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特開2024-125492パイプ固定治具、及びケーブル接続方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125492
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】パイプ固定治具、及びケーブル接続方法
(51)【国際特許分類】
   H02G 1/14 20060101AFI20240911BHJP
   H02G 15/06 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
H02G1/14
H02G15/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033341
(22)【出願日】2023-03-06
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ・「模擬設備を使用した使用方法説明会」での展示(令和4年3月14日~令和4年3月17日) ・「2022年度全社技術技能競技大会」での展示(令和4年12月6日)
(71)【出願人】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】内藤 真人
(72)【発明者】
【氏名】栗原 正樹
(72)【発明者】
【氏名】古川 博基
(72)【発明者】
【氏名】塚原 淳
(72)【発明者】
【氏名】藤田 幹也
(72)【発明者】
【氏名】光村 芳文
【テーマコード(参考)】
5G355
5G375
【Fターム(参考)】
5G355AA03
5G355BA09
5G355BA11
5G355CA09
5G375AA02
5G375CA02
5G375CA19
5G375DA32
5G375DA36
5G375DB16
5G375EA17
(57)【要約】
【課題】本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、端末処理材の一部と押しパイプの先端が密着した状態でケーブルを接続することができるパイプ固定治具と、これを用いたケーブル接続方法を提供することである。
【解決手段】本願発明のパイプ固定治具は、ケーブルの接続に用いられる治具であって、2以上のテーパー部材を備えたものである。このテーパー部材は、底面と、この底面の前端から後端に向かって底面から離れるように傾斜する傾斜面とを有する側面視でクサビ状のものである。そして、ケーブルとこのケーブルに挿通された筒状の押しパイプとの間に生じたパイプ離隔に、テーパー部材を前端から差し込むことによって、押しパイプがケーブルに固定される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーブルの接続に用いられる治具であって、
2以上のテーパー部材を、備え、
前記テーパー部材は、底面と、該底面の前端から後端に向かって該底面から離れるように傾斜する傾斜面と、を有する側面視でクサビ状であり、
前記ケーブルと、該ケーブルに挿通された筒状の押しパイプと、の間に生じたパイプ離隔に、前記テーパー部材を前記前端から差し込むことによって、該押しパイプが該ケーブルに固定される、
ことを特徴とするパイプ固定治具。
【請求項2】
面状の被覆部材を、さらに備え、
2以上の前記テーパー部材は、前記底面が前記被覆部材の上面に当接するように該被覆部材に取り付けられ、
前記被覆部材の下面が前記ケーブルに接触するように該被覆部材を該ケーブルに巻き付けたうえで、前記パイプ離隔に前記テーパー部材を差し込むことによって、前記押しパイプが該ケーブルに固定される、
ことを特徴とする請求項1記載のパイプ固定治具。
【請求項3】
前記被覆部材の幅寸法は、前記ケーブルの断面の外周寸法よりも小さく、
前記ケーブルに巻き付けられた前記被覆部材は、断面視した該ケーブルの一部を被覆する、
ことを特徴とする請求項2記載のパイプ固定治具。
【請求項4】
前記傾斜面は、前記前端の側に配置される第1傾斜面と、前記後端の側に配置される第2傾斜面と、を有し、
前記底面に対する前記第1傾斜面の傾斜角度は、該底面に対する前記第2傾斜面の傾斜角度より、緩傾斜とされる、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載のパイプ固定治具。
