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特開2024-125525昇降機管理システムおよび昇降機管理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125525
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】昇降機管理システムおよび昇降機管理方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 17/00 20060101AFI20240911BHJP
   B66B 5/00 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
G01N17/00
B66B5/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033380
(22)【出願日】2023-03-06
(71)【出願人】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ク フォン イ
(72)【発明者】
【氏名】五嶋 匡
(72)【発明者】
【氏名】厚沢 輝佳
(72)【発明者】
【氏名】ヤン インジャ
(72)【発明者】
【氏名】野中 久典
【テーマコード(参考)】
2G050
3F304
【Fターム(参考)】
2G050AA01
2G050BA03
2G050BA05
2G050DA01
2G050EA01
2G050EA02
2G050EB10
3F304BA26
3F304EA03
3F304ED16
(57)【要約】
【課題】設置環境に対応した部品の修理周期を正確に予測することが可能な昇降機管理システムおよび昇降機管理方法を提供することを目的とする。
【解決手段】複数の昇降機に対して実施した部品の修理毎の修理情報と、降水量毎の日数情報とを保持するデータ保持部と、前記データ保持部に保持した前記修理情報と前記降水量毎の日数情報とに基づいて、前記各昇降機における前記部品の修理周期を管理する修理周期管理部とを備えた昇降機管理システムである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の昇降機に対して実施した部品の修理毎の修理情報と、降水量毎の日数情報とを保持するデータ保持部と、
前記データ保持部に保持した前記修理情報と前記降水量毎の日数情報とに基づいて、前記各昇降機における前記部品の修理周期を管理する修理周期管理部とを備えた
昇降機管理システム。
【請求項2】
前記データ保持部は、前記修理情報として、修理を実施した部品を有する昇降機が設置された地域および設置環境に関する情報を保持し、
前記修理周期管理部は、同一の地域および設置環境に配置された昇降機の同一の各部品について前記データ保持部に保持された前記修理情報と前記降水量毎の日数情報とに基づいて、前記各部品の修理周期を管理する
請求項1に記載の昇降機管理システム。
【請求項3】
前記設置環境は、屋外、準屋外、および屋内の何れかであり、
前記修理周期管理部は、前記昇降機のうち前記設置環境が屋外または準屋外の昇降機の部品を管理の対象とする
請求項2に記載の昇降機管理システム。
【請求項4】
前記修理周期管理部は、
前記修理情報と前記降水量毎の日数情報とに基づいて、前記各部品の稼働期間内における設定降水量以上の日の積算日数に対し、前記各部品の修理周期に対応する第1閾値を設定する閾値設定部と、
前記閾値設定部で算出した第1閾値と前記降水量毎の日数情報とに基づいて、前記各部品の修理周期を算出する修理周期算出部とを有する
請求項1に記載の昇降機管理システム。
【請求項5】
前記閾値設定部は、前記修理情報と前記降水量毎の日数情報とに基づいて、前記積算日数毎に前記各部品の修理を実施した修理実績数を積算し、前記積算日数の増加に対する前記修理実績数の増加率が最大となる直前の積算日数を前記第1閾値として設定する
請求項4に記載の昇降機管理システム。
【請求項6】
前記修理周期算出部は、前記修理情報に基づいて、前記部品の稼働期間内における前記設定降水量以上の日の積算日数が、前記第1閾値を超えていると判断した部品について、前記第1閾値に基づく修理周期の算出を実施する
請求項4に記載の昇降機管理システム。
【請求項7】
前記データ保持部は、前記各昇降機における前記部品毎の修理周期を保持する修理周期データベースを有し、
前記修理周期データベースに保持された修理周期は、前記修理周期算出部において算出した修理周期に更新される
請求項4に記載の昇降機管理システム。
【請求項8】
前記閾値設定部は、前記修理情報と前記降水量毎の日数情報とに基づいて、前記各部品の稼働期間内における設定降水量以上の日の積算日数に対し、前記各部品の交換の要否を判定するための第2閾値を設定し、
