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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125434
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】新規吸入剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7048 20060101AFI20240911BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20240911BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20240911BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
A61K31/7048
A61K9/14
A61P31/14
A61K47/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021119508
(22)【出願日】2021-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000163006
【氏名又は名称】興和株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥村 睦男
(72)【発明者】
【氏名】村上 誠一
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA29
4C076BB22
4C076CC35
4C076DD67
4C076FF01
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA14
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA43
4C086MA57
4C086NA13
4C086ZB33
(57)【要約】
【課題】COVID-19の治療薬としての新規な吸入剤を提供する。
【解決手段】イベルメクチンを含有することを特徴とする吸入剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イベルメクチンを含有することを特徴とする吸入剤。
【請求項2】
イベルメクチンの粒子径が0.5~10μmである請求項1記載の吸入剤。
【請求項3】
イベルメクチンを含有することを特徴とする吸入粉末剤。
【請求項4】
イベルメクチンの粒子径が0.5~10μmである請求項3記載の吸入粉末剤。
【請求項5】
イベルメクチンを含有することを特徴とする吸入液剤。
【請求項6】
空気動力学的質量中位径が0.5~10μmであるイベルメクチンを含有する吸入剤。
【請求項7】
空気動力学的質量中位径が0.5~10μmであるイベルメクチンを含有する吸入粉末剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イベルメクチンを含有する吸入剤に関する。
【背景技術】
【0002】
COVID-19(日本名:新型コロナウイルス感染症)は、2019新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)によって発症する感染症である。COVID-19は、2019年11月に中華人民共和国の武漢で発生が確認され、同年12月にWHOに報告された感染症であり、これ以降世界的に感染が拡大している。その症状は、発熱、空咳、疲労、喀痰、息切れ、咽頭痛、頭痛、筋肉痛、関節痛、嗅覚異常、味覚異常などから始まり、重症例では肺炎が重症化して呼吸不全に陥り、死亡の転帰をとるものである。
その感染力、罹患した際の重症化率等未だ不明な点があることに加え、新型であることから有効な治療法も未だ模索中であり、世界中の人々を不安に陥らせている。
これまでに、多数の既存薬物のスクリーニングがなされ、イベルメクチンがSARS-CoV-2感染に基づく疾患、COVID-19の治療薬として期待されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0166354220302011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、SARS-CoV-2感染に基づく疾患、COVID-19の予防及び/又は治療のための新たな医薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
