(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024125530
(43)【公開日】2024-09-19
(54)【発明の名称】動力伝達軸
(51)【国際特許分類】
F16C 35/07 20060101AFI20240911BHJP
F16C 33/58 20060101ALI20240911BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20240911BHJP
F16C 33/76 20060101ALI20240911BHJP
F16J 15/16 20060101ALI20240911BHJP
【FI】
F16C35/07
F16C33/58
F16C19/06
F16C33/76 Z
F16J15/16 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023033387
(22)【出願日】2023-03-06
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】李 莎
(72)【発明者】
【氏名】穐田 康史
(72)【発明者】
【氏名】春名 賢人
【テーマコード(参考)】
3J043
3J117
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J043AA16
3J043DA09
3J117AA01
3J117CA06
3J117DA01
3J117DB06
3J216AA02
3J216AA12
3J216AB02
3J216BA23
3J216CA01
3J216CA04
3J216CC45
3J216CC70
3J701AA02
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA54
3J701BA56
3J701FA46
3J701GA02
(57)【要約】
【課題】スナップリングを装着する時に、プライヤの先端がシール部材に到達しない構成にして、シール部材の破損の恐れをなくすことができる動力伝達軸を提供する。
【解決手段】転動軸受は、プロペラシャフトの回転軸線方向で、内輪(54)と外輪(55)を挟むように配置されるシール部材(58)を備え、嵌入部(59)には、シール材部(58)に近接して配置されたスペーサリング(66)と、スペーサリング(66)に隣接し転動軸受とは反対側の嵌入部に形成されたリング溝(62)と、リング溝(62)に配置されたスナップリング(63)とが設けられている。スナップリング(63)をリング溝(62)に収納する際に、スペーサリング(66)の厚みによってプライヤ(64)の先端がシール部材(58)に到達することが抑止され、シール部材(58)の破損の恐れをなくすことができる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルクチューブと、前記トルクチューブの内周に形成された嵌入部に配置された転動軸受によって回転自在に支持されたプロペラシャフトとからなる動力伝達軸において、
前記転動軸受は、前記プロペラシャフトの回転軸方向で、内輪と外輪を挟むように配置されるシール部材を備え、
前記嵌入部には、前記シール部材に隣接して配置された隙間形成部材と、前記隙間形成部材に隣接し、前記転動軸受とは反対側の前記嵌入部に形成されたリング溝と、前記リング溝に配置された止め輪とが設けられており、
前記隙間形成部材の前記回転軸方向の長さが、前記止め輪を前記リング溝に収納させる収納工具が前記止め輪から突出する長さより長く形成されている
ことを特徴とする動力伝達軸。
【請求項2】
請求項1に記載の動力伝達軸において、
前記隙間形成部材と前記止め輪は、別体に形成されて前記嵌入部に配置されている
ことを特徴とする動力伝達軸。
【請求項3】
請求項2に記載の動力伝達軸において、
前記隙間形成部材は、円環状に形成されたスペーサリングである
ことを特徴とする動力伝達軸。
【請求項4】
請求項3に記載の動力伝達軸において、
前記スペーサリングは、前記シール部材の外周と前記止め輪の内周の間に位置する
ことを特徴とする動力伝達軸。
【請求項5】