【請求項5】
前記第2傾斜面に設置される抵抗部材を、さらに備え、
前記抵抗部材は、前記第2傾斜面の摩擦係数よりも大きい摩擦係数を有する材料によって形成される、
ことを特徴とする請求項4記載のパイプ固定治具。
【請求項6】
パイプ固定治具を用いて、ケーブルを接続部に接続する方法であって、
前記パイプ固定治具は、2以上のテーパー部材と、面状の被覆部材と、を有し、
前記テーパー部材は、底面と、該底面の前端から後端に向かって該底面から離れるように傾斜する傾斜面と、を有する側面視でクサビ状であり、
2以上の前記テーパー部材は、前記底面が前記被覆部材の上面に当接するように該被覆部材に取り付けられ、
前記ケーブルのうち前記接続部に向かう1次側の端部には、端末処理材が取り付けられ、
前記端末処理材の一部と、前記ケーブルに挿通された押しパイプの前記1次側の端部と、が当接するように該押しパイプを配置する押しパイプ配置工程と、
前記前端より前記後端の方が前記1次側とは反対側の2次側となるように前記パイプ固定治具を配置したうえで、前記被覆部材の下面が前記ケーブルに接触するように該被覆部材を該ケーブルに巻き付けるパイプ固定治具配置工程と、
前記ケーブルと前記押しパイプとの間に生じたパイプ離隔に、該押しパイプの前記2次側から前記パイプ固定治具を差し込むことによって、前記端末処理材の一部と該押しパイプの前記1次側の端部とが当接した状態で該押しパイプを該ケーブルに固定するケーブル固定工程と、
前記押しパイプが前記ケーブルに固定された状態で、前記接続部の端子に該ケーブルを挿入するケーブル挿入工程と、を備えた、
ことを特徴とするケーブル接続方法。
【請求項7】
前記テーパー部材の厚さが異なる2以上の前記パイプ固定治具が用意され、前記パイプ離隔の寸法に応じて2以上の該パイプ固定治具の中から1の該パイプ固定治具を選定するパイプ固定治具選定工程を、さらに備え、
前記パイプ固定治具選定工程で選定された前記パイプ固定治具を用いて、前記パイプ固定治具配置工程と前記ケーブル固定工程を行う、
ことを特徴とする請求項6記載のケーブル接続方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、電力ケーブルの終端接続に関する技術であり、より具体的には、所定の配置で押しパイプを電力ケーブルに固定することができるパイプ固定治具と、これを用いた電力ケーブル接続方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発電所では数千~数万ボルトの電気が生成されるが、電気抵抗によるロスを避けるため数十万ボルト程度の超高圧にしたうえで送電している。そして、超高圧変電所や一次変電所、二次変電所、配電用変電所などの各変電所で徐々に電圧を下げたうえで工場などに供給し、さらに柱上変圧器などで電圧を下げて家庭に供給している。
【0003】
このように発電所から変電所まで送電され、また変電所から家庭まで送電されるが、その送電の役割を果たすのがCVケーブル(Cross-linked polyethylene insulated Vinyl sheath cable)に代表される電力ケーブルである。つまり、電力ケーブルが発電所や変電所、家庭等に接続されることで電気は送られている。なお送電経路のうち、発電所側のことは「1次側(あるいは、電源側)」と、家庭など電気を利用する側のことは「2次側(あるいは、負荷側)」と呼ばれている。
【0004】
発電所や変電所に電力ケーブルを接続するにあたっては、電力ケーブルを発電所等に設けられた終端接続箱に接続するのが一般的である。この終端接続箱内には、電力ケーブルの先端が挿入される端子が設けられている。図10は、終端接続箱TBと電力ケーブルECを模式的に示す図である。このうち図10(a)は終端接続箱TBと電力ケーブルECの外観を示す斜視図であり、図10(b)は導体引出棒DBと、端子としての一例であるチューリップコンタクトTCを示す断面図である。
【0005】
電力ケーブルECを終端接続箱TBに適切に接続し、電力ケーブルECと電気的に導通させるためには、電力ケーブルECの一次側端部に設けられた導体引出棒DBが、終端接続箱TB内に設けられたチューリップコンタクトTCに適切に挿入される必要がある。
