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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125477
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】ボイラーチューブの表面処理方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/04 20060101AFI20240911BHJP
   B23K 9/00 20060101ALI20240911BHJP
   B23K 26/342 20140101ALI20240911BHJP
   B23K 9/173 20060101ALI20240911BHJP
   B23K 10/02 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
B23K9/04 A
B23K9/00 501H
B23K26/342
B23K9/173 A
B23K10/02 501A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033314
(22)【出願日】2023-03-06
(71)【出願人】
【識別番号】390001801
【氏名又は名称】大阪富士工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141852
【弁理士】
【氏名又は名称】吉本 力
(72)【発明者】
【氏名】辰巳 佳宏
(72)【発明者】
【氏名】松井 祥司
(72)【発明者】
【氏名】森本 健斗
【テーマコード(参考)】
4E001
4E081
4E168
【Fターム(参考)】
4E001AA03
4E001BB08
4E001BB11
4E001CB03
4E001CC01
4E001CC03
4E081YH01
4E081YX05
4E081YX07
4E168BA32
4E168BA86
4E168CB03
4E168CB07
4E168FA01
4E168FB03
(57)【要約】
【課題】母材の表面に肉盛層を形成する際に、母材が肉盛層に溶け込むことを抑制でき、かつ、処理効率が高いボイラーチューブの表面処理方法を提供する。
【解決手段】下盛工程において、母材1であるボイラーチューブの表面11に、レーザークラッディング法により下盛層2を形成する。上盛工程において、下盛工程により形成された下盛層2の表面21に、MIG法又はPTA法により上盛層3を形成する。上盛工程では、下盛層2の表面21を溶融させつつ、母材1の表面11は溶融させないように上盛層3を形成する。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材であるボイラーチューブの表面に、レーザークラッディング法により下盛層を形成する下盛工程と、
前記下盛工程により形成された前記下盛層の表面に、MIG法又はPTA法により上盛層を形成する上盛工程とを含み、
前記上盛工程では、前記下盛層の表面を溶融させつつ、前記母材の表面は溶融させないように前記上盛層を形成する、ボイラーチューブの表面処理方法。
【請求項2】
前記下盛工程により形成される前記下盛層の表面の凹凸率が16%以下である、請求項1に記載のボイラーチューブの表面処理方法。
【請求項3】
前記下盛層及び前記上盛層が同一の材料により形成される、請求項1に記載のボイラーチューブの表面処理方法。
【請求項4】
前記下盛層に対する前記母材の希釈率が9%以下である、請求項1に記載のボイラーチューブの表面処理方法。
【請求項5】
前記上盛層に対する前記母材の希釈率が3.2%以下である、請求項1に記載のボイラーチューブの表面処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラーチューブの表面をコーティングするための表面処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ボイラーチューブの表面をコーティングする方法として、MIG(Metal Inert Gas)法及びPTA(Plasma Transferred Arc)法が知られている。MIG法及びPTA法は、いずれも肉盛溶接法の一種であり、肉盛層の形成時には母材であるボイラーチューブの表面が高温となる。