IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アイカ工業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125457
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】アフターキュア型成形用フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20240911BHJP
   C09D 133/10 20060101ALI20240911BHJP
   C09D 133/12 20060101ALI20240911BHJP
   C09D 4/02 20060101ALI20240911BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20240911BHJP
   C08F 265/06 20060101ALI20240911BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20240911BHJP
   B29C 45/16 20060101ALN20240911BHJP
【FI】
B32B27/30 A
C09D133/10
C09D133/12
C09D4/02
C09D7/61
C08F265/06
C08F2/44 Z
B29C45/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033289
(22)【出願日】2023-03-06
(71)【出願人】
【識別番号】000100698
【氏名又は名称】アイカ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 秀俊
(72)【発明者】
【氏名】間瀬 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 正章
【テーマコード(参考)】
4F100
4F206
4J011
4J026
4J038
【Fターム(参考)】
4F100AA20B
4F100AK01A
4F100AK01B
4F100AK25A
4F100AK25B
4F100AK45A
4F100AK52B
4F100BA02
4F100CA05B
4F100CA07B
4F100CA30B
4F100DE01B
4F100EH46
4F100EJ08
4F100EJ52
4F100EJ54
4F100EJ86
4F100JB14B
4F100JK06
4F100JK08
4F100JK09
4F100JK12
4F100JL01
4F100YY00B
4F206AD05
4F206AD08
4F206AD27
4F206JA07
4F206JB12
4F206JB22
4F206JF05
4F206JL02
4J011AA05
4J011AC04
4J011CA01
4J011CC10
4J011PA13
4J011PA69
4J011PB22
4J011PC02
4J011PC08
4J011QA23
4J011QA43
4J011QB14
4J011QB25
4J011SA16
4J011UA01
4J011VA01
4J011WA07
4J026AA45
4J026BA28
4J026BA43
4J026BB02
4J026BB03
4J026DA05
4J026DB06
4J026DB36
4J026FA09
4J038FA111
4J038FA251
4J038FA261
4J038FA281
4J038GA01
4J038HA446
4J038JA64
4J038JB28
4J038KA20
4J038MA14
4J038NA01
4J038NA09
4J038NA23
4J038NA26
4J038PA17
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】光硬化前におけるフィルム状態での保存安定性が優れると同時に、表面タックが安定して低く、また光硬化後には十分な耐スチールウール性を有するアフターキュア型の成形用フィルム他を提供する。