【0006】
電力ケーブルECを終端接続箱TBに適切に接続する手法は、これまでにも種々の改良技術が提案されている。例えば特許文献1では、先端に行くほどその内径が拡径する拡径部分を押しパイプの先端部分に設け、しかも拡径部分の形状をプレモールド絶縁体PIのテーパー形状に合わせるという技術について提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012-231654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
電力ケーブルECの終端接続において、従来、電力ケーブルECの導体引出棒DBを端子に挿入した後に、残りの接続部材(例えば、押しパイプ等)の組み立て作業が実施されている。電力ケーブルECの外径は終端接続箱の内径より十分小さいため、図10(b)に示すように、端子の中心軸に対して電力ケーブルECが傾斜した状態で挿入されてしまうことがある。この場合、導体引出棒DBが本来接触すべきでないチューリップコンタクトTCの端部等に接触し、機器損傷等の不具合が生じてしまう。そのため、工事中止や延期等が生じることとなり工期管理に支障をきたすことや、工事費用の増大につながる等の問題が生じていた。
【0009】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、電力ケーブルを終端接続箱に適切に接続することができるパイプ固定治具と、これを用いたケーブル接続方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明は、パイプ固定治具が2以上のテーパー部材を備えることとし、電力ケーブルと押しパイプとの隙間にクサビ状のテーパー部材を差し込むことによって、適切な位置で押しパイプを電力ケーブルに固定する、という点に着目してなされたものであり、これまでにない発想に基づいて行われたものである。
【0011】
本願発明のパイプ固定治具は、ケーブルの接続に用いられる治具であって、2以上のテーパー部材を備えたものである。このテーパー部材は、底面と、この底面の前端から後端に向かって底面から離れるように傾斜する傾斜面とを有する側面視でクサビ状のものである。そして、ケーブルとこのケーブルに挿通された筒状の押しパイプとの間に生じたパイプ離隔に、テーパー部材を前端から差し込むことによって、押しパイプがケーブルに固定される。
【0012】
本願発明のパイプ固定治具は、面状の被覆部材をさらに備えたものとすることもできる。なお2以上のテーパー部材は、その底面が被覆部材の上面に当接するように被覆部材に取り付けられる。この場合、被覆部材の下面がケーブルに接触するように被覆部材をケーブルに巻き付けたうえで、パイプ離隔にテーパー部材を差し込むことによって、押しパイプがケーブルに固定される。
【0013】
本願発明のパイプ固定治具は、被覆部材の幅寸法がケーブルの断面の外周寸法よりも小さいものとすることもできる。この場合、ケーブルに巻き付けられた被覆部材は、断面視したケーブルの一部のみを被覆する。
【0014】
本願発明のパイプ固定治具は、傾斜面が第1傾斜面と第2傾斜面を有するものとすることもできる。このうち第1傾斜面は底面の前端側に配置され、第2傾斜面は底面の後端側に配置される。なお、底面に対する第1傾斜面の傾斜角度は、底面に対する第2傾斜面の傾斜角度より、緩傾斜とされる。
【0015】
本願発明のパイプ固定治具は、第2傾斜面に設置される抵抗部材をさらに備えたものとすることもできる。この抵抗部材は、第2傾斜面の摩擦係数よりも大きい摩擦係数を有する材料によって形成されるものである。
【0016】
本願発明のケーブル接続方法は、本願発明のパイプ固定治具を用いてケーブルを接続部に接続する方法であり、押しパイプ配置工程とパイプ固定治具配置工程、ケーブル固定工程、ケーブル挿入工程を備えた方法である。なおケーブルのうち接続部に向かう1次側の端部には、端末処理材が取り付けられている。押しパイプ配置工程では、端末処理材の一部と、ケーブルに挿通された押しパイプの1次側の端部とが当接するように押しパイプを配置する。パイプ固定治具配置工程では、底面の前端より後端の方が1次側とは反対側(つまり、2次側)となるようにパイプ固定治具を配置したうえで、被覆部材の下面がケーブルに接触するように被覆部材をケーブルに巻き付ける。ケーブル固定工程では、ケーブルと押しパイプとの間に生じたパイプ離隔に、押しパイプの2次側からパイプ固定治具を差し込むことによって、端末処理材の一部と押しパイプの1次側の端部とが当接した状態で押しパイプをケーブルに固定する。そしてケーブル挿入工程では、押しパイプがケーブルに固定された状態で、接続部の端子にケーブルを挿入する。