そのため、肉盛層の形成時に母材が肉盛層に溶け込み、肉盛層が母材により希釈される結果、肉盛層の耐食性が劣化するという問題がある(例えば、下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5529434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、母材に対する入熱量が少ないレーザークラッディング法を用いて、母材の表面に肉盛層を形成することが考えられる。しかしながら、レーザークラッディング法を用いて厚みのある肉盛層全体を形成しようとした場合、処理に時間がかかるため、処理効率が悪いという問題がある。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、母材の表面に肉盛層を形成する際に、母材が肉盛層に溶け込むことを抑制でき、かつ、処理効率が高いボイラーチューブの表面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明に係るボイラーチューブの表面処理方法は、下盛工程と、上盛工程とを含む。前記下盛工程では、母材であるボイラーチューブの表面に、レーザークラッディング法により下盛層を形成する。前記上盛工程では、前記下盛工程により形成された前記下盛層の表面に、MIG法又はPTA法により上盛層を形成する。前記上盛工程では、前記下盛層の表面を溶融させつつ、前記母材の表面は溶融させないように前記上盛層を形成する。
【0007】
このような構成によれば、下盛層及び上盛層からなる肉盛層を母材の表面に形成することができる。下盛層はレーザークラッディング法により形成されるため、母材に対する入熱量が少なく、母材が肉盛層に溶け込むことを抑制できる。また、肉盛層全体をレーザークラッディング法により形成するのではなく、レーザークラッディング法により形成された下盛層の表面に、MIG法又はPTA法により上盛層を形成するため、処理時間を短くすることができ、処理効率が高い。
【0008】
特に、上盛層を形成する際には、下盛層の表面を溶融させつつ、母材の表面は溶融させないため、下盛層と上盛層とが剥離しにくく、かつ、母材が肉盛層に溶け込むことを効果的に抑制できる。したがって、耐久性の高い肉盛層を形成することができる。
【0009】
(2)前記下盛工程により形成される前記下盛層の表面の凹凸率が16%以下であることが好ましい。
【0010】
このような構成によれば、下盛層の表面に上盛層を安定して形成することができる。
【0011】
(3)前記下盛層及び前記上盛層が同一の材料により形成されることが好ましい。
【0012】
このような構成によれば、下盛層及び上盛層からなる肉盛層を同一の材料により一体的に形成することができる。
【0013】
(4)前記下盛層に対する前記母材の希釈率が9%以下であることが好ましい。
【0014】
このような構成によれば、母材の溶け込みが抑制された肉盛層を形成することができる。
【0015】
(5)前記上盛層に対する前記母材の希釈率が3.2%以下であることが好ましい。
【0016】
このような構成によれば、母材の溶け込みが抑制された肉盛層を形成することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、下盛層がレーザークラッディング法により形成されるため、母材に対する入熱量が少なく、母材が肉盛層に溶け込むことを抑制できる。また、レーザークラッディング法により形成された下盛層の表面に、MIG法又はPTA法により上盛層を形成するため、処理時間を短くすることができ、処理効率が高い。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】下盛工程の一例について説明するための概略図である。
図2】上盛工程の一例について説明するための概略図である。
図3】上盛工程の他の例について説明するための概略図である。
図4】下盛層の肉盛試験の各条件A1~A11を示す図である。
図5】各条件A1~A11での試験結果を示す図である。
図6】凹凸率の算出方法について説明するための図である。
図7】条件A6及び条件A9で肉盛を実施した結果を示す図である。
図8】希釈率の算出方法の一例について説明するための図である。
図9】上盛層の肉盛試験の各条件B1~B4を示す図である。
