(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125442
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】内燃機関のバルブタイミング制御装置
(51)【国際特許分類】
F01L 1/344 20060101AFI20240911BHJP
F01M 9/10 20060101ALI20240911BHJP
F16H 1/32 20060101ALN20240911BHJP
【FI】
F01L1/344
F01M9/10 K
F16H1/32 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021128663
(22)【出願日】2021-08-05
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100205682
【弁理士】
【氏名又は名称】高嶋 一彰
(72)【発明者】
【氏名】山中 淳史
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 秀平
【テーマコード(参考)】
3G018
3G313
3J027
【Fターム(参考)】
3G018AB02
3G018BA32
3G018CA13
3G018DA68
3G018DA71
3G018DA83
3G018FA01
3G018FA07
3G018GA07
3G313BC10
3G313BC20
3G313BD38
3G313FA08
3J027FA21
3J027FB01
3J027GB03
3J027GC03
3J027GC22
3J027GD04
3J027GD08
3J027GE29
(57)【要約】
【課題】減速機の内部に供給された潤滑油による良好な潤滑性と排出性を確保し得る内燃機関のバルブタイミング制御装置を提供する。
【解決手段】偏心軸部材21が回転されることによってスプロケット1に対して従動部材9を相対回転させる減速機13と、偏心軸部材の外周に配置されるボールベアリング22と、スプロケットに固定され、ボールベアリングの外輪22bを軸方向から覆うフロントプレート15と、従動部材のカムボルト挿入孔9bの内周面に形成されて、潤滑油を減速機内に供給する潤滑油導入孔28と、フロントプレートの外周部に形成された円環状凹部26の底壁に6つの潤滑油排出孔32が貫通形成されて、この各潤滑油排出孔の総断面積Dが潤滑油導入孔の断面積D1よりも大きく形成されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクシャフトからの回転力が伝達される駆動回転体と、
カムシャフトに結合されて、前記駆動回転体と相対回転可能な従動回転体と、
前記駆動回転体と前記従動回転体との間に設けられ、入力軸が回転することによって前記駆動回転体に対して前記従動回転体を相対回転させる減速機と、
を有する内燃機関のバルブタイミング制御装置であって、
前記入力軸の外周に配置される転がり軸受と、
前記駆動回転体に固定され、前記転がり軸受の外輪を軸方向から覆うカバー部材と、
前記従動回転体の前記転がり軸受の内輪よりも径方向の内側に設けられて、内燃機関へ潤滑油を供給する供給通路と連通する潤滑油導入孔と、
前記カバー部材に貫通形成された複数の潤滑油排出孔であって、総断面積が前記潤滑油導入孔の断面積よりも大きい前記複数の潤滑油排出孔と、
前記転がり軸受の前記内輪と外輪の間を介して前記潤滑油導入孔と前記複数の潤滑油排出孔とを連通させる潤滑油通路と、
を備えたことを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関のバルブタイミング制御装置であって、
前記カバー部材は、前記転がり軸受側の内面に凹部が形成され、
前記凹部の底壁に前記複数の潤滑油排出孔が貫通形成されていることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の内燃機関のバルブタイミング制御装置であって、
前記減速機は、前記駆動回転体の内周に形成された環状の内歯と、前記内歯と噛み合う噛み合い部材とを有し、
前記凹部は、少なくとも一部が前記内歯の歯底面と前記噛み合い部材との間よりも径方向の外側に位置していることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
【請求項4】
請求項2に記載した内燃機関のバルブタイミング制御装置であって、
前記凹部は、前記カバー部材の壁部に前記転がり軸受の外輪を囲むような円環状に形成されていることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の内燃機関のバルブタイミング制御装置であって、
前記円環状の凹部の外周縁に、径方向外側へ凹んだ複数の凹溝が周方向に所定間隔をおいて設けられ、
前記潤滑油排出孔は、前記凹部の前記各凹溝が位置する部位に形成されていることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の内燃機関のバルブタイミング制御装置であって、
前記カバー部材は、複数のボルトによって前記駆動回転体に固定され、
前記各ボルトは、周方向において前記複数の凹溝の間にそれぞれ配置されていることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
【請求項7】
請求項1に記載の内燃機関のバルブタイミング制御装置であって、
前記カバー部材は、前記転がり軸受の外輪の回転軸方向で対向する端面との間に隙間が形成されていることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
【請求項8】
請求項1に記載の内燃機関のバルブタイミング制御装置であって、
前記減速機は、前記駆動回転体の内周に形成された環状の内歯と、該内歯と噛み合う噛み合い部材を有し、
前記複数の潤滑油排出孔は、前記内歯の歯底面よりも径方向の内側に設けられていることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
【請求項9】
請求項8に記載の内燃機関のバルブタイミング制御装置であって、
前記複数の潤滑油排出孔は、前記転がり軸受の外輪よりも径方向の外側に設けられていることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
【請求項10】
クランクシャフトからの回転力が伝達される駆動回転体と、
カムシャフトに結合されて、前記駆動回転体と相対回転可能な従動回転体と、