【0017】
本願発明のケーブル接続方法は、パイプ固定治具選定工程をさらに備えた方法とすることもできる。この場合、テーパー部材の厚さが異なる2以上のパイプ固定治具が用意される。そしてパイプ固定治具選定工程では、パイプ離隔の寸法に応じて2以上のパイプ固定治具の中から1のパイプ固定治具を選定し、その選定されたパイプ固定治具を用いてパイプ固定治具配置工程とケーブル固定工程を行う。
【発明の効果】
【0018】
本願発明のパイプ固定治具、及びケーブル接続方法には、次のような効果がある。
(1)2以上のテーパー部材を、ケーブルと押しパイプとの間に差し込むだけで、端末処理材(特に、プレモールド絶縁体)の後端と押しパイプの先端が密着した状態で、押しパイプをケーブルに固定することができる。その結果、ケーブルは適正な角度で挿入され、導体引出棒は接続部の端子に(例えば、チューリップコンタクト)に適正に接触する。
(2)パイプ固定治具は簡易な構造であることから、低コストで作成することができる。
(3)また、容易にパイプ固定治具を差し込むことができることから、手間や時間をかけることなくケーブルを接続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】導体引出棒がチューリップコンタクトに挿入された状態を示す断面図。
図2】(a)は本願発明のパイプ固定治具を示す斜視図、(b)は本願発明のパイプ固定治具を示す平面図、(c)は本願発明のパイプ固定治具を示す側面図。
図3】(a)は1つの傾斜面を有するテーパー部材を示す側面図、(b)は2つの傾斜面を有するテーパー部材を示す側面図。
図4】パイプ固定治具によって電力ケーブルに固定された押しパイプを示す断面図。
図5】第2傾斜面に抵抗部材が設置されたパイプ固定治具を示す斜視図。
図6】(a)は電力ケーブルの外周寸法より短い幅寸法の被覆部材を示す平面図、(b)は左側のみが被覆部材によって覆われた電力ケーブルを示す断面図。
図7】本願発明のケーブル接続方法の主な手順の流れを示すフロー図。
図8】本願発明のケーブル接続方法の主な手順を示すステップ図。
図9】テーパー部材の厚さが異なる2種類のパイプ固定治具を示す側面図。
図10】(a)は終端接続箱と電力ケーブルの外観を示す斜視図、(b)は導体引出棒と端子としての一例であるチューリップコンタクトを示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本願発明のパイプ固定治具、及びケーブル接続方法の実施形態の一例を図に基づいて説明する。
【0021】
既述したとおり本願発明の発明者は、端末処理材CDの一部(特に、プレモールド絶縁体PI)と押しパイプの先端が密着した状態で電力ケーブルECの挿入作業を行うと、電力ケーブルECが適正な姿勢(方向)で終端接続箱TBに挿入され、電力ケーブルECがチューリップコンタクトTCに適正に接続されることを見出した。図1では、プレモールド絶縁体PIと押しパイプ200の先端が密着した状態で電力ケーブルECの挿入作業を実施した結果、導体引出棒DBがチューリップコンタクトTCに適正に接続された状態を示している。
【0022】
本願発明は、発電所や変電所の終端接続箱TBに電力ケーブルECを接続するための技術であり、端末処理材CDの一部と押しパイプ200の先端が密着した状態を維持することができるものである。なお図1に示すように便宜上ここでは、終端接続箱TB側(図では上側)のことを「1次側」と、家庭など電気の利用側(図では下側)のことを「2次側」ということとする。つまり端末処理材CDは、電力ケーブルECのうち1次側の端部に取り付けられることとなる。また本願発明は、端末処理材CDの一部と押しパイプ200の先端が密着した状態を維持するものであるが、便宜上ここでは端末処理材CDの一部をプレモールド絶縁体PIとして説明する。
【0023】
1.パイプ固定治具