請求項4に記載の動力伝達軸において、
前記スペーサリングは、金属製である
ことを特徴とする動力伝達軸。
【請求項6】
請求項4に記載の動力伝達軸において、
前記スペーサリングは、ゴム製製である
ことを特徴とする動力伝達軸。
【請求項7】
請求項4に記載の動力伝達軸において、
前記スペーサリングは、金属製のウエーブワッシャである
ことを特徴とする動力伝達軸。
【請求項8】
トルクチューブと、前記トルクチューブの内周に形成された嵌入部に配置された転動軸受によって回転自在に支持されたプロペラシャフトとからなる動力伝達軸において、
前記転動軸受は、前記プロペラシャフトの回転軸方向で、内輪と外輪を挟むように配置されるシール部材を備え、
前記嵌入部には、前記転動軸受とは反対側の前記嵌入部に形成されたリング溝と、前記リング溝に配置された止め輪とが設けられており、
前記止め輪には、前記シール部材とは反対側に前記回転軸方向に所定の長さだけ延びた、収納工具の先端部が挿通される透孔を有する隙間形成部材が設けられており、前記隙間形成部材の回転軸方向の前記所定の長さが、前記止め輪を前記リング溝に収納させる前記収納工具が前記止め輪から突出する長さより長く形成されている
ことを特徴とする動力伝達軸。
【請求項9】
請求項8に記載の動力伝達軸において、
前記隙間形成部材は、前記止め輪と一体的に形成された係合孔形成部である
ことを特徴とする動力伝達軸。
【請求項10】
請求項9に記載の動力伝達軸において、
前記係合孔形成部は、前記止め輪と一体的に形成され、前記止め輪の側面と沿って内周側に向かって形成されている
ことを特徴とする動力伝達軸。
【請求項11】
トルクチューブと、前記トルクチューブの内周に形成された嵌入部に配置された転動軸受によって回転自在に支持されたプロペラシャフトとからなる動力伝達軸において、
前記転動軸受は、前記プロペラシャフトの回転軸方向で、内輪と外輪を挟むように配置されるシール部材を備え、
前記嵌入部には、前記転動軸受とは反対側の前記嵌入部に形成されたリング溝と、前記リング溝に配置された止め輪とが設けられており、
前記止め輪には、前記シール部材に向かって所定の長さだけ延びた隙間形成部材が設けられており、前記隙間形成部材の前記回転軸方向の前記所定の長さが、前記止め輪を前記リング溝に収納させる収納工具が前記止め輪から突出する長さより長く形成されている
ことを特徴とする動力伝達軸。
【請求項12】
請求項11に記載の動力伝達軸において、
前記隙間形成部材は、前記止め輪と一体的に形成された環状突起形成部である
ことを特徴とする動力伝達軸。
【請求項13】
請求項12に記載の動力伝達軸において、
前記環状突起形成部は、前記転動軸受の前記外輪と接触している
ことを特徴とする動力伝達軸。
【請求項14】
トルクチューブと、前記トルクチューブの内周に形成された嵌入部に配置された転動軸受によって回転自在に支持されたプロペラシャフトとからなる動力伝達軸において、
前記転動軸受は、前記プロペラシャフトの回転軸方向で、内輪と外輪を挟むように配置されるシール部材を備え、
前記嵌入部には、前記転動軸受とは反対側の前記嵌入部に形成されたリング溝と、前記リング溝に配置された止め輪とが設けられており、
前記外輪の前記シール部材のある側面と一体的に形成され、前記止め輪に向かって前記回転軸方向に所定の長さだけ延びた隙間形成部材が設けられており、前記隙間形成部材の前記所定の長さが、前記止め輪を前記リング溝に収納させる収納工具が前記止め輪から突出する長さより長く形成されている
ことを特徴とする動力伝達軸。
【請求項15】
請求項14に記載の動力伝達軸において、
前記隙間形成部材は、前記外輪の外周側に形成された環状外輪突起形成部である
ことを特徴とする動力伝達軸。
【請求項16】
請求項15に記載の動力伝達軸において、
前記環状外輪突起形成部は、前記止め輪にと接触している