前記修理周期管理部は、前記修理情報に基づいて、前記各部品の稼働期間内における前記設定降水量以上の日の積算日数が、前記第2閾値以上であると判断した場合に、前記判断した部品の交換を促す情報を外部装置に対して発報する交換判定部を有する
請求項5に記載の昇降機管理システム。
【請求項9】
前記閾値設定部は、前記修理情報と前記降水量毎の日数情報とに基づいて、前記積算日数毎に前記各部品の修理を実施した修理実績数を積算し、前記積算日数の増加に対する前記修理実績数の減少率が最大となる直前の積算日数を前記第2閾値として設定する
請求項8に記載の昇降機管理システム。
【請求項10】
前記閾値設定部は、
複数の前記設定降水量について前記第1閾値および前記第2閾値をそれぞれ設定し、
前記設定された各第1閾値のうち直後の前記増加率が最大となる第1閾値を1つの第1閾値として選択するとともに、前記設定された各第2閾値のうち直後の前記減少率が最大となる第2閾値を1つの第2閾値として選択し、
前記修理周期算出部は、前記1つの第1閾値に基づいて前記修理周期を算出し、
前記交換判定部は、前記1つの第2閾値に基づく判断を実施する
請求項9に記載の昇降機管理システム。
【請求項11】
前記データ保持部は、前記修理情報として、修理を実施した部品を有する昇降機の機種に関する情報を保持し、
前記修理周期管理部は、同一の機種の昇降機の同一の各部品について前記データ保持部に保持された修理情報に基づいて、前記各部品の修理周期を管理する
請求項1に記載の昇降機管理システム。
【請求項12】
外部サーバーから前記降水量毎の日数情報を取得し、取得した情報を前記データ保持部に保持させる降水日数情報取得部を有する
請求項1に記載の昇降機管理システム。
【請求項13】
データ保持部が、複数の昇降機に対して実施した部品の修理毎の修理情報と、降水量毎の日数情報とを保持し、
修理周期管理部が、前記データ保持部に保持した前記修理情報と前記降水量毎の日数情報とに基づいて、前記各昇降機における前記部品の修理周期を管理する
昇降機管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇降機管理システムおよび昇降機管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昇降機管理システムおよび昇降機管理方法に関する技術として、下記特許文献1に開示の技術がある。この特許文献1には、「ナレッジ処理部6は、得られた故障履歴などに基づき、昇降機3の部品ごとの交換周期を分析する(S004)。…設置環境や利用者の使い方によって昇降機3の部品の寿命が異なるため、ナレッジ処理部6は、交換周期に影響する要素を取得し、各要素に応じて、ステップS004で算出した各部品の交換周期を補正する(S005)。」と記載され、交換周期に影響する要素とは、「昇降機3と接続するセンサ31から得られる計測データ(温度や湿度などの周辺環境を示す指標値)を指す」としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-006564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エレベーターやエスカレーターなどの昇降機は、屋内に設置されることに限定されず、屋外または準屋外などに設置される場合もある。このため、昇降機がどのような設置環境にあるかによって、設置環境から受ける影響は大きく異なる。しかしながら、特許文献1に記載のシステムでは、昇降機と接続するセンサから得られる計測データのみを、設置環境を示す指標としているため、昇降機の設置環境に対応した部品の修理周期を正確に予測することは困難であった。
【0005】
そこで本発明は、設置環境に対応した部品の修理周期を正確に予測することが可能な昇降機管理システムおよび昇降機管理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、例えば特許請求の範囲に記載の構成を採用する。
本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、複数の昇降機に対して実施した部品の修理毎の修理情報と、降水量毎の日数情報とを保持するデータ保持部と、前記データ保持部に保持した前記修理情報と前記降水量毎の日数情報とに基づいて、前記各昇降機における前記部品の修理周期を管理する修理周期管理部とを備えた昇降機管理システムである。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、設置環境に対応した部品の修理周期を正確に予測することが可能な昇降機管理システムおよび昇降機管理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態の昇降機管理システムの構成図である。
図2】第1実施形態の昇降機管理システムのデータ保持部が保持する情報を示す図である。