はじめに、本願発明のパイプ固定治具について説明する。なお、本願発明のケーブル接続方法は、本願発明のパイプ固定治具を用いて電力ケーブルECを終端接続箱TBに接続する方法である。したがって、まずは本願発明のパイプ固定治具について説明し、その後に本願発明のケーブル接続方法について説明することとする。
【0024】
本願発明のパイプ固定治具100は、図2に示すように複数(図では3つ)のテーパー部材を含んで構成され、さらに被覆部材120や抵抗部材などを含んで構成することもできる。図2は本願発明のパイプ固定治具100を模式的に示す図であり、(a)はその斜視図、(b)は上方から見た平面図、(c)は側方から見た側面図である。また図3はパイプ固定治具100のうちのテーパー部材110を模式的に示す図であり、(a)は1つの傾斜面を有するテーパー部材110を示す側面図、(b)は2つの傾斜面を有するテーパー部材110を示す側面図である。
【0025】
パイプ固定治具100を構成するテーパー部材110は、図3(a)に示すように底面111と、傾斜面112、背面113、上面114を含んで形成される側面視でクサビ状のものであり、樹脂製(例えば、ゴム製)とするなど容易に弾性変形し得るものである。またテーパー部材110は、図2(a)や(b)から分かるように同一面が連続する立体形状であり、図3ではその形状が紙面奥行方向に連続している。なお便宜上ここでは、図2(b)に示すように同一面が連続する方向(図では上下方向)のことを「幅方向」と、この幅方向に直交する方向(図では左右方向)のことを「長さ方向」ということとし、さらに長さ方向における一方側(図では右側)のことを「前方」と、長さ方向における他方側(図では左側)のことを「後方」ということとする。
【0026】
図3(a)に示すように背面113は、底面111における後方の端部(以下、「後端111B」という。)で、底面111に対して略垂直(垂直を含む)に立ち上がる面である。上面114は、底面111に対して略平行(平行を含む)に配置される面である。傾斜面112は、底面111の前方の端部(以下、「前端111F」という。)から後方に向かって底面111から離れるように(図では上昇するように)傾斜する面である。例えば図3(a)に示す傾斜面112は、前端111Fから上面114に向かって傾斜する面とされている。なおテーパー部材110は、上面114を省略して形成することもでき、この場合の傾斜面112は前端111Fから背面113の頂部に向かって傾斜する面とされる。
【0027】
図3(a)に示すように傾斜面112は、前方に配置される斜面(以下、「第1傾斜面112F」という。)と、後方に配置される斜面(以下、「第2傾斜面112B」という。)によって形成することもできる。ただし、第1傾斜面112Fと第2傾斜面112Bが連続することで一連の傾斜面112が形成される。また、底面111に対する第1傾斜面112Fの傾斜角度は、底面111に対する第2傾斜面の傾斜角度よりも緩傾斜とされる。もちろん傾斜面112は、傾斜角度が異なる3以上の径斜面によって形成することもでき、この場合も前方から順に緩傾斜となるようにそれぞれの傾斜面を配置するとよい。
【0028】
パイプ固定治具100は、独立する2以上のテーパー部材110によって構成することもできるし、図2に示すように2以上のテーパー部材110と被覆部材120が一体化した構成とすることもできる。この被覆部材120は、肉厚に比して平面寸法が卓越したシート状のものであり、テーパー部材110と同様、樹脂製(例えば、ゴム製)とするなど容易に弾性変形し得るものである。便宜上ここでは、独立する2以上のテーパー部材110によって構成されるパイプ固定治具100のことを「独立式のパイプ固定治具100」と、2以上のテーパー部材110と被覆部材120からなるパイプ固定治具100のことを「シート付のパイプ固定治具100」ということとする。
【0029】
シート付のパイプ固定治具100は、2以上のテーパー部材110が被覆部材120の上面に取り付けられたものであり、テーパー部材110はその底面111が被覆部材120の上面に当接するように配置されている。シート付のパイプ固定治具100を作製するにあたっては、それぞれ別に作製されたテーパー部材110を被覆部材120に固定することで作製することもできるし、はじめから一体として作製することもできる。
【0030】