ことを特徴とする動力伝達軸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車の動力源から駆動輪へ動力を伝達する動力伝達軸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、フロントエンジン・リアドライブ方式や4輪駆動方式等の自動車においては、オートマチックトランスミション装置(第1動力伝達装置)から入力した駆動トルクを、ディファレンシャルギア装置(第2動力伝達装置)に伝達するために、動力伝達軸が用いられている。この動力伝達軸は、2つの動力伝達装置の間に固定的に配置されたトルクチューブと、このトルクチューブ内に軸受を介して回転自在に支持され、2つの動力伝達装置の間でトルク伝達を行うプロペラシャフトを備えている。
【0003】
トルクチューブとプロペラシャフトの間には、ボールベアリング等の転動軸受が介装されて、プロペラシャフトを回転自在に支持している。そして、転動軸受には、外輪と内輪の間に形成される環状空間に泥水や砂塵が侵入すると、転動体が破損して軸受寿命が短くなるという問題が発生するので、環状空間を密封するシール部材を備えている。また、この転動軸受は、トルクチューブの内周側に形成された嵌入部に転動軸受を配置した後に、嵌入部の内周に形成されたリング溝に、抜け止め用の止め輪を嵌めて組み立てられている。
【0004】
ところで、抜け止め用の止め輪をリング溝に嵌める際に、この止め輪を嵌めるための収納工具(一般にはプライヤが知られているので、以下ではプライヤと表記する)の先端が、シール部材に接触して破損させてしまう場合があった。つまり、止め輪に形成された透孔にプライヤの先端を通し、止め輪を把持しながらリング溝に嵌める作業工程において、プライヤの先端がシール部材に接触して、シール部材を破損させてしまう恐れがある。そのため、止め輪を嵌めた後でシール部材が破損しているか否かを確認する必要があり、多くの工数やコストがかかっていた。
【0005】
このような課題を解決するために、例えば、特開2018-13230号公報(特許文献1)には、外輪と内輪の間に形成される環状空間の両側開口部を塞ぐように配置されるシール部材とで構成された転動軸受の軸方向の外側端に、抜け止め用の止め輪を配置し、この止め輪の外側に、止め輪の外側からシール部材の一部又は全部を覆う保護具を介装した動力伝達軸が示されている。
【0006】
このように、特許文献1においては、止め輪を嵌めるためのプライや先端からシール部材を保護することで、止め輪を嵌める際にプライヤの先端がシール部材に接触せず、シール部材を破損させてしまう恐れを回避することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の動力伝達軸においては、転動軸受の移動を阻止するため、リング溝は転動軸受の端面に近接して形成することが必要である。このため、プライヤによって止め輪を縮径して保護具に沿って移動させるときに、プライヤの先端がリング溝を通過してシール部材に到達することがあり、シール部材の破損の恐れをなくすことができないという課題がある。更には、副次的な課題として保護具の脱着が面倒であり、作業コストの増大を招くことも考えられる。
【0009】
本発明の主たる目的は、止め輪を装着する時に、プライヤの先端がシール部材に到達しない構成にして、シール部材の破損の恐れをなくすことができる動力伝達軸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、トルクチューブと、トルクチューブの内周に形成された嵌入部に配置された転動軸受によって回転自在に支持されたプロペラシャフトとからなる動力伝達軸において、転動軸受は、プロペラシャフトの回転軸方向で、内輪と外輪を挟むように配置されるシール部材を備え、嵌入部には、シール部材に隣接して配置された隙間形成部材と、隙間形成部材に隣接し、転動軸受とは反対側の嵌入部に形成されたリング溝と、リング溝に配置された止め輪とが設けられており、隙間形成部材の回転軸方向の長さが、止め輪をリング溝に収納させる収納工具が止め輪から突出する長さより長く形成されている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、止め輪をリング溝に収納する際に、隙間形成部材の厚みによって収納工具の先端がシール部材に到達することが抑止され、シール部材の破損の恐れをなくすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明が適用されるFR方式の自動車の構成を示す構成図である。