【解決手段】プラスチック基材上に光硬化性樹脂組成物の硬化層を有する積層体であって、前記光硬化性樹脂組成物が、(メタ)アクリル系重合体と、重合性官能基を有する化合物と、平均粒子径が1~300nmの表面改質ナノシリカと、光安定剤と、レベリング剤と、光重合開始剤と、を含み、光重合開始剤の配合量がラジカル重合成分とナノシリカの合計100重量部に対し0.5~8.0重量部であることを特徴とするアフターキュア型成形用フィルムである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック基材上に光硬化性樹脂組成物の硬化層を有する積層体であって、前記光硬化性樹脂組成物が、(メタ)アクリル系重合体(A)と、重合性官能基を有する化合物(B)と、平均粒子径が1~300nmの表面改質ナノシリカ(C)と、光安定剤(D)と、レベリング剤(E)と、光重合開始剤(F)と、を含み、前記(E)の配合量がラジカル重合成分と(C)成分の合計100重量部に対し0.5~8.0重量部であることを特徴とするアフターキュア型成形用フィルム。
【請求項2】
前記(D)がラジカル補足剤(d1)と、紫外線吸収剤(d2)を含むことを特徴とする請求項1記載のアフターキュア型成形用フィルム。
【請求項3】
前記(C)の配合量が光硬化性樹脂組成物の固形分全量に対し20~65重量%であることを特徴とする請求項1記載のアフターキュア型成形用フィルム。
【請求項4】
請求項1~3いずれか記載のアフターキュア型成形用フィルムを、金型を用いて賦形後、光硬化性樹脂組成物層を光硬化し、光硬化性樹脂組成物の硬化層とは反対側から溶融樹脂を射出して樹脂成形品を形成することを特徴とするインサート成形品の製造方法。
【請求項5】
請求項1~3いずれか記載のアフターキュア型成形用フィルムを用いたインサート成形品又はアウトモールド成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は成形性に優れるアフターキュア型の成形用フィルム、及びそれを用いた成形品の製造方法と成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル系の光硬化型樹脂は、プラスチックフィルムやプラスチック成形物表面に特別な性能を付与するために多くの分野で用いられている。例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム上に塗布して高硬度を付与したハードコートフィルムは、タッチパネル用フィルムや成形用フィルムとして大量に使用されている。
【0003】
これらのなかで特に成形用としては、フィルム表面に絵柄を印刷後、加熱により軟化させた状態で3次元成形を行うインサートフィルムが良く知られているが、フィルムに塗布されたハードコート樹脂層を硬くすると、立体形状に加工する際に曲面においてマイクロクラックが入りやすくなり、加工形状には制約があった。そのため立体成形前にハードコート層を完全硬化させず、成形後に光硬化させるアフターキュア手法が考案され、過去に出願人も、2個以上のアクリロイル基を有する多官能重合性化合物、分子量が50~400の低分子量アミン、および分子量が1~20万のポリアミンを含有する樹脂組成物を発明している(特許文献1)。
【0004】
このハードコート樹脂組成物は硬度や耐擦傷性が高く、且つ成形性も良好なハードコート皮膜を得ることができる優れるものであった。しかしながら光硬化前におけるフィルム状態での保存安定性が十分でなく、またフィルム表面にタックが残ったり、光硬化後についても耐擦傷性が不十分であったりする場合があった。そのため、光硬化前におけるフィルム状態での保存安定性が良好であり、且つ伸び率が高く十分な成形性がありながらタックレスで、硬化後には高い耐擦傷性を併せ持つ成形用のハードコートフィルムが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5654207号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、光硬化前におけるフィルム状態での保存安定性が優れると同時に、表面タックが安定して低く、また光硬化後には十分な耐スチールウール性を有するアフターキュア型の成形用フィルム、及びそれを用いた成形品の製造方法と成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため請求項1記載の発明は、プラスチック基材上に光硬化性樹脂組成物の硬化層を有する積層体であって、前記光硬化性樹脂組成物が、(メタ)アクリル系重合体(A)と、重合性官能基を有する化合物(B)と、平均粒子径が1~300nmの表面改質ナノシリカ(C)と、光安定剤(D)と、レベリング剤(E)と、光重合開始剤(F)と、を含み、前記(E)の配合量がラジカル重合成分と(C)成分の合計100重量部に対し0.5~8.0重量部であることを特徴とするアフターキュア型成形用フィルムを提供する。