図3】第1実施形態の昇降機管理システムによる修理周期算出対象を説明する図である。
図4】第1実施形態の昇降機管理方法を示すフローチャートである。
図5】第1実施形態の昇降機管理方法におけるデータの抽出と統合を示す図である。
図6】第1実施形態の昇降機管理方法における修理周期算出対象の選択を示す図である。
図7】設定降水量(50mm/h)以上の日の積算日数毎の修理実績回数を示すグラフである。
図8】降雨に晒された条件下の設備における部品の寿命曲線を示す図である。
図9】第2実施形態の昇降機管理方法の要部を示すフローチャートである。
図10】各設定降水量以上の日の積算日数毎の修理実績回数を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の昇降機管理システムおよび昇降機管理方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、各実施の形成において同一の構成要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略することとする。
【0010】
≪第1実施形態≫
<昇降機管理システム>
図1は、第1実施形態の昇降機管理システム1の構成図である。この図に示す昇降機管理システム1は、エレベーター、エスカレーター、および他の設備装置を含む複数の昇降機2について、設置環境に対応した部品の修理周期を管理するためのものである。設置環境とは、例えば屋内、屋外、および準屋外などである。なお、図1においては、昇降機2としてエレベーターのみを図示したが、昇降機管理システム1によって部品の修理周期を管理する複数の昇降機2はエスカレーターであってもよく、エレベーターとエスカレーターの両方であってもよい。
【0011】
このような昇降機管理システム1は、サーバー上または複数の昇降機2を管理するための管制センター上に設けられた計算機によって構成されている。計算機は、いわゆるコンピューターとして用いられるハードウェアである。計算機は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、およびROM(Read Only Memory)やHDD(hard disk drive)のような不揮発性の記憶部、さらにはネットワークインターフェースを備える。このような計算機によって構成され昇降機管理システム1は、部品の修理周期を管理するための昇降機管理プログラムを不揮発性の記憶部に保存する。
【0012】
次に、昇降機管理システム1を構成する各機能部を説明する。この昇降機管理システム1は、降水日数情報取得部100、データ保持部200、修理周期管理部300、および通信部400の各機能部を有する。これらの各機能部は、次のようである。
【0013】
[降水日数情報取得部100]
降水日数情報取得部100は、外部サーバー3から、ネットワーク4を介して降水量毎の日数情報を取得する。外部サーバー3は、例えば気象庁が保有するコンピューターである。降水日数情報取得部100は、外部サーバー3の降水日数情報データベース30から、指定した所定の期間についての降水量毎の日数情報を取得する。なお、外部サーバー3は、気象情報として降水量毎の日数情報のデータベースを備えていればよく、気象庁が保有するものに限定されることはない。また外部サーバー3から取得する降水量毎の日数情報の詳細は、以降に説明する。
【0014】
[データ保持部200]
データ保持部200は、各昇降機2の部品の修理周期を管理するために必要な情報を保持する。このようなデータ保持部200は、修理実績データベース201、降水日数情報データベース202、および修理周期データベース203を備える。図2は、第1実施形態の昇降機管理システム1のデータ保持部200が保持する情報を示す図であって、データ保持部200の各データベースが保持する情報を示す。以下、図1および図2に基づいて各データベースが保持する情報を説明する。
【0015】
=修理実績データベース201=
修理実績データベース201は、例えば通信部400を介してFE端末5から入力された修理に関する情報を保持する。ここで、FE端末5は、例えば各昇降機2の保守作業員が保持する携帯端末装置であり、入力部および表示部などの出力部を備えたものである。修理実績データベース201は、昇降機2の何れかに部品の修理が発生した場合に、何れかのFE端末5から入力された修理に関する情報を保持する。この修理実績データベース201は、受け付けた情報に対して修理実績番号を付与し、この修理実績番号を主キーとして、受け付けた情報を保持する。
【0016】
このよう修理実績データベース201は、実績情報として部品の修理を実施した昇降機ID情報201a、部品情報201b、および交換日情報201cを保持する。このうち、昇降機ID情報201aとは、複数の昇降機2のそれぞれを識別するための情報である。また部品情報201bとは、修理を実施した部品に関する情報であって、例えば各部品に付与した識別情報である。さらに、交換日情報201cとは、部品の修理を実施した年月日に関する情報である。