【
図2】
図1に示されている動力伝達軸の具体的な構成を示す断面図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態になる、止め輪を装着する際のプロペラシャフトの転動軸受部分の要部を拡大した拡大断面図である。
【
図4】
図3に示すスペーサリングの構成を説明する正面と側面を示す説明図である。
【
図5】
図3に示す止め輪の構成を説明する正面と側面を示す説明図である。
【
図6】
図3に示すスペーサリングとプライヤの先端部の位置関係を説明する説明図である。
【
図7】本発明の第1の実施形態になる、止め輪を装着した後のプロペラシャフトの転動軸受部分の要部を拡大した拡大断面図である。
【
図8】本発明の第2の実施形態になる止め輪の構成を説明する正面と側面を示す説明図である。
【
図9】本発明の第2の実施形態になる、止め輪を装着した後のプロペラシャフトの転動軸受部分の要部を拡大した拡大断面図である。
【
図10】本発明の第3の実施形態になる止め輪の構成を説明する正面と側面を示す説明図である。
【
図11】本発明の第3の実施形態になる、止め輪を装着した後のプロペラシャフトの転動軸受部分の要部を拡大した拡大断面図である。
【
図12】本発明の第4の実施形態になる、止め輪を装着した後のプロペラシャフトの転動軸受部分の要部を拡大した拡大断面図である。
【
図13】
図12に示す突出部とプライヤの先端部の位置関係を説明する説明図である。
【
図14】従来の止め輪を装着した後のプロペラシャフトの転動軸受部分の要部を拡大した拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されることなく、本発明の技術的な概念の中で種々の変形例や応用例をもその範囲に含むものである。
【0014】
先ず、本発明の実施形態を説明する前に一般的な動力伝達軸の構成と、従来の動力伝達軸におけるトルクチュープの転動軸受部分の構成、及び課題を説明した後に、本発明の幾つかの実施形態を説明する。
【0015】
図1は、本発明が適用される車両Vの駆動系列を説明する概略図である。
図1において、車両Vは、FR(フロントエンジン・リアドライブ)方式の自動車であり、走行用の駆動力源としてのガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジン10と、電動モータおよび発電機として機能するモータジェネレータ11とを駆動力源として備えたハイブリッド車両である。
【0016】
これらのエンジン10、及びモータジェネレータ11の出力、すなわち回転力は、流体式動力伝達装置であるトルクコンバータ12からオートマチックトランスミッション装置13に伝達され、更に動力伝達軸14を介してディファレンシャルギア装置15に伝達され、車軸16が回転することによって左右の駆動輪17が駆動される。なお、車両Vは必ずしもハイブリッド車両でなくともよく、エンジン11がオートマチックトランスミッション装置13にトルクコンバータ12を介して連結された形式の車両であってもよい。
【0017】
動力伝達軸14は、オートマチックトランスミッション装置13とディファレンシャルギア装置15と固定されたトルクチューブ18と、トルクチューブ18に内蔵されたプロペラシャフト19から構成されている。ここで、プロペラシャフト19の両端は、軸受部20で回転自在に軸支されている。プロペラシャフト19は、オートマチックトランスミッション装置13の回転軸の回転を、ディファレンシャルギア装置15の回転軸に伝達する機能を備えている。
【0018】
そして、エンジン10やモータジェネレータ11の回転力は、オートマチックトランスミッション装置13、プロペラシャフト19、ディファレンシャルギア装置15、及び車軸16を介して車輪17に伝達される。
【0019】
尚、本発明が適用される車両Vの駆動系列がFRトランスアクスル方式でも良い。トランスアクスルとは、前輪側に配置されたトランスミッションをエンジンと切り離し、後輪側のデフと一体化した動力伝達機構であり、車両の前後重量のバランスをとることができ、車の操縦性や運動性能を向上させる。
【0020】