図10】各条件B1~B4での試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
1.下盛工程
本実施形態では、母材であるボイラーチューブの表面に対して、下盛層を形成する処理が行われた後(下盛工程)、その下盛層の表面に上盛層を形成する処理が行われる(上盛工程)。なお、ボイラーチューブは、水蒸気を循環させるための管であり、発電プラント又はごみ焼却プラントなどに設置される。ボイラーチューブの材質は、例えばステンレス鋼であるが、これに限られるものではない。
【0020】
図1は、下盛工程の一例について説明するための概略図である。下盛工程では、母材1の表面11に対して、レーザークラッディング法により下盛層2が形成される。レーザークラッディング法における熱源としては、レーザービーム101が用いられる。レーザービーム101は、ノズル100から連続的に出射され、母材1の表面11に照射される。レーザービーム101は、平行光であってもよいし、照射位置104に向かって集光されてもよい。
【0021】
ノズル100からは、母材1に向けて溶材102及びシールドガス103を連続的に噴射しつつ、レーザービーム101が出射される。溶材102は、例えばインコネルを含む粉末状の材料である。なお、溶材102は、インコネルのみからなるものであってもよいし、他の材料を含むものであってもよい。また、溶材102は、インコネル以外の材料により構成されるものであってもよい。
【0022】
シールドガス103としては、例えばアルゴンガス又はヘリウムガスなどの不活性ガスが用いられる。ノズル100から噴射される溶材102は、シールドガス103中に入射されることにより、飛行中の酸化を抑制することができる。ただし、シールドガス103は省略することも可能である。
【0023】
ノズル100は、母材1の表面11に対して平行な所定の走査方向に沿って移動される。したがって、母材1の表面11上でレーザービーム101を走査しながら、溶材102を噴射して溶融させ、母材1の表面11上に連続的に肉盛層(下盛層2)を形成することができる。ただし、ノズル100を移動させるのではなく、母材1を移動させることにより走査が行われてもよい。
【0024】
2.上盛工程
図2は、上盛工程の一例について説明するための概略図である。上盛工程では、下盛工程により形成された下盛層2の表面21に上盛層3が形成される。この例では、MIG(Metal Inert Gas)法により上盛層3を形成する場合について説明する。
【0025】
MIG法では、電極201が内部に備えられたノズル200が用いられる。電極201は、ノズル200の中心軸線に沿って延びており、その先端部がノズル200から突出している。電極201は、例えばタングステンにより形成されており、先細りした先端部を有している。ノズル200からは、電極201に沿って供給されるシールドガス202が、電極201の先端から下盛層2の表面21に向けて連続的に噴射される。
【0026】
図2の構成による上盛工程では、下盛層2の表面21に溶接棒203の先端部を近づけ、その溶接棒203の先端部と電極201の先端部との間にアークを発生させる。これにより、溶接棒203が溶融し、自然冷却によって上盛層3が形成される。このとき、下盛層2の表面21も一部溶融することとなる。溶接棒203は、下盛層2の溶材102と同一の材料であることが好ましく、例えばインコネルを含む材料であってもよい。なお、溶接棒203は、インコネルのみからなるものであってもよいし、他の材料を含むものであってもよい。また、溶接棒203は、インコネル以外の材料により構成されるものであってもよい。
【0027】
シールドガス202としては、例えばアルゴンガス又はヘリウムガスなどの不活性ガスが用いられる。これにより、溶接部分をシールドしながら溶接(肉盛溶接)を行うことができる。ただし、シールドガス202は省略することも可能である。
【0028】
ノズル200及び溶接棒203は、下盛層2の表面21に対して平行な所定の走査方向に沿って移動される。したがって、下盛層2の表面21上でノズル200及び溶接棒203を走査しながら、溶接棒203を溶融させ、下盛層2の表面21上に連続的に肉盛層(上盛層3)を形成することができる。上盛工程時の走査方向は、下盛工程時の走査方向と一致していてもよい。ただし、ノズル200及び溶接棒203を移動させるのではなく、下盛層2が形成された母材1を移動させることにより走査が行われてもよい。