【0017】
また、修理実績データベース201は、昇降機仕様情報として部品の修理を実施した昇降機2の機種情報201dを保持する。
【0018】
さらに修理実績データベース201は、設置情報として設置環境情報201eおよび地域情報201fを保持する。設置環境情報201eとは、部品の修理を実施した昇降機2が設置されている環境であって、屋外、屋内、および準屋外の何れかである。このうち準屋外とは屋根が一定幅以下で、かつ外気に接触する設置環境である。また地域情報201fとは、部品の修理を実施した昇降機2が設置されている地域であって、都道府県や市町村である。
【0019】
さらに修理実績データベース201は、稼働情報として稼働期間情報201gを保持する。この稼働期間情報201gは、部品を交換してから、または新品の昇降機2を設置してから、今回の修理までの期間(日数または年月数)である。
【0020】
=降水日数情報データベース202=
降水日数情報データベース202は、降水量毎の日数情報として、稼働期間情報201gに示す稼働期間内においての、その地域における降水量のレベル毎の降水日の日数情報202a(202a-1~202a-5)を保持する。降水日数情報データベース202が保持する日数情報202aは、降水日数情報取得部100を介して外部サーバー3から取得した情報であることとする。
【0021】
ここで、降水量のレベルは、各外部サーバー3において設定した各降水量の段階分けである。例えば気象庁であれば、10~19mm/hの雨(やや強い雨)、20~29mm/hの雨(強い雨)、30~49mm/hの雨(激しい雨)、50~79mm/hの雨(非常に激しい雨)、80以上mm/h以上の雨(猛烈な雨)の5つのレベルに設定されている。なお、降水量のレベル分けは、これに限定されることはなく、この昇降機管理システム1が利用する外部サーバー3でのレベル分けに従うことでよい。
【0022】
このような降水量のレベル毎の日数に関する情報は、地域ごとの情報として保持されている。このため、この降水日数情報データベース202が保持する降水量のレベル毎の日数情報(202a-1~202a-5)は、修理実績データベース201の地域情報201fを共通キーとして、修理実績データベース201が保持する各情報と関連付けることができる。
【0023】
=修理周期データベース203=
修理周期データベース203は、各昇降機2における各部品の修理周期情報203aを保持している。修理周期情報203aは、各昇降機2における各部品の修理(メンテナンス)を実施する周期の設定情報である。修理周期データベース203が保持する修理周期情報203aは、例えば過去の修理実績に基づいてワイブル型ハザード分析によって算出された値であるか、また例えば次に説明する修理周期管理部300(図1参照)によって算出した情報である。
【0024】
[修理周期管理部300]
図1に戻り、修理周期管理部300は、降水日数情報取得部100が取得した降水量毎の日数情報と、データ保持部200に保持した情報とに基づいて、各昇降機2における各部品の修理周期を管理する。このような修理周期管理部300は、対象選択部301、閾値設定部302、交換判定部303、および修理周期算出部304の各機能部を備える。これらの各機能部は、次のような構成である。
【0025】
=対象選択部301=
対象選択部301は、修理周期の予測に必要な情報をデータ保持部200から抽出して統合するとともに、統合した情報の中から各昇降機2における各部品の修理周期の算出対象を選択する。このような対象選択部301は、例えば修理周期の算出対象の選択に際して参照する対象判定テーブルを保持する。
【0026】
図3は、第1実施形態の昇降機管理システム1による修理周期算出対象を説明する図であって、図1の対象選択部301が保持する対象判定テーブル[T1]~[T4]である。図3に示すように、対象判定テーブル[T1]によれば、昇降機を構成する部品は、全てが修理周期の算出対象となるわけではなく、対象外となる部品もある。また対象判定テーブル[T3]によれば、昇降機の設置環境が屋内であれば、部品の修理周期の算出対象外となる。対象選択部301は、これらの対象判定テーブル[T1]~[T4]に示す対象となる項目を順次に組み合わせて修理周期の算出対象を設定する。そして設定された修理周期の算出対象に合致する情報を有する修理実績番号の情報を、統合した情報の中から選択する。この対象選択部301による処理の詳細は、以降の昇降機管理方法において説明する。
【0027】
=閾値設定部302=
図1に戻り、閾値設定部302は、対象選択部301で選択した情報に基づいて、修理周期の管理に用いるための閾値を算出する。この閾値設定部302による閾値の算出の詳細は、以降の昇降機管理方法において説明する。
