(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125456
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】二次電池およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/056 20100101AFI20240911BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240911BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20240911BHJP
【FI】
H01M10/056
H01M10/052
H01M10/058
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033287
(22)【出願日】2023-03-06
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】片岡 和樹
(72)【発明者】
【氏名】伊賀 悠太
(72)【発明者】
【氏名】宮本 卓
(72)【発明者】
【氏名】彦坂 英昭
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK03
5H029AK05
5H029AK15
5H029AK16
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM07
5H029AM09
5H029AM12
5H029BJ13
5H029CJ16
5H029DJ12
5H029HJ02
(57)【要約】
【課題】二次電池の質量や体積の増加を抑えつつデンドライトの成長を低減できる二次電池およびその製造方法を提供する。
【解決手段】二次電池は、正極と、負極と、正極と負極とを隔離するセパレータと、を備え、負極は、正極へ向かって順に、活物質を含む活物質層と、リチウムイオン伝導性をもつ固体電解質および電解液を含み活物質層に接する電解質層と、電解質層に接し電解質層を構成する元素の1種以上の元素を含み電解質層の組織と組織が異なる中間層と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、前記正極と前記負極とを隔離するセパレータと、を備える二次電池であって、
前記負極は、前記正極へ向かって順に、
活物質を含む活物質層と、
リチウムイオン伝導性をもつ固体電解質および電解液を含み前記活物質層に接する電解質層と、
前記電解質層に接し前記電解質層を構成する元素の1種以上の元素を含み前記電解質層の組織と組織が異なる中間層と、を含む二次電池。
【請求項2】
満充電状態のときの前記中間層の密度は75%以上である請求項1記載の二次電池。
【請求項3】
前記中間層は、前記正極へ向かって順に、
Liを含み前記電解質層に接する第1の層と、
Liを含み前記第1の層に接する第2の層と、を含み、
満充電状態のときに前記第2の層に含まれるLiに対する、放電時に陽イオンになりやすいLiの割合は、満充電状態のときに前記第1の層に含まれるLiに対する、放電時に陽イオンになりやすいLiの割合よりも大きい請求項1又は2に記載の二次電池。
【請求項4】
前記固体電解質はLi,La及びZrを含むガーネット型の結晶構造を有する酸化物である請求項1又は2に記載の二次電池。
【請求項5】
正極と、負極と、前記正極と前記負極とを隔離するセパレータと、を備える二次電池の製造方法であって、
前記負極は、活物質を含む活物質層と、リチウムイオン伝導性をもつ固体電解質および電解液を含む電解質層と、を含み、
前記活物質層に前記電解質層が接するように、前記正極、前記セパレータ、前記負極を順に積層する工程と、