イベルメクチンは、本邦において、腸管糞線虫症及び疥癬の治療薬として、錠剤が用いられている。本発明者らは、SARS-CoV-2の感染抑制又はCOVID-19の予防及び/又は治療に効果的な薬物として考えられるイベルメクチンを最もSARS-CoV-2が感染する部位に適用することを着想した。その結果、イベルメクチンを下気道に直接適用できる吸入剤とすることにより、当該目的が達成できることを見出し、さらに、イベルメクチンの粒子径、より具体的には、空気動力学的質量中位径を0.5~10μmとすることにより、下気道に直接イベルメクチンを効率よく供給可能な吸入剤が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、イベルメクチンを含有する吸入剤を提供するものである。また、イベルメクチンの空気動力学的質量中位径を0.5~10μmとすると、イベルメクチンが下気道に効率よく到達する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の吸入剤によれば、SARS-CoV-2の感染抑制又はCOVID-19の予防及び/又は治療に効果的な薬物として考えられるイベルメクチンを下気道に直接供給することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の吸入剤は、イベルメクチンをエアゾールとして吸入し、下気道に適用する製剤である。
【0009】
本発明で用いるイベルメクチンは、イベルメクチンとして、少なくともイベルメクチンB1a又はイベルメクチンB1bのいずれかを含めばよく、イベルメクチンB1aとイベルメクチンB1bのいずれも含む混合物が好ましく、イベルメクチンB1aを90%以上、イベルメクチンB1bを10%未満含有する混合物がより好ましい。
【0010】
本発明において、イベルメクチンは公知の化学物質であるところ、市販品を購入することやアベルメクチンを選択的触媒水素化し、次いで触媒の除去する方法等により製造することにより入手することができる。
【0011】
本発明で用いるイベルメクチンを下気道(気管、気管支、肺臓)に適用するには、イベルメクチンの下気道への到達性の観点から、その粒子径を0.5~10μmとするのが好ましく、0.5~8μmとするのがより好ましく、0.5~6μmとするのが更に好ましい。具体的には、イベルメクチンの空気動力学的質量中位径を0.5~10μmとするのが好ましく、0.5~8μmとするのがより好ましく、0.5~6μmとするのが更に好ましい。ここで、イベルメクチンの粒子径は、粉末の場合はイベルメクチン含有粉末の粒子径であり、液剤の場合はイベルメクチン含有噴霧液滴の粒子径である。この粒子径は、粉末の場合は粉末製造時の粉砕、篩過などによって調整することができる。噴霧液滴の場合は、液剤を吸入する際に用いるネブライザの形態(ジェット式、超音波式、メッシュ式等)に応じて、適宜調整すればよい。
【0012】
本発明の吸入剤の形態としては、吸入粉末剤、吸入液剤、吸入エアゾール剤が挙げられるが、特に限定されるものではない。本発明の吸入剤を使用するに際しては、吸入投与のために適切な器具又は装置を使用するか、吸入用の器具を兼ね備えた容器に充填すればよい。
【0013】
吸入粉末剤は、吸入量が一定となるように調製したイベルメクチン含有粉末のエアゾールとして吸入する製剤であり、イベルメクチン含有粉末は、好ましくは0.5~10μm、より好ましくは0.5~8μm、更に好ましくは0.5~6μmの粒子径を有する粉末として調製すればよく、具体的には、好ましくは0.5~10μm、より好ましくは0.5~8μm、更に好ましくは0.5~6μmの空気動力学的質量中位径を有する粉末として調製すればよい。
イベルメクチン含有粉末には、糖や糖アルコールを添加剤として用いることもできる。ここで、糖としては、乳糖水和物、白糖、ブドウ糖等を挙げることができ、糖アルコールとしては、エリスリトール、イソマルト、ラクチトール、マルチトール、マンニトール、ソルビトール、キシリトール等を挙げることができる。また、イベルメクチン含有粉末としては、特開2019-69906号公報に記載のイベルメクチンと乳酸・グリコール酸共重合体を含む凍結乾燥物も挙げることができる。
吸入粉末剤の具体例としては、ドライパウダー吸入器(Dry Powder Inhaler;以下、DPIと略する)を挙げることができる。本発明の吸入粉末剤に用いるデバイスはDPIとして通常用いられるものを使用することができる。例えばカプセルを用いるデバイスとして、モノヘラー、ハンディヘラー、ブリーズヘラー、フローキャプス等が挙げられる。またアルミニウムのブリスターを用いるディスクヘラー、ディスカス、エリプタ等が挙げられる。
粉末を容器に充填したリザーバ型のデバイスとして、タービュヘイラー、クリックヘラー、スイングヘラー、ツイストヘラーなどが挙げられる。
【0014】
吸入液剤は、ネブライザ等により吸入する液状の吸入製剤である。イベルメクチンを適当な溶剤を用いて、溶解又は懸濁し、溶液又は懸濁液として調製すればよい。調製時、等張化剤やpH調節剤等を添加することができる。