【0029】
図3は、上盛工程の他の例について説明するための概略図である。この例では、PTA(Plasma Transferred Arc)法により上盛層3を形成する場合について説明する。
【0030】
PTA法では、電極301が内部に備えられたノズル300が用いられる。電極301は、ノズル300の中心軸線に沿って延びており、電極301に沿って供給されるプラズマガス302が、電極301の先端から下盛層2の表面21に向けて連続的に噴射される。電極301は、例えばタングステンにより形成されており、先細りした先端部を有している。
【0031】
ノズル300内には、冷却水303が循環しており、ノズル300が高温になるのを防止している。また、ノズル300からは、下盛層2の表面21に向けて溶材304及びシールドガス305が連続的に噴射される。
【0032】
図3の構成による上盛工程では、下盛層2の表面21と電極301の先端部との間にアークを発生させる。これにより、下盛層2の表面21に向けて噴射される溶材304が溶融し、自然冷却によって上盛層3が形成される。このとき、下盛層2の表面21も一部溶融することとなる。溶材304は、下盛層2の溶材102と同一の材料であることが好ましく、例えばインコネルを含む粉末状の材料であってもよい。なお、溶材304は、インコネルのみからなるものであってもよいし、他の材料を含むものであってもよい。また、溶材304は、インコネル以外の材料により構成されるものであってもよい。
【0033】
シールドガス305としては、例えばアルゴンガス又はヘリウムガスなどの不活性ガスが用いられる。これにより、溶接部分をシールドしながら溶接(肉盛溶接)を行うことができる。ただし、シールドガス305は省略することも可能である。
【0034】
ノズル300は、下盛層2の表面21に対して平行な所定の走査方向に沿って移動される。したがって、下盛層2の表面21上でノズル300を走査しながら、溶材304を噴射して溶融させ、下盛層2の表面21上に連続的に肉盛層(上盛層3)を形成することができる。上盛工程時の走査方向は、下盛工程時の走査方向と一致していてもよい。ただし、ノズル300を移動させるのではなく、下盛層2が形成された母材1を移動させることにより走査が行われてもよい。
【0035】
図2及び図3を用いて説明したように、上盛工程では、下盛工程により形成された下盛層2の表面21に、MIG法又はPTA法により上盛層3が形成される。これにより、下盛層2及び上盛層3からなる肉盛層4を母材1の表面11に形成することができる。このとき、下盛層2の表面21を溶融させつつ、母材1の表面11は溶融させないように上盛層3が形成される。
【0036】
下盛層2はレーザークラッディング法により形成されるため、母材1に対する入熱量が少なく、母材1が肉盛層4に溶け込むことを抑制できる。また、肉盛層4全体をレーザークラッディング法により形成するのではなく、レーザークラッディング法により形成された下盛層2の表面21に、MIG法又はPTA法により上盛層3を形成するため、処理時間を短くすることができ、処理効率が高い。
【0037】
特に、上盛層3を形成する際には、下盛層2の表面21を溶融させつつ、母材1の表面11は溶融させないため、下盛層2と上盛層3とが剥離しにくく、かつ、母材1が肉盛層4に溶け込むことを効果的に抑制できる。したがって、耐久性の高い肉盛層4を形成することができる。
【0038】
3.下盛層の肉盛試験
ステンレス鋼(SUS310S)により形成された管を母材として準備した。母材の外径は43mm、厚みは7mmとした。この母材に対して、インコネル625に相当する粉末溶材を用いてレーザークラッディング法により下盛工程を行った。具体的には、ノズルを走査方向に対して後方に20°傾斜させ、図4の各条件A1~A11で走査方向に15mm程度の長さで肉盛を実施した。各条件A1~A11での試験結果は図5の通りである。
【0039】
(条件A1)
条件A1は、図4に記載の通り、レーザービームの出力が3300W、肉盛時の走査速度(溶接速度)が10m/min、粉末溶材の供給量が42g/min(5.5rpm)、走査方向に直交する方向への送り量が1.0mm/rev、走査方向に直交する方向への送り速度が1.2mm/sec、シールドガスの供給量が12L/min、粉末溶材を送るキャリアガスの供給量が4L/minであり、母材1mに対する施工時間は13分53秒であった。