前記駆動回転体と前記従動回転体との間に設けられ、入力軸が回転することによって前記駆動回転体に対して前記従動回転体を相対回転させる減速機と、
を有する内燃機関のバルブタイミング制御装置であって、
前記入力軸の外周に配置される転がり軸受と、
前記駆動回転体に固定され、前記転がり軸受の外輪を軸方向から覆うカバー部材と、
前記従動回転体の前記転がり軸受の内輪よりも径方向の内側に設けられて、内燃機関へ潤滑油を供給する供給通路と連通する潤滑油導入孔と、
前記カバー部材に貫通形成された複数の潤滑油排出孔と、
前記転がり軸受の前記内輪と外輪の間を介して前記潤滑油導入孔と前記複数の潤滑油排出孔とを連通させる潤滑油通路と、
を備え、
前記複数の潤滑油排出孔は、前記内燃機関の駆動中に前記潤滑油導入孔から減速機の内部に供給された潤滑油が前記減速機の内部を通って遠心力により外部へ速やかに排出可能な内径にそれぞれ設定されていることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のバルブタイミング制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の内燃機関のバルブタイミング制御装置としては、以下の特許文献1に記載されたものが知られている。このバルブタイミング制御装置は、スプロケットの前端部に円盤状のカバー部材が複数のボルトによって固定されている。このカバー部材は、転がり軸受の一端面を覆うように配置されていると共に、外輪の径方向の外側に複数の潤滑油排出孔が周方向に沿って形成されている。また、転がり軸受の外輪よりも径方向外側には、スプロケットの壁部に形成されたオイル導入孔から減速機の内部に導入された潤滑油を溜めるオイル溜まりが形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許 US9,840,947 B2(FIG4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の従来のバルブタイミング制御装置にあっては、前記各潤滑油排出孔の総断面積がスプロケットのオイル導入孔の断面積よりも小さく形成されている。このため、オイル導入孔から減速機の内部に供給された潤滑油が、駆動時の遠心力によってオイル溜まりなどに溜まり易くなる。これにより、転がり軸受の外輪側やこの外輪の径方向の外側に配置されたギア噛み合い部などが潤滑油に浸された状態になる。
【0005】
したがって、前記転がり軸受やギア噛み合い部などの可動部品が、減速機の内部に溜まった潤滑油の粘性抵抗によって機械効率が低下するおそれがある。
【0006】
本発明は、前記従来の技術的課題に鑑みて案出されたもので、減速機の内部に供給された潤滑油による各可動部品の良好な潤滑性と排出性を確保し得る内燃機関のバルブタイミング制御装置を提供することを一つの目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
好ましい態様の一つとしては、とりわけ、減速機の内部に有する入力軸の外周に配置される転がり軸受と、前記駆動回転体に固定され、前記転がり軸受の外輪を軸方向から覆うカバー部材と、前記従動回転体の前記転がり軸受の内輪よりも径方向の内側に設けられて、内燃機関へ潤滑油を供給する供給通路と連通する潤滑油導入孔と、前記カバー部材に貫通形成された複数の潤滑油排出孔であって、総断面積が前記潤滑油導入孔の断面積よりも大きい前記複数の潤滑油排出孔と、前記転がり軸受の前記内輪と外輪の間を介して前記潤滑油導入孔と前記複数の潤滑油排出孔とを連通させる潤滑油通路と、を備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明の好ましい態様によれば、減速機の内部に供給された潤滑油の可動部品に対する良好な潤滑性と排出性とを確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1実施形態におけるバルブタイミング制御装置の減速機側を縦断面して示す側面図である。
【
図2】本実施形態に供される主要な構成部材を示す分解斜視図である。
【
図4】本実施形態に供されるフロントプレート側からスプロケットと減速機を視た斜視図である。
【
図6】本実施形態に供されるフロントプレート側からスプロケットと減速機を部分的に視た正面図である。
【
図8】本実施形態に供される従動部材とスプロケットをカムシャフト側から見た背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る内燃機関のバルブタイミング制御装置の実施形態を図面に基づいて詳述する。なお、本実施形態では、バルブタイミング制御装置を吸気側に適用したものを示しているが、排気側に適用することも可能である。
〔第1実施形態〕
図1は本実施形態におけるバルブタイミング制御装置の減速機側を縦断面して示す側面図、
図2は本実施形態に供される主要な構成部材を示す分解斜視図、
図3は
図1のA部拡大図、
図4は本実施形態に供されるフロントプレート側からスプロケットと減速機を視た斜視図、
図5は
図3のB-B線断面図である。
【0011】
バルブタイミング制御装置は、
図1及び
図2に示すように、駆動回転体であるタイミングスプロケット1(以下、スプロケット1という。)と、シリンダヘッド01上に軸受ブラケット02を介して回転自在に支持されたカムシャフト2と、スプロケット1とカムシャフト2との間に配置されて、機関運転状態に応じて両者1,2の相対回転位相を変更する位相変更機構3と、を備えている。
【0012】
スプロケット1は、
図1~
図4に示すように、全体が金属圧粉を焼結して得られる焼結金属材によって環状一体に形成されており、断面ほぼL字形状に形成された円環状のスプロケット本体1aと、このスプロケット本体1aの外周に一体に設けられて、歯車部である外歯部1bと、を備えている。
【0013】
スプロケット本体1aは、外周面の円周方向のほぼ60°の間隔位置に6つのボス部1cが突出形成されている。この各ボス部1cは、外面が円弧状に形成されていると共に、内部には後述する6本のボルト7の雄ねじ部が螺着する雌ねじ孔1dがそれぞれ形成されている。なお、スプロケット本体1aは、外周に各ボス部1cを設けることによって全体の外径を大きくすることなく、各ボス部1cを除く全体の外径を小さくできるので、スプロケット本体1aの小型化と軽量化が図れる。
【0014】
スプロケット本体1aは、中央に形成された大径孔の内周面に滑り軸受である軸受凹部10が設けられている。この軸受凹部10は、後述する従動回転体である従動部材9の外周に有するジャーナル部11との間でスプロケット1全体を相対回転可能に軸受けしている。