【0028】
=交換判定部303=
交換判定部303は、閾値設定部302で算出した閾値に基づいて、各昇降機の各部品について、交換の必要があるか否かの判定を実施する。また交換判定部303は、交換の必要があると判断した場合には、その判断をFE端末5に対して通知する。この交換判定部303による判断の詳細は、以降の昇降機管理方法において説明する。
【0029】
=修理周期算出部304=
修理周期算出部304は、閾値設定部302で算出した閾値に基づいて、各部品の修理周期を算出し、算出した修理周期を修理周期データベース203に送信する。
【0030】
[通信部400]
通信部400は、外部のFE端末5との間で情報の送受信を実施する部分である。
【0031】
<昇降機管理方法>
次に、第1実施形態の昇降機管理方法を説明する。第1実施形態の昇降機管理方法は、昇降機における部品の修理周期の管理の方法であって、図1図3に基づいて説明した昇降機管理システム1が保持する昇降機管理プログラムによって実施される方法である。
【0032】
図4は、第1実施形態の昇降機管理方法を示すフローチャートである。このフローチャートは、一例として所定期間毎(例えば一年毎)に実施される昇降機の保守点検に関する作業計画の立案時に、FE端末5から指示が入力されたことによって開始される。以下、図4のフローチャートに沿って、先の図1図3、および他の図を参照しつつ、第1実施形態の昇降機管理方法を説明する。
【0033】
[ステップS11(図4)]
ステップS11において、修理周期管理部300の対象選択部301は、データ保持部200の修理実績データベース201から、主キーである修理実績番号の順に、各修理実績番号が付与された情報を抽出する。そして、抽出したデータを、各修理実績番号に関連付けしたデータとして統合する。
【0034】
図5は、第1実施形態の昇降機管理方法におけるデータの抽出と統合を示す図である。この図に示すように、対象選択部301は、修理実績番号を主キーとし、各修理実績番号に関連付けされた昇降機ID情報201a、部品情報201b、交換日情報201c、機種情報201d、設置環境情報201e、地域情報201f、稼働期間情報201g、および日数情報202aを抽出して1つのデータとして結合する。そして結合された各データを統合して図5に示す1つのデータフレームとする。
【0035】
ここで、日数情報202aは、各修理実績番号の地域情報201fと稼働期間情報201gとに基づいて、降水日数情報データベース202から抽出した情報である。この稼働期間は、交換日情報201cと、稼働期間情報201gとに基づく所定の稼働期間である。例えば修理実績番号[No.1]の情報であれば、交換日である2008年1月23日から稼働期間である10年間だけ遡った期間である。日数情報202aは、この稼働期間においての降水量毎の日数情報202aである。
【0036】
[ステップS12(図4)]
ステップS12において、修理周期管理部300の対象選択部301は、修理周期算出対象の選択を実施する。この際、対象選択部301は、先に説明した対象判定テーブル[T1]~[T4](図3)を参照して算出対象を設定する。
【0037】
図6は、第1実施形態の昇降機管理方法における修理周期の算出対象を示す図である。図6に示すように、対象選択部301は、各対象判定テーブル[T1]~[T4](図3)の中から各1項目を抽出して組み合わせることで、1つの算出対象を設定する。設定した算出対象には、例えば設定順に対象番号を付与する。また、対象選択部301は、設定した算出対象に合致する情報を有する全ての修理実績情報を、ステップS11において統合した情報の中から選択する。
【0038】
例えば、算出対象として、算出対象番号[No.1](図6)を設定した場合、統合した修理実績情報(図5)の中から、部品情報201bが[ハンドレールチェーン]、機種情報201dが[A]、設置環境情報201eが[屋外]、地域情報201fが[東京]の全て情報を有する全ての修理実績番号の情報を、修理周期算出対象として選択する。
【0039】
[ステップS13(図4)]
ステップS13において、閾値設定部302は、ステップS12において選択した全ての修理実績番号の情報に基づいて、設定降水量以上の日の積算日数毎に修理実績回数を積算する。ここで、設定降水量とは、修理周期の予測のために任意に設定した降水量である。この設定降水量は、降水日数情報データベース202に保持された降水日数情報(202a-1~202a-5)における降水量のうちの、何れかのレベルの最大値または最小値であることが望ましい。
【0040】
図7は、設定降水量(50mm/h)以上の日の積算日数毎の修理実績回数を示すグラフであって、閾値設定部302による修理実績回数の積算結果を示す図である。図7における横軸は、部品を交換してから修理を実施するまでの間の部品の稼働期間内に、設定降水量(ここでは50mm/h)以上であった日の積算日数を示す。なお、横軸に示した積算日数は最大値であって、10日は0日~10日、50日は11日~50日を含む。