【0040】
条件A1での試験結果は図5の通りであり、肉盛厚は345μm、凹凸率は23%、溶着率は77%であった。また、断面観察により肉盛層の割れを確認したところ、条件A1では肉盛層に割れが発生していることが確認された。
【0041】
(条件A2)
条件A2は、図4に記載の通り、レーザービームの出力が3300W、肉盛時の走査速度(溶接速度)が10m/min、粉末溶材の供給量が42g/min(5.5rpm)、走査方向に直交する方向への送り量が1.2mm/rev、走査方向に直交する方向への送り速度が1.5mm/sec、シールドガスの供給量が12L/min、粉末溶材を送るキャリアガスの供給量が4L/minであり、母材1mに対する施工時間は11分7秒であった。
【0042】
条件A2での試験結果は図5の通りであり、肉盛厚は277μm、凹凸率は37%、溶着率は79%であった。また、断面観察により肉盛層の割れを確認したところ、条件A2では肉盛層に割れが発生していることが確認された。
【0043】
(条件A3)
条件A3は、図4に記載の通り、レーザービームの出力が3000W、肉盛時の走査速度(溶接速度)が10m/min、粉末溶材の供給量が42g/min(5.5rpm)、走査方向に直交する方向への送り量が1.0mm/rev、走査方向に直交する方向への送り速度が1.2mm/sec、シールドガスの供給量が12L/min、粉末溶材を送るキャリアガスの供給量が4L/minであり、母材1mに対する施工時間は13分53秒であった。
【0044】
条件A3での試験結果は図5の通りであり、肉盛厚は348μm、凹凸率は18%、溶着率は76%であった。また、断面観察により肉盛層の割れを確認したところ、条件A3では肉盛層に割れが発生していることが確認された。
【0045】
(条件A4)
条件A4は、図4に記載の通り、レーザービームの出力が3000W、肉盛時の走査速度(溶接速度)が10m/min、粉末溶材の供給量が42g/min(5.5rpm)、走査方向に直交する方向への送り量が1.2mm/rev、走査方向に直交する方向への送り速度が1.5mm/sec、シールドガスの供給量が12L/min、粉末溶材を送るキャリアガスの供給量が4L/minであり、母材1mに対する施工時間は11分7秒であった。
【0046】
条件A4での試験結果は図5の通りであり、肉盛厚は287μm、凹凸率は34%、溶着率は81%であった。また、断面観察により肉盛層の割れを確認したところ、条件A4では肉盛層に割れが発生していることが確認された。
【0047】
(条件A5)
条件A5は、図4に記載の通り、レーザービームの出力が2800W、肉盛時の走査速度(溶接速度)が10m/min、粉末溶材の供給量が42g/min(5.5rpm)、走査方向に直交する方向への送り量が1.5mm/rev、走査方向に直交する方向への送り速度が1.5mm/sec、シールドガスの供給量が12L/min、粉末溶材を送るキャリアガスの供給量が4L/minであり、母材1mに対する施工時間は11分7秒であった。
【0048】
条件A5での試験結果は図5の通りであり、肉盛厚は293μm、凹凸率は28%、溶着率は100%であった。また、断面観察により肉盛層の割れを確認したところ、条件A5では肉盛層に割れが発生していることが確認された。
【0049】
(条件A6)
条件A6は、図4に記載の通り、レーザービームの出力が2800W、肉盛時の走査速度(溶接速度)が10m/min、粉末溶材の供給量が42g/min(5.5rpm)、走査方向に直交する方向への送り量が1.0mm/rev、走査方向に直交する方向への送り速度が1.2mm/sec、シールドガスの供給量が12L/min、粉末溶材を送るキャリアガスの供給量が4L/minであり、母材1mに対する施工時間は13分53秒であった。
【0050】
条件A6での試験結果は図5の通りであり、肉盛厚は357μm、凹凸率は16%、溶着率は77%であった。また、断面観察により肉盛層の割れを確認したところ、条件A6では肉盛層に割れは確認されなかった。
【0051】
(条件A7)