【0015】
各外歯部1bは、内燃機関のクランクシャフトに有するドリブンギアに巻回された図外のタイミングチェーンから回転力が伝達されるようになっている。
【0016】
なお、本実施形態では、外歯部1bに回転力を伝達する手段として、タイミングチェーンを用いたが、クランクシャフトのドリブンギアを直接、ギア部に構造を変更した外歯部1bに噛み合わせて回転力を伝達させる構成としてもよい。
【0017】
また、スプロケット1に換えて外周にベルトが巻回されるタイミングプーリとすることも可能である。
【0018】
また、スプロケット本体1aは、
図1及び
図3にも示すように、回転軸方向の一端側(前端側)の前端面に環状凹部6が形成されている。
【0019】
この環状凹部6は、スプロケット本体1aの前端面の径方向内側に形成され、平坦状の底面6aと、該底面6a外周縁から軸方向に形成された環状内周面6bと、を有している。
【0020】
底面6aは、その深さが外歯部1bの軸方向の約半分の深さになっている。環状内周面6bは、直径方向の長さdがスプロケット本体1aの外径よりも僅かに大きく形成されている。
【0021】
環状凹部6は、環状内周面6bに対して、後述する減速機13の一部を構成する円環状の環状部材である内歯構成部材5が回転軸方向からインロー(嵌合)される。
【0022】
内歯構成部材5は、環状凹部6に軸方向から嵌合された状態でスプロケット本体1aに各ボルト7によって結合されている。この内歯構成部材5の具体的な構成については後述する。
【0023】
さらに、スプロケット本体1aは、内歯構成部材5と回転軸方向で反対側の他端側(後端側)に、ストッパ機構の一部を構成する第1環状規制部8が一体に設けられている。
【0024】
第1環状規制部8は、
図1~
図3に示すように、スプロケット1を焼結成形する際に一体に形成されて、焼結金属材によって所定肉厚の円環状に形成されている。この第1環状規制部8は、スプロケット本体1aのカムシャフト2側の後端縁から径方向内側に延びた円環状に形成されている。この第1環状規制部8は、外径がスプロケット本体1aの外径とほぼ同一に形成されていると共に、円環板状の内周部8aを有している。この内周部8aは、内歯構成部材5側の環状内側面8gで軸受凹部10のカムシャフト2側の一端部を覆うように配置されている。
【0025】
第1環状規制部8は、内周部8aの内周面の所定位置に2つの円弧状溝部8b、8cを有している。この各円弧状溝部8b、8cは、第1環状規制部8の中心を軸とした約180°の対称位置に設けられ、それぞれの円弧長さがほぼ90°の角度範囲に形成されている。また、両円弧状溝部8b、8cの間、つまり、円周方向の約180°位置には、2つの第1ストッパ凸部8d、8eが設けられている。この各第1ストッパ凸部8d、8eは、ほぼ円弧形状に形成されて、それぞれの円弧角度が約90°に形成されている。この各第1ストッパ凸部8d、8eは、後述するように、円周方向で対向する各端縁に後述する第2環状規制部19の一つ(一方)の第2ストッパ凸部19aが円周方向から当接して従動部材9の相対回転位置を規制するようになっている。
【0026】
また、第1環状規制部8は、外周面のスプロケット本体1aの6つのボス部1cに対応した位置(円周方向の約60°の等間隔位置)に、同じボス部1cが連続して設けられている。この第1環状規制部8側の各ボス部1cの内部には、各雌ねじ孔1dと軸方向で連続する貫通孔8fが形成されている。この貫通孔8fは、雌ねじ孔1dにねじ込まれたボルト7の軸部7a先端の逃げ部として機能するようになっている。なお、各ボルト7は、軸部7aの外周面に雌ねじ孔1dに螺着する雄ねじ部が形成されている。
【0027】
カムシャフト2は、外周に図外の吸気弁を開作動させる一気筒当たり2つの駆動カムを有している。また、カムシャフト2は、
図1に示すように、回転軸方向の一端部2aに軸受ブラケット02を介して軸方向の位置決めを行うフランジ部2bが一体に設けられている。
【0028】
カムシャフト2は、一端部2aの先端面から内部軸心方向に沿って形成された挿入孔2cを有している。この挿入孔2cは、後述するカムボルト14の軸部14bが挿入されると共に、先端側の内周面の一部にカムボルト14の雄ねじ部14cが締結される雌ねじ部2dが形成されている。
【0029】
図6は本実施形態に供されるフロントプレート側からスプロケットと減速機を部分的に視た正面図、
図7は
図6のC-C線断面図である。
【0030】
内歯構成部材5の前端面には、カバー部材であるフロントプレート15が設けられている。このフロントプレート15は、
図1~
図3に示すように、例えば鉄系金属板を円盤状にプレス成形で打ち抜き加工されたものであって、内歯構成部材5の前端面にボルト固定される外周部位15aと、該外周部位15aよりも径方向内側であって、後述する保持器24と軸方向で重なる中央部位15bと、該中央部位15bよりも径方向内側であって、中央部位15bよりも軸方向へカムシャフト2と反対側へオフセット変形した内周部位15cと、を有している。
【0031】
外周部位15aは、円周方向の等間隔位置に6つのボルト挿入孔15dが貫通形成されている。この各ボルト挿入孔15dは、スプロケット本体1aの各雌ねじ孔1dに対応して形成されて、前述した6本のボルト7の軸部7aが挿入される。
【0032】
中央部位15bは、外周部位15aと同一平面状に形成され、カムシャフト2側の内側面が後述するボールベアリング22の外輪22bの一端面に微小隙間C1を持って対向していると共に、保持器24の後述するケージ部24bの先端面と微小隙間Cを介して対向配置されている。
【0033】
内周部位15cは、中央部位15bからカムシャフト2と反対側へクランク凸状に折曲変形していると共に、中央に大径な貫通孔15eが形成されている。
【0034】
そして、外周部位15aの中央部位15b側の位置には、
図6及び
図7にも示すように、カムシャフト2側の内周面に円環状の凹部26が形成されている。この円環状凹部26は、フロントプレート15をプレス成形する際に一緒に成形されたもので、カムシャフト2と軸方向の反対側へ押し出して成形したものである。円環状凹部26は、径方向の幅Wが後述する保持器24の先端部を軸方向から覆うような大きさに形成されて、円周方向でほぼ均一幅に形成されている。また、この円環状凹部26の外周縁には、
図1~