【0008】
また請求項2記載の発明は、前記(D)がラジカル補足剤(d1)と、紫外線吸収剤(d2)を含むことを特徴とする請求項1記載のアフターキュア型成形用フィルムを提供する。
【0009】
また請求項3記載の発明は、前記(C)の配合量が光硬化性樹脂組成物の固形分全量に対し20~65重量%であることを特徴とする請求項1記載のアフターキュア型成形用フィルムを提供する。
【0010】
また請求項4記載の発明は、請求項1~3いずれか記載のアフターキュア型成形用フィルムを、金型を用いて賦形後、光硬化性樹脂組成物層を光硬化し、光硬化性樹脂組成物の硬化層とは反対側から溶融樹脂を射出して樹脂成形品を形成することを特徴とするインサート成形品の製造方法を提供する。
【0011】
また請求項5記載の発明は、請求項1~3いずれか記載のアフターキュア型成形用フィルムを用いたインサート成形品又はアウトモールド成形品を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の成形用フィルムは、光硬化前におけるフィルム状態での保存安定性に優れると同時に表面タックが安定して低く、また光硬化後は十分な耐スチールウール性を有するため、アフターキュア型の成形用ハードコート(以下HCという)フィルムとして有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の成形用フィルムに用いる光硬化性樹脂組成物は、(メタ)アクリル系重合体(A)と、重合性官能基を有する化合物(B)と、表面改質ナノシリカ(C)と、光安定剤(D)と、レベリング剤(E)と、光重合開始剤(F)を含むHC樹脂組成物である。なお、本明細書において(メタ)アクリレートとは、アクリレートとメタクリレートとの双方を包含する。
【0014】
本発明で使用される(メタ)アクリル系重合体(A)は、光硬化前において十分な伸び率を確保する目的で配合される。(A)を構成するモノマーとしては、塗工性や伸び率の観点でアルキル基の炭素数が1~8であるアルキル(メタ)アクリレートを含むことが好ましく、メチルメタクリレート(以下MMAという)及びブチルアクリレートを含むことが更に好ましい。
【0015】
前記(A)の重合方法としては特に限定されず、公知の方法を用いることができ、例えば溶液重合や乳化重合、塊状重合などが挙げられる。これらの中では、ポリマーが溶液として得られる溶液重合が好ましく、具体的にはモノマーと溶媒を混合し、公知の重合開始剤や連鎖移動剤を加えて、加熱することにより重合が可能である。重合温度は70~130℃が好ましく、80~120℃が更に好ましい。
【0016】
前記(A)の重量平均分子量(以下Mw)は30,000~200,000が好ましく、50,000~150,000が更に好ましい。30,000以上とすることで充分な伸び率を確保でき、200,000以下とすることで作業性の良い粘度に調整しやすくなる。なおMwは、ゲル浸透クロマトグラフィーにより、スチレンジビニルベンゼン基材の充填剤を用いたカラムでテトラハイドロフラン溶離液を用いて、標準ポリスチレン換算の分子量を測定、算出した。
【0017】
前記(A)の配合比率は、光硬化性樹脂組成物の固形分全量に対し18~50重量%が好ましく、20~45重量%が更に好ましい。18重量%以上とすることで十分な伸び率を確保することができ、50重量%以下とすることで十分な耐スチールウール性(以下耐SW性という)を確保できる。
【0018】
本発明で使用される重合性官能基を有する化合物(B)は、樹脂組成物に光反応硬化性を付与させる目的で配合される。例えば脂肪族、脂環族、ポリエーテル骨格、水酸基及びアミノ基等の官能基を有する(メタ)アクリレートや、アクリルアミド等の(メタ)アクリロイル基を有する化合物を低分子量バインダーとして挙げることができ、単独あるいは2種類以上を組み合わせて使用することができる。官能基数としては硬化性の点で4官能以上が好ましく、例えばペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(以下DPHAという)等が挙げられる。
【0019】