前記負極から前記正極へ電流を流し前記電解質層に含まれる化合物を還元して、前記電解質層に接し前記電解質層の組織と組織が異なる中間層を前記電解質層と前記正極との間に形成する工程と、を含む二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウムイオンをキャリアとする二次電池およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオンをキャリアとする二次電池では、充電時に主に負極上に金属リチウムが析出する。金属リチウムは析出するときに濃度や電場分布の変動の影響を受けて針状の樹枝状結晶(デンドライト)を形成しやすく、デンドライトの成長は短絡の原因となる。非特許文献1には、単電池(セル)を加圧する装置を二次電池に設け、セルを加圧しながら充放電を行うことで、析出する金属リチウムを緻密化しデンドライトの成長を低減する先行技術が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】松田翔一、「金属リチウム電極の析出溶解反応における拘束圧力の影響」、第62回電池討論会要旨集、公益社団法人電気化学会電池技術委員会、令和3年11月30日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
先行技術はセルを加圧する装置の分だけ二次電池の質量や体積が増加するので、二次電池に含まれる活物質により決定される理論エネルギー密度に比べ、実際のエネルギー密度が著しく低くなるという問題点がある。
【0005】
本発明はこの問題点を解決するためになされたものであり、二次電池の質量や体積の増加を抑えつつデンドライトの成長を低減できる二次電池およびその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために第1の態様は、正極と、負極と、正極と負極とを隔離するセパレータと、を備える二次電池であって、負極は、正極へ向かって順に、活物質を含む活物質層と、リチウムイオン伝導性をもつ固体電解質および電解液を含み活物質層に接する電解質層と、電解質層に接し電解質層を構成する元素の1種以上の元素を含み電解質層の組織と組織が異なる中間層と、を含む。
【0007】
第2の態様は、第1の態様において、満充電状態のときの中間層の密度は75%以上である。
【0008】
第3の態様は、第1又は第2の態様において、中間層は、正極へ向かって順に、Liを含み電解質層に接する第1の層と、Liを含み第1の層に接する第2の層と、を含み、満充電状態のときに第2の層に含まれるLiに対する、放電時に陽イオンになりやすいLiの割合は、満充電状態のときに第1の層に含まれるLiに対する、放電時に陽イオンになりやすいLiの割合よりも大きい。
【0009】
第4の態様は、第1から第3の態様のいずれかにおいて、固体電解質はLi,La及びZrを含むガーネット型の結晶構造を有する酸化物である。
【0010】
第5の態様は、正極と、負極と、正極と負極とを隔離するセパレータと、を備える二次電池の製造方法であって、負極は、活物質を含む活物質層と、リチウムイオン伝導性をもつ固体電解質および電解液を含む電解質層と、を含む。活物質層に電解質層が接するように、正極、セパレータ、負極を順に積層する工程と、負極から正極へ電流を流し電解質層に含まれる化合物を還元して、電解質層に接し電解質層の組織と組織が異なる中間層を電解質層と正極との間に形成する工程と、を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明の二次電池の製造方法によれば、負極から正極へ電流を流して電解質層と活物質層との界面に金属リチウムが析出し、電解質層の中を正極へ向かってデンドライトが成長したときは、デンドライトによって電子伝導性を有することになった電解質層の界面にも金属リチウムは析出する。電解質層の電子伝導性は活物質層の電子伝導性に比べて低いため、電解質層の界面における反応は電子伝導が律速となり、電解質層の界面のリチウムイオン濃度とセパレータの中のリチウムイオン濃度との差が、電解質層がない場合の、負極の界面のリチウムイオン濃度とセパレータの中のリチウムイオン濃度との差に比べて小さくなる。そのため電解質層の界面における還元反応は、電解質層がない場合の負極の界面における還元反応に比べ、電解質層の界面の全体でほぼ均一に生じる。電解質層に含まれる化合物の還元により、電解質層に接し電解質層の組織と組織が異なる中間層が、電解質層の界面の全体に形成される。
【0012】
本発明の二次電池は中間層と電解質層とを有するため、充電時に金属リチウムが中間層に析出する反応が、二次電池に中間層や電解質層がない場合の負極の界面における反応に比べ、中間層の界面の全体でほぼ均一に生じる。従ってデンドライトの成長を低減できる。デンドライトの成長を低減するためにセルを加圧しながら充放電を行う必要がないので、二次電池の質量や体積の増加を抑えつつデンドライトの成長を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】一実施の形態における二次電池の断面図である。