図4に示すように、6つの凹溝27がフロントプレート15の周方向のほぼ等間隔位置(ほぼ60°位置)に形成されている。この6つの凹溝27は、フロントプレート15をプレス成形する際に円環状凹部26とともに一緒に成形されたもので、外形が山形の半円弧状に形成されている。つまり、各凹溝27は、それぞれフロントプレート15の径方向の外方に(外周面方向)に向かって突出した半円弧状に形成されている。
【0035】
さらに、円環状凹部26の底壁には、複数の(本実施形態では6つの)潤滑油排出孔32が貫通形成されている。この各潤滑油排出孔32は、各凹溝27の形成位置と対応した位置に形成されていると共に、それぞれ内径が均一に設定されている。そして、この6つ全ての潤滑油排出孔32の総断面積D(mm2)は、後述する従動部材9に形成された潤滑油導入孔28の開口断面積D1(mm2)よりも大きく形成されている。
【0036】
また、フロントプレート15は、外周部位15aに6つのボルト挿入孔15dが貫通形成されている。この各ボルト挿入孔15dは、内歯構成部材5を介してフロントプレート15を内歯構成部材5とスプロケット本体1aに結合する6本のボルト7のそれぞれの軸部7aが挿入されるようになっている。また、この各ボルト挿入孔15dは、外周部位15aの周方向で隣接する凹溝27の間に形成されている。
【0037】
内歯構成部材5は、
図1~
図5に示すように、スプロケット本体1aとは別体に設けられて、全体が鋼材などの比較的硬度の高い金属材によって環状一体に形成されている。内歯構成部材5は、
図1に示すように、その径方向の幅長さLが環状凹部6の底面6aの径方向の幅長さよりも大きく形成されて、環状凹部6内に嵌合した際に内周部が軸受凹部10の内周面より内側に突出している。軸方向の幅長さL1は、環状凹部6の底面6aまでの深さよりも大きく形成されて、嵌合した際に軸方向のカムシャフト2と反対側の端部が環状凹部6の環状内周面6bから軸方向に突出している。内歯構成部材5は、これら径方向の幅長さLや軸方向の幅長さL1によって十分な剛性が確保されている。また、内歯構成部材5の外径(後述する径方向嵌合面5cの外径)が、環状凹部6の環状内周面6bの内径dとほぼ同じか僅かに大きく形成されている。
【0038】
内歯構成部材5は、内周面の軸方向沿って形成された複数の内歯5aと、軸方向のカムシャフト2側の一側面であって、環状凹部6の底面6aに軸方向から当接する軸方向当接面5bと、この軸方向当接面5bよりも径方向外側で環状凹部6の環状の内周面6bに軸方向から嵌合する径方向嵌合面5cと、を有している。
【0039】
各内歯5aは、内周面の全体に波形状に形成されて、それぞれの円弧状の内面で後述する複数の噛み合い部材であるローラ23を回転可能に噛み合い保持している。内歯5aには、例えば、この各内歯5aの切削加工後に高周波焼き入れなどの一般的な熱処理が施されている。
【0040】
軸方向当接面5bは、平坦状の規制面として形成されて、内歯構成部材5が環状凹部6に軸方向から嵌合した際に、環状凹部6の底面6a全体に密着状態に当接する。
【0041】
径方向嵌合面5cは、
図1~
図3に示すように、外周面全体が平坦な円環状に形成されて、内歯構成部材5が環状凹部6に軸方向から嵌合した際に、環状凹部6の内周面6bに対して機械的な嵌め合いである中間嵌めによって軸方向から嵌合している。ただし、中間嵌めとしては、しまり嵌めに近い圧入嵌合であってもよい。また、この径方向嵌合面5cの環状凹部6の内周面6bへの嵌合(圧入嵌合も含む)によってスプロケット1と内歯構成部材5との同軸性を確保している。
【0042】
内歯構成部材5は、円周方向のスプロケット本体1aの雌ねじ孔1dと対応した位置に、各ボルト7の軸部7aが挿入される6つのボルト挿入孔5eが軸方向に沿って貫通形成されている。したがって、径方向嵌合面5cが内周面6bに嵌合する位置が、ボルト挿入孔5eの形成位置よりも外側になっている。
【0043】
従動部材9は、
図1~
図3に示すように、減速機13の保持器24とは別体に形成されている。従動部材9は、金属粉末を圧縮して焼結成形される焼結金属によって全体が肉厚な円盤状に形成されている。具体的には、従動部材9は、円板状本体9aと、該円板状本体9aの中央に貫通形成されたカムボルト挿入孔9bと、円板状本体9aのカムシャフト2側の後端面に形成され、第1環状規制部8と共にストッパ機構を構成する第2環状規制部19と、円板状本体9aの外周側に一体に設けられて、軸受凹部10に嵌合するジャーナル部11と、を有している。
【0044】
円板状本体9aは、第2環状規制部19の内周側、つまり第2環状規制部19によって囲まれた内側に、カムシャフト2の一端部2aが軸方向から嵌合される円形状の嵌合溝9cが形成されている。また、嵌合溝9cの底面所定位置には、カムシャフト2に設けられた図外の位置決め用のピンが挿入される位置決め用のピン孔9dが貫通形成されている。また、円板状本体9aは、カムシャフト2側の外周縁に軸方向へ突出した環状突部9eが形成されている。この環状突部9eは、外周面がジャーナル部11の軸方向他端部を構成していると共に、内周面と第2環状規制部19との間に円環状凹部9fが形成されている。
【0045】
カムボルト挿入孔9bは、内径がカムシャフト2の挿入孔2cの内径よりも小さく形成されて、カムボルト14の軸部14b(中間軸部14g)が僅かな隙間をもって挿入可能になっている。
【0046】
図8は減速機をカムシャフト側から視た正面図、
図9は
図8のD部拡大図である。
【0047】
また、カムボルト挿入孔9bの内周面の一部には、潤滑油導入孔28が形成されている。この潤滑油導入孔28は、後述する潤滑油供給機構の一部を構成するもので、
図8及び
図9に示すように、カムボルト挿入孔9bの内周面を円弧状に切欠形成されている。つまり、潤滑油導入孔28は、従動部材9のボールベアリング22の内輪22aよりも径方向の内側、つまりカムボルト14の軸部14b側に設けられており、従動部材9の軸方向の一端部がカムシャフト2の一端部2a前端面に形成された径方向通路部4bに開口している一方、軸方向の他端部が減速機13の内部に開口している。
【0048】
第2環状規制部19は、
図2に示すように、外周縁の所定位置に、回転中心Pから径方向外側に向かって突出した一対の第2ストッパ凸部19a、19bが一体に設けられている。この各第2ストッパ凸部19a、19bは、回転中心Pを軸とした180°の対称位置に設けられて、第1環状規制部8の各円弧状溝部8b、8c内に配置されている。各第2ストッパ凸部19a、19bは、それぞれの基部(根元部)の両側縁に応力集中を低減させる円弧状の切欠溝が形成されている。
【0049】
従動部材9が、スプロケット1に対して