前記(B)としては、低分子量バインダー以外の成分としてオリゴマーを用いても良い。例えばオリゴマーではウレタン(メタ)アクリレート(以下ウレアクという)、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリカーボネート(メタ)アクリレート、ジエン系(メタ)アクリレート等が挙げられ、単独あるいは2種類以上を組み合わせて使用することができる。反応性の観点から、(B)におけるオリゴマー成分の配合比率は、50重量%以下が好ましく、30重量%以下が更に好ましい。
【0020】
前記(B)の配合比率は、光硬化性樹脂組成物の固形分全量に対し8~30重量%が好ましく、10~26重量%が更に好ましい。8重量%以上とすることで十分な硬化性を確保でき、30重量%以下とすることで十分な伸び率を確保することができる。
【0021】
本発明で使用される表面改質ナノシリカ(C)は、主に硬化皮膜の鉛筆硬度向上及び耐SW性の向上を目的に配合される。組成物中での分散性を向上させるため表面改質されており、例えば飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、界面活性剤、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤等の非重合性の表面処理や、(メタ)アクリロイル基等の重合性官能基による処理が挙げられる。これらの中では、(B)との化学的な結合により、硬化皮膜からのシリカ粒子欠落を抑制することができる重合性官能基による処理が好ましい。また重合性官能基による処理は、タックをより小さく安定化できる。具体的な重合性官能基としてはアクリル基、メタクリル基、エポキシ基、イソシアネート基、ビニル基等が挙げられる。これらの中では(B)との反応性が良好で、入手性にも優れる(メタ)アクリル基を有するナノシリカが好ましく、メタクリル基を有するナノシリカが更に好ましい。
【0022】
前記(C)の平均粒子径は1~300nmであり、3~250nmが好ましく、5~100nmが更に好ましく、7~50nmが特に好ましい。1nm未満では鉛筆硬度や耐SW性の向上が不十分な場合があり、300nm超では光学特性に影響を与える場合がある。なお平均粒子径は、BET法により測定された比表面積(m)から算出された数値とする。
【0023】
前記(C)の配合量は、光硬化性樹脂組成物の固形分全量に対し20~65重量%が好ましく、25~60重量%が更に好ましく、28~55重量%が特に好ましい。20重量%以上とすることで十分な鉛筆硬度及び耐SW性を確保することができ、65重量%以下とすることでフィルム化した場合に十分な保存安定性を確保することができる。
【0024】
本発明で使用される光安定剤(D)は、フィルム化した際の保存安定性を向上させる目的で配合される。例えば、紫外線により光劣化したポリマーから生ずるアルキルラジカルやパーオキシラジカルを効率よくトラップするラジカル捕捉剤(d1)や、吸収した紫外線のエネルギーを熱エネルギーなどに変換することにより、ポリマーの分解を抑制する紫外線吸収剤(d2)などが挙げられる。(d1)と(d2)は併用することが好ましい。
【0025】
前記(d1)としては、例えばヒンダードアミン系やヒンダードフェノール系、芳香族アミン系等が挙げられ、単独あるいは2種類以上を組み合わせて使用することができる。これらの中では、フェノール性水酸基のオルト位に立体性障害作用を示す置換基を有し、ラジカル補足効率が高いヒンダードフェノール系が好ましい。ヒンダードフェノール系の市販品としてはIrganox1010(商品名:BASFジャパン社製)等が挙げられる。
【0026】
前記(d2)は、エネルギーが高い有害な紫外線領域に吸収帯域を持つラジカル連鎖開始阻止剤であり、前記(d1)との併用により、保存安定性をより向上させることが可能となる。例えばベンゾトリアゾール系、トリアジン系、ベンゾフェノン系等が挙げられ、単独あるいは2種類以上を組み合わせて使用することができる。これらの中では、蛍光灯に含まれる紫外線の長波長部を強く吸収することが可能なヒドロキシフェニルトリアジン系が好ましい。ヒドロキシフェニルトリアジン系の市販品としてはTinuvin477(商品名:BASFジャパン社製)等が挙げられる。
【0027】
前記(d1)と(d2)を含む(D)の配合量は、光硬化性樹脂組成物の固形分全量に対し0.1~8.0重量%が好ましく、0.5~5.0重量%が更に好ましく、1.0~3.0重量%が特に好ましい。0.1重量%以上とすることで保存安定性の向上が期待でき、8.0重量%以下とすることで十分な硬化性と共に、基材との密着性を確保できる。(d1)と(d2)を併用する場合の配合比率としては、(d1)/(d2)=0.5~2.0が好ましい。
