコール成分として、以下に示す脂肪族多価アルコールや脂環族多価アルコ―ル、エーテル結合含有グリコール等を併用することができる。
【0025】
脂肪族多価アルコールの例としては、エチレングリコ-ル、1,2-プロピレングリコ-ル、1,3-プロパンジオ-ル、1,4-ブタンジオ-ル、1,5-ペンタンジオ-ル、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコ-ル、1,6-ヘキサンジオ-ル、3-メチル-1,5-ペンタンジオ-ル、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオ-ル、2-エチル-2-ブチルプロパンジオール、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステル、ジメチロールヘプタン、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオ-ル、ポリカーボネートジオール(旭化成(株)製、デュラノ―ル(登録商標))等を挙げることができる。脂環族多価アルコールの例としては、1,4-シクロヘキサンジオ-ル、1,4-シクロヘキサンジメタノ-ル、トリシクロデカンジオ-ル、トリシクロデカンジメチロール、スピログリコ-ル、水素化ビスフェノ-ルAまたは水素化ビスフェノ-ルAのエチレンオキサイド付加物およびプロピレンオキサイド付加物、等を挙げることができる。エ-テル結合含有グリコ-ルの例としては、ジエチレングリコ-ル、トリエチレングリコ-ル、ジプロピレングリコ-ル、ポリエチレングリコ-ル、ポリプロピレングリコ-ル、ポリテトラメチレングリコ-ル、ネオペンチルグリコールエチレンオキサイド付加物またはネオペンチルグリコールプロピレンオキサイド付加物を挙げることができる。これらの中から、1種または2種以上を選択して使用できる。
【0026】
さらに、前記芳香族多価アルコール成分以外の多価アルコール成分として、2価以上の脂環族多価カルボン酸成分または脂肪族多価カルボン酸成分の両末端をグリコールで変性した多価アルコール成分を使用することもできる。脂環族多価カルボン酸の例としては、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸とその酸無水物などの脂環族ジカルボン酸を挙げることができる。脂肪族多価カルボン酸の例としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸を挙げることができる。
【0027】
前記脂肪族多価アルコール、脂環族多価アルコ―ルおよびエーテル結合含有グリコール成分の含有量は、芳香族ポリエステルの多価アルコール成分を100モル%としたとき、50モル%以下であることが好ましく、より好ましくは40モル%以下であり、さらに好ましくは30モル%以下であり、よりさらに好ましくは10モル%以下であり、一層好ましくは10モル%以下であり、特に好ましくは5モル%以下であり、最も好ましくは1モル%以下であり、0モル%であっても差し支えない。
【0028】
本発明の芳香族ポリエステルは、下記式(1)の構成単位を有することが好ましい。
【化2】

式(1)中、X、X、YおよびYはそれぞれ独立に、水素(-H)、アルキル基、水酸基(-OH)、チオール基(-SH)、カルボキシル基(-COH)、アルデヒド基(-CHO)、アジド基(-N)、ハロゲン(-F、-Cl、-Br、-I)、酸素(=O)またはメチリデン基(=CH)である。アルキル基は炭素数1~10のアルキル基であることが好ましく、より好ましくは炭素数1~5であり、さらに好ましくは炭素数1~3である。また、アルキル基は直鎖状または分岐状のいずれでも良い。ハロゲンはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素のいずれでも良いが、好ましくは臭素である。
-X結合、Z-X結合、Z-Y結合およびZ-Y結合はそれぞれ独立に、単結合または二重結合であり、Z-Z結合は、単結合、二重結合またはS-S結合である。