【0041】
また図7の縦軸は、ステップS12で修理周期の算出対象として選択した各修理実績番号を、対応する積算日数に対して積み上げた修理実績の数である。ここで、対応する積算日数とは、各修理実績番号の情報に基づいて算出された稼働期間内における設定降水量(50mm/h)以上の日の日数が、図7のグラフの横軸の積算日数に対応していることを言う。閾値設定部302は、ステップS11で統合したデータ(図5)に基づいて、本ステップS13の積算処理を実行する。
【0042】
[ステップS14(図4)]
ステップS14において、閾値設定部302は、ステップS13での積算結果(図7)に基づいて、部品の故障が発生して修理が必要となり始める時期を予測するための第1閾値[th1]と、部品が修理不可能な故障を引き起こす時期を予測するための第2閾値[th2]とを設定する。この際、閾値設定部302は、積算結果(図7)における修理実績数の増加率が最大となる直前の積算日数(ここでは70日)を、第1閾値[th1]として設定する。また、閾値設定部302は、積算結果(図7)における修理実績数の減少率が最大となる直前の積算日数(ここでは200日)を、第2閾値[th2]として設定する。
【0043】
ここで、図8には、降雨に晒された条件下の設備における部品の寿命曲線を示す図であり、所定降水量以上の日の日数に対する部品の寿命を示している。日数は、設定した降水量以上であった日の累積日数である。
【0044】
図8に示すように、部品の寿命は、日数が第1日数[d1]に達するまでは、一定の長さ[Rci]に保たれる。その後、日数が第1日数[d1]を超えて第2日数[d2]に達するまでの間には、部品に故障が発生し始めて修理が必要となり、部品の寿命が徐々に短くなる。そして、日数が第2日数[d2]に達したところで、部品が修理不可能な故障に至り、部品の寿命はゼロになる。
【0045】
そこで、閾値設定部302は、部品の寿命が低下し始める直前の第1日数[d1]に相当する日数として、部品の修理実績数が急上昇する直前の積算日数を、第1閾値[th1]として設定する。この第1閾値[th1]は、部品の修理周期に対応する日数として設定される。また、閾値設定部302は、部品が修理不可能な故障に至る第2日数[d2]相当する日数として、部品の修理実績数が急降下する直前の積算日数を第2閾値[th2]として設定する。この第2閾値[th2]は、部品の交換の要否を判定するための日数として設定される。
【0046】
[ステップS15(図4)]
ステップS15以下の処理は、ステップS12で選択した各修理実績番号の部品を対象にして順次個別に実施される。
【0047】
本ステップS15において、交換判定部303は、稼働期間内における設定降水量以上の日が、ステップS14で設定した第2閾値[th2]以上であるか否かの判断を実施する。この際、交換判定部303は、ステップS12で選択した修理実績番号のうちの1つについて、稼働期間内における設定降水量以上の日の積算日数が、第2閾値[th2]以上であるか否かを判断する。この設定降水量は、ステップS13で設定されている設定降水量と同一であり、以下において同様である。
【0048】
交換判定部303は、各修理実績番号に対応して算出した各積算日数が第2閾値[th2]以上であるか否かを判定し、第2閾値[th2]以上である(YES)と判定した場合にはステップS15aに進む。一方、第2閾値[th2]以上ではない(NO)と判定した場合にはステップS16に進む。
【0049】
[ステップS15a(図4)]
ステップS15aにおいて、交換判定部303(図1)は、ステップS15において設定降水量日が第2閾値[th2]以上との算出結果となった修理実績番号の情報に基づいて、昇降機ID情報と部品とを特定し、部品の緊急交換通知を発報する。これにより、通信部400は、FE端末5に対して、交換判定部303が特定した昇降機における特定の部品の交換を促すための緊急交換通知を送信する。その後、修理周期の算出を実施せずに、処理を終了させてステップS19に進む。
【0050】
[ステップS16(図4)]
ステップS16において、修理周期算出部304(図1)は、稼働期間内における設定降水量以上の日が、ステップS14で設定した第1閾値[th1]以下であるか否かの判断を実施する。修理周期算出部304(図1)は、稼働期間内における設定降水量以上の日の積算日数が、第1閾値[th1]以下であるか否かを判断する。
【0051】
修理周期算出部304は、第1閾値[th1]以下である(YES)と判定した修理実績番号の処理を終了させ、修理周期の算出を実施せずにステップS19に進む。これにより、第1閾値[th1]以下である(YES)と判定された修理実績番号の部品の修理周期は、更新されることなく修理周期データベース203に保持された修理周期が用いられる。