【0028】
本発明に使用されるレベリング剤(E)は、塗工時のレベリング特性を向上させると共に、硬化後皮膜の耐SW性向上を目的に配合される。硬化後の皮膜からブリード等により経時的に欠落することが無く、耐候性の効果を長期的に持続できる点で、バインダー樹脂と重合して硬化塗膜を形成できる反応性官能基を有することが好ましい。例えばフッ素系、シリコーン系、フッ素シリコーン系等が挙げられ、単独あるいは2種類以上を組み合わせて使用することができる。これらの中では、レベリング性と耐SW性をバランス良く向上させる効果が高い点で、シリコーン系化合物及びフッ素系シリコーン化合物が好ましい。
【0029】
前記(E)の配合量としては、光硬化性樹脂組成物の固形分全量に対し0.1~3重量%が好ましく、0.2~1重量%が更に好ましい。この範囲とすることで、十分なレベリング性と耐SW性を確保することができる。市販品としてはX-71-1203M(商品名:信越化学工業社製、アクリロイル基含有フッ素系シリコーン化合物)、BYK-UV3570(商品名:BYK Chemie社製、アクリロイル基含有ポリエステル変性ポリジメチルシロキサン化合物)等が挙げられる。
【0030】
本発明で使用される光重合開始剤(F)は、紫外線や電子線などの照射でラジカルを生じ、そのラジカルが重合反応のきっかけとなるもので、ベンジルケタール系、アセトフェノン系、フォスフィンオキサイド系等、汎用の光重合開始剤が使用できる。出願人は(F)の配合量をコントロールすることにより、紫外線硬化前のフィルム状態においてタックフリー性及び保存安定性を確保でき、更に紫外線照射後の硬化皮膜においても、良好な耐SW性及び鉛筆硬度を得られる範囲が存在することを見出すことにより、この発明を完成させることができた。
【0031】
前記(F)は重合開始剤の光吸収波長を任意に選択することにより、紫外線領域から可視光領域にいたる広い波長範囲にわたって硬化性を付与することができる。具体的にはベンジルケタール系として2.2-ジメトキシ-1.2-ジフェニルエタン-1-オンが、α-ヒドロキシアセトフェノン系として1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン及び1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オンが、α-アミノアセトフェノン系として2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オンが、アシルフォスフィンオキサイド系として2.4.6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド及びビス(2.4.6‐トリメチルベンゾイル)‐フェニルフォスフィンオキサイド等があり、単独または2種以上を組み合わせて使用できる。これらの中では、可視光に近い紫外線の長波長側の吸収量が少なく、また黄変しにくいα-ヒドロキシアセトフェノン系を含むことが好ましい。市販品としてはOmnirad2959、Omnirad127D、Omnirad184(商品名:IGM Resins社製)などが挙げられる。
【0032】
前記(F)の配合量としては、ラジカル重合成分と(C)成分の合計100重量部((B)成分及び(C)成分)に対し0.5~8.0重量部であり、1.2~7.5重量部が好ましく、1.3~6.0重量部が更に好ましい。0.5重量部未満では耐SW性が低下する傾向があり、8.0重量部超では保存安定性が不安定になる傾向がある。また6.0重量部以下とすることで、保存安定性とタックフリー性が共に非常に良好となる。
【0033】
本発明の組成物には、性能を損なわない範囲で必要に応じて密着促進剤、ブルーイング剤、消泡剤、増粘剤、沈澱防止剤、帯電防止剤、防曇剤、抗菌剤、有機微粒子等を添加してもよい。
【0034】
本願HC樹脂組成物を塗工する際には、塗工特性を向上させるため。トルエン、イソブタノール、酢酸エチル、酢酸ブチル、ヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、プロピレングリコールモノメチルエーテル(以下PGMと表記)などの溶剤で希釈してもよい。希釈する場合の固形分としては1~50%が例示されるが、特に指定は無く、塗工しやすい粘度となるように適宜設定可能である。
【0035】