、X、YおよびYが全て水素またはアルキル基のときは、Z-X結合、Z-X結合、Z-Y結合およびZ-Y結合はすべて単結合であり、Z-Z結合は二重結合である。Z-Z結合がS-S結合のときは、X、X、YおよびYはそれぞれ独立に酸素(-S(=0)-S-、-S(=0)-S(=O)-、-S(=O)-S-、-S(=O)-S(=O)-、もしくは-S(=O)-S(=O)-)または存在しない(-S-S-)。存在しない(-S-S-)ことが好ましい。
がメチリデン基のときは、Z-X結合は二重結合であり、Xは存在せず、Z-Z結合は単結合である。Xがメチリデン基のときは、Z-X結合は二重結合であり、Xは存在せず、Z-Z結合は単結合である。Yがメチリデン基のときは、Z-Y結合は二重結合であり、Yは存在せず、Z-Z結合は単結合である。Yがメチリデン基のときは、Z-Y結合は二重結合であり、Yは存在せず、Z-Z結合は単結合である。
、R、RおよびRはそれぞれ独立に、水素またはアルキル基である。mおよびnはそれぞれ独立に0~10の整数であり、好ましくは1~5の整数であり、より好ましくは1~3の整数である。
【0029】
また、式(1)中、Aは芳香族多価アルコールの残基であり、好ましくは芳香族ジオールの残基である。芳香族多価アルコールとしては、特に限定されないが、芳香族ジオール化合物、芳香族ジオール化合物のグリコール変性物、芳香族ジカルボン酸のグリコール変性物であることが好ましく、芳香族ジオール化合物のグリコール変性物または芳香族ジカルボン酸のグリコール変性物であることがより好ましい。芳香族グリコール化合物の具体例としては、特に限定されず、1,2-フェニレングリコ-ル、1,3-フェニレングリコ-ル、1,4-フェニレングリコ-ル、ナフタレンジオール、ビスフェノールA、ビスフェノールF等が挙げられる。また、芳香族ジオール化合物のグリコール変性物の具体例としては、特に限定されないが、1,2-フェニレングリコ-ルのエチレンオキサイド付加物、1,2-フェニレングリコ-ルのプロピレンオキサイド付加物、1,3-フェニレングリコ-ルのエチレンオキサイド付加物、1,3-フェニレングリコ-ルのプロピレンオキサイド付加物、1,4-フェニレングリコ-ルのエチレンオキサイド付加物、1,4-フェニレングリコ-ルのプロピレンオキサイド付加物、ナフタレンジオールのエチレンオキサイド付加物、ナフタレンジオールのプロピレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物、ビスフェノールFのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールFのプロピレンオキサイド付加物等が挙げられる。また、芳香族ジカルボン酸のグリコール変性物の具体例としては、特に限定されないが、テレフタル酸のエチレングリコール変性物、テレフタル酸のプロピレングリコール変性物、イソフタル酸のエチレングリコール変性物、イソフタル酸のプロピレングリコール変性物、オルソフタル酸のエチレングリコール変性物、オルソフタル酸のプロピレングリコール変性物等が挙げられる。これらを単独で、または2種以上を併用することができる。中でもビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物、またはテレフタル酸のエチレングリコール変性物であることが好ましい。pは1~10の整数であり、好ましくは1~5の整数であり、より好ましくは1~3の整数である。
【0030】
本発明の芳香族ポリエステルは、芳香族ポリエステルの全構成単位を100モル%としたとき、式(1)の構成単位を50モル%以上含有することが好ましく、より好ましくは60モル%以上であり、さらに好ましくは70モル%以上であり、よりさらに好ましくは80モル%以上であり、殊更好ましくは90モル%以上であり、特に好ましくは95モル%以上であり、最も好ましくは99モル%以上であり、100モル%であっても差し支えない。
【0031】
前記式(1)の好ましい構造としては、下記式(2)~(5)が挙げられる。
【化3】

式(2)中、X、X、YおよびYはそれぞれ独立に、水素、アルキル基、水酸基、チオール基、カルボキシル基、アルデヒド基、アジド基またはハロゲンであることが好ましい。ただし、X、X、YおよびYの全てが水素またはアルキル基であることはない。より好ましくはXおよび/またはYが水酸基、チオール基、カルボキシル基、アルデヒド基、アジド基またはハロゲンであり、さらに好ましくはXが水酸基、チオール基、カルボキシル基、アルデヒド基、アジド基またはハロゲンであり、Yが水素である。式(2)の構造を有することで、リビングラジカル重合の開始点となるなど種々の化学修飾を可能にすることができる。