【0052】
一方、第1閾値[th1]以下ではない(NO)と判定した修理実績番号の処理をステップS17に進める。
【0053】
[ステップS17(図4)]
ステップS17において、修理周期算出部304(図1)は、ステップS14において設定した第1閾値[th1]から、各修理実績番号の部品についての修理周期を算出する。この際、修理周期算出部304は、先ず、修理周期データベースを参照し、修理周期を算出しようとしている修理実績番号の部品について、現在設定されている修理周期(例えば15年)を抽出する。次いで、降水日数情報取得部100を介して、選択した修理実績番号の地域について、抽出した修理周期に対応する直近の期間の降水日数情報を取得する。修理周期算出部304は、取得した直近の期間の降水日数情報に基づいて、設定降水量日がステップS14で算出した第1閾値[th1]に達するまでの到達期間を算出する。
【0054】
例えば、第1閾値[th1]が70日(図7)の場合、修理周期算出部304は、修理周期に対応する直近の期間の降水日数情報に基づいて、設定降水量(50mm/h)以上の日数が70日に達するまでの到達期間を、例えば11年と算出する。そして、この到達期間11年を、対応する修理実績番号の部品についての新たな修理周期として算出する。
【0055】
[ステップS18(図4)]
ステップS18において、修理周期算出部304(図1)は、ステップS17で算出した修理周期を、ステップS12において修理周期算出対象として設定した部品(機種、設置環境、地域が同一)の修理周期として、修理周期データベース203に送信する。これにより、修理周期データベース203は、該当部品の修理周期を、先にステップS17で算出した修理周期に更新する。
【0056】
[ステップS19(図4)]
ステップS19において、対象選択部301(図1)は、全ての算出対象についての修理周期の算出が終了したか否かを判断する。対象選択部301(図1)は、各対象判定テーブル[T1]~[T4](図3)中の項目の全ての組み合わせについて、修理周期の算出を終了した(YES)と判断した場合には、昇降機管理方法の手順を終了させる。一方、全ての組み合わせについて修理周期の算出を終了していない(NO)と判断した場合には、ステップS12に戻り、次の算出対象を設定して以降のステップを繰り返し実施する。
【0057】
<第1実施形態の効果>
以上説明した第1実施形態によれば、設定降水量以上の降雨に晒される日数に応じて昇降機2の各部品の修理周期を算出することで、設置環境に対応した部品の修理周期を正確に予測することが可能となる。この結果、降水量が多い地域では、部品の修理や交換を早めに実施して昇降機の安全性の向上を図ることができ、一方、降水量が少ない地域では部品の修理周期を長くすることで昇降機のメンテナンスコストの低減を図ることが可能となる。
【0058】
≪第2実施形態≫
<昇降機管理システム>
第2実施形態の昇降機管理システムは、図1図3を用いて説明した第1実施形態の昇降機管理システム1の構成と同様のものであり、閾値設定部302によって実施される閾値の設定の手順が異なるのみである。このためここでの昇降機管理システムの説明は省略する。
【0059】
<昇降機管理方法>
第2実施形態の昇降機管理方法は、図4のフローチャートに沿って説明した第1実施形態の昇降機管理方法に対して、複数組の第1閾値と第2閾値の中から1組の第1閾値と第2閾値を選択して設定するところが異なる。すなわち、第2実施形態の昇降機管理方法は、図4のフローチャートにおけるステップS13およびステップS14で実施する処理のみが異なり、その他のステップは第1実施形態の昇降機管理方法と同様である。そこで、以下においては、図4のステップS13およびステップS14に換えて実施するステップのみを説明する。
【0060】
図9は、第2実施形態の昇降機管理方法の要部を示すフローチャートであって、図4のステップS13およびステップS14に差し替えて実施されるステップを示している。以下、図9のフローチャートに沿って、他の図を参照しつつ、第2実施形態の昇降機管理方法の要部を説明する。
【0061】
先ず、第1実施形態の昇降機管理方法と同様に、図4のステップS11およびステップS12を実施する。これにより、修理周期管理部300の対象選択部301は、対象判定テーブル[T1]~[T4](図3)を参照して修理周期の算出対象を設定し、設定した算出対象に合致する情報を有する全ての修理実績情報を、ステップS11において統合した情報の中から選択する。その後、図9に示すステップS12aに進む。
【0062】
[ステップS12a(図9)]
ステップS12aにおいて、閾値設定部302は、複数(n個)の降水量を設定する。ここで設定する降水量は、修理周期の予測のために任意に設定した降水量(設定降水量)である。この設定降水量は、降水日数情報データベース202に保持された降水日数情報(202a-1~202a-5)における降水量のうちの、何れかのレベルの最大値または最小値であることとする。一例として、30mm/hと、50mm/hの2つの降水量を設定する。