条件A7は、図4に記載の通り、レーザービームの出力が3300W、肉盛時の走査速度(溶接速度)が10m/min、粉末溶材の供給量が38g/min(4.5rpm)、走査方向に直交する方向への送り量が1.0mm/rev、走査方向に直交する方向への送り速度が1.2mm/sec、シールドガスの供給量が12L/min、粉末溶材を送るキャリアガスの供給量が4L/minであり、母材1mに対する施工時間は13分53秒であった。
【0052】
条件A7での試験結果は図5の通りであり、肉盛厚は307μm、凹凸率は19%、溶着率は75%であった。また、断面観察により肉盛層の割れを確認したところ、条件A7では肉盛層に割れが発生していることが確認された。
【0053】
(条件A8)
条件A8は、図4に記載の通り、レーザービームの出力が3000W、肉盛時の走査速度(溶接速度)が10m/min、粉末溶材の供給量が38g/min(4.5rpm)、走査方向に直交する方向への送り量が1.0mm/rev、走査方向に直交する方向への送り速度が1.2mm/sec、シールドガスの供給量が12L/min、粉末溶材を送るキャリアガスの供給量が4L/minであり、母材1mに対する施工時間は13分53秒であった。
【0054】
条件A8での試験結果は図5の通りであり、肉盛厚は292μm、凹凸率は22%、溶着率は72%であった。また、断面観察により肉盛層の割れを確認したところ、条件A8では肉盛層に割れが発生していることが確認された。
【0055】
(条件A9)
条件A9は、図4に記載の通り、レーザービームの出力が2500W、肉盛時の走査速度(溶接速度)が5m/min、粉末溶材の供給量が42g/min(5.5rpm)、走査方向に直交する方向への送り量が1.2mm/rev、走査方向に直交する方向への送り速度が0.7mm/sec、シールドガスの供給量が12L/min、粉末溶材を送るキャリアガスの供給量が4L/minであり、母材1mに対する施工時間は23分49秒であった。
【0056】
条件A9での試験結果は図5の通りであり、肉盛厚は594μm、凹凸率は14%、溶着率は76%であった。また、断面観察により肉盛層の割れを確認したところ、条件A9では肉盛層に割れは確認されなかった。
【0057】
(条件A10)
条件A10は、図4に記載の通り、レーザービームの出力が2500W、肉盛時の走査速度(溶接速度)が5m/min、粉末溶材の供給量が42g/min(5.5rpm)、走査方向に直交する方向への送り量が2.0mm/rev、走査方向に直交する方向への送り速度が1.2mm/sec、シールドガスの供給量が12L/min、粉末溶材を送るキャリアガスの供給量が4L/minであり、母材1mに対する施工時間は13分53秒であった。
【0058】
条件A10での試験結果は図5の通りであり、肉盛厚は213μm、凹凸率は111%、溶着率は67%であった。また、断面観察により肉盛層の割れを確認したところ、条件A10では肉盛層に割れが発生していることが確認された。
【0059】
(条件A11)
条件A11は、図4に記載の通り、レーザービームの出力が2300W、肉盛時の走査速度(溶接速度)が5m/min、粉末溶材の供給量が42g/min(5.5rpm)、走査方向に直交する方向への送り量が2.0mm/rev、走査方向に直交する方向への送り速度が1.2mm/sec、シールドガスの供給量が12L/min、粉末溶材を送るキャリアガスの供給量が4L/minであり、母材1mに対する施工時間は13分53秒であった。
【0060】
条件A11での試験結果は図5の通りであり、肉盛厚は207μm、凹凸率は99%、溶着率は62%であった。また、断面観察により肉盛層の割れを確認したところ、条件A11では肉盛層に割れが発生していることが確認された。
【0061】
(試験結果)
上記試験結果によると、条件A6及び条件A9では肉盛層(下盛層)に割れは確認されず、下盛層としては欠陥がなく好ましい。また、条件A6及び条件A9で形成される下盛層の表面の凹凸率は16%以下であり、下盛層の表面に上盛層を安定して形成することができる。なお、凹凸率とは、肉盛層(下盛層)の表面の凹凸の大きさを示す指標であり、凹凸率が大きいほど凹凸が大きい。
【0062】
図6は、凹凸率の算出方法について説明するための図である。母材の表面に肉盛層(下盛層)を形成した場合、走査方向に延びる肉盛層の列が、送り方向(主走査方向に直交する方向)に複数並べて形成される。このとき、母材の表面の高さに対する各列の肉盛層の頂部の高さaと、母材の表面の高さに対する各列間の肉盛層の境界部の高さbとを用いて、凹凸率は下記式(1)で表される。