【0032】
【化4】

式(3)中、XおよびYはそれぞれ独立に、メチリデン基であることが好ましい。より好ましくはXまたはYの一方がメチリデン基であり、他方が水素であり、さらに好ましくはXがメチリデン基であり、Yが水素である。
【0033】
【化5】

式(4)中、XおよびYはそれぞれ独立に、水素またはアルキル基であることが好ましく、より好ましくは水素である。Xおよび/またはYがアルキル基の場合、その炭素数は1~10であることが好ましく、より好ましくは炭素数1~5であり、さらに好ましくは炭素数1~3である。また、アルキル基は直鎖状または分岐状のいずれでも良い。式(4)の構造を有することで、チオール-エン反応やマイケル付加反応の反応点になるなど種々の化学修飾を可能にすることができる。
【0034】
【化6】

式(5)中、X、X、YおよびYはそれぞれ独立に、存在しない(ジスルフィド結合)か、または酸素(=O)であることが好ましい。X、X、YおよびYの全てが存在しない(ジスルフィド結合)ことがより好ましい。
【0035】
前記式(2)~(5)中、R、R、RおよびRはそれぞれ独立に、水素またはアルキル基であることが好ましく、より好ましくは水素である。R~Rがそれぞれ独立にアルキル基の場合、その炭素数は1~10であることが好ましく、より好ましくは炭素数1~5であり、さらに好ましくは炭素数1~3である。また、アルキル基は直鎖状または分岐状のいずれでも良い。mおよびnはそれぞれ独立に0~10の整数であり、好ましくは1~5の整数であり、より好ましくは1~3の整数である。特に、式(2)および式(3)のときはmが0でありnが1であることが好ましく、式(4)のときはm、nともに0であることが好ましく、式(5)のときはm、nともに2であることが好ましい。pは式(2)~(5)のいずれのときも1~10の整数であることが好ましく、より好ましくは1~5の整数であり、さらに好ましくは1~3の整数である。
【0036】
式(1)の好ましい具体例としては、特に限定されないが、下記構造が挙げられる。
【化7】
【0037】
【化8】
【0038】
【化9】
【0039】
本発明の芳香族ポリエステルは、フッ素を500質量ppm以上含有することが好ましい。撥水性や發油性を示す傾向があることから、より好ましくは1000質量ppm以上であり、さらに好ましくは2000質量ppm以上である。また、耐熱性や耐薬品性が良好となることから、10000質量ppm以下であることが好ましく、より好ましくは8000質量ppm以下であり、さらに好ましくは5000質量ppm以下である。
【0040】
本発明の芳香族ポリエステルは、硫黄を250質量ppm以上含有することが好ましい。高融点になる傾向があることから、より好ましくは500質量ppm以上であり、さらに好ましくは1000質量ppm以上である。また、耐熱性や耐薬品性が良好となることから、5000質量ppm以下であることが好ましく、より好ましくは4000質量ppm以下であり、さらに好ましくは3000質量ppm以下である。
【0041】
本発明の芳香族ポリエステルは有機溶剤を実質的に含有しないことが好ましい。有機溶剤を実質的に含有しないことで、人体および環境に優れた接着剤および塗料を作製することができる。有機溶剤を実質的に含有しないとは、芳香族ポリエステル100質量%中、有機溶剤が5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは2質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%以下であり、特に好ましくは0質量%である。
【0042】
前記有機溶剤としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤;酢酸エチル、酢酸プロピル等のエステル系溶剤;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル等のエーテル系溶剤;N-メチルピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)等の非プロトン系溶剤等が挙げられる。