【0063】
[ステップS13’(図9)]
ステップS13’において、閾値設定部302は、ステップS12aで設定した降水量のうちの1つを設定降水量とし、この設定降水量以上の日の積算日数毎に、修理実績回数を積算する。このステップ13’における積算処理は、第1実施形態におけるステップS13と同様に実施する。
【0064】
[ステップS14’(図9)]
ステップS14’において、閾値設定部302は、ステップS13’での積算結果に基づいて、修理周期を算出するための第1閾値[th1]と、部品の交換を促すための第2閾値[th2]とを設定する。このステップS14’は、第1実施形態におけるステップS14と同様に実施する。
【0065】
[ステップS14a(図9)]
ステップS14aにおいて、閾値設定部302は、ステップS12aで設定した複数の降水量の全てについて、第1閾値[th1]と第2閾値[th2]の設定を終了したか否かの判断を実施する。そして、算出を終了した(YES)と判断した場合に、次のステップS14bに進む。一方、終了していない(NO)と判断した場合にはステップS13’に戻り、ステップS12aで設定した他の降水量についての処理を繰り返す。
【0066】
図10は、各設定降水量以上の日の積算日数毎の修理実績回数を示すグラフであり、設定降水量を30mm/hと50mm/hの2つに設定した場合を示す。これらのグラフは、ステップ13’からステップS14aを繰り返すことによって得られる。
【0067】
[ステップS14b(図9)]
ステップS14bにおいて、閾値設定部302は、複数の設定降水量についてそれぞれ設定した複数の第1閾値[th1]のうち、直後の修理実績数の増加率が最も大きい値を正式な1つの第1閾値[th1]として選択する。図10に示した例では、設定降水量(30mm/h)以上の第1閾値[th1]の方が、設定降水量(50mm/h)以上の第1閾値[th1]よりも、直後の増加率が大きいため、設定降水量(30mm/h)以上の第1閾値[th1]=50日を、正式な1つの第1閾値[th1]として選択する。なお、複数の第1閾値[Th1]において直後の増加率が同一であり、それぞれが異なる積層日数の場合、最も小さい値を第1閾値[Th1]として選択することとする。これにより、部品の修理周期が遅れることを防止する。
【0068】
[ステップS14c(図9)]
ステップS14cにおいて、閾値設定部302は、複数の設定降水量についてそれぞれ設定した複数の第2閾値[th2]のうち、直後の修理実績数の減少率が最も大きい値を正式な1つの第2閾値[th2]として選択する。図10に示した例では、設定降水量(30mm/h)以上の第2閾値[th2]と、設定降水量(50mm/h)以上の第2閾値[th2]とは同一の200日であり、直後の修理実績数の減少率も同一である。このため、200日を正式な第2閾値[th2]として選択する。なお、複数の第2閾値[Th2]において直後の減少率が同一であり、それぞれが異なる積層日数の場合、最も小さい値を第2閾値[Th2]として選択することとする。これにより、部品の故障発生が生じることを防止する。
【0069】
以上の後には、ステップS15に進み、以降は第1実施形態で説明した手順と同様の手順を実施する。
【0070】
<第2実施形態の効果>
以上説明した第2実施形態によれば、複数の設定降水量について設定した第1閾値[th1]から修理周期を算出することにより、第2実施形態と比較してさらに高精度に修理周期を算出することが可能になる。また、複数の設定降水量について第2閾値[th2]を設定することにより、部品が修理不可能な故障に至る危険性を防止する効果を高めることができる。
【0071】
なお、本発明は上記した実施形態および変形例に限定されるものではなく、さらに様々な変形例が含まれる。例えば、降水量毎の日数情報は、気象庁などの外部サーバー3から取得する構成としたがこれに限定されることはなく、昇降機2に近接して配置した降雨量センサーからの情報に基づいて、降水量毎の日数情報を算出する構成であってもよい。また例えば、上記した実施形態は本発明をわかりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0072】
1…昇降機管理システム
2…昇降機
5…FE端末(外部装置)
100…降水日数情報取得部
200…データ保持部
201…修理実績データベース
203…修理周期データベース
300…修理周期管理部
302…閾値設定部
303…交換判定部
304…修理周期算出部
[th1]…第1閾値
[th2]…第2閾値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10