【
図2】ガーネット型の結晶構造を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。
図1は一実施の形態における二次電池10の模式的な断面図である。二次電池10はリチウムイオンをキャリアとする電気化学素子である。二次電池10は順に、正極11、セパレータ14及び負極15を含む。
【0015】
セパレータ14は、正極11と負極15とを隔離するものであれば制限がない。セパレータ14は、(1)電解液に含まれるリチウムイオンが移動する電気絶縁性を有する多孔体が配置されたもの、(2)多孔体および電解液に代えてリチウムイオン伝導性を有する固体電解質が配置されたもの、(3)リチウムイオン伝導性を有するゲル状の電解質が配置されたものやリチウムイオン伝導性を有する固体電解質と電解液とが混ざった混合物が配置されたものが例示される。(1)のセパレータ14の場合、二次電池10はいわゆる液系リチウムイオン電池(液系LIB)である。(2)のセパレータ14の場合、二次電池10はいわゆる全固体電池である。(3)のセパレータ14の場合、二次電池10はいわゆる半固体電池である。
【0016】
正極11は集電体12と活物質層13とが重ね合わされている。集電体12は導電性を有する部材である。集電体12の材料はNi,Ti,Fe及びAlから選ばれる金属、これらの2種以上の元素を含む合金やステンレス鋼、炭素材料が例示される。
【0017】
活物質層13は正極活物質を含む。正極活物質は、遷移金属を有する金属酸化物、硫黄系活物質、有機系活物質が例示される。活物質層13の抵抗を低くするために、活物質層13に導電助剤が含まれていても良い。導電助剤は、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維、Ni、Pt及びAgが例示される。
【0018】
遷移金属を有する金属酸化物は、Mn,Co,Ni,Fe,Cr及びVの中から選択される1種以上の元素とLiとを含む金属酸化物が例示される。例えばLiCoO2,LiNi0.8Co0.15Al0.05O2,LiMn2O4,LiNiVO4,LiNi0.5Mn1.5O4,LiNi1/3Mn1/3Co1/3O4及びLiFePO4が挙げられる。
【0019】
硫黄系活物質は、S,TiS2,NiS,FeS2,Li2S,MoS3及び硫黄-カーボンコンポジットが例示される。有機系活物質は、2,2,6,6-テトラメチルピペリジノキシル-4-イルメタクリレートやポリテトラメチルピペリジノキシルビニルエーテルに代表されるラジカル化合物、キノン化合物、ラジアレン化合物、テトラシアキノジメタン、及び、フェナジンオキシドが例示される。
【0020】
負極15は、正極11へ向かって順に、集電体16、活物質層17、電解質層18及び中間層19を含む。集電体16は導電性を有する部材である。集電体16の材料はNi,Ti,Fe,Cu及びSiから選ばれる金属、これらの元素の2種以上を含む合金やステンレス鋼、炭素材料が例示される。
【0021】
活物質層17は負極活物質を含む。負極活物質は、黒鉛、Li4Ti5O12、Si、SiOx(例えば0.5<X<1.5)、金属リチウム、Li-Al合金、Li-Sn合金、Li-Si合金、Li-Mg合金、Li-Si合金などのリチウム合金、In-Sb合金、Si-Li合金が例示される。活物質層17は、これらの材料からなる粒子の集合体、これらの材料からなる板材、これらの材料が担持された多孔質体が例示される。なかでも炭素系活物質に比べて容量密度が高い金属リチウムや合金系の負極活物質が好適である。活物質層17が粒子の集合体である場合、活物質層17の抵抗を低くするために、活物質層17に導電助剤が含まれていても良い。導電助剤は、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維、Ni、Pt及びAgが例示される。
【0022】
電解質層18はリチウムイオン伝導性を有する固体電解質と電解液とを含む。固体電解質は、硫化物系、酸化物系、水素化物系、ハロゲン化物および有機系から選ばれる1種以上を含む。硫化物系の固体電解質は、結晶性のチオリシコン型、Li10GeP2S12型、アルジロダイト型、Li7P3S11型、Li2S-P2S5に代表されるガラスやガラスセラミック系が例示される。
【0023】