【0043】
本発明の芳香族ポリエステルの数平均分子量は、2,000以上30,000以下であることが好ましく、より好ましくは3,000以上25,000以下であり、さらに好ましくは4,000以上20,000以下である。数平均分子量を前記下限値以上とすることで、塗膜が強靭となり、加工した際の塗膜物性が良好となる。また数平均分子量を前記上限値以下とすることで重縮合中の溶融粘度が高くなりすぎることを抑え、反応容器(フラスコ)から容易に取り出すことができる。
【0044】
本発明の芳香族ポリエステルの芳香族成分は、芳香族多価アルコール成分由来である。一般的に、芳香族含有モノマーは融点が200~300℃と高いために、ポリエステルを重合する際は、前記融点以上の温度で反応させる必要があり、150℃以下の温度で融解し、均一化することが困難である。しかし、芳香族カルボン酸の両末端をグリコール成分で変性することにより、融点を下げ、低温重合が可能となる。例えば、PETの原料であるテレフタル酸の融点は、300℃であるが、両末端をエチレングリコールで変性したBHET(ビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレート)は、融点が110℃であり、150℃以下の温度での重縮合が可能となる。
【0045】
BHET以外にも、ビスフェノールのエチレングリコール2モル付加物や、プロピレングリコール5モル付加物は、ビスフェノールの両末端をグリコール成分で変性することにより、融点が下がり、低温重合が可能となる。
【0046】
さらに、トリフラート触媒(トリフルオロメタンスルホナート触媒)を用いることによって80~150℃程度の低温でエステル化反応が可能となる。すなわち、従来は重合に関与する官能基以外の官能基(水酸基、チオール基、カルボキシル基、アルデヒド基、アジド基、ハロゲン、メチリデン基等)を有するモノマーを用いた場合、高温反応のため、これらの官能基が加水分解(加溶媒分解)や脱離などの副反応を起こし、芳香族ポリエステルを得ることが困難であった。一方、本発明では、低温反応が可能となり、前記重合に関与する官能基以外の官能基(機能性官能基)を有するモノマーを用いても副反応が生じず、芳香族ポリエステルを得ることができる。すなわち、80~150℃程度の低温溶融重縮合法により芳香族ポリエステルを得ることができる。
【0047】
トリフラート触媒としては、希土類トリフラート触媒が挙げられる。希土類トリフラート触媒に用いられる希土類金属としては、具体的には、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)が挙げられ、ランタノイド元素として、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、ネオジウム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリ二ウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)などを含むものが有効である。前記希土類金属を単独で、または2種以上を併用することができる。中でもスカンジウムが好ましい。上記希土類金属以外のトリフラート触媒としては、具体的には、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、スズ(Sn)、ハフ二ウム(Hf)、ビスマス(Bi)などを含むものが有効である。前記トリフラートとしては、X(OSOCF)が例示できる。ここでXは、希土類またはその他の元素であり、これらの中でも、Xは、スカンジウム(Sc)が好ましい。
【0048】
芳香族ポリエステルは低温で重合(低温溶融重縮合法)することができる。具体的には、150℃以下であることが好ましい。重合に関与する官能基以外の官能基(機能性官能基)の副反応を抑制できることから、より好ましくは140℃以下であり、さらに好ましくは130℃以下であり、よりさらに好ましくは120℃以下であり、特に好ましくは110℃以下である。下限は特に限定されないが、60℃以上であることが好ましい。また、反応時間を短縮できることから、より好ましくは70℃以上であり、さらに好ましくは80℃以上であり、特に好ましくは90℃以上である。