既述したとおりパイプ固定治具100は、プレモールド絶縁体PIと押しパイプ200の先端が密着した状態を維持するものであり、換言すればプレモールド絶縁体PIと押しパイプ200の先端が密着した状態で押しパイプ200を電力ケーブルECに固定するものである。図4は、パイプ固定治具100によって電力ケーブルECに固定された押しパイプ200を示す断面図である。この図に示すように、電力ケーブルECと、この電力ケーブルECに挿通された筒状の押しパイプ200との間には離隔(以下、「パイプ離隔CL」という。)が生じており、そのパイプ離隔CLにパイプ固定治具100を差し込むことによって押しパイプ200はその位置で電力ケーブルECに固定される。
【0031】
パイプ離隔CLにパイプ固定治具100を差し込むにあたっては、図4に示すように前端111Fから先に挿入していくとよい。より詳しくは、前端111Fを1次側(図では上側)、後端111Bを2次側(図では下側)としたパイプ固定治具100を、押しパイプ200の2次側(図では下側)から挿入していく。このとき、傾斜面112を前端111Fから後方に向かって傾斜する形状とした効果で、円滑にパイプ固定治具100をパイプ離隔CLに差し込んでいくことができる。また、第1傾斜面112Fと第2傾斜面112Bを有するパイプ固定治具100の場合、緩傾斜である第1傾斜面112Fの部分では円滑に差し込んでいくことができ、急傾斜である第2傾斜面112Bの部分で押しパイプ200を電力ケーブルECに堅固に固定することができる。
【0032】
パイプ固定治具100がパイプ離隔CLに差し込まれると、パイプ固定治具100と電力ケーブルECの外周面が接触する部分で摩擦が生じるとともに、パイプ固定治具100の傾斜面112と押しパイプ200の内周面が接触する部分で摩擦が生じ、この摩擦力によって押しパイプ200は電力ケーブルECに固定される。例えば図4では、パイプ固定治具100のうち被覆部材120の下面と電力ケーブルECの外周面が接触するとともに、パイプ固定治具100のうち第2傾斜面112Bと押しパイプ200の内周面が接触しており、これら接触面で摩擦力が生じている。
【0033】
このように第2傾斜面112Bは押しパイプ200と接触することから、より高い摩擦力が得られる構造にすることもできる。例えば図5に示すように、第2傾斜面112Bに「抵抗部材130」を設置することができる。抵抗部材130は、第2傾斜面112B表面の摩擦係数よりも大きい摩擦係数を有する材料によって形成されるものである。この抵抗部材130が押しパイプ200と接触することによって、第2傾斜面112Bが押しパイプ200と接触するよりも高い摩擦力が得られるわけである。
【0034】
独立式のパイプ固定治具100の場合、テーパー部材110を一つずつパイプ離隔CLに差し込んでいく。一方、シート付のパイプ固定治具100の場合、被覆部材120の下面が電力ケーブルECの外周面に接触するように、被覆部材120を電力ケーブルECに巻き付けたうえで、テーパー部材110をパイプ離隔CLに差し込んでいく。このように被覆部材120は電力ケーブルECに巻き付けられるが、電力ケーブルECの全外周面を覆うような構成とすることもできるし、図6に示すように電力ケーブルECの外周面のうち一部のみを覆うような構成とすることもできる。
【0035】
電力ケーブルECの全外周面を覆う場合、被覆部材120の幅方向における長さ(以下、「幅寸法」という。)は電力ケーブルEC断面の周長(以下、「外周寸法」という。)と略同じとされる。一方、電力ケーブルECの外周面のうち一部のみを覆う場合、図6(a)に示すように被覆部材120の幅寸法は電力ケーブルECの外周寸法よりも短い寸法とされる。例えば図6(b)では、被覆部材120の幅寸法が電力ケーブルECの外周寸法の概ね半分であり、その結果、電力ケーブルECのうち概ね左側のみが被覆部材120によって覆われている。もちろん被覆部材120の幅寸法は、電力ケーブルECの外周寸法の2/3としたり、その3/4としたり、任意に設計することができる。
【0036】
2.ケーブル接続方法
続いて、本願発明のケーブル接続方法ついて図7図8を参照しながら説明する。なお、本願発明のケーブル接続方法は、ここまで説明したパイプ固定治具100を用いて電力ケーブルECを終端接続箱TBに接続する方法である。したがって、パイプ固定治具100で説明した内容と重複する説明は避け、本願発明のケーブル接続方法に特有の内容のみ説明することとする。すなわち、ここに記載されていない内容は、「1.パイプ固定治具」で説明したものと同様である。