図2中、左回転方向へ最大に相対回転した際に、一方の第2ストッパ凸部19aの周方向の一側縁が、一方の第1ストッパ凸部8dの対向側縁に当接してそれ以上の相対回転を機械的に規制する。また、従動部材9が
図2中右方向へ最大に相対回転した際に、一方の第2ストッパ凸部19aの周方向の他側縁が、他方の第1ストッパ凸部8eの対向側縁に当接してそれ以上の相対回転を機械的に規制するようになっている。
【0050】
なお、従動部材9が、
図2中、左方向へ相対回転して一方の第2ストッパ凸部19aの一側縁が一方の第1ストッパ凸部8eの対向側縁に当接した際には、他方の第2ストッパ凸部19bは所定の隙間をもって他方の第1ストッパ凸部8eの対向側縁に当接しない。また、従動部材9が、図中右方向へ相対回転して一方の第2ストッパ凸部19aの他側縁が他方の第1ストッパ凸部8eの対向側縁に当接した際には、他方の第2ストッパ凸部19bは所定の隙間をもって一方の第1ストッパ凸部8dの対向側縁には当接しないようになっている。
【0051】
従動部材9は、嵌合溝9cにカムシャフト2の一端部2aが軸方向から嵌合配置した状態で、カムボルト14によって保持器24と一緒にカムシャフト2の一端部2aに軸方向から締め付け固定されるようになっている。
【0052】
滑り軸受機構は、
図1~
図3に示すように、スプロケット本体1aの内周面に形成された円環状の軸受凹部10と、従動部材9の外周に設けられ、軸受凹部10の内部に配置されたジャーナル部11と、から構成されている。
【0053】
軸受凹部10は、カムシャフト2側の軸方向一端部が第1環状規制部8によって覆われて、内歯構成部材5側の他端部が開口している。この開口部は、内歯構成部材5の軸方向当接面5bによって閉じられている。これにより、軸受凹部10は、環状内側面8gから軸方向当接面5bまでスプロケット本体1aの内周面全体に形成されている。また、軸受凹部10は、
図1に示すように、その一部が各外歯部1bの形成位置と軸方向でオーバーラップするように配置されている。
【0054】
軸受凹部10は、円環状の底面が滑り軸受面10aになっていると共に、カムシャフト2側の一端部、つまり、第1環状規制部8の環状内側面8gが滑り軸受面10aから径方向へほぼ直角に形成されている。
【0055】
ジャーナル部11は、円板状本体9aの外周部からフロントプレート15側へ突出して、断面形状が軸受凹部10の断面形状とほぼ相似形の矩形状に形成されている。このジャーナル部11は、軸受凹部10が各外歯部1bと軸方向でオーバーラップしていることから、同じく一部が各外歯部1bと軸方向でオーバーラップ配置されている。
【0056】
従動部材9のカムシャフト2と反対側の内端面には、ジャーナル部11で囲まれた円盤状溝部9gが形成されている。ジャーナル部11は、環状の外周面が軸受凹部10の滑り軸受面10a全体に摺動可能になっている。これによって、ジャーナル部11が、軸受凹部10を介してスプロケット1全体を軸受するプレーン軸受として機能している。
【0057】
ジャーナル部11は、軸方向のフロントプレート15側の一端面11aが内歯構成部材5の軸方向当接面5b対して微小隙間Cをもって対向配置されている。ジャーナル部11は、軸方向当接面5bによって、従動部材9全体がカムシャフト2と反対方向の軸方向への移動が規制されるようになっている。換言すれば、軸方向当接面5bが従動部材9の規制面として機能するようになっている。
【0058】
また、ジャーナル部11は、軸方向の第1環状規制部8側の他端部である環状突部9eの先端面が第1環状規制部8の環状内側面8gに摺動可能になっている。この第1環状規制部8の環状内側面8gが、スプロケット1の傾動時において他端部である環状突部9eの先端面に当接して他方のスラスト移動を規制するようになっている。
【0059】
カムボルト14は、
図1~
図3に示すように、ほぼ円柱状の頭部14aと、この頭部14aに一体に固定された軸部14bと、この軸部14bの外周面に形成されて、カムシャフト2の雌ねじ部2dに螺着する雄ねじ部14cと、を有している。
【0060】
頭部14aは、先端部に六角レンチなどの工具が挿入される六角形の工具穴14dが形成されている。また、頭部14aは、外周面全体に高周波焼き入れなどの熱処理が施されて、硬度が他の部位よりも高くなっている。
【0061】
また、頭部14aの高硬度の外周面には、ニードルベアリング25の各ニードルローラ25aが転動可能に支持されている。座面14fは、カムボルト14の雄ねじ部14cをカムシャフト2の雌ねじ部2dにねじ込んで締結した際に、保持器24の内周部に形成されたボルト孔24cの孔縁よりも外側の対向面に着座するようになっている。
【0062】
軸部14bは、頭部14aとの付け根部、つまり、頭部14aの軸方向の座面14f中央に、大径な中間軸部14gが一体に設けられている。
【0063】
位相変更機構3は、
図1及び
図2に示すように、スプロケット1の前端側に配置された電動モータ12と、この電動モータ12からオルダム継手を介して伝達された回転速度を減速してカムシャフト2に伝達する減速機13と、から主として構成されている。
【0064】
電動モータ12は、いわゆるブラシレスの直流型モータであって、図外のチェーンケースに固定される有底円筒状のモータハウジング16と、このモータハウジング16の内周面に設けられて、内部にコイルなどが収容された図外のモータステータと、コイルの内周側に配置されたモータ軸17と、該モータ軸17の外周に固定された図外の永久磁石と、モータハウジング16のスプロケット1と反対側の前端部に設けられた制御部18と、を有している。
【0065】
モータハウジング16は、ほぼカップ状に形成されて、前端部(底壁)のほぼ中央にモータ軸17が挿入される貫通孔が形成されている。一方、後端部の外周には、径方向外側に突出したフランジ部16aが一体に設けられている。このフランジ部16aは、円周方向の約120°位置には、3つのブラケット片16bが一体に設けられている。また、この3つのブラケット片16bには、図外のチェーンケースに結合するためのボルトが挿通されるボルト挿通孔16cがそれぞれ貫通形成されている。
【0066】
さらに、フランジ部16aの円周方向の各ブラケット片16bの間には、3つのボルト29が挿通する別異の3つのボルト挿通孔が形成されている。各ボルト29は、モータハウジング16に制御部18を結合するようになっている。なお、ブラケット片16bやボルト挿通孔16cなどはさらに増加することも可能である。
【0067】
モータステータは、主として合成樹脂材の樹脂部によって一体に形成されて、内部にコイルがモールドにより固定されている。
【0068】