【0049】
芳香族ポリエステルは、有機溶媒を実質的に使用することなく重合することができる。有機溶媒を実質的に使用しないとは、得られる芳香族ポリエステル100質量部に対して、5質量部以下であることが好ましく、より好ましくは2質量部以下であり、さらに好ましくは1質量部以下であり、特に好ましくは0質量部である。有機溶媒を実質的に使用しないことで反応の容積効率が向上するだけでなく、人体および環境に優れた樹脂を製造することができる。
【0050】
芳香族ポリエステルは、ラジカル禁止剤を実質的に使用することなく重合することができる。ラジカル禁止剤を実質的に使用しないとは、得られる芳香族ポリエステル100質量部に対して、5質量部以下であることが好ましく、より好ましくは2質量部以下であり、さらに好ましくは1質量部以下であり、特に好ましくは0質量部である。ラジカル禁止剤を実質的に使用しないことで、芳香族ポリエステルを効率よく製造することができ、さらにラジカル禁止剤由来の不純物を含有することがない。ラジカル禁止剤としては、例えば、ヒドロキノン、2-メチルヒドロキノン、ベンゾキノン、2-メチルベンゾキノン等が挙げられる。
【0051】
反応時間は、モノマー(多価カルボン酸成分と芳香族ジオール成分)の種類、触媒の種類または反応温度等により適宜設定できる。具体的には、1~20時間であることが好ましく、より好ましくは2~15時間であり、3~12時間である。
【0052】
本発明の芳香族ポリエステルは接着剤または塗料用途に使用することができる。芳香族ポリエステルは、接着剤または塗料中に固形分換算で50質量%以上含有することが好ましく、より好ましくは60質量%以上であり、さらに好ましくは70質量%以上である。また、95質量%以下であることが好ましく、より好ましくは90質量%以下である。
【実施例0053】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、もとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらは、いずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0054】
なお、以下、特記のない場合、部は質量部を表す。また、本明細書中で採用した測定、評価方法は次の通りである。
【0055】
<樹脂組成>
芳香族ポリエステルを、重クロロホルムに溶解し、VARIAN社製 NMR装置400-MRを用いて、H-NMR分析を行ってその積分値比より、モル比を求めた。
【0056】
<数平均分子量(Mn)>
芳香族ポリエステル試料を、樹脂濃度が0.5質量%程度となるようにN,N-ジメチルホルムアミドに溶解し、孔径0.5μmのポリ四フッ化エチレン製メンブレンフィルターで濾過したものを測定用試料とした。N,N-ジメチルホルムアミドを移動相とし、示差屈折計を検出器とするゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により分子量を測定した。流速は1mL/分、カラム温度は30℃とした。カラムには昭和電工製KF-802、804L、806Lを用いた。分子量標準には単分散ポリスチレンを使用した。数平均分子量の計算は、分子量1000未満に相当する部分を省いて算出した。
【0057】
<元素分析(フッ素、硫黄含有量)>
<前処理法、測定法>
試料(芳香族ポリエステル)20mgを磁性ボートに採取して石英管管状炉(三菱化学アナリテック社製AQF-2100H)で燃焼し、燃焼ガスを0.3質量%-過酸化水素水で吸収させた。その後、吸収液中のフッ化物イオン、硫酸イオンをイオンクロマトグラフ(サーモフィッシャー社製 ICS-1600型)を用いて測定した。
<自動燃焼炉条件>
装置:三菱化学アナリテック社製自動燃焼炉AQF-2100H
試料分解温度:1000℃
燃焼プログラム:15分
吸収液組成:0.3質量%過酸化水素水水溶液
<イオンクロマトグラフィー分析条件>
装置:サーモフィッシャー製イオンクロマトグラフICS-1600
カラム:陰イオン交換カラムAS12A
溶離液組成:炭酸ナトリウム/炭酸水素ナトリウム混合水溶液
分離プログラム:15分