次に、本発明が適用される動力伝達軸30の具体的な構成について説明する。
図2は、動力伝達軸30の断面を示しており、動力伝達軸30は、トルクチューブ31とプロペラシャフト41を主たる構成要素している。
【0021】
トルクチューブ31の両端には、第1動力伝達装置32(図示せず)に固定される第1固定部33と、第2動力伝達装置34(図示せず)に固定される第2固定部35が形成されている。トルクチューブ31の第1固定部33と第2固定部35の間には、直筒状のプロペラシャフト収納部36が形成されており、このプロペラシャフト収納部36の外径は、第1固定部33と第2固定部35の外径より小さく形成されている。
【0022】
尚、第1動力伝達装置32はオートマチックトランスミッション装置であり、第2動力伝達装置34はディファレンシャルギア装置であるが、第1動力伝達装置32がディファレンシャルギア装置であり、第2動力伝達装置34がオートマチックトランスミッション装置であっても良い。
【0023】
また、第1固定部33の内周面側には第1軸受保持部37が一体的に形成されており、これに第1転動軸受38が取り付けられている。また、第2固定部35の内面周側には第2軸受保持部39が一体的に形成されており、これに第2転動軸受40が取り付けられている。これらの転動軸受38、40は、プロペラシャフト41を回転自在に軸支するものである。
【0024】
トルクチューブ31の内部にはプロペラシャフト41が収納されており、プロペラシャフト41は、第1動力伝達装置32からの回転力を第2動力伝達装置34に伝達するようにしている。プロペラシャフト41は、同じ回転軸線(C)上に配置された、直筒状に形成されたチューブ部材42と、チューブ部材42の一方の端部(第1動力伝達装置32の側)に取り付けられた第1カラー部材43と、チューブ部材42の他方の端部(第2動力伝達装置34の側)に取り付けられた第2カラー部材44とから構成されている。
【0025】
チューブ部材42は、繊維強化プラスチック材料で形成されており、更に詳しくは、繊維強化プラスチック材料に含まれる繊維は、炭素繊維が用いられている。繊維強化プラスチック材料を使用すれば、プロペラシャフト41が軽量化され、また強度も向上することができる。尚、チューブ部材42は、必要に応じてアルミ合金等の軽量な金属を使用することもできる。
【0026】
そして、第1動力伝達装置32の回転力は、コンパニオンフランジ45を介してプロペラシャフト41の第1カラー部材43に伝達されている。コンパニオンフランジ45の中央付近には、第1係合部46が形成されており、この部分で第1カラー部材43と第1係合部46は、セレーション結合、或いはスプライン結合されている。これによって、第1動力伝達装置32の回転力は、第1カラー部材43に伝達されている。尚、本実施形態ではスプライン結合によって係合されている。ここで、スプライン結合を行う場合は、軸方向の移動が可能となるので、回転軸線方向の寸法誤差を吸収することができる。
【0027】
また、第1カラー部材43の回転軸線方向の途中位置には、第1転動軸受38が配置されており、第1カラー部材43を回転自在に軸支している。第1カラー部材43は、同じ回転軸線(C)上に形成された第1圧入部47を有し、第1圧入部47には、チューブ部材42の一方の端部に形成された第1開口部48が第1圧入部47を外側から覆うように圧入されており、第1圧入部47と第1開口部48とがセレーション結合されている。
【0028】
セレーション結合は、第1圧入部47の外周面に三角歯(第1圧入側セレーション歯)を形成し、第1圧入部47を第1開口部48に圧入することで、第1圧入部47と第1開口部48を強固に結合するものである。ここで、第1開口部48は、セレーション結合される領域を意味している。これによって、第1圧入部47と第1開口部48とが強固に接続される。
【0029】
また、第1カラー部材43とは反対側のチューブ部材42の端部には、第2カラー部材44が同様の結合形態で固定されている。
【0030】
第2カラー部材44は、同じ回転軸線(C)上に形成された第2圧入部49を有し、第2圧入部49には、チューブ部材42の他方の端部に形成された第2開口部50が第2圧入部49を外側から覆うように圧入されており、第2圧入部49と第2開口部50とがセレーション結合されている。