酸化物系の固体電解質は、NASICON型構造を有する酸化物、ペロブスカイト構造を有する酸化物、ガーネット型構造を有する酸化物が例示される。NASICON型構造を有する酸化物は、Li,M(MはTi,Zr及びGeから選ばれる1種以上の元素)及びPを少なくとも含む酸化物、例えばLi(Al,Ti)2(PO4)3及びLi(Al,Ge)2(PO4)3が挙げられる。ペロブスカイト構造を有する酸化物は、Li,Ti及びLaを少なくとも含む酸化物、例えばLa2/3-XLi3XTiO3が挙げられる。
【0024】
水素化物系の固体電解質は、LiBH4とリチウムハライド化合物(LiI,LiBr,LiCl)及びリチウムアミド(LiNH2)との固溶体が例示される。ハロゲン化物の固体電解質はLi3YCl6が例示される。有機系の固体電解質は、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリアクリルニトリルが例示される。
【0025】
本実施形態では、固体電解質はLi,La及びZrを含むガーネット型の結晶構造を有する複合酸化物からなる。10-3S/cm台のイオン伝導率を有し、かつ、金属リチウムに対し耐還元性を有する点が好適だからである。ガーネット型の結晶構造は一般式C3A2B3O12で表される。
【0026】
図2はガーネット型の結晶構造を模式的に示す図である。ガーネット型の結晶構造においてCサイトScは酸素原子Oaと12面体配位し、AサイトSaは酸素原子Oaと8面体配位し、BサイトSbは酸素原子Oaと4面体配位している。固体電解質19は、通常のガーネット型の結晶構造では酸素原子Oaと8面体配位する箇所であって、空隙Vとなる箇所に、Liが存在し得る。空隙Vは、例えばBサイトSb1とBサイトSb2とに挟まれる箇所である。空隙Vに存在するLiは、BサイトSb1を形成する4面体の面Fb1とBサイトSb2を形成する4面体の面Fb2とを含む8面体を構成する酸素原子Oaと、8面体配位している。例えばガーネット型の結晶構造を有するLi
7La
3Zr
2O
12は、CサイトScをLaが占有し、AサイトSaをZrが占有し、BサイトSbと空隙VとをLiが占有し得る。
【0027】
ガーネット型の結晶構造はX線回折により同定できる。ガーネット型の結晶構造はCSD(Cambridge Structural Database)のX線回折ファイルNo.422259(Li7La3Zr2O12)に類似のXRDパターンを有する。固体電解質は、No.422259と比較すると、構成元素の種類やLi濃度などが異なることがあるので、回折角度や強度比が異なることがある。この種の代表的な結晶構造は、立方晶系(空間群Ia-3d(-は回反操作を意味するオーバーラインを示す)、JCPDS:84-1753)である。
【0028】
ガーネット型の結晶構造をもつ固体電解質は、典型的にはLi7La3Zr2O12が挙げられる。固体電解質は、Li7La3Zr2O12の構成元素の一部が他の元素で置換されていても良いし、構成元素を置換することなく他の元素が微量添加されていても良い。他の元素は、Mg,Al,Si,Ca,Ti,V,Ga,Sr,Y,Nb,Sn,Sb,Ba,Hf,Ta,W,Bi,Rb及びランタノイド(Laは除く)からなる群より選択される少なくとも1種の元素が例示される。
【0029】
固体電解質は、例えばLi6La3Zr1.5W0.5O12、Li6.15La3Zr1.75Ta0.25Al0.2O12、Li6.15La3Zr1.75Ta0.25Ga0.2O12、Li6.25La3Zr2Ga0.25O12、Li6.4La3Zr1.4Ta0.6O12、Li6.5La3Zr1.75Te0.25O12、Li6.75La3Zr1.75Nb0.25O12、Li6.9La3Zr1.675Ta0.289Bi0.036O12、Li6.46Ga0.23La3Zr1.85Y0.15O12、Li6.8La2.95Ca0.05Zr1.75Nb0.25O12、Li7.05La3.00Zr1.95Gd0.05O12、Li6.20Ba0.30La2.95Rb0.05Zr2O12が挙げられる。
【0030】
固体電解質は、特にMg及び元素A(AはCa,Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種の元素)の少なくとも一方を含み、各元素のモル比が以下の(1)から(3)を全て満たすもの、又は、Mg及び元素Aの両方を含み、各元素のモル比が以下の(4)から(6)を全て満たすものが好適である。元素Aは、固体電解質のイオン伝導率を高くするため、Srが好ましい。