吸入液剤の液滴は、ネブライザの形態(ジェット式、超音波式、メッシュ式等)に応じて、好ましくは0.5~10μm、より好ましくは0.5~8μm、更に好ましくは0.5~6μmの液滴に調整すればよく、具体的には空気動力学的質量中位径を好ましくは0.5~10μm、より好ましくは0.5~8μm、更に好ましくは0.5~6μmの液滴に調整すればよい。
本発明の吸入液剤に用いるデバイスはネブライザとして通常用いられるものを使用することができる。例えば圧縮空気で薬液を霧状にするタイプ(ジェット式)、超音波振動子の振動を利用して薬液を霧状にするタイプ(ジェット式)、振動などによって薬液をメッシュの穴から押し出して霧状にするタイプ(メッシュ式)などが挙げられる。
【0015】
吸入エアゾール剤は、容器に充填した噴射剤と共に、一定量のイベルメクチンを噴霧し得る定量噴霧式吸入剤である。
吸入エアゾール剤により噴霧される噴霧液滴は、イベルメクチン(イベルメクチンと乳酸・グリコール酸共重合体を含む凍結乾燥物を含む)の溶液又は懸濁液の組成、充填する噴射剤や容器の部材であるノズル形状等の調整によって、好ましくは0.5~10μm、より好ましくは0.5~8μm、更に好ましくは0.5~6μmの噴霧液滴に調整すればよく、具体的には空気動力学的質量中位径を好ましくは0.5~10μm、より好ましくは0.5~8μm、更に好ましくは0.5~6μmの液滴に調整すればよい。
吸入エアゾール剤は、イベルメクチン(イベルメクチンと乳酸・グリコール酸共重合体を含む凍結乾燥物)を適当な溶剤を用いて、溶解又は懸濁し、溶液又は懸濁液を調製し、液状の噴射剤と共に耐圧性の容器に充填し、定量バルブを装着することにより製することができる。溶液又は懸濁液を調製するに際し、分散剤や安定化剤等を添加することができる。
吸入エアゾール剤の具体例としては、加圧噴霧式定量吸入器(Metered Dose Inhaler)を挙げることができる。
【0016】
本発明の吸入剤は、イベルメクチンの適応症である腸管糞線虫症及び疥癬に加えて、SARS-CoV-2の感染抑制薬、COVID-19の予防及び/又は治療薬として用いることができる。その投与量は、患者の体重、年齢、性別、症状などによって異なるが、通常は成人に対して、イベルメクチンとして1日1~20mgの範囲が挙げられる。また、本発明の吸入剤をSARS-CoV-2の感染抑制薬、COVID-19の予防及び/又は治療薬として用いる場合、ネルフィナビルなどの抗HIV剤やセファランチンと併用することもできる。
【実施例0017】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0018】
実施例1
イベルメクチンをジェットミルで粉砕し、粉砕物を得た。得られた粉砕物の平均粒子径D50は2.0μmであった。粉砕物と乳糖水和物をイベルメクチンの濃度が10%となるように乳糖水和物と混合し、吸入粉末剤を得た。処方を表1に示した。また、得られた粉末0.03gをカプセルに充填し、吸入粉末剤充填カプセルを製造した。
【0019】
比較例1
未粉砕のイベルメクチンと乳糖水和物をイベルメクチンの濃度が10%となるように乳糖水和物と混合し、吸入粉末剤を得た。処方を表1に示した。また、得られた粉末0.03gをカプセルに充填し、吸入粉末剤充填カプセルを製造した。
【0020】
試験例1
実施例1、比較例1で得た吸入粉末剤について、吸入用器具であるデバイスを用いた空気動力学的性質の評価をするため、微粒子量(FPF)(%)及び空気動力学的質量中位径を測定した。微粒子量(FPF)(%)及び空気動力学的質量中位径は、日本薬局方 第十七改正第一追補の吸入剤の空気動力学的粒度測定法に準拠して、装置1のマルチステージリキッドインピンジャーを用いて評価した。
その結果、粉砕したイベルメクチンを用いた実施例1の吸入粉末剤は、微粒子量(FPF)(%)が29.9%であり、また空気動力学的質量中位径は2.8μmであったことから肺深部までイベルメクチンを到達させることが可能と考えられた。未粉砕のイベルメクチンを用いた比較例1の吸入粉末剤は、微粒子量(FPF)(%)が3.5%であり、また空気動力学的質量中位径は10μmより大きかったことから肺深部までイベルメクチンを到達させることは困難と考えられた
【0021】
【表1】
【0022】
実施例2
イベルメクチンをエチルアルコールで溶解し、リン酸緩衝液及び水を加え、イベルメクチンの最終的な濃度が0.5%となるように調製して吸入液剤を製造した。
【0023】
試験例2
実施例2で得られた吸入液剤について、デバイスとしてネブライザを用いて、目視にて薬剤が霧状に噴霧されるかを確認した。さらに霧状とした薬剤を採取し、顕微鏡で粒子径を確認した。実施例2の液剤は霧状に噴霧され、粒子径は2~6μmであることが確認できた。
したがって、実施例2の薬液は吸入液剤として適切なものであると判断した。