検出器:電気伝導度検出器
【0058】
<有機溶剤含有量>
試料(芳香族ポリエステル)約0.5gをアルミ皿に秤量する(これをAとする)。次いで試料を150℃の乾燥機に入れ、5mmHg以下の減圧下、2時間乾燥させる。乾燥終了後、室温になるまで冷却し、試料を取り出す(これをBとする)。次式にて、有機溶剤含有量を求める。
式:有機溶剤含有量(質量%)=(A-B)/A×100
【0059】
実施例1
芳香族ポリエステルNo.1の製造
撹拌機を具備した50mlガラスフラスコにビス-2-ヒドロキシエチルテレフタレート(BHET) 100モル%、マレイン酸 100モル%、スカンジウムトリフラート 1.0モル%を仕込み、100℃で均一化を行った。原料溶解後、系内を徐々に減圧していき、30分かけて5mmHgまで減圧し、さらに0.3mmHg以下の真空下、110℃にて4時間重縮合反応を行った後、内容物を取り出し冷却した。得られた芳香族ポリエステルNo.1の組成、数平均分子量等を表1に示した。
【0060】
実施例2~11、比較例1~3
芳香族ポリエステルNo.2~14の製造
芳香族ポリエステルNo.1と同様にして、但し、仕込み原料およびその比率を変更して芳香族ポリエステルNo.2~14を合成し、芳香族ポリエステルNo.1と同様の評価を行った。評価結果を表1~表2に示した。なお、実施例7は多価アルコール成分にデュラノール-T5650E(旭化成ケミカルズ(株)製ポリカーボネートジオール:1,5-ペンタンジオール/1,6-ヘキサンジオールの混合物、数平均分子量約500)とアジピン酸を50モル%ずつ使用し、実施例11は多価アルコール成分に1,5-ペンタンジオールを50モル%使用した。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
No.3 多価アルコール成分として、ビスフェノ-ルAのプロピレンオキサイド付加物(BP-5P)を用いた系は、反応に関与する2級のOH基がその他の1級のOH基と比較して、反応速度が遅いために、反応時間が11.5時間と長いにも関わらず、式(1)の構造は有しているが、分子量があまり上がらなかったと考えられる。
【0064】
No.5 No.4と同じ原料を用いて、触媒量を1.0モル%から0.5モル%に減らした場合でも、式(1)の構造を有する芳香族ポリエステルが得られたが、同等の分子量のポリマーを得るためには、反応時間が4時間必要であった。
【0065】
No.6 No.4と同じ原料を用いて、触媒量を1.0モル%から0.2モル%に減らした場合でも、式(1)の構造を有する芳香族ポリエステルが得られたが、同等の分子量のポリマーを得るためには、反応時間が6時間必要であった。
【0066】
No.12 無触媒系で同様の反応を行った場合、エステル化反応が進行せず、分子量が上がらなかったため、式(1)の構造を有するポリエステルが得られなかった。
【0067】
No.13 Al触媒のような一般的なエステル交換触媒を用いた場合、エステル化反応が進行せず、分子量が上がらなかった。式(1)の構造を有する芳香族ポリエステルが得られなかった。
【0068】
No.14 チオリンゴ酸をジカルボン酸成分として用いた場合、高い温度で長い時間反応させると、ゲル化を引き起こしたため、式(1)の構造を有する芳香族ポリエステルが得られなかった。これは、溶融重縮合によって生成した、ポリエステル分子内の分岐SH基同士が分子間カップリングし、三次元架橋を生成したためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の芳香族ポリエステルは、特定の構成単位を有する。また、特定の多価カルボン酸成分および芳香族ジオール成分を用いることで、溶媒を用いずに温和な条件下での脱水重縮合により合成できる。この方法を用いることで、主鎖およびその側鎖に二重結合を有するポリエステルや、縮合する官能基以外の官能基を有するポリエステルを合成することができる。主鎖に二重結合を有するポリエステルは、チオール-エン反応やマイケル付加反応の反応点になり、ハロゲンを側鎖に有するポリエステルは、リビングラジカル重合の開始点となるなど種々の化学修飾を可能にする、メルカプト基を側鎖に有するポリエステルは、マイケル付加反応の反応点になるため、非常に有用なポリマーである。