(1)1.33≦Li/(La+A)≦3
(2)0≦Mg/(La+A)≦0.5
(3)0≦A/(La+A)≦0.67
(4)2.0≦Li/(La+A)≦2.5
(5)0.01≦Mg/(La+A)≦0.14
(6)0.04≦A/(La+A)≦0.17
【0031】
図1に戻って説明する。電解質層18に含まれる電解液は、溶媒にリチウム塩が溶解した溶液である。溶媒は、リチウム塩が溶解するものであれば特に制限がない。溶媒は、炭酸エステル、脂肪族カルボン酸エステル、リン酸エステル、γ-ラクトン類、エーテル類、ニトリル類、スルホラン、ジメチルスルホキシド、フルオラス溶媒、イオン液体が例示される。これらの混合物であっても良い。
【0032】
炭酸エステルは、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート等の環状炭酸エステル、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状炭酸エステルが例示される。
【0033】
脂肪族カルボン酸エステルは、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸エチルが例示される。リン酸エステルはリン酸トリメチルが例示される。γ-ラクトン類はγ-ブチロラクトンが例示される。エーテル類は1,2-ジアルコキシエタン等の鎖状エーテル、1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン等の環状エーテルが例示される。ニトリル類は、アセトニトリル、プロピオニトリルが例示される。フルオラス溶媒は、炭化水素の水素原子をフッ素原子に置換した化合物およびその誘導体である。
【0034】
イオン液体はカチオン及びアニオンからなる化合物であり、常温常圧で液体である。電解液の溶媒がイオン液体であれば電解液の難燃性を向上できる。イオン液体は電位窓が比較的広いので好ましい。イオン液体は、アンモニウム、イミダゾリウム、ピロリジニウム及びピペリジニウムからなる群から選ばれる1種以上をカチオン種とするものが好適である。
【0035】
イオン液体のアニオン成分は特に限定されない。アニオン成分はBF4
-,N(SO2F)2
-等の無機アニオン、B(C6H5)4
-,CH3SO3
-,CF3SO3
-,N(SO2CF3)2
-,N(SO2C4F9)2
-等の有機アニオンが例示される。N(SO2F)2
-を略称で[FSI]-:ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオンと呼び、N(SO2CF3)2
-を略称で[TFSI]-:ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンと呼ぶ場合がある。
【0036】
イオン液体は、N,N-ジエチル-N-メチル-N-(2-メトキシエチル)アンモニウム ビス(フルオロスルホニル)イミド(DEME-FSI)、N,N-ジエチル-N-メチル-N-(2-メトキシエチル)アンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(DEME-TFSI)、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(フルオロスルホニル)イミド(EMI-FSI)、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(EMI-TFSI)、N-ブチル-N-メチルピペリジニウム ビス(フルオロスルホニル)イミド、N-メチル-N-プロピルピペリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、N-メチル-N-プロピルピロリジニウム ビス(フルオロスルホニル)イミド(P13FSI)、N-メチル-N-プロピルピロリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(P13TFSI)が例示される。これらの混合物であっても良い。
【0037】
イオン液体は溶媒和イオン液体であっても良い。溶媒和イオン液体は、例えば、スルホランやスルホラン誘導体などのスルホン系溶媒、又は、テトラグライム等のグライム系溶媒にリチウム塩を溶解させたものが挙げられる。
【0038】