モータ軸17は、金属材によって円柱状に形成されて、減速機13側の先端部17aの外面には接線方向に沿って形成された図外の二面幅部を有している。また、先端部17aの先端縁側には、二面幅部に対して直交する方向から切り欠かれた一対の嵌着溝が形成されている。この両嵌着溝には、後述する中間部材30のカムボルト14側への移動を規制する図外のストッパ部材が径方向から嵌着固定されている。
【0069】
また、モータ軸17は、先端部17aがカムボルト14の頭部14aに回転軸方向から僅かな隙間をもって近接配置されている。また、先端部17aは、ストッパ部材を含めた全体が工具穴14dの内部に軸方向から挿入可能になっている。
【0070】
ストッパ部材は、Cリング状に形成されて、自身の弾性力によって拡径方向及び縮径方向へ弾性変形可能になっている。
【0071】
制御部18は、合成樹脂材によってボックス状に形成されたハウジング18aを有している。このハウジング18aの内部には、電動モータ12へ給電するバスバーなどの通電回路や、モータ軸17の回転位置を検出する回転センサや、通電量を制御する回路基板などが収容配置されている。また、制御部18は、ハウジング18aに通電回路に電気的に接続される給電用コネクタ18bと図外の信号用コネクタが一体に設けられている。
【0072】
給電用コネクタ18bは、内部の端子が図外のコントロールユニットに雌端子を介して電源であるバッテリーに接続されている。一方、信号用コネクタは、内蔵された端子がコントロールユニットに雌端子を介して接続され、回転センサで検出された回転角信号をコントロールユニットに出力するようになっている。
【0073】
また、モータ軸17の先端部17aには、中間部材30が設けられている。この中間部材30は、減速機13に接続される継手であるオルダム継手の一部を構成するものであって、
図1及び
図2に示すように、モータ軸17の先端部17aに固定される筒状基部31を有している。この筒状基部31は、円形状の外面の両側、つまり円周方向の180°位置に二面幅状の一対の平面部31a、31bを有しており、これによって、外形がほぼ長円状に形成されている。
【0074】
また筒状基部31の中央位置には、モータ軸17の先端部17aが挿入される貫通孔が形成されている。
【0075】
この貫通孔は、円形状の内周面にモータ軸17の回転軸から径方向に沿った二面幅状の一対の対向面が形成されている。これによって、筒状基部31の外形と相似形の径方向に長い長円形状に形成されている。したがって、中間部材30は、長円状の貫通孔を介してモータ軸17の先端部17aに対して径方向へ移動可能になっている。
【0076】
一対の平面部31a、31bの長手方向のほぼ中央位置には、一対の突出部である2つの伝達キー33a、33bが一体に設けられている。各伝達キー33a、33bは、ほぼ矩形板状に形成されて、筒状基部31の2つの平面部31a、31bから径方向外側に向かって突出している。
【0077】
減速機13は、電動モータ12とは軸方向から分離独立して設けられ、各構成部材が従動部材9とフロントプレート15との間に収容配置されている。
【0078】
具体的に説明すれば、減速機13は、
図1~
図3に示すように、スプロケット本体1aの内部に一部が配置された入力軸である円筒状の偏心軸部材21と、該偏心軸部材21の外周に固定されたボールベアリング22と、該ボールベアリング22の外周に設けられ、内歯構成部材5の各内歯5a内に転動自在に保持された複数のローラ23と、従動部材9の円盤状溝部9g側に設けられ、複数のローラ23を転動方向に保持しつつ径方向の移動を許容する保持器24と、から主として構成されている。
【0079】
偏心軸部材21は、カムボルト14の頭部14aの外周に設けられたニードルベアリング25の外周に配置された偏心カム軸21aと、該偏心カム軸21aの電動モータ12側に有する連結部である大径な筒状部21bと、を有している。
【0080】
偏心カム軸21aは、軸方向の長さがニードルベアリング25の軸方向の長さよりも僅かに長い円筒状に形成されている。また、偏心カム軸21aは、周方向全体の肉厚tが厚薄変化して軸心Xが電動モータ12のモータ軸17の軸心Yに対して僅かに偏心している(
図1参照)。
【0081】
筒状部21bは、均一な肉厚でほぼ真円状に形成されていると共に、偏心カム軸21aよりも僅かに肉厚に形成されている。この筒状部21bは、スプロケット本体1aの内部からフロントプレート15の貫通孔15eを介して電動モータ12方向へ突出している。この筒状部21bは、中間部材30と共にオルダム継手を構成している。
【0082】
つまり、筒状部21bは、内部に中間部材30の筒状基部31が軸方向から嵌合可能な二面幅状の嵌合孔21dが形成されている。嵌合孔21dの内周面の円周方向のほぼ180°のそれぞれの位置には、二面幅を構成する三日月状の一対の図外の凸部が設けられている。また、この一対の凸部の
図1中の上下のほぼ中央位置には、筒状基部31の2つの伝達キー33a、33bが回転軸方向から嵌合可能な一対のキー溝21c、21cが形成されている。この各キー溝21c、21cは、各伝達キー33a、33bと相似形の矩形状に形成されて、その深さが各伝達キー33a、33bの幅とほぼ同じ長さに設定されている。
【0083】
一対の凸部は、後述する潤滑油供給機構から供給された潤滑油を電動モータ12(オルダム継手)への過剰な供給を抑制する抑制部として機能するようになっている。
【0084】
ニードルベアリング25は、カムボルト14の頭部14aの外周面14eを転動する複数のニードルローラ25aと、偏心カム軸21aの内周面に形成された段差面に固定されて、内周面にニードルローラ25aを転動可能に保持する複数の溝部を有する円筒状のシェル25bと、を有している。
【0085】
ボールベアリング22は、
図1~
図3に示すように、ニードルベアリング25の径方向位置で全体がほぼオーバーラップする状態に配置されている。また、ボールベアリング22は、内輪22aと、外輪22b、該両輪22a、22bとの間に介装されたボール22cと、該ボール22cを保持するケージ22dと、から構成されている。
【0086】
内輪22aは、偏心カム軸21aの外周面に圧入固定されているのに対して、外輪22bは、軸方向で固定されることなくフリーな状態になっている。つまり、この外輪22bは、軸方向の電動モータ12側の一端面がフロントプレート15の内周部位15cの内側面に微小隙間C1を介して非接触状態になっている。また、外輪22bの軸方向の他端面も、これに対向する保持器24の後述する変形部24dの背面に微小隙間C2を介して非接触状態になっている。これによって、外輪22bは、軸方向の一端面が内周部位15cによって一方の軸方向の移動が規制され、軸方向の他端面が変形部24dによって他方の軸方向の過度な移動が規制されるようになっている。