本願HC樹脂組成物が塗布される基材フィルムとしては、ポリエステルフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、ポリカーボネート(以下PCと表記)フィルム、ポリスルフォンフィルム、ナイロンフィルム、シクロオレフィンフィルム、アクリル(以下PMMAと表記)フィルム、ポリイミドフィルム、ABSフィルム、ポリオレフィンフィルム、PVCフィルム、PVAフィルム等を挙げることができる。なかでも耐候性、加工性、寸法安定性などの点から二軸延伸処理されたポリエステルフィルムが好ましく用いられる。その他、PMMAフィルムやPCフィルムも好ましく用いられ、またそれらの積層フィルムでも良い。フィルムの厚みは概ね25μm~500μmであればよい。
【0036】
前記基材フィルムは、本願樹脂組成物との密着性を向上させる目的で、プライマー処理やサンドブラスト法、溶剤処理法などによる表面の凹凸化処理、あるいはコロナ放電処理、クロム酸処理、オゾン・紫外線照射処理などの表面の酸化処理などの表面処理を施すことができる。
【0037】
本願HC樹脂組成物を塗布する方法は、特に制限はなく、公知のスプレーコート、ロールコート、ダイコート、エアナイフコート、ブレードコート、スピンコート、リバースコート、グラビアコート、ワイヤーバーなどの塗工法またはグラビア印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷などの印刷法により形成できる。HC樹脂組成物の膜厚は乾燥時で1μm~10μmが例示できるが、これに限定されるものではない。
【0038】
本願HC樹脂組成物を硬化させる際に用いる紫外線照射の光源としては、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、カーボンアーク灯、キセノンランプ、メタルハライドランプ、LEDランプ、無電極紫外線ランプなどがあり、また照射する雰囲気は空気中でもよいし、窒素、アルゴンなどの不活性ガス中でもよい。また紫外線照射時にバックロールの加温や、IRヒーターなどにより塗膜を加熱することで、より硬化性を上げることができる。照射条件としては照射強度40~1500mW/cm、露光量200~3000mJ/cmが例示されるが、これに限定されるものではない。
【0039】
本願HC樹脂組成物は、アフターキュア型の成形用フィルムに適した樹脂組成物である。アフターキュア型は、塗工してから紫外線照射等により硬化させるまでの時間が非常に長く、特に輸出される場合はその期間が3か月以上に及ぶ場合がある。そのため、安定した保存性が非常に大きな要求特性とされ、本願の実施例における蛍光灯保存性と貯蔵安定性の評価を共にクリアできれば、十分な保存安定性が確保できていると言える。
【0040】
また本願HC樹脂組成物は、未硬化で柔らかく傷や凹凸が付きやすい状態で金型を用い成形される。そのため、傷つき防止として保護フィルムが貼合される場合が多い。この場合、未硬化のHC面にタックが残っていると、保護フィルムの粘着剤と強く接着して剥がしにくくなる場合がある。また含まれる成分が密着している他層に移行し、白化等の不具合を起こしたりする場合がある。このためタックレス化も、保存安定性と同レベルの非常に重要な要求特性である。保護フィルムが剥がしにくくなった場合は、表面に微細な凹凸が形成されるためヘイズがあがり、また含まれる成分が他層に移行した場合も相溶性の関係でヘイズが上る。そのため、本願の実施例におけるヘイズ測定の評価により、タックフリー性を有効に評価することができる。
【0041】
以下、本発明について実施例、比較例を挙げて詳細に説明するが、具体例を示すものであって、特にこれらに限定するものではない。なお表記が無い場合は、室温は25℃相対湿度65%の条件下で測定を行い、配合表の単位は重量部で固形分換算とする。
【0042】
実施例配合
前記(A)としてZ-624BA-2(商品名:アイカ工業社製、MMA及びブチルメタクリレートモノマーを含むアクリル系共重合体、Mw100,000)を、(B)としてDPHA(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)を、(C)としてPGM-AC-2140Y(商品名:日産化学工業社製、メタクリル基修飾ナノシリカ、平均粒子径15nm)及びSIRMIBK15WT%-M36(商品名:CIKナノテック社製、非重合性表面改質シリカ、平均粒子径220nm)を、(d1)としてIrganox1010(商品名:BASFジャパン社製、ヒンダードフェノール系)を、(d2)としてTinuvin477(商品名:BASFジャパン社製、ヒドロキシトリフェニルアジン系)を、(E)としてX-71-1203M(商品名:信越化学工業社製、アクリロイル基含有フッ素系シリコーン化合物)及びBYK-UV3570(商品名:BYK Chemie社製、アクリロイル基含有ポリエステル変性ポリジメチルシロキサン化合物)を、(F)としてOmnirad2959(商品名:IGM Resins社製、α-ヒドロキシアセトフェノン系)を、表1記載の配合で均一に溶解・分散するまで撹拌し、更に固形分が30%となるようにPGMを加えて希釈撹拌し、実施例1~7のHC樹脂組成物を得た。