【0031】
上述したようにセレーション結合は、第2圧入部49の外周面に三角歯(第2圧入側セレーション歯)を形成し、第2圧入部49を第2開口部50に圧入することで、第2圧入部49と第2開口部50を強固に結合するものである。ここで、第2開口部50は、セレーション結合される領域を意味している。これによって、第2圧入部49と第2開口部50とが強固に接続される。
【0032】
そして、チューブ部材42の回転力は、プロペラシャフト41の第2カラー部材44に伝達されている。第2カラー部材44の先端側の内部には、第2係合部51が形成されており、この部分で第2動力伝達装置34の回転軸52は、セレーション結合、或いはスプライン結合されている。これによって、第2カラー部材の回転力は、第2動力伝達装置34に伝達されている。尚、本実施形態ではスプライン結合によって係合されている。ここで、スプライン結合を行う場合は、軸方向の移動が可能となるので、回転軸線方向の寸法誤差を吸収することができる。
【0033】
また、第2カラー部材44の回転軸線方向の途中位置には、第2転動軸受40が配置されており、第2カラー部材44を回転自在に軸支している。更に、第2動力伝達装置34の回転軸52は第3転動軸受53によって軸支されている。
【0034】
そして、
図2から判るように、第1動力伝達装置32の回転軸線、プロペラシャフト41の回転軸線、及び第2動力伝達装置34の回転軸線は、同一の回転軸線(C)とされている。また、第1動力伝達装置32の回転軸であるコンパニオンフランジ46とプロペラシャフト41の第1カラー部材とはセレーション結合、或いはスプライン結合とされ、プロペラシャフト41の第2カラー部材と第2動力伝達装置32の回転軸52とはセレーション結合、或いはスプライン結合とされている。
【0035】
このような構成を採用された動力伝達軸は簡単な構成で、しかも重量を軽くして夫々の動力伝達装置の間のトルク伝達を良好に行うことができる。
【0036】
次に、抜け止め用の止め輪(以下、スナップリングと表記する)をリング溝に嵌める際に、このスナップリングを嵌めるためのプライヤの先端が、シール部材に接触して破損させる現象について、
図14を用いて説明する。尚、
図14は
図2のP部を拡大したものである。
【0037】
図14において、トルクチューブ31の第2保持部37とプロペラシャフト41の第2カラー部材43の間には、第2転動軸受42が介装されている。第2転動軸受42は、内輪54、外輪55、内輪と54と外輪55の間に配置された転動体(ここではボール)56、及び内輪54と外輪55で形成される環状空間57を両側からシールする2つの環状のシール部材58とから構成されている。シール部材58は、内輪54と外輪55の側面に密着するように配置されている。
【0038】
第2保持部37には、ハウジング側嵌入部59が形成され、外輪55が嵌入され、同様に第カラー部43には、チューブ側嵌入部60が形成され、内輪54が嵌入されている。これらの構成によって、プロペラシャフト41がトルクチューブ31に回転自在に軸支されている。
【0039】
ここで、外輪55のハウジング側嵌入部59は、外輪55を挟むようにして、抜け止め凸部61とリング溝62が形成されている。そしてリング溝62に、一部に切断領域を備えた環状(「C」字状)のスナップリング63を収納することによって、外輪55が抜け止め凸部61とスナップリング63で挟まれることで、転動軸受42が抜け出ることを防止している。
【0040】
このような構成において、スナップリング63をリング溝62に収納する場合、スナップリング63の切断領域を挟んで設けられた一対の透孔に、プライヤ64の先端部65を挿通してスナップリング63を縮径した状態でリング溝62に配置する。その後に、プライヤ64を取り外すことによって、スナップリング63が弾発力によって元の形状に復元することで、スナップリング63がリング溝62から抜け出さない構成にすることができる。
【0041】