【0087】
外輪22bは、外周面に各ローラ23が転動可能に当接している。また、外輪22bの外周面と保持器24の各ローラ23の外面との間の一部に、図外の三日月状のクリアランスが形成されている。したがって、ボールベアリング22は、クリアランスを介して全体が偏心カム軸21aの偏心回転に伴って径方向へ偏心動可能になっている。
【0088】
保持器24は、金属板をプレス成形によってほぼ円盤状に形成されて、従動部材9の円盤状溝部9g側の前端側に当接配置されている。つまり、この保持器24は、従動部材9の円板状本体9aの円盤状溝部9gの底面に軸方向から当接する円盤状の基部24aと、該基部24aの外周に一体に設けられて、噛み合い部材である複数のローラ23を保持するケージ部24bと、を有している。保持器24は、全体のプレス成形後に例えば高周波焼き入れなどを行って従動部材9の硬度よりも高くなっている。
【0089】
基部24aは、中央にカムボルト14の軸部14bが挿通されるボルト孔24cが貫通形成され、外周側にはボールベアリング22方向へクランク凹状に折曲変形した円環状の変形部24dが形成されている。
【0090】
ボルト孔24cの孔縁には、従動部材9の潤滑油導入孔28の他端部が開口したU字形状の油溝24eが径方向に沿って形成されている。また、この油溝24eは、ボールベアリング22の内部を介してフロントプレート15の各潤滑油排出孔32に連通可能になっている。
【0091】
また、基部24aは、ボルト孔24cを挟んだ油溝24eと反対側の位置に図外の位置決め用のピンが挿通されるピン挿通孔が貫通形成されている。
【0092】
ケージ部24bは、変形部24dの外周縁から電動モータ12側へ延出した円環状に形成されて、円周方向の等間隔位置に、各ローラ23を保持する複数の保持孔24hが径方向に沿って貫通形成されている。
【0093】
この複数の保持孔24hは、それぞれがケージ部24bの変形部24d側の基端縁から先端縁に向かって細長い長方形状孔に形成されて先端側が閉塞されている。保持孔24hの内部には、前記各ローラ23を転動可能に保持しており、その全体の数(ローラ23の数)が内歯構成部材5の内歯5aの全体の歯数よりも少なくなっており、これによって、所定の減速比を得るようになっている。
【0094】
各ローラ23は、鉄系金属によって形成され、ボールベアリング22の偏心動に伴って径方向へ移動しつつ内歯構成部材5の各内歯5aに嵌入(噛み合い)している。各ローラ23は、各保持孔24hの軸方向の両側縁によって周方向にガイドされつつ径方向へ揺動運動するようになっている。
【0095】
また、各ローラ23は、内歯構成部材5の各内歯5aのうち、
図3に示すように、保持孔24hの軸方向長さの範囲で内歯構成部材5の内歯5aのみに転動可能に配置されている。
【0096】
また、保持器24(ケージ部24b)は、
図1、
図3に示すように、外径が従動部材9のジャーナル部11の外径よりも小さく形成されている。保持器24を従動部材9に軸方向から組み付けた際に、ケージ部24bは、従動部材9側の外周縁がジャーナル部11の内周縁に軸方向から当接するようになっている。
【0097】
減速機13の内部には、潤滑油供給機構を介して潤滑油が供給されて内部の可動部品が潤滑されるようになっている。すなわち、潤滑油供給機構は、カムシャフト2の一端部2a内に形成された油供給通路4と、従動部材9のボルト挿入孔9bの内周に形成された潤滑油導入孔28と、保持器24のボルト孔24cの孔縁から径方向に沿って形成された油溝24eと、油供給通路4に潤滑油を供給する図外のオイルポンプと、を有している。
【0098】
油供給通路4は、カムシャフト2の一端部2a内に軸方向に沿って形成された軸方向通路部4aと、カムシャフト一端部2aの先端面に径方向に沿って形成されて、軸方向通路部4aの下流端に連通する径方向通路部4bと、を有している。軸方向通路部4aは、上流端が内燃機関の内部に潤滑油を供給する供給通路である図外のメインオイルギャラリーに接続されている。径方向通路部4bは、外径側の一端部が軸方向通路部4aに接続され、内径側の他端部が潤滑油導入孔28に連通している。
【0099】
潤滑油導入孔28は、前述したように、ボルト挿入孔9bの内周面に円弧状に形成されて、保持器24の油溝24eに連通していると共に、ボールベアリング22の内部等を介して各潤滑油排出孔32に連通している。また、潤滑油導入孔28は、前述したように、その断面積D1(mm2)が6つの潤滑油排出孔32の総断面積D(mm2)よりも小さく形成されている。換言すれば、6つの潤滑油排出孔32の総断面積Dが、潤滑油導入孔28の断面積D1よりも大きく形成されている。なお、油溝24eは、断面積が潤滑油導入孔28の断面積D1よりも大きく形成されている。
【0100】
オイルポンプは、例えばトロコイド型などの一般的なものであって、内燃機関の内部に連通するメインオイルギャラリーに潤滑油を強制的に供給して油供給通路4及び潤滑油導入孔28などを介して減速機13内に潤滑油を供給するようになっている。
【0101】
前記潤滑油導入孔28から潤滑油排出孔32までの減速機13の内部が潤滑油通路として構成されている。
【0102】
コントロールユニットは、図外のクランク角センサやエアーフローメータ、水温センサ、アクセル開度センサなど各種のセンサ類からの情報信号に基づいて現在の機関運転状態を検出し、これに基づいて機関制御を行っている。また、コントロールユニットは、前記各情報信号や回転位置検出機構に基づいて、電動モータ12のコイルに通電してモータ軸17の回転制御を行い、減速機13によってカムシャフト2のタイミングスプロケット1に対する相対回転位相を制御するようになっている。
〔本実施形態の作用効果〕
以下、本実施形態におけるバルブタイミング制御装置の作用について簡単に説明する。まず、機関のクランクシャフトの回転駆動に伴ってタイミングチェーンを介してタイミングスプロケット1が回転すると、この回転力が内歯構成部材5に伝達される。この内歯構成部材5の回転力が、各ローラ23から保持器24及び従動部材9を経由してカムシャフト2に伝達される。これによって、カムシャフト2の駆動カムが各吸気弁を開閉作動させる。
【0103】
機関始動後の所定の機関運転時には、コントロールユニットからの制御電流が電動モータ12のコイルに通電されてモータ軸17が正逆回転駆動される。このモータ軸17の回転力が、オルダム継手を介して偏心軸部材21に伝達されて減速機13の作動によりカムシャフト2に対し減速された回転力が伝達される。
【0104】