リチウム塩は、正極11と負極15との間のカチオンの授受のために用いられる化合物である。リチウム塩のアニオンは、ハロゲン化物イオン(I-,Cl-,Br-等),SCN-,BF4
-,BF3(CF3)-,BF3(C2F5)-,PF6
-,ClO4
-,SbF6
-,N(SO2F)2
-,N(SO2CF3)2
-,N(SO2C2F5)2
-,B(C6H5)4
-,B(O2C2H4)2
-,C(SO2F)3
-,C(SO2CF3)3
-,CF3COO-,CF3SO2O-,C6F5SO2O-,B(O2C2O2)2
-,RCOO-(Rは炭素数1-4のアルキル基、フェニル基またはナフチル基)等が例示される。リチウム塩はこれらの混合物であっても良い。
【0039】
電解液のリチウム塩の濃度は0.2mol/dm3以上であり、好ましくは0.5mol/dm3以上である。塩濃度が高くなるにつれてキャリアイオンに配位する溶媒分子の数が多くなり未配位溶媒が少なくなるので、固体電解質の界面抵抗を小さくできる。電解液の塩濃度は4.0mol/dm3以下が好ましい。電解液の塩濃度が4.0mol/dm3を超えると、電解液の粘度の増加によってイオン伝導率が小さくなる傾向が著しいからである。
【0040】
電解質層18は、固体電解質の体積と電解液の体積の合計に占める固体電解質の体積の割合が52%以上100%未満であり、好ましくは61%以上100%未満である。固体電解質と電解液との組合せによって固体電解質の界面抵抗を低減できるので、電解質層18のイオンの輸率を、一般的な電解液のイオンの輸率よりも大きくできる。その結果、二次電池10の動作の安定性が増す。
【0041】
固体電解質の含有量(体積%)は、電解質層18の断面から無作為に選択した5000倍の視野を対象に、エネルギー分散型X線分光器(EDS)が搭載された走査電子顕微鏡(SEM)を用いて分析し、求める。分析は、La,Zrの分布を特定したり反射電子像のコントラストを画像解析したりして、固体電解質の面積および電解液の面積を特定する。固体電解質の面積と電解液の面積の合計に占める固体電解質の面積の割合を体積の割合とみなして固体電解質の含有量(体積%)を得る。
【0042】
分析に用いる電解質層18の断面は、研磨面や集束イオンビーム(FIB)を照射して得られた面、イオンミリングによって得られた面である。研磨面は、例えば電解質層18を凍結させ、又は、4官能性のエポキシ系樹脂などに電解質層18を埋め込み固めた後に研磨した面である。
【0043】
電解質層18は、固体電解質を結着するバインダーを含むことができる。バインダーはフッ素化樹脂、ポリオレフィン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、セルロースエーテル、スチレンブタジエンゴムなどのゴム状重合体が例示される。フッ素化樹脂は、フッ化ビニリデン系ポリマー、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニル、4フッ化エチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、4フッ化エチレン・6フッ化プロピレン共重合体、エチレン4フッ化エチレン共重合体、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体が例示される。
【0044】
フッ化ビニリデン系ポリマーは-CH2CF2-を含む限り、特に制限がない。フッ化ビニリデン系ポリマーは、フッ化ビニリデンの単独重合体、フッ化ビニリデンと共重合性モノマーとの共重合体が例示される。共重合性モノマーは、ハロゲン含有モノマー(フッ化ビニリデンを除く)、非ハロゲン系の共重合性モノマーが挙げられる。ハロゲン含有モノマーは、塩化ビニル等の塩素含有モノマー;トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ペルフルオロアルキルビニルエーテル等のフッ素含有モノマーが例示される。非ハロゲン系の共重合性モノマーは、エチレン、プロピレン等のオレフィン;アクリル酸、メタクリル酸、これらのエステル又は塩等のアクリルモノマー;アクリロニトリル、酢酸ビニル、スチレン等のビニルモノマーが例示される。共重合性モノマーの1種または2種以上がフッ化ビニリデンに重合して共重合体を構成する。
【0045】
電解質層18の中にバインダーと電解液とが分離して存在しても良いし、バインダーと電解液とが混在しゲル状になっていても良い。バインダーを溶かす溶媒が電解質層18に含まれていても良い。バインダーは電解液の電位窓よりも電位窓が広いものが好ましい。