【0037】
図7は本願発明のケーブル接続方法の主な手順の流れを示すフロー図であり、図8は本願発明のケーブル接続方法の主な手順を示すステップ図である。本願発明のパイプ固定治具100を用いて電力ケーブルECを接続するにあたっては、まず用意された複数種類のパイプ固定治具100から適切なパイプ固定治具100を選定する(図7のStep301)。
【0038】
パイプ離隔CLの大きさは電力ケーブルECと押しパイプ200の径によって定まり、そのため現場によってそれぞれパイプ離隔CLの大きさが異なることが考えられる。この場合、図9に示すようにテーパー部材110の厚さが異なる2種類以上(図では2種類)のパイプ固定治具100を用意しておくとよい。ここで「テーパー部材110の厚さ」とは、図9に示すように被覆部材120(あるいは、底面111)から背面113の頂部までの長さである。パイプ離隔CLの大きさとテーパー部材110の厚さを照らし合わせ、適切なパイプ固定治具100を選定したうえで後続の作業を行うことができる。なお、1種類のみのパイプ固定治具100が用意されている場合は、この工程(図7のStep301)は省略される。
【0039】
適切なパイプ固定治具100を選定すると、図8(a)に示すように電力ケーブルECに押しパイプ200を挿通し、図8(b)に示すように押しパイプ200の先端(1次側)がプレモールド絶縁体PIの後端(2次側)に当接するまで、押しパイプ200を1次側(図では上方)にスライド移動する(図7のStep302)。押しパイプ200の先端とプレモールド絶縁体PIの後端が密着すると、テーパー部材110をパイプ離隔CLに差し込んでいく。このとき、独立式のパイプ固定治具100の場合は、テーパー部材110を一つずつパイプ離隔CLに差し込む。一方、シート付のパイプ固定治具100の場合は、図8(c)に示すように被覆部材120を電力ケーブルECに巻き付けたうえで(図7のStep303)、図8(d)に示すようにテーパー部材110をパイプ離隔CLに差し込んでいく(図7のStep304)。これにより、押しパイプ200の先端とプレモールド絶縁体PIの後端が密着した状態で、押しパイプ200は電力ケーブルECに固定される。
【0040】
押しパイプ200を電力ケーブルECに固定すると、押しパイプ200の先端とプレモールド絶縁体PIの後端が密着した状態を維持しつつ、押しパイプ200を1次側に押していく。電力ケーブルECの外側に配置される押しパイプ200の外径は電力ケーブルECの外径よりも大きいため、押しパイプ200を挿入したときに終端接続箱TB内で生ずる径方向の振り幅は、電力ケーブルECのみを挿入したときよりも小さい。そのため、電力ケーブルECの1次側端部に取り付けられた端末処理材CDは適正な姿勢(方向)で終端接続箱TB内に挿入され、その導体引出棒DBはチューリップコンタクトTCに適正に挿入される(図7のStep305)。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本願発明のパイプ固定治具、及びケーブル接続方法は、発電所とケーブルとの接続、あるいは変電所とケーブルとの接続など様々な接続箇所で利用することができる。本願発明によれば、適正にケーブルを接続することができ、ひいては電気の安定供給に寄与することを考えれば、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明といえる。
【符号の説明】
【0042】
100 本願発明のパイプ固定治具
110 (パイプ固定治具の)テーパー部材
111 (テーパー部材の)底面
111F (底面の)前端
111B (底面の)後端
112 (テーパー部材の)傾斜面
112F (傾斜面の)第1傾斜面
112B (傾斜面の)第2傾斜面
113 (テーパー部材の)背面
114 (テーパー部材の)上面
120 (パイプ固定治具の)被覆部材
130 (パイプ固定治具の)抵抗部材
200 押しパイプ
CL パイプ離隔
CD 端末処理材
DB 導体引出棒
EC 電力ケーブル
GP ガイド管
PI プレモールド絶縁体
TB 終端接続箱
TC チューリップコンタクト
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