しかしながら、スナップリング63をリング溝62に嵌める際に、スナップリング63を嵌めるためのプライヤ64の先端部65が、シール部材58に接触して破損させることがある。そのため、スナップリングを嵌めた後でシール部材が破損しているか否かを確認する必要があり、多くの工数やコストがかかっていた。
【0042】
このように、スナップリング63を装着する時に、プライヤ64の先端部65がシール部材58に到達しない構成にして、シール部材58の破損の恐れをなくすことが要請されている。本発明は、このような要請に応えるために、以下の実施形態を提案するものである。
【実施例0043】
次に、本発明の第1の実施形態について
図3~
図7を用いて説明する。第1の実施形態は、以下の構成を特徴とするものである。
【0044】
本実施形態では、転動軸受はプロペラシャフトの回転軸線方向で、内輪と外輪を挟むように配置されるシール部材を備えており、転動軸受が配置される嵌入部には、シール部材に隣接して配置された所定長さのスペーサリングと、スペーサリングに隣接し転動軸受とは反対側の嵌入部に形成されたリング溝と、リング溝に配置されたスナップリングが設けられている、ことを特徴とする。ここで、スぺーサリングは隙間形成部材であり、スペーサリングの回転軸方向の所定の長さが、スナップリングをリング溝に収納させるプライヤの先端部がスナップリングから突出する長さより長く形成されている。
【0045】
これによれば、スナップリングをリング溝に収納する際に、スペーサリングの厚みによってプライヤの先端がシール部材に到達することが抑止され、シール部材の破損の恐れをなくすことができる。
【0046】
以下、図面にしたがって本実施形態を説明するが、
図14と同じ参照番号は、同じ部品、或いは類似の機能を備えた部品であるので、説明を省略する場合もある。
【0047】
図3において、プロペラシャフト41の軸線方向(
図2参照)のリング溝62と外輪55の間には所定の長さ(厚さ)を有するスペーサリング66が配置されている。
【0048】
このスペーサリング66は、
図4にあるように、所定長さの厚さ(T1)を有する環状の形状に形成されている。ここで、スペーサリング66の厚さ(T1)は、スペーサリング66の端面にスナップリング63が当接した際に、プライヤ64の先端部65がシール部材58まで届かない長さに決められている。これについては、
図6で説明する。
【0049】
そして、スペーサリング66は、トルクチューブ31のハウジング側嵌入部59とプロペラシャフト41のチューブ側嵌入部60によって形成された環状空間67に配置されている。更に詳しくは、スペーサリング66の径方向の外周面66outは、ハウジング側嵌入部59の内周面に接触する直径とされている。つまり、リング溝62に収納されて拡開されたスナップリング63の内径より小さく、また、スペーサリング66の径方向の内周面66inは、シール部材58の外周縁より大きく形成されている。
【0050】
また、スペーサリング66は、転動軸受42の外輪55の側面と接触して、外輪55の移動を阻止する機能を備えている。スペーサリング66は、金属製リングでも良いし、合成樹脂製リングでも良いし、ゴム製リングであっても良いものである。更には全周に亘って波形に形成された環状の金属ワッシャ(ウエーブワッシャ)であっても良いものである。
【0051】
更に、リング溝62には、一部が切断された所定の長さ(厚さ)を有する、スペーサリング66とは別体のスナップリング63が配置されている。このスナップリング63は、
図5にあるように、所定長さの厚さ(T2)を有する環状の形状に形成されている。また、スナップリング63は、一部に切断領域(CA)が形成されており、この切断領域(CA)によって、スナップリング63は縮径され、且つ元の形状に拡開して復元できる。また、切断領域(CA)に隣接するスナップリング63の一対の端部63eには、プライヤ64の先端部65が挿通される透孔63hが形成されている。
【0052】
そして、スナップリング63は、トルクチューブ31のハウジング側嵌入部59とプロペラシャフト41のチューブ側嵌入部60によって形成された環状空間67に配置されている。更に詳しくは、スナップリング63は、ハウジング側嵌入部59の内周面に形成されたリング溝63に配置される。
【0053】
図3に戻って、スナップリング63を装着する手順を説明する。尚、