【0046】
電解質層18の電気化学安定性の向上などの目的で、電解質層18はポリマーを含むことができる。ポリマーの材料は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリアミド、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、シリコーンが例示される。ポリマーは、粒、繊維、鱗片など種々の形状が採用され得る。
【0047】
中間層19は、電解質層18の組織と組織が異なる層であり電解質層18に接する。中間層19は、電解質層18を構成する化合物(例えば電解液やバインダー)の還元分解による生成物が堆積した層であり、電解質層18を構成する元素の1種以上の元素を含む。中間層19は、正極11へ向かって順に、Liを含み電解質層18に接する第1の層20と、Liを含み第1の層20に接する第2の層21と、を含む。
【0048】
満充電状態のときの中間層19の密度は75%以上が好ましい。中間層19の密度は、SEMによる中間層19の断面画像の画像解析によって求められる。中間層19の断面は、研磨面やFIBを照射して得られた面、イオンミリングによって得られた面である。中間層19の断面画像の面積から、断面画像に現出する気孔の面積を減じた面積を、断面画像の面積で除して密度(%)が得られる。密度の精度を確保するため、中間層19の断面画像の面積は500μm2以上とし、中間層19の断面を5視野以上で画像解析し、それぞれの視野で得た密度の平均を求めることが好ましい。中間層19の密度が75%以上であると中間層19への電解液の染み込みが少なくなり、電解液の過度な分解反応が低減するため容量維持率(サイクル寿命)を確保できる。
【0049】
中間層19の密度は、第2の層21の密度よりも第1の層20の密度が高いのが好ましい。第1の層20は電解質層18に接しているので、第2の層21の密度よりも第1の層20の密度が高いと、電解質層18に含まれる電解液の第1の層20への染み込みが少なくなる。その結果、電解液の過度な分解反応がさらに低減するため、容量維持率の確保に有利である。
【0050】
二次電池10の充電時に金属リチウムは主に第2の層21に析出する。第2の層21に析出した金属リチウムは放電時にリチウムイオンになりやすい。すなわち満充電状態のときに第2の層21に含まれるLiに対する、放電時に陽イオンになりやすいLiの割合は、満充電状態のときに第1の層20に含まれるLiに対する、放電時に陽イオンになりやすいLiの割合よりも大きい。
【0051】
満充電状態のときの、第1の層20の密度は95-99%が好適であり、第2の層21の密度は85-95%が好適である。電解液の染み込みを低減する第1の層20の機能を確保すると共に、充電時に析出した金属リチウムを第2の層21に保持する機能を確保し中間層19の形状の変化や中間層19の拡大を低減するためである。
【0052】
図3を参照して二次電池10の製造方法の一例を説明する。正極活物質(本実施形態ではLiNi
0.5Mn
0.3Co
0.2O
2)、導電助剤、及び、バインダーを溶解した溶液を混合して、活物質層13のためのスラリーを作る。集電体12に塗布したスラリーを乾燥した後、所定の大きさに切り取って、集電体12に活物質層13を積層した正極11を作る。
【0053】
リチウム塩(本実施形態ではLiFSI)を溶媒(本実施形態ではイオン液体P13FSI)に溶解した電解液と固体電解質とポリマー(本実施形態ではシリコーンレジン)とを混合したものに、バインダーを溶解した溶液を混合し、電解質層18のためのスラリーを作る。集電体16に貼り付けた活物質層17(本実施形態ではリチウム金属箔)に塗布したスラリーを乾燥した後、所定の大きさに切り取って、順に集電体16、活物質層17及び電解質層18を含む負極23を作る。
【0054】
集電体12,16にそれぞれ端子(図示せず)を接続し、正極11及びセパレータ13に電解液を浸す。負極23、セパレータ14及び正極11の順に重ね、端子を外に引き出した状態で真空ラミネートにより封止し積層体22を作製する。
【0055】
次に積層体22の負極23から正極11へ電流を流し、電解質層18に含まれる化合物を還元して中間層19(
図1参照)を形成する。例えば積層体22の充放電により中間層19を設ける。積層体22の充放電は定電流-定電圧充放電(CC・CV充電-CC・CV放電)が好適である。定電圧充放電を行うことで、定電流充放電では活物質のうち反応しきれずに残ってしまう部分がある場合に、その部分を少なくできるからである。