これによって、カムシャフト2が、タイミングスプロケット1に対して正逆相対回転して相対回転位相が変換される。したがって、各吸気弁は、開閉タイミングを進角側あるいは遅角側に変換制御されるのである。
【0105】
このように、吸気弁の開閉タイミングが進角側あるいは遅角側へ連続的に変換されることによって、機関の燃費や出力などの機関性能の向上が図れる。
【0106】
そして、本実施形態では、オイルポンプから吐出された潤滑油は、油供給通路4から潤滑油導入孔28や油溝24eを通って減速機13の内部に流入する。この減速機13内に流入した潤滑油は、
図3の矢印で示すように、駆動中の遠心力によって、ボールベアリング22の内輪22aと外輪22b間や、外周側の保持器24と各ローラ23及び各内歯5aとの間などを通って潤滑する。
【0107】
また、減速機13内に流入した潤滑油は、軸受凹部10とジャーナル部11との間に流入する。つまり、潤滑油は、ジャーナル部11の両端面や外周面と軸受凹部10の滑り軸受面10a及び第1環状規制部8の環状内側面8gなどの間を通って潤滑に供される。
【0108】
これら減速機13内の可動部品を効果的に潤滑した後の潤滑油は、各潤滑油排出孔32から外部へ速やかに排出させることができる。
【0109】
すなわち、6つの潤滑油排出孔32は、その総断面積Dが潤滑油導入孔28の断面積D1よりも大きく設定されている。このため、前述のように、減速機13内に供給された潤滑油は、ボールベアリング22や、内歯5aとローラ23及び保持孔24hの間などを潤滑しつつ各潤滑油排出孔32から外部へ速やかに排出させることができる。つまり、供給された潤滑油は、ボールベアリング22などを潤滑した後は減速機13内に滞留することなく各潤滑油排出孔32から外部に速やかに排出させることができる。
【0110】
したがって、例えば、内燃機関の始動時において、潤滑油の粘性抵抗によってバルブタイミング制御装置の機械的な駆動速度が低下するといった前記公報記載の従来技術の技術的課題を解消することができる。
【0111】
特に、各潤滑油排出孔32は、ボールベアリング22の外輪22bよりも径方向の外側に設けられている。このため、減速機13内に供給された潤滑油は、駆動中の遠心力によってボールベアリング22を潤滑しつつここに貯留されることなく、そのまま外側へ移動して各潤滑油排出孔32から外部に排出される。したがって、ボールベアリング22は、潤滑油の粘性抵抗による駆動抵抗の発生を抑制される。
【0112】
また、本実施形態では、減速機13内を潤滑したあとの潤滑油は、円環状凹部26の内部へ速やかに捕集されて、この円環状凹部26からそのまま各潤滑油排出孔32を通って外部へ速やかに排出される。したがって、潤滑油は、減速機内への滞留が抑制される。
【0113】
しかも、機関駆動時には、減速機13内の潤滑油は、円環状凹部26内に捕集されてこの円環状凹部26が一時的な油溜り部としても機能する。このため、この円環状凹部26の周辺に有する内歯5aとローラ23との間などの潤滑性が良好になる。また、機関停止時には、円環状凹部26に僅かながらも潤滑油を保持できることから、機関始動時に転がり軸受などへの潤滑性も良好になる。
【0114】
すなわち、前記公報記載の従来技術にあっては、各オイル排出孔が、ボールベアリングの外輪よりも径方向外側に有するギア噛み合い部を跨ぐような径方向位置に形成されていることから、コンタミは排出できるものの、減速機内への潤滑油の供給量が少ない場合には潤滑油量が不足して負荷の大きなギア部の潤滑性が低下するおそれがある。
【0115】
しかし、本実施形態では、前述のように、円環状凹部26が一時的な油溜り部として機能するため、この円環状凹部26の周辺に有する内歯5aとローラ23との間などの潤滑性が良好になる。
【0116】
さらに、円環状凹部26の一部が、内歯5aの歯底面とローラ23との間よりも径方向の外側に位置していることから、内燃機関や減速機13の各部材から発生した金属粉などのコンタミを駆動時の遠心力によって円環状凹部26内に溜めることができる。
【0117】
また、円環状凹部26は、フロントプレート15の壁部にボールベアリング22の外輪22bを囲むような円環状に形成されている。これによって、円環状凹部26の内に捕集された潤滑油によって外輪22bを含むボールベアリング22全体の潤滑性が良好になる。
【0118】
さらに、円環状凹部26の外周部に6つの凹溝27が設けられ、この各凹溝27がポケットとして機能することから、円環状凹部26で捕集された潤滑油の貯留量が多くなる。潤滑油の貯留量の増加に伴って、減速機13のボールベアリング22などの潤滑性がさらに向上する。また、ポケットとして機能する各凹溝27内にコンタミを効果的に貯めることが可能になる。
【0119】
また、各ボルト7は、周方向において隣接する凹溝27の間にそれぞれ配置されていることから、ボルト7を設けるスペースの有効利用が図れる。この結果、装置全体の径方向の小型化が図れる。
【0120】
さらに本実施形態によれば、フロントプレート15は、ボールベアリング22の外輪22bの回転軸方向で対向する端面との間に微小隙間C1が形成されており、この微小隙間C1を潤滑油の流路として利用できるので、潤滑油導入孔28から減速機13内に導入された潤滑油をボールベアリング22や円環状凹部26などへ速やかに供給することができる。
【0121】
また、前述したように、駆動中の潤滑油には遠心力が働くことから、この潤滑油が各潤滑油排出孔32よりも外周側に移動して、各内歯5aの歯底面に付着してここに貯留される。したがって、各内歯5aの歯底面とローラ23との間の潤滑性が良好になる。
【0122】
本発明は、前記実施形態の構成に限定されるものではなく、例えば、噛み合い部材としては、前記ローラ23以外に歯車などとすることも可能である。つまり、減速機としてローラ減速機以外の例えば、特開2019-85910号に記載された遊星歯車減速機などに適用することも可能である。
【符号の説明】
【0123】
1…タイミングスプロケット(駆動回転体)、1a…スプロケット本体、1b…外歯部、1c…大径部、1d…雌ねじ孔、2…カムシャフト、2a…一端部、3…位相変更機構、4…油供給通路、4a…軸方向通路部、4b…径方向通路部、5…内歯構成部材、5a…内歯、7…ボルト、7a…軸部、7b…雄ねじ部、9…従動部材(従動回転体)、12…電動モータ、13…減速機、21…偏心軸部材(入力軸)、22…ボールベアリング(転がり軸受)、22a…内輪、22b…外輪、26…円環状凹部(凹部)、27…凹溝、28…潤滑油導入孔、32…潤滑油排出孔、D…潤滑油排出孔の総断面積、D1…潤滑油導入孔の開口断面積。