【0043】
比較例配合
実施例で用いた材料の他、バインダーとしてウレアクA(IPDIヌレート-PETA骨格)を用い、表2記載の配合で均一に溶解・分散するまで撹拌し、更に固形分が30%となるようにPGMを加えて希釈撹拌し、比較例1~5のHC樹脂組成物を得た。
【0044】
表1
【0045】
表2
【0046】
評価方法は以下の通りとした。
【0047】
HCフィルムの作成
実施例及び比較例のHC樹脂組成物を用い、PMMA/PCフィルムDF02UL(商品名:三菱ガス化学社製、厚さ254μm)のPMMA面に乾燥膜厚で5μmとなるように塗布し、80℃で1分乾燥した。また紫外線硬化の条件は、高圧水銀ランプで出力100mW/cm,2000mJ/cmとしHCフィルムを作成した。
【0048】
密着性:紫外線硬化後のフィルムを用い、JIS K 5600-5-6のクロスカット法に準拠し、塗工面に1mm間隔で10×10にマス目を作成し、セロハンテープCT-24(商品名:ニチバン社製)を貼り、上方に引っ張り剥離状況を確認した。
【0049】
タックフリー性:紫外線硬化前のHCフィルムを用い、HC層側に保護フィルムFSA-150M(商品名:フタムラ化学社製、厚さ30μm、OPP基材)を貼合し、荷重1Kgfでローラーを掛け、25℃の環境下で24時間放置した。その後保護フィルムを剥離してHCフィルムのヘイズを測定し、0.5未満の場合を◎、0.5~1.0の場合を〇、1.0超の場合を×とした。なおヘイズは東洋精機製作所社製のHaze-GARD2を用い、JISK7136に準拠して測定した。
【0050】
破断伸度:紫外線硬化前のHCフィルムを用い、横25mm×縦110mmにカットし、ミネベア社製TechnoGraph TGI-1KNを用い、チャック間距離50mmで雰囲気温度130℃、引っ張り速度300mm/分で引っ張り試験を行った。評価は目視で割れを確認し、伸び率が200%以上を○、200%未満を×とした。
計算式:50mmを基準として何mm伸びたかで計算。
伸びた長さ(mm)/50mm×100=伸び率(%)。
【0051】
蛍光灯保存性:紫外線硬化前のHCフィルムを用い、25℃の環境下でHC面から2000mm離した位置から蛍光灯を照射し、その状態で72時間放置した。その後破断伸度の評価を行い、200%伸びた時点でのHC面を目視にて外観を確認した。評価方法は、変化がない場合を〇、白化やクラック等の外観変化がある場合を×とした。
【0052】
貯蔵安定性:紫外線硬化前のHCフィルムを用い、40℃の環境下で2カ月放置した。その後破断伸度の評価を行い、200%伸びた時点でのHC面を目視にて外観を確認した。評価方法は、変化がない場合を◎、微小な変化が感じられる場合を〇、白化やクラック等の外観変化がある場合を×とした。
【0053】
耐SW性:紫外線硬化後のHCフィルムを用い、スチールウール#0000の上に200g/cm2の荷重を載せて10往復させ、目視による観察で傷が付かないものを○、傷が付くものを×とした。
【0054】
鉛筆硬度:紫外線硬化後のHCフィルムを用い、JISK5600-5-4(1999年版)に準拠し、東洋精機製作所製の鉛筆引掻塗膜硬さ試験機(形式P)を用いて500g荷重で測定し、4H以上を〇、3Hを△、2H以下を×とした。
【0055】
実施例評価結果
表3
【0056】
比較例評価結果
表4
【0057】
実施例は密着性、タックフリー性、破断伸度、蛍光灯保存性、貯蔵安定性、耐SW性、鉛筆硬度の全ての評価で問題はなく良好であった。
【0058】
一方、(F)が下限未満の比較例1及び(E)を抜いた比較例3は共に耐SW性が劣り、(F)が上限超の比較例2は貯蔵安定性が劣っていた。また(D)を抜いた比較例4及び(A)の代わりに異なるバインダーを用いた比較例5は共に蛍光灯保存性と貯蔵安定性が劣り、比較例5については更にタックフリー性も劣っており、いずれも本願発明に適さないものであった。