【0056】
5サイクルの充放電を行う場合の一例を示すと、25℃の雰囲気下において、充電は毎回、端子電圧が充電上限電圧(例えば4.3V)に達するまで0.2Cの定電流充電を行い、その後は電流値が0.01Cになるまで定電圧充電を行う。第1サイクルと第2サイクルの放電は、端子電圧が3.0Vに達するまで0.2Cの定電流放電を行い、その後は電流値が0.01Cになるまで定電圧放電を行う。第3サイクルの放電は、端子電圧が3.0Vに達するまで0.5Cの定電流放電を行い、その後は電流値が0.01Cになるまで定電圧放電を行う。第4サイクルの放電は、端子電圧が3.0Vに達するまで2Cの定電流放電を行い、その後は電流値が0.01Cになるまで定電圧放電を行う。第5サイクルの放電は、端子電圧が3.0Vに達するまで0.2Cの定電流放電を行い、その後は電流値が0.01Cになるまで定電圧放電を行う。
【0057】
積層体22の負極23の集電体16から正極11の集電体12へ電流を流すと、電解質層18と活物質層17との界面に金属リチウムが析出する。電解質層18の中を正極11へ向かってリチウムのデンドライトが成長したときは、デンドライトによって電子伝導性を有することになった電解質層18とセパレータ14との界面にも金属リチウムは析出する。
【0058】
リチウムイオン伝導性を有する固体電解質と電解液とを含む電解質層18の電子伝導性は、活物質層17の電子伝導性に比べて低い。従って電解質層18とセパレータ14との界面における反応は電子伝導が律速となり、電解質層18とセパレータ14との界面のリチウムイオン濃度とセパレータ14の中のリチウムイオン濃度との差が、電解質層18がない場合の、活物質層17とセパレータ14との界面のリチウムイオン濃度とセパレータ14の中のリチウムイオン濃度との差に比べて小さくなる。
【0059】
そのため電解質層18とセパレータ14との界面における還元反応は、電解質層18がない場合の、活物質層17とセパレータ14との界面における還元反応に比べ、電解質層18とセパレータ14との界面の全体でほぼ均一に生じる。その結果、電解質層18に含まれる化合物の還元により、電解質層18とセパレータ14との界面の全体に、電解質層18の組織と組織が異なる中間層19(
図1参照)が形成される。これにより負極15が順に中間層19、電解質層18、活物質層17及び集電体16を含む二次電池10が得られる。
【0060】
二次電池10はセパレータ14と活物質層17との間に中間層19と電解質層18とを有するため、充電時に金属リチウムが中間層19に析出する反応が、二次電池10に中間層19や電解質層18がない場合の、活物質層17とセパレータ14との界面における反応に比べ、セパレータ14と中間層19との界面の全体でほぼ均一に生じる。従って針状の樹枝状結晶であるデンドライトの成長を低減できる。
【0061】
デンドライトの成長を低減するために先行技術のように単電池(セル)を加圧する装置を二次電池に設け、セルを加圧しながら充放電を行う必要がないので、二次電池10の質量や体積の増加を抑えつつデンドライトの成長を低減できる。二次電池10の質量や体積の増加を抑えられるため、二次電池10のエネルギー密度を確保できる。
【0062】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0063】
実施形態では、二次電池10として、集電体12の片面に活物質層13が設けられた正極層12、及び、集電体16の片面に活物質層17が設けられた負極層16を備えるものを説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば集電体12の両面に活物質層13と活物質層17とをそれぞれ設けた電極層(いわゆるバイポーラ電極)を備える二次電池に、実施形態における各要素を適用することは当然可能である。バイポーラ電極とセパレータ14とを交互に積層しケース(図示せず)に収容すれば、いわゆるバイポーラ構造の二次電池が得られる。
【0064】
実施形態における二次電池10は一例である。他の二次電池10としては、リチウム硫黄電池、リチウム空気電池、リチウム酸素電池などが挙げられる。
【符号の説明】
【0065】
10 二次電池
11 正極
14 セパレータ
15 負極
17 活物質層
18 電解質層
19 中間層
20 第1の層
21 第2の層