凹凸率(%)=(1-b/a)×100 ・・・(1)
【0063】
(長尺肉盛試験)
条件A6及び条件A9で走査方向に400mm程度の長尺で肉盛を実施した結果を図7に示す。条件A6及び条件A9は、いずれも図5に示した条件と同じであり、肉盛を実施する走査方向の長さだけが異なる。図7に示すように、条件A6では、肉盛厚が365μm、希釈率が5.5%、溶着率が76%であった。また、条件A9では、肉盛厚が568μm、希釈率が9.0%、溶着率が77%であった。
【0064】
図8は、希釈率の算出方法の一例について説明するための図である。母材の表面に肉盛層(下盛層)を形成した場合、レーザークラッディング法であっても母材の表面が若干溶融して窪み、その窪みに肉盛層が形成される。このとき、母材の表面に対して窪んでいる部分(母材の表面よりも下側)の断面積Aと、母材の表面に対して突出している部分(母材の表面よりも上側)の断面積Bとを用いて、希釈率は下記式(2)で表される。
希釈率P(%)=A/(A+B)×100 ・・・(2)
【0065】
また、希釈率の算出方法の他の例として、実際に肉盛層に含まれる母材成分(Fe成分)を測定し、下記式(3)を用いて算出する方法もある。図7に示す希釈率は、下記式(3)を用いて算出した値である。
肉盛層Fe成分=溶材Fe成分x+(母材Fe成分-x)×希釈率P/100 ・・・(3)
【0066】
図7に示すように、上記式(3)で算出される肉盛層(下盛層)に対する母材の希釈率は、9%以下であり、より具体的には、5.5~9.0%である。これにより、母材の溶け込みが抑制された肉盛層を形成することができる。
【0067】
4.上盛層の肉盛試験
次に、条件A9で母材の表面に形成された下盛層の表面に、インコネル625に相当する溶接棒を用いてMIG法により上盛工程を行った。このように、下盛層及び上盛層は、同一の材料により一体的に形成されることが好ましい。ただし、下盛層及び上盛層は、異なる材料により形成されてもよく、その材料はインコネル625に限られるものではない。下盛層及び上盛層の材料としては、インコネル625の他、インコネル622又はハステロイ合金などのNi基合金を例示することができる。
【0068】
具体的には、電極に印加する電流及び電圧を変化させ、図9の各条件B1~B4で走査方向に1000mm程度の長さで肉盛を実施した。各条件B1~B4での試験結果は図10の通りである。なお、図10に示す試験結果では、下盛層と上盛層を一体的な層(1層)として、希釈率は上述の式(3)により算出した。
【0069】
(条件B1)
条件B1は、図9に記載の通り、電極に印加する電流が160A、電圧が24V、走査方向に直交する方向への送り幅が4.0mm/revである。条件B1での試験結果は図10の通りであり、肉盛層に対するFeの溶け込み量は11.5%、希釈率は18.3%であった。
【0070】
(条件B2)
条件B2は、図9に記載の通り、電極に印加する電流が140A、電圧が22V、走査方向に直交する方向への送り幅が3.0mm/revである。条件B2での試験結果は図10の通りであり、肉盛層に対するFeの溶け込み量は2.0%、希釈率は3.2%であった。
【0071】
(条件B3)
条件B3は、図9に記載の通り、電極に印加する電流が120A、電圧が22V、走査方向に直交する方向への送り幅が2.5mm/revである。条件B3での試験結果は図10の通りであり、肉盛層に対するFeの溶け込み量は1.7%、希釈率は2.6%であった。
【0072】
(条件B4)
条件B4は、図9に記載の通り、電極に印加する電流が110A、電圧が22V、走査方向に直交する方向への送り幅が2.5mm/revである。条件B4での試験結果は図10の通りであり、肉盛層に対するFeの溶け込み量は1.9%、希釈率は3.0%であった。
【0073】
(試験結果)
上記試験結果によると、条件B1では希釈率が高く、肉盛層の耐食性の劣化が懸念される。一方、条件B2~B4では希釈率が同程度で低く、母材の溶け込みが抑制された肉盛層を形成することができる。具体的には、肉盛層(上盛層)に対する母材の希釈率は、3.2%以下であり、より具体的には、2.6~3.2%である。
【符号の説明】
【0074】
1 母材
2 下盛層
3 上盛層
4 肉盛層
11 表面
21 表面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10