図3は、ハウジング側嵌入部59とチューブ側嵌入部60によって形成された環状空間67に、転動軸受42と配置し、更にスペーサリング66を外輪55に接触するように配置した状態を示している。
【0054】
この状態から、プライヤ64の先端部65をスナップリング63の透孔63h(
図5参照)に挿通し、スナップリング63を縮径してリング溝62の形成位置まで移動させる。この状態でスナップリング63の側面とスペーサリング66の側面は、互いに接触するが、スペーサリング66の厚さ(T1)によって、プライヤ64の先端部65がシール部材58までに至らない。
【0055】
ここで、
図6に示すように、プライヤ64の先端部65が突出する長さ(T3)は、プライヤ64がスナップリング63の側面に接触するまで挿通された状態で、プライヤ64の先端部65の最先端が、スナップリング63の反対側の側面から突出した長さ(T3)であり、「T1>T3」の関係を有している。
【0056】
したがって、スナップリング63をリング溝62に収納する際に、スペーサリング66の厚み(T1)によってプライヤ64の先端部65の最先端がシール部材58に到達することが抑止され、シール部材58の破損の恐れをなくすことができる。
【0057】
この状態でプライヤ64の先端部65をスナップリング63の透孔63hから引き出すと、スナップリング63は、元の形状に復元するように拡開されて、リング溝62内に嵌まり込むことになる。この状態を
図6に示している。
【0058】
図7にあるように、スナップリング63と転動軸受42の外輪55の間には、スペースリング63が互いに接触する形態で配置されている。これによって、転動軸受42は、スナップリング63、及びスペースリング66によって抜け止めされることになる。
【0059】
本実施形態では、転動軸受が配置される嵌入部には、シール部材に近接して配置された所定長さのスペーサリングと、スペーサリングに隣接し転動軸受とは反対側の嵌入部に形成されたリング溝と、リング溝に配置されたスナップリングが設けられている、ことを特徴とする。
【0060】
これによれば、スナップリングをリング溝に収納する際に、スペーサリングの厚みによってプライヤの先端がシール部材に到達することが抑止され、シール部材の破損の恐れをなくすことができる。
本実施形態では、転動軸受はプロペラシャフトの回転軸線方向で、内輪と外輪を挟むように配置されるシール部材を備えており、転動軸受が配置される嵌入部には、リング溝と、リング溝に配置されたスナップリングが設けられ、スナップリングには、シール部材とは反対側に回転軸方向に所定の長さだけ延びた、プライヤの先端部が挿通される透孔を有する係合孔形成部が設けられている、ことを特徴とする。ここで、係合孔形成部は隙間形成部材であり、係合孔形成部の回転軸方向の所定の長さが、スナップリングをリング溝に収納させるプライヤの先端部がスナップリングから突出する長さより長く形成されている。
これによれば、スナップリングをリング溝に収納する際に、係合孔形成部の長さによってプライヤの先端がシール部材に到達することが抑止され、シール部材の破損の恐れをなくすことができる。
係合孔形成部69は、スナップリング68の環状の側面と略平行な関係で内側に延びる形状とされている。そして、この係合孔形成部69には、プライヤ64の先端部65が挿通される透孔68hが形成されている。
したがって、スナップリング68をリング溝62に収納する際に、スペーサ形成部69における回転軸方向の長さ(T4)によって、プライヤ64の先端部65の最先端がシール部材58に到達することが抑止され、シール部材58の破損の恐れをなくすことができる。
本実施形態では、転動軸受はプロペラシャフトの回転軸線方向で、内輪と外輪を挟むように配置されるシール部材を備えており、転動軸受が配置される嵌入部には、リング溝と、リング溝に配置されたスナップリングが設けられ、スナップリングには、シール部材とは反対側に、所定の長さだけ延びた係合孔形成部が設けられている、ことを特徴とする。
これによれば、スナップリングをリング溝に収納する際に、係合孔形成部の長さによってプライヤの先端がシール部材に到達することが抑止され、シール部材の破損の恐れをなくすことができる。